説明

腎症と関連するバイオマーカー

本発明は、尿中バイオマーカーレベルを質量分析または免役分析によって測定して、腎症を診断すること、腎症の進行をモニターすること、腎症治療の有効性を判定すること、及び薬剤の腎毒性を判定することに関する。これらの尿中バイオマーカーとしては、白血球関連Ig様受容体2、α1酸性糖タンパク質、それらのフラグメント、及びそれらの組合せが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎症と関連するバイオマーカーに関するものである。
【0002】
本出願は、2009年1月28日に出願された米国特許仮出願番号第61/147,785号についての優先権を主張するものであり、その内容は参照することにより本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0003】
腎症は、通常、糖尿病、高血圧、薬物毒性、及び炎症に起因する腎障害として知られている。
【0004】
通常、腎症は、タンパク尿のレベル(例えば、尿中アルブミンのレベル)を測定することによって、あるいは、腎機能の指標である糸球体濾過量(GFR)を検査することによって診断される。この両方の方法は、一般的に症状を示さない初期腎症を検出するのに適さない。腎症は、腎生検によっても検出することができるが、この侵襲的方法は、理想的な診断方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第4,376,110号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ハーロー(Harlow)及びレーン(Lane),(1988)抗体:実験室マニュアル(Antibodies:A Laboratory Manual),コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory),ニューヨーク(New York)
【非特許文献2】コーラー(Kohler)ら、(1975)ネイチャー(Nature)256巻,495頁
【非特許文献3】コーラー(Kohler)ら、(1976)ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イムノロジー(Eur J Immunol)6巻,511頁
【非特許文献4】コーラー(Kohler)ら、(1976)ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イムノロジー(Eur J Immunol)6巻,292頁
【非特許文献5】ハンマーリング(Hammerling)ら(1981)モノクローナル抗体及びT細胞ハイブリドーマ(Monoclonal Antibodies and T Cell Hybridomas),エルシビア(Elsevier),ニューヨーク(N.Y.)
【非特許文献6】コーラー(Kohler)ら、(1975)ネイチャー(Nature)256巻,495頁
【非特許文献7】コスボア(Kosbor)ら、(1983)イムノロジー・トュデイ(Immunol Today)4巻,72頁
【非特許文献8】コール(Cole)ら、(1983)プロシーディングズ・オブ・ザ・ナチュラル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・オブ・ザ・ユー・エス・エイ(Proc. Natl. Acad Sci.USA)80巻,2026頁)
【非特許文献9】コール(Cole)ら、(1983)モノクローナル抗体及び癌治療(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy),アラン・アール・リス・インク(Alan R.Liss,Inc.),77−96頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
初期腎症を検出する方法を開発することが非常に重要である。この目標を達成する鍵は、初期腎症と関連する信頼できるバイオマーカーを特定することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、白血球関連Ig様受容体2、α1酸性糖タンパク質、及びこれらの2つのタンパク質のフラグメントの尿レベルが腎症のない患者よりも腎症患者に高いといった、予期せぬ発見に基づくものである。それゆえ、これらのタンパク質分子は、初期腎症の診断用バイオマーカーとして信頼性の高いものである。
【0009】
