膵臓ホルモン産生細胞取得方法
【課題】本発明は、幹細胞由来の膵臓ホルモン産生細胞を効率よく取得する方法等を提供する。
【解決手段】本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む膵臓ホルモン産生細胞取得方法である。また、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞を膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる。
【解決手段】本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む膵臓ホルモン産生細胞取得方法である。また、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞を膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓ホルモン産生細胞取得方法、及び前記方法によって得られる膵臓ホルモン産生細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓は内分泌細胞と外分泌細胞を有し、内分泌と外分泌の両方で重要な役割を担っている器官である。内分泌細胞は膵臓ホルモンを分泌する役割を果たし、膵α細胞から分泌されるグルカゴン、膵β細胞からインスリン、膵δ細胞からソマトスタチン、PP細胞から膵ポリペプチド(PP)が分泌されることが知られている。特にインスリンは血糖値低下作用を有し、血糖を正しい濃度に保つ重要な役割を果たす。
【0003】
糖尿病は、インスリンが不足したりその働きが失われたりすることによって発症する疾患であり、一度発症すると根治するのが難しい疾患である。糖尿病患者は近年著しい増加を示しており、例えば日本における糖尿病患者数は、現在約600万人に達し、40歳以上の10人に1人は糖尿病だといわれている。
【0004】
糖尿病は、I型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)とII型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)の大きく2つのタイプに分類することができる。
【0005】
II型糖尿病は、インスリンに対し抵抗性をもつために発症する慢性疾患であり、食べ過ぎや運動不足によっておこる肥満やストレス等、生活習慣と関わりで問題となっている糖尿病である。II型糖尿病は中高年で発病することが多く、その患者数は全糖尿病患者数の約90%を占めている。
【0006】
一方、I型糖尿病は、自己免疫疾患やウィルス感染等によってインスリン産生細胞が破壊され、インスリンが体内に分泌されないことによっておこる慢性疾患である。I型糖尿病は、年齢等に関係なく誰にでも発症することが知られており、患者は注射等により、自身で毎日インスリンを補わなければならない。インスリン注射によって血糖値のコントロールを厳密に行うには、その都度の状況を判断し必要量を推測する作業が必要となるが、コントロールが不十分な状態で20〜30年経過すれば、合併症により失明したり、腎不全のため透析が必要になる可能性がある。
【0007】
従って、体内で常に変化する血糖値を自動的にコントロールでき、かつ、患者の負担を軽くできる治療法として、I型糖尿病患者に対し、膵臓移植または膵島移植が行われている。これらの治療法によって正常な血糖値を達成することは可能であるが、移植は100%成功するものではなく、また移植可能な膵臓または膵島も不足しているのが現状である。また、移植片に対する免疫拒絶反応を制御するために、患者は免疫抑制剤を一生投与され続ける必要があるが、感染症の危険性や免疫抑制剤による副作用等の問題が残る。
【0008】
I型糖尿病について近年研究が進められている新しい治療法の一つに、インスリン産生細胞自体を再生し移植する方法が挙げられる。この治療法によって体内でインスリンを作り出すことができれば、根本的な糖尿病の治療につながると期待される。またこの方法によって短期間で多くのインスリン産生細胞を得ることが可能になったり、本人由来の細胞を用いることによって拒絶反応の問題が解消されたりする等、安全性や安定性の面で多くの利点があると考えられる。
【0009】
インスリン産生細胞を得る方法としては、ES細胞から分化させる方法、患者の膵の組織幹細胞から分化させる方法、患者の膵管上皮由来細胞を体外に取り出して分化させる方法等が知られている。例えば、ES細胞にpdx−1を導入して培養することによって、効率よくインスリン産生細胞が分化誘導されることが知られている。pdx−1は膵臓の発生に関わる重要な転写因子であり、インスリン産生細胞の発生、機能維持の役割も担っていることが知られている。
【0010】
しかし、これらの方法によって得られるインスリン産生細胞は、正常な膵β細胞と比較してインスリン産生効率がかなり低く、機能的なインスリン産生細胞を効率的に得られる方法の開発が求められている。同様に、得られる細胞数を糖尿病治療等のための実用化レベルまで増加させることが求められている。さらに、従来から研究されているインスリン産生細胞の再生方法は、培養シャーレに付着させる段階を経て分化誘導を行っているため、インスリン産生能を有する付着細胞のみが注目されている。しかし、付着細胞は浮遊細胞と比較して継代培養操作に手間がかかり、また細胞回収率も浮遊細胞に劣る。
【非特許文献1】ミヤザキ(Miyazaki S.)ら、「ダイアビーテス(Diabetes)」、2004年、第53巻、p.1030−7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、幹細胞由来の膵臓ホルモン産生細胞を効率よく取得する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0012】
1、膵臓ホルモン産生細胞取得方法
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む。これによれば、幹細胞由来で浮遊細胞を含む膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。
【0013】
本発明において「膵臓ホルモン産生細胞」とは、膵臓ホルモンを産生する能力を有する細胞を指す。前記膵臓ホルモン産生細胞は常に膵臓ホルモンを産生している必要はなく、膵臓ホルモンの産生能力を有していれば足りる。また、前記膵臓ホルモン産生細胞が有する膵臓ホルモン産生能力も特に限定されないものとする。
【0014】
また、本発明において「浮遊細胞」とは、細胞培養液等の液体中に浮遊している生細胞を指す。なお、本明細書において単に「浮遊細胞」と記載した場合は、1個の浮遊細胞、2個以上の浮遊細胞からなるsphere(細胞塊)、及びこれらが混在した浮遊細胞の集団を含むものとする。
【0015】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、
幹細胞を、付着細胞と膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む。これによれば、幹細胞由来で膵臓ホルモン産生能を有する細胞集団の中から、特に浮遊細胞を取得することができる。従って、浮遊系で培養可能である膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。
【0016】
本発明において、前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりも膵臓ホルモンを産生する細胞の割合が多いことができる。これによれば、膵臓ホルモンを効率的に産生する浮遊細胞を得ることができる。従って、例えば疾患の治療に関して、付着細胞よりも実用化に近いレベルで膵臓ホルモンを産生できる機能的な浮遊細胞を得ることができる。
【0017】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。本発明によって得られる浮遊細胞は、浮遊系で継代培養することによって長期に渡って増殖させることが可能である。また、浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率においても優れている。従って本発明によれば、膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞を、浮遊細胞の継代操作、細胞回収率等における利点を利用して、容易かつ多量に増殖させることが可能である。
【0018】
本発明において、前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これによれば、ES細胞または組織幹細胞由来の膵臓ホルモン産生細胞を取得することができる。これらの幹細胞は、全ての細胞または特定の細胞に分化する能力を備えるとともに自己複製能を備えており、適切な条件下で継代培養することによって分化能を維持したまま増幅することが可能である。また、後述の実施例より、pdx−1をノックインしたES細胞は、適切な条件下で継代培養することによってインスリン産生能を維持したまま増幅することが可能であることが明らかになった。従って本発明によれば、これらの方法を用いることによって多量の膵臓ホルモン産生細胞を取得することが可能である。また、本発明によって得られる膵臓ホルモン産生細胞を移植に用いる場合は、移植される自己由来の幹細胞を用いて膵臓ホルモン産生細胞を得ることによって、免疫拒絶反応の問題が回避される等、安全性・安定性の面で利点があると考えられる。
【0019】
前記幹細胞は哺乳動物由来であることができる。これによれば、哺乳動物由来の膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。哺乳動物は、ヒトでなくとも遺伝的にヒトに近い生物であると考えられるため、哺乳動物由来の幹細胞を用いることによって、ヒトが本来有するものに近い膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。従って、例えば免疫抑制剤や免疫隔離膜を利用することによって、ヒトの膵臓疾患や糖尿病等の治療に用いることが可能である。
【0020】
前記哺乳動物は、例えば、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。これらの哺乳動物は幹細胞樹立の研究が進んでいる生物であり、本発明によれば、これらの哺乳動物由来の膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。特にヒトの膵臓疾患や糖尿病等の治療において、ヒト由来の幹細胞を用いて得られる膵臓ホルモン産生細胞を移植する場合は、移植される自己由来の幹細胞を用いることによって、免疫拒絶反応の問題を回避することが可能である。
【0021】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含むことができる。本発明において「膵臓関連遺伝子」とは、膵臓の発生分化過程において発現する遺伝子、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導に関与する遺伝子、膵臓ホルモン産生に関わる遺伝子、膵臓ホルモン産生細胞で発現している遺伝子、前記以外の膵臓細胞で発現している遺伝子、膵臓の機能や環境維持に関わる遺伝子等、膵臓に何らかの関わりを有する遺伝子を指し、その関わりは特に限定されるものではない。具体的には例えば、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子の作用に係る性質を有する膵臓ホルモン産生細胞を取得することができる。具体的には例えば、前記膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含まない場合よりも効率よく膵臓ホルモン産生細胞を得たり、本発明によって得られた膵臓ホルモン産生細胞における膵臓ホルモン産生効率を上昇させたりすること等が可能になる。特に、ES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによってインスリン産生細胞を効率よく分化誘導できること、及びpdx−1の発現が高いほどインスリンの発現レベルが高いことが、後述の実施例より明らかになった。従って、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法においてpdx−1を発現させる工程を含むことによって、効率よくインスリン産生細胞を分化誘導して得ることや前記細胞のインスリン産生能を高めることが可能である。
【0022】
前記膵臓関連遺伝子は、レポーター遺伝子と組み合わせて発現させることができる。これによれば、前記レポーター遺伝子の発現を前記膵臓関連遺伝子の発現として捉えて可視化することが可能になる。従って、レポーター遺伝子の発現を指標として、前記膵臓関連遺伝子が導入された細胞を識別したり、前記膵臓関連遺伝子の発現をモニターしたりすることができる。本発明は、前記膵臓関連遺伝子の導入効率や発現レベルが低い場合に特に有効である。前記レポーター遺伝子としては、例えば、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子、またはlacZ遺伝子であることができる。特に、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子を用いた場合は蛍光にコファクターや基質を要しないため細胞の固定処理や破壊処理が必要なく、細胞が生きた状態で膵臓関連遺伝子の導入効率や発現レベル等を検討することができる。また、FACS等を用いることによって、蛍光標識されている細胞、すなわち前記膵臓関連遺伝子が導入された細胞を単離・濃縮することが可能である。また、レポーター遺伝子としてlacZ遺伝子を用いた場合は、X−galを基質として用いる発色法によりで膵臓関連遺伝子の導入効率や発現レベル等を検討することができる。
【0023】
なお、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、外因性の膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子であることができる。
【0024】
本発明において「外因性の遺伝子」とは、使用する細胞が本来有している遺伝子か否かに関わらず外部から導入された遺伝子を指す。
【0025】
これによれば、使用する細胞が本来有していない遺伝子を発現させることや、使用する細胞が本来有している遺伝子であってもその遺伝子をさらに強発現させること等が可能になる。外因性の膵臓関連遺伝子を発現させる場合は、前記遺伝子の有する働きによって、膵臓ホルモン産生細胞をより効率よく分化誘導することや、膵臓ホルモン産生効率を上昇させること等が可能になる。また、外因性の膵臓関連遺伝子及びレポーター遺伝子を発現させる場合は、レポーター遺伝子の発現を指標として、膵臓関連遺伝子が導入されている、または発現している細胞を識別・単離・濃縮することができ、機能的な膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能になる。
【0026】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現は、遺伝子発現制御システムによって制御されることができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現時期、発現領域、または発現量等を所望の態様に制御することができる。従って、例えば、これまで自己複製条件において培養していた幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導する時期や、本発明によって得られる膵臓ホルモン産生細胞が膵臓ホルモンを発現する期間を制御すること等が可能になる。
【0027】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現レベルを基準の一つとして細胞を分類する工程を含むことができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子を発現していることによって示される効果に従って、本発明によって得られた細胞をグループ化することが可能である。例えば、幹細胞が膵臓ホルモン産生細胞に分化することによって特定の膵臓関連遺伝子を発現することが知られる場合は、本発明の工程を含むことによって、幹細胞と膵臓ホルモン産生細胞が混在する細胞集団を、幹細胞の集団と膵臓ホルモン産生細胞の集団にグループ化することができる。また、膵臓ホルモン産生能を獲得した細胞において、特定の膵臓関連遺伝子の発現レベルと膵臓ホルモン産生能との間に何らかの相関関係が認められる場合は、本発明の工程を含むことによって、前記細胞を膵臓ホルモン産生レベルに従ってグループ化することが可能である。本発明に係る相関関係とは、特定の膵臓関連遺伝子の発現と膵臓ホルモン産生能との間に成り立つ一定の関係を指す。前記関係は必ずしも厳密に成り立つ関係である必要はなく、膵臓ホルモン産生能予測の目安として用いうる程度に成り立つ関係であればよい。具体的には例えば、前記特定の膵臓関連遺伝子の発現が高いほど、膵臓ホルモン産生能が高いまたは低い等の関係を挙げることができる。なお、前記膵臓関連遺伝子がレポーター遺伝子と組み合わせて発現されている場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0028】
前記分類する工程は、例えば、前記膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現が高い細胞を濃縮する工程であることができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと膵臓ホルモン産生能との間に正の相関関係が認められる場合に、本発明によって得られた膵臓ホルモン産生細胞から、高い膵臓ホルモン産生能を有する細胞を単離・濃縮することができる。なお、前記膵臓関連遺伝子がレポーター遺伝子と組み合わせて発現されている場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0029】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。これによれば、幹細胞由来で浮遊細胞を含むインスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞を得ることができる。
【0030】
2、膵臓ホルモン産生細胞
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得ることができる。すなわち、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得ることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞由来で膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞を含む細胞であることができる。
【0031】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる浮遊細胞を継代することによって得ることができる。浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率も優れている。また後述の実施例より、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞は長期培養が可能であることが明らかになった。従って本発明は、幹細胞由来で膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞から、容易かつ多量に得ることが可能である膵臓ホルモン産生細胞であることができる。
【0032】
前記膵臓ホルモン産生細胞は浮遊細胞であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞であることができ、前述のような継代操作、細胞回収率等における利点を有することができる。
【0033】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、ES細胞または組織幹細胞由来であることができる。従って例えば、前記ES細胞または組織幹細胞を自己複製能を保ったまま増幅してから膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導したり、自己のES細胞または組織幹細胞由来の膵臓ホルモン産生細胞を移植治療に用いることによって免疫拒絶反応の問題を回避したりすること等が可能になる。
【0034】
前記幹細胞は哺乳動物由来であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は哺乳動物由来の細胞であることができ、ヒトが本来有するものに近い膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。
【0035】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。これらの哺乳動物は幹細胞樹立の研究が進んでいる生物であり、これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞はこれらの哺乳動物由来の細胞であることができる。
【0036】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、膵臓関連遺伝子を発現していることができる。前記膵臓関連遺伝子としては、例えば、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、発現している膵臓関連遺伝子の作用に係る性質を有する細胞であることができる。例えば後述の実施例より、本発明に係るインスリン産生細胞において、pdx−1遺伝子の発現が高いほどインスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、本発明に係る膵臓関連遺伝子としてpdx−1を高発現していることによって、インスリン産生量が高い細胞であることが示唆される。
【0037】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に特定の作用を有すると考えられる医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質について、試験・検討・改良・評価等を行うことができる。前記特定の作用とは例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン発現期間、その産生効率等に及ぼす作用であることができる。
【0038】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞を、例えば、糖尿病等の疾患患者に対する移植治療に用いることができる。
【0039】
3、組成物
本発明の組成物は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を含む組成物である。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を、用途に適したさまざまな態様で用いることができる。これによって、例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を使用しやすい態様にすること、前記細胞における膵臓ホルモン産生能を高める態様にすること等が可能になる。
【0040】
前記組成物は、薬剤であることができる。
【0041】
前記組成物は、医療用組成物であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を医薬品や医療用キットとして、疾患の予防や治療に用いることができる。
【0042】
前記医療用組成物は、例えば、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることができる。免疫隔離膜は、膵臓ホルモンを通過させることはできるが、免疫拒絶反応に関与する免疫担当細胞や抗体等を通過させることができない。従って、例えば、本発明に係る医療用組成物を移植療法に用いる場合、前記組成物に含まれる膵臓ホルモン産生細胞が自己由来の細胞でなくても、患者に免疫抑制剤を投与し続ける必要がなく、免疫抑制剤投与によっておこる副作用や感染症の危険性を避けることができる。また、本発明に係る医療用組成物が不必要になったり除去する必要が生じたりした場合は、本発明によって一度患者の体内に移植した前記医療用組成物を回収することも可能である。
【0043】
本発明の組成物は、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症の予防・治療に用いることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の有する性質・特徴・利点等を生かし、例えば移植療法等を用いることによって前記疾患を予防・治療することができる。
【0044】
前記組成物は、実験試薬または実験キットであることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を、研究・実験等に適した態様で用いることができる。前記研究・実験は、例えば、前記膵臓ホルモン遺伝子の発現に関わるシグナル伝達経路の研究、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化経路に関わる研究、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の試験・検討・改良・評価等に関わる実験等であることができる。
【0045】
4、モデル動物
本発明のモデル動物は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持したモデル動物であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持することによってモデル動物に及ぼす影響を解析・検討することができる。前記影響とは例えば、前記モデル動物の血中膵臓ホルモン濃度変化、その変化に伴う影響の有無、その影響によるモデル動物の状態変化等であることができる。また、本発明のモデル動物に何らかの物質を作用させ、前記物質が前記モデル動物または前記モデル動物が担持する本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響を解析・検討することも可能である。前記影響とは例えば、前記モデル動物が担持する本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン発現期間変化、その産生効率変化、前記モデル動物の血中膵臓ホルモン濃度変化、膵臓ホルモン産生細胞の細胞数変化等であることができる。なお、これらの影響はモデル動物の体内や体外において検討することが可能である。
【0046】
前記モデル動物は疾患モデル動物であることができる。前記疾患モデル動物が有する疾患は、例えば、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞がモデル動物体内においてこれらの疾患に及ぼす影響を検討することができる。前記影響は、疾患モデル動物の体内や体外において検討することが可能である。
【0047】
前記モデル動物は、免疫不全モデル動物であることができる。免疫不全動物は自己由来でない細胞を拒絶することができない動物である。従って本発明によれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞が自己由来の細胞でない場合でも、免疫抑制剤や免疫隔離膜を用いずに本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を安定して担持することが可能である。
【0048】
本発明のモデル動物は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持したモデル動物を用いて、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の試験・検討・改良・評価等を行うことができる。前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質は、前記モデル動物の担持する本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用する物質であることができる。具体的には例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン発現期間、その産生効率等に影響を及ぼす物質であることができる。
【0049】
5、膵臓ホルモン産生能予測方法
本発明の膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓ホルモン産生細胞について膵臓関連遺伝子の発現を検討する工程を含む。また、前記膵臓ホルモン産生細胞は、例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。これによれば、特定の膵臓関連遺伝子の発現量、発現領域、または発現時期等を検討しその結果を基準として、前記膵臓ホルモン産生細胞が有する膵臓ホルモン産生能を予測することができる。
【0050】
本発明の膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓関連遺伝子の発現を膵臓ホルモン産生能を予測する指標の一つとすることができる。これによれば、膵臓ホルモン産生細胞における膵臓ホルモン産生能と何らかの相関関係を有する膵臓関連遺伝子の発現を検討することによって、前記細胞の膵臓ホルモン産生能を予測することが可能になる。
【0051】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。これによれば、これらの膵臓関連遺伝子の発現を検討することによって、膵臓ホルモン産生能を予測することができる。特にpdx−1遺伝子は、後述の実施例より、その発現レベルが高いほどインスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、本発明に係るインスリン産生細胞においてpdx−1の発現レベルを検討することによって、前記インスリン産生細胞のインスリン産生能を予測することができる。
【0052】
前記膵臓ホルモンは、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)であることができる。これによれば、特定の膵臓関連遺伝子の発現を検討することによって、検討した膵臓ホルモン産生細胞におけるインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)産生能を予測することができる。
【0053】
6、疾患の予防・治療方法
本発明の疾患の予防・治療方法は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いた予防・治療方法である。前述のように本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞または膵臓ホルモン産生細胞の状態で増幅でき、浮遊細胞であるために継代操作や回収操作が細胞に及ぼすダメージが少なく、また操作自体も簡便である。さらに細胞回収率においても、付着細胞と比較して優れている。また、後述の実施例より、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞は長期培養が可能であることが明らかになった。従って本発明によれば、これらの本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の性質・特徴・利点を生かして細胞数を増幅する等によって、疾患の予防・治療に必要な膵臓ホルモン産生細胞を確保し、前記疾患の予防・治療を行うことが可能になる。また、さらに本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞が、膵臓関連遺伝子の発現レベルを指標として膵臓ホルモン産生能を予測することが可能である場合は、所望の膵臓ホルモン発現レベルを有する細胞のみを取得すること等によって、疾患の予防・治療を行うことができる。
【0054】
本発明の疾患の予防・治療方法は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を生物に移植する工程を含む予防・治療方法である。これによれば、移植された本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞が生物体内で膵臓ホルモンを産生することによって、疾患を予防・治療することができる。本発明の方法は膵臓ホルモン産生細胞自体を移植するため、体内で常に変化する膵臓ホルモン量を前記細胞が感知し、膵臓ホルモン産生量または分泌量を自動的に制御できる可能性がある。従って、従来から行われている膵臓ホルモン投与による治療法と比較して、膵臓ホルモン量のより厳密な制御が可能になり、また、注射の手間・必要量の判断等の患者の負担を大きく軽減することができる。
【0055】
なお、本発明の疾患の予防・治療方法は、必要に応じて免疫拒絶反応を回避する手段を用いることができる。例えば、前記膵臓ホルモン産生細胞は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることができる。免疫隔離膜は、膵臓ホルモンを通過させることはできるが、免疫拒絶反応に関与する免疫担当細胞や抗体等を通過させることができない。従って、前記膵臓ホルモン産生細胞が自己由来の細胞でなくても、患者に免疫抑制剤を投与し続ける必要がなく、また、一度患者の体内に移植した前記膵臓ホルモン産生細胞を回収することも可能である。
【0056】
前記膵臓ホルモン産生細胞が由来とする幹細胞は、前記膵臓ホルモン産生細胞の移植を受ける生物の自己由来であることができる。これによれば、免疫拒絶反応を回避して、疾患を予防・治療することができる。従って非自己由来の幹細胞を用いるよりも安定して前記膵臓ホルモン産生細胞を保持することができる。
