説明

腐食防止組成物及びその使用

式TG13−R(I)の組成物及び式TG14−R(II)の組成物が明細書及び請求の範囲に記載されている。式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキルである。これらの組成物は、アルミニウム又はアルミニウム合金に塗布するコーティング混合物として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多官能オルガノシランの新しい種類の構造及び腐食を防止する表面処理剤としての使用に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、アルミニウム合金の腐食防止処理としての前駆体シラン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
金属用の化成皮膜は、金属(特にアルミニウム)と有機接着樹脂との間の密着性を高める電解膜又は化成皮膜である。陽極酸化処理は、コーティングが浸透する多孔質表面を形成するために、金属をクロム酸に浸漬してこれらの膜を作製する従来の方法である。何十年もの間、アルミニウム及びアルミニウム合金の表面処理にはクロム酸塩が使われてきた。クロム酸塩の毒性は広く認識されており、その環境特性及び有害性のために、健康又は環境に優しく、同程度の腐食防止性を有する、クロム酸塩の代替品を求めて、多大な研究努力が費やされてきた。
【0003】
オルガノシラン系コーティングは、塗料付着性に優れるため、クロム酸塩の市販代替品として浮上した。初期の研究によって、単官能シランカップリング剤、すなわち、加水分解性アルコキシシリル基を一つ有するシランが提供された。残念ながら、単官能シランの特性には商業的な実用性が欠けていたため、更に研究が続けられ、2官能及び多官能オルガノシランが得られた。
【0004】
成功するシラン系金属の前処理工程の鍵は、水溶性(実用上の問題)、疎水性(最も高い腐食防止のため)、高い架橋性(腐食性を有する種の広がりを防ぐ)、遅い縮合速度(rate of condensation)(溶液の寿命が長い)、及び、反応性(塗料付着性)が理想的な組み合わせの多官能シランを特定することにある。しかし、現在市販されているオルガノシランは業界のニーズを満たしている。業界がまだ気付いていないニーズを満たすような組成物の特定が望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
脂肪族ジアミン及びエポキシシランに由来する下記式で表されることを特徴とする多官能オルガノシラン組成物及びその塩を提供する。
【0006】
【化1】

【0007】
式中、Aは炭素数4〜20の分岐又は非分岐、飽和又は不飽和、変性又は非変性の炭素原子であり、X及びYはそれぞれ水素又はCONH−B−Si(OR13であり、Bはアルキルリンカーであり、R1は炭素数3〜10の炭素原子である。
【0008】
これらのオルガノシランの具体例としては、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
次の式で表される構造を有する3官能オルガノシラン(以下「TG13−R」という)
【0009】
【化2】

【0010】
式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキルである。
【0011】
4官能オルガノシラン(以下「TG14−R」という)
【0012】
【化3】

