説明

膜電極接合体及び燃料電池

【課題】逆電流の発生を抑制し、カソード触媒層の劣化を抑制することができる膜電極接合体及び燃料電池を提供する。
【解決手段】燃料電池10及び膜電極接合体50は、アノード触媒層26とアノードガス流路38との間に酸素拡散防止層が設けられている。この酸素拡散防止層は、アノード触媒層26に比して酸素の拡散性が低くされており、水素を良好に拡散させる一方で酸素の拡散を抑制する機能を有している。燃料電池システムの停止時において、アノード触媒層26に入り込む酸素の量を減少させる。また、停止時に入り込んだ酸素は酸素拡散防止層27によって拡散が妨げられることにより、カーボンを劣化させる反応を遅延させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素の電気化学反応により発電する燃料電池及び膜電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー変換効率が高く、かつ、発電反応により有害物質を発生しない燃料電池が注目を浴びている。こうした燃料電池の一つとして、100℃以下の低温で作動する固体高分子形燃料電池が知られている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜である固体高分子膜をアノードとカソードとの間に配した基本構造を有し、アノードに水素を含むアノードガス、カソードに酸素を含むカソードガスを供給し、以下の電気化学反応により発電する装置である。
【0004】
アノード:H → 2H+2e …(1)
カソード:1/2O+2H+2e → HO …(2)
【0005】
アノード及びカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層が積層した構造からなる。各電極の触媒層が固体高分子膜を挟んで対向配置され、燃料電池を構成する。触媒層は、触媒を担持した炭素粒子がイオン交換樹脂により結着されてなる層である。ガス拡散層はアノードガスやカソードガスの通過経路となる。
【0006】
アノードにおいては、供給されたアノードガス中に含まれる水素が上記式(1)に示されるように水素イオンと電子に分解される。このうち水素イオンは固体高分子電解質膜の内部をカソードに向かって移動し、電子は外部回路を通ってカソードに移動する。一方、カソードにおいては、カソードに供給されたカソードガスに含まれる酸素がアノードから移動してきた水素イオンおよび電子と反応し、上記式(2)に示されるように水が生成する。このように、外部回路ではアノードからカソードに向かって電子が移動するため、電力が取り出される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−203569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、従来の膜電極接合体及び燃料電池においては、逆電流の発生により触媒層の炭素が消失してしまうという問題が生じていた。すなわち、燃料電池の運転の停止後、長時間が経過すると、燃料電池システムの系内に空気が入り込むことにより、空気がアノードガス流路、アノードガス拡散層、及びアノード触媒層にまで及ぶ。この状態でシステムを起動すると、図3(a)に示すように、アノード側においては、新たに供給される水素と、停止時に入り込んだ酸素とが共存する状態となる。当該状態においては、ガスの流路の入口側においては上記式(1)及び上記式(2)の反応が起こる一方、ガスの流路の出口側においては、式(3)及び式(4)に示す反応が起こる。更に、起動時に当該逆電流機構によりアノード触媒層に存在していた酸素が消費されたり、導入されたアノードガスによって押されることによって、アノードガスの流路やガス拡散層に存在していた酸素もアノード触媒層に達し、更に逆電流が生じる。
【0009】
アノード:O+4H+4e → 2HO …(3)
カソード:C+2HO → CO+4H+4e …(4)
【0010】
このように、アノードとカソードの両方に酸素が存在することにより、アノードにおいて本来カソードで起こるべき式(3)の反応が起き、カソードにおいて触媒に担持された炭素が消失する式(4)の反応が起こる。これによってカソード触媒層が劣化するという問題が生じていた。