【0057】
本発明において、前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これらの幹細胞は、全ての細胞または特定の細胞に分化する能力を備えるとともに自己複製能を備えており、適切な条件下で継代培養することによって分化能を維持させたまま増幅することが可能である。従って本発明によれば、ES細胞または組織幹細胞から得られた、本発明に係る自己由来の膵臓ホルモン産生細胞を用いて、疾患を予防・治療することが可能である。
【0058】
前記幹細胞は哺乳動物由来であることができる。さらに前記哺乳動物は、例えば、幹細胞樹立の研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。これによれば、これらの哺乳動物由来で、かつ自己由来の幹細胞から得られた本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いて、これらの哺乳動物の疾患を予防・治療することができる。
【0059】
前記疾患は膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いて、これらの疾患を予防・治療することができる。特に、前記疾患が糖尿病である場合は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞としてインスリン産生細胞を用いて、糖尿病を予防・治療することができる。
【0060】
7、被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法
本発明の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法は、
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の被験物質を作用させる工程と、
前記被験物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記被験物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む。これによれば、前記被験物質によって本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞におこる影響を、適切なコントロールを用いて比較検討することができる。
【0061】
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させる被験物質は特に限定されずさまざまな物質を用いることができるが、例えば前記被験物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。
【0062】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞のこれらの要素に被験物質が及ぼす影響を検討することによって、被験物質の有する効果を予測することができる。例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に被験物質を作用させた場合に、前記被験物質を作用させない場合と比較して細胞増殖率の向上がみられた場合は、前記被験物質は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の細胞周期等に影響を与える物質である可能性が考えられる。
【0063】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子としては特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。これによれば、被験物質が、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞における前記膵臓関連遺伝子の発現量、前記膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸の局在、あるいは膵臓関連遺伝子産物の局在または活性に及ぼす影響を検討することができる。例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞であって、前記細胞に被験物質を作用させた場合に前記被験物質を作用させない場合と比較してpdx−1遺伝子の発現量が向上した場合は、前記被験物質は、pdx−1遺伝子の発現に影響を与え、かつ前記細胞のインスリン産生能に影響を与える物質である可能性等が考えられる。なおここで、前記細胞がレポーター遺伝子を含み、前記膵臓関連遺伝子の発現とレポーター遺伝子の発現が連動している場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0064】
前記被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響は、膵臓ホルモン産生細胞に対する毒性、膵臓ホルモン産生能の促進、または膵臓関連遺伝子発現の変化であることができる。これによれば、被験物質が本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞にこれらの影響を及ぼすか否かについて検討することができる。
【0065】
8、膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法
本発明の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法は、
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の特定の影響を及ぼす物質の候補物質を作用させる工程と、
前記候補物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記候補物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む。これによれば、前記候補物質の中から本発明の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質を、適切なコントロールを用いて探索することができる。
【0066】
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させる候補物質は特に限定されずさまざまな物質を用いることができるが、例えば前記候補物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。
【0067】
また、前記候補物質は、ライブラリーの態様であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質を網羅的に探索することができる。
【0068】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。これによれば、候補物質の中から本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞のこれらの要素に影響を及ぼす物質を探索することができる。例えば、膵臓ホルモン産生量を指標の一つとして、候補物質を作用させた場合と作用させない場合の本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を比較検討することによって、膵臓ホルモン産生量に影響を及ぼしうる物質を探索することができる。
【0069】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子としては特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。これによれば、候補物質が、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞における前記膵臓関連遺伝子の発現量、前記膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸の局在、あるいは前記膵臓関連遺伝子産物の局在または活性等に影響を及ぼす物質を探索することができる。例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞であって、前記細胞に被験物質を作用させた場合に前記被験物質を作用させない場合と比較して、前記細胞におけるpdx−1遺伝子の発現量が向上する物質を探索することによって、pdx−1遺伝子の発現に影響を与え、かつ前記細胞のインスリン産生能に影響を与えうる物質をスクリーニングすることが可能である。なおここで、前記細胞がレポーター遺伝子を含み、前記膵臓関連遺伝子の発現とレポーター遺伝子の発現が連動している場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0070】
前記特定の影響を及ぼす物質は、膵臓ホルモン産生促進因子、膵臓ホルモン産生阻害因子、膵臓ホルモン分泌促進因子、膵臓ホルモン分泌阻害因子、膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、膵臓ホルモン産生細胞分化阻害因子、膵臓細胞分化関連因子、膵臓ホルモン産生細胞分化関連因子、膵臓疾患関連因子、糖尿病関連因子、ブドウ糖反応性関連因子、β細胞アポトーシス阻害剤、糖尿病治療に有効な薬剤、または自己免疫疾患抑制剤であることができる。これによれば、これらの因子・薬剤等として機能しうる物質を候補物質の中から探索することができる。
【0071】
9、膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法
本発明の膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法は、
膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞における、1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程と、
両細胞間における前記遺伝子それぞれの発現量を比較する工程と、
両細胞間で発現量の異なる遺伝子を特定する工程と
を含む。これによれば、膵臓ホルモン産生能を有する細胞において、付着性を有する細胞と浮遊性を有する細胞の相違の決定に関与する遺伝子を探索することができる。
【0072】
前記膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法において生じる膵臓ホルモン産生能を有する細胞において、付着性を有する細胞と浮遊性を有する細胞の相違の決定に関与する遺伝子を探索することができる。
【0073】
10、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法の好ましい一態様
本発明のインスリン産生細胞取得方法は、ES細胞を、インスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む。これによれば、ES細胞由来のインスリン産生細胞を得ることができる。
【0074】
本発明のインスリン産生細胞取得方法は、
ES細胞を、付着細胞とインスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む。これによれば、ES細胞から得られた付着細胞と浮遊細胞が混在するインスリン産生細胞集団から、浮遊系で培養可能なインスリン産生細胞を得ることができる。浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、また操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率も優れている。従って、付着細胞よりも容易かつ多量にインスリン産生細胞を取得することができる。
【0075】
本発明において、前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりもインスリンを産生する細胞の割合が多いことができる。これによれば、例えば糖尿病の治療に関して、付着細胞よりも実用化に近いレベルのインスリン産生能を有する、機能的な浮遊細胞を得ることができる。
【0076】
本発明はさらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、また操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率も優れている。また後述の実施例より、本発明に係るインスリン産生細胞は長期培養が可能であることが明らかになった。従って本発明によれば、インスリン産生能を有する浮遊細胞を、浮遊細胞の継代操作、細胞回収率等における利点を利用して、容易かつ多量に増殖させることが可能である。
【0077】
本発明はさらに、pdx−1を発現させる工程を含むことができる。ES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによってインスリン産生細胞を効率よく分化誘導できること、及びpdx−1の発現が高いほどインスリンの発現レベルが高いことが、後述の実施例より明らかになった。従って、本発明によれば、インスリン遺伝子の発現が効率よく誘導されたインスリン産生細胞を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の要旨を超えない範囲で種々の変更が可能である。
【0079】
1、膵臓ホルモン産生細胞取得方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む。
【0080】
また、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を、付着細胞と膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、前記浮遊細胞を単離する工程とを含む。
【0081】
本実施の形態における幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これらの幹細胞を得る方法は特に限定されず、当業者に公知の手法をはじめとした、それぞれの幹細胞を得るのに適した種々の方法を用いることができる。幹細胞がES細胞である場合は、組織幹細胞を用いた場合よりも多くの膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能である。ES細胞は理論的には無限に増殖可能であるため、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の原料として安定な供給源となりうる。さらに、ES細胞は細胞系列が明確であり品質管理がしやすいという利点がある。幹細胞が組織幹細胞である場合は、前記組織幹細胞は例えば、表皮幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞であることができ、好ましくは内胚葉系である肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞、特に好ましくは膵幹細胞であることができる。
【0082】
本実施の形態において、幹細胞が由来とする生物は、ES細胞または組織幹細胞を得ることができる生物であれば特に限定されずさまざまな生物を用いることができるが、好ましくは哺乳動物、特に好ましくは、幹細胞樹立やヒトへの再生医療に関する研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。
【0083】
本実施の形態において「膵臓ホルモン」とは、膵臓から分泌されるホルモンを指す。具体的には例えば、膵島から分泌されることが知られるグルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)を挙げることができる。
【0084】
本実施の形態において、幹細胞を膵臓ホルモンを産生する細胞に分化誘導する手法としては、結果的に膵臓ホルモンを産生できる細胞が得られれば特に限定されずさまざまな方法を用いることができる。具体的には、例えばES細胞を用いてインスリン産生細胞を得る場合、ES細胞を無血清培地で培養して胚様体を形成させ、そこにさまざまな分化誘導因子を加え、さらにpdx−1遺伝子、neuroD遺伝子、Isl1遺伝子、またはPax6遺伝子等を導入することによってインスリン産生細胞を分化誘導することができる。また、同様にしてES細胞にPax4遺伝子、Nkx2.2遺伝子等を導入することによってグルカゴン産生細胞を、Pax4遺伝子等を導入することによってソマトスタチン産生細胞を、Nkx2.2遺伝子等を導入することによって膵ポリペプチド(PP)産生細胞を分化誘導することができうる。また、後述の実施例より、ES細胞におけるpdx−1の発現が高いほど、ソマトスタチンの発現が低下することも明らかになった。
【0085】
分化誘導に用いる培地としては、幹細胞及び膵臓ホルモン産生細胞の生存や増殖、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導等が害されない限り特に限定されず、例えば、Dulbecco's modified Eagle's medium(DMEM)培地、F12培地等を用いることができる。
【0086】
幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞へ効果的に分化誘導するために、前記培地にはさらに種々の添加物を加えることができる。前記添加物としては、上記同様、幹細胞及び膵臓ホルモン産生細胞の生存や増殖、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導が害されない限り特に限定されるものではないが、例えば、サイトカインや膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、ケモカイン、ペプチド、増殖因子等の生理活性物質であることができる。具体的には例えば、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレスシン、亜セレン酸ナトリウム、ヒトケラチノサイト増殖因子(KGF)(ペプロテック社製)、上皮細胞増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、B27サプリメント、ニコチンアミド等であることができるが、前記添加物は無論これらに限定されるものではない。また、細胞の培養、分化誘導、継代過程において、これらの因子は必要に応じて除去及び添加することができる。
【0087】
なお、本実施の形態に係る幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導する工程は、膵臓ホルモン産生能を有する細胞、または、膵臓ホルモン関連遺伝子を蛍光色素をコードするレポーター遺伝子と組み合わせて発現させた場合に蛍光を発する細胞を分離する工程を含むことができる。前記分離工程に用いる手法は、結果として膵臓ホルモン産生細胞を得ることができれば特に限定されないが、例えばFACS等を用いて、幹細胞には発現しておらず膵臓ホルモン産生細胞において特有に発現している表面抗原を有する細胞を単離する手法を用いることができる。
【0088】
本実施の形態において幹細胞から分化誘導された細胞集団は、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む。本実施の形態において、「浮遊細胞」とは細胞培養液等の液体中に浮遊している生細胞を指し、例えばsphere状で浮遊する細胞を含むことができる。前記「sphere状」の細胞とは、増殖した細胞が集合したほぼ球形の浮遊細胞塊を指す。一方、本実施の形態において、「付着細胞」とは培養用容器に付着している生細胞を指す。浮遊細胞と付着細胞は、同じ培養用容器で混在させて培養している場合でも、例えば顕微鏡等によって観察することによって見た目で区別することが可能である。前記見た目による区別の基準としては、例えば、軽くディッシュをゆすると動く細胞を浮遊細胞と判断することによることができる。
【0089】
本実施の形態において浮遊細胞を単離する手段としては、例えば、浮遊細胞を含む培地を培養用ピペット等を用いて回収する方法を用いることができる。前記方法は、必要に応じて、遠心等によって培地と浮遊細胞を分離し培地を除く工程を含むこともできる。
【0090】
上記のように、浮遊細胞を単離する操作は、細胞を培養用容器からはがす操作を必要としない。培養用容器等によっては浮遊細胞が底面に付着しやすい場合もあるが、培地で培養用容器を軽く洗うことによって容易に細胞をはがすことが可能である。一方、付着細胞を単離する手段は、付着細胞が有する付着性質のために、トリプシン等の酵素溶液を用いたりスクレイパー等で機械的にかきとったりすることによって培養用容器から細胞をはがす操作を必要とする。従って、浮遊細胞は付着細胞よりも回収操作や単離操作が簡便である。さらに、培養用容器から細胞を取り残すことをできるだけ防止することが可能であるため、浮遊細胞は付着細胞よりも細胞回収率において優れている。
【0091】
従来から研究されている膵臓ホルモン産生細胞取得方法、例えば、インスリン産生細胞取得方法においては、培養シャーレに付着させる段階を経て分化誘導を行っているため、インスリン産生能を有する付着細胞のみが注目されている。しかし、前述のように、付着細胞は浮遊細胞と比較して継代操作や回収操作に手間がかかり、また、これらの操作によって細胞にダメージが及ぶ。さらに細胞回収率においても、付着細胞は浮遊細胞に劣る。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、浮遊系で培養維持が可能であるという利点があり、また、このような浮遊系の膵臓ホルモン産生細胞自体が新規である。
【0092】
無血清培地で細胞を浮遊培養する工程を含む方法として、Neurosphere法が知られている。Neurosphere法は神経幹細胞の選択的培養法であり、多くの場合浮遊細胞のみを培養維持し、継代可能なp10まではほぼ浮遊細胞のみしか見られない。これに対して、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、培養過程で付着細胞と浮遊細胞が混在しており、この混在状態から浮遊細胞のみを選択培養していく点で、前記Neurosphere法とは異なる。また、ES細胞を浮遊培養して形成させた胚様体(EB)は、例えばゼラチンコートしたディッシュの上では、ほぼ全ての細胞がディッシュに付着する性質を有する。これに対して、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られた浮遊細胞は、分化誘導のステップをいくつか経て、付着細胞とともに培養維持して得られた浮遊細胞であり、ゼラチンコートなしのディッシュの上だけでなくゼラチンコートしたディッシュの上でも、ある程度の量の浮遊細胞が出現する。従って、これらの細胞は性質が異なると考えられる。すなわち、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られる浮遊細胞は、積極的に浮遊培養しなくとも浮遊する性質を有し浮遊してきた細胞であるということができる。
【0093】
本実施の形態において、前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりも膵臓ホルモンを産生する細胞の割合が多いことができる。
【0094】
浮遊細胞及び付着細胞それぞれにおける膵臓ホルモン産生能を検討する手法については特に限定されず、さまざまな手法を用いることができる。前記それぞれの細胞が生きている状態を保ったままで膵臓ホルモン産生能を検討する場合は、例えば、浮遊細胞と付着細胞を分離し、培地中に放出される単位細胞数、単位時間あたりの膵臓ホルモン量を検討する手法を用いることができる。前記それぞれの細胞を分離するには、例えば、付着細胞を培養用容器からはがさないように注意して浮遊細胞を含む培地を回収する操作を数回繰り返す手法を用いることができる。膵臓ホルモン量を検討するには、例えば、一定時間後に培地を回収し、前記培地中に存在する膵臓ホルモン量をウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いて定量する手法を用いることができる。また、それぞれの細胞の一部を膵臓ホルモン産生能検討用サンプルとして分離し膵臓ホルモン産生能を検討する場合は、当業者に公知の手法等を用いてそれぞれのサンプルから膵臓ホルモンタンパク質または前記タンパク質をコードする核酸を抽出し、それらの発現量を検討する手法を用いることができる。タンパク質量を検討する場合は、前記同様、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いることができる。核酸量を検討する場合は、前記核酸は例えばRNAであることができ、ノーザンブロッティング法、RT―PCR法等を用いることができる。また、サンプルから前記タンパク質または核酸を抽出せず、例えば免疫染色法、in situハイブリダイゼーション法等を用いた染色によって、膵臓ホルモン産生能を評価することも可能である。
【0095】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。
【0096】
浮遊細胞を継代する手法としては、当業者に公知の手法、例えば前記浮遊細胞を単離する手段を用いて浮遊細胞を回収し新たな培地に懸濁する方法を用いることができる。また、必要に応じてピペッティングを行い、浮遊細胞のばらし具合を調節することができる。本実施の形態における好ましいばらし具合は、数個の細胞塊を残した状態であることができる。
【0097】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含むことができる。前記膵臓関連遺伝子は、レポーター遺伝子と組み合わせて発現させることができる。また、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、他の作用を有する遺伝子とさらに組み合わせた態様で発現させることも可能である。
【0098】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、外因性の膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子であることができる。また、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現は、遺伝子発現制御システムによって制御されることができる。
【0099】
本実施の形態に係る膵臓関連遺伝子としては、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導や、前記膵臓ホルモン産生細胞の継代維持を妨げるものでなければ特に限定されないが、好ましくは、幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に効率よく分化誘導する作用を有する遺伝子や、膵臓ホルモン産生能を高める作用を有する遺伝子であることができる。具体的には例えば、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓関連遺伝子はpdx−1遺伝子である。例えばES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによって、効率よくインスリン産生細胞を分化誘導することができる。
【0100】
また、本実施の形態に係るレポーター遺伝子としては、その発現を検出・測定することが可能な遺伝子であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、蛍光タンパク質をコードする遺伝子や、基質を用いることによって発光または発色反応を示す遺伝子であることができる。具体的には例えば、前記レポーター遺伝子は、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子、またはlacZ遺伝子であることができる。
【0101】
前記膵臓関連遺伝子産物及び/またはレポーター遺伝子産物をコードする核酸は、完全なタンパク質をコードする態様だけでなく、前記タンパク質の一部分をコードする態様や、前記タンパク質のアミノ酸配列の一部に変更を加えたタンパク質をコードする態様等であることもできる。これによって、例えば前記遺伝子が発現することによって期待される作用を高めることや前記遺伝子の発現量を高めること等が可能である。前記アミノ酸配列の一部の変更とは、例えば、1または2以上のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/または挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするような変更であることができる。また、前記核酸の塩基配列の一部を、そのコードするアミノ酸を変更しない塩基配列に変更することも可能である。
【0102】
本実施の形態において前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子を発現させる手法としては、目的とする膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現レベルを高めることができれば特に限定されない。前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子が内在性の遺伝子である場合は、例えば前記遺伝子の発現レベルを上昇させることが知られるサイトカインや膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、ケモカイン、ペプチド、増殖因子等の生理活性物質を培地に添加することによって、または、前記遺伝子の発現レベルを上昇させることが知られる上流遺伝子を細胞に導入することによって、目的とする遺伝子の発現レベルを高めることができる。また、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子が外因性の遺伝子である場合は、前記遺伝子を細胞に導入することによって、目的とする遺伝子の発現レベルを高めることができる。
【0103】
本実施の形態において、細胞に遺伝子を導入する方法としては、結果として目的遺伝子が細胞内に導入され発現することができれば特に限定されず、リポフェクション法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、DEAE−デキストラン法、アデノウィルスベクター法、レトロウィルスベクター法、アデノ随伴ウィルスベクター法等をはじめとした当業者に公知の手法等を用いることができる。
【0104】
また、本実施の形態において細胞に導入される遺伝子は、相同組換え等を利用したゲノムに組み込まれる態様もゲノムに組み込まれない態様も選択することができるが、好ましくはゲノムに組み込まれる態様である。これによれば、安定して前記遺伝子産物を発現させることや、細胞分裂後も前記遺伝子を確実に娘細胞に受け継がせること等が可能になる。
【0105】
本実施の形態において、膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子を組み合わせて発現させる具体的な態様としては、例えば、前記膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子を機能的に連結したベクターを細胞に導入する態様や、前記膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子をそれぞれ別のベクターに導入して一定の割合で混合し細胞に導入する態様等を用いることができる。前者の態様で「機能的に連結」しているとは、前記膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子が同一の導入するベクター上に配置され同一の制御系によって制御されることによって発現が連動することを指す。また、後者の態様で「一定の割合」とは特に、例えば(膵臓関連遺伝子):(レポーター遺伝子)の比が5:1、10:1等の、膵臓関連遺伝子の割合の方が高いことを指す。これらの態様によれば、前記膵臓関連遺伝子産物と前記レポーター遺伝子産物が一定の比を保って発現することができる。これによって、前記レポーター遺伝子の発現を指標として、前記膵臓関連遺伝子の発現量の評価・比較・モニター等を行うことができる。また、単に前記膵臓関連遺伝子が導入されたか否かを判別することも可能である。なお、前記膵臓関連遺伝子産物と前記レポーター遺伝子産物は、発現の比が保たれれば、別個のタンパク質として発現しても結合タンパク質として発現してもよい。
【0106】
本実施の形態において、幹細胞に膵臓関連遺伝子を発現させる時期は特に限定されるものではなく、前記膵臓関連遺伝子の特性に合わせて時期を選択することができる。例えば、ES細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する際にpdx−1遺伝子を発現させる場合は、ES細胞から胚様体(EB)を形成させる段階で発現させるのが好ましい。
【0107】
本実施の形態に係る遺伝子発現制御システムは、前記膵臓関連遺伝子の発現時期等を制御することができる機構であれば特に限定されないが、例えば薬剤を用いた当業者に公知の転写制御システムを用いることができる。前記システムとしては、例えばテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン等のテトラサイクリン系抗生物質を用いたシステムを挙げることができる。これらのテトラサイクリン系抗生物質を培地に添加または除去することによって、前記膵臓関連遺伝子の発現を制御することが可能である。より具体的には、例えばドキシサイクリン(Dox)を培地に添加することによって前記膵臓関連遺伝子の発現を抑えることができ、除去することによって前記膵臓関連遺伝子を発現させることができる。また逆に、ドキシサイクリン(Dox)を培地に添加することによって前記膵臓関連遺伝子を発現させることができ、除去することによって前記膵臓関連遺伝子を抑えるシステムであることも可能である。
