説明

膜モジュールの洗浄方法

【課題】 原水の膜ろ過処理を行うための膜モジュールの薬液洗浄を行う際、薬液洗浄による洗浄効率を高め、薬液使用量を減らすと共に、薬液洗浄後に膜や配管のリンスを効率良く行うことができ、さらに膜ろ過の再開を敏速に行える膜モジュールの洗浄方法を提供すること。
【解決手段】 膜ろ過に使用される膜モジュールの洗浄方法であって、膜原水側に薬液を供給し膜を薬液に浸漬させた際に、(a)膜透過水側を大気開放圧力とし、膜原水側から膜透過水側に薬液を透過させる工程と、(b)膜透過水側に圧力空気を導入し、薬液を膜透過水側から原水側に押し出す工程とを複数回繰り返すことを特徴とする膜モジュールの洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原水の膜ろ過処理を行うための膜モジュールの洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
膜ろ過による膜分離法は、省エネルギー、省スペース、省力化および透過水質向上等の特長を有するため、様々な分野において使用が拡大してきている。例えば、精密ろ過膜や限外ろ過膜を河川水や地下水や下水処理水から工業用水や水道水を製造する浄水プロセスへ適用したり、海水淡水化逆浸透膜処理工程における前処理へ適用したりする例があげられる。ここで、膜分離に用いられる膜モジュールは、処理分野に係わらず加圧型と浸漬型とに分類される。加圧型の膜モジュールでは膜が納められた容器内に原水が供給され、ポンプや水頭差によって加圧された原水が、膜の原水側から透過水側に透過することによって膜ろ過が行われる。浸漬型の膜モジュールは浸漬槽内に浸漬設置され、吸引あるいは水頭差を駆動力として膜ろ過が行われる。
【0003】
浸漬型膜モジュールで水処理を行う場合を例にすると、原水を浸漬槽内に連続または間欠的に給水し、浸漬槽内に浸漬設置された膜モジュールをポンプ等で吸引ろ過することによって膜透過水が得られる。原水を膜でろ過すると、原水に含まれる濁質や有機物、無機物等の除去対象物が膜面に蓄積し、膜の目詰まりが起こる。これにより膜のろ過抵抗が上昇し、やがてろ過を継続することができなくなる。そこで膜ろ過性能を維持するため、定期的に膜の洗浄を行う必要がある。膜の洗浄には膜透過水を膜の透過水側(2次側)から原水側(1次側)へ逆流させる逆洗工程や、気体を膜の原水側に供給して膜の汚れを取る空洗工程や、空洗工程や逆洗工程で出た汚れを膜が浸漬された槽内から排出する排水工程がある。また逆洗工程や空洗工程で取れない汚れがある場合には、薬液を一定時間膜と接触させて洗浄する薬液洗浄工程がある。これらの洗浄手段を有効に行うことが膜ろ過を安定に運転するために非常に重要である。
【0004】
薬液洗浄工程を行う際に重要となる項目として、(1)汚れた膜をできる限り新品の膜と同じレベルまで効率良く洗浄し、透水性能を回復させること、(2)薬液の使用量をできる限り減らすこと、(3)薬液洗浄後に膜や配管のリンスを効率良く行いリンス水を減らすこと、があげられる。特許文献1には浸漬型中空糸膜モジュールの薬液洗浄を行う際、中空糸膜モジュールの透過水側から原水側に薬液を導入し、洗浄後圧力空気を使って薬液を押し出す薬液洗浄方法が記載されている。しかし当該方法では、膜モジュールに2つの膜透過水出口が必要であり、膜透過水出口が1つのモジュールには使用できないという問題がある。また、膜の原水側が薬液で満たされていないため、膜の洗浄が十分に行われないといった問題がある。
【特許文献1】特開2002−177746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、原水の膜ろ過処理を行うための膜モジュールの薬液洗浄を行う際、薬液洗浄による洗浄効率を高め、薬液使用量を減らすと共に、薬液洗浄後に膜や配管のリンスを効率良く行うことができ、さらに膜ろ過の再開を敏速に行える膜モジュールの洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の膜モジュールの洗浄方法は、次の特徴を有するものである。
