説明

膜電極接合体及びその製造方法、並びに燃料電池

【課題】燃料電池の発電性能の一層向上させることができる膜電極接合体を提供する。
【解決手段】互いに隣接するガス流路を隔てるリブ部の多孔度を、リブ部の下方領域の多孔度よりも低くする。これにより、リブ部の変形及び反応ガスの過剰な透過を抑えて、発電性能を一層向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスとして、純水素、メタノールなどの液体燃料、あるいは、化石燃料などからの改質水素などの還元剤を用い、酸化剤ガスとして、空気(酸素)などを用いる燃料電池に関し、より詳しくは、当該燃料電池が備える膜電極接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、例えば高分子電解質形燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと、空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを、白金などの触媒層を有するガス拡散層で電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる装置である。
【0003】
図30は、従来の高分子電解質形燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。高分子電解質形燃料電池の単電池(セルともいう)100は、膜電極接合体110(以下、MEA:Membrane-Electrode-Assemblyという)と、MEA110の両面に配置された一対の板状の導電性のセパレータ120,120とを有している。
【0004】
MEA110は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜(イオン交換樹脂膜)111と、当該高分子電解質膜111の両面に形成された一対の電極層112とを備えている。一対の電極層112は、高分子電解質膜111の両面に形成され、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層113と、当該触媒層113上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層114(GDLともいう)とを有している。ガス拡散層114は、炭素繊維からなる基材115と、カーボンと撥水材からなるコーティング層(撥水カーボン層)116とで構成されている。
【0005】
一対のセパレータ120,120にはそれぞれ、ガス拡散層114と当接する主面に、反応ガスである燃料ガス又は酸化剤ガスを流すための矩形断面のガス流路121が設けられている。一方のセパレータ120に設けられたガス流路121は、燃料ガスを流すための燃料ガス流路であり、他方のセパレータに設けられたガス流路121は、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路である。また、一対のセパレータ120,120の互いに隣接する面には、冷却水などが通る冷却水流路122が設けられている。一方のガス流路121を通じて一方の電極層112に燃料ガスが供給されるとともに、他方のガス流路121を通じて他方の電極層112に酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。
【0006】
前記のように構成されるセル100は、図30に示すように1つ以上積層され、互いに隣接するセル100を電気的に直列に接続されて使用されるのが一般的である。なお、このとき、互いに積層されたセル100は、反応ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材130により所定の締結圧にて加圧締結される。従って、MEA110とセパレータ120とは所定の圧力で面接触することになる。このとき、セパレータ120は、互いに隣接するMEA110,110同士を電気的に直列に接続するための集電性を有する。また、電気化学反応に必要なガスが外部に漏れるのを防ぐために、一対のセパレータ120,120の間には、触媒層113とガス拡散層114の側面を覆うようにシール材(ガスケット)117が配置されている。
【0007】
近年、燃料電池の分野においては、より一層の低コスト化が求められており、各構成部材の単価の低減、部品点数の削減などの観点から、様々な低コスト化の技術が提案されている。その1つとして、ガス流路121を、セパレータ120に設けるのではなく、ガス拡散層114に設ける技術が提案されている。
【0008】
図30に示す従来の燃料電池においては、セパレータ120にガス流路121を設けている。この構成を実現する方法としては、例えば、セパレータ120の材料としてカーボンと樹脂とを用い、これらを、ガス流路121の形状に対応する矩形断面の凸部を有する金型を用いて射出成形する方法がある。しかしながら、この場合、製造コストが高いという課題がある。また、前記構成を実現する別の方法として、セパレータ120の材料として金属を用い、ガス流路121の形状に対応する矩形断面の凸部を有する金型を用いて当該金属を圧延する方法がある。しかしながら、この場合、前記射出成形法に比べて低コスト化を実現することができる一方で、セパレータ120が腐食しやすく、燃料電池としての発電性能が低下するという課題がある。
【0009】
一方、ガス拡散層114は、ガス拡散性を備えるようにするために、多孔質部材で構成される。このため、ガス流路121をガス拡散層114に形成することの方がセパレータに形成することに比べて容易であり、低コスト化及び高発電性能化を図るのに有利である。このような構成を有するガス拡散層としては、例えば、特許文献1(特開2006−339089号公報)に記載されたものがある。
【0010】
特許文献1には、直方体状に伸長された複数の流路型を備えた成型治具を用いて炭素繊維を基材とした多孔質部材を抄紙法によって成型し、当該成型後に前記成型治具を抜き取ることによって、ガス拡散層の内部にガス流路を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−339089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、燃料電池においてはより一層の発電性能の向上が求められており、前記従来の構成では、発電性能が十分でないという課題がある。
【0013】
従って、本発明の目的は、前記問題を解決することにあって、燃料電池の発電性能の一層向上させることができる膜電極接合体及びその製造方法、及び当該膜電極接合体を備えた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜を挟むように設けられた1対の触媒層と、
前記一対の触媒層及び前記高分子電解質膜を挟むように対をなして設けられ、その少なくとも一方が、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成され、前記触媒層に接する第1主面とその反対側に位置する第2主面とを有し、前記第2主面側に互いに隣接するようの複数のガス流路が形成され、前記互いに隣接するガス流路を隔てるリブ部の多孔度が前記第1主面側に位置する前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低く形成されたガス拡散層と、
を有する、膜電極接合体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる膜電極接合体によれば、互いに隣接するガス流路を隔てるリブ部の多孔度が前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低いので、リブ部の変形及び反応ガスの過剰な透過を抑えて、燃料電池の発電性能を一層向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1に示す燃料電池が備えるガス拡散層の拡大斜視図である。
【図3】図1に示す燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図4A】図1に示す燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
【図4B】図4Aに続く工程を示す説明図である。
【図5】金型の断面形状の第1変形例を示す断面図である。
【図6】金型の断面形状の第2変形例を示す断面図である。
【図7】金型の断面形状の第3変形例を示す断面図である。
【図8】図3に示す製造方法とは別の製造方法を示すフローチャートである。
【図9】図3及び図8に示す製造方法とは別の製造方法を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第2実施形態にかかる燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。
【図11】図10に示す燃料電池が備えるガス拡散層の拡大斜視図である。
【図12】図10に示す燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図13A】図10に示す燃料電池が備えるガス拡散層の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
【図13B】図13Aに続く工程を示す説明図である。
