説明

膜電極接合体及び燃料電池

【課題】本発明は、燃料電池に関し、三相界面に反応ガスをより効率的に供給できる燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】カソード触媒層16は、内部に中空状の空間が形成された電子伝導性のCNT161を含んでいる。CNT161には、この中空状空間の形成方向の一端に開口端161a、他端に閉口端161bがそれぞれ形成されている。開口端161aは、ガス拡散層22に接するように配置されている。一方、閉口端161bは、高分子電解質膜12と接するように配置されている。CNT161の表面には、欠陥部161cが形成されている。欠陥部161cは、CNT161の外表面と、上記中空状空間とを連通するように形成されている。CNT161の外表面には、触媒粒子162が設けられ、触媒粒子162を覆うようにアイオノマ163が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜電極接合体及び燃料電池に関し、より詳細には、カーボンナノチューブにより電極層が構成された膜電極接合体及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、導電性繊維からなる集電体層と、該集電体層に対して略垂直方向に形成されたカーボンナノファイバーと、該カーボンナノファイバーの表面に担持された触媒と、該カーボンナノファイバーの表面において、該触媒と接触して形成されるプロトン伝導体と、を備える膜電極接合体が開示されている。このカーボンナノファイバーは、導電性繊維の下面から上面側の方向に向かって導電性繊維に沿って形成されている。このため、カーボンナノファイバーと導電性繊維の接着性を高くでき、これらの界面における電子伝導性が良好となる。したがって、燃料電池の出力の向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−298861号公報
【特許文献2】特開2005−203332号公報
【特許文献3】特開2007−257886号公報
【特許文献4】特開2005−004967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料電池における電気化学反応は、触媒、高分子電解質(アイオノマ)、反応ガスの三相界面で生じる。このため、この三相界面に、反応ガスをより効率的に供給できれば、出力の向上を含めた更なる電池性能の向上を図ることができる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1において、カーボンナノファイバーの表面は、アイオノマの層で覆われている。また、通常、アイオノマは、電気化学反応による生成水や、加湿による水分を含んでいる。ここで、供給された反応ガスがどのように上記三相界面に到達するかに着目する。そうすると、反応ガスは、上記アイオノマを含む水中に溶解し、拡散しながら上記三相界面に到達すると考えられる。このため、アイオノマの層において、反応ガスの拡散性が低下し、電池性能が低下する可能性がある。したがって、供給された反応ガスのアイオノマへの溶解及び拡散に着目した場合、電池性能の向上に関し、依然として改良の余地があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、三相界面に反応ガスをより効率的に供給可能な膜電極接合体及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、膜電極接合体であって、
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜と接するように配置され、長さ方向の両端に開口部及び閉口部が形成されたカーボンナノチューブと、
前記カーボンナノチューブの外表面に配置された触媒と、
前記外表面において、前記触媒と接触するように配置されたプロトン伝導体と、
を備え、
前記閉口部が前記電解質膜側に配置されると共に、前記外表面には、前記カーボンナノチューブの内部空間と連通する複数の連通孔が形成されていることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記外表面が親水化処理されていることを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、第2の発明において、
前記外表面がアモルファス層構造であることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明において、
前記カーボンナノチューブは、前記高分子電解質膜の面方向に対して実質上垂直に形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明において、