【0013】
式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキルである。
【0014】
その他の構造については実施例において述べる。これらの構造を調製する方法及びこれらの腐食防止被膜としての使用についても同様である。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0015】
定義:
下記の用語の意味は次の通りである。
「約」は、ある値又は範囲の50%以内、好ましくは25%以内、更に好ましくは10%以内であることを意味する。または、「約」は、当業者にとって許容可能な標準誤差以内であることを意味する。
「アルキル」は、特定の長さの直鎖又は分鎖、飽和又は不飽和の炭素原子を意味する。
【0016】
金属の前処理において有用な多官能シランの合成は、複数の反応性有機官能基Aを有する「コア」分子、並びに、アルコキシシリル基及び有機反応性Bを有する単官能シラン「アーム」から始まり、AとBは互いに共有結合できることが必要条件である。例えば、Aはアミノ基で「コア」はマルチアミンであり、Bはエポキシド基で「アーム」分子はエポキシトリアルコキシルシラン(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなど)である。アミノ基はエポキシ基に対して高い反応性を有し、C−Nの共有結合を形成する。A/Bの反応比を変えて「コア−アーム」構造を形成することで、「調節可能」な構造、及び、疎水性、一定の架橋性、水溶性及び最適な腐食防止性などの特性を有する多官能シランを得ることができる。ここに示す合成方法は、柔軟であり、無水アミン、イソシアネートアミン等その他の官能基の組み合わせにも範囲を広げることができる。
【0017】
TMH/GPS比が1:4のC,C,C−トリメチルヘキサンジアミン(TMH)及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシ(GPS)に由来する「コア−アーム」構造の多官能シランは、サブミクロン厚の被膜として使用した場合、アルミニウム合金など(但し、これに限定されない)様々な金属に対し、商業的に見て望ましい腐食防止性を付与することができる。TG14分子はGC−LC−MSやNMRによって特定することができ、TG14分子を用いた皮膜は薄膜技術(FTIR、プリズム結合、AFM、及び電気化学的インピーダンス分光法(EIS))によって特定することができる。ここに記載した合成ルートは、アルミニウム合金の腐食防止において、多官能アミノシランの分岐−架橋度合が高いことが重要であることを示す。
【0018】
実験条件
化学薬品及び材料
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)及びC,C,C−トリメチルヘキサンジアミン(TMH)を、それぞれゲレスト(Gelest)社及びアルドリッチ(Aldrich)社から購入し、そのまま使用した。イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、エチルアルコール及びメタノールは、水分含量が0.1%未満と証明されたものをVWR社から購入した。アルミニウムパネル(研磨されていないもの)は、寸法が4インチ×6インチのものをACTラボラトリー社から購入した。非エッチング性ケイ酸塩含有洗浄剤であるナルコ社製のアルカリクリーナー、グロブライト 45IL(商品名、Globrite 45IL)を使用して該パネルを洗浄した。シャーウィン−ウィリアムズ(Sherwin-Williams)社の白色ポリエステル塗料パーマクラッド(商品名、Permaclad)(ドローダウンバーを用いて20ミクロン厚に塗布)を選び、シランで前処理されたパネルの塗料付着性を調査した。
【0019】
TMH−GPS付加物の合成
ポリアミン−GPS付加物を合成する一般的な条件を次に示す。丸底フラスコに110グラムのアルコール、15.8グラムのTMH(0.1モル)、そして94.4グラムのGPS(0.4モル)をこの順序で入れる。この混合液を70℃のオイルバスで3時間攪拌する、又は、室温で3日間放置する。いずれの条件においても、反応の収率は90%以上に達する。得られた付加物を、使用した反応物質を意味する2文字とこれら反応物質のモル比1:4(ポリアミン対エポキシシラン)を意味する「14」から「TG14」とする。
【0020】
LC−MS
フローインジェクション・エレクトロスプレー質量分析法(フローインジェクト−ESI MS)を用いてTG14の特徴を調べた。ウォーターズ 2690(Waters 2690) LC システム(商品名、ミルフォード社(Milford、マサチューセッツ州)製)を用い、フローインジェクション法で試料を質量分析計に注入した。また、ウォーターズ 2487(商品名、Waters 2487)UV検出器をネットワークに接続し、該質量分析計の前に設置した。分析中に起こる可能性のあるアルコール交換反応及び/又は縮合反応を防ぐために、キャリア液は、試料に用いられた溶媒と同様のメタノール、水、イソプロパノールのいずれかとする。質量分析計は、テルモ フィニガン社(Thermo Finnigan、カリフォルニア州、サンホセ)の標準フィニガン(Finnigan)エレクトロスプレーインターフェースを備えたLCQ Decaシステムであった。陽イオン及びセントロイドモードで質量スペクトルを得た。その他の実験条件は、表Iに記載されている通りである。試料を適切な溶剤で1000分の1に希釈した。この溶液の一定分量(5〜10ul)をESI−MSシステムに注入して分析した。
【0021】
フローインジェクション ESI MS実験条件
収集モード:ポジティブESI−MS
イオン飛程:100〜2,000AMU
ESIスプレー電圧:−4.0kV
インターフェースキャピラリー温度:225C
シースガス圧力:70psi
インジェクションモード/体積:フローインジェクション/10ul
キャリア液:メタノール、水又はイソプロパノール
キャリア流速:0.4ml/min
実験時間:5分間
UV検出器:波長210nm、感度0.04AUFS
【0022】
GC−MS
