説明

腫瘍組織、とりわけ乳癌から初代培養腫瘍細胞を得るための方法、初代培養腫瘍細胞およびそれらの使用

本発明は腫瘍組織から初代培養腫瘍細胞を得るための方法に関する。より正確には本発明は腫瘍組織、とりわけ乳癌から初代培養腫瘍細胞を得るための方法に関し、ここで、1方法ステップでは、腫瘍組織はあるサイズの腫瘍組織片に分割され、これらの組織片はその後定義された条件下で培養される。本発明はまた、腫瘍組織からこの方法によって得ることができる初代培養腫瘍細胞、とりわけ乳癌由来の初代培養腫瘍細胞に関する。最後に、本発明はとりわけ、腫瘍処置の個別のコースを決定するための、または腫瘍に対する新規な治療薬の試験およびスクリーニングのためのこれらの初代培養腫瘍細胞の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は腫瘍組織から初代培養腫瘍細胞を得るための方法に関する。より特定すれば、本発明は腫瘍組織、とりわけ乳癌から初代培養腫瘍細胞を得るための方法に関し、1プロセスステップでは、腫瘍組織は定義されたサイズの腫瘍組織片に細分割され、そしてこれらの組織片はその後、定義された条件下で培養される。本発明はさらに、腫瘍組織からこの方法により得ることが可能な初代培養腫瘍細胞、とりわけ乳癌由来の初代培養腫瘍細胞に関係する。最後に、本発明はとりわけ、腫瘍療法の個別コースを確定するための、または新規な抗腫瘍薬の試験およびスクリーニングのためのこれらの初代培養腫瘍細胞の使用に関する。
先行技術
腫瘍および対応する癌疾患は男性における最も一般的な死亡原因の1種である。乳腺の悪性癌化の1形態として、乳癌は女性においてずばぬけて一般的な癌疾患である。多様化した腫瘍の進行に対して、外科手術、化学療法/ホルモン療法および放射線療法といった非常に限定された治療選択肢だけのために、乳癌はまた、女性において最も一般的な、疾患に関連した死亡原因の1種である。しかし、他の型の癌、たとえば膀胱癌、肺癌、皮膚癌および/または上皮起源の他の型の癌、ならびに他の型の腺癌、たとえば膵臓癌も男性における一般的な死亡原因である。
【0002】
乳癌患者において、手術および原発腫瘍である乳癌の除去後に、それに伴って、細胞分裂停止剤によるアジュバント薬物療法がしばしば行われる。とりわけ、原発腫瘍の転移がすでに起こっている場合、すなわちたとえば同時に起こる腋窩リンパ節の腫瘍攻撃により、このアジュバント薬物療法は細胞分裂停止剤と一緒に行われる。他の治療方法には、放射線療法もしくはホルモン療法、またはこれらの療法形態の組み合わせが挙げられる。実際、これまで、とりわけ患者の層化を行うため、すなわち、患者の治療方法を決定するために、腫瘍組織のホルモン受容体状態が特定されている。しかし、療法の形態の適切な選択は非常に重要である。たとえば、タモキシフェンによるホルモン治療は、ホルモン受容体陽性癌細胞、たとえばエストラジオール‐陽性乳癌細胞が腫瘍中に検出される場合の治療のためだけに使用することができる。その上、これらのホルモン受容体‐陽性腫瘍細胞のある程度の割合がホルモン療法に反応しないことは公知である。同様のことが他の療法の形態、または療法の組み合わせた形態、たとえば同時に行われる化学療法およびホルモン療法、または化学療法と放射線療法の組み合わせに対してさえ適用される。療法の形態の適切な選択、いわゆる罹病したヒトの個別化療法はしたがって腫瘍疾患の治療において欠くことができない。とりわけ、癌疾患の診断がまた、療法の成功に影響を与える重要な因子である。
【0003】
外科手術による介入から独立した適切な治療の形態のための必要なスクリーニング、言い換えると、ホルモン、化学療法および/または放射線療法手段の試験は、今までin vitroにおける不死化乳癌細胞株(たとえば、MCF−7など)に、および/またはin vivoにおける動物実験に限定されていた。しかし、不死化細胞株は人工的な試験システムであり、実際のin vivoにおける状況に対応しない。動物モデルは大部分、誘発された腫瘍動物モデルであるため、同じことがこれらにもあてはまる。動物モデルにおいて、または不死化細胞株により得られた結果をin vivoの状況へ移すことは困難である。したがって、治療されることになる患者の層化は依然として重要な課題のままである。とりわけ、多剤耐性腫瘍(MDR腫瘍)は腫瘍患者の治療において重要な課題である。
【0004】
すでに上述のように、乳癌の分野では、たとえば原発乳癌患者における古典的予後因子は、腫瘍サイズ、分化の型、ホルモン受容体状態およびリンパ節攻撃である。毎日の臨床業務において、これらの確立された予後因子に従って、本来なら良好な予後を伴うべき腫瘍が攻撃的な疾患経過をたどりうることが何度も繰り返して見られる。したがって、リンパ節転移陰性乳癌患者の約30%は、診断後10年以内に再発を患う。それゆえ、個々の患者の層化およびそれによる個別腫瘍療法の確定は腫瘍患者の首尾よい治療の極めて重要な側面である。
【0005】
すでに上述のように、in vitroにおけるスクリーニング法および動物実験法は、個々の症例の多様性に関しては完全に非特異的な、一般化された予言的価値を有するだけである。このことは、おおざっぱな治療計画が日常的使用のために開発され、そしてそれらはある患者においては不適切な効果だけを及ぼすか、全く役にすら立たないという結果をもたらす。最も悪い場合には、これらの治療計画のDNA‐損傷および突然変異誘発作用のために、健全な、増殖している組織において、そのような治療計画が二次的な腫瘍をさえ誘発しうる。このような理由から、たとえば乳癌疾患の場合において個別診断の補助となるものは極めて限定され、その上、原則として、個別化された治療方法のための選択肢が存在しない。
【0006】