従って、本発明のある態様は、腎症の診断方法を特徴とする。この方法は、少なくとも以下のステップを含む:(a)腎症を有する疑いのある被検者から尿サンプルを取得するステップ、(b)尿サンプル中におけるバイオマーカーのレベルを測定するステップ、及び(c)バイオマーカーのレベルに基づき、被検者が腎症を有するかどうかを判定するステップ。上述の方法に用いられるバイオマーカーは、以下のうちの1つである:(i)白血球関連Ig様受容体2、または少なくとも10個のアミノ酸残基を有する、DFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)などの白血球関連Ig様受容体2のフラグメント、(ii)少なくとも10個のアミノ酸残基を有する、GQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)などのα1酸性糖タンパク質のフラグメント、(iii)(i)及び(ii)の組合せ、または(iv)(i)及びα1酸性糖タンパク質の組合せ。4つのバイオマーカーのうちの1つのレベルが腎症のない被検者のレベルに比べて高い場合、被検者は腎症を有していることを示している。ある実施例において、バイオマーカーのレベルは、質量分析(例えば、MALDI−MS、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)、及び液体クロマトグラフ−タンデム質量分析(LC−MS/MS))によって測定される。別の実施例では、免疫分析(例えば、ELISA、ウェスタンブロット、放射免疫測定(RIA)、蛍光免疫測定(FIA)、及び発光免疫測定(LIA))によって測定される。
【0010】
上述の腎症診断方法は、例えば、タンパク尿のないヒト及び実験動物の両方に適用することができる。ここに用いられる「実験動物」という用語は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、猫、犬、豚、及び非ヒト霊長類などの動物試験に一般的に用いられる脊椎動物を意味する。
【0011】
本発明の別の態様は、被検者の腎症進行をモニターする方法を特徴とする。この方法は、(a)腎症を患っている被検者(例えば、ヒトまたは実験動物)から第1の尿サンプルを取得すること、(b)第1の尿サンプル中における上記4つのバイオマーカーのうちの1つのレベルを測定すること、(c)第1の尿サンプルを取得してから2週間〜12ヶ月後に被検者から第2の尿サンプルを取得すること、(d)第2の尿サンプル中におけるバイオマーカーのレベルを測定すること、及び(e)被検者の腎症進行を判定することを含む。第2の尿サンプル中におけるバイオマーカーのレベルが第1の尿サンプル中におけるバイオマーカーのレベルに比べて高い場合、腎症が被検者内で悪化していることを示している。被検者が初期腎症のヒトである場合、第2の尿サンプルは、第1の尿サンプルを取得してから6〜12ヶ月後に取得される。後期腎症のヒトの被検者では、第2の尿サンプルは、第1の尿サンプルを取得してから3〜6ヵ月後に取得することができる。この方法が実験動物に用いられる場合、第2の尿サンプルは、第1の尿サンプルを所得してから2〜24週間後に取得される。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、腎症患者の腎症治療の有効性をモニターする方法を提供する。この方法は、(a)治療前の腎症患者からの尿サンプル中における上記のバイオマーカーのうちの1つのレベルを測定すること、(b)治療後の患者からの尿サンプル中におけるバイオマーカーのレベルを測定すること、及び(c)治療後のバイオマーカーのレベルの変化に基づき、治療の有効性を判定することを含む。治療後のバイオマーカーのレベルが治療前のバイオマーカーのレベルと比較して、同じままであるか、あるいは、低下している場合、治療は有効であることがわかる。
【0013】
本発明は、薬剤の腎毒性を判定する方法も提供する。この方法は、(a)治療中のさまざまな時点で、薬剤治療された被検者から複数の尿サンプルを取得すること、(b)各尿サンプルの上記のバイオマーカーのうちの1つのレベルを測定すること、及び(c)治療中のバイオマーカーのレベルの変化に基づき、薬剤の腎毒性を判定することを含む。治療の過程におけるバイオマーカーのレベルの上昇は、薬剤が腎毒性であることを示している。薬剤としては、化合物(例えば、薬物または薬剤候補)、ハーブ製品、及び食品が挙げられる。
【0014】
本発明は、上記の方法のいずれかに有用なキットを更に提供する。このキットは、白血球関連Ig様受容体2と特異的に結合する第1抗体、及びα1酸性糖タンパク質と特異的に結合する第2抗体を含む。両方の抗体は、完全免疫グロブリン分子であり得る。ある実施例では、このキットは、ここに記載された方法のうちの1つを実施するために検出される抗原(例えば、腎症関連のバイオマーカー)に特異的な抗体だけを含む。即ち、このキットは、このような抗体で実質的に構成される。
【0015】
また、本発明の範囲内には、DFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)またはGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)に特異的に結合する単離抗体を有する。ここに用いられる「抗体」という用語は、自然に結合された分子を実質的に有しない抗体を意味する。より具体的に言えば、製剤中の自然に結合された分子が多くて20%の乾燥重量を構成する場合、抗体を含有する製剤は、「単離抗体」としてみなされる。純度は、例えば、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、及び高速液体クロマトグラフィーなどの好適な方法によって測定することができる。
