説明

膜分離装置及び膜分離方法

【課題】消費エネルギーを低減することが可能な膜分離装置及び膜分離方法を提供する。
【解決手段】成分A及び成分Bを含む流体Xが供給され、分離膜を用いて流体Xを成分Aの濃度が流体Xより高い流体Yと成分Aの濃度が流体Xより低い流体Zとに分離する膜分離器20と、流体Yを断熱圧縮する第1の圧縮機21と、第1の圧縮機21によって断熱圧縮された流体Yが熱源として導入される第1の熱交換器11と、流体Zが熱源として導入される第2の熱交換器12と、を備えた膜分離装置10であって、流体Xは、第1及び第2の供給ライン31、32とに分岐して運ばれ、分岐した流体Xがそれぞれ第1及び第2の熱交換器11、12によって加熱され、再度合流して膜分離器20に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜を用いて流体を分離する膜分離装置及び膜分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、単位操作部と、熱交換器と、単位操作部の出力側及び熱交換器の間に設けられた圧縮機とを有する加熱モジュールが記載されている。
単位操作部は、単位操作によって入力流体から生成される出力流体を出力する。出力された出力流体は、圧縮機によって圧縮される。入力流体は、熱交換器によって、圧縮後の出力流体と熱交換される。ここで、単位操作部の一例として、膜分離器が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−36056号公報(第9頁、図1(c))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、膜分離器は、分離膜を透過しない流体及び分離膜を透過する流体の2つの流体を出力する。
ところが、特許文献1に記載の技術においては、この単位操作部(膜分離器)の出力流体は1つのみであり、残りの流体についての言及がなされていない。
本発明は、膜分離器の不透過側と透過側からそれぞれ出る流体Y、Zを利用して膜分離器に供給される流体Xを加熱し、装置全体の消費エネルギーを低減することが可能な膜分離装置及び膜分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う第1の発明に係る膜分離装置は、成分A及び成分Bを含む流体Xが供給され、分離膜を用いて前記流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する膜分離器と、
前記膜分離器から出た前記流体Yを断熱圧縮する第1の圧縮機と、
前記第1の圧縮機によって断熱圧縮された前記流体Yが熱源として導入される第1の熱交換器と、
前記流体Zが熱源として導入される第2の熱交換器と、を備えた膜分離装置であって、
前記流体Xは、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xがそれぞれ前記第1及び第2の熱交換器によって加熱され、再度合流して前記膜分離器に供給される。
【0006】
第1の発明に係る膜分離装置において、前記膜分離器と前記第2の熱交換器との間に、前記膜分離器から出た前記流体Zを断熱圧縮する第2の圧縮機を更に備え、前記第2の圧縮機によって断熱圧縮された前記流体Zを前記第2の熱交換器に導入することができる。
【0007】
前記目的に沿う第2の発明に係る膜分離装置は、成分A及び成分Bを含む流体Xが供給され、分離膜を用いて前記流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する膜分離器と、
前記膜分離器から出た前記流体Zを断熱圧縮する第2の圧縮機と、
前記膜分離器から出た前記流体Yが熱源として導入される第1の熱交換器と、
前記第2の圧縮機によって断熱圧縮された前記流体Zが熱源として導入される第2の熱交換器と、を備えた膜分離装置であって、
前記流体Xは、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xがそれぞれ前記第1及び第2の熱交換器によって加熱され、該第1の供給ライン及び該第2の供給ラインが合流する合流点にて再度合流し、該合流点と前記膜分離器との間に設けられた第3の圧縮機によって断熱圧縮され、前記膜分離器に供給される。
【0008】
第2の発明に係る膜分離装置において、前記膜分離器と前記第1の熱交換器との間に、膨張機を更に備えることができる。
【0009】
第1及び第2の発明に係る膜分離装置において、前記第1の供給ラインを流れる前記流体Xの流量を調節する第1のバルブと、
前記第1のバルブを操作する制御装置とを更に備え、
前記第2の熱交換器により加熱された前記流体Xと、該第2の熱交換器に熱源として導入される前記流体Zとの温度差ΔT2が基準値TS2以上となった場合に、
前記制御装置が、前記温度差ΔT2と前記基準値TS2との差に基づいて、前記第1のバルブの開度を調節し、前記第2の熱交換器にて交換される熱量を制御することができる。
【0010】
第1及び第2の発明に係る膜分離装置において、前記第2の供給ラインを流れる前記流体Xの流量を調節する第2のバルブを更に備え、
前記第1の熱交換器により加熱された前記流体Xと、該第1の熱交換器に熱源として導入される前記流体Yとの温度差ΔT1が基準値TS1以上となった場合に、
前記制御装置が、前記温度差ΔT1と前記基準値TS1との差に基づいて、前記第2のバルブの開度を調節し、前記第1の熱交換器にて交換される熱量を制御することができる。
【0011】
第1及び第2の発明に係る膜分離装置において、前記基準値TS1、TS2は、それぞれ2〜50℃であることが好ましい。
【0012】
第1及び第2の発明に係る膜分離装置において、前記第2の圧縮機を駆動するインバータを更に備え、
前記インバータは、前記膜分離器から出た前記流体Zの圧力が予め決められた範囲に収まるように、前記第2の圧縮機の回転数を制御することができる。
【0013】
第1及び第2の発明に係る膜分離装置において、前記第1の供給ライン及び前記第2の供給ラインが合流する合流点と前記膜分離器との間に、外部熱源により前記流体Xの温度を調整する第3の熱交換器を更に備えてもよい。
【0014】
第2の発明に係る膜分離装置において、前記合流点と前記第3の圧縮機との間に、該第3の圧縮機によって圧縮された前記流体Xを熱源とし、該合流点にて合流した前記流体Xを加熱するスーパーヒータと、前記スーパーヒータによって加熱された該流体Xの温度を調整する冷却器とを更に備え、
