脳幹機能障害検出方法、システム、並びにプログラム
【課題】大動物における簡易かつ低侵襲に脳幹機能障害を検出する手段の提供。
【解決手段】本発明者は、特定の脳幹機能障害では、聴性脳幹反応の波形が正常個体とは異なることを新規に見出した。そこで、鎮静化された産業動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法を提供する。正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準データとして予め取得しておいた上で、鎮静化された被験動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、両者の波形差(差分)を演算などすることにより、特定の脳幹機能障害の罹患を簡易かつ高精度に検出できる。
【解決手段】本発明者は、特定の脳幹機能障害では、聴性脳幹反応の波形が正常個体とは異なることを新規に見出した。そこで、鎮静化された産業動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法を提供する。正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準データとして予め取得しておいた上で、鎮静化された被験動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、両者の波形差(差分)を演算などすることにより、特定の脳幹機能障害の罹患を簡易かつ高精度に検出できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴性脳幹反応(ABR (Auditory
Brain-stem Response)、聴覚脳幹誘発電位(BAEP (Brainstem auditory
evoked potential)という場合もある。以下、本願では、「聴性脳幹反応」の文言で統一する。)の波形データを用いた脳幹機能障害検出方法、システム、プログラムなどに関する。より詳細には、鎮静化された動物から聴性脳幹反応の測定データを取得し、該データに基づき、BSEなどの特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法、システム、プログラムなどに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおける医療現場などでは、聴神経腫瘍、意識障害、多発性硬化症、脳死の判定、難聴(新生児聴力検査)などの検出・判定手段として、聴性脳幹反応の検査が広く行われている。
【0003】
聴性脳幹反応とは、被験者に耳から音刺激を加えた場合における脳幹部分の電位の変化をいう。健常者の場合、頭皮の所定部分に電極を装着し、耳から音刺激を加え、脳幹部分の電位を経時的に記録すると、音刺激負荷から10ミリ秒の間に、6〜7つの電位のピークを有する波形が得られる。この波形は、音刺激が蝸牛神経・脳幹聴覚路を神経伝達される際に生じた電位の変化を検出したものである。ヒトでは、各電位のピークの起源が明らかにされている。各ピークは、ローマ数字(I〜VII)で表される。
【0004】
被験者は、シールドルーム内のベッドで仰向けになり、頭皮に電極を装着し、耳にヘッドホンをつける。そして、安静閉眼状態で、ヘッドホンから音刺激を加えられ、電極より電位を記録する。
【0005】
音刺激には、クリック音が最もよく用いられている。一般的に、刺激頻度は10〜30回/秒、刺激の持続時間は0.1〜0.2ミリ秒であり、それらの刺激を500〜2,000回加算して、聴性脳幹反応の波形を得る。
【0006】
聴性脳幹反応の検査では、意識や睡眠状態の影響を受けにくく、極めて再現性のよい安定した波形が得られる。また、前記の通り、各波形の起源も明らかにされており、かつ、各ピークの再現性もあるため、信頼性の高いデータとして、聴神経・脳幹の機能障害などの検出・判定に利用されている。
【0007】
一方、ヒト以外の動物、例えば、牛・馬などの大動物などにおいては、(1)シールドルームに入れ、かつその中で一定時間安静状態を保つのが難しい、(2)全身麻酔処置を行う場合、専用の獣医療設備を必要とし、動物の負担も大きく、かつ測定者の危険性も増大する、(3)体動によるアーチファクトが大きい、などの理由から、大動物医療の現場では、聴性脳幹反応の検査はほとんど行われていない。
【0008】
しかし、大動物などにおいても、聴神経・脳幹の機能障害は多く存在する。
【0009】
大動物の脳幹機能障害を伴う疾患の一例として、BSE(牛海綿状脳症)が挙げられる。BSEは、狂牛病とも呼ばれ、異常プリオンタンパク質の脳・脊髄などへの蓄積が原因とされている。発症当初には挙動変化を起こす程度で目立った症状は現れないが、次第に音・接触に対し過敏に反応するようになり、病状がさらに進行すると、起立不能・痙攣などを示す。
【0010】
BSE検査には、殺処分の後、死後の牛の脳組織材料を用いて、病理組織学的検査、免疫組織化学的検査、ウエスタンブロット法などを行う方法が採用されており、確定診断には、免疫組織化学的検査又はウエスタンブロット法による異常プリオンタンパク質の検出が実施されている。また、異常プリオンタンパク質の検出感度を向上させる試みが種々行われている。しかし、現在のところ、血液・尿など、採取しやすい生体材料からは、プリオン検出が確認できていないため、BSEを生前に検出・診断する技術は確立されていない。
【0011】
それに対し、起立不能・歩行異常などを示す牛の疾患として、例えば、ヘモフィルス・ソムナス感染症、大脳皮質壊死症、ダウナー症候群などがあり、BSE検出の際には、それらの疾患との類症鑑別が必要である。
【0012】
従って、殺処分をせずに、生きたままの状態でBSE罹患の有無を検出する手段が求められている。
【0013】
大動物などの脳幹機能障害を伴う疾患として、BSE以外にも、聴神経腫瘍、意識障害、難聴などを含む種々の脳幹機能障害が存在する。しかし、大動物などでは、試験者の意思に従って安静状態を保つことが難しいため、脳幹機能検査はほとんど行われていない。従って、脳幹機能を簡易かつ低侵襲に検査・判定する手段が求められている。
【0014】
本発明の関連文献として、例えば、以下のものが挙げられる。
特許文献1には、聴性脳幹反応を使用した蝸牛水腫の存在を診断する技術が、特許文献2には、積み重ね式誘導帯域ABR振幅を使用する聴神経腫瘍検出手段が、それぞれ記載されている。特許文献3には、聴性脳幹反応に基づくデータに対してWavelet変換を行うWavelet変換部を備える誘発電位検査装置が記載されている。特許文献4には、質量分析による感染性海綿状脳症の診断法が記載されている。特許文献5には、ヒトの聴性脳幹反応検査に用いられる耳カプラーが記載されている。
【0015】
また、本発明者は、先般、キシラジンで鎮静処置を施すことにより、牛でも聴性脳幹反応を取得できることを報告している(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−349198号公報
【特許文献2】特表2002−514457号公報
【特許文献3】特開2006−239096号公報
【特許文献4】特表2005−502882号公報
【特許文献5】特開平11−276460号公報
【非特許文献1】Shozo Arai, “Brainstem auditory evoked potentials in cattle sedatedwith xylazine”, The Canadian Journal of Veterinary Research 2008; 72: 287-290
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述の通り、大動物などにおいては、(1)シールドルームに入れ、かつその中で一定時間安静状態を保つのが難しい、(2)全身麻酔処置を行う場合、専用の獣医療設備を必要とし、動物の負担も大きく、かつ測定者の危険性も増大する、(3)体動によるアーチファクトが大きい、などの理由から、臨床の現場では、聴性脳幹反応の検査はほとんど行われていない。
【0017】
一方、大動物などにおいても、種々の脳幹機能障害を伴う疾患が存在する。従って、それらの動物に対し、簡易かつ低侵襲に脳幹機能障害を検出する手段が必要とされている。
【0018】
そこで、本発明は、大動物などにおける特定の脳幹機能障害を簡易かつ低侵襲に検出する手段を提供することなどを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上述の通り、先般、動物に鎮静処置を施すことにより、大動物から聴性脳幹反応を取得することに成功した。
【0020】
さらに、今回、(1)動物用耳保定具を新たに開発し、筋電図由来のノイズを低減し、(2)電極の針に、各動物に適した直径のものを採用することにより、大動物から、より簡易・高精度かつ安定的に聴性脳幹反応を取得することに成功した。
【0021】
そして、これらの手段を用いて、動物の脳幹機能障害を伴う疾患について、聴性脳幹反応の検査を行ったところ、特定の脳幹機能障害では、波形が正常個体とは異なることを新規に見出した。
【0022】
そこで、本発明では、鎮静化された産業動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法を提供する。
【0023】
例えば、正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準データとして予め取得しておいた上で、鎮静化された被験動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、両者の波形差(差分)を演算などすることにより、特定の脳幹機能障害の罹患を簡易かつ高精度に検出できる。
【0024】
