説明

膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法

【課題】膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患を特異的に高感度で診断できる検出方法を提供する。
【解決手段】前記検出方法では、膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離RNAを分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を検出する方法に関する。詳細には、本発明は、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離RNAを分析することにより、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を検出する方法に関する。さらに本発明は、上記被験者から採取された血清あるいは血漿中の特定のRNA量を複数回測定し、該測定結果により、被験者の膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患の状態を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓の疾患
膵臓は、アミラーゼ、トリプシン、リパーゼなどの消化酵素を含む弱アルカリ性の膵液を分泌して胃酸の中和や食物消化に関わる働き(外分泌)と、インスリン、グルカゴン、ソフトスタチンなどのホルモンを分泌して血糖濃度調節に関わる働き(内分泌)をもつ臓器である。膵臓の疾患として、急性膵炎、慢性膵炎などの組織傷害性疾患、膵臓がん、膵内分泌腫瘍などの細胞増殖性疾患、さらに糖尿病などが知られており、いずれも年々患者数が増加傾向にある(厚生労働省統計による情報)。
【0003】
膵炎は、膵液に含まれる消化酵素が何らかの原因で膵臓自体を消化することで、膵臓に炎症が発生する疾病であり、重症の場合は周囲の臓器にまで炎症が及び、出血、壊死を起こして死に至る場合もある。慢性膵炎では、炎症が何度も繰り返すことで膵臓細胞が徐々に破壊されて線維化や石灰化が進行し、外分泌や内分泌に異常をきたす。日本では、慢性膵炎からの膵臓がん発生率は一般人口に比べて10〜20倍高く、慢性膵炎は膵臓がんの危険因子である(日本膵臓学会編集「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2006年版」)。
【0004】
膵臓がんは膵臓にできた悪性腫瘍であり、その90%以上は外分泌に関係した細胞、特に膵液を運搬する膵管の細胞から発生する膵管がんである。膵臓がんは、早期での特徴的症状がないため膵臓がん検診の受診率が低く、膵臓がんが発見された時にはかなりがんが進行した状態であることが殆どである。後述するが、膵臓がん診断用の腫瘍マーカーや膵酵素(膵臓特異的な消化酵素)は、早期がんの検出が非常に難しい。さらに、膵臓は身体の中心にあって、胃、十二指腸、小腸、大腸、肝臓、胆嚢、脾臓などに囲まれているため、膵臓がんの画像診断がかなり困難であることが知られている。日本では、毎年22,000人以上の人が膵臓がんで死亡しており、罹患率は死亡率とほぼ等しく、膵臓がん罹患者の生存率が低いことが示されている(国立がんセンターのウェブ公開情報)。
【0005】
膵臓疾患の診断方法
急性膵炎の診断と重症度判定は、臨床症状・徴候の診察、画像検査、血液・尿検査などから診断基準(厚生労働省急性膵炎診断基準、APACHE II、Ranson Criteria、Glasgow Criteriaなど)に基づいて総合的に行われる(日本腹部救急医学会・日本膵臓学会「エビデンスに基づいた急性膵炎の診療ガイドライン(第一版)」。以下、「急性膵炎ガイドライン」という)。血液検査では、炎症、感染の有無、膵臓の傷害などを調べるために多角的に検査が行われる。項目の中には、膵臓の組織傷害を調べる目的で、血清中膵酵素の活性あるいは濃度レベルを測定する検査がある。急性膵炎の診断に測定される膵酵素の感度と特異度は、全アミラーゼ(感度、特異度:67−100%、85−98%)、膵アミラーゼ(67−100%、83−98%)、リパーゼ(82−100%、82−100%)、トリプシン(89−100%、79−83%)、エラスターゼI(97−100%、79−96%)である(「急性膵炎ガイドライン」)。本ガイドラインでは、急性膵炎の診断には測定法の簡便さ・迅速さから血清中リパーゼ活性の測定が推奨されている。ただし、リパーゼ活性など上記の膵酵素の値は、重症度(症状)との相関が不明確であるのが理由で、重症度判定に使用される推奨度は高くない。重症度判定にはCRP (C-reactive protein)が推奨されているが、重症度判定のリミットとされる72時間以内には、血清中のCRP濃度レベルは増加しない場合もあり、検出感度は十分ではない。
【0006】
膵臓がんの診断は、日本膵臓学会「科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2006年版」(以下、「膵がん診療ガイドライン」という)では次のように示されている。まず、臨床症状、膵酵素、腫瘍マーカー、危険因子、超音波検査(US)を調べ、膵臓がんの疑いある患者を選別する。次に、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴撮像法(MRI)、または磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)のいずれか、または全てを行い、さらに必要あれば、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、陽電子放射断層撮影(PET)等で精査し、診断を確定する。確定できない場合は、さらに、細胞診、組織診を行い、診断を確定する。
【0007】
血液検査では、CA19-9、DUPAN-2、NCC-ST-439、Span-1などの腫瘍マーカーが利用される。これらの腫瘍マーカーは、様々ながんにおいて陽性を示すマーカーであり、膵臓がんを特異的に検出するマーカーではない。そのため、臨床では膵臓がんの検出陽性率向上を目的に、腫瘍マーカーと膵酵素の組合せ検査(CA19-9、DUPAN-2、エラスターゼIの組合せなど)が行われることもある。
【0008】
日本膵臓学会のまとめでは、進行がんでの上記マーカーの検出感度は、CA19-9が70〜80%、Dupan-2が48% 、Span-1が80%となっている(非特許文献1、及び2)。CA19-9の擬陽性率は20〜30%(肝臓、胆嚢、膵臓の疾患で擬陽性が高い)、腫瘍径2cm以下の膵臓がんでの検出感度は52%である(非特許文献3)。また、進行がんにおける膵酵素の検出率は20〜30%である(非特許文献4、及び5)。進行がんでの評価ばかりである理由は、膵臓がんは発見された時点で進行がんの場合が多いことによる。すなわち、早期の膵臓がんでは、上述した腫瘍マーカーや膵酵素の血清中濃度は殆どが異常値を示さない。早期の膵臓がんは、自覚症状がないことや、画像診断で微小な腫瘍の発見が困難であることから、腫瘍マーカー検査等の臨床検査で検出できることが望まれている。しかしながら、既存の膵臓がんマーカーは早期ステージでの検出率が低く、現状では、膵臓がんの早期発見が非常に難しい。
【0009】
膵臓の組織傷害性疾患、細胞増殖性疾患の診断における理想的なバイオマーカーは、膵臓特異性があり、上記疾患の検出感度が高く、病態の重症度とバイオマーカーの量的変動に相関があることである。しかし、急性膵炎においては膵臓特異的な物質(膵酵素)はあるものの、重症度と相関するものがないこと、膵臓がんにおいては膵臓特異的な物質(腫瘍マーカー)はなく、また、低ステージがんの検出感度が高いものがないことが大きな問題点である。