前記第3の圧縮機に入る前記流体Xが、前記スーパーヒータによって加熱された後、前記冷却器によって温度調整されてもよい。
【0015】
第2の発明に係る膜分離装置において、前記スーパーヒータの被加熱流体の入口側と前記被加熱流体を加熱する加熱流体の出口側とを接続することが可能なバイパスラインが設けられ、
該膜分離装置を立ち上げる際に、前記バイパスラインによって前記入口側と前記出口側とが接続され、空気又は不活性ガスが前記スーパーヒータ及び前記第3の圧縮機の間で循環することが好ましい。
【0016】
第1の発明に係る膜分離装置において、前記膜分離器と前記第2の熱交換器との間に、外部蒸気を熱源とする加熱器を更に備え、前記流体Zが、前記加熱器によって昇温及び昇圧され、昇温及び昇圧された該流体Zを前記第2の熱交換器に導入することができる。
【0017】
第1及び第2の発明に係る膜分離装置において、前記流体Y、及び前記流体Zは、それぞれ気体であり、
前記分離膜は、ゼオライト膜又はポリイミド膜であることが好ましい。
【0018】
第1及び第2の発明に係る膜分離装置において、前記成分Aがエタノールであり、前記成分Bが水であることが好ましい。
【0019】
前記目的に沿う第3の発明に係る膜分離方法は、膜分離器を用いて、成分A及び成分Bを含む流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する工程αと、
前記工程αにより分離された前記流体Yを昇温及び昇圧する工程βと、を含む膜分離方法であって、
前記流体Xが、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xが、それぞれ前記工程βにて昇温及び昇圧された前記流体Y及び前記膜分離器から出た前記流体Zと熱交換して加熱され、再度合流して前記膜分離器に供給される。
【0020】
第3の発明に係る膜分離方法において、前記膜分離器から出た前記流体Zを昇温及び昇圧する工程γを更に含み、前記第2の供給ラインに分岐された前記流体Xを昇温及び昇圧された前記流体Zと熱交換して加熱することができる。
【0021】
前記目的に沿う第4の発明に係る膜分離方法は、膜分離器を用いて、成分A及び成分Bを含む流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する工程αと、
前記工程αにより分離された前記流体Yを膨張させる工程εと、
前記工程αにより分離された前記流体Zを昇温及び昇圧する工程γとを含む膜分離方法であって、
前記流体Xが、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xが、それぞれ前記工程εにて膨張した前記流体Y及び前記工程γにて昇温及び昇圧された前記流体Zと熱交換して加熱され、再度合流して断熱圧縮され、前記膜分離器に供給される。
【発明の効果】
【0022】
請求項1及び請求項1に従属する請求項2、5〜9、12〜14記載の膜分離装置においては、並列に設けられた第1及び第2の熱交換器により、膜分離器から出た流体Y、Zから熱が回収されるため、本発明の構成をとらない場合よりも消費エネルギーを低減することが可能である。
【0023】
請求項3及び請求項3に従属する請求項4〜11、13、14記載の膜分離装置においては、推進力が増加するので、必要な分離膜の面積を低減することが可能である。
【0024】
請求項4記載の膜分離装置においては、膨張機を設けることにより、膜分離器から出た高圧の流体Yを低圧にする過程において、膨張エネルギーを動力として回収することが可能である。
【0025】
請求項5〜7記載の膜分離装置においては、バルブを設けるだけで、熱交換器で交換される熱量を流体の温度に基づいて簡単に制御することが可能である。
【0026】
請求項8記載の膜分離装置においては、膜分離器から出た流体Zの圧力が予め決められた範囲内に維持されるので、推進力を予め決められた範囲内に維持することが可能である。
【0027】
請求項9記載の膜分離装置においては、第3の熱交換器が流体Xの供給条件の変動を抑制するため、膜分離装置を安定して運転することが可能である。
【0028】
請求項10、11記載の膜分離装置においては、スーパーヒータにより流体Xが加熱されるので、流体Xが凝縮することがなく、第3の圧縮機の損傷を防止することが可能である。
【0029】
請求項12記載の膜分離装置においては、電動機動力を蒸気熱動力で賄うことが可能である。
【0030】
請求項15、16記載の膜分離方法においては、分離された流体Y、Zから熱が回収されるため本発明の方法をとらない場合よりも消費エネルギーを低減することが可能である。
【0031】
請求項17記載の膜分離方法においては、流体Yを膨張させる工程εを設けることにより、工程αを経た高圧の流体Yを低圧にする過程において、膨張エネルギーを動力として回収することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る膜分離装置の構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る膜分離装置の構成図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る膜分離装置の構成図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る膜分離装置の構成図である。
【図5】同膜分離装置が有する第3の圧縮機及びスーパーヒータの循環動作を示す説明図である。
【図6】本発明の第5の実施の形態に係る膜分離装置の構成図である。
【図7】比較例に係る従来の膜分離装置の構成図である。
【図8】本発明の実施例1に係る膜分離装置の構成図である。
【図9】本発明の実施例2に係る膜分離装置の構成図である。
【図10】本発明の実施例3に係る膜分離装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。但し、本発明の技術的範囲は、以下に説明する実施の形態によって限定されることはない。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る膜分離装置10は、外部より供給されたエタノール(成分Aの一例)と水(成分Bの一例)とが混合されたエタノール混合液をより濃度の高いエタノールと水に分離することができる。この膜分離装置10は、第1の熱交換器11と、第2の熱交換器12と、第3の熱交換器13と、膜分離器20と、第1の圧縮機21と、第2の圧縮機22とを備えている。以下、膜分離器20、第1の圧縮機21、第1の熱交換器11、第2の圧縮機22、第2の熱交換器12、及び第3の熱交換器13の順に説明する。