【0011】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、逆電流の発生を抑制し、カソード触媒層の劣化を抑制することができる膜電極接合体及び燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る膜電極接合体は、電解質膜と、電解質膜の一方の面に設けられたアノードと、電解質膜の他方の面に設けられたカソードと、を備え、アノードは、電解質膜側から順にアノード触媒層とアノードガス拡散層とを含み、カソードは、電解質膜側から順にカソード触媒層とカソードガス拡散層とを含み、アノードは、アノード触媒層よりも電解質膜の反対側に、アノード触媒層に比して酸素の拡散性が低くされた酸素拡散防止層を有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る膜電極接合体では、アノード触媒層よりも電解質膜の反対側(アノードガスが流れるアノードガス流路側)に、アノード触媒層に比して酸素の拡散性が低くされた酸素拡散防止層が設けられている。このように構成された酸素拡散防止層は、アノード触媒層に比して酸素の拡散性が低くされることにより、水素を良好に拡散させる一方で酸素の拡散を抑制する機能を有することとなる。従って、燃料電池システムの停止時において、アノード触媒層に入り込む酸素の量を減少させることができる。また、停止時に入り込んだ酸素は酸素拡散防止層によって拡散が妨げられることにより、ガス流路の出口側において、上記式(3)に示す反応を遅延させることができる。一方、新たに供給されるアノードガスに含有されている水素は、酸素拡散防止層内を速やかに拡散することができ、アノード触媒層へ至ることができる。これによって出口側においても上記式(1)及び式(2)の反応が起こる。酸素拡散防止層で酸素の拡散が抑制される一方で、速やかに拡散することができる水素によってアノードが満たされることで、アノード側に残存していた酸素は上記式(3)の反応をすることなくアノードより排出される。これによって、逆電流の発生を抑制することができる。このように逆電流機構によって流れる電流を減少させることによって、カソード触媒層のカーボン腐食を抑制し、カソード触媒層の劣化を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る膜電極接合体において、酸素拡散防止層は、アノード触媒層とアノードガス拡散層との間に設けられていることが好ましい。
【0015】
本発明に係る膜電極接合体において、酸素拡散防止層は、アノードガス拡散層よりも電解質膜の反対側(すなわち、アノードガス流路側)に設けられていることが好ましい。
【0016】
本発明に係る膜電極接合体において、カソード触媒層の細孔は、アノード触媒層の細孔より大きいことが好ましい。これによって、カソード触媒層内に比べアノード触媒層内の酸素移動を遅くすることができる。これによって、すなわち、式(2)の反応に比べ式(3)の反応の速度を遅くすることができ、結果として式(4)によるカーボンの酸化腐食を低減することができる。
【0017】
また、本発明に係る燃料電池は、上述の膜電極接合体を備えている。これによって、上述の膜電極接合体と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、逆電流の発生を抑制し、カソード触媒層の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係る燃料電池及び膜電極接合体の構造を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿った拡大断面図である。
【図3】発電のメカニズムを説明するための模式図である。
【図4】アノード触媒層、カソード触媒層、酸素拡散防止層の細孔径の一例を示すグラフである。
【図5】実施例と比較例の検討結果を示す図である。
【図6】変形例に係る燃料電池及び膜電極接合体の構造を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、実施形態に係る燃料電池10及び膜電極接合体50の構造を模式的に示す斜視図である。図2は、図1のII−II線に沿った拡大断面図である。燃料電池10は、平板状の膜電極接合体50を備え、この膜電極接合体50の両側にはセパレータ34およびセパレータ36が設けられている。この例では一つの膜電極接合体50のみを示すが、セパレータ34やセパレータ36を介して複数の膜電極接合体50を積層して燃料電池スタックが構成されてもよい。膜電極接合体50は、固体高分子電解質膜20、アノード22、およびカソード24を有する。
【0022】
