説明

脳損傷及び疾患のMAPC治療

本発明は、MAPCsによる脳の種々の損傷、障害、機能不全及び疾患などの治療、特にいくつかの態様では、低酸素により生じるもの、例えば全身性低酸素により生じるもの及び不十分な血液供給により生じるものなどの治療に関する。いくつかのさらなる特定の態様では、本発明は、例えば、幼児におけるMAPCsによる低酸素性虚血性脳損傷の治療、また例えば成体におけるMAPCsによる皮質梗塞及び卒中の治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、以下に列挙する出願番号を有する出願のそれぞれ及び全ての優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる:
本出願は、米国特許仮出願第60/760,951号(2006年1月23日出願)の一部継続出願、PCT/US/43804(2006年11月9日出願)の一部継続出願であり、この出願は、米国特許出願第11/269,736号(2005年11月9日出願)の一部継続出願であり、この出願は、米国出願第11/151,689号(2005年6月13日出願)の一部継続出願であり、この出願は、米国出願第10/963,444号(2004年10月11日出願)(放棄)の一部継続出願であり、この出願は、米国出願第10/048,757号(2002年2月1日出願)の一部継続出願であり、この出願は、PCT/US00/21387(2000年8月4日出願)の米国国内段階の出願であり、この出願は、2001年2月15日にWO01/11011として英語で公開され、35U.S.C.§119(e)により米国仮出願第60/147,324号(1999年8月5日出願)と第60/164,650号(1999年11月10日出願)の優先権を主張し、かつ米国出願第10/467,963号(2003年8月11日出願)の一部継続出願であり、この出願はPCT/US02/04652(2002年2月14日出願)の米国国内段階の出願であり、この出願は、2002年8月22日にWO02/064748として英語で公開され、35U.S.C.§119(e)により米国仮出願第60/268,786号(2001年2月14日出願)、第60/269,062号(2001年2月15日出願)、第60/310,625号(2001年8月7日出願)、及び第60/343,836号(2001年10月25日出願)の優先権を主張する(これらすべての出願と刊行物は参照によりその全体が本明細書に組み込まれ、本出願においてその優先権の完全な利益を主張する)。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は、多能性成体前駆細胞(MAPCs)を用いた脳損傷、障害、機能不全及び疾患の治療、特に低酸素性及び虚血性脳損傷(限定されるものではないが、低酸素性虚血性脳損傷及び卒中を含む)の治療である。
【背景技術】
【0003】
脳疾患などの脳損傷は、米国及び世界中において主要な健康問題である。脳損傷の多くは、低酸素、例えば脳への血液供給の狭窄又は閉塞によって生じることが多い局所性低酸素、及び被験体の空気供給の結紮によって一般的に生じるびまん性低酸素などによって生じる。局所性低酸素は、例えば、皮質梗塞及び卒中に至ることがある。びまん性低酸素は、低酸素性虚血性脳損傷(「HI損傷」)に至ることがある。皮質梗塞及び卒中、並びにHI損傷は、重大な健康問題である。
【0004】
HI損傷及びそれに関連する転帰は、毎年生児出生のかなりの数に影響を及ぼす。小児における虚血性及び低酸素性脳損傷の発生及び影響を測定することは複雑であるが、どの評価でも罹患患者数は多い。HI損傷は、生児出生4000当たり1と高い割合で発生している(Nelsonら、Lancet Neurol. 3:150-158 (2004)参照)。これらの乳児の大部分は、相当の認知及び運動障害をもって生きている(Barker, Ann Med. 31: Suppl 1:3-6 (1999)参照)。全ての原因による新生児脳症は、出生数1000当たり1〜6で起こっている(例えば、米国産科婦人科学会のウェブサイト:www.acog.org.参照)。分娩時新生児仮死のリスクは全出生数の2.5%と推定されている(Heinonenら、BJOG 109: 261-264 (2002)参照)。この多数の乳児のうち、より少数の乳児が運動及び認知障害を伴う脳損傷を生じるほど重大なHI脳症を経験する。米国において1000人に1〜2人が脳性麻痺又は慢性の非進行性運動障害を患っている。これらの患者の約6%はHI損傷に関連する出生時損傷によってその障害を受けている(例えば、NINDSウェブサイトwww.ninds.nih.gov参照)。
【0005】
HI損傷を有する満期産児の現在の全体的な臨床転帰は芳しいものではない。HI損傷を患う全満期新生児のうち10%は死亡し、30%は永久に神経学的障害を有する(Volpe, NEUROLOGY OF THE NEWBORN, 4th Ed., W.B. Saunders, Philadelphia (2001)参照)。最近公表されたフェーズI低体温法試験、満期産児における低酸素性−虚血性脳症のための低体温法の無作為化比較試験の対照群から得られた統計では、さらに高い死亡率であることがわかり、37%の新生児が死亡し、25%が神経学的障害を有した(Shankaranら、N Engl J Med. 353: 1574-1584 (2005)参照)。
【0006】
支持療法以外に、HI損傷の治療は制限されている。全身低体温法が新生児HIの治療におけるフェーズI多施設臨床試験において安全かつ有益であることが報告された。しかしながら、治療の有効性は、生後わずかの期間に限定されるようである(Shankaran (2005)前掲参照)。
【0007】
現在、治療の不在、罹患者数と、生活のためのケア及びリハビリを促進するために必要なコストも相まって、HI損傷は重大で満たされていない医療ニーズとなっている。同様に、脳組織、特に脳皮質組織に対するダメージ、例えば低酸素、梗塞から生じるものなど、並びに他の損傷及び/又は傷害、例えば、HI脳損傷、脳卒中及び/又は卒中を生じる及び/又はそれに関連する虚血及び/又は壊死などの虚血及び/又は壊死をもたらす損傷などを特徴とする種々の他の症状にも同じことがいえる。従って、これらの、関連する及び類似の損傷、病理及び疾患の治療のための改善された方法のニーズがある。
【0008】
この目的で幹細胞を使用することが最近注目されている。この分野でいくつかの有望な観察結果がある。最近、種々の幹細胞が単離され特性決定されている。これらは、非常に限定された分化能や培養で増殖する限定された能力を有するものから、明らかに無制限の分化能や培養で増殖する無制限の能力を有するものにわたる。前者は一般に入手が容易で、種々の成体組織から得られる。後者は生殖細胞や胚から得る必要があり、胚幹(ES)細胞、胚生殖(EG)細胞、及び生殖細胞と呼ばれる。胚幹(ES)細胞は無制限の自己再生能を有し、すべての種類の組織に分化することができる。ES細胞は胚盤胞の内細胞塊から得られる。胚生殖(EG)細胞は、卵着床後の胚の始原生殖細胞から得られる。成体組織から得られる幹細胞は免疫原性で、分化能力が限定されており、かつ培養で増幅する能力が限定されているため、価値が限定されている。ES細胞、EG細胞、及び生殖細胞はこれらの欠点が無いが、同種異系宿主で奇形腫を生成する顕著な傾向があり、医療での使用には当然懸念される。このため、その有利な広い分化能にもかかわらず、臨床用途での有用性には悲観的である。胚由来の幹細胞も疾患治療への使用を妨げ得る倫理的議論がある。
【0009】
ES細胞、EG細胞、及び生殖細胞の代わりを見出す試みは、成体組織由来の細胞に焦点を当てている。哺乳動物のほとんどの組織で成体幹細胞が同定されているが、その分化能は限定されており、ES細胞、EG細胞、及び生殖細胞の分化能よりかなり狭い。実際、多くのそのような細胞は、1又は数種の分化細胞型を生じることができるが、他の多くは単一の胚系統に限定される。例えば、造血幹細胞は分化して造血系細胞のみを生成することができ、神経幹細胞は神経外胚葉起源の細胞のみに分化し、間葉幹細胞(MSC)は間葉起源の細胞(中胚葉細胞型)に限定される。したがって、これらの幹細胞型は、本質的にその治療への利用可能性に制限がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、皮質梗塞、HI損傷及び他の疾患の治療に使用することができる幹細胞であって、ES細胞、EG細胞、及び生殖細胞の自己再生能と分化能とを有するが免疫原性ではなく;宿主に同種移植又は異種移植したとき奇形腫を生成せず;ES細胞、EG細胞及び生殖細胞に関連する他の安全性の問題を生じず;ES細胞、EG細胞及び生殖細胞の他の利点を保持し;容易に入手できる供給源(例えば、胎盤、臍帯、臍帯血、血液、及び骨髄)から単離し易く;長期間にわたり安全に保存でき;容易に得られ、かつ志願者、ドナー又は患者、及び承諾した他の者にリスクが無く;そして、ES細胞、EG細胞及び生殖細胞を得る際及びこれらを扱う際に関連する技術的かつロジスティックな困難性を伴わない、幹細胞についてのニーズがある。
【0011】
本明細書中で多能性成体前駆細胞(MAPCs)と称するある種の細胞が単離され、特徴付けられている(例えば、米国特許第7,015,037号参照、これは参照によりその全体を本明細書に組み込まれる)。(「MAPCs」はまた「MASCs」とも呼ばれていた)。これらの細胞は、ES細胞、EG細胞、及び生殖細胞の利点の多くを提供し、かつこれらの欠点の多くが無い。例えばMAPCsは分化能を消失することなく無限に培養することができる。MAPCsは、NOD−SCIDマウスで効率的な長期の生着、及び複数の発生系統に沿った分化を、奇形腫を生成する証拠(ES細胞、EG細胞、及び生殖細胞でしばしば見られる)なく示す(Reyes, M. and C.M. Verfaillie Ann NY Acad Sci. 938: 231-5 (2001))。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、いくつかの実施形態において、本発明は、脳損傷、機能不全、障害及び/又は疾患に罹患している被験体に、(i)胚幹細胞、胚生殖細胞、及び生殖細胞ではなく、(ii)内胚葉性、外胚葉性及び中胚葉性の胚系統の少なくとも2種それぞれの少なくとも1種の細胞型に分化することができる細胞(MAPCs)を投与することにより、(b)補助的な免疫抑制処置を行う又は行わない、脳損傷、機能不全、障害又は疾患の治療方法を提供する。
【0013】
実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、大脳の損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。実施形態において、これは大脳皮質における及び/又はこれの損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。実施形態において、これは、海馬における及び/又はこれの損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。実施形態において、これは、脳の皮質(脳の皮質領域とも称される)における及び/又はこれの損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。
【0014】
前述したそれぞれ及び全てに関する実施形態において、特に、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、酸素不足に伴う及び/又はこれにより生じる損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、低酸素により生じる。これに関する実施形態において、低酸素は局所性である。これに関する実施形態において、低酸素はびまん性である。これに関する実施形態において、疾患は低酸素性虚血性脳損傷である。
【0015】
上述に関するさらなる実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、不十分な血液供給に伴う及び/又はこれにより生じる損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、動脈又は静脈の狭窄又は閉塞、例えば限定されるものではないが、血栓又は塞栓により生じる閉塞などにより生じる。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、梗塞及び/又は虚血に伴う及び/又はこれにより生じるものである。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、壊死に伴う及び/又はこれにより生じるものである。これに関する実施形態において、梗塞は皮質梗塞である。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、卒中である。
【0016】
本発明の実施形態において、前記細胞(MAPCs)は単独で使用される。実施形態において、前記細胞は、一次治療様式として他の治療薬とともに使用される。実施形態において、前記細胞は単独の治療薬として使用される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、1又はそれ以上の他の治療薬と共に使用される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、1又はそれ以上の一次治療様式において、単独で又は1若しくはそれ以上の他の治療薬と共に使用される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、1又はそれ以上の補助的治療様式において、単独で又は1若しくはそれ以上の他の治療薬と共に使用される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、1又はそれ以上の一次治療様式及び1又はそれ以上の補助的治療様式において、単独で又は1若しくはそれ以上の他の治療薬と共に使用される。
【0017】
いくつかの態様及び実施形態における本発明について、さらに以下の番号を付した段落で例示的に説明する。以下の段落は、本発明の例示であって限定するものではなく、本発明の完全な理解は、提供される本明細書の全文、全図面、要約書を含む本開示の全体を読み、本発明に関連する技術分野の当業者の視点からかつ当業者の知識及び経験に基づいて、例示的に本明細書に記載されたものから本発明を解釈することによってのみ達成されうる。
【0018】
番号を付した段落で記載される「上記又は下記のいずれかに記載の」という表現は、個々に他の番号を付した段落の任意の1以上の発明とそれぞれ組み合わせることが可能な段落の発明を意味する。これに関して、以下の段落は、そこに記載される発明のそのような全ての組合せに関して特許請求の範囲を明らかに支持するものである。特定の場合には、番号を付した段落の発明は、異なる番号を付した段落の発明との組合せから排除されているときに、この排除は、「番号(この番号は排除される段落を示す)以外の上記又は下記のいずれかに記載の」という表現で表される。
【0019】
1.被験体における脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患の治療方法であって、脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患に罹患する可能性があるか、罹患しているか又は罹患した被験体に、該脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患を治療するのに有効な経路と有効な量で、細胞(MAPCs)を投与することを含み、該細胞は、胚幹細胞、胚生殖細胞又は生殖細胞ではなく、内胚葉性、外胚葉性及び中胚葉性の胚系統の少なくとも2種それぞれの少なくとも1種の細胞型に分化することができるものである、前記方法。
【0020】
2.被験体が、前記細胞による処置に補助的に免疫抑制療法で処置されていない、60〜65以外の上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0021】
