説明

膜触媒層接合体の製造方法

【課題】基材シートを剥離した際の電解質膜の湾曲を防止する膜触媒層接合体の製造方法、及びその方法に用いる触媒層転写シートを提供する。
【解決手段】本発明に係る触媒層転写シート中間体は、膜触媒層接合体を製造するためのものであって、基材シートと、基材シートの一方面に接着し、枠状となるように中央部に開口が形成されている自己粘着性の電解質膜支持体と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いられる膜触媒層接合体の製造方法、及びこの方法で用いられる触媒層転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の両面に電極が配置され、水素と酸素の電気化学反応により発電する電池であり、発電時に発生するのは水のみである。このように従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために次世代のクリーンエネルギーシステムとして普及が見込まれている。その中でも特に固体高分子形燃料電池は、作動温度が低く、電解質の抵抗が少ないことに加え、活性の高い触媒を用いるので小型でも高出力を得ることができ、家庭用コージェネレーションシステム等として早期の実用化が見込まれている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池は、一般に、電解質膜の両面に触媒層を形成し、次いでその両面にガス拡散層を形成し、さらにこれらをセパレータで挟んだ構造を有している。電解質膜の両面に触媒層を形成したものは、膜触媒層接合体と称されている。膜触媒層接合体の製造方法として、基材シートの表面に触媒層を形成して電解質膜の両面に配置し、ホットプレス等により、触媒層を電解質膜上に転写し、電解質膜及び触媒層から基材シートを剥離する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−286560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した方法においては、基材シートを剥離した際に電解質膜が湾曲するという問題がある。すなわち、電解質膜は、基材シートが両面に接着している間は、基材シートによって両面から支持されているため平坦な状態を維持している。ところが、一方面側の基材シートが剥離されると、一方面側の支持を失った電解質膜はこの面を内側にして湾曲してしまう。また、電解質膜において触媒層が転写されない部分は、転写時に触媒層によって抑えられないため、加熱されることで一旦膨張し、その後、冷却されることで収縮しようとする。これにより、上述した湾曲はさらに顕著となる。このように電解質膜が湾曲した場合、他方面側の基材シートを剥離するときに、電解質膜に触媒層が転写されず、いわゆる転写剥離不良を引き起こす可能性がある。
【0006】
本発明は、基材シートを剥離した際の電解質膜の湾曲を防止する膜触媒層接合体の製造方法、及びその方法に用いる触媒層転写シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、膜触媒層接合体を製造するための触媒層転写シート中間体であって、基材シートと、前記基材シートの一方面に接着し、枠状となるように中央部に開口が形成されている自己粘着性の電解質膜支持体と、を備えている。
【0008】
本発明に係る触媒層転写シート中間体は、通常、電解質膜支持体の開口の内側において基材シート上に触媒層を形成して使用する。この触媒層が形成された触媒層転写シート中間体を使用して膜触媒層接合体を製造する場合、まず、触媒層と電解質膜とが対向するように触媒層転写シート中間体を電解質膜の両面に配置し、これらを加熱及び加圧する。これにより、電解質膜の両面には、触媒層が転写されるとともに、電解質膜支持体及び基材シートが順に接着する。このとき、電解質膜は、電解質膜支持体によって両面から支持されているため、平坦な状態を維持している。次に、電解質膜から基材シートのみを剥離する。電解質膜支持体は、基材シートが剥離された後も電解質膜を両面から支持し、電解質膜を平坦な状態に維持する。続いて、電解質膜の一方面側から電解質膜支持体を剥離する。一方面側の電解質膜支持体が剥離された後も、他方面側の電解質膜支持体は、その自己粘着性によって電解質膜に接着し、電解質膜を平坦な状態に維持するよう抑えている。この結果、電解質膜が湾曲するのを防止することができる。
【0009】
なお、上記電解質膜支持体は、電解質膜の湾曲を確実に防止するために、JIS K 6249で規定される1/4コーンちょう度が20〜150、またはJIS K 2207で規定される針入度が30〜250とすることが好ましい。
【0010】
上記触媒層転写シート中間体について、電解質膜支持体と同一以下の厚さの触媒層を、電解質膜支持体の開口の内側において基材シート上に形成して触媒層転写シートを作製し、これを使用して膜触媒層接合体を製造することもできる。この構成により、電解質膜を電解質膜支持体によって確実に支持することができる。