標準物質として出発物質を使用し、GC−MS法によって反応生成物中の残留GPS及びアミンを調べた。該システムは、アジレント テクノロジー(H/P)(Agilent Technologies (H/P))社(デラウェア州、ウィルミントン)の5890シリーズIIガスクロマトグラフ及び5970MSDであった。表IIに記載した実験条件を用いて、残留GPS濃縮物の量を一旦測った(semi-quantated)。試料を適切な溶液で100分の1に希釈し、次にこの溶液の一定分量(1ul)をGC−MSシステムに注入して分析した。
【0023】
残留GPS測定のためのGC−MS実験条件
カラム:フェノメネックス社(Phenomenex、カリフォルニア州、トーランス)製ZB−5 30M×0.25mm i.d.×0.25umフィルム
インジェクションポート温度:240C
オーブン温度:60℃で3分間加熱し、その後、1分毎に10℃ずつ320℃まで昇温させ、そこで5分間維持する。
インジェクションサイズ:1ul
質量範囲:29〜550AMU
モード:+EI
【0024】
熱重量分析
TG14及びTG13の各溶液を、12インチ×12インチのガラス板の上に置いて120℃で1時間硬化する溶媒キャスト法によって、熱重量分析試験用のTG14及びTG13の試料を調製した。硬化した膜をかみそりの刃を用いてガラス板から除去した。TGA2950(TAインスツルメンツ社製)を用いて熱重量分析を行った。約10mgの試料を10℃/分の速さで、室温から800℃になるまで窒素中で加熱した。
【0025】
プリズム結合法によるシラン膜厚測定
He−Ne−レーザ偏光解析装置SE400及びフィルム シクネス プローブ FTF アドバンス(Film Thickness Probe FTF advanced)からなる偏光解析装置と反射率計を組み合わせたセンテック(SENTECH)社のSE500を用いて膜厚測定を行った。表面が極めて不均一であったことから強い偏光が生じ、偏光解析装置を用いることができなかったため、測定は反射率計モードで行った。
【0026】
アルミニウム合金のクロメート処理
5%のHCrO、0.6%のKFe(CN)及び1.05%のNHHFを含む溶液を用いた浸漬コーティング方法でアルミニウムパネルにクロメート化成被覆を施した。Al3003及びAl3105合金をクロメート処理用溶液に1分間浸し、水道水で全体をすすいだ。150°Fで5分間乾かし、処理を完了した。
【0027】
シランコーティング溶液の調製
TG14のコーティング水溶液(重量ベースでシラン5%)を次の方法で調製した。144グラムの脱イオン水が入ったガラス瓶に、1.1グラムの氷酢酸を攪拌しながら加え(アミノ基に対して化学量論で20%過剰)、16グラムのTG14濃縮物(アルコール中50%、重量ベース)を更に加えた。このシランをよく攪拌しながら3分から5分かけてゆっくりと酸性水に加えた。最後に、0.5%(重量ベース)の界面活性剤Igepal CO−660(商品名、エトキシ化ノニルフェノール)を該シランに加えた。このプロトン化アミノシランは水溶性であり、さらに金属パネルに塗布する前に少なくとも8時間かけて加水分解してもよい。塗装されていない素地のアルミニウムの保護には濃度5%を推奨するが、部品を塗装する場合には、更に希釈した1〜2%の溶液とすることができる。
【0028】
多官能シランを用いたアルミニウム合金の被膜
まず、非エッチング性ケイ酸塩含有洗浄剤であるナルコ社製のGlobrite 45IL(商品名)を用いてアルミニウムパネルを150°Fで1〜2分間洗浄し、次に水道水ですすいだ。洗浄後のパネルは水を弾かなくなっている。続いて、シランコーティング溶液が入った槽にパネルを10秒から30秒間浸漬し、取り出した後、250°Fで15〜60分間又は350°Fで5〜20分間乾燥させた。
【0029】
TG14で前処理された、塗装済み及び未塗装Al合金の腐食試験
ASTM B117(中性塩水噴霧試験)
本明細書に基づき、前処理は完了しているが未塗装のパネルを、45°の傾斜角を保ったまま、5%の塩化ナトリウム霧を充満させたチャンバー内に一定時間放置する。
【0030】
ASTM 1654−92
本試験の条件は、前処理後にパネルを塗装し、試験を行う前にパネルに針で線を付けて地の金属を露出させるという点を除いて、B117の場合と同様である。試験の最後に、針で付けた線において、前処理された金属への塗料の付着性を評価する。
【0031】
ASTM D 610−01
塗装されたスチール表面上の錆びの程度を評価する標準試験である。この試験プロトコルに記載された評価システムを、トップコートを未塗装のシラン処理済みアルミニウムパネルの調査に取り入れた。該評価システムには0から10までの数字が使用されており、それぞれの数字が錆びや腐食の程度を表している。10が最も高い評価で腐食が総面積の0.01%未満であることを示しており、9は腐食が総面積の0.01%〜0.03%であることを示しており、8は0.03%〜0.1%、7は0.3%〜1%、6は0.3%〜1%、5は1〜3%、4は3〜10%、3は10〜16%、2は16〜33%、1は33〜50%、及び0は50%を超えることを意味する。
【0032】
AAMA 2603−02
アメリカ建築協会(AAMA、American Architectural Manufactures Association)が自主的に定めている規格である。下層の化成皮膜(クロメート又はシラン)が影響する塗料付着性に関連するものとしては、湿式付着性試験(Wet Adhesion Test)、乾式付着性試験(Dry Adhesion Test)、衝撃付着性試験(Impact Adhesion Test)がある。乾式付着性試験においては、まず、シラン処理されたアルミニウムパネルにポリエステルを上塗りし、1ミリの間隔で11×11の斜交平行様の切り込みを(金属の素地を露出させる為)全体に入れる。続いて、空隙やエアポケットを作らないよう、塗膜を強く押圧するようにしながら、切り込みを入れた部分にテープ(パーマセル99(商品名、Permacel 99)又は同等品)を貼付する。次に、テープをパネル面に対して垂直にすばやく剥離する。その後、塗料の剥離を評価する。湿式付着性試験においては、まず、上述したのと同様に切り込みを入れ、パネルを100°Fの蒸留水に24時間浸漬する。サンプルを取り出し、拭いて乾かす。テープの剥離テストを5分間繰り返す。衝撃付着性試験は、次の手順で行う。例えばガードナー衝撃試験機など18N−m(160in−lb)の範囲を有する、直径16mmで先端が球形のおもりを使った衝撃試験機を用い、テストサンプルを最低3mm変形させるのに十分な力の荷重を塗装したアルミニウムに直接付与する。テープの剥離テストを行い、塗料の剥離の程度を観察する。