3.脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患が低酸素により生じたものである、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0022】
4.脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患が、脳への血液供給の閉鎖又は閉塞により生じたものである、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0023】
5.脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患が梗塞である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0024】
6.脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患が皮質梗塞である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0025】
7.脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患が卒中である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0026】
8.脳損傷及び/又は脳機能不全及び/又は脳障害及び/又は脳疾患が低酸素性虚血性脳損傷である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0027】
9.細胞が被験体において免疫原性ではない、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0028】
10.細胞が、内胚葉性、外胚葉性、及び中胚葉性の胚系統それぞれの少なくとも1種の細胞型に分化することができる、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0029】
11.細胞がテロメラーゼを発現する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0030】
12.細胞がoct−3/4について陽性である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0031】
13.細胞が、被験体への投与の前に培養で少なくとも10〜40回の細胞倍加を受けている、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0032】
14.細胞が哺乳動物細胞である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0033】
15.細胞が、ヒト、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラット、又はマウス細胞である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0034】
16.細胞が、ヒト、ラット、又はマウス細胞である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0035】
17.細胞がヒト細胞である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0036】
18.細胞が、胎盤組織、臍帯組織、臍帯血、骨髄、血液、脾臓組織、胸腺組織、脊髄組織、脂肪組織、及び肝臓組織のいずれかから単離された細胞に由来する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0037】
19.細胞が、胎盤組織、臍帯組織、臍帯血、骨髄、血液、及び脾臓組織のいずれかから単離された細胞に由来する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0038】
20.細胞が、胎盤組織、臍帯組織、臍帯血、骨髄、又は血液のいずれかから単離された細胞に由来する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0039】
21.細胞が、骨髄又は血液のいずれか1つ以上から単離された細胞に由来する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0040】
22.細胞が被験体に対して同種異系である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0041】
23.細胞が被験体に対して異種である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0042】
24.細胞が被験体に対して自家である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0043】
25.被験体が哺乳動物である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0044】
26.被験体が、哺乳動物のペット動物、哺乳動物の家畜動物、哺乳動物の研究動物、又は非ヒト霊長類である、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0045】
27.被験体がヒトである、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0046】
28.細胞が、被験体の質量1kgあたり10〜10個の細胞を含む単回又は複数回用量で被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0047】
29.細胞が、被験体の質量1kgあたり10〜10個の細胞を含む単回又は複数回用量で被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0048】
30.細胞が、被験体の質量1kgあたり5×10〜5×10個の細胞を含む単回又は複数回用量で被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0049】
31.細胞が、被験体の質量1kgあたり2×10〜4×10個の細胞を含む単回又は複数回用量で被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0050】
32.細胞に加えて、1又はそれ以上の因子を被験体に投与する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0051】
33.細胞に加えて、1又はそれ以上の増殖因子、分化因子、シグナル伝達因子、及び/又はホーミングを増加させる因子を被験体に投与する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0052】
34.細胞に加えて、1又はそれ以上のサイトカインを被験体に投与する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0053】
35.細胞が、該細胞の投与前、同時、又は後に施行される別の処置に対して補助的に被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0054】
36.さらに1又はそれ以上の抗生剤を被験体に投与する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0055】
37.さらに1又はそれ以上の抗菌剤を被験体に投与する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0056】
38.さらに1又はそれ以上の抗ウイルス剤を被験体に投与する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0057】
39.抗生剤及び/又は抗菌剤及び/又は抗ウイルス剤の2又はそれ以上の任意の組合せをさらに被験体に投与する、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0058】
40.細胞が、1又はそれ以上の他の医薬活性物質を含む製剤で投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0059】
41.細胞が、1又はそれ以上の抗生剤を含む製剤で投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0060】
42.細胞が、1又はそれ以上の抗菌剤を含む製剤で投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0061】
43.細胞が、1又はそれ以上の抗ウイルス剤を含む製剤で投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0062】
44.細胞が、非経口経路により被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0063】
45.細胞が、次の非経口経路、すなわち静脈内、動脈内、心臓内、脊髄内、くも膜下内、骨内、関節内、滑液包内、皮内(intracutaneous)、皮内(intradermal)、皮下、及び筋肉内注射のいずれか1以上により被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0064】
46.細胞が、次の非経口経路、すなわち静脈内、動脈内、皮内(intracutaneous)、皮内(intradermal)、皮下、及び筋肉内注射のいずれか1以上により投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0065】
47.細胞が、次の非経口経路、すなわち静脈内、動脈内、皮内(intracutaneous)、皮下、及び筋肉内注射のいずれか1以上により投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0066】
48.細胞が、注射器により皮下注射針を介して被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0067】
49.細胞が、カテーテルを介して被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0068】
50.細胞が、外科的移植により投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0069】
51.細胞が、関節鏡視下の処置を用いた移植法により被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0070】
52.細胞が、定位注入により被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0071】
53.細胞が、支持体内又は支持体上で存在させて被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0072】
54.細胞が、封入(カプセル化)形態で被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0073】
55.細胞が、次の経路、すなわち経口、直腸、経皮、眼内、鼻内、及び肺内のいずれか1以上による投与に適するように製剤化される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0074】
56.細胞が、単回用量で被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0075】
57.細胞が、2回またはそれ以上の用量系列で連続して被験体に投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0076】
58.細胞が、単回用量で、2回用量で、または3回以上の用量で投与され、その用量は同じか又は異なり、等しい間隔又は等しくない間隔で投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0077】
59.細胞が、1日未満〜1週間、1週間〜1ヶ月、1ヶ月〜1年、1年〜2年、又は2年より長い期間にわたって投与される、上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0078】
60.被験体が、前記細胞による処置に加えて、1又はそれ以上の免疫抑制剤による処置を受けていた、受ける予定である又は受けているものである、2以外の上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0079】
61.被験体が、前記細胞による処置に加えて、1又はそれ以上のコルチコステロイド、シクロスポリンA、シクロスポリン様免疫抑制剤、シクロホスファミド、抗胸腺細胞グロブリン、アザチオプリン、ラパマイシン、FK−506、及びFK−506以外のマクロライド様免疫抑制剤、並びに免疫抑制モノクローナル抗体薬剤(すなわち、免疫抑制剤は、免疫抑制モノクローナル抗体であるか、又はモノクローナル抗体全体、若しくは1以上の部分、例えばモノクローナル抗体のFc若しくはAg結合部位を含むキメラタンパク質などを含む薬剤である)による処置を受けていた、受ける予定である又は受けているものである、2以外の上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0080】
62.被験体が、前記細胞による処置に加えて、1又はそれ以上のコルチコステロイド、シクロスポリンA、アザチオプリン、ラパマイシン、シクロフォスファミド、FK−506、又は免疫抑制モノクローナル抗体薬剤による処置を受けていた、受ける予定である又は受けているものである、2以外の上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0081】
63.細胞が、1又はそれ以上の他の免疫抑制剤を含む製剤で投与される、2以外の上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0082】
64.細胞が、1又はそれ以上のコルチコステロイド、シクロスポリンA、シクロスポリン様免疫抑制剤、シクロホスファミド、抗胸腺細胞グロブリン、アザチオプリン、ラパマイシン、FK−506、及びFK−506以外のマクロライド様免疫抑制剤、並びに免疫抑制モノクローナル抗体薬剤を含む製剤で投与される、2以外の上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0083】
65.細胞が、1又はそれ以上のコルチコステロイド、シクロスポリンA、アザチオプリン、シクロホスファミド、ラパマイシン、FK−506、及び免疫抑制モノクローナル抗体薬剤を含む製剤で投与される、2以外の上記又は下記のいずれかに記載の方法。
【0084】
用語の説明
通常、本明細書で使用する用語及び表現は、当該分野で確立されている意味に従うものとする。しかし、不明確となる可能性を避けるため、本明細書で使用するいくつかの用語及び表現の意味を以下に記載する。
【0085】
「A」又は「a」は、1又はそれ以上で、すなわち、少なくとも1を指す。
【0086】
「補助的」は、共同で、一緒に、加えて、組合せてなどを意味する。
【0087】
「脳梗塞(cerebral infarct, cerebral infarction)」は、大脳への又はそれを介した血流の閉塞(obstruction)によって引き起こされる大脳の虚血状態を意味する。脳梗塞は典型的に、この閉塞に起因する血流の損失によって酸素が枯渇した組織の壊死に至る。脳梗塞は永久的な局所性神経学的欠損を生じることも多い。
【0088】
「脳血管障害」は、卒中と同じ意味である。
【0089】
「脳虚血」とは、大脳への血流が正常な神経機能の維持に必要な最小値未満に低下した場合に起こる状態を意味する。脳虚血は、頸動脈狭窄、脳底動脈狭窄、椎骨動脈狭窄及び脳閉塞症によって生じることが多い。また、モヤモヤ病及び高安動脈炎により生じることもある。
