説明

腐食試験方法

【課題】腐食が比較的緩やかに進行する環境下で利用される端子付き電線の耐食性の評価に適した腐食試験方法、及び腐食試験システムを提供する。
【解決手段】この腐食試験方法は、導体10cの外周に絶縁層10iを具える電線10の端部に端子部材11が取り付けられた試料1を一対用意して、各試料1の端子部材11を離間して配置する。非金属絶縁材料の粒状体の表面に電解質が付着した電解質担持体4を用意し、両端子部材11に接触すると共に、両端子部材11間に介在されるように配置する。この状態で、恒温恒湿装置2に装入して恒温恒湿に保持しながら、両試料1に電圧印加装置3により定電圧を所定時間印加する。両端子部材11間には、電解質担持体4の電解質と、恒温恒湿装置2の雰囲気中の水分とにより生成された電解質を含有する流体が介在され、この流体を利用してリーク電流が流れ、このリーク電流により端子部材11に腐食が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料からなる部材の耐食性を調べるための腐食試験方法、及び腐食試験システムに関するものである。特に、車両の居住空間内といった屋内環境に配置される金属部材に適した腐食試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の金属材料から構成される工業製品の耐食性を調べるための腐食試験方法として、JIS規格の塩水噴霧試験が知られている。この試験では、35℃の塩化ナトリウム水溶液といった腐食溶液が噴霧された雰囲気中に試験片を曝して、所定時間(例えば、数百時間)後の試験片の腐食状況を目視などにより確認することで耐食性を評価する。その他、試験片を塩化ナトリウム水溶液に所定時間浸漬した後、水溶液から露出させた試験片の腐食状況を調べる塩水浸漬試験などがある。
【0003】
特許文献1では、架空送電線の腐食試験方法として、塩酸や硫酸といった酸性の腐食溶液の液面よりも上の気中に試料を配置して、湿度の高い気中で試料を腐食させる方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-128763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塩水噴霧試験や塩水浸漬試験といった従来の腐食試験方法では、実環境の模擬試験として適切でない場合がある。
【0006】
上記塩水噴霧試験などの腐食試験方法は、腐食溶液が試料に数百時間と言った長時間に亘り接触して試料を腐食させることから、試料を構成する金属がその組成のまま(合金の場合、合金のまま)溶出したり、試料が大きく損傷したりして、腐食が進行し易い。従って、上記塩水噴霧試験などの腐食試験方法は、腐食の進行が速い環境、例えば、自動車のエンジンルームや屋外(特に、臨海地区)を模した加速試験として位置付けられる。一方、実環境では、腐食溶液が長時間に亘り連続して接触し難いような場合があり得る。例えば、自動車などの車両の居住空間内や家屋、建物の室内といった屋内環境に配置された金属部材は、通常、雨や海水、腐食ガスなどに連続して接触し難いことから、上記エンジンルームや屋外などに配置された場合と比較して、腐食が進行し難いと考えられる。実際、本発明者らが調べたところ、NaCl溶液といった腐食溶液のみを連続して接触させた試料の腐食状況と、車両の居住空間内から採取した実製品の腐食状況とが異なっていた。
【0007】
また、上述のような腐食の進行が比較的遅い環境におかれる部材では、部分的に腐食が生じることがある。例えば、端子付き電線のように、金属材料からなる部材(電線の導体と端子)同士が近接して配置される場合において、電線に具える導体に比して端子が主として腐食することがある。しかし、端子付き電線に対して塩水噴霧試験を行うと、電線に具える導体及び端子の双方ともに腐食する。従って、塩水噴霧試験では、上記端子が主として腐食する環境が模擬されておらず、このような環境の腐食状態を適切に評価することが非常に難しい。
【0008】
更に、自動車の車載システムなどの構成部材には、多種多様な金属材料が用いられてきていることから、異種の金属材料からなる部材間で電気腐食(電食)が生じ得る。このような電食が生じ得る部材に塩水噴霧試験を行うと、電食による試験片の損傷が大き過ぎて、耐食性の評価が実質的にできない。
【0009】
特許文献1に記載の腐食試験方法は、架空送電線の実環境、即ち、雨水や強風に曝される屋外環境を再現した方法であり、上述の屋内環境のような比較的腐食の進行が遅い環境を模擬した方法とは言えない。
【0010】
このように塩水噴霧試験方法などの従来の腐食試験方法では適切な評価が得られ難い環境や条件が存在している。従って、塩水噴霧試験などの腐食試験方法では適切な評価が得られ難い環境、例えば、腐食が比較的緩やかに進行するような環境を模擬した腐食試験方法の開発が望まれる。
【0011】
そこで、本発明の目的の一つは、腐食の進行が比較的緩やかな環境を模擬して、耐食性を評価することができる腐食試験方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、上記腐食試験方法の実施に適した腐食試験システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、10年以上の経年自動車の居住空間内に配置されたワイヤーハーネス(複数の電線の端部に端子が取り付けられて束ねられた電線群)について、特に端子の腐食状況を調べた。上記端子は、複数の端子をそれぞれ挿入可能な複数の嵌合穴を有する一つのコネクタに差し込まれていたもの、即ち、狭い空間に複数の端子が密集して配置された環境で使用されていた黄銅製の端子である。各端子は、脱亜鉛(Zn)腐食や脱亜鉛に伴う隙間や欠けが多く認められ、端子を構成する黄銅自体が腐食により欠損した箇所が少なく、ほとんど見られなかった。特に、端子の表面側から内側(電線と接触する側)に向かって脱亜鉛腐食が生じていた。また、導体を構成する銅の腐食がほとんど見られなかった。このことから、上記端子の使用環境は、特に、脱亜鉛腐食の方が黄銅そのものが溶出する腐食よりも生じ易い環境であると考えられる。上述した塩水噴霧試験のような腐食溶液のみを試料に長時間接触させる試験方法では、後述する試験例に示すように、黄銅そのものが溶出し、上記端子の使用環境を再現した加速腐食試験方法であると言えない。
【0013】
そこで、本発明者らは、適切な腐食試験条件を得るために、上記採取した端子の環境を更に検討したところ、上記端子の表面側領域において脱亜鉛腐食が生じた箇所では、砂や埃などの粉塵の付着が顕著であり、かつこの粉塵には塩素(Cl)やナトリウム(Na)などが付着していた。また、上記コネクタの隣り合う嵌合穴に挿入された端子間を繋ぐように上記粉塵が付着していた。
【0014】
上記採取した端子の状態から、銅の導体に比較して黄銅の端子の脱亜鉛腐食が生じた理由は、以下のように推定される。粉塵の表面に塩化ナトリウム(NaCl)といった電解質、特に吸湿性を有する電解質が付着すると、粉塵における付着部分近傍の雰囲気の露点が低下し、雰囲気中の水分が吸着され易くなる。露点の低下により、上記雰囲気が水分を吸着し易くなった結果、上記付着部分近傍は、電解質を含む大気中の水分を吸着し易くなる。即ち、電解質が更に付着され易くなる。経時的に電解質が付着されていくと共に、電解質が付着した状態で温度変化や乾湿の繰り返しなどにより、粉塵の表面の電解質が濃化する(増加する)。この濃化した電解質が水分を吸着して電解液となり、この電解液が隣り合う端子間に介在することで、電圧が印加されている端子間に微小な電流(リーク電流)が流れ得る。また、上記粉塵は、一般に非金属絶縁材料から構成されており、このような絶縁物が端子間に介在することにより、上記電解液が存在していても端子間に流れる電流は微小になると考えられる。特に、上述のように電解質が付着した粉塵により電解液が生成される環境では、上記リーク電流は上記電解液が生成されて端子間に存在したときに生じ、その大きさは、電解質の量や電解液の量などに応じて変化すると考えられる。即ち、端子間のリーク電流は、発生状態や大きさが不安定であると考えられる。このようなリーク電流では、端子を構成する黄銅そのものが溶出するような腐食が生じ難く、黄銅中の亜鉛が溶出する脱亜鉛腐食が生じ易くなったと推測される。また、このリーク電流では、銅の導体の腐食に影響を与え難かったと推測される。