【0016】
上記のどの抗体も、本発明の方法のいずれかを実施するのに有用なキットを製造するのに用いることができる。
【0017】
本発明の1つまたはそれ以上の実施の形態の詳細を以下に説明する。本発明の他の特徴または利点は、以下の複数の実施例の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
まず、図面について説明する。
【図1】健常対照及び様々なタイプの腎症を有する患者における、白血球関連Ig様受容体2のフラグメント及びα1酸性糖タンパク質のフラグメントを組み合わせたレベルのボックスプロットを示す図である。DN、IgAN、CHN、及びMGNは、糖尿病性腎症、IgA腎症、漢方薬腎症、及び膜性糸球体腎炎腎症を意味する。ボックスの上限及び下限は、25%値及び75%値を示し、ボックスを横切る線は、中央値を示している。上ひげは、75%値プラス1.5の四分位範囲である、上フェンス以下の最大値を示し、下ひげは、25%値マイナス1.5の四分位範囲である、下フェンス以上の最小値を示している。
【図2】健常対照及びCHNを有する患者における、白血球関連Ig様受容体2のフラグメント及びα1酸性糖タンパク質のフラグメントを組み合わせたレベルのボックスプロットを示す図である。ボックスの上限及び下限は、25%値及び75%値を示し、ボックスを横切る線は、中央値を示している。上ひげは、75%値プラス1.5の四分位範囲である、上フェンス以下の最大値を示し、下ひげは、25%値マイナス1.5の四分位範囲である、下フェンス以上の最小値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ある態様において、本発明は、尿中バイオマーカーのレベルに基づいて、腎症を診断する方法に関し、尿中バイオマーカーとしては、白血球関連Ig様受容体2(ジェンバンク(GenBank)受託番号CAQ08962;2010年1月10日)、α1酸性糖タンパク質(ジェンバンク(GenBank)受託番号EAW87416;2010年1月10日)、どちらかのタンパク質のフラグメント、またはこれらの組合せが挙げられる。どちらかのタンパク質のフラグメントは、10個のアミノ酸からなる最小の長さを有し、好ましくは、120〜200個のアミノ酸からなる最大の長さを有する。例えば、白血球関連Ig様受容体2及びα1酸性糖タンパク質のフラグメントは、125個及び191個までのアミノ酸残基をそれぞれ含むことができる。ある実施例では、白血球関連Ig様受容体2のフラグメントは、DFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)であり、α1酸性糖タンパク質のフラグメントは、GQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)である。
【0020】
上記の各尿中バイオマーカーは、糖尿病に関連する腎症(即ち、糖尿病性腎症)、腎臓組織内のIgA沈着に起因する糸球体腎炎(即ち、IgA腎症)、炎症(例えば、膜性糸球体腎炎)、漢方薬誘発性の腎線維化(即ち、漢方薬腎症)、腎不全を招く慢性腎尿細管間質障害(即ち、慢性間質性腎炎)、及び巣状分節状糸球体硬化症を含む、任意のタイプの腎症を診断するのに用いることができる。
【0021】
本発明の診断方法を実施するには、腎症を有する疑いのある被検者から尿サンプルを取得し、次いで、上記のバイオマーカーのいずれかのレベルを従来の方法、例えば、酵素免疫吸着測定(ELISA)及びウェスタンブロットによって測定する。バイオマーカーがペプチドまたはペプチドの組合せである場合、そのレベルは、質量分析によって測定することができる。次いで、尿バイオマーカーのレベルを、腎症を有しない被検者の同様の尿バイオマーカーのレベルを表している基準点と比較する。基準点は、腎症患者のグループと腎症を有しない被検者のグループの尿バイオマーカーの代表的なレベルに基づいて、所定の実施によって測定され得る。例えば、それは、これらの2つのグループの平均レベル間の中間点とすることができる。被検者の尿バイオマーカーのレベルが基準点より大きい場合、被検者が腎症を有することを示している。
【0022】
必要な時には、微小変化型ネフローゼ(MCN)または微小変化型疾患(MCD)を有する患者は、上記の基準点を測定する対照グループとして用いることができる。一般的に、MCN及びMCDの患者は、顕著なタンパク尿を示すが、腎機能は正常である。
【0023】
白血球関連Ig様受容体2のフラグメント、またはα1酸性糖タンパク質のフラグメントを用いる場合、本発明の診断方法は、尿中のタンパク質(例えば、アルブミン)の存在が検出できないときに、即ち、タンパク尿を示さないときに、初期腎症を検出するのに用いることができる。