前記カーボンナノチューブをカソード側の電極に用いたことを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第1乃至第5の発明において、
前記複数の連通孔が、前記カーボンナノチューブを酸素の存在下で加熱することで形成されたことを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第6の発明において、
前記カーボンナノチューブに金属塩を加えて加熱することで形成されたことを特徴とする。
【0014】
また、第8の発明は、第1乃至第5の発明において、
前記複数の連通孔が、水又はアルコールを付着させた前記カーボンナノチューブにマイクロ波を照射することで形成されたことを特徴とする。
【0015】
また、第9の発明は、上記の目的を達成するため、燃料電池であって、
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜と接するように配置され、長さ方向の両端に開口部及び閉口部が形成されたカーボンナノチューブと、
前記カーボンナノチューブの外表面に配置された触媒と、
前記外表面において、前記触媒と接触するように配置されたプロトン伝導体と、
前記カーボンナノチューブと接するように配置され、反応ガスを流通させるガス流路が形成されたセパレータ又はガス拡散層と、
を備え、
前記閉口部が前記電解質膜側に配置され、前記開口部が前記ガス流路と連通するように配置されると共に、前記外表面には、前記カーボンナノチューブの内部空間と連通する複数の連通孔が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、カーボンナノチューブの一端を構成する閉口部が、電解質膜側に配置される。このため、カーボンナノチューブの他端を構成する開口部を、反応ガスを流通させるガス流路が形成されたセパレータ又はガス拡散層側に配置できる。また、カーボンナノチューブの外表面に、カーボンナノチューブの内部空間と連通する複数の連通孔を形成できる。カーボンナノチューブの内部空間は、筒状の中空空間である。このため、上記ガス流路を通じて供給された反応ガスを、カーボンナノチューブの開口部、筒状中空空間、複数の連通孔の順に流すことができる。また、カーボンナノチューブの閉口部が、電解質膜側に配置されることで、電解質膜側から筒状中空空間への水の移動を防止できる。したがって、筒状中空空間における反応ガス拡散の阻害となる要因を抑制できる。以上のことから、カーボンナノチューブの外表面に配置された触媒に反応ガスを迅速的に到達させることができるので、三相界面に反応ガスを効率的に供給できる。
【0017】
第2、第3の発明によれば、カーボンナノチューブの外表面が親水化処理されているので、複数の連通孔から筒状中空空間に生成水等が流入することを防止できる。また、仮に筒状中空空間に結露が生じたとしても、この連通孔を経由して、外部へ水分を速やかに排出することができる。
【0018】
第4の発明によれば、カーボンナノチューブが実質上垂直に形成される。このため、隣り合うカーボンナノチューブ間に反応ガスが拡散し易い空間を確保でき、カーボンナノチューブ間のガス輸送パスを短くできる。また、カーボンナノチューブの長さを極力短くできるので、その中空状空間のガス輸送パスを短くできる。したがって、カーボンナノチューブの層において、反応ガスの拡散性を高めることができる。
【0019】
カソード側の電極には、通常、反応ガスとして酸素が供給される。この酸素の電極中における拡散性の低下は、出力といった燃料電池特性に特に影響を及ぼす。この点、第5の発明によれば、カソード側の電極における酸素の拡散性を良好に保つことができるので、燃料電池特性の向上を図ることが可能となる。
【0020】
第6〜第8の発明によれば、カーボンナノチューブの外表面に複数の連通孔を確実に形成できるので、反応ガスを筒状中空空間に滞留させることなく触媒に到達させることができる。
【0021】
第9の発明によれば、上記開口部をセパレータ又はガス拡散層のガス流路と直接的に連通させることが可能となるので、より効率的に三相界面に反応ガスを供給できる燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】燃料電池10の断面構成の模式図である。
【図2】カソード触媒層16の一部の拡大模式図である。
【図3】比較例としての従来のカソード触媒層30の拡大模式図である。
【図4】図3の破線部分の拡大模式図である。
【図5】本実施形態で作製したカソード触媒層の断面SEM写真である。
【図6】(a)転写前のカーボンナノチューブの閉口端のTEM写真及び(b)転写後のカーボンナノチューブの開口端のTEM写真である。
【図7】カーボンナノチューブの結晶構造及び欠陥構造を示すTEM写真である。
【図8】発電特性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施の形態1.
