説明

脳卒中または一過性脳虚血発作を予防するための薬物を調製するためのドロネダロンの使用

脳卒中または一過性脳虚血発作を予防するための薬物を調製するためのドロネダロンの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳卒中または一過性脳虚血発作を予防するための薬物を調製するためのドロネダロンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2−n−ブチル−3−[4−(3−ジ−n−ブチルアミノプロポキシ)ベンゾイル]−5−メチルスルホンアミド−ベンゾフランまたはドロネダロンおよびこの薬学的に許容される塩は、欧州特許EP0471609B1に記載されている。
【0003】
ドロネダロンは、カルシウム、カリウムおよびナトリウムチャネルに影響を与え、抗アドレナリン作動性の特性を有する多チャネル遮断薬である。
【0004】
ドロネダロンは、心房細動または心房粗動の既往歴を有する患者を治療するための抗不整脈薬である。
【0005】
心房細動(AF)は、北アメリカにおいて約230万人およびEUにおいて約450万人に影響を与えており、人口の高齢化のために新たに公衆の健康問題として大きくなりつつある。
【0006】
AFは、心臓の上部の房が非協調的で制御されていない様式で打つ状態であり、非常に不規則で速いリズム(すなわち、不定期に不規則な心拍)をもたらす。血液が心房から完全に押し出されないと溜り凝固し得る。心房内に血塊が形成され、心臓から出て脳中の動脈を遮断すると、脳卒中が起こる。それゆえ、脳卒中の約15%はAFに起因する。しかし、脳卒中は、例えば高血圧などの他の状態にも併発し得る。出血性脳卒中もまた、特に、AFを有する患者において、血栓の形成を予防するために処方される抗凝固薬での治療の合併症であり得る。
【0007】
一過性脳虚血発作(TIA)は、脳の領域への血液供給が一時的に妨害されると起こるが、通常は1時間未満、時には24時間に及ぶこともあるが、短時間の神経の機能不全を引き起こす。症状がより長時間継続する場合には、脳卒中として分類される。
【0008】
一過性脳虚血発作は、脳卒中に進行していることの警告であるとしばしば考えられる。一過性脳虚血発作を有する患者の約1/3が一過性脳虚血発作を再発し、もう1/3が、永久的な神経細胞損失により脳卒中を起こす。
【0009】
一過性脳虚血発作の最も一般的な原因は、脳中の動脈を塞ぐ塞栓(血塊)である。これは、2本の頸動脈のうちの1本の中のアテローム性動脈硬化プラークから、または例えば、心房細動の場合には心臓から由来し得る。
【0010】
最も頻発する症状としては、一時的な黒内障(視力損失)、失語症(発語困難)、半身麻痺(身体の一方の側の弱さ)、身体の一方の側の感覚異常(しびれ)が含まれる。
【0011】
AFは、年齢が進むにつれて顕著に頻繁となり、心臓における加齢による変化、物理的または心理学的ストレス、カフェインなどの心臓を刺激する薬剤により、または心血管系疾患の結果としてしばしば起こる。今後20年間にその数は2倍となると予想されている。適切な管理を行わないと、AFは、脳卒中およびうっ血性心不全などの重篤な合併症に至り得る。
【0012】
大部分の研究において、脳卒中などの心房細動に伴う合併症については評価しなかったので、したがって、こうしたエンドポイントに対する抗不整脈薬の効果は知られていない(Cochrane Collaboration、The Cochrane Library、2008、2)。
【0013】
さらに、AF患者における抗不整脈薬を含む2つの大規模研究、AFFIRM(D.G.Wyseら、The New England Journal of Medecine、2002、第347巻、1825−1833頁)およびAF−CHF(D.Royら、The New England Journal of Medecine、2008、第358巻、2667−2677頁)では、心拍およびコントロール群の間に脳卒中の割合において有意差が示されなかった(コントロール群において推奨されている抗不整脈薬は主としてアミオダロンであった)。
【0014】
脳卒中を含む血栓塞栓性事象は、心房細動を有する患者における主要な合併症である。これらの血栓塞栓性事象の病因は、完全には理解されていない。主たる仮説によれば、心房細動が、心房におけるうっ血をもたらし、それが血塊の形成を促進し、それにより、血塊が体循環に至ると脳卒中のような血栓塞栓性事象を引き起こす。それゆえ、心房細動の予防または抗凝結策は、血栓塞栓性事象および脳卒中を予防すると考えられた。数多くの臨床研究において、適切な抗凝結策を講じると脳卒中を含む血栓塞栓性事象を予防し得ることが確認されている(Fusterら)。しかし、抗不整脈薬を用いるどのランダム化臨床試験においても、リズムコントロールまたは治療群において洞調律を効果的に維持したにもかかわらず、脳卒中の発生率が減少するとは示されなかった。