(1)膜ろ過に使用される膜モジュールの洗浄方法であって、膜原水側に薬液を供給し膜を薬液に浸漬させた際に、(a)膜透過水側を大気開放圧力とし、膜原水側から膜透過水側に薬液を透過させる工程と、(b)膜透過水側に圧力空気を導入し、薬液を膜透過水側から原水側に押し出す工程とを複数回繰り返すことを特徴とする膜モジュールの洗浄方法。(2)膜を薬液に浸漬させた後、薬液を膜モジュールから排出し、続いて、膜原水側にリンス水を供給し膜をリンス水に浸漬させた際に、(a)膜透過水側を大気開放圧力とし、膜原水側から膜透過水側にリンス水を透過させる工程と、(b)膜透過水側に圧力空気を導入し、リンス水を膜透過水側から原水側に押し出す工程とを複数回繰り返すことを特徴とする(1)に記載の膜モジュールの洗浄方法。
(3)膜モジュールが浸漬槽内に浸漬させて用いられる浸漬型膜モジュールであることを特徴とする(1)または(2)に記載の膜モジュールの洗浄方法。
(4)複数の膜モジュールが浸漬槽内に浸漬され、各膜モジュールには膜モジュール透過水配管が接続され、各膜モジュール透過水配管は膜透過水集合配管に接続されている場合であって、膜原水側から薬液を供給し膜を薬液に浸漬させた際、常に、薬液の液面が膜透過水集合配管よりも下であることを特徴とする(3)に記載の膜モジュールの洗浄方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の膜モジュールの洗浄方法によれば、薬液洗浄の効率を高め、薬液使用量を減らすと共に、薬液洗浄後に膜や配管のリンスを効率よく行うことができ、さらに膜ろ過の再開を敏速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態を、図1に示す浸漬型膜ろ過装置を用いて原水を処理する場合を例にとって、図1を参照しながら以下に説明する。但し、本発明が以下に示す実施態様に限定される訳ではない。
【0009】
図1は、本発明が適用される浸漬型膜ろ過装置の一例を模式的に示す概略フロー図である。浸漬槽1内には4つの膜モジュール2が浸漬設置されている。
【0010】
原水は浸漬槽1に原水弁3を介して給水され、吸引ポンプ5によって膜モジュール2、膜モジュール透過水配管22、膜透過水集合配管4、ろ過弁6を介して膜透過水が取り出されることによって、膜ろ過処理が行われる。
【0011】
また、膜ろ過処理をしばらく続けると膜に濁質が蓄積し、膜の目詰まりが発生する。そこで、浸漬槽1への原水供給と、吸引ポンプ5による膜ろ過を停止し、膜モジュール2の下方に配置した散気装置から、空洗弁12、空洗エア配管11を介して、ブロワ10により供給される空気を気泡として散気することにより、膜モジュール2を洗浄する空洗工程を行う。また空洗工程と同時またはその前後に、逆洗弁9を開き、逆洗ポンプ8によって逆洗水配管7を介して膜モジュール2の透過水側へ逆洗水を送り込み逆流洗浄を行う工程(以下、逆洗工程という。)を実施する。これらによって膜表面に空気や水を衝突させ、ろ過膜を揺動させ、膜表面や膜間の流路に蓄積した懸濁物質は剥離・除去され、剥がされた汚れは浸漬槽1内に分散する。この懸濁物質は排水弁14を開とすることによって排水配管13、排水弁14を介して浸漬槽1より排出される排水工程によって除去される。
【0012】
しかし、空洗工程や逆洗工程や排水工程では全ての汚れを膜から取り除くことはできないため、定期的に薬液洗浄を行うことが必要となる。
【0013】