[燃料電池の構成]
図1は、本実施形態の燃料電池10の断面構成の模式図である。図1に示すように、燃料電池10は、高分子電解質膜12の両側に、これを挟むようにアノード触媒層14、カソード触媒層16が、それぞれ設けられている。アノード触媒層14の外側には、ガス拡散層18、セパレータ20が順に設けられている。同様に、カソード触媒層16の外側には、ガス拡散層22、セパレータ24が順に設けられている。高分子電解質膜12と、これを挟む一対のアノード触媒層14、カソード触媒層16とにより、MEA26が構成される。
【0024】
高分子電解質膜12は、プロトンをアノード触媒層14からカソード触媒層16へ伝導する役割をもつプロトン交換膜である。高分子電解質膜12は、炭化水素系の高分子電解質が膜状に形成されたものである。
【0025】
炭化水素系の高分子電解質としては、(i)主鎖が脂肪族炭化水素からなる炭化水素系高分子、(ii)主鎖が脂肪族炭化水素からなり、主鎖の一部又は全部の水素原子がフッ素原子で置換された高分子や、(iii)主鎖が芳香環を有する高分子等が挙げられる。また、高分子電解質としては、酸性基を有する高分子電解質、塩基性基を有する高分子電解質のいずれも用いることができる。このうち、酸性基を有する高分子電解質を用いると、発電性能に優れた燃料電池が得られる傾向にあるため好ましい。酸性基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。このうち、スルホン酸基又はホスホン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。
【0026】
このような高分子電解質膜12としては、具体的に、NAFION(デュポン社、登録商標)、FLEMION(旭硝子(株)、登録商標)、ACIPLEX(旭化成ケミカルズ(株)、登録商標)、GORE−SELECT(ジャパンゴアテックス(株)、登録商標)等が挙げられる。
【0027】
アノード触媒層14、カソード触媒層16は、実質的に、燃料電池における電極層として機能する層である。アノード触媒層14、カソード触媒層16の両方には、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)に担持された触媒が用いられる。
【0028】
ガス拡散層18,22は、それぞれの触媒層に原料ガスを均一に拡散させるとともに、MEA26の乾燥を抑制する等の目的で備えられる導電性の多孔質基材である。導電性の多孔質基材としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルト等の炭素系多孔体が挙げられる。
【0029】
また、多孔質基材は、単層から形成されるものであってもよいが、触媒層に面する側により孔径の小さい多孔質層を設けて二層で形成されるものであってもよい。更に、多孔質基材は、触媒層に面する側に撥水層を設けてもよい。撥水層は、一般的に、炭素粒子や炭素繊維等の導電性粉粒体、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性樹脂等を含む多孔質構造を有するものである。このような撥水層を設けることで、アノード触媒層14、カソード触媒層16や高分子電解質膜12内の水分量を適度に保持しつつ、ガス拡散層18,22の排水性を高めることができる上に、アノード触媒層14、カソード触媒層16とガス拡散層18,22間の電気的接触を改善することができる。ガス拡散層18,22と、MEA26とからMEGA28が構成される。
【0030】
セパレータ20,24は、電子伝導性を有する材料で形成されている。このような材料としては、例えば、カーボン、樹脂モールドカーボン、チタン、ステンレス等が挙げられる。このセパレータ20,24には、通常、ガス拡散層18,22側に、燃料ガスを流通させるための燃料流路が形成されている。
【0031】
図1においては、上記のように構成されたMEGA28とその両側に配置された一対のセパレータ20,24を1組のみ図示したが、実際の燃料電池は、MEGA28がセパレータ20,24を介して複数積層されたスタック構造を有している。
【0032】
図2は、図1のカソード触媒層16の一部の拡大模式図である。カソード触媒層16は、内部に中空状の空間が形成された電子伝導性のCNT161を含んでいる。CNT161は、後述する製造方法により、高分子電解質膜12の面方向に対して実質上垂直に配向される。実質上垂直に配向されることで、隣り合うCNT161間に反応ガスが拡散し易い空間を確保できるので、反応ガスの拡散性を高めることができる。また、CNT161の長さを極力短くできるので、その中空状空間のガス輸送パスを短くできる。したがって、中空状空間においても、反応ガスの拡散性を高めることができる。
【0033】