【0033】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)によるシラン被膜アルミニウムの観察
pHが中性の硫酸ナトリウム溶液中において、シラン膜で被膜したアルミニウム合金3003をEISによって観察した。EISで使用した機器は、周波数範囲が1.5kHz〜0.001Hz及びAC摂動電圧が10mVのGamry社製のCMS300ポテンショスタットである。3電極系を構成するのは、皮膜したパネル、Ag/AgClの参照電極及び炭素の対極である。パネル中央の合計面積20cmを電解液に露出させて分析した。各EISを行う前には、300〜600秒、開路電圧変動が5mV/秒未満になるまで3電極系の平衡を保持させた。
【0034】
ポリアミノ及びエポキシシランからの多官能アミノシラン合成
エポキシ樹脂は接着剤、塗料、被膜、構造材及び防水材として広く利用されている重要なエンジニアリングプラスチックの一つである。市販の固形ビスフェノール型エポキシ樹脂のほとんどは、直鎖の脂肪族、脂環式又は芳香族のマルチアミン(ジアミン、トリアミン、テトラアミン等)のいずれかを用いて硬化させることができる。これら3つのうち、直鎖の脂肪族アミンの反応性が最も高く、直鎖の脂肪族アミンを用いたビスフェノールジグリシジルエーテルの硬化は室温において24時間で完了する。一方、芳香族アミンを用いた場合には、こちらの方がより高い物理化学的性質を有するにもかかわらず、完全に硬化するのにはより高い温度と長い時間を必要とする。金属表面処理産業において、VOC放出に関するコンプライアンスの観点及び既存装置との適合性の観点から(いずれも実用上の懸案事項である)、化成コーティングは水溶性又は水性の状態で塗布することが重要である。このような理由から、直鎖の脂肪族アミンは、中和された脂肪族アンモニウム塩の溶解度が高いため、芳香族よりも好ましい。
【0035】
GPSの温度がもたらす結果−ポリアミン反応の収率−ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー(LC)−質量分析法(MS)による分析
反応収率は、残留GPS量(0.1%のGPSメタノール溶液を用いて換算)に基づき、70%以下であることを確認した。尚、大量のGPSがTMHと急速に反応し、モノ、ジ、トリ又はテトラ付加物を形成するため、24時間後にTMHは検出されなくなる。さらに3日間の放置後、収率は95%まで上昇する。一方、エタノール溶液で同じ反応を70℃で3時間行っても、収率は95%以下になる。第一級アミンはエポキシ開環と特に反応することが知られており、その結果、トリ及びテトラ付加物よりはるかに早くTMH−GPSモノ及びジ付加物が形成される。しかし、その分岐の程度が高いこと及びそれ故に架橋特性が潜在的に優れるため、テトラ付加物であるTG14がターゲットである。
【0036】
塗装済みvs未塗装試験
化成皮膜の腐食防止評価に関して二つの試験があり、それらの違いについてここに述べる。第一の試験は、塗料の上塗りのない化成皮膜の耐食を測定する未塗装耐食試験である。第二の試験は、化成皮膜の上に塗装した金属部品の試験である。この種のテストは化成皮膜の塗料付着性を観察するためのものである。厳密には、明確に異なる2つの必要条件がある。前者は化成皮膜のバリア保護性を求める点であり、後者は界面適合性を強調する点である。例えば、テフロン(商品名)の膜は、未塗装の金属の腐食の防止には大変優れた化成皮膜/前処理層であるかもしれないが、界面エネルギーが低いため、付着性を付与することができない。実際には、ほとんどの金属部品(例えば自動車の車体パネル又は電気製品のパネル)が塗装されるが、美しい金属光沢を有するため多くのアルミニウム合金(例えばアルミニウムホイール)は、金属部品を塗装する必要がない場合がある。軍装備品に塗布する化成コーティングの指定規格である軍用規格MIL−C−5541Eにおいては、未塗装及び塗装腐食試験の両方に合格する必要がある。シラン系化成コーティングを開発する目的は、この2つの必須条件を満たすことで、クロムの代替品としての可能性を証明することである。
【0037】
出願人は、発癌性のあるクロムを使用した従来のアルミニウムの前処理に替わり、アルミニウム合金の腐食防止を目的とした多官能シランの合成方法を提供する。多官能オルガノシランの属を具体的な構造で示している及び例示している。エポキシシラン付加物であるマルチアミンのTG14及びTG13を合成し、その特徴を明らかにすると共に、アルミニウムの腐食防止被膜としてのこれらの有用性を示す。
【実施例】
【0038】
実施例1a
TG13の合成
モル比が3:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とC,C,C−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン(TMH)を同じ重量のエチルアルコールに添加する。この混合物を70℃で3時間反応させる。続いて反応生成物を20%過剰な(化学量論に基づいて)酢酸で中和する。
【0039】
実施例 1b
TG13の試験
実施例1aの中和したシラン濃縮物を、5%(重量)シランになるまで水で希釈し、浸漬塗装の方法によってアルミニウムパネルに塗布する。
【0040】
このコーティング混合物で浸漬塗装したパネルをまず120℃のオーブンで約0.5時間熱し、次にシャーウィン ウィリアムズ コーティング カンパニー(Sherwin Williams Coating Company)より調達した約20ミクロンの白色ポリエステル系塗料を塗布する。白く塗ったパネルにASTM B117の条件にて中性塩水噴霧腐食試験を行う。3,000時間の塩水噴霧後、刻み付けた線に沿って塗料の剥離や気泡は見られなかった。
【0041】
TG13を含むコーティング混合物は、アルミニウムを高湿度および腐食状態に置いた場合でも、塗料をアルミニウムによく付着させるという結論に達する。
【0042】