【0034】
膜分離器20は、ベーパーパーミエーション(蒸気気化)法により、供給されたエタノール混合液の蒸気(以下、単に「エタノール混合蒸気」という。)を、よりエタノール濃度の高い蒸気(流体Yの一例、以下、単に「エタノール蒸気」という。)とよりエタノール濃度の低い蒸気(流体Zの一例、以下、単に「水蒸気」という。)とに分離することができる。例えば、膜分離器20は、エタノール濃度85.7wt%のエタノール混合蒸気を、エタノール濃度99.5wt%のエタノール蒸気と、エタノール濃度13.0wt%の水蒸気に分離することができる。
膜分離器20は、分離膜がケーシングに収納された膜モジュールを複数備えている。この分離膜は、例えばゼオライト膜やポリイミド膜である。分離膜は、水を透過させ易く、エタノールを透過させ難い性質を有している。膜分離器20は、この性質を利用するとともに、膜分離器20の入口側と出口側の圧力差を推進力として、エタノール混合蒸気からエタノール蒸気と水蒸気とを分離することができる。
【0035】
第1の圧縮機21は、膜分離器20から出たエタノール蒸気を断熱圧縮することができる。第1の圧縮機21は、インバータ25により回転速度が制御される。
【0036】
第1の熱交換器11は、ポンプ27により供給されたエタノール混合液を加熱することができる。加熱されたエタノール混合液は、エタノール混合蒸気となる。第1の熱交換器11は、第1の圧縮機21により断熱圧縮されたエタノール蒸気を熱源としている。なお、エタノール混合蒸気及びエタノール混合液は、何れも流体Xの一例である。
【0037】
第2の圧縮機22は、膜分離器20から出た水蒸気を断熱圧縮することができる。第2の圧縮機22は、インバータ26により回転速度が制御される。
【0038】
第2の熱交換器12は、ポンプ27により供給されたエタノール混合液を加熱することができる。加熱されたエタノール混合液は、エタノール混合蒸気となる。第2の熱交換器12は、第2の圧縮機22により断熱圧縮された水蒸気を熱源としている。なお、第1及び第2の熱交換器11、12は別体として構成されているが、一体として構成することも可能である。
【0039】
第3の熱交換器13は、第1及び第2の熱交換器11、12により加熱されたエタノール混合蒸気の温度を調整することができる。第3の熱交換器13は、図示しない蒸気ラインから供給される外部蒸気(外部熱源の一例)を熱源としている。
【0040】
次に、膜分離装置10の動作について説明する。
【0041】
エタノール混合液は、ポンプ27によって送出され、分岐点aにて第1の供給ライン31と第2の供給ライン32とに分岐して運ばれる。第1の供給ライン31によって運ばれたエタノール混合液は、第1の熱交換器11によって加熱される。第1の熱交換器11によって加熱されたエタノール混合液は、エタノール混合蒸気となって、更に下流に運ばれる。
同様に、第2の供給ライン32によって運ばれたエタノール混合液は、第2の熱交換器12によって加熱される。第2の熱交換器12によって加熱されたエタノール混合液も、エタノール混合蒸気となって、更に下流に運ばれる。
第1の供給ライン31及び第2の供給ライン32によってそれぞれ運ばれるエタノール混合蒸気は、合流点bにて再度合流する。合流したエタノール混合蒸気は、第3の熱交換器13によって温度調整され、膜分離器20に供給される。ここで、第3の熱交換器13は、エタノール混合蒸気の温度等の供給条件が変動した場合に、この変動を抑制するように作用する。例えば、エタノール混合液の流量が変動し、第1及び第2の熱交換器11、12から出たエタノール混合蒸気の温度が予め設定された温度よりも低下した場合に、第3の熱交換器13はエタノール混合液の温度を上げるように熱交換量を増加させる。このように、供給されるエタノール混合液の流量が変動する場合であっても、第3の熱交換器13によって膜分離装置10を安定して運転させることが可能となる。また、膜分離装置10の立ち上げの際には、第1及び第2の熱交換器11、12によって、エタノール混合液が充分に加熱されないため、第3の熱交換器13は、その加熱不足分を補うことができ、膜分離装置10を安定して運転することができる。
膜分離器20に供給されたエタノール混合蒸気は、分離膜によって、エタノール蒸気と水蒸気とに分離される。
【0042】
膜分離器20から出たエタノール蒸気は、不透過側ライン35によって運ばれ、第1の圧縮機21によって断熱圧縮される。ここで、第1の圧縮機21は、前述のようにインバータ25により駆動される。このインバータ25は、膜分離器20から出たエタノール蒸気の圧力を計測する圧力センサ36の出力値に基づいて動作する。詳細には、インバータ25は、圧力センサ36の出力値がフィードバックされ、エタノール蒸気の圧力が予め決められた範囲内に収まるように、第1の圧縮機21の回転数を制御する。これにより不透過側ライン35の圧力が予め決められた範囲内に維持される。
【0043】
第1の圧縮機21によって断熱圧縮されたエタノール蒸気は、昇温及び昇圧され、第1の熱交換器11に入り、第1の供給ライン31を流れるエタノール混合液と熱交換される。第1の熱交換器11にてエタノール蒸気は凝縮され、濃縮されたエタノール液となる。
【0044】
一方、膜分離器20から出た水蒸気は、透過側ライン37によって運ばれ、第2の圧縮機22によって断熱圧縮される。ここで、第2の圧縮機22は、前述のようにインバータ26により駆動される。このインバータ26は、膜分離器20から出た水蒸気の圧力を計測する圧力センサ38の出力値に基づいて動作する。詳細には、インバータ26は、圧力センサ38の出力値がフィードバックされ、水蒸気の圧力が予め決められた範囲内となるように、第2の圧縮機22の回転数を制御する。これにより透過側ライン37の圧力が予め決められた範囲内に維持される。その結果、膜分離のための推進力が予め決められた範囲内に維持される。
【0045】
第2の圧縮機22によって断熱圧縮された水蒸気は、昇温及び昇圧され、第2の熱交換器12に入り、第2の供給ライン32を流れるエタノール混合液と熱交換される。
【0046】
このように、並列に設けられた第1及び第2の熱交換器11、12により、エタノール混合液と膜分離器20を出て圧縮されたエタノール蒸気及び水蒸気とが効率的に熱交換されるので、従来よりも膜分離装置10の消費エネルギーが低減される。なお、第1及び第2の熱交換器11、12を直列に設けて膜分離装置を構成することも可能であるが、第1及び第2の熱交換器11、12を並列に設ける場合よりも熱交換の効率が低下する。そのため、第1及び第2の熱交換器11、12を並列に設けた本実施の形態の方が好ましい。
