説明

腐食疲労試験装置

【課題】本発明は、試験片の一端を該一端と協動して軸回転自在に固定支持する装着材と、試験片の他端を自重により鉛直下方に引っ張る荷重付加部材とを備える試験片の回転曲げ疲労強度を測定する疲労試験装置を提供する。
【解決手段】
本疲労試験装置は試験片の軸周りの容器と、容器の荷重付加部側の蓋部材とを備えており、容器の両側壁には試験片が軸方向に貫通し得る孔が設けられ、蓋部材は鉛直方向にスライド自在であり、軸方向に貫通する孔を設ける板状部材である。蓋部材の孔と容器の孔とは試験片が正常な場合には互いに軸方向に覗くように位置決めされ、試験片が曲げられたときには蓋部材が試験片に従って鉛直方向にスライドして容器の荷重付加部側の孔を遮蔽する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材料の腐食環境下における回転曲げ疲労強度を測定するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、鉄道、船舶、航空機、原子力設備等に用いられる材料として鋼材の代わりに、軽量かつ成型が容易なアルミ系材料や、耐熱性に優れた、ニッケル系合金が頻繁に用いられている。
【0003】
このような材料の疲労強度を測定する場合は1×107回の繰り返し疲労を与えることが一般的であったが、近年では1×108や1×109回の繰り返し疲労により2段目の疲労限度が現れることが知られている。このため材料を疲労試験する場合には長期間の試験時間が必要な場合があり、このことが新材料の迅速な研究開発の障害となっていた。
【0004】
これらの材料の機械的強度を正確に試験する必要があり、とりわけ腐食環
境下において発生する応力腐食が材料の機械的強度を著しく阻害するために、腐食と引張圧縮応力との相乗作用によって生じる回転曲げ疲労と腐食割れの試験が必要不可欠であった。従来から、この腐食割れ試験を容易に、かつ迅速に行うことのできる汎用性の高い応力腐食疲労試験装置が提供されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-5532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の試験装置は試験片にかかった腐食液が回収できず、設備の金属部分へ飛散し試験装置本体を腐食させてしまうという課題があった。
【0007】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたもので、金属材料の腐食環境下における疲労試験を容易にかつ迅速に行なうことのできる汎用性の高く、長期にわたる疲労試験を実施しても試験装置本体が腐食しない腐食疲労試験装置を得ることを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、試験片の一端を該一端と協動して軸回転自在に固定支持する装着部材と、前記試験片の他端を自重により鉛直下方に引っ張る荷重付加部材とを備える試験片の回転曲げ疲労強度を測定する疲労試験装置を提供する。具体的に本疲労試験装置は、前記試験片の軸周りに配設される中空箱状の容器(例えば、実施形態における腐食環境槽8)と、前記容器の荷重付加部側に配設される蓋部材(例えば、実施形態における蓋8e)とを備え、前記容器の両側壁には、前記装着部材と前記荷重付加部との間にわたって前記試験片が軸方向に貫通し得る孔(例えば、実施形態における矩形孔8f等)が設けられ、前記蓋部材は、弾性体(例えば、実施形態における引張ばね8d)により前記容器に対して鉛直方向にスライド自在であり、前記軸方向に貫通する孔(例えば、実施形態における矩形孔8g)を設ける板状部材であり、前記蓋部材の孔と前記容器の両側壁の孔とは、試験片が該蓋部材と容器内とを貫通して延びているときには互いに軸方向に覗くように位置決めされ、試験片が曲げられたときには蓋部材が試験片に従って鉛直方向にスライドして容器の荷重付加部側の孔を遮蔽する。
【0009】
また、本発明の疲労試験装置は、前記容器には試験片が貫通する際に上方から液体を滴下し得る位置に液体流入口(例えば、実施形態における腐食液滴下部7)を設けており、前記容器の側壁の孔のうち蓋部材側の孔は、鉛直上下方向に延びる形状を有していることが好ましい。
【0010】
