説明

腫瘍細胞増殖を抑制するオリゴヌクレオチド及び方法

【課題】NEK2キナーゼが特異的に発現している胆管癌細胞などの腫瘍細胞増殖抑制剤の提供。
【解決手段】RNA干渉法によりNEK2キナーゼの発現を抑制すると、これら腫瘍細胞の増殖が抑制された。NEK2遺伝子の特定塩基配列中の連続する19塩基を少なくとも含む、特定塩基配列中の連続する30塩基以下の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド及びその相補的オリゴリボヌクレオチドから成る2本鎖RNAを有効成分として含む腫瘍増殖抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、NEK2遺伝子の発現を抑制することにより腫瘍細胞の増殖を抑制する方法に関し、より詳細には、特定オリゴヌクレオチドを用いたRNA干渉法によりNEK2遺伝子の発現を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シグナル伝達は、細胞機能維持における基本的なメカニズムとして研究されており、シグナル伝達経路の異常が、癌をはじめとする種々の疾患の原因であることが明らかになっている。シグナル伝達に関連因子を標的因子とする分子標的治療が注目されている。
Nek2は1q32.2-q41に存在している445アミノ酸からなる51763Daのタンパクであり、C末端にセリンスレオニンキナーゼまたロイシンジッパーモチーフ、PPIバインディングサイトを有している。Nek2はアスペルギルス類にて同定されていたM期進行に関連する遺伝子NIMA(Never In Mitosis A)のホモロジー検索にて哺乳類で同定された。
Nek2キナーゼは主に細胞周期や染色体の分離に関連して研究されており(非特許文献1)、Nek2は中心体に局在しており、G2後期に高発現し、G2/M期の制御に関わっていると考えられている。Nek2は、細胞周期の過程で生理基質c-Nap1のリン酸化によりG2期での中心体の分配に機能する(非特許文献2)。細胞周期におけるG2/M期は、中心体の分配以外に染色体分配、細胞分裂を行う時期であり、G2/M期に機能するNek2キナーゼの異常は不均一な染色体分配による染色体数の異常を誘導し、癌化の原因の1つとも考えられる。
現在これらNIMAキナーゼを用いて細胞周期の制御、特に細胞周期G2/M期における生理的機能促進や抑制することが試みられている(特許文献1)。
なお、NEK2キナーゼ(accession number NM_002497)の配列に相当する二重鎖RNAがNek2キナーゼを阻害剤し腫瘍細胞の増殖を抑制するRNAiとして用いることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-144168
【特許文献2】US2004/0019003 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Cell Growth Differ. 5, 625-635, 1992
【非特許文献2】EMBO J. 17, 470-481, 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、NEK2キナーゼ(accession number NM_002497)が胆管癌細胞などの腫瘍細胞において特異的に発現していることを見出し、RNA干渉法によりこのNEK2キナーゼの発現を抑制すると、これら腫瘍細胞の増殖が抑制されることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、RNA干渉法により胆管癌細胞などの腫瘍細胞の増殖を抑制するために有効なRNA配列を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、配列番号1(NEK2遺伝子)の塩基配列の989〜1009番目の塩基配列中の連続する19塩基を少なくとも含む、配列番号1の塩基配列の連続する30塩基以下の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド及びその相補的オリゴリボヌクレオチドから成る2本鎖RNAを有効成分として含む腫瘍増殖抑制剤である。
【0007】
更に本発明は、この2本鎖RNAを、腫瘍細胞へ導入することから成る、該腫瘍細胞の増殖を抑制する方法である。
更に本発明は、この2本鎖RNAを含む腫瘍増殖抑制用キットである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】3種の胆管細胞癌細胞株(HuCCT1、TFK1、HuH28)における遺伝子発現を調べたマクロアレイを示す図である。