【図13C】図13Bに続く工程を示す説明図である。
【図14】金型に設けられた突起部を構成する平板を示す斜視図である。
【図15A】図13A〜図13Cに示す製造方法とは別の製造方法を模式的に示す説明図である。
【図15B】図15Aに続く工程を示す説明図である。
【図15C】図15Bに続く工程を示す説明図である。
【図16】本発明の第3実施形態にかかる燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。
【図17】図16に示す燃料電池が備えるガス拡散層の拡大斜視図である。
【図18】アーチ型の断面形状のガス流路の一例を模式的に示す説明図である。
【図19】アーチ型の断面形状のガス流路の他の例を模式的に示す説明図である。
【図20】図16に示すガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図21A】図16に示すガス拡散層の製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
【図21B】図21Aに続く工程を示す説明図である。
【図22】ガス拡散層にセパレータを取り付けた状態を示す図である。
【図23】ガス流路の深さに対する圧力損失の割合を示すグラフである。
【図24】ガス流路の断面形状の第1変形例を示す断面図である。
【図25】ガス流路の断面形状の第2変形例を示す断面図である。
【図26】ガス流路の断面形状の第3変形例を示す断面図である。
【図27】ガス流路の第1変形例を示す平面図である。
【図28】ガス流路の第2変形例を示す平面図である。
【図29】本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の変形例を示す模式断面図である。
【図30】従来の燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。
【図31A】比較例にかかるガス拡散層の製造方法を模式的に示す説明図である。
【図31B】図31Aに続く工程を示す説明図である。
【図31C】図31Bに続く工程を示す説明図である。
【図32】従来のガス拡散層のガス流路の断面形状を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、従来の燃料電池において十分な発電性能を得られない原因を鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
【0018】
ガス拡散層にガス流路を形成した場合、互いに隣接するガス流路を隔てるリブ部も多孔質部材で構成されることになる。特許文献1のように炭素繊維を基材とした多孔質部材でガス拡散層を構成した場合、その多孔度は通常80%以上と高くなる。このため、リブ部の内部を反応ガスが透過(ショートカット)して反応ガスがガス流路の形状に沿って流れず、その結果、十分な発電性能が得られていないことに本発明者らは気付いた。また、リブ部が多孔質部材で構成されることにより、セルの組立時に加わる締結圧によってリブ部が変形し、ガス流路の断面積が過剰に小さくなることに本発明者らは気付いた。ガス流路の断面積が小さくなった場合、反応ガスが電極層に十分に供給されず、発電性能が低下することになる。
【0019】
前記課題は、ガス拡散層の多孔度を低くする(密度を高くする)ことで改善することができるように思われる。しかしながら、ガス拡散層の多孔度を低くすると、ガス拡散性が低下するので、結果として燃料電池の発電性能が低くなるおそれがある。また、ガス拡散層の低多孔度化(80%以下)は、炭素繊維を基材として用いずにガス拡散層を構成すると容易である。しかしながら、炭素繊維を基材として用いずに構成したガス拡散層(以下、基材レスガス拡散層という)は、強度が弱いという課題がある。このため、セルの組立時に加わる締結圧によってリブ部が一層変形しやすくなる。
【0020】
これらの課題に対して、本発明者らは、ガス拡散層全体の多孔度を低くするのではなく、単一のガス拡散層において多孔度を部分的に異ならせることにより、発電性能を向上させることができることを見出した。具体的には、本発明者らは、リブ部の多孔度を低くすることによりリブ部の変形及び反応ガスの過剰な透過を抑える一方、リブ部の下方領域の多孔度をリブ部の多孔度よりも高くすることによりガス拡散性を確保し、結果として発電性能を向上させることができることを見出した。
これらの知見に基づき、本発明者らは、以下の本発明に想到した。
【0021】
本発明の第1態様によれば、高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜を挟むように設けられた1対の触媒層と、
前記一対の触媒層及び前記高分子電解質膜を挟むように対をなして設けられ、その少なくとも一方が、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成され、前記触媒層に接する第1主面とその反対側に位置する第2主面とを有し、前記第2主面側に互いに隣接するように複数のガス流路が形成され、前記互いに隣接するガス流路を隔てるリブ部の多孔度が、前記第1主面側に位置する前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低く形成されたガス拡散層と、
を有する、膜電極接合体を提供する。
【0022】
本発明の第2態様によれば、前記リブ部の多孔度が、前記第2主面側に位置する前記ガス流路の下方領域の多孔度よりも低い、第1態様に記載の膜電極接合体を提供する。
【0023】
本発明の第3態様によれば、前記ガス流路の少なくとも一部は、前記第2主面側に位置する底部から前記第1主面側に位置する上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状を有している、第1又は2態様に記載の膜電極接合体を提供する。
【0024】
本発明の第4態様によれば、前記ガス拡散層の第1主面の中心側に位置するガス流路は、矩形の断面形状を有し、
前記ガス拡散層の第1主面の外周側に位置するガス流路は、前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状を有している、
第3態様に記載の膜電極接合体を提供する。
【0025】
本発明の第5態様によれば、前記ガス流路の全部が、前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状を有している、第3態様に記載の膜電極接合体を提供する。
【0026】
本発明の第6態様によれば、前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状は、三角形である、第3〜5態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体を提供する。
【0027】
本発明の第7態様によれば、前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状は、アーチ型である、第3〜5態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体を提供する。
【0028】
本発明の第8態様によれば、前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状は、台形である、第3〜5態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体を提供する。
【0029】
本発明の第9態様によれば、第1〜8態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟むように設けられ、前記膜電極接合体と接する側の面が平坦な形状を有する1対のセパレータと、
を有する、燃料電池を提供する。
【0030】
本発明の第10態様によれば、第1〜8態様のいずれか1つに記載の膜電極接合体と、
前記ガス拡散層の前記第2主面側に配置され、前記膜電極接合体と接する側の面が平坦な形状を有する第1セパレータと、
前記集電板と対をなして前記膜電極接合体を挟むように設けられ、前記膜電極接合体と接触する一方の主面には、溝状のガス流路が形成された第2セパレータと、
を有する、燃料電池を提供する。
【0031】
本発明の第11態様によれば、第1主面にガス流路が形成された膜電極接合体を製造する方法であって、
先細り形状の突起部を有する金型に導電性粒子と高分子樹脂とを主成分としたシート状の多孔質部材を配置した後、前記金型を型閉じして、前記多孔質部材の第1主面に前記突起部を挿入することにより、前記ガス流路を形成するとともに、互いに隣接する前記ガス流路を隔てるリブ部の多孔度を前記多孔質部材の第2主面側に位置する前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低くする、
ことを含む、膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0032】
本発明の第12態様によれば、前記突起部の断面形状が三角形である、第11態様に記載の膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0033】
本発明の第13態様によれば、前記突起部の断面形状がアーチ型である、第11態様に記載の膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0034】
