説明

腫瘍検出のための画像形成方法及び画像形成ソフトウェア

【課題】 腫瘍を高感度に検出するための画像形成方法を提供する。
【解決手段】 核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像について最大値投影法を行い、得られた画像を白黒反転させて画像を形成することにより、腫瘍の診断に有効な画像検出方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍検出のための画像形成方法、及び該方法に用いるソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
成人の健康維持と悪性腫瘍の早期発見を目的とした検診は日本国内で広く広まっている。特に悪性腫瘍の早期発見にはいろいろな手段が用いられている。今までの技術では胸部単純写真やX線CT装置などのX線を用いた技術が中心となっていた。健康成人への放射線被ばくと悪性腫瘍の早期発見というコスト・ベネフィットの関係が常に議論されている。また,近年CTによる被ばくが癌発生率を高めるという英国からの論文がLancet誌に掲載されてからは国民の放射線被ばくへの感心がさらに高まっている。X線を用いない超音波検査は放射線被ばくのないことから検診にも広く利用されている。ただし,術者ごとの技術にばらつきがあり,客観性・再現性に乏しい.X線CT装置は術者によるばらつきのない客観的な検査であり,早期肺癌などの検出に用いられることが多くなった。ただし,リンパ節や正常組織との組織コントラストを得るためにはヨード造影剤の投与が必要になる。ヨード造影剤は副作用、ショック、まれに死亡例も報告されており、検診での薬剤投与はほとんど行われなくなった。近年ではFDG-PET(18F−フルオロデオキシグルコースを使用したポジトロンCT画像)というFDG(ブドウ糖類似薬)を用いてブトウ糖代謝を画像化する技術が臨床応用されるようになってきた。このPET検査は一般にサイクロトロンを必要とし,設備に10億円以上の高額な費用が生じる。また放射線被ばくは避けられない。
以上より、安全で高感度に腫瘍を検出する方法の開発が望まれていた。
一方、MRI(核磁気共鳴イメージング)装置を用いた拡散強調画像撮像法は、脳梗塞などの診断に用いられることはあっても、癌の診断に用いられることはなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は腫瘍を高感度に判別することのできる画像形成方法を及びそれに用いるソフトウェアを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像について最大値投影法を行い、得られた画像を白黒反転させることにより、腫瘍を高感度に検出するための画像を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)腫瘍を検出するための画像の形成方法であって、核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像について最大値投影法を行い、得られた画像を白黒反転させることを特徴とする方法。
(2)(1)の方法により形成された画像を、18F−フルオロデオキシグルコースを使用したポジトロンCTの画像と重ね合わせて画像を得ることを特徴とする、腫瘍を検出するための画像の形成方法。
(3)(1)の方法に用いるための腫瘍を検出するための画像形成ソフトウェアであって、コンピューターを、核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像を入力するための画像入力手段、最大値投影法を行う手段、白黒反転させる手段、として機能させるためのソフトウェア。
(4)(3)のソフトウェアが組み込まれた核磁気共鳴イメージング装置。
(5)がん検診に用いられる、(4)の装置。
【発明の効果】
【0006】
この方法は、造影剤などの薬剤を注射することなく,検査時間も比較的短く,患者の苦痛も少ないMRI検査により得られた画像を用いるため、安全で高感度な腫瘍の検出に貢献する。
さらにこれまでのFDGを用いるPET検査と併用することにより、その精度が高まる。
今後、検診等において腫瘍を検査するためのMRI検査が一般的になれば、本発明の画像形成方法及び画像形成ソフトウェアは癌などの腫瘍の早期発見に大きく貢献すると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像について最大値投影法を行い、得られた画像を白黒反転させることを特徴とする、腫瘍を検出するための画像形成方法に関する。ここで、腫瘍は悪性腫瘍に限られず、良性腫瘍も含まれる。