本発明における薬液洗浄方法を図1により説明する。まず、浸漬槽1内の水を排水配管13および排水弁14を介して排出する。この際、空気抜き弁15を開とすることにより、膜透過水集合配管4内を大気開放圧力とし、膜モジュールの透過水側および膜透過水集合配管4および膜モジュール透過水配管22から膜透過水を重力により膜モジュール2を介して排出すると好ましい。この操作のかわりに、逆洗弁9とろ過弁6を閉め、圧力空気弁16を開とし、圧力空気弁16を介して圧力空気を膜透過水集合配管4に供給し、膜モジュールの透過水側および膜透過水集合配管4および膜モジュール透過水配管22から膜透過水を、膜モジュール2を介して排出してもよい。この場合は、膜透過水の排出が終了したら、圧力空気弁16を閉じ、空気抜き弁15を開とする。また、薬液洗浄を行う前に十分に膜を逆洗工程や空洗工程によって汚れを除去しておくと、薬液洗浄の効果が高まるため好ましい。浸漬槽1内の水の排出が終了したら、排水弁14を閉とする。
【0014】
次に薬液槽17および薬液ポンプ18を使用し、薬液弁19を介し薬液を浸漬槽1に供給する。この際、排水弁14は閉、空気抜き弁15は開としておく。なお、薬液槽17を浸漬槽1よりも高い位置に設置した場合、薬液ポンプ18を使用せず、重力により薬液槽17に薬液を供給してもかまわない。浸漬槽1内の薬液は、膜モジュール2の膜部分を浸漬させる量だけ供給することが好ましい。浸漬槽内の薬液の液面WLは膜モジュールの膜部分上端の水平面Pよりも上部とし、膜全体が薬液内に浸漬されるのが好ましい。浸漬槽1内に供給された薬液は重力により、膜を透過し、膜透過水側に流入する。薬液は膜透過水側と膜原水側の薬液の液面が同じになるまで透過する。なお、本発明においては、空気抜き弁15を閉にした状態で薬液を浸漬槽1に供給することも可能であるが、この状態では膜を薬液に浸漬させても薬液が膜を透過して膜透過水側へ流入しないため、別途空気抜き弁15を開にして膜透過水側を大気解放圧力とし、薬液を透過させる必要がある。したがって、先述したように、空気抜き弁15を開とした状態で薬液を浸漬槽1に供給することが好ましい。
【0015】
次に、空気抜き弁15を閉とし、圧力空気弁16を開とすることにより圧力空気を膜透過水側に供給し、薬液を膜透過水側から膜原水側に押し出す。次に、圧力空気弁16を閉め、空気抜き弁15を開とすることにより、膜透過水側を再び大気開放圧力に戻すことにより、再び膜原水側から膜透過水側に薬液が透過する。この膜透過水側を大気開放圧力にする操作と、圧力空気による薬液の押し出しを繰り返す。
【0016】
ここで膜透過水側を大気開放圧力にする操作とは、空気抜き弁15を開にし、膜透過水側の圧力をほぼ大気圧と同等にすることを意味する。空気抜き弁15の先はエアフィルターを設置したりして、直接大気開放でなくてもかまわないが、膜透過水側が敏速に大気開放圧力となるためには、空気抜き弁15の先が大気開放であることが好ましい。また、空気抜き弁15の先に吸引ポンプ等をつけて吸引を行ってもかまわないが、膜透過水側の圧力が大気圧と同等となる大気圧から、大気圧より5kPa低い圧力までの範囲内となるよう吸引することが好ましい。これは、あまり強く吸引を行うと、薬液が膜透過水集合配管4や吸引ポンプ5に流れ込む恐れがあり、その場合、薬液のリンスが必要となったり、機器の薬液耐久性が必要となったりするからである。空気抜き弁15は膜透過水集合配管4の途中で、ろ過弁6よりも膜モジュール2側に設置するのが好ましく、浸漬槽内の薬液の液面WLよりも高い位置に設置するのが好ましい。空気抜き弁15は空気を膜透過水集合配管4に供給したり、膜透過水集合配管4から排気したりできる構造の弁で、開閉が可能な弁であれば種類は問わないが、モーターやエア作動によって開閉が可能な自動弁であることが好ましい。
【0017】
本操作により、薬液が重力で膜原水側から膜透過水側へ透過した後、圧力空気によって膜透過水側から膜原水側へ押し出される操作が繰り返される。これにより、膜細孔内の汚れが薬液と接触する機会が増えるため洗浄効果が高まる。また薬液を膜透過水側から膜原水側へ逆流させることにより、汚れを膜原水側表面から剥離させる効果が生まれるため、洗浄効果が高まる。
【0018】
この薬液洗浄時、間欠的または連続的にブロワ10を運転し、空洗弁12を開とし、空洗エア配管11を介して空洗工程を行うと好ましい。空洗工程を行うと浸漬槽1内で薬液が混ざり、浸漬槽1内の薬液濃度が均一となるため、膜の洗浄効果が高まる。また薬液によって剥離しかけた汚れが膜から剥がれるため、膜の洗浄効果が高まる。また、薬液ポンプ18を運転し、薬液弁19を開とし、オーバーフロー配管20より薬液を薬液槽17に戻して循環してもよい。