【0024】
別の態様において、本発明は、上記の尿バイオマーカーのいずれかに基づいて、被検者の腎症進行をモニターする方法に関する。この方法を実施するためには、被検者から2つの尿サンプルを適当な期間(例えば、2週間〜12ヶ月)で取得し、上記の尿バイオマーカーのうちの1つのレベルを測定するように検査すればよい。後に得られた尿サンプル中における尿バイオマーカーのレベルが先に得られた尿サンプル中における尿バイオマーカーより大きい場合、被検者内に腎症進行があることを示す。
【0025】
モニター方法は、腎症を患っているか、あるいは、腎症のリスクがあるヒト被検者に用いることができる。ヒト被検者が腎症のリスクがあるか、あるいは、初期腎症である場合、尿バイオマーカーのレベルは、6〜12ヵ月毎に1回測定して、腎症進行をモニターすることができる。ヒト被検者が既に腎症の後期にある場合、尿バイオマーカーのレベルは、3〜6ヵ月毎に1回測定することが好ましい。腎障害を患っていても、初期腎症である患者は、一般的に無症状であり、正常な肝機能を示す。これらの患者は、腎症進行のリスクがある。後期腎症は、GFR(例えば、<15mL/分/1.73m)のかなりの低下により特徴付けられる。
【0026】
上記のモニター方法は、腎症を研究するために所定の手順に従って実験動物に用いることもできる。好ましくは、実験動物は、2〜24週間毎に1回検査され、上記の尿バイオマーカーのうちの1つのレベルを測定する。時間と共にバイオマーカーのレベルが増加するのは、動物の疾病が進行していることを示している。
【0027】
更に別の態様において、本発明は、腎症治療を必要としている被検者(即ち、ヒト腎症患者または腎障害を有する実験動物)の治療の有効性を判定する方法を提供する。この方法では、上記の尿バイオマーカーのうちの1つのレベルを、治療前、治療中及び/または治療後に測定する。尿バイオマーカーのレベルが治療の過程を通して同じままであるか、あるいは、低下している場合、治療は有効であることを示している。
【0028】
上記の尿バイオマーカーは、いずれも、標的薬剤の腎毒性、即ち、薬剤が腎障害を誘発するかどうかをモニターするのに用いることもできる。標的薬剤は、ヒトに投与するためのいかなる化合物または組成物とすることができる。その例としては、薬物(例えば、非ステロイド系抗炎症薬)または薬剤候補、食品またはサプリメント、およびハーブサプリメントであり得る化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。標的薬剤の腎毒性は、時間と共に尿中バイオマーカーのレベルを上昇させるその能力によって示される。
【0029】
また、ここに述べられるのは、上記の方法のいずれかを実施するのに有用なキットである。このキットは、少なくとも2つの抗体を含み、その1つは、Ig様受容体2に特異的な抗体、例えば、そのフラグメントDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)またはその中に含まれる任意のエピトープと特異的に結合可能な抗体であり、もう1つは、α1酸性糖タンパク質に特異的な抗体、例えば、そのフラグメントGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)またはその中に含まれる任意のエピトープと特異的に結合可能な抗体である。ある実施例では、このキットは、同じバイオマーカーと結合する2つの異なる抗体(即ち、コーティング抗体及び検出抗体)を含む。通常、検出抗体は、それ自身によって、または他の薬剤と結合することによって検出可能な信号を発する分子と連結される。ここに用いられる「抗体」という用語は、例えば、完全免疫グロブリン、または抗原結合活性を保持するそのフラグメント、例えば、FabまたはF(ab’)など意味する。これは、天然に存在するか、あるいは、遺伝子工学的に得ることができる(例えば、単鎖抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体)。
【0030】
本発明のキットに含まれる抗体は、市販品のメーカーから入手することができる。あるいは、それらは、従来の方法によって製造することができる。例えば、非特許文献1を参照されたい。上記のある特定のバイオマーカーに対する抗体を製造するには、このマーカーを、必要に応じてキャリアタンパク質(例えば、KLH)に結合させ、アジュバントと混合し、宿主動物に注入すればよい。次いで、動物内で産生された抗体は、アフィニティークロマトグラフィーによって精製することができる。一般的に用いられる宿主動物としては、ウサギ、マウス、モルモット、及びラットが挙げられる。免疫応答を増強させるのに用いることができる種々のアジュバントは、宿主動物種に依存し、例えば、フロイントアジュバント(完全及び不完全)、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、CpG、リゾレシチンのような表面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルション、キーホールリンペットヘモシアニン、及びジニトロフェノールが挙げられる。有用なヒトアジュバントとしては、カルメット−ゲラン杆菌(bacille Calmette−Guerin;BCG)及びコリネバクテリウム・パルヴム(Corynebacterium parvum)が挙げられる。ポリクローナル抗体、即ち、抗体分子の不均質な集団は、免疫動物の血清中に存在する。