【0010】
バイオマーカーとしての遊離核酸
遊離核酸は血清や血漿中に浮遊して存在する細胞外核酸である。遊離核酸の由来は詳細が依然不明であるものの、ネクローシス、アポトーシス、アクティブリリースにより傷害臓器より放出されるものと考えられている。
例えば、K-ras遺伝子の遊離核酸が報告されている。K-ras遺伝子は、EGFR (epidermal growth factor receptor)の関与するシグナル伝達系の下流において主要な役割を担う分子として知られている。K-ras遺伝子は、膵臓がん、大腸がん、肺がん、前立腺がん、皮膚がん、甲状腺がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮内膜がん、腎臓がん、脳腫瘍、精巣がん、膀胱がん、頭頸部がん、乳がん等、数多くのがん組織でコドン12変異(K-ras変異)が認められている。K-ras変異は、がん組織のみならず血清・血漿中に浮遊する遊離核酸中にも存在しており、がんのバイオマーカーに応用されつつある。
【0011】
エンリッチ(Enriched) PCR-RFLP法を用いた膵臓がん患者血清中のK-ras変異の検出率は71%(41例中29例) (非特許文献6)、ミューテーションスペシフィックミスマッチライゲーションアッセイ(mutation-specific mismatch ligation assay)を用いた別の報告での検出率は35%(26例中9例)であり(非特許文献7)、血清中にK-ras DNAが浮遊していることが報告されている。しかしながら、非特許文献6及び7の報告は、膵臓がんであることを前提に遊離DNA中のK-ras変異を検出したものであり、K-rasは膵臓だけではなく様々な臓器で発現しているため、被験者が膵臓がんを患っているか否かが全く明らかでない場合には、膵臓を原がん臓器として特定することは困難である。
【0012】
がん患者血清より遊離RNAを検出した例も数多く報告されている。上咽頭がん患者血漿(EVウィルス関連RNA)、乳がん(hTR、hTERT、mammaglobin、CK19、5T4)、肺がん(Her2/neu、hnRNP-B1、5T4)、大腸がん(hTERT、CEA、β-カテニン)、メラノーマ(チロシナーゼ、gp100、MART-1、PBGD、MAGE-3、MUC-18、p97、c-abl)、リンパ腫(hTERT)、甲状腺がん(hTR、hTERT)、肝臓がん(hTERT)、前立腺がん(PSMA、CEA)で、遊離RNAを検出している(非特許文献8〜27)。しかしながらこれらの殆どはがんの細胞増殖に関与する遺伝子群であり、臓器特異的な発現を示すのはわずかにマンマグロビン (mammaglobin; 乳房)とPSMA(前立腺)のみである。よって、遊離mammaglobin mRNAが乳がんを検出できること、遊離PSMA mRNAが前立腺がんを検出できること以外は、他のがんを診断できる可能性は示されていない。
【0013】
問題点のまとめ
以上より、膵臓における組織傷害の診断では膵酵素、細胞増殖性疾患の診断では腫瘍マーカーと膵酵素の血液検査が行われているが、検出感度及び病態の重症度との相関の点で十分なものではない。また、血清や血漿中のK-ras変異検出は、膵臓特異性がないために傷害臓器を特定できるものではない。さらに、膵臓特異的な発現を示す遺伝子の存在が知られているが、膵臓の組織傷害や細胞増殖性疾患の患者血清中の遊離RNAから、膵臓特異的なRNAを検出した例は全く報告がない。
【0014】
すなわち、血清や血漿などの体液中に遊離して存在する膵臓特異的なRNA量を特定することにより、膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患を診断することが可能か否かは全く明らかにされておらず、血清や血漿などの体液中の膵臓特異的RNA量の変化を検出することにより、膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患の存在を検出することについての試みは全くなされていなかった。
【0015】
【非特許文献1】Satake, K. et al., 1990. Int. J. Pancreatol. 7, 25-36.
【非特許文献2】Nazli, O. et al., 2000. Hepatogastroenterol. 47, 1750-1752.
【非特許文献3】江川新一, 他, 2004. 膵臓 19, 558-566.
【非特許文献4】真口宏介, 他. 1995. 外科 57, 256-261.
【非特許文献5】日本膵臓学会膵癌登録委員会 2001. 膵臓 16, 115-147.
【非特許文献6】Dianxu, F. et al., 2002. Pancreas 25, 336-3421.
【非特許文献7】Uemura, T. et al., 2004. J. Gastroenterol 39, 56-60.
【非特許文献8】Wieczorek, A.J. et al., 1989. Schweiz Med Wochenschr 119, 1342-1343.
【非特許文献9】Hasselmann, D.O. et al., 2001. Clin Chem 47, 1488-1489.
【非特許文献10】Lo, K.M. et al., 1999. Clin. Chem. 45, 1292-1294.
【非特許文献11】Kopreski, M.S., 1999. Cancer Res. 5, 1961-1965.
【非特許文献12】Chen, X.Q., 2000. Clin. Cancer Res. 6, 3823-3826.
【非特許文献13】Gal, S. et al., 2001. Ann. N. Y. Acad. Sci. 945, 192-194.
【非特許文献14】Silva, J.M. et al., 2001. Clin. Cancer Res. 7, 2821-2825.
【非特許文献15】Fleischhacker, M. et al., 2001. Ann. N. Y. Acad. Sci. 945, 179.
【非特許文献16】Sueoka, E. et al., 2005. Lung Cancer 48, 77-83.
【非特許文献17】Lledo, S.M. et al., 2004. Colorectal Dis. 6, 236-242.
【非特許文献18】Silva, J.M. et al., 2002. Gut 50, 530-534.
【非特許文献19】Wong, S.C. et al., 2004. Clin. Cancer Res. 10, 1613-1617.
【非特許文献20】Hasselmann, D.O. et al., 2001. Oncol. Rep. 8, 115.
【非特許文献21】Hoon, D.S. et al., 2000. Cancer Res. 60, 2253.
【非特許文献22】Dasi, F. et al., 2001. Lab. Invest. 81, 767-769.
【非特許文献23】Kopreski, M.S., 2001. Ann. N. Y. Acad. Sci. 945, 172.
【非特許文献24】Novakovic, S. et al., 2004. Oncol. Rep. 11, 245.
【非特許文献25】Miura, N. et al., 2003. Oncology 64, 430.
【非特許文献26】Miura, N. et al., 2005. Clin. Cancer Res. 11, 3205.