本発明の疲労試験装置は、例えば腐食環境下での回転曲げ疲労強度の測定を目的としている。この回転曲げ疲労試験装置に配設される試験片の軸周りに腐食液等の飛散防止用の容器(例えば、実施形態における腐食環境槽8)を設ける。そして、容器は中空であり、その内部には滴下量を調整された腐食滴下液を液体流入口(例えば、実施形態における腐食液滴下部7)から試験片へ滴下させることができる。このとき試験片が時間経過とともに傾斜または試験片が切欠き部から破断するので、試験片の傾斜変化量または落下量に応じて上下方向への蓋部材も変位し、容器と蓋部材との隙間を順次補正しつつ試験片の破断時に完全に遮蔽する。したがって、腐食滴下液の飛散を防止できる。
【0011】
また、前記容器の中空内部を減圧するための減圧ポンプ(例えば、実施形態における減圧ポンプ14a、16a)を接続していても良い。この減圧ポンプは、前記容器内に滴下される液体の排出口(例えば、実施形態における腐食液排出口11)に接続することが好ましい。
【0012】
本疲労試験装置によれば、容器の側壁の孔から腐食飛沫が外部に流出することを防止するために滴下液体が垂直に落下する程度に減圧する減圧ポンプを設けることができる。これにより容器内を減圧して内部の液体(腐食飛沫)を外部に出さないようにすることができ、蓋部材の効果だけでなくさらに内部の腐食液体等の外部流出を防止することができる。また、減圧ポンプを液体の排出口に接続することで容器内の減圧を滴下される液体の排出と同時に達成することができ、必須の機構をそのまま兼用することができる。
【0013】
また、本疲労試験装置は、前記容器の荷重付加部材側の孔の外部雰囲気に空気流を噴出する容器内への負圧を発生させる空気流噴出装置を備えても良い。
【0014】
高速または高圧の空気流を発生させるとその周囲空気に負圧が作用する(ベルヌーイの定理)。したがって、容器の側壁の孔の外部雰囲気を高速高圧の空気流((例えば、実施形態におけるエアカーテン)を吹き付けると容器内を外部雰囲気より低圧にし、上記と同様に蓋部材の効果だけでなくさらに内部の腐食液体等の外部流出を防止することができる。
【0015】
また本疲労試験装置は、容器内に試験片に液体が滴下する位置を挟んで前記容器の両側壁の孔を液体から遮蔽するための一対の鍔部材(例えば、実施形態におけるツバ10)を備えることもできる。
【0016】
容器内にこの鍔部材により容器内で腐食液体の飛散を防止でき、外部との境界となる側壁の孔への腐食液体のアクセスを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の疲労試験装置によれば、腐食環境下における回転曲げ疲労試験のような腐食液体を試験片に向けて使用する場合でも、該液体が疲労試験装置または外部に飛散させることがない。とりわけ疲労による試験片の形状に適宜合わせながら液体を外部と遮断させることが可能となる。したがって、疲労試験装置自体またはその周辺器具を腐食から防止することができ、設備の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の疲労試験装置の実施形態の外観斜視図である。
【図2】図1に示す本発明の疲労試験装置の実施形態の駆動部の斜視図である。
【図3】本発明の疲労試験装置の一例において試験片が初期状態である時点での略断面図である。
【図4】図3の試験片が曲げられた状態である時点での略断面図である。
【図5】本発明の疲労試験装置の他の例において試験片が初期状態である時点での略断面図である。
【図6】本発明の疲労試験装置のさらに他の例において試験片が初期状態である時点での略断面図である。
【図7】本発明の疲労試験装置のさらに他の例において試験片が初期状態である時点での略断面図である。
【図8】本発明の疲労試験装置のさらに他の例において試験片が初期状態である時点での略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の疲労試験装置の代表的な一例としての腐食疲労試験装置Aの概観斜視図を示しており、図2はその駆動部を抽出した斜視図である。この腐食疲労試験装置Aでは、回転を発生する駆動部1と、試験片回転数をカウント、駆動部1の電気制御を行う制御部4を有している。駆動部1について詳細に説明すれば駆動部1は、回転数がの回転(1000〜5000回/分であり、駆動部伝達ベルト6で試験片3を把持する両端の装着部2と同軸になっている装着部軸2aを回転させる。このように固定端としての試験片3の一端は回転伝達機能を持っており、一方、自由端としての試験片3の他端は荷重付加部5で把持する構造となっている。
【0020】
荷重付加部5は、上記自由端としての試験片3の他端と連結するためのアダプタ5aと、試験片3に鉛直下方向の自重を作用させる錘としての加重部5cと、試験片3と加重部5cを連結するための吊り下げ部5bからなっている。荷重部5cは試験片3の形状、評価条件によって0.5Kgから20Kgまでの付加設定をおこなう。アダプタ5aと荷重部5cを連結するため多くの場合弾性体である引張ばね5bを使うが針金等の剛性のあるものを使用しても良い。
