説明

膜電極接合体の評価方法および評価装置

【課題】冷熱サイクル下における外部応力に起因した膜電極接合体の劣化についての推定を容易に行うことが可能な技術を提供する。
【解決手段】電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体の評価方法は、(a)評価対象である膜電極接合体を構成する電解質膜と、電極触媒層との接合に関する物理的特性を測定する工程と、(b)工程(a)により求められる物理的特性と、予め用意された、物理的特性と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である膜電極接合体の劣化を推定する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられる膜電極接合体の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガスと酸化剤ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。このような燃料電池のうち、固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性を有する高分子電解質膜(以下、単に「電解質膜」とも呼ぶ。)の両側にアノードおよびカソードの電極触媒層が形成された膜電極接合体(以下、「MEA」とも呼ぶ。MEA:Membrane Electrode Assembly)を備えている。MEAの両側には、カーボンクロスやカーボンペーパー等からなるガス拡散層が形成されており、MEAとガス拡散層とは燃料電池の製造工程において熱圧着等によって接合されている。このようなMEAは、温度変化に伴い電解質膜が膨張・収縮することによって、電解質膜と電極触媒層との界面近傍において電極触媒層が破壊され、燃料電池の発電性能が低下する場合があった。従来、機械的強度が強く、イオン伝導性に優れた電解質膜を提供するためのイオン交換膜が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、上述のようにMEAは、温度変化による電解質膜の膨張・収縮によって主として電極触媒層の破壊に伴う性能の劣化が起こる。このような不具合は、燃料電池による発電時に上記電気化学反応によって生成された生成水が電極触媒層の内部で凍結して膨張する氷点下の低温環境下にMEAが繰り返し晒される場合(冷熱サイクル)に特に顕著である。しかし、冷熱サイクル下における外部応力に起因したMEA(膜電極接合体)の劣化についての推定をするためには、その都度、煩雑な手順を必要としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−224953号公報
【特許文献2】特開2005−302434号公報
【特許文献3】特開2008−192328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、冷熱サイクル下における外部応力に起因した膜電極接合体の劣化についての推定を容易に行うことが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体の評価方法であって、
(a)評価対象である前記膜電極接合体を構成する前記電解質膜と、前記電極触媒層との接合に関する物理的特性を測定する工程と、
(b)前記工程(a)により求められる前記物理的特性と、予め用意された、前記物理的特性と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である前記膜電極接合体の劣化を推定する工程と、
を有する、膜電極接合体の評価方法。
このような構成にすれば、膜電極接合体を構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理的特性と、物理的特性と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である膜電極接合体の劣化を推定するため、冷熱サイクル下における外部応力に起因した膜電極接合体の劣化についての推定を容易に行うことが可能である。
【0008】
[適用例2]
適用例1記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記物理的特性は、
前記膜電極接合体を構成する前記電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力と、
前記膜電極接合体の、前記電解質膜と前記電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力と、
を含む、膜電極接合体の評価方法。
このような構成にすれば、膜電極接合体を構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理的特性として、電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力と、電解質膜と電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力とを用いることができる。
【0009】
[適用例3]
適用例2記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記劣化特性情報は、
(c)所定の前記温度収縮力と複数の前記剥離力の組合せからなる複数の前記膜電極接合体を、異なる前記温度収縮力について複数準備する工程と、
(d)前記工程(c)で準備した全ての前記膜電極接合体について、温度変化に対する前記膜電極接合体の劣化の程度を示す劣化値を予め測定する工程と、
を含む工程において生成される、膜電極接合体の評価方法。
このような構成にすれば、複数の膜電極接合体について予め測定された劣化値をもとに生成された劣化特性情報に基づいて膜電極接合体の劣化を推定するため、冷熱サイクル下における外部応力に起因した膜電極接合体の劣化についての推定を容易に行うことが可能である。