加えて、本発明は、BSEなどの罹患を生前に検出する手段としても有用である。上述の通り、BSEは、現在のところ、死後の牛の脳組織材料を用いた検出手段があるのみで、BSEを生前に検出する技術は確立されていない。それに対し、本発明者らは、BSEに特有の聴性脳幹反応の波形データを新規に見出した。従って、本発明により、殺処分をする前に、生きたままの状態でBSE罹患の有無を検出できる。即ち、本発明は、簡易かつ低侵襲な脳幹機能障害検出手段である。
【0025】
なお、本発明者らは、所定の音圧レベル及び所定の間隔で音を発生する音刺激発生手段と、動物に装着し、聴性脳幹反応を取得するための電極と、制御部及び電源として機能する携帯型コンピュータとを少なくとも備える聴性脳幹反応検出システム(又は、装置)を新たに開発した。
【0026】
このシステム(装置)では、携帯型コンピュータなどを電源としても用いる構成にすることにより、電源、アースが不要であり、電源トランスなども構成から省くことができる。そのため、システム(装置)全体を、アタッシュケース程度のサイズにコンパクト化でき、かつ軽量化できる。
【0027】
一般に、大動物などにおいて、各畜産農家などから家畜保健衛生所・動物病院などの診察室に各個体を搬入し、その個体を固定し、各種測定を行うことは、多大な労力・時間を要する。特に、特定の畜産農家が所有する複数の個体を順次検査・測定することは、実質的に難しい。
【0028】
それに対し、このシステム(装置)の場合、コンパクトで持ち運び可能であるため、各個体を家畜保健衛生所などに搬送しなくても、畜産農家の畜舎などにシステム(装置)を搬入することにより、そこで測定・解析を行うことができる。また、電源やアースが不要なため、野外の放牧場などでも、場所を選ばずに、機器の搬送、測定・解析を行うことができる。即ち、このシステム(装置)を用いることにより、簡易・低コスト・低労力で、かつ場所を選ばずに聴性脳幹反応を測定できる。なお、このシステム(装置)は、牛・馬などの大動物だけでなく、豚・羊・山羊などの他の産業動物や犬・ネコなどの愛玩動物における聴性脳幹反応の測定にも利用できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、各種動物における特定の脳幹機能障害の罹患を簡易・高精度かつ低侵襲に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
<大動物における聴性脳幹反応取得方法>
大動物においても、ヒトと同様、被験動物の頭部の所定部分に電極を装着し、左右の耳のそれぞれから音刺激を加え、脳神経の誘発電位を経時的に記録して、聴性脳幹反応を取得する。
【0031】
左右それぞれの耳から音刺激を加えると、その刺激が聴神経を経て脳幹に伝達される。音刺激を加えてから聴神経・脳幹各部位へその刺激が伝達されるまでの時間は、部位ごとにほぼ一定である。そのため、左右それぞれについて、聴神経から脳幹へ伝達された誘発電位を経時的に記録することにより、脳幹各部位の機能を解析できる。
【0032】
大動物における聴性脳幹反応の測定においては、鎮静剤を前投与し、その動物を立位・安静化させた状態で保定し、測定を行うほうがよい。
【0033】
大動物の場合、ヒトと異なり、聴性脳幹反応の測定において、測定者の意思に従って、その個体の姿勢を一定時間同一に保持させることは難しい。一方、各測定の際に全身麻酔処置を行うと、専用の獣医療設備を必要とし、動物の負担も大きく、かつ測定者の危険性も増大する。また、複数個体を測定する際に、全頭に麻酔処置を施すことは、作業効率の点でも現実的でない。それに対し、本発明者らは、先般、大動物にキシラジンなどの鎮静剤を前投与することにより、その動物を立位のまま安静化させることができ、聴性脳幹反応の測定が可能になることを見出した。即ち、聴性脳幹反応の測定に際し、鎮静剤を前投与することにより、安定した聴性脳幹反応を取得でき、かつ、作業者の安全性も向上できる。なお、鎮静剤処理により動物が座った場合、その状態でも測定は可能である。
【0034】
鎮静剤は特に限定されないが、キシラジンが好適である。個体によって異なるが、キシラジンを用いる場合、0.05mg/kg程度を筋肉内投与することにより、所定の効果を得ることができる。投与後、個体の様子を観察し、状況に応じて追加投与してもよい。
【0035】
動物の左右の耳には、音刺激用のイヤホンをそれぞれ装着させる。イヤホンの大きさ・形状などは特に限定されないが、その動物の耳孔に密着する構成のものが好適である。これにより、刺激音圧を確実にその動物の鼓膜に送るとともに、外部からの雑音を遮断できるため、特殊な検査室(シールドルーム)などを用いなくても、安定的な聴性脳幹反応の波形データを取得できる。
【0036】
聴性脳幹反応の測定に際し、予め、動物の両耳を保定しておくことが望ましい。これにより、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できるため、安定的な波形データの導出が可能になる。耳の保定には、後述する本発明に係る動物用耳保定具を用いることができる。
【0037】
被験動物の頭部には電極を装着する。電極の装着部位については、脳幹由来の誘発電位を検出できる場所であれば、特に限定されない。例えば、導出電極(プラス)を頭頂部に、基準電極(マイナス)を眼窩と耳根部の中間部に、接地電極(アース)を両目の中間と鼻の中間部に、それぞれ装着することにより、良好な波形を取得できる。基準電極を左右にそれぞれ装着する。
【0038】
聴性脳幹反応の測定装置自体は、所定の音刺激を出力でき、かつ、誘発電位を検出できるものであればよく、ヒト用に開発されたものでも測定可能である。
【0039】
音刺激の種類・大きさ・頻度などは適宜設定でき、特に限定されない。例えば、クリック音で、刺激音圧を75〜120dBnHL(「decibel normalized hearing level」、以下同じ)程度、刺激頻度を10〜30回/秒、刺激の持続時間を0.1〜0.2ミリ秒とし、それらの刺激を500〜2,000回加算することにより、聴性脳幹反応の波形を得ることができる。
【0040】
<本発明に係る脳幹機能障害検出方法>
本発明に係る脳幹機能障害検出方法では、鎮静化された動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する。
【0041】
例えば、正常個体又は特定の脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の波形データとその基準データとを比較することにより、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する。
【0042】
図1は、成牛の正常個体における聴性脳幹反応の波形データである。
【0043】
このデータは、ホルスタイン成牛にキシラジンを0.05mg/kg筋肉内投与し、立位・鎮静下で牛を保定し、測定した聴性脳幹反応の波形データである。音刺激にはクリック音を採用し、刺激頻度を10Hz、刺激の持続時間を0.1ミリ秒とし、それらの刺激を2,000回加算して取得したデータである。
【0044】
図中、横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(Amplitude、加算値、単位:μV)である。図中の各波形は、音刺激の刺激音圧を、それぞれ105、95、85、75、65dBnHLに設定した時のものである。
【0045】
図1に示す通り、75dBnHL以上で聴性脳幹反応に基づく波形が出現し、音刺激から5ミリ秒以内に明瞭な陽性波が4つ認められる。図中、それぞれ、「I」は聴神経由来、「II」は延髄由来、「III」は橋由来、「V」は中脳由来の陽性波である。
【0046】
なお、正常牛における波形に関して、品種間、例えば、ホルスタイン種と黒毛和腫との間で、聴性脳幹反応の波形形状には差異はほとんどないが、各波形の潜時(ピーク時)・波間潜時(IPL(inter peak latency);ピーク間の時間、以下同じ)には差が認められる(表1、表2参照)。従って、正常個体における聴性脳幹反応の波形データを、品種ごとに設定してもよい。その他、正常牛において、月齢による波形差はほとんどない。
【表1】
【表2】
【0047】
一方、特定の脳幹機能障害では、固有の聴性脳幹反応波形データが得られる。
【0048】
例えば、牛のBSE罹患牛の場合、聴性脳幹反応の波形データは、左右両側性にIII波とV波の潜時(peak latency)が延長する。この潜時の延長は、BSEの神経症状が現れる前から始まり、神経症状の発症とともに、その延長の程度が不可逆的に大きくなる。
【0049】
また、BSE罹患牛の場合、I波とV波の間の潜時(波間潜時)が有意に延長する。刺激音圧が105dBnHLの条件下で、I−V間の波間潜時が左右両側性に3.3msec以上延長した場合、BSEに罹患している疑いが高い。
【0050】
その他、BSE罹患牛では、症状の進行に伴い、I波からV波の全ての電位が低下する。「ふるえ」などの神経症状を示すBSE罹患牛では、95又は85dBnHL以下で波形が消失する。
【0051】
従って、正常個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の測定データとその基準データとを比較し、上記の特徴を検出することにより、BSE罹患を検出できる。
【0052】
また、BSE罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の測定データとその基準データとを比較することにより、BSE罹患を検出してもよい。
【0053】
なお、第四胃変位及びケトーシスに罹患した牛について、聴性脳幹反応を測定したところ、正常個体におけるものと波形に大きな違いは認められなかった。従って、本発明に係る脳幹機能障害検出方法を用いて、脳幹機能障害とそれらの疾患との鑑別も可能である。
【0054】
<本発明に係る脳幹機能障害検出プログラム>
上述の脳幹機能障害検出方法は、プログラム化してコンピュータに実装させることにより、脳幹機能障害の罹患の有無の検出・判定を自動化させることができる。