実施例2
TG14の合成
モル比が4:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とC,C,C−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン(TMH)を同じ重量のエチルアルコールに添加する。この混合物を70℃で3時間反応させる。続いて反応生成物を20%過剰な(化学量論に基づいて)酢酸で中和する。
【0043】
実施例 2b
TG14の第1試験
実施例2aの中和したシラン濃縮物を、5%(重量)シランになるまで水で希釈し、浸漬塗装の方法によってアルミニウムパネルに塗布する。
【0044】
この被膜したアルミニウムパネルは腐食の兆候を見せることなく360時間以上の塩水噴霧に耐え(ASTM B117で試験した)、従来のクロム系化成皮膜と性能の面では等しいということが分かった。
【0045】
本発明のコーティング混合物を使用して得た結果に比べ、素地のままのAlパネルは6時間で腐食し始めた。その他の市販のシラン系被覆材は、96時間(ビス−[トリメトキシシリル]アミン及びビニルトリアセトキシシラン混合物の場合)、及び、240時間(3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びN−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシランの構造の場合)で腐食した。
【0046】
実施例 2c
TG14の第2試験
第2試験においては、実施例2aの中和したシラン濃縮物を、5%(重量)シランになるまで水で希釈し、浸漬塗装の方法によってアルミニウムパネルに塗布する。このTG14コーティング混合物で浸漬塗装したパネルをまず120℃のオーブンで約0.5時間熱し、次にシャーウィン ウィリアムズ コーティング カンパニー(Sherwin Williams Coating Company)より調達した約20ミクロンの白色ポリエステル系塗料を塗布する。白く塗ったパネルにASTM B117の条件にて中性塩水噴霧試験を行う。3,000時間の塩水噴霧後、刻み付けた線に沿って塗料の剥離や気泡は見られなかった。
【0047】
実施例3
以下に芳香環を含むマルチアミンから多官能シランを調製する例を示す。出発アミンは、マルチアミン又は次の構造を含むマルチアミンの混合物を含む。ここで、R1、R2、R3及びRはそれぞれ水素又は炭素数が1〜4のアルキルである。K、l及びmは1から1,000(1:1000)の整数である。ポリオキシアルキレンアミンに関しては、−(OCHCHR)n−は、エチレン及び/又は酸化プロピレンのホモ若しくはブロック−co−又はランダムの共重合体を意味する。
【0048】
前記マルチアミン又はマルチアミンの混合物は、次の構造を含む群から選択される。ここで、R1、R2、R3及びRはそれぞれ水素又は炭素数が1〜4のアルキルである。K、l及びmは1から1,000(1:1000)の整数である。ポリオキシアルキレンアミンに関しては、−(OCHCHR)n−は、エチレン及び/又は酸化プロピレンのホモ若しくはブロック−co−又はランダムの共重合体を意味する。出発物質のサンプルとしては、以下のものが含まれる。
【0049】
【化4】