【0015】
そこで、本発明では、車両の居住空間内や室内といった腐食が比較的進み難い環境、特に、リーク電流により腐食が生じるような環境を模擬した加速腐食試験方法として、端子部材といった腐食試験対象と別途用意した電極材との間に電解質を含む流体といった腐食溶液に加えて、非金属絶縁材料からなる粒状体を介在させると共に、上記腐食試験対象と上記電極材とに一定の大きさの電圧を印加することを提案する。より具体的な形態として、電解質を付着させた粒状体を上記腐食試験対象と上記電極材との間に介在させて恒温恒湿状態に保持すると共に、上記腐食試験対象と上記電極材とに定電圧を印加する形態(以下、腐食液生成形態と呼ぶ)を提案する。別の形態として、非金属絶縁材料からなる粒状体と電解質とを含有する流体を用いる形態(以下、腐食液利用形態と呼ぶ)を提案する。
【0016】
本発明の腐食試験方法は、導体の外周に絶縁層を具える電線の端部に端子部材を取り付けた試料の腐食状況を調べるための方法に係るものであり、以下の工程を具える。
上記試料と電極材とを用意して、当該試料の端子部材と当該電極材とを離間して配置する工程。
上記試料の端子部材と上記電極材との間に、非金属絶縁材料からなる粒状体と電解質を含有する流体とを介在させた状態を維持しながら、上記試料の端子部材と上記電極材との間に電流が流れるように、上記試料と上記電極材とに定電圧を所定時間印加する工程。
そして、上記所定時間経過後、上記試料の端子部材の腐食状況を評価する。
【0017】
上記構成によれば、塩水(NaCl水溶液)といった、電解質を含有する流体を利用していながらも、上記試料と上記電極材との間に非金属絶縁材料からなる粒状体を同時に介在させることで、塩水噴霧試験などといった従来の腐食試験方法と比較して、試料の腐食の進行を遅くする(穏やかにする)ことができる。例えば、試料の一部が主として腐食し、残部が腐食し難いといった腐食状態にすることができる。従って、上記構成によれば、従来の塩水噴霧試験などの腐食試験では適切な評価が難しいと考えられる環境、即ち、腐食が比較的緩やかに進行する環境を模擬した加速腐食試験に利用して、耐食性を適切に評価することができると期待される。上記腐食環境として、例えば、狭い空間に密集して配置された複数の端子部材間に生じるリーク電流によって腐食が生じる環境が挙げられる。
【0018】
また、上記構成によれば、定電圧としていることで、所定の定電圧が印加されて使用される実環境に即した腐食環境を再現することができる。例えば、自動車のワイヤーハーネスに具える端子部材では、一般に12Vといった定電圧が印加されて利用される。従って、上記構成によれば、実環境において定電圧が印加される場合を模擬した腐食試験として好適に利用することができる。
【0019】
以下、本発明をより詳細に説明する。
[試料]
本発明腐食試験方法を適用する試料は、導体の外周に絶縁層を具える電線と、この電線の端部に取り付けられた端子部材とを具える端子付き電線とする。このような端子付き電線として、代表的には、自動車や飛行機、産業用ロボットなどのワイヤーハーネスに用いられるものを利用することができる。即ち、試料は、ワイヤーハーネスなどに実際に使用する電線や端子部材と同様な仕様(材質、大きさ(線径や厚さなど)、形状など)のものを用いることができ、電線や端子部材の仕様は特に問わない。所望の電線や端子部材を模した試料を別途作製して利用してもよい。導体や端子部材の材質には、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。端子部材を構成する銅合金は、黄銅や、Cu-Sn-Fe-P系合金、Cu-Ni-Si系合金が代表的である。黄銅からなる端子部材を試料の構成要素に利用する場合、本発明により、脱亜鉛腐食の状態を調べられる。電線の導体には、単線、撚り線、圧縮撚り線材などが挙げられ、絶縁層の材質や厚さなども種々のものがある。端子部材には、雄型、雌型、圧着型、溶接型などの種々の形態が挙げられる。試料に利用する電線は、端子部材の取り付け、及び後述する電圧印加手段の取り付け、その他、後述する恒温恒湿手段への配置などに必要な長さを有していればよく、その長さは適宜選択することができる。本発明では、上記試料、即ち、1本の電線の一端部に一つの端子部材が取り付けられた形態のものを少なくとも一つ用意する。そして、この試料は、後述する電圧印加手段の正極側に接続する。
【0020】
[電極材]
本発明腐食試験方法では、上記試料と、電極材と、後述する電解質を含有する流体とにより、リーク電流のための回路を構成する。後述する試験例で述べるように、リーク電流により腐食が生じ得るのは、電圧印加手段の正極側に接続された試料である。従って、電圧印加手段の負極側に接続させる電極材は、電圧の印加が可能なもの、即ち、導電性材料から形成された種々の形態のものが利用できる。例えば、上記試料と同様の形態のもの、即ち、上記試料を一対用意し、一方を電極材として利用してもよい。その他、電極材として導電性材料からなる板材や棒材などを利用することができる。板材や棒材を構成する導電性材料は、試料の端子部材の構成材料と同じ素材でも異なる素材でもよい。例えば、試料の端子部材が黄銅からなる場合、黄銅や銅からなる板材や棒材を利用することができる。
【0021】
[試料と電極材との間の介在物]
本発明では、電解質を含有する流体を腐食液として利用すると共に、砂や埃といった粉塵の模擬体として、非金属絶縁材料からなる複数の粒状体を用いる。課電時に大きな抵抗となるような材料、代表的には電気絶縁性材料からなる上記粒状体を上記試料と上記電極材との間に介在させることで、電解質を含有する流体が両者間に介在していても、両者間に流れるリーク電流を微弱にし易く、腐食の進行が緩慢な環境をより適切に模擬することができると期待される。また、上記粒状体を利用することで、砂や埃などの粉塵が付着した端子の周囲環境に近い環境を模擬できると期待される。そして、本発明では、電解質担持体を利用して電解質を含有する流体を試験中に生成させる腐食液生成形態と、上記粒状体と電解質とを含有する流体を試験前に作製しておく腐食液利用形態とを提案する。
【0022】
《電解質》
流体に含有する電解質や電解質担持体において粒状体に付着する電解質には、例えば、Na,Cl,Mg,K,Ca,SO42-,SO32-,NO3-及びNH4+から選択される1種以上の元素又はイオンを含むものが挙げられる。代表的には、NaCl,MgCl2,CaCO3,KCl,Na2SO4,H2SO3,Cu(NO3)2,NH4Cl,FeCl3,及びFeCl2から選択される1種以上の化合物が挙げられる。本発明において電解質を含有する流体は、1種又は複数種の電解質を含有していてもよい。上記化合物は、代表的には流体中にイオンとして存在する。
【0023】
《粒状体》