【0090】
「共投与する」は、2またはそれ以上の作用物質の同時又は連続的投与を含むことができる。
【0091】
「皮質」とは、器官の外側部分又は器官の一部などを指す。例えば、大脳の外側部分は大脳皮質と呼ばれる。ヒトの大脳皮質は2〜4mm(0.08〜0.16インチ)の厚さであり、多くの複雑な脳機能において中心的な役割を果たしている。ヒト大脳皮質の表面はひだ状であり、皮質表面の3分の2を超える部分が、「溝(sulci)」と呼ばれるこのひだの溝に存在する。大脳皮質の系統学的に古い部分は海馬と呼ばれる。より近年になって進化した部分は新皮質と呼ばれる。
「皮質梗塞」とは、脳の皮質への血液供給の損失に伴う梗塞、典型的には大脳への血液供給の損失に伴う梗塞を指す。皮質梗塞は脳梗塞とほぼ同じ意味を有する。
【0092】
「サイトカイン」は、MAPCs、又は他の幹細胞、前駆細胞、若しくは分化した細胞の、ホーミングなどの細胞挙動を誘導又は増強する細胞因子を指す。サイトカインはまた、そのような細胞が分裂するように刺激し得る。
【0093】
「有害な」とは害があることを意味する。例えば、本明細書において「有害な免疫応答」とは、害がある免疫応答、例えば欠如しているか若しくは弱過ぎる免疫応答、強すぎる免疫応答、及び/又は標的を誤った免疫応答を意味する。また有害な免疫応答には、医療処置を妨害する免疫応答(正常な免疫応答を含む)がある。例としては、移植物及び移植片の拒絶、移植片対宿主病を引き起こす移植物及び移植片における免疫担当細胞の応答などがある。
【0094】
「分化因子」とは、系統の決定を誘導する細胞因子(例えば増殖因子)を指す。
【0095】
「機能不全」は、本明細書において、障害、疾患、又は正常なプロセスによる有害作用を意味する。例えば、皮質梗塞及び酸素不足(低酸素症)は、虚血性損傷などの又はそれを導く機能不全を引き起こす可能性がある。他の機能不全には、例えば、通常は免疫抑制処置によって治療する必要のある、移植や移植片の拒絶に関与する免疫応答、及び移植片対宿主病を引き起こす移植や移植片における免疫担当細胞の応答などがある。
【0096】
「EC細胞」は胚癌細胞を指す。
【0097】
「有効量」、「有効用量」などは一般に、所望の局所的又は全身的効果を与える量を意味する。例えば有効量は、有益な又は所望の臨床結果を実現するのに十分な量である。有効量は、全てを単回の投与で一度に提供することもできるし、又は数回の投与で有効量を提供する分割量で提供することもできる。例えば、MAPCsの有効量は単回又は複数回で投与することができ、あらかじめ選択された任意の量の細胞を含むことができる。有効量とみなされる量の正確な決定は、各被験体に対する個々の要因(その大きさ、年齢、損傷を含む)、及び/又は治療対象の疾患又は損傷、並びに損傷が発生してから又は疾患が始まってからの時間を基礎とすることができる。当業者は所与の被験体についての有効量を、当該分野で慣用的であるこれらの検討事項に基づいて決定できるであろう。すなわち、例えば当業者(例えば医師)は、本明細書に開示の及び当該分野におけるMAPCsの既知の性質に基づいて、前記要因を考慮しながら、所与の被験体のMAPCsの有効量を決定できるであろう。本明細書で使用する「有効用量」は、「有効量」と同じことを意味する。
【0098】
一般的には、本明細書における用語「有効な」とは、ある点では改善された予後及び/又は良好な患者の状態でありうる、所望の結果を達成するために十分であることを意味する。これは、損傷、機能不全、障害又は疾患の改善又は治癒を意味することもある。脳の損傷、機能不全、障害又は疾患の場合には、例えば、有効用量は、所望の神経学的結果、例えばその「有効」量による治療がない場合に生じうる細胞損傷を低減すること、さらなる細胞損傷を途絶えさせること、及び/又は細胞損傷を逆転させることなど、を達成するものである。本明細書において「有効」とはまた、臨床結果、例えば神経機能のさらなる低下がないこと及び/又は神経機能の改善などによって定義することができる。これに関して神経機能の改善は、担当者によりこの目的のために使用される種々の試験及び尺度の任意のものによって判定することができる。
【0099】
他の損傷、機能不全、障害及び疾患に関する有効用量及び量についてもほぼ同じことがいえる。
【0100】
「EG細胞」は胚生殖細胞を指す。
【0101】
「生着」は、目的の既存の組織にin vivoで細胞を接触及び組み込むプロセスを指す。
【0102】
「富化集団」は、開始集団中の他の細胞又は成分と比較したMAPCsの数の相対的増加、例えば培養物(例えば初代培養物など)又はin vivoにおける1以上の非MAPC細胞型と比較したMAPCsの数の増加を意味する。
【0103】
「ES細胞」は胚幹細胞を指す。
【0104】
「増大(増幅)」は、分化を伴わない細胞(1又は複数)の増殖を指す。
【0105】
「GVHD」は移植片対宿主病を指し、これは、移植片の免疫担当細胞により非自己として認識されるとき、主に免疫不全宿主で起こるプロセスを意味する。
【0106】
「HVG」は、宿主対移植片反応を指し、これは、宿主が移植片を拒絶するときに起こるプロセスを意味する。典型的には、HVGは、移植片が宿主の免疫担当細胞により外来(非自己)として認識されるときに誘発される。
【0107】
「低酸素」とは酸素不足を意味する。神経学的には、これは、血液の十分な供給にもかかわらず生じる可能性のある脳への酸素の低減を意味する。低酸素は、息詰まり、絞殺、窒息、頭部外傷、一酸化炭素中毒、心停止から、一般的な麻酔の合併症として、そして血流閉鎖(occlusion)又は閉塞(blockage)から生じうる。脳低酸素は、細胞損傷及び細胞死を生じる事象のカスケードに導く。脳低酸素/虚血は、心血管ポンプ機能系又は呼吸系に影響を及ぼす広範囲の疾患により生じることがある。脳低酸素/虚血は、4つのタイプ、すなわち局所性脳虚血、全脳虚血、びまん性脳低酸素、及び脳梗塞に分類される。
【0108】
局所性脳虚血(FCI)は、罹患領域の血流を低減する脳内の血餅により生じる。FCIの重症度は多様であり、感受性ニューロンに不可逆性の損傷を生じることがある。全脳虚血(GCI)は、脳への血流を遮断する心室細動又は心停止により生じる。5〜10分を超えて持続するGCIからの回復は問題がある。より長時間のGCIは一般的に致命的である。びまん性脳低酸素(DCH)は、血液酸素化の欠損により生じ、典型的には軽度から中程度の低酸素血症に至る。純粋なDCHは脳機能不全を引き起こすが、不可逆性の脳損傷には至らない。これは、肺疾患、高山病又は重症な貧血によって生じうる。脳梗塞(CI)は、壊死を引き起こす脳領域における局所性血管閉塞から生じる。
【0109】
「梗塞(infarct)」、「梗塞(infarction)」とは、通常血栓又は塞栓により引き起こされる虚血(血流の閉塞)から生じる組織における壊死の領域を指す。これはまた、通常血栓又は塞栓により引き起こされる、虚血を生じる血流の閉塞を指す。
【0110】
「免疫抑制」とは、被験体における免疫応答、例えば外来抗原(同種異系又は異種の細胞又は組織)に対する免疫応答などを防止、抑制及び/又は逆転することを指す。いくつかの事例では、例えば、細胞又は器官の移植体を用いた被験体の治療の所望の臨床結果に対して有害となりうる被験体の免疫応答を抑制するために免疫抑制処置が必要である。
【0111】
「虚血」とは、典型的にはその閉鎖血管が酸素を供給する組織に対する機能不全又は損傷を生じる血管閉鎖による、血液の供給の制限を指す。虚血はまた、血管の収縮又は閉塞により生じる、身体の一部への不十分な血流を指す。脳組織における虚血は、タンパク質分解酵素、活性酸素種、及び脳組織に損傷を与えて最終的に死滅させうる他の物質を放出するカスケード(虚血性カスケードとも称する)を開始する。
【0112】
「単離された」とは、1又はそれ以上の細胞と会合していないか、あるいはin vivo又は一次培養で細胞(1又は複数)と会合している1又はそれ以上の細胞成分と会合していない細胞(1又は複数)を指す。
【0113】
「MAPC」は、「多能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cell)」の頭文字を取ったものである。これは、2つ以上の胚葉、例えば3種すべての胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)の細胞系統を生じることができる非ES細胞、非EG細胞、非生殖細胞を指す。MAPCsはまたテロメラーゼ活性を有する。これらはoct−3/4(例えばヒトoct−3/4)について陽性であり得る。MAPCsはまた、rex−1、rox−1、sox−2、SSEA−4、及び/又はnanogの1以上を発現し得る。MAPC中の用語「成体」は限定的ではない。これは、単に、これらの細胞がES細胞、EG細胞、又は生殖細胞ではないことを意味するものである。本明細書で使用するように、典型的には、MAPCは単数であり、MAPCsは複数である。MAPCsはまた、多能性成体幹細胞(MASCs)とも呼ばれる。例えば米国特許第7,015,037号(これは、MAPCs/MASCsの単離及び増殖について開示された方法として、参照により本明細書に組み込まれる。この方法は、本発明において有用な方法の例及び例示にすぎず、限定するものではない)を参照されたい。
【0114】
「MASC」、MAPCを参照されたい。
【0115】
「MNC」は単核細胞を指す。
【0116】
「様式(modality)」は、種類、手法、手段、又は方法、例えば治療様式は、治療法の種類を意味する。
【0117】
「MSC」は、間葉性幹細胞の頭文字を取ったものである。
【0118】
MAPCsについて「多能性」は、分化により2種以上の胚葉、例えば3種すべての胚葉(すなわち内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)の細胞系統を生じる能力を指す。
【0119】
「存続・持続(persistence)」は、細胞が拒絶に抵抗し、in vivoで長期的(例えば、数日、数週間、数ヶ月、若しくは数年)に数を維持する及び/又は増加する能力を指す。
【0120】
「一次培養物」とは、継代培養前の、生物由来の材料の組織片から直接得られる細胞集団を指す。典型的に、一次培養物は、(a)生物からの組織の単離、(b)組織の解剖及び/又は解離、並びに(c)組織由来の細胞を、培地に懸濁するか又はより典型的には培養容器の表面に付着させて増殖を開始させること、によって確立する。一次培養物は、組織片の細胞の継代培養、例えば細胞を分裂させて希釈し、それを新鮮な培地及び/又は新鮮な培養容器に再度植えることなどを含むものではなく、それに先立つものである。典型的には、付着した細胞の一次培養物は、細胞を組織の断片から適当な基板に移して付着させるか、又は組織を機械的若しくは酵素的に解離させて細胞懸濁液を得て、続いてその一部が基板に付着するようにすることによって得られる。
【0121】
多能性成体前駆細胞(MAPCs)で使用される「前駆」は、これらの細胞が他の細胞(例えばさらに分化した細胞)を生じることができることを指す。この用語は限定的ではなく、これらの細胞を特定の系統に限定するものではない。
【0122】
「自己再生」とは、元々の細胞と同一の分化能を有する娘幹細胞を産生(複製)する能力を指す。この関連で使用される同様の用語は「増殖」である。
【0123】
「卒中」は、急性の神経損傷である。これは、脳の血液かん流を阻害(梗塞)し、典型的には中断する、脳への血液供給の途絶によって、80%の症例(虚血性卒中と称する)で生じる。この中断は、動脈血流における途絶によって生じるうるが、静脈血流における途絶によって生じることもある。かん流が阻害された脳の部分は、十分な酸素を受容することができず、細胞損傷及び細胞死を生じる。この結果が卒中である。
【0124】
卒中はまた、一過性の神経学的障害、持続的な障害又は死に至ることがある。障害は、局所性又は全身性である。虚血性卒中は一般的に、血栓性脳卒中、塞栓性脳卒中、全身血流低下(分水嶺卒中若しくは境界域卒中)、又は静脈血栓症に分類される。血栓性卒中は、通常はアテローム斑を含む、血栓による動脈の狭窄によって生じる。塞栓性卒中は、塞栓、最も高頻度には血餅による動脈閉塞から生じる。
【0125】
「被験体」は、脊椎動物、例えば哺乳動物、例えばヒトである。哺乳動物は、特に限定されないが、ヒト、家畜、競技動物、及びペットなどを含む。本発明の方法により治療が必要な被験体は、障害、機能不全、又は疾患(例えば、皮質梗塞、及び/又は低酸素性虚血性脳損傷)、あるいはこれらの又はその治療の副作用を患っており、一次治療又は補助的治療としてのMAPCsの投与から利益を受けることができる被験体を含む。
【0126】
本明細書で使用する「移植」は、被験体に細胞、組織、又は臓器を導入することを意味する。移植物は、被験体から、培養物から、又は非被験体供給源から得ることができる。
【0127】
「治療する」、「治療している」、「治療」などは、患者の、特に障害又は疾患の対処に関して、管理及びケアすることに関し、例えば限定されるものではないが、不全、機能不全、障害若しくは疾患、又は有害作用を有する他のプロセスを、予防、改善、阻害、及び/又は治癒する(例えば損傷、機能不全、障害又は疾患に対処する、これを予防する、改善する、阻害する及び/又は治癒するなど)ことを含む。
【0128】
「療法」は、治療と同義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0129】
本明細書において、本発明の特定の態様及び実施形態にしたがって記載するように、MAPCsは、脳損傷、機能不全、障害及び/又は疾患、例えば限定されるものではないが、皮質梗塞及び低酸素性虚血性脳損傷などを治療するために、補助的な免疫抑制処置を行って及び行わずに、用いることができる。
【0130】
本発明の種々の実施形態は、脳の損傷、機能不全、障害及び/又は疾患を防止する、予防する、対処する、改善する、緩和する、低減する、最小限にする、排除する及び/又は治癒するなどのためにMAPCsを用いる方法を提供する。実施形態において、これは、脳の皮質(脳の皮質領域とも称される)における及び/又はこれの損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。実施形態において、これは、大脳における及び/又はこれの損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。実施形態において、これは大脳皮質における及び/又はこれの損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。実施形態において、これは、海馬における及び/又はこれの損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。
【0131】
前述したそれぞれ及び全てに関する実施形態において、特に、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、酸素不足に伴う及び/又はこれにより生じる損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、低酸素により生じる。これに関する実施形態において、低酸素は局所性である。これに関する実施形態において、低酸素はびまん性である。これに関する実施形態において、疾患は低酸素性虚血性脳損傷である。
【0132】
上述に関するさらなる実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、不十分な血液供給に伴う及び/又はこれにより生じる損傷、機能不全、障害及び/又は疾患である。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、動脈又は静脈の狭窄又は閉塞、例えば限定されるものではないが、血栓又は塞栓により生じる閉塞などにより生じる。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、梗塞及び/又は虚血に伴う及び/又はこれにより生じるものである。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、壊死に伴う及び/又はこれにより生じるものである。これに関する実施形態において、梗塞は皮質梗塞である。これに関する実施形態において、損傷、機能不全、障害及び/又は疾患は、卒中である。