【0108】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現レベルを基準の一つとして細胞を分類する工程を含むことができる。
【0109】
本実施の形態において、ある遺伝子の発現レベルを基準として細胞を分類するとは、具体的には例えば、前記遺伝子を発現している細胞と発現していない細胞を分離する操作、前記遺伝子の発現量が高い細胞群、中程度の細胞群、低い細胞群といったようにグループ分けする操作、前記遺伝子を特定量以上または特定量以下に発現している細胞群のみを選択してくる操作等を指す。従って、前記分類する工程は、前記膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現が高い細胞を濃縮する工程であることもできる。前記工程には、例えばFACS等を用いることができる。これらによれば、前記遺伝子を使用態様に合った所望の程度に発現している細胞群を取得することができる。
【0110】
後述の実施例より、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞においてpdx−1の発現レベルが高いほど、インスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、本実施の形態に係る膵臓関連遺伝子としてpdx−1遺伝子を用い、pdx−1の発現が高い細胞を濃縮することによって、インスリン発現量が高い細胞を効率的に取得することができる。
【0111】
なお、前記膵臓関連遺伝子がレポーター遺伝子と組み合わせて発現されている場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することができる。
【0112】
従来の研究結果よりES細胞にpdx−1を高発現させすぎると細胞毒性を示す場合があることが示唆されている。従って、本実施の形態に係る膵臓関連遺伝子としてpdx−1遺伝子を用い本実施の形態に係る方法を用いてインスリン産生細胞を得る場合、前述のようにpdx−1の発現が高い細胞のみを濃縮して用いるだけでなく、pdx−1の発現が中程度または低い細胞群も有効に用いうる可能性がある。
【0113】
本実施の形態において細胞を分類する具体的手法としては、結果として必要とする遺伝子発現レベルの膵臓ホルモン産生細胞を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えばFACS Aria(ベクトン・ディッキンソン社製)やautoMACS(Miltenyi Biotec社製)等を用いて行うことができる。FACS Vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いた場合に用いるマーカーは、好ましくは細胞表面タンパク質、蛍光標識されたタンパク質、特定のタンパク質と一定の比率で発現させた蛍光タンパク質等であることができる。autoMACS(Miltenyi Biotec社製)を用いた場合、前記分離選別に用いるマーカーは、好ましくは細胞表面タンパク質等であることができる。
【0114】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られる膵臓ホルモン産生細胞は、例えば、膵α細胞、膵β細胞、膵δ細胞、またはPP細胞から産生されるホルモンを産生しうる細胞であることができる。具体的には例えば、グルカゴン産生細胞、インスリン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞である。
【0115】
2、膵臓ホルモン産生細胞
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られた膵臓ホルモン産生細胞である。すなわち、上述したように、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得ることや、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる浮遊細胞を継代することによって得ることができる。
【0116】
本実施の形態に係る幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。幹細胞がES細胞である場合は、組織幹細胞を用いた場合よりも多くの膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能である。ES細胞は理論的には無限に増殖可能であるため、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の原料として安定な供給源となりうる。さらに、ES細胞は細胞系列が明確であり品質管理がしやすいという利点がある。幹細胞が組織幹細胞である場合は、前記組織幹細胞は例えば、表皮幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞であることができ、好ましくは内胚葉系である肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞、特に好ましくは膵幹細胞であることができる。
【0117】
本実施の形態において、幹細胞が由来とする生物は、ES細胞または組織幹細胞を得ることができる生物であれば特に限定されずさまざまな生物を用いることができるが、好ましくは哺乳動物、特に好ましくは、幹細胞樹立やヒトへの再生医療に関する研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。
【0118】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、浮遊細胞であることができる。
【0119】
細胞をディッシュから回収する場合、浮遊細胞は、細胞培養液等の液体中に浮遊している細胞であるため、細胞培養液を回収することによって細胞自体を回収することができ、培養用容器からはがす操作を必要としない。一方、付着細胞は培養用容器に付着している細胞であるため、回収には培養用容器から細胞をはがす操作を必要とする。前記操作は多くの場合、トリプシン等の酵素溶液を用いたりスクレイパー等で物理的にかきとったりすることによって行う。従って、浮遊細胞は、付着細胞よりも簡便に細胞を回収することができる。さらに、浮遊細胞は、回収の際に培養用容器等に残留する細胞量が付着細胞よりも少なくて済むため、細胞回収率においても付着細胞より優れている。
【0120】
また、細胞を継代する際に細胞どうしをばらす場合、浮遊細胞は付着細胞と比較して、酵素処理や物理的な刺激をよりマイルドな条件で行うことが可能である。従って、浮遊細胞は付着細胞と比較して継代操作によって細胞に及ぶダメージが少ない。
【0121】
以上より、細胞回収、継代操作において、付着細胞と比較した浮遊細胞の特長は、細胞を長期に渡って継代維持する必要がある場合や多量に継代維持・増幅する必要がある場合において、大きな利点となる。また、浮遊系で継代培養可能である膵臓ホルモン産生細胞自体が新規である。
【0122】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、膵臓関連遺伝子を発現していることができる。前記膵臓関連遺伝子としては、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導や、前記膵臓ホルモン産生細胞の継代維持を妨げるものでなければ特に限定されないが、好ましくは、幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に効率よく分化誘導する作用を有する遺伝子や、膵臓ホルモン産生能を高める作用を有する遺伝子であることができる。具体的には例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓関連遺伝子はpdx−1遺伝子である。例えばES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによって、効率よくインスリン産生細胞を分化誘導することができる。
【0123】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。
【0124】
医薬品の開発は一般に、前臨床試験、すなわち実験動物を用いて医薬品候補物質の有効性及び安全性を確認する試験を経て臨床試験に入るプロセスを経る。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持した実験動物に医薬品候補物質を作用させることによって、医薬品候補物質の前臨床試験を行うことができる。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持した実験動物は、例えば、後述の本実施の形態に係るモデル動物を用いることができる。また、前記実験動物に医薬品候補物質を作用させる方法としては、例えば、前記物質を注射する方法や経口投与する方法等、当業者に公知の手法等を用いることができる。
【0125】
前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の効能試験は、in vitro及びex vivoでの毒性試験等を含む。前記効能試験は、前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質を、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させることによって、または、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持した実験動物に作用させることによって行うことができる。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させる具体的方法としては、例えば、前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質を、前記細胞を培養している培地に直接添加する方法等、さまざまな方法を用いることができる。また、前記実験動物に作用させる具体的方法としては例えば、経口投与する方法や皮膚等に塗布する方法等、さまざまな方法を用いることができる。
【0126】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、例えば、膵α細胞、膵β細胞、膵δ細胞、またはPP細胞から産生されるホルモンを産生しうる細胞であることができる。具体的には例えば、グルカゴン産生細胞、インスリン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞である。
【0127】
3、組成物
本実施の形態に係る組成物は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を含む組成物である。前記組成物の態様は特に限定されず、またさまざまな用途に用いることができる。前記態様としては例えば、他の物質と混合した態様、液体に懸濁した態様、他の物質と組み合わせた態様等であることができる。また、前記組成物中の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞が産生する膵臓ホルモンのみが実際に用いられる態様であることも可能である。また、前記用途としては例えば、膵臓疾患や糖尿病等の治療に用いたり、前記疾患の治療用組成物として販売したりすることができる。
【0128】
前記組成物は薬剤であることができる。本実施の形態に係る薬剤の態様や用途は特に限定されるものではないが、例えば糖尿病の治療剤であることができる。糖尿病の治療剤の態様としては、例えば、インスリン投与を必要とする患者に対する細胞医薬品であることができる。前記細胞医薬品は、ヒトだけでなく、例えばイヌ、ネコ等のペットに用いることができる態様とすることができる。
【0129】
前記組成物は医療用組成物であることができる。前記医療用組成物の態様は特に限定されるものではなく、生体内に直接投与しうる態様や生体外で用いうる態様であることができる。生体内に直接投与しうる態様としては例えば、注射や点滴等であることができる。生体外で用いる態様としては例えば、前記医療用組成物中の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞から、さらに膵臓ホルモン産生細胞を医療用に増幅する態様、または膵臓ホルモンを医療用に取得する態様であることができる。また、医療用キットの態様であることも可能である。
【0130】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を移植に用いる場合、前記医療用組成物は、好ましくはカプセル等の免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることができる。具体的には、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を免疫隔離膜に封入し患者の体内に移植する。これにより、前記細胞が産生する膵臓ホルモンを体内に分泌させることができる。
【0131】
免疫隔離膜を用いた態様によれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞として非自己由来の細胞を用いた場合も免疫抑制剤の投与が不要となる。さらに、一度体内に移植した膵臓ホルモン産生細胞を回収することも可能になる。また、移植した膵臓ホルモン産生細胞が有する遺伝子発現制御システムを利用することによって、前記細胞が産生する膵臓ホルモン量を体外から制御することも可能である。
【0132】
免疫隔離膜として使用される半透膜としては、封入された本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を免疫拒絶反応から保護し、かつ前記細胞が産生する膵臓ホルモンを透過させることができれば特に限定されず、さまざまな材料を用いることができる。好ましくは、前記材料は低アレルゲン性であり、容易かつ安定に標的組織に入れられる態様である。具体的には例えば、当業者に公知の、アガロースゲルビーズに封入したマイクロカプセルの態様や、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体膜製のマクロカプセルの態様等を用いることができるが、無論これらに限定されるものではない。また、細胞の封入方法についても当業者に公知の方法等を用いることができる。また、患者の体内に移植する方法については例えば、腹腔内移植や皮下移植、門脈内移植等、当業者に公知の方法等を用いることができる。
【0133】
本実施の形態に係る組成物は、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症の予防・治療に用いることができる。具体的には例えば、本実施の形態に係る組成物が、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞としてインスリン産生細胞を含む場合、例えば、門脈内移植を行い肝臓に生着させることによって行うことができる。なお、本実施の形態に係る組成物を用いた疾患の予防・治療の態様は、無論これに限定されるものではない。
【0134】
本実施の形態に係る組成物は、実験試薬または実験キットであることができる。これによれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を、さまざまな研究に適した態様で用いることができる。前記研究としては、例えば、付着系膵臓ホルモン産生細胞と浮遊系膵臓ホルモン産生細胞の相違、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化機構、膵臓ホルモン産生細胞における膵臓ホルモン産生・分泌機構、またはそのシグナル伝達経路において機能する遺伝子の機能等の解析であることができる。前記膵臓ホルモンは、例えば、グルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)であることができる。
【0135】
4、モデル動物
本実施の形態に係るモデル動物は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持したモデル動物であることができる。
【0136】
前記モデル動物としては例えば、マウス、ラット等であることができるがこれらに限定されるものではない。本実施の形態における好ましいモデル動物は、マウスである。モデル動物としてマウスを用いた場合は、旺盛な繁殖力を有することや遺伝子レベルでヒトと非常に近い関係にあること等のマウスの利点を研究・試験等に利用することができる。
【0137】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞をモデル動物に担持させる部位は特に限定されず所望の部位を選択することができ、モデル動物の体の一部分でも体全体でもよく、一箇所でも複数箇所でもよい。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞である場合、モデル動物に前記細胞を担持させる好ましい部位は、腎皮下膜である。
【0138】
また、前記細胞をモデル動物に担持させる方法は、結果として前記細胞を前記モデル動物に担持させることができれば特に限定されない。前記細胞を体の一部分に担持させる手法としては、例えば、移植等の手法を用いることができる。移植の具体的方法は、前記細胞を移植針にて移植する方法、前記細胞懸濁液を注射針で移植する方法等、当業者に公知の手法を用いることができる。体全体に担持させる手法としては、例えば、ノックアウト動物やトランスジェニック動物等の遺伝子改変動物の作製方法等を用いることができる。
【0139】
また、本実施の形態に係るモデル動物は、疾患モデル動物であることができる。前記疾患モデル動物が有する疾患は特に限定されるものではないが、例えば膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。
【0140】
本実施の形態に係る疾患モデル動物は、自然発症した膵臓ホルモン産生細胞に係る疾患または膵臓ホルモンに係る疾患を有する疾患モデル動物や、人工的に発症させた膵臓ホルモン産生細胞に係る疾患または膵臓ホルモンに係る疾患を有する疾患モデル動物であることができる。前記自然発症による疾患モデル動物としては、例えば糖尿病モデル動物、具体的には糖尿病マウスモデル、糖尿病ラットモデル、糖尿病サルモデル、糖尿病イヌモデル等であることができる。また、前記人工的に発症させた疾患モデル動物としては、例えば膵臓ホルモンタンパク質をコードする遺伝子をノックアウトしたノックアウト動物や、前記膵臓ホルモンの欠乏や働きの低下等によっておこる疾患を発症させる遺伝子を導入したトランスジェニック動物等の、遺伝子改変動物であることができる。具体的には、例えば糖尿病発生遺伝子をマウスに導入した糖尿病発生トランスジェニックマウス等であることができる。
【0141】
本実施の形態に係るモデル動物は、免疫不全モデル動物であることができる。免疫不全動物は、非自己由来の細胞を移植されても拒絶できず安定して保持することができる。前記モデル動物がマウスである場合は、前記マウスはヌードマウスやスキッドマウス等であることができる。前記モデル動物がラットである場合は、前記ラットはT細胞機能欠如ラット等であることができる。
【0142】
本実施の形態に係るモデル動物は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。
【0143】
本実施の形態に係るモデル動物を医薬品候補物質の前臨床試験に用いる場合の具体例を以下に示す。前記疾患モデル動物が糖尿病モデルマウスであって、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞である場合、本実施の形態に係るモデル動物は、本実施の形態に係るインスリン産生細胞を担持した糖尿病モデルマウスであることができる。従って、このマウスに医薬品候補物質を作用させ前記マウスの血糖値の変化や副作用の有無等を検討することによって、前記医薬品候補物質の前臨床試験を行うことができる。この場合、前記医薬品候補物質は例えば、本実施の形態に係るインスリン産生細胞のインスリン産生能に影響を及ぼす作用を有する糖尿病治療薬または糖尿病治療補助薬等であることができる。前記影響は例えば、インスリンの産生期間、産生効率、または産生量等に及ぼす影響であることができる。
【0144】
また、本実施の形態に係るモデル動物を医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の効能試験で用いる場合も、前記医薬品候補物質の前臨床試験に用いる場合の具体例と同様にして、または、試験項目や試験方法等を適宜変更して用いることができる。具体的には例えば、本実施の形態に係る糖尿病モデルマウスに特定の食品を与えた後の血糖値の変化等を検討することによって、前記食品の効能試験を行うことができる。この場合、前記食品は例えば、本実施の形態に係るインスリン産生細胞のインスリン産生に影響を及ぼす糖尿病治療用補助食品であることができる。
【0145】
なお、本実施の形態に係るモデル動物の有する疾患、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞、試験を行う態様等は、無論上記に限定されるものではない。
【0146】
5、膵臓ホルモン産生能予測方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓ホルモン産生細胞について膵臓関連遺伝子の発現を検討する工程を含む。また、前記膵臓ホルモン産生細胞は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。
【0147】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生能予測方法は、個別の細胞における膵臓ホルモン産生能、細胞集団全体として有する膵臓ホルモン産生能、及び細胞集団において膵臓ホルモン産生能を有する細胞の割合等を予測する方法を含む。
【0148】
本実施の形態において、膵臓関連遺伝子の発現を検討する手法については特に限定されず、さまざまな手法を用いることができる。また、前記膵臓関連遺伝子の発現をレポーター遺伝子の発現によってモニターできる場合は、前記レポーター遺伝子の発現に基づいて前記膵臓関連遺伝子の発現を評価することができる。これらの遺伝子の発現をタンパク質の発現量によって検討する場合は、例えば当業者に公知のウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いることができる。また、核酸の発現量によって検討する場合は、前記核酸は例えばRNAであることができ、ノーザンブロッティング法、RT―PCR法等を用いることができる。また、サンプルから前記タンパク質または核酸を抽出せず、例えば免疫染色法、in situハイブリダイゼーション法等を用いた染色法を用いることも可能である。また、レポーター遺伝子産物の有する活性を指標として前記膵臓関連遺伝子の発現を評価することもできる。
【0149】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓関連遺伝子の発現を検討した結果を用いて膵臓ホルモン産生能を予測することが可能である。例えば、膵臓関連遺伝子の発現を膵臓ホルモン産生能を予測する指標の一つとすることができる。前記膵臓関連遺伝子は特に限定されるものではないが、例えば前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。後述の実施例より、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られたインスリン産生細胞において、pdx−1遺伝子の発現レベルが高いほどインスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、前記方法によって得られたインスリン産生細胞におけるpdx−1の発現レベルを検討することによって、前記インスリン産生細胞のインスリン産生能を予測することができる。
【0150】
また、本実施の形態に係る膵臓ホルモンはインスリンだけでなく、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)であることができる。
【0151】
6、疾患の予防・治療方法
本実施の形態に係る疾患の予防・治療方法は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いた疾患の予防・治療方法である。
【0152】
前記疾患は例えば、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。
【0153】
前記疾患の予防・治療方法は例えば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を生物に移植する工程を含むことができる。
【0154】
移植の具体的方法は、前記細胞を門脈内移植で肝臓に生着させる方法等、当業者に公知の手法を用いることができる。
【0155】
また、成人の糖尿病患者の治療には、1×104個/kgの膵島細胞が必要であることが知られている。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を移植に用いる場合に用いる細胞量は、例えば、前記値を目安とし、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン産生能を考慮して決定することができる。
【0156】
しかし、移植によるヒト疾患の予防・治療方法においては、非自己由来の細胞移植によっておこる免疫拒絶反応が最も懸念される。同種他家細胞移植においては、免疫抑制剤を使用したり、遺伝子改変を行ったり、ES細胞の核のみを患者細胞のものと置換することで、免疫拒絶反応を回避することが可能である。異種由来の細胞や臓器をヒトに移植した場合には、移植直後の超急性の拒絶反応が起きると救済はとても困難であり、さらに、長年ヒトに感染しないと信じられてきたその生物特有の微生物やウィルスが、ヒトに感染する危険因子であることが判明する場合もある。
【0157】
そこで、前記膵臓ホルモン産生細胞が由来とする幹細胞は、前記膵臓ホルモン産生細胞の移植を受ける生物の自己由来であることができる。これによれば、移植によっておこる免疫拒絶反応を回避することができる。なお、自己由来の幹細胞を用いた場合でも、幹細胞に刺激等を加えたことによって細胞の抗原性、特性等が変化し免疫拒絶反応が起こる可能性もあり、この場合は免疫抑制剤等を用いて免疫拒絶反応を回避することができる。
【0158】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。幹細胞がES細胞である場合は、組織幹細胞を用いた場合よりも多くの膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能である。ES細胞は理論的には無限に増殖可能であるため、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の原料として安定な供給源となりうる。さらに、ES細胞は細胞系列が明確であり品質管理がしやすいという利点がある。幹細胞が組織幹細胞である場合は、前記組織幹細胞は例えば、表皮幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞であることができ、好ましくは内胚葉系である肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞、特に好ましくは膵幹細胞であることができる。
【0159】
本実施の形態において、幹細胞が由来とする生物は、ES細胞または組織幹細胞を得ることができる生物であれば特に限定されずさまざまな生物を用いることができるが、好ましくは哺乳動物、特に好ましくは、幹細胞樹立やヒトへの再生医療に関する研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。
【0160】
また、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることもできる。これによれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞が非自己の細胞由来である場合に免疫拒絶反応を抑制することができ、さらに一度体内に移植した膵臓ホルモン産生細胞を回収することが可能である。
【0161】
7、被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法
本実施の形態に係る被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の被験物質を作用させる工程と、前記被験物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記被験物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程とを含む。
【0162】
前記被験物質としては特に限定されず、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響を検討したい物質であればどのようなものでも用いることができるが、例えば、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。また、これらの混合物や、生物体、生物組織、または生物細胞からの抽出物、あるいは前記生物体、生物組織、または生物自体であることもできる。また、前記被験物質は天然物でも合成物でもよい。
【0163】
また、1または2以上の被験物質を作用させる工程に用いられる手法は、特に限定されるものではなく種々の手法を用いることができる。例えば、被験物質の存在下で、幹細胞から本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導される過程にある細胞や本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を、培養する手法を用いることができる。また、被験物質とこれらの細胞を、適切なバッファー中で一定時間混合する手法や、被験物質を本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に導入する手法も用いることができる。
【0164】
被験物質を作用させた場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞と、作用させない場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を比較検討する工程は、さまざまな観点から行うことができ、例えば、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子は特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。
【0165】
また、前記比較検討に用いる具体的手法についても特に限定されず、上記それぞれの指標に基づいて検討するのに適した手法を用いることができる。例えば、細胞が産生する膵臓ホルモン量について検討する場合は、それぞれの細胞中に存在する、または培地中に放出される膵臓ホルモン量を、例えば当業者に公知のウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等によって定量することによって検討することができる。また、例えば、特定の核酸の局在変化を検討する場合は、前記核酸は例えばRNAであることができ、例えば当業者に公知の免疫染色法、in situハイブリダイゼーション法等の染色法を用いて検討することが可能である。また、この比較検討する工程は、それぞれの細胞をモデル動物に担持させて行うことも可能である。なお、本実施の形態に係る比較検討する工程は、無論上記態様に限定されるものではない。
【0166】
前記被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響は特に限定されるものではないが、例えば、膵臓ホルモン産生細胞に対する毒性、膵臓ホルモン産生能の促進、または膵臓関連遺伝子発現の変化であることができる。
【0167】
8、膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の特定の影響を及ぼす物質の候補物質を作用させる工程と、前記候補物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記候補物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程とを含む。
【0168】
前記特定の影響とは、幹細胞から本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を取得する過程で生じる細胞や本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響であれば特に限定されないが、前記特定の影響を及ぼす物質とは例えば、膵臓ホルモン産生促進因子、膵臓ホルモン産生阻害因子、膵臓ホルモン分泌促進因子、膵臓ホルモン分泌阻害因子、膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、膵臓ホルモン産生細胞分化阻害因子、膵臓細胞分化関連因子、膵臓ホルモン産生細胞分化関連因子、膵臓疾患関連因子、糖尿病関連因子、ブドウ糖反応性関連因子、β細胞アポトーシス阻害剤、糖尿病治療に有効な薬剤、または自己免疫疾患抑制剤であることができる。
【0169】
前記候補物質としては特に限定されずどのようなものでも用いることができるが、例えば、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。また、これらの混合物や、生物体、生物組織、または生物細胞からの抽出物、あるいは前記生物体、生物組織、または生物自体であることもできる。また、前記候補物質は天然物でも合成物でもよい。
【0170】