【非特許文献27】Papadopoulou, E. et al., 2004. Oncol. Rep. 14, 439.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記に述べたように、血液検査において、膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患を特異的に高感度で診断できるマーカーや、このようなマーカーを使用する検査方法は未だ無い。
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患を特異的に高感度で検出できる診断用マーカーを提供し、当該診断用マーカーを用いた膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患の検査方法およびモニタリングする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性患者から採取された血清や血漿中には特定の遺伝子由来の膵臓特異的な遊離mRNAが存在することを見出した。さらにその血清や血漿中の膵臓特異的な遊離mRNA量を健常人と比較することにより、特定の遺伝子由来の遊離mRNAの中に健常人に比べて明らかに増加しているものがあることを見出した。また、該遊離mRNAは、その遺伝子の全長で存在しているわけではなく、ある一部分で存在していることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものである。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[12]に記載の発明を提供する。
[1]膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離RNAを分析することを特徴とする、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法。
[2]膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の特定の遊離RNA量が、健常人から採取された血清あるいは血漿中の同じRNA量より多いことを指標とする、[2]に記載の方法。
[3]膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出が、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離RNAを複数回に渡って分析し、該分析結果から、該被験者の膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態をモニタリングする、[2]又は[3]に記載の方法。
[4]遊離RNAが、キモトリプシンC mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 mRNA、膵コリパーゼmRNA、エラスターゼ2A mRNA、フォスフォリパーゼ2グループ1B mRNA、膵リパーゼ関連蛋白質2 mRNAから選択される1種以上のmRNA又はその断片である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]遊離RNAの検出が、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号4で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号6で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号7で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号9で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号10で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号11で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号12で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せから選択されるプライマー組合せ1種以上を使用する、[4]に記載の方法。
[6]遊離RNAの検出が、逆転写反応リアルタイム核酸増幅法、逆転写反応競合的PCR法、ノザンブロット法、マイクロアレイ法、あるいはビーズアレイ法のいずれかの方法で行われる、[1]〜[5]のいずれかに記載の方法。
[7]特定のmRNAの検出手段を少なくとも含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法を行うための検出キット。
[8]キモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼ、エラスターゼ2A、フォスフォリパーゼ2グループ1B、膵リパーゼ関連蛋白質2から選択される遺伝子のmRNAからなる、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出用マーカー。
[9]キモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼ、エラスターゼ2A、フォスフォリパーゼ2グループ1B、膵リパーゼ関連蛋白質2から選択される遺伝子の全長又はその断片を増幅することのできる、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出用プライマー。
[10]キモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼ、エラスターゼ2A、フォスフォリパーゼ2グループ1B、膵リパーゼ関連蛋白質2から選択される遺伝子を分析することのできる、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出用プローブ。
[11]特定のmRNAの検出手段が、[8]に記載の検出用マーカー、[9]に記載の検出用プライマー、又は[10]に記載の検出用プローブである、[7]に記載の検出キット。
[12]遊離RNA抽出手段を更に含む、[7]又は[11]に記載の検出キット。
【0019】
本明細書において、「遊離RNAの分析」における用語「分析」には、分析対象物質(遊離RNA)の存在の有無を判定する「検出」と、分析対象物質の量(濃度)を定量的又は半定量的に決定する「測定」とが含まれる。
また、本明細書における「遊離RNAの分析」とは、遊離RNAの全体又はその一部を分析することを意味し、より具体的には、遊離RNA全体を直接、分析(例えば、増幅)する場合や、遊離RNAの部分領域を分析(例えば、増幅)することにより結果的に遊離RNAを分析する場合が含まれる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、低浸襲性の採取方法で得られる血清あるいは血漿を検査材料として、血清や血漿中に存在する膵臓特異的な遊離mRNA量の増加を検出することにより、膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患を特異的に高感度で検出できる診断用マーカー、及びその検出方法、検出キットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される膵臓特異的な遊離mRNAを検出することを特徴とする、膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法である。
本発明において、組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者とは、該疾患の検出が可能であり、また必要性を有するものであれば得に制限はなく、ヒト、サル、ウサギ、マウス、ラット等の哺乳類等が挙げられる。これも被験者から採取された血液から、それ自体周知の適当な方法により血清あるいは血漿を取得することができる。
【0022】
検出の対象とする疾患の種類としては、上記被験者の膵臓における組織傷害、細胞増殖性疾患であれば特に限定しないが、急性膵炎、慢性膵炎などの組織傷害性疾患、膵臓がん、インスリノーマなどの細胞増殖性疾患、さらに糖尿病などが挙げられる。上記の中でも特に好ましくは、急性膵炎、慢性膵炎、あるいは膵臓がんを挙げることができる。
【0023】