拡散強調画像を得るための核磁気共鳴イメージング(MRI)装置の種類は拡散強調画像を撮像できるものであれば特に制限されないが、例えば、シーメンス社製のMagnetom Symphoney1.5T Quantum gradientなどを用いることができる。拡散強調画像は、例えば、撮像パラメーターのうちbファクターを1000前後に設定することにより撮像された画像を用いることができる。なお、拡散強調画像を得るためのパラメーターは用いるMRI装置の種類に応じて適宜設定することができる。
拡散強調画像は、安静時呼吸下に撮像されたものが好ましい。また、体軸に対する横断像を全身にわたって撮像されたものが好ましい。この場合、例えば、好ましくは3〜5mm厚で40〜80スライス、より好ましくは4mm厚で60スライス程度撮像された拡散強調画像を次の画像処理に用いることができる。
【0008】
このようにして得られた拡散強調画像を用いて画像処理をする。
画像処理は最大値投影法を行うことが可能な画像ワークステーションもしくは撮像装置に内蔵された画像処理ソフトを用いて行うことができる。
このような画像ワークステーション、画像処理ソフトとしては、例えば、GE社製 Advantage Workstation、ザイオ社製 M900、シーメンス社製 Leonard、フリーソフト OsiriXなどが挙げられる。
【0009】
最大値投影法は10〜30mmの範囲で行うことが好ましく、また、横断像及び冠状断像の両方を得ることが好ましい。最大値投影法により得られた画像を通常の手段により白黒反転させることで腫瘍を高感度に検出するための画像が得られる。
【0010】
より具体的には、以下のような画像処理方法を挙げることができる。
1)撮像された原画像を画像ワークステーションもしくは撮像装置に内蔵された画像処理ソフトへ転送する。
2)20mmの厚さの範囲で最大値投影法を行い,横断像・冠状断像を作成する.
3)関心領域を5mm前後移動させて(横断では頭尾側方向・冠状断では前後方向),各々の領域の最大値投影処理した画像を作成する。
4)最大値投影法により作成された画像を白黒反転処理し,画像のコントラストを調整して診断画像とする。
このような画像処理により腫瘍を疑わせる病変が高信号病変として画像化される。
【0011】
上記の画像処理により得られた画像は、18F−フルオロデオキシグルコースを使用したポジトロンCT(FDG−PET)の画像と組合わせてもよい。FDG−PETは放射標識されたブドウ糖類似物質であるFDGを用いたCTであり、FDGが悪性腫瘍などの
ブドウ糖代謝の活発な部位に集積することを利用して悪性腫瘍を検出するものである。FDG−PETにより得られる画像は通常のPET装置を用いて得られる。
FDG−PETにより得られた画像と重ね合わせることにより、より腫瘍検出の精度を高めることができる。
【0012】
本発明はまた、上記の腫瘍を検出するための画像形成ソフトウェアであって、コンピューターを、核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像を入力するための画像入力手段、最大値投影法を行う手段、白黒反転させる手段、として機能させるためのソフトウェアに関する。これらの各手段は一般的な画像形成ソフトウェアに組み込まれている画像入力手段、最大値投影法を行う手段、白黒反転させる手段に準じた手段を用いることができる。
このようなソフトウェアはMRI装置に組み込まれたものであってもよい。
本発明のソフトウェアは腫瘍を高感度に検出するために有用である。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0014】
[実施例1]
リンパ節転移の見られる乳癌患者について、シーメンス社製のMagnetom Symphoney1.5T
Quantum gradientを用いて撮像された拡散強調画像について、シーメンス社製 Leonardを用いて最大値投影法を行い、白黒反転させて診断用画像を得た。
その結果、乳癌患者では病気のあるところ(腫瘍を疑わせるところ)が強い信号として画像化された(図1)。
【0015】
[実施例2]
がんの画像診断における本法と従来の画像診断法との比較
同様にして、子宮体癌患者について得られた拡散強調画像について、画像処理を行った。
結果を図2に示す。本発明の画像形成方法により、腫瘍部位をはっきりと検出できた(図2A〜C)。また、FDG−PETによって得られた画像(図2E)と重ね合わせることによっても腫瘍部位をはっきりと検出できた(図2D)。
【0016】
[実施例3]