本発明の第14態様によれば、前記突起部の断面形状が台形である、第11態様に記載の膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0035】
本発明の第15態様によれば、第1主面にガス流路が形成された膜電極接合体を製造する方法であって、
突起部を有する金型に導電性粒子と高分子樹脂とを主成分としたシート状の多孔質部材を配置した後、前記金型を型閉じして、前記多孔質部材の第1主面に前記突起部を挿入し、
前記挿入した突起部を前記多孔質部材の面方向に移動させることにより、前記多孔質部材の第1主面に前記ガス流路を形成するとともに、互いに隣接する前記ガス流路を隔てるリブ部の多孔度を前記多孔質部材の第2主面側に位置する前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低くする、
ことを含む、膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0036】
本発明の第16態様によれば、前記突起部は、第1突起と第2突起とを有し、
前記ガス流路は、前記第1突起と前記第2突起とを互いに離れる方向に移動させることにより形成される、第15態様に記載の膜電極接合体の製造方法を提供する。
【0037】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の全ての図において、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0038】
《第1実施形態》
図1を用いて、本発明の第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成について説明する。図1は、本第1実施形態にかかる燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。本第1実施形態にかかる燃料電池は、水素を含有する燃料ガスと空気などの酸素を含有する酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを同時に発生させる高分子電解質形燃料電池である。なお、本発明は高分子電解質形燃料電池に限定されるものではなく、種々の燃料電池に適用可能である。
【0039】
本第1実施形態にかかる燃料電池は、図1に示すように、膜電極接合体10(以下、MEAという)と、MEA10の両面に配置された一対の板状の導電性のセパレータ20,20とを有するセル(単電池)1を備えている。なお、本第1実施形態にかかる燃料電池は、このセル1を複数個積層して構成されてもよい。この場合、互いに積層されたセル1は、燃料ガス及び酸化剤ガスがリークしないように且つ接触抵抗を減らすために、ボルトなどの締結部材(図示せず)により所定の締結圧にて加圧締結されることが好ましい。
【0040】
MEA10は、水素イオンを選択的に輸送する高分子電解質膜11と、当該高分子電解質膜11の両面に形成された一対の電極層12,12とを備えている。一対の電極層12の一方はアノード電極であり、他方はカソード電極である。一対の電極層12,12は、高分子電解質膜11の両面に形成され、白金属触媒を坦持したカーボン粉末を主成分とする触媒層13と、当該触媒層13上に形成され、集電作用とガス透過性と撥水性とを併せ持つガス拡散層14とを有している。
【0041】
ガス拡散層14には、セパレータ20と当接する主面に、反応ガスを流すためのガス流路21が設けられている。アノード電極側のガス流路21は、燃料ガスを流すための燃料ガス流路であり、カソード電極側のガス流路21は、酸化剤ガスを流すための酸化剤ガス流路である。燃料ガス流路を通じてアノード電極に燃料ガスが供給されるとともに、酸化剤ガス流路を通じてカソード電極に酸化剤ガスが供給されることで、電気化学反応が起こり、電力と熱とが発生する。互いに隣接するガス流路21,21を隔てるリブ部22の先端は、所定の圧力(例えば2kgf/cm)でセパレータ20に接している。これにより、ガス流路21外に反応ガスが流れること(外部リーク)が防止されている。
【0042】
セパレータ20は、ガス透過性が低い金属などの材料で構成されている。なお、セパレータ20には、冷却水などが通る冷却水流路(図示せず)が設けられていてもよい。セパレータ20と高分子電解質膜11との間には、反応ガスが外部に漏れるのを防ぐために、触媒層13及びガス拡散層14の側面を覆うようにシール材としてガスケット15が配置されている。
【0043】
なお、ガスケット15は、一対のセパレータ20,20の間に、高分子電解質膜11と触媒層13とガス拡散層14の側面を覆うように配置してもよい。これにより、高分子電解質膜11の劣化を抑制し、MEA10のハンドリング性、量産時の作業性を向上させることができる。また、ガスケット15は、その一部がガス拡散層14に含浸している方が、発電耐久性及び強度の観点から好ましい。
【0044】
ガスケット15の材料としては、一般的な熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いることができる。例えば、ガスケット15の材料として、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン、液晶性ポリマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン、ガラス繊維強化樹脂などを用いることができる。
【0045】
次に、図2を参照しつつ、本発明の第1実施形態にかかるガス拡散層14の構成についてさらに詳細に説明する。図2は、ガス拡散層14の拡大斜視図である。なお、図2に示す複数の黒丸は、多孔度(密度)の違いを示すために便宜的に付したものである。
【0046】
ガス拡散層14は、炭素繊維を基材として用いずに構成した基材レスガス拡散層で構成されている。具体的には、ガス拡散層14は、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分としたシート状で且つゴム状の多孔質部材で構成されている。ここで「導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材」とは、炭素繊維を基材として使用することなく、導電性粒子と高分子樹脂とで支持される構造(いわゆる自己支持体構造)を持つ多孔質部材を意味する。導電性粒子と高分子樹脂とで多孔質部材を構成する場合、例えば、後述するように界面活性剤と分散溶媒とを用いる。この場合、製造工程中に、焼成により界面活性剤と分散溶媒とを除去するが、十分に除去できずにそれらが多孔質部材中に残留することが有り得る。従って、炭素繊維を基材として使用しない自己支持体構造である限り、そのようにして残留した界面活性剤と分散溶媒が多孔質部材に含まれてもよいことを意味する。また、炭素繊維を基材として使用しない自己支持体構造であれば、他の材料(例えば、短繊維の炭素繊維など)が多孔質部材に含まれても良いことも意味する。
【0047】
また、ガス拡散層14は、互いに隣接するガス流路21,21を隔てるリブ部22の多孔度がリブ部22の下方領域(以下、リブ下方領域という)23の多孔度よりも低く形成されている。言い換えれば、ガス拡散層14は、リブ部22の密度が「密」、リブ下方領域23の密度が「疎」になるように形成されている。例えば、リブ部22を除くガス拡散層14の全体の多孔度は70%に設定され、リブ部22の多孔度は40%〜50%に設定されている。なお、ここで「リブ下方領域」とは、リブ部22の鉛直下方に位置する領域をいう。また、ここでは、便宜上、セパレータ20側を「上」、触媒層13側を「下」と方向付けして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0048】
ガス拡散層14を構成する導電性粒子の材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭などのカーボン材料が挙げられる。前記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック(AB)、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、バルカンなどが挙げられる。なお、それらの中でもカーボンブラックの主成分としてアセチレンブラックが用いられることが、不純物含有量が少なく、電気伝導性が高いという観点から好ましい。
【0049】
また、前記導電性粒子は、平均粒子径が異なる2種類のカーボン材料を混合して構成されることが好ましい。これにより、平均粒子径が大きな粒子同士の隙間に平均粒子径が小さな粒子が入り込むことができるので、ガス拡散層14の全体の多孔度を低く(例えば、60%以下)することが可能になる。充填構造を作製しやすい導電性粒子としてはグラファイトが挙げられる。従って、導電性粒子は、アセチレンブラックとグラファイトとを混合して構成されることが好ましい。
【0050】
なお、アセチレンブラックの平均粒子径D50(相対粒子量が50%の時の粒子径:メディアン径ともいう)を、レーザ回折式粒度測定装置マイクロトラックHRAを使用して測定したところ、D50=5μmであった。また、アセチレンブラックと同様にして、グラファイトの粒子径D50を測定したところ、D50=16μmであった。これらの平均粒子径の測定は、10wt%の界面活性剤を含有した蒸留水にアセチレンブラック又はグラファイトの粒子を分散させ、粒度分布が安定した時点で行った。
【0051】