【0055】
図2は、本発明に係る脳幹機能障害検出プログラムのフローチャートの例である。
【0056】
このプログラムは、鎮静化された動物から得られた聴性脳幹反応の波形データを取得するステップ(符号S1)と、予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の基準データを取得するステップ(符号S2)と、前記波形データと前記聴性脳幹反応基準データとの差分に基づき、脳幹機能障害を検出するステップ(符号S3)と、を少なくとも含む。
【0057】
上述の聴性脳幹反応取得方法により得られた聴性脳幹反応の波形データをメモリに移し、予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応基準データを記憶媒体などからメモリに移し、両データの差分などを演算処理することにより、脳幹機能障害罹患の有無を自動的に検出・判定できる。
【0058】
<本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(又は装置)>
本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(又は装置)は、所定の音圧レベル及び所定の間隔で音を発生する音刺激発生手段と、動物に装着し、聴性脳幹反応を取得するための電極と、制御部及び電源として機能する携帯型コンピュータとを少なくとも備える。
【0059】
上述の通り、このシステム(装置)では、携帯型コンピュータなどを電源としても用いる構成にすることにより、電源、アースが不要であり、電源トランスなども構成から省くことができる。そのため、システム(装置)全体を、アタッシュケース程度のサイズにコンパクト化でき、かつ軽量化できる。
【0060】
従って、このシステム(装置)を用いることにより、簡易・低コスト・低労力で、かつ場所を選ばずに聴性脳幹反応を測定できる。なお、このシステム(装置)は、豚・羊・山羊などの他の産業動物や犬・ネコなどの愛玩動物における聴性脳幹反応の測定にも利用できる。
【0061】
図3は、本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(装置)の構成例を示す図である。
【0062】
図3におけるシステム(装置)では、主に、電源A1、入力手段A2、表示部A3、制御部A4、記憶部A5、メモリA6などを備えるコンピュータ部Aと、音刺激発生部B1、増幅器B2、イヤホンB3などを備える音刺激発生手段Bと、電極C1、生体アンプC2、A/D変換器C3などを備える聴性脳幹反応取得手段Cとを備える。
【0063】
電源A1は、コンピュータ部Aだけでなく、音刺激発生部B1、生体アンプC2、A/D変換器C3などの電源としても用いる。これにより、システム(装置)の構成を簡略化できる。
【0064】
電源A1には、バッテリーなどの直流電源を用いる。これにより、アースが不要であり、電源トランスなども構成から省くことができるため、システム(装置)全体を、アタッシュケース程度のサイズにコンパクト化でき、かつ軽量化できる。なお、電源A1として、携帯型コンピュータのバッテリーなども用いることができる。
【0065】
入力手段A2では、キーボードなどを介して、設定・操作などを行う。表示部A3は、ディスプレイなど、設定情報、操作情報、処理結果情報などを出力する部位である。
【0066】
記憶部A5は、測定データ収納部A51、基準データ収納部A52、演算プログラム収納部A53などを備える。
【0067】
測定データ収納部A51には、聴性脳幹反応取得手段Cにおいて取得した誘発電位の波形データが収納される。一方、基準データ収納部A52には、予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の基準データを収納される。演算プログラム収納部A53には、脳幹機能障害検出プログラムを収納される。
【0068】
そして、測定データ収納部A51、基準データ収納部A52、演算プログラムA53から、それぞれ、測定データ、基準データ、プログラムがメモリA6に移された後、制御部A4で演算処理が行われ、脳幹機能障害の検出・判定が実行される。
【0069】
制御部A4は、その他の各部の制御も行う。制御部A4は、CPUなどで構成される。
【0070】
音刺激は、音刺激発生部B1で所定の音圧レベル、所定間隔の音が出され、増幅器B2で増幅され、イヤホンB3を介して、検査対象動物に伝達される。音刺激に関する設定は、入力手段A2で行うことができ、音刺激発生部B1の制御は、制御部A4で行う。
【0071】
上述の通り、イヤホンB3の大きさ・形状などは特に限定されないが、その動物の耳孔に密着する構成のものが好適である。イヤホンの材質は、耳孔内の密閉性を高くできるものであればよく、特に限定されない。例えば、シリコーン樹脂などが適用可能である。
【0072】
一方、音刺激により発生した聴性脳幹反応の誘発電位は、電極C1から取得され、生体アンプC2で増幅され、A/D変換器C3でデジタル信号に変更され、制御部A4を介して、測定データ収納部A51に収納される。
【0073】
電極C1の種類は特に限定されないが、動物では体毛があるため、皿電極に比べ、針電極の方が利用しやすい。針電極の針の太さは、各動物に適した直径のものを採用する。例えば、牛の場合、直径0.2mmのものでも利用できるが、牛は針電極の装着部位の皮が比較的厚いため、針が曲がったり折れたりする場合がある。従って、針を刺す痛みに敏感な個体を除き、0.35mm(0.3mm以上0.4mm以下)の針を用いる方が、針が曲がりにくく、装着しやすいという点で有利である。
【0074】
針の材質は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、ステンレススチール、銀−塩化銀、プラチナ合金などが適用可能であり、ステンレススチールが硬さ・価格の面で好適である。なお、聴性脳幹反応の電位は脳波検査などの電位よりも微弱であるため、電極抵抗は5kΩ以下であることが望ましい。
【0075】
電極C1の針を、コードと着脱可能な構成にしてもよい。これにより、コードはそのままで、針のみを交換して使用できるため、測定コストを低減できる。また、針のみを測定ごとに交換することにより、検査動物間の感染を防止できる。
【0076】
<本発明に係る動物用耳保定具>
上述の通り、聴性脳幹反応の測定に際し、予め、動物の両耳を保定することにより、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できるため、安定的な波形データの導出が可能になる。
【0077】
図4は、本発明に係る動物用耳保定具の例を示す外観図である。なお、図中、矢印Xは、動物用耳保定具の装着時における前方方向(頭部方向)を表す。
【0078】
本発明に係る動物用耳保定具Dは、動物の頚部に巻着する頚部固定部1と動物の耳を固定する耳固定部2とを備える。
【0079】
頚部固定部1は、略左右対称の帯状部材で、動物の頚部に巻着する。動物の頚部に巻着する際には、内側面11は動物の皮膚と接する状態となり、外側面12はその一部が耳固定部2と接着する状態になる。
【0080】
頚部固定部1の巻着固定手段については、公知の手段を採用でき、特に限定されない。図4では、連結部3の裏面31に形成された面ファスナーにより、頚部固定部1を巻着する方法を採用している。即ち、頚部固定部1の外側面12の両端近傍部12’、12’を面ファスナーの雌部で構成し、連結部3に形成された面ファスナー31の雄部と両端近傍部12’、12’とを接着させ、動物の頚部に巻着させる構成を採用している。
【0081】
頚部固定部1の前方側には、左右対称性に所定の略湾曲形状14を形成してもよい。一般的に、特に大動物保定時には、頭絡・ロープなどを用いて頚部を保定する。略湾曲形状14を形成することにより、頭絡などと重ならない状態で耳保定具Dを装着できる。
【0082】
頚部固定部1の略湾曲形状14内の所定位置に、頭絡などを連通させる頭絡連通部15を設けてもよい。略湾曲形状14を形成することにより、頚部固定部1と頭絡などとが略並行な位置になる。そこで、頭絡連通部15を設け、頭絡などを頚部固定部1に連通させることにより、耳保定の確度を向上させることができる。
【0083】
頭絡連通部15の構成は特に限定されない。図4では、面ファスナーにより、頭絡連通部15を構成する方法を採用している。即ち、頚部固定部1の内側面11及び外側面12の所定位置に面ファスナーの雌部を形成し、該部位に面ファスナーの雄部15を折り曲げた状態で接着させ、その内部を頭絡などが通過する構成を採用している。
【0084】
一方、耳固定部2は、同じく略左右対称の帯状部材で、動物の耳を固定する部位であり、頚部固定部1外側面12の正中線近傍12’’で連結する。
【0085】
図4では、頚部固定部1の外側面12のうち、耳固定部2と接する部分に面ファスナーの雌部を形成し、耳固定部2の内側面21を面ファスナーの雄部で形成している。
【0086】
そして、頚部固定部1を装着した後、左右それぞれ、頚部固定部1と耳固定部2の間に動物の耳を挟んだ状態で、面ファスナーを接着させ、耳を固定する。これにより、耳の動きをほぼ完全に止めることができるため、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できる。
【0087】
頚部固定部1及び耳固定部2の材質などについては、皮部材、合成樹脂部材など、公知のものを採用でき、特に限定されない。耳固定部2については、一部を透明部材で形成してもよい。これにより、イヤホンの装着状況を外部から確認できるようになる。
【0088】
図5は、本発明に係る耳保定具Dを装着した状態を示す模式図である。図5(A)は耳保定具装着前の状態を、図5(B)は頚部固定部1を巻着した状態を、図5(C)は耳保定具装着時の状態を、それぞれ表す。なお、図5では牛を例に図示しているが、本発明はそれに限定されない。