アノード22は、アノード触媒層26、酸素拡散防止層27、及びアノードガス拡散層28からなる積層体を有する。アノード触媒層26は、一方、カソード24は、カソード触媒層30及びカソードガス拡散層32からなる積層体を有する。アノード22のアノード触媒層26とカソード24のカソード触媒層30は、固体高分子電解質膜20を挟んで対向するように設けられている。
【0023】
アノード22側に設けられるセパレータ34にはアノードガス流路38が形成されている。アノードガス供給用のマニホールド(図示せず)からアノードガスがアノードガス流路38に分配され、アノードガス流路38を通じて膜電極接合体50にアノードガスが供給される。アノードガスは、水素を含有するガスであり、例えば、改質器から供給される改質ガスを用いることができる。
【0024】
同様に、カソード24側に設けられるセパレータ36にはカソードガス流路40が設けられている。カソードガス供給用のマニホールド(図示せず)からカソードガスがカソードガス流路40に分配され、カソードガス流路40を通じて膜電極接合体50にカソードガスが供給される。カソードガスは、酸素を含有するガスであり、例えば純酸素ガス、酸素富化空気、および空気が挙げられるが、中でも取扱容易性およびコストの観点から空気が好ましい。
【0025】
以上のような構成により、燃料電池10は、アノード触媒層26が固体高分子電解質膜20の一方の面20aに設けられ、カソード触媒層30が固体高分子電解質膜20の他方の面20bに設けられ、アノードガス流路38がアノード触媒層26の一方の面26a側に設けられ、アノードガス拡散層28がアノード触媒層26とアノードガス流路38との間に設けられ、カソードガス流路40がカソード触媒層30の他方の面30b側に設けられ、カソードガス拡散層32がカソード触媒層30とカソードガス流路40との間に設けられる構成となる。また、燃料電池10においては、酸素拡散防止層27がアノード触媒層26とアノードガス流路38との間、具体的にはアノード触媒層26とアノードガス拡散層28との間に設けられる構成となる。
【0026】
固体高分子電解質膜20は、湿潤状態において良好なイオン伝導性を示し、アノード22およびカソード24の間でプロトンを移動させるイオン交換膜として機能する。固体高分子電解質膜20は、含フッ素重合体や非フッ素重合体等の固体高分子材料によって形成され、たとえば、スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体、ポリサルホン樹脂、ホスホン酸基又はカルボン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体等を用いることができる。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体の例として、ナフィオン(デュポン社製:登録商標)112などがあげられる。また、非フッ素重合体の例として、スルホン化された、芳香族ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。固体高分子電解質膜20の膜厚は5〜50μmである。
【0027】
アノード22を構成するアノード触媒層26は、イオン伝導体(イオン交換樹脂)と、貴金属触媒やこれらの合金触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。アノード触媒層26の膜厚は3〜30μmである。イオン伝導体は、合金触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20とを接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン伝導体は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。アノード触媒層26の細孔の平均の円相当径は、10〜300nmである。
【0028】
アノード触媒層26に用いられる合金触媒は、たとえば、貴金属とルテニウムとからなる。この合金触媒に用いられる貴金属として、たとえば、白金、パラジウムなどが挙げられる。また、合金触媒を担持する炭素粒子として、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどが挙げられる。
【0029】
アノード22を構成するアノードガス拡散層28は、アノードガス拡散基材51、およびアノードガス拡散基材51に塗布された微細孔層52を有する。アノードガス拡散基材51は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0030】