【0015】
例えば、AFFIRM試験において、Wyseらは、リズムコントロール法(63%アミオダロンおよび41%ソタロール、これらは最も普通に使用されている抗不整脈薬である)をレートコントロール法と比較した。Wyseらによる論文の表3に示されているように、レートコントロール群(35%)に比べて、5年後に、リズムコントロール群においてはより多数の患者(63%)が、洞調律状態であったにもかかわらず、脳卒中またはTIAの発生率は、レートコントロール群(77/2027)に比較してリズムコントロール群(80/2033)においても同様であった。
【0016】
STAF試験において、Carlssonらは、リズムコントロール法(42%アミオダロン)をレートコントロール法と比較した。Carlssonらによる論文の表2に示されているように、試験の終了時において、レートコントロール群に比較してリズムコントロール群の方が洞調律を有する患者において高度に有意な29%の絶対増加があったにもかかわらず、脳卒中またはTIAの発生率は、レートコントロール群(1/100)と比較してリズムコントロール群(5/100)において数字的により高かった。
【0017】
HOT CAFEにおいて、Opolskiらは、レートおよびリズムコントロール法を比較した。Opolskiらによる論文の表2に示されているように、レートコントロール群の0/101に比較して、リズムコントロール群において、3/104の患者がフォローアップの期間内に脳卒中を患った。
【0018】
J−RHYTHM試験において、Ogawaらは、リズムコントロール法(患者の85%はクラスIの抗不整脈薬投与中であった)をレートコントロール法と比較した。Ogawaらによる論文の表3に示されているように、3年後に、レートコントロール群に比較してリズムコントロール群の方が洞調律を有する患者において高度に有意な29%の絶対増加があったにもかかわらず、症候性脳卒中の発生率は、レートコントロール群(11/404)と比較してリズムコントロール群(9/419)においても同様であった。
【0019】
SAFE−T試験において、Singhらは、持続性心房細動を有する患者の治療において、アミオダロン、ソタロールおよびプラセボを比較した。アミオダロンおよびソタロールは共に、心房細動の再発までの時間(リズムコントロール群に対して広く使用されている尺度である)を増加させる上でプラセボより有意に有効であった(P<0.001)。アミオダロンは、ITT(intention−to−treat)解析においてソタロールの6倍有効であり(P<0.001)、実際に受けた治療による解析において4倍有効であった(P<0.001)。リズムコントロールのこの有効さにもかかわらず、フォローアップにおける100患者年当たりの脳卒中の数は、アミオダロンの場合:2.06 大、ソタロールの場合:2.71、およびプラセボの場合1.91であり、心房細動の再発の最も高い割合を示したプラセボ群において最も低い割合が観察された(1866頁の最終段落の後段から計算した)が、全ての群で同程度であった。
【0020】
それゆえ、心房細動を予防するための薬物を投与することは、当業界の現在の知見によれば、脳卒中の予防を意味するとは考えられない。予想外に、ドロネダロンは、ATHENA試験(Hohnloserら)において、脳卒中の発生率を減少させる能力を示した。ドロネダロンの現在発見されている効果は、単にリズムコントロールにのみに基づいているのではなく、ドロネダロンの特性の特異的な組合せに基づいており、この特性としては、有効なリズムコントロール、心拍数低下効果、血圧低下効果、内皮機能に対する直接効果およびその他が含まれるが、これらに限られるわけではない。
【0021】
発明者らは、ドロネダロンが脳卒中の発生を減少させることをいま臨床的に証明したが、このことは他の抗不整脈化合物については示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】欧州特許第0471609号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Cochrane Collaboration、The Cochrane Library、2008、2
【非特許文献2】D.G.Wyseら、The New England Journal of Medecine、2002、第347巻、1825−1833頁
【非特許文献3】D.Royら、The New England Journal of Medecine、2008、第358巻、2667−2677頁