ここで、実質上垂直とは、高分子電解質膜12の面方向と、チューブ長さ方向とのなす角度が90°±10°であることを意味する。これは、製造時の条件等によって、必ずしも90°とならない場合を含むものであるが、90°±10°の範囲であれば、90°で形成されている場合と同様の効果が得られる。ただし、実質上垂直に配向されたCNTには、チューブ長さ方向の形状が直線状のものと、直線状でないものの両方が含まれる。そのため、チューブ長さ方向の形状が直線状でないCNTの場合には、CNTの両端面の中心部を結ぶ直線の方向をもってチューブの長さ方向とする。
【0034】
CNT161のチューブ長さ方向の一端には、開口端161aが、他端には閉口端161bが、それぞれ形成されている。開口端161aは、図1のガス拡散層22に接するように配置されている。一方、閉口端161bは、高分子電解質膜12と接するように配置されている。更に、CNT161の表面には、欠陥部161cが形成されている。欠陥部161cは、CNT161の外表面と、上記中空状空間とを連通するように形成されている。
【0035】
CNT161の外表面には、触媒粒子162が設けられている。触媒粒子162としては、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスニウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金等が挙げられる。好ましくは、白金、及び白金と例えばルテニウムなど他の金属とからなる合金である。CNT161の外表面には、触媒粒子162を覆うようにアイオノマ163が設けられている。隣り合うCNT161の外表面に設けられるアイオノマ163は、必ずしも接触している必要はない。換言すれば、隣り合うCNT161間にアイオノマ163は、必ずしも充填されている必要はない。好ましいアイオノマ163としては、例えば、高分子電解質膜12として例示した高分子電解質と同様の材料が挙げられる。
【0036】
CNT161の構造や配向は、上述のように設計されているので、反応ガスを、2経路を経由させて触媒粒子162に到達させることができる。即ち、第1に、隣り合うCNT161間に形成された空間から、アイオノマ163内部を経由させて到達させることができる。第2に、図中破線で示すように、開口端161a、CNT161の中空状空間、欠陥部161cを経由させて到達させることができる。これにより、触媒粒子162のより近傍までガス状態のままの反応ガスを到達させることができる。特に、第2の経路によれば、反応ガスの濃度を高い状態に維持したまま到達させることができる。したがって、燃料電池10の運転状態がいかなる状態であっても、良好な発電性能を達成できる。また、このことは、触媒量の低減に伴う電池特性の悪化をも抑制できることに繋がる。したがって、燃料電池10の低コスト化をも実現できる。
【0037】
ところで、中空状空間には、アイオノマ成分や水分が混入することも考えられる。しかしながら、閉口端161bが高分子電解質膜12側に設けられているため、高分子電解質膜12側からアイオノマ成分や水分が流入することはない。また、アイオノマ163はCNT161の外表面に形成され、中空状空間にアイオノマ163が形成されることはない。この理由は、次のとおりである。即ち、後述する製法において、CNT161の外表面にアイオノマ成分が塗布されるが、アイオノマ成分は一般的に分子量が大きく、かさ高い高分子であり、また、欠陥部161cは微細な孔であるため、アイオノマ成分は中空状空間に流入できないからである。更に、電気化学反応による生成水は、図中破線で示す様に、このアイオノマ163を経由して排出されることから、中空状空間に流入することもない。したがって、中空状空間には反応ガスの流路が常時確保されるので、確実に反応ガスをガス状態のまま触媒粒子162の近傍へ到達させることができる。
【0038】
水分の排出を一層促進するために、CNT161の外表面には、アモルファス層(親水性層)が形成されていることが好ましい。また、CNT161の内表面には、高結晶性層(撥水性層)が形成されていることが好ましい。CNT161の層構造が上記のように形成されていると、後述するアイオノマ塗布工程等の最中に、中空状空間に水分が流入するのを防止できる。また、燃料電池10の運転中に、仮に中空状空間に結露が生じたとしても、速やかに水分を排出できる。
【0039】
上記の効果をより詳細に説明するため、図3、図4を用いて説明する。図3は、従来のカソード触媒層の拡大模式図である。図3に示すように、従来のカソード触媒層30において、供給された反応ガスは、複雑な細孔構造を有するカーボン担体301内を縫うように流れる。しかしながら、図中破線で示すように、反応ガスは複雑な経路を流れる。このため、反応ガスが高分子電解質膜32側に到達するまでに時間を要してしまう。したがって、高分子電解質膜32に近い箇所のカーボン担体301に形成された細孔内においては、特に、反応ガスの濃度が低下していることが考えられる。また、触媒粒子302は、アイオノマ(図示せず)によって被覆されたアグロメレート構造を有している。このため、触媒粒子302近傍の反応ガスの濃度が低下する可能性がある。