アノードガス拡散基材51に塗布された微細孔層52は、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られる混練物(ペースト)である。導電性粉末としては、たとえば、カーボンブラックを用いることができる。また、撥水剤としては、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂を用いることができる。なお、撥水剤は結着性を有することが好ましい。ここで、結着性とは、粘りの少ないものやくずれやすいものをつなぎ合わせ、粘りのあるもの(状態)にすることができる性質をいう。撥水剤が結着性を有することにより、導電性粉末と撥水剤とを混練することにより、ペーストを得ることができる。
【0031】
カソード24を構成するカソード触媒層30は、イオン伝導体(イオン交換樹脂)と、触媒を担持した炭素粒子すなわち触媒担持炭素粒子とから構成される。イオン伝導体は、触媒を担持した炭素粒子と固体高分子電解質膜20を接続し、両者間においてプロトンを伝達する役割を持つ。イオン伝導体は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。担持される触媒として、たとえば白金合金を用いることができる。白金合金に用いられる金属として、コバルト、ニッケル、鉄、マンガン、イリジウムなどが挙げられる。また触媒を担持する炭素粒子には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどがある。カソード触媒層30の膜厚は5〜40μmである。カソード触媒層30の細孔の平均の円相当径は、300〜1000nmであり、カソード触媒層の細孔の平均の円相当径はアノード触媒層の細孔の平均の円相当径よりも大きいことが望ましい。(カソード触媒層の細孔の平均の円相当径)÷(アノードの触媒層の細孔の平均の円相当径)は、1より大きいことが好ましく、3よりも大きいことがさらに好ましい。1よりも大きくすることで、カソード触媒層内に比べアノード触媒層内の酸素移動を遅くすることができる。すなわち、式(2)の反応に比べ式(3)の反応の速度を遅くすることができ、結果として式(4)によるカーボンの酸化腐食を低減することができる。3よりも大きくすることでさらに式(3)の反応速度を遅らせることができ逆電流機構による劣化を抑制できる。
【0032】
カソード24を構成するカソードガス拡散層32は、カソードガス拡散基材53、およびカソードガス拡散基材53に塗布された微細孔層54を有する。カソードガス拡散基材53は、電子伝導性を有する多孔体で構成されることが好ましく、たとえばカーボンペーパー、カーボンの織布または不織布などを用いることができる。
【0033】
カソードガス拡散基材53に塗布された微細孔層54は、導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物である。導電性粉末としては、たとえば、カーボンブラックを用いることができる。また、撥水剤としては、例えば、アノードガス拡散基材51において例示したフッ素系樹脂を用いることができる。なお、撥水剤は結着性を有することがこのましい。撥水剤が結着性を有することにより、導電性粉末と撥水剤とを混練することにより、ペーストを得ることができる。
【0034】
酸素拡散防止層27は、アノード触媒層26に比して酸素の拡散性が低く設定されている。酸素拡散防止層27は、水素の拡散性は高く設定されている一方、酸素の拡散性は低く設定されている。これによって、酸素拡散防止層27は、水素をアノード触媒層26へ拡散させる一方、酸素がアノード触媒層26へ拡散することを抑制する機能を有する。酸素拡散防止層27の細孔径は、アノード触媒層26の細孔径よりも小さくなるように設定されている。また、酸素拡散防止層27の細孔径は、水素が拡散する細孔径の下限よりも大きく、且つ、酸素が拡散する細孔径の下限よりも小さくなるように設定される。具体的には、酸素拡散防止層27の細孔の平均の円相当径は、1nm〜500nmであり、好ましくは10nm〜300nmである。細孔の平均の円相当径が1nmより小さくなると細孔中での分子拡散量が減少し、水素の拡散も減少してしまう。また、細孔の平均の円相当径が500nmより大きくなると酸素の拡散も十分に起こってしまう。従って、酸素拡散防止層27の細孔の平均の円相当径を1nm以上、500nm以下とすることによって、水素の拡散を許容できる一方で、酸素の拡散を抑制することができる。
【0035】