本発明において、血清や血漿中に存在する遊離RNAとは、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患に伴って放出されると考えられ、該疾患を有する患者の血清あるいは血漿中に含まれる量が、健常者のそれに比べて検出可能な程度に多いものを意味する。また、遊離RNAには、完全長RNAや、生合成過程におけるRNA前駆体、さらに血液中に遊離して存在する間に一部分解を受けたRNA分解物が包含される。
【0024】
本発明における膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患(例えば、急性膵炎、膵臓がんなど)を検出できる診断用マーカーとしては、膵コリパーゼ(CLPS) mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1) mRNA、カルボキシペプチダーゼA2 (CPA2) mRNA、キモトリプシンC (CTRC) mRNA、エラスターゼ2A(ELA2A)mRNA、エラスターゼ3B(ELA3B)mRNA、フォスフォリパーゼA2グループ1B(PLA2G1B)mRNA、膵リパーゼ(PNLIP)mRNA、膵リパーゼ関連蛋白質2(PNLIPRP2)mRNA等が挙げられる。キモトリプシンC (CTRC)mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1)mRNA、膵コリパーゼ(CLPS)mRNAは、該疾患の陽性検出率が高いことから好適である。該疾患を診断する際には、これらのうち1種について検出してもよいし、複数を組み合わせることもできる。さらに、従来のマーカーなど他のマーカーを組み合わせて総合的に判断することもできる。
【0025】
被験者から採取された血清あるいは血漿からmRNAを抽出する方法としては、当業者に公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、AGPC(酸グアニジンフェノールクロロフォルム)法、アンビオン社製mirVana PARISキットなどを用いることができる。
【0026】
上記のように抽出されたmRNA中に含まれる目的のmRNAを測定する方法としては、本発明で検出するmRNAの発現量を検出できる方法であれば特に限定されない。具体的には、例えば、ノザンブロット法、逆転写反応リアルタイムPCR法、逆転写反応競合的PCR法、マイクロアレイ法、ビーズアレイ法などが挙げられる。逆転写反応リアルタイムPCR法によれば、本発明で検出するmRNAに相補的な逆転写反応用プライマー、及びPCR用プライマーを用いて、例えば相補的なTaqManプローブのような蛍光標識プローブを介して、本発明で検出するmRNAを定量的に検出することができる。
【0027】
膵臓特異的なmRNAは、膵コリパーゼ(CLPS) mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1) mRNA、カルボキシペプチダーゼA2 (CPA2) mRNA、キモトリプシンC (CTRC) mRNA、エラスターゼ2A(ELA2A) mRNA、エラスターゼ3B(ELA3B) mRNA、フォスフォリパーゼA2グループ1B(PLA2G1B) mRNA、膵リパーゼ(PNLIP) mRNA、膵リパーゼ関連蛋白質2(PNLIPRP2) mRNAなどが選択されるが、それらの塩基配列は公知である[NCBI; National Center for Biotechnology Informationデータベース登録、CLPS mRNA: NM_001832(配列表の配列番号23), CPA1 mRNA: NM_001868(配列表の配列番号24), CPA2 mRNA: NM_001869(配列表の配列番号25), CTRC mRNA: NM_007272(配列表の配列番号26), ELA2A mRNA: NM_033440(配列表の配列番号27), ELA3B mRNA: NM_007352(配列表の配列番号28), PLA2G1B mRNA: NM_000928(配列表の配列番号29), PNLIP mRNA: NM_000936(配列表の配列番号30), PNLIPRP2 mRNA: NM_005396(配列表の配列番号31)]。なお、前記データベースに登録された各塩基配列は、各mRNAに対応するcDNAの塩基配列であるため、配列表の配列番号23〜31の各塩基配列もDNA配列として示す。
当業者は、これら公知の塩基配列に基づいて、本発明で検出すべきmRNAに相補的な逆転写反応用プライマー及びPCR用プライマーの塩基配列、あるいは、ノザンブロット法、マイクロアレイ法、ビーズアレイ法に使用可能なプローブの塩基配列を設計して合成することができる。
【0028】
また、遊離RNAの存在形態は必ずしも完全長RNAではなく、生合成過程におけるRNA前駆体、さらに血液中に遊離して存在する間に一部分解を受けたRNA分解物などが含まれるため、該プライマーは、公知の技術を使用して、本発明で検出すべき遊離RNAの塩基配列を明らかにし、その領域に相補的な逆転写反応用プライマー及びPCR用プライマーの塩基配列を設計して合成して使用することができる。例えば、公知の塩基配列に基づいて、本発明で検出すべき遊離RNAの全長中の適当な領域に相補的な逆転写反応用プライマー及びPCR用プライマーの塩基配列を数種類設計して合成し、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を有する患者由来の血清や血漿中に存在している該遊離RNAの領域を明らかにし、好適なものを選択して使用すれば良い。
【0029】
例えば、カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1) mRNA [配列表の配列番号24; 1380bp; CDS (8-1267)]を診断用マーカーとして使用する場合には、第1000〜1380番(より好ましくは第1100〜1300番、特には第1173〜1239番)の塩基からなるC末端側領域を増幅できるプライマー、あるいは、分析可能なプローブを用いることが好ましい。
【0030】
好適な領域及びプライマー配列として、具体的には、キモトリプシンC mRNAは配列番号1と2の組合せ、カルボキシペプチダーゼA1 mRNAは配列番号3と4の組合せ、膵コリパーゼmRNAは配列番号5と6の組合せ、エラスターゼ2A mRNAは配列番号7と8の組合せ、フォスフォリパーゼ2グループ1B mRNAは配列番号9と10の組合せ、膵リパーゼ関連蛋白質2 mRNAは配列番号11と12の組合せで増幅可能な領域、および該プライマー配列が挙げられる。なお、上記のプライマーで増幅可能な領域内外あるいは該領域近傍に相補的なプライマーを設計して使用することは、当業者であれば容易に実施できる。
【0031】
かくして測定された特定の遊離RNA量は、コントロールとして健常人の血清あるいは血漿中にある同じ遊離RNA量と比較される。健常人の値(コントロール値)よりも優位に多く該遊離RNAが測定されれば、該被検体は膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患を有していると判断することができる。
【0032】
また、本発明は、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離RNAを複数回に渡って、時系列で分析し、該分析結果から、該被験者の膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態のモニタリングを行う方法も含まれる。
被験者の膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態のモニタリングとは、例えば、急性膵炎の治療で行われる輸液投与、薬物療法、栄養療法、外科療法や、膵臓がんの治療で行われる外科療法、化学療法、放射線療法、温熱療法、免疫細胞療法等で、治療後の組織の状態などを検査し、治療効果の確認などを行うことを意味する。
【0033】
さらに本発明によれば、特定のRNAの検出手段を少なくとも含む、上記した本発明による膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法を行うための検出キットが提供される。
特定のRNAの検出手段としては、特定のRNAを逆転写反応リアルタイムPCR法で検出する際に使用する当該mRNAに特異的なプライマー、及び逆転写反応リアルタイムPCR法を行うための試薬(逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチド3リン酸など)などを挙げることができる。
