脳血流を増加させる方法
虚血性又は他の低酸素事象、出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮による;慢性の高血圧による;及び/又は特発性原因による血流減少を特徴とするか、又は経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるための方法を提供する。このような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法は、それを必要とする患者にタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量を投与することを含む。ある実施形態において、該阻害剤は、阻害剤に対する患者の脱感作を引き起こすことなく長期に投与できる。虚血性又は他の低酸素事象、出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮による;慢性の高血圧による;及び/又は特発性原因による血流減少を特徴とするか、又は経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるためのキットを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
米国連邦委託研究に関する表明
本研究は、助成金番号NS44350の下で国立予防衛生研究所により一部支援されている。したがって、米国政府は本発明のある権利を有することがある。
【0002】
本明細書に記載された主題は、血流減少を経験している血管内の脳血流を増加させる方法に関する。さらに具体的には、該主題は、デルタタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤を投与することによって血管内の脳血流を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
虚血性脳卒中は、脳への血流が妨げられた場合に生じる。脳卒中及び心拍停止などの疾患による脳虚血及び再灌流障害は、米国における身体障害及び死亡の主要原因である。米国のみで年間70万超の脳卒中が発生しており、2001年の時点で、480万人が脳卒中の後遺症を有して生存している。脳卒中の全死亡率は、ほぼ58%であり、これらの患者のほぼ50%が、病院で死亡している(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)。
【0004】
虚血性脳卒中に加えて、出血性脳卒中(脳内及びくも膜下タイプなど)は、すべての脳卒中事象の12%となっている。虚血性脳卒中とは異なり、出血性脳卒中は、血管系から実質空間、くも膜下空間又は硬膜下空間への血液喪失による。このタイプの脳卒中は、虚血性脳卒中と比較して、はるかにより高い死亡率(30日以内に37〜38%の死亡率)を招く(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)。出血性脳卒中は、慢性遅発性脳血管狭窄又は脳血管攣縮を生じさせる。実際、くも膜下出血の治療を受けている患者の2/3は、出血後3日目から13日目の間に脳血管攣縮を起こす。Suhardja,A.、Nature Clin.Prac.、Cardiovasc.Med.1(2):110〜116ページ(2004)。脳血管機能におけるこれらの変化は、より大きな直径の血管(例えば、脳底動脈、中大脳動脈)、及び毛細血管並びに細動脈などのより小さな直径の血管の双方に生じる。血管攣縮は一部、血管拡張物質である酸化窒素(NO)を隔離させるオキシヘモグロビンなど、血管系の周囲にある反応性血液産物の蓄積による。血管狭窄及び血管攣縮など、脳血流の自己調節の喪失により、血流が制限されることから脳損傷の増大に至り、損傷周囲の領域の脳損傷の悪化を引き起こし、出血性脳卒中患者の転帰不良の一因となる。
【0005】
脳血管自己調節障害の他の原因としては、慢性の高血圧又は高血圧症が挙げられる。高血圧症は、アメリカ人の5人にほぼ1人(成人の4人に1人)(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)が罹患しており、うっ血性心不全を含む他の慢性疾患に加えて、脳卒中障害の重要な危険因子である。高血圧症は、脳血流の減少と相関付けられている(Rodriguez,G.ら、Stroke 18(1):13〜20ページ(1987))。したがって、十分な脳灌流の維持は、これらの危険性のある患者において脳保護を管理する上で重要である。脳血流の制御は、偏頭痛、妊娠、コール−フレミング症候群及び中枢神経系の良性血管障害など、脳血管狭窄及び脳血管攣縮の他の特発性原因において脳灌流を維持するためも重要である(Singhal,A.B.Top.Stroke Rehabil.11(2):1〜6ページ(2004))。
【0006】
さらに、脳血管疾患の費用は、膨大である。直接的保健費用並びに罹患及び死亡による生産性の損失の双方から、米国における脳卒中の費用は、ほぼ536億ドルに達する。(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)。
【0007】
この大きな臨床的必要性にもかかわらず、脳虚血性障害及び再灌流障害に対する現在の治療の選択肢は限定されている。脳卒中のための臨床的に承認された唯一の薬物治療である組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)は主として短い治療濃度域、並びに脳出血及び死亡の危険性が増大するなどの高いリスクプロファイルにより、全国で患者の約1%から約2%にのみ用いられている。
【0008】
虚血性脳卒中の薬物又は治療をデザインする上で、患者の脱感作を引き起こすことなく複数回投与できる薬物又は治療をデザインすることが望ましい。ある薬物に対する患者の脱感作は、その薬物を投与し、治療効果がないか、又は薬物投与回数の関数として治療効果が減少する場合に生じる。これは、例えば、心虚血を治療するために使用されるニトログリセリンなど、いくつかの薬物治療に生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、脳血管内の血流を増加させる薬物又は治療法が必要である。さらに、患者の脱感作を引き起こさず、したがって、必要に応じて長期投与を可能にし得る薬物又は治療法が必要である。本発明は、これらの必要性に対応するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
デルタタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤が、虚血事象又は他の低酸素事象により脳血流減少を経験している哺乳動物の脳血流を増加させることができることを発見した。したがって、脳血流減少を経験しているこのような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。さらに、脱感作を引き起こさないこのような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。このような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるためのキットもまた提供する。
【0011】
本発明の第1の態様において、虚血事象などの疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。一形態において、このような脳血管内の血流を増加させる方法は、それを必要とする患者にδタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量を投与することを含む。本発明のある形態において、該阻害剤は、ペプチドであり、さらにδV1−1ペプチドである。本発明の別の形態において、該阻害剤は、δV1−2ペプチド、δV1−5ペプチド又はδV5ペプチドである。本発明の方法に有利に使用できる前述のペプチドの断片又は誘導体をさらに記載する。該方法は、脳血流の減少を特徴とする病態における脳血流を有効に増加させるために有利に使用できる。例えば、該方法は、脳血流を増加させ、それによって、虚血性脳卒中などの虚血事象からの障害、或いは出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮からの障害を減少させるために使用できる。該方法は、慢性の高血圧により及び/又は特発性の原因により1つ又は複数の血管内の血流減少を経験している個体など、血流増加が望ましい任意の他の目的のために、インビボで脳血管内の血流を増加させるためにも使用できる。
【0012】
本発明の一形態において、本明細書に記載されている疾患又は病態によるか、或いは他に当業界に知られている血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法は、それを必要とする患者にδタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量を投与することを含み、該阻害剤は、該阻害剤に対して患者の脱感作を引き起こすことなく長期的投与が可能である。
【0013】
本発明のさらなる他の形態において、本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法は、該阻害剤に対して患者の脱感作を引き起こすことなく、それを必要とする患者にδタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量を複数回投与することを含む。
【0014】
本発明の第2の態様において、本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットを提供する。一形態において、キットは、本明細書に記載されているδタンパク質キナーゼCの阻害剤及び1つ又は複数の大脳血管内の血流を増加させるために該阻害剤を使用するための取扱い説明書を含む。
【0015】
例えば、出血性脳卒中後の虚血事象又は血管狭窄又は血管攣縮などの疾患又は病態による;慢性の高血圧による;及び/又は特発性原因による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供することが、本発明の目的である。
【0016】
本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法であって、薬物作用に対して患者の脱感作を引き起こさない方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0017】
本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットを提供することが、本発明のさらなる別の目的である。
【0018】
上記の代表的な態様及び実施形態に加えて、さらなる態様及び実施形態は、図面の参照、及び以下の説明の試験により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書に記載された主題の理解を助長する目的のために、本明細書の好ましい実施形態を参照にして、具体的な用語を用いて同じことを説明する。それにもかかわらず、当然のことながら、それによって主題のこのような変更及びさらなる修飾、並びに本明細書に例示される原理のさらなる適用について、範囲の限定を意図しておらず、主題に関連する当業者に通常に生じ得ることとして企図される。
【0020】
疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。該疾患又は病態は、脳血流の減少を引き起こすものである。血流減少は、1)出血性脳卒中後、或いはそれと関連する;2)慢性の高血圧による;3)再灌流による;及び/又は4)特発性原因による、虚血性脳卒中、再灌流、特発性原因又は血管狭窄或いは血管攣縮など、種々の事象から生じ得る。タンパク質キナーゼC(PKC)の選択されたイソ酵素が、このような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させることが発見されている。このようなイソ酵素が、虚血性脳卒中などの低酸素事象による障害、又は出血性脳卒中後の血管狭窄或いは血管攣縮による障害;慢性の高血圧による障害;及び/又は特発性原因による障害など、血流減少を特徴とする病態による細胞損傷、組織損傷又は臓器損傷を、死亡又は他の傷害を減少させるために有利に利用できることもまた発見されている。本明細書における「低酸素事象」又は「低酸素血症」とは、細胞、組織又は臓器が不十分な酸素供給を受けるために生じる事象を意味する。本明細書に用いられる「虚血性脳卒中」、「虚血」又は「虚血事象」とは、特定の細胞、組織又は臓器への不十分な血液供給を称す。血液供給の減少結果、細胞、組織又は臓器への不十分な酸素供給(即ち、低酸素血症)及び不十分な栄養供給となる。
【0021】
理論により制限を受けないが、虚血事象時及び/又はその事象後、閉塞血管から直接供給される組織を取り巻くか、又は虚血性コアの直接周辺部外側の脳領域にある不完全虚血領域として知られている組織の低灌流領域が存在することが考えられている。虚血コアとして知られている閉塞血管から直接供給されるこの組織領域のいくつかは、虚血事象の開始数分以内で不可逆的に損傷を受けることがあるが、該境界域組織は、血流及び/又は血管開存性を維持することによって救出できることと本明細書では考えている。
【0022】
低灌流領域はまた、慢性の高血圧による及び/又は特発性原因による出血性脳卒中後の血管狭窄を有する患者に生じ得る。血管狭窄により引き起こされる低灌流により、神経細胞損傷、膠細胞損傷及び血管損傷を誘導し、血流及び/又は血管開存性を改善することによって救出され得ることが本明細書で考えられている。本発明の一形態において、それを必要とする患者に、δタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤の治療有効量を投与する方法が含まれる。
【0023】
δPKCの阻害剤は、該阻害剤に対する脱感作を引き起こすことなく長期投与できることもまた発見されている。したがって、本発明のさらに別の形態において、本明細書に記載された疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させる方法は、δPKCの阻害剤の治療有効量を、患者に投与することを含み、該阻害剤は、該阻害剤に対する脱感作を生じることなく長期投与できる。本明細書に記載された疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットもまた提供する。一形態において、キットには、δPKCの阻害剤及び本明細書に記載された疾患又は病態による血流減少を経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させるために該阻害剤を使用するための取扱い説明書を含んでいる。
【0024】
一態様において、疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させる方法もまた提供する。一実施形態において、δPKCの阻害剤の治療有効量を、患者に投与する方法が含まれる。
【0025】
本明細書における「血流」とは、単位時間当たりにそれぞれの血管内を流れる血液の量を一般に意味する。本明細書における「血流を増加させる」とは、特定の時間での血流が、患者が、出血性脳卒中による血管狭窄又は血管攣縮を経験しているか、又は慢性の高血圧を経験している場合を含む、本明細書に記載された及び/又は当業界に知られている虚血、低酸素又は他の細胞、組織又は臓器傷害事象の発症時、又は発症後の指定された時間など、いくつかの予め決められた時点での血流に比して増加することを意味する。血流は、典型的に本明細書に記載された阻害剤による処置後に、このような処置前の血流に比して増加する。「血流減少」とは、特定の時間での血流が、患者が、例えば、出血性脳卒中による血管狭窄又は血管攣縮を経験しているか、又は慢性の高血圧を経験している場合を含む、本明細書に記載された及び/又は当業界に知られている虚血、低酸素又は他の細胞、組織又は臓器傷害事象の発症時前、又は発症後の指定された時間など、いくつかの予め決められた時点での血流に比して減少することを意味する。1つ又は複数の血管内の血流を測定するいくつかの方法が、当業界に知られている。例えば、レーザードップラー流速計(LDF)、核磁気共鳴映像法(MRI)、単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)を含む陽電子射出断層撮影法(PET)及びコンピュータ断層撮影(CT)画像法は、脳血流を測定するために使用できる(Leenders.K.L.ら、Brain 113:27〜47ページ(1990);Sakai.Fら、J.Cereb.Blood Flow Metab.5:207〜213ページ(1988);Rempp,K.A.ら、Radiology 193:637〜641ページ(1994);Baird,A.E.及びWarach,S.、J.Cereb.Blood Flow Metab.18:583〜609ページ(1998);Danus,G.ら、Radiology 213:141〜149ページ(1999);Calamante,F.ら、J.Cereb.Blood Flow Metab.19:701〜735ページ(1999);Ginsberg,M.D.ら、J.Cereb.Blood Flow Metab.2(1):89〜98ページ(1982);Fukuda,O.Neurosurgery 36(2):358〜364ページ(1995);Perez−Pinzonら、J.Neurolog.Sci.153(1):25〜31ページ(1997);Borlonganら、Brain Res.1010(1〜2):108〜116ページ(2004))。これら及び他の既知の方法は、種々の測定法を含み得るが、単位時間当たりの体積に換算して血流を提供し得ないことが認められる。例えば、LDFは、赤血球数とそれらの速度の積として定義される赤血球量と呼ばれる血流値を提供する。したがって、本明細書に記載される血流は、多種多様のフォーマット及び/又は単位で報告できる。