前記候補物質は、ライブラリーの態様であることができる。これによれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質を網羅的にスクリーニングすることができる。前記ライブラリーとしては特に限定されるものではないが、例えば、cDNAライブラリー、ペプチドライブラリー、合成化合物ライブラリー等であることができる。
【0171】
また、前記候補物質を選択したり入手したりする手段は特に限定されず、あらかじめ用意された物質を用いることや、新たに作製した物質を用いることができる。前記物質が例えば化合物である場合、あらかじめ用意された化合物を用いる場合は、例えば、ウェブ上で公開されているさまざまな化合物情報データベースを利用することができる。前記データベースとしては、例えば、NCI(米国国立がん研究所)等で公開されている化合物データベースを用いることができる。また、新たに作製した化合物を用いる場合は、例えば、特定の医薬品開発目的で合成した独自の化合物を用いることができる。特定の医薬品とは特に限定されるものではないが、例えば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン産生促進薬、膵臓ホルモン分泌促進薬、膵臓ホルモン産生細胞分化促進薬等であることができる。また、前記物質群を合成するには、例えば、コンビナトリアル・ケミストリー等の技術を用いることができる。
【0172】
また、前記候補物質は、前記候補物質が有する活性等を予測することによって、あらかじめ選別されることも可能である。予測する手段としては、さまざまなデータベースに加えて種々のソフトウェアを用いることもできる。前記ソフトウェアとしては、例えば、その物質の薬理活性や薬物動態、毒性等を事前に検証することができるソフトウェアや、化合物の体内での挙動をあらかじめ検証することができるソフトウェア等を挙げることができる。このような手段を利用することによって、コンピュータ上で大量の候補物質を高速で検証することが可能になり、本スクリーニング自体や例えばその後の製薬ステップにかかる、時間や労力、コスト等を削減することが期待できる。
【0173】
また、1または2以上の候補物質を作用させる工程に用いられる手法は、特に限定されるものではなく種々の手法を用いることができる。例えば、幹細胞から本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導される過程で生じる細胞や本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を、候補物質の存在下で培養する手法を用いることができる。また、候補物質とこれらの細胞を、適切なバッファー中で一定時間混合する手法や、候補物質を本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に導入する手法も用いることができる。
【0174】
候補物質を作用させた場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞と、作用させない場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を比較検討する工程は、さまざまな観点から行うことができ、例えば、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子は特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。
【0175】
また、前記比較検討に用いる具体的手法についても特に限定されず、上記それぞれの指標に基づいて検討するのに適した手法を用いることができる。例えば、膵臓ホルモン産生促進因子や膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子等をスクリーニングする場合は、例えば、細胞が産生する膵臓ホルモン量を比較検討する指標の一つとし、候補物質を作用させた場合と作用させない場合における、細胞中に存在する、または培地中に放出される膵臓ホルモン量を比較検討することができる。ここで比較検討に用いる手法としては、例えば当業者に公知のウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いることができる。この比較検討の結果、候補物質を作用させた場合の方が膵臓ホルモン量が上昇していた場合は、前記候補物質は、膵臓ホルモン産生促進因子や膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子等である可能性がある。前記候補物質がライブラリーであることによって、候補物質を網羅的に比較検討してスクリーニングすることができる。また、この比較検討する工程は、それぞれの細胞をモデル動物に担持させて行うことも可能である。なお、本実施の形態に係る比較検討する工程は、無論上記態様に限定されるものではない。
【0176】
9、膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法は、膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞における、1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程と、両細胞間における前記遺伝子それぞれの発現量を比較する工程と、両細胞間で発現量の異なる遺伝子を特定する工程とを含む。
【0177】
これによれば、膵臓ホルモン産生細胞の付着性質及び/または浮遊性質の決定に関与している遺伝子を探索することができる。
【0178】
1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程、比較する工程、特定する工程に用いられる手法は特に限定されるものではなく、種々の手法を用いることができるが、例えば当業者に公知のマイクロアレイやサブトラクション法等を用いることができる。
【0179】
前記膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。
【0180】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞のように浮遊系で継代維持可能な膵臓ホルモン産生細胞は新規である。また、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって付着細胞及び浮遊細胞が得られる場合、前記付着細胞及び浮遊細胞は、同じ培養条件のもとで得られてきた細胞である。浮遊細胞は付着細胞と比較して、細胞の継代操作や回収操作、前記操作の際に細胞に及ぶダメージの低さ、及び細胞回収率等において多くの利点を有している。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法によれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られる付着細胞及び浮遊細胞において、付着性質及び/または浮遊性質の決定に関与している遺伝子を探索することができる。また、これらの遺伝子は付着性質及び/または浮遊性質の決定だけでなく、膵臓ホルモン産生能に関わるシグナル伝達にも関与している可能性もある。
【0181】
10、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法の好ましい一態様
以下に、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法の好ましい一態様を示す。
【0182】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法において、好ましい膵臓ホルモンはインスリンである。また、好ましい幹細胞はES細胞である。
【0183】
従って、本実施の形態に係るインスリン産生細胞取得方法の好ましい態様は、ES細胞を、インスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む態様や、ES細胞を、付着細胞とインスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、前記浮遊細胞を単離する工程とを含む態様である。
【0184】
前記方法は、さらにpdx−1を発現させる工程を含むことが好ましい。これによって効率よくインスリン産生細胞を得たり、インスリンを効率よく産生させたりすることが可能になる。具体的には、GFP遺伝子等のレポーター遺伝子によってpdx−1遺伝子の発現レベルをモニターできる態様で、ES細胞のゲノムに組み込まれていることが好ましい。また、これらの遺伝子の発現は、テトラサイクリンやドキシサイクリン等を添加することによって制御可能であることが好ましい。
【0185】
前記方法はさらに、本実施の形態によって得られる浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。後述の実施例より、pdx−1を発現させる工程を含む本実施の形態に係るインスリン産生細胞取得方法によって得られたインスリン産生細胞は、長期培養しても増殖維持することが可能であり、pdx−1の発現を維持している細胞はインスリン産生能を維持できることが明らかになった。従って、本実施の形態に係るインスリン産生細胞は継代を繰り返して増幅することが可能であり、移植等に用いるために必要な量のインスリン産生細胞を取得することが可能である。
【0186】
前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりもインスリンを産生する細胞の割合が多いことができる。
【0187】
11、本発明のその他の有用性
また、膵臓と肝臓は共に内胚葉由来の組織であり、膵臓細胞と肝臓細胞との間の相互変換が可能であることが知られている。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法を応用することによって、肝細胞を分化させることが可能であると考えられる。前記肝細胞は、幹細胞由来で、浮遊系で培養可能であることができる。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法等は、膵臓ホルモン産生細胞に係る疾患や膵臓ホルモンに係る疾患を有する患者に有効であるだけでなく、肝疾患の患者にも有効に応用することができ、肝疾患の予防・治療に用いうる。また、胃、腸等、他の内胚葉由来の細胞においても同様に、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法を応用することによって分化誘導しうると考えられる。
【実施例1】
【0188】
以下、本発明を実験例に基づき、図面を参照しながらより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は本実施例に限定されるものではない。
【0189】
(実験例1)インスリン産生細胞の分化誘導
ES細胞から分化誘導したインスリン産生細胞を得るために、発明者らが以前に樹立したpdx−1及びEGFP遺伝子をノックインしたマウスES細胞(ミヤザキ(Miyazaki S.)ら、「ダイアビーテス(Diabetes)」、2004年、第53巻、p.1030−7、図1)を用いて、分化誘導実験を行った。なお、前記pdx−1及びEGFP遺伝子をノックインしたES細胞は、図1の模式図に示すように、pdx−1遺伝子及びEGFP遺伝子の発現をテトラサイクリンによって同時に制御されることができる。また、ノックインベクターはROSA26遺伝子座にノックインされている(以下、このES細胞を「ROSA−PDX−1 ES細胞」と記す。)。なお、図1において、"neo"は「ネオマイシン耐性遺伝子」、"tTA"は「サイクリン制御性転写活性化因子」、"DTA"は「ジフテリアトキシンAフラグメント」をそれぞれ示す。
【0190】
(1)ROSA−PDX−1 ES細胞からインスリン細胞への分化誘導は、図2に示す実験ステップに従って行った。まず、ROSA−PDX−1 ES細胞を、1μg/ml ドキシサイクリン(Dox)(シグマ社製)存在下でpdx−1及びEGFP遺伝子を発現させずに培養した(ステージ0)。培地は、10% FCS(セルカルチャーテクノロジー社製)を加えたDulbecco's modified Eagle's medium(DMEM)(ギブコ社製)を用いた。
【0191】
(2)2〜3日後、Doxを除去した培地を用いて大腸菌培養用ディッシュに細胞を継代し、4〜5日後に胚様体(EB)を形成させた(ステージ1)。
【0192】
(3)さらに1〜2日後、ゼラチンコートしたディッシュに継代してESをディッシュに張り付かせた(ステージ2)。
【0193】
(4)翌日、培地を無血清ITSFn培地(5μg/ml インスリン(シグマ社製)、50μg/ml トランスフェリン(シグマ社製)、30nM 塩化セレン(シグマ社製)、5μg/ml フィブロネクチン(バイオメディカルテクノロジー社製)を添加したDMEM/F12(1:1)培地))に交換して3〜6日間培養し、ネスチン陽性細胞をセレクションした(ステージ3)。
【0194】
(5)生き残った細胞をゼラチンコートしたディッシュに継代し、さらに6〜8日間培養した。培地は、25μg/mlインスリン、100μg/mlトランスフェリン、20nml/lプロゲステロン、60μmol/lプトレスシン、30nmol/l亜セレン酸ナトリウム、10ng/mlヒトケラチノサイト増殖因子(KGF)(ペプロテック社製)、20ng/ml上皮細胞増殖因子(EGF)(シグマアルドリッチ社製)、25ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(ストラスマンバイオテック社製)、B27サプリメント(インビトロジェン社製)、10ng/mlニコチンアミドを添加したDMEM/F12(1:1)培地(以下、この培地を「MHM培地+bFGF+EGF+KGF」と記す。)を用いた(ステージ4)。
【0195】
(6)細胞をゼラチンコートしたディッシュに継代した。培地は、(5)で用いた培地からbFGF、EGF、KGFを除いたMHM培地を用いた(以下、この培地を単に「MHM培地」と示す。)(ステージ5)。
【0196】
(7)この結果、ROSA−PDX−1 ES細胞から効率よくインスリン産生細胞が分化誘導され、付着細胞だけでなく、sphere状に浮遊するインスリン産生細胞も得られた(以下、このsphere状細胞を「ROSA−PDX−1 ES sphere」と記す。)。
【0197】
(8)(7)のディッシュから培養用ピペットを用いて培地を回収することによって、付着細胞と分離してROSA−PDX−1 ES sphereのみを回収した。このROSA−PDX−1 ES sphereを、酵素処理及びピペッティングにより1〜数個の細胞からなる細胞塊になるようにばらし、MHM培地で希釈して継代維持した。なお、実験例2以降の実験は、このROSA−PDX−1 ES sphereを用いて行った。
【0198】
(実験例2)GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereの単離
実験例1で分化誘導して得られたROSA−PDX−1 ES sphereは、MHM培地を用いて継代を繰り返すと、sphere状のまま増殖維持することができる。しかし、そのインスリン産生能は次第に低下し、また、GFPを発現する細胞も減少する傾向が見られる(図3)。
そこで、実験例1でROSA−PDX−1 ES sphereからGFPを強発現している細胞株、すなわちPDX−1を強発現している細胞株を濃縮することを目的として、EGFPをマーカーとしてソーティングを行った。
【0199】
(1)継代12回目のROSA−PDX−1 ES sphereから、EGFPをマーカーとして蛍光標識された細胞をソーティングした。ソーティングには、FACS Aria(BD FACSAria Cell Sorter;Becton Dickinson社製)を用いた。
【0200】
(2)図4に、GFP陽性細胞のFACSのプロフィールを示す。図4において、"Specimen"は「試料」、"Sample"は「サンプル」、"SSC−A"は「側方錯乱光」、"FSC−A"は「前方錯乱光」、"Count"は「細胞数」、"PE−Texas Red−A"は「PI(Propidium Iodide)」、"PE−A"は「PE(フィコエリスリン)」、"FITC−A"は「FITC」、"Tube"は「チューブ」、"Population"は「集団」、"All Events"は「総計数」、"Parent"は「母集団」、"Total"は「合計」をそれぞれ示す。図4のP4より、用いたROSA−PDX−1 ES sphere全体から、GFPを弱く発現している細胞は1.7%、P3より、GFPを強発現している細胞は0.7%の割合で採取できたことがわかった。以下、GFPの発現強度を指標として、前者のGFPを弱く発現している細胞を「GFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere」、後者のGFPを強発現している細胞を「GFP++ ROSA−PDX−1 ES sphere」と記す。また、これらの細胞をまとめて「GFP発現ROSA−PDX−1 ES sphere」と記す。
【0201】
(3)(2)で得られた細胞を、1.4×103/cell of 96 wellの濃度でプレーティングし(継代13回目)、同じくMHM培地で培養した。
【0202】
(4)(3)でプレーティングしたROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現を図5に示す。図5において、左の2図は、GFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere、右の2図は、GFP++ ROSA−PDX−1 ES sphereを示す。また、上の2図はプレーティング直後(継代13回目)、下の2図はプレーティングして2日後(継代13回目+2日)のGFPの発現像を示す。この結果から、EGFPをマーカーとしてソーティングすることにより、GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereを濃縮できることがわかった。また、ソーティングによって得られた細胞は、再培養しても増殖することが明らかになった。
【0203】
(実験例3)GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereの遺伝子発現
実験例2において単離したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現を検討するために、RT―PCR解析を行った。
【0204】
(1)実験例1で得られたROSA−PDX−1 ES sphereの継代9回目の細胞、同じく継代10日目の細胞、実験例2で得られた継代13日目のGFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere、同じくGFP++ ROSA−PDX−1 ES sphere、及びMIN6からtotal RNAを抽出した。なお、MIN6はマウスインスリノーマ由来の培養細胞であり、PDX−1、Insulin I、及びInsulin IIを発現しているポジティブコントロール細胞として用いた。また、total RNAの抽出はRNA STAT−60(テルテスト社製)を用い、付属のプロトコールに従って行った。
【0205】
(2)(1)で得られたtotal RNAを鋳型として、Insulin I、Insulin II、PDX−1、及びGAPDHについてRT−PCR解析を行い、発現量を比較した。RT−PCRに用いたプライマーは、Insulin Iについては配列表の配列番号1と配列番号2、Insulin IIについては配列表の配列番号3と配列番号4、PDX−1については配列表の配列番号5と配列番号6、GAPDHについては配列表の配列番号7と配列番号8に示す配列を用いた。なお、PDX−1について、このRT−PCR用いたプライマーは、内在性及び外因性のPDX−1どちらもの発現について検出することができるプライマーである。また、GAPDHはコントロールとして用いた。RT−PCRの条件は、Insulin I、Insulin IIについては94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を35サイクル、PDX−1については94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を40サイクル、GAPDHについては94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を25サイクルで行った。
【0206】
(3)RT−PCR解析の図6に示す。図6より、実験例2で得られたGFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere及びGFP++ ROSA−PDX−1 ES sphereにおいて、Insulin IIの発現が上昇していることがわかった。また、Insulin Iの発現は観察されなかった。
【0207】
(4)次に、GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおいて、内在性のPDX−1の発現が誘導されているかどうかについて検討するため、内在性のPDX−1のみを検出できるプライマーを用いてRT−PCR解析を行った。内在性PDX−1の検出は配列表の配列番号9と配列番号10に示す配列を有するプライマーを用いて行い、RT−PCRの条件は94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を35サイクルで行った。また、コントロールのGAPDHについては、(3)で用いた配列と同じの塩基配列を持つプライマーを用い、同じRT−PCR条件で行った。
【0208】
(5)(4)の結果を図7に示す。図7より、GFP++ ROSA−PDX−1 ES sphereにおいて、内在性PDX−1の発現が誘導される可能性が示唆された。
【0209】
(実験例4)長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現
ROSA−PDX−1 ES sphereについて長期培養を行い、GFPの発現変化を検討した。
【0210】
(1)検討群として用意した長期培養ROSA−PDX−1 ES sphereを、図8に模式的に示す。図8における色のついた丸は、GFPを発現している細胞を表している。検討群として、実験例1で得られたROSA−PDX−1 ES sphereの継代29回目の細胞を、これまで除去していたDoxを培地に加えて継代した細胞群A、Doxを除いた培地に継代した細胞群B、EGFPをマーカーとしてソーティングして得たGFPを発現する細胞群D、及びGFPを発現していない細胞群Cの4群を用意した。培地はMHM培地を用いた。EGFPをマーカーとしたソーティングは、実験例2と同様にして行った。なお、細胞群Aでは培地にDoxを添加しているためGFPを発現している細胞が存在しないと考えられるが、細胞群BではDoxを添加していないためGFPを発現している細胞が含まれている。
【0211】
(2)FACS Calibur(Becton Dickinson社)を用いて、蛍光強度を解析した結果のドットプロットパターンを図9に示す。図9より、細胞群A、B、C、Dにはそれぞれ、GFPを発現する細胞が、細胞全体の0.1%、18.3%、0.6%、98.2%の割合で含まれていることがわかった。
【0212】
(3)次に、それぞれの細胞群をプレーティングし、細胞の増殖を検討した。図10に、プレーティング後5日目におけるGFPの発現像を示す。図10より、それぞれのROSA−PDX−1 ES sphereは、再培養しても増殖することがわかった。また、GFPの発現が認められない細胞群Cからは、再培養中にGFPを発現する細胞が再び出現する現象がみられることがわかった。
【0213】
(実験例5)長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現
長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現を検討するために、RT―PCR解析を行った。
【0214】
(1)実験例4で得られた細胞群A、B、C、D(それぞれ継代30回目に相当)、及びMIN6から、実験例3(1)と同様の方法を用いてtotal RNAを抽出した。
【0215】
(2)(1)で得られたtotal RNAを鋳型としてRT−PCR解析を行い、内胚葉分化マーカー遺伝子及びNotchシグナリングに関与する遺伝子の発現量を比較した。RT−PCRに用いたプライマー及びRT−PCRの条件は、外因性PDX−1については配列表の配列番号11と配列番号12で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を26サイクル、内在性PDX−1については配列表の配列番号9と配列番号10で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を35サイクルで行った。また、内胚葉分化マーカー遺伝子のRT−PCRに用いたプライマー及びRT−PCRの条件は、Insulin Iについては配列表の配列番号1と配列番号2で94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を35サイクル、Insulin IIについては配列表の配列番号3と配列番号4で94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を35サイクル、glucagonについては配列表の配列番号13と配列番号14で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を40サイクル、somatostatinについては配列表の配列番号15と配列番号16で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、P48については配列表の配列番号17と配列番号18で94℃30秒、60℃30秒、72℃60秒を35サイクル、PPについては配列表の配列番号19と配列番号20で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、amylaseについては配列表の配列番号21と配列番号22で94℃30秒、60℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Carboxy−peptidase Aについては配列表の配列番号23と配列番号24で94℃30秒、56℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Pax4については配列表の配列番号25と配列番号26で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を40サイクル、Isl 1については配列表の配列番号27と配列番号28で94℃30秒、55℃30秒、72℃60秒を40サイクル、Beta 2については配列表の配列番号29と配列番号30で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Nkx 6.1については配列表の配列番号31と配列番号32で94℃30秒、58℃30秒、72℃60秒を40サイクル、Glut 2については配列表の配列番号33と配列番号34で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Glucokinaseについては配列表の配列番号35と配列番号36で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Kir 6.2については配列表の配列番号37と配列番号38で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Oct−3/4については配列表の配列番号39と配列番号40で94℃30秒、55℃30秒、72℃60秒を30サイクルで行った。Notchシグナリングに関与する遺伝子のRT−PCRに用いたプライマーは、Notch 1については配列表の配列番号41と配列番号42、Notch 2については配列表の配列番号43と配列番号44、Notch 3については配列表の配列番号45と配列番号46、Notch 4については配列表の配列番号47と配列番号48、Dllについては配列表の配列番号49と配列番号50、Jagged 1については配列表の配列番号51と配列番号52、Jagged 2については配列表の配列番号53と配列番号54に示す配列を用いた。なお、これらのNotchシグナリングに関与する遺伝子のRT−PCRの条件はすべて、94℃30秒、55℃30秒、72℃60秒を35サイクルで行った。また、コントロールのGAPDHについては配列表の配列番号7と配列番号8で94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を25サイクルで行った。
【0216】
(3)RT−PCRの結果を図11に示す。図11の結果より、内胚葉分化マーカー遺伝子については、PDX−1の発現レベルが高ければ、Insulin IIの発現量が高いことが示唆された。また、PDX−1の発現の低下に伴い、somatostatinの発現が増強することが認められた。さらに、PDX−1の発現レベルが高いと、Pax4、Isl1、Kir6.2等の発現が抑制されることがわかった。
【0217】
また、Notchシグナリングに関与する遺伝子については、PDX−1の発現の低下に伴い、Notch2の発現が増強することが認められた。この事実から、PDX−1は、Notch2の発現に関与している可能性が示唆された。
【0218】
また、Insulin IIの発現は確認できたが、内在性PDX−1の発現は誘導されていないことが確認された。これは、継代を繰り返した影響であることが原因の一つとして考えられた。
【0219】
(実験例6)長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおけるインスリンの発現
長期培養(継代30回目)したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphere、及びGFP非発現ROSA−PDX−1 ES sphereを用いて、C−ペプタイド及びPDX−1の発現を検討した。なお、C−ペプタイドはインスリンを生成する過程で生じる副産物であり、C−ペプタイドの発現検討によってインスリンの発現検討に代えることができる。
【0220】
(1)実験例4において、EGFPをマーカーとして用いたソーティングにより単離したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphere(細胞群D)、及びGFP非発現ROSA−PDX−1 ES sphere(細胞群C)から、当業者に公知の方法を用いてサイトスピン標本を作製し、免疫染色を行った。抗C−ペプタイド抗体は、C−peptide I(rat)(矢内原研究所製)及びC−peptide II(rat)(矢内原研究所製)の2種類を用い、抗PDX−1抗体は、抗PDXポリクローナル抗体(ウサギ)(トランスジェニック社製)を用いた。
【0221】
(2)(1)の免疫染色結果を図12に示す。図12において、左2列は細胞群Dの染色像を示し、右2列は細胞群Cの染色像を示す。また、それぞれの細胞群の左列の像において、上2段は、前記2種類の抗C−ペプタイド抗体による染色像を示し、下1段は、前記抗PDX−1抗体による染色像を示す。また、それぞれの細胞群の右列は、DAPI染色像であり核を示している。図12より、細胞群D及び細胞群Cともに、抗C−ペプタイド抗体で染まる細胞が観察された。
【0222】
(実験例7)ROSA−PDX−1 ES sphereの接着能及びインスリンの発現
浮遊状態で培養したROSA−PDX−1 ES sphereについて、接着能及びインスリンの発現を検討した。
【0223】
(1)実験例4で用意した、Doxを除いた培地に継代した継代30回目の細胞群B、及びDoxを培地に加えて継代した継代30回目の細胞群Aを、それぞれゼラチンコートしたディッシュに継代し3日間培養した。図13に操作の模式図を示す。
【0224】
(2)図14に(1)の細胞を免疫染色結果を示す。図14において、上2段は、細胞群Bの染色像を示し、下2段は、細胞群Aの染色像を示す。また、それぞれの細胞群において、左列からC−ペプタイドの発現、GFPの発現、DAPI染色像、明視野像を示し、C−ペプタイドの発現は、実験例8と同様に2種類の抗体を用いて検出した。図14の結果より、浮遊状態で培養したROSA−PDX−1 ES sphereはゼラチンコートしたディッシュに接着し、付着細胞が観察された。しかし、この付着細胞は継代することができなかった。また、免疫染色の結果、細胞群B及び細胞群Aともに、抗C−ペプタイド抗体で染まる細胞が観察された。
【0225】
(実験例8)ゼラチンコートディッシュに接着したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現
ゼラチンコートディッシュに接着したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現を検討するために、RT―PCR解析を行った。
【0226】
(1)実験例7で得られた細胞群A、B、及びMIN6から、実験例3(1)、(2)と同様の方法を用いてtotal RNAを抽出した。
【0227】
(2)(1)で得られたtotal RNAを鋳型としてRT−PCR解析を行い、内胚葉分化マーカー遺伝子及びNotchシグナリングに関与する遺伝子の発現量を比較した。また、GAPDHはコントロールとして用いた。RT−PCRに用いるプライマー及びRT−PCRの条件は、実験例5の(2)と同様にして行った。
【0228】
(3)RT−PCRの結果を図15に示す。図15より、実験例5の浮遊状態の細胞の場合と同様に、PDX−1の発現が高ければInsulin IIの発現が高いことが明らかになった。また、Notch2の発現についても実験例5の結果と同様に、PDX−1の発現に呼応していることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】pdx−1及びEGFP遺伝子のノックインしたES細胞(ROSA−PDX−1 ES細胞)作製の模式図である。
