説明

腐食抑制剤及び配管の防食方法

【課題】保温材を解体せずとも、金属製の配管の外表面の腐食を抑制することができる配管の防食方法及びこの配管の防食方法に用いられる腐食抑制剤を提供する。
【解決手段】金属製の配管11の外表面を覆う保温材12に、配管11へ向かって延びる少なくとも1つの細孔をあけ、塩化物イオンと反応して難溶性塩化物を形成する成分及び塩化物イオンを捕集する成分の少なくとも一方を含む腐食抑制剤を、保温材12の細孔を通して配管11の外表面に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、保温材が外表面に接触して配置された金属製の配管の防食方法及びこの配管の防食方法に用いられる腐食抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学プラント及びエネルギープラント等の各種プラントにおいては、高温の流体を流通させる金属製の配管が多く敷設されており、流体の温度低下を防止するために、通常、配管の外表面を覆うように保温材が施工されている。ところが、このような保温材で覆われた金属製の配管では、保温材の内部に水分が侵入することにより、配管の外表面と保温材との間に水分が入り込み、配管の外表面に腐食(保温材下腐食(CUI:Corrosion Under Insulation))が発生するという問題がある。また、侵入した水分中に塩化物イオンが存在する場合、その腐食はさらに促進される。
【0003】
配管の外表面が保温材で覆われているため、このような保温材下腐食の点検確認を行おうとする場合、目視での点検が困難となり、保温材を撤去する必要がある。
【0004】
そこで、このような保温材下腐食を抑制するために、特許文献1には、腐食の促進因子となる塩化物イオンを捕集するハイドロカルマイトを有効成分として予め含有した保温材を用いる方法が開示されている。
また、特許文献2には、塩化物イオン等の腐食性イオン物質を捕集するとともに、化学反応をおこなって不動態化するための吸着剤を配管の外表面に付着させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−299822号公報
【特許文献2】特開2004−360007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び2に記載されている方法は、配管を新設する場合には、大変有効であるが、保温材で覆われた既存の配管に対しては、保温材を解体して防食作業を行わなければならず、多大な手間と費用がかかる。
【0007】
そこで、この発明は、このような従来の問題点を解消し、保温材を解体せずとも、金属製の配管の外表面の腐食を抑制することができる配管の防食方法及びこの配管の防食方法に用いられる腐食抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る配管の防食方法は、外表面が保温材で覆われた金属製の配管の防食方法であって、保温材に配管へ向かって延びる少なくとも1つの細孔をあけ、塩化物イオンと反応して難溶性塩化物を形成する成分及び塩化物イオンを捕集する成分の少なくとも一方を含む腐食抑制剤を、前記保温材の前記細孔を通して前記配管の外表面に注入する方法である。
【0009】
難溶性塩化物は、Ag、Cu、Au、Tl、Pb及びPtからなる群から選択される金属の塩化物であることが好ましい。
また、難溶性塩化物を形成する成分は、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、ホウ酸塩及びリン酸塩からなる群から選択されることが好ましい。
また、難溶性塩化物を形成する成分は、亜硝酸銀であることが好ましい。
さらに、腐食抑制剤は、亜硝酸銀を0.1〜1.38重量%含むことが好ましい。
塩化物イオンを捕集する成分は、ハイドロカルマイトであることが好ましい。
また、ハイドロカルマイトは、亜硝酸型であることが好ましい。
また、細孔を複数あけ、前記配管の外表面に前記腐食抑制剤を注入してもよい。
【0010】
この発明に係る腐食抑制剤は、上記の配管の防食方法に用いられる腐食抑制剤である。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、保温材を解体せずとも、金属製の配管の外表面の腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の一実施形態に係る配管の防食方法を説明するための図である。
【図2】図1に示した実施形態において、腐食抑制剤の到達範囲を示す図である。
【図3】図1に示した実施形態の変形例に係る配管の防食方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付の図面に示す好適な実施形態に基づいて、この発明を詳細に説明する。
【0014】
図1を参照して、この発明の一実施形態に係る配管の防食方法を説明する。