【0010】
[適用例4]
適用例2または3記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記工程(a)は、
(a1)前記温度収縮力の測定対象である電解質膜を準備する工程と、
(a2)前記工程(a1)で準備した測定対象に対して、環境温度を変化させた場合に発生する荷重変化を測定する工程と、
(a3)前記剥離力の測定対象として、一対の電解質膜の内面に電極触媒層が形成された層構成体を準備する工程と、
(a4)前記工程(a3)で準備した測定対象の少なくとも一方の前記電解質膜の端部に対して、前記電解質膜を前記層構成体から剥離させる方向に向かう力を加え、前記電解質膜と前記電極触媒層とに剥離が発生した際に必要とした力を測定する工程と、
を含む、膜電極接合体の評価方法。
このような構成にすれば、電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力と、電極触媒層の電解質膜との界面における剥離のしやすさである剥離力とを測定することができる。
【0011】
[適用例5]
適用例1記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記物理的特性は、
前記膜電極接合体の繰返し荷重に対する耐久力の程度を示す耐久値を含む、膜電極接合体の評価方法。
このような構成にすれば、膜電極接合体を構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理的特性として、繰返し荷重に対する耐久力を用いることができる。
【0012】
[適用例6]
適用例5記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記劣化特性情報は、
(e)一対の電解質膜の内面に電極触媒層が形成された層構成体であって、前記電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力が所定の値、かつ、前記電解質膜と前記電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力が異なる複数の層構成体を、異なる前記温度収縮力について複数準備する工程と、
(f)前記工程(e)で準備した全ての前記層構成体について、一方の前記電解質膜の端部を第1の方向に固定し、他方の前記電解質膜の前記第1の方向とは逆側の第2の方向に位置する端部に対して、前記第2の方向へ向かう力を繰返し加え、前記電解質膜と前記電極触媒層とが破断するまでの回数で示される前記耐久値を予め測定する工程と、
(g)所定の前記温度収縮力と複数の前記剥離力の組合せからなる複数の前記膜電極接合体を、異なる前記温度収縮力について複数準備する工程と、
(h)前記工程(g)で準備した全ての前記膜電極接合体について、温度変化に対する前記膜電極接合体の劣化の程度を示す劣化値を予め測定する工程と、
(i)前記工程(f)において測定された前記耐久値と、前記工程(h)において測定された前記劣化値とを対応付ける工程と、
を含む工程において生成される、膜電極接合体の評価方法。
このような構成にすれば、複数の層構成体について予め用意された耐久値と、複数の膜電極接合体について予め用意された劣化値とを対応付けた劣化特性情報に基づいて膜電極接合体の劣化を推定するため、冷熱サイクル下における外部応力に起因した膜電極接合体の劣化についての高精度な推定を容易に行うことが可能である。
【0013】
[適用例7]
適用例5または6記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記工程(a)は、
(a1)前記耐久値の測定対象として、一対の電解質膜の内面に電極触媒層が形成された層構成体を準備する工程と、
(a2)前記工程(a1)で準備した測定対象に対して、一方の前記電解質膜の端部を第1の方向に固定し、他方の前記電解質膜の前記第1の方向とは逆側の第2の方向に位置する端部に対して、前記第2の方向へ向かう力を繰返し加え、前記電解質膜と前記電極触媒層とが破断するまでの回数で示される前記耐久値を測定する工程と、
を含む、膜電極接合体の評価方法。
このような構成にすれば、電極触媒層の繰返し荷重に対する耐久力の程度を示す耐久値を測定することができる。
【0014】
[適用例8]
電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体の評価装置であって、
評価対象である前記膜電極接合体を構成する前記電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力を測定する第1の測定部と、
評価対象である前記膜電極接合体の、前記電解質膜と前記電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力を測定する第2の測定部と、
前記温度収縮力と、前記剥離力と、予め用意された前記温度収縮力と前記剥離力と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である前記膜電極接合体の劣化を推定する推定部と、
を備える、膜電極接合体の評価装置。
【0015】
[適用例9]
電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体の評価装置であって、
評価対象である前記膜電極接合体の繰返し荷重に対する耐久力の程度を示す耐久値を測定する第1の測定部と、
前記耐久値と、予め用意された前記耐久値と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である前記膜電極接合体の劣化を推定する推定部と、
を備える、膜電極接合体の評価装置。