【0019】
従来技術である薬液洗浄方法の一例を図2にて説明する。本手法では、膜モジュール2を浸漬槽1内に設置した状態で、薬液を浸漬槽1に供給し、膜モジュールを薬液洗浄する。しかし本方式では、膜透過水側に一度薬液が透過した後は、膜透過水側と膜原水側との間で薬液の入れ替わりがほとんど無く、液体の拡散現象によってのみ薬液の移動が起こる。しかし、膜が存在するため、膜透過水側と膜原水側との間で薬液の拡散はほとんど起こらず、薬液が混ざり合わないため、薬液洗浄の効果が減少し、膜の洗浄が不十分になったり、薬液洗浄時間が長くなったり、薬液濃度を高めたりする必要があった。
【0020】
また、別の従来技術である薬液洗浄方法の一例を図3にて説明する。本手法では、先の図2と同様に薬液を浸漬槽1内に供給し、膜を薬液に浸漬させる。さらに、膜透過水側に設置した薬液吸引ポンプ23により、薬液を循環し、膜透過水側の薬液を流動させる。本手法では、膜と薬液の接触機会は十分にあり、膜細孔内の薬液洗浄効果は十分であるものの、新たな薬液吸引ポンプ23を必要とするため、膜ろ過装置設備費用が増大する。また、新たな薬液吸引ポンプ23では無く、ろ過を行うための吸引ポンプ5を使用する場合には、薬液洗浄後に薬液を流した配管のリンスを十分に行う必要があり、その手間は非常に大きなものとなる。なぜなら、膜透過水配管に薬液が残ると、ろ過を再開した際に透過水に薬液が混ざり、必要とする膜透過水の水質が得られない時間が長くなるためである。また、これら吸引ポンプ5や透過水配管に薬液を流す場合、その薬液に対する耐久性を有する材料の配管やポンプを選定する必要があり、その場合膜ろ過装置設備費用が増大するという問題がある。
【0021】
また、別の従来技術である薬液洗浄方法の一例を図4にて説明する。本手法では、膜透過水側から薬液を膜モジュール2に供給し、薬液洗浄を行う。薬液は膜透過水側から原水側に流れ、浸漬槽1内に溜められる。薬液は膜透過水側から原水側に押し出され逆流するため、膜細孔内の汚れが薬液と接触する機会が増えるため洗浄効果が高まる。しかし本手法では、次のような問題が生じる。まず、膜透過水側に透過水を溜めたまま薬液を膜透過水側から原水側に逆流させると、薬液が薄まり洗浄効果が減少する可能性がある。また、膜モジュール2が数十本並ぶような大型プラントの場合、膜透過水側から薬液を投入すると、各膜モジュール2に均等に薬液を供給することが難しく、各膜モジュール2の透過水側の薬液濃度が異なる恐れがある。次に、膜透過水側の透過水を排出し、空気が入った状態から薬液を膜透過水側に供給する場合、各膜モジュール2の透過水出口が1つしかない場合は、空気が膜に溜まり、薬液が全く流れない部分が発生する可能性がある。通常膜の公称孔径が1μm以下の場合、100kPa以下程度の圧力では空気は膜を透過することができないため、空気が膜に溜まり、薬液の流れが妨げられる現象が起こる。また、薬液を膜透過水側から原水側に流す方法では、薬液槽17内の汚れが膜透過水側に入る恐れがあり、膜ろ過を再開した際に、膜透過水が汚染される問題がある。また、図3の例と同様に透過水配管が薬液に対する耐久性が必要となったり、膜透過水配管のリンスが必要になったりするという問題がある。これに対し、本発明の方法においては、薬液を原水側から供給するため、空気が膜に溜まり薬液が全く流れない部分が発生したり、膜透過水側が汚染されたりする問題は発生しない。
【0022】
本発明においては、一定時間薬液と膜とを接触させる薬液洗浄を行った後、排水弁14を開とし、薬液は浸漬槽1から排出される。この際、排出される薬液は薬液槽17に戻してもかまわない。また膜透過水側の薬液をなるべく排出するため、空気抜き弁15を閉め、圧力空気弁16を開け膜透過水側に圧力空気を導入し、薬液を膜透過水側から原水側に押し出すとより好ましい。