【0034】
また、本発明の検出キットは、遊離RNA抽出手段を更に含むことができる。遊離RNA抽出手段としては、例えば、例えば、AGPC(酸グアニジンフェノールクロロフォルム)法を行うための試薬などを挙げることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
《実施例1:膵臓特異的mRNAの選択》
DNAマイクロアレイによって、ヒト組織由来のtotal RNAと膵臓由来のtotal RNAに含まれる遺伝子の発現量を比較することにより、膵臓に特異的に発現する候補遺伝子を選択した。以下に具体的に示す。
【0037】
〔材料〕
ヒト組織total RNA
Ambion社より市販のヒト組織由来のtotal RNA (食道、甲状腺、子宮、乳房、肝臓、脳、肺、精巣、卵巣、腎臓、小腸、結腸、前立腺、膀胱、副腎、胃)を1種類ずつ使用した。膵臓由来のtotal RNAについては、Ambion社、BioChain社、Clontech社、及びStratagene社より市販されているドナーの異なるtotal RNA 4種類を使用した。血球細胞由来のtotal RNAは、健常人ボランティアよりPAXgene Blood Tube(Becton-Dickinson)を用いて採血した後、PAXgene Blood RNA Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAを抽出した。最終的にtotal RNA濃度を2ng/μLに調整した。
【0038】
total RNA Mix.調製
ヒト組織total RNA Mix.1として、Ambion社より市販の食道、甲状腺、子宮、乳房、膵臓、肝臓、脳、肺、精巣、卵巣、腎臓、小腸、結腸、前立腺、膀胱、副腎、及び胃由来のtotal RNAを1μgずつ混合し、最終1μg/μLに濃度調整した。
ヒト組織total RNA Mix.2として、Ambion社より市販の食道、甲状腺、子宮、乳房、肝臓、脳、肺、精巣、卵巣、腎臓、小腸、結腸、前立腺、膀胱、副腎、胃、及び血球細胞由来のtotal RNAを1μgずつ混合し、最終1μg/μLに濃度調整した。
膵臓total RNA 1として、Ambion社より市販の膵臓由来total RNAをそのまま使用した。
膵臓total RNA Mix.2として、Ambion社、BioChain社、Clontech社、及びStratagene社より市販のドナーの異なる膵臓由来total RNAを1μgずつ混合し、最終1μg/μLに濃度調整した。
【0039】
〔方法〕
mRNA発現プロファイリング
実験1(膵臓total RNA 1とヒト組織total RNA Mix.1の組合せ)、及び、実験2(膵臓total RNA Mix.2とヒト組織total RNA Mix.2の組合せ)においてmRNAの発現量を比較し、膵臓で特異的に発現量の高いmRNAを探索した。実験にはDNAマイクロアレイAceGene(R) Human Oligo Chip 30K(日立ソフトウェアエンジニアリング)を使用した。添付の操作手順書に従い、アンチセンスRNA(aRNA)増幅、蛍光標識、ハイブリダイゼーション、及びスキャニングを行った。それぞれの方法を下記に簡単に記す。
【0040】
1)アンチセンスRNA(aRNA)増幅
前述した1μgの total RNA Mix.を初発材料としてAmino Allyl MessageAmp Kit(Ambion)を用い、添付の操作手順書に従ってaRNA増幅した。反応終了後、液量を100μLに調整した。適当な倍率に希釈した後、GeneSpecIII(日立ハイテクノロジーズ)を使用して波長260nmで吸光度測定し、換算式:測定波長260nmでの吸光度1.0=40ng/μLを用いてaRNA増幅量を算出した。
【0041】
2)蛍光標識
Cy5-Mono Reactive Dye、またはCy3-Mono Reactive Dye(Amasham Bioscience)を用いて上記1)で作製したaRNAを蛍光標識した。実験1では、膵臓total RNA 1をCy5、ヒト組織total RNA Mix 1をCy3で標識した。実験2では、膵臓total RNA Mix.2をCy5、ヒト組織total RNA Mix 2をCy3で標識した。
【0042】
3)ハイブリダイゼーション
DNAマイクロアレイAceGene(R)に上記2)で作製した蛍光標識物を滴下してカバーガラスを載せた後、保湿ケースに入れ、インキュベータを使用して48℃で16時間加温した。時間経過後、添付の操作手順書に従って洗浄した。
【0043】
4)スキャニング
次に反応した蛍光標識物のスキャニングを行った。スキャニングは、ScanArray(R) Express(GSI Lumonics)を使用した。スキャナのパラメータであるPMT gain値(以下、PMT)とLaser Power(以下、Laser)は、Cy3をLow(PMT80, Laser78), Middle(PMT82, Laser82), High(PMT86, Laser82)の3条件、Cy5をLow(PMT70, Laser70), Middle(PMT75, Laser70), High(PMT83, Laser70)の3条件に設定し、TIFFデータを取得した。
【0044】
5)数値化と補正
次に解析ソフトウェアImaGene(R)(BioDiscovery)を使用し、各スポットにおけるTIFFデータを数値化した。さらに、解析ソフトウェアGeneSight(R)(BioDiscovery)を使用し、Low同士、Middle同士、High同士の組合せ(Cy3, Cy5)で、数値のLOWESS補正を行った。Middleでの補正値が1,000〜60,000までのスポットはMiddleより、60,000を超えるスポットはLowより、1,000未満のスポットはHighより補正値を採用してデータを統合し、各スポットにおけるシグナル強度とした。スポットごとに(Cy5シグナル強度)÷(Cy3シグナル強度)を算出し、ヒト組織に対する膵臓のmRNA発現量比(発現比)とした。
【0045】
6)候補遺伝子の選択
実験1(膵臓total RNA 1とヒト組織total RNA Mix .1の組合せ)、実験2(膵臓total RNA Mix.2とヒト組織total RNA Mix.2の組合せ)において、それぞれ発現比が2倍以上のmRNA種を一次選択した後、Cy5シグナル強度が10,000以上のmRNA種を二次選択した。
【0046】
〔結果〕
実験1で選択されたmRNA種は75種類、実験2で選択されたmRNA種は43種類存在し、実験1及び実験2で選択されたmRNA種の合計は79種類であった。
【0047】
《実施例2:候補遺伝子の膵臓特異性検証》
リアルタイムPCRによって、実施例1で選択された79種類の候補遺伝子の中から、膵臓における発現が極めて高い特異性を示す遺伝子を選択した。以下に具体的に示す。
〔材料及び方法〕
ヒト組織total RNA
Ambion社より市販のヒト組織由来のtotal RNA (食道、甲状腺、子宮、乳房、肝臓、脳、肺、精巣、卵巣、腎臓、小腸、結腸、前立腺、膀胱、副腎、胃)を1種類ずつ使用した。膵臓由来のtotal RNAは、ドナーの異なる市販品total RNA 5種類(Ambion社製品2種類、BioChain社製品1種類、Clontech社製品1種類、及びStratagene社製品1種類)を使用した。血球細胞由来のtotal RNAは、健常人ボランティアよりPAXgene Blood Tube(Becton-Dickinson)を用いて採血した後、PAXgene Blood RNA Kit(QIAGEN)を用いてtotal RNAを抽出した。最終的にtotal RNA濃度を1μg/μLに調整した。
【0048】
cDNA合成
上記で調製したtotal RNA 1μgを材料に、High Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems)を用い、添付の操作手順書に従ってcDNAを合成した(50μL反応系)。反応終了後、cDNA溶液は-80℃で凍結保存した。
【0049】
リアルタイムPCRによる定量