【発明の概要】
【0024】
本発明の主題は、特に、心房細動または心房粗動の既往歴のある患者における脳卒中または一過性脳虚血発作を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用である。
【0025】
本発明の主題はまた、特に、心房細動または心房粗動の既往歴のある患者における脳卒中を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用である。
【0026】
認知機能が徐々に低下する慢性的な疾患である脳循環機能不全とは対照的に、脳卒中は、脳の血管中の撹乱により24時間を超えて継続する症状により定義されるまたは急激に消失する症状を有する患者における急性の臨床的に関連性のある脳病変のイメージングにより定義される、脳血管起因の、急性または亜急性に進展する神経学的欠損である。
【0027】
脳卒中は、血栓症もしくは塞栓症により、または出血により引き起こされた虚血(血液供給の欠乏)のためであり得る(R.L.Saccoら、Stroke、2006、第37巻、577−617頁)。
【0028】
脳卒中は、永久的な神経の損傷または死を引き起こし得る。脳卒中は、米国および欧州における成人の能力障害の主要な原因である。
【0029】
脳卒中のリスク要因としては、加齢、高血圧、脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の前歴,糖尿病、高コレステロール、喫煙、心房細動等が挙げられる。高血圧は、脳卒中の最も重要な対策可能のリスク要因である。
【0030】
脳卒中の症状は、一過性脳虚血発作のそれに類似するが24時間を超えて継続する。
【0031】
主要な脳卒中は、脳虚血性または出血性脳卒中である。脳虚血性脳卒中は、より頻発し、ある場合では出血性脳卒中に至り得る。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】30ヶ月のOT(on−treatment)解析による、時間に対する最初の脳卒中またはTIAのKaplan Meier累積発生率曲線を示す図である。
【図2】30ヶ月のOT解析による、時間に対する最初の脳卒中のKaplan Meier累積発生率曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
ある実施形態では、本発明は、特に、心房細動または心房粗動の既往歴のある患者における脳虚血性脳卒中を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用に関する。
【0034】
より詳細には、本発明は、心房細動または心房粗動の既往歴のある患者における脳卒中または一過性脳虚血発作の約35%を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用に関する。
【0035】
より詳細には、本発明は、心房細動または心房粗動の既往歴のある患者における脳卒中の約35%を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用に関する。
【0036】
別の実施形態では、本発明は、致死性脳卒中を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用に関する。
【0037】
致死性脳卒中とは、死に至る脳卒中として定義される。
【0038】
別の実施形態では、本発明は、脳卒中、急性冠状動脈症候群および死または心血管死を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用に関する。
【0039】
別の実施形態では、本発明は、急性冠状動脈症候群(ACS)を予防するための薬物を調製するための、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの使用に関する。
【0040】
脳卒中、急性冠状動脈症候群および死または心血管死の複合エンドポイントは、心血管アウトカム試験における古典的なアウトカムであり、MACE(主要有害心血管性事象)エンドポイントとも呼ばれる。このエンドポイントを含むことは、脳卒中に関する知見のより広汎な影響および関連性を示している。
【0041】
ACSのみに関するデータは、ACSおよび脳卒中が虚血性事象であるという事実により、脳卒中に関連している。
【0042】
臨床試験の用語において、「脳卒中、急性冠状動脈症候群および死または心血管死」の予防は、複合判断基準または組合せエンドポイントと呼ばれるものを構成している。
【0043】
上記の百分率は平均に対応している。
【0044】
ドロネダロンの薬学的に許容される塩の中では、塩化水素酸塩が挙げられる。