【0016】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能である。例えば、膜電極接合体の評価方法および装置、燃料電池用膜電極接合体の評価方法および装置、燃料電池用膜電極接合体を用いた燃料電池又は燃料電池システムの評価方法および装置等の形態で実現することができる。また、本発明は、上述した種々の特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、その一部を省略して構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】燃料電池の概略構成を示す説明図である。
【図2】膜電極接合体の劣化を推定するための評価装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】第1実施例における膜電極接合体の劣化の推定手順を示すフローチャートである。
【図4】劣化特性情報の生成についての説明図である。
【図5】冷熱サイクル試験により求められた劣化特性情報の他の例を示すグラフである。
【図6】剥離力の測定についての説明図である。
【図7】第2実施例における膜電極接合体の劣化の推定手順を示すフローチャートである。
【図8】第2実施例における劣化特性情報の生成についての説明図である。
【図9】耐久値の測定についての説明図である。
【図10】耐久値の測定結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
【0019】
A.第1実施例:
A−1.燃料電池の概略構成について:
図1は、燃料電池の概略構成を示す説明図である。本実施例における燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、1つのセル(単セル20)を複数積層したスタック構造を有している。単セル20は、電解質を含むMEA(膜電極接合体)21と、MEA21の両側に形成されたガス拡散層22、23とを備えている。ガス拡散層22、23は、その両側を、さらにセパレータ24、25にて挟持されている。
【0020】
MEA21は、電解質膜30と、電解質膜30の両側に形成された一対の電極触媒層31、32とを備えている。電解質膜30は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。電極触媒層31、32は、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金、或いは白金と他の金属から成る合金を備えた多孔質体であり、ガス透過性を備えている。
【0021】
ガス拡散層22、23は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンペーパーなどの炭素材料や、発泡金属、金属メッシュなどの金属部材によって形成することができる。ガス拡散層22、23は、電気化学反応に供されるガスの流路となり、ガスの拡散性を向上させるほか、集電を行なう。ガス拡散層22は、セパレータ24に接するガス拡散部材33と、MEA21に接する電極側ガス拡散部材34とを備えている。ガス拡散層22は、MEA21とセパレータ24との間で、水素を含有する燃料ガスが流動する単セル内燃料ガス流路を形成する。ガス拡散層23は、セパレータ25に接するガス拡散部材35と、MEA21に接する電極側ガス拡散部材36とを備えている。ガス拡散層23は、MEA21とセパレータ25との間で、酸素を含有する酸化ガスが流動する単セル内酸化ガス流路を形成する。上記した各部材(電解質膜30、電極触媒層31、32、ガス拡散部材33、35、電極側ガス拡散部材34、36)は、図中Aに示すようにそれぞれ個別に用意され、製造工程の接合処理にて、図中Bに示すように接合され単セル20を構成する。
【0022】
セパレータ24、25は、電子伝導性を有する材料で形成されたガス不透過な部材であり、例えば、ステンレス鋼等の金属部材や炭素材料によって形成することができる。本実施例におけるセパレータ24、25は、薄板状に形成されており、ガス拡散層22、23と接する面は、凹凸のない平坦面となっている。このため、ガス拡散層22、23は、単セル内燃料ガス流路や単セル内酸化ガス流路の役割は有さず、拡散の役割を少なくとも有するだけでよい。なお、セパレータ24、25は、燃料ガス流路や酸化ガス流路を有するセパレータとすることもできる。
【0023】
なお、単セル20の外周部には、単セル内燃料ガス流路および単セル内酸化ガス流路におけるガスシール性を確保するために、ガスケット等のシール部材が配設されている。また、単セル20の外周部には、単セル20の積層方向と平行であって燃料ガスあるいは酸化ガスが流通する複数のガスマニホールドが設けられている(図示省略)。これら複数のガスマニホールドのうちの燃料ガス供給マニホールドを流れる燃料ガスは、各単セル20に分配され、電気化学反応に供されつつ各単セル内燃料ガス流路(ガス拡散層22)内を通過し、その後、燃料ガス排出マニホールドに集合する。同様に、酸化ガス供給マニホールドを流れる酸化ガスは、各単セル20に分配され、電気化学反応に供されつつ各単セル内酸化ガス流路(ガス拡散層23)内を通過し、その後、酸化ガス排出マニホールドに集合する。図1では、単セル内燃料ガス流路における燃料ガス(H2)と単セル内酸化ガス流路における酸化ガス(O2)とは並行に流れるように記載しているが、これらのガスの流れは、ガスマニホールドの配置によって、上記した並行の他、対向、直交など異なる向きに流れることとしても良い。
【0024】
燃料電池に供給される燃料ガスとしては、水素リッチガスを用いても良いし、純水素ガスを用いても良い。また、燃料電池に供給される酸化ガスとしては、例えば空気を用いることができる。
【0025】
A−2.膜電極接合体の劣化の推定について:
図2は、膜電極接合体の劣化を推定するための評価装置の概略構成を示す説明図である。この評価装置10は、第1の測定部100と、第2の測定部200と、本体装置300とを備えている。本体装置300は、測定情報読取部310と、推定部320と、入力部330と、表示部340と、記憶部350とを備えている。記憶部350には、予め劣化特性情報352が記憶されている。