【0133】
実施形態は、これに関して補助的な免疫抑制処置及び/又は療法とともにMAPCsを用いる方法を提供する。また実施形態は、これに関して免疫抑制処置を行わずにMAPCsを用いる方法を提供する。
【0134】
したがって、いくつかの本発明の実施形態において、本発明は、(i)胚幹細胞、胚生殖細胞、及び生殖細胞ではなく;(ii)内胚葉性、外胚葉性及び中胚葉性の胚系統の少なくとも2種それぞれの少なくとも1種の細胞型に分化することができ;そして(iii)脳の損傷及び/又は機能不全及び/又は障害及び/又は疾患の治療に有効である細胞、を提供する。
【0135】
実施形態において、脳の損傷及び/又は機能不全及び/又は障害及び/又は疾患は、酸素不足に伴う及び/又はこれにより生じるものである。実施形態において、これは、低酸素により生じる又はこれに伴うものである。実施形態において、これは、血液供給の狭窄又は閉塞により生じる又はこれに伴うものである。実施形態において、これは梗塞及び/又は虚血である又はこれに伴うものである。実施形態において、これは卒中である。実施形態において、これは低酸素性虚血性脳損傷である。実施形態において、これは皮質梗塞である又はこれに伴うものである。
【0136】
この関連で、本発明の実施形態において、前記細胞は、一次治療様式として単独で又は他の治療薬や治療様式とともに使用される。本発明のいくつかの実施形態において、前記細胞は単独の治療薬として又は他の治療薬と一緒に使用される。本発明のいくつかの実施形態において、前記細胞は、1又はそれ以上の一次治療様式及び1又はそれ以上の補助的治療様式の両方において、単独で、又は他の治療薬若しくは治療様式と共に使用される。
【0137】
MAPCs
本発明において細胞は本明細書においてさらに詳細に説明され、本明細書において一般に「多能性成体前駆細胞」、及び頭文字を取って「MAPC」(しばしば複数で「MAPCs」が用いられる)と称される。これらの細胞はES細胞、EG細胞、及び生殖細胞ではなく、かつ3種の原始胚葉系統(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)の少なくとも2種の細胞型、例えば3種すべての原始系統の細胞に、分化する能力を有すると理解される。
【0138】
MAPCsは、例えば特に以下の細胞を生成することができる:内臓板中胚葉細胞、筋肉細胞、骨細胞、軟骨細胞、内分泌細胞、外分泌細胞、内皮細胞、毛髪形成細胞、歯形成細胞、臓側中胚葉細胞、造血細胞、間質細胞、骨髄間質細胞、神経細胞、神経外胚葉細胞、上皮細胞、眼細胞、膵細胞、及び肝細胞様細胞、並びに同じ系統の細胞など。例えば、MAPCsにより形成される細胞には、骨芽細胞、軟骨芽細胞、脂肪細胞、骨格筋細胞(skeletal muscle cell)、骨格筋細胞(skeletal myocyte)、胆管上皮細胞、膵腺房細胞、メサンギウム細胞、平滑筋細胞、心筋細胞(cardiac muscle cell)、心筋細胞(cardiomyocyte)、骨細胞、血管形成細胞、乏突起神経膠細胞、ニューロン(セロトニン作動性、GABA作動性、ドパミン作動性ニューロンを含む)、グリア細胞、小グリア細胞、膵上皮細胞、消化管上皮細胞、肝上皮細胞、皮膚上皮細胞、腎(kidney)上皮細胞、腎(renal)上皮細胞、膵島細胞、繊維芽細胞、肝細胞、及び上記と同じ系統の他の細胞などがある。
【0139】
MAPCsは、自己再生に及び複製老化を回避するために必要なテロメラーゼ活性を有する。一般にこれらはまたoct−3/4を発現する。oct−3/4(ヒトのoct−3A)は、本来ES細胞、EG細胞、及び生殖細胞に特異的である。これは、広い分化能力を有する未分化細胞のマーカーであると考えられている。oct−3/4はまた一般に、未分化状態で細胞を維持するのに役割を有すると考えられている。oct−4(ヒトのoct−3)は、原腸形成前の胚、初期卵割段階の胚、胚盤胞の内部細胞塊の細胞、及び胚性癌腫(「EC」)細胞で発現される転写因子であり(Nichols, J. et al. (1998) Cell 95: 379-91)、細胞が誘導されて分化するときにダウンレギュレートされる。oct−4遺伝子(ヒトのoct−3)はヒトで少なくとも2つのスプライス変異体(oct−3Aとoct−3B)に転写される。oct−3Bスプライス変異体は多くの分化細胞でみられるが、oct−3Aスプライス変異体(以前はoct−3/4と呼ばれた)は未分化胚幹細胞に特異的であると報告された。Shimozaki et al. (2003) Development 130: 2505-12を参照されたい。oct−3/4の発現は、胚形成と分化の初期段階を決定する上で重要な役割を果たす。oct−3/4はrox−1と一緒に、Zn−フィンガータンパク質rex−1(これもES細胞を未分化状態に維持するのに必要である)の転写活性化を引き起こす(Rosfjord, E. and Rizzino, A. (1997) Biochem.Biophys.Res.Com.203: 1795-802; Ben-Shushan, E. et al. (1998) Mol. Cell Biol. 18: 1866-78)。
【0140】
MAPCsはまた、他のマーカーを発現することがある。これらには、rex−1、rox−1、及びsox−2がある。rex−1はoct−3/4により制御され、これはrex−1の下流の発現を活性化する。rox−1とsox−2は非ES細胞で発現される。
【0141】
本発明のいくつかの実施形態において、MAPCsは、一次治療様式として1又はそれ以上の他の物質及び/又は治療様式とともに使用される。本発明のいくつかの実施形態において、前記細胞は補助的治療様式として、すなわち他の一次治療様式の補助として使用される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、補助的治療様式の単独の活性物質として使用される。別の実施形態では、前記細胞は、1又はそれ以上の他の物質又は治療様式とともに、補助的治療様式として使用される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、一次及び補助的治療薬及び/又は様式の両方として使用される。両者に関して、前記細胞は、一次及び/又は補助的様式において単独で使用することができる。前記細胞はまた、一次若しくは補助的様式又はその両方において、他の治療薬又は治療様式とともに使用することができる。
【0142】
上述したように、一次治療(例えば、治療薬、治療法、及び/又は治療様式)は、治療対象の主要な機能不全(例えば疾患)を標的とする(すなわち、それに対して作用させることが意図される)。補助的治療(例えば、治療法及び/又は治療様式)は、一次治療(例えば治療薬、治療法、及び/又は治療様式)と併用して施すことにより、主要な機能不全(例えば疾患)に作用し、一次治療の効果を補足し、その結果、治療レジメンの全体的な有効性を増大させることができる。補助的治療(例えば、治療薬、治療法及び/又は治療様式)をさらに施すことにより、主要な機能不全(例えば疾患)の合併症及び/又は副作用、並びに/あるいは治療(例えば、治療薬、治療法及び/又は治療様式)により引き起こされるものに作用させることができる。これらの使用のいずれかについて、1、2、3、またはそれ以上の一次治療は、1、2、3、またはそれ以上の補助的治療とともに使用することができる。
【0143】
いくつかの実施形態において、MAPCsは、機能不全(例えば疾患、及び/又は副作用)の開始前に被験体に投与される。実施形態において、この細胞は、機能不全が進行している間に投与される。いくつかの実施形態において、この細胞は、機能不全が確立された後に投与される。MAPCsは、機能不全の進行、存続、及び/又は増幅の任意の段階で、あるいは機能不全が後退した後に投与することができる。
【0144】
上述したように、本発明の実施形態は、一次治療法又は補助的治療法のための細胞と方法とを提供する。本発明の特定の実施形態において、この細胞は同種異系の被験体に投与される。いくつかの実施形態において、この細胞は被験体に対して自家(自己由来)である。いくつかの実施形態において、この細胞は被験体に対して同系である。いくつかの実施形態において、この細胞は被験体に対して異種である。同種異系であっても、自家であっても、同系であっても、又は異種であっても、本発明の種々の実施形態において、MAPCsは被験体においてほんの弱い免疫原性であるか又は非免疫原性である。実施形態において、MAPCsは十分に低い免疫原性を有するか又は非免疫原性であり、一般に有害な免疫応答は十分にはなく、同種異系の被験体に投与される場合に、これらは組織型判定や適合をすることなく「普遍的」ドナー細胞として使用することができる。本発明の種々の実施形態に従って、MAPCsは細胞バンクで保存し維持することができ、その結果、必要な時に利用できるように維持することができる。
【0145】
さらにこの点に関して、種々の実施形態においてMAPCsは、補助的な免疫抑制処置を行わずに投与することができる。
【0146】
これらの及び他のすべての関連で、本発明の実施形態は、哺乳動物(ある実施形態においてヒトを含む)由来のMAPC、及び他の実施形態で非ヒト霊長類、ラット及びマウス、並びにイヌ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、及びウシ由来のMAPCsを提供する。上述した哺乳動物から調製したMAPCsは、本明細書に記載した本発明の方法及び態様の全てで使用することができる。
【0147】
本発明の種々の実施形態においてMAPCsは、見出されているそのような哺乳動物の種々の区画や組織(特に限定されないが、骨髄、末梢血、臍帯血、血液、脾臓、肝臓、筋肉、脳、脂肪組織、胎盤及び他の後述のもの)から単離することができる。いくつかの実施形態においてMAPCsは使用前に培養される。
【0148】
いくつかの実施形態において、MAPCsは、免疫調節性を改善するために遺伝子操作される。いくつかの実施形態において、遺伝子操作されたMAPCsはin vitro培養で作製される。いくつかの実施形態において、遺伝子操作されたMAPCsはトランスジェニック生物から作製される。
【0149】
MAPCsの作用機構
MAPCsの性質、活性、及び作用についていずれか1以上の説明的機構に限定されることなく、MAPCsが種々の様式を介してMAPCsによる治療などの有益な影響を発揮することができることは注目に値する。例えば、MAPCsは直接的に有益な作用を有することができる。かかる直接的な作用は主に、MAPCsと宿主の細胞とが直接的に接触することである。接触は、細胞の構造メンバー又はこれらのすぐ近くの環境中の成分との接触でもよい。かかる直接的な機構は、直接的な接触、拡散、取り込み、又は当業者に周知の他のプロセスなどを含み得る。MAPCsの直接的な活性及び作用は、局所的沈着の領域又は注射により接触される身体区画などに、空間的に限定されることがある。
【0150】
MAPCsはまた、「ホーミング」シグナル(例えば損傷又は疾患の部位で放出されるシグナル)に応答して「帰巣する(home)」ことができる。ホーミングは、修復が必要な部位に細胞を動員する天然の機能を有するシグナルにより仲介されることが多いため、ホーミング挙動はMAPCsを治療標的に濃縮するための強力手段となる。この作用は、特異的な因子(後述)により刺激することができる。
【0151】
MAPCsはまた因子へのその応答によりMAPCsによる治療などの有益な影響を調節し得る。これは、直接的な調節に加えて又はその代わりに生じ得る。かかる因子には、ホーミング因子、分裂促進因子、及び他の刺激因子などが含まれ得る。これらにはまた、分化因子、及び特定の細胞プロセスを誘発する因子も含まれ得る。後者には、細胞に他の特異的因子(例えば、損傷又は疾患の部位に細胞、例えば幹細胞(MAPCsを含む)を動員する際に関与する因子)を分泌させる因子がある。
【0152】
上記に加えて又はその代わりに、MAPCsは、内因性細胞(例えば幹細胞又は前駆細胞)に作用する因子を分泌し得る。この因子は他の細胞に作用して、それらの活性を引き起こすか、増強するか、低下させるか、又は抑制し得る。MAPCsは、幹細胞、前駆細胞、分化細胞に作用してこれらの細胞を分裂及び/又は分化させる因子を分泌し得る。修復が必要な部位に帰巣するMAPCsは、その部位に他の細胞を誘引する栄養因子を分泌し得る。こうして、MAPCsは幹細胞、前駆細胞又は分化細胞を必要な部位に誘引し得る。MAPCsはまた、そのような細胞を分裂又は分化させる因子を分泌し得る。
【0153】
かかる因子(栄養因子を含む)の分泌は、MAPCsの効力(例えば、炎症性損傷を限定する、血管透過性を制限する、細胞生存を改善する、並びに損傷部位への修復細胞のホーミングを引き起こすか及び/又は増強する)に寄与することができる。かかる因子はまた、直接T細胞増殖に影響を与えるかもしれない。かかる因子はまた、その食作用活性及び抗原提示活性(これもT細胞活性に影響し得る)を低下させることにより、樹状細胞に影響し得る。
【0154】
これら及び他の機構により、MAPCsは、種々の損傷、機能不全、障害及び疾患の治療に有益な影響を与えることができる。
【0155】
MAPC投与
MAPC調製物
MAPCsは種々の組織、例えば骨髄細胞(本明細書で詳述される)から調製することができる。
【0156】
多くの実施形態において、被験体に投与するためのMAPCsの純度は約100%である。別の実施形態において、これは95%〜100%である。いくつかの実施形態において、これは85%〜95%である。特に他の細胞との混合物の場合、MAPCsの割合(%)は、2%〜5%、3%〜7%、5%〜10%、7%〜15%、10%〜15%、10%〜20%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%、又は90%〜95%であることができる。
【0157】
所与の容量中のMAPCsの数は、周知かつ慣用の手順及び装置により、本明細書中で記載するものなどの特定のマーカー(テロメラーゼなど)の存在及び/又は不在を利用して、また望ましい場合には本明細書に記載のように3種の原始系統のうち2種以上の細胞へ分化する能力を利用して、測定することができる。所与の容量の細胞混合物におけるMAPCsの割合(%)は、細胞(例えばサンプルのアリコート中の細胞)を計数し、MAPCsを同定するための上述した手法を用いてMAPCsである細胞の数を判定することによって測定することができる。細胞は、手動で又は自動化細胞カウンターを使用して容易に計測することができる。MAPCsは、所与の容量中のMAPCsなどは、例えば特異的結合試薬(蛍光標識と結合した抗体であることが多い)を用いた特異的染色と、その後の視覚的検査及び計数、又は自動化同定及び計数装置(例えばFACS:蛍光活性化セルソーター)装置により、測定することができる。
【0158】
MAPCsによる障害又は疾患などの治療は、未分化MAPCsを用いてもよい。治療はまた、ある分化経路に決定されるように処理されたMAPCsを用いてもよい。治療はまた、分化能が限定されたあまり分化能のない幹細胞に分化するように処理されたMAPCsを含んでもよい。これはまた、最終分化細胞型に分化するように処理されたMAPCsを含んでもよい。これに関し、MAPCsの最適な種類又は混合物は、その特定の使用状況により決定され、当業者がMAPCsの効果的な種類又は組合せを決定することは慣用の設計事項であろう。
【0159】
製剤化
所与の用途のためのMAPCs投与用の製剤の選択は、種々の要因に応じて異なる。これらの中で顕著なものは、被験体の種、治療する障害、機能不全、又は疾患の性質とその状態、及び被験体における分布、施される他の治療や物質の性質、MAPCs投与のための最適経路、その経路を介するMAPCsの生存性、投与レジメン、並びに当業者に自明の他の因子であろう。特に、例えば適切な担体及び他の添加物の選択は、正確な投与経路及び特定の剤形の性質に依存するであろう。
【0160】
細胞の生存は、MAPCsを用いた治療法の効力の重要な決定要因となり得る。これは、一次治療法及び補助的治療法の両方で確かである。標的部位が細胞接種及び細胞増殖に適さない場合、別の懸念が生じる。これは、治療用MAPCsのその部位への接近及び/又はそこでの生着を妨害し得る。実施形態において、本発明は、細胞生存を高めるための、並びに/又は、接種及び/若しくは増殖に対する障壁により生じる問題を克服するための方法の使用を含む。