すでに上述のように、乳癌由来の不死化細胞株は公知である。不死化の結果として、in vivo条件と対照的に、それらはかなり人工的な細胞培養物を表す。とりわけ、これらの不死化細胞株は、活性物質に対するそれらの反応が、たとえば薬物の試験の場合、in vivoにおける、すなわち患者における細胞の反応とは異なることが見いだされているという点で異なる。したがって、とりわけHass et al.(Signal Transduction,3,9〜17ページ,2003)は、上昇したエストロゲン濃度に対する通常の乳房上皮細胞(HMEC−1)の反応が、乳癌細胞株MDA−MB−231およびMCF−7に比較して異なることを報告した。
【0007】
腫瘍組織から、たとえば乳癌から初代培養細胞を得るための試みが行われてきた。したがって、たとえば、Bartsch et al.LifeSciences 67,2953〜2960ページ,2000は、乳房および卵巣癌の患者由来の腫瘍の研究を記載する。ここでは、腫瘍材料は小フラグメントに分割され、細胞を分離するためにこれらのフラグメントは通常トリプシンまたはキモトリプシンならびにDNアーゼおよびRNアーゼのようなプロテアーゼを含有する酵素試薬で消化された。そのようにして得られた、プロテアーゼ消化によって分離されたこれらの細胞がその後培養される。
【0008】
しかし、不死化によって変化していないが、それにもかかわらず、特性における際だった変化なしに長期間培養を維持しうる初代培養腫瘍細胞が腫瘍組織から簡単に得られる方法は、当該技術分野の状況では全く知られていない。すなわち、乳癌細胞の分離および試験のための今までに存在している方法、たとえばStampfer MR,J.Tissue Culture Methods,9:107−115(1985)は、培養においても制約を有する。
発明の概要
本発明の目的はしたがって、初代培養腫瘍細胞を腫瘍組織から得ることを可能にし、それによって前述の不都合な点を克服する、言い換えると腫瘍細胞の著しい変化を伴わずに、これらのいっそう長期の培養を可能にする方法を提供することである。そのようにして得られた初代培養腫瘍細胞は、療法のための患者の層化だけでなく、他の分野における、たとえば新規な潜在的抗腫瘍薬のスクリーニングおよび試験の分野における、ならびに新規および従来の抗腫瘍薬にとっての対応する投与計画の開発および試験における、これらの得られた細胞の使用を可能にする。
【0009】
新規な方法により、腫瘍、とりわけ乳癌のような上皮腫瘍由来の腫瘍組織試料からex vivoにおいて初代培養細胞を濃縮し、そして長期にわたり培養することが可能になってきた。
【0010】
ex vivoにおける腫瘍初代培養物のこの直接増殖は、ある範囲の個別診断および治療の可能性を開く。したがって、本発明は同様に、患者の層化のための、すなわち患者にとっての個別腫瘍療法の確定のためのスクリーニングアッセイおよび試験システムにおけるこれらの腫瘍初代培養物の使用に関係する。さらに、腫瘍初代培養物は新規な潜在的抗腫瘍薬を試験し、そしてスクリーニングするための、ならびに新規および従来の抗腫瘍薬にとっての対応する投与計画を確定するためのシステムの提供を可能にする。
【0011】
したがって、好ましい態様において、本発明に記載のプロセスは、酵素消化をしないで、とりわけプロテアーゼ消化をしないで腫瘍組織の処理を行い、その後腫瘍組織を培養することを含む。本発明に従って、培養する場合、腫瘍組織は約0.5mm〜約3mmまでの直径のサイズの腫瘍組織片に細分割される。次に、腫瘍組織片は腫瘍細胞に適した培地中で培養される。この培地は好ましくはウシ下垂体抽出物、ハイドロコーチゾン、インスリンおよびヒト上皮成長因子によって補足される。さらに好ましい態様において、この培地は血清および/または抗生物質を全く含有しない。
【0012】
好ましくは、腫瘍組織は原発乳癌である。本発明に記載の態様において、そのような場合のこれらの腫瘍初代培養物は培養時に多層細胞凝塊を形成する。
発明の詳細な説明
本発明は腫瘍組織から初代培養腫瘍細胞、とりわけ乳癌から腫瘍初代培養物を得るための方法、およびこの方法により得ることができる初代培養腫瘍細胞、とりわけ乳癌の腫瘍初代細胞を提供する。本発明に記載の初代培養腫瘍細胞は、好ましい態様では上皮細胞癌、とりわけ乳癌に由来するものであるが、それらは本発明に記載の方法により腫瘍組織試料から得て、培養において増やすことが可能であり、その結果それらはたとえばさまざまな応用のための試験システムとして利用することができる。同時に、得られたこれらの初代培養腫瘍細胞は、しばらくの間は保存された状態で保管することができる。
【0013】
以下では、「初代培養腫瘍細胞」という用語は、腫瘍組織から得られた細胞を意味すると理解され、そのような細胞はこれらの初代培養腫瘍細胞が由来する腫瘍組織において、in vivoにおける腫瘍細胞と同じマーカーを本質的に発現し、そして本質的に同じ特性を提示する。以下では、「初代培養腫瘍細胞」と「腫瘍初代培養物」という用語は同義語として使用される。初代培養腫瘍細胞は人工的に(たとえば、ウイルス形質転換により)不死化された細胞株ではない。
【0014】
「腫瘍」という用語は、すべての型の腫瘍、特に固形腫瘍を包含する。とりわけ、それらは上皮起源の固形腫瘍、たとえば乳癌、膀胱癌または肺癌および皮膚癌ならびにそれらの転移物である。言い換えると、「腫瘍」という用語は原発腫瘍だけでなく、転移、とりわけ臓器転移および骨髄転移によって形成された腫瘍、および再発している乳癌腫瘍由来の細胞を包含する。その上、「腫瘍」という用語は、乳腺以外の腺組織の上皮細胞癌、たとえば膵臓癌を包含する。
【0015】
「抗腫瘍薬」という用語は、腫瘍増殖に有害作用を有する活性物質を表す。これらの抗腫瘍薬には、化学療法剤およびホルモンのような化合物、さらに腫瘍の治療、たとえば放射線または非保存的形態の療法のための他の薬剤の両方を包含する。