【0011】
上記触媒層転写シートを使用した膜触媒層接合体の製造方法は、まず、電解質膜と上記触媒層転写シートを準備する。次に、触媒層転写シートを触媒層が電解質膜に対向するように電解質膜の両面に配置し、加熱及び加圧することにより電解質膜に触媒層を転写する。その後、基材シートを剥離し、さらに電解質膜支持体を電解質膜から剥離する。この方法によれば、電解質膜を電解質膜支持体によって支持し続けることができ、結果として電解質膜の湾曲を防ぐことができる。
【0012】
上記方法においては、電解質膜の一方面側の電解質膜支持体を剥離した後、電解質膜の温度が40℃以下で他方面側の電解質膜支持体を剥離することができる。この方法によれば、電解質膜は、熱変形しない温度になるまで他方面側の電解質膜支持体により抑えられ続けるため、他方面側の電解質膜支持体を剥離しても、膨張や収縮が生じない。この結果、電解質膜のシワを防止することもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材シートを剥離した際の電解質膜の湾曲を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る触媒層転写シートの正面断面図である。
【図2】同触媒層転写シートの平面図である。
【図3】本発明に係る製造方法の一実施形態を示す正面断面図である。
【図4】図3の製造方法を使用して作製した膜電極接合体の正面断面図である。
【図5】図3の製造方法を使用して作製した固体高分子形燃料電池の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る触媒層転写シートの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る触媒層転写シート1は平面視矩形状の基材シート2を備えており、基材シート2の一方面には平面視矩形状の電解質膜支持体3が接着している。電解質膜支持体3の中央部には平面視矩形形状の開口31が形成されており、開口31より基材シート2が露出するようになっている。この基材シート2の露出部分において、触媒層4が電解質膜支持体3とほぼ同一厚さとなるように形成されている。なお、図1において、触媒層4を除いたものが本発明に係る触媒層転写シート中間体に相当する。
【0017】
基材シート2は、取り扱い性及び経済性の観点から、厚さを6〜100μm程度、好ましくは10〜30μm程度とするのがよい。基材シート2の材料としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパラバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリオレフィン等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。さらには、アート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙などの非塗工紙であっても良い。中でも、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。
【0018】
電解質膜支持体3は、後述する触媒層4に白金を含む系を使用する場合、厚さを20μm〜300μm、好ましくは25μm〜150μm、より好ましくは30μm〜100μm、触媒層4に白金を含まない系を使用する場合、厚さを300μm〜2000μm、好ましくは500μm〜1500μm、より好ましくは600μm〜1000μmとするのがよい。電解質膜支持体3の材料としては、ゴム状弾性体を含むものが用いられる。ゴム状弾性体の材料としては、例えば、天然ゴム、スチレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム等を挙げることができる。中でも、化学的に活性な触媒層と接触しても分解産物を生成することのない、化学的に安定なシリコンゴムまたはフッ素ゴムがより好ましい。ゴム状弾性体は、電解質膜支持体3を後述する電解質膜に固定可能とする適度なタック性(弱粘着性)と、電解質膜の凹凸に対して良好な追従性とを兼ね備え、電解質膜を平坦な状態に維持することができる。タック性(弱粘着性)は、電解質膜支持体3を電解質膜5に130℃×5.0MPa×200秒の条件で圧着した後、電解質膜5から電解質膜支持体3が10秒以上剥れ落ちないことが好ましい。このタック性(弱粘着性)であると、電解質膜を固定可能で、電解質膜が湾曲・変形しようとする応力が生じても、電解質膜支持体からの剥離を防止することができる。また、ゴム状弾性体は、電解質膜に接着したときに電解質膜の湾曲・変形を抑えることのできる硬度を備えている。硬度は、JIS K 6249で規定される1/4コーンちょう度が20〜150、またはJIS K 2207で規定される針入度が30〜250であることが好ましい。この硬度であると、電解質膜が湾曲・変形しようとする応力が生じても、その応力に抗して電解質膜を平坦な状態に維持するよう抑えることができる。