【0047】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係る膜分離装置40について説明する。第1の実施の形態に係る膜分離装置10と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
【0048】
図2に示すように、本実施の形態に係る膜分離装置40は、膜分離装置10と比較すると、第3の圧縮機43を更に備えるとともに、第1の圧縮機21(並びに第1の圧縮機21に付随する圧力センサ36及びインバータ25)に代えて膨張機44を備えている。ただし、膨張機44は必須ではない。即ち、本実施の形態に係る膜分離装置40は、第1の実施の形態に係る膜分離装置10から第1の圧縮機21(並びに第1の圧縮機21に付随する圧力センサ36及びインバータ25)を取り外し、膜分離装置10に第3の圧縮機43を加えたものとすることもできる。
第3の圧縮機43は、合流点bと膜分離器20の間であって、第3の熱交換器13の下流側に設けられている。第3の圧縮機43は、第3の熱交換器13から出たエタノール混合蒸気を断熱圧縮することができる。第3の圧縮機43から出たエタノール混合蒸気は、膜分離器20に導入される。
膨張機44は、膜分離器20から出た高圧のエタノール蒸気を低圧にする過程において、膨張エネルギーを動力として回収することができる。
【0049】
次に、膜分離装置40の動作について説明する。
エタノール混合液は、ポンプ27によって送出され、分岐点aにて第1の供給ライン31と第2の供給ライン32とに分岐して運ばれる。第1の供給ライン31によって運ばれたエタノール混合液は、第1の熱交換器11によって加熱される。第1の熱交換器11によって加熱されたエタノール混合液は、エタノール混合蒸気となって、更に下流に運ばれる。
同様に、第2の供給ライン32によって運ばれたエタノール混合液は、第2の熱交換器12によって加熱される。第2の熱交換器12によって加熱されたエタノール混合液も、エタノール混合蒸気となって、更に下流に運ばれる。
第1の供給ライン31及び第2の供給ライン32によってそれぞれ運ばれるエタノール混合蒸気は、合流点bにて再度合流する。合流したエタノール混合蒸気は、第3の熱交換器13によって温度調整され、第3の圧縮機43によって断熱圧縮される。断熱圧縮されたエタノール混合蒸気は昇温及び昇圧され、膜分離器20に供給される。
以降の動作は第1の実施の形態に係る膜分離装置10と同様であるので、その説明は省略する。
【0050】
このように、膜分離装置40は、第1及び第2の熱交換器11、12と膜分離器20との間に第3の圧縮機43を備えているので、膜分離器20の推進力が増加する。その結果、以下に説明するように、必要な分離膜の面積を低減することができる。
【0051】
一般に、膜分離器20の1次側(入口)と2次側(不透過側出口)の圧力差を推進力(透過駆動力)とする単位膜面積あたりのガスの透過速度J[kmol・m/(s・m)]は、次式で表される。
J = P*(ph − pl)/δ 式(1)
ここで、P:ガス透過係数[kmol・m/(s・m・kPa)]、ph:1次側圧力(kPaA)、pl:2次側圧力(kPaA)、δ:膜の有効厚さ(m)である。
従って、膜分離器20に導入される前のエタノール混合蒸気を第3の圧縮機43を用いて昇圧することにより、膜分離器の推進力(ph − pl)が大きくなり、透過速度Jが大きくなる。従って、透過速度Jが大きくなった分、必要な膜面積を低減することができる。
例えば、2次側圧力plを13kPaAとし、1次側圧力phを101.3kPaAから520kPaAに昇圧した場合の膜透過速度ついて、式(1)に基づいて試算すると、以下の通りである。
J1 = P*(101.3 − 13)/δ 式(2)
J2 = P*(520 − 13)/δ 式(3)
J1/J2 = 5.7 式(4)
ここで、J1:1次側圧力phを101.3kPaAとした場合のガスの透過速度、J2:1次側圧力phを520kPaAとした場合のガスの透過速度である。
即ち、透過速度Jは5.7倍になるため、必要な分離膜面積を、5.7分の1に削減することができる。
なお、第3の圧縮機43に代えて、外部蒸気等の熱媒体を用い、エタノール混合蒸気を昇温及び昇圧することも可能である。
【0052】
続いて、本発明の第3の実施の形態に係る膜分離装置50について説明する。第1及び第2の実施の形態に係る膜分離装置10、40と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。なお、本実施の形態においては、第2の実施の形態に係る膜分離装置40を基礎として膜分離装置50を構成したが、第1の実施の形態に係る膜分離装置10を基礎として膜分離装置50を構成することも可能である。更に、後述する第4の実施の形態に係る膜分離装置70、或いは第5の実施の形態に係る膜分離装置80を基礎として膜分離装置50を構成することも可能である。
図3に示すように、第1の供給ライン31には、第1のバルブ51が設けられ、第1の供給ライン31を流れるエタノール混合液の流量を増減することができる。なお、第1のバルブ51は、第1の供給ライン31上であれば、第1の熱交換器11の後段に設けられていてもよい。
また、第2の供給ライン32には、第2のバルブ52が設けられ、第2の供給ライン32を流れるエタノール混合液の流量を増減することができる。なお、第2のバルブ52は、第2の供給ライン32上であれば、第2の熱交換器12の後段に設けられていてもよい。
【0053】
更に、第1の供給ライン31の第1の熱交換器11の後段には、第1の温度センサ61が設けられ、第1の熱交換器11により加熱されたエタノール混合蒸気の温度T1を計測することができる。
第2の供給ライン32の第2の熱交換器12の後段には、第2の温度センサ62が設けられ、第2の熱交換器12により加熱されたエタノール混合蒸気の温度T2を計測することができる。
不透過側ライン35の第1の熱交換器11の入側と膨張機44の出側との間には、第3の温度センサ63が設けられ、第1の熱交換器11に熱源として導入されるエタノール蒸気の温度T3を計測することができる。
透過側ライン37の第2の熱交換器12の入側と第2の圧縮機22の出側との間には、第4の温度センサ64が設けられ、第2の熱交換器12に熱源として導入される水蒸気の温度T4を計測することができる。