【0031】
モノクローナル抗体、即ち、抗体分子の均質な集団は、標準的なハイブリドーマ技術を用いて調製することができる(例えば、非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;及び非特許文献5を参照されたい)。特に、モノクローナル抗体は、非特許文献6及び特許文献1に記載されるような培養液中での連続細胞株による抗体分子の産生を提供するいずれかの技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(非特許文献7;非特許文献8)、及びEBVハイブリドーマ技術(非特許文献9)によって得られる。これらの抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDを含む、いずれの免疫グロブリンクラス、及びこれらのいずれのサブクラスであってもよい。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、生体外または生体内で培養すればよい。生体内で高力価のモノクローナル抗体を産生できることが、特に有用な製造方法である。
【0032】
更に、抗体フラグメントは、公知の方法によって製造することができる。例えば、これらのフラグメントとしては、抗体分子のペプシン消化によって製造することができるF(ab’)フラグメント、及びF(ab’)フラグメントのジスルフィド架橋を減少させることによって製造することができるFabフラグメントが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
これ以上詳述しなくても、当業者は上記の説明に基づいて本発明を最大限に利用できると考えられる。したがって、以下の実施の形態は、代表的なものに過ぎず、いかなる意味でも開示内容の残部を限定するものではない。ここに引用したすべての刊行物は、参照することにより本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0034】
実施例1:尿白血球関連Ig様受容体2またはα1酸性糖タンパク質をバイオマーカーとして用いて腎症を診断すること
材料及び方法
(i)被検者
以下のヒト被検者のグループが本研究に参加した。
(a)健常ドナー:糖尿病を有さず、正常な腎機能を有する
(b)DM患者:2型糖尿病を有するが、腎症を有しない
(c)DN患者:糖尿病性腎症を有する
(d)DN尿毒症患者:尿毒症を伴うDNを有する
(e)IgAN患者:IgA腎症を有する
(f)MGN患者:膜様糸球体腎炎を有する
(g)CHN患者:漢方薬誘発性の腎症を有する、及び
(h)CIN患者:慢性間質性腎炎を有する
健常ドナーと患者の臨床的特徴を下記の表1に要約する:
【0035】
【表1】

【0036】
(ii)マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量(MALDI−MS)分析
中間尿サンプルは、早朝に上記のヒト被検者のグループから収集された。健常ドナー及び患者の両方からの、システインプロテアーゼ阻害剤と混合された、これらの尿サンプルは、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI−TOF MS)によって分析された。健常ドナーのグループと様々な患者のグループに異なって表れたペプチド候補は、各患者グループと健常ドナーグループとの間のポリペプチドパターンを比較し、人口統計学及びサンプルパラメータの統計的評価を考慮に入れることで、特定された。これらのペプチドは、精製され、それらのアミノ酸配列が所定の技術によって決定された。
【0037】
(iii)ウェスタンブロット分析
ウェスタンブロット分析は、所定の技術に従って、白血球関連Ig様受容体2のフラグメントDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)及びα1酸性糖タンパク質のフラグメントGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)に特異的な抗体を用いて実施された。この結果は、同じサンプルのクレアチニンまたはタンパク質のレベルに対して正規化された。
【0038】
(iv)ELISA
尿サンプルは、プロテアーゼ阻害剤と混合され、希釈バッファーと1:100で希釈され、血清サンプルは、1:10で希釈された。希釈されたサンプルは、トリプリケートでELISAプレートに入れられた。白血球関連Ig様受容体2及びα1酸性糖タンパク質の濃度は、標準的なサンドイッチELISA法によって測定され、同じサンプルのクレアチニンまたはタンパク質のレベルに対して正規化された。