【図2】5種の胆管細胞癌細胞株(HuCCT1、TFK1、HuH28、CCKS1、293)におけるNEK2の発現を示すウエスタンブロット図である。
【図3】各2本鎖RNAによる胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)におけるNEK2の発現抑制を示すウエスタンブロット図である。
【図4】各2本鎖RNAで感染させた胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)の増殖評価を示す図である。縦軸は吸光度を表す。
【図5】胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)を接種したBalB/cマウスに対するsiRNA27の影響を示す写真である。
【図6】胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)を接種したBalB/cマウスの腫瘍体積に対するsiRNA27の影響を示す図である。
【図7】siRNA27を投与した胆管癌マウスの延命効果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
RNA干渉(RNA interference)は最初線虫などで長い二重鎖のRNAを用いた特定遺伝子抑制法として報告された。哺乳類では長い二重鎖のRNAを用いると免疫反応が起きて遺伝子抑制を行うことが出来なかったが、短い二重鎖RNA(siRNA)にて哺乳類でも遺伝子抑制が可能であることが明らかになった。現在、主に使用されているsiRNAは19〜23塩基の二重鎖のRNAである。30塩基程度になると免疫反応が起き、逆に16塩基より短いと相補的な配列が増えることになり遺伝子特異性がなくなり抑制したい遺伝子以外の遺伝子を抑制してしまう可能性がある。
【0010】
本発明において、以下の特徴を有するsiRNAが有効である。
1:初めの2塩基がAAであること。
2:配列中のGとCの割合が42〜58%であること。
【0011】
この条件を満たすNEK2遺伝子(配列番号1)のsiRNAは次の3グループに分類できる。
第1グループ:連続する2塩基による相補的な配列を有し、二次構造での3'断端の1本鎖RNAの塩基数が4以上のもの
これに該当する具体的配列として以下の配列が挙げられる。先頭の数字は配列番号1(NEK2遺伝子)の塩基配列における番号を示す。
507-527 AAGGAATGCCACAGACGAAGT (3'断端の遊離塩基数 11)
1918-1938 AACCCAGTTAGATGCAATTTG (3'断端の遊離塩基数 7)
799-819 AAGAACTCGCTGGGAAAATCA (3'断端の遊離塩基数 6)
989-1009 AAGAGGGCGACAATTAGGAGA (3'断端の遊離塩基数 6)
1213-1233 AACGGAAGTTCCTGTCTCTGG (3'断端の遊離塩基数 6)
1835-1855 AATGACTGAGTGGTATGCTTA (3'断端の遊離塩基数 5)
403-423 AAGGAGGGGATCTGGCTAGTG (3'断端の遊離塩基数 4)
【0012】
第2グループ:連続する2塩基による相補的な配列を有し、二次構造での3'断端の1本鎖RNAの塩基数が3以下のもの
これに該当する具体的配列として以下の配列が挙げられる。先頭の数字は配列番号1(NEK2遺伝子)の塩基配列における番号を示す。
432-452 AAGGGAACCAAGGAAAGGCAA (3'断端の遊離塩基数 3)
1218-1238 AAGTTCCTGTCTCTGGCAAGT (3'断端の遊離塩基数 2)
1445-1465 AAGCAGACAGATCCTGGGCAT (3'断端の遊離塩基数 2)
1015-1035 AAAAATCGCAGGATTCCAGCC (3'断端の遊離塩基数 1)
633-653 AACCATGACACGAGTTTTGCA (3'断端の遊離塩基数 0)
1443-1463 AAAAGCAGACAGATCCTGGGC (3'断端の遊離塩基数 0)
【0013】
第3グループ:連続する3塩基以上による相補的な配列を有するもの
これに該当する具体的配列として以下の配列が挙げられる。先頭の数字は配列番号1(NEK2遺伝子)の塩基配列における番号を示す。
3塩基のもの:
204-224 AAGATCCGGAGGAAGAGTGAT
511-531 AATGCCACAGACGAAGTGATG