【0089】
まず、動物の頭部に頭絡4を装着し(図5(A))、次に、頭絡4と略湾曲形状14が略並行になる状態で、頚部固定部1を動物頚部に巻着する(図5(B))。そして、頭絡3と頚部固定部1とを頭絡連通部15で連通させる(図5(B))。次に、耳にイヤホンを装着した状態で、頚部固定部1と耳固定部2の間に耳を挟みこみ、耳を保定する(図5(C))。これにより、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できるため、安定的な波形データの導出が可能になる。
【実施例1】
【0090】
本実施例では、BSE罹患牛の聴性脳幹反応を測定した。
【0091】
健康なホルスタイン牛(2〜4月齢、n=11)の脳内に、BSE罹患牛の10%脳乳剤1mLを投与し、実験的BSE罹患牛を作製した。また、陰性コントロールとして、健康なホルスタイン牛の10%脳乳剤1mLを脳内接種した牛を3頭作製した。脳内接種の12、14、20、22、24ヵ月後に,聴性脳幹反応を測定した。
【0092】
聴性脳幹反応の測定には、「Neuropack MEB−9100(日本光電工業株式会社製)」を用いた。聴性脳幹反応の測定は、キシラジンを0.05mg/kg筋肉内投与し、立位・鎮静下で牛を保定し、行った。音刺激にはクリック音を採用し、刺激頻度を10Hz、刺激の持続時間を0.1ミリ秒とし、それらの刺激を2,000回加算して取得した。
【0093】
動物の左右の耳には、音刺激用のイヤホンをそれぞれ装着させた。イヤホンは、耳孔に密着する構成のものをシリコーン樹脂で新たに作製し、用いた。
【0094】
電極は、導出電極(プラス)を頭頂部に、基準電極(マイナス)を眼窩と耳根部の中間部に、接地電極(アース)を両目の中間と鼻の中間部に、それぞれ装着した。電極には直径0.22mmの針電極を用いた。
【0095】
結果を図6、図7、図8に示す。
【0096】
図6はプリオン脳内接種20ヶ月及び24ヵ月後における聴性脳幹反応の波形データを、図7はプリオン脳内接種後における聴性脳幹反応の潜時及び波間潜時の推移を示すグラフを、図8はプリオン脳内接種22ヵ月後におけるBSE罹患牛の聴性脳幹反応の波形データを、それぞれ示す。
【0097】
図6中、左のグラフはBSE罹患牛の測定データ、右のグラフは陰性コントロール牛の測定データである。横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(加算値、単位:μV)を表す。「20 months after inoculation」はプリオン脳内接種20ヶ月後の波形データであることを、「24 months after inoculation」はプリオン脳内接種24ヶ月後の波形データであることを、それぞれ表す。「Left stim.」は左の誘発電位の測定データであることを、「Right stim.」は右の誘発電位の測定データであることを、それぞれ表す。
【0098】
図7中、「Wave I」、「Wave II」、「Wave
III」、「Wave V」は、それぞれ、I波(聴神経由来)、II波(延髄由来)、III波(橋由来)、V波(中脳由来)の潜時(Peak latency (msec))を表す。「I-III IPL」、「III-V IPL」、「I-V IPL」は、それぞれ、I波とIII波、III波とV波、I波とV波の間の波間潜時(Interpeak latency (msec))を、表す。各グラフ中の4種類の棒グラフは、それぞれ、左から、BSE罹患牛における左の誘発電位の測定データ、正常牛における左の誘発電位の測定データ、BSE罹患牛における右の誘発電位の測定データ、陰性コントロール牛における右の誘発電位の測定データを表す。各グラフ中の5つの群は、それぞれ、左から、プリオン脳内接種後、12、14、20、22、24ヵ月後における誘発電位の測定データを表す。
【0099】
図8中、各グラフの横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(加算値、単位:μV)を、それぞれ表す。各波形は、音刺激の刺激音圧を、それぞれ105、95、85、75、65dBnHLに設定した時のものである。
【0100】
図6に示す通り、牛のBSE罹患牛の場合、聴性脳幹反応の波形データは、左右両側性にIII波とV波の潜時が延長した。この潜時の延長は、BSEの神経症状が現れる前から始まり、神経症状の発症とともに、その延長の程度が不可逆的に大きくなった。
【0101】
また、図7に示す通り、BSE罹患牛の場合、I波とV波の間の潜時(波間潜時)が有意に延長した。この結果は、刺激音圧が105dBnHLの条件下で、I−V間の波間潜時が左右両側性に3.3msec以上延長した場合、BSEに罹患している疑いが高いことを示す。
【0102】
また、図8に示す通り、BSE罹患牛では、症状の進行に伴い、IからV波の全ての電位が低下した。特に、「ふるえ」などの神経症状を示すBSE罹患牛では、95又は85dBnHL以下で波形が消失した。
【0103】
以上、本実施例により、BSE罹患牛では、聴性脳幹反応の測定データが陰性コントロール牛とは異なることが分かった。この結果は、正常個体又はBSE罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の測定データとその基準データとを比較し、上記の特徴を検出することにより、BSE罹患を検出できることを示す。
【実施例2】
【0104】
実施例2では、本発明による聴性脳幹反応の測定によるストレスの影響があるかどうかについて、検証した。
【0105】
ホルスタイン種(n=22)及び黒毛和種(n=10)について、聴性脳幹反応の測定の前後における尿中及び唾液中のコルチゾル濃度を測定した。
【0106】
結果を表3及び表4に示す。表2はホルスタイン種における結果、表3は黒毛和種における結果である。
【表3】
【表4】
【0107】
表3及び表4に示す通り、両品種において、測定前・測定後のいずれにおいても、コルチゾル濃度は低い値だった。この結果は、鎮静処置を伴う聴性脳幹反応の検査は、ストレスが少ないことを示し、鎮静処置により検査データが安定することを勘案すると、牛の臨床検査として適していることを示す。
【実施例3】
【0108】
実施例3では、既存の針電極(直径0.2mm)の代わりに、大動物用の針電極(直径0.35mm)を用いた場合でも、同等の聴性脳幹反応の測定データが得られるかどうか、検証した。
【0109】
聴性脳幹反応の測定は、概ね、実施例1と同様の方法により行った。被験動物には、正常のホルスタイン種を用いた。針電極には、直径0.35mmで、ステンレススチールで作製したものを用いた。また、この針電極は、コードと針を着脱自在に構成したものを用いた。刺激音圧を105dBnHLに設定し、2,000回加算して、データを取得した。
【0110】
結果を図9に示す。図9は、既存の針電極及び大動物用の針電極を用いた場合における聴性脳幹反応の波形データである。図中、横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(加算値、単位:μV)を表す。
【0111】
図9に示す通り、既存の針電極を用いた場合と大動物用の針電極を用いた場合とで、聴性脳幹反応の波形データに変化はほとんどなかった。この結果は、大動物の場合、直径の大きいものを針電極に用いても、同等の波形データを取得できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】成牛の正常個体における聴性脳幹反応の波形データ。
【図2】本発明に係る脳幹機能障害検出プログラムのフローチャート。
【図3】本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(又は装置)の構成例を示す図。
【図4】本発明に係る動物用耳保定具の例を示す外観図。
【図5A】本発明に係る耳保定具D装着前の状態を示す模式図。
【図5B】本発明に係る耳保定具Dの頚部固定部1を巻着した状態を示す模式図。
【図5C】本発明に係る耳保定具Dを装着した状態を示す模式図。
【図6】プリオン脳内接種20ヶ月及び24ヵ月後における聴性脳幹反応の波形データ。
【図7】プリオン脳内接種後における聴性脳幹反応の潜時及び波間潜時の推移を示すグラフ。
【図8】プリオン脳内接種22ヵ月後におけるBSE罹患牛の聴性脳幹反応の波形データ。
【図9】既存の針電極及び大動物用の針電極を用いた場合における聴性脳幹反応の波形データ。
【符号の説明】
【0113】
1 頚部固定部
11 頚部固定部1の内側面
12 頚部固定部1の外側面
2 耳固定部
3 連結部
4 頭絡
A コンピュータ
A1 電源
A2 入力手段
A3 表示部
A4 制御部
A5 記憶部
A51 測定データ収納部
A52 基準データ収納部
A53 演算プログラム収納部
A6 メモリ
B 音刺激発生手段
B1 音刺激発生部
B2 増幅器
B3 イヤホン
C 聴性脳幹反応取得手段
C1 電極
C2 生体アンプ
C3 A/D変換器
【技術分野】
【0001】
本発明は、聴性脳幹反応(ABR (Auditory
Brain-stem Response)、聴覚脳幹誘発電位(BAEP (Brainstem auditory
evoked potential)という場合もある。以下、本願では、「聴性脳幹反応」の文言で統一する。)の波形データを用いた脳幹機能障害検出方法、システム、プログラムなどに関する。より詳細には、鎮静化された動物から聴性脳幹反応の測定データを取得し、該データに基づき、BSEなどの特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法、システム、プログラムなどに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトにおける医療現場などでは、聴神経腫瘍、意識障害、多発性硬化症、脳死の判定、難聴(新生児聴力検査)などの検出・判定手段として、聴性脳幹反応の検査が広く行われている。