【0016】
本明細書において同時に使用される「システム」または「試験システム」という表現は、本発明に記載の初代培養腫瘍細胞、およびとりわけ本発明に記載の方法を実行するための説明書を含有するいわゆるキットまたは他のユニットをとりわけ包含する。これらのシステムまたは試験システムは、本発明に記載の方法を実行するために必要な付加的な構成要素、たとえば試薬、容器などを同様に包含することができる。ここで、本発明に記載のキットの個々の構成要素は別個の入れ物、または1つの入れ物に一緒に包装可能である。本発明に記載のシステムはたとえば、当業者に公知のスクリーニングアッセイでありうる。
【0017】
乳癌のような腫瘍組織から腫瘍初代培養物を得るための本発明に記載の方法は、たとえば乳癌手術において、または生検が行われる場合に得ることが可能な腫瘍組織から出発する。できるだけ滅菌した様式で得られるこの組織は、必要な場合、PBSまたは他の生理的溶液のような洗浄溶液により滅菌下で洗浄され、その後腫瘍組織片に細分割され、腫瘍細胞に適した培地で腫瘍組織片は培養される。
【0018】
ここで、「腫瘍細胞に適した培地で」という表現は、腫瘍組織における腫瘍細胞の増殖を促進する培地を意味する。
本発明に従って、腫瘍組織片培養のための得られた腫瘍組織の調製には、プロテアーゼによる処理、または好ましい態様では、酵素処理が全く包含されない。とりわけ、腫瘍組織のトリプシン処理は全く行われずに、腫瘍組織は培養される。
【0019】
その上、好ましい態様において、本発明に記載の方法において使用されることになる腫瘍組織片における腫瘍細胞の培養のための適切な培地は、ウシ下垂体抽出物、グルココルチコイド、たとえばハイドロコーチゾン、インスリンおよび組換えヒト成長因子、たとえばヒト上皮成長因子により補足される。とりわけ好ましくは、これらの物質は、500〜5μg/mlのウシ下垂体抽出物、0.05〜5μg/mlのグルココルチコイド、たとえばハイドロコーチゾン、0.5〜50μg/mlのインスリンおよび1〜100ng/mlのヒト上皮成長因子の量で培地に含有される。20〜80μg/ml、たとえば52μg/mlのウシ下垂体抽出物、0.1〜2.5μg/ml、たとえば0.5μg/mlのハイドロコーチゾン、1〜25μg/ml、たとえば5μg/mlのインスリンおよび2〜50ng/ml、たとえば10ng/mlのヒト上皮成長因子が添加されている培地が特に好ましい。
【0020】
特に適切な培地はたとえば、Promocell GmbH,Heidelberg,GermanyのMammary Epithelial Cell Growth Mediumであり、そのような培地は以下ではMaCa培地とも呼ばれる。好ましい態様において、培地500mlにつき2ml(13mg/ml)のウシ下垂体抽出物、0.5ml(0.5mg/ml)のハイドロコーチゾン、0.5ml(10μg/ml)のヒト組換え上皮成長因子および0.5ml(5mg/ml)のインスリンがこのMammary Epithelial Cell Growth Mediumに添加される。
【0021】
さらに好ましい態様において、腫瘍細胞の培養に適したこの培地は、細胞培養に通常使用されるような血清である、ヒト血清およびウシ胎児血清のいずれも全く含有しない。別の態様において、抗生物質はこの培地に添加されない。
【0022】
もちろん、他の培地、たとえば、Hammond et al.,PNAS,1984,81:5435〜5439で言及されているMCDB170培地も適切である。
さらに好ましい態様において、定義されたサイズの腫瘍組織片は培養容器、たとえば培養瓶または培養皿面積の1平方センチメートルごとに、または培地、好ましくは前述の培地の1種における培養容積ごとに、定義された密度で培養される。ここで、培養はインキュベーションキャビネットのような適切な装置中の培養容器において、5% COを含む雰囲気中、37℃で行われる。
【0023】
定義されたサイズへの腫瘍組織の細分割により、初代培養腫瘍細胞を得ることが今や可能である。腫瘍組織の細分割は本発明に従って実行され、その結果腫瘍組織片は0.5mm〜3mmの範囲のエッジの長さを有する。これらの腫瘍組織片において、OP(手術)により、または生検から得られた腫瘍組織は適切に調製されて、培養時に腫瘍組織、とりわけ乳癌由来の腫瘍組織から初代培養腫瘍細胞が形成される。
【0024】
細分割は好ましくは、たとえばメスまたははさみにより、最大3mm、好ましくは2mm、たとえば1.5mm、より好ましくはせいぜい1mmの1カットエッジの長さを有する組織片のサイズに切断することにより行われ、ここで好ましくはお互いに本質的に直角に交わる2つのサイドエッジがこの長さを有し、そしていっそう好ましくはお互いに本質的に直角に交わる3つのカットエッジがこの好ましい長さを有する。結果として、腫瘍組織が細分割されることになる定義されたサイズは、少なくとも1つのカットエッジの長さが0.5〜2mmであり、また最大の厚さは0.5〜3mm、好ましくは2〜1mmである形である。腫瘍組織片のこれらの定義されたサイズが呈する形の例としては、0.5〜3mm、好ましくは1〜2mm、最も好ましくは約1mmの範囲のエッジの長さを持つ立方体または直方体を挙げることができる。
【0025】
好ましくは、定義された大きさを持つ組織片は、腫瘍組織片を十分に覆うために、好ましくはそれらより1〜2mm上まで覆うために十分な培地が存在する培養容器の面積100mにつき、5〜20片、いっそう好ましくは10〜15片の数で播種される。
【0026】
さらに好ましい態様において、定義されたサイズに細分割された腫瘍組織片は、過剰な小さな組織片および異質の細胞、たとえば血液細胞のような単一細胞、またはこれらの個々の細胞のフラグメントを、たとえば20μmの排除限界を持つ、いっそう好ましくは少なくとも50μm、たとえば80μm、とりわけ少なくとも100μmの排除限界を持つフィルターでの濾過により除去される。