図1に示す鋼製の配管11は、その外表面が保温材12で覆われ、さらに、その外表面が亜鉛鉄板13で覆われているといった一般的な構造をもつ配管である。
この実施形態に係る配管11の防食方法は、まず、保温材12を覆っている亜鉛鉄板13に1つの開口部14を形成し、次いで、その開口部14から保温材12の内部にシリンジ15の先端を挿入することにより、配管11の外表面を覆っている保温材12に、配管11へ向かって延びる1つの細孔16を形成し、そのシリンジ15の先端部に配置された注入口から腐食抑制剤を注入するという方法である。腐食抑制剤は、塩化物イオンと反応して難溶性塩化物を形成する成分として水溶性の亜硝酸銀を、塩化物イオンを捕集する成分として非水溶性の亜硝酸型ハイドロカルマイトをそれぞれ含むものである。
【0015】
このような成分からなる腐食抑制剤が、保温材12上から配管11へ向かって注入されることにより、配管11の外表面と保温材12との間に存在する塩化物イオンが固定化される一方、配管11の外表面部分の金属の不動態化が行われる。
より具体的にいえば、上述したように、保温材下腐食は、配管11の外表面と保温材12との間に水分が入り込むことにより発生するが、この実施形態においては、配管11の外表面と保温材12との間に上記成分からなる腐食抑制剤を注入することにより、腐食の発生ではなく、下記に示すような亜硝酸銀による塩化物イオンの固定化及び亜硝酸型ハイドロカルマイトによる塩化物イオンの固定化という2つの反応をおこす。
【0016】
1)亜硝酸銀による塩化物イオンの固定化
水溶性である亜硝酸銀は、溶媒である水に溶解した状態で、配管11の外表面と保温材12との間に侵入する。そこで、次式(1)に示すように、亜硝酸銀による銀イオンと、塩化物イオンClとが反応し、難溶性結晶である塩化銀AgClを生成することにより、塩化物イオンClを固定化する。一方、亜硝酸イオンNOは、溶媒である水とともに配管11の外表面に到達し、次式(2)に示すように、鉄イオンFe2+と水酸化物イオンOHとの反応により、酸化被膜、すなわち、不動態皮膜を生成する。
AgNO+Cl→AgCl+NO (1)
Fe2++2NO+2OH→2NO+HO+γ-Fe(不動態皮膜) (2)
【0017】
2)亜硝酸型ハイドロカルマイトによる塩化物イオンの固定化
亜硝酸型ハイドロカルマイトは、次式(3)に示すように、塩化物イオンClを吸着固定化し、亜硝酸イオンNOを放出する。一方、亜硝酸イオンNOは、次式(4)に示すように、鉄イオンFe2+と水酸化物イオンOHとの反応により、酸化被膜、すなわち、不動態皮膜を生成する。
3CaO・Al・Ca(NO+2Cl→3CaO・Al・CaCl+2NO (3)
Fe2++2NO+2OH→2NO+HO+γ-Fe(不動態皮膜) (4)
【0018】
このような反応の結果、配管11は、保温材12を解体せずとも、金属製の配管11の外表面の腐食を抑制することができる。また、その結果、その使用期間も大幅に延長することができ、メンテナンスにかかる費用も大幅に削減できる。
【0019】
また、この実施形態においては、水溶性の亜硝酸銀及び非水溶性の亜硝酸型ハイドロカルマイトという物性の異なる成分からなる腐食抑制剤を用いるので、配管11の外表面全体に、腐食抑制剤を行き渡らせることができる。
図2を参照して、この実施形態において、配管11へ向かって注入された腐食抑制剤の到達範囲について説明する。
図2は、図1の示す配管11に向かって、亜硝酸銀18及び亜硝酸型ハイドロカルマイト19を含む腐食抑制剤をシリンジ15の注入口から注入した後、亜鉛鉄板13の開口部14をシーリング材17で塞いだ図である。
【0020】
亜硝酸銀18は、水溶性であるため、注入した部位(シリンジ15の注入口)から、配管11の外表面に沿って配管11と保温材12との隙間に入り込み、特に、腐食成分を含む水分が蓄積しやすい配管11の下部にも容易に到達することができる。
一方、亜硝酸型ハイドロカルマイト19は、非水溶性であるため、シリンジ15により注入された箇所の近傍に貯留し、注入口から離れた箇所まで広範囲に到達させることができない。
従って、図2に示すように、腐食抑制剤に含まれる亜硝酸銀18と亜硝酸型ハイドロカルマイト19とでは、その到達範囲に偏りが生じるが、この実施形態のようにこれら2つの成分を組み合わせることで、配管11の外表面全体に腐食抑制剤を行き渡らせることができる。
【0021】
また、先述した反応式(1)〜(4)に示すように、亜硝酸銀は、1価の塩であるため、亜硝酸銀1モルに対し、1モルの塩化物イオンしか固定化することができないが、亜硝酸型ハイドロカルマイトは、2価のアニオンを有しているアルミニウム複合水酸化物であるため、亜硝酸型ハイドロカルマイト1モルに対し、2モルの塩化物イオンを固定化することができる。
従って、図2に示すように、各成分からなる腐食抑制剤の注入では、その到達範囲に偏りが生じるとしても、この実施形態のように2つの成分を組み合わせることで、効率よく塩化物イオンを固定化することができる。
【0022】
