説明

膜電極接合体の製造方法、及び膜電極接合体製造装置

【課題】 電解質膜に触媒インクを均一に塗布できる共に電解質膜の損傷を防止できる膜電極接合体の製造方法、及び膜電極製造装置を提供する。
【解決手段】 電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、電解質膜10に張力を付与された状態において電解質膜10に触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布する。このため、電解質膜10に対して触媒インクB1及び触媒インクB2を均一な厚みで塗布することができる。さらに、膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、電解質膜10に触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布した後に、電解質膜10に付与した張力を開放する。このため、後の工程において電解質膜10を乾燥させる際に、電解質膜10の収縮が阻害されないので、電解質膜10の損傷を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体の製造方法、及び膜電極接合体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
膜電極接合体を製造する従来の方法として、例えば、特許文献1に記載の方法が知られている。特許文献1に記載の膜電極接合体の製造方法は、電解質膜を膨潤液で膨潤させる工程と、膨潤した電解質膜の外周部を矩形環状のワークで締結する工程と、ワークに締結された状態の電解質膜に触媒インクを塗布する工程と、電解質膜がワークに締結された状態において電解質膜を乾燥する工程とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−310237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の膜電極接合体の製造方法では、上述したように、膨潤した電解質膜をワークに締結した状態において触媒インクを塗布することによって、触媒インクを均一に塗布することを図っている。また、この方法では、電解質膜をワークに締結された状態において乾燥することによって、当該乾燥の際に電解質膜が収縮して皺が発生することを防止している。
【0005】
しかしながら、電解質膜がワークに締結されていると、電解質膜を乾燥する際に、電解質膜の収縮が阻害されるため、電解質膜に張力が生じることとなる。例えば、膨張率の高い電解質膜を用いる場合には、その張力も大きくなる。その結果、上述した方法にあっては、電解質膜の乾燥の際に電解質膜が損傷してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、電解質膜に触媒インクを均一に塗布できる共に電解質膜の損傷を防止できる膜電極接合体の製造方法、及び膜電極製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の膜電極接合体の製造方法は、燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、電解質膜を膨潤液により膨潤させる第1工程と、第1工程の後に、電解質膜の表面及び裏面から膨潤液を除去する第2工程と、第2工程の後に、電解質膜に張力を付与する第3工程と、第3工程の後に、電解質膜に張力が付与された状態において、電解質膜の表面及び裏面に触媒インクを塗布する第4工程と、第4工程の後に、電解質膜に付与された張力を開放する第5工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この膜電極接合体の製造方法においては、電解質膜を膨潤させた後に触媒インクを塗布する。このため、触媒インクに含まれる溶媒によって、電解質膜が膨潤して撓むことが防止される。また、この膜電極接合体の製造方法においては、電解質膜に張力を付与した状態において電解質膜に触媒インクを塗布する。このため、電解質膜に対して触媒インクを均一な厚みで塗布することができる。さらに、この膜電極接合体の製造方法においては、電解質膜に触媒インクを塗布した後に、電解質膜に付与した張力を開放する。このため、後の工程において電解質膜を乾燥させる際に、電解質膜の収縮が阻害されないので、電解質膜の損傷を防止することができる。
【0009】
本発明の膜電極接合体の製造方法は、第5工程の後に、電解質膜の表面及び裏面の上に触媒インクを介してガス拡散層を積層すると第6工程と、第6工程の後に、電解質膜を乾燥させる第7工程と、をさらに備えることが好ましい。この方法によれば、上述したように、電解質膜の損傷を防止しつつ電解質膜の乾燥を行うことができる。
【0010】