【0039】
結果
上述のMALDI−MS分析によって、ペプチドDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)及びGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)は、健常対照からの尿サンプルに比較して大幅に高いレベルで、腎症患者からの尿サンプルに検出された。配列番号1及び2は、それぞれ白血球関連Ig様受容体2及びα1酸性糖タンパク質のフラグメントである。健常ドナーのグループと様々な患者のグループのこれらの2つのペプチドの陽性率を下記の表2に示す:
【0040】
【表2】

【0041】
この結果は、腎症患者のこれらの2つのペプチドの尿レベルがタンパク尿と相関していなかったことも示しており、それらが尿中にタンパク質、特にアルブミンが現れる前に、腎臓障害を検出するのに用いることができることを示している。
【0042】
また、腎症患者のこれらの2つのペプチドの尿レベルは、糸球体濾過量(GFR)と逆相関を示すことが見出されており、腎機能の変化及び腎症進行をモニターするマーカーとなり得ることを示している。
【0043】
上記のELISA及びウェスタンブロット分析によって、白血球関連Ig様受容体2及びα1酸性糖タンパク質は、腎症患者(例えば、漢方薬誘発性の腎症を有する患者)からの尿サンプルと健常対照からの尿サンプルとで異なって表れることが見出された。下記の表3を参照されたい。さらに詳しくは、健常対照からの尿サンプル中にいずれのタンパク質の存在もほぼ検出できないが、より高いレベルのタンパク質が腎症患者からの尿サンプルで見出された。この結果は、いずれのタンパク質も、腎症を診断するマーカーとして用いることができることを示している。
【0044】
【表3】

【0045】
実施例2:白血球関連Ig様受容体2とα1酸性糖タンパク質との組合せをバイオマーカーとして用いて腎症を診断すること
健常対照及び腎症患者(糖尿病性腎症、尿毒症、IgA腎症、漢方薬誘発性の腎症、及び膜様糸球体腎炎腎症を有する患者を含む)の両方からの尿白血球関連Ig様受容体2及びα1酸性糖タンパク質のレベルを、上記の実施例1で述べたように測定した。
【0046】
図1に示されるように、上記の2つのタンパク質マーカーの組み合わせたレベルは、健常対照に比べて、全てのタイプの腎症患者で大幅に高かった(AUROC=0.93)。このことは、白血球関連Ig様受容体2とα1酸性糖タンパク質とを組み合わせれば、腎症を診断する高感度で特異性の高い信頼できるバイオマーカーとして用いることできることを示している。
【0047】
尿白血球関連Ig様受容体2とα1酸性糖タンパク質との組合せは、漢方薬によって誘発された腎症を検出するのに特に信頼できることが見出された。図2を参照されたい。本研究から得られたAUROCが1.0に達するということは、このバイオマーカーを用いて漢方薬誘発性の腎症を有する患者を診断する場合に診断精度が100%であることを示している。
【0048】
他の実施の形態
本明細書に開示された全ての特徴は、任意の組合せで結合してもよい。本明細書に開示されたそれぞれの特徴は、同じ、等価の、または同様の目的を提供する代替の特徴によって置き換えられてもよい。よって、明示的に特に断らない限り、それぞれの特徴は、等価または同様の特徴の一般的な系列の一例に過ぎない。
【0049】
上記の説明から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に確かめることができ、また、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、本発明の様々な変更や修飾を行って、本発明を様々な用途や条件に適用することができる。従って、他の実施の形態も特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の腎症を診断する方法であって、
腎症を有する疑いのある被検者から尿サンプルを取得すること、
(i)白血球関連Ig様受容体2、または少なくとも10個のアミノ酸残基を有する、白血球関連Ig様受容体2のフラグメントである第1のタンパク質分子、(ii)少なくとも10個のアミノ酸残基を有するα1酸性糖タンパク質のフラグメントである第2のタンパク質分子、(iii)前記第1及び第2のタンパク質分子の組合せ、及び(iv)前記第1のタンパク質分子及びα1酸性糖タンパク質の組合せよりなる群から選択されるバイオマーカーの前記尿サンプル中におけるレベルを測定すること、及び
前記バイオマーカーのレベルに基づき、前記被検者が腎症を有するかどうかを判定することを含み、