【0003】
聴性脳幹反応とは、被験者に耳から音刺激を加えた場合における脳幹部分の電位の変化をいう。健常者の場合、頭皮の所定部分に電極を装着し、耳から音刺激を加え、脳幹部分の電位を経時的に記録すると、音刺激負荷から10ミリ秒の間に、6〜7つの電位のピークを有する波形が得られる。この波形は、音刺激が蝸牛神経・脳幹聴覚路を神経伝達される際に生じた電位の変化を検出したものである。ヒトでは、各電位のピークの起源が明らかにされている。各ピークは、ローマ数字(I〜VII)で表される。
【0004】
被験者は、シールドルーム内のベッドで仰向けになり、頭皮に電極を装着し、耳にヘッドホンをつける。そして、安静閉眼状態で、ヘッドホンから音刺激を加えられ、電極より電位を記録する。
【0005】
音刺激には、クリック音が最もよく用いられている。一般的に、刺激頻度は10〜30回/秒、刺激の持続時間は0.1〜0.2ミリ秒であり、それらの刺激を500〜2,000回加算して、聴性脳幹反応の波形を得る。
【0006】
聴性脳幹反応の検査では、意識や睡眠状態の影響を受けにくく、極めて再現性のよい安定した波形が得られる。また、前記の通り、各波形の起源も明らかにされており、かつ、各ピークの再現性もあるため、信頼性の高いデータとして、聴神経・脳幹の機能障害などの検出・判定に利用されている。
【0007】
一方、ヒト以外の動物、例えば、牛・馬などの大動物などにおいては、(1)シールドルームに入れ、かつその中で一定時間安静状態を保つのが難しい、(2)全身麻酔処置を行う場合、専用の獣医療設備を必要とし、動物の負担も大きく、かつ測定者の危険性も増大する、(3)体動によるアーチファクトが大きい、などの理由から、大動物医療の現場では、聴性脳幹反応の検査はほとんど行われていない。
【0008】
しかし、大動物などにおいても、聴神経・脳幹の機能障害は多く存在する。
【0009】
大動物の脳幹機能障害を伴う疾患の一例として、BSE(牛海綿状脳症)が挙げられる。BSEは、狂牛病とも呼ばれ、異常プリオンタンパク質の脳・脊髄などへの蓄積が原因とされている。発症当初には挙動変化を起こす程度で目立った症状は現れないが、次第に音・接触に対し過敏に反応するようになり、病状がさらに進行すると、起立不能・痙攣などを示す。
【0010】
BSE検査には、殺処分の後、死後の牛の脳組織材料を用いて、病理組織学的検査、免疫組織化学的検査、ウエスタンブロット法などを行う方法が採用されており、確定診断には、免疫組織化学的検査又はウエスタンブロット法による異常プリオンタンパク質の検出が実施されている。また、異常プリオンタンパク質の検出感度を向上させる試みが種々行われている。しかし、現在のところ、血液・尿など、採取しやすい生体材料からは、プリオン検出が確認できていないため、BSEを生前に検出・診断する技術は確立されていない。
【0011】
それに対し、起立不能・歩行異常などを示す牛の疾患として、例えば、ヘモフィルス・ソムナス感染症、大脳皮質壊死症、ダウナー症候群などがあり、BSE検出の際には、それらの疾患との類症鑑別が必要である。
【0012】
従って、殺処分をせずに、生きたままの状態でBSE罹患の有無を検出する手段が求められている。
【0013】
大動物などの脳幹機能障害を伴う疾患として、BSE以外にも、聴神経腫瘍、意識障害、難聴などを含む種々の脳幹機能障害が存在する。しかし、大動物などでは、試験者の意思に従って安静状態を保つことが難しいため、脳幹機能検査はほとんど行われていない。従って、脳幹機能を簡易かつ低侵襲に検査・判定する手段が求められている。
【0014】
本発明の関連文献として、例えば、以下のものが挙げられる。
特許文献1には、聴性脳幹反応を使用した蝸牛水腫の存在を診断する技術が、特許文献2には、積み重ね式誘導帯域ABR振幅を使用する聴神経腫瘍検出手段が、それぞれ記載されている。特許文献3には、聴性脳幹反応に基づくデータに対してWavelet変換を行うWavelet変換部を備える誘発電位検査装置が記載されている。特許文献4には、質量分析による感染性海綿状脳症の診断法が記載されている。特許文献5には、ヒトの聴性脳幹反応検査に用いられる耳カプラーが記載されている。
【0015】
また、本発明者は、先般、キシラジンで鎮静処置を施すことにより、牛でも聴性脳幹反応を取得できることを報告している(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−349198号公報
【特許文献2】特表2002−514457号公報
【特許文献3】特開2006−239096号公報
【特許文献4】特表2005−502882号公報
【特許文献5】特開平11−276460号公報
【非特許文献1】Shozo Arai, “Brainstem auditory evoked potentials in cattle sedatedwith xylazine”, The Canadian Journal of Veterinary Research 2008; 72: 287-290
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述の通り、大動物などにおいては、(1)シールドルームに入れ、かつその中で一定時間安静状態を保つのが難しい、(2)全身麻酔処置を行う場合、専用の獣医療設備を必要とし、動物の負担も大きく、かつ測定者の危険性も増大する、(3)体動によるアーチファクトが大きい、などの理由から、臨床の現場では、聴性脳幹反応の検査はほとんど行われていない。
【0017】
一方、大動物などにおいても、種々の脳幹機能障害を伴う疾患が存在する。従って、それらの動物に対し、簡易かつ低侵襲に脳幹機能障害を検出する手段が必要とされている。
【0018】
そこで、本発明は、大動物などにおける特定の脳幹機能障害を簡易かつ低侵襲に検出する手段を提供することなどを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上述の通り、先般、動物に鎮静処置を施すことにより、大動物から聴性脳幹反応を取得することに成功した。
【0020】
さらに、今回、(1)動物用耳保定具を新たに開発し、筋電図由来のノイズを低減し、(2)電極の針に、各動物に適した直径のものを採用することにより、大動物から、より簡易・高精度かつ安定的に聴性脳幹反応を取得することに成功した。
【0021】
そして、これらの手段を用いて、動物の脳幹機能障害を伴う疾患について、聴性脳幹反応の検査を行ったところ、特定の脳幹機能障害では、波形が正常個体とは異なることを新規に見出した。
【0022】
そこで、本発明では、鎮静化された産業動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法を提供する。
【0023】
例えば、正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準データとして予め取得しておいた上で、鎮静化された被験動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、両者の波形差(差分)を演算などすることにより、特定の脳幹機能障害の罹患を簡易かつ高精度に検出できる。
【0024】
加えて、本発明は、BSEなどの罹患を生前に検出する手段としても有用である。上述の通り、BSEは、現在のところ、死後の牛の脳組織材料を用いた検出手段があるのみで、BSEを生前に検出する技術は確立されていない。それに対し、本発明者らは、BSEに特有の聴性脳幹反応の波形データを新規に見出した。従って、本発明により、殺処分をする前に、生きたままの状態でBSE罹患の有無を検出できる。即ち、本発明は、簡易かつ低侵襲な脳幹機能障害検出手段である。
【0025】
なお、本発明者らは、所定の音圧レベル及び所定の間隔で音を発生する音刺激発生手段と、動物に装着し、聴性脳幹反応を取得するための電極と、制御部及び電源として機能する携帯型コンピュータとを少なくとも備える聴性脳幹反応検出システム(又は、装置)を新たに開発した。
【0026】
このシステム(装置)では、携帯型コンピュータなどを電源としても用いる構成にすることにより、電源、アースが不要であり、電源トランスなども構成から省くことができる。そのため、システム(装置)全体を、アタッシュケース程度のサイズにコンパクト化でき、かつ軽量化できる。
【0027】
一般に、大動物などにおいて、各畜産農家などから家畜保健衛生所・動物病院などの診察室に各個体を搬入し、その個体を固定し、各種測定を行うことは、多大な労力・時間を要する。特に、特定の畜産農家が所有する複数の個体を順次検査・測定することは、実質的に難しい。
【0028】
それに対し、このシステム(装置)の場合、コンパクトで持ち運び可能であるため、各個体を家畜保健衛生所などに搬送しなくても、畜産農家の畜舎などにシステム(装置)を搬入することにより、そこで測定・解析を行うことができる。また、電源やアースが不要なため、野外の放牧場などでも、場所を選ばずに、機器の搬送、測定・解析を行うことができる。即ち、このシステム(装置)を用いることにより、簡易・低コスト・低労力で、かつ場所を選ばずに聴性脳幹反応を測定できる。なお、このシステム(装置)は、牛・馬などの大動物だけでなく、豚・羊・山羊などの他の産業動物や犬・ネコなどの愛玩動物における聴性脳幹反応の測定にも利用できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明により、各種動物における特定の脳幹機能障害の罹患を簡易・高精度かつ低侵襲に検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
<大動物における聴性脳幹反応取得方法>
大動物においても、ヒトと同様、被験動物の頭部の所定部分に電極を装着し、左右の耳のそれぞれから音刺激を加え、脳神経の誘発電位を経時的に記録して、聴性脳幹反応を取得する。
【0031】