【0161】
MAPCsを含む組成物の例には、筋肉内又は静脈内投与(例えば注射投与)のための溶液、懸濁液及び調製物などの液体調製物、例えば無菌懸濁液又はエマルジョンが含まれる。かかる組成物は、MAPCsと適当な担体、希釈剤、又は賦形剤(例えば、無菌水、生理食塩水、グルコース、ブドウ糖など)との混合物を含み得る。この組成物は凍結乾燥することもできる。この組成物は、所望の投与経路及び調製物に応じて、補助物質(例えば湿潤剤、乳化剤、pH緩衝化剤、ゲル化剤、又は粘度増強添加物、保存剤、香味剤、着色剤など)を含むことができる。過度の実験を行うことなく適切な調製物を調製するために、標準的テキスト、例えば「REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCE」 第17版、1985(参照により本明細書に組み込まれる)を参照してもよい。
【0162】
本発明の組成物はしばしば、液体調製物、例えば等張水溶液、懸濁液、エマルジョン、又は粘性組成物として提供することが都合よく、これは選択されたpHに緩衝化してもよい。液体調製物は通常、ゲル、他の粘性組成物、及び固体組成物より調製するのが容易である。さらに、液体組成物は、特に注射による投与にいくらかより好都合である。一方、粘性組成物は、特定の組織との長い接触期間を与えるように、適切な粘度範囲で製剤化することができる。
【0163】
組成物の安定性、無菌性、及び等張性を増強するために、しばしば種々の添加物、例えば抗菌性保存剤、抗酸化剤、キレート剤、及び緩衝剤が含まれる。微生物の作用の防止は、種々の抗細菌剤や抗菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などにより保証することができる。多くの場合に、等張剤、例えば糖、塩化ナトリウムなどを含むことが好ましいであろう。注射可能な医薬形態の吸収の延長は、吸収を遅らせる物質、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを使用することにより達成することができる。しかし、本発明に従って、使用されるビヒクル、希釈剤、又は添加物はいずれも前記細胞と適合性である必要があろう。
【0164】
MAPC溶液、懸濁液、及びゲルは、前記細胞に加えて多量の水(好ましくは精製された無菌水)を含有することがある。少量の他の成分、例えばpH調整剤(例えばNaOHなどの塩基)、乳化剤又は分散剤、緩衝化剤、保存剤、湿潤剤、ゲル化剤(例えばメチルセルロース)も存在してもよい。
【0165】
しばしば、前記組成物は等張であり、すなわちこれらは、投与用に適切に調製されたとき、血液や涙液と同じ浸透圧を有する。
【0166】
本発明の組成物の所望の等張性は、塩化ナトリウム又は他の薬学的に許容される物質、例えばブドウ糖、ホウ酸、酒石酸ナトリウム、プロピレングリコール、又は他の無機若しくは有機溶質を使用して達成される。塩化ナトリウムは、特にナトリウムイオンを含有するバッファーに好適である。
【0167】
所望であれば、組成物の粘度は、薬学的に許容される増粘剤を使用して、選択したレベルで維持することができる。メチルセルロースは容易にかつ経済的に入手でき、取り扱いが容易であるため好ましい。他の適切な増粘剤には、例えばキサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマーなどがある。増粘剤の好適な濃度は、選択される物質に依存する。重要な点は、選択された粘度を達成する量を使用することである。粘性の組成物は通常、かかる増粘剤を添加して溶液から調製される。
【0168】
MAPC組成物の寿命を延長するために、薬学的に許容される保存剤又は細胞安定化剤を使用することができる。かかる保存剤が含まれる場合、MAPCsの生存率又は効力に影響を与えない組成物を選択することは、十分に当業者の技術範囲内である。
【0169】
組成物の成分が化学的に不活性であるべきことを当業者は認識するであろう。当業者には化学的及び薬学的原理に問題が無いことが明らかであろう。標準的テキストを参照して、又は本明細書の開示、引用文献に提供される情報、及び当該分野で一般に入手できる情報を使用した簡単な実験(過度の実験を含まない)により問題は容易に回避することができる。
【0170】
無菌の注射可能な溶液は、必要量の適切な溶媒中に、必要に応じて種々の量の他の成分とともに、本発明を実施するのに使用される前記細胞を組み込むことにより調製することができる。
【0171】
また、注射、例えば定位注入及び注入(静注など)のための溶液が好ましい。
【0172】
いくつかの実施形態において、MAPCsは注射可能な単位投与剤形(溶液、懸濁液、又はエマルジョンなど)で製剤化される。MAPCsの注射に適した医薬製剤は、典型的には無菌の水溶液及び分散液である。注射可能な製剤の担体は、例えば水、食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、及びこれらの適切な混合物を含む溶媒又は分散媒体であることができる。
【0173】
本発明の方法で投与されるべき組成物中の前記細胞、並びに任意の添加物、ビヒクル、及び/又は担体の量を、当業者は容易に決定できる。典型的には、任意の添加物(細胞に加えて)は、リン酸緩衝化生理食塩水などの溶液中に0.001〜50重量%の量で存在する。活性成分はマイクログラム〜ミリグラムのオーダー、例えば約0.0001〜約5重量%、好ましくは約0.0001〜約1重量%、最も好ましくは約0.0001〜約0.05重量%、又は約0.001〜約20重量%、好ましくは約0.01〜約10重量%、そして最も好ましくは約0.05〜約5重量%で存在する。
【0174】
動物又はヒトに投与されるべき任意の組成物について、及び特定の任意の投与方法について、例えば適当な動物モデル(例えば、マウス又はラットのようなげっ歯動物)で致死用量(LD)やLD50を測定することにより、毒性を決定し、そして組成物の投与量、その中の成分の濃度、及び適切な応答を誘発する組成物投与のタイミングを決定することが好ましい。かかる決定は、当業者の知識、本開示、及び本明細書で引用された文献から、過度の実験を必要とするものではない。そして、連続投与の時間は過度の実験を行うことなく確認できるであろう。
【0175】
いくつかの実施形態において、特に封入(カプセル化)が治療法の有効性を増強するか又は取り扱い及び/若しくは貯蔵寿命に利点を提供する場合、MAPCsは投与用に封入される。MAPC介在免疫抑制の効力が増大するいくつかの実施形態では、封入の結果、免疫抑制剤療法の必要性も低下する可能性がある。
【0176】
またいくつかの実施形態において封入は、被験体の免疫系に対する障壁を与え、これはMAPCsに対する被験体の免疫応答をさらに低下させることができ(これは、一般的に、同種異系移植において免疫原性ではないか、又は弱い免疫原性のみである)、その結果、細胞の投与により生じ得る任意の移植片拒絶又は炎症を低下させる。
【0177】
別の種類の細胞との混合物でMAPCsが投与される(これは同種異系又は異種移植ではより典型的に免疫原性である)種々の実施形態において、封入は、混合された細胞が免疫担当細胞でありかつ宿主を非自己として認識する場合、免疫障害をもつ宿主で生じ得る非MAPC細胞に対する宿主の有害な免疫応答及び/又はGVHDを低下又は排除することができる。
【0178】
MAPCsは移植前に、膜及びカプセルで封入してもよい。細胞の封入に利用できる多くの方法のいずれかを使用できることが意図される。いくつかの実施形態において、細胞は個々に封入される。いくつかの実施形態において、多くの細胞が同じ膜内に封入される。細胞が移植後に除去される予定の実施形態において、多くの細胞を封入する比較的大きなサイズの構造(例えば単一の膜内)が、便利な回収手段を提供し得る。
【0179】
MAPCsのマイクロカプセル化のために、種々の実施形態において、広範な材料を使用することができる。かかる材料には、例えばポリマーカプセル、アルギナート−ポリ−L−リジン−アルギナートマイクロカプセル、バリウムポリ−L−リジンアルギナートカプセル、アルギン酸バリウムカプセル、ポリアクリロニトリル/ポリ塩化ビニル(PAN/PVC)中空繊維、及びポリエーテルスルホン(PES)中空繊維などがある。
【0180】
MAPCsの投与のために使用し得る細胞のマイクロカプセル化技術は当業者に公知であり、例えばChang, P., et al., 1999; Matthew, H.W., et al., 1991; Yanagi, K., et al., 1989; Cai Z.H., et al., 1988; Chang, T.M., 1992、及び米国特許第5,639,275号(これは、例えば、生物活性分子を安定に発現する細胞の長期維持のための生体適合性カプセルを記載する)に記載されている。更なる封入(カプセル化)方法は、ヨーロッパ特許公報第301,777号、及び米国特許第4,353,888号;4,744,933号;4,749,620号;4,814,274号;5,084,350号;5,089,272号;5,578,442号;5,639,275号;及び5,676,943号に記載されている。前記のすべては、MAPCsの封入に関する部分で、参照により本明細書に組み込まれる。
【0181】
特定の実施形態はMAPCsをポリマー(例えばバイオポリマー又は合成ポリマー)に組み込む。バイオポリマーの例には、特に限定されないが、フィブロネクチン、フィビン、フィブリノゲン、トロンビン、コラーゲン、及びプロテオグリカンなどがある。他の因子(例えば、上記サイトカイン)もまたポリマーに組み込むことができる。本発明の他の実施形態において、MAPCsは3次元ゲルのすき間に組み込まれてもよい。大きなポリマー又はゲルは典型的には外科的に移植される。充分に小さい粒子又は繊維中で製剤化され得るポリマー又はゲルは、他の一般的なより便利で外科的ではない経路で投与することができる。
【0182】
本発明の医薬組成物は、錠剤、硬又は軟ゼラチンカプセル、水溶液、懸濁液、及びリポソーム並びに他の持続放出製剤(例えば成形ポリマーゲル)を含む多くの形態で調製し得る。経口液体医薬組成物は、例えば水性若しくは油性懸濁液、液剤、エマルジョン、シロップ剤、エリキシル剤の形態であってもよいし、使用前に水若しくは他の適切なビヒクルで構成するための乾燥製品として提供してもよい。かかる液体医薬組成物は、一般的な添加物、例えば懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(これは食用油を含み得る)、又は保存剤を含有してもよい。胃を通過した後に細胞が腸内に放出されるように、経口投与剤形を調製してもよい。かかる製剤は米国特許第6,306,434号及びそこに含まれる文献に記載されている。
【0183】
直腸投与に適した医薬組成物を単位投与坐剤として調製することができる。適切な担体には食塩水や当該分野で一般的に使用される他の物質がある。
【0184】
吸入による投与のために、細胞は、吸入器、ネブライザー、若しくは加圧パック、又はエアゾルスプレーを送達するための他の便利な手段から送達されることが好都合である。加圧パックは、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、又は他の適切なガスを含むことができる。加圧エアゾル剤の場合、投与単位は計量された量を送達するための弁を備えることにより決定することができる。
【0185】
あるいは、吸入又はガス注入による投与のために、乾燥粉末組成物、例えば変調物質と適切な粉末基剤(例えば乳糖又はデンプン)の粉末ミックスの形態の手段を採ることもできる。粉末組成物は、例えばカプセル、又はカートリッジ中で、あるいは例えばゼラチン若しくはブリスターパック(ここから、粉末は吸入器又はガス注入器を用いて投与される)中で、単位投与剤形で提供してもよい。鼻内投与のために、細胞は液体スプレーを介して、例えばプラスチックボトルの噴霧器を介して投与してもよい。
【0186】
他の活性成分
MAPCsは他の医薬活性物質とともに投与することができる。いくつかの実施形態において、1又はそれ以上のかかる物質は、投与のためにMAPCsとともに製剤化される。いくつかの実施形態において、MAPCs及び1又はそれ以上の物質は別の製剤中に存在する。いくつかの実施形態において、MAPCs及び/又は1若しくはそれ以上の物質を含む組成物は、互いの補助的使用のために調製される。
【0187】
MAPCsは、免疫抑制剤、例えば任意の数のコルチコステロイド、シクロスポリンA、シクロスポリン様免疫抑制剤、シクロホスファミド、抗胸腺細胞グロブリン、アザチオプリン、FK−506、及びFK−506以外のマクロライド様免疫抑制剤、並びにラパマイシンの任意の組合せなど、を含む製剤中に存在させて投与することができる。特定の実施形態において、かかる薬剤としては、コルチコステロイド、シクロスポリンA、アザチオプリン、シクロホスファミド、ラパマイシン、及び/又はFK−506が挙げられる。前述した免疫抑制剤は、かかる付加的な薬剤のみでもよいし、あるいは他の薬剤(本明細書中に列挙する他の薬剤など)と組み合わせてもよい。他の免疫抑制剤としては、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、及びシロリムスなどが挙げられる。
【0188】
本発明の実施形態で使用し得る他の薬理活性物質や組成物を少し列挙すると、かかる物質はまた、抗生剤、抗菌剤、及び抗ウイルス剤などがある。
【0189】
典型的な抗生物質又は抗真菌化合物としては、特に限定されないが、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ミコフェノール酸、ナリジクス酸、ネオマイシン、ニスタチン、パロモマイシン、ポリミキシン、プロマイシン、リファンピシン、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、タイロシン、ゼオシン、及びセファロスポリン、アミノグリコシド、及びエキノカンジンなどがある。
【0190】
この種のさらなる添加物は、MAPCsが他の幹細胞のように、被験体への投与後に、その増殖と機能に適した環境に「帰巣(ホーミング)」し得るという事実に関連する。かかる「ホーミング」はしばしば細胞をこれらが必要な部位(例えば免疫疾患、機能不全、又は疾患の部位)で濃縮する。ホーミングを刺激する多くの物質が知られている。これらには、増殖因子や栄養シグナル伝達物質、例えばサイトカインなどがある。これらは、治療標的部位へのMAPCsのホーミングを促進するために使用することができる。これらは、MAPCsで治療する前、MAPCsと一緒に、又はMAPCsの投与後に被験体に投与することができる。
【0191】
特定のサイトカインは、例えば、治療の必要な部位(例えば免疫障害のある部位)へのMAPCs又は分化したその対応物の移動を改変するか又はこれに影響を与える。この点で使用し得るサイトカインには、特に限定されないが、ストロマ細胞由来因子−1(SDF−1)、幹細胞因子(SCF)、アンジオポエチン−1、胎盤由来増殖因子(PIGF)、顆粒球コロニー刺激因子(顆粒球コロニー刺激因子)、ICAMやVCAMなどの内皮細胞接着分子の発現を刺激するサイトカイン、及びホーミングを引き起こすか又は促進するサイトカインなどがある。
【0192】
これらは被験体に、前処置としてMAPCsとともに、又はMAPCsが投与された後に投与されて、改善されたホーミングにより又は他の機構により、所望の部位へのホーミングを促進し、治療効果を改善し得る。かかる因子は、一緒に投与されるべきこれらに適した製剤中でMAPCsと組合せることができる。あるいは、かかる因子は別々に製剤化し投与してもよい。
【0193】
因子(例えば上記サイトカイン)やMAPCsの投与順序、製剤化、用量、投与頻度、及び投与経路は一般に、治療対象の障害又は疾患、その重症度、被験体、行われている他の治療法、障害又は疾患のステージ、及び予後因子により異なる。他の治療法について確立された一般的なレジメンは、MAPC介在の直接治療法又は補助的治療法において適切な投与を決定するためのフレームワークを提供する。これらは本明細書に記載の追加の情報とともに、当業者が、過度の実験を行うことなく本発明の実施形態の適切な投与処置を決定することを可能にする。
