膜反応装置の製造方法
【課題】枠を容易に成形でき、かつ網を枠に確実に固定でき、更にはスタック化が容易な膜反応装置の製造方法を提供する。
【解決手段】
膜反応装置1の枠13となるべき半流動性の枠原料33をフィルム状又はシート状の台材31に塗布する。枠原料33を台材31と共に型抜きする。枠内15に網16を設け、かつ網16の周縁部を枠原料33の内部に埋め込む。枠原料33を硬化させて枠13にする。その後、台材31を枠13から剥がす。枠13及び網16に反応剤の反応を媒介する膜14を重ねる。枠内15が反応剤の流通又は収容される空間になる。
【解決手段】
膜反応装置1の枠13となるべき半流動性の枠原料33をフィルム状又はシート状の台材31に塗布する。枠原料33を台材31と共に型抜きする。枠内15に網16を設け、かつ網16の周縁部を枠原料33の内部に埋め込む。枠原料33を硬化させて枠13にする。その後、台材31を枠13から剥がす。枠13及び網16に反応剤の反応を媒介する膜14を重ねる。枠内15が反応剤の流通又は収容される空間になる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、反応剤が膜を媒介にして蒸留等の反応を起こす膜反応装置(membrane reactor)を製造する方法に関し、特に膜と枠が重ねられ、かつ枠内に網が設けられた膜反応装置に適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の膜反応装置として、膜蒸留装置、熱交換器、電気透析装置等が挙げられる。例えば膜蒸留装置は、蒸留膜等の膜と枠とが複数かつ交互に重ねられている(特許文献1参照)。1つの枠の内部に反応剤として海水が通される。この海水中の水分が蒸発し蒸留膜を介して隣の枠の内部に移動して凝縮する。これにより、淡水すなわち蒸留された反応剤が取り出される。同時に、膜を挟んで両側の枠内の反応剤どうし間で潜熱又は顕熱の伝達反応が行なわれる。各枠内には、反応剤の流通空間を確保するための網が収容されている。特許文献1には、枠を環状のガスケットにて構成し、この枠の内部に網を嵌め込む態様の他、枠を接着剤にて構成し、この接着剤を挟んで両側の膜の周縁部を当該接着剤にて接着するとともに網の周縁部を上記接着剤にて膜に固定する態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−34786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
枠の内部に網を嵌め込んだ構造では、網の縁が膜に引っ掛かって膜を損傷するおそれがある。また、枠がゴム等の軟性を有している場合には、内部に網を嵌めながら積層するのが容易でなく、スタック化が困難である。さらに、枠の内周縁と網との間に隙間が出来やすく、そのような隙間の部分では耐圧性を維持できずに流路が潰れてしまう。また、網が枠から分離可能であるため、枠内の内圧によって外側へ押し広げようとする力や内側へ縮めようとする力がスタックの各枠に加わると、枠どうしが徐々にずれていき、積層構造を保持できなくなる。
【0005】
枠を接着剤にて構成し、網の周縁部を上記接着剤にて膜に固定した構造では、膜の損傷や流路が潰れるとの問題点を回避できる。また、枠に外側へ押し広げようとする力や内側へ縮めようとする力が加わったときは、網によって枠の変形及び変移を阻止でき、ひいては積層構造を保持できる。
しかし、接着剤を枠形状に成形するのは容易でない。また、接着剤が硬化しないうちは網の位置が不安定であり、その状態で更に膜を重ね合わせたうえで接着剤を硬化させることになるため、スタック化が容易でない。さらに、例えば膜蒸留器等において、膜が多孔質でありかつ上記接着剤が親水性である場合、海水等の反応剤が、膜内の接着剤が入り込んだ部分と入り込んでいない部分との境目を伝って膜を透過することが考えられ、海水が淡水に混ざるおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑み、枠を容易に成形でき、かつ網を枠に確実に固定でき、更にはスタック化が容易であり、更には圧力に対し変形及び変移を防止して積層構造を保持できる膜反応装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、枠内が反応剤の流通又は収容される空間になる枠と、前記枠内に設けられた網と、前記枠及び前記網に重ねられて前記反応剤の反応を媒介する膜とを備えた膜反応装置の製造方法であって、
前記枠となるべき半流動性の枠原料をフィルム状又はシート状の台材に塗布する塗布工程と、
前記枠原料を前記台材と共に前記枠の形状に合わせて型抜きする型抜き工程と、
前記枠内に前記網を設け、かつ前記網の周縁部を前記枠原料の内部に埋め込む網設置工程と、
前記枠原料を硬化させて前記枠にする硬化工程と、
前記台材を前記枠から剥がす台材剥離工程と、
を順次実行することを特徴とする。
【0007】
これにより、枠を容易に成形できる。また、網の周縁部を枠に確実に固定でき、膜が損傷したり流路が潰れたりするのを防止できる。更には、枠及び膜を容易にスタック化できる。更には、枠内の圧力に対し枠が変形及び変移するのを防止でき、積層構造を保持できる。
上記反応は、物理反応でもよく、化学反応でもよい。上記反応は、蒸発、凝縮等の相転移や熱伝達を含む。
半流動性とは、枠原料がある程度の粘性ないしは保形性を有する流動体であることを意味し、たとえばゲル状であることをいう。
【0008】
前記塗布工程後、フィルム状又はシート状の覆材を前記枠原料に被せる被覆工程を行ない、前記型抜き工程では前記枠原料を前記覆材及び前記台材と共に型抜きし、型抜き後の前記覆材を前記枠原料から剥がす覆材剥離工程を行なった後、前記網設置工程を行なうことが好ましい。
これにより、枠原料をきれいに型抜きすることができる。
【0009】
前記覆材における前記枠原料に接する面の前記枠原料との接着力が、前記台材における前記枠原料が塗布される面の前記枠原料との接着力より小さいことが好ましい。
これにより、覆材剥離工程において、覆材を容易に剥がすことができる。枠原料が覆材と一緒に台材から剥がれないようにでき、枠原料を台材上に確実に残置できる。
【0010】
前記塗布工程において、前記枠原料を前記台材に塗布してなる塗布体を2つ作製し、
前記型抜き工程において、前記2つの塗布体を互いにほぼ反転対称の形状になるよう型抜きしてなる2つの半体を得、
前記網設置工程において、前記2つの半体のうち少なくとも1つの半体に前記網を設置したうえで、前記2つの半体を重ね合わせ、これら2つの半体の枠原料どうしを同体化することにしてもよい。
これにより、網の周縁部を2つの半体の枠原料の内部に確実に埋め込むことができる。枠原料の硬化後は、網の周縁部が枠の内部に確実に埋め込まれた状態にすることができる。これによって、枠と網の接合強度を十分に確保できる。したがって、台材を剥がすとき、枠が台材と一緒に網から分離しないようにすることができる。2つの半体のそれぞれに網を設けると、二重の網を有する枠を形成できる。
【0011】
前記2つの半体の枠原料どうしを同体化してなる枠原体を複数作製し、前記複数の枠原体を互いに積層し、かつ隣接する枠原体どうしの間には板を挟み、更に前記複数の枠原体をこれら枠原体の積層方向に加圧したうえで前記硬化工程を行なうことが好ましい。
これにより、複数の枠原体を一度に硬化させて複数の枠を一度に作製できる。加圧によって2つの半体どうしを確実に同体化でき、枠の内部に気泡や空気層が形成されるのを防止できる。ひいては、枠内空間から反応剤が漏れるのを確実に防止できる。隣接する枠原体どうしの間に板を挟むことによって、上記隣接する枠原体どうしがずれていたり、形状または大きさにばらつきがあったりしても、各枠原体の全面に加圧力を均一に付与でき、枠原料のはみ出した端部が盛り上がるように変形するのを防止できる。したがって、枠原体の寸法精度や積層時の位置決め精度を緩和できる。
【0012】
前記型抜き工程において、前記枠内空間の内部に前記枠原料の一部が残置されるように前記型抜きを行ない、前記網設置工程において、前記網の中央部を前記枠原料の前記一部の内部に埋め込むことにしてもよい。
上記残置された一部が整流部となり、枠内空間における反応剤の流通を整流することができる。例えば、膜を挟んで両側の枠の枠内空間の反応剤どうしの流れを対向流にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、枠を容易に成形できる。また、網の周縁部を枠に確実に固定でき、膜が損傷したり流路が潰れたりするのを防止できる。更には、枠及び膜を容易にスタック化できる。更には、枠内の圧力に対し枠が変形及び変移するのを防止でき、積層構造を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る膜蒸留装置の平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う、上記膜蒸留装置の断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う、上記膜蒸留装置の断面図である。