【0019】
触媒層4の材料としては、触媒金属微粒子が担体に担持されてなる公知の触媒(アノード触媒及びカソード触媒)が用いられる。詳しくは、触媒層4は、触媒金属微粒子を担持させた炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を含有する。触媒金属微粒子としては、例えば、白金や白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と、白金との合金等が挙げられる。また白金を使用しない触媒金属微粒子は、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム及び銀からなる群から選ばれた少なくとも1種、当該触媒金属微粒子が2種以上からなる合金である場合は、鉄、コバルト、ニッケルのうち少なくとも2種以上含有する合金微粒子が好ましい。例えば、鉄−コバルト合金、コバルト−ニッケル合金、鉄−ニッケル合金等のほか、鉄−コバルト−ニッケル合金が挙げられる。これらの金属の各比率は限定的でなく、幅広い範囲から適宜選択できる。また、水素イオン伝導性高分子電解質としては、後述する電解質膜に使用される材料と同じものを使用することができる。
【0020】
触媒層4は、例えば、次のようにして基材シート2上に形成することができる。まず、基材シート2の一方面に、開口31の形成された電解質膜支持体3を接着させておく。次に、上述した触媒層4の材料を適当な溶剤に混合し、分散して触媒ペーストを作製する。触媒ペーストを作製する際に使用する溶剤としては、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド類、水またはこれらの混合物等が挙げられ、これらの中でもアルコール類が好ましい。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール、等の炭素数1〜4の一価アルコール、各種の多価アルコール等が挙げられる。続いて、形成される触媒層4が所望の膜厚になるように、公知の方法に従い、開口31の内側において基材シート2上に触媒ペーストを塗工する。固体高分子形燃料電池の場合、膜厚は15〜30μmが好ましい。触媒ペーストの塗工方法としては、スクリーン印刷や、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティングなどの公知の塗工方法を挙げることができる。触媒ペーストを塗工した後、所定の温度で、かつ所定の時間をかけて乾燥することにより、基材シート2上に触媒層4が形成される。乾燥温度は、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは10分〜1時間程度である。なお、触媒層4を形成する順は、上述したものに限定されず、例えば、触媒層4を形成した後、この触媒層4が開口31の内側に位置するよう、電解質膜支持体3を基材シート2に接着させることもできる。
【0021】
次に、上述した触媒層転写シートを使用して膜触媒層接合体を製造する方法を、図3を参照しつつ説明する。
【0022】
まず、電解質膜5と、触媒層転写シート1a及び1bとを準備する。なお、触媒層転写シート1aはアノード触媒層4a、触媒層転写シート1bはカソード触媒層4bを有している。電解質膜5は、例えば、基材上に水素イオン伝導性高分子電解質を含有する溶液を塗工し、乾燥することにより形成される。水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂、より具体的には、炭化水素系イオン交換膜のC−H結合をフッ素で置換したパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー(PFS系ポリマー)等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入することで、化学的に非常に安定し、スルホン酸基の解離度が高く、高いイオン伝導性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」(登録商標)、旭硝子(株)製の「Flemion」(登録商標)、旭化成(株)製の「Aciplex」(登録商標)、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」(登録商標)等が挙げられる。水素イオン伝導性高分子電解質含有溶液中に含まれる水素イオン伝導性高分子電解質の濃度は、通常5〜60重量%程度、好ましくは20〜40重量%程度である。なお、電解質膜5の膜厚は、通常20〜250μm程度、好ましくは20〜80μm程度である。
【0023】
次に、図3(a)に示すように、電解質膜5の両面に触媒層転写シート1a及び1bを配置して、積層体L1を形成する。より詳細には、アノード触媒層4aが下向きになるよう触媒層転写シート1aを電解質膜5の上面に配置し、カソード触媒層4bが上向きになるよう触媒層転写シート1bを電解質膜5の下面に配置する。