同様にして、直腸癌再発患者について得られた拡散強調画像について、画像処理を行った。
結果を図3に示す。本発明の画像形成方法により、通常のPET画像(図3A,B)に比べて、腫瘍部位をはっきりと検出できることがわかった(図3D)。
【0017】
[実施例4]
同様にして、大腸癌患者について得られた拡散強調画像について、画像処理を行った。
結果を図4に示す。本発明の画像形成方法により、通常のPET画像(図4A)に比べて、腫瘍部位をはっきりと検出できることがわかった(図4B)。
【0018】
[実施例5]
同様にして、腎臓癌患者について得られた拡散強調画像について、画像処理を行った。
結果を図5に示す。本発明の画像形成方法により、通常のPET画像(図5A)に比べて
、腫瘍部位をはっきりと検出できることがわかった(図5B)。
以上より、本発明の画像形成方法は、肺癌・肝臓癌・大腸癌・膵癌・腎癌・婦人科癌などの悪性腫瘍およびその転移の発見に用いることが出来ることがわかった(図2,3,4)。
また、PET検査と併用するとより有効な癌検診となることがわかった(図2,3,4)。さらに、図2のごとく、拡散強調MRI画像とFDG−PET画像を重ね合わせたところ、PET画像との重ね合わせ画像(Fusion)が役立つことがわかった。
さらに、FDGを用いるPET検査では見つからない腎臓癌の発見など、PET検査よりも多くの癌を発見できることがわかった(図5)。
【0019】
[実施例6]拡散強調MRI画像による癌治療効果の判定
胃癌患者についてラジオ波焼灼術施行前後において撮像された拡散強調MRI画像をそれぞれ、画像処理し、比較した。その結果、ラジオ波焼灼術施行後の画像では病変の縮小が見られた(図6)。これにより、治療効果の評価も可能であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】リンパ節転移の見られる乳癌患者の拡散強調MRI画像を示す写真図。(A)は横断像、(B)は冠状断像を示し、矢印は腫瘍部位を表す。
【図2】子宮体癌患者の診断画像を示す写真図。(A)〜(C)は拡散強調MRI画像を示し、(E)はFDG-PETの画像を示し、(D)は(C)と(E)の画像を重ね合わせたものである。
【図3】直腸癌再発患者の診断画像を示す図。(A)、(B)はMRI画像を示し、(C)はFDG−PETの画像を示し、(D)は拡散強調MRI画像を示す。矢印は腫瘍部位を示す。
【図4】大腸癌患者の診断画像を示す図。(A)はMRI画像を示し、(B)は拡散強調MRI画像を示し、(C)はFDG−PETの画像を示す。
【図5】腎臓癌患者の診断画像を示す図。(A)はMRI画像を示し、(B)は拡散強調MRI画像を示す。矢印は腫瘍部位を示す。
【図6】胃癌患者の診断画像を示す図。(A)、(B)は、ラジオ波焼灼術施行前の拡散強調MRI画像を示し、(C)、(D)はラジオ波焼灼術施行後の拡散強調MRI画像を示す。矢印は腫瘍部位を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍を検出するための画像の形成方法であって、核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像について最大値投影法を行い、得られた画像を白黒反転させることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により形成された画像を、18F−フルオロデオキシグルコースを使用したポジトロンCTの画像と重ね合わせて画像を得ることを特徴とする、腫瘍を検出するための画像の形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法に用いるための腫瘍を検出するための画像形成ソフトウェアであって、コンピューターを、核磁気共鳴イメージング装置を用いて撮像された拡散強調画像を入力するための画像入力手段、最大値投影法を行う手段、白黒反転させる手段、として機能させるためのソフトウェア。
【請求項4】
請求項3に記載のソフトウェアが組み込まれた核磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
がん検診に用いられる、請求項4に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−247113(P2006−247113A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67448(P2005−67448)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】