【0021】
ここでそもそも回転曲げ疲労試験において、腐食環境下での材料の機械的強度も正確に試験しておく必要がある。したがって、応力腐食による機械的強度の低下を加味して材料の機械的強度を試験する、すなわち腐食と引張圧縮応力との相乗作用によって生じる回転曲げ疲労と腐食割れの試験を行なう。この腐食環境下での回転曲げ疲労試験を行う際には腐食液が装置部品または外部に飛散しないようにすることが好ましい。そこで本疲労試験装置では図3に示すような腐食環境槽8を構成要素として配設する。
【0022】
図3は本発明の疲労試験装置の測定初期における略断面図構成図を示している。腐食環境槽8内には、試験片3の中央部近傍にある切り欠き部3aへ腐食滴下液9aを滴下するための腐食液滴下部7が設けられている。この腐食液敵下部7は管状部材であり外部と腐食環境槽8内とを流体的に接続する。この腐食液滴下部7は調整された量の腐食滴下液9aを試験片3の中央部近傍にある切り欠き部3aへ滴下するように位置決めされている。試験片3の中央部近傍にある切り欠き部3aへ滴下された腐食滴下液9aは腐食環境槽8の下部にある腐食液排出口11を通じて集められ外部へ排出され処理される。
【0023】
腐食環境槽8は回転しながら荷重を加える機能が必要なため、試験片3が通る穴を設ける必要がある。装着部3側は試験片3より0.2〜1.0mm位大きい穴であり、他方は図4では測定終了時の試験片3の状態を示しているが上下方向に装着部2側より大きな矩形穴8fが必要となる。試験片3は回転しながら荷重を加えるので測定開始時には直線状態の形状であるが、時間経過に伴って試験片3へ荷重負荷がかかり、荷重付加部5は加重方向へ変形が発生し、最終的には試験片3の切欠き部から破断する。そのため変化に適応した形状の大きな矩形穴8fを設けておく必要がある。しかし腐食液9が腐食環境槽8の中だけで回収できれば良いが前記にある荷重付加部5の大きな穴より腐食液9が腐食環境槽8から拡散し腐食疲労試験装置の金属部の腐食が発生することになる。
【0024】
腐食液9が腐食環境槽8から拡散を防止するため、装着部3側と同じ寸法の蓋8eを持った板形状を設ける。この蓋8eは、本体8aの矩形穴8f側へ支柱8bを立て、その支柱から蓋8e側へ横支柱8cを設け、蓋8eと引っ張りばね8dで連結する。この引っ張りばね8dは試験片3と蓋8eの荷重より大きく、荷重付加部5の重量より小さい範囲での応力が必要となる。この形態を持つことにより、時間経過に伴って試験片3へ荷重負荷がかかり、荷重付加部5は加重方向への変化量分が補正される。
【0025】
前記形態により本体8aの荷重付加部5側の矩形穴8fは装着部3側の寸法と同程度大きさが確保でき腐食液9が腐食環境槽8から拡散を防止できる。
【0026】
図5は図1〜図4を基本構成として、更に腐食液9を腐食環境槽8から拡散防止する効果を高めることを目的とした略断面構成図である。腐食環境槽8本体8aの一部に減圧口14を設け減圧ポンプ14aを連結して腐食環境槽8本体の圧力を大気圧力より小さくすることで、8本体内にある拡散された腐食液9を腐食環境槽8内より排出することがない。圧力は腐食液9を吸入しない範囲で設定することで空気の流れは設備側(大気中)から腐食環境槽8内へと入るため設備の金属部への腐食は防止できる。
【0027】
図6は図1〜図4を基本構成として、更に腐食液9を腐食環境槽8から拡散防止する効果を高めることを目的とした略断面構成図である。腐食環境槽8本体8aの下部にある腐食液排出口11を通じて集められた腐食廃液9bを処理するために腐食排出液排出口11と腐食回収槽15とを連結している。腐食回収槽15は減圧口16を通じて減圧ポンプ16aへと連なっている。この腐食環境槽8と腐食回収槽15とが減圧状態(大気より低い状態)に保持できることで、腐食廃液9bを回収でき、この腐食環境槽8も空気の流れは設備側(大気中)から腐食環境槽8内へとなり設備の金属部への腐食は防止できる。
【0028】
図7は図1〜図4を基本構成として、更に腐食液9を腐食環境槽8から拡散防止する効果を高めることを目的とした略断面構成図である。腐食環境槽8と蓋8eの上部にエアー噴出しノズルを2ヶ所も設ける、ノズルは穴に集中する形状、広い範囲に吹き出し口がある平行ノズル形状でいずれも問わないものを設置する。噴出し圧力は大気圧力より高い圧縮エアー13を設定するが、腐食環境槽8内の減圧よりは大きな圧力を設定すれば良い。