691-711 AACAAATGAATCGCATGTCCT
802-822 AACTCGCTGGGAAAATCAGAG
1017-1037 AAATCGCAGGATTCCAGCCCT
1374-1394 AAGAAAAGGCTTCACGCTGCC
1377-1397 AAAAGGCTTCACGCTGCCCAG
1379-1399 AAGGCTTCACGCTGCCCAGCT
4塩基のもの:
895-915 AAAGGATTACCATCGACCTTC
977-997 AAATCTTGAGAGAAGAGGGCG
1126-1146 AACAGGAGCTTTGTGTTCGTG
1353-1373 AAGTCCAAGTGCAAGGACCTG
1554-1574 AATACTTGGCCCCATGAGCCA
5塩基のもの:
524-544 AAGTGATGGTGGTCATACCGT
6塩基のもの:
1208-1228 AAAGGAACGGAAGTTCCTGTC
8塩基のもの
600-620 AAGCTTGGAGACTTTGGGCTA
【0014】
このうち第1グループが最も効果的であり、第2グループが次に効果的であり、第3グループはこれらの中で効果が低い。
即ち、これらは自己の配列の中で相補部分が結合すると、3'断端側に遊離塩基ができるが、この遊離塩基の塩基数が大きい程、RNA干渉によるNEK2キナーゼの発現を抑制する効果が大きいと考えられる。
本発明のsiRNAはこれら塩基配列中の連続する19塩基を少なくとも含む、配列番号1の塩基配列の連続する30塩基以下、好ましくは27塩基以下、好ましくは23塩基以下の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAである。
【0015】
なお、上記の特許文献2には、NEK2キナーゼ(accession number NM_002497)の部分配列に相当する二重鎖RNAがNek2キナーゼを阻害剤し腫瘍細胞の増殖を抑制するRNAiとして用いることが記載されている。しかしこの文献に記載の配列は網羅的なものであり、その実施例にはSEQ ID NO:3〜SEQ ID NO:12、特にSEQ ID NO:12の配列のものが有効であると記載されているが、本発明のsiRNAは異なる思想の下に選択されたものであり、これらの配列とは異なる。なお、この特許文献2で効果があるとされるSEQ ID NO:3〜SEQ ID NO:12(後記の実施例1のsiRNA528に相当する。)は本願発明のsiRNAに比べてRNA干渉効果が極めて劣る。
【0016】
本発明で用いるRNA断片としては、標的RNAのセンス又はアンチセンスのものでもよいが、これらはRNaseで容易に分解され、また効果が劣ると考えられるため、これらから成る2本鎖RNAが好ましく用いられる。この2本鎖RNAは通常センスとアンチセンスの2本を別々に合成し、それをハイブリダイズさせて2本鎖にして用いられる。
これらのNEK2遺伝子の特定の塩基配列に「相当する」オリゴリボヌクレオチドとは、この遺伝子が転写されて生成するmRNAの、NEK2遺伝子の特定の塩基配列に相当する部分に相補的なRNAという意味であり、具体的にはこのNEK2遺伝子の特定のDNA配列のTをUに置き換えたものという意味である。
【0017】
本発明においては対象とする細胞はヒト等の腫瘍細胞である。このような腫瘍細胞として胆道癌(胆管細胞癌、胆嚢癌)、乳癌、膵癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝細胞癌、肺癌、喉頭癌、咽頭癌、甲状腺癌、子宮癌、卵巣癌、腎細胞癌、前立腺癌、膀胱癌、悪性黒色腫、脳腫瘍が挙げられる。
腫瘍増殖抑制として、本発明のオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAを有効成分として含むほか、アンチセンス、DNAエンザイム、ペプチド、中和抗体などを含んでもよい。
【0018】
また腫瘍増殖抑制剤は、他の公知の腫瘍増殖抑制剤等との合剤であってもよい。本発明の腫瘍増殖抑制剤は、このような他の薬剤を含むキットの形態であってもよいし、滅菌等張塩水、防腐剤、緩衝剤などの薬学的に許容される媒体を含有してもよい。
また、本発明の腫瘍増殖抑制剤は、上記腫瘍増殖抑制剤を製剤化したものを希釈剤などと混合して投与するための注射用キットや、製剤化した個々の製剤を投与するための錠剤用キットなどのキットとして提供してもよい。
RNA断片を細胞に導入する手段については、特に制限はなく、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロトプラスト融合法、エレクトロポレーション、ウイルスベクターを用いる方法などが挙げられるが、リポソーム等に基づく市販のトランスフェクション試薬を用いるのが簡便である。