【0027】
あるいは、調製物中の線維芽細胞の内容物は、MACS抗‐線維芽細胞キットのような公知の方法または匹敵する方法により、組織の細分割の前もしくは後に、または始めの培養後に、選択的に除去されうる。
【0028】
本発明はさらに、本発明に記載の方法により得ることが可能な、分離された初代培養腫瘍細胞に関する。好ましくは、これらは乳癌由来の初代培養腫瘍細胞である。
このようにして得ることが可能な細胞は、それらが腫瘍組織中のin vivoにおける腫瘍細胞の多くの特性を提示することが特徴である。その上、それらはin vivoにおける腫瘍のマーカー分子、たとえばサイトケラチンに類似したマーカー分子の多くを発現する。より正確には、好ましい態様において、初代培養腫瘍細胞はサイトケラチン、その上ビメンチンの両方を発現する。
【0029】
詳細な形態学的研究、たとえば走査電子顕微鏡写真は前述の本発明に記載の方法が、他の細胞型を本質的に含まない、とりわけ線維芽細胞を含まない乳癌細胞の初代細胞培養物を生み出すことを示す。
【0030】
培養中、前述の条件下、初代培養物は接着細胞のような腫瘍組織片から増殖し、付加的な増殖時にそこに多層、3次元細胞培養物を形成する。ここでの3次元構造は初代培養腫瘍細胞のサブコンフルエントな増殖中にすでに形成される。細胞培養中にコンフルエントな状態に到達すると、増殖の接触阻止は全く起こらないどころか、逆に細胞は増殖が制限されない。そのため、本発明に記載の初代培養腫瘍細胞はまた、たとえば多層、3次元構造を形成しないどころか、逆に細胞培養中、コンフルエントになるまで単層で増殖するだけの正常ヒト乳腺上皮細胞とは異なる。その上、これらの通常細胞は培養時にそれらの増殖能力を失うことが示されている。
【0031】
好ましくは、腫瘍組織片からの初代培養腫瘍細胞の外増殖後、これらの組織片は培養容器から除去される。
本発明に従って得られた初代培養腫瘍細胞の保存物は、たとえば凍結保存、すなわち、凍結保存培地(たとえば、先に記載のような、腫瘍細胞の培養に適した補足培地中の10% DMSO、10% ウシ胎児血清)中におけるトリプシン処理された細胞のゆっくりした凍結によって液体窒素中に保存することができる。
【0032】
凍結保存後、本発明に記載の初代培養腫瘍細胞は再び培養の状態に置くことができ、そして試験または付加的な培養のために用意される。
腫瘍細胞の個々の増殖に依存して、培養物中で増殖した初代培養腫瘍細胞、すなわち腫瘍組織片から増殖し、そしてさらに数を増した細胞は培養容器の表面に粘着性に接着し、コンフルエントまたはサブコンフルエントな状態で試験のために使用するか、または培養物中におけるトリプシン処理、および通常の継代によりさらに数を増すことができる。
【0033】
本発明に記載の初代培養腫瘍細胞の長期間培養およびこの間に時には必要な継代に関連して、細胞および細胞組織は、継代のためのいかなるプロテアーゼ処理もせずに、言い換えるとその上にトリプシン処理なしに、1年より長く培養物中で継続して増殖しうることが見いだされた。
【0034】
細胞のトリプシン処理による継代およびその後の付加的な培養中に、得られた初代培養腫瘍細胞の特性は多くても7継代、好ましくは5継代まで、いっそう好ましくは3継代まで、本質的に変化しないままである、すなわち、好ましくは腫瘍組織中にin vivoにおいて存在する細胞に比較して変化しないか、または取るに足らない変化だけをした特性を示すことが見いだされた。
【0035】
以下の実施例の1つから理解することができるように、およそ7継代後に、乳癌由来の腫瘍細胞の場合、培養した初代培養腫瘍細胞の特性は変化し、培養物が死滅し始める程度に低下することが見いだされている。この死滅はしかしまた、本発明に記載の初代培養腫瘍細胞が人工的に不死化された細胞株ではなく、腫瘍細胞の不死化は本発明に記載の方法により全く起こらないことを確証する。
【0036】
そうして得られた初代培養腫瘍細胞は、診断のための、療法の層化のための、または新規および公知の抗腫瘍薬の試験のための試験システムに使用することができる。言い換えると、本発明に記載のこれらの細胞の可能な用途は、活性物質研究において発生する。なぜなら、公知の細胞株に比較して、本発明に記載の細胞はin vivoの状況、したがって腫瘍組織におけるin vivoでの反応もより好ましく表すからである。したがって、すべての型の既存の、および将来の療法、たとえばホルモン療法、細胞分裂停止薬または放射線療法は、単独で、または組み合わせて試験することができ、それゆえ、たとえば個別化した療法プランを個体のために開発することができる。異なる形態の療法のシミュレーションを通じて、異なる保存的または革新的治療方法および可能性のあるその組み合わせを、患者における使用の前に試験し、個別に適合させることができる。
【0037】
その上、本発明に記載の細胞は新規な抗腫瘍薬の試験およびスクリーニングにおいて使用することができる。それゆえ、たとえば異なる腫瘍組織由来の初代腫瘍細胞の少なくとも2種の異なる培養物を含有する試験システム、いわゆるバンクにより、たとえばアレイ上で、潜在的な新規活性物質または他の物理的もしくは生物学的方法の効力、さらに副作用、ならびに薬力学的有効性を均質なex vivo材料上で試験することができる。好ましくは、このバンクは本発明に記載の方法により得ることができる初代腫瘍細胞の少なくとも10種の異なる、たとえば少なくとも20種の異なる培養物を含有し、それぞれは異なる腫瘍組織に由来する。ここで腫瘍組織は、1種の型の腫瘍、たとえば乳癌、または異なる型の腫瘍に由来することが可能である。
【0038】