溶媒に溶ける材質からなる粒状体では、上述のような抵抗に利用できなかったり、材質によっては試料の腐食の進行が速まる恐れがある。金属からなる粒状体では、粒状体自体が腐食することがあり、試料の腐食状況を適切に把握することが難しくなる。また、本発明では、試料に電圧を印加するため、金属のように一般に良導体からなる粒状体では、試料と電極材との間を短絡させる恐れがあり、試料の腐食状況、特に、リーク電流による腐食状況を適切に把握することが難しくなる。一方、試料の課電時に大きな抵抗となるような材料、代表的には電気絶縁性材料からなる粒状体を用いると、腐食の進行が緩慢な環境をより適切に模擬することができると期待される。従って、粒状体の構成材料は、溶媒に実質的に溶けず、非金属であって電気絶縁性が高い(或いは電気抵抗値が大きい)絶縁材料とする。
【0024】
粒状体の具体的な構成材料としては、例えば、セラミックスなどの無機材料や樹脂などの有機材料、溶媒(代表的には水)に溶解し難い或いは不溶な塩などが挙げられる。セラミックスは、例えば、炭化珪素(SiC)、二酸化珪素(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化鉄、窒化珪素、ホウ化チタン、酸化ベリリウム、タルク、カオリナイト(カオリン、白陶土)などが挙げられる。セラミックスは、一般に、水に溶けず、耐熱性、耐水性に優れ、高温高湿状態に保持しても変質し難い上に、耐久性に優れるため再利用が可能である。また、上記列挙したセラミックスは、一般に、絶縁性が高いものが多く、このような絶縁性に優れるセラミックスからなる粒状体を利用すれば、試料に課電を行ったときに粒状体自体にほとんど電流が流れることがない。水に溶けない塩は、例えば、炭酸カルシウム(CaCO3)などが挙げられる。異なる材質の粒状体を複数種組み合わせて用いてもよい。
【0025】
粒状体は、特に形状を問わない。粒子状でも繊維状でもよく、角張ったものでも丸みを帯びたものでもよい。模擬したい粉塵に応じて所望の形状を適宜選択することができる。粒状体の大きさ(粒子状の場合:平均粒径、繊維状の場合:平均短径)が200μm以下であると、利用し易いと考えられる。特に、上述したセラミックスや塩などからなり、1μm以上150μm以下程度の粒状体は市販されているため、容易に入手できて利用し易いと考えられる。異なる大きさの粒状体を複数種組み合わせて用いてもよい。
【0026】
《腐食液生成形態における電解液を含有する流体》
(電解質担持体)
腐食液生成形態では、以下のようにして腐食試験を行う。複数の上記粒状体の表面に電解質が付着した電解質担持体を用意し、離間して配置された上記試料の端子部材と上記電極材とに接触すると共に、当該端子部材と当該電極材との間に介在されるように上記電解質担持体を配置する。そして、上記電解質担持体が配置された当該試料及び当該電極材を恒温恒湿状態に保持しながら、上記試料と上記電極材とに定電圧を所定時間印加する。即ち、この形態では、上記粒状体を上記電解質(又はイオン)の保持部材として機能させる。従って、粒状体は、電解質を保持できる範囲で形状、大きさなどを適宜選択することができる。上述のように粒状体の大きさが200μm以下であると、粒状体を試料や電極材に振り掛けたりし易い上に、各粒状体を試料や電極材に接触させ易い。但し、小さ過ぎると、粒状体が試料や電極材の表面を隙間無く覆うことで、腐食の原因となる雰囲気中の水分(溶存酸素)やこの水分に電解質担持体の電解質が溶けて生じた電解液(電解質を含有する流体)に試料や電極材が接触することを妨げる恐れがある。即ち、所望の腐食が行われず、耐食性を評価できない恐れがある。従って、この形態では、粒状体の大きさは、1μm以上が好ましい。
【0027】
上記粒状体の表面に付着する電解質(化合物)は、上述した電解質のうちの一種でも複数種でもよい。Na,Cl,Mg,K,Caなどの元素は、海水に含有されており、これらの元素を含む化合物が粒状体の表面に付着した電解質担持体を利用することで、実際の環境(例えば、海岸際)に更に近い環境にすることができる。
【0028】
(製造方法)
電解質を粒状体に付着させた電解質担持体を作製するには、上記電解質を含む溶液(代表的には、後述する水溶液や酸溶液)を作製し、この溶液を粒状体に塗布した後、乾燥させることが挙げられる。上記列挙したNaClなどの化合物は、市販されており容易に入手できるため、上記溶液を簡単に作製することができる。また、Na,Cl,Mg,K,Caなどを含む溶液として、人工海水などの市販の溶液を利用してもよい。電解質の付着量は、例えば、溶液の濃度により調整することができ、濃度が高いほど、付着量が多くなる傾向にある。電解質の付着量(イオン濃度)は、模擬したい環境によって適宜選択することができる。例えば、電解質担持体の質量を100質量%とするとき、電解質の付着量が0.005質量%以上であると、腐食液利用形態と同程度の結果が得られる。電解質の付着量は、0.05質量%以上がより好ましく、特に上限は設けない。また、上記乾燥を行わず、水分を含んだままの電解質担持体を腐食試験に利用してもよいが、乾燥を行った方が試料に配置し易いと考えられる。腐食液生成形態では、試料を恒温恒湿状態に保持することで、雰囲気中から水分が供給されるため、電解質担持体は乾燥した状態でも構わない。
【0029】
(試料への配置)
作製した電解質担持体は、上述のように試料や電極材が雰囲気中の水分や生成された電解液に接触できる程度の隙間が設けられるように試料や電極材に配置するとよい。電解質の付着量(溶液の濃度)、恒温恒湿の雰囲気中の温度や湿度などの条件に応じて、電解質担持体の量を調整するとよい。特に、本発明では、試料の端子部材と電極材とが直接接触した状態(短絡した状態)とならないように、試料の端子部材と電極材との間に適宜隙間を設けて試料と電極材とを配置し、この隙間を埋めるように電解質担持体を配置する。試料の端子部材と電極材との間の間隔は、実環境に合わせて調整するとよい。
【0030】
(電解質を含有する流体の生成)
そして、腐食液生成形態では、上記電解質を含有する流体は、上述のように恒温恒湿の雰囲気中の水分と電解質担持体中の電解質とにより生成されて、上記試料と上記電極材との間に介在される。このように試験中に電解質を含有する流体(水溶液)が生成されるようにすることで、上述した経年自動車の環境をより忠実に再現できると期待される。
【0031】
《腐食液利用形態における電解質を含有する流体》
特に、腐食液利用形態では、上記電解質を含有する流体として、代表的には、流体の溶媒が水(純水)である、電解質を含む水溶液を利用することができる。水溶液は、中性、酸性、アルカリ性のいずれでもよく、NaCl水溶液のような中性水溶液は取り扱い易い。また、水溶液は、作製や入手が比較的容易であり、腐食試験を行う際の利便性に優れる。上記Na,Cl,Mg,K,Caなどの元素を含む水溶液として海水や人工海水を利用すると、入手が容易である上に、実際の環境(例えば、海岸際)に更に近い環境を模擬することができると考えられる。上記流体にNaCl水溶液を利用する場合、NaClの濃度は0.005質量%以上が好ましく、0.05質量%以上27質量%以下が利用し易いと考えられる。
【0032】
そして、腐食液利用形態では、上記電解質に加えて、上記非金属絶縁材料からなる粒状体を含有させた流体を利用する。実際の環境では、通常、砂や埃などの粉塵が存在する。従って、上記粉塵を模した粒状体を含有した流体を用いることで、実際の環境により近い環境を模擬できると期待される。このような流体として、例えば、カオリナイトといった粘土鉱物を含む泥を利用することができる。この腐食液利用形態では、上記試料の端子部材と電極材とを離間した状態で上記流体に浸漬することで、これら端子部材と電極材との間に上記電解質及び上記粒状体を含有する流体を容易に介在させることができる。また、上記試料の端子部材と上記電極材との間に非金属絶縁材料からなる粒状体が介在されることで、この粒状体により、当該端子部材と当該電極材との間が短絡されることが無い上に、両者間に流れる電流を微小にし易いと考えられる。従って、NaCl水溶液といった腐食溶液を単に用いる塩水噴霧試験などと比較して、腐食が緩やかに進行する環境を模擬できると考えられる。更に、腐食液利用形態では、上記流体の準備が容易であるため、試験の作業性に優れる。