【図4】上記膜蒸留装置の枠の平面図である。
【図5】上記枠の製造過程を示し、塗布工程終了時における塗布体の断面図である。
【図6】上記枠の製造過程を示し、被覆工程終了時における上記塗布体の断面図である。
【図7】上記枠の製造過程を示し、型抜き工程終了時における枠原体の平面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う上記枠原体の断面図である。
【図9】上記枠の製造過程を示し、覆材剥離工程及び網設置工程における枠原体の平面図である。
【図10】上記枠の製造過程を示し、網設置工程終了時における枠原体の断面図である。
【図11】上記枠の製造過程を示し、硬化工程終了後の枠の断面図である。
【図12】図4のXII−XII線に沿う、上記枠の断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、同図(a)及び(b)は、網設置工程における2つの半体の平面図である。
【図14】上記第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、網設置工程において上記2つの半体を向かい合わせた状態の断面図である。
【図15】上記第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、網設置工程終了時における枠原体の断面図である。
【図16】上記第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、硬化工程終了時における枠の断面図である。
【図17】上記第2実施形態に係る枠の断面図である。
【図18】本発明の第3実施形態に係る枠の製造過程を、硬化工程における状態で示す断面図である。
【図19】上記第3実施形態に係る枠原体の平面図である。
【図20(a)】上記第3実施形態において、板を挟んで隣接する枠原体どうしが位置ずれしている場合の断面図である。
【図20(b)】上記第3実施形態に関する参考態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1〜図3は、膜反応装置の一例としてのダイレクト式の膜蒸留装置1を示したものである。
【0016】
図2及び図3に示すように、膜蒸留装置1は、表板11と、裏板12と、これら板11,12間に設けられた複数の枠13及び1又は複数の蒸留膜14を備えている。これら要素11,12,13,14の外形状は、互いに同一の四角形(長方形)になっているが、これに限定されず、種々の形状を採り得る。枠13と蒸留膜14が交互に積層され、スタックを構成している。枠13の厚さは、数mm程度である。蒸留膜14の厚さは、数十μm〜数百μm程度である。図において、枠13及び膜14の厚さは誇張されている。蒸留膜14の周縁部が、その両隣の枠13,13によって挟持されている。蒸留膜14が、その両隣の枠13,13の枠内空間15,15どうしを仕切っている。
【0017】
図1に示すように、表板11の4つの隅部にポートP1〜P4が配置されている。図2及び図3に示すように、各スタック要素11,13,14の4つの隅部には、ポートP1〜P4に連なるポート孔21〜24が形成されている。
【0018】
枠13は、パッキン用のゴム材にて構成されているが、これに限られず、樹脂、その他の材料にて構成されていてもよい。図2〜図4に示すように、各枠13に網16が設けられている。網16は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)等の樹脂にて構成されているが、その他の材料にて構成されていてもよい。網16は、枠13の外形状とほぼ同一の四角形(長方形)になっている。枠内空間15に網16が張られている。網16の周縁部が枠13の内部に埋められている。網16によって枠内空間15の厚さが確保されている。
【0019】
各枠内空間15(網16の網目空間)は、反応剤が流通される通路又は反応剤が収容される収容部になっている。膜蒸留装置1においては、反応剤として例えば海水と淡水(蒸留された反応剤又は反応剤の溶媒成分)が蒸留膜14を挟んで隣り合う枠13,13の枠内空間15,15にそれぞれ通される。
以下、これら枠13を互いに区別するときは、海水が通される枠13及び枠内空間15には、符号に「A」を付し、淡水が通される枠13及び枠内空間15には、符号に「B」を付す(図2)。
【0020】
図3及び図4に示すように、各枠13の枠内空間15の内部には、複数(図では3つ)の整流部17が設けられている。整流部17は、枠13と同一の材料にて構成されている。整流部17は、枠13の内縁と縁切りされた島状(アイランド状)になってている。各整流部17は、枠13の長手方向に延びている。複数の整流部17が、枠13の短手方向に間隔を置いて並べられている。整流部17によって、枠内空間15が複数の整流路18に分かれている。
【0021】
網16の中央部分が、整流部17の内部に埋まっている。整流部17は、網16を介して枠13に連結されている。整流部17は、枠内空間15内の反応剤(海水、淡水)の流れを整流する枠割に加え、網16と共に枠内空間15の厚さを確保するスペーサの役割をも有している。
【0022】
蒸留膜14が、反応剤の反応を媒介する。例えば、蒸留膜14は、海水等の溶液からなる反応剤の蒸留反応を媒介する。ここでは、蒸留膜14は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔質の膜にて構成され、気体の透過を許容し、液体の透過を阻止する性質を有している。
【0023】
反応剤としての海水が、図示しない熱源にて加温された後、ポートP1からポート孔21に導入され、各枠内空間15Aに分配される。海水は、各枠内空間15Aを流通した後、ポート孔22で合流してポートP2から出される。また、淡水が、ポートP3からポート孔23に導入され、各枠内空間15Bに分配される。淡水は、各枠内空間15Bを流通した後、ポート孔24で合流してポートP4から出される。枠内空間15Aの各整流路18Aを通る海水と枠内空間15Bの整流路18Bを通る淡水は、互いに対向流をなす。上記海水が枠内空間15A内を流通する過程で、海水中の水蒸気(溶媒蒸気)が蒸留膜14を透過し、枠内空間15Bの淡水に混入する。したがって、淡水のポートP4からの導出流量が、ポートP3からの導入流量より大きくなる。この増量分が、出力淡水として取り出される。残りの淡水は、冷却手段(図示せず)によって冷却された後、ポートP3に戻される。整流部17によって海水と淡水の対向流を形成することにより、熱交換効率を向上でき、ひいては淡水の製造効率を向上させることができる。海水のポートP2から導出流量は、ポートP1からの導入流量より小さくなる。この減少分だけ新たな海水が補充される。補充後の海水が、熱源を経てポートP1に戻される。
【0024】
膜蒸留装置1の製造方法を、枠13の製造方法を中心に説明する。
[塗布工程]
図5に示すように、台材31を用意する。台材31は、フィルム状又はシート状であることが好ましい。ここでは、台材31として、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン(PE)等の樹脂フィルムを用いる。好ましくは、台材31の片面を艶消し処理する。台材31の大きさは、枠13の外形寸法以上である。
【0025】
樹脂フィルムからなる台材31の艶消し面31a(マット面、塗布面)を上にし、光沢面31bを下にする。艶消し面31aの全体に枠13の原料33を均一な厚さに塗布(分出し)する。これにより、台材31上に枠原料33を被膜してなる塗布体34を形成する。枠原料33は、加硫前のゴムであり、半流動性を有している。枠原料33を構成するゴムは、合成ゴムでもよく天然ゴムでもよい。ここでは、枠原料33として例えば加硫前のシリコーンゴムを用いる。
【0026】
[被覆工程]
次に、図6に示すように、枠原料33の膜の上に覆材32を被せる。これにより、枠原料33が台材31及び覆材32にて上下から挟まれた状態になる。
【0027】
覆材32は、フィルム状又はシート状であることが好ましい。ここでは、覆材32として、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン(PE)等の樹脂フィルムを用いる。覆材32として、台材31と同一材質の樹脂フィルムを用いてもよい。覆材32は、艶消し処理する必要がない。覆材32の光沢面32a(接触面)を枠原料33に接触させる。これにより、台材31の塗布面31aの枠原料33との接着力が、覆材32の接触面32aの枠原料33との接着力より大きくなる。
【0028】
[型抜き工程]