【0040】
図4は、図3の破線部分を拡大した模式図である。図4はまた、カーボン担体301周辺の反応ガスの濃度の特性を示している。図4に示すように、あるカーボン担体301に着目した場合、反応ガスの濃度は、下記(i)〜(iii)の領域(位置)において特徴的に変化する。
【0041】
具体的に、ガス状態で供給された反応ガスの濃度は、先ず、アグレメレート構造の近傍で大きく変化する(位置(i))。これは、反応ガスがアグロメレート構造の最外殻に位置するアイオノマ表面に接し、このアイオノマに溶解することに起因する。アイオノマに溶解した反応ガスは、位置(i)から更に内部に拡散していく。この拡散は、一定の輸送阻害を受ける。このため、アグレメレート構造内部に拡散するにつれて、反応ガスの濃度は徐々に低下する(領域(ii))。領域(ii)から更に内部に拡散していくと、上記一定の輸送阻害の他、反応による消費により反応ガスの濃度は緩やかに低下していく(領域(iii))。
【0042】
一方、反応により生じた生成水は、反応ガスの経路とは逆の経路を流れることになる。具体的に、生成水は、アグロメレート構造内、細孔内部、細孔外の順に流れる。このため、生成水がカソード触媒層内に滞留してしまい、反応ガスの輸送が阻害される場合がある。また、仮にカーボン担体301が親水性の細孔を有する場合は、生成水がこの細孔にトラップされ、上記の輸送阻害が発生しやすくなる。更に、仮にカソード触媒層30の触媒量を減らした場合には、1触媒当たりの反応ガス消費量や生成水量が増えるため、特に高負荷運転時において、電池性能が著しく低下する可能性が高い。
【0043】
加えて、従来のカソード触媒層30構造では、アイオノマ中を輸送されるプロトンや、カーボン担体301を流れる電子も複雑な経路を流れるため、三相界面に到達するまでに長い距離を移動する必要がある。このため、移動の際の抵抗が大きくなるという問題もある。
【0044】
この点、本実施形態のカソード触媒層16の構造によれば、隣接CNT間の細孔内をガス及び生成水がスムーズに移動可能であること及びCNT内部空間をガス輸送パスとして利用可能であることから、反応ガスや生成水をスムーズに輸送できる。また、三相界面までの電子やプロトンの移動距離を短縮できる。したがって、燃料電池10のあらゆる運転状態に対応した、良好な発電性能を達成できる。
【0045】
[燃料電池の製造方法]
次に、本実施形態の燃料電池10の製造方法を説明する。本実施形態の燃料電池10は、(1)CNT成長工程、(2)欠陥形成工程、(3)触媒担持工程、(4)アイオノマ塗布工程、(5)MEGA形成工程を経ることで製造できる。
【0046】
(1)CNT成長工程
本工程は、基板の面方向に対して実質上垂直方向にCNTを配向させる工程である。ここで、基板の面方向に対して実質上垂直とは、基板の面方向に対してチューブの長さ方向がほぼ直角となっていることを意味する。ただし、チューブ長さ方向の形状が直線状でないCNTの場合には、CNTの両端面の中心部を結ぶ直線と、基板の面方向との角度をもってチューブの長さ方向とする。
【0047】
本工程では、先ず、種触媒を担持させた基板を準備する。種触媒は、CNTが成長する際の核となるものであり、金属の微粒子で構成される。種触媒としては、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン、モリブデン、パラジウム又はこれらの合金等を用いることができる。基板としては、シリコン基板やガラス基板、石英基板等を用いることができる。基板は、必要に応じて表面の洗浄を行う。基板の洗浄方法としては、例えば、真空中における加熱処理等が挙げられる。
【0048】
種触媒又はこれらの錯体を含む溶液を塗布、電子ビーム蒸着法等によって、基板上に金属薄膜を形成し、不活性雰囲気下又は減圧下、800℃程度に加熱すると、上記金属薄膜が微粒子化し、基板上に種触媒を担持させることができる。種触媒は、通常、1〜20nm程度の粒径を有していることが好ましい。このような粒径を有する種触媒を担持させるためには、上記金属薄膜層の膜厚は1〜10nm程度とすることが好ましい。
【0049】
次に、上記基板上にCNTを成長させる。このCNT成長工程では、上記基板を、CNTの成長に適した所定温度(通常、800℃程度)、不活性雰囲気の空間内に配置した状態で、上記基板上の種触媒に原料ガスを供給する。これにより、CNTが種触媒を起点として成長し、先端の閉じたCNTが基板の面方向に対し実質上垂直方向に形成される。本工程で供給される原料ガスとしては、例えば、メタン、エチレン、アセチレン、ベンゼン、アルコール等の炭素源ガスを用いることができる。
【0050】