【0019】
本発明のsiRNAの投与方法の例としては、以下のような方法が挙げられる。
(1) 胆道癌(胆管細胞癌、胆嚢癌)に対する術前投与として、(1-1)siRNAを生理食塩水に溶解し、血管造影下にて肝動脈内に投与する。(1-2) siRNAを生理食塩水かcellmatrixR(新田ゼラチン)に溶解し術前に経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)チューブより直接胆管内に投与するか、超音波ガイド下に経皮的に腫瘍を穿刺し直接腫瘍に投与する。
(2) 胆道癌(胆管細胞癌、胆嚢癌)による癌性腹膜炎(腹膜播種)症については、siRNAを生理食塩水かcellmatrixR(新田ゼラチン)に溶解し、手術で開腹して直接腹腔内に投与するか超音波ガイド下にて経皮的に腹腔内に投与する。
(3) 胆道癌(胆管細胞癌、胆嚢癌)による胆道狭窄による手術不能症については、siRNAを生理食塩水かcellmatrixR(新田ゼラチン)に溶解し経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)チューブより直接胆管内に投与する。
【実施例】
【0020】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
以下の実施例で、5種の胆管細胞癌細胞株(HuCCT1、TFK1、HuH28、CCKS1、293)を用いたが、HuCCT1、TFK1、HuH28は東北大学加齢研究所、CCKS1(胆管癌から樹立された細胞株)は金沢大学の病理学、293(胎児の腎臓より樹立された細胞株)は理化学研究所から入手した。
【0021】
試験例1
本試験例では、3種の胆管細胞癌細胞株(HuCCT1、TFK1、HuH28)及び4種の臨床検体における網羅的遺伝子解析を行い、NEK2の発現を調べた。
胆管細胞癌細胞株を10cmシャーレにて培養し、80%confluent状態にした。PBSにて2回洗浄後、10cmシャーレにTRIzolTM(LIFE TECHNOLOGIES)を1ml加えて、26G注射針にてホモジナイズおこない、30分、室温にて静置した。TRIzolTMのマニュアルに従い、クロロホルム抽出及びイソプロパノール沈澱にてRNAを回収した。
RNAを75%エタノール1ml加えて、4℃で15000rpmで10分間遠心し、沈澱を回収した。氷上で100μl RNAフリーの水を加え、RNAを溶解した。μMACS mRNA isolation kitTM(Millenyl Biotec)を使用してmRNAの精製を行った。μMACS mRNA isolation kitTMのマニュアルに従い、溶解したRNAにLysis/Binding Bufferを200μl加えた。よく混和した後68℃で3分間加温し、その後氷上に10分間静置した。
さらに溶解したRNAにOligo(dt) Microbeads 50μlを加えた。MACS column Type μを用いて、mRNAを抽出した。260nmと280nmにおける吸光度を測定し、RNAの収量を定量した。ethatinmateを利用してエタノール沈澱をおこない、-80℃に保存した。
【0022】
一方、切除した組織(正常肝組織又は胆管癌)1gを液体窒素にて凍結後、組織を破砕し、TRIzolTMを1ml加えて、26G注射針にてホモジナイズを行い、室温にて30分静置した。上記と同様にしてRNA抽出とmRNAの精製を行った。
【0023】
Atlas Human Cancer 1.2 ArrayTM(CLONTECH)のマニュアルに従い、mRNA5μgとDNAプライマーとα32PdATPより逆転写酵素にて32PにてラベルしたcDNAを合成した。コントロールは正常肝組織より抽出した5症例のmRNAを各1μgで計5μgとして使用した。プレハイブリダイゼーション後のアレイメンブレンに32PにてラベルしたcDNAを入れ、ローターで回転させながら68℃で9時間ハイブリダイゼーションを行った。ソリューション1でアレイメンブレンの洗浄を68℃、30分間で3回行い、ソリューション2でアレイメンブレンの洗浄を68℃、30分間で2回行った。アレイメンブレンをプラスチックバッグにいれ、イメージプレートに48時間、室温にて露光した。イメージアナライザーにてアイソトープのシグナルを検出した。シグナル強度として各遺伝子の放射線量(PSL:PSL=αDT、D: image plate上のRIラベルサンプルの放射線量、T: 露光時間、α: 定数にて定義)、面積より単位面積あたりの放射線量を測定した。結果を図1に示す。