次に、図7及び図8に示すように、塗布体34を枠13及び整流部17の形状に合わせて型抜きし、枠原体30を得る。すなわち、枠原料33を台材31及び覆材32と共に型抜きする。枠原料33上に覆材32を被せておくことにより、塗布体34をきれいに型抜きすることができる。型抜き装置の抜き型が枠原料33に直接接触しないようにでき、抜き型に枠原料33が付着するのを抑制又は防止できる。型抜きによって、枠原料33のうち枠13になるべき部分35と整流部17になるべき部分37が残置される。枠13になるべき部分35は、枠内空間15を有している。枠内空間15の内部に、整流部17になるべき部分37が配置される。整流部17になるべき部分37は、枠13になるべき部分35から離れている。
【0029】
[覆材剥離工程]
図9に示すように、型抜き後、覆材32を枠原体30から剥がす。これにより、枠原料33の上面が露出する。覆材32の枠原料33との接着力を台材31の枠原料33との接着力より小さくしておくことによって、覆材32を容易に剥がすことができる。覆材32を剥がすとき、枠原料33が覆材32と一緒に台材31から剥がれないようにでき、枠原料33を台材31上に確実に残置できる。
【0030】
[網設置工程]
次に、網16を枠原料33に被せ、かつ該網16を押し付けて枠原料33の内部にめり込ませる。網16をプレス機でプレスしてもよい。網16をローラで押し付けてもよい。これにより、図10に示すように、網16の周縁部を枠原料33の枠13となるべき部分35に埋め込む。かつ、網16の中央部を整流部17となるべき部分37に埋め込む。
【0031】
[硬化工程]
次に、図11に示すように、枠原体30の枠原料33を加硫する。加硫は、例えば2.5気圧(絶対圧3.5気圧)程度の水蒸気で行なう。加硫時間は例えば30分程度とする。これにより、枠原体30の外側の枠状の原料部分35が硬化して、枠13が得られる。また、枠原体30の中央の原料部分37が硬化して整流部17が得られる。このようにして、枠13を所定の形状に成形できる。枠13の内部に島状の整流部17があっても容易に成形できる。併せて、網16の周縁部を枠13に確実に固定することができる。更に、網16を介して整流部17を枠13に連ねることができる。
【0032】
[台材剥離工程]
次に、図12に示すように、台材31を枠13から剥がす。
【0033】
[ポート孔形成工程]
その後、枠13の四隅にポート孔21〜24を形成する。ポート孔21〜24は、型抜き工程時に形成してもよいが、加硫時の収縮変形を考慮すると、精度確保の観点からは加硫後に孔加工にて形成するのが好ましい。
【0034】
[組立工程]
上記のようにして作製した網16付き枠13に膜14を重ねる。膜14の周縁部を枠13に接着剤にて接着する。接着剤は疎水性であることが好ましい。接着剤としてエポキシ系接着剤等を用いてもよい。膜14にコロナ処理等の表面処理を施したうえで、接着剤を塗布することが好ましい。これにより、接着強度を増すことができる。接着剤の厚さは、膜14と枠13を接着できる程度であればよく、枠13の厚さ、ひいては枠内空間15の厚さと比べると十分小さくて済む。したがって、接着剤が膜14の孔内に入り込む量は僅かである。接着剤は、枠内空間15に面しないように塗布するのが好ましい。接着に代えて、熱融着にて膜14と枠13を接合してもよい。さらに、上記枠13と蒸留膜14と交互に積層する。網16が枠13と一体化されているため、積層作業を容易に行なうことができる。したがって、枠13及び膜14を容易にスタック化できる。枠13及び蒸留膜14の積層方向の両外側には板11,12を配置する。この積層体11,12,13,14の周縁部にボルト(図示せず)を通して締めつける。このようにして、膜蒸留装置1を作製できる。
膜蒸留装置1においては、網16の周縁部が枠13に埋め込まれているため、膜14が網16の縁により損傷したり、枠13の内縁近傍の流路15が潰れたりするのを確実に防止できる。更には、枠内空間15の圧力が高くなって枠13を外側へ押し広げる力が加わったり、枠内空間15の圧力が低くなって枠13を内側へ縮める力が加わったりしても、枠13に連結固定された網15が上記の力に抵抗することができる。したがって、枠13の変形や変移を阻止できる。ひいては、装置1の積層構造を保持できる。
上記接着剤として疎水性接着剤を用いることによって、海水等の反応剤が接着剤の表面を伝って膜内を淡水側へ透過するのを防止できる。たとえ接着剤が親水性であっても、接着剤の膜14内に入り込む量を僅かにしたり、接着剤を枠内空間15に接しないように配置したりすることで、海水等の反応剤が接着剤の表面を伝って膜内を淡水側へ透過するのを確実に防止できる。
【0035】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態の構成と同様の構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図13〜図17は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態は、膜反応装置1の枠13の構造及び枠13の製造方法の変形例である。図17に示すように、第2実施形態では、網16が二重になっている。2枚の網16,16が重ねられ、かつ、これら二重網16,16の外周部が枠13の内部に埋め込まれている。二重網16,16の中央部は整流部17の内部に埋め込まれている。
【0036】
第2実施形態の枠13は、次のようにして作製される。
[塗布工程、被覆工程]
1つの枠13に対応する塗布体34(図6参照)を2つ作製する。各塗布体34が、枠原料33を台材31及び覆材32にて上下から挟んだ構造になっている。2つの塗布体34の枠原料33の膜厚の合計が、枠13の厚さと対応するようにする。
【0037】
[型抜き工程]
図13に示すように、2つの塗布体34,34をそれぞれ型抜きし、2つの半体36A,36Bを得る。各半体36A,36Bの枠原料33は、枠13になる部分35と整流部17になる部分37を含む。これら半体36A,36Bの形状は、互いに反転対称の形状になっている。すなわち、片方の半体36Aを裏返すと、他方の半体36Bと同一形状になる。
【0038】
[網設置工程]
型抜き後、各半体36A,36Bから覆材32を剥がす。そして、各半体36A,36Bの枠原料33に網16を被せる。この段階では、半体36Aを裏返したときに網16が落ちない程度に、枠原料33を網16の網目に入り込ませればよい。枠原料33の厚さ方向の中間付近まで網16をめり込ませる必要はない。
【0039】
続いて、図14に示すように、片方の半体36Aを裏返し、2つの半体36A,36Bの枠原料33,33どうしを向かい合わせる。そして、図15に示すように、これら2つの半体36A,36Bを重ね合わせて押し付ける。これにより、これら半体36A,36Bの枠原料33,33どうしを互いに接合させて同体化でき、枠原体30が得られる。この枠原体30の両側面にはそれぞれ台材31が設けられている。
【0040】
半体36A,36Bを重ね合わせることによって、網16,16の周縁部を枠原料33,33の枠対応部分35,35の内部に確実に埋め込むことができる。また、網16,16の中央部を枠原料33,33の整流部対応部分37,37の内部に確実に埋め込むことができる。重ね合わせた2つの半体36A,36Bを重ね合わせ方向に加圧することにより、これら半体36A,36Bの枠原料33,33どうしを確実に同体化できる。したがって、枠原体30ひいては枠13の内部に気泡や空気層が形成されるのを確実に防止できる。よって、膜反応装置1の使用時に枠内空間15から反応剤が漏れるのを確実に防止できる。
【0041】
[硬化工程]
次に、図16に示すように、枠原体30の枠原料33を加硫して硬化させる。これにより、二重の網16,16を有する枠13が得られる。網16,16の周縁部は、枠13の内部に確実に埋め込まれた状態になる。したがって、枠13と網16,16の接合強度を十分に確保できる。また、網16,16の中央部が整流部17の内部に確実に埋め込まれた状態になる。したがって、整流部17と網16,16の接合強度を十分に確保できる。
【0042】
[台材剥離工程]
その後、図17に示すように、台材31を剥離する。網16の周縁部と枠13が強固に接合しているため、枠13の厚さが小さくても、台材31の剥離時に枠13が台材31にくっ付いて網16から分離するのを防止できる。網16の中央部と整流部17が強固に接合しているため、整流部17の厚さが小さくても、台材31の剥離時に整流部17が台材31にくっ付いて網16から分離するのを防止できる。
【0043】
図18〜図20は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態は、第2実施形態の硬化工程の変形例に係る。
【0044】
[硬化工程]