【0026】
δPKCの多種多様の阻害剤は、記載された方法において使用することができる。本明細書におけるδPKCの阻害剤とは、δPKCの生物学的活性又は機能を阻害する化合物を意味する。当業界に知られているように、δPKCは、細胞増殖の調節及び遺伝子発現の調節など、種々の細胞過程に関与している。この阻害剤は、例えば、δPKCの酵素活性を阻害できる。該阻害剤は、例えば、δPKCの活性化を防ぐことによってδPKCの活性を阻害できるか、又はδPKCのそのタンパク基質への結合を防ぐことができる。このような酵素活性の阻害剤は、例えば、タンパク質中のアミノ酸のリン酸化を防ぐであろう。該阻害剤は、活性化キナーゼ(RACK)に対する受容体としても知られている、そのアンカータンパク質へのδPKCの結合、及びδPKCのその細胞内局在への関連した移行を防止できる。
【0027】
該方法の一形態において、アルカロイドなどの有機分子阻害剤を利用できる。例えば、ケレリトリン(chelerythrine)、サングイルビン(sanguirubine)、ケリルビン(chelirubine)、サングイルチン(sanguilutine)、及びキリルチン(chililutine)などのベンゾフェナントリジンアルカロイドを使用できる。このようなアルカロイドは、市販品として購入できるか、及び/又は、例えば、米国特許第5,133,981号に記載されているとおり、当業界に知られている植物から単離できる。
【0028】
ビスインドリルマレイミド類の化合物もまた、δPKCの阻害剤として使用できる。代表的なビスインドリルマレイミド類としては、ビスインドリルマレイミドI、ビスインドリルマレイミドII、ビスインドリルマレイミドIII、ビスインドリルマレイミドIV、ビスインドリルマレイミドV、ビスインドリルマレイミドVI、ビスインドリルマレイミドVII、ビスインドリルマレイミドVIII、ビスインドリルマレイミドIX、ビスインドリルマレイミドX及びδPKCを阻害するのに有効である他のビスインドリルマレイミド類が挙げられる。このような化合物は、市販品として購入できるか、及び/又は、例えば、米国特許第5,559,228号及びBrennerら、Tetrahedron 44(10)2887〜2892ページ(1988)に記載されているとおり、当業者に知られている方法により合成できる。ロッテリン(rotterin)など、カマラ木から得られたδPKCの阻害に有効な抗寄生虫色素もまた利用でき、市販品として購入できるか、又は当業者により合成できる。
【0029】
該方法のある形態において、δPKCのタンパク質阻害剤を利用できる。タンパク質阻害剤は、ペプチドの形態であり得る。本明細書に使用され、当業界に知られているタンパク質、ペプチド及びポリペプチドは、ペプチド結合により結合されたアミノ酸モノマー鎖から作製された化合物を称す。別に断らない限り、ペプチドの個々の配列は、アミノ酸末端からカルボキシル末端の順序で示す。δPKCのタンパク質阻害剤は、当業者に知られている方法により得ることができる。例えば、該タンパク質阻害剤は、例えば、Williams,Paul Lloydら、Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins、CRC Press、Boca Raton、フロリダ州(1997)に記載されているとおり、当業者に知られている種々の固相合成技術を用いて化学的に合成できる。
【0030】
或いは、該タンパク質阻害剤は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor laboratory、第2版、コールドスプリングスハーバー、ニューヨーク州(1989)、Martin、Robin、Protein Synthesis:Methods and Protocols、Humana Press、トトワ、ニュージャージー州(1998)及び常時定期的に更新されているCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、編集)、John Wiley & Sonsに記載されているとおり、当業界に知られている組換え技術法により製造できる。例えば、発現ベクターを使用して適切な宿主細胞内で所望の阻害剤ペプチドを生成することができ、次いでこの生成物を、知られた方法により単離することができる。該発現ベクターとしては、例えば、所望のペプチドをコードするヌクレオチド配列が挙げられ、該ヌクレオチド配列は、プロモーター配列に対して操作可能に結合させる。
【0031】
本明細書に定義されるように、ヌクレオチド配列を別のヌクレオチド配列と機能的関係で配置させる場合、そのヌクレオチド配列は別のヌクレオチド配列と「操作可能に結合」されている。例えば、コード配列をプロモーター配列に操作可能に結合させる場合、これは一般に、該プロモーターがコード配列の転写を促進できることを意味する。操作可能に結合させるとは、結合させるDNA配列が、典型的に近接していることを意味し、2つのタンパク質コード化領域を結合させる必要がある場合、近接し、リーディングフレーム内であることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、プロモーターから数キロベース離れている場合に作用でき、イントロン配列は、種々の長さであり得るので、いくつかのヌクレオチド配列は、近接はしてないが操作可能に結合できる。さらに本明細書に定義されるように、ヌクレオチド配列は、天然又は合成の線形で連続したヌクレオチド及び/又はヌクレオシドのアレイ、並びにそれらの誘導体を参照することが意図される。用語の「コードする(encoding)」及び「コードする(coding for)」とは、ヌクレオチド配列が、転写及び翻訳の機構により細胞に情報を提供し、それにより一連のアミノ酸から特定のアミノ酸配列に構築してポリペプチドを作製できる過程を称する。
【0032】
該阻害剤は、δV1−1などのPKCのイソ酵素から誘導でき、ラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのそのアミノ酸配列は、配列番号1(SFNSYELGSL)に示されており、Genbank受託番号AAH76505に見られるラットδPKCのアミノ酸8〜17を表す。或いは、該阻害剤ペプチドは、δV1−2、δV1−5及び/又はδV5、又はδV1−1、δV1−2、δV1−5及びδV5のいくつかの組合せなどのPKCの他の断片であり得る。ラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのδV1−2のアミノ酸配列は、配列番号2(ALTTDRGKTLV)に示されており、Genbank受託番号AAH76505に見られるラットδPKCのアミノ酸35から45を表す。ラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのδV1−5のアミノ酸配列は、配列番号3(KAEFWLDLQPQAKV)に示されており、Genbank受託番号AAH76505に見られるラットδPKCのアミノ酸101から114を表す。δV5のアミノ酸配列は、配列番号4に示されており、アミノ酸11(アスパラギン酸)がプロリンで置換されていることを除いてGenbank受託番号BAA01381に見られるヒトδPKCのアミノ酸569〜626を表す。
【0033】
該阻害剤ペプチドとしては、L−アミノ酸などの天然アミノ酸又はD−アミノ酸などの非天然アミノ酸などを挙げることができる。該ペプチド内のアミノ酸は、ペプチド結合により、又は本明細書に記載された修飾ペプチドにおいては非ペプチド結合により結合できる。
【0034】
アミノ酸を結合するアミド結合に対する多種多様の修飾を成すことができ、当業界に知られている。このような修飾は、Freidinger,R.M.「Design and Synthesis of Novel Bioactive Peptides and Peptidomimetics」J.Med.Chem.46:5553ページ(2003)、及びRipka,A.S.、Rich,D.H.「Peptidomimetic Design」Curr.Opin.Chem.Biol.2:441ページ(1998)などの総説で考察されている。これらの修飾をデザインして、ペプチドの効力を増加させることによるか、又はペプチドの半減期を増加させることによりペプチドの性質を改善する。
【0035】
ペプチドの効力は、ペプチドの立体配座の可動性を制限することにより増加させることができる。これは、例えば、Zuckermanらのペプトイド(peptoid)方法及び、例えば、Goodman,M.らのアルファ修飾(Pure Appl.Chem.68:1303ページ(1996))などのアミド結合の窒素又はアルファ炭素上にさらなるアルキル基の置換などにより達成できる。アミド窒素及びアルファ炭素は共に結合して、さらなる束縛を提供することができる(Scottら、Org.Letts.6:1629〜1632ページ(2004))。
【0036】
ペプチドの半減期は、ペプチド鎖に非分解性部分を導入することにより延長できる。これは、例えば、尿素残基によるアミド結合の置換(Patilら、J.Org.Chem.68:7274〜7280ページ(2003))又はアザペプチド結合(Zega及びUrleb、Acta Chim.Slov.49:649〜662ページ(2002))により達成できる。ペプチド鎖に導入できる非分解性部分の他の例としては、該鎖に対してさらなる炭素(「ベータペプチド」、Gellman,S.H.Acc.Chem.Res.31:173ページ(1998))或いはエテン単位(Hagiharaら、J.Am.Chem.Soc.114:6568ページ(1992))の導入、又はヒドロキシエチレン部分(Patani,G.A.、Lavoie,E.J.Chem.Rev.96:3147〜3176ページ(1996))の使用が挙げられ、当業界にもよく知られている。さらに、1つ又は複数のアミノ酸は、例えば、Hirschmannらのピロリノン類(J.Am.Chem.Soc.122:11037ページ(2000))、又はテトラヒドロピラン類(Kulesza,A.ら、Org.Letts.5:1163ページ(2003))などの等配電子部分により置換できる。
【0037】
該ペプチド類は、主としてラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのアミノ酸配列を参照にして記載されているが、該ペプチド類は、当然のことながら配列番号1〜4に示されている特定のアミノ酸配列に限定されない。変異及び/又は進化の過程により、例えば、アミノ酸の挿入、置換、欠失などにより種々の長さ及び種々の構造を有するポリペプチドは、本明細書に記載されているようにアミノ酸配列相同性及び有利な機能性の理由により本明細書に示された配列に関連するか、又はそれと十分に類似させ得ることが当業者は認識するであろう。用語の「δV1−1ペプチド」、「δV1−2ペプチド」、「δV1−5ペプチド」及び「δV5ペプチド」は、本明細書に記載された特徴を有するペプチド類を一般に称するために用いられ、好ましい例としては、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4を有するペプチド類が挙げられる。本明細書に記載されている脳血流を増加させる働きをするペプチド類の変異体もまた、この定義及び本発明の範囲内に含まれる。
【0038】
本明細書に記載された阻害剤ペプチドはまた、少なくともそれと約50%の同一性を有し、脳血流を増加させる働きをする、本明細書に示されたアミノ酸配列と同様のアミノ酸配列を包含する。本発明に包含された阻害剤ペプチドのアミノ酸配列は、本明細書に示された配列番号1〜4を含むアミノ酸配列に対して、好ましくは、少なくとも約60%の同一性、さらに少なくとも約70%の同一性を有し、好ましくは、少なくとも約75%又は80%の同一性、より好ましくは、少なくとも約85%又は90%の同一性、さらに好ましくは、少なくとも約95%の同一性を有する。
【0039】
同一性パーセントは、例えば、国立予防衛生研究所から入手できる2.2.9.版などの最新のBLASTコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定できる。BLASTプログラムは、Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264〜2268ページ及びAltschulら、J.Mol.Biol.215:403〜410ページ(1990);Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5877ページ;及びAltschulら、Nucleic Acids Res.25:3389〜3402ページ(1997)に検討されているアラインメント法に基づいている。手短に言うと、BLASTプログラムは、2つの配列のうちのより短い方の全シンボル数により割られた同一整列シンボル数(即ち、ヌクレオチド又はアミノ酸)として同一性を定義する。該プログラムは、比較されるタンパク質の全長にわたって同一性パーセントを決定するために使用できる。デフォルトパラメータを提供して、例えば、プログラムによるblastpにおいてショートクエリー配列により検索を最適化する。該プログラムはまた、Wootton及びFederhen、Computers and Chemistry 17:149〜163ページ(1993)のSEGプログラムにより決定されたクエリー配列のマスクオフセグメントに対するSEGフィルタの使用を可能にする。
【0040】
したがって、本明細書に記載された阻害剤ペプチドの断片又は誘導体もまた、有利に利用でき、それらは、脳血流を増加させるために本明細書に記載された配列番号1〜4に対して指定の同一性パーセントを有するアミノ酸配列を含む。例えば、δPKCを阻害するのに有効であり、本明細書に記載されている哺乳動物の脳血流を増加させるδV1−1、δV1−2、δV1−5及びδV5の断片又は誘導体もまた、本発明に有利に利用できる。
【0041】
本明細書に記載されたアミノ酸配列において、保存的アミノ酸置換を成すことができ、本発明に有利に利用し得るペプチド誘導体を得ることができる。当業界に知られており、本明細書に参照される保存的アミノ酸置換は、例えば、構造、サイズ及び/又は化学的性質に関して同様の側鎖を有するアミノ酸によりタンパク質内のアミノ酸を置換することを含む。例えば、各々以下の群内のアミノ酸は、同一群の他のアミノ酸と交換できる:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンなどの脂肪族側鎖を有するアミノ酸;セリン及びトレオニンなどの非芳香族ヒドロキシル含有側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン酸及びグルタミン酸などの酸性側鎖を有するアミノ酸;グルタミン及びアスパラギンなどのアミド側鎖を有するアミノ酸;リシン、アルギニン及びヒスチジンなどの塩基性アミノ酸;フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンなどの芳香族環側鎖を有するアミノ酸;及びシステイン並びにメチオニンなどの硫黄含有側鎖を有するアミノ酸。さらに、アスパラギン酸及びグルタミン酸などの酸性側鎖を有するアミノ酸は、アスパラギン及びグルタミンなどのアミド側鎖を有するアミノ酸と交換可能であることが本明細書で考えられている。
【0042】
したがって、δPKCの有効な阻害及び脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV1−1の修飾としては、下段に示される配列番号1に対する以下の変更:tFNSYELGSL(配列番号5)、aFNSYELGSL(配列番号6)、SFNSYELGtL(配列番号7)が挙げられ、tFNSYELGtL(配列番号8)などのこれら3つの置換の任意の組合せを含む。他の可能性のある修飾としては、SyNSYELGSL(配列番号9)、SFNSfELGSL(配列番号10)、SNSYdLGSL(配列番号11)、SFNSYELpSL(配列番号12)が挙げられる。
【0043】
本発明において機能を果たすペプチドを生じると予想される他の可能な修飾は、SFNSYEiGSv(配列番号13)、SFNSYEvGSi(配列番号14)、SFNSYELGSv(配列番号15)、SFNSYELGSi(配列番号16)、SFNSYEiGSL(配列番号17)、SFNSYEvGSL(配列番号18)、aFNSYELGSL(配列番号19)、上記の修飾の任意の組合せ、及び本明細書に記載された他の保存的アミノ酸置換などの1つ又は2つのLからI又はVへの変更が挙げられる。
【0044】
δV1−1の断片及び断片の修飾:YELGSL(配列番号20)、YdLGSL(配列番号21)、fdLGSL(配列番号22)、YdiGSL(配列番号23)、iGSL(配列番号24)、YdvGSL(配列番号25)、YdLpsL(配列番号26)、YdLgiL(配列番号27)、YdLGSi(配列番号28)、YdLGSv(配列番号29)、LGSL(配列番号30)、iGSL(配列番号31)、vGSL(配列番号32)、LpSL(配列番号33)、LGiL(配列番号34)、LGSi(配列番号35)、LGSv(配列番号36)なども企図されている。