【0194】
実施形態において、細胞は、脳損傷、例えば本明細書中で説明する脳の損傷及び/又は機能不全及び/又は障害及び/又は疾患を治療するために好適に製剤化される。実施形態において、製剤は、非経口投与に有効である。実施形態において、製剤は静注に有効である。実施形態において、製剤は定位注入に有効である。
【0195】
経路
MAPCsは、細胞を被験体に投与するために使用し得る当業者に公知の種々の経路のいずれかにより被験体に投与することができる。
【0196】
種々の実施形態において、MAPCsは、細胞療法の有効な送達のための任意の経路により被験体に投与される。いくつかの実施形態において、この細胞は注射(局所的及び/又は全身注射を含む)により投与される。特定の実施形態において、この細胞は、治療が意図される機能不全の部位内及び/又はその近傍で投与される。いくつかの実施形態において、この細胞は、機能不全の部位の近傍ではなくその部位で注射により投与される。いくつかの実施形態において、前記細胞は、全身注射(例えば静脈内注射)により投与される。
【0197】
本発明の実施形態においてこの点で使用し得る方法には、非経口経路によりMAPCsを投与する方法がある。本発明の種々の実施形態で有用な非経口投与経路には、特に静脈内、動脈内、心臓内、脊髄内、くも膜下内、骨内、関節内、滑液包内、皮内(intracutaneous)、皮内(intradermal)、皮下、及び/又は筋肉内注射による投与などがある。いくつかの実施形態において、静脈内、動脈内、皮内(intracutaneous)、皮内(intradermal)、皮下及び/又は筋肉内注射が使用される。いくつかの実施形態において、静脈内、動脈内、皮内(intracutaneous)、皮下及び/又は筋肉内注射が使用される。
【0198】
本発明の種々の実施形態において、MAPCsは全身性注射により投与される。全身性注射(例えば静脈内注射)は、MAPCsを投与するための最も単純で侵襲性の小さい経路の1つである。一部の場合に、これらの経路は、最適な有効性及び/又は標的部位へのMAPCsのホーミングのために高用量のMAPCを必要とすることがある。種々の実施形態において、MAPCsは、標的部位での最適な作用を確実にするために、標的化及び/又は局所注射により投与してもよい。
【0199】
MAPCsは、本発明のいくつかの実施形態において、注射器による皮下注射針を介して被験体に投与することができる。種々の実施形態において、MAPCsはカテーテルを介して被験体に投与される。種々の実施形態において、MAPCsは外科的移植により投与される。さらにこの点で、本発明の種々の実施形態において、MAPCsは関節鏡視下の処置を用いた移植によって被験体に投与される。いくつかの実施形態において、MAPCsは定位注入により被験者に投与される。いくつかの実施形態において、MAPCsは例えばポリマー又はゲルなどの固体支持体中又は固体支持体上に存在させて被験体に投与される。種々の実施形態において、MAPCsはカプセル形態で被験体に投与される。
【0200】
本発明の更なる実施形態において、MAPCsは、経口、直腸、経皮、眼内、鼻内、及び肺内送達のために適切に製剤化され、適宜投与される。
【0201】
実施形態において、脳損傷、例えば本明細書に記載する脳損傷及び/又は機能不全及び/又は障害及び/又は疾患を治療するために非経口投与が用いられる。実施形態において、静注が用いられる。実施形態において、定位注入が用いられる。
【0202】
投与
組成物は、特定の患者の年齢、性別、体重、及び症状、並びに投与される製剤(例えば固体対液体)などの要因を考慮して、医学分野及び獣医学分野の当業者に周知の投与量及び方法で投与することができる。ヒト又は他の哺乳動物についての用量は、過度の実験を行うことなく当業者により、本開示、本明細書で引用される文献、及び当該分野の知識から決定することができる。
【0203】
本発明の種々の実施形態で使用するのに適したMAPCsの用量は、多くの要因に依存するであろう。これは、異なる状況について大きく変動する可能性がある。一次治療法及び補助的治療法のために投与されるべきMAPCsの最適な用量を決定するパラメータは一般に以下の一部又は全てを含む:治療対象の疾患とそのステージ;被験体の種、その健康、性別、年齢、体重、代謝速度;被験体の免疫適格性;施される他の治療薬;及び被験体の病歴又は遺伝子型から予測される可能性のある合併症。このパラメータはさらに以下を含み得る:MAPCsが同系、自家、同種異系、又は異種であるか;その力価(比活性);MAPCsが有効であるように標的化されるべき部位及び/又は配置;並びにMAPCsへの接近性及び/又はMAPCsの生着などの部位の特徴。追加のパラメータには、他の因子(例えば増殖因子及びサイトカイン)のMAPCsとの共投与などがある。所与の状況で最適な投与量は、細胞の製剤化手段、これらを投与する手段、及び細胞が投与後に標的部位で局在化する程度も考慮するであろう。最後に、必要な最適投与量の決定は、最大有効作用の閾値以下でも、MAPCsの投与に関連する有害作用が投与量の増加の利点より大きくなる閾値異常でもない有効投与量を提供する。
【0204】
いくつかの実施形態に最適なMAPCsの用量は、自家単核骨髄移植で使用される用量範囲内であろう。これは、サイズ(体重)及び代謝因子の違いを考慮して動物実験から、並びに他の細胞療法(移植療法など)について確立されている投与量要件からの推定によって評価することができる。
【0205】
実施形態において、最適用量は、1回の投与でレシピエントの質量1kgあたり10〜10個のMAPC細胞の範囲である。実施形態において、1回の投与あたりの最適用量は10〜10個のMAPC細胞/kgである。実施形態において、1回の投与あたりの最適用量は5×10〜5×10個のMAPC細胞/kgである。実施形態において、1回の投与あたりの最適用量は、1、2、3、4、5、6、7、8又は9×10のいずれかから1、2、3、4、5、6、7、8又は9×10のいずれかまでのMAPC細胞/kgである。
【0206】
参考のため、前記の中〜高用量の一部は、自家単核骨髄移植で使用される有核細胞の用量に似ている。中〜低用量の一部は、自家単核骨髄移植で使用されるCD34細胞/kgの数に類似している。
【0207】
単回用量を全て一度に、分割して、又はある期間にわたって連続的に送達してもよいことは理解されるべきである。全用量を1つの位置に送達してもよいし、又はいくつかの位置に分散させてもよい。
【0208】
種々の実施形態において、MAPCsを初回量で投与し、次にさらにMAPCsを投与して維持してもよい。MAPCsを、最初は1つの方法で投与し、次に同じ方法で又は1若しくはそれ以上の異なる方法で投与してもよい。被験体のMAPCレベルは、前記細胞の継続投与により維持することができる。種々の実施形態は、最初に又は被験体でそのレベルを維持するために、あるいはその両者のために、MAPCsを静脈内注射により投与する。種々の実施形態において、患者の症状や本明細書で記載した他の要因に依存して、他の投与形態が使用される。
【0209】
ヒト被験体は一般に実験動物より長期間治療されることに留意されたい。しかし、治療は一般に、疾患プロセスの長さと治療の有効性に比例する長さである。当業者は、ヒトでの適切な用量を決定するために、ヒト及び/又は動物(例えばラット、マウス、非ヒト霊長類など)で行われた他の処置の結果を使用する上でこれを考慮するであろう。これらの考慮に基づき、かつ本開示や先行技術により与えられた指針を考慮することにより、過度の実験を行うことなく、当業者によるそのような決定を可能にする。
【0210】
初回投与及び追加投与に、又は連続的投与に適切なレジメンは、全て同じでもあっても変動してもよい。適切なレジメンは、本開示、本明細書で引用された文書、及び当該分野の知識から、当業者が確認できるであろう。
【0211】
治療の用量、頻度、及び期間は、多くの要因(疾患の性質、被験体、及び施し得る他の治療法を含む)により異なる。従って、MAPCsを投与するために広範なレジメンを使用し得る。
【0212】
いくつかの実施形態において、MAPCsは単回用量で被験体に投与される。他の実施形態では、MAPCsは2回用量またはそれ以上の用量系列で連続して被験体に投与される。単回用量、2回用量、及び/又は3回以上の用量でMAPCsが投与される他のいくつかの実施形態において、その用量は同じかまたは異なってもよく、これらは等しい又は等しくない間隔で投与される。
【0213】
MAPCsは広範な時間にわたって、例えば所望の治療効果が達成されるまで、何度も投与することができる。いくつかの実施形態において、MAPCsは、1日以内の期間にわたって投与される。他の実施形態において、これらは、2日、3日、4日、5日、又は6日間にわたって投与される。いくつかの実施形態において、MAPCsは週に1回又はそれ以上で数週間の期間にわたって投与される。他の実施形態において、これらは数週間から1〜数ヶ月の期間にわたって投与される。種々の実施形態において、これらは数ヶ月の期間にわたって投与され得る。他の実施形態において、これらは、1年又はそれ以上の期間にわたって投与され得る。一般に治療の長さは、疾患プロセスの長さと適用されている治療法の有効性、及び治療対象の被験体の症状と応答に比例する。
【0214】
いくつかの実施形態において、MAPCsは、所望の治療効果が達成されるまで又は投与がこれ以上被験体に利益を与えると思われなくなるまで、1回、2回、3回、又はそれ以上投与される。いくつかの実施形態において、MAPCsは、ある期間にわたって連続的に、例えば点滴静注により投与される。MAPCsの投与は、短期間、数日、数週間、数ヶ月、数年、又はそれ以上の期間でもよい。
【0215】
実施形態において、脳損傷、例えば本明細書に記載する脳損傷及び/又は機能不全及び/又は障害及び/又は疾患を治療するために単回のボーラスが投与される。実施形態において、単回のボーラスを、1以上の日数の時間間隔をおいて2回以上投与する。実施形態において、各用量は、数分から数時間の任意の時間間隔で、静注により投与する。実施形態において、単回用量の細胞を定位注入により投与する。実施形態において、2回以上の用量を、定位注入により脳の同じ又は異なる領域に投与する。これに関して脳損傷を治療するためのボーラス注射、静注(IV注射)及び定位注入を行う実施形態において、1回の投与当たりの細胞の用量は、1回の投与でレシピエントの質量1kgあたり10〜10個のMAPC細胞の範囲である。実施形態において、用量は10〜10個のMAPC細胞/kgである。実施形態において、用量は5×10〜5×10個のMAPC細胞/kgである。実施形態において、用量は、1、2、3、4、5、6、7、8又は9×10から1、2、3、4、5、6、7、8又は9×10のいずれかまでである。
【0216】
米国特許第7,015,037号に記載されるMAPCs
ヒトMAPCsが当該分野で記載されている。ヒト及びマウスについてMAPCを単離する方法は当該分野で公知である。すなわち、現在は当業者が、骨髄穿刺液、脳若しくは肝生検、及び他の臓器を得て、これらの細胞で発現される(又は発現されない)遺伝子に依存する当業者に利用可能な陽性若しくは陰性選択を用いて(例えば、上で参照する出願に開示されるような機能的又は形態的アッセイにより(これは参照により本明細書に組み込まれる))細胞を単離することが可能である。例示的な方法は、例えば米国特許第7,015,037号に記載されている(この内容は、MAPCsの説明とその調製方法に関して、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0217】
米国特許第7,015,037号に記載されるMAPCsの単離と増殖
例えばヒト、ラット、マウス、イヌ及びブタからのMAPC単離方法は、当該分野で公知である。例示的な方法は、例えば、米国特許第7,015,037号、及びPCT/US02/04652(WO02/064748として公開)に記載されており、これらの方法はそこに開示されたMAPCsの特徴付けとともに、例示を目的として、非限定的な例としてのみ、参照により本明細書に組み込まれる。
【0218】
MAPCsはまず骨髄から単離され、次に他の組織(脳及び筋肉を含む)から確立された(Jiang, Y. et al., 2002)。MAPCsは多くの供給源(限定されるものではないが、骨髄、胎盤、臍帯及び臍帯血、筋肉、脳、肝臓、脊髄、血液、脂肪細胞及び皮膚など)から単離することができる。例えば、MAPCsは、骨髄穿刺液から得ることができ、当業者が利用できる標準的手段により得ることができる(例えば、Muschler, G.F., et al., 1997; Batinic, H., et al., 1990参照)。
【0219】
米国特許第7,015,037号に記載された条件下でのヒトMAPC表現型
22〜25回の細胞倍加後に得られたヒトMAPCsのFACSによる免疫表現型分析は、この細胞が、CD31、CD34、CD36、CD38、CD45、CD50、CD62E及び−P、HLA−DR、Muc18、STRO−1、cKit、Tie/Tekを発現せず;低レベルのCD44、HLA−クラスI、及びβ2−ミクログロブリンを発現し、CD10、CD13、CD49b、CD49e、CDw90、Flk1(N>10)を発現することを示した。
【0220】
40回超の倍加で培養した細胞を約2×10/cmで再接種すると、表現型はより均一になり、HLA−クラスI又はCD44を発現した細胞は無かった(N=6)。より高いコンフルエンスで細胞を増殖させると、これらは高レベルのMuc18、CD44、HLAクラスI、及びβ2−ミクログロブリンを発現し、これはMSCについて記載された表現型に似ている(N=8)(Pittenger, 1999)。
【0221】
免疫組織化学は、約2x10/cmの接種密度で増殖させたヒトMAPCsが、EGF−R、TGF−R1と−2、BMP−R1A、血小板由来増殖因子−R1aと−Bを発現すること、及びMAPCsの小集団(1〜10%)が抗SSEA4抗体で染色されたこと(Kannagi, R., 1983)を示した。
【0222】
Clontech cDNAアレイを使用して、約2×10細胞/cmの接種密度で22回及び26回の細胞倍加のために培養したヒトMAPCsの発現遺伝子プロフィールを調べた:
A.MAPCsは、CD31、CD36、CD62E、CD62P、CD44−H、cKit、Tie;IL−1、IL−3、IL−6、IL11、G CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、Epo、Flt3−L、又はCNTFの受容体;及び低レベルのHLA−クラスI、CD44−E、及びMuc−18 mRNAを発現しなかった。
B.MAPCsは、サイトカインBMP1、BMP5、VEGF、HGF、KGF、MCP1のmRNA;サイトカイン受容体Flk1、EGF−R、血小板由来増殖因子−R1α、gp130、LIF−R、アクチビンR1と−R2、TGFR−2、BMP−R1A;接着受容体CD49c、CD49d、CD29;及びCD10を発現した。
C.MAPCsは、hTRTとTRF1のmRNA;POUドメイン転写因子oct−4、sox−2(ES/ECの未分化状態を維持するためにoct−4とともに必要とされる、Uwanogho H., 1995)、sox11(神経発生)、sox9(軟骨形成)(Lefebvre V., 1998);ホメオドメイン転写因子:Hox−a4と−a5(頸部と胸部骨格指定;呼吸器の器官形成)(Packer AI, 2000)、Hox−a9(骨髄造血)(Lawrence H, 1997)、Dlx4(前脳と頭部の周囲構造の指定)(Akimenko MA, 1994)、MSX1(胚中胚葉、成体の心臓と筋肉、軟骨形成と骨形成)(Foerst-Potts L. 1997)、PDX1(膵臓)(Offield MF, 1996)を発現した。
D.oct−4、LIF−R、及びhTRT mRNAの存在はRT−PCRにより確認された。
E.さらに、RT−PCRは、rex−1 mRNAとrox−1 mRNAがMAPCs中で発現されることを示した。
【0223】