左右それぞれの耳から音刺激を加えると、その刺激が聴神経を経て脳幹に伝達される。音刺激を加えてから聴神経・脳幹各部位へその刺激が伝達されるまでの時間は、部位ごとにほぼ一定である。そのため、左右それぞれについて、聴神経から脳幹へ伝達された誘発電位を経時的に記録することにより、脳幹各部位の機能を解析できる。
【0032】
大動物における聴性脳幹反応の測定においては、鎮静剤を前投与し、その動物を立位・安静化させた状態で保定し、測定を行うほうがよい。
【0033】
大動物の場合、ヒトと異なり、聴性脳幹反応の測定において、測定者の意思に従って、その個体の姿勢を一定時間同一に保持させることは難しい。一方、各測定の際に全身麻酔処置を行うと、専用の獣医療設備を必要とし、動物の負担も大きく、かつ測定者の危険性も増大する。また、複数個体を測定する際に、全頭に麻酔処置を施すことは、作業効率の点でも現実的でない。それに対し、本発明者らは、先般、大動物にキシラジンなどの鎮静剤を前投与することにより、その動物を立位のまま安静化させることができ、聴性脳幹反応の測定が可能になることを見出した。即ち、聴性脳幹反応の測定に際し、鎮静剤を前投与することにより、安定した聴性脳幹反応を取得でき、かつ、作業者の安全性も向上できる。なお、鎮静剤処理により動物が座った場合、その状態でも測定は可能である。
【0034】
鎮静剤は特に限定されないが、キシラジンが好適である。個体によって異なるが、キシラジンを用いる場合、0.05mg/kg程度を筋肉内投与することにより、所定の効果を得ることができる。投与後、個体の様子を観察し、状況に応じて追加投与してもよい。
【0035】
動物の左右の耳には、音刺激用のイヤホンをそれぞれ装着させる。イヤホンの大きさ・形状などは特に限定されないが、その動物の耳孔に密着する構成のものが好適である。これにより、刺激音圧を確実にその動物の鼓膜に送るとともに、外部からの雑音を遮断できるため、特殊な検査室(シールドルーム)などを用いなくても、安定的な聴性脳幹反応の波形データを取得できる。
【0036】
聴性脳幹反応の測定に際し、予め、動物の両耳を保定しておくことが望ましい。これにより、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できるため、安定的な波形データの導出が可能になる。耳の保定には、後述する本発明に係る動物用耳保定具を用いることができる。
【0037】
被験動物の頭部には電極を装着する。電極の装着部位については、脳幹由来の誘発電位を検出できる場所であれば、特に限定されない。例えば、導出電極(プラス)を頭頂部に、基準電極(マイナス)を眼窩と耳根部の中間部に、接地電極(アース)を両目の中間と鼻の中間部に、それぞれ装着することにより、良好な波形を取得できる。基準電極を左右にそれぞれ装着する。
【0038】
聴性脳幹反応の測定装置自体は、所定の音刺激を出力でき、かつ、誘発電位を検出できるものであればよく、ヒト用に開発されたものでも測定可能である。
【0039】
音刺激の種類・大きさ・頻度などは適宜設定でき、特に限定されない。例えば、クリック音で、刺激音圧を75〜120dBnHL(「decibel normalized hearing level」、以下同じ)程度、刺激頻度を10〜30回/秒、刺激の持続時間を0.1〜0.2ミリ秒とし、それらの刺激を500〜2,000回加算することにより、聴性脳幹反応の波形を得ることができる。
【0040】
<本発明に係る脳幹機能障害検出方法>
本発明に係る脳幹機能障害検出方法では、鎮静化された動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する。
【0041】
例えば、正常個体又は特定の脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の波形データとその基準データとを比較することにより、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する。
【0042】
図1は、成牛の正常個体における聴性脳幹反応の波形データである。
【0043】
このデータは、ホルスタイン成牛にキシラジンを0.05mg/kg筋肉内投与し、立位・鎮静下で牛を保定し、測定した聴性脳幹反応の波形データである。音刺激にはクリック音を採用し、刺激頻度を10Hz、刺激の持続時間を0.1ミリ秒とし、それらの刺激を2,000回加算して取得したデータである。
【0044】
図中、横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(Amplitude、加算値、単位:μV)である。図中の各波形は、音刺激の刺激音圧を、それぞれ105、95、85、75、65dBnHLに設定した時のものである。
【0045】
図1に示す通り、75dBnHL以上で聴性脳幹反応に基づく波形が出現し、音刺激から5ミリ秒以内に明瞭な陽性波が4つ認められる。図中、それぞれ、「I」は聴神経由来、「II」は延髄由来、「III」は橋由来、「V」は中脳由来の陽性波である。
【0046】
なお、正常牛における波形に関して、品種間、例えば、ホルスタイン種と黒毛和腫との間で、聴性脳幹反応の波形形状には差異はほとんどないが、各波形の潜時(ピーク時)・波間潜時(IPL(inter peak latency);ピーク間の時間、以下同じ)には差が認められる(表1、表2参照)。従って、正常個体における聴性脳幹反応の波形データを、品種ごとに設定してもよい。その他、正常牛において、月齢による波形差はほとんどない。
【表1】
【表2】
【0047】
一方、特定の脳幹機能障害では、固有の聴性脳幹反応波形データが得られる。
【0048】
例えば、牛のBSE罹患牛の場合、聴性脳幹反応の波形データは、左右両側性にIII波とV波の潜時(peak latency)が延長する。この潜時の延長は、BSEの神経症状が現れる前から始まり、神経症状の発症とともに、その延長の程度が不可逆的に大きくなる。
【0049】
また、BSE罹患牛の場合、I波とV波の間の潜時(波間潜時)が有意に延長する。刺激音圧が105dBnHLの条件下で、I−V間の波間潜時が左右両側性に3.3msec以上延長した場合、BSEに罹患している疑いが高い。
【0050】
その他、BSE罹患牛では、症状の進行に伴い、I波からV波の全ての電位が低下する。「ふるえ」などの神経症状を示すBSE罹患牛では、95又は85dBnHL以下で波形が消失する。
【0051】
従って、正常個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の測定データとその基準データとを比較し、上記の特徴を検出することにより、BSE罹患を検出できる。
【0052】
また、BSE罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の測定データとその基準データとを比較することにより、BSE罹患を検出してもよい。
【0053】
なお、第四胃変位及びケトーシスに罹患した牛について、聴性脳幹反応を測定したところ、正常個体におけるものと波形に大きな違いは認められなかった。従って、本発明に係る脳幹機能障害検出方法を用いて、脳幹機能障害とそれらの疾患との鑑別も可能である。
【0054】
<本発明に係る脳幹機能障害検出プログラム>
上述の脳幹機能障害検出方法は、プログラム化してコンピュータに実装させることにより、脳幹機能障害の罹患の有無の検出・判定を自動化させることができる。
【0055】
図2は、本発明に係る脳幹機能障害検出プログラムのフローチャートの例である。
【0056】
このプログラムは、鎮静化された動物から得られた聴性脳幹反応の波形データを取得するステップ(符号S1)と、予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の基準データを取得するステップ(符号S2)と、前記波形データと前記聴性脳幹反応基準データとの差分に基づき、脳幹機能障害を検出するステップ(符号S3)と、を少なくとも含む。
【0057】
上述の聴性脳幹反応取得方法により得られた聴性脳幹反応の波形データをメモリに移し、予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応基準データを記憶媒体などからメモリに移し、両データの差分などを演算処理することにより、脳幹機能障害罹患の有無を自動的に検出・判定できる。
【0058】
<本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(又は装置)>
本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(又は装置)は、所定の音圧レベル及び所定の間隔で音を発生する音刺激発生手段と、動物に装着し、聴性脳幹反応を取得するための電極と、制御部及び電源として機能する携帯型コンピュータとを少なくとも備える。
【0059】
上述の通り、このシステム(装置)では、携帯型コンピュータなどを電源としても用いる構成にすることにより、電源、アースが不要であり、電源トランスなども構成から省くことができる。そのため、システム(装置)全体を、アタッシュケース程度のサイズにコンパクト化でき、かつ軽量化できる。
【0060】
従って、このシステム(装置)を用いることにより、簡易・低コスト・低労力で、かつ場所を選ばずに聴性脳幹反応を測定できる。なお、このシステム(装置)は、豚・羊・山羊などの他の産業動物や犬・ネコなどの愛玩動物における聴性脳幹反応の測定にも利用できる。
【0061】
図3は、本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(装置)の構成例を示す図である。
【0062】
図3におけるシステム(装置)では、主に、電源A1、入力手段A2、表示部A3、制御部A4、記憶部A5、メモリA6などを備えるコンピュータ部Aと、音刺激発生部B1、増幅器B2、イヤホンB3などを備える音刺激発生手段Bと、電極C1、生体アンプC2、A/D変換器C3などを備える聴性脳幹反応取得手段Cとを備える。