また、本発明の膜電極接合体の製造方法においては、第6工程において、ガス拡散層と触媒インクとの間にマイクロポーラス層を配置して、触媒インクに含まれる溶媒をマイクロポーラス層及びガス拡散層で吸収することにより、触媒インクから触媒層を形成する、ことが好ましい。この方法によれば、触媒インクに含まれる溶媒の吸収時に、触媒層とマイクロポーラス層との密着性が高まり、電解質膜とガス拡散層との密着性を高めることができる。
【0011】
また、本発明の膜電極接合体の製造方法は、第7工程の後に、電解質膜、触媒層、マイクロポーラス層、及びガス拡散層を互いに圧着する第8工程をさらに備える、ことが好ましい。この方法によれば、損傷が防止された電解質膜や均一な厚さの触媒層等を圧着することにより、高品質な膜電極接合体を製造することができる。
【0012】
さらに、本発明の膜電極接合体の製造方法においては、第7工程において、ガス拡散層と電解質膜とを密着させるようにガス拡散層に力を加えながら電解質膜を乾燥させる、ことが好ましい。この方法によれば、電解質膜に皺が生じることを抑制し、電解質膜とガス拡散層との密着性を確保することができる。
【0013】
ここで、上記課題を解決するために、本発明の膜電極接合体製造装置は、燃料電池に用いられる膜電極接合体を製造する膜電極接合体製造装置であって、電解質膜を膨潤液により膨潤させる膨潤部と、膨潤した電解質膜の表面及び裏面の膨潤液を除去する膨潤液除去部と、表面及び裏面から膨潤液を除去された電解質膜に張力を付与すると共に、電解質膜に付与した張力を開放する張力付与開放部と、電解質膜に張力が付与されてから張力が開放されるまでの間において、電解質膜の表面及び裏面に触媒インクを塗布する触媒インク塗布部と、触媒インクが塗布されて張力が開放された電解質膜の表面及び裏面の上に触媒インクを介してガス拡散層を積層する積層部と、ガス拡散層が積層された電解質膜を乾燥させる乾燥部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
この膜電極接合体製造装置においては、電解質膜を膨潤させた後に触媒インクを塗布する。このため、触媒インクに含まれる溶媒によって、電解質膜が膨潤して撓むことが防止される。また、この膜電極接合体製造装置においては、電解質膜に張力を付与した状態において電解質膜に触媒インクを塗布する。このため、電解質膜に対して触媒インクを均一に塗布することができる。さらに、この膜電極接合体製造装置においては、電解質膜に付与した張力を開放した後に乾燥を行う。このため、その乾燥の際に電解質膜の収縮が阻害されないので、電解質膜の損傷を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電解質膜に触媒インクを均一に塗布できる共に電解質膜の損傷を防止できる膜電極接合体の製造方法、及び膜電極製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の膜電極製造装置の一実施形態の構成を示す図である。
【図2】図1に示された触媒インク塗布部の拡大図である。
【図3】本発明の膜電極接合体の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本発明の膜電極接合体製造装置の一実施形態の構成を示す図である。図1に示される膜電極接合体製造装置1は、燃料電池に用いられる膜電極接合体を製造するためのものである。膜電極接合体製造装置1は、電解質膜10を所定の搬送経路に沿って搬送しつつ、電解質膜10を含む膜電極接合体を製造する。電解質膜10としては、例えば、固体高分子電解質膜を用いることができる。
【0019】
膜電極接合体製造装置1は、膨潤液槽(膨潤部)2、触媒インク塗布部(膨潤液除去部、張力付与開放部、触媒インク塗布部)3、ガス拡散層積層部(積層部)4、及び乾燥チャンバー(乾燥部)5を備えている。膨潤液槽2、触媒インク塗布部3、ガス拡散層積層部4、及び乾燥チャンバー5は、電解質膜10の搬送経路に沿って順に配置されている。したがって、電解質膜10は、膨潤液槽2、触媒インク塗布部3、ガス拡散層積層部4、乾燥チャンバー5の順に流通する。
【0020】
膨潤液槽2は、電解質膜10を膨潤液Lにより膨潤させる。より具体的には、膨潤液槽2は、膨潤液Lを貯留しており、電解質膜10をその膨潤液Lに浸漬させることにより、電解質膜10を膨潤させる。膨潤液Lとしては、例えば、触媒インクに用いられる溶媒や水、及びこれらの混合物等を用いることができる。
【0021】
触媒インク塗布部3は、電解質膜10の表面及び裏面の両面に触媒インクを塗布する。図2を参照して触媒インク塗布部3の詳細について説明する。図2は、図1に示された触媒インク塗布部3の拡大図である。図2に示されるように、触媒インク塗布部3は、ダイヘッド31を備えている。
【0022】