【0045】
したがって、さらに本明細書に用いられる用語の「δV1−1ペプチド」とは、配列番号1によって識別されるペプチドを称し、限定はしないが、配列番号5〜19に示されたペプチドなど、配列番号1のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、限定はしないが、配列番号20〜36により例示されるように、本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するこれらのペプチドの任意の断片を称す。
【0046】
δPKCの有効な阻害及び脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV1−2の修飾としては、下段に示される配列番号2に対する以下の変更:ALsTDRGKTLV(配列番号37)、ALTsDRGKTLV(配列番号38)、ALTTDRGKsLV(配列番号39)、及びこれら3つの置換の組合せのALTTDRpKTLV(配列番号40)、ALTTDRGrTLV(配列番号41)、ALTTDkGKTLV(配列番号42)、ALTTDkGkTLV(配列番号43)、1つ又は2つのLからI又はVへの変換並びにVからI又はLへの変換及び上記の任意の組合せが挙げられる。特に、L及びVは、V、L、IRで置換でき、D、Eは、N又はQで置換できる。当業者は、本明細書の説明に鑑みてδV1−2の他の誘導体を達成するために成され得る他の保存的置換に気づくであろう。
【0047】
したがって、さらに本明細書に用いられる用語の「δV1−2ペプチド」とは、配列番号2によって識別されるペプチドを称し、限定はしないが、配列番号37〜43に示されたペプチドなど、配列番号2のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するこれらのペプチドの任意の断片を称す。
【0048】
δPKCの有効な阻害及び脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV1−5の修飾としては、下段に示される配列番号3に対する以下の変更:rAEFWLDLQPQAKV(配列番号44)、KAdFWLDLQPQAKV(配列番号45)、KAEFWLeLQPQAKV(配列番号46)、KAEFWLDLQPQArV(配列番号47)、KAEyWLDLQPQAKV(配列番号48)、KAEFWiDLQPQAKV(配列番号49)、KAEFWvDLQPQAKV(配列番号50)、KAEFWLDiQPQAKV(配列番号51)、KAEFWLDvQPQAKV(配列番号52)、KAEFWLDLnPQAKV(配列番号53)、KAEFWLDLQPnAKV(配列番号54)、KAEFWLDLQPQAKi(配列番号55)、KAEFWLDLQPQAKl(配列番号56)、KAEFWaDLQPQAKV(配列番号57)、KAEFWLDaQPQAKV(配列番号58)、KAEFWLDLQPQAKa(配列番号59)が挙げられる。
【0049】
KAEFWLD(配列番号60)、DLQPQAKV(配列番号61)、EFWLDLQP(配列番号62)、LDLQPQA(配列番号63)、LQPQAKV(配列番号64)、AEFWLDL(配列番号65)、及びWLDLQPQ(配列番号66)を含むδV1−5の断片もまた企図されている。
【0050】
δV1−5の断片に対する修飾もまた企図されており、完全長断片並びに本明細書に記載された他の保存的アミノ酸置換について示された修飾を含む。さらに本明細書に用いられる用語の「δV1−5ペプチド」とは、配列番号3を称し、配列番号3のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、並びに本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するそれらの断片を称す。
【0051】
δPKCの有効な阻害及び本明細書に記載されている脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV5の修飾としては:Qにより3位のRを置換すること;Tにより8位のSを置換すること;Wにより15位のFを置換すること;Lにより6位のVを置換すること;Eにより30位のDを置換すること;Rにより31位のKを置換すること;Dにより53位のEを置換すること、並びにこれらの修飾の種々の組合せ、及び本明細書の説明に鑑みて当業者により成し得る他の修飾など、1つ又は複数の保存的アミノ酸置換を作製することが挙げられる。
【0052】
δV1−5の断片もまた企図されており、例えば、以下の:SPRPYSNF(配列番号67)、RPYSNFDQ(配列番号68)、SNFDQEFL(配列番号69)、DQEFLNEK(配列番号70)、FLNEKARL(配列番号71)、LIDSMDQS(配列番号72)、SMDQSAFA(配列番号73)、DQSAFAGF(配列番号74)、FVNPKFEH(配列番号75)、KFEHLLED(配列番号76)、NEKARLSY(配列番号77)、RLSYSDKN(配列番号78)、SYSDKNLI(配列番号79)、DKNLIDSM(配列番号80)、PFRPKVKS(配列番号81)、RPKVKSPR(配列番号82)、及びVKSPRPYS(配列番号83)が挙げられる。
【0053】
δV5の断片に対する修飾もまた企図されており、完全長断片並びに本明細書に記載された他の保存的アミノ酸置換に示された修飾を含む。さらに本明細書に用いられる用語の「δV5ペプチド」とは、配列番号4を称し、配列番号4のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、並びに本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するそれらの断片を称す。本明細書の治療に使用される阻害剤は、本明細書に記載されているペプチドの組合せを含むことができる。
【0054】
δPKCの阻害剤として作用できる小分子など、他の好適な分子又は化合物は、当業界に知られた方法により測定できる。例えば、このような分子は、δPKCのその細胞内局在への移行を阻害する能力により同定できる。このようなアッセイは、例えば、蛍光標識酵素及び蛍光顕微鏡を利用して、特定の化合物又は薬剤が、δPKCの細胞移行を促進させ得るかどうかを判定することができる。このようなアッセイは、例えば、Schechtman,D.ら、J.Biol.Chem.279(16):15831〜15840ページ(2004)に記載されており、選択された抗体の使用を含んでいる。細胞移行を測定する他のアッセイとしては、Dorn,G.W.IIら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96(22):12798〜12803ページ(1999)並びにJohnson,J.A.及びMochly−Rosen,D.Circ Res.76(4):654〜63ページ(1995)に記載されているウェスタンブロット解析が挙げられる。
【0055】
該阻害剤は、融合タンパク質の一部とすることによって修飾することができる。融合タンパク質としては、阻害剤ペプチドの細胞取込みを増加させる機能を果たすか、治療効果などの別の所望の生物学的効果を有するか、又はこれらの機能の双方を有し得るタンパク質又はペプチドを挙げることができる。例えば、δV1−1ペプチド、又は本明細書に記載された他のペプチドを、所望の生物学的応答を誘発するサイトカイン又は他のタンパク質にコンジュゲートさせるか、又は結合させることが望ましいと考えられる。融合タンパク質は、当業者に知られた方法により生成し得る。阻害剤ペプチドを、当業界に知られた種々の方法で別のペプチドに結合させるか、又はコンジュゲートさせることができる。例えば、阻害剤ペプチドを、細胞透過性キャリヤペプチド又は本明細書に記載された他のペプチドなどのキャリヤペプチドに架橋により結合でき、融合タンパク質の両ペプチドは、それらの活性を保持する。さらなる例として、該ペプチドは、1つのペプチドのC末端から他のペプチドのN末端にアミド結合により互いに結合、又はコンジュゲートさせることができる。阻害剤ペプチドと融合タンパク質の他のメンバーとの間の結合は、ペプチド結合により非開裂性とするか、例えば、エステル又は当業界に知られている他の開裂性結合により開裂性とすることができる。
【0056】
さらに、本発明の他の形態において、細胞透過性キャリヤペプチド、又は阻害剤ペプチドの細胞取込みを増加し得る他のペプチドなどのキャリヤタンパク質は、例えば、配列番号84(CRQIKIWFQNRRMKWKK)に示され、Theodore,L.ら、J.Neurosci.15:7158〜7167ページ(1995);Johnson,J.A.ら、Circ.Res.79:1086ページ(1996)に検討されているN末端Cys−Cys結合による架橋により阻害剤に結合し得るショウジョウバエ−アンテナペディア(Drosophila Antennapedia)のホメオドメイン誘導配列であり得る。或いは、該阻害剤は、Vivesら、J.Biol.Chem.272:16010〜16017ページ(1997)、米国特許第5,804,604号Genbank受託番号AAT48070に記載されている1型ヒト免疫不全症ウイルスから;又はMitchellら、J.Peptide Res.56:318〜325ページ(2000)及びRothbardら、Nature Med.6:1253〜1257ページ(2000)に記載されているポリアルギニンにより、トランス活性化調節タンパク質(Tat)誘導輸送ポリペプチド(配列番号85、YGRKKRRQRRRに示されるTatのアミノ酸47〜57からなど)により修飾できる。阻害剤の細胞取込みを増加させるために、該阻害剤は、当業者に知られた他の方法により修飾できる。
【0057】
該阻害剤は、種々の形態で有利に投与できる。例えば、該阻害剤は、舌下投与用の錠剤形態、液剤又は乳濁剤で投与できる。該阻害剤はまた、製薬的に許容できる担体又は媒体により混合できる。該媒体は、例えば、水、生理食塩水又は他の水溶液などの非経口投与に好適な液剤であっても、油剤又はエーロゾル剤であってもよい。該媒体としては、静脈内投与又は動脈内投与用に選択でき、当業界に知られた保存剤、制菌剤、緩衝剤及び抗酸化剤を含むことができる滅菌水溶液又は非水溶液を挙げることができる。エーロゾル形態において、該阻害剤は、最適の分散性のために当業界に知られている粒径、形態及び表面エネルギーなどの性質を有する粉剤として使用できる。錠剤形態において、固体媒体としては、例えば、ラクトース、澱粉、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、合成又は天然カルシウムアロケート、酸化マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、重炭酸ナトリウム、乾燥酵母又はそれらの組合せが挙げられる。錠剤は、経口溶解を促進する1種又は複数種の試剤を含むことが好ましい。該阻害剤は、当業界に知られた他の同様の薬物を投与する形態でも投与できる。
【0058】
利用される該阻害剤は、阻害剤に対する患者の脱感作を引き起こすことなく、長期投与することが可能である。即ち、該阻害剤は、複数回又は1日、2日又は3日以上;1週、2週、又は3週以上又は数カ月の持続期間後、患者に投与でき、それぞれ血管内の血流の増加を引き起こし続ける。
【0059】
該阻害剤は、種々の経路により患者に投与できる。例えば、該阻害剤は、腹腔内;静脈内;動脈内;皮下;又は筋肉内など非経口的に投与できる。該阻害剤はまた、直腸及び膣内などの粘膜表面;鼻腔内;経口又は鼻腔内の吸入;舌下などの経口;眼内及び経皮を経て投与できる。これらの投与経路の組合せもまた、想定される。好ましい投与様式は、閉塞又は部分的閉塞大脳動脈、又はこのような閉塞又は部分的閉塞動脈に結合する動脈を通した注入液又は再灌流による。本明細書における「部分的閉塞大脳動脈」とは、脳血管に影響を及ぼす血流減少事象後、このような事象又は発作前の血流と比較して、血流が減少している脳動脈を意味する。このような血流減少事象としては、虚血性発作又は他の低酸素事象、例えば、出血性脳卒中に続いて起こる可能性がある血管狭窄又は血管攣縮が挙げられる。その血管に関するベースライン又は標準的血流率と比較して、血流が減少する大脳動脈は、「部分的閉塞大脳動脈」の定義内に含まれる。このような血流率は、当業者に知られている。
【0060】
該阻害剤の治療有効量が提供される。本明細書に用いられる該阻害剤の治療有効量は、哺乳動物の脳血管内の血流を増加させ、及び/又は出血性脳卒中後;慢性の高血圧により;及び/又は特発性原因によるなど、虚血性発作、血管狭窄又は血管攣縮を含む種々の細胞損傷事象により生じる細胞損傷、組織損傷或いは臓器損傷又は死亡を減少させるのに必要な阻害剤の量である。当業界に知られているように、この量は、投与時期(例えば、虚血事象前、該事象の発症時又は発症後)、投与経路、治療期間、使用される具体的な阻害剤、及び患者の健康状態によって変わる。当業者は、最適な投与量を判定できるであろう。一般に、典型的に利用される阻害剤の量は、例えば、約0.0005mg/kg体重から約50mg/kg体重であり得るが、約0.05mg/kgから約0.5mg/kgまでが好ましい。
【0061】
阻害剤の量は、例えば、虚血事象の発症時、又は前述の事象の発症後の指定された時間後、即ち発症後約24時間までなどの治療の前の血流と比較して、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約25%、さらに少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%、さらに少なくとも約100%増加させるのに十分であることが好ましい。前述の事象の発症時、又は該事象の発症の約2時間後、約3時間後、或いは約6時間後と比較した場合、典型的に上記の列挙されたレベルにより血流は増加する。当然のことながら、上記に列挙されたものよりも大きな血流増加もまた得られる可能性がある。
【0062】
血流が増加され得る血管は、血流増加が望ましいいずれの脳血管をも含む。また、このような血管としては、閉塞に感受性であり得る全面的又は部分的に閉塞され得るもの、並びに虚血性脳卒中などの低酸素事象、グルコースなどの細胞栄養物の送達を減少させる血管狭窄又は血管攣縮などの他の事象にさらされた血管が挙げられる。このような血管としては、例えば、前大脳動脈、中大脳動脈及び後大脳動脈などの脳動脈が挙げられる。脳血管、又は他の脳血管に血液を供給する他の血管はまた、本明細書に記載されるように血流を増加させるために治療できる。このような血管としては、例えば、内頚動脈などの椎骨動脈及び頚動脈、通常の頚動脈及び外頚動脈が挙げられる。前述の動脈から分枝している動脈内の血流もまた、本発明に記載されているように増加させ得る。例えば、中大脳動脈から分枝しているレンズ核線条体動脈は、本明細書に記載された方法に従って治療できる。さらに、脳微小血管の毛細血管及び細動脈において血流を増加でき、このような血管は、当業界によく知られている。脳血管内の脳血流を増加させる治療に受入れられるこの脳血管のリストは、十分ではない。本明細書の説明に鑑みて、当業者は、本明細書に記載された方法に従って治療し得る他の脳血管に気づいている。
【0063】
治療を受ける患者は典型的に、虚血事象又は低酸素事象などの多くの事象のうちの1つから脳血流減少を起こしやすいか、又は経験している患者、或いは他にこのような事象の結果、細胞損傷、組織損傷又は臓器損傷を招く可能性のある患者など、このような治療を必要とする患者である。該患者としては、出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮;慢性の高血圧及び/又は特発性原因により脳血流減少を経験している者、又は経験を受けやすい者を挙げることができる。該患者はさらに、典型的には脊椎動物、好ましくはヒトを含む哺乳動物である。治療を受けることができる他の動物としては、ウマ、ヒツジ、ウシ、及びブタなどの家畜動物が挙げられる。治療を受けることができる他の代表的な動物としては、ネコ、イヌ;マウス、ラット、スナネズミ、ハムスター及びモルモットなどのげっ歯目からのものなどのげっ歯類;ウサギ及び野ウサギなどのウサギ目のメンバー、このような治療から利益を得ることができる任意の他の哺乳動物が挙げられる。患者は、好ましくは虚血事象の発症時に、インビボで治療されることが好ましい。患者はまた、約1分から約10時間後、好ましくは約1分から約2時間の間、さらに好ましくは、低酸素及び/又は細胞栄養物の欠乏に導く虚血事象又は他の事象の発生後、約24時間以内に治療を受けることができる。
【0064】
患者は典型的に、脳血流増加の利益を得ることができる者である。例えば、虚血性脳卒中などの低酸素事象を経験した患者、又は慢性の高血圧及び/又は特発性原因による出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮を有する患者は、本明細書に既に記載された不完全虚血領域に対する血流増加の利益を得ることができる。
【0065】
可能性として救出し得る組織である不完全虚血領域は、当業者に知られている方法により患者に確認できる。例えば、不完全虚血領域は、Duong,T.Q.及びFisher,M.、Curr.Atheroscl.Rep.6:267〜273ページ(2004)に記載されている灌流加重画像及び拡散荷重画像により規定された異常領域の差異を観察することにより確認できる。規定された領域の差異は灌流/拡散ミスマッチとして知られている。灌流/拡散ミスマッチ領域は不完全虚血領域に近似すると推定される。血管狭窄及び血管攣縮は通常、当業界に知られているデジタル減法血管造影法を用いて検出される。