【0026】
第1の測定部100は、後述する手順(A−4.低温収縮力の測定方法)により、評価対象となるMEAを構成する電解質膜の低温収縮力を測定する。第2の測定部200は、後述する手順(A−5.剥離力の測定方法)により、評価対象となるMEAの剥離力を測定する。測定情報読取部310は、第1の測定部100および第2の測定部200による測定結果を読み取り、測定結果を推定部320へ受け渡す。推定部320は、図示しないCPUと、ROMやRAM等の内部記憶装置を含み、後述する手順によってMEAの劣化の推定を行う。入力部330は、図示しない入力画面や操作ボタン等を通して利用者からの入力を受け付ける。利用者から入力される情報には、例えば、第1の測定部100や第2の測定部200における測定条件や、推定部320における評価の開始指示等がある。
【0027】
記憶部350には、予め劣化特性情報352が格納されている。この劣化特性情報352は、MEAを構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理的特性と、MEAの劣化の程度との関連を示す情報である。本実施例では、MEAを構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理的特性を示すパラメータとして、低温収縮力と、剥離力とを用いている。温度収縮力としての低温収縮力は、電解質膜の温度変化(氷点下の温度条件)に対する収縮力を示す。剥離力は、電解質膜と、電極触媒層との界面における剥離のしやすさを示す。劣化特性情報は、後述する手順(A−3.劣化特性情報の生成方法)により生成され、予め記憶部350に格納される。なお、劣化値とは、温度変化に対する膜電極接合体の劣化の程度を示す値を意味する。なお、記憶部350は、例えば、ハードディスクや、フラッシュメモリ、光ディスク等のデータ記録装置で構成することができる。
【0028】
図3は、第1実施例における膜電極接合体の劣化の推定手順を示すフローチャートである。ステップS110において推定部320は、評価指示の有無を判断する。具体的には、例えば、入力部330からの評価の開始指示を受け取った場合に評価指示ありと判断することができる。評価指示がない場合は処理を終了する。一方、評価指示がある場合、ステップS120において第1の測定部100は、電解質膜の低温収縮力を測定する。ステップS130において第2の測定部200は、MEAの剥離力を測定する。ステップS140において推定部320は、測定情報読取部310から受け取った測定結果(低温収縮力、剥離力)を用いて、MEAの劣化を推定する。具体的には、まず、推定部320は、記憶部350に格納された劣化特性情報352を読み出す。その後、推定部320は、劣化特性情報352と、ステップS120において測定された電解質膜の低温収縮力と、ステップS130において測定されたMEAの剥離力を用いて、MEAの劣化の推定を行う(詳細は後述)。MEAの劣化の推定を行った後、推定部320は、表示部340の図示しないディスプレイに表示し、処理を終了する。なお、ステップS120およびS130の順序は逆にしてもよい。
【0029】
A−3.劣化特性情報の生成方法:
燃料電池は、一般に、使用時間が長くなるほど、燃料電池を構成する各部が劣化することによって、性能低下が引き起こされる。このように経時的に進行する燃料電池の性能低下を引き起こす主要な要因の一つとして、燃料電池が氷点下の温度条件に晒されることによって進行するMEAの劣化(実質的には電極触媒層の劣化)が挙げられる。燃料電池の温度が低下するときには、燃料電池の構成部材のうち、特に電解質膜が大きく収縮する。また、燃料電池が氷点下の温度条件において用いられる場合には、燃料電池内に残留する水分が凍結し、これによって、水分が残留する多数の細孔の内部が氷結し、電解質膜上に設けられた電極触媒層全体が、凍結して硬くなる。そのため、氷点下の温度条件では、凍結によって硬くなった電極触媒層と電解質膜との界面において、温度低下により収縮した電解質膜で応力が発生して、MEAの劣化(具体的には、電極触媒層の電解質膜からの部分的な剥離等)が生じる。
【0030】
図4は、劣化特性情報の生成についての説明図である。劣化特性情報の生成は、i)低温収縮力と剥離力とが異なる複数のMEAを準備する工程と、ii)工程iで準備した全てのMEAに対して劣化値を測定する工程と、を有している。この劣化値は、温度条件を種々変更しつつ行う試験(冷熱サイクル試験)によって測定する。
【0031】
図4(A)は、劣化特性情報の生成に用いるサンプルについての説明図である。カーボン種別は、電極触媒層において使用される炭素担体(C)の種別を示す。I/C重量比は、電極触媒層における炭素担体(C)に対するアイオノマ樹脂(I)の質量比(すなわち、アイオノマ樹脂(I)/炭素担体(C)の質量比、以下、「I/C」とも呼ぶ。)である。転写温度は、電解質膜に電極触媒層を転写する際の温度を示す。
【0032】
手順iでは、図4(A)に示すように、所定の低温収縮力と複数の剥離力の組合せからなる複数のMEA(15.3N:サンプル#1〜#6)を、異なる低温収縮力(15.3N,2.6N)について複数準備する。準備した全てのMEA(サンプル#1〜#8)に対して、それぞれ図1で説明した燃料電池を構成する。なお、実施例において、剥離力の調製は転写温度、I/C、カーボン種別を変更することによって行った。
【0033】
次に、手順iiでは、各々の燃料電池に対して、以下の(1)〜(7)工程を実行することにより、劣化値を測定する。なお、本実施例では、燃料電池について求めた劣化の程度を、MEAそのものの劣化の程度としてみなすこととする。
【0034】
(1)燃料電池セルに、燃料電池温度が80℃、供給する燃料ガス流量が0.27L/min、供給する酸化ガスの流量が0.87L/min、燃料ガスの加湿温度が45℃、酸化ガスの加湿温度が55℃とし、発電させ、電流密度を0.8A/cm2としてセル電圧を測定する。
(2)電解質膜の膜抵抗値を検出する。