【0063】
電源A1は、コンピュータ部Aだけでなく、音刺激発生部B1、生体アンプC2、A/D変換器C3などの電源としても用いる。これにより、システム(装置)の構成を簡略化できる。
【0064】
電源A1には、バッテリーなどの直流電源を用いる。これにより、アースが不要であり、電源トランスなども構成から省くことができるため、システム(装置)全体を、アタッシュケース程度のサイズにコンパクト化でき、かつ軽量化できる。なお、電源A1として、携帯型コンピュータのバッテリーなども用いることができる。
【0065】
入力手段A2では、キーボードなどを介して、設定・操作などを行う。表示部A3は、ディスプレイなど、設定情報、操作情報、処理結果情報などを出力する部位である。
【0066】
記憶部A5は、測定データ収納部A51、基準データ収納部A52、演算プログラム収納部A53などを備える。
【0067】
測定データ収納部A51には、聴性脳幹反応取得手段Cにおいて取得した誘発電位の波形データが収納される。一方、基準データ収納部A52には、予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応の基準データを収納される。演算プログラム収納部A53には、脳幹機能障害検出プログラムを収納される。
【0068】
そして、測定データ収納部A51、基準データ収納部A52、演算プログラムA53から、それぞれ、測定データ、基準データ、プログラムがメモリA6に移された後、制御部A4で演算処理が行われ、脳幹機能障害の検出・判定が実行される。
【0069】
制御部A4は、その他の各部の制御も行う。制御部A4は、CPUなどで構成される。
【0070】
音刺激は、音刺激発生部B1で所定の音圧レベル、所定間隔の音が出され、増幅器B2で増幅され、イヤホンB3を介して、検査対象動物に伝達される。音刺激に関する設定は、入力手段A2で行うことができ、音刺激発生部B1の制御は、制御部A4で行う。
【0071】
上述の通り、イヤホンB3の大きさ・形状などは特に限定されないが、その動物の耳孔に密着する構成のものが好適である。イヤホンの材質は、耳孔内の密閉性を高くできるものであればよく、特に限定されない。例えば、シリコーン樹脂などが適用可能である。
【0072】
一方、音刺激により発生した聴性脳幹反応の誘発電位は、電極C1から取得され、生体アンプC2で増幅され、A/D変換器C3でデジタル信号に変更され、制御部A4を介して、測定データ収納部A51に収納される。
【0073】
電極C1の種類は特に限定されないが、動物では体毛があるため、皿電極に比べ、針電極の方が利用しやすい。針電極の針の太さは、各動物に適した直径のものを採用する。例えば、牛の場合、直径0.2mmのものでも利用できるが、牛は針電極の装着部位の皮が比較的厚いため、針が曲がったり折れたりする場合がある。従って、針を刺す痛みに敏感な個体を除き、0.35mm(0.3mm以上0.4mm以下)の針を用いる方が、針が曲がりにくく、装着しやすいという点で有利である。
【0074】
針の材質は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、ステンレススチール、銀−塩化銀、プラチナ合金などが適用可能であり、ステンレススチールが硬さ・価格の面で好適である。なお、聴性脳幹反応の電位は脳波検査などの電位よりも微弱であるため、電極抵抗は5kΩ以下であることが望ましい。
【0075】
電極C1の針を、コードと着脱可能な構成にしてもよい。これにより、コードはそのままで、針のみを交換して使用できるため、測定コストを低減できる。また、針のみを測定ごとに交換することにより、検査動物間の感染を防止できる。
【0076】
<本発明に係る動物用耳保定具>
上述の通り、聴性脳幹反応の測定に際し、予め、動物の両耳を保定することにより、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できるため、安定的な波形データの導出が可能になる。
【0077】
図4は、本発明に係る動物用耳保定具の例を示す外観図である。なお、図中、矢印Xは、動物用耳保定具の装着時における前方方向(頭部方向)を表す。
【0078】
本発明に係る動物用耳保定具Dは、動物の頚部に巻着する頚部固定部1と動物の耳を固定する耳固定部2とを備える。
【0079】
頚部固定部1は、略左右対称の帯状部材で、動物の頚部に巻着する。動物の頚部に巻着する際には、内側面11は動物の皮膚と接する状態となり、外側面12はその一部が耳固定部2と接着する状態になる。
【0080】
頚部固定部1の巻着固定手段については、公知の手段を採用でき、特に限定されない。図4では、連結部3の裏面31に形成された面ファスナーにより、頚部固定部1を巻着する方法を採用している。即ち、頚部固定部1の外側面12の両端近傍部12’、12’を面ファスナーの雌部で構成し、連結部3に形成された面ファスナー31の雄部と両端近傍部12’、12’とを接着させ、動物の頚部に巻着させる構成を採用している。
【0081】
頚部固定部1の前方側には、左右対称性に所定の略湾曲形状14を形成してもよい。一般的に、特に大動物保定時には、頭絡・ロープなどを用いて頚部を保定する。略湾曲形状14を形成することにより、頭絡などと重ならない状態で耳保定具Dを装着できる。
【0082】
頚部固定部1の略湾曲形状14内の所定位置に、頭絡などを連通させる頭絡連通部15を設けてもよい。略湾曲形状14を形成することにより、頚部固定部1と頭絡などとが略並行な位置になる。そこで、頭絡連通部15を設け、頭絡などを頚部固定部1に連通させることにより、耳保定の確度を向上させることができる。
【0083】
頭絡連通部15の構成は特に限定されない。図4では、面ファスナーにより、頭絡連通部15を構成する方法を採用している。即ち、頚部固定部1の内側面11及び外側面12の所定位置に面ファスナーの雌部を形成し、該部位に面ファスナーの雄部15を折り曲げた状態で接着させ、その内部を頭絡などが通過する構成を採用している。
【0084】
一方、耳固定部2は、同じく略左右対称の帯状部材で、動物の耳を固定する部位であり、頚部固定部1外側面12の正中線近傍12’’で連結する。
【0085】
図4では、頚部固定部1の外側面12のうち、耳固定部2と接する部分に面ファスナーの雌部を形成し、耳固定部2の内側面21を面ファスナーの雄部で形成している。
【0086】
そして、頚部固定部1を装着した後、左右それぞれ、頚部固定部1と耳固定部2の間に動物の耳を挟んだ状態で、面ファスナーを接着させ、耳を固定する。これにより、耳の動きをほぼ完全に止めることができるため、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できる。
【0087】
頚部固定部1及び耳固定部2の材質などについては、皮部材、合成樹脂部材など、公知のものを採用でき、特に限定されない。耳固定部2については、一部を透明部材で形成してもよい。これにより、イヤホンの装着状況を外部から確認できるようになる。
【0088】
図5は、本発明に係る耳保定具Dを装着した状態を示す模式図である。図5(A)は耳保定具装着前の状態を、図5(B)は頚部固定部1を巻着した状態を、図5(C)は耳保定具装着時の状態を、それぞれ表す。なお、図5では牛を例に図示しているが、本発明はそれに限定されない。
【0089】
まず、動物の頭部に頭絡4を装着し(図5(A))、次に、頭絡4と略湾曲形状14が略並行になる状態で、頚部固定部1を動物頚部に巻着する(図5(B))。そして、頭絡3と頚部固定部1とを頭絡連通部15で連通させる(図5(B))。次に、耳にイヤホンを装着した状態で、頚部固定部1と耳固定部2の間に耳を挟みこみ、耳を保定する(図5(C))。これにより、耳を動かすことによる筋電図由来のノイズを防止できるため、安定的な波形データの導出が可能になる。
【実施例1】
【0090】
本実施例では、BSE罹患牛の聴性脳幹反応を測定した。
【0091】
健康なホルスタイン牛(2〜4月齢、n=11)の脳内に、BSE罹患牛の10%脳乳剤1mLを投与し、実験的BSE罹患牛を作製した。また、陰性コントロールとして、健康なホルスタイン牛の10%脳乳剤1mLを脳内接種した牛を3頭作製した。脳内接種の12、14、20、22、24ヵ月後に,聴性脳幹反応を測定した。
【0092】
聴性脳幹反応の測定には、「Neuropack MEB−9100(日本光電工業株式会社製)」を用いた。聴性脳幹反応の測定は、キシラジンを0.05mg/kg筋肉内投与し、立位・鎮静下で牛を保定し、行った。音刺激にはクリック音を採用し、刺激頻度を10Hz、刺激の持続時間を0.1ミリ秒とし、それらの刺激を2,000回加算して取得した。
【0093】
動物の左右の耳には、音刺激用のイヤホンをそれぞれ装着させた。イヤホンは、耳孔に密着する構成のものをシリコーン樹脂で新たに作製し、用いた。
【0094】
電極は、導出電極(プラス)を頭頂部に、基準電極(マイナス)を眼窩と耳根部の中間部に、接地電極(アース)を両目の中間と鼻の中間部に、それぞれ装着した。電極には直径0.22mmの針電極を用いた。
【0095】
結果を図6、図7、図8に示す。
【0096】
図6はプリオン脳内接種20ヶ月及び24ヵ月後における聴性脳幹反応の波形データを、図7はプリオン脳内接種後における聴性脳幹反応の潜時及び波間潜時の推移を示すグラフを、図8はプリオン脳内接種22ヵ月後におけるBSE罹患牛の聴性脳幹反応の波形データを、それぞれ示す。
【0097】
図6中、左のグラフはBSE罹患牛の測定データ、右のグラフは陰性コントロール牛の測定データである。横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(加算値、単位:μV)を表す。「20 months after inoculation」はプリオン脳内接種20ヶ月後の波形データであることを、「24 months after inoculation」はプリオン脳内接種24ヶ月後の波形データであることを、それぞれ表す。「Left stim.」は左の誘発電位の測定データであることを、「Right stim.」は右の誘発電位の測定データであることを、それぞれ表す。