酸素拡散防止層27は、イオン伝導体(イオン交換樹脂)とカーボンの混合物によって構成してもよい。酸素拡散防止層27は、十分に粉砕を行うことで細孔径が小さくなるように設定されたイオン伝導体とカーボンの混合物が用いられてもよい。イオン伝導体は、固体高分子電解質膜20と同様の高分子材料から形成されてよい。特に、平均Ew(equivalentweight, 等価質量)が800以下の高イオン交換基密度を有するスルホン酸型パーフルオロカーボン重合体を用いることが望ましい。スルホン酸型パーフルオロカーボン重合体は他のイオン伝導体に比べ水素の拡散がしやすく、高イオン交換基密度にすることで酸素の拡散を抑制することができる。カーボンとして、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノオニオンなどが挙げられる。カーボンのみの酸素拡散防止層に比べ、イオン伝導体を混合することで酸素の拡散をより抑制することができる。また、四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂の撥水剤を添加してもよい。これらの撥水剤を添加することで、水素の拡散を増加させることができる。さらに、イオン伝導体と撥水剤の両方をカーボンに加えてもよい。両方を加えることで、酸素の拡散の抑制と水素の拡散の促進を同時に行うことができる。酸素拡散防止層27の膜厚は0.1〜30μmであり、望ましくは1〜5μmである。0.1μmより薄い場合には酸素の拡散を阻害することが困難となり、30μm以上では酸素の拡散だけでなく水素の拡散も阻害される。酸素拡散防止層27の細孔径を好適な範囲に設定する方法として、スラリー作成時に高度な粉砕を行う方法が挙げられる。例えば、スラリー作成時に、ジェットミルやビーズミルでスラリー中の粒子を粉砕することによって細孔径を小さくすることができる。
【0036】
本実施形態に係る膜電極接合体50の作成方法について説明する。
【0037】
(アノード作製)
撥水処理が施されたアノードガス拡散基材51に導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物をロールコータ塗布などによって塗布し、乾燥処理及び熱処理を行うことにより、微細孔層52を有するアノードガス拡散層28を完成させる。イオン伝導体及びカーボンの混合物をジェットミルやビーズミルで粒子を粉砕することにより、細孔径が小さくなるように処理された酸素拡散防止層用スラリーを調整する。また、イオン伝導体と合金触媒を担持した炭素粒子を混合してアノード触媒スラリーを調整する。酸素拡散防止用スラリーを、スクリーン印刷やダイコータなどによってアノードガス拡散層などに塗布し、乾燥させる。次に、スクリーン印刷やダイコータなどによって、酸素拡散防止用スラリーの上からアノード触媒スラリーを塗布する。熱処理を行うことによって、酸素拡散防止層27及びアノード触媒層26を形成し、アノード22を完成させる。
【0038】
(カソード作製)
撥水処理が施されたカソードガス拡散基材53に導電性粉末と撥水剤とを混練して得られるペースト状の混練物をロールコータ塗布などによって塗布し、乾燥処理及び熱処理を行うことにより、微細孔層54を有するカソードガス拡散層32を完成させる。イオン伝導体と合金触媒を担持した炭素粒子を混合してカソード触媒スラリーを調整する。スクリーン印刷などによって、カソードガス拡散層にカソード触媒スラリーを塗布し乾燥処理及び熱処理を行うことによってカソード触媒層30を形成しカソード24を完成させる。
【0039】
(膜電極接合体の作製)
上記の方法で作製したアノード22とカソード24との間に固体高分子電解質膜20を狭持した状態でホットプレスを行う。アノード22、固体高分子電解質膜20、およびカソード24をホットプレスして接合することによって膜電極接合体50を作製する。
【0040】
アノード触媒層26、カソード触媒層30、酸素拡散防止層27の一例として、図4のグラフに示すような細孔径のものを用いることができる。図4に示す例における細孔の平均の円相当径は、アノード触媒層26が170nm、カソード触媒層30が520nm、酸素拡散防止層27が78nmである。図4の例では、アノード触媒層26は、PtRu合金担持カーボン(TEC61E54、田中貴金属工業製)とイオノマー(イオン伝導体、SS1100、Ew=1050、旭化成イーマテリアルズ製)を混合した後に、ジェットミル(スターバースト、スギノマシン製)を用いて、200MPaのジェット圧力で2回分散させたスラリーをスクリーン印刷で塗布した電極が採用される。カソード触媒層30は、PtCo合金担持カーボン(TEC36F52、田中貴金属工業製)とイオノマー(イオン伝導体、SS700、Ew=780、旭化成イーマテリアルズ製)を混合した後に、ジェットミル(スターバースト、スギノマシン製)を用いて、30MPaのジェット圧力で分散させたスラリーをスクリーン印刷で塗布した電極が採用される。酸素拡散防止層27は、カーボンブラック(デンカブラック(登録商標)、電気化学工業製)とイオノマー(イオン伝導体、SS700、Ew=780、旭化成イーマテリアルズ製)を混合した後に、ジェットミル(スターバースト、スギノマシン製)を用いて、245MPaのジェット圧力で6回分散させたスラリーをスクリーン印刷で塗布した電極が採用される。