【図2】インスリン産生細胞の分化誘導の実験ステップを示す図である。
【図3】ROSA−PDX−1 ES sphereの継代12回目の像を示す図である。左図はGFPの発現像を示し、右図は明視野像を示す。
【図4】FACSによるGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereの単離を示す図である。
【図5】単離したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現像を示す図である。
【図6】GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現の検討を示す図である。
【図7】GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおける内在性のPDX−1の発現検討を示す図である。
【図8】長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereの4つの検討群を模式的に示した図である。
【図9】FACSを用いて解析したGFPを発現する細胞割合を示す図である。
【図10】プレーティング後5日目のROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現像を示す。左図は明視野像を示し、右図はGFPの発現像を示す。
【図11】長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現の検討を示す図である。
【図12】ROSA−PDX−1 ES sphereにおけるC−ペプタイド及びPDX−1の発現を示す図である。
【図13】ゼラチンコートディッシュに継代したROSA−PDX−1 ES sphereの模式図を示す。
【図14】ゼラチンコートディッシュに付着したROSA−PDX−1 ES sphereにおけるC−ペプタイドの発現を示す図である。
【図15】ゼラチンコートディッシュに付着したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現の検討を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、膵臓ホルモン産生細胞取得方法、及び前記方法によって得られる膵臓ホルモン産生細胞等に関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓は内分泌細胞と外分泌細胞を有し、内分泌と外分泌の両方で重要な役割を担っている器官である。内分泌細胞は膵臓ホルモンを分泌する役割を果たし、膵α細胞から分泌されるグルカゴン、膵β細胞からインスリン、膵δ細胞からソマトスタチン、PP細胞から膵ポリペプチド(PP)が分泌されることが知られている。特にインスリンは血糖値低下作用を有し、血糖を正しい濃度に保つ重要な役割を果たす。
【0003】
糖尿病は、インスリンが不足したりその働きが失われたりすることによって発症する疾患であり、一度発症すると根治するのが難しい疾患である。糖尿病患者は近年著しい増加を示しており、例えば日本における糖尿病患者数は、現在約600万人に達し、40歳以上の10人に1人は糖尿病だといわれている。
【0004】
糖尿病は、I型糖尿病(インスリン依存性糖尿病)とII型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病)の大きく2つのタイプに分類することができる。
【0005】
II型糖尿病は、インスリンに対し抵抗性をもつために発症する慢性疾患であり、食べ過ぎや運動不足によっておこる肥満やストレス等、生活習慣と関わりで問題となっている糖尿病である。II型糖尿病は中高年で発病することが多く、その患者数は全糖尿病患者数の約90%を占めている。
【0006】
一方、I型糖尿病は、自己免疫疾患やウィルス感染等によってインスリン産生細胞が破壊され、インスリンが体内に分泌されないことによっておこる慢性疾患である。I型糖尿病は、年齢等に関係なく誰にでも発症することが知られており、患者は注射等により、自身で毎日インスリンを補わなければならない。インスリン注射によって血糖値のコントロールを厳密に行うには、その都度の状況を判断し必要量を推測する作業が必要となるが、コントロールが不十分な状態で20〜30年経過すれば、合併症により失明したり、腎不全のため透析が必要になる可能性がある。
【0007】
従って、体内で常に変化する血糖値を自動的にコントロールでき、かつ、患者の負担を軽くできる治療法として、I型糖尿病患者に対し、膵臓移植または膵島移植が行われている。これらの治療法によって正常な血糖値を達成することは可能であるが、移植は100%成功するものではなく、また移植可能な膵臓または膵島も不足しているのが現状である。また、移植片に対する免疫拒絶反応を制御するために、患者は免疫抑制剤を一生投与され続ける必要があるが、感染症の危険性や免疫抑制剤による副作用等の問題が残る。
【0008】
I型糖尿病について近年研究が進められている新しい治療法の一つに、インスリン産生細胞自体を再生し移植する方法が挙げられる。この治療法によって体内でインスリンを作り出すことができれば、根本的な糖尿病の治療につながると期待される。またこの方法によって短期間で多くのインスリン産生細胞を得ることが可能になったり、本人由来の細胞を用いることによって拒絶反応の問題が解消されたりする等、安全性や安定性の面で多くの利点があると考えられる。
【0009】
インスリン産生細胞を得る方法としては、ES細胞から分化させる方法、患者の膵の組織幹細胞から分化させる方法、患者の膵管上皮由来細胞を体外に取り出して分化させる方法等が知られている。例えば、ES細胞にpdx−1を導入して培養することによって、効率よくインスリン産生細胞が分化誘導されることが知られている。pdx−1は膵臓の発生に関わる重要な転写因子であり、インスリン産生細胞の発生、機能維持の役割も担っていることが知られている。
【0010】
しかし、これらの方法によって得られるインスリン産生細胞は、正常な膵β細胞と比較してインスリン産生効率がかなり低く、機能的なインスリン産生細胞を効率的に得られる方法の開発が求められている。同様に、得られる細胞数を糖尿病治療等のための実用化レベルまで増加させることが求められている。さらに、従来から研究されているインスリン産生細胞の再生方法は、培養シャーレに付着させる段階を経て分化誘導を行っているため、インスリン産生能を有する付着細胞のみが注目されている。しかし、付着細胞は浮遊細胞と比較して継代培養操作に手間がかかり、また細胞回収率も浮遊細胞に劣る。
【非特許文献1】ミヤザキ(Miyazaki S.)ら、「ダイアビーテス(Diabetes)」、2004年、第53巻、p.1030−7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、幹細胞由来の膵臓ホルモン産生細胞を効率よく取得する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0012】
1、膵臓ホルモン産生細胞取得方法
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む。これによれば、幹細胞由来で浮遊細胞を含む膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。
【0013】
本発明において「膵臓ホルモン産生細胞」とは、膵臓ホルモンを産生する能力を有する細胞を指す。前記膵臓ホルモン産生細胞は常に膵臓ホルモンを産生している必要はなく、膵臓ホルモンの産生能力を有していれば足りる。また、前記膵臓ホルモン産生細胞が有する膵臓ホルモン産生能力も特に限定されないものとする。
【0014】
また、本発明において「浮遊細胞」とは、細胞培養液等の液体中に浮遊している生細胞を指す。なお、本明細書において単に「浮遊細胞」と記載した場合は、1個の浮遊細胞、2個以上の浮遊細胞からなるsphere(細胞塊)、及びこれらが混在した浮遊細胞の集団を含むものとする。
【0015】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、
幹細胞を、付着細胞と膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む。これによれば、幹細胞由来で膵臓ホルモン産生能を有する細胞集団の中から、特に浮遊細胞を取得することができる。従って、浮遊系で培養可能である膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。
【0016】
本発明において、前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりも膵臓ホルモンを産生する細胞の割合が多いことができる。これによれば、膵臓ホルモンを効率的に産生する浮遊細胞を得ることができる。従って、例えば疾患の治療に関して、付着細胞よりも実用化に近いレベルで膵臓ホルモンを産生できる機能的な浮遊細胞を得ることができる。
【0017】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。本発明によって得られる浮遊細胞は、浮遊系で継代培養することによって長期に渡って増殖させることが可能である。また、浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率においても優れている。従って本発明によれば、膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞を、浮遊細胞の継代操作、細胞回収率等における利点を利用して、容易かつ多量に増殖させることが可能である。
【0018】
本発明において、前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これによれば、ES細胞または組織幹細胞由来の膵臓ホルモン産生細胞を取得することができる。これらの幹細胞は、全ての細胞または特定の細胞に分化する能力を備えるとともに自己複製能を備えており、適切な条件下で継代培養することによって分化能を維持したまま増幅することが可能である。また、後述の実施例より、pdx−1をノックインしたES細胞は、適切な条件下で継代培養することによってインスリン産生能を維持したまま増幅することが可能であることが明らかになった。従って本発明によれば、これらの方法を用いることによって多量の膵臓ホルモン産生細胞を取得することが可能である。また、本発明によって得られる膵臓ホルモン産生細胞を移植に用いる場合は、移植される自己由来の幹細胞を用いて膵臓ホルモン産生細胞を得ることによって、免疫拒絶反応の問題が回避される等、安全性・安定性の面で利点があると考えられる。
【0019】
前記幹細胞は哺乳動物由来であることができる。これによれば、哺乳動物由来の膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。哺乳動物は、ヒトでなくとも遺伝的にヒトに近い生物であると考えられるため、哺乳動物由来の幹細胞を用いることによって、ヒトが本来有するものに近い膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。従って、例えば免疫抑制剤や免疫隔離膜を利用することによって、ヒトの膵臓疾患や糖尿病等の治療に用いることが可能である。
【0020】
前記哺乳動物は、例えば、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。これらの哺乳動物は幹細胞樹立の研究が進んでいる生物であり、本発明によれば、これらの哺乳動物由来の膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。特にヒトの膵臓疾患や糖尿病等の治療において、ヒト由来の幹細胞を用いて得られる膵臓ホルモン産生細胞を移植する場合は、移植される自己由来の幹細胞を用いることによって、免疫拒絶反応の問題を回避することが可能である。
【0021】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含むことができる。本発明において「膵臓関連遺伝子」とは、膵臓の発生分化過程において発現する遺伝子、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導に関与する遺伝子、膵臓ホルモン産生に関わる遺伝子、膵臓ホルモン産生細胞で発現している遺伝子、前記以外の膵臓細胞で発現している遺伝子、膵臓の機能や環境維持に関わる遺伝子等、膵臓に何らかの関わりを有する遺伝子を指し、その関わりは特に限定されるものではない。具体的には例えば、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子の作用に係る性質を有する膵臓ホルモン産生細胞を取得することができる。具体的には例えば、前記膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含まない場合よりも効率よく膵臓ホルモン産生細胞を得たり、本発明によって得られた膵臓ホルモン産生細胞における膵臓ホルモン産生効率を上昇させたりすること等が可能になる。特に、ES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによってインスリン産生細胞を効率よく分化誘導できること、及びpdx−1の発現が高いほどインスリンの発現レベルが高いことが、後述の実施例より明らかになった。従って、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法においてpdx−1を発現させる工程を含むことによって、効率よくインスリン産生細胞を分化誘導して得ることや前記細胞のインスリン産生能を高めることが可能である。
【0022】
前記膵臓関連遺伝子は、レポーター遺伝子と組み合わせて発現させることができる。これによれば、前記レポーター遺伝子の発現を前記膵臓関連遺伝子の発現として捉えて可視化することが可能になる。従って、レポーター遺伝子の発現を指標として、前記膵臓関連遺伝子が導入された細胞を識別したり、前記膵臓関連遺伝子の発現をモニターしたりすることができる。本発明は、前記膵臓関連遺伝子の導入効率や発現レベルが低い場合に特に有効である。前記レポーター遺伝子としては、例えば、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子、またはlacZ遺伝子であることができる。特に、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子等の蛍光タンパク質をコードする遺伝子を用いた場合は蛍光にコファクターや基質を要しないため細胞の固定処理や破壊処理が必要なく、細胞が生きた状態で膵臓関連遺伝子の導入効率や発現レベル等を検討することができる。また、FACS等を用いることによって、蛍光標識されている細胞、すなわち前記膵臓関連遺伝子が導入された細胞を単離・濃縮することが可能である。また、レポーター遺伝子としてlacZ遺伝子を用いた場合は、X−galを基質として用いる発色法によりで膵臓関連遺伝子の導入効率や発現レベル等を検討することができる。
【0023】
なお、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、外因性の膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子であることができる。
【0024】
本発明において「外因性の遺伝子」とは、使用する細胞が本来有している遺伝子か否かに関わらず外部から導入された遺伝子を指す。
【0025】
これによれば、使用する細胞が本来有していない遺伝子を発現させることや、使用する細胞が本来有している遺伝子であってもその遺伝子をさらに強発現させること等が可能になる。外因性の膵臓関連遺伝子を発現させる場合は、前記遺伝子の有する働きによって、膵臓ホルモン産生細胞をより効率よく分化誘導することや、膵臓ホルモン産生効率を上昇させること等が可能になる。また、外因性の膵臓関連遺伝子及びレポーター遺伝子を発現させる場合は、レポーター遺伝子の発現を指標として、膵臓関連遺伝子が導入されている、または発現している細胞を識別・単離・濃縮することができ、機能的な膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能になる。
【0026】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現は、遺伝子発現制御システムによって制御されることができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現時期、発現領域、または発現量等を所望の態様に制御することができる。従って、例えば、これまで自己複製条件において培養していた幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導する時期や、本発明によって得られる膵臓ホルモン産生細胞が膵臓ホルモンを発現する期間を制御すること等が可能になる。
【0027】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現レベルを基準の一つとして細胞を分類する工程を含むことができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子を発現していることによって示される効果に従って、本発明によって得られた細胞をグループ化することが可能である。例えば、幹細胞が膵臓ホルモン産生細胞に分化することによって特定の膵臓関連遺伝子を発現することが知られる場合は、本発明の工程を含むことによって、幹細胞と膵臓ホルモン産生細胞が混在する細胞集団を、幹細胞の集団と膵臓ホルモン産生細胞の集団にグループ化することができる。また、膵臓ホルモン産生能を獲得した細胞において、特定の膵臓関連遺伝子の発現レベルと膵臓ホルモン産生能との間に何らかの相関関係が認められる場合は、本発明の工程を含むことによって、前記細胞を膵臓ホルモン産生レベルに従ってグループ化することが可能である。本発明に係る相関関係とは、特定の膵臓関連遺伝子の発現と膵臓ホルモン産生能との間に成り立つ一定の関係を指す。前記関係は必ずしも厳密に成り立つ関係である必要はなく、膵臓ホルモン産生能予測の目安として用いうる程度に成り立つ関係であればよい。具体的には例えば、前記特定の膵臓関連遺伝子の発現が高いほど、膵臓ホルモン産生能が高いまたは低い等の関係を挙げることができる。なお、前記膵臓関連遺伝子がレポーター遺伝子と組み合わせて発現されている場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0028】
前記分類する工程は、例えば、前記膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現が高い細胞を濃縮する工程であることができる。これによれば、前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと膵臓ホルモン産生能との間に正の相関関係が認められる場合に、本発明によって得られた膵臓ホルモン産生細胞から、高い膵臓ホルモン産生能を有する細胞を単離・濃縮することができる。なお、前記膵臓関連遺伝子がレポーター遺伝子と組み合わせて発現されている場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0029】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。これによれば、幹細胞由来で浮遊細胞を含むインスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞を得ることができる。
【0030】
2、膵臓ホルモン産生細胞
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得ることができる。すなわち、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得ることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞由来で膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞を含む細胞であることができる。
【0031】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる浮遊細胞を継代することによって得ることができる。浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率も優れている。また後述の実施例より、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞は長期培養が可能であることが明らかになった。従って本発明は、幹細胞由来で膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞から、容易かつ多量に得ることが可能である膵臓ホルモン産生細胞であることができる。
【0032】
前記膵臓ホルモン産生細胞は浮遊細胞であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、膵臓ホルモン産生能を有する浮遊細胞であることができ、前述のような継代操作、細胞回収率等における利点を有することができる。
【0033】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、ES細胞または組織幹細胞由来であることができる。従って例えば、前記ES細胞または組織幹細胞を自己複製能を保ったまま増幅してから膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導したり、自己のES細胞または組織幹細胞由来の膵臓ホルモン産生細胞を移植治療に用いることによって免疫拒絶反応の問題を回避したりすること等が可能になる。
【0034】
前記幹細胞は哺乳動物由来であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は哺乳動物由来の細胞であることができ、ヒトが本来有するものに近い膵臓ホルモン産生細胞を得ることができる。
【0035】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。これらの哺乳動物は幹細胞樹立の研究が進んでいる生物であり、これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞はこれらの哺乳動物由来の細胞であることができる。
【0036】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、膵臓関連遺伝子を発現していることができる。前記膵臓関連遺伝子としては、例えば、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、発現している膵臓関連遺伝子の作用に係る性質を有する細胞であることができる。例えば後述の実施例より、本発明に係るインスリン産生細胞において、pdx−1遺伝子の発現が高いほどインスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、本発明に係る膵臓関連遺伝子としてpdx−1を高発現していることによって、インスリン産生量が高い細胞であることが示唆される。
【0037】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に特定の作用を有すると考えられる医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質について、試験・検討・改良・評価等を行うことができる。前記特定の作用とは例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン発現期間、その産生効率等に及ぼす作用であることができる。
【0038】
本発明の膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞を、例えば、糖尿病等の疾患患者に対する移植治療に用いることができる。
【0039】
3、組成物
本発明の組成物は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を含む組成物である。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を、用途に適したさまざまな態様で用いることができる。これによって、例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を使用しやすい態様にすること、前記細胞における膵臓ホルモン産生能を高める態様にすること等が可能になる。
【0040】
前記組成物は、薬剤であることができる。
【0041】
前記組成物は、医療用組成物であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を医薬品や医療用キットとして、疾患の予防や治療に用いることができる。
【0042】
前記医療用組成物は、例えば、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることができる。免疫隔離膜は、膵臓ホルモンを通過させることはできるが、免疫拒絶反応に関与する免疫担当細胞や抗体等を通過させることができない。従って、例えば、本発明に係る医療用組成物を移植療法に用いる場合、前記組成物に含まれる膵臓ホルモン産生細胞が自己由来の細胞でなくても、患者に免疫抑制剤を投与し続ける必要がなく、免疫抑制剤投与によっておこる副作用や感染症の危険性を避けることができる。また、本発明に係る医療用組成物が不必要になったり除去する必要が生じたりした場合は、本発明によって一度患者の体内に移植した前記医療用組成物を回収することも可能である。
【0043】
本発明の組成物は、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症の予防・治療に用いることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の有する性質・特徴・利点等を生かし、例えば移植療法等を用いることによって前記疾患を予防・治療することができる。
【0044】
前記組成物は、実験試薬または実験キットであることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を、研究・実験等に適した態様で用いることができる。前記研究・実験は、例えば、前記膵臓ホルモン遺伝子の発現に関わるシグナル伝達経路の研究、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化経路に関わる研究、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の試験・検討・改良・評価等に関わる実験等であることができる。
【0045】
4、モデル動物
本発明のモデル動物は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持したモデル動物であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持することによってモデル動物に及ぼす影響を解析・検討することができる。前記影響とは例えば、前記モデル動物の血中膵臓ホルモン濃度変化、その変化に伴う影響の有無、その影響によるモデル動物の状態変化等であることができる。また、本発明のモデル動物に何らかの物質を作用させ、前記物質が前記モデル動物または前記モデル動物が担持する本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響を解析・検討することも可能である。前記影響とは例えば、前記モデル動物が担持する本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン発現期間変化、その産生効率変化、前記モデル動物の血中膵臓ホルモン濃度変化、膵臓ホルモン産生細胞の細胞数変化等であることができる。なお、これらの影響はモデル動物の体内や体外において検討することが可能である。
【0046】
前記モデル動物は疾患モデル動物であることができる。前記疾患モデル動物が有する疾患は、例えば、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞がモデル動物体内においてこれらの疾患に及ぼす影響を検討することができる。前記影響は、疾患モデル動物の体内や体外において検討することが可能である。
【0047】
前記モデル動物は、免疫不全モデル動物であることができる。免疫不全動物は自己由来でない細胞を拒絶することができない動物である。従って本発明によれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞が自己由来の細胞でない場合でも、免疫抑制剤や免疫隔離膜を用いずに本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を安定して担持することが可能である。
【0048】
本発明のモデル動物は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持したモデル動物を用いて、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の試験・検討・改良・評価等を行うことができる。前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質は、前記モデル動物の担持する本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用する物質であることができる。具体的には例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン発現期間、その産生効率等に影響を及ぼす物質であることができる。
【0049】
5、膵臓ホルモン産生能予測方法
本発明の膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓ホルモン産生細胞について膵臓関連遺伝子の発現を検討する工程を含む。また、前記膵臓ホルモン産生細胞は、例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。これによれば、特定の膵臓関連遺伝子の発現量、発現領域、または発現時期等を検討しその結果を基準として、前記膵臓ホルモン産生細胞が有する膵臓ホルモン産生能を予測することができる。
【0050】
本発明の膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓関連遺伝子の発現を膵臓ホルモン産生能を予測する指標の一つとすることができる。これによれば、膵臓ホルモン産生細胞における膵臓ホルモン産生能と何らかの相関関係を有する膵臓関連遺伝子の発現を検討することによって、前記細胞の膵臓ホルモン産生能を予測することが可能になる。
【0051】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。これによれば、これらの膵臓関連遺伝子の発現を検討することによって、膵臓ホルモン産生能を予測することができる。特にpdx−1遺伝子は、後述の実施例より、その発現レベルが高いほどインスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、本発明に係るインスリン産生細胞においてpdx−1の発現レベルを検討することによって、前記インスリン産生細胞のインスリン産生能を予測することができる。
【0052】
前記膵臓ホルモンは、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)であることができる。これによれば、特定の膵臓関連遺伝子の発現を検討することによって、検討した膵臓ホルモン産生細胞におけるインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)産生能を予測することができる。
【0053】
6、疾患の予防・治療方法
本発明の疾患の予防・治療方法は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いた予防・治療方法である。前述のように本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞は、幹細胞または膵臓ホルモン産生細胞の状態で増幅でき、浮遊細胞であるために継代操作や回収操作が細胞に及ぼすダメージが少なく、また操作自体も簡便である。さらに細胞回収率においても、付着細胞と比較して優れている。また、後述の実施例より、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞は長期培養が可能であることが明らかになった。従って本発明によれば、これらの本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の性質・特徴・利点を生かして細胞数を増幅する等によって、疾患の予防・治療に必要な膵臓ホルモン産生細胞を確保し、前記疾患の予防・治療を行うことが可能になる。また、さらに本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞が、膵臓関連遺伝子の発現レベルを指標として膵臓ホルモン産生能を予測することが可能である場合は、所望の膵臓ホルモン発現レベルを有する細胞のみを取得すること等によって、疾患の予防・治療を行うことができる。
【0054】