なお、前記導電性粒子を3種類以上のカーボン材料を混合して構成すると、分散、混練、圧延条件などの最適化が困難である。このため、前記導電性粒子は、2種類のカーボン材料を混合して構成することが好ましい。
【0052】
また、カーボン材料の原料形態としては、例えば、粉末状、繊維状、粒状などが挙げられる。それらの中でも粉末状がカーボン材料の原料形態として採用されることが、分散性、取り扱い性の観点から好ましい。
【0053】
ガス拡散層14を構成する高分子樹脂は、前記導電性粒子同士を結着するバインダーとしての機能を有する。また、前記高分子樹脂は、撥水性を有するため、燃料電池の内部にて水を系内に閉じ込める機能(保水性)も有する。
【0054】
前記高分子樹脂の材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などが挙げられる。これらの中でも高分子樹脂の材料としてPTFEが使用されることが、耐熱性、撥水性、耐薬品性の観点から好ましい。PTFEの原料形態としては、ディスパージョン、粉末状などがあげられる。それらの中でもPTFEの原料形態としてディスパージョンが採用されることが、作業性の観点から好ましい。
【0055】
リブ部22の多孔度は、20%以上50%未満であることが好ましい。リブ部22の多孔度が20%未満である場合には、リブ部22のガス拡散性が低下して、特にリブ下方領域23に反応ガスが到達しなくなり、発電性能が低下するおそれがある。一方、リブ部22の多孔度が50%以上である場合には、リブ部22の強度が低下して、リブ部22が変形し易くなる。また、この場合、リブ部22の内部を透過する反応ガスの量が多くなりすぎて、ガス流路21を流れるガスの量が減ってしまい、電極面内全体(特に下流領域)に均一に反応ガスを分配することが困難になる。
【0056】
リブ下方領域23の多孔度は、65%以上80%未満であることが好ましい。リブ下方領域23の多孔度が65%未満である場合には、ガス透過性が低下して、ガス拡散層14の厚み方向に反応ガスが流れにくくなり、リブ部22の鉛直下方での発電が困難になる。一方、炭素繊維を基材として用いずにガス拡散層の多孔度を80%以上とすることは、製造プロセス上、困難である。仮に、多孔度80%以上のガス拡散層を製造することができたとしても、強度が著しく低下し、ガス拡散層としての機能(特に耐久性)を果すことができない。
【0057】
ガス流路21の幅は、電極面積、ガス流量、電流密度、加湿条件、セル温度などにより最適値は大きく異なるが、流路幅が最も広くなっている部位において、0.1mm〜3.0mmの範囲内、特に0.2mm〜1.5mmの範囲内であることが好ましい。ガス流路21の幅が0.1mm未満である場合には、燃料電池において通常流される反応ガスの量に対してガス流路21の幅が十分でない可能性がある。一方、ガス流路21の幅が3.0mmより大きい場合には、反応ガスがガス流路21の全体に流れなくなり、反応ガスの滞留が生じてフラッディングが起こる可能性がある。
【0058】
ガス流路21の深さは、電極面積、ガス流量、電流密度、加湿条件、セル温度などにより大きく異なるが、0.015mm〜2.0mmの範囲内、特に0.03mm〜0.8mmの範囲内であることが好ましい。ガス流路21の深さが0.015mm未満である場合には、燃料電池において通常流される反応ガスの量に対してガス流路21の深さが十分でない可能性がある。一方、ガス流路21の深さが2.0mmより大きい場合には、反応ガスがガス流路21の全体に流れなくなり、反応ガスの滞留が生じてフラッディングが起こる可能性がある。
【0059】
リブ部22の幅は、最も細くなっている部位において、0.1mm〜3.0mmの範囲内、特に0.2mm〜2.0mmの範囲内であることが好ましい。リブ部22の幅が0.1mm未満である場合は、リブ部22の強度が低下して、リブ部22が変形し易くなる。一方、リブ部22の幅が3.0mmより大きい場合には、リブ部22の鉛直下方の面積が大きくなるため、反応ガスが第1拡散層内で均一に拡散されず、面内発電分布にバラツキが生じるおそれがある。
【0060】
リブ下方領域23の厚さは、ガス利用率、電流密度、加湿条件、セル温度などにより最適値は大きく異なるが、0.05mm〜1.0mmの範囲内、特に0.1mm〜0.6mmの範囲内であることが好ましい。
【0061】
ガス拡散層14に形成されるガス流路21は、図1に示すように、三角形の断面形状を有している。ガス拡散層14に形成されるガス流路21の平面形状(パターン)は、特に限定されるものではなく、従来のセパレータに形成されていたガス流路の形状と同様に形成することができる。このようなガス流路の平面形状としては、例えばストレート型、サーペンタイン型等が挙げられる。
【0062】
なお、ガス拡散層14は、炭素繊維を基材として用いることなく、導電性粒子と高分子樹脂とで支持される構造(いわゆる自己支持体構造)であればよい。従って、ガス拡散層14には、導電性粒子及び高分子樹脂以外に、ガス拡散層14の製造時に使用する界面活性剤及び分散溶媒などが微量含まれていてもよい。分散溶媒としては、例えば、水、メタノール、及びエタノールなどのアルコール類、エチレングリコールなどのグリコール類が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系、アルキルアミンオキシドなどの両性イオン系が挙げられる。製造時に使用する分散溶媒の量及び界面活性剤の量は、導電性粒子の種類、高分子樹脂の種類、それらの配合比率などに応じて適宜設定すればよい。なお、一般的には、分散溶媒の量及び界面活性剤の量が多いほど、導電性粒子と高分子樹脂とが均一に分散しやすい傾向がある一方で、流動性が高くなり、ガス拡散層のシート化が難しくなる傾向がある。
【0063】
また、ガス拡散層14には、基材としては成立しない重量(例えば、導電性粒子及び高分子樹脂よりも少ない重量)の炭素繊維が含まれていてもよい。炭素繊維には、補強効果があるので、炭素繊維の配合比率を高くすることによって、強度の高いガス拡散層を製造することができる。
【0064】
前記炭素繊維の材料としては、例えば、気相成長法炭素繊維(以下、VGCFという)、ミルドファイバー、カットファイバー、チョップファイバーなどが挙げられる。前記炭素繊維としてVGCFを使用する場合、例えば、繊維径0.15μm、繊維長15μmのものを使用すればよい。また、前記炭素繊維としてミルドファイバー、カットファイバー、又はチョップファイバーを使用する場合、例えば、繊維径5〜20μm、繊維長20μm〜100μmであるものを使用すればよい。
【0065】
前記ミルドファイバー、カットファイバー、又はチョップファイバーの原料は、PAN系、ピッチ系、レイヨン系のいずれでもよい。また、前記ファイバーは、原糸(長繊維フィラメント又は短繊維ステーブル)を切断、裁断することにより作製された短繊維の束を分散させて使用することが好ましい。
【0066】
前記炭素繊維の配合量は、高分子樹脂よりも少ない重量であることが好ましい。基材レスガス拡散層の高強度化には炭素繊維を少量配合することでも十分に効果がある。前記炭素繊維の配合量を高分子樹脂よりも多くすると、炭素繊維が膜を突き刺し、膜劣化が生じて性能低下する懸念が生じやすくなる。また、コストが高くなる要因になる。また、ガス拡散層14は、炭素繊維を基材として用いなければよく、導電性粒子と高分子樹脂と炭素繊維とで支持される自己支持体構造であってもよい。
【0067】
炭素繊維の配合比率は、2.0重量%以上10.0重量%以下であることが好ましい。炭素繊維の配合比率が2.0重量%未満である場合には、内部抵抗値が急激に高くなり、発電効率が低下するおそれがある。一方、炭素繊維の配合比率が10.0重量%より大きい場合には、炭素繊維は高分子電解質膜11よりも通常硬い材料で構成されるので、高分子電解質膜11が損傷して、燃料電池としての耐久性が低下するおそれがある。
【0068】
次に、図3、図4A、及び図4Bを参照しつつ、本第1実施形態にかかるガス拡散層14の製造方法の一例について説明する。図3は、本第1実施形態にかかるガス拡散層の製造方法の一例を示すフローチャートである。図4A及び図4Bは、その製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
【0069】
まず、ステップS1では、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混錬する。より具体的には、導電性粒子と界面活性剤と分散溶媒とを攪拌・混錬機に投入し、それらを混錬して粉砕及び造粒する。この後、それらの混錬物の中に高分子樹脂材料を添加してさらに分散させる。なお、高分子樹脂材料を他の材料と別に混錬機に投入せずに、高分子樹脂材料を含む全ての材料を同時に混練機に投入しても良い。
【0070】
ステップS2では、混錬して得た混錬物を平板プレス機で圧延してシート状に成形する。
ステップS3では、シート状に成形した混錬物を焼成して、前記混錬物中から界面活性剤と分散溶媒とを除去する。
ステップS4では、界面活性剤と分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整し、シート状の多孔質部材M14を作製する。このとき、多孔質部材M14の多孔度は、全体的に均一(例えば70%)である。
【0071】
ステップS5では、図4Aに示すように、ガス流路21の形状に対応する三角形の断面形状の突起部32aを有する金型32と金型31との間に多孔質部材M14を配置する。
【0072】