(3)燃料電池セルを80℃の雰囲気下に10分間配置する。
(4)燃料電池セルを−20℃の雰囲気下に10時間配置する。
(5)上記(3)、(4)工程を10回繰り返す。
(6)上記(1)工程と同様の条件下でセル電圧を測定する。
(7)(1)工程で測定したセル電圧に対して、(6)工程で測定したセル電圧がどのくらい低下したかを示すセル電圧低下量を検出する。
【0035】
図4(B)は、冷熱サイクル試験により求められた劣化特性情報の一例を示すグラフである。このグラフは、縦軸に劣化値として、上記冷熱サイクル試験を10サイクル行なった後のセル電圧低下量[mV]を示している。横軸は剥離力[mN]を示している。図中の近似曲線α1は、電解質膜の低温収縮力が15.3Nである場合における、剥離力とセル電圧低下量(劣化値:温度変化に対する膜電極接合体の劣化の程度)との関係を示している。図4(B)に示すように、剥離力が大きい領域では、劣化値に対する電解質膜の低温収縮力の影響が小さくなることがわかる。また、剥離力が100mN以上である場合、好適な破壊抑制効果が得られることがわかる。なお、サンプル#1において劣化値が小さくなっているのは、剥離力の測定においてはMEAの電極触媒層が破壊する際の変形を解析しているためであり、冷熱サイクル試験におけるMEAの劣化の際の変形とは異なるためであると考えられる。
【0036】
図5は、冷熱サイクル試験により求められた劣化特性情報の他の例を示すグラフである。このグラフは、縦軸に劣化値として、上記冷熱サイクル試験を10サイクル行なった後のセル電圧低下量[mV]を示している。横軸は低温収縮力[N]を示している。また、このグラフでは、剥離力が52mN/cmのもののみを示している。図5に示すように、電解質膜の低温収縮力が小さいと、MEAの電極触媒層における破壊が低減するため、MEAの劣化の程度が抑制される傾向が見られる。
【0037】
上述の通り、MEAの劣化には、温度変化に伴った電解質膜の収縮の程度や、電解質膜と電極触媒層との界面の剥離力が大きく関係している。このため、電解質膜の低温収縮力と、MEAの剥離力とが異なる複数の燃料電池について、予め図4(B)または図5に示すような劣化特性情報を準備しておくことにより、MEAの劣化の推定を行うことが可能であると考えられる。具体的には、例えば、劣化特性情報が近似曲線(または直線)として与えられている場合、推定部320(図2)は、電解質膜の低温収縮力と、MEAの剥離力とを、劣化特性情報の近似曲線にあてはめた際に求められる値を、MEAの劣化の程度を示す理論値として採用することができる。他の例として、劣化特性情報が離散値として与えられている場合、推定部320(図2)は、電解質膜の低温収縮力と、MEAの剥離力とに最も近い2点を求め、当該2点間の距離からMEAの劣化の程度を示す理論値を求めることも可能である。
【0038】
例えば、評価対象であるMEAにおける電解質膜の低温収縮力が15.3Nである場合、推定部320(図2)は、図4(B)に示した劣化特性情報の近似曲線α1の、ステップS140において測定したMEAの剥離力と一致する点を探し出す。そして、推定部320(図2)は、一致点における縦軸の値(セル電圧低下量)を読み取ることによって、温度変化に対するMEAの劣化の程度の理論値とすることができる。
【0039】
A−4.低温収縮力の測定方法:
本実施例の第1の測定部100による低温収縮力の測定は、次のようにして行う。まず、評価対象である電解質膜を準備する。次に、評価対象である電解質膜の端部を図示しない引張試験機に取り付けた状態で、環境温度を23℃から−20℃まで変化させ、その際に発生する荷重の変化を測定する。電解質膜の低温収縮力は、電解質膜の線膨張係数に比例することから、式(1)のように表される。
【0040】
F=S×E×ρ×ΔT ・・・式(1)
なお、Fは電解質膜の低温下収縮力、Sは電解質膜の断面積、Eは電解質膜のヤング率、ρは電解質膜の低温での線膨張係数、ΔTは温度変化である。
【0041】
このようにすれば、電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力を測定することができる。
【0042】
A−5.剥離力の測定方法:
図6は、剥離力の測定についての説明図である。本実施例の第2の測定部200による剥離力の測定は、まず、図6(A)に示すような評価対象を準備し、図6(B)のように剥離の際に必要な力を測定することによって行う。
【0043】
図6(A)は、剥離力測定用サンプルを示す説明図である。この剥離力測定用のサンプルは、一対の電解質膜(12mm×30mm)の内面に電極触媒層(12mm×18mm)を挟んで、3Mpaで熱圧着することにより作製した層構成体である。
【0044】
図6(B)は、剥離力の測定方法を示す説明図である。剥離力の測定方法は、次の通りである。剥離力測定用サンプルの一方の電解質膜の端部を図示しない引張試験機にて90度方向、すなわち、電解質膜を層構成体から剥離させる方向に、引張速度200mm/minで引っ張ることにより力を加える。そして、電極触媒層のバルク部分にて剥離が発生した際に必要とした力を、MEA(より厳密には、電極触媒層)の剥離力とする。なお、他方の電解質膜(引張試験機に掛けられない側)には、PET等の保護フィルムを付けることにより、強度を確保することが好ましい。同様に、他方の電解質膜には、ガス拡散層(GDL)を設ける構成としてもよい。なお、この手法は接着剤の剥離接着強度試験方法(JIS K6854−2)を応用したものである。また、上述した90度剥離試験に代えて、両方の電解質膜の端部を180度方向に引っ張る180度剥離試験を行ってもよい。
【0045】
図6(C)は、剥離力の測定結果を示す説明図である。図6(C)に示すように、このMEAの剥離力は0.08Nであることがわかる。剥離力が弱いことは、電解質膜と電極触媒層との界面に隙間が多いことを示している。電極触媒層の破壊は、電解質膜と電極触媒層との界面の隙間から開始する。このため、この隙間が多ければ多いほど電極触媒層の破壊が進行しやすい、すなわち、MEAが剥離しやすいといえる。また、電極触媒層に力が加わった場合、電極触媒層中に含まれる電解質の粘弾性により、電極触媒層が伸びようとする。この伸びやすさもMEAの剥離力に影響を及ぼす。