上記で調製したcDNA溶液5μL、Universal PCR Master Mix. (Applied Biosystems) 12.5μL、1μM Forward Primer 3.75μL、1μM Reverse Primer 3.75μL、全25μLで、反応液を調製した。測定にはSequence Detection System 7700(Applied Biosystems社)を使用し、温度プログラム{95℃ 10分の後、(95℃ 15秒、60℃ 1分)を1サイクルとした 40サイクル繰り返し}で反応した。リアルタイムPCR法における立ち上がりサイクル数(Ct)値から240-Ct値を算出し、見かけのコピー数として定量値を示した。Ct値が35以上の場合は240-Ct値を算出するものの、定量限界以下として取扱いした。
【0050】
〔結果〕
上記の解析の結果、9種類の膵臓特異性が極めて高い遺伝子を選択することができた。図1〜図9に膵臓特異性が極めて高い9遺伝子を示した。各パネルはそれぞれの遺伝子の結果であり、横軸に各組織、縦軸に対応する遺伝子の発現量を示す。膵コリパーゼ (CLPS) mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1) mRNA、カルボキシペプチダーゼA2 (CPA2) mRNA、キモトリプシンC (CTRC) mRNA、エラスターゼ2A(ELA2A) mRNA、エラスターゼ3B(ELA3B) mRNA、フォスフォリパーゼA2グループ1B(PLA2G1B) mRNA、膵リパーゼ(PNLIP) mRNA、膵リパーゼ関連蛋白質2(PNLIPRP2) mRNAは、膵臓で最も低発現であった検体と他の臓器で最も高発現であった検体における発現量の比が1,000倍以上あった。いずれも膵臓関連、あるいは、非関連の酵素であった。
【0051】
《実施例3:がん患者血清における、膵臓特異的な遺伝子の遊離mRNAの濃度測定、及び、従来の膵臓がん診断に用いられている腫瘍マーカー、及び、膵酵素との比較》
実施例2で選択した9種類の膵臓特異性が極めて高い遺伝子[膵コリパーゼ (CLPS) mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1) mRNA、カルボキシペプチダーゼA2 (CPA2) mRNA、キモトリプシンC (CTRC) mRNA、エラスターゼ2A(ELA2A) mRNA、エラスターゼ3B(ELA3B) mRNA、フォスフォリパーゼA2グループ1B(PLA2G1B) mRNA、膵リパーゼ(PNLIP) mRNA、膵リパーゼ関連蛋白質2(PNLIPRP2) mRNA]について、膵癌患者血清中に特異的に遊離しているmRNAの濃度を測定した。次に、従来のがんの診断に用いられている4種類の腫瘍マーカー(CA19-9, DUPAN-2, NCC-ST-439, Span-1抗原)、及び、5種類の膵酵素(エラスターゼ、膵アミラーゼ、リパーゼ、トリプシン、フォスフォリパーゼA2)の濃度を測定した。以下に具体的に記す。
【0052】
3−1)遊離mRNAの測定
〔材料〕
がん患者血清
6例の市販のがん患者血清(ProMedDx社製品)を用いた。がん種類、ID、人種、性別、年齢、病期、血清採取からの経過月を以下の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
健常人ボランティア
本研究への参加について同意を得られた健常人ボランティア16名より、ベノジェクトII真空採血管EDTA-2Na 採血量7mL(テルモ)を用いて採血を行った。採血管を遠心分離(2,400×g, 20℃ 10分間)して血漿を分画し、別の15mL遠心チューブに移注した。血漿を移注した15mL遠心チューブを遠心分離(20,000×g, 20℃ 10分間)し、沈殿物を吸引しないように血漿分画を回収した。回収した血清を250μLずつ分注した後、-80℃で凍結保存した。
【0055】
〔方法〕
血清中のmRNA抽出
上記のように調製した6例のがん患者血清、及び、16例の健常人ボランティア血清について、各血清250μLを初発材料に、TRI Reagent BD(Molecular Research Center)を用い、添付の操作手順書に従い、totalRNAを抽出した。抽出後、滅菌蒸留水を加え、液量が50μLになるよう調整した。totalRNA抽出液は-80℃で凍結保存した。
【0056】
cDNA合成
次に、上記で作製したtotalRNA抽出液50μLを材料に、High Capacity cDNA Archive Kit(Applied Biosystems)を用い、添付の操作手順書に従い、cDNAを合成した。反応終了後、滅菌蒸留水を加え、液量が250μLになるよう調整した。cDNA溶液は-80℃で凍結保存した。
【0057】
リアルタイムPCRによる定量
上記で調製した6例のがん患者血清由来のcDNA、及び、16例の健常人ボランティア血清由来のcDNAを用いて、9種類の膵臓特異的遺伝子[膵コリパーゼ (CLPS) mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1) mRNA、カルボキシペプチダーゼA2 (CPA2) mRNA、キモトリプシンC (CTRC) mRNA、エラスターゼ2A(ELA2A) mRNA、エラスターゼ3B(ELA3B) mRNA、フォスフォリパーゼA2グループ1B(PLA2G1B) mRNA、膵リパーゼ(PNLIP) mRNA、膵リパーゼ関連蛋白質2(PNLIPRP2) mRNA]の濃度を定量した。該cDNA及び該遺伝子を使用したこと以外は、実施例2と同様の方法で実施した。また、これらの遺伝子の測定に使用したプライマーを以下に示す。
【0058】
キモトリプシンC (CTRC) mRNA測定用、
配列番号1:CTRC-SENSE 5’−TGAACTGCCAGTTGGAGAACG−3’
配列番号2:CTRC-ANTISENSE 5’−GCCGGGAGCCAAAGCT−3’
カルボキシペプチダーゼA1 (CPA1) mRNA 測定用、
配列番号3:CPA1-SENSE 5’−TCCTGCTGCCAGCCTCC−3’
配列番号4:CPA1-ANTISENSE 5’−ATGATGGTCAGAAGCGCCA−3’
膵コリパーゼ (CLPS) mRNA測定用、
配列番号5:CLPS-SENSE 5’−TGCCATGACGCTGGACG−3’
配列番号6:CLPS-ANTISENSE 5’−TTCTGGGCTAGGTGTGGGAG−3’
エラスターゼ2A (ELA2A) mRNA測定用、
配列番号7:ELA2A-SENSE 5’−GCCGGCACAACCTCTACGT−3’
配列番号8:ELA2A-ANTISENSE 5’−GCACCACAATCTTAGAGACTGAC−3’
フォスフォリパーゼA2グループ1B (PLA2G1B) mRNA測定用、
配列番号9:PLA2G1B-SENSE 5’−GCCTTCATTTGCAACTGCG−3’
配列番号10:PLA2G1B-ANTISENSE 5’−TGCCTTGTTATATGGAGCTTTTGA−3’
膵リパーゼ関連蛋白質2 (PNLIPRP2) mRNA測定用、
配列番号11:PNLIPRP2-SENSE 5’−AGGTGAACTGCATCTGTGTGGA−3’
配列番号12:PNLIPRP2-ANTISENSE 5’−CACGGCTTGGGTGTACATTG−3’
カルボキシペプチダーゼA2 (CPA2) mRNA測定用、
配列番号13:CPA2-SENSE 5’−TTGAAGGCAATCATGGAGCA−3’
配列番号14:CPA2-ANTISENSE 5’−TGGCTCTTGTTTCTTCCCCA−3’エラスターゼ3B (ELA3B) mRNA測定用、
配列番号15:ELA3B-SENSE 5’−CGACCGTGCTGTGAAGGAG−3’
配列番号16:ELA3B-ANTISENSE 5’−ATGCACAAAGAGGTCCCCAG−3’
膵リパーゼ (PNLIP) mRNA測定用
配列番号17:PNLIP-SENSE 5’−TACTCACCTTCCAACGTGCATG−3’
配列番号18:PNLIP-ANTISENSE 5’−TCCTTCCAGCCTCCCCAG−3’
【0059】
〔結果〕
以上の結果を、表2の遊離mRNAの欄に示す。最左のカラムには検体の情報(膵癌:原発巣、病期、転移。健常人ボランティア)を記した。横のカラムには各遺伝子を示し、縦のカラムには各検体を示し、それぞれの見かけのコピー数を記した。また、基準値(参考値)はリアルタイムPCRにおける検出限界値とした。背景が白いカラムは、基準値以下であり、背景が黒いカラムは、基準値以上を示す。