【0066】
本発明のさらに別の態様において、例えば、出血性脳卒中後の虚血事象、血管狭窄又は血管攣縮などの疾患又は病態による;慢性の高血圧による;及び/又は特発性原因による血流減少を特徴とするか、又は経験している哺乳動物などの脊椎動物の脳血管内の血流増加用キットを提供する。一形態において、キットには、δPKCの阻害剤及びそれぞれの脳血管内の血流を増加させるために本明細書に記載された阻害剤を使用するための取扱い説明書を含む。本発明のある形態において、阻害剤は、本明細書に記載されているδV1−1、δV1−2、δV1−5又はδV5ペプチドであるか、又は本明細書に記載されたこれらペプチド類の断片或いは誘導体であるか、又はこれらペプチド類、それらの断片及び/又はそれらの誘導体のいくつかの組合せである。キットにはさらに、該阻害剤を投与するための当業界に知られたシリンジ又は他の同様のデバイスを含む。キットの構成材料は、ボックスなどの容器に入れられ、各構成材料は、ボックス内で互いに比較的に間隔をおいて配置されている。阻害剤は、滅菌バイアル又は同様の容器内に含ませることができる。阻害剤が、乾燥又は凍結乾燥形態で提供され、再構成を必要とする場合、キットにはさらに、滅菌バイアル又は同様の容器内に、本明細書で既に記載された製薬的に許容できる担体を含む。好ましい担体は、阻害剤を溶解させるために本明細書に記載された滅菌液である。
【0067】
ここで、上記の本発明を例証する具体的な実施例を参照する。当然のことながら、実施例は、好ましい実施形態を例証するために提供され、それによって特許請求の範囲を限定する意図はない。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
虚血性/再灌流障害にさらされたラットにおける脳血流の増加
本実施例は、δV1−1ペプチドによりラットを処置することによって、ラット中大脳動脈において血流増加が達成されたことを示す。
【0069】
材料
オスSprague−Dawleyラット(280〜320g;n=8)を、脳虚血及び再灌流、その後の脳血流をモニタリングするために用いた。Tat又はδV1−1ペプチドを合成し、既に記載されているように(Chenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 25(20):11114〜11119ページ(2001);Inagakiら、Circulation 11(108):2304〜2307ページ(2003))、Cys S−S結合を介して結合させた。手法直後にイソフルランの過剰投与によりラットを殺処理した。
【0070】
方法
虚血及び再灌流は、Maierら、J.Neurosurg.94(1):90〜96ページ(2001)に記載されている閉塞腔内縫合を用いてオスSprague−Dawleyラットに誘導した。手短に言うと、フレームにより丸みを付けたチップを有するコーティングのない3−0ナイロンモノフィラメント縫合糸の30mm長のセグメントを外頚動脈の断端に挿入し、二分枝から内頚動脈に19〜20mm進行させて中大脳動脈(MCA)の小孔を閉塞させた。縫合糸の配置後、創傷を閉じ、動物をケージ内に2時間戻した。この時間後、動物を再度麻酔にかけ、縫合糸を取り除き、脳の再灌流を可能にした。
【0071】
再灌流直後、ラットを定位固定枠内に置き、虚血領域に対応する同側半球上のブレグマに対し頭蓋1mm後方及び6mm側方に骨孔をあけた。脳血流(CBF)は、マイクロマニピュレータにより制御されたレーザードップラープローブを用いてこの骨孔を経て測定した(Laserflo BPM403Aレーザードップラー流量計、Vasamedic、セントポール、ミネソタ州)。ディスプレイはデジタルのみであり、1秒当たり8つのデータポイントを採取し、0.1秒毎に移動平均データを得るために設定した(Perez−Pinzonら、J.Neurolog.Sci.153(1):25〜31ページ(1997):Borlonganら、Brain Res.1010(1〜2):108〜116ページ(2004))。CBFリーディングは、再灌流の発生から30分で開始した。ベースラインCBFを確立するための20〜30分の時間後、δPKC阻害剤であるδV1−1ペプチド(送達用にTatに結合した)を腹腔内ボーラスにより注入し、血流をさらに20〜30分間モニターした。偽性処理動物は、虚血を受けないが、その他は同様に処置された。
【0072】
結果
δV1−1ペプチドのボーラス腹腔内送達は、図2に示されるように虚血/再灌流障害にさらされたラットにおいて、30分以内に脳血流を増加させることが判明した。偽性処置動物は、図1に見られるように送達30分以内に、δV1−1ペプチドによる処置後の血流に変化を示さなかった。さらに、生理食塩単独又はTat対照ペプチドの送達は、偽性又は虚血処置動物のいずれにおいてもCBFに対して効果を示さなかった(データは示していない)。
【0073】
(実施例2)
虚血/再灌流障害にさらされたラットにおける脳血流に対するδPKCの阻害剤の長期投与の効果
本実施例により、虚血/再灌流障害にさらされ、δV1−1ペプチドにより複数回処置されたラットは、阻害剤に対して脱感作にならなかったことを示している。実験は、実施例1に記載されたとおり実施した。
【0074】
結果
δV1−1ペプチドの反復腹腔内投与により、図3に示されるように血流をさらに増加した。
【0075】
(実施例3)
虚血/再灌流障害にさらされたラットにおける脳組織の顕微鏡検査
本実施例は、脳卒中後のδV1−1−TATの送達が、脳血管病状を改善することを示している。より具体的には、中大脳動脈の閉塞後のδV1−1−TATの腹腔内送達により、開存微小血管数を増加させ、脳卒中後の虚血領域における微小血管病状を改善した。
【0076】
方法
Sprague−Dawleyラットに、120分MCA閉塞を行い、次いで4時間の再灌流を行った。再灌流の発生時に、ラットはボーラス腹腔内注入によりTAT又はδV1−1−TATペプチドにより処置した(1mL中0.2mg/kg、1群当たりn=4)。偽性動物を同様に処置したが、虚血は行わず、ペプチドも投与しなかった(N=4)。再灌流期間後、ラットを高濃度のイソフルランで麻酔し、0.7%のNaCl/PBSを用いてトランス心灌流を行い、次いで0.7%のNaCl/PBS中4%のホルムアルデヒドを投与した。
【0077】
脳を取り出し、0.1Mのカコジル酸ナトリウム緩衝液、pH7.3中の2%ホルムアルデヒド/2%グルタルアルデヒド中、4℃で一晩維持した。次いで、脳切片(約1mm3)を、同側皮質(レーザードップラー流量計により測定された領域に相当する)上のブレグマに対し約1mm前方/約6mm側方で皮質表面から切開した。組織を、1%四酸化オスミウム中1時間、後固定し、水で洗浄し、1%酢酸ウラニル液で染色した。組織をエタノール勾配、次いで100%酸化プロピレンを用いて脱水し、Epon and Embed 812媒体に浸潤させ、鋳型に入れ、スライスする前に65℃で一晩重合化させた。切片(75nmと90nm)を、formvar/CarbonでコーティングされたCuグリッド上に取り上げ、アセトン中1:1超飽和酢酸ウラニル(7.7%)中、15秒間着色し、次いで0.2%クエン酸鉛中3分から4分間染色した(すべての試薬はElectron Microscopy Sciences、ペンシルバニア州から入手)。組織は、JEOL 1230透過型電子顕微鏡(TEM)により80kVで観察し、Gatan Multiscan 791デジタルカメラを用いて写真を撮った。
【0078】
開存血管数を定量するために、10〜15個の非重複視野(1200×倍率)を、各動物から得た2〜3枚のスライスから写真に撮った。血管を確認し、管腔及び内皮層が明らかな場合、カウントした。血管は、より高い倍率でこれらの視野にわたって走査することによって確認した。血管数の評価は、処置群に対して盲検化された観察者により実施した。次いで1視野当たりの血管数を、各動物群(1群当たりn=4)に対して平均した。群間の統計的な差は、対のないt検定を用いて解析した。高倍率画像(5000〜15000×)を撮って、微小血管形態を評価した。
【0079】
結果
虚血領域(ブレグマに対して1mm後方/6mm側方)に対応する脳皮質の定義された領域を調べた。最初に低倍率画像(1200×)を用いて微小血管数を定量し、これらの画像を図4A〜4Cに示している。認識可能な微小血管管腔及び周囲の内皮層が確認される場合、血管をカウントした。TATペプチドにより処置した虚血動物において、δV1−1−TAT処置組織と比較して血管数の有意な減少が見られた(TAT、1.6±0.6本の血管/視野;δV1−1−TAT。3.1±0.6本の血管/視野;p<0.05;n=4;図5及び図4D〜4F)。虚血にさらされ、次いで再灌流でδV1−1−TAT処置された動物の微小血管数は、偽性動物のものと同様であった(偽性、3.8+/−0.4本の血管/視野;n.s.;n=4;図5及び図4C対図4A)。
【0080】
健常な微小血管構造の特徴を、偽性対照動物の対照組織において高倍率TEMを用いて観察した。これらは、無傷の基底層、明瞭で開存性血管管腔並びに異常な血管周囲空間の欠如を含んだ(図4D、4G、4J)。虚血動物由来の脳組織における超構造損傷の証拠(図4I、4J)により、血管浮腫の兆候、膨潤星状細胞のエンドフット過程、拡大内皮細胞核、基底層の破壊、血管管腔の圧縮、及び管腔表面の不規則性などが見られた。しかしながら、再灌流のみでδV1−1−TAT(0.2mg/kg)により処置された虚血動物において、微小血管構造は、有意に損傷が少なく現れ(図4F、4I、4L);いくつかの星状細胞のエンドフットの膨潤が、少数の血管に見られたが(図4F)、大部分の血管は、正常に見えた(図4I、4L)。
【0081】
多くの代表的な態様及び実施形態を上記に検討したが、当業者は、ある一定の修飾、置換、付加及びそれらの副次的組合せを認識するであろう。したがって、以下の添付請求項及び以後導入された請求項は、それらの真の精神及び範囲内にあるすべてこのような修飾、置換、付加及び副次的組合せを含むように解釈されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1に十分に示されるように、δV1−1ペプチドの治療量により処置された偽性(非脳卒中)ラットにおける時間の関数としての脳血流(CBF)を示すグラフである。矢印は、δV1−1ペプチドの送達を示す。偽性処置ラットは、δV1−1ペプチドにより処置し、CBFは、すべて実施例1に記載されたとおり測定した。
【図2】実施例1に十分に示されるように、中大脳動脈(MCA)閉塞による虚血性/再灌流障害に供され、δV1−1ペプチドの治療量により処置されたラットにおける時間の関数としてのCBFを示すグラフである。矢印は、δV1−1ペプチドの送達を示す。
【図3】実施例2に十分に示されるように、虚血性/再灌流障害にさらされ、δV1−1ペプチドの治療量の反復投与で処置されたラットにおける時間の関数としてのCBFを示すグラフである。矢印は、δV1−1ペプチドの送達を示す。
【図4】虚血性/再灌流障害に供されない対照(健常)ラットからの脳組織(図4A、4D、4G、4J)、及び中大脳動脈(MCA)閉塞による虚血性/再灌流障害にさらされ、TATペプチド(図4B、4E、4H、4K)又はδV1−1−TAT(図4C、4F、4I、4L)により処置されたラットからの脳組織を示すコンピュータ生成顕微鏡写真である。
【図5】中大脳動脈(MCA)閉塞による虚血性/再灌流障害にさらされ、TATペプチド又はδV1−1−TAT−処置組織により処置された動物に関する顕微鏡視野における平均微小血管数を示す棒グラフである。偽性処置動物は、同様に処置されたが、虚血性/再灌流障害又はペプチドの送達に供されなかった。
【技術分野】
【0001】
米国連邦委託研究に関する表明
本研究は、助成金番号NS44350の下で国立予防衛生研究所により一部支援されている。したがって、米国政府は本発明のある権利を有することがある。
【0002】
本明細書に記載された主題は、血流減少を経験している血管内の脳血流を増加させる方法に関する。さらに具体的には、該主題は、デルタタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤を投与することによって血管内の脳血流を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
虚血性脳卒中は、脳への血流が妨げられた場合に生じる。脳卒中及び心拍停止などの疾患による脳虚血及び再灌流障害は、米国における身体障害及び死亡の主要原因である。米国のみで年間70万超の脳卒中が発生しており、2001年の時点で、480万人が脳卒中の後遺症を有して生存している。脳卒中の全死亡率は、ほぼ58%であり、これらの患者のほぼ50%が、病院で死亡している(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)。
【0004】
虚血性脳卒中に加えて、出血性脳卒中(脳内及びくも膜下タイプなど)は、すべての脳卒中事象の12%となっている。虚血性脳卒中とは異なり、出血性脳卒中は、血管系から実質空間、くも膜下空間又は硬膜下空間への血液喪失による。このタイプの脳卒中は、虚血性脳卒中と比較して、はるかにより高い死亡率(30日以内に37〜38%の死亡率)を招く(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)。出血性脳卒中は、慢性遅発性脳血管狭窄又は脳血管攣縮を生じさせる。実際、くも膜下出血の治療を受けている患者の2/3は、出血後3日目から13日目の間に脳血管攣縮を起こす。Suhardja,A.、Nature Clin.Prac.、Cardiovasc.Med.1(2):110〜116ページ(2004)。脳血管機能におけるこれらの変化は、より大きな直径の血管(例えば、脳底動脈、中大脳動脈)、及び毛細血管並びに細動脈などのより小さな直径の血管の双方に生じる。血管攣縮は一部、血管拡張物質である酸化窒素(NO)を隔離させるオキシヘモグロビンなど、血管系の周囲にある反応性血液産物の蓄積による。血管狭窄及び血管攣縮など、脳血流の自己調節の喪失により、血流が制限されることから脳損傷の増大に至り、損傷周囲の領域の脳損傷の悪化を引き起こし、出血性脳卒中患者の転帰不良の一因となる。
【0005】
脳血管自己調節障害の他の原因としては、慢性の高血圧又は高血圧症が挙げられる。高血圧症は、アメリカ人の5人にほぼ1人(成人の4人に1人)(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)が罹患しており、うっ血性心不全を含む他の慢性疾患に加えて、脳卒中障害の重要な危険因子である。高血圧症は、脳血流の減少と相関付けられている(Rodriguez,G.ら、Stroke 18(1):13〜20ページ(1987))。したがって、十分な脳灌流の維持は、これらの危険性のある患者において脳保護を管理する上で重要である。脳血流の制御は、偏頭痛、妊娠、コール−フレミング症候群及び中枢神経系の良性血管障害など、脳血管狭窄及び脳血管攣縮の他の特発性原因において脳灌流を維持するためも重要である(Singhal,A.B.Top.Stroke Rehabil.11(2):1〜6ページ(2004))。
【0006】
さらに、脳血管疾患の費用は、膨大である。直接的保健費用並びに罹患及び死亡による生産性の損失の双方から、米国における脳卒中の費用は、ほぼ536億ドルに達する。(アメリカ心臓協会の心疾患及び脳卒中統計、2004年更新)。
【0007】
この大きな臨床的必要性にもかかわらず、脳虚血性障害及び再灌流障害に対する現在の治療の選択肢は限定されている。脳卒中のための臨床的に承認された唯一の薬物治療である組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)は主として短い治療濃度域、並びに脳出血及び死亡の危険性が増大するなどの高いリスクプロファイルにより、全国で患者の約1%から約2%にのみ用いられている。
【0008】
虚血性脳卒中の薬物又は治療をデザインする上で、患者の脱感作を引き起こすことなく複数回投与できる薬物又は治療をデザインすることが望ましい。ある薬物に対する患者の脱感作は、その薬物を投与し、治療効果がないか、又は薬物投与回数の関数として治療効果が減少する場合に生じる。これは、例えば、心虚血を治療するために使用されるニトログリセリンなど、いくつかの薬物治療に生じる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、脳血管内の血流を増加させる薬物又は治療法が必要である。さらに、患者の脱感作を引き起こさず、したがって、必要に応じて長期投与を可能にし得る薬物又は治療法が必要である。本発明は、これらの必要性に対応するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
デルタタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤が、虚血事象又は他の低酸素事象により脳血流減少を経験している哺乳動物の脳血流を増加させることができることを発見した。したがって、脳血流減少を経験しているこのような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。さらに、脱感作を引き起こさないこのような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。このような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるためのキットもまた提供する。
【0011】