ダイヘッド31は、電解質膜10の表面10aに向けて触媒インクB1を吐出すると共に、電解質膜10の裏面10bに向けて触媒インクB2を吐出する。このため、ダイヘッド31から触媒インクB1及び触媒インクB2が吐出されている状態において、電解質膜10を所定の速度でダイヘッド31に通過させることより、電解質膜10の表面10a及び裏面10bの上に触媒インクB1及び触媒インクB2を所定の厚さで塗布することができる。なお、触媒インクB1と触媒インクB2とは、互いに異なるものとすることができる。触媒インクB1は、例えば、アノード触媒を含むインクとすることができる。触媒インクB2は、例えば、カソード触媒を含むインクとすることができる。
【0023】
ここで、電解質膜10には、触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布する塗布領域R1とそれらを塗布しない未塗布領域R2とが、搬送方向に沿って交互に設定されている。ダイヘッド31は、触媒インクB1及び触媒インクB2を吐出する時間を調整することにより、塗布領域R1にのみ触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布する。
【0024】
ダイヘッド31には、電解質膜10の表面10a及び裏面10bから膨潤液Lを除去するための水かき部32が設けられている。水かき部32は、ダイヘッド31のインク吐出口31aの前段において電解質膜10の表面10a及び裏面10bのそれぞれに接触するように配置され、電解質膜10の幅方向に延在する一対の突起である。このため、電解質膜10が水かき部32を通過することにより、触媒インクB1及び触媒インクB2の塗布前において、その表面10a及び裏面10bに付着した余剰の膨潤液Lが除去される。
【0025】
ダイヘッド31には、インク吐出口31aと水かき部32との間において張力調整部33が設けられている。張力調整部33は、電解質膜10の表面10a及び裏面10bのそれぞれに接触するように配置され、電解質膜10の幅方向に延在するバー状の一対の突起である。インク吐出口31a、水かき部32、及び張力調整部33は、互いに近接して配置されている。張力調整部33は、電解質膜10と適当な摩擦を生じる材質から構成されることが望ましい。そのような材料の一例として、ニトリルゴムやフッ素ゴムを挙げることができる。
【0026】
触媒インク塗布部3は、電解質膜10の搬送方向に回転する一対のローラーベルト34a,34bを有している。ローラーベルト34aは、電解質膜10の表面10a側に配置されている。ローラーベルト34bは、電解質膜10の裏面10b側に配置されている。ローラーベルト34aには複数(ここでは2つ)の張力調整部35aが設けられており、ローラーベルト34bには複数(ここでは2つ)の張力調整部35bが設けられている。張力調整部35a及び張力調整部35bは、電解質膜10の幅方向に延在するバー状の突起である。張力調整部35a及び張力調整部35bについても、張力調整部33と同様に、電解質膜10と適当な摩擦を生じる材質から構成されることが望ましい。
【0027】
張力調整部35aは、電解質膜10の表面10aに接触した状態において、ローラーベルト34aの回転に伴って(図中矢印の方向に沿って)移動する。張力調整部35bは、電解質膜10の裏面10bに接触した状態において、ローラーベルト34bの回転に伴って(図中矢印の方向に沿って)移動する。張力調整部35aと張力調整部35bとは、電解質膜10に接した状態において、互いに対向するように配置されている。したがって、電解質膜10は、張力調整部35aと張力調整部35bとによって把持されながら搬送される。張力調整部35a及び張力調整部35bは、未塗布領域R2において、電解質膜10を把持する。
【0028】
このように、電解質膜10は、張力調整部35aと張力調整部35bとで把持されると共に張力調整部33に接触しながら搬送される。このため、張力調整部33と張力調整部35a,35bとの間において、電解質膜10の搬送方向に沿って電解質膜10に張力が付与される。このとき、電解質膜10と張力調整部33との接触位置が張力の起点となると共に、電解質膜10と張力調整部35a,35bとの接触位置が張力の終点となる。なお、電解質膜10への張力のかけかたの一例として、電解質膜10に適切な引張荷重がかかるようにローラーベルト34a及びローラーベルト34bの回転を制御することを挙げることができる。
【0029】
電解質膜10に接触した状態の張力調整部35a及び張力調整部35bのそれぞれは、ローラーベルト34a及びローラーベルト34bのそれぞれの端部まで移動した後に、ローラーベルト34a及びローラーベルト34bの回転に伴って、電解質膜10から離れる方向に移動する(図2(c)参照)。これにより、張力調整部35a及び張力調整部35bと電解質膜10との接触が解除され、電解質膜10に付与された張力が開放される。このとき、別の張力調整部35a及び張力調整部35bが、ローラーベルト34a及びローラーベルト34bの回転に伴って、電解質膜10に近づく方向に移動し未塗布領域R2において電解質膜10を把持する。このため、新たに電解質膜10の別の部分に張力が付与される。ダイヘッド31は、張力が付与されている状態の電解質膜10に対して、触媒インクB1,B2を塗布する。換言すれば、ダイヘッド31は、電解質膜31に張力が付与されてから張力が開放されるまでの間において、電解質膜10に触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布する。