図18に示すように、第3実施形態では、第2実施形態と同様にして作製した枠原体30を複数用意する。枠原体30の枚数は、例えば数枚〜数百枚である。図19に示すように、各枠原体30の四隅の所定の位置には、位置決め孔39を形成しておく。
【0045】
図18に示すように、これら枠原体30を互いに積層する。好ましくは、隣接する枠原体30,30どうしの間に硬質の板38を挟む。図示は省略するが、板38には、枠原体30の孔39に対応する位置に同様の位置決め孔を形成しておく。そして、位置決めピンを位置決め孔39に通し、枠原体30及び板38を位置決めする。積層した枠原体30をクランプ等を用いて積層方向に締め付けて加圧する。これにより、枠原体30ひいては枠13の厚さ方向の中間部に空気層が形成されるのを確実に防止できる。
【0046】
ここで、図20(b)に示すように、隣接する枠原体30,30どうしを、これらの間に板38を挟むことなく直接重ね合わせて加圧した場合、これら枠原体30,30がずれていたり、形状又は大きさにばらつきがあったりすると、各枠原体30のはみ出した側の端部30eが盛り上がるように変形する。
【0047】
これに対し、図20(a)に示すように、隣接する枠原体30,30どうし間に板38を挟むことによって、上記ずれやばらつきがあっても、枠原体30のはみ出した側の端部30eが変形するのを防止できる。したがって、枠原体30の寸法精度や積層時の位置決め精度を緩和できる。
【0048】
上記多数の枠原体30の積層体をクランプ等で締め付けた状態のままで加硫装置に入れて加硫する。これにより、一度に多数の枠原体30を硬化させ、一度に多数の枠13を生産することができる。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変をなすことができる。
例えば、枠13の製造工程は適宜変更してもよい。
枠原料33の種類や硬度によっては、覆材32を設けなくても型抜きに支障を来さない場合もある。その場合、被覆工程及び覆材剥離工程を省略してもよい。
整流部17を省略してもよい。型抜き工程において、塗布体34の整流部17になる部分37を残置しないことにしてもよい。
枠原料33は、熱硬化性又は光硬化性等の樹脂であってもよい。枠原料33が熱硬化性樹脂である場合、硬化工程では、枠原料33の加熱を行なう。枠原料33が光硬化性樹脂である場合、硬化工程では、枠原料33への光照射を行なう。
第2実施形態の網設置工程において、2つの半体36A,36Bのうち一方(例えば下側の半体36B)にのみ網16を設けてもよい。
【0050】
溶媒(淡水)が抽出される反応剤は、海水に限られず、塩水、泥水、汚水、灌水等でもよい。
上記実施形態の膜蒸留装置1は、蒸留膜14を介して溶液流路15Aから溶媒流路15Bへ溶媒蒸気が直接的に移動するダイレクト式であったが、本発明は、ギャップ式の膜蒸留装置にも適用できる。ギャップ式の膜蒸留装置は、蒸留膜に加えて、気体も液体も通さない不透過膜を含む。蒸留膜と不透過膜との間に溶媒抽出室が形成されている。不透過膜が冷溶液流路と溶媒抽出室とを仕切っている。蒸留膜が温溶液流路と溶媒抽出室とを仕切っている。比較的低温の溶液(海水等)が冷溶液流路に通される。この溶液が熱源にて加温された後、温溶液流路に通される。温溶液流路の溶液中の溶媒蒸気が蒸留膜を介して溶媒抽出室に入る。この溶媒蒸気が、不透過膜を介して冷溶液流路の溶液により冷却されて凝縮する。凝縮した溶媒(淡水等)が溶媒抽出室から取り出される。上記冷溶液流路、温溶液流路、溶媒抽出室が、それぞれ枠13の枠内空間15によって構成される。
【0051】
本発明は、膜蒸留装置に限られず、熱交換器や電気透析装置等の、膜を反応媒介とする他の膜反応装置にも適用可能である。
淡水等の溶媒又は分散媒が抽出される反応剤は、海水に限られず、塩水、泥水、汚水、灌水等でもよい。
透析装置においては、反応剤が血液等の透析溶液であってもよい。
熱交換器においては、反応剤が水や不凍液等の熱媒又は冷媒であってもよい。
膜反応装置の反応剤は、枠内空間に収容されていればよく、必ずしも枠内空間を流通するものに限られない。
【実施例1】
【0052】
実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
この実施例は、第3実施形態(図18〜図20(a))に対応する。枠原料33は、シリコーンゴム(加硫前)であった。枠原料33の厚さは、0.7mmであった。網16の材質はポリプロピレンであった。網16の網目間隔は、2.5mmであった。網16は、二重とし、二重網全体の厚さが0.6mmであった。各整流部17の長さ(図19において左右方向の寸法)は1100mmであった。各整流部17の幅(図19において上下方向の寸法)は20mmであった。各整流路18の幅(図19において上下方向の寸法)は100mmであった。整流部17の長手方向の端部と枠対応部分35の内周縁との間の距離は、100mmであった。
【0053】
上記の枠原体30を8枚作製した。そして、図18に示すように、これら枠原体30を、互いの間に板38を挟んで積層し、積層方向の両側からクランプして締め付けた。締め付けは、加硫前の各ゴム33の厚みから算出した積層体のトータルの算出厚みに対し±500umになるように積層体のトータルの厚みを計測しながら行なった。
【0054】
クランプした枠原体30の積層体を加硫釜に入れて加硫した。加硫は、2.0気圧(絶対圧3.0気圧)の水蒸気雰囲気にて行なった。加硫温度は、133.4℃(当該圧力の飽和蒸気温度)とした。加硫時間は30分であった。
これにより、多数枚の枠13を一度に作製できた。枠13の枠原料33に対する収縮率は、1%程度に抑えることができた。
その後、台材31をきれいに剥がすことができた。台材31を剥がす際に、枠13を構成するゴムが台材31と一緒に剥がれて網16から分離することはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
この発明は、膜蒸留装置、熱交換器及び電気透析装置等の各種の膜反応装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 膜蒸留装置(膜反応装置)
P1〜P4 ポート
11 表板
12 裏板
13 枠
14 蒸留膜
15 枠内空間
16 網
17 整流部
18 整流路
21〜24 ポート孔
30 枠原体
31 台材
32 覆材
33 枠原料
34 塗布体
35 枠になる部分
36A,36B 半体
37 整流部になる部分
38 板
39 位置決め孔
【技術分野】
【0001】
この発明は、反応剤が膜を媒介にして蒸留等の反応を起こす膜反応装置(membrane reactor)を製造する方法に関し、特に膜と枠が重ねられ、かつ枠内に網が設けられた膜反応装置に適した製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の膜反応装置として、膜蒸留装置、熱交換器、電気透析装置等が挙げられる。例えば膜蒸留装置は、蒸留膜等の膜と枠とが複数かつ交互に重ねられている(特許文献1参照)。1つの枠の内部に反応剤として海水が通される。この海水中の水分が蒸発し蒸留膜を介して隣の枠の内部に移動して凝縮する。これにより、淡水すなわち蒸留された反応剤が取り出される。同時に、膜を挟んで両側の枠内の反応剤どうし間で潜熱又は顕熱の伝達反応が行なわれる。各枠内には、反応剤の流通空間を確保するための網が収容されている。特許文献1には、枠を環状のガスケットにて構成し、この枠の内部に網を嵌め込む態様の他、枠を接着剤にて構成し、この接着剤を挟んで両側の膜の周縁部を当該接着剤にて接着するとともに網の周縁部を上記接着剤にて膜に固定する態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−34786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
枠の内部に網を嵌め込んだ構造では、網の縁が膜に引っ掛かって膜を損傷するおそれがある。また、枠がゴム等の軟性を有している場合には、内部に網を嵌めながら積層するのが容易でなく、スタック化が困難である。さらに、枠の内周縁と網との間に隙間が出来やすく、そのような隙間の部分では耐圧性を維持できずに流路が潰れてしまう。また、網が枠から分離可能であるため、枠内の内圧によって外側へ押し広げようとする力や内側へ縮めようとする力がスタックの各枠に加わると、枠どうしが徐々にずれていき、積層構造を保持できなくなる。
【0005】
枠を接着剤にて構成し、網の周縁部を上記接着剤にて膜に固定した構造では、膜の損傷や流路が潰れるとの問題点を回避できる。また、枠に外側へ押し広げようとする力や内側へ縮めようとする力が加わったときは、網によって枠の変形及び変移を阻止でき、ひいては積層構造を保持できる。