ステップS6では、図4Bに示すように、金型31,32を型閉じして多孔質部材M14を圧延する。このとき、多孔質部材M14の第1主面に突起部32aが挿入され、三角形の断面形状のガス流路21が形成される。また、このとき、三角形の断面形状の突起部32aはリブ部22を圧縮する方向に押すので、リブ部22の多孔度が他の部分よりも低く(例えば、40〜50%)なる。すなわち、リブ部22の多孔度は、リブ下方領域23の多孔度よりも低くなる。これにより、図2に示すガス拡散層14を得ることができる。
【0073】
なお、図31A及び図31Bに示すように、金型32に代えて矩形断面の突起部33aを有する金型33を用いた場合には、突起部33aの頂面33bが多孔質部材M14を厚み方向に押すことになる。このようにして製造された図31Cに示すガス拡散層14Aは、ガス流路21Aの下方領域(以下、流路下方領域という)24Aの多孔度がリブ部22A及びリブ下方領域23Aよりも低くなる。また、リブ下方領域23Aは、流路下方領域24Aに隣接するため、突起部33aの頂面33bの圧力の影響を受けて、リブ部22Aよりも多孔度が低くなる。言い換えれば、リブ部22Aの多孔度は、リブ下方領域23Aの多孔度よりも高くなる。この場合、リブ部22Aの多孔度が高いため、リブ部23Aの変形及び反応ガスの過剰な透過を抑えることができない一方、リブ下方領域23A及び流路下方領域24Aの多孔度が低いため、ガス拡散性が低下し、その結果、発電性能が低くなる。なお、「流路下方領域」とは、ガス流路の下面の鉛直下方に位置する領域をいう。
【0074】
なお、金型31,32は、圧延機械と一体に構成されていても良いが、圧延機械に着脱可能に構成されている方が取り扱いやすい。また、圧延機械としては、ロールプレス機又は平板プレス機を用いることができる。これらのうち、面精度が高いロールプレス機を用いる方が、ガス拡散層14の厚さバラツキを低減することができるので好ましい。この場合、一般的なグラビアロール機と同様に、ロールの表面に直接、突起部を有する金型が形成されていることが好ましい。
【0075】
また、圧延機械による圧延時には、適宜、多孔度の低い多孔質部材を加温するようにしても良い。この場合、加温温度は、250℃以下であることが好ましい。加温温度が250℃以下であるとき、多孔度の低い多孔質部材が軟化して、ガス流路21の形成が容易になる。一方、加温温度が250℃より高くなると、多孔度の低い多孔質部材が劣化するおそれがある。また、圧延機械の圧延力は、500kgf/cm未満であることが好ましい。圧延機械の圧延力は、高いほど、ガス流路21の形成が容易になるが、多孔度の低い多孔質部材に500kgf/cm以上の圧延力が加わると、割れや材料破壊が生じるおそれがある。
【0076】
また、圧延機械による圧延後に金型と多孔度の低い多孔質部材とが密着することを防止するために、それらの一方に離型剤をあらかじめ塗布しておいても良い。この離型剤としては、燃料電池の発電性能に影響を及ぼさない範囲で適宜選択可能であるが、蒸留水又は界面活性剤希釈蒸留水を用いることが好ましい。また、離型剤に代えて、PTFE樹脂製のシートを使用しても良い。金型の材質は、ステンレス鋼、チタン合金鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、超硬合金鋼、SKD11、SKD12、Ni−P硬化クロムなどの工具鋼、セラミックス、ガラス繊維強化プラスチックなどから選択可能である。さらに、金型の表面には、耐食性及び離型性を高めるために、硬質Crメッキ、PVD皮膜、TiC皮膜、TD処理、Zr溶射処理、PTFEコーティングなどの表面処理を施してもよい。前記ロールの表面に直接、突起部を有する金型が形成されている場合も同様である。
【0077】
本第1実施形態によれば、リブ部22の多孔度をリブ下方領域23の多孔度よりも低くしているので、リブ部22の変形及び反応ガスの過剰な透過を抑えることができ、発電性能を向上させることができる。また、ガス拡散層14として基材レスガス拡散層を用いたとしても、リブ部22の多孔度を低くすることによりリブ部22の変形を抑えることができるので、炭素繊維を基材としたガス拡散層と比べて、製造工程を簡単にすることができ、製造コストを抑えることができる。
【0078】
また、本第1実施形態によれば、リブ部22の多孔度をリブ下方領域23の多孔度よりも低くしたガス拡散層14を、三角形の断面形状の突起部32aを有する金型32を用いて多孔質部材M14を圧延するという簡単な製造方法により製造することができる。
【0079】
なお、多孔度は、次のようにして測定することができる。
まず、ガス拡散層を構成する各材料の真密度と組成比率から、製造したガス拡散層の見かけ真密度を算出する。
次いで、製造したガス拡散層の重量、厚さ、縦横寸法を測定して、製造したガス拡散層の密度を算出する。
次いで、多孔度=(ガス拡散層の密度)/(見かけ真密度)×100の式に、前記算出したガス拡散層の密度及び見かけ真密度を代入し、多孔度を算出する。
以上のようにして、製造したガス拡散層の多孔度を測定することができる。
なお、製造したガス拡散層の細孔径分布を、水銀ポロシメータを用いて測定したところ、累積細孔量から算出できる多孔度と、前記のようにして算出した多孔度とが一致していることを確認している。
【0080】
なお、本発明は前記第1実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、金型32の突起部32aの断面形状を三角形として、三角形の断面形状のガス流路21を形成したが、本発明はこれに限定されない。金型32の突起部32aの断面形状は、先細り形状であればよい。このような形状としては、三角形の他、図5に示すような台形や、図6に示すような五角形、図7に示すような三角形の先端部を丸めた形状などが挙げられる。このような形状であれば、リブ部22を圧縮する方向に押すことができるので、リブ部22の多孔度がリブ下方領域23の多孔度よりも低くなるように製造することが可能になる。
【0081】
なお、各リブ部22の多孔度は均一であることが好ましい。これにより、ガス拡散層14を通過する反応ガスが触媒層14の全体に均一に供給されることになり、発電性能を向上させることができる。各リブ部22の多孔度を均一にするためには、左右対称な断面形状の突起部を複数有する金型を用いるとよい。例えば、各突起部の断面形状が三角形である場合、当該三角形は二等辺三角形であることが好ましい。また、各突起部は、等間隔に形成されることが好ましい。さらに、各突起部は、同一形状であることが好ましい。
【0082】
また、前記では、ステップS1〜S6を行うことによりガス拡散層14を製造したが、本発明はこれに限定されない。例えば、各ステップの間に適宜、他の作業が含まれてもよい。また、前記では、ガス拡散層14の製造工程中に、シート状の多孔質部材M14を作製するステップS1〜S4の工程が含まれるようにしたが、本発明はこれに限定されない。シート状の多孔質部材M14には、あらかじめ作製したものを用いてもよい。すなわち、この場合、ガス拡散層14は、図8に示すようにステップS5及びステップS6のみを行うことで製造することができる。
【0083】
また、図9に示すように、ステップS11〜S14を行うことによりガス拡散層14を製造するようにしてもよい。以下、図9に示すガス拡散層14の製造方法について説明する。
【0084】
まず、ステップS11では、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混錬する。
ステップS12では、混錬して得た混錬物を平板プレス機で圧延して、シート状の多孔質部材M14を作製する。
【0085】
ステップS13では、シート状の多孔質部材M14をガス流路21の形状に対応する三角形の断面形状の突起部32aを有する金型32と金型31との間に配置した後、金型31,32を型閉じしてシート状の多孔質部材M14を圧延する。これにより、シート状の多孔質部材M14の第1主面に突起部32aが挿入されて三角形の断面形状のガス流路21が形成されるとともに、多孔質部材の厚さが調整される。
ステップS14では、ガス流路21を形成した多孔質部材を焼成して、前記多孔質部材中から界面活性剤と分散溶媒とを除去する。
これにより、図2に示すガス拡散層14を得ることができる。
【0086】
前記製造方法によれば、混錬物を焼成する前にガス流路21を形成するようにしているので、混錬物の流動性が高く、疎密の分布ができやすい。従って、前記製造方法によれば、リブ部22の多孔度をリブ下方領域23の多孔度よりも、より確実に低くすることができる。
【0087】
なお、前記では、平板プレス機を用いてシート状の多孔質部材M14を作製するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ロールプレス機を用いて、シート状の多孔質部材M14を連続的に形成(ロール・トゥ・ロール)するようにしてもよい。この場合、ロールプレス機のロール径、ロール幅、及び面精度は、適宜設定可能であるが、ロール径が大きいほど、多孔質部材M14にかかる圧力を均一に分散させることができる。また、面精度が高いほど、多孔質部材M14の厚さバラツキを低減することが可能である。このため、ロール径が大きく、面精度が高いロールプレス機を使用することが好ましい。
【0088】