【0030】
図1を参照して膜電極接合体製造装置1の各部の説明を続ける。ガス拡散層積層部4は、上述したように触媒インクB1及び触媒インクB2が塗布され張力が開放された電解質膜10の表面10a及び裏面10bのそれぞれの上に、触媒インクB1及び触媒インクB2のそれぞれを介してガス拡散層11を積層する。ガス拡散層11は、電解質膜10の塗布領域R1の長さと略同一の長さに予めカットされている。ガス拡散層11は、電解質膜10の塗布領域R1の上に積層される。なお、ガス拡散層11の電解質膜10側の面には、マイクロポーラス層(不図示)が形成されている。換言すれば、マイクロポーラス層は、触媒インクB1とガス拡散層11との間、及び触媒インクB2とガス拡散層11との間にそれぞれ配置されることとなる。
【0031】
ガス拡散層積層部4においては、触媒インクB1及び触媒インクB2のそれぞれを介して、電解質膜10の上にガス拡散層11とマイクロポーラス層とをそれぞれ積層することにより、触媒インクB1及び触媒インクB2のそれぞれの溶媒を、ガス拡散層11とマイクロポーラス層とに吸収させ、触媒インクB1及び触媒インクB2のそれぞれから、触媒層を形成する。つまり、ガス拡散層積層部4においては、電解質膜10と、一対の触媒層と、一対のマイクロポーラス層と、一対のガス拡散層11とを積層した積層体20が形成される。なお、ここでの触媒層は、触媒インクB1及び触媒インクB2から少なくとも一部の溶媒が除かれて形成されるものであり、必ずしも触媒インクB1及び触媒インクB2から全ての溶媒が除かれて形成されるものではない。
【0032】
乾燥チャンバー5には、粗乾燥部51が設けられている。粗乾燥部51には、上述したように形成された積層体20を挟んで対向するように、一対のキャタピラ51aが配置されている。キャタピラ51aのそれぞれは、電解質膜10に皺が生じることを抑制するために積層体20を両側から押さえながら搬送するよう積層体20に接触している。乾燥チャンバー5に搬入された積層体20は、粗乾燥部51において、キャタピラ51aによって押さえられながら加熱されることにより粗乾燥される。粗乾燥部51における加熱は、例えば、80℃〜100℃程度で行われる。
【0033】
乾燥チャンバー5における粗乾燥部51の後段には、熱処理・加圧圧着部52が設けられている。熱処理・加圧圧着部52は、積層体20を高温で熱処理し、残存溶媒の除去を行う。熱処理・加圧圧着部52は、残存溶媒の除去に続いて、複数のホットロール52aによって積層体20に高温高圧(電解質膜の材料によって適宜設定する)をかけて、電解質膜10、触媒層、マイクロポーラス層、及びガス拡散層11を互いに圧着し一体化する。これにより、積層体20から膜電極接合体30が形成される。
【0034】
乾燥チャンバー5における熱処理・加圧圧着部52の後段には、裁断部53が設けられている。裁断部53は、膜電極接合体30を所望の大きさにカットする。これにより、所望の大きさの膜電極接合体30が製造される。
【0035】
次に、図1〜3を参照して、本発明の膜電極接合体の製造方法の一実施形態について説明する。図3は、本発明の膜電極接合体の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。この製造方法は、上述した膜電極接合体製造装置1を用いる。
【0036】
まず、電解質膜10を用意する(工程S101)。ここでは、電解質膜10は、保護シートSと共にロール状に巻かれている。続いて、保護シートSを剥離しながら電解質膜10を膨潤液槽2に貯留された膨潤液Lの中に導入して、電解質膜10を膨潤液Lにより膨潤させる(工程S102:第1工程)。この工程では、電解質膜10を膨潤液Lに浸漬することにより、電解質膜10を膨潤させる。
【0037】
続いて、触媒インク塗布部3の水かき部32によって、電解質膜10の表面10a及び裏面10bから余剰の膨潤液Lを除去する(工程S103:第2工程)。続いて、張力調整部33と張力調整部35a,35bとによって電解質膜10に張力を付与する(工程S104:第3工程)。このとき、張力調整部35a及び張力調整部35bは、図2に示されるように、未塗布領域R2において電解質膜10を把持する。
【0038】
続いて、電解質膜10に張力が付与された状態において、ダイヘッド31により電解質膜10の表面10a及び裏面10bのそれぞれに触媒インクB1及び触媒インクB2のそれぞれを塗布する(工程S105:第4工程)。このとき触媒インクB1,B2を塗布する領域は、図2に示されるように、張力調整部35a,35bが把持している未塗布領域R2に続く塗布領域R1である。