【0045】
治療される患者は、心房細動または心房粗動の既往歴を有する患者であり得る。
【0046】
「心房細動または心房粗動の既往歴を有する」という表現は、心房細動(AF)または心房粗動(AFL)の少なくとも1つの症状を以前に呈したことがあり、ドロネダロン投与時に、洞調律状態または心房細動もしくは心房粗動状態のいずれかの状態にあり得る患者を意味する。
【0047】
また、「心房細動または心房粗動の既往歴を有する患者」、「心房細動もしくは粗動の既往歴またはその現症状を有する患者」または「心房細動もしくは粗動の最近の既往歴またはその現症状を有する患者」または「発作性のまたは持続性の心房細動もしくは粗動を有する患者」または「発作性のまたは持続性の心房細動もしくは粗動の既往歴またはその現症状を有する患者」または「発作性のまたは持続性の心房細動もしくは粗動の最近の既往歴またはその現症状を有する患者」または「発作性のまたは間欠性の心房細動もしくは心房粗動および心房細動もしくは心房粗動の最近の発作を有しており、洞調律状態であるまたは心臓除細動を受ける患者」または「発作性のまたは持続性の心房細動もしくは心房粗動および心房細動もしくは心房粗動の最近の発作を有しており、洞調律状態であるまたは心臓除細動器を受ける患者」という表現は、過去において、心房細動もしくは粗動の発作を1回以上呈したことがあるおよび/またはドロネダロンもしくはこの薬学的に許容される塩の使用時に心房細動または心房粗動を患っている患者を意味すると定義される。より詳しくは、この表現は、治療の開始前の過去6ヶ月以内に、心房細動または粗動および洞調律の両方の状態にあったという記録を有する患者を意味する。患者は、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の使用開始時に、洞調律または心房細動もしくは粗動の状態のいずれかであり得る。
【0048】
また、「持続性」という用語と「間欠性」という用語は、等価であると規定される。
【0049】
「永久的な心房細動または粗動」状態にある患者は、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩が投与されている期間を通して全ての予定されたECGがこのリズムである患者である。
【0050】
心房細動もしくは心房粗動の最近の既往歴またはその現症状を有する患者の中では、心房細動もしくは粗動の最近の既往歴、または現在の、永久的ではない心房細動もしくは粗動を有する患者が挙げられる。
【0051】
本発明において、「心房細動」という用語は、心房細動および/または心房粗動を意味する。
【0052】
心房細動または心房粗動の既往歴を有する患者の中では、以下のリスク要因、
−特に、70歳以上、またはさらに75歳を超える年齢、
−高血圧
−糖尿病
−以前の脳血管系発作または全身性塞栓症
−心エコー検査による左心房直径が50mm以上
−2D心エコー検査による左心室駆出分画が40%未満
の少なくとも1つをさらに有する患者が挙げられる。
【0053】
心房細動または心房粗動の既往歴を有する患者の中では、以下の疾患、
−高血圧
−構造的な心疾患
−頻脈
−冠状動脈心疾患
−非リウマチ性心臓弁膜症
−虚血性拡張型心筋症
−AF/AFLのためのアブレーション、例えば、カテーテルアブレーションまたは外科的アブレーションの既往歴
−AF/AFL以外の上室性頻脈
−心臓弁手術の既往歴
−非虚血性拡張型心筋症
−肥大型心筋症
−リウマチ性心臓弁膜症
−持続性心室頻脈
−先天性心疾患
−AF/AFL以外の理由、例えば、カテーテルアブレーションによるアブレーションの既往歴
−心室細動
の少なくとも1つに対応する追加のリスク要因、および/または
−ペースメーカー
−埋め込み型心臓除細動器
から選択される少なくとも1つの心臓機器を有する患者も挙げられる。
【0054】
うっ血性心不全は、構造的な心疾患の亜群であることは注目され得る。
【0055】
本発明の別の目的は、有効成分として、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つを含む医薬組成物である。この医薬組成物は、本発明に記載の式(I)の、少なくとも1つの化合物、または薬学的に許容される塩とのその付加塩、またはその水和物もしくは溶媒和物の、有効投与量、および少なくとも1つの薬学的に許容される添加剤を含む。前記添加剤は、所望の医薬剤形および投与経路に従い、当業者に公知の通常の添加剤の中から選択される。