本発明の疾患の予防・治療方法は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を生物に移植する工程を含む予防・治療方法である。これによれば、移植された本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞が生物体内で膵臓ホルモンを産生することによって、疾患を予防・治療することができる。本発明の方法は膵臓ホルモン産生細胞自体を移植するため、体内で常に変化する膵臓ホルモン量を前記細胞が感知し、膵臓ホルモン産生量または分泌量を自動的に制御できる可能性がある。従って、従来から行われている膵臓ホルモン投与による治療法と比較して、膵臓ホルモン量のより厳密な制御が可能になり、また、注射の手間・必要量の判断等の患者の負担を大きく軽減することができる。
【0055】
なお、本発明の疾患の予防・治療方法は、必要に応じて免疫拒絶反応を回避する手段を用いることができる。例えば、前記膵臓ホルモン産生細胞は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることができる。免疫隔離膜は、膵臓ホルモンを通過させることはできるが、免疫拒絶反応に関与する免疫担当細胞や抗体等を通過させることができない。従って、前記膵臓ホルモン産生細胞が自己由来の細胞でなくても、患者に免疫抑制剤を投与し続ける必要がなく、また、一度患者の体内に移植した前記膵臓ホルモン産生細胞を回収することも可能である。
【0056】
前記膵臓ホルモン産生細胞が由来とする幹細胞は、前記膵臓ホルモン産生細胞の移植を受ける生物の自己由来であることができる。これによれば、免疫拒絶反応を回避して、疾患を予防・治療することができる。従って非自己由来の幹細胞を用いるよりも安定して前記膵臓ホルモン産生細胞を保持することができる。
【0057】
本発明において、前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これらの幹細胞は、全ての細胞または特定の細胞に分化する能力を備えるとともに自己複製能を備えており、適切な条件下で継代培養することによって分化能を維持させたまま増幅することが可能である。従って本発明によれば、ES細胞または組織幹細胞から得られた、本発明に係る自己由来の膵臓ホルモン産生細胞を用いて、疾患を予防・治療することが可能である。
【0058】
前記幹細胞は哺乳動物由来であることができる。さらに前記哺乳動物は、例えば、幹細胞樹立の研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。これによれば、これらの哺乳動物由来で、かつ自己由来の幹細胞から得られた本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いて、これらの哺乳動物の疾患を予防・治療することができる。
【0059】
前記疾患は膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いて、これらの疾患を予防・治療することができる。特に、前記疾患が糖尿病である場合は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞としてインスリン産生細胞を用いて、糖尿病を予防・治療することができる。
【0060】
7、被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法
本発明の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法は、
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の被験物質を作用させる工程と、
前記被験物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記被験物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む。これによれば、前記被験物質によって本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞におこる影響を、適切なコントロールを用いて比較検討することができる。
【0061】
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させる被験物質は特に限定されずさまざまな物質を用いることができるが、例えば前記被験物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。
【0062】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞のこれらの要素に被験物質が及ぼす影響を検討することによって、被験物質の有する効果を予測することができる。例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に被験物質を作用させた場合に、前記被験物質を作用させない場合と比較して細胞増殖率の向上がみられた場合は、前記被験物質は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞の細胞周期等に影響を与える物質である可能性が考えられる。
【0063】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子としては特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。これによれば、被験物質が、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞における前記膵臓関連遺伝子の発現量、前記膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸の局在、あるいは膵臓関連遺伝子産物の局在または活性に及ぼす影響を検討することができる。例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞であって、前記細胞に被験物質を作用させた場合に前記被験物質を作用させない場合と比較してpdx−1遺伝子の発現量が向上した場合は、前記被験物質は、pdx−1遺伝子の発現に影響を与え、かつ前記細胞のインスリン産生能に影響を与える物質である可能性等が考えられる。なおここで、前記細胞がレポーター遺伝子を含み、前記膵臓関連遺伝子の発現とレポーター遺伝子の発現が連動している場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0064】
前記被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響は、膵臓ホルモン産生細胞に対する毒性、膵臓ホルモン産生能の促進、または膵臓関連遺伝子発現の変化であることができる。これによれば、被験物質が本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞にこれらの影響を及ぼすか否かについて検討することができる。
【0065】
8、膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法
本発明の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法は、
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の特定の影響を及ぼす物質の候補物質を作用させる工程と、
前記候補物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記候補物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む。これによれば、前記候補物質の中から本発明の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質を、適切なコントロールを用いて探索することができる。
【0066】
本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させる候補物質は特に限定されずさまざまな物質を用いることができるが、例えば前記候補物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。
【0067】
また、前記候補物質は、ライブラリーの態様であることができる。これによれば、本発明の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質を網羅的に探索することができる。
【0068】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。これによれば、候補物質の中から本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞のこれらの要素に影響を及ぼす物質を探索することができる。例えば、膵臓ホルモン産生量を指標の一つとして、候補物質を作用させた場合と作用させない場合の本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞を比較検討することによって、膵臓ホルモン産生量に影響を及ぼしうる物質を探索することができる。
【0069】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子としては特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。これによれば、候補物質が、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞における前記膵臓関連遺伝子の発現量、前記膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸の局在、あるいは前記膵臓関連遺伝子産物の局在または活性等に影響を及ぼす物質を探索することができる。例えば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞であって、前記細胞に被験物質を作用させた場合に前記被験物質を作用させない場合と比較して、前記細胞におけるpdx−1遺伝子の発現量が向上する物質を探索することによって、pdx−1遺伝子の発現に影響を与え、かつ前記細胞のインスリン産生能に影響を与えうる物質をスクリーニングすることが可能である。なおここで、前記細胞がレポーター遺伝子を含み、前記膵臓関連遺伝子の発現とレポーター遺伝子の発現が連動している場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することが可能である。
【0070】
前記特定の影響を及ぼす物質は、膵臓ホルモン産生促進因子、膵臓ホルモン産生阻害因子、膵臓ホルモン分泌促進因子、膵臓ホルモン分泌阻害因子、膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、膵臓ホルモン産生細胞分化阻害因子、膵臓細胞分化関連因子、膵臓ホルモン産生細胞分化関連因子、膵臓疾患関連因子、糖尿病関連因子、ブドウ糖反応性関連因子、β細胞アポトーシス阻害剤、糖尿病治療に有効な薬剤、または自己免疫疾患抑制剤であることができる。これによれば、これらの因子・薬剤等として機能しうる物質を候補物質の中から探索することができる。
【0071】
9、膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法
本発明の膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法は、
膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞における、1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程と、
両細胞間における前記遺伝子それぞれの発現量を比較する工程と、
両細胞間で発現量の異なる遺伝子を特定する工程と
を含む。これによれば、膵臓ホルモン産生能を有する細胞において、付着性を有する細胞と浮遊性を有する細胞の相違の決定に関与する遺伝子を探索することができる。
【0072】
前記膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞は、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。これによれば、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法において生じる膵臓ホルモン産生能を有する細胞において、付着性を有する細胞と浮遊性を有する細胞の相違の決定に関与する遺伝子を探索することができる。
【0073】
10、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法の好ましい一態様
本発明のインスリン産生細胞取得方法は、ES細胞を、インスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む。これによれば、ES細胞由来のインスリン産生細胞を得ることができる。
【0074】
本発明のインスリン産生細胞取得方法は、
ES細胞を、付着細胞とインスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む。これによれば、ES細胞から得られた付着細胞と浮遊細胞が混在するインスリン産生細胞集団から、浮遊系で培養可能なインスリン産生細胞を得ることができる。浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、また操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率も優れている。従って、付着細胞よりも容易かつ多量にインスリン産生細胞を取得することができる。
【0075】
本発明において、前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりもインスリンを産生する細胞の割合が多いことができる。これによれば、例えば糖尿病の治療に関して、付着細胞よりも実用化に近いレベルのインスリン産生能を有する、機能的な浮遊細胞を得ることができる。
【0076】
本発明はさらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。浮遊細胞の継代操作や回収操作は、付着細胞のように培養用容器からはがす操作を必要としないために細胞に及ぶダメージが少なく、また操作自体も簡便であり、さらに細胞回収率も優れている。また後述の実施例より、本発明に係るインスリン産生細胞は長期培養が可能であることが明らかになった。従って本発明によれば、インスリン産生能を有する浮遊細胞を、浮遊細胞の継代操作、細胞回収率等における利点を利用して、容易かつ多量に増殖させることが可能である。
【0077】
本発明はさらに、pdx−1を発現させる工程を含むことができる。ES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによってインスリン産生細胞を効率よく分化誘導できること、及びpdx−1の発現が高いほどインスリンの発現レベルが高いことが、後述の実施例より明らかになった。従って、本発明によれば、インスリン遺伝子の発現が効率よく誘導されたインスリン産生細胞を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の要旨を超えない範囲で種々の変更が可能である。
【0079】
1、膵臓ホルモン産生細胞取得方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む。
【0080】
また、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、幹細胞を、付着細胞と膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、前記浮遊細胞を単離する工程とを含む。
【0081】
本実施の形態における幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。これらの幹細胞を得る方法は特に限定されず、当業者に公知の手法をはじめとした、それぞれの幹細胞を得るのに適した種々の方法を用いることができる。幹細胞がES細胞である場合は、組織幹細胞を用いた場合よりも多くの膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能である。ES細胞は理論的には無限に増殖可能であるため、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の原料として安定な供給源となりうる。さらに、ES細胞は細胞系列が明確であり品質管理がしやすいという利点がある。幹細胞が組織幹細胞である場合は、前記組織幹細胞は例えば、表皮幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞であることができ、好ましくは内胚葉系である肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞、特に好ましくは膵幹細胞であることができる。
【0082】
本実施の形態において、幹細胞が由来とする生物は、ES細胞または組織幹細胞を得ることができる生物であれば特に限定されずさまざまな生物を用いることができるが、好ましくは哺乳動物、特に好ましくは、幹細胞樹立やヒトへの再生医療に関する研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。
【0083】
本実施の形態において「膵臓ホルモン」とは、膵臓から分泌されるホルモンを指す。具体的には例えば、膵島から分泌されることが知られるグルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)を挙げることができる。
【0084】
本実施の形態において、幹細胞を膵臓ホルモンを産生する細胞に分化誘導する手法としては、結果的に膵臓ホルモンを産生できる細胞が得られれば特に限定されずさまざまな方法を用いることができる。具体的には、例えばES細胞を用いてインスリン産生細胞を得る場合、ES細胞を無血清培地で培養して胚様体を形成させ、そこにさまざまな分化誘導因子を加え、さらにpdx−1遺伝子、neuroD遺伝子、Isl1遺伝子、またはPax6遺伝子等を導入することによってインスリン産生細胞を分化誘導することができる。また、同様にしてES細胞にPax4遺伝子、Nkx2.2遺伝子等を導入することによってグルカゴン産生細胞を、Pax4遺伝子等を導入することによってソマトスタチン産生細胞を、Nkx2.2遺伝子等を導入することによって膵ポリペプチド(PP)産生細胞を分化誘導することができうる。また、後述の実施例より、ES細胞におけるpdx−1の発現が高いほど、ソマトスタチンの発現が低下することも明らかになった。
【0085】
分化誘導に用いる培地としては、幹細胞及び膵臓ホルモン産生細胞の生存や増殖、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導等が害されない限り特に限定されず、例えば、Dulbecco's modified Eagle's medium(DMEM)培地、F12培地等を用いることができる。
【0086】
幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞へ効果的に分化誘導するために、前記培地にはさらに種々の添加物を加えることができる。前記添加物としては、上記同様、幹細胞及び膵臓ホルモン産生細胞の生存や増殖、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導が害されない限り特に限定されるものではないが、例えば、サイトカインや膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、ケモカイン、ペプチド、増殖因子等の生理活性物質であることができる。具体的には例えば、インスリン、トランスフェリン、プロゲステロン、プトレスシン、亜セレン酸ナトリウム、ヒトケラチノサイト増殖因子(KGF)(ペプロテック社製)、上皮細胞増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、B27サプリメント、ニコチンアミド等であることができるが、前記添加物は無論これらに限定されるものではない。また、細胞の培養、分化誘導、継代過程において、これらの因子は必要に応じて除去及び添加することができる。
【0087】
なお、本実施の形態に係る幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導する工程は、膵臓ホルモン産生能を有する細胞、または、膵臓ホルモン関連遺伝子を蛍光色素をコードするレポーター遺伝子と組み合わせて発現させた場合に蛍光を発する細胞を分離する工程を含むことができる。前記分離工程に用いる手法は、結果として膵臓ホルモン産生細胞を得ることができれば特に限定されないが、例えばFACS等を用いて、幹細胞には発現しておらず膵臓ホルモン産生細胞において特有に発現している表面抗原を有する細胞を単離する手法を用いることができる。
【0088】
本実施の形態において幹細胞から分化誘導された細胞集団は、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む。本実施の形態において、「浮遊細胞」とは細胞培養液等の液体中に浮遊している生細胞を指し、例えばsphere状で浮遊する細胞を含むことができる。前記「sphere状」の細胞とは、増殖した細胞が集合したほぼ球形の浮遊細胞塊を指す。一方、本実施の形態において、「付着細胞」とは培養用容器に付着している生細胞を指す。浮遊細胞と付着細胞は、同じ培養用容器で混在させて培養している場合でも、例えば顕微鏡等によって観察することによって見た目で区別することが可能である。前記見た目による区別の基準としては、例えば、軽くディッシュをゆすると動く細胞を浮遊細胞と判断することによることができる。
【0089】
本実施の形態において浮遊細胞を単離する手段としては、例えば、浮遊細胞を含む培地を培養用ピペット等を用いて回収する方法を用いることができる。前記方法は、必要に応じて、遠心等によって培地と浮遊細胞を分離し培地を除く工程を含むこともできる。
【0090】
上記のように、浮遊細胞を単離する操作は、細胞を培養用容器からはがす操作を必要としない。培養用容器等によっては浮遊細胞が底面に付着しやすい場合もあるが、培地で培養用容器を軽く洗うことによって容易に細胞をはがすことが可能である。一方、付着細胞を単離する手段は、付着細胞が有する付着性質のために、トリプシン等の酵素溶液を用いたりスクレイパー等で機械的にかきとったりすることによって培養用容器から細胞をはがす操作を必要とする。従って、浮遊細胞は付着細胞よりも回収操作や単離操作が簡便である。さらに、培養用容器から細胞を取り残すことをできるだけ防止することが可能であるため、浮遊細胞は付着細胞よりも細胞回収率において優れている。
【0091】
従来から研究されている膵臓ホルモン産生細胞取得方法、例えば、インスリン産生細胞取得方法においては、培養シャーレに付着させる段階を経て分化誘導を行っているため、インスリン産生能を有する付着細胞のみが注目されている。しかし、前述のように、付着細胞は浮遊細胞と比較して継代操作や回収操作に手間がかかり、また、これらの操作によって細胞にダメージが及ぶ。さらに細胞回収率においても、付着細胞は浮遊細胞に劣る。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、浮遊系で培養維持が可能であるという利点があり、また、このような浮遊系の膵臓ホルモン産生細胞自体が新規である。
【0092】
無血清培地で細胞を浮遊培養する工程を含む方法として、Neurosphere法が知られている。Neurosphere法は神経幹細胞の選択的培養法であり、多くの場合浮遊細胞のみを培養維持し、継代可能なp10まではほぼ浮遊細胞のみしか見られない。これに対して、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法は、培養過程で付着細胞と浮遊細胞が混在しており、この混在状態から浮遊細胞のみを選択培養していく点で、前記Neurosphere法とは異なる。また、ES細胞を浮遊培養して形成させた胚様体(EB)は、例えばゼラチンコートしたディッシュの上では、ほぼ全ての細胞がディッシュに付着する性質を有する。これに対して、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られた浮遊細胞は、分化誘導のステップをいくつか経て、付着細胞とともに培養維持して得られた浮遊細胞であり、ゼラチンコートなしのディッシュの上だけでなくゼラチンコートしたディッシュの上でも、ある程度の量の浮遊細胞が出現する。従って、これらの細胞は性質が異なると考えられる。すなわち、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られる浮遊細胞は、積極的に浮遊培養しなくとも浮遊する性質を有し浮遊してきた細胞であるということができる。
【0093】
本実施の形態において、前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりも膵臓ホルモンを産生する細胞の割合が多いことができる。
【0094】
浮遊細胞及び付着細胞それぞれにおける膵臓ホルモン産生能を検討する手法については特に限定されず、さまざまな手法を用いることができる。前記それぞれの細胞が生きている状態を保ったままで膵臓ホルモン産生能を検討する場合は、例えば、浮遊細胞と付着細胞を分離し、培地中に放出される単位細胞数、単位時間あたりの膵臓ホルモン量を検討する手法を用いることができる。前記それぞれの細胞を分離するには、例えば、付着細胞を培養用容器からはがさないように注意して浮遊細胞を含む培地を回収する操作を数回繰り返す手法を用いることができる。膵臓ホルモン量を検討するには、例えば、一定時間後に培地を回収し、前記培地中に存在する膵臓ホルモン量をウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いて定量する手法を用いることができる。また、それぞれの細胞の一部を膵臓ホルモン産生能検討用サンプルとして分離し膵臓ホルモン産生能を検討する場合は、当業者に公知の手法等を用いてそれぞれのサンプルから膵臓ホルモンタンパク質または前記タンパク質をコードする核酸を抽出し、それらの発現量を検討する手法を用いることができる。タンパク質量を検討する場合は、前記同様、ウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いることができる。核酸量を検討する場合は、前記核酸は例えばRNAであることができ、ノーザンブロッティング法、RT―PCR法等を用いることができる。また、サンプルから前記タンパク質または核酸を抽出せず、例えば免疫染色法、in situハイブリダイゼーション法等を用いた染色によって、膵臓ホルモン産生能を評価することも可能である。
【0095】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。
【0096】
浮遊細胞を継代する手法としては、当業者に公知の手法、例えば前記浮遊細胞を単離する手段を用いて浮遊細胞を回収し新たな培地に懸濁する方法を用いることができる。また、必要に応じてピペッティングを行い、浮遊細胞のばらし具合を調節することができる。本実施の形態における好ましいばらし具合は、数個の細胞塊を残した状態であることができる。
【0097】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含むことができる。前記膵臓関連遺伝子は、レポーター遺伝子と組み合わせて発現させることができる。また、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、他の作用を有する遺伝子とさらに組み合わせた態様で発現させることも可能である。
【0098】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、外因性の膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子であることができる。また、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現は、遺伝子発現制御システムによって制御されることができる。
【0099】
本実施の形態に係る膵臓関連遺伝子としては、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導や、前記膵臓ホルモン産生細胞の継代維持を妨げるものでなければ特に限定されないが、好ましくは、幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に効率よく分化誘導する作用を有する遺伝子や、膵臓ホルモン産生能を高める作用を有する遺伝子であることができる。具体的には例えば、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓関連遺伝子はpdx−1遺伝子である。例えばES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによって、効率よくインスリン産生細胞を分化誘導することができる。
【0100】
また、本実施の形態に係るレポーター遺伝子としては、その発現を検出・測定することが可能な遺伝子であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、蛍光タンパク質をコードする遺伝子や、基質を用いることによって発光または発色反応を示す遺伝子であることができる。具体的には例えば、前記レポーター遺伝子は、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子、またはlacZ遺伝子であることができる。
【0101】
前記膵臓関連遺伝子産物及び/またはレポーター遺伝子産物をコードする核酸は、完全なタンパク質をコードする態様だけでなく、前記タンパク質の一部分をコードする態様や、前記タンパク質のアミノ酸配列の一部に変更を加えたタンパク質をコードする態様等であることもできる。これによって、例えば前記遺伝子が発現することによって期待される作用を高めることや前記遺伝子の発現量を高めること等が可能である。前記アミノ酸配列の一部の変更とは、例えば、1または2以上のアミノ酸が置換、欠失、付加、及び/または挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするような変更であることができる。また、前記核酸の塩基配列の一部を、そのコードするアミノ酸を変更しない塩基配列に変更することも可能である。
【0102】
本実施の形態において前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子を発現させる手法としては、目的とする膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現レベルを高めることができれば特に限定されない。前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子が内在性の遺伝子である場合は、例えば前記遺伝子の発現レベルを上昇させることが知られるサイトカインや膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、ケモカイン、ペプチド、増殖因子等の生理活性物質を培地に添加することによって、または、前記遺伝子の発現レベルを上昇させることが知られる上流遺伝子を細胞に導入することによって、目的とする遺伝子の発現レベルを高めることができる。また、前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子が外因性の遺伝子である場合は、前記遺伝子を細胞に導入することによって、目的とする遺伝子の発現レベルを高めることができる。
【0103】
本実施の形態において、細胞に遺伝子を導入する方法としては、結果として目的遺伝子が細胞内に導入され発現することができれば特に限定されず、リポフェクション法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、DEAE−デキストラン法、アデノウィルスベクター法、レトロウィルスベクター法、アデノ随伴ウィルスベクター法等をはじめとした当業者に公知の手法等を用いることができる。
【0104】
また、本実施の形態において細胞に導入される遺伝子は、相同組換え等を利用したゲノムに組み込まれる態様もゲノムに組み込まれない態様も選択することができるが、好ましくはゲノムに組み込まれる態様である。これによれば、安定して前記遺伝子産物を発現させることや、細胞分裂後も前記遺伝子を確実に娘細胞に受け継がせること等が可能になる。
【0105】
本実施の形態において、膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子を組み合わせて発現させる具体的な態様としては、例えば、前記膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子を機能的に連結したベクターを細胞に導入する態様や、前記膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子をそれぞれ別のベクターに導入して一定の割合で混合し細胞に導入する態様等を用いることができる。前者の態様で「機能的に連結」しているとは、前記膵臓関連遺伝子とレポーター遺伝子が同一の導入するベクター上に配置され同一の制御系によって制御されることによって発現が連動することを指す。また、後者の態様で「一定の割合」とは特に、例えば(膵臓関連遺伝子):(レポーター遺伝子)の比が5:1、10:1等の、膵臓関連遺伝子の割合の方が高いことを指す。これらの態様によれば、前記膵臓関連遺伝子産物と前記レポーター遺伝子産物が一定の比を保って発現することができる。これによって、前記レポーター遺伝子の発現を指標として、前記膵臓関連遺伝子の発現量の評価・比較・モニター等を行うことができる。また、単に前記膵臓関連遺伝子が導入されたか否かを判別することも可能である。なお、前記膵臓関連遺伝子産物と前記レポーター遺伝子産物は、発現の比が保たれれば、別個のタンパク質として発現しても結合タンパク質として発現してもよい。