しかし、接着剤を枠形状に成形するのは容易でない。また、接着剤が硬化しないうちは網の位置が不安定であり、その状態で更に膜を重ね合わせたうえで接着剤を硬化させることになるため、スタック化が容易でない。さらに、例えば膜蒸留器等において、膜が多孔質でありかつ上記接着剤が親水性である場合、海水等の反応剤が、膜内の接着剤が入り込んだ部分と入り込んでいない部分との境目を伝って膜を透過することが考えられ、海水が淡水に混ざるおそれがある。
本発明は、上記事情に鑑み、枠を容易に成形でき、かつ網を枠に確実に固定でき、更にはスタック化が容易であり、更には圧力に対し変形及び変移を防止して積層構造を保持できる膜反応装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、枠内が反応剤の流通又は収容される空間になる枠と、前記枠内に設けられた網と、前記枠及び前記網に重ねられて前記反応剤の反応を媒介する膜とを備えた膜反応装置の製造方法であって、
前記枠となるべき半流動性の枠原料をフィルム状又はシート状の台材に塗布する塗布工程と、
前記枠原料を前記台材と共に前記枠の形状に合わせて型抜きする型抜き工程と、
前記枠内に前記網を設け、かつ前記網の周縁部を前記枠原料の内部に埋め込む網設置工程と、
前記枠原料を硬化させて前記枠にする硬化工程と、
前記台材を前記枠から剥がす台材剥離工程と、
を順次実行することを特徴とする。
【0007】
これにより、枠を容易に成形できる。また、網の周縁部を枠に確実に固定でき、膜が損傷したり流路が潰れたりするのを防止できる。更には、枠及び膜を容易にスタック化できる。更には、枠内の圧力に対し枠が変形及び変移するのを防止でき、積層構造を保持できる。
上記反応は、物理反応でもよく、化学反応でもよい。上記反応は、蒸発、凝縮等の相転移や熱伝達を含む。
半流動性とは、枠原料がある程度の粘性ないしは保形性を有する流動体であることを意味し、たとえばゲル状であることをいう。
【0008】
前記塗布工程後、フィルム状又はシート状の覆材を前記枠原料に被せる被覆工程を行ない、前記型抜き工程では前記枠原料を前記覆材及び前記台材と共に型抜きし、型抜き後の前記覆材を前記枠原料から剥がす覆材剥離工程を行なった後、前記網設置工程を行なうことが好ましい。
これにより、枠原料をきれいに型抜きすることができる。
【0009】
前記覆材における前記枠原料に接する面の前記枠原料との接着力が、前記台材における前記枠原料が塗布される面の前記枠原料との接着力より小さいことが好ましい。
これにより、覆材剥離工程において、覆材を容易に剥がすことができる。枠原料が覆材と一緒に台材から剥がれないようにでき、枠原料を台材上に確実に残置できる。
【0010】
前記塗布工程において、前記枠原料を前記台材に塗布してなる塗布体を2つ作製し、
前記型抜き工程において、前記2つの塗布体を互いにほぼ反転対称の形状になるよう型抜きしてなる2つの半体を得、
前記網設置工程において、前記2つの半体のうち少なくとも1つの半体に前記網を設置したうえで、前記2つの半体を重ね合わせ、これら2つの半体の枠原料どうしを同体化することにしてもよい。
これにより、網の周縁部を2つの半体の枠原料の内部に確実に埋め込むことができる。枠原料の硬化後は、網の周縁部が枠の内部に確実に埋め込まれた状態にすることができる。これによって、枠と網の接合強度を十分に確保できる。したがって、台材を剥がすとき、枠が台材と一緒に網から分離しないようにすることができる。2つの半体のそれぞれに網を設けると、二重の網を有する枠を形成できる。
【0011】
前記2つの半体の枠原料どうしを同体化してなる枠原体を複数作製し、前記複数の枠原体を互いに積層し、かつ隣接する枠原体どうしの間には板を挟み、更に前記複数の枠原体をこれら枠原体の積層方向に加圧したうえで前記硬化工程を行なうことが好ましい。
これにより、複数の枠原体を一度に硬化させて複数の枠を一度に作製できる。加圧によって2つの半体どうしを確実に同体化でき、枠の内部に気泡や空気層が形成されるのを防止できる。ひいては、枠内空間から反応剤が漏れるのを確実に防止できる。隣接する枠原体どうしの間に板を挟むことによって、上記隣接する枠原体どうしがずれていたり、形状または大きさにばらつきがあったりしても、各枠原体の全面に加圧力を均一に付与でき、枠原料のはみ出した端部が盛り上がるように変形するのを防止できる。したがって、枠原体の寸法精度や積層時の位置決め精度を緩和できる。
【0012】
前記型抜き工程において、前記枠内空間の内部に前記枠原料の一部が残置されるように前記型抜きを行ない、前記網設置工程において、前記網の中央部を前記枠原料の前記一部の内部に埋め込むことにしてもよい。
上記残置された一部が整流部となり、枠内空間における反応剤の流通を整流することができる。例えば、膜を挟んで両側の枠の枠内空間の反応剤どうしの流れを対向流にすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、枠を容易に成形できる。また、網の周縁部を枠に確実に固定でき、膜が損傷したり流路が潰れたりするのを防止できる。更には、枠及び膜を容易にスタック化できる。更には、枠内の圧力に対し枠が変形及び変移するのを防止でき、積層構造を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る膜蒸留装置の平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う、上記膜蒸留装置の断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿う、上記膜蒸留装置の断面図である。
【図4】上記膜蒸留装置の枠の平面図である。
【図5】上記枠の製造過程を示し、塗布工程終了時における塗布体の断面図である。
【図6】上記枠の製造過程を示し、被覆工程終了時における上記塗布体の断面図である。
【図7】上記枠の製造過程を示し、型抜き工程終了時における枠原体の平面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線に沿う上記枠原体の断面図である。
【図9】上記枠の製造過程を示し、覆材剥離工程及び網設置工程における枠原体の平面図である。
【図10】上記枠の製造過程を示し、網設置工程終了時における枠原体の断面図である。
【図11】上記枠の製造過程を示し、硬化工程終了後の枠の断面図である。
【図12】図4のXII−XII線に沿う、上記枠の断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、同図(a)及び(b)は、網設置工程における2つの半体の平面図である。
【図14】上記第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、網設置工程において上記2つの半体を向かい合わせた状態の断面図である。
【図15】上記第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、網設置工程終了時における枠原体の断面図である。
【図16】上記第2実施形態に係る枠の製造過程を示し、硬化工程終了時における枠の断面図である。
【図17】上記第2実施形態に係る枠の断面図である。
【図18】本発明の第3実施形態に係る枠の製造過程を、硬化工程における状態で示す断面図である。
【図19】上記第3実施形態に係る枠原体の平面図である。
【図20(a)】上記第3実施形態において、板を挟んで隣接する枠原体どうしが位置ずれしている場合の断面図である。
【図20(b)】上記第3実施形態に関する参考態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1〜図3は、膜反応装置の一例としてのダイレクト式の膜蒸留装置1を示したものである。
【0016】
図2及び図3に示すように、膜蒸留装置1は、表板11と、裏板12と、これら板11,12間に設けられた複数の枠13及び1又は複数の蒸留膜14を備えている。これら要素11,12,13,14の外形状は、互いに同一の四角形(長方形)になっているが、これに限定されず、種々の形状を採り得る。枠13と蒸留膜14が交互に積層され、スタックを構成している。枠13の厚さは、数mm程度である。蒸留膜14の厚さは、数十μm〜数百μm程度である。図において、枠13及び膜14の厚さは誇張されている。蒸留膜14の周縁部が、その両隣の枠13,13によって挟持されている。蒸留膜14が、その両隣の枠13,13の枠内空間15,15どうしを仕切っている。
【0017】
図1に示すように、表板11の4つの隅部にポートP1〜P4が配置されている。図2及び図3に示すように、各スタック要素11,13,14の4つの隅部には、ポートP1〜P4に連なるポート孔21〜24が形成されている。
【0018】