本発明の第1の態様において、虚血事象などの疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。一形態において、このような脳血管内の血流を増加させる方法は、それを必要とする患者にδタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量を投与することを含む。本発明のある形態において、該阻害剤は、ペプチドであり、さらにδV1−1ペプチドである。本発明の別の形態において、該阻害剤は、δV1−2ペプチド、δV1−5ペプチド又はδV5ペプチドである。本発明の方法に有利に使用できる前述のペプチドの断片又は誘導体をさらに記載する。該方法は、脳血流の減少を特徴とする病態における脳血流を有効に増加させるために有利に使用できる。例えば、該方法は、脳血流を増加させ、それによって、虚血性脳卒中などの虚血事象からの障害、或いは出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮からの障害を減少させるために使用できる。該方法は、慢性の高血圧により及び/又は特発性の原因により1つ又は複数の血管内の血流減少を経験している個体など、血流増加が望ましい任意の他の目的のために、インビボで脳血管内の血流を増加させるためにも使用できる。
【0012】
本発明の一形態において、本明細書に記載されている疾患又は病態によるか、或いは他に当業界に知られている血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法は、それを必要とする患者にδタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量を投与することを含み、該阻害剤は、該阻害剤に対して患者の脱感作を引き起こすことなく長期的投与が可能である。
【0013】
本発明のさらなる他の形態において、本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法は、該阻害剤に対して患者の脱感作を引き起こすことなく、それを必要とする患者にδタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量を複数回投与することを含む。
【0014】
本発明の第2の態様において、本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットを提供する。一形態において、キットは、本明細書に記載されているδタンパク質キナーゼCの阻害剤及び1つ又は複数の大脳血管内の血流を増加させるために該阻害剤を使用するための取扱い説明書を含む。
【0015】
例えば、出血性脳卒中後の虚血事象又は血管狭窄又は血管攣縮などの疾患又は病態による;慢性の高血圧による;及び/又は特発性原因による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供することが、本発明の目的である。
【0016】
本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法であって、薬物作用に対して患者の脱感作を引き起こさない方法を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0017】
本明細書に記載されている及び/又は当業界に知られている疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットを提供することが、本発明のさらなる別の目的である。
【0018】
上記の代表的な態様及び実施形態に加えて、さらなる態様及び実施形態は、図面の参照、及び以下の説明の試験により明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書に記載された主題の理解を助長する目的のために、本明細書の好ましい実施形態を参照にして、具体的な用語を用いて同じことを説明する。それにもかかわらず、当然のことながら、それによって主題のこのような変更及びさらなる修飾、並びに本明細書に例示される原理のさらなる適用について、範囲の限定を意図しておらず、主題に関連する当業者に通常に生じ得ることとして企図される。
【0020】
疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させる方法を提供する。該疾患又は病態は、脳血流の減少を引き起こすものである。血流減少は、1)出血性脳卒中後、或いはそれと関連する;2)慢性の高血圧による;3)再灌流による;及び/又は4)特発性原因による、虚血性脳卒中、再灌流、特発性原因又は血管狭窄或いは血管攣縮など、種々の事象から生じ得る。タンパク質キナーゼC(PKC)の選択されたイソ酵素が、このような哺乳動物の脳血管内の血流を増加させることが発見されている。このようなイソ酵素が、虚血性脳卒中などの低酸素事象による障害、又は出血性脳卒中後の血管狭窄或いは血管攣縮による障害;慢性の高血圧による障害;及び/又は特発性原因による障害など、血流減少を特徴とする病態による細胞損傷、組織損傷又は臓器損傷を、死亡又は他の傷害を減少させるために有利に利用できることもまた発見されている。本明細書における「低酸素事象」又は「低酸素血症」とは、細胞、組織又は臓器が不十分な酸素供給を受けるために生じる事象を意味する。本明細書に用いられる「虚血性脳卒中」、「虚血」又は「虚血事象」とは、特定の細胞、組織又は臓器への不十分な血液供給を称す。血液供給の減少結果、細胞、組織又は臓器への不十分な酸素供給(即ち、低酸素血症)及び不十分な栄養供給となる。
【0021】
理論により制限を受けないが、虚血事象時及び/又はその事象後、閉塞血管から直接供給される組織を取り巻くか、又は虚血性コアの直接周辺部外側の脳領域にある不完全虚血領域として知られている組織の低灌流領域が存在することが考えられている。虚血コアとして知られている閉塞血管から直接供給されるこの組織領域のいくつかは、虚血事象の開始数分以内で不可逆的に損傷を受けることがあるが、該境界域組織は、血流及び/又は血管開存性を維持することによって救出できることと本明細書では考えている。
【0022】
低灌流領域はまた、慢性の高血圧による及び/又は特発性原因による出血性脳卒中後の血管狭窄を有する患者に生じ得る。血管狭窄により引き起こされる低灌流により、神経細胞損傷、膠細胞損傷及び血管損傷を誘導し、血流及び/又は血管開存性を改善することによって救出され得ることが本明細書で考えられている。本発明の一形態において、それを必要とする患者に、δタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤の治療有効量を投与する方法が含まれる。
【0023】
δPKCの阻害剤は、該阻害剤に対する脱感作を引き起こすことなく長期投与できることもまた発見されている。したがって、本発明のさらに別の形態において、本明細書に記載された疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させる方法は、δPKCの阻害剤の治療有効量を、患者に投与することを含み、該阻害剤は、該阻害剤に対する脱感作を生じることなく長期投与できる。本明細書に記載された疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットもまた提供する。一形態において、キットには、δPKCの阻害剤及び本明細書に記載された疾患又は病態による血流減少を経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させるために該阻害剤を使用するための取扱い説明書を含んでいる。
【0024】
一態様において、疾患又は病態による血流減少を特徴とするか、或いは経験している脊椎動物の脳血管内の血流を増加させる方法もまた提供する。一実施形態において、δPKCの阻害剤の治療有効量を、患者に投与する方法が含まれる。
【0025】
本明細書における「血流」とは、単位時間当たりにそれぞれの血管内を流れる血液の量を一般に意味する。本明細書における「血流を増加させる」とは、特定の時間での血流が、患者が、出血性脳卒中による血管狭窄又は血管攣縮を経験しているか、又は慢性の高血圧を経験している場合を含む、本明細書に記載された及び/又は当業界に知られている虚血、低酸素又は他の細胞、組織又は臓器傷害事象の発症時、又は発症後の指定された時間など、いくつかの予め決められた時点での血流に比して増加することを意味する。血流は、典型的に本明細書に記載された阻害剤による処置後に、このような処置前の血流に比して増加する。「血流減少」とは、特定の時間での血流が、患者が、例えば、出血性脳卒中による血管狭窄又は血管攣縮を経験しているか、又は慢性の高血圧を経験している場合を含む、本明細書に記載された及び/又は当業界に知られている虚血、低酸素又は他の細胞、組織又は臓器傷害事象の発症時前、又は発症後の指定された時間など、いくつかの予め決められた時点での血流に比して減少することを意味する。1つ又は複数の血管内の血流を測定するいくつかの方法が、当業界に知られている。例えば、レーザードップラー流速計(LDF)、核磁気共鳴映像法(MRI)、単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)を含む陽電子射出断層撮影法(PET)及びコンピュータ断層撮影(CT)画像法は、脳血流を測定するために使用できる(Leenders.K.L.ら、Brain 113:27〜47ページ(1990);Sakai.Fら、J.Cereb.Blood Flow Metab.5:207〜213ページ(1988);Rempp,K.A.ら、Radiology 193:637〜641ページ(1994);Baird,A.E.及びWarach,S.、J.Cereb.Blood Flow Metab.18:583〜609ページ(1998);Danus,G.ら、Radiology 213:141〜149ページ(1999);Calamante,F.ら、J.Cereb.Blood Flow Metab.19:701〜735ページ(1999);Ginsberg,M.D.ら、J.Cereb.Blood Flow Metab.2(1):89〜98ページ(1982);Fukuda,O.Neurosurgery 36(2):358〜364ページ(1995);Perez−Pinzonら、J.Neurolog.Sci.153(1):25〜31ページ(1997);Borlonganら、Brain Res.1010(1〜2):108〜116ページ(2004))。これら及び他の既知の方法は、種々の測定法を含み得るが、単位時間当たりの体積に換算して血流を提供し得ないことが認められる。例えば、LDFは、赤血球数とそれらの速度の積として定義される赤血球量と呼ばれる血流値を提供する。したがって、本明細書に記載される血流は、多種多様のフォーマット及び/又は単位で報告できる。
【0026】
δPKCの多種多様の阻害剤は、記載された方法において使用することができる。本明細書におけるδPKCの阻害剤とは、δPKCの生物学的活性又は機能を阻害する化合物を意味する。当業界に知られているように、δPKCは、細胞増殖の調節及び遺伝子発現の調節など、種々の細胞過程に関与している。この阻害剤は、例えば、δPKCの酵素活性を阻害できる。該阻害剤は、例えば、δPKCの活性化を防ぐことによってδPKCの活性を阻害できるか、又はδPKCのそのタンパク基質への結合を防ぐことができる。このような酵素活性の阻害剤は、例えば、タンパク質中のアミノ酸のリン酸化を防ぐであろう。該阻害剤は、活性化キナーゼ(RACK)に対する受容体としても知られている、そのアンカータンパク質へのδPKCの結合、及びδPKCのその細胞内局在への関連した移行を防止できる。
【0027】
該方法の一形態において、アルカロイドなどの有機分子阻害剤を利用できる。例えば、ケレリトリン(chelerythrine)、サングイルビン(sanguirubine)、ケリルビン(chelirubine)、サングイルチン(sanguilutine)、及びキリルチン(chililutine)などのベンゾフェナントリジンアルカロイドを使用できる。このようなアルカロイドは、市販品として購入できるか、及び/又は、例えば、米国特許第5,133,981号に記載されているとおり、当業界に知られている植物から単離できる。
【0028】
ビスインドリルマレイミド類の化合物もまた、δPKCの阻害剤として使用できる。代表的なビスインドリルマレイミド類としては、ビスインドリルマレイミドI、ビスインドリルマレイミドII、ビスインドリルマレイミドIII、ビスインドリルマレイミドIV、ビスインドリルマレイミドV、ビスインドリルマレイミドVI、ビスインドリルマレイミドVII、ビスインドリルマレイミドVIII、ビスインドリルマレイミドIX、ビスインドリルマレイミドX及びδPKCを阻害するのに有効である他のビスインドリルマレイミド類が挙げられる。このような化合物は、市販品として購入できるか、及び/又は、例えば、米国特許第5,559,228号及びBrennerら、Tetrahedron 44(10)2887〜2892ページ(1988)に記載されているとおり、当業者に知られている方法により合成できる。ロッテリン(rotterin)など、カマラ木から得られたδPKCの阻害に有効な抗寄生虫色素もまた利用でき、市販品として購入できるか、又は当業者により合成できる。
【0029】
該方法のある形態において、δPKCのタンパク質阻害剤を利用できる。タンパク質阻害剤は、ペプチドの形態であり得る。本明細書に使用され、当業界に知られているタンパク質、ペプチド及びポリペプチドは、ペプチド結合により結合されたアミノ酸モノマー鎖から作製された化合物を称す。別に断らない限り、ペプチドの個々の配列は、アミノ酸末端からカルボキシル末端の順序で示す。δPKCのタンパク質阻害剤は、当業者に知られている方法により得ることができる。例えば、該タンパク質阻害剤は、例えば、Williams,Paul Lloydら、Chemical Approaches to the Synthesis of Peptides and Proteins、CRC Press、Boca Raton、フロリダ州(1997)に記載されているとおり、当業者に知られている種々の固相合成技術を用いて化学的に合成できる。
【0030】
或いは、該タンパク質阻害剤は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Springs Harbor laboratory、第2版、コールドスプリングスハーバー、ニューヨーク州(1989)、Martin、Robin、Protein Synthesis:Methods and Protocols、Humana Press、トトワ、ニュージャージー州(1998)及び常時定期的に更新されているCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、編集)、John Wiley & Sonsに記載されているとおり、当業界に知られている組換え技術法により製造できる。例えば、発現ベクターを使用して適切な宿主細胞内で所望の阻害剤ペプチドを生成することができ、次いでこの生成物を、知られた方法により単離することができる。該発現ベクターとしては、例えば、所望のペプチドをコードするヌクレオチド配列が挙げられ、該ヌクレオチド配列は、プロモーター配列に対して操作可能に結合させる。
【0031】
本明細書に定義されるように、ヌクレオチド配列を別のヌクレオチド配列と機能的関係で配置させる場合、そのヌクレオチド配列は別のヌクレオチド配列と「操作可能に結合」されている。例えば、コード配列をプロモーター配列に操作可能に結合させる場合、これは一般に、該プロモーターがコード配列の転写を促進できることを意味する。操作可能に結合させるとは、結合させるDNA配列が、典型的に近接していることを意味し、2つのタンパク質コード化領域を結合させる必要がある場合、近接し、リーディングフレーム内であることを意味する。しかしながら、エンハンサーは、プロモーターから数キロベース離れている場合に作用でき、イントロン配列は、種々の長さであり得るので、いくつかのヌクレオチド配列は、近接はしてないが操作可能に結合できる。さらに本明細書に定義されるように、ヌクレオチド配列は、天然又は合成の線形で連続したヌクレオチド及び/又はヌクレオシドのアレイ、並びにそれらの誘導体を参照することが意図される。用語の「コードする(encoding)」及び「コードする(coding for)」とは、ヌクレオチド配列が、転写及び翻訳の機構により細胞に情報を提供し、それにより一連のアミノ酸から特定のアミノ酸配列に構築してポリペプチドを作製できる過程を称する。
【0032】
該阻害剤は、δV1−1などのPKCのイソ酵素から誘導でき、ラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのそのアミノ酸配列は、配列番号1(SFNSYELGSL)に示されており、Genbank受託番号AAH76505に見られるラットδPKCのアミノ酸8〜17を表す。或いは、該阻害剤ペプチドは、δV1−2、δV1−5及び/又はδV5、又はδV1−1、δV1−2、δV1−5及びδV5のいくつかの組合せなどのPKCの他の断片であり得る。ラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのδV1−2のアミノ酸配列は、配列番号2(ALTTDRGKTLV)に示されており、Genbank受託番号AAH76505に見られるラットδPKCのアミノ酸35から45を表す。ラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのδV1−5のアミノ酸配列は、配列番号3(KAEFWLDLQPQAKV)に示されており、Genbank受託番号AAH76505に見られるラットδPKCのアミノ酸101から114を表す。δV5のアミノ酸配列は、配列番号4に示されており、アミノ酸11(アスパラギン酸)がプロリンで置換されていることを除いてGenbank受託番号BAA01381に見られるヒトδPKCのアミノ酸569〜626を表す。