【0046】
このようにすれば、電極触媒層の電解質膜との界面における剥離のしやすさである剥離力を測定することができる。
【0047】
以上のように第1実施例では、MEAを構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理特性を示すパラメータとして、電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力と、電解質膜と電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力とを用いた上で、これらの物理的特性と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である膜電極接合体の劣化を推定する。このため、冷熱サイクル下における外部応力に起因した膜電極接合体の劣化についての推定を容易に行うことが可能である。このようにすれば、例えば、電解質膜の物理的特性が改良された場合や、電解質膜と電極触媒層との界面接合性が変更された場合であっても、それらの物理的特性(電解質膜の温度収縮力、MEAの剥離力)のみを測定することで、MEAの劣化を推定することが可能となる。
【0048】
B.第2実施例:
第2実施例における燃料電池の概略構成については、図1に示した第1実施例と同様である。また、膜電極接合体の劣化を推定するための評価装置については、図2に示した第1実施例とほぼ同様である。ただし、第2実施例において、第1の測定部100は、後述する手順(B−3.耐久値の測定方法)により、評価対象となるMEAの耐久値を測定する。また、第2実施例においては、第2の測定部200は使用しない。さらに、第2実施例において、記憶部350に予め格納されている劣化特性情報352では、MEAを構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理的特性を示すパラメータとして、繰返し荷重に対する耐久力の程度を示す耐久値を用いている。劣化特性情報は、後述する手順(B−2.劣化特性情報の生成方法)により生成され、予め記憶部350に格納される。
B−1.膜電極接合体の劣化の推定について:
図7は、第2実施例における膜電極接合体の劣化の推定手順を示すフローチャートである。図3に示した第1実施例との違いは、ステップS120、S130に代えてステップS210が、ステップS140に代えてステップS220が実行される点であり、他の処理については第1実施例と同様である。
【0049】
ステップS210において第1の測定部100は、MEAの耐久値を測定する。ステップS220において推定部320は、測定情報読取部310から受け取った測定結果(耐久値)を用いて、MEAの劣化を推定する。具体的には、まず、推定部320は、記憶部350に格納された劣化特性情報352を読み出す。その後、推定部320は、劣化特性情報352と、ステップS210において測定された耐久値を用いて、MEAの劣化の推定を行う(詳細は後述)。
【0050】
B−2.劣化特性情報の生成方法:
図8は、第2実施例における劣化特性情報の生成についての説明図である。第2実施例における劣化特性情報の生成は、i)耐久値測定用サンプルを準備する工程と、ii)工程iで準備した全ての耐久値測定用サンプルに対して耐久値を測定する工程と、iii)、工程iと同じ物理的特性の組合せを有する複数のMEAを準備する工程と、iv)工程iiiで準備した全てのMEAに対して劣化値を測定する工程と、v)工程iiで測定した結果と工程ivで測定した結果とを対応付ける工程と、を有している。
【0051】
手順iでは、図8(A)のような形態を有する耐久値測定用のサンプルを複数作製する。この耐久値測定用のサンプルは、図4(A)に示した物理的特性の異なる電解質膜と電極触媒層の組合せとなるよう作製する。具体的には、所定の低温収縮力、かつ、剥離力が異なる複数の層構成体(15.3N:サンプル#1〜#6(図4))を、異なる低温収縮力(15.3N,2.6N)について複数準備する。図8(A)は、耐久値測定用のサンプルについての説明図である。この耐久値測定用のサンプルの形態は、一対の電解質膜(12mm×30mm)の内面に電極触媒層(12mm×18mm)を挟んで、3Mpaで熱圧着することにより作製した層構成体である。
【0052】
手順iiでは、各々の耐久値測定用のサンプルに対して、後述する手順(B−3.耐久値の測定方法)を用いて耐久値を測定する。
【0053】
手順iii、ivは、図4で説明したものと同様である。
【0054】
手順vでは、手順iiで測定された耐久値と、手順ivで測定された劣化値とを対応付けることによって、図8(B)に示すような劣化特性情報を生成する。
【0055】
図8(B)は、第2実施例における劣化特性情報の一例を示すグラフである。このグラフは、縦軸に劣化値として、手順ivによる冷熱サイクル試験を10サイクル行なった後のセル電圧低下量[mV]を示している。横軸は手順iiにより求められた耐久値としての破断回数[×105回]を示している。図中の近似曲線α2は、上記手順iiの耐久値の測定時におけるせん断荷重が15Nの場合における、耐久値(破断回数)とセル電圧低下量(劣化値)との関係を示している。なお、図8(B)ではせん断荷重が15Nの場合の例のみを例示するが、実際は、他のせん断荷重についても同様のグラフが生成され、これらの集合が劣化特性情報を構成する。なお、サンプル#4において劣化値が小さくなっているのは、I/Cにおけるアイオノマ比率が高いために、他のサンプル(I/C=0.75)に対して電極触媒層の破壊が抑制されることが原因であると考えられる。
【0056】