【0039】
そして、張力調整部35a及び張力調整部35bと電解質膜10との接触を解除することにより、電解質膜10に付与されていた張力を開放する(工程S106:第5工程)。このとき、図2(c)に示されるように、別の張力調整部35a及び張力調整部35bが電解質膜10の次の未塗布領域R2を把持することにより、その未塗布領域R2に続く電解質膜10の部分に張力が付与される。
【0040】
続いて、ガス拡散層積層部4において、触媒インクB1及び触媒インクB2が塗布されて張力が開放された状態の電解質膜10の表面10a及び裏面10bのそれぞれの上に、触媒インクB1及び触媒インクB2のそれぞれを介して、マイクロポーラス層とガス拡散層11とを順に積層する(工程S107:第6工程)。このとき、電解質膜10に皺が生じない程度に、マイクロポーラス層とガス拡散層11とを電解質膜10に対して微加圧する。これにより、触媒インクB1及び触媒インクB2のそれぞれの溶媒が、ガス拡散層11とマイクロポーラス層とに吸収されて触媒層が形成される。そして、電解質膜10、触媒層、マイクロポーラス層、及びガス拡散層11からなる積層体20が形成される。
【0041】
続いて、粗乾燥部51によって、一対のキャタピラ51aで積層体20を押さえながら積層体20の粗乾燥を行う(工程S108:第7工程)。続いて、熱処理・加圧圧着部52によって積層体20の熱処理、及び加圧圧着を行う(工程S109:第8工程)。これにより、電解質膜10、触媒層、マイクロポーラス層、及びガス拡散層11が互いに圧着され、膜電極接合体30が形成される。そして、裁断部53によって、膜電極接合体30を所望の大きさに裁断する(工程S110)。これにより、所望の大きさの膜電極接合体30が製造される。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、電解質膜10を膨潤させた後に触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布する。このため、触媒インクB1及び触媒インクB2に含まれる溶媒によって、電解質膜が膨潤して撓むことが防止される。また、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、電解質膜10に張力を付与した状態において電解質膜10に触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布する。このため、電解質膜10に対して触媒インクB1及び触媒インクB2を均一に塗布することができる。さらに、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、電解質膜10に付与した張力を開放した後に乾燥を行う。このため、その乾燥の際に電解質膜10の収縮が阻害されないので、電解質膜10の損傷を防止することができる。
【0043】
また、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、積層体20は、粗乾燥部51において、一対のキャタピラ51aによって押さえられながら乾燥される。より具体的には、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、一対のキャタピラ51aによって、ガス拡散層11と電解質膜10とを密着させるようにガス拡散層11に力を加えながら積層体20の粗乾燥を行う。このため、電解質膜10に皺が生じることが抑制されると共に、積層体20を構成する電解質膜10、触媒層、マイクロポーラス層、及びガス拡散層11が互いに位置ずれすることが防止される。
【0044】
また、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、触媒インクB1及び触媒インクB2が塗布されない未塗布領域R2が電解質膜10に設定されている。この未塗布領域R2は、膜電極接合体30の完成後において、シール部として利用することができる。
【0045】
また、触媒インク塗布部3において、水かき部32とダイヘッド31のインク吐出口31aとは互いに近接して配置されている。このため、電解質膜10に触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布する直前に、電解質膜10の表面10a及び裏面10bに付着した余剰の膨潤液Lが除去されることとなる。その結果、電解質膜10に触媒インクB1及び触媒インクB2を塗布するまでの間に、電解質膜10が乾燥することを防止することができる。
【0046】