【0033】
[電力条件]
本発明腐食試験方法では、上記試料及び電極材に一定の大きさの電圧を所定時間印加する。印加する電圧は、実環境に対応して適宜選択することができる。例えば、自動車のワイヤーハーネスなどに利用される端子部材を試料とする場合、自動車の電源に利用される12Vが挙げられる。本発明腐食試験方法では、上述のように粒状体を含有する流体を用いたり、電解質担持体を利用して試験時に電解液を生成したりすることで、上記試料と電極材との間に絶縁物が介在したり、電解液の存在量が少なかったりする。そのため、上記試料と電極材とに定電圧を印加した場合、両者の間に生じるリーク電流を小さく抑えられ、腐食が比較的緩やかな環境、特に、リーク電流により腐食が生じるような環境を良好に模擬することができると考えられる。
【0034】
更に、本発明者らが調べたところ、上記試料と電極材とに、特定の大きさの定電流を通電することでも、上述した経年自動車から採取した端子の腐食状態と非常に良く似た腐食状態となるとの知見を得た。特に、電流の大きさを特定の範囲とすると共に、電荷量(電荷量=電流値×時間)も特定の範囲とすることで、上記採取した端子と同様な腐食状態が得られるとの知見を得た。また、定電流とする場合、通電時間を一定とすると、電荷量が一定となることから、電荷量を精度良く制御できるため、所定の条件の腐食環境の再現性が高いと期待される。以上から、本発明のように定電圧を印加する方法に代えて、定電流を通電する方法でも、腐食が比較的緩やかに進行する環境、特に、リーク電流により腐食が生じるような環境を模擬した腐食試験に好適に利用できると期待される。
【0035】
上記定電流を通電する場合、上記試料の端子部材の露出面積に対して単位面積あたりの電流値及び電荷量を特定の範囲とすることが好ましい。具体的には、電流値は、0.19mA/mm2未満(0mA/mm2を除く)、電荷量は20C/mm2以下(0C/mm2を除く)、即ち、通電時間を電荷量が20C/mm2以下となる時間とすることが好ましい。加速試験を望む場合、電流値は0.001mA/mm2以上、電荷量は0.125C/mm2以上が好ましい。特に、電流値:0.005mA/mm2以上0.15mA/mm2以下、電荷量:0.15C/mm2以上15C/mm2以下がより好ましい。なお、このような微弱な電流を通電する場合、上記試料と電極材との間に上述した非金属絶縁材料からなる粒状体を介在させず、NaCl水溶液といった腐食溶液のみを利用しても、上述した経年自動車から採取した端子と同様な腐食状態が得られる。
【0036】
その他、自動車の車載システムなどの構成部材には、めっきが施されたものがある。めっきは使用環境により熱劣化(母材金属の熱拡散)してめっきの組成が変化する可能性が考えられる。この組成の変化により、めっき付き部材は、耐食性が変化する可能性が考えられる。本発明者らが、上述の経年自動車の居住空間内に配置されためっき付きの端子の腐食状況を調べたところ、端子を構成する母材金属がめっき中に拡散して、この母材金属とめっきを構成する金属とが合金化している部分がめっき中に認められた。この合金化は、熱劣化により生じたと考えられる。一般に、合金は、純金属に比較して腐食の進行が速い。そのため、特に、めっき付き端子といった、めっきが施された部分を有する金属部材の耐食性を調べる場合、試料に熱処理を施してめっきを合金化させたものを利用すると、例えば、上述のような自動車の居住空間内に配置されためっき付き端子であって、めっきが合金化した状態を模擬した加速試験を実現できると考えられる。そこで、めっき部を有する金属部材の耐食性を評価する場合、母材表面にめっきが施されためっき部を有する試料を用意し、この試料に適宜熱処理を施してめっき部を合金化させたものを利用することを提案する。
【0037】
上記熱処理の条件は、めっきの組成やめっきを施す母材の組成、想定する熱劣化の度合いなどを考慮して設定することができる。例えば、母材が銅又は銅合金であり、めっきが錫である場合、熱処理条件は、加熱温度:100〜200℃、加熱時間:2〜600時間が挙げられる。なお、めっきの種類によっては、めっき後リフロー処理などの熱処理を行うことがある。リフロー処理により、めっきの一部、特に母材側の領域が合金化することがある。これに対し、熱処理を更に施して、めっきにおける合金領域をリフロー処理時のみの場合よりも多くすることで、熱劣化を加速的に模擬することができる。めっきの全てを完全に合金化してもよい。
【0038】
[腐食試験システム]
上記本発明腐食試験方法において、上記腐食液生成形態とする場合、例えば、以下の本発明の腐食試験システムを好適に利用することができる。本発明の腐食試験システムは、導体の外周に絶縁層を具える電線の端部に端子部材を取り付けた試料の腐食状況を調べるためのシステムに係るものである。このシステムは、非金属絶縁材料からなる複数の粒状体とこれら粒状体の表面に付着した電解質とを有する電解質担持体と、上記試料と電極材とを恒温恒湿に保持する恒温恒湿手段と、上記試料と電極材とに定電圧を印加する電圧印加手段とを具える。上記試料の端子部材と電極材とは、離間した状態に配置される。上記電解質担持体は、上記試料の端子部材と電極材とに接触すると共に、離間された当該試料の端子部材と電極材との間に介在される。電圧印加手段は、恒温恒湿状態に保持された上記試料の端子部材と電極材との間に介在された上記電解質を含有する流体を利用して、上記試料の端子部材と上記電極材との間に電流が流れるように一定の大きさの電圧を印加する。この電圧印加手段は、上記試料の電線と上記電極材とに取り付けられる。
【0039】
上記本発明腐食試験方法において、上記腐食液利用形態とする場合、例えば、以下の本発明の腐食試験システムを好適に利用することができる。本発明の腐食試験システムは、導体の外周に絶縁層を具える電線の端部に端子部材を取り付けた試料の腐食状況を調べるためのシステムに係るものである。このシステムは、非金属絶縁材料からなる粒状体と電解質とを含有する流体と、この流体が貯留される流体槽と、上記試料と上記電極材とに定電圧を印加する電圧印加手段とを具える。上記流体槽には、上記試料と電極材とが離間した状態で浸漬される。上記電圧印加手段は、上記試料の端子部材と上記電極材との間に介在された上記流体を利用して、当該試料の端子部材と当該電極材との間に電流が流れるように、上記試料と上記電極材とに定電圧を印加する。この電圧印加手段は、上記試料の電線と上記電極材とに取り付けられる。上記流体槽は、上記流体の貯留が可能な適宜なものを利用することができる。
【0040】
《恒温恒湿手段》