【0033】
該阻害剤ペプチドとしては、L−アミノ酸などの天然アミノ酸又はD−アミノ酸などの非天然アミノ酸などを挙げることができる。該ペプチド内のアミノ酸は、ペプチド結合により、又は本明細書に記載された修飾ペプチドにおいては非ペプチド結合により結合できる。
【0034】
アミノ酸を結合するアミド結合に対する多種多様の修飾を成すことができ、当業界に知られている。このような修飾は、Freidinger,R.M.「Design and Synthesis of Novel Bioactive Peptides and Peptidomimetics」J.Med.Chem.46:5553ページ(2003)、及びRipka,A.S.、Rich,D.H.「Peptidomimetic Design」Curr.Opin.Chem.Biol.2:441ページ(1998)などの総説で考察されている。これらの修飾をデザインして、ペプチドの効力を増加させることによるか、又はペプチドの半減期を増加させることによりペプチドの性質を改善する。
【0035】
ペプチドの効力は、ペプチドの立体配座の可動性を制限することにより増加させることができる。これは、例えば、Zuckermanらのペプトイド(peptoid)方法及び、例えば、Goodman,M.らのアルファ修飾(Pure Appl.Chem.68:1303ページ(1996))などのアミド結合の窒素又はアルファ炭素上にさらなるアルキル基の置換などにより達成できる。アミド窒素及びアルファ炭素は共に結合して、さらなる束縛を提供することができる(Scottら、Org.Letts.6:1629〜1632ページ(2004))。
【0036】
ペプチドの半減期は、ペプチド鎖に非分解性部分を導入することにより延長できる。これは、例えば、尿素残基によるアミド結合の置換(Patilら、J.Org.Chem.68:7274〜7280ページ(2003))又はアザペプチド結合(Zega及びUrleb、Acta Chim.Slov.49:649〜662ページ(2002))により達成できる。ペプチド鎖に導入できる非分解性部分の他の例としては、該鎖に対してさらなる炭素(「ベータペプチド」、Gellman,S.H.Acc.Chem.Res.31:173ページ(1998))或いはエテン単位(Hagiharaら、J.Am.Chem.Soc.114:6568ページ(1992))の導入、又はヒドロキシエチレン部分(Patani,G.A.、Lavoie,E.J.Chem.Rev.96:3147〜3176ページ(1996))の使用が挙げられ、当業界にもよく知られている。さらに、1つ又は複数のアミノ酸は、例えば、Hirschmannらのピロリノン類(J.Am.Chem.Soc.122:11037ページ(2000))、又はテトラヒドロピラン類(Kulesza,A.ら、Org.Letts.5:1163ページ(2003))などの等配電子部分により置換できる。
【0037】
該ペプチド類は、主としてラトゥスノルベギクス(Rattus norvegicus)からのアミノ酸配列を参照にして記載されているが、該ペプチド類は、当然のことながら配列番号1〜4に示されている特定のアミノ酸配列に限定されない。変異及び/又は進化の過程により、例えば、アミノ酸の挿入、置換、欠失などにより種々の長さ及び種々の構造を有するポリペプチドは、本明細書に記載されているようにアミノ酸配列相同性及び有利な機能性の理由により本明細書に示された配列に関連するか、又はそれと十分に類似させ得ることが当業者は認識するであろう。用語の「δV1−1ペプチド」、「δV1−2ペプチド」、「δV1−5ペプチド」及び「δV5ペプチド」は、本明細書に記載された特徴を有するペプチド類を一般に称するために用いられ、好ましい例としては、それぞれ配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4を有するペプチド類が挙げられる。本明細書に記載されている脳血流を増加させる働きをするペプチド類の変異体もまた、この定義及び本発明の範囲内に含まれる。
【0038】
本明細書に記載された阻害剤ペプチドはまた、少なくともそれと約50%の同一性を有し、脳血流を増加させる働きをする、本明細書に示されたアミノ酸配列と同様のアミノ酸配列を包含する。本発明に包含された阻害剤ペプチドのアミノ酸配列は、本明細書に示された配列番号1〜4を含むアミノ酸配列に対して、好ましくは、少なくとも約60%の同一性、さらに少なくとも約70%の同一性を有し、好ましくは、少なくとも約75%又は80%の同一性、より好ましくは、少なくとも約85%又は90%の同一性、さらに好ましくは、少なくとも約95%の同一性を有する。
【0039】
同一性パーセントは、例えば、国立予防衛生研究所から入手できる2.2.9.版などの最新のBLASTコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定できる。BLASTプログラムは、Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264〜2268ページ及びAltschulら、J.Mol.Biol.215:403〜410ページ(1990);Karlin及びAltschul、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5877ページ;及びAltschulら、Nucleic Acids Res.25:3389〜3402ページ(1997)に検討されているアラインメント法に基づいている。手短に言うと、BLASTプログラムは、2つの配列のうちのより短い方の全シンボル数により割られた同一整列シンボル数(即ち、ヌクレオチド又はアミノ酸)として同一性を定義する。該プログラムは、比較されるタンパク質の全長にわたって同一性パーセントを決定するために使用できる。デフォルトパラメータを提供して、例えば、プログラムによるblastpにおいてショートクエリー配列により検索を最適化する。該プログラムはまた、Wootton及びFederhen、Computers and Chemistry 17:149〜163ページ(1993)のSEGプログラムにより決定されたクエリー配列のマスクオフセグメントに対するSEGフィルタの使用を可能にする。
【0040】
したがって、本明細書に記載された阻害剤ペプチドの断片又は誘導体もまた、有利に利用でき、それらは、脳血流を増加させるために本明細書に記載された配列番号1〜4に対して指定の同一性パーセントを有するアミノ酸配列を含む。例えば、δPKCを阻害するのに有効であり、本明細書に記載されている哺乳動物の脳血流を増加させるδV1−1、δV1−2、δV1−5及びδV5の断片又は誘導体もまた、本発明に有利に利用できる。
【0041】
本明細書に記載されたアミノ酸配列において、保存的アミノ酸置換を成すことができ、本発明に有利に利用し得るペプチド誘導体を得ることができる。当業界に知られており、本明細書に参照される保存的アミノ酸置換は、例えば、構造、サイズ及び/又は化学的性質に関して同様の側鎖を有するアミノ酸によりタンパク質内のアミノ酸を置換することを含む。例えば、各々以下の群内のアミノ酸は、同一群の他のアミノ酸と交換できる:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンなどの脂肪族側鎖を有するアミノ酸;セリン及びトレオニンなどの非芳香族ヒドロキシル含有側鎖を有するアミノ酸;アスパラギン酸及びグルタミン酸などの酸性側鎖を有するアミノ酸;グルタミン及びアスパラギンなどのアミド側鎖を有するアミノ酸;リシン、アルギニン及びヒスチジンなどの塩基性アミノ酸;フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンなどの芳香族環側鎖を有するアミノ酸;及びシステイン並びにメチオニンなどの硫黄含有側鎖を有するアミノ酸。さらに、アスパラギン酸及びグルタミン酸などの酸性側鎖を有するアミノ酸は、アスパラギン及びグルタミンなどのアミド側鎖を有するアミノ酸と交換可能であることが本明細書で考えられている。
【0042】
したがって、δPKCの有効な阻害及び脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV1−1の修飾としては、下段に示される配列番号1に対する以下の変更:tFNSYELGSL(配列番号5)、aFNSYELGSL(配列番号6)、SFNSYELGtL(配列番号7)が挙げられ、tFNSYELGtL(配列番号8)などのこれら3つの置換の任意の組合せを含む。他の可能性のある修飾としては、SyNSYELGSL(配列番号9)、SFNSfELGSL(配列番号10)、SNSYdLGSL(配列番号11)、SFNSYELpSL(配列番号12)が挙げられる。
【0043】
本発明において機能を果たすペプチドを生じると予想される他の可能な修飾は、SFNSYEiGSv(配列番号13)、SFNSYEvGSi(配列番号14)、SFNSYELGSv(配列番号15)、SFNSYELGSi(配列番号16)、SFNSYEiGSL(配列番号17)、SFNSYEvGSL(配列番号18)、aFNSYELGSL(配列番号19)、上記の修飾の任意の組合せ、及び本明細書に記載された他の保存的アミノ酸置換などの1つ又は2つのLからI又はVへの変更が挙げられる。
【0044】
δV1−1の断片及び断片の修飾:YELGSL(配列番号20)、YdLGSL(配列番号21)、fdLGSL(配列番号22)、YdiGSL(配列番号23)、iGSL(配列番号24)、YdvGSL(配列番号25)、YdLpsL(配列番号26)、YdLgiL(配列番号27)、YdLGSi(配列番号28)、YdLGSv(配列番号29)、LGSL(配列番号30)、iGSL(配列番号31)、vGSL(配列番号32)、LpSL(配列番号33)、LGiL(配列番号34)、LGSi(配列番号35)、LGSv(配列番号36)なども企図されている。
【0045】
したがって、さらに本明細書に用いられる用語の「δV1−1ペプチド」とは、配列番号1によって識別されるペプチドを称し、限定はしないが、配列番号5〜19に示されたペプチドなど、配列番号1のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、限定はしないが、配列番号20〜36により例示されるように、本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するこれらのペプチドの任意の断片を称す。
【0046】
δPKCの有効な阻害及び脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV1−2の修飾としては、下段に示される配列番号2に対する以下の変更:ALsTDRGKTLV(配列番号37)、ALTsDRGKTLV(配列番号38)、ALTTDRGKsLV(配列番号39)、及びこれら3つの置換の組合せのALTTDRpKTLV(配列番号40)、ALTTDRGrTLV(配列番号41)、ALTTDkGKTLV(配列番号42)、ALTTDkGkTLV(配列番号43)、1つ又は2つのLからI又はVへの変換並びにVからI又はLへの変換及び上記の任意の組合せが挙げられる。特に、L及びVは、V、L、IRで置換でき、D、Eは、N又はQで置換できる。当業者は、本明細書の説明に鑑みてδV1−2の他の誘導体を達成するために成され得る他の保存的置換に気づくであろう。
【0047】
したがって、さらに本明細書に用いられる用語の「δV1−2ペプチド」とは、配列番号2によって識別されるペプチドを称し、限定はしないが、配列番号37〜43に示されたペプチドなど、配列番号2のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するこれらのペプチドの任意の断片を称す。
【0048】
δPKCの有効な阻害及び脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV1−5の修飾としては、下段に示される配列番号3に対する以下の変更:rAEFWLDLQPQAKV(配列番号44)、KAdFWLDLQPQAKV(配列番号45)、KAEFWLeLQPQAKV(配列番号46)、KAEFWLDLQPQArV(配列番号47)、KAEyWLDLQPQAKV(配列番号48)、KAEFWiDLQPQAKV(配列番号49)、KAEFWvDLQPQAKV(配列番号50)、KAEFWLDiQPQAKV(配列番号51)、KAEFWLDvQPQAKV(配列番号52)、KAEFWLDLnPQAKV(配列番号53)、KAEFWLDLQPnAKV(配列番号54)、KAEFWLDLQPQAKi(配列番号55)、KAEFWLDLQPQAKl(配列番号56)、KAEFWaDLQPQAKV(配列番号57)、KAEFWLDaQPQAKV(配列番号58)、KAEFWLDLQPQAKa(配列番号59)が挙げられる。
【0049】
KAEFWLD(配列番号60)、DLQPQAKV(配列番号61)、EFWLDLQP(配列番号62)、LDLQPQA(配列番号63)、LQPQAKV(配列番号64)、AEFWLDL(配列番号65)、及びWLDLQPQ(配列番号66)を含むδV1−5の断片もまた企図されている。
【0050】
δV1−5の断片に対する修飾もまた企図されており、完全長断片並びに本明細書に記載された他の保存的アミノ酸置換について示された修飾を含む。さらに本明細書に用いられる用語の「δV1−5ペプチド」とは、配列番号3を称し、配列番号3のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、並びに本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するそれらの断片を称す。
【0051】
δPKCの有効な阻害及び本明細書に記載されている脳血流の同時増加をもたらすことが予想されるδV5の修飾としては:Qにより3位のRを置換すること;Tにより8位のSを置換すること;Wにより15位のFを置換すること;Lにより6位のVを置換すること;Eにより30位のDを置換すること;Rにより31位のKを置換すること;Dにより53位のEを置換すること、並びにこれらの修飾の種々の組合せ、及び本明細書の説明に鑑みて当業者により成し得る他の修飾など、1つ又は複数の保存的アミノ酸置換を作製することが挙げられる。
【0052】
δV1−5の断片もまた企図されており、例えば、以下の:SPRPYSNF(配列番号67)、RPYSNFDQ(配列番号68)、SNFDQEFL(配列番号69)、DQEFLNEK(配列番号70)、FLNEKARL(配列番号71)、LIDSMDQS(配列番号72)、SMDQSAFA(配列番号73)、DQSAFAGF(配列番号74)、FVNPKFEH(配列番号75)、KFEHLLED(配列番号76)、NEKARLSY(配列番号77)、RLSYSDKN(配列番号78)、SYSDKNLI(配列番号79)、DKNLIDSM(配列番号80)、PFRPKVKS(配列番号81)、RPKVKSPR(配列番号82)、及びVKSPRPYS(配列番号83)が挙げられる。
【0053】
δV5の断片に対する修飾もまた企図されており、完全長断片並びに本明細書に記載された他の保存的アミノ酸置換に示された修飾を含む。さらに本明細書に用いられる用語の「δV5ペプチド」とは、配列番号4を称し、配列番号4のアミノ酸配列に対して本明細書に記載されている指定の同一性パーセントを持つアミノ酸配列を有するペプチドを称し、並びに本明細書に記載された脳血流を増加させるために活性を保持するそれらの断片を称す。本明細書の治療に使用される阻害剤は、本明細書に記載されているペプチドの組合せを含むことができる。
【0054】
δPKCの阻害剤として作用できる小分子など、他の好適な分子又は化合物は、当業界に知られた方法により測定できる。例えば、このような分子は、δPKCのその細胞内局在への移行を阻害する能力により同定できる。このようなアッセイは、例えば、蛍光標識酵素及び蛍光顕微鏡を利用して、特定の化合物又は薬剤が、δPKCの細胞移行を促進させ得るかどうかを判定することができる。このようなアッセイは、例えば、Schechtman,D.ら、J.Biol.Chem.279(16):15831〜15840ページ(2004)に記載されており、選択された抗体の使用を含んでいる。細胞移行を測定する他のアッセイとしては、Dorn,G.W.IIら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96(22):12798〜12803ページ(1999)並びにJohnson,J.A.及びMochly−Rosen,D.Circ Res.76(4):654〜63ページ(1995)に記載されているウェスタンブロット解析が挙げられる。
【0055】