枠13は、パッキン用のゴム材にて構成されているが、これに限られず、樹脂、その他の材料にて構成されていてもよい。図2〜図4に示すように、各枠13に網16が設けられている。網16は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)等の樹脂にて構成されているが、その他の材料にて構成されていてもよい。網16は、枠13の外形状とほぼ同一の四角形(長方形)になっている。枠内空間15に網16が張られている。網16の周縁部が枠13の内部に埋められている。網16によって枠内空間15の厚さが確保されている。
【0019】
各枠内空間15(網16の網目空間)は、反応剤が流通される通路又は反応剤が収容される収容部になっている。膜蒸留装置1においては、反応剤として例えば海水と淡水(蒸留された反応剤又は反応剤の溶媒成分)が蒸留膜14を挟んで隣り合う枠13,13の枠内空間15,15にそれぞれ通される。
以下、これら枠13を互いに区別するときは、海水が通される枠13及び枠内空間15には、符号に「A」を付し、淡水が通される枠13及び枠内空間15には、符号に「B」を付す(図2)。
【0020】
図3及び図4に示すように、各枠13の枠内空間15の内部には、複数(図では3つ)の整流部17が設けられている。整流部17は、枠13と同一の材料にて構成されている。整流部17は、枠13の内縁と縁切りされた島状(アイランド状)になってている。各整流部17は、枠13の長手方向に延びている。複数の整流部17が、枠13の短手方向に間隔を置いて並べられている。整流部17によって、枠内空間15が複数の整流路18に分かれている。
【0021】
網16の中央部分が、整流部17の内部に埋まっている。整流部17は、網16を介して枠13に連結されている。整流部17は、枠内空間15内の反応剤(海水、淡水)の流れを整流する枠割に加え、網16と共に枠内空間15の厚さを確保するスペーサの役割をも有している。
【0022】
蒸留膜14が、反応剤の反応を媒介する。例えば、蒸留膜14は、海水等の溶液からなる反応剤の蒸留反応を媒介する。ここでは、蒸留膜14は、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔質の膜にて構成され、気体の透過を許容し、液体の透過を阻止する性質を有している。
【0023】
反応剤としての海水が、図示しない熱源にて加温された後、ポートP1からポート孔21に導入され、各枠内空間15Aに分配される。海水は、各枠内空間15Aを流通した後、ポート孔22で合流してポートP2から出される。また、淡水が、ポートP3からポート孔23に導入され、各枠内空間15Bに分配される。淡水は、各枠内空間15Bを流通した後、ポート孔24で合流してポートP4から出される。枠内空間15Aの各整流路18Aを通る海水と枠内空間15Bの整流路18Bを通る淡水は、互いに対向流をなす。上記海水が枠内空間15A内を流通する過程で、海水中の水蒸気(溶媒蒸気)が蒸留膜14を透過し、枠内空間15Bの淡水に混入する。したがって、淡水のポートP4からの導出流量が、ポートP3からの導入流量より大きくなる。この増量分が、出力淡水として取り出される。残りの淡水は、冷却手段(図示せず)によって冷却された後、ポートP3に戻される。整流部17によって海水と淡水の対向流を形成することにより、熱交換効率を向上でき、ひいては淡水の製造効率を向上させることができる。海水のポートP2から導出流量は、ポートP1からの導入流量より小さくなる。この減少分だけ新たな海水が補充される。補充後の海水が、熱源を経てポートP1に戻される。
【0024】
膜蒸留装置1の製造方法を、枠13の製造方法を中心に説明する。
[塗布工程]
図5に示すように、台材31を用意する。台材31は、フィルム状又はシート状であることが好ましい。ここでは、台材31として、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン(PE)等の樹脂フィルムを用いる。好ましくは、台材31の片面を艶消し処理する。台材31の大きさは、枠13の外形寸法以上である。
【0025】
樹脂フィルムからなる台材31の艶消し面31a(マット面、塗布面)を上にし、光沢面31bを下にする。艶消し面31aの全体に枠13の原料33を均一な厚さに塗布(分出し)する。これにより、台材31上に枠原料33を被膜してなる塗布体34を形成する。枠原料33は、加硫前のゴムであり、半流動性を有している。枠原料33を構成するゴムは、合成ゴムでもよく天然ゴムでもよい。ここでは、枠原料33として例えば加硫前のシリコーンゴムを用いる。
【0026】
[被覆工程]
次に、図6に示すように、枠原料33の膜の上に覆材32を被せる。これにより、枠原料33が台材31及び覆材32にて上下から挟まれた状態になる。
【0027】
覆材32は、フィルム状又はシート状であることが好ましい。ここでは、覆材32として、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン(PE)等の樹脂フィルムを用いる。覆材32として、台材31と同一材質の樹脂フィルムを用いてもよい。覆材32は、艶消し処理する必要がない。覆材32の光沢面32a(接触面)を枠原料33に接触させる。これにより、台材31の塗布面31aの枠原料33との接着力が、覆材32の接触面32aの枠原料33との接着力より大きくなる。
【0028】
[型抜き工程]
次に、図7及び図8に示すように、塗布体34を枠13及び整流部17の形状に合わせて型抜きし、枠原体30を得る。すなわち、枠原料33を台材31及び覆材32と共に型抜きする。枠原料33上に覆材32を被せておくことにより、塗布体34をきれいに型抜きすることができる。型抜き装置の抜き型が枠原料33に直接接触しないようにでき、抜き型に枠原料33が付着するのを抑制又は防止できる。型抜きによって、枠原料33のうち枠13になるべき部分35と整流部17になるべき部分37が残置される。枠13になるべき部分35は、枠内空間15を有している。枠内空間15の内部に、整流部17になるべき部分37が配置される。整流部17になるべき部分37は、枠13になるべき部分35から離れている。
【0029】
[覆材剥離工程]
図9に示すように、型抜き後、覆材32を枠原体30から剥がす。これにより、枠原料33の上面が露出する。覆材32の枠原料33との接着力を台材31の枠原料33との接着力より小さくしておくことによって、覆材32を容易に剥がすことができる。覆材32を剥がすとき、枠原料33が覆材32と一緒に台材31から剥がれないようにでき、枠原料33を台材31上に確実に残置できる。
【0030】
[網設置工程]
次に、網16を枠原料33に被せ、かつ該網16を押し付けて枠原料33の内部にめり込ませる。網16をプレス機でプレスしてもよい。網16をローラで押し付けてもよい。これにより、図10に示すように、網16の周縁部を枠原料33の枠13となるべき部分35に埋め込む。かつ、網16の中央部を整流部17となるべき部分37に埋め込む。
【0031】
[硬化工程]
次に、図11に示すように、枠原体30の枠原料33を加硫する。加硫は、例えば2.5気圧(絶対圧3.5気圧)程度の水蒸気で行なう。加硫時間は例えば30分程度とする。これにより、枠原体30の外側の枠状の原料部分35が硬化して、枠13が得られる。また、枠原体30の中央の原料部分37が硬化して整流部17が得られる。このようにして、枠13を所定の形状に成形できる。枠13の内部に島状の整流部17があっても容易に成形できる。併せて、網16の周縁部を枠13に確実に固定することができる。更に、網16を介して整流部17を枠13に連ねることができる。
【0032】
[台材剥離工程]
次に、図12に示すように、台材31を枠13から剥がす。
【0033】
[ポート孔形成工程]
その後、枠13の四隅にポート孔21〜24を形成する。ポート孔21〜24は、型抜き工程時に形成してもよいが、加硫時の収縮変形を考慮すると、精度確保の観点からは加硫後に孔加工にて形成するのが好ましい。
【0034】
[組立工程]
上記のようにして作製した網16付き枠13に膜14を重ねる。膜14の周縁部を枠13に接着剤にて接着する。接着剤は疎水性であることが好ましい。接着剤としてエポキシ系接着剤等を用いてもよい。膜14にコロナ処理等の表面処理を施したうえで、接着剤を塗布することが好ましい。これにより、接着強度を増すことができる。接着剤の厚さは、膜14と枠13を接着できる程度であればよく、枠13の厚さ、ひいては枠内空間15の厚さと比べると十分小さくて済む。したがって、接着剤が膜14の孔内に入り込む量は僅かである。接着剤は、枠内空間15に面しないように塗布するのが好ましい。接着に代えて、熱融着にて膜14と枠13を接合してもよい。さらに、上記枠13と蒸留膜14と交互に積層する。網16が枠13と一体化されているため、積層作業を容易に行なうことができる。したがって、枠13及び膜14を容易にスタック化できる。枠13及び蒸留膜14の積層方向の両外側には板11,12を配置する。この積層体11,12,13,14の周縁部にボルト(図示せず)を通して締めつける。このようにして、膜蒸留装置1を作製できる。