健常人ボランティアでは、どの遺伝子に関しても、ほとんど遊離mRNAが検出されなかった。膵癌患者では、CPA2、ELA3B、PNLIPについては、ほとんど遊離mRNAが検出されなかったが、一方、CLPSについては5例/6例中(83.3%)、CPA1については5例/6例中(83.3%)、CTRCについては5例/6例中(83.3%)、ELA2Aについては3例/6例中(50%)、PLA2G1Bについては4例/6例中(66.7%)、PNLIPRP2については2例/6例中(33.3%)において、遊離mRNAの明確な存在、あるいは、健常人ボランティアより高い濃度で存在していることが確認された。
【0060】
【表2】

【0061】
3−2)従来の腫瘍マーカー及び膵酵素の測定
〔材料及び方法〕
上記3−1)で使用した市販の膵臓がん患者血清6例、及び健常人ボランティア血清16例を用い、従来がんの診断に使用されている腫瘍マーカー及び膵酵素を測定した。測定には下記の市販キットを用い、添付の操作手順書に従った。
CA19-9:ケミルミACS-CA19-9 II(シーメンスメディカルソリューションズダイアグノスティクス社製)
DUPAN-2:デタミナ-DUPAN-2(協和メディックス社製)
NCC-ST-439:ラナザイムST-439(カイノス社製)
Span-1抗原:Span-1リアビーズ(協和メディックス社製)
エラスターゼI(Elastase):イアトロIRE1 II(三菱化学ヤトロン社製)
膵アミラーゼ(Amylase):ピュアオートS P-AMY-G2(第一化学薬品社製)
リパーゼ(Lipase):ネスコートVNリパーゼ(アルフレッサファーマ社製)
トリプシン(Trypsin):リアグノスト トリプシン II(セティメディカルラボ社製)
フォスフォリパーゼA2(PLA2):シオノリア膵PLA2(塩野義製薬社製)
【0062】
〔結果〕
以上の結果を表2の腫瘍マーカー/膵酵素の欄に示した。横のカラムには各腫瘍マーカー、あるいは、膵酵素を示し、縦のカラムには各検体を示し、それぞれの濃度を記した。また、基準値(参考値)は、添付文書に記載されている正常値の範囲(PLA2、Trypsin、Lipase、Amylaseの場合)、あるいは、正常値の上限(CA19-9、Dupan-2、NCC-ST-439、SPan-1抗原、Elastaseの場合)を記した。背景が白いカラムは、正常値であり、背景が黒いカラムは、基準値以上(異常高値)であり、背景が灰色のカラムは、基準値以下(異常低値)を示す。
【0063】
健常人ボランティアでは、どの腫瘍マーカー、あるいは、膵酵素に関しても、ほぼ正常値を示した。膵癌患者において、4種類の腫瘍マーカーは、CA19-9については4例/6例中(66.7%)、Dupan-2については5例/6例中(83.3%)、NCC-ST-439については5例/6例中(83.3%)、SPan-1抗原については5例/6例中(83.3%)において、異常高値を示した。5種類の膵酵素は、エラスターゼについては2例/6例中(33.3%)において異常高値を示したが、PLA2については、1例/6例中(16.7%)において異常高値、1例/6例中(16.7%)において異常低値、トリプシンについては、1例/6例中(16.7%)において異常高値、2例/6例中(33.3%において異常低値、リパーゼについては、1例/6例中(16.7%)において異常高値、1例/6例中(16.7%)において異常低値、アミラーゼについては、1例/6例中(16.7%)において異常高値、3例/6例中(50%)において異常低値を示した。
【0064】
腫瘍マーカーは、従来、種々のがんを診断する際に使用されており、上記の結果に示すように、膵癌においても高い割合で異常高値を示している。しかし、いずれも膵癌に特異的な腫瘍マーカーではないため、それ単独で膵癌の診断をすることはできない。そのため、臨床では膵臓がんの検出陽性率向上を目的に、腫瘍マーカーと膵酵素の組合せ検査(CA19-9、DUPAN-2、エラスターゼIの組合せなど)が行われている。このうちエラスターゼIの異常高値で膵臓が原がん臓器であることが分かる。
【0065】
膵酵素に関しては、上記の結果に示すように、膵臓がん患者血清3例では膵酵素4種類(フォスフォリパーゼA2、トリプシン、リパーゼ、アミラーゼ)のいずれかが異常低値を示している。膵酵素の異常低値は、膵臓の機能が完全に破綻しているか、手術で完全に提出されている場合になることが知られている。このことから、膵臓がんの検出をするために、該4種類の酵素を用いることは、最適ではないことが示唆される。
一方、膵臓がん患者血清6例における、膵酵素のエラスターゼI陽性率は2例/6例中(33.3%)であるのに対し、遊離RNAのキモトリプシンC(CTRC)、カルボキシペプチダーゼA1(CPA1)、膵コリパーゼ(CLPS)、エラスターゼ2A(ELA2A)、フォスフォリパーゼA2グループ1B(PLA2G1B) mRNA濃度レベルの増加は、いずれも3〜5例/6例中(50〜83.3%)であり、膵酵素のエラスターゼIに比べ高感度であった。本実施例で用いた膵臓がん患者血清は全てかなりの進行がんではあるが、血清、血漿中の遊離mRNA中のキモトリプシンC(CTRC)、カルボキシペプチダーゼA1(CPA1)、膵コリパーゼ(CLPS)、エラスターゼ2A(ELA2A)、フォスフォリパーゼA2グループ1B(PLA2G1B) が既存のバイオマーカーよりも高感度に検出できる特徴を示したものであり、特に、キモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼmRNAが最も高感度に検出できる特徴を示したものであり、低ステージがんの検出向上につながる可能性がある。
【0066】
また、血清、血漿中に存在する遊離mRNAが、従来のがんの診断に使用される腫瘍マーカーや膵酵素とは異なる新たな特徴があることも判明した。上記に示したように、実施例3において、膵臓がん患者血清3例では膵酵素4種類(フォスフォリパーゼA2、トリプシン、リパーゼ、アミラーゼ)のいずれかが異常低値を示したが、しかしながら、血清中の酵素をコードする遺伝子由来の遊離mRNA 6種類(CLPS、CPA1、CTRC、ELA2A、PLA2G1B、PNLIPRP2)はそれとは逆に異常高値を示した。これは、遊離mRNA中のキモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼ、ELA2A、PLA2G1B、PNLIPRP2遺伝子由来のmRNAが、血清あるいは血漿中に遊離mRNAとして存在し、健常人と膵臓疾患患者との間で、その濃度の変動するメカニズムが従来の診断に使用される膵酵素の場合とは異なることを示唆しており、遊離mRNAを測定することで、膵臓疾患を異なるイベントで検出できると考えられる。
【0067】
《実施例4:カルボキシペプチダーゼA1の遊離mRNAの検出に好適なプライマーの選定》
血清あるいは血漿中に遊離しているmRNAは、その遊離のメカニズムが明らかになっていないため、全長で存在しているのか、部分で存在しているのか等、どのようなフォームで存在しているのか不明である。そこで、上記で使用したプライマーで増幅可能であった領域以外に好適な領域があるか否か、複数のプライマーの組合せを設計し、カルボキシペプチダーゼA1(CPA1)の遊離mRNA検出に好適なプライマー配列を選定した。
【0068】
使用したプライマーは以下の通りである。CPA1遺伝子上のプライマー位置を図10に示した。
SENSE1、
配列番号19 : 5’−ACGGCATCAGCTATGAGACCAT−3’
ANTISENSE1、
配列番号20 : 5’−GCTCCTGCTCCTCGTCCA−3’
SENSE2、
配列番号21 : 5’−AACCCTGATGGCTTTGCCTT−3’
ANTISENSE2
配列番号22 : 5’−CCGAGTCTTGCGCCACAT−3’
SENSE3、
配列番号3 : 5’−TCCTGCTGCCAGCCTCC−3’
ANTISENSE3、
配列番号4 : 5’−ATGATGGTCAGAAGCGCCA−3’
【0069】
また、プライマー以外の材料や方法は、実施例3の遊離mRNAの測定と同様に実施した。
その結果を、表3に示す。最左のカラムには検体の情報(膵癌:原発巣、病期、転移。健常人ボランティア)を記した。横のカラムには各プライマーの組合せを示し、縦のカラムには各検体を示し、それぞれの見かけのコピー数を記した。また、基準値(参考値)はリアルタイムPCRにおける検出限界値とした。背景が白いカラムは、基準値以下であり、背景が黒いカラムは、基準値以上を示す。
【0070】
【表3】

【0071】