【0024】
そして、上述した積層体L1がずれないようにプレス冶具(図示省略)で挟み、積層体L1の両面より熱プレスを施す。プレス冶具は、熱伝導性に優れ、耐熱性があれば特に限定されず、ステンレス板や金属板、ゴム板、シリコンシート、テフロン(登録商標)シート等を使用することができる。熱プレスによる圧力は、転写不良を避けるために、通常0.5〜20MPa程度、好ましくは1〜10MPa程度がよい。また、加熱温度は、電解質膜5の破損及び変形等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下がよい。これにより、電解質膜5の上面にアノード触媒層4a、電解質膜5の下面にカソード触媒層4bが転写される。このとき、電解質膜支持体3a及び3bは、接着することで電解質膜5を両面から支持しているため、電解質膜5を平坦な状態に維持することができ、さらに加熱による電解質膜5の膨張を防ぐことができる。また、触媒層4a及び4bの転写時において、電解質膜支持体3a及び3bによって電解質膜5全体が均等に加圧されるため、電解質膜5にシワが発生するのを防ぐことができる。
【0025】
続いて、上記積層体L1を冷却し、図3(b)に示すように、積層体L1上部の基材シート2aを電解質膜支持体3a及びアノード触媒層4aより剥離する。これにより、電解質膜5の上面には電解質膜支持体3aとアノード触媒層4aが残され、電解質膜5は基材シート2aによる上面側の支持を失う。しかし、電解質膜5は、電解質膜支持体3a及び3bによって両面から支持されているため、基材シート2aを剥離した後も平坦な状態を維持している。同様に、図3(c)に示すように、基材シート2bを電解質膜支持体3b及び触媒層4bより剥離する。このようにして、図3(c)に示すような、電解質膜5の両面に電解質膜支持体3a及び3bと触媒層4a及び4bとを有する積層体L2が形成される。上述したように、電解質膜5は、電解質膜支持体3a及び3bによって両面から支持されているため、平坦な状態を維持している。また、電解質膜5は、電解質膜支持体3a及び3bにより抑えられ続けているため、余熱による膨張や冷却による収縮を生じない。
【0026】
さらに続いて、電解質膜5が40℃以下になるまで上記積層体L2を冷却した後、図3(d)に示すように、積層体L2上部の電解質膜支持体3aを剥離する。なお、電解質膜5の温度は、温度計(放射温度計(非接触型・接触型))などで測定できる。これにより、電解質膜5は電解質膜支持体3aによる上面側の支持を失い、電解質膜支持体3bにより下面側のみを支持された状態となる。しかし、電解質膜支持体3bは、JIS K 6249で規定される1/4コーンちょう度が20〜150、またはJIS K 2207で規定される針入度が30〜250であるため、電解質膜支持体3aが剥離された後も単独で電解質膜5を支持し続け、電解質膜5を平坦な状態に維持することができる。最後に、図3(e)に示すように、電解質膜支持体3bを電解質膜5より剥離し、膜触媒層接合体Mが完成する。電解質膜5は、既に40℃以下に冷却されているため、電解質膜支持体3bが剥離されても膨張や収縮が生じることはない。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、各電解質膜支持体3a及び3bは、基材シート2a及び2bが剥離された後も、電解質膜5を両面から支持するため、電解質膜5を平坦な状態に維持することができる。さらに、電解質膜支持体3a及び3bは、JIS K 6249で規定される1/4コーンちょう度が20〜150、またはJIS K 2207で規定される針入度が30〜250であるため、一方の電解質膜支持体3aが剥離された後も、他方の電解質膜支持体3bのみによって電解質膜5を支持し続け、電解質膜5を平坦な状態に維持することができる。この結果、電解質膜5の湾曲を防止することができる。また、電解質膜5は、40℃以下に冷却されるまで電解質膜支持体3a及び3bで抑えられ続けることにより、電解質膜支持体3a及び3bを剥離しても膨張や収縮が生じず、この結果、電解質膜5のシワを防止することもできる。
【0028】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、基材シート2、電解質膜支持体3、及び開口31を平面視矩形状としていたが、これに限定されず、平面視円形状、平面視多角形状等、種々の形状であってもよい。
【0029】
また、上記実施形態では、触媒層4を電解質膜支持体3とほぼ同一厚さに形成していたが、電解質膜支持体3が電解質膜を確実に支持できればよく、触媒層4を電解質膜支持体3より薄く形成することもできる。
【0030】
また、上記実施形態に係る触媒層転写シート1において、基材シート2と触媒層4との間に離型層を形成してもよい。離型層は、例えば、化学気相成長法、物理気相成長法等の公知の方法で製造することができる。剥離性の観点から、離型層はケイ素酸化物から成り、化学気相成長法で形成されるものが好ましい。