【0024】
測定した単位面積あたりの放射線量のバックグラウンドの補正をおこなった後、各アレイメンブレン間のハウスキーピング遺伝子の発現をそろえるためにβアクチンにて補正を行った。コントロールに対する胆管細胞癌細胞株のシグナル強度の比を2を底とする対数とし、発現の比が2倍以上である1以上を発現亢進、発現の比が2分の1以下である-1以下を発現の低下とした。
上から6番目の遺伝子NEK2では細胞株及び臨床検体の全てで1以上であり、発現が亢進しており、特にHuCCT1では発現が顕著に亢進していることが分かる。
【0025】
試験例2
本試験例では、ウエスタンブロット法により5種の胆管細胞癌細胞株(HuCCT1、TFK1、HuH28、CCKS1、293)におけるNEK2の発現を調べた。
まず、胆管細胞癌細胞株からlysateを作成した。5種の胆管細胞癌細胞株をそれぞれ10cmシャーレにて培養し、80%confluent状態にした。PBSにて2回洗浄後、10cmシャーレにsample bufferを300μl加えて、21G注射針にてホモジナイズを行い、96℃で3分間加温した。
次に、separatin gelを作成した。滅菌蒸留水8.52ml、1M Tris-HCl (pH8.8) 11.1ml、10%SDS 300μl、アクリルアミドビス 10ml、APS 300μl、TEMED 25μlを混和し、室温で30分間静置した。
次に、stacking gelを作成した。滅菌蒸留水4.22ml、1M Tris-HCl (pH6.8) 0.75ml、10%SDS 60μl、アクリルアミドビス 0.9ml、APS 60μl、TEMED 10μlを混和し、separating gelの上に重層するようにstacking gelを加えて室温で15分間静置した。
【0026】
次に、lysate 20μlをマーカーとともに、CC40Aにて60分間、電気泳動を行った。電気泳動終了後、ゲルとトランスファーメンブレンを重ねて、15Vで45分間通電し、ゲル上のタンパクをトランスファーメンブレンに転写した。
一方、スキムミルク2.5gに1×TBS-T 50mlを加えて5%スキムミルク溶液を作成した。トランスファーメンブレンを5%スキムミルク溶液にいれ37℃、60分間振盪しながら加温して、ブロッキング液を作成した。
【0027】
次に、1次抗体(NEK2 : Transduction Laboratoriesまたはβactin : SIGMA)1μlに5%スキムミルク溶液500μlを加えて、500倍に希釈し、混和し、1次抗体液を作成した。トランスファーメンブレンに1次抗体液をいれ37℃で60分間振盪しながら加温した。トランスファーメンブレンを1×TBS-Tにて10分間、室温にて3回洗浄した。
HRP修飾された2次抗体(Goat F(ab') anti Mouse Ig's HRP conjugated : BIOSOURCE)0.5μlに5%スキムミルク溶液2mlを加えて、4000倍に希釈し、混和し、2次抗体液を作成した。トランスファーメンブレンに2次抗体液をいれ37℃で60分間振盪しながら加温した。トランスファーメンブレンを1×TBS-Tにて10分間、室温にて3回洗浄した。
【0028】
ECLTM溶液(PerkinElmer Life Sciences)のマニュアルに従い、ECLA液500μl、B液500μlを混合しECL反応液を作成した。トランスファーメンブレンをプラスチックバックにいれ、ECL反応液を加えた。暗室にてトランスファーメンブレンをレントゲンフイルムに2分間、室温にて露光させた。レントゲンフィルムを現像し、化学発光によりNEK2を検出した。
その結果を図2に示す。NEK2はNEK2AとNEK2Bとから成り、NEK2BはNEK2AのC末端がスプライシングされたものを示す。ここには示さないが、コントロールとして使用したβactinのデータに対するNEK2の濃度の比によって発現量を比較したところ、HuCCT1が最もよく発現していることが分かった。
以後の実験では、最も発現していたことと、ヌードマウスに移植可能であること、増殖が最も速かったことから胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)を用いた。
【0029】
実施例1
本実施例では、ウエスタンブロット法により、5種の2本鎖RNAを用いて胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)におけるNEK2の発現抑制を調べた。