個々の培養物の増殖によって、たとえば物質の単独で、継続的な投与の効果を比較するために、そして治療的投与時点を最適化するために、すなわち選択された腫瘍療法のための投与計画を最適化するために、十分な腫瘍細胞材料が利用可能である。
【0039】
得られた初代培養腫瘍細胞の前述の特性によって、これらは標準化された試験およびスクリーニングシステム、たとえば新規および公知の抗腫瘍薬の開発および使用のためのハイスループットスクリーニング法、ならびに治療手段におけるこれらの投与計画における使用にも適切である。
【0040】
本発明に記載の方法の特有の利点は、数日以内にたとえば乳癌から腫瘍初代培養物を生み出すことができ、したがってそれは、患者のための個別化療法プランを作成すること、さらにことによると有効でない標準療法を速やかで、適確に不要にできることである。
実施例1:乳癌からの初代培養腫瘍細胞の生成
乳癌手術から入手できる腫瘍組織は、リン酸緩衝塩溶液(PBS)中、および500mlにつき、2mlのウシ下垂体抽出物(13mg/ml)、0.5mlのハイドロコーチゾン(0.5mg/ml)、0.5mlの組換えヒト上皮成長因子、0.5mlのインスリン(5mg/ml)およびアンホテリシンB(50μg/ml)と混合した0.5mlのゲンタマイシン(50mg/ml)で補足したMaCA培地(Mammary Epithelial Cell Growth Medium,PromoCell,Heidelberg,Germany)中、滅菌条件下、室温において3回洗浄し、サイコロの形を有する、エッジの長さが最大で1〜1.5mmの組織片に切断した。
【0041】
前述の補足MaCA培地50ml中の10〜15片までの組織片は水で飽和した5% CO雰囲気中、37℃において培養した。
数日間の培養期間後、腫瘍片から増殖し、培養皿の表面に接着して、多層細胞凝塊を形成している細胞凝塊を認めることができる。
【0042】
培養皿の表面上で増殖した細胞凝塊は、必要な場合、洗浄し、適度に遠心分離した後、慣用のトリプシン/EDTA溶液により剥がし、継代培養することができる。この場合、外増殖した腫瘍細胞の混合物、すなわち、元の腫瘍組織と混ざって、培養皿の表面で増殖する細胞は37℃において、PBSで2回洗浄し、その後0.25パーセントトリプシン/EDTA溶液(1:10、0.25% トリプシン/EDTA、Invitrogen GmbH,Karlsruhe,Germany)による処理後に、約10〜15分間、37℃において剥がされる。細胞懸濁液は、100μmフィルター(DakoCytomation、Hamburg,Germany)を通して、元の腫瘍組織片を除去する。濾液中に含まれる細胞は第1継代細胞と呼び、遠心分離(400xg/5分)し、新鮮な補足MaCA培地に再懸濁し、約5x10細胞/mlの密度に至るまで、細胞培養瓶中で培養する。
【0043】
この第1継代の乳癌初代細胞は、サブコンフルエントな状態において、付加的なトリプシン/EDTA処理によって剥がすことができ、第2継代細胞として、機能解析のために十分な量の個別乳癌初代癌細胞として調製される。
実施例2:腫瘍組織の調製物における線維芽細胞の付加的な減少
実施例1に従って、初代細胞培養物は腫瘍組織から生成され、その上、第1継代の細胞はMACS抗線維芽細胞キット(Miltenyi Biotech GmbH,Bergisch Gladbach,Germany)で処理することができる。
【0044】
コロイド状に分散した超常磁性ビーズ上に固定化されているマウスのモノクローナル抗線維芽細胞抗体により、存在する線維芽細胞はすべて第1継代の初代細胞培養物から選択的に除去することができる。次に、腫瘍細胞は実施例1に記載の補足MaCA培地中で培養される。
【0045】
本発明の開発では、しかしながら、第1継代の初代細胞培養物からの付加的な線維芽細胞の除去は大部分不必要であることが見いだされた。なぜなら、本発明に記載の方法のおかげで培養物はすでに線維芽細胞の著しい汚染を示さないからである。
実施例3:乳癌初代細胞培養物の凍結保存
実施例1に従って調製された乳癌初代細胞培養物は、第1、第2または第3継代後、補足MaCA培地中、通常のやり方でトリプシン処理し、実施例1に従ってMaCA培地を含む試験管中で約5x10細胞/mlになるまで調整し、さらに約12時間かけて10%(v/v)ウシ胎児血清(Invitrogen)および10%(v/v)DMSO(Sigma)と共に−80℃まで急速冷凍し、その後液体窒素(−196℃)中で衝撃(shock)凍結し、保存する。
【0046】
衝撃凍結した初代培養細胞は短期間、−80℃で、しかし好ましくは液体窒素中で保存することができる。付加的な培養または使用の場合、凍結保存した腫瘍初代培養細胞は速やかに37℃に温め、ウシ胎児血清およびDMSOの除去後に補足MaCA培地中、37℃、5% COで培養する。
実施例4:走査電子顕微鏡解析による本発明に記載の乳癌初代細胞の性状解析
実施例1に従って、1〜2mmの範囲の最大エッジ長を持つ、乳癌由来の腫瘍組織片の初めの細胞/組織培養物はカバーグラス上で培養し、その後pH7.4で少なくとも24時間、4℃において、0.1Mカコジル酸ナトリウム中3%グルタルアルデヒドおよび2%ホルムアルデヒドを含有する溶液中で固定した。次に、試料を1% OsOで後固定(postfix)し、その後エタノールグラジエントで脱水した。臨界点で乾燥した試料を金‐パラジウム(REM coating system E5400,Polaron,Watford,England)でコートし、その後走査電子顕微鏡(JEOL SSM−35CF)により、15kVで解析した。
【0047】
図1に200倍に拡大した全体の写真を示し、そこではガラス表面の個々の腫瘍片の培養と腫瘍初代細胞の過剰成長(overgrowth)が可視化される。異様な構造の大型の細胞体からなる細胞形態は外来細胞、たとえば線維芽細胞にとって典型的ではない。なぜなら、後者の線維芽細胞は非常に長く伸びた、紡錘型の細胞構造を有するからである。