【0056】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、局所、局部、気管内、鼻腔内、経皮または直腸投与のための、本発明による医薬組成物中で、ドロネダロンまたはその塩の1つ、溶媒和物または水和物が、単位剤形として、通常の医薬添加剤との混合物で、上記の病的状態の予防または治療のために動物およびヒトに投与され得る。適切な単位剤形としては、錠剤、ハードまたはソフトゼラチンカプセル剤、散剤、顆粒剤および経口液剤または懸濁剤などの経口形態、舌下、バッカル、気管内、眼球内、鼻腔内形態、吸入、局所、経皮、皮下、筋肉内または静脈内送達に構成した形態、直腸形態およびインプラントを含む。局所適用の場合は、本発明の化合物はクリーム剤、ゲル剤、軟膏剤またはローション剤として用いられ得る。
【0057】
治療に用いるために、ドロネダロンおよびこの薬学的に許容される塩は医薬組成物中に組み込まれる。
【0058】
これらの医薬組成物は、少なくともドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの有効投与量および少なくとも1種の薬学的に許容される添加剤を含む。
【0059】
前記添加剤は、所望の医薬形態および投与経路に従い、当業者に公知の通常の添加剤の中から選択される。
【0060】
経口、舌下、皮下、筋肉内、静脈内、局所、局部、気管内、鼻腔内、経皮または直腸投与のための医薬組成物中で、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つが、通常の薬剤添加剤との混合物で、上記の疾患状態にある動物およびヒトに、単位剤形として投与され得る。
【0061】
適切な単位剤形としては、錠剤、ハードまたはソフトゼラチンカプセル剤、散剤、顆粒剤および経口液剤または懸濁剤などの経口形態、舌下、バッカル、気管内、眼球内、鼻腔内形態、吸入による、局所、経皮、皮下、筋肉内または静脈内形態、直腸形態およびインプラントを含む。局所適用の場合は、本発明の化合物はクリーム剤、ゲル剤、軟膏剤またはローション剤として用いられ得る。
【0062】
例として、ドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つのための単位剤形は、錠剤の形態で、以下の成分を含み得る。
【0063】
【表1】

【0064】
前記医薬組成物は食物と共に1日に1回または2回投与され得る。
【0065】
1日当たりに投与されるドロネダロンの投与量は、経口で、1回以上の、例えば、1または2回の摂取により、800mgに達し得る。
【0066】
より詳細には、投与されるドロネダロンの投与量は、食物と一緒に摂取され得る。
【0067】
より詳細には、1日当たりに投与されるドロネダロンの投与量は、経口で、食事と共に2回で摂取され、800mgに達し得る。
【0068】
1日当たりに投与されるドロネダロンの投与量は、経口で、例えば、朝食および夕食と共に、1日に2回の割合で食事と共に摂取され得る。
【0069】
より詳細には、2回の摂取は、ドロネダロンの等量を含み得る。
【0070】
特定の場合には、より高いまたはより低い投与量が適当であり得る。これらの投与量は、本発明の範囲内に含まれる。慣習によれば、個々の患者に適した投与量は、投与経路、患者の体重、疾患、体表面積、心拍出量および反応に従って、医師により決定される。
【0071】
本発明はまた、少なくともドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの有効投与量を患者に投与するステップを含む、脳卒中の予防法に関する。
【0072】
本発明を以下の図を参照して上記のデータを用いて例示する。
【実施例】
【0073】
図1は30ヶ月のOT(on−treatment)解析による、時間に対する最初の脳卒中またはTIAのKaplan Meier累積発生率曲線を示す図である。
図2は30ヶ月のOT解析による、時間に対する最初の脳卒中のKaplan Meier累積発生率曲線を示す図である。
【0074】
脳卒中の予防のためのドロネダロンおよびこの薬学的に許容される塩のプラセボに対する有効性は、ドロネダロン塩化水素酸塩によって、プロスペクティブ、多国籍、二重盲検、ランダム化、多施設、プラセボ対照、並行群試験の間に提供された。
【0075】
I.患者の選択
適格患者は、心房細動もしくは心房粗動の既往歴を有し、および/またはリクルートメント時において正常洞調律状態または心房細動もしくは粗動状態にあり得る。
【0076】
患者のリクルートメントは以下の組入基準を考慮して行った。
【0077】
組入基準:
1)以下のリスク要因の1つが存在すること:
−70歳以上の年齢
−高血圧(少なくとも2つの異なるクラスの抗高血圧剤を使用している)
−糖尿病
−脳卒中(一過性脳虚血性事象または完全脳卒中)または全身性塞栓症の既往歴
−心エコー検査による測定で左心房直径が50mm以上
−2次元エコー検査による測定で左心室駆出分画が40%未満