上記実施形態では、塩化物イオンと反応して形成される難溶性塩化物として、塩化銀を生成したが、これに限定されず、Ag、Cu、Au、Tl、Pb及びPtからなる群から選択される金属の塩化物であってもよい。特に、その中でも、環境への影響等が少ないAgからなる塩化物であることが好ましい。
また、上記実施形態では、塩化物イオンと反応して難溶性塩化物を形成する成分として好ましい亜硝酸銀を用いたが、これに限定されず、配管11の外表面を不動態化させる機能を有する成分、例えば、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、ホウ酸塩及びリン酸塩であってもよい。
なお、塩化物イオンと反応して難溶性塩化物を形成する成分として亜硝酸銀を用いる場合、腐食抑制剤は、亜硝酸銀を0.1〜1.38重量%含むことが好ましい。このような量の亜硝酸銀を含んでいれば、効率よく、塩化物イオンを固定化することができる。
【0023】
上記実施形態では、塩化物イオンを捕集する成分として好ましい亜硝酸型のハイドロカルマイト(3CaO・Al・Ca(NO・nHO)を使用しているが、ハイドロカルマイト(3CaO・Al・CaX2/m・nHO)であれば、特にその種類は限定されない。
【0024】
上記実施形態に係る配管の防食方法では、保温材12を覆っている亜鉛鉄板13に1つの開口部14を形成し、次いで、その開口部14から、配管11の外表面を覆っている保温材12に、配管11へ向かって延びる1つの細孔16をシリンジ15であけ、そのシリンジ15の注入口から、腐食抑制剤を注入したが、これに限定されず、保温材12に複数の細孔をあけ、それら複数の細孔からそれぞれ腐食抑制剤を注入してもよい。
例えば、図3に示すように、亜鉛鉄板13に2つの開口部14及び20を形成し、それらの開口部14及び20から、配管11へ向かって伸びる細孔16及び21をシリンジ15及び22であけ、これらシリンジ15及び22の注入口からそれぞれ腐食抑制剤を注入してもよい。
【0025】
上記実施形態に係る配管の防食方法では、塩化物イオンと反応して難溶性塩化物を形成する成分及び塩化物イオンを捕集する成分からなる腐食抑制剤の双方を併用したが、これに限定されず、いずれか1方の成分を含む腐食抑制剤を用いたとしても、保温材を解体せずに、金属製の配管の外表面の腐食を抑制することができる。
なお、亜鉛鉄板13に形成した開口部14、20は、数mm程度の直径を有していればシリンジ15、22を挿入するのに十分であり、施工後はシーリング材17の他、屋外用耐候性テープで塞ぐこともできる。
【符号の説明】
【0026】
11 配管、12 本体、13 亜鉛鉄板、14,20 開口部、15,22 シリンジ、16,21 細孔、17 シーリング材、18 亜硝酸銀、19 亜硝酸型ハイドロカルマイト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外表面が保温材で覆われた金属製の配管の防食方法であって、
前記保温材に前記配管へ向かって延びる少なくとも1つの細孔をあけ、
塩化物イオンと反応して難溶性塩化物を形成する成分及び塩化物イオンを捕集する成分の少なくとも一方を含む腐食抑制剤を、前記保温材の前記細孔を通して前記配管の外表面に注入する
ことを特徴とする配管の防食方法。
【請求項2】
前記難溶性塩化物は、Ag、Cu、Au、Tl、Pb及びPtからなる群から選択される金属の塩化物である請求項1に記載の配管の防食方法。
【請求項3】
前記難溶性塩化物を形成する成分は、亜硝酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、ホウ酸塩及びリン酸塩からなる群から選択される請求項1または2に記載の配管の防食方法。
【請求項4】
前記難溶性塩化物を形成する成分は、亜硝酸銀であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の配管の防食方法。
【請求項5】
前記腐食抑制剤は、前記亜硝酸銀を0.1〜1.38重量%含む請求項4に記載の配管の防食方法。
【請求項6】
前記塩化物イオンを捕集する成分は、ハイドロカルマイトである請求項1〜5のいずれかに記載の配管の防食方法。
【請求項7】
前記ハイドロカルマイトは、亜硝酸型である請求項6に記載の配管の防食方法。
【請求項8】
前記細孔を複数あけ、前記配管の外表面に前記腐食抑制剤を注入する請求項1〜7のいずれかに記載の配管の防食方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の配管の防食方法に用いられる腐食抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−162847(P2011−162847A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27423(P2010−27423)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】