【0050】
芳香環を含むマルチアミンから多官能シランを生成する例
モル比が4:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)と1,3−キシレンジアミンの混合物を同じ重量のメチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を60℃で16時間反応させた。
【0051】
モル比が4:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とメチレンジアニリンの混合物を同じ重量のn−ブチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を120℃で16時間反応させた。
【0052】
環状マルチアミンから多官能シランを生成する例
モル比が4:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)と1,2−ジアミノシクロヘキサンの混合物を同じ重量のメチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を80℃で3時間反応させた。
【0053】
モル比が4:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)と5−アミノ−1,3,3−トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(イソホロンジアミン)の混合物を同じ重量のメチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を60℃で16時間反応させた。
【0054】
ポリオキシアルキレンアミンから多官能シランを生成する例
モル比が6:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とT−403 ジェムファミン(T-403 Jemfamine、商品名;ハンツマン(Huntsman)社製)の混合物を同じ重量のメチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を60℃で5時間反応させた。
【0055】
ジ(ヘキサメチレン)トリアミンから多官能シランを生成する例
モル比が5:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とジ(ヘキサメチレン)トリアミンの混合物を同じ重量のメチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を60℃で5時間反応させた。
【0056】
モル比が4:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)と1,3−キシレンジアミンの混合物を同じ重量のメチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を60℃で16時間反応させた。
【0057】
モル比が4:1の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)とメチレンジアニリンの混合物を同じ重量のn−ブチルアルコールに攪拌しながら添加した。この混合物を120℃で16時間反応させた。
【0058】
未塗装アルミニウム合金における腐食防止性を次の表に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例4
塗料付着性を促進するため、前処理としてアルミニウム合金にエポキシシラン−マルチ−アミン付加物を塗布する例
C,C,C−トリメチルヘキサンジアミン−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン 1−3付加物(TG13)を化学量論量の酢酸で中和し、1.0%の水溶液を作成した。ナルコ社製のグロブライト45IL(Globrite 45IL)アルカリクリーナーを用いてアルミニウムパネルから油脂を除去し、前処理用溶液に接触させた。続いて該アルミニウムパネルを乾燥し、水性ポリウレタン塗料(シャーウィン−ウィリアムズ(Sherwin-Williams)社製)を10ミクロン塗布した。塗装したパネルを350Fで0.5時間かけて十分に硬化し、塩水噴霧室に入れる前に、中心に線を刻み付けて素地の金属を露出させた(ASTM B117で定められている通り)。14日間の塩水噴霧後、刻み付けた線に沿って緩やかに広がっている腐食を測定した。結果を次の表に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
本明細書に記載された現在好ましいとされている態様に対する種々の変更や改良は、当業者にとって明らかである。本発明の精神及び範囲から逸脱せず、付随する利点を損なわなければ、それらの変更及び改良を行うことができる。したがって、それらの変更や改良は添付した特許請求の範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式で表されることを特徴とする多官能オルガノシラン及びその塩。
【化1】