【0031】
また、上記実施形態では、電解質膜支持体3a及び3bを剥離する前に電解質膜5を冷却していたが、少なくとも、最後に残された電解質膜支持体3bを剥離するときまでに、電解質膜5が40℃以下に冷却されていればよい。
【0032】
また、上記では膜触媒層接合体の製造方法の一実施形態について説明したが、図3及び図4に示すように、この方法で得られた膜触媒層接合体Mの触媒層4a及び4b上にガス拡散層6a及び6bを形成し、膜電極接合体M2を作製することができる。なお、ガス拡散層6a及び6bとしては、燃料極、空気極を構成する公知のガス拡散層を使用することができる。この公知のガス拡散層は多孔質の導電性基材から成り、多孔質の導電性基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。
【0033】
さらに、図5に示すように、上記膜電極接合体M2において、触媒層4a及び4bとガス拡散層6a及び6bとの周囲を囲むように枠状のガスケット7a及び7bを設置し、ガス拡散層6a及び6bと電気的に接続するようセパレータ8a及び8bで挟持することによって、固体高分子形燃料電池Pを作製することができる。なお、ガスケット7a及び7bとしては、熱プレスに耐えうる強度を保ち、かつ、外部に燃料及び酸化剤を漏出しない程度のガスバリア性を有しているものであればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレートシートやテフロン(登録商標)シート、シリコンゴムシート等が挙げられる。セパレータ8a及び8bとしては、燃料電池内の環境においても安定な導電性板であればよく、一般的には、カーボン板にガス流路を形成したものが使用される。また、ステンレス等の金属の表面にクロム、白金族金属又はその酸化物、導電性ポリマー等の導電性材料からなる被膜を形成したものや、上記金属の表面に銀、白金族の複合酸化物、窒化クロム等によるメッキ処理を施したものも使用することができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
最初に、図1に示すような触媒層転写シート1を次の要領で作製した。まず、基材シート2として、大きさ100×100mmのテフロン(登録商標)フィルム(膜厚50μm:ニチアス製)を準備した。電解質膜支持体3として、大きさ80×80mm、厚さ50μmの自己粘着弾性体(λGEL DP-100[1/4コーンちょう度 51](GELTEC社製))を準備し、この中央部に大きさ50×50mmの開口31を形成した。この電解質膜支持体3を基材シート2の一方面に接着させ、触媒層転写シート中間体とした。続いて、白金触媒担持カーボン(白金担持量:45.7wt%、田中貴金属社製、TEC10E50E)2gに、イソプロピルアルコール20g、フッ素樹脂(5wt%ナフィオンバインダー、デュポン社製)20g、及び水6gを加え、これらを分散機によって攪拌混合し、触媒ペーストを調製した。そして、乾燥後の白金重量が0.4mg/cmとなるように、上記触媒層転写シート中間体の開口31(50×50mm)の内側において基材シート2上に触媒ペーストを塗工して触媒層4を形成し、触媒層転写シート1を得た。
【0036】
次に、上記触媒層転写シート1を使用して、図3(e)に示すような膜触媒層接合体Mを次の要領で作製した。大きさ63×63mmの電解質膜5(膜厚53μm:NRE212CS(Dupont社製))を準備し、電解質膜5の両面に上記触媒層転写シート1を、中心を合わせて配置した。これら(積層体L1)をステンレス板で挟んで130℃、5.0MPa、200秒の条件で両面から熱プレスを施し、触媒層4を電解質膜5に転写した。その後、積層体L1を室温(25℃)に冷却して基材シート2、電解質膜支持体4の順に剥離し、膜触媒層接合体Mを得た。
【0037】
(実施例2)
実施例1同様に、触媒層転写シート1を次の要領で作製した。まず、基材シート2として、大きさ100×100mmのテフロン(登録商標)フィルム(膜厚50μm:ニチアス製)を準備した。電解質膜支持体3として、大きさ80×80mm、厚さ1000μm(1mm)の自己粘着弾性体(λGEL COH-6000LVC[針入度(1/10mm)90](GELTEC社製))を準備し、この中央部に大きさ50×50mmの開口31を形成した。この電解質膜支持体3を基材シート2の一方面に接着させ、触媒層転写シート中間体とした。続いて、銀触媒担持カーボン(銀担持量:40wt%、E−TEC社製)2gに、イソプロピルアルコール10g、エタノール10g、フッ素樹脂(5wt%ナフィオンバインダー、デュポン社製)20g、及び水6gを加え、これらを分散機によって攪拌混合し、触媒ペーストを調製した。そして、乾燥後の銀重量が20mg/cmとなるように、上記触媒層転写シート中間体の開口31(50×50mm)の内側において基材シート2上に触媒ペーストを塗工して触媒層4を形成し、触媒層転写シート1を得た。その後、実施例1同様の操作で、膜触媒層接合体Mを得た。