また、前記では、前記混錬物をロールプレス機又は平板プレス機などで圧延してシート状の多孔質部材M14を作製するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、前記混錬物を押し出し機に投入し、押し出し機のダイヘッドから連続的にシート成形してシート状の多孔質部材M14を製造することもできる。また、押し出し機が備えるスクリューの形状を工夫して、当該スクリューに混練機能を持たせることにより、前記混練機を使わずに前記混錬物を得ることができる。すなわち、この場合、前記各カーボン材料の攪拌、混練、シート成形を一台の機械で一体的に行うことができる。
【0089】
なお、混練時間、混練機が備える羽の形状、混錬機の容量、各材料の投入量、分散溶媒の配合量、界面活性剤の配合量などによって、各材料(特に高分子樹脂材料)に加わる応力(せん断力)が変化し、その後のシート成形の容易性及び強度に影響がある。一般にせん断力が高いほど、高分子樹脂が高繊維化して導電性粒子同士の結着性を増し、ガス拡散層14の強度が向上する。しかしながら、せん断力が高過ぎると、混練物が硬い団子状になって、混錬後のシート成形の際に過大な圧力を加える必要性が生じるなど、ガス拡散層の製造が難しくなる。
【0090】
焼成温度及び焼成時間は、界面活性剤と分散溶媒とが蒸発又は分解する温度及び時間とすることが好ましい。なお、焼成温度が高過ぎる場合には、高分子樹脂が融解し、ガス拡散層14としての強度が低下して、シート形状が崩れるおそれがある。このため、焼成温度は、高分子樹脂の融点(例えばPTFEの場合、330℃〜350℃)以下であることが好ましい。また、界面活性剤の蒸発又は分解温度は、例えば、TG/DTA(示差熱・熱重量同時測定装置)等の分析結果により測定可能であり、一般的には260℃以上である。従って、焼成温度は、260℃以上であることが好ましい。焼成時間に関しては、焼成炉の仕様(体積、風量、風速など)と焼成枚数などに応じて適宜設定すればよい。
【0091】
界面活性剤の材料は、カーボン材料及び分散溶媒の種類に応じて適宜選択すればよい。
なお、前記では界面活性剤を使用したが、界面活性剤を使用しなくても、本第1実施形態にかかるガス拡散層14は製造可能である。
【0092】
《第2実施形態》
本発明の第2実施形態にかかる燃料電池について説明する。図10は、本第2実施形態にかかる燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。図11は、図10の燃料電池が備えるガス拡散層の拡大斜視図である。本第2実施形態にかかる燃料電池が前記第1実施形態にかかる燃料電池と異なる点は、ガス流路21Bの断面形状が矩形である点である。本第2実施形態において、リブ部22Bの多孔度は、リブ下方領域23B及び流路下方領域24Bの多孔度よりも低くなるように構成されている。なお、図11に示す複数の黒丸は、多孔度の違いを示すために便宜的に付したものである。
【0093】
次に、図11、図12、図13A〜図13Cを参照しつつ、本発明の第2実施形態にかかるガス拡散層14Bの製造方法の一例について説明する。図12は、ガス拡散層14Bの製造方法の一例を示すフローチャートである。図13A〜図13Cは、ガス拡散層14Bの製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
【0094】
ここでは、金型32に代えて金型34を用いる点で前記第1実施形態のガス拡散層14の製造方法と異なる。金型34は、複数の突起部34aを有し、当該各突起部34aは、第1及び第2突起の一例である2枚の平板34b,34cで構成されている。平板34b,34cの少なくとも一方は、他方から離れる方向に移動可能に構成されている。それ以外の点については、前記第1実施形態のガス拡散層14の製造方法と同様であるので、重複する説明は省略し、主に相違点について述べる。
【0095】
まず、ステップS21では、図13Aに示すように、多孔質部材M14を金型31,34間に配置する。
ステップS22では、図13Bに示すように、金型31,34を型閉じして多孔質部材M14を圧延する。このとき、多孔質部材M14の第1主面に各突起部34aが挿入される。
ステップS23では、図13Cに示すように、突起部34aを構成する平板34b,34cを多孔質部材M14の面方向であって互いに離れる方向に移動させる。これにより、多孔質部材M14に複数の矩形断面のガス流路21Bが形成される。このとき、各平板34b,34cは、リブ部22Bを圧縮する方向に押すので、リブ部22Bの多孔度が他の部分よりも低く(例えば、40〜50%)なる。すなわち、リブ部22Bの多孔度は、リブ下方領域23B及び流路下方領域24Bの多孔度よりも低くなる。これにより、図11に示すガス拡散層14Bを得ることができる。
【0096】
本第2実施形態によれば、リブ部22の多孔度をリブ下方領域23及び流路下方領域24Bの多孔度よりも低くしているので、リブ部22の変形及び反応ガスの過剰な透過を抑えることができ、発電性能を向上させることができる。
【0097】
また、前記第1実施形態の製造方法を利用してガス流路21の断面形状を矩形にしようとした場合には、一旦、金型31,32を型開きした後、ガス流路21の周囲を削るなどの工程が必要である。これに対して、本第2実施形態によれば、金型31,34を型閉じしたまま、矩形断面のガス流路21Bを形成することができ、製造工程を減らすことができる。
【0098】
また、金型34における2枚の平板34b,34cにつき、その先端部のみが重なり合い、その末端部においては離れるように配置された金型(図示せず)を用いることで、台形の断面形状を有するガス流路21を容易に製造することができる。
【0099】
なお、流路下方領域24Bの多孔度は、リブ下方領域23の多孔度と同様に、65%以上80%未満であることが好ましい。流路下方領域24Bの多孔度が65%未満である場合には、ガス透過性が低下して、ガス拡散層14の厚み方向に反応ガスが流れにくくなり、ガス流路21Bリブ部22の鉛直下方での発電が困難になる。一方、炭素繊維を基材として用いずにガス拡散層の多孔度を80%以上とすることは、製造プロセス上、困難である。仮に、多孔度80%以上のガス拡散層を製造することができたとしても、強度が著しく低下し、ガス拡散層としての機能(特に耐久性)を果すことができない。
【0100】
次に、前記製造方法の一例について詳細に説明する。
【0101】
まず、図13Aに示すような4つの突起部34aを有する金型34を用意する。突起部34aは、チタン合金製の2枚の平板34b,34cで構成し、1.5mm間隔で配置する。平板34b,34cとしては、図14に示すような厚さT1が0.05mm、高さH1が0.6mm、幅W1が500mmの平板をそれぞれ用いる。金型34としては、平板34b,34cを互いに離れる方向に移動させることができるように、精密な駆動機構を組み込んだ金型を用いる。
【0102】
次いで、図13Aに示すように、金型31と金型34との間に多孔質部材M14を配置する。多孔質部材M14は、多孔度70%、厚さ1mmのものを用いる。
次いで、図13Bに示すように、金型31と金型34とを型閉じし、各突起部34aを、平板34bと平板34cとが互いに接触した状態で多孔質部材M14内に挿入する。
【0103】
次いで、金型34内に組み込んだ駆動機構を駆動させて、図13Cに示すように、平板34bと平板34cとを多孔質部材M14の面方向であって互いに離れる方向にそれぞれ約500μm移動させる。これにより、流路幅が1mm、流路深さが0.6mmであるストレート形状のガス流路21を4本同時に形成する。なお、リブ部22の幅は0.5mmとする。
【0104】
前記のようにしてガス拡散層14Bを製造してリブ下方領域23とリブ部22の多孔度を測定すると、例えば、リブ下方領域23の多孔度が70%であるのに対し、リブ部22の多孔度は48%となる。
【0105】
なお、前記では、金型34に4つの突起部34aを設け、当該4つの突起部34aを全て多孔質部材M14内に挿入することにより、4本のガス流路21Bを同時に形成するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、金型34に突起部34aを1つだけ設け、当該1つの突起部34aを多孔質部材M14内に逐次挿入することにより、4本のガス流路21Bを別々に形成するようにしてもよい。なお、前記のようにして製造したガス拡散層14Bのリブ下方領域23とリブ部22の多孔度を測定すると、例えば、リブ下方領域23の多孔度が70%であるのに対し、リブ部22の多孔度は49%となる。
【0106】
また、本第2実施形態にかかるガス拡散層14Bは、図15A〜図15Cに示す製造方法によっても製造することができる。以下、図15A〜図15Cに示すガス拡散層14Bの製造方法について説明する。
【0107】
ここでは、金型32に代えて金型35を用いる点で前記第1実施形態のガス拡散層14の製造方法と異なる。金型35には、突起部の一例である複数の平板35aが設けられている。各平板35aは、多孔質部材M14の面方向に移動可能に構成されている。それ以外の点については、前記第1実施形態のガス拡散層14の製造方法と同様であるので、重複する説明は省略し、主に相違点について述べる。
【0108】
まず、図15Aに示すように、多孔質部材M14を金型31,35間に配置する。
次いで、図15Bに示すように、金型31,35を型閉じして多孔質部材M14を圧延する。このとき、多孔質部材M14の第1主面に各平板35aが挿入される。