oct−4、rex−1、及びrox−1は、ヒト及びミューリンの骨髄並びにミューリンの肝臓及び脳から得られたMAPCsで発現された。ヒトMAPCsはLIF−Rを発現し、SSEA−4で陽性染色された。最後に、oct−4、LIF−R、rex−1、及びrox−1 mRNAレベルは、30回超の細胞倍加で培養したヒトMAPCsで増加することがわかり、これにより表現型的により均一な細胞を生じた。これに対して、高密度で培養したMAPCsはこれらのマーカーの発現が消失した。これは、40回の細胞倍加前の老化と、軟骨芽細胞、骨芽細胞、及び脂肪細胞以外の細胞への分化の消失に関連していた。すなわちoct−4の存在は、rex−1、rox−1、及びsox−2との組合せで、MAPCs培養物中の最も原始的な細胞の存在と相関した。
【0224】
MAPCsを培養する方法は当該分野で周知である(例えば、米国特許第7,015,037号を参照、これはMAPCsを培養する方法について参照により本明細書に組み込まれる)。MAPCsを培養するための密度は約100細胞/cm又は約150細胞/cm〜約10,000細胞/cmで変動することができ、約200細胞/cm〜約1500細胞/cm〜約2000細胞/cmを含む。密度は種間で異なり得る。さらに、最適密度は、培養条件と細胞の供給源により異なり得る。培養条件と細胞の所与のセットについて最適密度を決定することは当業者の技術範囲内である。
【0225】
また、培養物におけるMAPCsの単離、増殖、及び分化中の任意の時期に、約10%未満(約3〜5%を含む)の有効な大気酸素濃度を使用することができる。
【0226】
本発明はさらに、以下の例示的な非限定的実施例により説明される。
【実施例1】
【0227】
ラットにおける低酸素虚血性損傷と、MAPCs、MAPCs及び免疫抑制による処置
7日齢Sprague Dawley(SD)子ラット(試験群当たりn=7)に対して、Riceら、Ann Neurol. 9: 131-141 (1981)(特にこの方法に関して参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に記載されているように、片側頚動脈結紮の後の8%低酸素の方法によってHI損傷を行った。損傷後7日目に、SDラット(同系、GFP標識、動物当たり200,000個の細胞)又はFisherラット(同種異系、β−gal標識、動物当たり200,000個の細胞)に由来する凍結乾燥MAPCs(移植の直前に解凍したもの)を動物の海馬領域に定位移植した。全ての動物にその生存期間にわたって毎日免疫抑制処置(CSA、1mg/kg、腹腔内(i.p.))を行った。移植後7日目及び14日目に、上体旋回試験(Elevated Body Swing Test;EBST)及びロタロッド試験を行って、一般的及び協調的運動及び神経機能をBorlonganら、J Neurosci., 15: 5372-5378 (1995)(特に行動遂行を評価するこれらの方法に関して参照によりその全体を本明細書に組み入れる)に記載のように明らかにした。生着したMAPCsの免疫組織化学分析のために、14日目に試験後の動物を安楽死させた。実験のフローチャートを図1に示す。試験過程でMAPCを移植した動物では死亡が観察されなかった。
【実施例2】
【0228】
実施例2A:HI損傷ラットにおけるMAPC注射後7日目及び14日目における運動能力の評価
実施例1に記載のように動物に処置を行った。移植後7日目に、MAPCを移植したHI損傷動物は、ビヒクルを注入した損傷動物と比較して、EBSTで判定した場合に運動非対称性が低くなり(64%〜65%対75%)、ロタロッドでは長い時間費やす(14.1〜16.5秒対18秒)傾向があることが示された。移植後14日目に、MAPCを移植した動物は、ビヒクル注入を行った対照動物よりも有意に低い運動非対称性を示し(66%〜70%対87%)、ロタロッドで長い時間を費やした(27.3〜28.3秒対21秒)。損傷動物に移植した同系及び同種異系MAPCsは、両方の試験期間においてその行動の改善に統計学的差がなかった。結果をグラフとして図2に示す。この結果は、運動及び神経の両方の測定でラットHI損傷モデルに注射したMAPCsの治療効果を示している。
【0229】
実施例2B:HIラットの脳におけるMAPC注射後14日目におけるMAPC生着の組織学的分析
実施例1に記載のように動物に処置を行った。移植後14日目に犠牲にした後、HI損傷動物の脳における生着MAPCsを組織学的検査により検出した。GFP陽性同系移植片は主に、DAPIで同時に標識された、元の海馬CA3移植部位及び隣接するCA2領域において検出された。同種異系移植片は、抗β−gal染色と、DAPIによる同時標識によって検出され、これはHI損傷脳で生存した移植片と同様のパターンを示した。移植片の生存は、14日目に0.96%だった(ANOVA F値24.27、df=2,19及びp<0.0001;Fisher事後検定はp<0.0001)。この結果は、同系及び同種異系MAPCsはいずれも、ラットHI損傷モデルにおいて注射部位に生着し、直接脳内注射後少なくとも2週間持続していることを示す。
【実施例3】
【0230】
移植したMAPCsは内因性ニューロンを保護する
実施例1に記載のように動物に処置を行った。組織学的分析をほぼ実施例2Bに記載のように実施したが、別の脳切片をニッスル染色して内因性ニューロン生存能のレベルを決定した。同系又は同種異系MAPCsを注射した動物では、対照ビヒクルを注射した動物と比較して内因性ニューロン死が有意に低減していた。この結果をグラフとして図3に示す。この結果は、MAPC投与によって低酸素虚血性損傷から内因性ニューロンが保護され、結果的にニューロン生存能が増大することを示している。
【実施例4】
【0231】
マーカー分析により示される移植MAPCs及びニューロンの同時局在化
実施例1に記載のように動物に処置を行った。MAPC処置ラットから作製した脳切片に対して、上述したMAPCマーカー(同系MAPCsについてはGFP、又は同種異系MAPCsについてはβ−gal)と、同時にニューロンについて十分に特性決定されているマーカーであるMAP2で同時染色を行った。同系及び同種異系移植動物の両方において各MAPCマーカー及びニューロンマーカーの両方を発現する細胞がいくつかみとめられた。このことは、MAPCsの一部はニューロンに分化したことを示すが、二重染色された細胞は、移植されたMAPC細胞と内因性ニューロン細胞の融合の稀な結果である可能性もある。この結果は、ラットHI損傷モデルにおける動物への投与後14日目におけるMAPCsの初期表現型ニューロン分化を示している。
【実施例5】
【0232】
MAPCsは、定位注入又は静注により投与した場合に免疫抑制を行わずに新生ラットHI損傷モデルにおいて治療上有益である
7日齢のSprague Dawley(SD)子ラット(試験群当たりn=7)に対して、実施例1及びそこで引用された参照文献に記載されているように、片側頚動脈結紮の後の8%低酸素の方法によってHI損傷を行った。HI損傷後7日目に、Fisherラットに由来する凍結乾燥MAPCs(移植の直前に解凍したもの)(同種異系、β−gal標識、動物当たり200,000個の細胞)を動物の海馬領域に定位移植した。移植後7日目及び14日目に、EBST及びロタロッド試験を用いて行動試験を行って、一般的及び協調的運動及び神経機能を明らかにした。14日目までに、PBSのみを投与した対照群と比較して、MAPC処置動物は、頭蓋内及びIV送達群のいずれもEBST及びロタロッド試験の両方において統計学的に有意な改善を示した(両方の試験についてp<0.05)。
【実施例6】
【0233】
げっ歯類MCA閉塞卒中モデルにおける異種(ヒト)MAPCsによる卒中の治療
24匹のSD成体ラットに中大脳動脈(MCA)閉塞外科手術を行って、この動物に外科的卒中を誘導した。卒中の誘導後7日目に、動物を各7匹からなる4つのコホートに分けた。各コホートには、以下のうち1つを直接脳内投与した。すなわち、(1)3μlのPBSの注射(対照)、(2)100,000個のヒトMAPCsを含む3μlのPBSの注射、(3)200,000個のヒトMAPCsを含む3μlのPBSの注射、及び(4)400,000個のヒトMAPCsを含む3μlのPBSの注射である。以下の実施例に記載するように動物を試験し、21日目に犠牲にした。
【実施例7】
【0234】
運動及び神経の試験により実証される、卒中モデルにおけるMAPC投与の治療上の有益性
実施例6に記載のように動物に処置を行った。細胞移植後7日目及び14日目に、上述したように各動物に対してEBST及びBederson試験を行って運動及び神経機能を判定した。EBSTでは、200,000個又は400,000個の細胞の投与を受けた動物において、対照と比較した場合に、移植後7日目に旋回の偏りに統計学的に有意な改善が観察された。14日目までには、ヒトMAPC注射を行った動物の3つのコホート全てが対照群と比較して有意な改善を示した。この結果を、図4の左側の上下のグラフに示す。
【0235】
EBSTと一致するがそれとは別に、MCA閉塞卒中後14日目及び21日目に、各ラットに対して4つの仕事を行って神経機能を評価するBedersonパネルを行った。4つの試験は、0(神経学的欠損が観察されない)から3(重篤な神経学的欠損)までで4つの試験それぞれについてスコアを付した。続いて4つのスコアを平均化して、全体的な神経機能評価を得た。MAPC移植後7日目に、200,000個又は400,000個の細胞の投与を受けた動物は、対照動物と比較して神経機能において統計学的に有意な改善を示した。14日目までには、ヒトMAPC注射を行った動物の3つのコホート全てが対照群と比較して有意な改善を示した。この結果を、図4の右側の上下のグラフに示す。
【0236】
この結果は、動物を200,000個又は400,000個のMAPCsで処置した場合の、運動及び神経の試験の両方における最初の試験時点(注射後7日目)の動物の用量依存的かつ統計学的に有意な改善を示している(100,000個のMAPCsで処置した動物は、対照ビヒクルでのみ処置した動物に比して統計学的に有意な改善を示さなかった)。この結果は、異種MAPCsのラット卒中脳への直接脳内注射による投与によって、ビヒクルのみで処置した動物と比較した場合に、少なくとも注射後1週間という早期の時点で、かつ少なくとも注射後2週間にわたり持続して、運動及び神経の効果試験の両方において統計学的に有意な改善がもたらされることを示している。
【実施例8】
【0237】
ラットHI卒中モデルの脳におけるMAPCの生着
上記の実施例6に記載したようにラットに処置を行った。MAPC移植後14日目の最後の行動試験の後に動物を犠牲にし、脳を採取した。パラフィン包埋組織の半分の厚さの切片をDAPIで染色して細胞核を全て可視化し、マウス抗HuNu(ヒト核)ポリクローナル抗体、続いてFITC結合ヤギ抗マウスモノクローナル抗体を用いて、生着したヒトMAPCsを染色した。MAPCsは、皮質(CTX)、脳室下帯(SVZ)及び線条体(STR)において見とめられた。この結果は、ヒトMAPCsが生存し、ラットに脳内注射された後に生着して、MAPC投与の有意な治療効果を提示していることを示す。細胞の分布は、MAPCsが脳の二次的領域に移動し、細胞を注射した一次部位と共にそこでも生着していることを示す。100,000個又は200,000個のMAPCsの注射について生存及び移動の同じパターンが見られた。ビヒクルのみを注射した対照卒中動物の脳ではHuNu免疫反応性は検出されなかった。生存移植片の割合は、卒中後14日目において、100,000個、200,000個又は400,000個のMAPC移植用量についてそれぞれ0.55%、0.7%及び0.51%であった。この結果は、卒中モデル脳において、MAPCsが注射部位で生存し生着しただけではなく、その注射部位から離れた二次的部位にも移動して生着することを明らかに示している。まとめると、直接脳内注射後少なくとも2週までは、異種ヒトMAPCsは損傷及び注射の部位(線条体)と、皮質及び脳室下帯を含む注射した脳の二次的部位に存在する。
【実施例9】
【0238】
同時免疫抑制処置を行う及び行わない、同種異系(ラット)MAPCs、異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置
35匹のSDラットに中大脳動脈(MCA)閉塞外科手術を行って、この動物に外科的卒中を誘導した。卒中の誘導後7日目に、動物を各7匹からなる5つのコホートに分けた。各コホートには、以下のうち1つを直接脳内投与した。すなわち、(1)免疫抑制を行わずに400,000個のラットMAPCsを含む3μlのPBSの注射、(2)免疫抑制処置(CSA、1mg/kg、i.p.)を行って400,000個のラットMAPCsを含む3μlのPBSの注射、(3)免疫抑制を行わずに400,000個のヒトMAPCsを含む3μlのPBSの注射、(4)免疫抑制処置(CSA、1mg/kg、i.p.)を行って400,000個のヒトMAPCsを含む3μlのPBSの注射、及び(5)免疫抑制処置(CSA、1mg/kg、i.p.)を行って400,000個の照射非生存ヒトMAPCsを含む3μlのPBSの注射、である。
【実施例10】
【0239】
同時免疫抑制処置を行う及び行わない、同種異系(ラット)MAPCs、異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置の行動及び神経学的評価
実施例9に記載のように動物に処置を行った。細胞移植後14日目に、及びその後8週間にわたって14日毎に、各動物に対してEBST及びBederson試験を行って運動及び神経機能を判定した。異種及び同種異系MAPCsの投与はいずれも、EBST及びBederson評価の両方において、免疫抑制処置を行った場合及び行わなかった場合に、統計学的に有意なかつ持続的な改善をもたらした。この結果は、虚血性損傷後7日目に移植されたMAPCsが、行動及び神経機能に対して統計学的に有意な長期(8週)の持続的治療効果をもたらしたことを示している。この結果はさらに、免疫抑制処置が実証された治療効果に必要ではないことを示している。この結果を図5及び6にグラフとして示す。
【実施例11】
【0240】
免疫抑制処置を行う及び行わない、注射又は静注により送達される異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置
42匹のSDラットに中大脳動脈(MCA)閉塞外科手術を行って、この動物に外科的卒中を誘導した。卒中の誘導後7日目に、動物を各7匹からなる6つのコホートに分けた。各コホートには、以下のうち1つを静脈内投与した。すなわち、(1)免疫抑制処置(CSA、1mg/kg、i.p.)を行って400,000個のヒトMAPCs、(2)免疫抑制を行わずに400,000個のヒトMAPCs、(3)免疫抑制処置(CSA、1mg/kg、i.p.)を行って1,000,000個のヒトMAPCs、(4)免疫抑制処置を行わずに1,000,000個のヒトMAPCs、(5)免疫抑制処置(CSA、1mg/kg、i.p.)を行って1,000,000個の照射非生存ヒトMAPCs、及び(6)免疫抑制処置を行わずに1,000,000個の照射非生存ヒトMAPCsである。
【実施例12】
【0241】
免疫抑制処置を行う及び行わない、注射又は静注により送達される異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置:行動及び神経学的評価
実施例11に記載のように動物に処置を行った。細胞移植後14日目に、及びその後8週間にわたって14日毎に、各動物に対してEBST及びBederson試験を行ってそれぞれ運動及び神経機能を評価した。
【0242】
移植後56日目に試験を行った後、動物を犠牲にした。
【0243】
この結果は、運動機能に対する有意な用量依存的治療効果を示す。1,000,000個の生存MAPCsを注入した動物は、照射MAPCsで処置した対応の対照群に対して有意な改善を示した。免疫抑制を行った場合及び行わない場合に同じ結果が得られた。400,000個の生存MAPCsを注入した動物は、照射MAPCsで処置した対応の対照群に対して有意な改善を示さなかった。免疫抑制を行った場合及び行わない場合に同じ結果が得られた。
【0244】