【0029】
図8は図1〜図4を基本構成として、更に腐食液9を腐食環境槽8から拡散防止する効果を高めることを目的とした略断面構成図である。腐食環境槽8にある試験片3の中央部に位置する切り欠き部3aから試験片3の円筒形形状に形状が変わる位置の両側へ腐食環境槽8より小さく試験片3より大きい寸法で切り欠き部3aへ湾曲した形状をもったつば10、2個を試験片3の相対位置に取り付ける。つば10は弾性体の材料で樹脂、ゴム等を使用する。
【0030】
このつば10を着けることで腐食滴下液9aと腐食廃液9bは湾曲された形状により切り欠き部3a近傍へ集中し、本体8aの両側にある穴からは外部へ排出することを防止できる。
【0031】
以上が本発明の実施形態について4例示しめてきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載および精神を逸脱しない範囲で他の実施形態が想定されることを当業者は容易に理解するであろう。
【符号の説明】
【0032】
1 駆動部
2 装着部
2a装着部軸
3 試験片
3a試験片切り欠き部
4 制御部
5 荷重付加部
5aアダプタ
5b吊り下げ部
5c荷重部
6 駆動伝達ベルト
7 腐食液滴下部
8 腐食環境槽
8a本体
8b支柱
8c横支柱
8d引張ばね
8e蓋
8f矩形穴
9 腐食液
9a腐食滴下液
9b腐食廃液
10 つば
11 腐食液排出口
12 エアー噴出しノズル
13 エアー
14 減圧口
14a減圧ポンプ
15 腐食液回収槽
16 減圧口
16a減圧ポンプ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片の一端を該一端と協動して軸回転自在に固定支持する装着部材と、前記試験片の他端を自重により鉛直下方に引っ張る荷重付加部材とを備える試験片の回転曲げ疲労強度を測定する疲労試験装置であって、
前記試験片の軸周りに配設される中空箱状の容器と、
前記容器の荷重付加部側に配設される蓋部材とを備え、
前記容器の両側壁には、前記装着部材と前記荷重付加部との間にわたって前記試験片が軸方向に貫通し得る孔が設けられ、
前記蓋部材は、弾性体により前記容器に対して鉛直方向にスライド自在であり、前記軸方向に貫通する孔を設ける板状部材であり、
前記蓋部材の孔と前記容器の両側壁の孔とは、試験片が該蓋部材と容器内とを貫通して延びているときには互いに軸方向に覗くように位置決めされ、試験片が曲げられたときには蓋部材が試験片に従って鉛直方向にスライドして容器の荷重付加部側の孔を遮蔽する、ことを特徴とする疲労試験装置。
【請求項2】
前記容器には試験片が貫通する際に上方から液体を滴下し得る位置に液体流入口を設け、
前記容器の側壁の孔のうち蓋部材側の孔は鉛直上下方向に延びる形状を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の疲労試験装置。
【請求項3】
前記容器の中空内部を減圧するための減圧ポンプを接続する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の疲労試験装置。
【請求項4】
前記減圧ポンプは、前記容器内に滴下される液体の排出口に接続する、ことを特徴とする請求項3に記載の疲労試験装置。
【請求項5】
前記容器の荷重付加部材側の孔の外部雰囲気に空気流を噴出する容器内への負圧を発生させる空気流噴出装置を備える、ことを特徴とする請求項2〜3のいずれか1項に記載の疲労試験装置。
【請求項6】
前記容器内に試験片に液体が滴下する位置を挟んで前記容器の両側壁の孔を液体から遮蔽するための一対の鍔部材を備える、ことを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の疲労試験装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−78106(P2012−78106A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220836(P2010−220836)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律に基づく特定研究開発等計画「革新的多連動力伝達・制御方法による4連式回転曲げ及び引張り圧縮疲労試験機の開発」特定研究開発等計画認定番号「近畿 1006101」、中小企業のものづくり基盤技術の高度化に関する法律 第9条第2項の適用を受ける特許出願
【出願人】(509311643)株式会社山本金属製作所 (1)
【Fターム(参考)】