【0048】
図1Aはまた、この3次元的に増殖している腫瘍培養物内の細胞の重ね合わされた層を可視化し、ここでは個々の細胞は長い細胞分枝(branch)と短い細胞分枝の両方を形成する。
【0049】
この他に、腫瘍細胞は多数の細胞質分枝を近傍細胞に形成することを見ることができる。これらの細胞間リンクは腫瘍内の細胞を横切る輸送および他の細胞間コミュニケーションプロセスに役立つと推定される。これらの細胞間リンクはまた、in vivoにおける腫瘍組織にとっても典型的であり、その結果ここで本発明に記載の初代細胞培養物がin vivoにおける腫瘍の構造に非常に密接に類似する構造を有することを見ることができる。
【0050】
結局、電子顕微鏡写真は、本発明に記載の乳癌初代培養細胞がin vivoにおける腫瘍の結合組織凝塊中の細胞と同様の3次元構造を有する、比較的均質な集団を形成することを示す。
実施例5:腫瘍初代培養物の機能的性状解析
乳癌腫瘍組織は以前から公知であり、とりわけ形態構造とは別に、それはある種の中間径フィラメント、特にサイトケラチンの形成によって特徴付けられる。MaCA培地中の本発明に記載の腫瘍初代培養物の機能的性状解析に関しては、したがってサイトケラチンがマーカーの1種として解析された。
【0051】
サイトケラチンと同様に、ビメンチン中間径フィラメントも乳癌腫瘍組織において発現されうる。ビメンチンの発現はまた、線維芽細胞にとって典型的であるが、これらの組織ではサイトケラチンは全く見いだされない。
【0052】
したがって、これら2種の中間径フィラメントは、他の細胞型、たとえば線維芽細胞による起こりうる汚染の確認のためのマーカーとして両方とも適切である。線維芽細胞が他の細胞集団より高い細胞分裂速度を示し、培養物中の所望する初代細胞よりも増殖しすぎる場合、線維芽細胞は一般に初代細胞の培養における課題である。
【0053】
具体的には、腫瘍初代培養物の細胞は実施例1に従って調製し、3回継代し、PBS/Tween−20により顕微鏡スライドガラス上で3回、15分間洗浄し、60分間乾燥した。次に、試料を氷冷アセトンで10分間固定し、PBSにより5分間溶解した。非特異的結合部位はPBS中5%のBSA(w/v)の中でのインキュベーションにより遮断し、その後マウス抗ビメンチン抗体(クローン V9(1:100)、DakoCytomation)と一緒に30分間インキュベーションした。PBS/Tween−20で、1回に5分間ずつ、3回洗浄した後、TRITC(1:40、DakoCytomation)により標識した2次抗‐マウス抗体と一緒にインキュベーションが実行される。PBS/Tween−20で、1回に5分間ずつ、3回洗浄した後、試料をマウス血清(1:40、DakoCytomation)で5分間処理し、その後FITCに結合したモノクローナル抗‐パンサイトケラチン抗体(クローン MNF 116、1:20、DakoCytomation)と一緒に90分間インキュベーションした。PBS/Tween−20で、1回に5分間ずつ、3回洗浄した後、試料は免疫蛍光顕微鏡観察まで、DAPI‐含有被覆(covering)培地(DakoCytomation)中に保存した。陰性対照として、マウス抗‐ビメンチン抗体のかわりに、対応する、問題となっているIgGサブクラスのマウス血清を使用する以外は、並列(parallel)培養物を同じように処理し、それらはすべて免疫蛍光を全く示さなかった。
【0054】
蛍光写真はすべてOlympus IX−50蛍光顕微鏡のOlympus SIS F−view II CCDカメラにより撮影した。蛍光写真の解析および蛍光写真の重ね合わせは、画像処理プログラムSIS bundle analySIS′B(Olympus)を使用して行った。
【0055】
解析では、とりわけ個々の細胞レベルにおいて、サイトケラチンおよびビメンチンの発現は2種の異なる細胞型に分布されず、検出されたビメンチンは常にサイトケラチンと一緒に個々の細胞に発現され、その結果すべての事例において、これらの2種の中間径フィラメント型の組み合わせが線維芽細胞の除外基準であることを示すことができた。この場合、三重蛍光色素法を使用し、図2A〜Cで示されたそれぞれ個々の蛍光写真、および図2Dに示された対応する重ね合わせを解析に使用した。
【0056】
図2Aでは、腫瘍初代培養物中のサイトケラチンフィラメントの緑色蛍光の写真が示され、図2Bでは赤色蛍光のビメンチンフィラメント、そして図2Cでは青色DAPI染色中のそれぞれの腫瘍初代培養細胞の細胞核が示される。画像処理プログラムbundle analySIS′B(Olympus)により作成した図2A〜Cの個々の写真の重ね合わせを図2Dに示す。図2Dは、腫瘍初代培養細胞が、サイトケラチンだけを発現するか、または多かれ少なかれ、ビメンチンおよびサイトケラチンフィラメントの強い同時発現を提示するかのいずれかであるため、その細胞内位置がしかしながら異なることを明確にする。これらの写真は、示された細胞の形態に関わらず、本発明に記載の培養物では、少なくともすべての細胞がサイトケラチンを発現するため、線維芽細胞は全く検出できないという重要な証拠である。
実施例6:in vivoにおける腫瘍組織に対する薬物の効力解析のための乳癌初代培養細胞の使用
実施例1に記載の乳癌初代培養細胞、または実施例3に記載の凍結保存された癌初代細胞培養物は、たとえばKi−67のような付加的なマーカーに基づいて、まさに元の腫瘍組織のように、より詳細に性状解析され、本発明に記載の腫瘍初代培養細胞が患者から分離された腫瘍組織に極めて類似した、付加的なマーカーの発現パターンを提示することが見いだされた。細胞培養物の凍結保存はこの特性を変化させなかった。