原料ガスの流量、供給時間、総供給量等は特に限定されず、CNTのチューブ長さやチューブ径、アモルファス層の厚み等を考慮して、適宜決定できる。例えば、供給する原料ガスの濃度[原料ガス流量/(原料ガス流量+不活性ガス流量)]によって、アモルファス層の厚みや成長するCNTの長さを設計できる。即ち、供給する原料ガスの濃度が高いほどアモルファス層を厚く、CNTを長く設計できる。
【0051】
以上のようにして、基板上に、基板の面方向に対して実質上垂直方向に配向したCNTが得られる。このCNTは、基板上に開口端、先端側に閉口端がそれぞれ形成された状態で配向される。また、本工程の各種条件を適宜変更することにより、CNTの外表面にアモルファス層、内表面に高結晶層をそれぞれ形成させたCNTが得られる。
【0052】
以上説明した工程は、種触媒と原料ガスを高温条件下、共存させることによってCNTを生成するCVD法(化学気相成長法)を用いたものであるが、CNTを生成する方法はCVD法に限定されず、例えば、アーク放電法やレーザー蒸着法などの気相成長法、或いはその他の公知の合成法を利用して生成することができる。
【0053】
(2)欠陥形成工程
本工程は、基板上に成長したCNTに欠陥を形成させる工程である。一般に、CNTの結晶性は上記(1)の工程における各種条件により制御が可能である。即ち、低温で成長させればCNTの結晶性を下げることができる。また、反応ガスの純度を下げることでもCNTの結晶性を下げることができる。種触媒にチオフェンのような硫黄ないし硫黄化合物を所定量添加することによっても結晶性を下げることは可能である。このように、条件を変更してCNTを成長させれば欠陥を形成させることもできる。しかしながら、例えば、低温でCNTを成長させようとすると、種触媒の活性が低下し、成長反応が起こりにくくなる。そこで、(1)の工程で一旦CNTを成長させ、その後に欠陥を形成させる。
【0054】
欠陥形成方法は、CNTの外表面と、中空状空間とを連通する欠陥を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えば、基板上に成長したCNTを基板ごと酸素存在下で加熱処理する方法が挙げられる。この加熱処理法によれば、CNTの表面のうち、反応性の高い炭素原子を部分的に酸化して欠陥を強制的に形成できる。また、酸化触媒としての金属塩をCNTの外表面に導入し、その後に加熱処理して欠陥の形成を促進させてもよい。
【0055】
更に、基板上に成長したCNTを基板ごと水やアルコールに含浸させた後に、マイクロ波を照射してもよい。水やアルコールは、マイクロ波により容易に蒸発して除去可能である。このため、例えばCNTの外表面に水を斑点状に付着させ、このCNTに周波数2.45GHzのマイクロ波を照射することで、欠陥を容易に形成できる。形成させる欠陥の大きさは、これらの方法において、各種条件を適宜変更することにより調節が可能である。マイクロ波により欠陥を形成させる場合、次に述べる(3)触媒担持工程の後に行ってもよい。
【0056】
(3)触媒担持工程
本工程は、欠陥が形成されたCNTに触媒粒子を担持させる工程である。本工程における触媒粒子の担持方法は特に限定されず、湿式法、乾式法のいずれの方法によっても行うことができる。湿式法としては、金属塩を含む溶液をCNT表面に塗布した後、水素雰囲気中で200℃以上に加熱して還元する方法が挙げられる。金属塩は、上記触媒粒子として例示した金属のハロゲン物、金属酸ハロゲン物、金属の無機酸塩、金属の有機酸塩、金属錯塩等が挙げられる。これら金属塩を含む溶液は、水溶液でも有機溶媒溶液でもよい。金属塩溶液のCNT表面への塗布は、例えば、金属塩溶液中にCNTを浸漬する方法、CNTの表面に金属塩溶液を滴下する方法や、CNTの表面に噴霧(スプレー)する方法が挙げられる。
【0057】
例えば、触媒に白金を用いる場合、湿式法としては、エタノールやイソプロパノール等のアルコール中に塩化白金酸や白金硝酸溶液(例えば、ジニトロジアミン白金硝酸溶液など)等を適量溶解させた白金塩溶液を用いることができる。CNT表面に白金を均一に担持できるという点から、特に、アルコール中にジニトロジアミン白金硝酸溶液を溶解させた白金塩溶液を用いることが好ましい。乾式法としては、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法、静電塗装法等が挙げられる。
【0058】
(4)アイオノマ塗布工程
本工程は、触媒を担持させたCNTの表面にアイオノマを塗布する工程である。アイオノマは、(i)アイオノマ溶液にCNTを浸漬した後、減圧脱気することでアイオノマ溶液を均一に含浸させ、(ii)その後、真空乾燥して溶媒を除去することにより行われる。(i)、(ii)を繰り返し実施することで、CNTに所望量のアイオノマを担持させることができる。所望量のアイオノマを担持させることで、隣り合うCNT間に空間を形成できる。
【0059】