制御装置(CNT)68は、第1〜4の温度センサ61〜64の計測値がそれぞれ入力され、これら計測値に基づいて第1及び第2のバルブ51、52の開度を調整することができる。
【0054】
次に、この制御装置68の動作について説明する。
制御装置68は、第1の温度センサ61と第3の温度センサ63により計測された温度の差ΔT1(=T3−T1)を監視している。また、制御装置68は、第2の温度センサ62と第4の温度センサ64により計測された温度の差ΔT2(=T4−T2)を監視している。
第1及び第2のバルブ51、52は、温度差ΔT1及び温度差ΔT2がそれぞれ予め設定された基準値TS1、TS2よりも小さい場合には、全開の状態である。この基準値TSは、例えば、2〜50℃とすることができ、好ましくは2〜30℃、更に好ましくは2〜20℃とすることができる。
【0055】
ところが、何らかの要因により、温度差ΔT1が基準値TS1以上になった場合は、第2のバルブ52の開度を小さくし、第2の供給ライン32を流れるエタノール混合液の流量を絞る。そうすると、より多くのエタノール混合液が第1の供給ライン31を流れるようになるため、第1の熱交換器11にてより多くの熱交換がされる。
一方、温度差ΔT2が基準値TS2以上になった場合は、第1のバルブ51の開度を小さくし、第1の供給ライン31を流れるエタノール混合液の流量を絞る。そうすると、より多くのエタノール混合液が第2の供給ライン32を流れるようになるため、第2の熱交換器12にてより多くの熱交換がされる。
温度差ΔT1及び温度差ΔT2が、それぞれ基準値TS1、TS2以上となった場合には、それぞれの基準値TS1、TS2からの偏差dT1、dT2を求め、偏差dT1及び偏差dT2の大きさに基づいて、第1及び第2のバルブ51、52の開度を小さくして、エタノール混合液の流量を調整することができる。具体的には、偏差dT2が偏差dT1よりも大きい場合は、第1のバルブ51の開度を小さくし、偏差dT2が偏差dT1以下となる場合は、第2のバルブ52の開度を小さくして、エタノール混合液の流量を調整することができる。
【0056】
このように、制御装置68が、第1の熱交換器11により加熱されたエタノール混合液と第1の熱交換器11に熱源として導入されるエタノール蒸気との温度差ΔT1、及び第2の熱交換器12により加熱されたエタノール混合液と第2の熱交換器12に熱源として導入される水蒸気との温度差ΔT2に基づいて、第1及び第2のバルブ51、52の開度を調節することにより、第1及び第2の熱交換器11、12にて熱交換される供給エタノールの流量が調整される。その結果、第1及び第2の熱交換器11、12での熱交換量が制御され、エタノール蒸気及び水蒸気の熱エネルギーが有効に利用される。なお、制御装置68は、例えばPI制御により熱交換量を制御することができる。
【0057】
続いて、本発明の第4の実施の形態に係る膜分離装置70について説明する。第1及び第2の実施の形態に係る膜分離装置10、40と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。なお、本実施の形態においては、第2の実施の形態に係る膜分離装置40を基礎として膜分離装置70を構成したが、第1の実施の形態に係る膜分離装置10を基礎として膜分離装置70を構成することも可能である。
図4に示すように、膜分離装置70は、第2の実施の形態に係る膜分離装置40の第3の熱交換器13に代えて、スーパーヒータ71を備えている。また、エタノール混合蒸気の温度を調整するため、スーパーヒータ71と第3の圧縮機43との間に冷却器74を備えている。
【0058】
第1の供給ライン31及び第2の供給ライン32によってそれぞれ運ばれるエタノール混合蒸気は、合流点bにて再度合流する。合流したエタノール混合蒸気は、スーパーヒータ71によって加熱され、冷却器74によって温度が調整され、第3の圧縮機43によって断熱圧縮される。断熱圧縮されたエタノール混合蒸気は、昇温及び昇圧され、スーパーヒータ71の熱源となる。スーパーヒータ71にて熱交換されたエタノール混合蒸気は、膜分離器20に供給される。
以降の動作は第2の実施の形態に係る膜分離装置40と同様であるので、その説明は省略する。
【0059】
このように、第3の圧縮機43によって断熱圧縮されるエタノール混合蒸気が事前にスーパーヒータ71にて加熱されるので、第3の圧縮機43の入口又はその内部にてエタノール混合蒸気が凝縮することがない。そのため、第3の圧縮機43が機械的に損傷することを防止できる。更に、第3の圧縮機43により昇温及び昇圧されたエタノール混合蒸気をスーパーヒータ71の熱源として利用し、エタノール混合蒸気の熱エネルギーをスーパーヒータ71にて自己循環させることにより、エネルギー損失を抑えることができる。
【0060】
ここで、膜分離装置70には、スーパーヒータ71の被加熱流体(合流点bにて合流したエタノール混合蒸気)の入口側と被加熱流体を加熱する加熱流体(第3の圧縮機43によって断熱圧縮されたエタノール混合蒸気)の出口側とを接続することが可能なバイパスライン72が設けられている。
【0061】
バイパスライン72は、膜分離装置70の立ち上げの際に使用される。
バイパスライン72は、定常運転の際には、接続点e、fにて、合流点bと膜分離器20とを接続する第3の供給ライン73から切り離されている。
しかし、バイパスライン72は、装置立ち上げの際には、接続点e、fにて第3の供給ライン73に接続される。更に、接続点e、fにて流体が流れる方向が切り替えられ、接続点fから出発してスーパーヒータ71、冷却器74、第3の圧縮機43、スーパーヒータ71、及び接続点eを経て再び接続点fへと戻る循環ラインが構成される(図5参照)。
循環ラインには、図示しないガス供給口から不活性ガスが充填される。
【0062】
膜分離装置70の運転開始から予め決められた時間Tが経過するまでは、第3の圧縮機43を動作させて供給された不活性ガスを断熱圧縮する。不活性ガスは昇温及び昇圧され、スーパーヒータ71の熱源となる。そして、スーパーヒータ71は熱源となった不活性ガスを加熱し、加熱された不活性ガスは再び第3の圧縮機43に入る。時間Tが経過した後は、バイパスライン72が切り離され、スーパーヒータ71の被加熱流体の入口側には、エタノール混合蒸気が流入する。
このように、バイパスライン72を接続して循環ラインを構成し、第3の圧縮機43を暖機運転することにより、膜分離装置70の立ち上げの際に第3の圧縮機43の内部の凝縮を防止することができる。その結果、第3の圧縮機43の損傷を防止することができる。
【0063】