【0041】
上述の膜電極接合体を実施例とし、当該膜電極接合体から酸素拡散防止層を設けないものを比較例とし、起動停止サイクル時の電圧変化を比較する実験を行った。その結果を図5に示す。毎回の停止時にはアノード側に空気を十分に混入させた後に起動を実施した。セル温度:70℃、アノード・カソード加湿温度:70℃、起動時・停止時・停止中のセル温度50℃、電流密度:0.3Acm−2として実験を行った。図5から明らかなように、比較例では、起動停止回数が増えるに従って、電圧が低下している。一方、実施例では機動停止回数が増えても大幅な電圧の低下は見られない。このように実施例では、比較例に比してカソード触媒層の劣化を大幅に抑制できることが理解される。
【0042】
次に、本実施形態に係る燃料電池10及び膜電極接合体50の作用・効果について説明する。
【0043】
燃料電池10の運転時、アノードガス、例えば水素を含有する改質ガスがアノードガス流路38内をアノードガス拡散層28の表面に沿って入口側から出口側へ向かって(図1においては、上方から下方へ向かって)流通することにより、アノード22に燃料ガスが供給される。カソードガス、たとえば、空気がカソードガス流路40内をカソードガス拡散層32の表面に沿って入口側から出口側へ向かって(図1においては、上方から下方へ向かって)流通することにより、カソード24に酸化剤ガスが供給される。これにより、膜電極接合体50内で反応が生じる。
【0044】
具体的には、アノードガス拡散層28を介してアノード触媒層26にアノードガスが供給されると、式(1)に示すように、ガス中の水素がプロトンとなり、このプロトンが固体高分子電解質膜20中をカソード24側へ移動する。このとき放出される電子は外部回路に移動し、外部回路からカソード24に流れ込む。一方、カソードガス拡散層32を介してカソード触媒層30に空気が供給されると、式(2)に示すように、酸素がプロトンと結合して水となる。この結果、外部回路においてはアノード22からカソード24に向かって電子が流れることとなり、電力を取り出すことができる。
【0045】
アノード:H → 2H+2e …(1)
カソード:1/2O+2H+2e → HO …(2)
【0046】
ここで、燃料電池の運転の停止後、長時間が経過すると、燃料電池システムの系内に空気が入り込むことにより、当該空気がアノードガス流路38、アノードガス拡散層28、及びアノード触媒層26にまで及ぶ。図3(a)に示す従来の燃料電池100では、この状態で運転を開始すると、アノード22側において、新たに供給される水素と、停止時に入り込んだ酸素とが共存する状態となる。当該状態においては、ガスの流路の入口側においては上記式(1)及び上記式(2)の反応が起こる一方、ガスの流路の出口側においては、式(3)及び式(4)に示す反応が起こる。このように、アノード22とカソード24の両方に酸素が存在することにより、アノード22において本来カソード24で起こるべき式(3)の反応が起き、カソード24において触媒(ここでは白金)に担持された炭素が消失する式(4)の反応が起こる。更に、起動時に当該逆電流機構によりアノード触媒層26に存在していた酸素が消費されたり、導入されたアノードガスによって押されることによって、アノードガス拡散層28に存在していた酸素もアノード触媒層26に達し、更に逆電流が生じる。これによって、従来の燃料電池100では、カソード触媒層30が劣化するという問題が生じていた。
【0047】
アノード:O+4H+4e → 2HO …(3)
カソード:C+2HO → CO+4H+4e …(4)
【0048】