または
−70歳以上、またはさらに75歳を超える年齢、可能ならば以下のリスク要因の少なくとも1つとの組合せ。
○高血圧(少なくとも2つの異なるクラスの抗高血圧剤を使用している)
○糖尿病
○脳卒中(一過性脳虚血性事象または完全脳卒中)または全身性塞栓症の既往歴
○心エコー検査による測定で左心房直径が50mm以上
○2次元エコー検査による測定で左心室駆出分画が40%未満
2)患者が心房細動/粗動状態にあった、またはあるということを示す、過去6ヶ月以内の1枚の心電図が入手できること。
3)患者が洞調律状態であった、またはあるということを示す、過去6ヶ月以内の1枚の心電図が入手できること。
【0078】
II.期間と治療
試験薬治療単位(プラセボまたは400mgの塩基に相当するドロネダロン塩化水素酸塩)は、各患者が、朝食中または朝食後すぐに1錠および夕食中または夕食後すぐに1錠を摂取するようにした。
【0079】
治療期間は、各患者の試験へのリクルートメント時に依存し、12ヶ月から30ヶ月を含み得た。
【0080】
III.結果
結果は、ノンパラメトリックのKaplan−Meier推定を用いて計算した。
【0081】
Coxの比例ハザードモデルを用いて、相対リスクとも呼ばれるハザード比を推定した。
【0082】
相対リスク(RR)とは、ドロネダロンで治療した患者に対する脳卒中(または一過性脳虚血発作(TIA))を起こすリスクとプラセボを用いた患者に対する脳卒中(または一過性脳虚血発作(TIA))を起こすリスクとの間の比である。
【0083】
事象の減少の百分率は、以下のように計算する。
x=1−RR
【0084】
脳卒中または一過性脳虚血発作(TIA)の予防に関する結果
試験に組み入れられた4628名の患者から、2301名がドロネダロン塩化水素酸塩での治療群の部分であった。
【0085】
ドロネダロン塩化水素酸塩での治療群においては52例であったのに対して、プラセボ群においては80例の脳卒中またはTIAの事象が報告された。
【0086】
算出された相対リスクは、0.65に等しく、すなわち、脳卒中またはTIAの相対リスクの減少は、35%であった。
【0087】
図1は、ドロネダロンの効果が早期に現れ、時間とともに増加したことを示している。
【0088】
脳卒中の予防に関連する結果
試験に組み入れられた4628名の患者から、2301名がドロネダロン塩化水素酸塩での治療群の部分であった。
【0089】
ドロネダロン塩化水素酸塩での治療群においては45例であったのに対して、プラセボ群においては70例の脳卒中の事象が報告された。
【0090】
算出された相対リスクは、0.65に等しく、すなわち、脳卒中の相対リスクの減少は、35%であった。
【0091】
図2は、ドロネダロンの効果が早期に現れ、時間とともに増加したことを示している。
【0092】
虚血性脳卒中の予防に関連する結果
試験に組み入れられた4628名の患者から、2301名がドロネダロン塩化水素酸塩での治療群の部分であった。
【0093】
ドロネダロン塩化水素酸塩での治療群においては33例であったのに対して、プラセボ群においては49例の脳卒中の事象が報告された。
【0094】
算出された相対リスクは、0.68に等しく、すなわち、虚血性脳卒中の相対リスクの減少は、32%であった。
【0095】
致死性脳卒中の予防に関連する結果
試験に組み入れられた4628名の患者から、2301名がドロネダロン塩化水素酸塩での治療群の部分であった。
【0096】
ドロネダロン塩化水素酸塩での治療群においては11例であったのに対して、プラセボ群においては18例の致死性脳卒中の事象が報告された。
【0097】
算出された相対リスクは、0.62に等しく、すなわち、致死性脳卒中の相対リスクの減少は、38%であった。
【0098】
脳卒中、急性冠状動脈症候群(ACS)または死の予防に関連する結果
試験に組み入れられた4628名の患者から、2301名がドロネダロン塩化水素酸塩での治療群の部分であった。
【0099】
ドロネダロン塩化水素酸塩での治療群においては196例であったのに対して、プラセボ群においては262例の事象が報告された。
【0100】
算出された相対リスクは、0.68に等しく、すなわち、脳卒中、急性冠状動脈症候群(ACS)または死の相対リスクの減少は、25%であった。
【0101】
脳卒中、急性冠状動脈症候群(ACS)または心血管死の予防に関連する結果
試験に組み入れられた4628名の患者から、2301名がドロネダロン塩化水素酸塩での治療群の部分であった。
【0102】
ドロネダロン塩化水素酸塩での治療群においては147例であったのに対して、プラセボ群においては216例の事象が報告された。
【0103】
算出された相対リスクは、0.68に等しく、すなわち、脳卒中、急性冠状動脈症候群(ACS)または心血管死の相対リスクの減少は、32%であった。