【0023】
薬液を排出した後は、浸漬槽1および膜モジュール2をリンスし、薬液を洗い流すことが好ましい。リンスの方法としては、原水側から原水を導入したり、飲料水等の清澄な水を原水側から導入したり、膜透過水側から逆洗ポンプ8を使って膜透過水や水道水等の清澄な水を膜モジュールに逆流させたりすることによってリンスすることができる。原水側からリンスに使う水を導入する際は、薬液洗浄時と同様に、排水弁14を閉め、空気抜き弁15を開としてリンス水を浸漬槽1に溜め、リンス水を膜原水側から膜透過水側に透過させ、その後、空気抜き弁15を閉め、圧力空気弁16を開とし、リンス水を圧力空気で膜透過水側から原水側に押し出す操作を繰り返して、膜のリンスを行うとよい。本発明においては、リンスをする必要がある箇所は浸漬槽1と膜モジュール2のみであり、リンスを行う箇所が少ないため、リンスが非常に容易であり、リンス水を少なくしたり、リンス時間を短くしたりすることが可能である。なお薬液槽17と薬液ポンプ18とはリンスを行ってもかまわないが、次の薬液洗浄に備え、そのままリンスせずにおいてもかまわない。リンス時またはリンス終了後に膜を空洗工程や逆洗工程によって洗浄すると、薬洗工程によって剥がれかけた汚れを除去できるため好ましい。ここでリンス水は、膜ろ過の原水であっても膜透過水であってもかまわないし、飲料水であっても逆浸透膜等で処理した清澄な水であってもかまわない。
【0024】
ここで、リンス水を原水側から供給する場合は、膜透過水側からリンス水を供給する場合に比べて、膜透過水側がリンス水中の微粒子等で汚染される可能性が無いという利点があり、本発明において好ましく採用することができる。このため、リンス水中の微粒子を予め除去したりする必要がないため、リンス操作が膜ろ過水側からリンス水を供給する場合に比べて容易となる。特に、硬度が高い原水を膜ろ過する場合においては、膜ろ過水をリンス水に使うと薬液と膜ろ過水中のカルシウム等の反応によりスケールが発生し、リンス中に膜の目詰まりが発生するという問題が生じる。このような場合は膜ろ過水をリンス水に使うことができないため、水道水等、少量の微粒子を含んだ水を使ってリンスを行う必要がある。このような場合、特に原水側からリンス水を供給するという利点が大きくなる。
【0025】
また、運転を再開する際にも、薬液に接触した部分が少ないため、膜透過水に薬液が混入する可能性が少なく、また膜透過水側から薬液を導入していないため、膜透過水側が薬液槽17内の汚れによって汚染されている可能性が無く、運転再開時にすぐに要求水質を満たす透過水を敏速に得ることが可能である。
【0026】
本発明においては、膜モジュール2は加圧型であっても浸漬型であってもかまわないが、本発明の効果を十分に発揮させるためには、浸漬型膜モジュールであるほうが好ましい。
【0027】
本発明においては、膜モジュール2を浸漬させる浸漬槽内の薬液の液面WLが、薬液洗浄中は常に、各膜モジュール2に接続された膜モジュール透過水配管22をまとめる膜透過水集合配管4よりも下であることが好ましい。これは、膜透過水集合配管4よりも薬液を下にすることにより、薬液が膜透過水集合配管4に接触することがなくなるため、膜透過水集合配管4を薬液に耐性のある材料で作る必要がなくなり、膜ろ過装置設備費用を低減することが可能であるためである。また、なるべく薬液と接触する配管を少なくすることにより、薬液洗浄後のリンスが少なくて済むという利点がある。
【0028】
ここで膜透過水集合配管4とは、各膜モジュール透過水配管22を集める配管のことである。膜透過水集合配管4の一例を図5に示す。この図では、各1本の膜モジュール透過水配管22が集まる配管を膜透過水集合配管4とする。また別の一例を図6に示す。この図では4本の膜モジュール2の透過水が一旦膜モジュール透過水配管22に集められ、その後膜透過水集合配管4に透過水が集められる。このように膜透過水集合配管4とは、1本または数本の膜モジュール2に直接つながる膜モジュール透過水配管22を集合させる配管を意味する。