次いで、図15Cに示すように、多孔質部材M14内に挿入した各平板35aを、多孔質部材M14の面方向に移動させる。これにより、多孔質部材M14に矩形断面のガス流路21Bが形成される。このとき、各平板35aは、リブ部22Bを圧縮する方向に押すので、リブ部22Bの多孔度が他の部分よりも低く(例えば、40〜50%)なる。すなわち、リブ部22Bの多孔度は、リブ下方領域23B及び流路下方領域24Bの多孔度よりも低くなる。これにより、図11に示すガス拡散層14Bを得ることができる。
【0109】
次に、前記製造方法の一例について詳細に説明する。
【0110】
まず、図15Aに示すような4つの平板35aを有する金型35を用意する。平板35aは、チタン合金製の平板で構成し、1.5mm間隔で配置する。平板35aとしては、図14に示すような厚さT1が0.05mm、高さH1が0.6mm、幅W1が500mmの平板を用いる。金型35としては、各平板35aを多孔質部材M14の面方向に移動させることができるように、精密な駆動機構を組み込んだ金型を用いる。
【0111】
次いで、図15Aに示すように、金型31と金型35との間に多孔質部材M14を配置する。多孔質部材M14は、多孔度70%、厚さ1mmのものを用いる。
次いで、図15Bに示すように、金型31と金型35とを型閉じし、各平板35aを多孔質部材M14内に挿入する。
【0112】
次いで、金型35内に組み込んだ駆動機構を駆動させて、図15Cに示すように、各平板35aを多孔質部材M14の面方向に約1.0mm移動させる。これにより、流路幅が1mm、流路深さが0.6mmであるストレート形状のガス流路21を4本同時に形成する。なお、リブ部22の幅は0.5mmとする。
【0113】
前記のようにしてガス拡散層14Bを製造してリブ下方領域23とリブ部22の多孔度を測定すると、例えば、リブ下方領域23の多孔度が70%であるのに対し、リブ部22の多孔度は48%となる。
【0114】
《第3実施形態》
本発明の第3実施形態にかかる燃料電池について説明する。図16は、本第3実施形態にかかる燃料電池の基本構成を模式的に示す断面図である。図17は、図16の燃料電池が備えるガス拡散層の拡大斜視図である。本第3実施形態にかかる燃料電池が前記第1実施形態にかかる燃料電池と異なる点は、ガス拡散層14Cのガス流路21Cの断面形状がアーチ型である点である。それ以外の点については、前記第1実施形態にかかる燃料電池と同様に構成されている。すなわち、ガス拡散層14Cは、リブ部22Cの多孔度がリブ下方領域23Cの多孔度よりも低くなるように構成されている。なお、図17に示す複数の黒丸は、多孔度の違いを示すために便宜的に付したものである。
【0115】
本第3実施形態によれば、ガス流路21Cの断面形状をアーチ型にしているので、ガス拡散層14Cの全体に締結圧が加わった場合に、アーチ状のガス流路21Cの側壁がリブ部22C側に広がっていく方向(面方向)にも応力が発生する。これにより、リブ部22Cが更に密になり、当該断面形状を矩形とする場合よりもリブ部22Cが変形しにくくなる。従って、セル1の組立時に加わる締結圧に対するリブ部22の強度を向上させることができる。これにより、セル1の組立時に加わる締結圧によるガス流路21Cの断面積の減少を抑えることができ、発電性能を一層向上させることができる。
【0116】
なお、アーチ型の断面形状には、図18に示すように、底部14aaのコーナー部がR形状である断面形状が含まれる。また、アーチ型の断面形状には、図19に示すように、円弧状の断面形状が含まれる。
【0117】
次に、図17、図20、図21A、及び図21Bを参照しつつ、本発明の第3実施形態にかかるガス拡散層14Bの製造方法の一例について説明する。図20は、本発明の第3実施形態にかかるガス拡散層14Cの製造方法の一例を示すフローチャートである。図21A及び図21Bは、その製造方法の一例を模式的に示す説明図である。
【0118】
まず、ステップS31では、導電性粒子と高分子樹脂と界面活性剤と分散溶媒とを混錬する。
ステップS32では、混錬して得た混錬物を平板プレス機で圧延してシート状に成形する。
ステップS33では、シート状に成形した混錬物を焼成して、前記混錬物中から界面活性剤と分散溶媒とを除去する。
ステップS34では、界面活性剤と分散溶媒とを除去した混錬物を再圧延して厚さを調整し、シート状の多孔質部材M14を作製する。
なお、ステップS31〜S34は、前記ステップS1〜S4と同様である。
【0119】
ステップS35では、図21Aに示すように、ガス流路21Cの形状に対応するアーチ型の断面形状の突起部36aを有する金型36と金型31との間に多孔質部材M14を配置する。
【0120】
ステップS36では、図21Bに示すように、金型31,36を型閉じして圧延する。このとき、多孔質部材M14の第1主面に突起部36aが挿入され、アーチ型の断面形状のガス流路21Cが形成される。また、このとき、アーチ型の断面形状の突起部36aはリブ部22Cを圧縮する方向に押すので、リブ部22Cの多孔度が他の部分よりも低く(例えば、40〜50%)なる。すなわち、リブ部22Cの多孔度は、リブ下方領域23Cの多孔度よりも低くなる。これにより、図17に示すガス拡散層14Cを得ることができる。
【0121】
なお、アーチ型の曲率等によっては、リブ部22Cの多孔度をリブ下方領域23Cの多孔度よりも低くすることが困難な場合がある。このため、リブ部22Cの多孔度がリブ下方領域23Cの多孔度よりも低くなるように、アーチ型の曲率等の各種寸法を設定するよう留意すべきである。
【0122】
次に、本第3実施形態にかかるアーチ型のガス流路21Cを備えたガス拡散層14Cの作用、効果を検証するために行った実験結果について説明する。
【0123】
ここでは、図32に示す矩形断面のガス流路221を備える従来のガス拡散層214と、図18及び図19に示すアーチ型のガス流路21Cを備える本第3実施形態にかかるガス拡散層14Cの3つのガス拡散層を用意した。そして、図22に示すように、それらのガス拡散層14a,14b,214のガス流路21a,21b,221側の主面に、セパレータ20を取り付けた後、所定の圧力で加圧し、ガス流路の断面積の変化を検証した。
【0124】
このとき、図18、図19、及び図32に示す各ガス拡散層14a,14b,214のガス流路21a,21b,221の各断面積は、約0.33mmとなるように設定した。具体的には、各種寸法を次のように設定した。図32に示す従来のガス拡散層214のガス流路221の幅Lは1.1mmとし、深さDは0.3mmとした。図18に示す本第3実施形態にかかるガス拡散層14aのガス流路21aの上部14abの幅Laは1.1mmとし、深さDaは0.3351mmとし、底部14abのコーナー部のR形状部分の半径Raは0.3mmとした。図19に示す本第3実施形態にかかるガス拡散層14bのガス流路21bの上部14bbの幅Lbは1.1mmとし、深さは0.39mmとし、円弧部分の半径Rbは1.3mmとした。また、各ガス拡散層14a,14b,214及びセパレータ20の長さL1は、30.35cmとした。各ガス拡散層14a,14b,214のヤング率は2.78MPaとし、ポアソン比は0.3とした。セパレータ20のヤング率は9000MPaとし、ポアソン比は0.3とした。図22に示す圧力Pは、2.0kgf/cmに設定した。
【0125】
【表1】

【0126】
表1は、各ガス拡散層14a,14b,214のガス流路21a,21b,221の加圧前の断面積と、加圧後の断面積と、加圧前後の断面積の比を示している。
【0127】
表1により、本第3実施形態にかかるガス拡散層14aが従来のガス拡散層214に比べてガス流路の断面積の減少を3.9%(=80.5%−76.6%)抑える効果を有することがわかる。また、表1により、本第3実施形態にかかるガス拡散層14bが、従来のガス拡散層214に比べてガス流路の断面積の減少を4.8%(=81.4%−76.6%)抑える効果を有することがわかる。
【0128】
図23は、ガス流路の上部の流路幅を1.1mmで固定したときの、ガス流路の深さに対する圧力損失の割合を示すグラフである。
【0129】
ここで、各ガス拡散層14b,214のガス流路21b,221の加圧前の深さを0.3mmとした場合において、圧力Pを2.0kgf/cmとして加圧すると、ガス流路21b,221の加圧後の深さDb,Dは次のようになる。すなわち、ガス流路21bの加圧後の深さDbは、0.243mm(=0.3mm×81.4%)となり、ガス流路221の加圧後の深さDは、0.228mm(=0.3mm×76.6%)となる。
【0130】
図23において、ガス流路の深さが0.243mmのとき、圧力損失は約1.7kPaである。図23において、ガス流路の深さが0.228mmのとき、圧力損失は約2.0kPaである。これにより、本第3実施形態にかかるガス拡散層14bが従来のガス拡散層214に比べて0.3kPa(=2.0kPa−1.7kPa)の圧力損失を低減する効果を有することがわかる。なお、圧力損失を0.3kPa低減することで、約1Wの消費電力を削減することができる。
【0131】
なお、前記では、ガス流路21Cの断面形状をアーチ型としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、ガス流路21Cの断面形状は、図24に示すような台形であってもよいし、図25に示すような五角形であってもよい。また、ガス流路21の断面形状は、図26に示すような三角形の先端部を丸めたような形状であってもよい。すなわち、ガス流路21の断面形状は、触媒層13側に位置する底部からセパレータ20側に位置する上部に向かって流路幅が大きくなっていればよい。このような断面形状であっても、従来よりもリブ部の変形を抑えることができる。
【0132】