式中、Aは炭素数4〜20の分岐又は非分岐、飽和又は不飽和、変性又は非変性の炭素原子であり、X及びYはそれぞれ水素又はCONH−B−Si(OR13であり、Bはアルキルリンカーであり、R1は炭素数3〜10の炭素原子である。
【請求項2】
式TG13−Rで表されることを特徴とする組成物。
【化2】

式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキルである。
【請求項3】
式TG14−Rで表されることを特徴とする組成物。
【化3】

式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキルである。
【請求項4】
式TG13で表されることを特徴とする組成物。
【化4】

【請求項5】
式TG14で表されることを特徴とする組成物。
【化5】

【請求項6】
以下の工程を含む金属の被覆方法であって、
(a)任意による洗浄剤を用いた金属表面の洗浄工程;
(b)コーティング混合物を用いた金属表面の被覆工程;及び
(c)該コーティング混合物を金属表面上に熱でアニーリングして架橋被膜を形成する工程;
該コーティング混合物が式TG13−Rで表される組成物、式TG14−Rで表される組成物、又はこれらの組み合わせを含み、
該金属がアルミニウム又はアルミニウム合金であることを特徴とする被覆方法。
式TG13−R:
【化6】

式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキルである。
式TG14−R:
【化7】

式中、Rは水素又は炭素数1〜6のアルキルである。
【請求項7】
前記コーティング混合物をエアロゾルスプレー法によって金属に塗布することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記コーティング混合物を手作業で金属に塗布することを特徴とする、請求項6に記載の方法。

【公表番号】特表2008−505098(P2008−505098A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519394(P2007−519394)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/023117
【国際公開番号】WO2006/004839
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(504233742)ナルコ カンパニー (3)
【氏名又は名称原語表記】NALCO COMPANY
【住所又は居所原語表記】1601 W. Diehl Road, Naperville, IL 60563−1198, United States of America
【Fターム(参考)】