【0098】
図7中、「Wave I」、「Wave II」、「Wave
III」、「Wave V」は、それぞれ、I波(聴神経由来)、II波(延髄由来)、III波(橋由来)、V波(中脳由来)の潜時(Peak latency (msec))を表す。「I-III IPL」、「III-V IPL」、「I-V IPL」は、それぞれ、I波とIII波、III波とV波、I波とV波の間の波間潜時(Interpeak latency (msec))を、表す。各グラフ中の4種類の棒グラフは、それぞれ、左から、BSE罹患牛における左の誘発電位の測定データ、正常牛における左の誘発電位の測定データ、BSE罹患牛における右の誘発電位の測定データ、陰性コントロール牛における右の誘発電位の測定データを表す。各グラフ中の5つの群は、それぞれ、左から、プリオン脳内接種後、12、14、20、22、24ヵ月後における誘発電位の測定データを表す。
【0099】
図8中、各グラフの横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(加算値、単位:μV)を、それぞれ表す。各波形は、音刺激の刺激音圧を、それぞれ105、95、85、75、65dBnHLに設定した時のものである。
【0100】
図6に示す通り、牛のBSE罹患牛の場合、聴性脳幹反応の波形データは、左右両側性にIII波とV波の潜時が延長した。この潜時の延長は、BSEの神経症状が現れる前から始まり、神経症状の発症とともに、その延長の程度が不可逆的に大きくなった。
【0101】
また、図7に示す通り、BSE罹患牛の場合、I波とV波の間の潜時(波間潜時)が有意に延長した。この結果は、刺激音圧が105dBnHLの条件下で、I−V間の波間潜時が左右両側性に3.3msec以上延長した場合、BSEに罹患している疑いが高いことを示す。
【0102】
また、図8に示す通り、BSE罹患牛では、症状の進行に伴い、IからV波の全ての電位が低下した。特に、「ふるえ」などの神経症状を示すBSE罹患牛では、95又は85dBnHL以下で波形が消失した。
【0103】
以上、本実施例により、BSE罹患牛では、聴性脳幹反応の測定データが陰性コントロール牛とは異なることが分かった。この結果は、正常個体又はBSE罹患個体における聴性脳幹反応の波形データを基準とし、検査対象の動物から新たに取得した聴性脳幹反応の測定データとその基準データとを比較し、上記の特徴を検出することにより、BSE罹患を検出できることを示す。
【実施例2】
【0104】
実施例2では、本発明による聴性脳幹反応の測定によるストレスの影響があるかどうかについて、検証した。
【0105】
ホルスタイン種(n=22)及び黒毛和種(n=10)について、聴性脳幹反応の測定の前後における尿中及び唾液中のコルチゾル濃度を測定した。
【0106】
結果を表3及び表4に示す。表2はホルスタイン種における結果、表3は黒毛和種における結果である。
【表3】
【表4】
【0107】
表3及び表4に示す通り、両品種において、測定前・測定後のいずれにおいても、コルチゾル濃度は低い値だった。この結果は、鎮静処置を伴う聴性脳幹反応の検査は、ストレスが少ないことを示し、鎮静処置により検査データが安定することを勘案すると、牛の臨床検査として適していることを示す。
【実施例3】
【0108】
実施例3では、既存の針電極(直径0.2mm)の代わりに、大動物用の針電極(直径0.35mm)を用いた場合でも、同等の聴性脳幹反応の測定データが得られるかどうか、検証した。
【0109】
聴性脳幹反応の測定は、概ね、実施例1と同様の方法により行った。被験動物には、正常のホルスタイン種を用いた。針電極には、直径0.35mmで、ステンレススチールで作製したものを用いた。また、この針電極は、コードと針を着脱自在に構成したものを用いた。刺激音圧を105dBnHLに設定し、2,000回加算して、データを取得した。
【0110】
結果を図9に示す。図9は、既存の針電極及び大動物用の針電極を用いた場合における聴性脳幹反応の波形データである。図中、横軸は音刺激を加えてからの時間(Latency;潜時、単位ミリ秒(msec))を、縦軸は得られた誘発電位(加算値、単位:μV)を表す。
【0111】
図9に示す通り、既存の針電極を用いた場合と大動物用の針電極を用いた場合とで、聴性脳幹反応の波形データに変化はほとんどなかった。この結果は、大動物の場合、直径の大きいものを針電極に用いても、同等の波形データを取得できることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】成牛の正常個体における聴性脳幹反応の波形データ。
【図2】本発明に係る脳幹機能障害検出プログラムのフローチャート。
【図3】本発明に係る聴性脳幹反応検出システム(又は装置)の構成例を示す図。
【図4】本発明に係る動物用耳保定具の例を示す外観図。
【図5A】本発明に係る耳保定具D装着前の状態を示す模式図。
【図5B】本発明に係る耳保定具Dの頚部固定部1を巻着した状態を示す模式図。
【図5C】本発明に係る耳保定具Dを装着した状態を示す模式図。
【図6】プリオン脳内接種20ヶ月及び24ヵ月後における聴性脳幹反応の波形データ。
【図7】プリオン脳内接種後における聴性脳幹反応の潜時及び波間潜時の推移を示すグラフ。
【図8】プリオン脳内接種22ヵ月後におけるBSE罹患牛の聴性脳幹反応の波形データ。
【図9】既存の針電極及び大動物用の針電極を用いた場合における聴性脳幹反応の波形データ。
【符号の説明】
【0113】
1 頚部固定部
11 頚部固定部1の内側面
12 頚部固定部1の外側面
2 耳固定部
3 連結部
4 頭絡
A コンピュータ
A1 電源
A2 入力手段
A3 表示部
A4 制御部
A5 記憶部
A51 測定データ収納部
A52 基準データ収納部
A53 演算プログラム収納部
A6 メモリ
B 音刺激発生手段
B1 音刺激発生部
B2 増幅器
B3 イヤホン
C 聴性脳幹反応取得手段
C1 電極
C2 生体アンプ
C3 A/D変換器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎮静化された動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法。
【請求項2】
BSE罹患を検出する請求項1記載の脳幹機能障害検出方法。
【請求項3】
取得した聴性脳幹反応の波形データにおいて、III波とV波の潜時の左右両側性遅延を検出する請求項2記載の脳幹機能障害検出方法。
【請求項4】
鎮静化された動物から得られた聴性脳幹反応の波形データを取得するステップと、
予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応基準データを取得するステップと、
前記測定データと前記聴性脳幹反応基準データとの差分に基づき、脳幹機能障害を検出するステップと、
を少なくとも含む処理をコンピュータに実行させるための脳幹機能障害検出プログラム。
【請求項5】
鎮静化された動物の聴性脳幹反応を測定するシステムであって、
所定の音圧レベル及び所定の間隔で音を発生する音刺激発生手段と、
前記動物に装着し、前記聴性脳幹反応を取得するための電極と、
制御部及び電源として機能する携帯型コンピュータとを少なくとも備える聴性脳幹反応検出システム。
【請求項1】
鎮静化された動物から聴性脳幹反応の波形データを取得し、該データに基づき、特定の脳幹機能障害の罹患を検出する脳幹機能障害検出方法。
【請求項2】
BSE罹患を検出する請求項1記載の脳幹機能障害検出方法。
【請求項3】
取得した聴性脳幹反応の波形データにおいて、III波とV波の潜時の左右両側性遅延を検出する請求項2記載の脳幹機能障害検出方法。
【請求項4】
鎮静化された動物から得られた聴性脳幹反応の波形データを取得するステップと、
予め取得された正常個体及び/又は脳幹機能障害罹患個体における聴性脳幹反応基準データを取得するステップと、
前記測定データと前記聴性脳幹反応基準データとの差分に基づき、脳幹機能障害を検出するステップと、
を少なくとも含む処理をコンピュータに実行させるための脳幹機能障害検出プログラム。
【請求項5】
鎮静化された動物の聴性脳幹反応を測定するシステムであって、
所定の音圧レベル及び所定の間隔で音を発生する音刺激発生手段と、
前記動物に装着し、前記聴性脳幹反応を取得するための電極と、
制御部及び電源として機能する携帯型コンピュータとを少なくとも備える聴性脳幹反応検出システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2010−57645(P2010−57645A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225357(P2008−225357)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、農林水産省、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000237824)富士平工業株式会社 (14)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、農林水産省、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000237824)富士平工業株式会社 (14)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】
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