膜蒸留装置1においては、網16の周縁部が枠13に埋め込まれているため、膜14が網16の縁により損傷したり、枠13の内縁近傍の流路15が潰れたりするのを確実に防止できる。更には、枠内空間15の圧力が高くなって枠13を外側へ押し広げる力が加わったり、枠内空間15の圧力が低くなって枠13を内側へ縮める力が加わったりしても、枠13に連結固定された網15が上記の力に抵抗することができる。したがって、枠13の変形や変移を阻止できる。ひいては、装置1の積層構造を保持できる。
上記接着剤として疎水性接着剤を用いることによって、海水等の反応剤が接着剤の表面を伝って膜内を淡水側へ透過するのを防止できる。たとえ接着剤が親水性であっても、接着剤の膜14内に入り込む量を僅かにしたり、接着剤を枠内空間15に接しないように配置したりすることで、海水等の反応剤が接着剤の表面を伝って膜内を淡水側へ透過するのを確実に防止できる。
【0035】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態の構成と同様の構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図13〜図17は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態は、膜反応装置1の枠13の構造及び枠13の製造方法の変形例である。図17に示すように、第2実施形態では、網16が二重になっている。2枚の網16,16が重ねられ、かつ、これら二重網16,16の外周部が枠13の内部に埋め込まれている。二重網16,16の中央部は整流部17の内部に埋め込まれている。
【0036】
第2実施形態の枠13は、次のようにして作製される。
[塗布工程、被覆工程]
1つの枠13に対応する塗布体34(図6参照)を2つ作製する。各塗布体34が、枠原料33を台材31及び覆材32にて上下から挟んだ構造になっている。2つの塗布体34の枠原料33の膜厚の合計が、枠13の厚さと対応するようにする。
【0037】
[型抜き工程]
図13に示すように、2つの塗布体34,34をそれぞれ型抜きし、2つの半体36A,36Bを得る。各半体36A,36Bの枠原料33は、枠13になる部分35と整流部17になる部分37を含む。これら半体36A,36Bの形状は、互いに反転対称の形状になっている。すなわち、片方の半体36Aを裏返すと、他方の半体36Bと同一形状になる。
【0038】
[網設置工程]
型抜き後、各半体36A,36Bから覆材32を剥がす。そして、各半体36A,36Bの枠原料33に網16を被せる。この段階では、半体36Aを裏返したときに網16が落ちない程度に、枠原料33を網16の網目に入り込ませればよい。枠原料33の厚さ方向の中間付近まで網16をめり込ませる必要はない。
【0039】
続いて、図14に示すように、片方の半体36Aを裏返し、2つの半体36A,36Bの枠原料33,33どうしを向かい合わせる。そして、図15に示すように、これら2つの半体36A,36Bを重ね合わせて押し付ける。これにより、これら半体36A,36Bの枠原料33,33どうしを互いに接合させて同体化でき、枠原体30が得られる。この枠原体30の両側面にはそれぞれ台材31が設けられている。
【0040】
半体36A,36Bを重ね合わせることによって、網16,16の周縁部を枠原料33,33の枠対応部分35,35の内部に確実に埋め込むことができる。また、網16,16の中央部を枠原料33,33の整流部対応部分37,37の内部に確実に埋め込むことができる。重ね合わせた2つの半体36A,36Bを重ね合わせ方向に加圧することにより、これら半体36A,36Bの枠原料33,33どうしを確実に同体化できる。したがって、枠原体30ひいては枠13の内部に気泡や空気層が形成されるのを確実に防止できる。よって、膜反応装置1の使用時に枠内空間15から反応剤が漏れるのを確実に防止できる。
【0041】
[硬化工程]
次に、図16に示すように、枠原体30の枠原料33を加硫して硬化させる。これにより、二重の網16,16を有する枠13が得られる。網16,16の周縁部は、枠13の内部に確実に埋め込まれた状態になる。したがって、枠13と網16,16の接合強度を十分に確保できる。また、網16,16の中央部が整流部17の内部に確実に埋め込まれた状態になる。したがって、整流部17と網16,16の接合強度を十分に確保できる。
【0042】
[台材剥離工程]
その後、図17に示すように、台材31を剥離する。網16の周縁部と枠13が強固に接合しているため、枠13の厚さが小さくても、台材31の剥離時に枠13が台材31にくっ付いて網16から分離するのを防止できる。網16の中央部と整流部17が強固に接合しているため、整流部17の厚さが小さくても、台材31の剥離時に整流部17が台材31にくっ付いて網16から分離するのを防止できる。
【0043】
図18〜図20は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態は、第2実施形態の硬化工程の変形例に係る。
【0044】
[硬化工程]
図18に示すように、第3実施形態では、第2実施形態と同様にして作製した枠原体30を複数用意する。枠原体30の枚数は、例えば数枚〜数百枚である。図19に示すように、各枠原体30の四隅の所定の位置には、位置決め孔39を形成しておく。
【0045】
図18に示すように、これら枠原体30を互いに積層する。好ましくは、隣接する枠原体30,30どうしの間に硬質の板38を挟む。図示は省略するが、板38には、枠原体30の孔39に対応する位置に同様の位置決め孔を形成しておく。そして、位置決めピンを位置決め孔39に通し、枠原体30及び板38を位置決めする。積層した枠原体30をクランプ等を用いて積層方向に締め付けて加圧する。これにより、枠原体30ひいては枠13の厚さ方向の中間部に空気層が形成されるのを確実に防止できる。
【0046】
ここで、図20(b)に示すように、隣接する枠原体30,30どうしを、これらの間に板38を挟むことなく直接重ね合わせて加圧した場合、これら枠原体30,30がずれていたり、形状又は大きさにばらつきがあったりすると、各枠原体30のはみ出した側の端部30eが盛り上がるように変形する。
【0047】
これに対し、図20(a)に示すように、隣接する枠原体30,30どうし間に板38を挟むことによって、上記ずれやばらつきがあっても、枠原体30のはみ出した側の端部30eが変形するのを防止できる。したがって、枠原体30の寸法精度や積層時の位置決め精度を緩和できる。
【0048】
上記多数の枠原体30の積層体をクランプ等で締め付けた状態のままで加硫装置に入れて加硫する。これにより、一度に多数の枠原体30を硬化させ、一度に多数の枠13を生産することができる。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変をなすことができる。
例えば、枠13の製造工程は適宜変更してもよい。
枠原料33の種類や硬度によっては、覆材32を設けなくても型抜きに支障を来さない場合もある。その場合、被覆工程及び覆材剥離工程を省略してもよい。
整流部17を省略してもよい。型抜き工程において、塗布体34の整流部17になる部分37を残置しないことにしてもよい。
枠原料33は、熱硬化性又は光硬化性等の樹脂であってもよい。枠原料33が熱硬化性樹脂である場合、硬化工程では、枠原料33の加熱を行なう。枠原料33が光硬化性樹脂である場合、硬化工程では、枠原料33への光照射を行なう。
第2実施形態の網設置工程において、2つの半体36A,36Bのうち一方(例えば下側の半体36B)にのみ網16を設けてもよい。
【0050】
溶媒(淡水)が抽出される反応剤は、海水に限られず、塩水、泥水、汚水、灌水等でもよい。
上記実施形態の膜蒸留装置1は、蒸留膜14を介して溶液流路15Aから溶媒流路15Bへ溶媒蒸気が直接的に移動するダイレクト式であったが、本発明は、ギャップ式の膜蒸留装置にも適用できる。ギャップ式の膜蒸留装置は、蒸留膜に加えて、気体も液体も通さない不透過膜を含む。蒸留膜と不透過膜との間に溶媒抽出室が形成されている。不透過膜が冷溶液流路と溶媒抽出室とを仕切っている。蒸留膜が温溶液流路と溶媒抽出室とを仕切っている。比較的低温の溶液(海水等)が冷溶液流路に通される。この溶液が熱源にて加温された後、温溶液流路に通される。温溶液流路の溶液中の溶媒蒸気が蒸留膜を介して溶媒抽出室に入る。この溶媒蒸気が、不透過膜を介して冷溶液流路の溶液により冷却されて凝縮する。凝縮した溶媒(淡水等)が溶媒抽出室から取り出される。上記冷溶液流路、温溶液流路、溶媒抽出室が、それぞれ枠13の枠内空間15によって構成される。
【0051】
本発明は、膜蒸留装置に限られず、熱交換器や電気透析装置等の、膜を反応媒介とする他の膜反応装置にも適用可能である。
淡水等の溶媒又は分散媒が抽出される反応剤は、海水に限られず、塩水、泥水、汚水、灌水等でもよい。