該阻害剤は、融合タンパク質の一部とすることによって修飾することができる。融合タンパク質としては、阻害剤ペプチドの細胞取込みを増加させる機能を果たすか、治療効果などの別の所望の生物学的効果を有するか、又はこれらの機能の双方を有し得るタンパク質又はペプチドを挙げることができる。例えば、δV1−1ペプチド、又は本明細書に記載された他のペプチドを、所望の生物学的応答を誘発するサイトカイン又は他のタンパク質にコンジュゲートさせるか、又は結合させることが望ましいと考えられる。融合タンパク質は、当業者に知られた方法により生成し得る。阻害剤ペプチドを、当業界に知られた種々の方法で別のペプチドに結合させるか、又はコンジュゲートさせることができる。例えば、阻害剤ペプチドを、細胞透過性キャリヤペプチド又は本明細書に記載された他のペプチドなどのキャリヤペプチドに架橋により結合でき、融合タンパク質の両ペプチドは、それらの活性を保持する。さらなる例として、該ペプチドは、1つのペプチドのC末端から他のペプチドのN末端にアミド結合により互いに結合、又はコンジュゲートさせることができる。阻害剤ペプチドと融合タンパク質の他のメンバーとの間の結合は、ペプチド結合により非開裂性とするか、例えば、エステル又は当業界に知られている他の開裂性結合により開裂性とすることができる。
【0056】
さらに、本発明の他の形態において、細胞透過性キャリヤペプチド、又は阻害剤ペプチドの細胞取込みを増加し得る他のペプチドなどのキャリヤタンパク質は、例えば、配列番号84(CRQIKIWFQNRRMKWKK)に示され、Theodore,L.ら、J.Neurosci.15:7158〜7167ページ(1995);Johnson,J.A.ら、Circ.Res.79:1086ページ(1996)に検討されているN末端Cys−Cys結合による架橋により阻害剤に結合し得るショウジョウバエ−アンテナペディア(Drosophila Antennapedia)のホメオドメイン誘導配列であり得る。或いは、該阻害剤は、Vivesら、J.Biol.Chem.272:16010〜16017ページ(1997)、米国特許第5,804,604号Genbank受託番号AAT48070に記載されている1型ヒト免疫不全症ウイルスから;又はMitchellら、J.Peptide Res.56:318〜325ページ(2000)及びRothbardら、Nature Med.6:1253〜1257ページ(2000)に記載されているポリアルギニンにより、トランス活性化調節タンパク質(Tat)誘導輸送ポリペプチド(配列番号85、YGRKKRRQRRRに示されるTatのアミノ酸47〜57からなど)により修飾できる。阻害剤の細胞取込みを増加させるために、該阻害剤は、当業者に知られた他の方法により修飾できる。
【0057】
該阻害剤は、種々の形態で有利に投与できる。例えば、該阻害剤は、舌下投与用の錠剤形態、液剤又は乳濁剤で投与できる。該阻害剤はまた、製薬的に許容できる担体又は媒体により混合できる。該媒体は、例えば、水、生理食塩水又は他の水溶液などの非経口投与に好適な液剤であっても、油剤又はエーロゾル剤であってもよい。該媒体としては、静脈内投与又は動脈内投与用に選択でき、当業界に知られた保存剤、制菌剤、緩衝剤及び抗酸化剤を含むことができる滅菌水溶液又は非水溶液を挙げることができる。エーロゾル形態において、該阻害剤は、最適の分散性のために当業界に知られている粒径、形態及び表面エネルギーなどの性質を有する粉剤として使用できる。錠剤形態において、固体媒体としては、例えば、ラクトース、澱粉、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、合成又は天然カルシウムアロケート、酸化マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、重炭酸ナトリウム、乾燥酵母又はそれらの組合せが挙げられる。錠剤は、経口溶解を促進する1種又は複数種の試剤を含むことが好ましい。該阻害剤は、当業界に知られた他の同様の薬物を投与する形態でも投与できる。
【0058】
利用される該阻害剤は、阻害剤に対する患者の脱感作を引き起こすことなく、長期投与することが可能である。即ち、該阻害剤は、複数回又は1日、2日又は3日以上;1週、2週、又は3週以上又は数カ月の持続期間後、患者に投与でき、それぞれ血管内の血流の増加を引き起こし続ける。
【0059】
該阻害剤は、種々の経路により患者に投与できる。例えば、該阻害剤は、腹腔内;静脈内;動脈内;皮下;又は筋肉内など非経口的に投与できる。該阻害剤はまた、直腸及び膣内などの粘膜表面;鼻腔内;経口又は鼻腔内の吸入;舌下などの経口;眼内及び経皮を経て投与できる。これらの投与経路の組合せもまた、想定される。好ましい投与様式は、閉塞又は部分的閉塞大脳動脈、又はこのような閉塞又は部分的閉塞動脈に結合する動脈を通した注入液又は再灌流による。本明細書における「部分的閉塞大脳動脈」とは、脳血管に影響を及ぼす血流減少事象後、このような事象又は発作前の血流と比較して、血流が減少している脳動脈を意味する。このような血流減少事象としては、虚血性発作又は他の低酸素事象、例えば、出血性脳卒中に続いて起こる可能性がある血管狭窄又は血管攣縮が挙げられる。その血管に関するベースライン又は標準的血流率と比較して、血流が減少する大脳動脈は、「部分的閉塞大脳動脈」の定義内に含まれる。このような血流率は、当業者に知られている。
【0060】
該阻害剤の治療有効量が提供される。本明細書に用いられる該阻害剤の治療有効量は、哺乳動物の脳血管内の血流を増加させ、及び/又は出血性脳卒中後;慢性の高血圧により;及び/又は特発性原因によるなど、虚血性発作、血管狭窄又は血管攣縮を含む種々の細胞損傷事象により生じる細胞損傷、組織損傷或いは臓器損傷又は死亡を減少させるのに必要な阻害剤の量である。当業界に知られているように、この量は、投与時期(例えば、虚血事象前、該事象の発症時又は発症後)、投与経路、治療期間、使用される具体的な阻害剤、及び患者の健康状態によって変わる。当業者は、最適な投与量を判定できるであろう。一般に、典型的に利用される阻害剤の量は、例えば、約0.0005mg/kg体重から約50mg/kg体重であり得るが、約0.05mg/kgから約0.5mg/kgまでが好ましい。
【0061】
阻害剤の量は、例えば、虚血事象の発症時、又は前述の事象の発症後の指定された時間後、即ち発症後約24時間までなどの治療の前の血流と比較して、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約25%、さらに少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約75%、さらに少なくとも約100%増加させるのに十分であることが好ましい。前述の事象の発症時、又は該事象の発症の約2時間後、約3時間後、或いは約6時間後と比較した場合、典型的に上記の列挙されたレベルにより血流は増加する。当然のことながら、上記に列挙されたものよりも大きな血流増加もまた得られる可能性がある。
【0062】
血流が増加され得る血管は、血流増加が望ましいいずれの脳血管をも含む。また、このような血管としては、閉塞に感受性であり得る全面的又は部分的に閉塞され得るもの、並びに虚血性脳卒中などの低酸素事象、グルコースなどの細胞栄養物の送達を減少させる血管狭窄又は血管攣縮などの他の事象にさらされた血管が挙げられる。このような血管としては、例えば、前大脳動脈、中大脳動脈及び後大脳動脈などの脳動脈が挙げられる。脳血管、又は他の脳血管に血液を供給する他の血管はまた、本明細書に記載されるように血流を増加させるために治療できる。このような血管としては、例えば、内頚動脈などの椎骨動脈及び頚動脈、通常の頚動脈及び外頚動脈が挙げられる。前述の動脈から分枝している動脈内の血流もまた、本発明に記載されているように増加させ得る。例えば、中大脳動脈から分枝しているレンズ核線条体動脈は、本明細書に記載された方法に従って治療できる。さらに、脳微小血管の毛細血管及び細動脈において血流を増加でき、このような血管は、当業界によく知られている。脳血管内の脳血流を増加させる治療に受入れられるこの脳血管のリストは、十分ではない。本明細書の説明に鑑みて、当業者は、本明細書に記載された方法に従って治療し得る他の脳血管に気づいている。
【0063】
治療を受ける患者は典型的に、虚血事象又は低酸素事象などの多くの事象のうちの1つから脳血流減少を起こしやすいか、又は経験している患者、或いは他にこのような事象の結果、細胞損傷、組織損傷又は臓器損傷を招く可能性のある患者など、このような治療を必要とする患者である。該患者としては、出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮;慢性の高血圧及び/又は特発性原因により脳血流減少を経験している者、又は経験を受けやすい者を挙げることができる。該患者はさらに、典型的には脊椎動物、好ましくはヒトを含む哺乳動物である。治療を受けることができる他の動物としては、ウマ、ヒツジ、ウシ、及びブタなどの家畜動物が挙げられる。治療を受けることができる他の代表的な動物としては、ネコ、イヌ;マウス、ラット、スナネズミ、ハムスター及びモルモットなどのげっ歯目からのものなどのげっ歯類;ウサギ及び野ウサギなどのウサギ目のメンバー、このような治療から利益を得ることができる任意の他の哺乳動物が挙げられる。患者は、好ましくは虚血事象の発症時に、インビボで治療されることが好ましい。患者はまた、約1分から約10時間後、好ましくは約1分から約2時間の間、さらに好ましくは、低酸素及び/又は細胞栄養物の欠乏に導く虚血事象又は他の事象の発生後、約24時間以内に治療を受けることができる。
【0064】
患者は典型的に、脳血流増加の利益を得ることができる者である。例えば、虚血性脳卒中などの低酸素事象を経験した患者、又は慢性の高血圧及び/又は特発性原因による出血性脳卒中後の血管狭窄又は血管攣縮を有する患者は、本明細書に既に記載された不完全虚血領域に対する血流増加の利益を得ることができる。
【0065】
可能性として救出し得る組織である不完全虚血領域は、当業者に知られている方法により患者に確認できる。例えば、不完全虚血領域は、Duong,T.Q.及びFisher,M.、Curr.Atheroscl.Rep.6:267〜273ページ(2004)に記載されている灌流加重画像及び拡散荷重画像により規定された異常領域の差異を観察することにより確認できる。規定された領域の差異は灌流/拡散ミスマッチとして知られている。灌流/拡散ミスマッチ領域は不完全虚血領域に近似すると推定される。血管狭窄及び血管攣縮は通常、当業界に知られているデジタル減法血管造影法を用いて検出される。
【0066】
本発明のさらに別の態様において、例えば、出血性脳卒中後の虚血事象、血管狭窄又は血管攣縮などの疾患又は病態による;慢性の高血圧による;及び/又は特発性原因による血流減少を特徴とするか、又は経験している哺乳動物などの脊椎動物の脳血管内の血流増加用キットを提供する。一形態において、キットには、δPKCの阻害剤及びそれぞれの脳血管内の血流を増加させるために本明細書に記載された阻害剤を使用するための取扱い説明書を含む。本発明のある形態において、阻害剤は、本明細書に記載されているδV1−1、δV1−2、δV1−5又はδV5ペプチドであるか、又は本明細書に記載されたこれらペプチド類の断片或いは誘導体であるか、又はこれらペプチド類、それらの断片及び/又はそれらの誘導体のいくつかの組合せである。キットにはさらに、該阻害剤を投与するための当業界に知られたシリンジ又は他の同様のデバイスを含む。キットの構成材料は、ボックスなどの容器に入れられ、各構成材料は、ボックス内で互いに比較的に間隔をおいて配置されている。阻害剤は、滅菌バイアル又は同様の容器内に含ませることができる。阻害剤が、乾燥又は凍結乾燥形態で提供され、再構成を必要とする場合、キットにはさらに、滅菌バイアル又は同様の容器内に、本明細書で既に記載された製薬的に許容できる担体を含む。好ましい担体は、阻害剤を溶解させるために本明細書に記載された滅菌液である。
【0067】
ここで、上記の本発明を例証する具体的な実施例を参照する。当然のことながら、実施例は、好ましい実施形態を例証するために提供され、それによって特許請求の範囲を限定する意図はない。
【実施例】
【0068】
(実施例1)
虚血性/再灌流障害にさらされたラットにおける脳血流の増加
本実施例は、δV1−1ペプチドによりラットを処置することによって、ラット中大脳動脈において血流増加が達成されたことを示す。
【0069】
材料
オスSprague−Dawleyラット(280〜320g;n=8)を、脳虚血及び再灌流、その後の脳血流をモニタリングするために用いた。Tat又はδV1−1ペプチドを合成し、既に記載されているように(Chenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 25(20):11114〜11119ページ(2001);Inagakiら、Circulation 11(108):2304〜2307ページ(2003))、Cys S−S結合を介して結合させた。手法直後にイソフルランの過剰投与によりラットを殺処理した。
【0070】
方法
虚血及び再灌流は、Maierら、J.Neurosurg.94(1):90〜96ページ(2001)に記載されている閉塞腔内縫合を用いてオスSprague−Dawleyラットに誘導した。手短に言うと、フレームにより丸みを付けたチップを有するコーティングのない3−0ナイロンモノフィラメント縫合糸の30mm長のセグメントを外頚動脈の断端に挿入し、二分枝から内頚動脈に19〜20mm進行させて中大脳動脈(MCA)の小孔を閉塞させた。縫合糸の配置後、創傷を閉じ、動物をケージ内に2時間戻した。この時間後、動物を再度麻酔にかけ、縫合糸を取り除き、脳の再灌流を可能にした。
【0071】
再灌流直後、ラットを定位固定枠内に置き、虚血領域に対応する同側半球上のブレグマに対し頭蓋1mm後方及び6mm側方に骨孔をあけた。脳血流(CBF)は、マイクロマニピュレータにより制御されたレーザードップラープローブを用いてこの骨孔を経て測定した(Laserflo BPM403Aレーザードップラー流量計、Vasamedic、セントポール、ミネソタ州)。ディスプレイはデジタルのみであり、1秒当たり8つのデータポイントを採取し、0.1秒毎に移動平均データを得るために設定した(Perez−Pinzonら、J.Neurolog.Sci.153(1):25〜31ページ(1997):Borlonganら、Brain Res.1010(1〜2):108〜116ページ(2004))。CBFリーディングは、再灌流の発生から30分で開始した。ベースラインCBFを確立するための20〜30分の時間後、δPKC阻害剤であるδV1−1ペプチド(送達用にTatに結合した)を腹腔内ボーラスにより注入し、血流をさらに20〜30分間モニターした。偽性処理動物は、虚血を受けないが、その他は同様に処置された。
【0072】
結果
δV1−1ペプチドのボーラス腹腔内送達は、図2に示されるように虚血/再灌流障害にさらされたラットにおいて、30分以内に脳血流を増加させることが判明した。偽性処置動物は、図1に見られるように送達30分以内に、δV1−1ペプチドによる処置後の血流に変化を示さなかった。さらに、生理食塩単独又はTat対照ペプチドの送達は、偽性又は虚血処置動物のいずれにおいてもCBFに対して効果を示さなかった(データは示していない)。
【0073】
(実施例2)
虚血/再灌流障害にさらされたラットにおける脳血流に対するδPKCの阻害剤の長期投与の効果
本実施例により、虚血/再灌流障害にさらされ、δV1−1ペプチドにより複数回処置されたラットは、阻害剤に対して脱感作にならなかったことを示している。実験は、実施例1に記載されたとおり実施した。
【0074】
結果
δV1−1ペプチドの反復腹腔内投与により、図3に示されるように血流をさらに増加した。
【0075】
(実施例3)
虚血/再灌流障害にさらされたラットにおける脳組織の顕微鏡検査
本実施例は、脳卒中後のδV1−1−TATの送達が、脳血管病状を改善することを示している。より具体的には、中大脳動脈の閉塞後のδV1−1−TATの腹腔内送達により、開存微小血管数を増加させ、脳卒中後の虚血領域における微小血管病状を改善した。
【0076】
方法
Sprague−Dawleyラットに、120分MCA閉塞を行い、次いで4時間の再灌流を行った。再灌流の発生時に、ラットはボーラス腹腔内注入によりTAT又はδV1−1−TATペプチドにより処置した(1mL中0.2mg/kg、1群当たりn=4)。偽性動物を同様に処置したが、虚血は行わず、ペプチドも投与しなかった(N=4)。再灌流期間後、ラットを高濃度のイソフルランで麻酔し、0.7%のNaCl/PBSを用いてトランス心灌流を行い、次いで0.7%のNaCl/PBS中4%のホルムアルデヒドを投与した。
【0077】
脳を取り出し、0.1Mのカコジル酸ナトリウム緩衝液、pH7.3中の2%ホルムアルデヒド/2%グルタルアルデヒド中、4℃で一晩維持した。次いで、脳切片(約1mm3)を、同側皮質(レーザードップラー流量計により測定された領域に相当する)上のブレグマに対し約1mm前方/約6mm側方で皮質表面から切開した。組織を、1%四酸化オスミウム中1時間、後固定し、水で洗浄し、1%酢酸ウラニル液で染色した。組織をエタノール勾配、次いで100%酸化プロピレンを用いて脱水し、Epon and Embed 812媒体に浸潤させ、鋳型に入れ、スライスする前に65℃で一晩重合化させた。切片(75nmと90nm)を、formvar/CarbonでコーティングされたCuグリッド上に取り上げ、アセトン中1:1超飽和酢酸ウラニル(7.7%)中、15秒間着色し、次いで0.2%クエン酸鉛中3分から4分間染色した(すべての試薬はElectron Microscopy Sciences、ペンシルバニア州から入手)。組織は、JEOL 1230透過型電子顕微鏡(TEM)により80kVで観察し、Gatan Multiscan 791デジタルカメラを用いて写真を撮った。
【0078】
開存血管数を定量するために、10〜15個の非重複視野(1200×倍率)を、各動物から得た2〜3枚のスライスから写真に撮った。血管を確認し、管腔及び内皮層が明らかな場合、カウントした。血管は、より高い倍率でこれらの視野にわたって走査することによって確認した。血管数の評価は、処置群に対して盲検化された観察者により実施した。次いで1視野当たりの血管数を、各動物群(1群当たりn=4)に対して平均した。群間の統計的な差は、対のないt検定を用いて解析した。高倍率画像(5000〜15000×)を撮って、微小血管形態を評価した。