【0038】
(実施例3)
電解質膜支持体3として、厚さ50μmの自己粘着弾性体(λGEL DP-200[1/4コーンちょう度 60](GELTEC社製))を使用した以外は、実施例1と同材料、同条件で膜触媒層接合体Mを作製した。
【0039】
(実施例4)
電解質膜支持体3として、厚さ50μmの自己粘着弾性体(λGEL DP-300[1/4コーンちょう度 60](GELTEC社製))を使用した以外は、実施例1と同材料、同条件で膜触媒層接合体Mを作製した。
【0040】
(実施例5)
電解質膜支持体3として、厚さ1000μmの自己粘着弾性体(λGEL COH-1002[針入度(1/10mm)70](GELTEC社製))を使用した以外は、実施例2と同材料、同条件で膜触媒層接合体Mを作製した。
【0041】
(実施例6)
電解質膜支持体3として、厚さ1000μmの自己粘着弾性体(αGEL θ−7[針入度(1/10mm)100](GELTEC社製))を使用した以外は、実施例2と同材料、同条件で膜触媒層接合体Mを作製した。
【0042】
(比較例1)
電解質膜支持体として開口部の形成されたメタルマスク(SUS製 厚さ30μm、)を使用した以外は、実施例1と同材料、同条件で膜触媒層接合体Mを作製した。
【0043】
(評価)
実施例1〜6、比較例1の膜触媒層接合体について、それぞれ触媒層の転写率を測定した。実施例1〜6の膜触媒層接合体については、自己粘着弾性体が電解質膜に固着していたため膜触媒層接合体は湾曲せず、その結果、転写率は100%と良好であった。比較例1の膜触媒層接合体については、メタルマスクが電解質膜に固着せず、一方面側の基材シートを剥離した段階で膜触媒層積層体が湾曲した。その結果、他方面側の基材シート剥離時に触媒層端部で転写剥離不良が発生し、転写率は90%であった。
【0044】
また、実施例1〜6、比較例1の膜触媒層接合体について、目視により電解質膜の触媒層周縁部におけるシワ発生の有無を確認した。実施例1〜6の膜触媒層接合体については、電解質膜の触媒層周縁部にシワは発生していなかった。比較例1の膜触媒層接合体については、電解質膜の触媒層周縁部に波状のシワが発生していた。
【符号の説明】
【0045】
1、1a、1b 触媒層転写シート
2、2a、2b 基材シート
3、3a、3b 電解質膜支持体
31、31a、31b 開口
4、4a、4b 触媒層
5 電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜触媒層接合体を製造するための触媒層転写シート中間体であって、
基材シートと、
前記基材シートの一方面に接着し、枠状となるように中央部に開口が形成されている自己粘着性の電解質膜支持体と、
を備えている触媒層転写シート中間体。
【請求項2】
前記電解質膜支持体は、JIS K 6249で規定される1/4コーンちょう度が20〜150である、請求項1に記載の触媒層転写シート中間体。
【請求項3】
前記電解質膜支持体は、JIS K 2207で規定される針入度が30〜250である、請求項1に記載の触媒層転写シート中間体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒層転写シート中間体と、
前記電解質膜支持体と同一以下の厚さを有するよう、前記開口の内側において前記基材シート上に形成されている触媒層と、
を備えている触媒層転写シート。
【請求項5】
電解質膜を準備するステップと、
請求項4に記載の触媒層転写シートを準備するステップと、
前記電解質膜の両面に、前記触媒層転写シートを、触媒層が前記電解質膜に対向するよう配置するステップと、
前記電解質膜に前記触媒層を加熱及び加圧して転写するステップと、
前記基材シートを剥離するステップと、
前記電解質膜から前記電解質膜支持体を剥離するステップと、
を含む膜触媒層接合体の製造方法。
【請求項6】
前記電解質膜支持体を剥離するステップは、
前記電解質膜の一方面側から前記電解質膜支持体を剥離する第1のステップと、
前記第1のステップの後、前記電解質膜の温度が40℃以下で、前記電解質膜の他方面側から前記電解質膜支持体を剥離する第2のステップと、
を含む請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の製造方法によって製造された膜触媒層接合体と、
前記各触媒層上に積層されたガス拡散層と、
を含む固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−198950(P2010−198950A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−43676(P2009−43676)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】