特に、腐食液生成形態では、試料の端子部材と電極材との間に電解質担持体を介在させた状態で当該試料及び電極材を恒温恒湿手段に装入して、設定した温度及び湿度に保持することで、腐食を加速する。上記試料及び電極材を恒温恒湿手段に装入することで、恒温恒湿手段の雰囲気中の水分や、当該水分が電解質担持体に接触して生じた電解液が試料及び電極材に接触する状態を保持することができる。上記電圧の印加前に、試料及び電極材をある程度恒温恒湿状態に保持しておくと上記電解液が生成されるため、課電開始に伴い、リーク電流が生じ易い。即ち、電圧の印加を開始する時間は、恒温恒湿の保持を開始する時間とずれていてもよく、課電時間と恒温恒湿状態の保持時間とが異なっていてもよい。恒温恒湿手段は、市販の恒温恒湿装置を利用することができる。温度及び湿度並びに保持時間は、適宜選択することができる。温度が高いほど、また、湿度が高いほど、腐食の進行が速まると考えられる。少なくとも課電中は恒温恒湿状態に保持するように上記保持時間は、課電時間以上とすることが好ましい。また、試験時間は、30日(720時間)以下、特に10日(240時間)以下、更に2日(48時間)以下であると、試験時間が短く、評価し易い。また、温度、湿度、電圧などを一定期間ごとに変化させたサイクル試験を行うこともできる。
【0041】
なお、腐食液利用形態においても、恒温恒湿状態に保持すると、上記流体の温度が均一的になり、対流による影響を低減したり、水分の蒸発などによる流体の電解質濃度の変動や水分の枯渇の恐れを低減したりすることができると期待される。恒温恒湿状態に保持する場合、この形態に利用する上記システムには、恒温恒湿手段を具えるとよい。また、定電圧を印加後、非課電状態で恒温恒湿に一定時間保持してから、腐食状況を評価してもよい。或いは、定電圧の印加と、非課電状態での恒温恒湿の保持とを交互に繰り返すサイクル試験を行ってもよい。
【0042】
《電圧印加手段》
上記腐食液生成形態では、上述のように恒温恒湿状態に保持することに加えて、上記端子部材と電極材との間に電解質担持体を介在させた状態で電圧印加手段により電圧を印加する。この電圧の印加と、恒温恒湿状態の保持(水分の供給)と、電解質担持体の介在(電解質の供給)とにより、端子部材と電極材との間にリーク電流を生じさせ、このリーク電流により試料の端子部材を腐食させる。上記腐食液利用形態では、上記端子部材と電極材との間に上記粒状体及び電解質を含有する流体を介在させた状態で電圧印加手段により電圧を印加する。この電圧の印加と、電解液の介在と、絶縁物である粒状体の介在とにより、端子部材と電極材との間に流れる電流を微弱にし、この微弱なリーク電流により試料の端子部材を腐食させる。電圧印加手段には、市販の電圧印加装置を利用することができる。上述した定電流を通電する場合には、定電流の通電が可能な市販の電源装置を利用することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明腐食試験方法及び本発明腐食試験システムによれば、リーク電流に起因する腐食といった比較的緩やかに腐食が進行する環境を模擬した加速腐食試験に相当することができ、当該環境における耐食性を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1(I)は、腐食液生成形態に利用する腐食試験システムの概略構成図、図1(II)は、試料の端子部材近傍を拡大して示す概略構成図である。
【図2】図2は、腐食液利用形態に利用する腐食試験システムの概略構成図である。
【図3】図3は、電解質担持体又は泥を利用した腐食試験を行った試料の端子部材、及び実試料の端子部材のX-X断面における顕微鏡写真(25倍)であり、図3(I)は試料No.1、図3(II)は試料No.2、図3(III)は試料No.3、図3(IV)は実試料No.100を示す。
【図4】図4は、本発明腐食試験方法の原理を説明する原理説明図である。
【図5】図5は、粒状体を用いず腐食溶液のみを利用した腐食試験を行った試料の端子部材のX-X断面における顕微鏡写真(25倍又は200倍)であり、図5(I)は試料No.200、図5(II)は試料No.201、図5(III)は試料No.202、図5(IV)は試料No.203、図5(IV’)は試料No.203の部分拡大写真(200倍)、図5(V)は試料No.204、図5(VI)は試料No.205、図5(VI’)は試料No.205の部分拡大写真(200倍)を示す。
【図6】図6は、定電流を通電した腐食試験を行った試料の端子部材のX-X断面における顕微鏡写真(25倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(試験例)
電線の端部に端子部材を取り付けた端子付き電線を複数用意して試料とし、種々の条件で腐食試験を行って、各試料の腐食状況と経年の実製品(実試料)の腐食状況とを比較して、腐食試験方法の評価を行った。
【0046】
《実試料》
比較対象となる実試料として、砂塵が存在する環境において10年以上20年未満使用された普通自動車の居住空間に配置された銅電線と、この電線の一端に接続された黄銅端子を用意した(実試料No.100)。
【0047】
また、上記実試料No.100を採取した自動車内に落ちていた砂塵を採取し、表面に付着しているイオンの種類と濃度とを調べたところ(測定方法は後述する電解質担持体と同様)、Cl-:47、Na+:401、Mg2+:3、K+:866、Ca2+:59885、SO42-:189であり(砂塵の質量に対する割合。単位は質量ppm)、複数のイオンの存在が認められた。また、砂塵自体を調べたところ、平均粒径数μmの砂と、平均粒径10μm程度の埃とが混在したものであった。この砂塵をEDX分析したところ、主要な元素は、C,O,Si,Caであり(それぞれ14.1〜24.1質量%)、その他、Na,Mg,Al,S,Cl,K,Feが含まれていた(それぞれ1.4〜5.5質量%)。このことから、この砂塵は、SiO2などのセラミックスを含むと考えられる。
【0048】
《腐食試験》
ここでは、後述する電解質担持体を用いた腐食試験(腐食液生成形態(形態I))と、泥を用いた腐食試験(腐食液利用形態(形態II))、粒状体を用いずNaCl水溶液のみを用いた腐食試験(形態α)との三つの腐食試験を行った。これら三つの腐食試験に共通に用いた、試料、キャビティ、恒温恒湿装置、及び電圧印加装置、上記形態Iに用いた電解質担持体、上記形態II,αに用いた流体槽をまず説明する。
【0049】
<試料>
形態I,II,αでは、いずれも同じ構成の試料1を一対用意して腐食試験を行った。各試料1は、図1に示すように電線10の一端に端子部材11が接続された端子付き電線(圧着電線)である。電線10は、導電性材料からなる複数の金属素線を撚り合わせてなる導体10cと、導体10cの外周を覆う絶縁材料からなる絶縁層10iとを具え、一端側の絶縁層10iを剥ぎ取って導体10cを露出させている。この露出箇所に端子部材11が取り付けられている。端子部材11は、導電性材料からなる金属板材の両縁側に適宜切り込みを入れ、切片を折り曲げて形成したものである。具体的には、端子部材11は、上記板材の一端側の両切片を縁側が接するように適宜折り曲げられて形成された矩形筒状の雌端子部12と、電線10の絶縁層10i部分を挟持するように、板材の他端側の両切片を折り曲げて形成されたインシュレーションバレル部13と、雌端子部12とインシュレーションバレル部13との間に存在し、かつ絶縁層10iから露出された導体10cが縦添えされてこの導体10cを挟持するように板材の中間部分の両切片を折り曲げて形成されたワイヤバレル部14とを具える。露出された導体10cは、その大部分がワイヤバレル部14に覆われて、極一部が露出した状態である。
【0050】
ここでは、電線10として、導体が純銅からなり、導体断面積0.5mm2の電線であって、AVSS(自動車用極薄肉低圧電線、JASO D611準拠品)などの自動車に利用されている電線(絶縁層の材質:塩化ビニル、厚さ:約0.3mm)を適当な長さに切断して利用した。導体は、非圧縮型でも圧縮型でもよい。端子部材11は、母材が黄銅からなり、母材表面に錫めっきを具える2.3型雌端子を利用した。このように形態I,II,αではいずれも、材質やサイズなどが同様である電線及び端子を用いて試料を作製した。