【0106】
本実施の形態において、幹細胞に膵臓関連遺伝子を発現させる時期は特に限定されるものではなく、前記膵臓関連遺伝子の特性に合わせて時期を選択することができる。例えば、ES細胞からインスリン産生細胞を分化誘導する際にpdx−1遺伝子を発現させる場合は、ES細胞から胚様体(EB)を形成させる段階で発現させるのが好ましい。
【0107】
本実施の形態に係る遺伝子発現制御システムは、前記膵臓関連遺伝子の発現時期等を制御することができる機構であれば特に限定されないが、例えば薬剤を用いた当業者に公知の転写制御システムを用いることができる。前記システムとしては、例えばテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン等のテトラサイクリン系抗生物質を用いたシステムを挙げることができる。これらのテトラサイクリン系抗生物質を培地に添加または除去することによって、前記膵臓関連遺伝子の発現を制御することが可能である。より具体的には、例えばドキシサイクリン(Dox)を培地に添加することによって前記膵臓関連遺伝子の発現を抑えることができ、除去することによって前記膵臓関連遺伝子を発現させることができる。また逆に、ドキシサイクリン(Dox)を培地に添加することによって前記膵臓関連遺伝子を発現させることができ、除去することによって前記膵臓関連遺伝子を抑えるシステムであることも可能である。
【0108】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法はさらに、膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現レベルを基準の一つとして細胞を分類する工程を含むことができる。
【0109】
本実施の形態において、ある遺伝子の発現レベルを基準として細胞を分類するとは、具体的には例えば、前記遺伝子を発現している細胞と発現していない細胞を分離する操作、前記遺伝子の発現量が高い細胞群、中程度の細胞群、低い細胞群といったようにグループ分けする操作、前記遺伝子を特定量以上または特定量以下に発現している細胞群のみを選択してくる操作等を指す。従って、前記分類する工程は、前記膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現が高い細胞を濃縮する工程であることもできる。前記工程には、例えばFACS等を用いることができる。これらによれば、前記遺伝子を使用態様に合った所望の程度に発現している細胞群を取得することができる。
【0110】
後述の実施例より、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞においてpdx−1の発現レベルが高いほど、インスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、本実施の形態に係る膵臓関連遺伝子としてpdx−1遺伝子を用い、pdx−1の発現が高い細胞を濃縮することによって、インスリン発現量が高い細胞を効率的に取得することができる。
【0111】
なお、前記膵臓関連遺伝子がレポーター遺伝子と組み合わせて発現されている場合は、前記レポーター遺伝子の発現レベルを前記膵臓関連遺伝子の発現レベルと置き換えて解釈することができる。
【0112】
従来の研究結果よりES細胞にpdx−1を高発現させすぎると細胞毒性を示す場合があることが示唆されている。従って、本実施の形態に係る膵臓関連遺伝子としてpdx−1遺伝子を用い本実施の形態に係る方法を用いてインスリン産生細胞を得る場合、前述のようにpdx−1の発現が高い細胞のみを濃縮して用いるだけでなく、pdx−1の発現が中程度または低い細胞群も有効に用いうる可能性がある。
【0113】
本実施の形態において細胞を分類する具体的手法としては、結果として必要とする遺伝子発現レベルの膵臓ホルモン産生細胞を得ることができれば特に限定されるものではないが、例えばFACS Aria(ベクトン・ディッキンソン社製)やautoMACS(Miltenyi Biotec社製)等を用いて行うことができる。FACS Vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いた場合に用いるマーカーは、好ましくは細胞表面タンパク質、蛍光標識されたタンパク質、特定のタンパク質と一定の比率で発現させた蛍光タンパク質等であることができる。autoMACS(Miltenyi Biotec社製)を用いた場合、前記分離選別に用いるマーカーは、好ましくは細胞表面タンパク質等であることができる。
【0114】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られる膵臓ホルモン産生細胞は、例えば、膵α細胞、膵β細胞、膵δ細胞、またはPP細胞から産生されるホルモンを産生しうる細胞であることができる。具体的には例えば、グルカゴン産生細胞、インスリン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞である。
【0115】
2、膵臓ホルモン産生細胞
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られた膵臓ホルモン産生細胞である。すなわち、上述したように、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得ることや、幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる浮遊細胞を継代することによって得ることができる。
【0116】
本実施の形態に係る幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。幹細胞がES細胞である場合は、組織幹細胞を用いた場合よりも多くの膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能である。ES細胞は理論的には無限に増殖可能であるため、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の原料として安定な供給源となりうる。さらに、ES細胞は細胞系列が明確であり品質管理がしやすいという利点がある。幹細胞が組織幹細胞である場合は、前記組織幹細胞は例えば、表皮幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞であることができ、好ましくは内胚葉系である肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞、特に好ましくは膵幹細胞であることができる。
【0117】
本実施の形態において、幹細胞が由来とする生物は、ES細胞または組織幹細胞を得ることができる生物であれば特に限定されずさまざまな生物を用いることができるが、好ましくは哺乳動物、特に好ましくは、幹細胞樹立やヒトへの再生医療に関する研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。
【0118】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、浮遊細胞であることができる。
【0119】
細胞をディッシュから回収する場合、浮遊細胞は、細胞培養液等の液体中に浮遊している細胞であるため、細胞培養液を回収することによって細胞自体を回収することができ、培養用容器からはがす操作を必要としない。一方、付着細胞は培養用容器に付着している細胞であるため、回収には培養用容器から細胞をはがす操作を必要とする。前記操作は多くの場合、トリプシン等の酵素溶液を用いたりスクレイパー等で物理的にかきとったりすることによって行う。従って、浮遊細胞は、付着細胞よりも簡便に細胞を回収することができる。さらに、浮遊細胞は、回収の際に培養用容器等に残留する細胞量が付着細胞よりも少なくて済むため、細胞回収率においても付着細胞より優れている。
【0120】
また、細胞を継代する際に細胞どうしをばらす場合、浮遊細胞は付着細胞と比較して、酵素処理や物理的な刺激をよりマイルドな条件で行うことが可能である。従って、浮遊細胞は付着細胞と比較して継代操作によって細胞に及ぶダメージが少ない。
【0121】
以上より、細胞回収、継代操作において、付着細胞と比較した浮遊細胞の特長は、細胞を長期に渡って継代維持する必要がある場合や多量に継代維持・増幅する必要がある場合において、大きな利点となる。また、浮遊系で継代培養可能である膵臓ホルモン産生細胞自体が新規である。
【0122】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、膵臓関連遺伝子を発現していることができる。前記膵臓関連遺伝子としては、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化誘導や、前記膵臓ホルモン産生細胞の継代維持を妨げるものでなければ特に限定されないが、好ましくは、幹細胞を膵臓ホルモン産生細胞に効率よく分化誘導する作用を有する遺伝子や、膵臓ホルモン産生能を高める作用を有する遺伝子であることができる。具体的には例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓関連遺伝子はpdx−1遺伝子である。例えばES細胞にpdx−1遺伝子を導入することによって、効率よくインスリン産生細胞を分化誘導することができる。
【0123】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。
【0124】
医薬品の開発は一般に、前臨床試験、すなわち実験動物を用いて医薬品候補物質の有効性及び安全性を確認する試験を経て臨床試験に入るプロセスを経る。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持した実験動物に医薬品候補物質を作用させることによって、医薬品候補物質の前臨床試験を行うことができる。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持した実験動物は、例えば、後述の本実施の形態に係るモデル動物を用いることができる。また、前記実験動物に医薬品候補物質を作用させる方法としては、例えば、前記物質を注射する方法や経口投与する方法等、当業者に公知の手法等を用いることができる。
【0125】
前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の効能試験は、in vitro及びex vivoでの毒性試験等を含む。前記効能試験は、前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質を、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させることによって、または、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持した実験動物に作用させることによって行うことができる。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に作用させる具体的方法としては、例えば、前記医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質を、前記細胞を培養している培地に直接添加する方法等、さまざまな方法を用いることができる。また、前記実験動物に作用させる具体的方法としては例えば、経口投与する方法や皮膚等に塗布する方法等、さまざまな方法を用いることができる。
【0126】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、例えば、膵α細胞、膵β細胞、膵δ細胞、またはPP細胞から産生されるホルモンを産生しうる細胞であることができる。具体的には例えば、グルカゴン産生細胞、インスリン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞であることができる。本実施の形態において特に好ましい膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞である。
【0127】
3、組成物
本実施の形態に係る組成物は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を含む組成物である。前記組成物の態様は特に限定されず、またさまざまな用途に用いることができる。前記態様としては例えば、他の物質と混合した態様、液体に懸濁した態様、他の物質と組み合わせた態様等であることができる。また、前記組成物中の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞が産生する膵臓ホルモンのみが実際に用いられる態様であることも可能である。また、前記用途としては例えば、膵臓疾患や糖尿病等の治療に用いたり、前記疾患の治療用組成物として販売したりすることができる。
【0128】
前記組成物は薬剤であることができる。本実施の形態に係る薬剤の態様や用途は特に限定されるものではないが、例えば糖尿病の治療剤であることができる。糖尿病の治療剤の態様としては、例えば、インスリン投与を必要とする患者に対する細胞医薬品であることができる。前記細胞医薬品は、ヒトだけでなく、例えばイヌ、ネコ等のペットに用いることができる態様とすることができる。
【0129】
前記組成物は医療用組成物であることができる。前記医療用組成物の態様は特に限定されるものではなく、生体内に直接投与しうる態様や生体外で用いうる態様であることができる。生体内に直接投与しうる態様としては例えば、注射や点滴等であることができる。生体外で用いる態様としては例えば、前記医療用組成物中の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞から、さらに膵臓ホルモン産生細胞を医療用に増幅する態様、または膵臓ホルモンを医療用に取得する態様であることができる。また、医療用キットの態様であることも可能である。
【0130】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を移植に用いる場合、前記医療用組成物は、好ましくはカプセル等の免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることができる。具体的には、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を免疫隔離膜に封入し患者の体内に移植する。これにより、前記細胞が産生する膵臓ホルモンを体内に分泌させることができる。
【0131】
免疫隔離膜を用いた態様によれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞として非自己由来の細胞を用いた場合も免疫抑制剤の投与が不要となる。さらに、一度体内に移植した膵臓ホルモン産生細胞を回収することも可能になる。また、移植した膵臓ホルモン産生細胞が有する遺伝子発現制御システムを利用することによって、前記細胞が産生する膵臓ホルモン量を体外から制御することも可能である。
【0132】
免疫隔離膜として使用される半透膜としては、封入された本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を免疫拒絶反応から保護し、かつ前記細胞が産生する膵臓ホルモンを透過させることができれば特に限定されず、さまざまな材料を用いることができる。好ましくは、前記材料は低アレルゲン性であり、容易かつ安定に標的組織に入れられる態様である。具体的には例えば、当業者に公知の、アガロースゲルビーズに封入したマイクロカプセルの態様や、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体膜製のマクロカプセルの態様等を用いることができるが、無論これらに限定されるものではない。また、細胞の封入方法についても当業者に公知の方法等を用いることができる。また、患者の体内に移植する方法については例えば、腹腔内移植や皮下移植、門脈内移植等、当業者に公知の方法等を用いることができる。
【0133】
本実施の形態に係る組成物は、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症の予防・治療に用いることができる。具体的には例えば、本実施の形態に係る組成物が、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞としてインスリン産生細胞を含む場合、例えば、門脈内移植を行い肝臓に生着させることによって行うことができる。なお、本実施の形態に係る組成物を用いた疾患の予防・治療の態様は、無論これに限定されるものではない。
【0134】
本実施の形態に係る組成物は、実験試薬または実験キットであることができる。これによれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を、さまざまな研究に適した態様で用いることができる。前記研究としては、例えば、付着系膵臓ホルモン産生細胞と浮遊系膵臓ホルモン産生細胞の相違、幹細胞から膵臓ホルモン産生細胞への分化機構、膵臓ホルモン産生細胞における膵臓ホルモン産生・分泌機構、またはそのシグナル伝達経路において機能する遺伝子の機能等の解析であることができる。前記膵臓ホルモンは、例えば、グルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)であることができる。
【0135】
4、モデル動物
本実施の形態に係るモデル動物は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を担持したモデル動物であることができる。
【0136】
前記モデル動物としては例えば、マウス、ラット等であることができるがこれらに限定されるものではない。本実施の形態における好ましいモデル動物は、マウスである。モデル動物としてマウスを用いた場合は、旺盛な繁殖力を有することや遺伝子レベルでヒトと非常に近い関係にあること等のマウスの利点を研究・試験等に利用することができる。
【0137】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞をモデル動物に担持させる部位は特に限定されず所望の部位を選択することができ、モデル動物の体の一部分でも体全体でもよく、一箇所でも複数箇所でもよい。本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞である場合、モデル動物に前記細胞を担持させる好ましい部位は、腎皮下膜である。
【0138】
また、前記細胞をモデル動物に担持させる方法は、結果として前記細胞を前記モデル動物に担持させることができれば特に限定されない。前記細胞を体の一部分に担持させる手法としては、例えば、移植等の手法を用いることができる。移植の具体的方法は、前記細胞を移植針にて移植する方法、前記細胞懸濁液を注射針で移植する方法等、当業者に公知の手法を用いることができる。体全体に担持させる手法としては、例えば、ノックアウト動物やトランスジェニック動物等の遺伝子改変動物の作製方法等を用いることができる。
【0139】
また、本実施の形態に係るモデル動物は、疾患モデル動物であることができる。前記疾患モデル動物が有する疾患は特に限定されるものではないが、例えば膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。
【0140】
本実施の形態に係る疾患モデル動物は、自然発症した膵臓ホルモン産生細胞に係る疾患または膵臓ホルモンに係る疾患を有する疾患モデル動物や、人工的に発症させた膵臓ホルモン産生細胞に係る疾患または膵臓ホルモンに係る疾患を有する疾患モデル動物であることができる。前記自然発症による疾患モデル動物としては、例えば糖尿病モデル動物、具体的には糖尿病マウスモデル、糖尿病ラットモデル、糖尿病サルモデル、糖尿病イヌモデル等であることができる。また、前記人工的に発症させた疾患モデル動物としては、例えば膵臓ホルモンタンパク質をコードする遺伝子をノックアウトしたノックアウト動物や、前記膵臓ホルモンの欠乏や働きの低下等によっておこる疾患を発症させる遺伝子を導入したトランスジェニック動物等の、遺伝子改変動物であることができる。具体的には、例えば糖尿病発生遺伝子をマウスに導入した糖尿病発生トランスジェニックマウス等であることができる。
【0141】
本実施の形態に係るモデル動物は、免疫不全モデル動物であることができる。免疫不全動物は、非自己由来の細胞を移植されても拒絶できず安定して保持することができる。前記モデル動物がマウスである場合は、前記マウスはヌードマウスやスキッドマウス等であることができる。前記モデル動物がラットである場合は、前記ラットはT細胞機能欠如ラット等であることができる。
【0142】
本実施の形態に係るモデル動物は、医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いることができる。
【0143】
本実施の形態に係るモデル動物を医薬品候補物質の前臨床試験に用いる場合の具体例を以下に示す。前記疾患モデル動物が糖尿病モデルマウスであって、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞がインスリン産生細胞である場合、本実施の形態に係るモデル動物は、本実施の形態に係るインスリン産生細胞を担持した糖尿病モデルマウスであることができる。従って、このマウスに医薬品候補物質を作用させ前記マウスの血糖値の変化や副作用の有無等を検討することによって、前記医薬品候補物質の前臨床試験を行うことができる。この場合、前記医薬品候補物質は例えば、本実施の形態に係るインスリン産生細胞のインスリン産生能に影響を及ぼす作用を有する糖尿病治療薬または糖尿病治療補助薬等であることができる。前記影響は例えば、インスリンの産生期間、産生効率、または産生量等に及ぼす影響であることができる。
【0144】
また、本実施の形態に係るモデル動物を医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品、あるいはこれらの候補物質の効能試験で用いる場合も、前記医薬品候補物質の前臨床試験に用いる場合の具体例と同様にして、または、試験項目や試験方法等を適宜変更して用いることができる。具体的には例えば、本実施の形態に係る糖尿病モデルマウスに特定の食品を与えた後の血糖値の変化等を検討することによって、前記食品の効能試験を行うことができる。この場合、前記食品は例えば、本実施の形態に係るインスリン産生細胞のインスリン産生に影響を及ぼす糖尿病治療用補助食品であることができる。
【0145】
なお、本実施の形態に係るモデル動物の有する疾患、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞、試験を行う態様等は、無論上記に限定されるものではない。
【0146】
5、膵臓ホルモン産生能予測方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓ホルモン産生細胞について膵臓関連遺伝子の発現を検討する工程を含む。また、前記膵臓ホルモン産生細胞は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。
【0147】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生能予測方法は、個別の細胞における膵臓ホルモン産生能、細胞集団全体として有する膵臓ホルモン産生能、及び細胞集団において膵臓ホルモン産生能を有する細胞の割合等を予測する方法を含む。
【0148】
本実施の形態において、膵臓関連遺伝子の発現を検討する手法については特に限定されず、さまざまな手法を用いることができる。また、前記膵臓関連遺伝子の発現をレポーター遺伝子の発現によってモニターできる場合は、前記レポーター遺伝子の発現に基づいて前記膵臓関連遺伝子の発現を評価することができる。これらの遺伝子の発現をタンパク質の発現量によって検討する場合は、例えば当業者に公知のウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いることができる。また、核酸の発現量によって検討する場合は、前記核酸は例えばRNAであることができ、ノーザンブロッティング法、RT―PCR法等を用いることができる。また、サンプルから前記タンパク質または核酸を抽出せず、例えば免疫染色法、in situハイブリダイゼーション法等を用いた染色法を用いることも可能である。また、レポーター遺伝子産物の有する活性を指標として前記膵臓関連遺伝子の発現を評価することもできる。
【0149】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生能予測方法は、膵臓関連遺伝子の発現を検討した結果を用いて膵臓ホルモン産生能を予測することが可能である。例えば、膵臓関連遺伝子の発現を膵臓ホルモン産生能を予測する指標の一つとすることができる。前記膵臓関連遺伝子は特に限定されるものではないが、例えば前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。後述の実施例より、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られたインスリン産生細胞において、pdx−1遺伝子の発現レベルが高いほどインスリンの発現量が高いことが明らかになった。従って、前記方法によって得られたインスリン産生細胞におけるpdx−1の発現レベルを検討することによって、前記インスリン産生細胞のインスリン産生能を予測することができる。
【0150】
また、本実施の形態に係る膵臓ホルモンはインスリンだけでなく、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)であることができる。
【0151】
6、疾患の予防・治療方法
本実施の形態に係る疾患の予防・治療方法は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を用いた疾患の予防・治療方法である。
【0152】
前記疾患は例えば、膵臓疾患、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症であることができる。
【0153】
前記疾患の予防・治療方法は例えば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を生物に移植する工程を含むことができる。
【0154】
移植の具体的方法は、前記細胞を門脈内移植で肝臓に生着させる方法等、当業者に公知の手法を用いることができる。
【0155】
また、成人の糖尿病患者の治療には、1×104個/kgの膵島細胞が必要であることが知られている。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を移植に用いる場合に用いる細胞量は、例えば、前記値を目安とし、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン産生能を考慮して決定することができる。
【0156】
しかし、移植によるヒト疾患の予防・治療方法においては、非自己由来の細胞移植によっておこる免疫拒絶反応が最も懸念される。同種他家細胞移植においては、免疫抑制剤を使用したり、遺伝子改変を行ったり、ES細胞の核のみを患者細胞のものと置換することで、免疫拒絶反応を回避することが可能である。異種由来の細胞や臓器をヒトに移植した場合には、移植直後の超急性の拒絶反応が起きると救済はとても困難であり、さらに、長年ヒトに感染しないと信じられてきたその生物特有の微生物やウィルスが、ヒトに感染する危険因子であることが判明する場合もある。
【0157】
そこで、前記膵臓ホルモン産生細胞が由来とする幹細胞は、前記膵臓ホルモン産生細胞の移植を受ける生物の自己由来であることができる。これによれば、移植によっておこる免疫拒絶反応を回避することができる。なお、自己由来の幹細胞を用いた場合でも、幹細胞に刺激等を加えたことによって細胞の抗原性、特性等が変化し免疫拒絶反応が起こる可能性もあり、この場合は免疫抑制剤等を用いて免疫拒絶反応を回避することができる。
【0158】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞であることができる。幹細胞がES細胞である場合は、組織幹細胞を用いた場合よりも多くの膵臓ホルモン産生細胞を得ることが可能である。ES細胞は理論的には無限に増殖可能であるため、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の原料として安定な供給源となりうる。さらに、ES細胞は細胞系列が明確であり品質管理がしやすいという利点がある。幹細胞が組織幹細胞である場合は、前記組織幹細胞は例えば、表皮幹細胞、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞であることができ、好ましくは内胚葉系である肝幹細胞、膵幹細胞、または腸管幹細胞、特に好ましくは膵幹細胞であることができる。
【0159】
本実施の形態において、幹細胞が由来とする生物は、ES細胞または組織幹細胞を得ることができる生物であれば特に限定されずさまざまな生物を用いることができるが、好ましくは哺乳動物、特に好ましくは、幹細胞樹立やヒトへの再生医療に関する研究が進んでいるヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットであることができる。
【0160】
また、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様であることもできる。これによれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞が非自己の細胞由来である場合に免疫拒絶反応を抑制することができ、さらに一度体内に移植した膵臓ホルモン産生細胞を回収することが可能である。
【0161】
7、被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法
本実施の形態に係る被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の被験物質を作用させる工程と、前記被験物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記被験物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程とを含む。
【0162】
前記被験物質としては特に限定されず、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響を検討したい物質であればどのようなものでも用いることができるが、例えば、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。また、これらの混合物や、生物体、生物組織、または生物細胞からの抽出物、あるいは前記生物体、生物組織、または生物自体であることもできる。また、前記被験物質は天然物でも合成物でもよい。
【0163】
また、1または2以上の被験物質を作用させる工程に用いられる手法は、特に限定されるものではなく種々の手法を用いることができる。例えば、被験物質の存在下で、幹細胞から本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導される過程にある細胞や本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を、培養する手法を用いることができる。また、被験物質とこれらの細胞を、適切なバッファー中で一定時間混合する手法や、被験物質を本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に導入する手法も用いることができる。
【0164】
被験物質を作用させた場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞と、作用させない場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を比較検討する工程は、さまざまな観点から行うことができ、例えば、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子は特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。
【0165】
また、前記比較検討に用いる具体的手法についても特に限定されず、上記それぞれの指標に基づいて検討するのに適した手法を用いることができる。例えば、細胞が産生する膵臓ホルモン量について検討する場合は、それぞれの細胞中に存在する、または培地中に放出される膵臓ホルモン量を、例えば当業者に公知のウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等によって定量することによって検討することができる。また、例えば、特定の核酸の局在変化を検討する場合は、前記核酸は例えばRNAであることができ、例えば当業者に公知の免疫染色法、in situハイブリダイゼーション法等の染色法を用いて検討することが可能である。また、この比較検討する工程は、それぞれの細胞をモデル動物に担持させて行うことも可能である。なお、本実施の形態に係る比較検討する工程は、無論上記態様に限定されるものではない。
【0166】
前記被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響は特に限定されるものではないが、例えば、膵臓ホルモン産生細胞に対する毒性、膵臓ホルモン産生能の促進、または膵臓関連遺伝子発現の変化であることができる。
【0167】