なお、本実施の形態においては、第3の圧縮機43に対してスーパーヒータ71が設けられているが、第1の圧縮機21に対して同様にスーパーヒータを設けることも可能である。また、不活性ガスに代えて、常温(10℃〜40℃)で凝縮しないガス(例えば、空気)としてもよい。また、合流点bと接続点fとの間に第3の熱交換器13を設けてもよい。
【0064】
続いて、本発明の第5の実施の形態に係る膜分離装置80について説明する。第1の実施の形態に係る膜分離装置10と同一の構成要素については、同じ符号を付して詳しい説明を省略する。なお、本実施の形態においては、第1の実施の形態に係る膜分離装置10を基礎として膜分離装置80を構成したが、第2の実施の形態に係る膜分離装置40を基礎として膜分離装置80を構成することも可能である。更に、第3の実施の形態で説明した流量制御を適用することも可能である。
【0065】
図6に示すように、本実施の形態に係る膜分離装置80は、膜分離装置10と比較すると、第2の圧縮機22を省略し、膜分離器20から出た流体Zを断熱圧縮しないで第2の熱交換器12に導入する構成である。この場合、第2の熱交換器12の流体Zの出口側に真空ポンプ81を設置し、膜透過の圧力が膜仕様に応じた圧力(一例として、13kPaA)となるようにする。更に、ポンプ27により第2の熱交換器12に供給するエタノール混合液の温度が、膜分離器20から出た蒸気が凝縮する温度よりも低い温度であることが好ましい。一例として、膜分離器20の透過蒸気の圧力が13kPaAの場合、34℃で凝縮するので、第2の熱交換器12に供給するエタノール混合液の温度を34℃未満(好ましくは25℃)に設定する。このように、第2の熱交換器12の流体Zの出口側に真空ポンプ81を設置すると共に、エタノール混合液の温度を透過蒸気が凝縮する温度よりも低い温度に設定した構成とすれば、潜熱を利用した熱交換を行うことができ、更に第2の熱交換器12において蒸気が凝縮して体積が大幅に減少するので新たに設置した真空ポンプ81の動力を低く抑えることができる。また、凝縮することによって真空ポンプ81に蒸気が直接導入されないので、真空ポンプ81の故障等を防止することが可能である。
【0066】
続いて、膜分離装置80の動作について説明する。
分岐点aにて分岐され、第1の供給ライン31によって移送されるエタノール混合液は、第1の熱交換器11によって加熱される。熱源は、第1の圧縮機21によって断熱圧縮されたエタノール蒸気である。一方、第2の供給ライン32によって移送されるエタノール混合液は、第2の熱交換器12によって加熱される。熱源は、膜分離器20から排出される透過蒸気である。前述したように、透過蒸気を凝縮させることによって、第2の熱交換器12では顕熱と潜熱を利用した熱交換が行われ、不透過側のエタノールと比較して流量が少量となる透過蒸気からも効率的に熱回収が行われる。
【0067】
第1及び第2の熱交換器11、12で加熱されたエタノール混合液は、合流点bで混合され、混合後の温度が所定の設定温度よりも低ければ第3の熱交換器13によって加熱される。所定温度の加熱された供給エタノール蒸気は、膜仕様に応じた1次側圧力phとなっている。そして膜分離器20に供給されたエタノール蒸気は、濃度が高められたエタノール蒸気と、膜を透過した透過蒸気とに分離されてそれぞれ排出される。エタノール蒸気は、第1の圧縮機21によって断熱圧縮された後、第1の熱交換器11に熱源として供給される。一方、透過蒸気は、第2の熱交換器12に熱源として供給される。
【0068】
上述のように構成された第5の実施の形態においても、他の実施の形態と同様に、装置全体の消費エネルギーを低減することが可能である。なお、他の実施の形態においては、第2の圧縮機22を配置していることから必ずしもエタノール混合液の温度を25℃に設定しなくともよく、例えば35℃に設定することができる。すなわち、ポンプ27により供給するエタノール混合液の温度は、限定されない。
【実施例】
【0069】
続いて、実施例に基づいて、前述の第1、第4及び第5の実施の形態に係る膜分離装置10、70、80の効果をより具体的に説明する。
【0070】
従来の膜分離装置90、第1の実施の形態に係る膜分離装置10、第4の実施の形態に係る膜分離装置70、及び第5の実施の形態に係る膜分離装置80について、それぞれ比較例、実施例1、実施例2及び実施例3として、消費エネルギーをシミュレーションにより求めた。なお、各シミュレーションにおいては、1)膜分離装置に供給されるエタノール混合液、2)膜分離装置から出るエタノール蒸気、及び3)膜分離装置から出る水蒸気について、各流量及び各エタノール濃度の条件を同一とした。即ち、各シミュレーションにおいて、1)膜分離装置に供給されるエタノール混合液の流量は24.2kg/h、エタノール濃度は85.7wt%とした。また、2)膜分離装置から出るエタノール蒸気の流量は20.4kg/h、エタノール濃度は99.5wt%とした。また、3)膜分離装置から出る水蒸気の流量は3.8kg/h、エタノール濃度は13wt%とした。また、分離膜はゼオライト膜(膜面積2.4m)である。圧縮機及び膨張機の断熱効率は50%とした。
【0071】
(比較例)
図7に示すように、従来の一般的な膜分離装置90においては、ポンプ91によって送出されたエタノール混合液が加熱器92によって加熱され、エタノール混合蒸気となって膜分離器93に供給される。供給されたエタノール混合蒸気は、エタノール蒸気と水蒸気に分離される。膜分離器93から出たエタノール蒸気は、膨張機94にて膨張し、コンデンサ95により冷却される。一方、膜分離器93から出た水蒸気は、チラー96により冷却され、真空ポンプ97によって圧縮され、凝縮する。
この従来の膜分離装置90においては、ポンプ91及び加熱器92によってエネルギーが消費される。なお、真空ポンプ97による消費エネルギーは僅かであるため、無視する。また、膨張機94によって、エネルギーが回収される。
膜分離装置90に供給されたエタノール混合液、エタノール混合蒸気、エタノール蒸気、及び水蒸気の状態は、それぞれ図7に示す通りである。同図に示す条件の下では、各機器による消費エネルギー(蒸気換算)は以下のようにシミュレーションされた。
(1)ポンプ91:0.044(kW)
(2)加熱器92:8.37×0.366(kW)
(3)膨張機94:−0.297(kW)
従って、消費エネルギー(電力換算)の合計E1は、以下の通りである。
E1=(0.044+8.37×0.366−0.297)
=2.810(kW)
【0072】
(実施例1)
第1の実施の形態に係る膜分離装置10においては、ポンプ27、第1の圧縮機21、及び第2の圧縮機22によって、エネルギーが消費される。