【0051】
<キャビティ>
形態I,II,αではいずれも、一対の試料1をキャビティ5に配置して利用した。キャビティ5は、外観が四角柱状の部材であり、試料1の雌端子部12部分及びその近傍が挿入される複数の挿入孔50を具える。このキャビティ5は、自動車用ワイヤーハーネスの端子が接続されるFコネクタを模擬したものである。各挿入孔50は、複数の試料1の軸方向が平行するように設けられている。従って、一つの挿入孔50に一つの試料1を挿入し、この挿入孔の隣りの挿入孔に別の試料1を挿入すると、両試料1は、図1(I)に示すように並列に配置され、所定の間隔をあけて配置された状態に維持される。ここでは、キャビティ5をポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂により形成し、隣り合う挿入孔50間の中心間距離(一対の端子部材11間の離間距離)を約3mmとした。そして、一対の試料1の雌端子部12をキャビティ5の隣り合う挿入孔50にそれぞれ挿入して、形態I,II,αの腐食試験に利用する。キャビティ5を利用することで、上記ワイヤーハーネスが使用される実環境により即した環境を模擬することができる。キャビティ5を利用せず、一対の試料を離間した状態で配置するだけでもよい。また、形態Iでは、絶縁板の上などに離間した試料を載置させてもよい。キャビティの挿入孔は、貫通孔でも非貫通孔でもよい。ここでは、貫通孔としている。
【0052】
<恒温恒湿装置及び電圧印加装置>
形態I,II,αでは、いずれも上記キャビティ5に装着された試料1が恒温恒湿装置2に配置されて、所定の温度及び湿度に保持される。また、一対の試料1の電線10の他端側には電圧印加装置3が接続されて、試料1に電圧が印加される。ここでは、電線10の他端側に別途リード線を接続して電圧印加装置3を接続させた。電線10を電圧印加装置3に直接接続させても勿論よい。恒温恒湿装置2及び電圧印加装置3のいずれも市販のものを利用した。
【0053】
<流体槽>
形態II,αでは、図2に示すようにキャビティ5に装着された試料1は、電解質を含有する流体101が貯留される流体槽100に配置される。流体槽100は、所定の流体101を貯留することが可能な適宜なものを利用することができる。なお、図2において図1と同一符号は同一物を示す。
【0054】
<電解質担持体>
形態Iでは、更に、電解質担持体4を用いた。電解質担持体4は、上記実試料を採取した自動車内に落ちていた砂塵を参照して、以下のように作製した。人工海水(NaClの濃度:26質量%、電解質(Na,Cl)を含む水溶液)を200g、平均粒径数μm(10μm以下)の重質炭酸カルシウム(JIS Z 8901(2006)、試験用粉体1-16種)の粉末(粒状体)を100g用意した。この粉末は、上記砂塵の大きさと概ね同じ大きさのものを利用した。上記人工海水及び粒状体はいずれも市販品である。上記重質炭酸カルシウムに代えて、シリカ(SiO2)や後述する形態IIで利用するカオリンを粒状体に用いてもよい。その他、上述したアルミナなどのセラミックスを粒状体に用いてもよい。
【0055】
用意した上記炭酸カルシウムの粉末を濾紙上に載せ、用意した人工海水を上記粉末の上から滴下した後、150℃に加熱した恒温槽中に装入して乾燥し、乾燥後に得られた粉末を電解質担持体とした。得られた電解質担持体において、粒状体の表面に付着した物質のイオン濃度(質量ppm)を調べた。イオン濃度は、作製した電解質担持体を0.5g取って、超純水50mlに混入し、90℃×1h保持して、付着物質の抽出を行い、この抽出液をイオンクロマト装置により分析して行った。その結果、Cl-:6974、Na+:3781、Mg2+:306、K+:113、Ca2+:161であった(電解質担持体の質量(0.5g)に対する質量割合。単位は質量ppm。合計11,174質量ppm≒1.1質量%>0.05質量%)。この結果から、作製した電解質担持体は、複数種のイオンが存在していることが確認できた。また、これらのイオンは、上記実試料を採取した自動車内に落ちていた砂塵に付着していたイオンと同種であることが確認できた。
【0056】
《形態I:電解質担持体を用いた腐食試験》
形態Iでは、以下の手順で腐食試験を行った。
【0057】
(1) 一対の試料1を用意し、各試料1の雌端子部12をキャビティ5の隣り合う挿入孔50にそれぞれ挿入する。この工程により、両試料1の端子部材11は、所定の間隔をあけて並列した状態に配置される。
【0058】
(2) 試料1が挿入されたキャビティ5の挿入孔50に、作製した電解質担持体4を充填すると共に、挿入孔50から露出された電線10の一部を埋めるように電解質担持体4を配置する。図1(I)において一点鎖線で囲まれる部分に電解質担持体4が配置される。この工程により、各試料1の端子部材11の少なくともインシュレーションバレル部13及びワイヤバレル部14は、電解質担持体4の粉末に接触すると共に、両試料1の端子部材11間に電解質担持体4が介在された状態になる。ここでは、電線10の一部も電解質担持体4で覆って両試料1間に電解質担持体4を存在させることで、両試料1間にキャビティの壁が存在しても、一方の端子部材11から他方の端子部材11にリーク電流が流れ得る。また、キャビティ5の挿通孔50が貫通孔であることで、貫通孔の一方の開口部(試料が挿入されていない方の開口部)近傍に存在する電解質担持体により、隣り合う挿入孔に挿入された両端子部材の雌端子部間にも電解質担持体が介在された状態とすることができる。
【0059】
(3) 一対の試料1の他端側に電圧印加装置3を接続する。この接続は、試料1への電圧印加前であれば任意のときに行え、電解質担持体4を試料1に配置する前、後述する所定時間(30分)の恒温恒湿状態の保持後などでもよい。
【0060】
(4) 上記電解質担持体4が配置された試料1及びキャビティ5を恒温恒湿装置2に装入する。この工程により、試料1の端子部材11と電極材(ここでは一方の試料1、以下同様)とを離間した状態で恒温恒湿に保持する恒温恒湿装置2と、試料1の端子部材11と電極材とに接触すると共に、試料1の端子部材11と電極材との間に介在される電解質担持体4と、試料1の電線10と電極材とに取り付けられ、試料1の端子部材11と電極材との間に生成される、電解質を含有する流体を利用してリーク電流が流れるように定電圧を印加する電圧印加装置3とを具える腐食試験システムが構築される。恒温恒湿装置2に装入後、試料1を恒温恒湿状態に所定時間保持する。ここでは、30分保持した。恒温恒湿条件は、温度:38℃、湿度:95%RHとした。
【0061】
(5) 所定時間(30分)経過後、恒温恒湿状態を保持したまま、電圧印加装置3により試料1に定電圧を所定時間印加する。恒温恒湿条件は、温度:38℃、湿度:95%RH、課電条件は、印加電圧:12V、課電時間:20時間(試料No.1)、40時間(試料No.2)とした。ここでは、自動車用ワイヤーハーネスの電源電圧を模して、印加電圧を12Vとした。なお、課電時間中に両端子部材11間に流れた電流を測定したところ、数mA(10mA未満)であった。また、測定した電流と課電時間とから電気(電荷)量(C、クーロン)を求めたところ、試料No.1:29.3C、試料No.2:42.1Cであった。
【0062】
(6) 所定時間(20時間又は40時間)経過後、課電を停止すると共に、試料1を恒温恒湿装置2から取り出し、電解質担持体4を除去する。
【0063】
《形態II:泥を用いた腐食試験》