以上の実施形態は、本発明の膜電極接合体の製造方法、及び膜電極接合体製造装置の一実施形態を説明したものであり、本発明の膜電極接合体の製造方法、及び膜電極接合体製造装置は、上記のものに限定されるものではない。本発明の膜電極接合体の製造方法、及び膜電極接合体製造装置は、各請求項の要旨を変更しない範囲において、上記のものを変形したものとすることができる。
【0047】
例えば、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、膨潤液Lとして、触媒インクB1及び触媒インクB2の両方に共通して含まれる溶媒と同一の溶媒を用いることができる。
【0048】
また、本実施形態の膜電極接合体製造装置1及び膜電極接合体30の製造方法においては、一対の触媒層(アノード触媒層及びカソード触媒層)のそれぞれを異なる温度で乾燥させる必要がある場合に、工数は増加するものの、上述した方法を応用して、それぞれの触媒層のための触媒インクを別々のタイミングで電解質膜10に塗布することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…膜電極接合体製造装置、2…膨潤液槽(膨潤部)、4…ガス拡散層積層部(積層部)、10…電解質膜、10a…表面、10b…裏面、11…ガス拡散層、31…ダイヘッド(触媒インク塗布部)、33…張力調整部(張力付与開放部)、35a,35b…張力調整部35a(張力付与開放部)、51…粗乾燥部(乾燥部)、B1,B2…触媒インク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に用いられる膜電極接合体の製造方法であって、
電解質膜を膨潤液により膨潤させる第1工程と、
前記第1工程の後に、前記電解質膜の表面及び裏面から前記膨潤液を除去する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記電解質膜に張力を付与する第3工程と、
前記第3工程の後に、前記電解質膜に前記張力が付与された状態において、前記電解質膜の前記表面及び前記裏面に触媒インクを塗布する第4工程と、
前記第4工程の後に、前記電解質膜に付与された前記張力を開放する第5工程と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体の製造方法。
【請求項2】
前記第5工程の後に、前記電解質膜の前記表面及び前記裏面の上に前記触媒インクを介してガス拡散層を積層する第6工程と、
前記第6工程の後に、前記電解質膜を乾燥させる第7工程とをさらに備える、
ことを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記第6工程において、前記ガス拡散層と前記触媒インクとの間にマイクロポーラス層を配置して、前記触媒インクに含まれる溶媒を前記マイクロポーラス層及び前記ガス拡散層で吸収することにより、前記触媒インクから触媒層を形成する、
ことを特徴とする請求項2記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項4】
前記第7工程の後に、前記電解質膜、前記触媒層、前記マイクロポーラス層、及び前記ガス拡散層を互いに圧着する第8工程をさらに備える、
ことを特徴とする請求項3記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項5】
前記第7工程において、前記ガス拡散層と前記電解質膜とを密着させるように前記ガス拡散層に力を加えながら前記電解質膜を乾燥させる、
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項6】
燃料電池に用いられる膜電極接合体を製造する膜電極接合体製造装置であって、
電解質膜を膨潤液により膨潤させる膨潤部と、
膨潤した前記電解質膜の表面及び裏面の前記膨潤液を除去する膨潤液除去部と、
前記表面及び前記裏面から前記膨潤液を除去された前記電解質膜に張力を付与すると共に、前記電解質膜に付与した前記張力を開放する張力付与開放部と、
前記電解質膜に前記張力が付与されてから前記張力が開放されるまでの間において、前記電解質膜の前記表面及び前記裏面に触媒インクを塗布する触媒インク塗布部と、
前記触媒インクが塗布されて前記張力が開放された前記電解質膜の前記表面及び前記裏面の上に前記触媒インクを介してガス拡散層を積層する積層部と、
前記ガス拡散層が積層された前記電解質膜を乾燥させる乾燥部と、
を備えることを特徴とする膜電極接合体製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−216379(P2012−216379A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80156(P2011−80156)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(308013252)株式会社ENEOSセルテック (67)
【Fターム(参考)】