以下の5種のsiRNAを設計し合成した。
(1) siRNA 65 :AAGAGGGCGACAATTAGGAGA(配列番号6)に対応するSense strand siRNA (GAGGGCGACAAUUAGGAGAtt)とAntisense strand siRNA (UCUCCUAAUUGUCGCCCUCtt)を合成し、ハイブリダイズさせて用いた。
(2) siRNA 27: AAGGAATGCCACAGACGAAGT(配列番号7)に対応するSense strand siRNA (GGAAUGCCACAGACGAAGUtt)とAntisense strand siRNA (ACUUCGUCUGUGGCAUUCCtt)を合成し、ハイブリダイズさせて用いた。
(3) siRNA 19 :AAGGAGGGGATCTGGCTAGTG(配列番号8)に対応するSense strand siRNA (GGAGGGGAUCUGGCUAGUGtt)とAntisense strand siRNA (CACUAGCCAGAUCCCCUCCtt)を合成し、ハイブリダイズさせて用いた。
(4) siRNA65+27: (1)と(2)を等量混合して用いた。
(5) siRNA128 : AGAAAAAATAATATTAGGAAAA(配列番号9)に対応するSense strand siRNAとAntisense strand siRNAを合成し、ハイブリダイズさせて用いた。
(6) siRNA528 : CCTGGATGGCAAGCAAAACGTC(配列番号10)に対応するに対応するSense strand siRNAとAntisense strand siRNAを合成し、ハイブリダイズさせて用いた。
(7) Luciferase GL2 siRNA:対照(control)として市販品(DHARMACON)を用いた。これは人体内に存在しないLuciferaseに対するsiRNAであり、NEK2の発現に変化がなく、増殖にも影響がない。
各siRNAは20μMに調整して用いた。
【0030】
一方、胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)を3.5cmシャーレにて最終濃度が400nMになるように培養し、60%confluent状態にした。無血清培地にて2回洗浄後、無血清培地を800μl加えた。
20μMの各siRNAを4μlと培地96mlを混和した。一方、ジーンポーターTM(Gene Therapy Systems)20μlと培地80mlを混和した。これらを混和してsiRNA ジーンポーターTM混合液200μlを作成し室温で30分間静置した。無血清培地のはいった胆管細胞癌細胞株の3.5cmシャーレに、上記siRNA ジーンポーターTM混合液を加えた。これをCO2インキュベーターにて37℃で3時間培養した。siRNAジーンポーター混合液のはいった3.5cmシャーレに20%の血清の入った培地を1ml加えた。これをCO2インキュベーターにて37℃で72時間培養した。これを試験例2に記載のウエスタンブロット法にてタンパク発現を検討した。
その結果を図3に示す。72時間後の時点ではsiRNA27とsiRNA19は同程度のNEK2タンパク質の発現抑制効果が認められた。一方、siRNA128とsiRNA528は対照と同程度でありNEK2タンパク質の発現抑制効果は認められなかった。
なお、siRNA65は72時間後の時点ではあまり効果が認められないが、その後1週間後程度の時点ではいくらか効果が認められた(ここには結果を示さない)。siRNA27及びsiRNA19とsiRNA65とでは作用機序が異なっていると考えられる。
【0031】
実施例2
本実施例では、実施例1で用いた各種の2本鎖RNAで感染させた胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)の増殖評価(proliferation assay)を行った。対照(control)は、ジーンポーターTMのみを使用した細胞株を示す。
実施例1と同様にして胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)を5種の2本鎖RNAで感染させた。
これをPBSにて2回洗浄後、0.1%トリプシン/EDTA溶液を1ml加えた。CO2インキュベーターにて37℃で10分間加温した。細胞数を測定し、培地で1×106個/mlに調整した。