アイオノマは、上記方法に限定されず、アイオノマを分散又は溶解した溶液をスプレー、ダイコーター、ディスペンサー、スクリーン印刷等によりCNT表面に塗布し乾燥させる方法により塗布してもよい。また、アイオノマは、上記のように重合体の状態で塗布する等してCNT表面に担持させるほか、例えば、アイオノマの前駆体と必要に応じて各種重合開始剤等の添加物とを含む重合組成物を、CNTの表面に塗布し、必要に応じて乾燥させた後に、紫外線などの放射線の照射又は加熱により重合させることでCNT表面に担持させてもよい。
【0060】
(5)MEGA形成工程
本工程は、アイオノマが塗布されたCNTを高分子電解質膜に転写し、その後、ガス拡散層で挟持する工程である。アイオノマが塗布されたCNTは、基板と共に、その先端側、即ちCNTの閉口端を高分子電解質膜側に向けて熱転写される。その後、基板を剥離する。これにより、基板側にCNTの開口端が形成される。更に、CNTの開口端に接するように上述したガス拡散層を配設することでMEGAが形成される。ガス拡散層は、開口端と、ガス拡散層の表面との間に僅かな空間が生じるよう配設されるのが好ましい。こうすることで、CNTとガス拡散層との電気的な接続を確保しつつ、ガス拡散層側から流入する反応ガスの経路の選択性を高めることができる。以上のようにして得られたMEGAは、更に上述したセパレータにより挟持されることで、本実施形態の燃料電池10が製造できる。
【0061】
図5に、上述した製造方法により作製した燃料電池のうちのカソード触媒層の断面SEM写真を示す。図5に示すように、CNTがガス拡散層(GDL層)から見て垂直方向に設けられている。また、GDL層側にCNTの開口端が、高分子電解質膜側にCNTの閉口端が、それぞれ設けられていることが分かる。
【0062】
また、図6に、(a)転写前のカーボンナノチューブの閉口端のTEM写真及び(b)転写後のカーボンナノチューブの開口端のTEM写真をそれぞれ示す。図6(a)から、転写前のCNTの先端部には閉口端が存在していることが分かる。このため、この閉口端を高分子電解質膜側に配向すれば、高分子電解質膜と電気的な接触を保ちつつ、高分子電解質膜からの水分流入を禁止できる。また、同図(b)から、転写後のCNTの先端部には開口端が存在していることが分かる。このため、開口端をガス拡散層側に配向すれば、ガス拡散層からCNTの中空状空間に反応ガスを流入させることができる。
【0063】
また、図7にCNTの結晶構造及び欠陥構造を示すTEM写真を示す。図中の縞模様は、シート状のカーボンが複数積層されていることを示すものであり、同時に、結晶性の程度を示すものである。縞模様から分かるように、CNTの結晶構造は、結晶性が相対的に低い外壁層aと、相対的に高い内壁層bとから形成されている。このことから、CNTには、外表面側に結晶性が低いアモルファス層(親水性層)が、内表面側に結晶性が高い層(撥水性層)が、それぞれ形成されていることが分かる。また、縞模様が存在しない内壁層bの間に、中空状空間cが形成されている。
【0064】
ところで、同図のb1〜b4で示すように、縞模様には濃淡が存在している。このことから、内壁層bには欠陥部が存在することが分かる。欠陥部には、外壁層aと内壁層bとの境界面付近から、中空状空間c側に達しているものもある。以上のことから、CNTには、中空状空間cから内壁層bを経由して外壁層aへと通じる反応ガス経路が形成されていることが分かる。
【0065】
(発電特性試験)
図8は、発電特性試験の結果を示すグラフである。発電特性試験は、上記製造方法で作製した試験用セルに対して、下記条件で運転した際のセル間電圧を測定することにより実施した。
・セル:60℃、1.6A/cm
・H2条件:st.比1.2、140kPa、無加湿
・Air条件:st.比3.0〜1.1、140kPa、無加湿
ここで、st.比とは、電気化学反応に最小限必要な反応ガス量に対する、供給反応ガス量の比を表す。つまり、st.が大きくなるほど反応ガス量が多く(濃度が高い)、st.が1.0に近づくほど反応ガス量が少ない(濃度が低い)。
また、比較として、従来型の試験用セルに対しても、上記条件と同一の条件で発電特性試験を実施した。
【0066】
図8に示すように、今回発明品では、空気のst.比を1.2としても電圧低下がほとんど発生せず、安定した発電性能を示した。一方、従来型では、空気のst.比を下げると電圧が徐々に低下し、1.5未満では急激に低下してしまった。以上の結果から、今回発明品は、触媒層における反応ガスの拡散性を向上できたことで、反応ガス量が少なくても電池性能を良好に維持できることが分かった。
【0067】
尚、本実施の形態においては、カソード触媒層16に特徴的な構造を設けたが、アノード触媒層14にも同様な構造を設けてもよい。本実施形態のCNT161の構造や配向は反応ガスの拡散性を向上できるので、当然、アノード触媒層14にも適用が可能である。
【0068】