一方、本実施形態に係る燃料電池10及び膜電極接合体50では、アノード触媒層26とアノードガス流路38との間に酸素拡散防止層27が設けられている。この酸素拡散防止層27は、アノード触媒層26に比して酸素の拡散性が低くされており、水素を良好に拡散させる一方で酸素の拡散を抑制する機能を有している。従って、燃料電池システムの停止時において、アノード触媒層26に入り込む酸素の量を減少させることができる。また、停止時に入り込んだ酸素は酸素拡散防止層27によって拡散が妨げられることにより、ガス流路の出口側において、上記式(3)に示す反応を遅延させることができる。一方、新たに供給されるアノードガスに含有されている水素は、酸素拡散防止層27内を速やかに拡散することができ、アノード触媒層26へ至ることができる。これによって出口側においても上記式(1)及び式(2)の反応が起こる。酸素拡散防止層27で酸素の拡散が抑制される一方で、速やかに拡散することができる水素によってアノード22が満たされることで、アノード22側に残存していた酸素は上記式(3)の反応をすることなく排出される。これによって、逆電流の発生を抑制し、カソード触媒層30の劣化を抑制することができる。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、上述の実施形態では、酸素拡散防止層27は、アノードガス拡散層28とアノード触媒層26との間に配置されていたが、アノードガス流路38とアノード触媒層26との間であればどの位置に設けられてもよい。すなわち、アノードガス拡散層28とアノードガス流路38との間に酸素拡散防止層27が設けられていてもよく、アノードガス拡散層28の途中に酸素拡散防止層27が設けられてもよい。
【0051】
図6(a)及び図6(b)は、酸素拡散防止層27が、アノードガス流路38とアノードガス拡散層28との間に設けられている例を示す。図6(a)においては、酸素拡散防止層27はアノードガス拡散層28の全面に形成されている。図6(b)においては、酸素拡散防止層27はアノードガス流路38に対応する位置にのみ形成されている。図6(a)のように全面に酸素拡散防止層27を形成することにより、図6(b)の場合に比して、酸素拡散防止層用スラリーの塗布を容易に行うことができる。図6(b)のように部分的に酸素拡散防止層27を形成することにより、図6(a)の場合に比して、粉砕することによって調整される酸素拡散防止層用スラリーの量を減らすことができる。
【0052】
また、上記実施形態のように酸素拡散防止層27をアノードガス拡散層28の全面に設けることに代えて、一部にのみ設けてもよい。例えば、図6(c)に示すように、上記式(3)の反応を遅延させることが特に必要とされるアノードガス流路38の出口側のみに酸素拡散防止層27を形成してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…燃料電池、20…固体高分子電解質膜、22…アノード、24…カソード、26…アノード触媒層、27…酸素拡散防止層、28…アノード触媒層、30…カソード触媒層、32…カソードガス拡散層、34,36…セパレータ、38…アノードガス流路、40…カソードガス流路、50…膜電極接合体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に設けられたアノードと、
前記電解質膜の他方の面に設けられたカソードと、
を備え、
前記アノードは、電解質膜側から順にアノード触媒層とアノードガス拡散層とを含み、
前記カソードは、電解質膜側から順にカソード触媒層とカソードガス拡散層とを含み、
前記アノードは、前記アノード触媒層よりも前記電解質膜の反対側に、前記アノード触媒層に比して酸素の拡散性が低くされた酸素拡散防止層を有することを特徴とする膜電極接合体。
【請求項2】
前記酸素拡散防止層は、前記アノード触媒層と前記アノードガス拡散層との間に設けられていることを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体。
【請求項3】
前記酸素拡散防止層は、前記アノードガス拡散層よりも前記電解質膜の反対側に設けられていることを特徴とする請求項1記載の膜電極接合体。
【請求項4】
前記カソード触媒層の細孔は、前記アノード触媒層の細孔より大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の膜電極接合体を備えることを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−212567(P2012−212567A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77830(P2011−77830)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(308013252)株式会社ENEOSセルテック (67)
【Fターム(参考)】