前記バイオマーカーのレベルが腎症のない被検者のレベルに比べて高い場合、前記被検者は腎症を有していることを示している、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記白血球関連Ig様受容体2のフラグメントがDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)であり、前記α1酸性糖タンパク質のフラグメントがGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイオマーカーのレベルが質量分析または免疫分析によって測定される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記質量分析が、MALDI−MS、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)、及び液体クロマトグラフ−タンデム質量分析(LC−MS/MS)よりなる群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫分析が、ELISA、ウェスタンブロット、放射免疫測定(RIA)、蛍光免疫測定(FIA)、及び発光免疫測定(LIA)よりなる群から選択される請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記被検者がヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記被検者が実験動物である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バイオマーカーが前記第1のタンパク質分子である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のタンパク質分子が白血球関連Ig様受容体2である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のタンパク質分子がDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)である請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記被検者がタンパク尿のない被検者である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記バイオマーカーが前記第2のタンパク質分子である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のタンパク質分子がGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記被検者がタンパク尿のない被検者である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記バイオマーカーが、前記第1及び第2のタンパク質分子の組合せ、または、前記第1のタンパク質分子及びα1酸性糖タンパク質の組合せである請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1のタンパク質分子が、白血球関連Ig様受容体2、またはDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)である白血球関連Ig様受容体2のフラグメントであり、前記第2のタンパク質分子がGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
被検者の腎症進行をモニターする方法であって、
腎症を患っている被検者から第1の尿サンプルを取得すること、
(i)白血球関連Ig様受容体2、または少なくとも10個のアミノ酸残基を有する、白血球関連Ig様受容体2のフラグメントである第1のタンパク質分子、(ii)少なくとも10個のアミノ酸残基を有するα1酸性糖タンパク質のフラグメントである第2のタンパク質分子、(iii)前記第1及び第2のタンパク質分子の組合せ、及び(iv)前記第1のタンパク質分子及びα1酸性糖タンパク質の組合せよりなる群から選択されるバイオマーカーの前記第1の尿サンプル中におけるレベルを測定すること、
前記第1の尿サンプルを取得してから2週間〜12ヶ月後に前記被検者から第2の尿サンプルを取得すること、
前記第2の尿サンプル中における前記バイオマーカーのレベルを測定すること、及び
前記被検者の腎症進行を判定することを含み、
前記第2の尿サンプル中における前記バイオマーカーのレベルが前記第1の尿サンプル中におけるレベルに比べて高い場合、腎症が前記被検者内で悪化していることを示している、ことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記白血球関連Ig様受容体2のフラグメントがDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)であり、前記α1酸性糖タンパク質のフラグメントがGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記被検者が初期腎症のヒトであり、前記第2の尿サンプルが前記第1の尿サンプルを取得してから6〜12ヶ月後に取得される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記被検者が後期腎症のヒトであり、前記第2の尿サンプルが前記第1の尿サンプルを取得してから3〜6ヵ月後に取得される請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記被検者が実験動物であり、前記第2の尿サンプルが前記第1の尿サンプルを取得してから2〜24週間後に取得される請求項18に記載の方法。