【0029】
また、圧力空気弁16は膜の破損検知を行うための、圧力保持試験(Pressure Decay Test)に使われる、空気導入弁と共用してもかまわない。圧力空気弁16の位置は、膜透過水集合配管4の途中に設置することが好ましく、ろ過弁6よりも膜モジュール2側に設置するのが好ましい。
【0030】
ここで、膜モジュール2を浸漬させる浸漬槽内の薬液の液面WLは、膜モジュールの膜部分上端の水平面Pよりも上部とし、膜全体が薬液内に浸漬されるのが好ましい。膜が全て薬液に浸漬していないと、浸漬されていない膜部分が薬液と十分に接触しないため、洗浄効率が落ちる。また、膜モジュール2を浸漬させる浸漬槽内の薬液の液面WLは、薬液導入時は膜モジュールの膜部分上端の水平面Pよりも数cm〜数十cm上部であることが好ましい。これは膜透過水側に薬液が重力により透過し、膜原水側薬液が膜透過水側に透過することによって、浸漬槽内の薬液の液面WLが下がるためである。よって薬液洗浄中は、浸漬槽内の薬液の液面WLが常に膜モジュールの膜部分上端の水平面Pよりも上部にあることが好ましい。また、接着剤で膜モジュール2の膜を、膜透過水を集める容器に固定するよう接着した接着固定部分よりも、浸漬槽内の薬液の液面WLが上部であることがより好ましい。これは膜を容器に接着した接着固定部分が膜ろ過中に汚れており、薬液洗浄を必要とする場合があるためである。
【0031】
ここで、膜透過水側を大気開放圧力にする操作と圧力空気を導入する操作は複数回行えば何回であってもかまわないが、薬液洗浄中に数回〜数百回行うことが通常である。また、大気開放圧力にする時間と圧力空気を導入する時間は、圧力空気を導入する時間の方が短い方が好ましい。これは、圧力空気を導入した時の方が、膜透過水側から速く薬液が透過されるためである。このようなことから大気開放圧力にする時間を数分〜数十分とし、圧力空気を導入する時間を1〜10分とするとより好ましい。
【0032】
ここで圧力空気の圧力は、数kPa〜数百kPaで任意に設定できるが、膜の乾燥や破損を考慮し、また薬液の膜透過水側から原水側への押し出し速度を考慮すると10〜100kPaの範囲であるとより好ましい。膜のバブルポイント以上で圧力空気を供給すると、膜を空気が透過し、空気が透過した部分が疎水性となり、ろ過を開始する際に原水を流すのが困難であったり、目詰まりが起こりやすくなったりするため、圧力空気は膜のバブルポイント以下であることが好ましい。また圧力空気はレギュレーター等で圧力一定とすると好ましい。圧力空気の空気供給源21は、コンプレッサーであってもブロワであってもかまわない。
【0033】
ここで薬液洗浄に使用する薬液は、無機酸や有機酸やアルカリや界面活性剤や酸化剤等、膜を洗浄することができる薬液なら何でも使用可能である。なお通常は、塩酸や硫酸といった無機酸やクエン酸やシュウ酸といった有機酸、アルカリとしては水酸化ナトリウム、酸化剤としては次亜塩素酸ナトリウムや過酸化水素等を使用することができる。これらの濃度についても数10mg/Lから数%の範囲内で使用することができる。
【0034】
ここで薬液洗浄の時間は、数十分〜数日の範囲内で設定できるが、数時間〜数十時間がより好ましい。
【0035】
また、薬液洗浄の頻度はどのような頻度でもかまわないが、ろ過運転を半日〜1年行うごとに1度程度行うことが好ましい。
【0036】
本発明における薬液ポンプ18は浸漬槽1内に薬液を供給することだけできればよいため、圧力が小さくて済み、流量も少なくてかまわないため、ポンプが小さくなり設備費用を低減させることができる。薬液ポンプ18は薬液耐性がある材料を選定する必要があるため値段が高くなる傾向があるが、このように小さなポンプで十分であるため、設備費用低減効果が高くなる。
【0037】
本発明に使われる膜の形状は中空糸膜であっても平膜であってもかまわないが、膜面積が大きく、高い薬液洗浄効率が必要となる中空糸膜が好ましい。また、膜モジュールの構造が単純にできることから膜モジュールの透過水出口は2つ以上でなく1つであることが好ましい。