健常人ボランティアでは、どの遺伝子に関しても、ほとんど遊離mRNAが検出されなかった。一方、膵臓がん患者血清中の遊離CPA1 mRNAの検出率は、SENSE1とANTISENSE1の組合せでは2例/6例中(33.3%)、SENSE2とANTISENSE2の組合せでは0例/6例中(0 %)、SENSE3とANTISENSE3の組合せでは5例/6例中(83.3%)であり、SENSE3とANTISENSE3組合せが最も優れていた。これは、遊離RNAは完全長のmRNAだけが浮遊しているのではなく、血液中に遊離して存在する間に一部分解を受けたmRNA分解物も存在することを示している。遊離mRNAの種類ごとに好適なプライマー配列は選び出すことで検出感度を高感度にできると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、膵臓における組織傷害や細胞増殖性疾患の診断の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】ヒト各組織(食道、甲状腺、子宮、乳房、肝臓、脳、肺、精巣、卵巣、腎臓、小腸、結腸、前立腺、膀胱、副腎、胃、血球)及び膵臓(A社:Ambion社、B社:BioChain社、C社:Clontech社、S社:Stratagene社)における膵コリパーゼ (CLPS)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図2】ヒト各組織及び膵臓におけるカルボキシペプチダーゼA1 (CPA1)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図3】ヒト各組織及び膵臓におけるカルボキシペプチダーゼA2 (CPA2)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図4】ヒト各組織及び膵臓におけるキモトリプシンC (CTRC)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図5】ヒト各組織及び膵臓におけるエラスターゼ2A (ELA2A)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図6】ヒト各組織及び膵臓におけるエラスターゼ3B (ELA3B)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図7】ヒト各組織及び膵臓におけるフォスフォリパーゼA2グループ1B (PLA2G1B)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図8】ヒト各組織及び膵臓における膵リパーゼ (PNLIP)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図9】ヒト各組織及び膵臓における膵リパーゼ関連蛋白質2 (PNLIPRP2)のmRNA発現量を示すグラフである。
【図10】カルボキシペプチダーゼA1(CPA1)全長遺伝子上のプライマー(SENSE1、ANTISENSE1、SENSE2、ANTISENSE2、SENSE3、ANTISENSE3)の位置を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離RNAを分析することを特徴とする、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出方法。
【請求項2】
膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の特定の遊離RNA量が、健常人から採取された血清あるいは血漿中の同じRNA量より多いことを指標とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出が、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の疑いのある被験者から採取された血清あるいは血漿中の、該疾患に伴って放出される遊離RNAを複数回に渡って分析し、該分析結果から、該被験者の膵臓における組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の状態をモニタリングする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
遊離RNAが、キモトリプシンC mRNA、カルボキシペプチダーゼA1 mRNA、膵コリパーゼmRNA、エラスターゼ2A mRNA、フォスフォリパーゼ2グループ1B mRNA、膵リパーゼ関連蛋白質2 mRNAから選択される1種以上のmRNA又はその断片である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
遊離RNAの検出が、配列番号1で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号2で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号3で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号4で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号5で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号6で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号7で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号8で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号9で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号10で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せ、配列番号11で表される塩基配列からなるプライマーと配列番号12で表される塩基配列からなるプライマーとの組合せから選択されるプライマー組合せ1種以上を使用する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
遊離RNAの検出が、逆転写反応リアルタイム核酸増幅法、逆転写反応競合的PCR法、ノザンブロット法、マイクロアレイ法、あるいはビーズアレイ法のいずれかの方法で行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
特定のmRNAの検出手段を少なくとも含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法を行うための検出キット。
【請求項8】
キモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼ、エラスターゼ2A、フォスフォリパーゼ2グループ1B、膵リパーゼ関連蛋白質2から選択される遺伝子のmRNAからなる、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出用マーカー。
【請求項9】
キモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼ、エラスターゼ2A、フォスフォリパーゼ2グループ1B、膵リパーゼ関連蛋白質2から選択される遺伝子の全長又はその断片を増幅することのできる、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出用プライマー。
【請求項10】
キモトリプシンC、カルボキシペプチダーゼA1、膵コリパーゼ、エラスターゼ2A、フォスフォリパーゼ2グループ1B、膵リパーゼ関連蛋白質2から選択される遺伝子を分析することのできる、膵臓の組織傷害あるいは細胞増殖性疾患の検出用プローブ。
【請求項11】
特定のmRNAの検出手段が、請求項8に記載の検出用マーカー、請求項9に記載の検出用プライマー、又は請求項10に記載の検出用プローブである、請求項7に記載の検出キット。
【請求項12】
遊離RNA抽出手段を更に含む、請求項7又は11に記載の検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−81861(P2010−81861A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253879(P2008−253879)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(591122956)三菱化学メディエンス株式会社 (45)
【Fターム(参考)】