形態IIでは、以下の手順で腐食試験を行った。形態IIでは、非金属絶縁材料からなる粒状体及び電解質を含有する流体として、NaClの濃度が5質量%のNaCl水溶液(50ml)にカオリン(30g)を混合した泥を用意した。そして、図2に示すようにキャビティ5に配置した試料1を流体槽100内に配置してから、流体槽100に流体101(ここでは、上記の泥)を注入して、試料1の端子部材11の全体及び電線10の一部を流体101に浸漬させる。
【0064】
この試料1及び流体槽100を恒温恒湿装置(図2では省略)に装入して、30℃、95%RHの恒温恒湿状態に保持する。この状態で、試料1が配置された流体槽100に流体101を注入後30分以内に、電圧印加装置3により、試料1に定電圧を所定時間印加する。課電条件は、印加電圧:12V、課電時間:13時間(試料No.3)とした。なお、形態Iと同様にして電気量を求めたところ、122.3Cであった。所定時間経過後、課電を停止して、恒温恒湿装置から試料1を取り出し、泥を除去する。ブラシなどを適宜用いて泥を除去してもよい。
【0065】
《形態α:NaCl水溶液を用いた腐食試験》
形態αでは、電解質担持体や粒状体を用いず、NaCl水溶液のみを用いる。具体的には、図2に示すようにキャビティ5に挿入した試料1を流体槽100に配置してから、この流体槽100に流体101(ここでは、NaClの濃度が5質量%のNaCl水溶液)を満たし、端子部材11の全体及び電線10の一部を流体101に浸漬させる。また、キャビティ5の挿入孔50の一方の開口部(試料1が挿入されていない方の開口部)から流体101が浸入しないように、上記開口部を図示しない絶縁テープで塞いだ(この点は、形態IIも同様である)。
【0066】
上記試料1及び流体槽100を恒温恒湿装置(図2では省略)に装入して、試料1を流体101に浸漬した状態で恒温恒湿にすると共に、所定時間、一定の大きさの電流を流した。ここでは、課電した際の初期電圧を1.3V以上とした。そして、電流値を20mAとし(固定値)、通電時間を変化させることで、電気量が異なる試料No.200〜205を得た。恒温恒湿条件は、温度:38℃、湿度:95%RHとした。なお、形態II,αでは、上記流体槽100を恒温恒湿装置に装入したが、温度や湿度によっては装入しなくてもよい。恒温恒湿装置に装入することで、流体の温度が均一的となり、対流による影響を低減できる、水分が蒸発して枯渇する可能性を低減できる、という効果がある。
【0067】
《観察結果》
上記実試料、及び形態I,II,αの腐食試験を行った各試料No.1〜3の腐食状況を評価した。評価は、実試料及び各試料のそれぞれについて、インシュレーションバレル部をその軸方向と直交するように切断した断面(図1(II)においてX-X切断した断面に相当)を光学顕微鏡(25倍又は200倍)で観察して行った。図3に試料No.1,2,3及び実試料No.100、図5に試料No.200〜205の観察像を示す。図3,5及び後述する図6において中央部に存在する複数の丸い塊は、電線の導体を構成していた各素線、素線の外周に存在する帯状の塊は、端子部材を示す。実試料No.100では、端子部材の一部を除去した状態のX-X断面を示す。また、図3,5及び後述する図6の端子部材において、色が濃い箇所は銅を示し、色が薄い箇所は黄銅を示す。
【0068】
形態I,II,αのいずれも、上記観察像は、並列させた二つの端子部材のうち、正極側(+側)に配置されたものを観察している。負極側(-側)に配置された端子部材は形態I,II,αの腐食試験のいずれも、正極側(+側)に配置された端子部材のような腐食が認められなかった。なお、負極側(-側)に接続する対象として、上記端子部材を具える試料に代えて、黄銅板や銅棒などを利用することができる。
【0069】
実試料No.100では、図3(IV)に示すように端子部材の全体に亘って、黄銅が銅に変化した部分、即ち脱亜鉛腐食が生じた部分が存在することが分かる。また、脱亜鉛腐食して銅となっている部分は、凹みや空隙が生じていることが分かる。しかし、黄銅部分では欠損や空隙がほとんど見られない。また、導体は、ほとんど腐食していないことが分かる。
【0070】
一方、電解質担持体を用いた形態Iの試料No.1(課電時間:20時間)は、図3(I)に示すように端子部材に脱亜鉛腐食が生じて銅となった銅部分が広く存在することが分かる。また、この銅部分の一部が欠損して凹みや空隙が生じていることが分かる。かつ、黄銅部分での欠損がほとんど見られないことも分かる。課電時間を40時間と長くした試料No.2では、図3(II)に示すように、更に、脱亜鉛腐食が生じて銅となった銅部分が多くなっており、端子部材の全体に亘って脱亜鉛腐食が生じていることが分かる。かつ、黄銅部分での欠損がほとんど見られないことが分かる。また、泥を用いた試料No.3も、試料No.1,2と同様に、端子部材の全体に亘って脱亜鉛腐食が生じ、黄銅部分での欠損がほとんど見られないことが分かる。更に、試料No.1〜3のいずれも、導体は、ほとんど腐食していないことが分かる。
【0071】
他方、粒状体を含有しないNaCl溶液に試料を浸漬した形態αの腐食試験を行った試料No.200〜204は、端子部材に脱亜鉛腐食がほとんど生じておらず、黄銅自体が溶出して凹みや空隙が生じていることが分かる。例えば、図5(IV)の試料No.203において白い矩形枠で囲まれた部分を拡大した図5(IV’)に示すように、黄銅自体が欠損している。即ち、これらの試料No.200〜204は、形態I,IIの試料No.1〜3と比較して、電気量が0.3C(試料No.200),1.5C(試料No.201),5.8C(試料No.202),10C(試料No.203),20C(試料No.204)と低いにも関わらず、黄銅自体が溶出していることが分かる。形態I,IIの試料No.1〜3と比較して、電気量が大きい試料No.205(電気量:50C)では、図5(VI)において白い矩形枠で囲まれた部分を拡大した図5(VI’)に示すように、脱亜鉛腐食が生じているものの極僅かである。
【0072】
以上のことから、電解質担持体や泥を用いると共に定電圧を印加する形態I,IIの腐食試験は、当該試験後の試料の腐食状況が実試料No.100と腐食状況が非常によく似ており、再現性が高いと言える。また、作製した電解質担持体は、イオン濃度が異なるものの、採取した砂塵と同様のイオンを含有することから、この電解質担持体を用いた形態Iは、実試料No.100の周囲環境を模した加速試験として好適に利用できると言える。更に、作製した泥は、採取した砂塵と同様の粒状体を含有することから、この泥を用いた形態IIも、実試料No.100の周囲環境を模した加速試験として好適に利用できると言える。一方、試料をNaCl溶液に浸漬した形態αの腐食試験では、実試料No.100の腐食状況と全く似ておらず、再現性に乏しいといえる。
【0073】
また、以上のことから、電解質担持体を用いた形態Iや泥を用いた形態IIは、以下のような原理により腐食が生じたと推測される。図4に示すように導電性材料からなる一対の電極部材60を電解質及び水分が充填された一対の容器61にそれぞれ挿入して電解質や水分に接触させると共に、両容器61間を渡すように抵抗値の大きい抵抗体62を配置する。この状態で両電極部材60に一定の大きさの電圧を印加する。すると、抵抗体62が介在することで両電極部材60間には極僅かな電流しか流れない。このような極僅かな電流により、腐食が生じたと推測される。特に、可変抵抗器を利用することで、所定時間における電気量が同じでも、ある時間の電流値を変化することができる。このような変動的で微弱な電流により、実環境により即した腐食が生じたと推測される。
【0074】