また、本実施の形態においては、ガス拡散層18,22を設けたが、ガス拡散層18,22を設けずに、アノード触媒層14やカソード触媒層16が直接、セパレータ20、24にそれぞれ接していてもよい。この場合、セパレータ20、24に形成されたガス供給経路と、開口端161aとが連通するように燃料電池を製造することが好ましい。
【0069】
また、本実施の形態においては、CNT161の外表面にアモルファス層を形成することで親水性を付与したが、親水性官能基を導入させる工程を別に設けて、外表面に親水性を付与してもよい。例えば、CNTを酸素プラズマ処理することで、外表面に酸素含有基を導入して親水性を付与できる。また、例えば、硝酸、硫酸等の強酸化剤と十分な時間接触させて酸化することや、CNTをオゾンガスに曝露することでも外表面に親水性を付与できる。
【0070】
また、本実施の形態においては、高分子電解質膜12の面方向と、チューブ長さ方向とのなす角度がほぼ直角となるようにCNT161を配向させたが、この角度をより傾斜させてもよい。開口端161aがガス拡散層22に接し、閉口端161bが高分子電解質膜12に接していれば、効率的な反応ガスの流通が可能になる。したがって、開口端161a、閉口端161bの配向が本実施の形態と同様である限りにおいて、高分子電解質膜の面方向に対するCNTの傾斜角度は各種の変形が可能である。
【符号の説明】
【0071】
10 燃料電池
12 高分子電解質膜
14 アノード触媒層
16 カソード触媒層
18,22 ガス拡散層
20,24 セパレータ
26 MEA
28 MEGA
161 カーボンナノチューブ(CNT)
161a 開口端
161b 閉口端
161c 欠陥部
162 触媒粒子
163 アイオノマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜と接するように配置され、長さ方向の両端に開口部及び閉口部が形成されたカーボンナノチューブと、
前記カーボンナノチューブの外表面に配置された触媒と、
前記外表面において、前記触媒と接触するように配置されたプロトン伝導体と、
を備え、
前記閉口部が前記電解質膜側に配置されると共に、前記外表面には、前記カーボンナノチューブの内部空間と連通する複数の連通孔が形成されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記外表面が親水化処理されていることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記外表面がアモルファス層構造であることを特徴とする請求項2に記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、前記高分子電解質膜の面方向に対して実質上垂直に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブをカソード側の電極に用いたことを特徴とする請求項1乃至4何れか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項6】
前記複数の連通孔が、前記カーボンナノチューブを酸素の存在下で加熱することで形成されたことを特徴とする請求項1乃至5何れか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項7】
前記複数の連通孔が、前記カーボンナノチューブに金属塩を加えて加熱することで形成されたことを特徴とする請求項6に記載の膜電極接合体。
【請求項8】
前記複数の連通孔が、水又はアルコールを付着させた前記カーボンナノチューブにマイクロ波を照射することで形成されたことを特徴とする請求項1乃至5何れか1項に記載の膜電極接合体。
【請求項9】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜と接するように配置され、長さ方向の両端に開口部及び閉口部が形成されたカーボンナノチューブと、
前記カーボンナノチューブの外表面に配置された触媒と、
前記外表面において、前記触媒と接触するように配置されたプロトン伝導体と、
前記カーボンナノチューブと接するように配置され、反応ガスを流通させるガス流路が形成されたセパレータ又はガス拡散層と、
を備え、
前記閉口部が前記電解質膜側に配置され、前記開口部が前記ガス流路と連通するように配置されると共に、前記外表面には、前記カーボンナノチューブの内部空間と連通する複数の連通孔が形成されていることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−222374(P2011−222374A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91874(P2010−91874)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】