上述の通り、MEAの劣化には、温度変化に伴った電解質膜の収縮の程度や、電解質膜と電極触媒層との界面の剥離力が大きく関係している。第2実施例では、低温収縮力の影響を模擬した繰返しの荷重負荷を耐久値測定用のサンプルに対して加えることによって得られる耐久値と、低温収縮力と剥離力とが異なる複数のMEAを用いた燃料電池についての劣化値とを用いた劣化特性情報(図8(B))を準備しておくことにより、MEAの劣化の推定を行うことが可能であると考えられる。具体的には、例えば、劣化特性情報が近似曲線(または直線)として与えられている場合、推定部320(図2)は、電解質膜と電極触媒層との耐久値を、劣化特性情報の近似曲線にあてはめた際に求められる値を、MEAの劣化の程度を示す理論値として採用することができる。他の例として、劣化特性情報が離散値として与えられている場合、推定部320(図2)は、電解質膜と電極触媒層との耐久値とに最も近い2点を求め、当該2点間の距離からMEAの劣化の程度を示す理論値を求めることも可能である。
【0057】
B−3.耐久値の測定方法:
図9は、耐久値の測定についての説明図である。本実施例の第1の測定部100による耐久値の測定は、次のようにして行う。まず、図8(A)に示すような形態を有する評価対象(耐久値測定用サンプル)を準備する。次に、図9のように、耐久値測定用サンプルの一方の電解質膜の端部を第1の方向(図中の上方)へ固定する。また、他方の電解質膜の第1の方向とは逆側の第2の方向(図中の下方)に位置する端部に対して、第2の方向(すなわち図中の下方)へ向かう方向に繰返し力加える。この際の条件は、所定のせん断荷重に対して−10%〜+10%までの範囲の荷重を、1秒間に3往復させつつ加えるものとした。そして、電解質膜と電極触媒層とが破断するまでの回数を測定し、この回数を耐久値とする。なお、このような耐久値の測定試験を「SN試験」とも呼ぶ。
【0058】
図10は、耐久値の測定結果を示す説明図である。図10(A)は、縦軸にせん断荷重[N]を示している。横軸は耐久値としての破断回数(電解質膜と電極触媒層とが破断するまでの回数)を対数表示にて示している。図10(B)は、縦軸に荷重[N]を、横軸に耐久値としての破断回数を示している。図10(A)、(B)に示すように、サンプル#1(転写温度が110℃)では、高いせん断荷重において破断までの回数が少ない一方、せん断荷重が15N以下になった場合に破断までの回数が急激に伸びることがわかる。これは、転写温度が110℃の場合、電解質のガラス転移温度(115℃)よりも低温であるため、結晶性が低く、荷重入力に対して伸びにくいという特性があることによると考えられる。
【0059】
このように、SN試験によって、種々の入力荷重における電解質膜と電極触媒層との破断のしやすさを定量的に推定することができる。すなわち、電極触媒層の繰返し荷重に対する耐久力の程度を示す耐久値を測定することができる。
【0060】
このように、MEAを構成する電解質膜と電極触媒層との接合に関する物理特性として、MEAの耐久値を用いても、第1実施例と同様に、冷熱サイクル下における外部応力に起因した膜電極接合体の劣化についての推定を容易に行うことが可能である。さらに、第2実施例では、複数の層構成体について予め用意された耐久値と、複数の膜電極接合体について予め用意された劣化値とを対応付けた劣化特性情報に基づいて膜電極接合体の劣化を推定するため、膜電極接合体の劣化についての推定をより高精度に行うことができる。
【0061】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0062】
C1.変形例1:
上記実施例では、燃料電池に用いられる単セルの構造について例示した。しかし、上記実施例で示した態様は、あくまで燃料電池を構成する単セルの一例に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。例えば、図1においてガス拡散層22、23は、セパレータ側のガス拡散部材と電極側ガス拡散部材の接合構成としたが、単一のガス拡散層とすることもできる。さらに、図1に示した単セルを積層して燃料電池を構成する際、スタック構造の内部温度を調節するために、各単セル間に、或いは所定数の単セルを積層する毎に、冷媒の通過する冷媒流路を設けても良い。冷媒流路は、隣り合う単セル間において、一方の単セルが備えるセパレータ24と、他方の単セルが備えるセパレータ25との間に設ければよい。
【0063】
C2.変形例2:
上記実施例では、各種の測定方法(劣化値の測定方法、低温収縮力の測定方法、剥離力の測定方法、耐久値の測定方法)における測定用サンプル、および、測定条件について例示した。しかし、これら条件は任意のものを採用することができる。例えば、剥離力測定用サンプルや、耐久値測定用サンプルに用いる電解質膜と電極触媒層との接合体は、熱圧着により形成するものとしたが、塗布方法により形成することとしてもよい。
【0064】
C3.変形例3:
上記実施例の燃料電池システムでは、燃料電池として、固体高分子型燃料電池を用いているが、本発明は、これに限られるものではなく、固体酸化物型燃料電池電解質型や溶融炭酸塩電解質型等、種々のタイプの燃料電池を用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
10…評価装置
20…単セル
22…ガス拡散層
23…ガス拡散層
24…セパレータ
25…セパレータ
30…電解質膜
31…電極触媒層
33…ガス拡散部材
34…電極側ガス拡散部材
35…ガス拡散部材
36…電極側ガス拡散部材
100…第1の測定部
200…第2の測定部
300…本体装置
310…測定情報読取部
320…推定部
330…入力部
340…表示部
350…記憶部
352…劣化特性情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体の評価方法であって、
(a)評価対象である前記膜電極接合体を構成する前記電解質膜と、前記電極触媒層との接合に関する物理的特性を測定する工程と、
(b)前記工程(a)により求められる前記物理的特性と、予め用意された、前記物理的特性と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である前記膜電極接合体の劣化を推定する工程と、
