説明

脳神経外科術中運動野同定・機能的ナビゲーションシステムの原理・方法

【課題】脳神経外科手術に際して、術後の運動障害を生じせしめないアプローチをあらかじめ計算し、指示する機能的ナビゲーションシステムを提供し、確実かつ安全な手術の遂行と良好な治療成績・入院期間の短縮による医療経済効果を得る。
【解決手段】64極(電極間距離5−10mm)の脳表電極おのおのについて刺激閾値と運動誘発電位振幅を記録。運動機能を有する大脳皮質または白質である事をコンピュータ上の3次元画像に登録・認識し運動野を形態的ならびに機能的に瞬時に同定する。この方法は形態的方法のみでは運動野の同定が不可能な手術の進行に伴い、電位の減衰により運動機能の低下を予測し警告し、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、最良なアプローチの方向をコンピュータ上で指示する画期的方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、64極の脳表電極が瞬時に運動機能を有する大脳皮質または白質である事を認識し、手術中運動機能の低下を予測し警告する機能的ナビゲーションシステムの原理・方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脳神経外科手術に際して、術後の運動障害を生じせしめないアプローチをあらかじめ計算し、指示する機能的ナビゲーションシステム臨床領域に切望されているが、これにかわる技術は存在しない。
【0003】
従来の方法として非特許文献1などに記載の技術がある。
特許文献1で紹介の技術は、手術中起こった運動障害を事後に把握するものであり、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、指示する機能的ナビゲーションは存在しない。
【非特許文献1】Fujiki Mら著「Intraoperative corticomuscular motor evoked potentials for evaluation of motor function:a comparison with corticospinal D and I waves.J Neurosurg.104:85−92,2006.」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、運動障害を回避できる安全性の確立された確実な機能的ナビゲーション方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたものでありその特徴とするところは、次の(1)にある。
(1).脳神経外科手術中大脳運動野の位置を形態的ならびに機能的に同定し、機能状態を経時的に監視し、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、指示することを特徴とする術中運動野同定・機能的ナビゲーションシステムの方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、64極の脳表電極が瞬時に運動機能を有する大脳皮質または白質である事を認識し、手術中運動機能の低下を予測し警告し、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、指示することを特徴とする術中運動野同定・機能的ナビゲーションシステムの原理・方法に関するものである。
これにより確実かつ安全な手術の遂行と良好な治療成績・入院期間の短縮による医療経済効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
脳神経外科手術における機能的ナビゲーションの方法は、脳腫瘍が主であるがそれぞれ特有の設定条件がある。以下のそれらの概要を説明する。
1. 脳腫瘍手術における運動障害予防のための機能的ナビゲーションの概要を説明する。
64極(電極間距離5−10mm)の脳表電極おのおのについて刺激閾値と運動誘発電位振幅を記録。運動機能を有する大脳皮質または白質である事をコンピュータ上の3次元画像に登録・認識し運動野を形態的ならびに機能的に瞬時に同定する。この方法は脳腫瘍手術では形態的方法のみでは運動野の同定が不可能な事が多く有用である。手術の進行に伴い、電位の減衰により運動機能の低下を予測し警告し、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、最良なアプローチの方向をコンピュータ上で指示する。
2. 脳血管障害手術における運動障害予防のための機能的ナビゲーションの概要を説明する。
64極(電極間距離5−10mm)の脳表電極おのおのについて刺激閾値と運動誘発電位振幅を記録。運動機能を有する大脳皮質または白質である事をコンピュータ上の3次元画像に登録・認識し主たる脳血管と運動野とを形態的ならびに機能的に瞬時に同定する。この方法はある種の脳血管障害では、形態的方法のみでは主たる脳血管と運動野の同定が不可能な事が多く有用である。手術の進行に伴い、電位の減衰により運動機能の低下を予測し警告し、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、最良なアプローチの方向をコンピュータ上で指示する。
3. 神経外傷・脊髄脊椎手術における運動障害予防のための機能的ナビゲーションの概要を説明する。
64極(電極間距離5−10mm)の脳表電極おのおのについて刺激閾値と運動誘発電位振幅を記録。運動機能を有する大脳皮質または白質である事をコンピュータ上の3次元画像に登録・認識し主たる脳機能領域と運動野とを形態的ならびに機能的に瞬時に同定する。この方法は複雑な神経外傷では、形態的方法のみでは主たる脳機能領域と運動野の同定が不可能な事が多く有用である。手術の進行に伴い、電位の減衰により運動機能の低下を予測し警告し、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、最良なアプローチの方向をコンピュータ上で指示する。
【実施例1】
【0008】
1)、脳腫瘍手術における運動障害予防のための機能的ナビゲーションの具体例:
左半球の広範囲な神経膠腫において、64極の脳表電極おのおのについて刺激閾値と運動誘発電位振幅を記録。運動機能を有する大脳皮質または白質である事をコンピュータ上の3次元画像に登録・認識し運動野を形態的ならびに機能的に瞬時に同定するシステムを用いたところ、運動機能の低下を予測し警告し、確実かつ安全な手術ができ、患者に術後麻痺は生じなかった。
【実施例2】
【0009】
2)、脳動脈瘤手術における運動障害予防のための機能的ナビゲーションの具体例:
左中大脳動脈瘤において、64極の脳表電極おのおのについて刺激閾値と運動誘発電位振幅を記録。中大脳動脈を含む主たる血管と運動機能を有する大脳皮質または白質である事をコンピュータ上の3次元画像に登録・認識し運動野を形態的ならびに機能的に瞬時に同定するシステムを用いたところ、運動機能の低下を予測し警告し、確実かつ安全な手術ができ、患者に術後麻痺は生じなかった。
【実施例3】
【0010】
3)、神経外傷・脊髄脊椎手術における運動障害予防のための機能的ナビゲーションの具体例:
左外傷性脳損傷において、64極の脳表電極おのおのについて刺激閾値と運動誘発電位振幅を記録。主たる脳機能領域と運動機能を有する大脳皮質または白質である事をコンピュータ上の3次元画像に登録・認識し運動野を形態的ならびに機能的に瞬時に同定するシステムを用いたところ、運動機能の低下を予測し警告し、確実かつ安全な手術ができ、患者に術後麻痺は生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0011】
本発明は、前記効果で紹介のように、今まで方法が存在しなかった、術後の運動障害を生じせしめないアプローチをあらかじめ計算し、指示する機能的ナビゲーションシステムであり、臨床領域に切望され医療学に大きく貢献するものである。確実かつ安全な手術の遂行と良好な治療成績・入院期間の短縮による医療経済効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳神経外科手術中大脳運動野の位置を形態的ならびに機能的に同定し、機能状態を経時的に監視し、事前に確実かつ安全な手術方法を計算し、指示することを特徴とする術中運動野同定・機能的ナビゲーションシステムの方法。