【0038】
ここで、膜モジュールに使用するろ過膜の素材としては、ろ過機能を有する多孔質膜であれば特に限定しないが、セラミック等の無機素材や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニールからなる群から選ばれる少なくとも1種類の重合体を含んでいる多孔質膜が挙げられる。さらに膜強度や耐薬品性の点からはポリフッ化ビニリデン(PVDF)製多孔質膜が好ましく、親水性が高く耐汚れ性が強いという点からはポリアクリロニトリル製多孔質膜が好ましい。膜表面の細孔径については特に限定されず、精密ろ過膜であっても限外ろ過膜であってもかまわない。
【0039】
膜モジュールの構造を、中空糸膜モジュールを一例に挙げて説明する。膜モジュールは多数本の多孔質中空糸膜束の少なくとも片端部を、接着剤で膜透過水を集める容器内に接着固定し、その接着固定部分を開口した構造とし、中空糸膜面によって原水を固液分離できる構造ならば特に形状は限定されない。
【0040】
ここで、本発明における膜モジュールは、上水道における飲料用水製造、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下廃水処理分野や海水淡水化逆浸透膜前処理などに幅広く使用され、特に使用分野を限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(実施例1)
外圧式PVDF限外ろ過中空糸膜を配設した浸漬型膜モジュールLSU−1515(東レ(株)製)4本を浸漬槽内に浸漬設置した装置を使用して、図1に示したフローにて以下の条件で水処理試験を行った。
【0042】
下水処理場で処理した水を原水として、図1に示す浸漬型膜ろ過装置に70L/分で原水を供給し、1週間のろ過運転によって膜差圧70kPaまで目詰まりした膜モジュール2を図1に示すフローにて薬液洗浄を行った。
【0043】
薬液洗浄を行うにあたり、まず空気抜き弁15と排水弁14を開とし、膜透過水側と浸漬槽1内の水を排水した。続いて排水弁14を閉め、薬液槽17に3,000mg/Lの次亜塩素酸ナトリウムを、薬液ポンプ18を使って、膜モジュールの膜部分上端の水平面Pよりも5cm高い位置に浸漬槽内の薬液の液面WLがくるように供給した。薬液洗浄中、空気抜き弁15を10分間開とした後、空気抜き弁15を閉とし、圧力空気弁16を2分間開とする操作を2時間の薬液洗浄中、繰り返した。なお、圧力空気の圧力は40kPaとした。また、薬液洗浄中15分に1度2分間、ブロワ10を運転し、空洗弁12を開とし空洗エア配管11より空気を供給して空洗工程を行った。
【0044】
薬液洗浄後、排水弁14を開、空気抜き弁15を閉、圧力空気弁16を開とし、浸漬槽1内および膜透過水側の薬液を、排水弁14を介して排出した。その後排水弁14を閉とし、原水側から飲料水を浸漬槽1に溜めた。その後、空気抜き弁15を3分間開とした後、空気抜き弁15を閉とし、圧力空気弁16を1.5分間開とする操作を5回繰り返すことによって、リンスを行った。その後排水弁14を開、空気抜き弁15を開、圧力空気弁16を閉として浸漬槽1および膜透過水側かららリンス水を排出した。このリンスの一連操作を3回繰り返した後、原水の膜ろ過処理運転を再開した。膜透過水の次亜塩素酸ナトリウム濃度は初期において10mg/L以下であり、良好にリンスが行われていた。また、膜透水量は新品での値に比べ98%まで回復した。
【0045】
(比較例1)
実施例1と同様の膜モジュール2、原水、装置を用いてろ過運転を行い、1週間のろ過によって膜差圧70kPaまで目詰まりした膜モジュール2を図1に示すフローにて薬液洗浄を行った。薬液洗浄中、常に空気抜き弁15を開とし、圧力空気弁16を常に閉とした以外は実施例1と同様の方法で薬液洗浄を行った。また、薬液を浸漬槽1から排出した後に常に空気抜き弁15を開とし、圧力空気弁16を常に閉とした以外は実施例1と同様の方法でリンスを行った。