透析装置においては、反応剤が血液等の透析溶液であってもよい。
熱交換器においては、反応剤が水や不凍液等の熱媒又は冷媒であってもよい。
膜反応装置の反応剤は、枠内空間に収容されていればよく、必ずしも枠内空間を流通するものに限られない。
【実施例1】
【0052】
実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
この実施例は、第3実施形態(図18〜図20(a))に対応する。枠原料33は、シリコーンゴム(加硫前)であった。枠原料33の厚さは、0.7mmであった。網16の材質はポリプロピレンであった。網16の網目間隔は、2.5mmであった。網16は、二重とし、二重網全体の厚さが0.6mmであった。各整流部17の長さ(図19において左右方向の寸法)は1100mmであった。各整流部17の幅(図19において上下方向の寸法)は20mmであった。各整流路18の幅(図19において上下方向の寸法)は100mmであった。整流部17の長手方向の端部と枠対応部分35の内周縁との間の距離は、100mmであった。
【0053】
上記の枠原体30を8枚作製した。そして、図18に示すように、これら枠原体30を、互いの間に板38を挟んで積層し、積層方向の両側からクランプして締め付けた。締め付けは、加硫前の各ゴム33の厚みから算出した積層体のトータルの算出厚みに対し±500umになるように積層体のトータルの厚みを計測しながら行なった。
【0054】
クランプした枠原体30の積層体を加硫釜に入れて加硫した。加硫は、2.0気圧(絶対圧3.0気圧)の水蒸気雰囲気にて行なった。加硫温度は、133.4℃(当該圧力の飽和蒸気温度)とした。加硫時間は30分であった。
これにより、多数枚の枠13を一度に作製できた。枠13の枠原料33に対する収縮率は、1%程度に抑えることができた。
その後、台材31をきれいに剥がすことができた。台材31を剥がす際に、枠13を構成するゴムが台材31と一緒に剥がれて網16から分離することはなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
この発明は、膜蒸留装置、熱交換器及び電気透析装置等の各種の膜反応装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 膜蒸留装置(膜反応装置)
P1〜P4 ポート
11 表板
12 裏板
13 枠
14 蒸留膜
15 枠内空間
16 網
17 整流部
18 整流路
21〜24 ポート孔
30 枠原体
31 台材
32 覆材
33 枠原料
34 塗布体
35 枠になる部分
36A,36B 半体
37 整流部になる部分
38 板
39 位置決め孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠内が反応剤の流通又は収容される空間になる枠と、前記枠内に設けられた網と、前記枠及び前記網に重ねられて前記反応剤の反応を媒介する膜とを備えた膜反応装置の製造方法であって、
前記枠となるべき半流動性の枠原料をフィルム状又はシート状の台材に塗布する塗布工程と、
前記枠原料を前記台材と共に前記枠の形状に合わせて型抜きする型抜き工程と、
前記枠内に前記網を設け、かつ前記網の周縁部を前記枠原料の内部に埋め込む網設置工程と、
前記枠原料を硬化させて前記枠にする硬化工程と、
前記台材を前記枠から剥がす台材剥離工程と、
を順次実行することを特徴とする膜反応装置の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程後、フィルム状又はシート状の覆材を前記枠原料に被せる被覆工程を行ない、前記型抜き工程では前記枠原料を前記覆材及び前記台材と共に型抜きし、型抜き後の前記覆材を前記枠原料から剥がす覆材剥離工程を行なった後、前記網設置工程を行なうことを特徴とする請求項1に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項3】
前記覆材における前記枠原料に接する面の前記枠原料との接着力が、前記台材における前記枠原料が塗布される面の前記枠原料との接着力より小さいことを特徴とする請求項2に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程において、前記枠原料を前記台材に塗布してなる塗布体を2つ作製し、
前記型抜き工程において、前記2つの塗布体を互いにほぼ反転対称の形状になるよう型抜きしてなる2つの半体を得、
前記網設置工程において、前記2つの半体のうち少なくとも1つの半体に前記網を設置したうえで、前記2つの半体を重ね合わせ、これら2つの半体の枠原料どうしを同体化することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項5】
前記2つの半体の枠原料どうしを同体化してなる枠原体を複数作製し、前記複数の枠原体を互いに積層し、かつ隣接する枠原体どうしの間には板を挟み、更に前記複数の枠原体をこれら枠原体の積層方向に加圧したうえで前記硬化工程を行なうことを特徴とする請求項4に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項6】
前記型抜き工程において、前記枠内空間の内部に前記枠原料の一部が残置されるように前記型抜きを行ない、前記網設置工程において、前記網の中央部を前記枠原料の前記一部の内部に埋め込むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項1】
枠内が反応剤の流通又は収容される空間になる枠と、前記枠内に設けられた網と、前記枠及び前記網に重ねられて前記反応剤の反応を媒介する膜とを備えた膜反応装置の製造方法であって、
前記枠となるべき半流動性の枠原料をフィルム状又はシート状の台材に塗布する塗布工程と、
前記枠原料を前記台材と共に前記枠の形状に合わせて型抜きする型抜き工程と、
前記枠内に前記網を設け、かつ前記網の周縁部を前記枠原料の内部に埋め込む網設置工程と、
前記枠原料を硬化させて前記枠にする硬化工程と、
前記台材を前記枠から剥がす台材剥離工程と、
を順次実行することを特徴とする膜反応装置の製造方法。
【請求項2】
前記塗布工程後、フィルム状又はシート状の覆材を前記枠原料に被せる被覆工程を行ない、前記型抜き工程では前記枠原料を前記覆材及び前記台材と共に型抜きし、型抜き後の前記覆材を前記枠原料から剥がす覆材剥離工程を行なった後、前記網設置工程を行なうことを特徴とする請求項1に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項3】
前記覆材における前記枠原料に接する面の前記枠原料との接着力が、前記台材における前記枠原料が塗布される面の前記枠原料との接着力より小さいことを特徴とする請求項2に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程において、前記枠原料を前記台材に塗布してなる塗布体を2つ作製し、
前記型抜き工程において、前記2つの塗布体を互いにほぼ反転対称の形状になるよう型抜きしてなる2つの半体を得、
前記網設置工程において、前記2つの半体のうち少なくとも1つの半体に前記網を設置したうえで、前記2つの半体を重ね合わせ、これら2つの半体の枠原料どうしを同体化することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項5】
前記2つの半体の枠原料どうしを同体化してなる枠原体を複数作製し、前記複数の枠原体を互いに積層し、かつ隣接する枠原体どうしの間には板を挟み、更に前記複数の枠原体をこれら枠原体の積層方向に加圧したうえで前記硬化工程を行なうことを特徴とする請求項4に記載の膜反応装置の製造方法。
【請求項6】
前記型抜き工程において、前記枠内空間の内部に前記枠原料の一部が残置されるように前記型抜きを行ない、前記網設置工程において、前記網の中央部を前記枠原料の前記一部の内部に埋め込むことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の膜反応装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20(a)】
【図20(b)】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20(a)】
【図20(b)】
【公開番号】特開2011−235241(P2011−235241A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109473(P2010−109473)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】
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