【請求項22】
腎症患者の腎症治療の有効性をモニターする方法であって、
(i)白血球関連Ig様受容体2、または少なくとも10個のアミノ酸残基を有する、白血球関連Ig様受容体2のフラグメントである第1のタンパク質分子、(ii)少なくとも10個のアミノ酸残基を有するα1酸性糖タンパク質のフラグメントである第2のタンパク質分子、(iii)前記第1及び第2のタンパク質分子の組合せ、及び(iv)前記第1のタンパク質分子及びα1酸性糖タンパク質の組合せよりなる群から選択される、前記治療前の前記患者からの尿サンプル中におけるバイオマーカーのレベルを測定すること、
前記治療後、前記被検者からの尿サンプル中におけるバイオマーカーのレベルを測定すること、及び
前記治療後の前記バイオマーカーのレベルの変化に基づき、前記治療の有効性を判定することを含み、
前記治療後の前記バイオマーカーのレベルが前記治療前のバイオマーカーのレベルと比較して、同じままであるか、あるいは、低下している場合、前記治療は有効である、ことを特徴とする方法。
【請求項23】
前記白血球関連Ig様受容体2のフラグメントがDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)であり、前記α1酸性糖タンパク質のフラグメントがGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
薬剤の腎毒性を判定する方法であって、
治療中のさまざまな時点で、薬剤治療された被検者から複数の尿サンプルを取得すること、
(i)白血球関連Ig様受容体2、または少なくとも10個のアミノ酸残基を有する、白血球関連Ig様受容体2のフラグメントである第1のタンパク質分子、(ii)少なくとも10個のアミノ酸残基を有するα1酸性糖タンパク質のフラグメントである第2のタンパク質分子、(iii)前記第1及び第2のタンパク質分子の組合せ、及び(iv)前記第1のタンパク質分子及びα1酸性糖タンパク質の組合せよりなる群から選択されるバイオマーカーの前記尿サンプルのそれぞれにおけるレベルを測定すること、及び
前記治療中の前記バイオマーカーのレベルの変化に基づき、前記薬剤の腎毒性を判定することを含み、
前記治療の過程における前記バイオマーカーのレベルの上昇は、前記薬剤が腎毒性であることを示している、ことを特徴とする方法。
【請求項25】
前記薬剤が、化合物、ハーブ製品、及び食品よりなる群から選択される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記白血球関連Ig様受容体2のフラグメントがDFLELLVKGTVPGTEASGFDAP(配列番号1)であり、前記α1酸性糖タンパク質のフラグメントがGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLS(配列番号2)である請求項24に記載の方法。
【請求項27】
DFLELLVKGTVPGTEASGFDAPまたはGQEHFAHLLILRDTKTYMLAFDVNDEKNWGLSと特異的に結合することを特徴とする単離抗体。
【請求項28】
白血球関連Ig様受容体2と特異的に結合する第1抗体及びα1酸性糖タンパク質と特異的に結合する第2抗体を含むことを特徴とする腎症診断キット。
【請求項29】
前記第1及び第2抗体が完全免疫グロブリン分子である請求項17に記載のキット。
【請求項30】
白血球関連Ig様受容体2と特異的に結合する第1抗体及びα1酸性糖タンパク質と特異的に結合する第2抗体で実質的に構成されることを特徴とする腎症診断キット。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−516430(P2012−516430A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546554(P2011−546554)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000096
【国際公開番号】WO2010/085878
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(507084073)インダストリアル テクノロジー リサーチ インスティテュート (22)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【Fターム(参考)】