膜分離装置10に供給されたエタノール混合液、エタノール混合蒸気、エタノール蒸気、及び水蒸気の状態は、それぞれ図8に示す通りである。同図に示す条件の下では、各機器による消費エネルギー(電力換算)は以下のようにシミュレーションされた。
(1)ポンプ27:0.044(kW)
(2)第1の圧縮機21:0.220(kW)
(3)第2の圧縮機22:1.716(kW)
従って、消費エネルギーの合計E2は、以下の通りである。
E2=0.044+0.220+1.716
=1.980(kW)
本実施例と比較例とを比べると、本実施例の方が、消費エネルギーが大きく低減されることが分かる。
膜分離装置10では、第1及び第2の圧縮機21、22を用いてそれぞれエタノール蒸気及び水蒸気を昇温及び昇圧させている。これにより凝縮点を上昇させ、これら蒸気が有する潜熱と顕熱を有効に利用している。
付言すると、膜分離装置10では、従来の膜分離装置90に必要であったチラー動力も不要となると考えられる。
【0073】
(実施例2)
第4の実施の形態に係る膜分離装置70(定常動作時)においては、ポンプ27、膨張機44、第2の圧縮機22、及び第3の圧縮機43によって、エネルギーが消費される。
膜分離装置70に供給されたエタノール混合液、エタノール混合蒸気、エタノール蒸気、及び水蒸気の状態は、それぞれ図9に示す通りである。同図に示す条件の下では、各機器による消費エネルギー(電力換算)は以下のようにシミュレーションされた。
(1)ポンプ27:0.044(kW)
(2)膨張機44:−0.227(kW)
(3)第2の圧縮機22:0.792(kW)
(4)第3の圧縮機43:1.949(kW)
従って、消費エネルギーの合計E3は、以下の通りである。
E3=0.044−0.227+0.792+1.949
=2.558(kW)
本実施例と比較例とを比べると、本実施例のほうが、消費エネルギーが低いことが分かる。
【0074】
(実施例3)
第5の実施の形態に係る膜分離装置80においては、ポンプ27、第1の圧縮機21によって、エネルギーが消費される。既述した理由により真空ポンプ81による消費エネルギーは僅かであるため、無視する。なお、本実施例では、エタノール混合液の温度を25℃としたことに伴い、熱交換後のエタノール及び透過蒸気(凝縮水)の温度を30℃にしている。
膜分離装置80に供給されたエタノール混合液、エタノール混合蒸気、エタノール蒸気、及び水蒸気の状態は、それぞれ図10に示す通りである。同図に示す条件の下では、各機器による消費エネルギー(電力換算)は以下のようにシミュレーションされた。
(1)ポンプ27:0.044(kW)
(2)第1の圧縮機21:0.331(kW)
従って、消費エネルギーの合計E4は、以下の通りである。
E4=0.044+0.331
=0.375(kW)
本実施例と比較例とを比べると、本実施例のほうが、消費エネルギーが低いことが分かる。
【0075】
なお、本発明は、前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能である。例えば、前述のそれぞれ実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて発明を構成する場合も本発明の技術的範囲に含まれる。
ポンプ27は、膜分離装置の一部として設置されてもよいし、膜分離装置の外部に設置されてもよい。
膜分離装置は、エタノールの分離に限らず、半導体工場にて用いられる溶剤(例えば、イソプロパノール)の分離に適用することができる。
膜分離器は、ベーパーパーミエーション法によるものに限らない。液体を気化させて分離するパーベーパレーション(浸透気化)法によるものであっても、透過側の気体の潜熱を回収し、不透過側の液体の顕熱を回収することで同様に膜分離装置を構成できる。
また、第1の圧縮機21に代えて、外部蒸気を熱源とする第1の加熱器を備え、エタノール蒸気が第1の加熱器によって昇温及び昇圧されてもよい。更に、第2の圧縮機22に代えて外部蒸気を熱源とする第2の加熱器を備え、水蒸気が、第2の加熱器によって昇温及び昇圧されてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10:膜分離装置、11:第1の熱交換器、12:第2の熱交換器、13:第3の熱交換器、20:膜分離器、21:第1の圧縮機、22:第2の圧縮機、25、26:インバータ、27:ポンプ、31:第1の供給ライン、32:第2の供給ライン、35:不透過側ライン、36:圧力センサ、37:透過側ライン、38:圧力センサ、40:膜分離装置、43:第3の圧縮機、44:膨張機、50:膜分離装置、51:第1のバルブ、52:第2のバルブ、61:第1の温度センサ、62:第2の温度センサ、63:第3の温度センサ、64:第4の温度センサ、68:制御装置、70:膜分離装置、71:スーパーヒータ、72:バイパスライン、73:第3の供給ライン、74:冷却器、80:膜分離装置、81:真空ポンプ、90:膜分離装置、91:ポンプ、92:加熱器、93:膜分離器、94:膨張機、95:コンデンサ、96:チラー、97:真空ポンプ





【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分A及び成分Bを含む流体Xが供給され、分離膜を用いて前記流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する膜分離器と、
前記膜分離器から出た前記流体Yを断熱圧縮する第1の圧縮機と、
前記第1の圧縮機によって断熱圧縮された前記流体Yが熱源として導入される第1の熱交換器と、
前記流体Zが熱源として導入される第2の熱交換器と、を備えた膜分離装置であって、
前記流体Xは、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xがそれぞれ前記第1及び第2の熱交換器によって加熱され、再度合流して前記膜分離器に供給されることを特徴とする膜分離装置。
【請求項2】
請求項1記載の膜分離装置において、前記膜分離器と前記第2の熱交換器との間に、前記膜分離器から出た前記流体Zを断熱圧縮する第2の圧縮機を更に備え、
前記第2の圧縮機によって断熱圧縮された前記流体Zを前記第2の熱交換器に導入することを特徴とする膜分離装置。
【請求項3】
成分A及び成分Bを含む流体Xが供給され、分離膜を用いて前記流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する膜分離器と、
前記膜分離器から出た前記流体Zを断熱圧縮する第2の圧縮機と、