【0057】
薬物として使用することが可能であってもよい物質の効力試験の場合、本発明に記載の腫瘍初代培養細胞の第2〜第4継代が好ましくは使用される。なぜなら、さらの後の継代の初代細胞培養物は、より高い割合の細胞周期が停止した細胞およびアポトーシス細胞を含有し、そのことは、細胞の特性が元のものから逸脱していることを明らかに暗示するということが見いだされているからである。
【0058】
個々の腫瘍初代培養細胞は異なる濃度の種々の化学療法剤に暴露され、問題になっている化合物の効力は、それらの形態における変化またはアポトーシスに基づいて推定可能であった。in vivoにおける腫瘍組織の特性に対する腫瘍初代培養細胞の顕著な類似性に基づいて、このex vivo試験の結果は、患者において期待される治療結果と一緒に直接包含されうる。
【0059】
本発明に記載の方法は、たとえば乳癌から、数日以内で腫瘍初代培養物を生み出しうるため、個々の女性患者のための試験システムの提供に適切であり、そのような試験システムにより、薬物、たとえば化学療法剤の効果、さらに放射線療法により起こりうる結果を試験することができる。この様式において、腫瘍初代培養細胞は、それらを使用することによって多数の薬物または他の治療方法の有効性を試験することができるものであるが、腫瘍生検から生み出すことができる。ex vivoにおける初代細胞培養物の反応に基づいて、元の腫瘍に対する治療方法は個別に評価可能であり、その結果、療法の効果的な形態が選択でき、一方有効でない標準的な療法を不要にすることができる、
実施例7:連続した培養物の継代における細胞周期の解析による腫瘍初代培養細胞の性状解析
継代した腫瘍初代培養細胞の性状解析の場合、それらの周期はFACS測定におけるそれらのDNA含量の測定により確定された。
【0060】
図3では、測定の結果をグラフの形態で示す。腫瘍初代培養細胞の生成は実施例1に従って行われ、継代はトリプシン処理、PBSによる3回の洗浄および補足MaCA培地における10細胞/mlでの接種によって達成された。
【0061】
図3に示すデータは、第5相後に細胞特性が劣化することを明確にする。このことは、細胞周期のS相にある細胞数の減少、および連続した継代の経過における、分裂する能力の低下によって示される。第5〜第7継代を越えると、G2/M相はもはや検出不能になり、一方同時に、アポトーシス細胞を主に表すサブ−G1期における集団の継続的な増加が検出可能になる。
実施例8:ウェスタンブロッティングによる、継代経過中における腫瘍初代培養細胞の性状解析
実施例6の継代に由来する細胞試料は、ウェスタンブロッティングによりパンサイトケラチン、ビメンチンおよびアクチンに関して分析した。
【0062】
分析のために、実施例6の個々の継代から得ることができる細胞はPBSで洗浄し、遠心分離し、カニューレによりSDS負荷バッファー中でホモゲナイズし、変性ポリアクリルアミド中、電気泳動により分離した。タンパク質はImmobilonP膜に移し、BSAで遮断後にパンサイトケラチンおよびビメンチンに対する、ならびに負荷対照としてのアクチンに対する特異的抗体により検出した。パンサイトケラチン、ビメンチンおよびβ‐アクチンに関する結果は図4に示す。等しい量のタンパク質(10μg)をそれぞれの場合に割り当て;提示されたフラグメントサイズは並行して分離されたマーカータンパク質により測定した。
【0063】
パンサイトケラチンの検出は、サイトケラチンが初めに培養継代数の増加と共に、言い換えると初代培養がすでに増殖停止状態に到達している場合に、著しく多い量で発現されることを示す。パンサイト‐ケラチンの発現パターンは、サイトケラチン陽性細胞が主に非‐悪性の特性を有し、その結果腫瘍組織におけるサイトケラチンの発現は明らかに、依然として悪性の転移腫瘍細胞または腫瘍再発を確認するためのマーカーではないことを示す。
【0064】
対照としてのβ‐アクチンの検出は、ほぼ等しい量のタンパク質が割り当てられたことを示す。
ビメンチンの同時発現は、サイトケラチンと一緒のビメンチンの同時発現が乳癌初代培養物において時折検出され、発現パターンがしかしながら、培養継代の経過中、著しくは変化しないという、免疫蛍光に由来する結果(図2)を確証する。
【0065】
さらに、本発明に従って得られた初代培養腫瘍細胞の公知の抗腫瘍薬による処置は細胞死を誘発することを示し得た。したがって、初代培養腫瘍細胞は期待された反応を示し、そしてそのような反応は、これらが腫瘍細胞の初代培養物であるという付加的な目安である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】乳癌初代培養細胞の電子顕微鏡写真である。
【図2】A〜Dは異なるマーカーで標識されている乳癌初代培養細胞の蛍光写真である。図2A:パンサイトケラチン、図2B:ビメンチン、図2C:DAPI。図2Dは図2A〜Cで示された個々の蛍光写真の重ね合わせを示す。
【図3】乳癌初代腫瘍細胞の異なる培養継代の細胞周期解析のためのグラフである。ここで、P2〜P7はそれぞれの継代、継代2〜継代7を意味する。
【図4】乳癌腫瘍細胞の培養中の異なる継代のタンパク質レベルにおけるパンサイトケラチン、ビメンチンおよびアクチンの発現が示されるウェスタンブロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
a)直径約0.5mm〜約3mmのサイズの腫瘍組織片への腫瘍組織の細分割、および
b)腫瘍細胞に適した培地中で腫瘍組織片を培養することを含む、腫瘍組織から本質的に初代培養腫瘍細胞を得るための方法であって、腫瘍組織または腫瘍組織片が組織片の培養までプロテアーゼにより全く処理されないことが特徴である、方法。
【請求項2】