を有する、膜電極接合体の評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記物理的特性は、
前記膜電極接合体を構成する前記電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力と、
前記膜電極接合体の、前記電解質膜と前記電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力と、
を含む、膜電極接合体の評価方法。
【請求項3】
請求項2記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記劣化特性情報は、
(c)所定の前記温度収縮力と複数の前記剥離力の組合せからなる複数の前記膜電極接合体を、異なる前記温度収縮力について複数準備する工程と、
(d)前記工程(c)で準備した全ての前記膜電極接合体について、温度変化に対する前記膜電極接合体の劣化の程度を示す劣化値を予め測定する工程と、
を含む工程において生成される、膜電極接合体の評価方法。
【請求項4】
請求項2または3記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記工程(a)は、
(a1)前記温度収縮力の測定対象である電解質膜を準備する工程と、
(a2)前記工程(a1)で準備した測定対象に対して、環境温度を変化させた場合に発生する荷重変化を測定する工程と、
(a3)前記剥離力の測定対象として、一対の電解質膜の内面に電極触媒層が形成された層構成体を準備する工程と、
(a4)前記工程(a3)で準備した測定対象の少なくとも一方の前記電解質膜の端部に対して、前記電解質膜を前記層構成体から剥離させる方向に向かう力を加え、前記電解質膜と前記電極触媒層とに剥離が発生した際に必要とした力を測定する工程と、
を含む、膜電極接合体の評価方法。
【請求項5】
請求項1記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記物理的特性は、
前記膜電極接合体の繰返し荷重に対する耐久力の程度を示す耐久値を含む、膜電極接合体の評価方法。
【請求項6】
請求項5記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記劣化特性情報は、
(e)一対の電解質膜の内面に電極触媒層が形成された層構成体であって、前記電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力が所定の値、かつ、前記電解質膜と前記電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力が異なる複数の層構成体を、異なる前記温度収縮力について複数準備する工程と、
(f)前記工程(e)で準備した全ての前記層構成体について、一方の前記電解質膜の端部を第1の方向に固定し、他方の前記電解質膜の前記第1の方向とは逆側の第2の方向に位置する端部に対して、前記第2の方向へ向かう力を繰返し加え、前記電解質膜と前記電極触媒層とが破断するまでの回数で示される前記耐久値を予め測定する工程と、
(g)所定の前記温度収縮力と複数の前記剥離力の組合せからなる複数の前記膜電極接合体を、異なる前記温度収縮力について複数準備する工程と、
(h)前記工程(g)で準備した全ての前記膜電極接合体について、温度変化に対する前記膜電極接合体の劣化の程度を示す劣化値を予め測定する工程と、
(i)前記工程(f)において測定された前記耐久値と、前記工程(h)において測定された前記劣化値とを対応付ける工程と、
を含む工程において生成される、膜電極接合体の評価方法。
【請求項7】
請求項5または6記載の膜電極接合体の評価方法であって、
前記工程(a)は、
(a1)前記耐久値の測定対象として、一対の電解質膜の内面に電極触媒層が形成された層構成体を準備する工程と、
(a2)前記工程(a1)で準備した測定対象に対して、一方の前記電解質膜の端部を第1の方向に固定し、他方の前記電解質膜の前記第1の方向とは逆側の第2の方向に位置する端部に対して、前記第2の方向へ向かう力を繰返し加え、前記電解質膜と前記電極触媒層とが破断するまでの回数で示される前記耐久値を測定する工程と、
を含む、膜電極接合体の評価方法。
【請求項8】
電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体の評価装置であって、
評価対象である前記膜電極接合体を構成する前記電解質膜の温度変化に対する収縮力である温度収縮力を測定する第1の測定部と、
評価対象である前記膜電極接合体の、前記電解質膜と前記電極触媒層との界面における剥離のしやすさである剥離力を測定する第2の測定部と、
前記温度収縮力と、前記剥離力と、予め用意された前記温度収縮力と前記剥離力と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である前記膜電極接合体の劣化を推定する推定部と、
を備える、膜電極接合体の評価装置。
【請求項9】
電解質膜の両面に電極触媒層が形成された膜電極接合体の評価装置であって、
評価対象である前記膜電極接合体の繰返し荷重に対する耐久力の程度を示す耐久値を測定する第1の測定部と、
前記耐久値と、予め用意された前記耐久値と膜電極接合体の劣化の程度との関連を示す劣化特性情報とに基づいて、評価対象である前記膜電極接合体の劣化を推定する推定部と、
を備える、膜電極接合体の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−100641(P2011−100641A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254886(P2009−254886)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】