上述のように電解質担持体を用いたり、上記特定の粒状体を含有する流体を用いたりすると共に、定電圧を印加する腐食試験方法は、例えば、屋内環境であって、砂や埃といった粉塵が付着し、リーク電流が生じることで腐食するような環境で利用される種々の金属部材の耐食性の評価に好適に利用できると期待される。また、電解質担持体における電解質の種類や付着量、電解質担持体に利用する粒状体の大きさ、電解質担持体の使用量、流体に混合する粒状体の大きさや使用量、流体の電解質濃度、恒温恒湿条件(温度、湿度)、電圧値(電流値)、課電時間(電荷量)などを調整することで、実環境により近い環境を模擬できると期待される。更に、電解質担持体を作製する際に用いる溶液のイオン濃度を高めたり、恒温恒湿状態の温度や湿度を高めたり、課電時の電圧値(通電時の電流値)を高めたりすることで、試験時間の短縮(加速試験の高速化)が図れると期待される。例えば、恒温恒湿条件において温度を75℃にし、課電時間を4時間とした場合の腐食状況が、温度を38℃、課電時間を40時間とした場合に非常に良く似ており、温度:75℃、課電時間8時間、13時間とした場合では脱亜鉛腐食量が更に多くなっていた。従って、恒温恒湿条件において温度を高めることで、試験の更なる加速化が期待できる。
【0075】
更に、この腐食試験方法では、主として端子部材が腐食し、導体が腐食し難い環境を模擬した加速試験として好適に利用することができると期待される。導体の腐食が少ないことで、導体の構成金属と、端子部材の構成金属とが異なる場合にも、端子部材の腐食状況を評価することができると期待される。この点は、後述する定電流を通電する場合も同様である。
【0076】
更に、形態Iで用いた試料1、電解質担持体4と同様のものを用意して、同様の腐食試験システムを構築し、定電圧を定電流に代えて腐食試験を行った。試験条件は、電流値:10mA(一定)、端子部材の露出面積に対する電流値:0.035mA/mm2、端子部材の露出面積に対する電荷量:0.17C/mm2とし、電荷量が50Cとなるように通電時間を調整した。また、通電開始後、一定となったときの電圧を測定したところ、12Vであった。この試験の結果、図6に示すように試料No.1〜3と同様に端子部材の全体に亘って脱亜鉛腐食が生じ、黄銅部分での欠損がほとんど見られないことが分かる。また、導体がほとんど腐食していないことが分かる。このことから、上記電解質担持体を用いて定電流を通電することでも、実試料No.100の周囲環境を模した腐食試験を行えると言える。また、定電流とする場合、通電時間が一定であれば、電荷量を一定に制御し易く、同じ腐食環境の再現性に優れると期待される。
【0077】
また、めっき部を有する試料を利用する場合、適宜熱処理を施して、めっき部を合金化してから上記形態I,IIや上記定電流を通電する形態に適用してもよい。この場合、めっき部が熱劣化により合金化する環境を模擬することができると期待される。
【0078】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、粒状体の組成や形状、大きさ、電解質担持体を構成する粒状体に付着させたり、流体に含有させる電解質の種類など、試料の材質、大きさ、形状など、また、試験条件(恒温恒湿の温度や湿度、電圧の大きさ、課電時間など)を適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明腐食試験方法及び本発明腐食試験システムは、腐食の進行が比較的緩やかであると考えられる環境、例えば、自動車の居住空間内や家屋、建物の室内といった屋内環境下で利用される電気電子機器の構成部材であって、リーク電流による腐食が生じ得る部材の耐食性を評価する際に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 試料 2 恒温恒湿装置 3 電圧印加装置 4 電解質担持体
5 キャビティ
10 電線 10c 導体 10i 絶縁層 11 端子部材 12 雌端子部
13 インシュレーションバレル部 14 ワイヤバレル部
50 挿入孔 60 電極部材 61 容器 62 抵抗体
100 流体槽 101 流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周に絶縁層を具える電線の端部に端子部材を取り付けた試料の腐食状況を調べるための腐食試験方法であって、
前記試料と電極材とを用意して、当該試料の端子部材と当該電極材とを離間して配置する工程と、
前記試料の端子部材と前記電極材との間に、非金属絶縁材料からなる粒状体と電解質を含有する流体とを介在させた状態を維持しながら、前記試料の端子部材と前記電極材との間に電流が流れるように、前記試料と前記電極材とに定電圧を所定時間印加する工程とを具えることを特徴とする腐食試験方法。
【請求項2】
複数の前記粒状体の表面に電解質が付着した電解質担持体を用意し、
離間して配置された前記試料の端子部材と前記電極材とに接触すると共に、当該端子部材と当該電極材との間に介在されるように前記電解質担持体を配置し、
前記電解質担持体が配置された当該試料及び当該電極材を恒温恒湿状態に保持しながら、前記試料と前記電極材とに定電圧を所定時間印加し、
前記電解質を含有する流体は、前記電解質担持体を恒温恒湿状態に保持することで生成されて、前記試料と前記電極材との間に介在されることを特徴とする請求項1に記載の腐食試験方法。
【請求項3】
前記流体は、前記粒状体を含むことを特徴とする請求項1に記載の腐食試験方法。
【請求項4】
前記電解質は、Na,Cl,Mg,K,及びCaから選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の腐食試験方法。
【請求項5】
前記端子部材は、黄銅から構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の腐食試験方法。
【請求項6】
導体の外周に絶縁層を具える電線の端部に端子部材を取り付けた試料の腐食状況を調べるための腐食試験システムであって、
前記試料の端子部材と電極材とを離間した状態で恒温恒湿に保持する恒温恒湿手段と、
非金属絶縁材料からなる複数の粒状体とこれら粒状体の表面に付着した電解質とを有しており、前記試料の端子部材と前記電極材とに接触すると共に、当該端子部材と当該電極材との間に介在される電解質担持体と、
恒温恒湿状態に保持された前記試料の端子部材と前記電極材との間に介在された前記電解質を含有する流体を利用して、前記試料の端子部材と前記電極材との間に電流が流れるように、前記試料と前記電極材とに定電圧を印加する電圧印加手段とを具えることを特徴とする腐食試験システム。
【請求項7】
導体の外周に絶縁層を具える電線の端部に端子部材を取り付けた試料の腐食状況を調べるための腐食試験システムであって、
非金属絶縁材料からなる粒状体と電解質とを含有する流体と、
前記流体が貯留されると共に、前記試料と電極材とが離間した状態で浸漬される流体槽と、
前記試料の端子部材と前記電極材との間に介在された前記流体を利用して、前記試料の端子部材と前記電極材との間に電流が流れるように、前記試料と前記電極材とに定電圧を印加する電圧印加手段とを具えることを特徴とする腐食試験システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286464(P2010−286464A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183051(P2009−183051)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】