前記膜分離器から出た前記流体Yが熱源として導入される第1の熱交換器と、
前記第2の圧縮機によって断熱圧縮された前記流体Zが熱源として導入される第2の熱交換器と、を備えた膜分離装置であって、
前記流体Xは、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xがそれぞれ前記第1及び第2の熱交換器によって加熱され、該第1の供給ライン及び該第2の供給ラインが合流する合流点にて再度合流し、該合流点と前記膜分離器との間に設けられた第3の圧縮機によって断熱圧縮され、前記膜分離器に供給されることを特徴とする膜分離装置。
【請求項4】
請求項3記載の膜分離装置において、前記膜分離器と前記第1の熱交換器との間に、膨張機を更に備えたことを特徴とする膜分離装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の膜分離装置において、前記第1の供給ラインを流れる前記流体Xの流量を調節する第1のバルブと、
前記第1のバルブを操作する制御装置とを更に備え、
前記第2の熱交換器により加熱された前記流体Xと、該第2の熱交換器に熱源として導入される前記流体Zとの温度差ΔT2が基準値TS2以上となった場合に、
前記制御装置が、前記温度差ΔT2と前記基準値TS2との差に基づいて、前記第1のバルブの開度を調節し、前記第2の熱交換器にて交換される熱量を制御することを特徴とする膜分離装置。
【請求項6】
請求項5記載の膜分離装置において、前記第2の供給ラインを流れる前記流体Xの流量を調節する第2のバルブを更に備え、
前記第1の熱交換器により加熱された前記流体Xと、該第1の熱交換器に熱源として導入される前記流体Yとの温度差ΔT1が基準値TS1以上となった場合に、
前記制御装置が、前記温度差ΔT1と前記基準値TS1との差に基づいて、前記第2のバルブの開度を調節し、前記第1の熱交換器にて交換される熱量を制御することを特徴とする膜分離装置。
【請求項7】
請求項6記載の膜分離装置において、前記基準値TS1、TS2は、それぞれ2〜50℃であることを特徴とする膜分離装置。
【請求項8】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の膜分離装置において、前記第2の圧縮機を駆動するインバータを更に備え、
前記インバータは、前記膜分離器から出た前記流体Zの圧力が予め決められた範囲に収まるように、前記第2の圧縮機の回転数を制御することを特徴とする膜分離装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の膜分離装置において、前記第1の供給ライン及び前記第2の供給ラインが合流する合流点と前記膜分離器との間に、外部熱源により前記流体Xの温度を調整する第3の熱交換器を更に備えたことを特徴とする膜分離装置。
【請求項10】
請求項3又は4記載の膜分離装置において、前記合流点と前記第3の圧縮機との間に、該第3の圧縮機によって圧縮された前記流体Xを熱源とし、該合流点にて合流した前記流体Xを加熱するスーパーヒータと、前記スーパーヒータによって加熱された該流体Xの温度を調整する冷却器とを更に備え、
前記第3の圧縮機に入る前記流体Xが、前記スーパーヒータによって加熱された後、前記冷却器によって温度調整されることを特徴とする膜分離装置。
【請求項11】
請求項10記載の膜分離装置において、前記スーパーヒータの被加熱流体の入口側と前記被加熱流体を加熱する加熱流体の出口側とを接続することが可能なバイパスラインが設けられ、
該膜分離装置を立ち上げる際に、前記バイパスラインによって前記入口側と前記出口側とが接続され、空気又は不活性ガスが前記スーパーヒータ及び前記第3の圧縮機の間で循環することを特徴とする膜分離装置。
【請求項12】
請求項1記載の膜分離装置において、前記膜分離器と前記第2の熱交換器との間に、外部蒸気を熱源とする加熱器を更に備え、
前記流体Zが、前記加熱器によって昇温及び昇圧され、昇温及び昇圧された該流体Zを前記第2の熱交換器に導入することを特徴とする膜分離装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の膜分離装置において、前記流体Y、及び前記流体Zは、それぞれ気体であり、
前記分離膜は、ゼオライト膜又はポリイミド膜であることを特徴とする膜分離装置。
【請求項14】
請求項13記載の膜分離装置において、前記成分Aがエタノールであり、前記成分Bが水であることを特徴とする膜分離装置。
【請求項15】
膜分離器を用いて、成分A及び成分Bを含む流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する工程αと、
前記工程αにより分離された前記流体Yを昇温及び昇圧する工程βと、を含む膜分離方法であって、
前記流体Xが、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xが、それぞれ前記工程βにて昇温及び昇圧された前記流体Y及び前記膜分離器から出た前記流体Zと熱交換して加熱され、再度合流して前記膜分離器に供給されることを特徴とする膜分離方法。
【請求項16】
請求項15記載の膜分離方法において、前記膜分離器から出た前記流体Zを昇温及び昇圧する工程γを更に含み、前記第2の供給ラインに分岐された前記流体Xを昇温及び昇圧された前記流体Zと熱交換して加熱することを特徴とする膜分離方法。
【請求項17】
膜分離器を用いて、成分A及び成分Bを含む流体Xを前記成分Aの濃度が該流体Xより高い流体Yと前記成分Aの濃度が該流体Xより低い流体Zとに分離する工程αと、
前記工程αにより分離された前記流体Yを膨張させる工程εと、
前記工程αにより分離された前記流体Zを昇温及び昇圧する工程γとを含む膜分離方法であって、
前記流体Xが、第1の供給ラインと第2の供給ラインとに分岐して運ばれ、該第1及び第2の供給ラインによって運ばれた前記流体Xが、それぞれ前記工程εにて膨張した前記流体Y及び前記工程γにて昇温及び昇圧された前記流体Zと熱交換して加熱され、再度合流して断熱圧縮され、前記膜分離器に供給されることを特徴とする膜分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−50974(P2012−50974A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163321(P2011−163321)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】