この結果はまた、神経機能に対する有意な用量依存的治療効果を示す。400,000個及び1,000,000個の生存MAPCsで処置した動物の両方が、照射MAPCsで処置した対応の群に対して有意な改善を示した。400,000個の細胞で処置した動物では実験の56日にわたって回復が低い傾向にあったが、1,000,000個の細胞で処置した動物ではそのような傾向はなかった。免疫抑制を行った場合及び行わない場合に同じ結果が得られた。
【0245】
まとめると、1,000,000個の生存MAPCsで処置した動物は、8週間にわたる実験の全体にわたって、運動及び神経機能の両方において統計学的に有意な持続的な改善を示した。さらに、この治療効果に免疫抑制は必要ではない。この結果は、CSAを行った場合と行わなかった場合で同じであった。
【0246】
結果を図7及び8にグラフとして示す。
【実施例13】
【0247】
静注により送達される異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置に対する時期の効果
28匹のSDラットに中大脳動脈(MCA)閉塞外科手術を行って、この動物に外科的卒中を誘導した。動物を各7匹からなる4つのコホートに分けた。各コホートには、免疫抑制を行わずに1,000,000個の異種(ヒト)MAPCsを静注により投与した。全ての群には同じ処置を行ったが、MAPCsを卒中誘導後の異なる時点で投与した。誘導後、以下の日数の後に各群にMAPCsを投与した。すなわち、(1)1日、(2)2日、及び(3)7日。さらに、(4)群には、誘導後7日目に1,000,000個の照射非生存MAPCsを投与した。
【0248】
この研究においてMAPCsを投与した動物において死亡は観察されなかった。
【実施例14】
【0249】
静注により送達される異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置に対する時期の効果:運動及び神経機能
実施例12に記載のように動物に処置を行った。細胞移植後7日目に、及びその後8週間にわたって7日毎に、各動物に対してEBST及びBederson試験を行ってそれぞれ運動及び神経機能を評価した。
【0250】
この結果は、生存MAPCsで処置した動物の3つの群全てについて、照射MAPCsで処置した対照群(第4群)と比較して、運動及び神経機能の両方において統計学的に有意な持続的改善を示す。生存MAPCsで処置した3つの群について得られた運動機能に関する結果に統計学的な差はなかった。神経機能に関しても3つの群についての結果は確かに同じであった。
【0251】
この結果は、MAPCsが、虚血性脳損傷後1日〜7日目にIVにより投与された場合に、運動及び神経機能の両方に対して治療有効性をもたらすことを実証している。
【0252】
結果を図9及び10にグラフとして示す。
【実施例15】
【0253】
静注により送達される異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置に対する時期の効果:生着
実施例12に記載のように動物に処置を行った。各群について56日目の最後の行動試験の後に動物を犠牲にした。犠牲にした動物から脳を採取した。この脳からパラフィン包埋組織の半分の厚さの切片を調製した。切片は、DAPIで染色して細胞核を全て可視化し、ポリクローナルマウス抗HuNu(ヒト核)抗体、続いてFITC結合ヤギ抗マウスモノクローナル抗体を用いて、生着したヒトMAPCsを染色した。DAPI染色細胞及びFITC染色細胞の両方を計数した。生着した細胞の合計数は、FITC染色細胞数から決定した。生着した注射MAPCの割合(%)は、各動物に注入された細胞の総数に対する生着した細胞の総数の比率から計算した。
【0254】
この結果は、損傷後の投与の時間が早いほど生着した細胞数が若干少ないことを示している。損傷後1日目にMAPCsで処置された動物は、平均0.75%の生着だった。損傷後2日目にMAPCsを投与された動物は、平均1.1%の生着細胞だった。損傷後7日目にMAPCsを投与された動物は、平均1.27%の生存生着細胞だった。この傾向は統計学的に有意ではないが、これは、卒中直後の虚血性損傷の炎症環境が、MAPCsの生着及び長期生存にとって、数日後にのみ存在する環境よりも好ましくない可能性があることを示唆している。
【実施例16】
【0255】
静注により送達される異種(ヒト)MAPCsによるラット外科モデルにおける虚血性卒中の処置に対する時期の効果:ニューロン保護
実施例12に記載のように動物に処置を行った。脳切片を実施例14に記載のように調製した。(実施例14で使用したものとは)別の切片をニッスルで染色して内因性ニューロンの生存能を判定した。この結果は、MAPC投与による内因性ニューロン死の統計学的に有意な低減を示している。内因性ニューロン生存能に対するMAPCsの保護効果は、卒中誘導からMAPC投与までの時間が低減するほど増大する。卒中誘導後1日目にMAPCsを投与した動物では、卒中誘導後2日目にMAPCsを投与した動物よりも、多くの生存ニューロンが存在し、その差は統計学的に有意であった。同様に、卒中誘導後2日目にMAPCsを投与した動物では、卒中誘導後7日目にMAPCsを投与した動物よりも、多くの生存ニューロンが存在し、その差もまた統計学的に有意であった。この結果は、虚血事象後早くMAPCsを投与するほど、内因性ニューロン生存能に対する保護効果が高くなることを示している。
【0256】
この結果を図11にグラフとして示す。
【図面の簡単な説明】
【0257】
【図1】実施例1に記載のように、本明細書で記載した実施例のいくつかにおいて使用した一般的な実験プロトコールを示すフローチャートである。
【図2】実施例2に記載のように、同系及び同種異系MAPC移植物が新生HIラットにおける行動の回復を促進することを示す一連のグラフである。同系及び同種異系MAPC移植物を投与した動物において、運動及び神経機能についての行動試験を7日目及び14日目に実施した。動物は、対照と比較して、まず移植後7日目に行動の欠陥が少ない傾向を示し、続いて移植後14日目までに運動異常の有意な低減を示した。星印は、陰性対照(ビヒクル注入)に対するp<0.05での統計学的有意性を示す。
【図3】実施例3に記載のように、MAPC移植片がHI損傷動物におけるCA3ニューロン細胞欠損を低減することを示すグラフである。このグラフは、海馬切片の組織学的分析により観察された生存細胞を示す。動物をMAPCsの移植後14日目に犠牲にした。脳切片を調製し、ニッスル染色して、MAPC及びビヒクル処置した動物の海馬におけるニューロン生存能について調べた。各切片の損傷及び非損傷の対側海馬領域の両方における視野当たりの生存細胞を計数し、これらの数を比較した。非損傷海馬細胞の数を100%とした。データは、MAPC移植によるCA3領域におけるニューロンの統計学的に有意な保護を実証している(ANOVA F値は35.33、df=2,19及びp<0.0001;Fisher事後検定はp<0.0001)。
【図4】実施例7に記載のように、異種MAPC移植物は、外科的に誘導された虚血性卒中後の成体ラットにおける行動の回復を促進することを示す一連のグラフである。卒中誘導後14日目及び21日目(頭蓋内移植後7日目及び14日目)に運動及び神経機能のための行動試験を実施した。動物には、100,000個、200,000個及び400,000個の異種MAPC細胞、又はビヒクルのみの対照としてPBSを投与した。星印は、対照群とMAPC実験群との有意差を示す(ANOVAの反復測定、p<0.0001;FisherのPLSD事後t−検定、p’s<0.0001)。
【図5】異種及び同種異系MAPC移植物が、虚血性卒中後のラットにおいて持続的かつ統計学的に有意な運動の回復を促進することを示すグラフである。実施例10に記載のように、14日目及びその後56日目まで14日毎に運動機能についての行動試験を実施した。星印は、陰性対照(非生存照射MAPCs)に対するp<0.0001での統計学的有意性を示す。
【図6】異種及び同種異系MAPC移植物が、虚血性卒中後のラットにおいて持続的かつ統計学的に有意な神経の回復を促進することを示すグラフである。実施例10に記載のように、14日目及びその後56日目まで14日毎に神経機能についての行動試験を実施した。星印は、陰性対照(非生存照射MAPCs)に対するp<0.0001での統計学的有意性を示す。
【図7】実施例12に記載のように、虚血性卒中を有するラットへの異種MAPCsの投与による、運動機能における用量依存的改善を示すグラフである。14日目及びその後56日目まで14日毎に運動機能についての行動試験を実施した。星印は、陰性対照(非生存照射MAPCs)に対するp<0.01での統計学的有意性を示す。
【図8】実施例12に記載のように、異種MAPCsで処置した虚血性卒中ラットの神経機能における用量依存的改善を示すグラフである。14日目及びその後56日目まで14日毎に神経機能についてのBederson試験を実施した。星印は、陰性対照(非生存照射MAPCs)に対するp<0.01での統計学的有意性を示す。
【図9】実施例14に記載のように、異種MAPCsで処置した虚血性卒中ラットの運動機能における用量依存的改善を示すグラフである。運動機能を判定するためのEBSTを、静注後1週間において、続いて長期効力を実証するために8週目まで毎週1回実施した。遅延1日は、虚血性損傷の誘導後1日目に細胞を投与した群を示し、遅延2日は、損傷後2日目に細胞を投与した群であり、遅延7日は、虚血性損傷後7日目に細胞を投与した群である。星印は、陰性対照(非生存照射MAPCsを卒中後7日目に送達した)に対するp<0.001での統計学的有意性を示す。
【図10】実施例14に記載のように、異種MAPCsで処置した虚血性卒中ラットの神経機能における用量依存的改善を示すグラフである。神経機能を判定するためのBederson試験を、静注後1週間において、続いて長期効力を実証するために8週目まで毎週1回実施した。遅延1日は、虚血性損傷の誘導後1日目に細胞を投与した群を示し、遅延2日は、虚血性損傷後2日目に細胞を投与した群を示し、遅延7日は、虚血性損傷後7日目に細胞を投与した群を示す。星印は、陰性対照(非生存照射MAPCsを卒中後7日目に送達した)に対するp<0.001での統計学的有意性を示す。
【図11】実施例16に記載のように、虚血性卒中ラットにおける内因性ニューロン細胞損失がMAPCsの静注により経時的に低減することを示すグラフ及び写真である。MAPC注入の開始後56日目に動物を犠牲にした。脳切片を調製し、ニューロンの生存についてニッスル染色した。生存は移植した動物の全てにおいて判定し、ニューロン生存を損傷後種々の時点でMAPCsを投与した動物において比較した。損傷の各部位、及び同じ切片の対側域における非損傷部位について、視野当たりの生存細胞を計数し、この結果を比較した。非損傷対側部位の数を100%とした。図11に示すグラフに示されるように、このデータは、MAPC移植後の半影領域におけるニューロンの統計学的に有意な保護を示している。星印は、他の群に対するp<0.05での統計学的有意性を示している。グラフの上に挿入した写真は、損傷部位の代表的な断面を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における脳損傷の治療方法であって、脳損傷に罹患する可能性があるか、罹患しているか又は罹患した被験体に、該脳損傷を治療するのに有効な経路と有効な量で、細胞を投与することを含み、該細胞は、胚幹細胞、胚生殖細胞又は生殖細胞ではなく、内胚葉性、外胚葉性及び中胚葉性の胚系統の少なくとも2種それぞれの少なくとも1種の細胞型に分化することができるものである、前記方法。
【請求項2】
被験体が、前記細胞による処置に対して補助的に免疫抑制療法で処置されていない、請求項1記載の方法。
【請求項3】
脳損傷が低酸素により生じたものである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
脳損傷が低酸素性虚血性脳損傷である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
脳損傷が血液供給の閉鎖又は閉塞により生じたものである、請求項2記載の方法。
【請求項6】
脳損傷が皮質梗塞である、請求項2記載の方法。
【請求項7】
脳損傷が卒中である、請求項2記載の方法。
【請求項8】
細胞が、内胚葉性、外胚葉性及び中胚葉性の胚系統それぞれの少なくとも1種の細胞型に分化することができる、請求項2記載の方法。
【請求項9】
細胞がテロメラーゼを発現する、請求項2記載の方法。
【請求項10】
細胞がoct−3/4について陽性である、請求項2記載の方法。
【請求項11】
細胞が、被験体への投与の前に、培養で少なくとも10〜40回の細胞倍加を受けている、請求項2記載の方法。
【請求項12】
細胞が哺乳動物細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項13】
細胞がヒト細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項14】
細胞が、胎盤組織、臍帯組織、臍帯血、骨髄、血液、脾臓組織、胸腺組織、脊髄組織、脂肪組織及び肝臓組織のいずれかから単離された細胞に由来する、請求項2記載の方法。
【請求項15】
細胞が被験体に対して同種異系である、請求項2記載の方法。
【請求項16】
細胞が被験体に対して異種である、請求項2記載の方法。
【請求項17】
細胞が被験体に対して自家である、請求項2記載の方法。
【請求項18】
被験体がヒトである、請求項2記載の方法。
【請求項19】
細胞が、被験体の質量1kgあたり10〜10個の細胞を含む単回又は複数回用量で被験体に投与される、請求項2記載の方法。
【請求項20】
細胞が、被験体の質量1kgあたり10〜5×10個の細胞を含む単回又は複数回用量で被験体に投与される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
細胞に加えて、1又はそれ以上の増殖因子、分化因子、シグナル伝達因子、及び/又はホーミングを増大させる因子を被験体に投与する、請求項2記載の方法。
【請求項22】
さらに、1又はそれ以上の抗生剤、抗菌剤及び/又は抗ウイルス剤の任意の組合せの1又はそれ以上を被験体に投与する、請求項2記載の方法。
【請求項23】
細胞が、1又はそれ以上の他の医薬活性物質を含む製剤で投与される、請求項2記載の方法。
【請求項24】
製剤がさらに1又はそれ以上の抗生剤、抗菌剤及び/又は抗ウイルス剤の任意の組合せを含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
細胞が非経口経路により被験体に投与される、請求項2記載の方法。
【請求項26】
細胞が静注により投与される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
細胞が定位注入により被験体に投与される、請求項2記載の方法。
【請求項28】
被験体が、前記細胞による処置に加えて、1又はそれ以上の免疫抑制剤による処置を受けていた、受ける予定である又は受けているものである、請求項1記載の方法。
【請求項29】
被験体が、前記細胞による処置に加えて、1又はそれ以上のコルチコステロイド、シクロスポリンA、シクロスポリン様免疫抑制剤、シクロホスファミド、抗胸腺細胞グロブリン、アザチオプリン、ラパマイシン、FK−506、及びFK−506以外のマクロライド様免疫抑制剤、並びに免疫抑制モノクローナル抗体薬剤による処置を受けていた、受ける予定である又は受けているものである、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2009−523846(P2009−523846A)
【公表日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552359(P2008−552359)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/001746
【国際公開番号】WO2007/087292
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508137464)アサーシス,インコーポレーテッド (3)
【出願人】(508222047)メディカル カレッジ オブ ジョージア リサーチ インスティテュート,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】