腫瘍細胞に適した培地における腫瘍組織片の培養前にトリプシン処理を全く行わないことが特徴の、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
腫瘍細胞に適した培地における腫瘍組織片の培養前に腫瘍組織の、または腫瘍組織片の酵素処理を全く行わないことが特徴の、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
腫瘍組織の細分割の前に腫瘍組織の滅菌洗浄が行われる、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
腫瘍組織片が培養容器の面積100cmにつき5〜20個培養されることが特徴の、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
腫瘍組織片を培養するステップの前に、より小さなフラグメントまたは個々の細胞がポアサイズ20〜100μmでの濾過により除去されることが特徴の、請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍組織片を培養するための培地が血清により補足されないことが特徴の、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
腫瘍組織片を培養するための培地が抗生物質により補足されないことが特徴の、請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
培地が少なくともウシ下垂体抽出物、ハイドロコーチゾン、インスリンおよび/またはヒト上皮成長因子により補足されることが特徴の、請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
腫瘍組織が上皮細胞癌であることが特徴の、請求項1〜9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
腫瘍組織が乳癌、肺癌または膀胱癌であることが特徴の、請求項1〜10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
培地が乳癌に適した培地である、請求項1〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
組織片からの初代培養腫瘍細胞の外増殖後に腫瘍組織片が培養容器から除去されることが特徴の、請求項1〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
初代培養腫瘍細胞が培養時に多層細胞凝塊を形成することが特徴の、請求項1〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか1項に記載の方法によって得ることが可能な、分離した初代培養腫瘍細胞。
【請求項16】
初代培養腫瘍細胞が乳癌由来の細胞である、請求項15に記載の初代培養腫瘍細胞。
【請求項17】
初代培養腫瘍細胞がサイトケラチンだけを、またはビメンチンとサイトケラチンを同時に発現することが特徴の、請求項15または16に記載の初代培養腫瘍細胞。
【請求項18】
初代培養腫瘍細胞がサブコンフルエントな状態でさえ、多層3次元構造を形成することが特徴の、請求項15〜17の何れか1項に記載の初代培養腫瘍細胞。
【請求項19】
請求項1〜14の何れか1項に記載の得ることが可能な初代培養腫瘍細胞の使用であって、これらの初代培養腫瘍細胞が由来する腫瘍型に対する抗腫瘍薬のような化合物の試験のための、使用。
【請求項20】
ある個体の個別腫瘍療法の確定のための、請求項1〜14の何れか1項に記載の得ることが可能な前記個体の初代培養腫瘍細胞の使用。
【請求項21】
初代培養腫瘍細胞の転移の確認のための方法における、請求項1〜14の何れか1項に記載の、得ることが可能なこれらの細胞の使用。
【請求項22】
抗腫瘍薬の開発および投与計画の試験のための、請求項1〜14の何れか1項に記載の、得ることが可能な初代培養腫瘍細胞の使用。
【請求項23】
潜在的抗腫瘍薬を試験するための試験システムにおける、請求項1〜14の何れか1項に記載の、得ることが可能な少なくとも2種の異なる腫瘍由来の少なくとも2種の型の初代培養腫瘍細胞の使用。
【請求項24】
請求項1〜14の何れか1項に記載の、得ることが可能な初代培養腫瘍細胞を含有する、新規な潜在的抗腫瘍薬の試験および/またはスクリーニングのための試験システム。
【請求項25】
請求項1〜14の何れか1項に記載の、得ることが可能なある個体の初代培養腫瘍細胞を含有する、前記個体の個別腫瘍療法確定のためのシステム。
【請求項26】
少なくとも2種の異なる腫瘍由来の初代培養腫瘍細胞を含有することが特徴の、請求項24に記載のシステム。
【請求項27】
初代培養腫瘍細胞の培養のための細胞培養培地をさらに含有することが特徴の、請求項24〜26の何れか1項に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−534022(P2008−534022A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504615(P2008−504615)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【国際出願番号】PCT/DE2006/000608
【国際公開番号】WO2006/105777
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(507334978)ゾルファイ・アルツナイミッテル・ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】