96穴プレートに各群10穴ずつで1穴あたり細胞を50μlずつ播いた。CO2インキュベーターにて37℃で24時間培養した。1穴あたり培地を50μlずつ加えて、さらに1穴あたりテトラカラーワンTM(SEIKAGAKU CORPORATION)を10μlずつ加えた。CO2インキュベーターにて37℃で3時間培養した。マイクロプレートリーダーにて450nmにおける吸光度を測定した。
その結果を図4に示す。実施例1と同様に、siRNA27とsiRNA19には同程度のNEK2タンパク質の発現抑制効果が認められ、siRNA65は効果は認められたが小さかった。一方、siRNA128とsiRNA528は対照と同程度でありNEK2タンパク質の発現抑制効果は認められなかった。
【0032】
実施例3
本実施例では、胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)を接種したBalB/cマウスに対するsiRNA27の影響を調べた。
胆管細胞癌細胞株(HuCCT1)を15cmシャーレにて培養し、80%confluent状態にした。PBSにて2回洗浄後、15cmシャーレに0.1%トリプシン/EDTA溶液を1ml加えた。CO2インキュベーターにて37℃で10分間加温した。PBSにて2回洗浄後、細胞数を測定し、Hanks液TM(LIFE TECHNOLOGIES)で1×107個/100μlに調整した。
8週齢のBalB/cマウス右大腿皮下に胆管癌細胞株(HuCCT1)を1×107個/100μl注射した。注射後1ヵ月間飼育した。
この右大腿皮下に腫瘍に20μMに調整したsiRNA27 100μlを直接腫瘍に注射した。週1回で計3回行った。3回目のsiRNA27注射から1ヵ月後に腫瘍を切除し、体積を測定した。その様子を図5に示し、腫瘍の体積を図6に示す。siRNA27の投与により腫瘍のサイズが小さくなっていることが分かる。
【0033】
実施例4
胆管癌をマウスの腹腔に注射し、腹膜播種を起こした後、siRNA27を投与したマウスの延命効果を調べた。その結果を図7に示すが、明らかな延命効果が観察された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のオリゴヌクレオチドは腫瘍細胞の増殖抑制剤として用いることができる。この他、炎症細胞などの増殖抑制の可能性があり、手術創治癒の際に生じるケロイドの予防薬として用いることも可能であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1(NEK2遺伝子)の塩基配列の989〜1009番目の塩基配列中の連続する19塩基を少なくとも含む、配列番号1の塩基配列の連続する30塩基以下の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド及びその相補的オリゴリボヌクレオチドから成る2本鎖RNAを有効成分として含む腫瘍増殖抑制剤。
【請求項2】
前記オリゴリボヌクレオチドが19〜23塩基から成る請求項1に記載の腫瘍増殖抑制剤。
【請求項3】
配列番号1(NEK2遺伝子)の塩基配列の989〜1009番目の塩基配列中の連続する19塩基を少なくとも含む、配列番号1の塩基配列の連続する30塩基以下の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド及びその相補的オリゴリボヌクレオチドから成る2本鎖RNAを、腫瘍細胞へ導入することから成る、該腫瘍細胞の増殖を抑制する方法(但し、人体の処置方法を除く)。
【請求項4】
前記オリゴリボヌクレオチドが19〜23塩基から成る請求項3に記載の方法。
【請求項5】
配列番号1(NEK2遺伝子)の塩基配列の989〜1009番目の塩基配列中の連続する19塩基を少なくとも含む、配列番号1の塩基配列の連続する30塩基以下の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド及びその相補的オリゴリボヌクレオチドから成る2本鎖RNAを含む腫瘍増殖抑制用キット。
【請求項6】
前記オリゴリボヌクレオチドが19〜23塩基から成る請求項5に記載のキット。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−270119(P2010−270119A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130102(P2010−130102)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【分割の表示】特願2006−528503(P2006−528503)の分割
【原出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】