【0046】
リンスを行った後、原水の膜ろ過処理運転を再開したところ、透過水の次亜塩素酸ナトリウムの濃度は初期において80mg/Lであり、10mg/L以下になるまで15分間必要であった。また、膜の透水量は新品での値に比べ90%までしか回復しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、原水の膜ろ過処理を行うための膜モジュールを薬液洗浄する際に適用される。さらに詳しくは、上水道における飲料用水製造分野、工業用水、工業用超純水、食品、医療といった産業用水製造分野、都市下水の浄化および工業廃水処理といった下廃水処理分野や海水淡水化逆浸透膜前処理などに使用される膜モジュールを用いた水処理に適用されるが、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明が適用される浸漬型膜ろ過装置の一例を示す装置工程フロー図である。
【図2】従来技術の一実施態様を示す工程フロー図である。
【図3】従来技術の別の一実施態様を示す工程フロー図である。
【図4】従来技術の別の一実施態様を示す工程フロー図である。
【図5】膜透過水集合配管の一実施態様を示す図である。
【図6】膜透過水集合配管の別の一実施態様を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 :浸漬槽
WL:浸漬槽内の薬液の液面
P :膜モジュールの膜部分上端の水平面
2 :膜モジュール
3 :原水弁
4 :膜透過水集合配管
5 :吸引ポンプ
6 :ろ過弁
7 :逆洗水配管
8 :逆洗ポンプ
9 :逆洗弁
10 :ブロワ
11 :空洗エア配管
12 :空洗弁
13 :排水配管
14 :排水弁
15 :空気抜き弁
16 :圧力空気弁
17 :薬液槽
18 :薬液ポンプ
19 :薬液弁
20 :オーバーフロー配管
21 :空気供給源
22 :膜モジュール透過水配管
23 :薬液吸引ポンプ
24 :薬液吸引ポンプ弁
25 :4本型膜モジュール上面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜ろ過に使用される膜モジュールの洗浄方法であって、膜原水側に薬液を供給し膜を薬液に浸漬させた際に、(a)膜透過水側を大気開放圧力とし、膜原水側から膜透過水側に薬液を透過させる工程と、(b)膜透過水側に圧力空気を導入し、薬液を膜透過水側から原水側に押し出す工程とを複数回繰り返すことを特徴とする膜モジュールの洗浄方法。
【請求項2】
膜を薬液に浸漬させた後、薬液を膜モジュールから排出し、続いて、膜原水側にリンス水を供給し膜をリンス水に浸漬させた際に、(a)膜透過水側を大気開放圧力とし、膜原水側から膜透過水側にリンス水を透過させる工程と、(b)膜透過水側に圧力空気を導入し、リンス水を膜透過水側から原水側に押し出す工程とを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の膜モジュールの洗浄方法。
【請求項3】
膜モジュールが浸漬槽内に浸漬させて用いられる浸漬型膜モジュールであることを特徴とする請求項1または2に記載の膜モジュールの洗浄方法。
【請求項4】
複数の膜モジュールが浸漬槽内に浸漬され、各膜モジュールには膜モジュール透過水配管が接続され、各膜モジュール透過水配管は膜透過水集合配管に接続されている場合であって、膜原水側から薬液を供給し膜を薬液に浸漬させた際、常に、薬液の液面が膜透過水集合配管よりも下であることを特徴とする請求項3に記載の膜モジュールの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−137119(P2010−137119A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312950(P2008−312950)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】