【0079】
結果
虚血領域(ブレグマに対して1mm後方/6mm側方)に対応する脳皮質の定義された領域を調べた。最初に低倍率画像(1200×)を用いて微小血管数を定量し、これらの画像を図4A〜4Cに示している。認識可能な微小血管管腔及び周囲の内皮層が確認される場合、血管をカウントした。TATペプチドにより処置した虚血動物において、δV1−1−TAT処置組織と比較して血管数の有意な減少が見られた(TAT、1.6±0.6本の血管/視野;δV1−1−TAT。3.1±0.6本の血管/視野;p<0.05;n=4;図5及び図4D〜4F)。虚血にさらされ、次いで再灌流でδV1−1−TAT処置された動物の微小血管数は、偽性動物のものと同様であった(偽性、3.8+/−0.4本の血管/視野;n.s.;n=4;図5及び図4C対図4A)。
【0080】
健常な微小血管構造の特徴を、偽性対照動物の対照組織において高倍率TEMを用いて観察した。これらは、無傷の基底層、明瞭で開存性血管管腔並びに異常な血管周囲空間の欠如を含んだ(図4D、4G、4J)。虚血動物由来の脳組織における超構造損傷の証拠(図4I、4J)により、血管浮腫の兆候、膨潤星状細胞のエンドフット過程、拡大内皮細胞核、基底層の破壊、血管管腔の圧縮、及び管腔表面の不規則性などが見られた。しかしながら、再灌流のみでδV1−1−TAT(0.2mg/kg)により処置された虚血動物において、微小血管構造は、有意に損傷が少なく現れ(図4F、4I、4L);いくつかの星状細胞のエンドフットの膨潤が、少数の血管に見られたが(図4F)、大部分の血管は、正常に見えた(図4I、4L)。
【0081】
多くの代表的な態様及び実施形態を上記に検討したが、当業者は、ある一定の修飾、置換、付加及びそれらの副次的組合せを認識するであろう。したがって、以下の添付請求項及び以後導入された請求項は、それらの真の精神及び範囲内にあるすべてこのような修飾、置換、付加及び副次的組合せを含むように解釈されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1に十分に示されるように、δV1−1ペプチドの治療量により処置された偽性(非脳卒中)ラットにおける時間の関数としての脳血流(CBF)を示すグラフである。矢印は、δV1−1ペプチドの送達を示す。偽性処置ラットは、δV1−1ペプチドにより処置し、CBFは、すべて実施例1に記載されたとおり測定した。
【図2】実施例1に十分に示されるように、中大脳動脈(MCA)閉塞による虚血性/再灌流障害に供され、δV1−1ペプチドの治療量により処置されたラットにおける時間の関数としてのCBFを示すグラフである。矢印は、δV1−1ペプチドの送達を示す。
【図3】実施例2に十分に示されるように、虚血性/再灌流障害にさらされ、δV1−1ペプチドの治療量の反復投与で処置されたラットにおける時間の関数としてのCBFを示すグラフである。矢印は、δV1−1ペプチドの送達を示す。
【図4】虚血性/再灌流障害に供されない対照(健常)ラットからの脳組織(図4A、4D、4G、4J)、及び中大脳動脈(MCA)閉塞による虚血性/再灌流障害にさらされ、TATペプチド(図4B、4E、4H、4K)又はδV1−1−TAT(図4C、4F、4I、4L)により処置されたラットからの脳組織を示すコンピュータ生成顕微鏡写真である。
【図5】中大脳動脈(MCA)閉塞による虚血性/再灌流障害にさらされ、TATペプチド又はδV1−1−TAT−処置組織により処置された動物に関する顕微鏡視野における平均微小血管数を示す棒グラフである。偽性処置動物は、同様に処置されたが、虚血性/再灌流障害又はペプチドの送達に供されなかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血流減少を経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法であって、それを必要とする患者に、δタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤の治療有効量を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記阻害剤が、ペプチドである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1、配列番号2に示されたアミノ酸を有するδV1−2、配列番号3に示されたアミノ酸を有するδV1−5、配列番号4に示されたアミノ酸を有するδV5、又はそれらの組合せである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたδV1−1のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号2に示されたδV1−2のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号3に示されたδV1−5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、又は配列番号4に示されたδV5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性を持つアミノ酸配列を有する請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記血管が、虚血又は再灌流事象にさらされている請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記血管が、血管狭窄又は血管攣縮にさらされている請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記血流が、前記虚血事象から生じる不完全虚血領域において、前記虚血事象中の血流と比較して増加する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記血流が血管狭窄又は血管攣縮事象による低灌流域において、前記事象中の血流と比較して増加する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記血管が、大脳動脈、毛細血管、又は細動脈である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記大脳動脈が、前大脳動脈、中大脳動脈又は後大脳動脈である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記血管が、頚動脈である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記δタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量が、前記阻害剤を投与する前の血流に比して少なくとも約10%血流を増加させるのに有効な量である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記δPKCの阻害剤の治療有効量が、前記阻害剤を投与する前の血流に比して少なくとも約50%血流を増加させるのに有効な量である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記δPKCの阻害剤が、キャリヤペプチドにコンジュゲートしている請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記キャリヤペプチドが、配列番号84又は配列番号85に示されたアミノ酸配列を有する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記阻害剤を、非経口経路により投与する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記阻害剤が、前記阻害剤に対して脱感作を引き起こすことなく長期投与できる請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記阻害剤を、患者に複数回投与する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
血流減少を経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットであって、δPKCの阻害剤及び前記血管内の血流を増加させるために前記阻害剤を使用するための取扱い説明書を含むキット。
【請求項21】
前記阻害剤が、ペプチドである請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1である請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1、配列番号2に示されたアミノ酸を有するδV1−2、配列番号3に示されたアミノ酸を有するδV1−5、配列番号4に示されたアミノ酸を有するδV5、又はそれらの組合せである請求項21に記載のキット。
【請求項24】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたδV1−1のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号2に示されたδV1−2のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号3に示されたδV1−5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、又は配列番号4に示されたδV5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性を持つアミノ酸配列を有する請求項21に記載のキット。
【請求項25】
前記δPKCの阻害剤が、キャリヤペプチドにコンジュゲートしている請求項21に記載のキット。
【請求項26】
前記キャリヤペプチドが、配列番号84又は配列番号85に示されたアミノ酸配列を有する請求項25に記載のキット。
【請求項1】
血流減少を経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させる方法であって、それを必要とする患者に、δタンパク質キナーゼC(δPKC)の阻害剤の治療有効量を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記阻害剤が、ペプチドである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1、配列番号2に示されたアミノ酸を有するδV1−2、配列番号3に示されたアミノ酸を有するδV1−5、配列番号4に示されたアミノ酸を有するδV5、又はそれらの組合せである請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたδV1−1のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号2に示されたδV1−2のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号3に示されたδV1−5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、又は配列番号4に示されたδV5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性を持つアミノ酸配列を有する請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記血管が、虚血又は再灌流事象にさらされている請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記血管が、血管狭窄又は血管攣縮にさらされている請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記血流が、前記虚血事象から生じる不完全虚血領域において、前記虚血事象中の血流と比較して増加する請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記血流が血管狭窄又は血管攣縮事象による低灌流域において、前記事象中の血流と比較して増加する請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記血管が、大脳動脈、毛細血管、又は細動脈である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記大脳動脈が、前大脳動脈、中大脳動脈又は後大脳動脈である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記血管が、頚動脈である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記δタンパク質キナーゼCの阻害剤の治療有効量が、前記阻害剤を投与する前の血流に比して少なくとも約10%血流を増加させるのに有効な量である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記δPKCの阻害剤の治療有効量が、前記阻害剤を投与する前の血流に比して少なくとも約50%血流を増加させるのに有効な量である請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記δPKCの阻害剤が、キャリヤペプチドにコンジュゲートしている請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記キャリヤペプチドが、配列番号84又は配列番号85に示されたアミノ酸配列を有する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記阻害剤を、非経口経路により投与する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記阻害剤が、前記阻害剤に対して脱感作を引き起こすことなく長期投与できる請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記阻害剤を、患者に複数回投与する請求項18に記載の方法。
【請求項20】
血流減少を経験している哺乳動物の脳血管内の血流を増加させるキットであって、δPKCの阻害剤及び前記血管内の血流を増加させるために前記阻害剤を使用するための取扱い説明書を含むキット。
【請求項21】
前記阻害剤が、ペプチドである請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1である請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたアミノ酸を有するδV1−1、配列番号2に示されたアミノ酸を有するδV1−2、配列番号3に示されたアミノ酸を有するδV1−5、配列番号4に示されたアミノ酸を有するδV5、又はそれらの組合せである請求項21に記載のキット。
【請求項24】
前記ペプチドが、配列番号1に示されたδV1−1のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号2に示されたδV1−2のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、配列番号3に示されたδV1−5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性、又は配列番号4に示されたδV5のアミノ酸配列に対して少なくとも約50%の同一性を持つアミノ酸配列を有する請求項21に記載のキット。
【請求項25】
前記δPKCの阻害剤が、キャリヤペプチドにコンジュゲートしている請求項21に記載のキット。
【請求項26】
前記キャリヤペプチドが、配列番号84又は配列番号85に示されたアミノ酸配列を有する請求項25に記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図4I】
【図4J】
【図4K】
【図4L】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図4I】
【図4J】
【図4K】
【図4L】
【図5】
【公表番号】特表2008−526750(P2008−526750A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−549533(P2007−549533)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/046951
【国際公開番号】WO2006/078421
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(591163122)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/US2005/046951
【国際公開番号】WO2006/078421
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(591163122)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (8)
【Fターム(参考)】
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