【0104】
急性冠状動脈症候群(ACS)のための心血管性入院の予防に関連する結果
試験に組み入れられた4628名の患者から、2301名がドロネダロン塩化水素酸塩での治療群の部分であった。
【0105】
ドロネダロン塩化水素酸塩での治療群においては62例であったのに対して、プラセボ群においては89例のACSの事象が報告された。
【0106】
算出された相対リスクは、0.70に等しく、すなわち、急性冠状動脈症候群のための心血管性入院の相対リスクの減少は、30%であった。
【0107】
【表2】

【0108】
CHADS2スコアは、うっ血性心不全、高血圧、年齢75歳以上、および糖尿病の存在があるたびに1点を、脳卒中またはTIAの既往歴があれば2点を与えて計算され、AFを有する患者における脳卒中のリスクを特徴づけている。CHADS2スコアが高ければ高いほど、脳卒中のリスクが高い。Gage BF、van Walraven C、Pearce L、Hart RG、Koudstaal PJ、Boode BS、Petersen P、Selecting patients with atrial fibrillation for anticoagulation:stroke risk stratification in patients taking aspirin、Circulation、2004、第110巻、2287−92頁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳卒中または一過性脳虚血発作を予防するための薬物を調製するためのドロネダロンの使用。
【請求項2】
脳卒中を予防するための薬物を調製するための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
脳卒中の約35%を予防するための薬物を調製するための、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
急性冠状動脈症候群を予防するための薬物を調製するための、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
致死性脳卒中を予防するための薬物を調製するための、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記予防が、心房細動もしくは心房粗動の既往歴またはその現症状を有する患者に対して提供される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
患者が、以下のリスク要因:
−年齢
−高血圧
−糖尿病
−以前の脳血管発作または全身性塞栓症
−心エコー検査による左心房直径が50mm以上
−2D心エコー検査による左心室駆出分画が40%未満
の少なくとも1つを有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
患者が、以下の疾患:
−高血圧
−構造的な心疾患
−頻脈
−冠状動脈心疾患
−非リウマチ性心臓弁膜症
−虚血性拡張型心筋症
−AF/AFLのためのアブレーション
−AF/AFL以外の上室性頻脈
−心臓弁手術の既往歴
−非虚血性拡張型心筋症
−肥大型心筋症
−リウマチ性心臓弁膜症
−持続性心室頻脈
−先天性心疾患
−AF/AFL以外の理由によるアブレーション
−心室細動
の少なくとも1つに対応する追加のリスク要因、および/または
−ペースメーカー
−埋め込み型心臓除細動器
から選択される少なくとも1つの心臓機器を有することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
経口投与のために、ドロネダロンの1日当たりの投与量が800mgに達し得ることを特徴とする、請求項1から8の一項に記載の使用。
【請求項10】
少なくともドロネダロンまたはこの薬学的に許容される塩の1つの有効投与量を患者に投与するステップを含む、脳卒中の予防法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−529958(P2011−529958A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521656(P2011−521656)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006831
【国際公開番号】WO2010/015939
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(504456798)サノフイ−アベンテイス (433)
【Fターム(参考)】