また、ガス流路の全てがアーチ型である必要はなく、少なくとも一部がアーチ型であればよい。この場合でも、従来に比べて発電性能を向上させることができる。なお、ボルトなどの締結部材によりセル1を加圧締結する場合、当該締結部材は、通常、ガス拡散層14Cの外周部を貫通するように挿入される。このため、特にガス流路21Cの外周部に、大きな圧力がかかり易い。従って、ガス拡散層14Cの主面の中心側に位置するガス流路に比べて、ガス拡散層14Cの主面の外周側に位置するガス流路の方が閉塞され易い。このため、例えば、図27に示すように、ガス拡散層14Cの両端部側に位置するガス流路をアーチ型の断面形状を有するガス流路21Cとし、それらの間に位置するガス流路を矩形断面を有する従来のガス流路221としてもよい。また、図28に示すように、直線状に伸びる複数のガス流路を、それぞれ、アーチ型の断面形状を有するガス流路21Cである部分と、矩形断面を有する従来のガス流路221である部分とで構成するようにしてもよい。
【0133】
また、前記では、アノード側及びカソード側の両方に、本発明にかかる流路付きガス拡散層を配置したが、本発明はこれに限定されない。アノード側及びカソード側の少なくとも一方に、本発明にかかる流路付きガス拡散層を配置した構造としてもよい。
【0134】
カソード電極(空気極)の酸化剤ガス流路は、アノード電極(燃料極)の燃料ガス流路に比べて複雑な形状である方が、燃料電池の発電性能は高くなりやすい。しかしながら、金属、あるいはカーボンと樹脂とで構成された従来のセパレータに複雑な形状のガス流路を設けることは困難である。これに対して、本発明にかかる流路付きガス拡散層は、基材レスガス拡散層で構成されているので、ガス流路の形成が容易である。従って、例えば、図29に示すように、アノード側には、従来のアノードガス拡散層114と、燃料ガス流路121を設けた従来の溝状のガス流路が形成されたセパレータ120とを配置し、カソード側にのみ、ガス流路21を有する本発明のカソードガス拡散層14と、少なくとも膜電極接合体と接する側の面が平坦な形状を有するセパレータ20とを配置するようにしてもよい。平坦とは、カソードセパレータの面方向において、巨視的に見て、凹凸が形成されていない形状をいい、例えば、プレス機や切削機で反応ガス流路となるような凹凸を形成されていない形状をいう。このような構成によっても、従来の構成に比べて、燃料電池の発電性能の一層向上させることができる。
【0135】
なお、この場合、アノードガス拡散層114の多孔度は、カソードガス拡散層14の多孔度より低いことが好ましい。これにより、アノードガス拡散層114の保水性をカソードガス拡散層14の保水性に比べて高くすることができる。また、カソードガス拡散層14のガス拡散性をアノードガス拡散層114のガス拡散性に比べて高くすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明にかかる膜電極接合体及びその製造方法は、燃料電池の発電性能の一層向上させることができるので、例えば、自動車などの移動体、分散発電システム、家庭用のコージェネレーションシステムなどの駆動源として使用される燃料電池に有用である。
【0137】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、この技術に熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜を挟むように設けられた1対の触媒層と、
前記1対の触媒層及び前記高分子電解質膜を挟むように対をなして設けられ、その少なくとも一方が、導電性粒子と高分子樹脂とを主成分とした多孔質部材から構成され、前記触媒層に接する第1主面とその反対側に位置する第2主面とを有し、前記第2主面側に互いに隣接するように複数のガス流路が形成され、前記互いに隣接するガス流路を隔てるリブ部の多孔度が、前記第1主面側に位置する前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低く形成されたガス拡散層と、
を有する、膜電極接合体。
【請求項2】
前記リブ部の多孔度が、前記第2主面側に位置する前記ガス流路の下方領域の多孔度よりも低い、請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記ガス流路の少なくとも一部は、前記第2主面側に位置する底部から前記第1主面側に位置する上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状を有している、請求項1又は2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記ガス拡散層の第1主面の中心側に位置するガス流路は、矩形の断面形状を有し、
前記ガス拡散層の第1主面の外周側に位置するガス流路は、前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状を有している、
請求項3に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記ガス流路の全部が、前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状を有している、請求項3に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状は、三角形である、請求項3〜5のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状は、アーチ型である、請求項3〜5のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記底部から前記上部に向かって流路幅が大きくなる断面形状は、台形である、請求項3〜5のいずれか1つに記載の膜電極接合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を挟むように設けられ、前記膜電極接合体と接する側の面が平坦な形状を有する1対のセパレータと、
を有する、燃料電池。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の膜電極接合体と、
前記ガス拡散層の前記第2主面側に配置され、前記膜電極接合体と接する側の面が平坦な形状を有する第1セパレータと、
前記第1セパレータと対をなして前記膜電極接合体を挟むように設けられ、前記膜電極接合体と接触する一方の主面には、溝状のガス流路が形成された第2セパレータと、
を有する、燃料電池。
【請求項11】
第1主面にガス流路が形成された膜電極接合体を製造する方法であって、
先細り形状の突起部を有する金型に導電性粒子と高分子樹脂とを主成分としたシート状の多孔質部材を配置した後、前記金型を型閉じして、前記多孔質部材の第1主面に前記突起部を挿入することにより、前記ガス流路を形成するとともに、互いに隣接する前記ガス流路を隔てるリブ部の多孔度を前記多孔質部材の第2主面側に位置する前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低くする、
ことを含む、膜電極接合体の製造方法。
【請求項12】
前記突起部の断面形状が三角形である、請求項11に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項13】
前記突起部の断面形状がアーチ型である、請求項11に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項14】
前記突起部の断面形状が台形である、請求項11に記載の膜電極接合体の製造方法。
【請求項15】
第1主面にガス流路が形成された膜電極接合体を製造する方法であって、
突起部を有する金型に導電性粒子と高分子樹脂とを主成分としたシート状の多孔質部材を配置した後、前記金型を型閉じして、前記多孔質部材の第1主面に前記突起部を挿入し、
前記挿入した突起部を前記多孔質部材の面方向に移動させることにより、前記多孔質部材の第1主面に前記ガス流路を形成するとともに、互いに隣接する前記ガス流路を隔てるリブ部の多孔度を前記多孔質部材の第2主面側に位置する前記リブ部の下方領域の多孔度よりも低くする、
ことを含む、膜電極接合体の製造方法。
【請求項16】
前記突起部は、第1突起と第2突起とを有し、
前記ガス流路は、前記第1突起と前記第2突起とを互いに離れる方向に移動させることにより形成される、請求項15に記載の膜電極接合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31A】
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【図31B】
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【図31C】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−59694(P2012−59694A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156246(P2011−156246)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【分割の表示】特願2011−516600(P2011−516600)の分割
【原出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】