8、膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の特定の影響を及ぼす物質の候補物質を作用させる工程と、前記候補物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記候補物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程とを含む。
【0168】
前記特定の影響とは、幹細胞から本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を取得する過程で生じる細胞や本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響であれば特に限定されないが、前記特定の影響を及ぼす物質とは例えば、膵臓ホルモン産生促進因子、膵臓ホルモン産生阻害因子、膵臓ホルモン分泌促進因子、膵臓ホルモン分泌阻害因子、膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、膵臓ホルモン産生細胞分化阻害因子、膵臓細胞分化関連因子、膵臓ホルモン産生細胞分化関連因子、膵臓疾患関連因子、糖尿病関連因子、ブドウ糖反応性関連因子、β細胞アポトーシス阻害剤、糖尿病治療に有効な薬剤、または自己免疫疾患抑制剤であることができる。
【0169】
前記候補物質としては特に限定されずどのようなものでも用いることができるが、例えば、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物であることができる。また、これらの混合物や、生物体、生物組織、または生物細胞からの抽出物、あるいは前記生物体、生物組織、または生物自体であることもできる。また、前記候補物質は天然物でも合成物でもよい。
【0170】
前記候補物質は、ライブラリーの態様であることができる。これによれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質を網羅的にスクリーニングすることができる。前記ライブラリーとしては特に限定されるものではないが、例えば、cDNAライブラリー、ペプチドライブラリー、合成化合物ライブラリー等であることができる。
【0171】
また、前記候補物質を選択したり入手したりする手段は特に限定されず、あらかじめ用意された物質を用いることや、新たに作製した物質を用いることができる。前記物質が例えば化合物である場合、あらかじめ用意された化合物を用いる場合は、例えば、ウェブ上で公開されているさまざまな化合物情報データベースを利用することができる。前記データベースとしては、例えば、NCI(米国国立がん研究所)等で公開されている化合物データベースを用いることができる。また、新たに作製した化合物を用いる場合は、例えば、特定の医薬品開発目的で合成した独自の化合物を用いることができる。特定の医薬品とは特に限定されるものではないが、例えば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞の膵臓ホルモン産生促進薬、膵臓ホルモン分泌促進薬、膵臓ホルモン産生細胞分化促進薬等であることができる。また、前記物質群を合成するには、例えば、コンビナトリアル・ケミストリー等の技術を用いることができる。
【0172】
また、前記候補物質は、前記候補物質が有する活性等を予測することによって、あらかじめ選別されることも可能である。予測する手段としては、さまざまなデータベースに加えて種々のソフトウェアを用いることもできる。前記ソフトウェアとしては、例えば、その物質の薬理活性や薬物動態、毒性等を事前に検証することができるソフトウェアや、化合物の体内での挙動をあらかじめ検証することができるソフトウェア等を挙げることができる。このような手段を利用することによって、コンピュータ上で大量の候補物質を高速で検証することが可能になり、本スクリーニング自体や例えばその後の製薬ステップにかかる、時間や労力、コスト等を削減することが期待できる。
【0173】
また、1または2以上の候補物質を作用させる工程に用いられる手法は、特に限定されるものではなく種々の手法を用いることができる。例えば、幹細胞から本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に分化誘導される過程で生じる細胞や本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を、候補物質の存在下で培養する手法を用いることができる。また、候補物質とこれらの細胞を、適切なバッファー中で一定時間混合する手法や、候補物質を本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に導入する手法も用いることができる。
【0174】
候補物質を作用させた場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞と、作用させない場合の本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞を比較検討する工程は、さまざまな観点から行うことができ、例えば、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとすることができる。前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物であることができる。前記膵臓関連遺伝子は特に限定されるものではないが、例えばpdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子であることができる。
【0175】
また、前記比較検討に用いる具体的手法についても特に限定されず、上記それぞれの指標に基づいて検討するのに適した手法を用いることができる。例えば、膵臓ホルモン産生促進因子や膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子等をスクリーニングする場合は、例えば、細胞が産生する膵臓ホルモン量を比較検討する指標の一つとし、候補物質を作用させた場合と作用させない場合における、細胞中に存在する、または培地中に放出される膵臓ホルモン量を比較検討することができる。ここで比較検討に用いる手法としては、例えば当業者に公知のウェスタンブロッティング法、ELISA法、EIA法、RIA法等を用いることができる。この比較検討の結果、候補物質を作用させた場合の方が膵臓ホルモン量が上昇していた場合は、前記候補物質は、膵臓ホルモン産生促進因子や膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子等である可能性がある。前記候補物質がライブラリーであることによって、候補物質を網羅的に比較検討してスクリーニングすることができる。また、この比較検討する工程は、それぞれの細胞をモデル動物に担持させて行うことも可能である。なお、本実施の形態に係る比較検討する工程は、無論上記態様に限定されるものではない。
【0176】
9、膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法は、膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞における、1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程と、両細胞間における前記遺伝子それぞれの発現量を比較する工程と、両細胞間で発現量の異なる遺伝子を特定する工程とを含む。
【0177】
これによれば、膵臓ホルモン産生細胞の付着性質及び/または浮遊性質の決定に関与している遺伝子を探索することができる。
【0178】
1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程、比較する工程、特定する工程に用いられる手法は特に限定されるものではなく、種々の手法を用いることができるが、例えば当業者に公知のマイクロアレイやサブトラクション法等を用いることができる。
【0179】
前記膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞は、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞であることができる。
【0180】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞のように浮遊系で継代維持可能な膵臓ホルモン産生細胞は新規である。また、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって付着細胞及び浮遊細胞が得られる場合、前記付着細胞及び浮遊細胞は、同じ培養条件のもとで得られてきた細胞である。浮遊細胞は付着細胞と比較して、細胞の継代操作や回収操作、前記操作の際に細胞に及ぶダメージの低さ、及び細胞回収率等において多くの利点を有している。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法によれば、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法によって得られる付着細胞及び浮遊細胞において、付着性質及び/または浮遊性質の決定に関与している遺伝子を探索することができる。また、これらの遺伝子は付着性質及び/または浮遊性質の決定だけでなく、膵臓ホルモン産生能に関わるシグナル伝達にも関与している可能性もある。
【0181】
10、本発明に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法の好ましい一態様
以下に、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法の好ましい一態様を示す。
【0182】
本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法において、好ましい膵臓ホルモンはインスリンである。また、好ましい幹細胞はES細胞である。
【0183】
従って、本実施の形態に係るインスリン産生細胞取得方法の好ましい態様は、ES細胞を、インスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む態様や、ES細胞を、付着細胞とインスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、前記浮遊細胞を単離する工程とを含む態様である。
【0184】
前記方法は、さらにpdx−1を発現させる工程を含むことが好ましい。これによって効率よくインスリン産生細胞を得たり、インスリンを効率よく産生させたりすることが可能になる。具体的には、GFP遺伝子等のレポーター遺伝子によってpdx−1遺伝子の発現レベルをモニターできる態様で、ES細胞のゲノムに組み込まれていることが好ましい。また、これらの遺伝子の発現は、テトラサイクリンやドキシサイクリン等を添加することによって制御可能であることが好ましい。
【0185】
前記方法はさらに、本実施の形態によって得られる浮遊細胞を継代する工程を含むことができる。後述の実施例より、pdx−1を発現させる工程を含む本実施の形態に係るインスリン産生細胞取得方法によって得られたインスリン産生細胞は、長期培養しても増殖維持することが可能であり、pdx−1の発現を維持している細胞はインスリン産生能を維持できることが明らかになった。従って、本実施の形態に係るインスリン産生細胞は継代を繰り返して増幅することが可能であり、移植等に用いるために必要な量のインスリン産生細胞を取得することが可能である。
【0186】
前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりもインスリンを産生する細胞の割合が多いことができる。
【0187】
11、本発明のその他の有用性
また、膵臓と肝臓は共に内胚葉由来の組織であり、膵臓細胞と肝臓細胞との間の相互変換が可能であることが知られている。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法を応用することによって、肝細胞を分化させることが可能であると考えられる。前記肝細胞は、幹細胞由来で、浮遊系で培養可能であることができる。従って、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法等は、膵臓ホルモン産生細胞に係る疾患や膵臓ホルモンに係る疾患を有する患者に有効であるだけでなく、肝疾患の患者にも有効に応用することができ、肝疾患の予防・治療に用いうる。また、胃、腸等、他の内胚葉由来の細胞においても同様に、本実施の形態に係る膵臓ホルモン産生細胞取得方法を応用することによって分化誘導しうると考えられる。
【実施例1】
【0188】
以下、本発明を実験例に基づき、図面を参照しながらより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は本実施例に限定されるものではない。
【0189】
(実験例1)インスリン産生細胞の分化誘導
ES細胞から分化誘導したインスリン産生細胞を得るために、発明者らが以前に樹立したpdx−1及びEGFP遺伝子をノックインしたマウスES細胞(ミヤザキ(Miyazaki S.)ら、「ダイアビーテス(Diabetes)」、2004年、第53巻、p.1030−7、図1)を用いて、分化誘導実験を行った。なお、前記pdx−1及びEGFP遺伝子をノックインしたES細胞は、図1の模式図に示すように、pdx−1遺伝子及びEGFP遺伝子の発現をテトラサイクリンによって同時に制御されることができる。また、ノックインベクターはROSA26遺伝子座にノックインされている(以下、このES細胞を「ROSA−PDX−1 ES細胞」と記す。)。なお、図1において、"neo"は「ネオマイシン耐性遺伝子」、"tTA"は「サイクリン制御性転写活性化因子」、"DTA"は「ジフテリアトキシンAフラグメント」をそれぞれ示す。
【0190】
(1)ROSA−PDX−1 ES細胞からインスリン細胞への分化誘導は、図2に示す実験ステップに従って行った。まず、ROSA−PDX−1 ES細胞を、1μg/ml ドキシサイクリン(Dox)(シグマ社製)存在下でpdx−1及びEGFP遺伝子を発現させずに培養した(ステージ0)。培地は、10% FCS(セルカルチャーテクノロジー社製)を加えたDulbecco's modified Eagle's medium(DMEM)(ギブコ社製)を用いた。
【0191】
(2)2〜3日後、Doxを除去した培地を用いて大腸菌培養用ディッシュに細胞を継代し、4〜5日後に胚様体(EB)を形成させた(ステージ1)。
【0192】
(3)さらに1〜2日後、ゼラチンコートしたディッシュに継代してESをディッシュに張り付かせた(ステージ2)。
【0193】
(4)翌日、培地を無血清ITSFn培地(5μg/ml インスリン(シグマ社製)、50μg/ml トランスフェリン(シグマ社製)、30nM 塩化セレン(シグマ社製)、5μg/ml フィブロネクチン(バイオメディカルテクノロジー社製)を添加したDMEM/F12(1:1)培地))に交換して3〜6日間培養し、ネスチン陽性細胞をセレクションした(ステージ3)。
【0194】
(5)生き残った細胞をゼラチンコートしたディッシュに継代し、さらに6〜8日間培養した。培地は、25μg/mlインスリン、100μg/mlトランスフェリン、20nml/lプロゲステロン、60μmol/lプトレスシン、30nmol/l亜セレン酸ナトリウム、10ng/mlヒトケラチノサイト増殖因子(KGF)(ペプロテック社製)、20ng/ml上皮細胞増殖因子(EGF)(シグマアルドリッチ社製)、25ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)(ストラスマンバイオテック社製)、B27サプリメント(インビトロジェン社製)、10ng/mlニコチンアミドを添加したDMEM/F12(1:1)培地(以下、この培地を「MHM培地+bFGF+EGF+KGF」と記す。)を用いた(ステージ4)。
【0195】
(6)細胞をゼラチンコートしたディッシュに継代した。培地は、(5)で用いた培地からbFGF、EGF、KGFを除いたMHM培地を用いた(以下、この培地を単に「MHM培地」と示す。)(ステージ5)。
【0196】
(7)この結果、ROSA−PDX−1 ES細胞から効率よくインスリン産生細胞が分化誘導され、付着細胞だけでなく、sphere状に浮遊するインスリン産生細胞も得られた(以下、このsphere状細胞を「ROSA−PDX−1 ES sphere」と記す。)。
【0197】
(8)(7)のディッシュから培養用ピペットを用いて培地を回収することによって、付着細胞と分離してROSA−PDX−1 ES sphereのみを回収した。このROSA−PDX−1 ES sphereを、酵素処理及びピペッティングにより1〜数個の細胞からなる細胞塊になるようにばらし、MHM培地で希釈して継代維持した。なお、実験例2以降の実験は、このROSA−PDX−1 ES sphereを用いて行った。
【0198】
(実験例2)GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereの単離
実験例1で分化誘導して得られたROSA−PDX−1 ES sphereは、MHM培地を用いて継代を繰り返すと、sphere状のまま増殖維持することができる。しかし、そのインスリン産生能は次第に低下し、また、GFPを発現する細胞も減少する傾向が見られる(図3)。
そこで、実験例1でROSA−PDX−1 ES sphereからGFPを強発現している細胞株、すなわちPDX−1を強発現している細胞株を濃縮することを目的として、EGFPをマーカーとしてソーティングを行った。
【0199】
(1)継代12回目のROSA−PDX−1 ES sphereから、EGFPをマーカーとして蛍光標識された細胞をソーティングした。ソーティングには、FACS Aria(BD FACSAria Cell Sorter;Becton Dickinson社製)を用いた。
【0200】
(2)図4に、GFP陽性細胞のFACSのプロフィールを示す。図4において、"Specimen"は「試料」、"Sample"は「サンプル」、"SSC−A"は「側方錯乱光」、"FSC−A"は「前方錯乱光」、"Count"は「細胞数」、"PE−Texas Red−A"は「PI(Propidium Iodide)」、"PE−A"は「PE(フィコエリスリン)」、"FITC−A"は「FITC」、"Tube"は「チューブ」、"Population"は「集団」、"All Events"は「総計数」、"Parent"は「母集団」、"Total"は「合計」をそれぞれ示す。図4のP4より、用いたROSA−PDX−1 ES sphere全体から、GFPを弱く発現している細胞は1.7%、P3より、GFPを強発現している細胞は0.7%の割合で採取できたことがわかった。以下、GFPの発現強度を指標として、前者のGFPを弱く発現している細胞を「GFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere」、後者のGFPを強発現している細胞を「GFP++ ROSA−PDX−1 ES sphere」と記す。また、これらの細胞をまとめて「GFP発現ROSA−PDX−1 ES sphere」と記す。
【0201】
(3)(2)で得られた細胞を、1.4×103/cell of 96 wellの濃度でプレーティングし(継代13回目)、同じくMHM培地で培養した。
【0202】
(4)(3)でプレーティングしたROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現を図5に示す。図5において、左の2図は、GFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere、右の2図は、GFP++ ROSA−PDX−1 ES sphereを示す。また、上の2図はプレーティング直後(継代13回目)、下の2図はプレーティングして2日後(継代13回目+2日)のGFPの発現像を示す。この結果から、EGFPをマーカーとしてソーティングすることにより、GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereを濃縮できることがわかった。また、ソーティングによって得られた細胞は、再培養しても増殖することが明らかになった。
【0203】
(実験例3)GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereの遺伝子発現
実験例2において単離したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現を検討するために、RT―PCR解析を行った。
【0204】
(1)実験例1で得られたROSA−PDX−1 ES sphereの継代9回目の細胞、同じく継代10日目の細胞、実験例2で得られた継代13日目のGFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere、同じくGFP++ ROSA−PDX−1 ES sphere、及びMIN6からtotal RNAを抽出した。なお、MIN6はマウスインスリノーマ由来の培養細胞であり、PDX−1、Insulin I、及びInsulin IIを発現しているポジティブコントロール細胞として用いた。また、total RNAの抽出はRNA STAT−60(テルテスト社製)を用い、付属のプロトコールに従って行った。
【0205】
(2)(1)で得られたtotal RNAを鋳型として、Insulin I、Insulin II、PDX−1、及びGAPDHについてRT−PCR解析を行い、発現量を比較した。RT−PCRに用いたプライマーは、Insulin Iについては配列表の配列番号1と配列番号2、Insulin IIについては配列表の配列番号3と配列番号4、PDX−1については配列表の配列番号5と配列番号6、GAPDHについては配列表の配列番号7と配列番号8に示す配列を用いた。なお、PDX−1について、このRT−PCR用いたプライマーは、内在性及び外因性のPDX−1どちらもの発現について検出することができるプライマーである。また、GAPDHはコントロールとして用いた。RT−PCRの条件は、Insulin I、Insulin IIについては94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を35サイクル、PDX−1については94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を40サイクル、GAPDHについては94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を25サイクルで行った。
【0206】
(3)RT−PCR解析の図6に示す。図6より、実験例2で得られたGFP+ ROSA−PDX−1 ES sphere及びGFP++ ROSA−PDX−1 ES sphereにおいて、Insulin IIの発現が上昇していることがわかった。また、Insulin Iの発現は観察されなかった。
【0207】
(4)次に、GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおいて、内在性のPDX−1の発現が誘導されているかどうかについて検討するため、内在性のPDX−1のみを検出できるプライマーを用いてRT−PCR解析を行った。内在性PDX−1の検出は配列表の配列番号9と配列番号10に示す配列を有するプライマーを用いて行い、RT−PCRの条件は94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を35サイクルで行った。また、コントロールのGAPDHについては、(3)で用いた配列と同じの塩基配列を持つプライマーを用い、同じRT−PCR条件で行った。
【0208】
(5)(4)の結果を図7に示す。図7より、GFP++ ROSA−PDX−1 ES sphereにおいて、内在性PDX−1の発現が誘導される可能性が示唆された。
【0209】
(実験例4)長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現
ROSA−PDX−1 ES sphereについて長期培養を行い、GFPの発現変化を検討した。
【0210】
(1)検討群として用意した長期培養ROSA−PDX−1 ES sphereを、図8に模式的に示す。図8における色のついた丸は、GFPを発現している細胞を表している。検討群として、実験例1で得られたROSA−PDX−1 ES sphereの継代29回目の細胞を、これまで除去していたDoxを培地に加えて継代した細胞群A、Doxを除いた培地に継代した細胞群B、EGFPをマーカーとしてソーティングして得たGFPを発現する細胞群D、及びGFPを発現していない細胞群Cの4群を用意した。培地はMHM培地を用いた。EGFPをマーカーとしたソーティングは、実験例2と同様にして行った。なお、細胞群Aでは培地にDoxを添加しているためGFPを発現している細胞が存在しないと考えられるが、細胞群BではDoxを添加していないためGFPを発現している細胞が含まれている。
【0211】
(2)FACS Calibur(Becton Dickinson社)を用いて、蛍光強度を解析した結果のドットプロットパターンを図9に示す。図9より、細胞群A、B、C、Dにはそれぞれ、GFPを発現する細胞が、細胞全体の0.1%、18.3%、0.6%、98.2%の割合で含まれていることがわかった。
【0212】
(3)次に、それぞれの細胞群をプレーティングし、細胞の増殖を検討した。図10に、プレーティング後5日目におけるGFPの発現像を示す。図10より、それぞれのROSA−PDX−1 ES sphereは、再培養しても増殖することがわかった。また、GFPの発現が認められない細胞群Cからは、再培養中にGFPを発現する細胞が再び出現する現象がみられることがわかった。
【0213】
(実験例5)長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現
長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現を検討するために、RT―PCR解析を行った。
【0214】
(1)実験例4で得られた細胞群A、B、C、D(それぞれ継代30回目に相当)、及びMIN6から、実験例3(1)と同様の方法を用いてtotal RNAを抽出した。
【0215】
(2)(1)で得られたtotal RNAを鋳型としてRT−PCR解析を行い、内胚葉分化マーカー遺伝子及びNotchシグナリングに関与する遺伝子の発現量を比較した。RT−PCRに用いたプライマー及びRT−PCRの条件は、外因性PDX−1については配列表の配列番号11と配列番号12で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を26サイクル、内在性PDX−1については配列表の配列番号9と配列番号10で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を35サイクルで行った。また、内胚葉分化マーカー遺伝子のRT−PCRに用いたプライマー及びRT−PCRの条件は、Insulin Iについては配列表の配列番号1と配列番号2で94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を35サイクル、Insulin IIについては配列表の配列番号3と配列番号4で94℃30秒、64℃30秒、72℃30秒を35サイクル、glucagonについては配列表の配列番号13と配列番号14で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を40サイクル、somatostatinについては配列表の配列番号15と配列番号16で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、P48については配列表の配列番号17と配列番号18で94℃30秒、60℃30秒、72℃60秒を35サイクル、PPについては配列表の配列番号19と配列番号20で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、amylaseについては配列表の配列番号21と配列番号22で94℃30秒、60℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Carboxy−peptidase Aについては配列表の配列番号23と配列番号24で94℃30秒、56℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Pax4については配列表の配列番号25と配列番号26で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を40サイクル、Isl 1については配列表の配列番号27と配列番号28で94℃30秒、55℃30秒、72℃60秒を40サイクル、Beta 2については配列表の配列番号29と配列番号30で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Nkx 6.1については配列表の配列番号31と配列番号32で94℃30秒、58℃30秒、72℃60秒を40サイクル、Glut 2については配列表の配列番号33と配列番号34で94℃30秒、64℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Glucokinaseについては配列表の配列番号35と配列番号36で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Kir 6.2については配列表の配列番号37と配列番号38で94℃30秒、62℃30秒、72℃60秒を30サイクル、Oct−3/4については配列表の配列番号39と配列番号40で94℃30秒、55℃30秒、72℃60秒を30サイクルで行った。Notchシグナリングに関与する遺伝子のRT−PCRに用いたプライマーは、Notch 1については配列表の配列番号41と配列番号42、Notch 2については配列表の配列番号43と配列番号44、Notch 3については配列表の配列番号45と配列番号46、Notch 4については配列表の配列番号47と配列番号48、Dllについては配列表の配列番号49と配列番号50、Jagged 1については配列表の配列番号51と配列番号52、Jagged 2については配列表の配列番号53と配列番号54に示す配列を用いた。なお、これらのNotchシグナリングに関与する遺伝子のRT−PCRの条件はすべて、94℃30秒、55℃30秒、72℃60秒を35サイクルで行った。また、コントロールのGAPDHについては配列表の配列番号7と配列番号8で94℃30秒、55℃30秒、72℃30秒を25サイクルで行った。
【0216】
(3)RT−PCRの結果を図11に示す。図11の結果より、内胚葉分化マーカー遺伝子については、PDX−1の発現レベルが高ければ、Insulin IIの発現量が高いことが示唆された。また、PDX−1の発現の低下に伴い、somatostatinの発現が増強することが認められた。さらに、PDX−1の発現レベルが高いと、Pax4、Isl1、Kir6.2等の発現が抑制されることがわかった。
【0217】
また、Notchシグナリングに関与する遺伝子については、PDX−1の発現の低下に伴い、Notch2の発現が増強することが認められた。この事実から、PDX−1は、Notch2の発現に関与している可能性が示唆された。
【0218】
また、Insulin IIの発現は確認できたが、内在性PDX−1の発現は誘導されていないことが確認された。これは、継代を繰り返した影響であることが原因の一つとして考えられた。
【0219】
(実験例6)長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおけるインスリンの発現
長期培養(継代30回目)したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphere、及びGFP非発現ROSA−PDX−1 ES sphereを用いて、C−ペプタイド及びPDX−1の発現を検討した。なお、C−ペプタイドはインスリンを生成する過程で生じる副産物であり、C−ペプタイドの発現検討によってインスリンの発現検討に代えることができる。
【0220】
(1)実験例4において、EGFPをマーカーとして用いたソーティングにより単離したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphere(細胞群D)、及びGFP非発現ROSA−PDX−1 ES sphere(細胞群C)から、当業者に公知の方法を用いてサイトスピン標本を作製し、免疫染色を行った。抗C−ペプタイド抗体は、C−peptide I(rat)(矢内原研究所製)及びC−peptide II(rat)(矢内原研究所製)の2種類を用い、抗PDX−1抗体は、抗PDXポリクローナル抗体(ウサギ)(トランスジェニック社製)を用いた。
【0221】
(2)(1)の免疫染色結果を図12に示す。図12において、左2列は細胞群Dの染色像を示し、右2列は細胞群Cの染色像を示す。また、それぞれの細胞群の左列の像において、上2段は、前記2種類の抗C−ペプタイド抗体による染色像を示し、下1段は、前記抗PDX−1抗体による染色像を示す。また、それぞれの細胞群の右列は、DAPI染色像であり核を示している。図12より、細胞群D及び細胞群Cともに、抗C−ペプタイド抗体で染まる細胞が観察された。
【0222】
(実験例7)ROSA−PDX−1 ES sphereの接着能及びインスリンの発現
浮遊状態で培養したROSA−PDX−1 ES sphereについて、接着能及びインスリンの発現を検討した。
【0223】
(1)実験例4で用意した、Doxを除いた培地に継代した継代30回目の細胞群B、及びDoxを培地に加えて継代した継代30回目の細胞群Aを、それぞれゼラチンコートしたディッシュに継代し3日間培養した。図13に操作の模式図を示す。
【0224】
(2)図14に(1)の細胞を免疫染色結果を示す。図14において、上2段は、細胞群Bの染色像を示し、下2段は、細胞群Aの染色像を示す。また、それぞれの細胞群において、左列からC−ペプタイドの発現、GFPの発現、DAPI染色像、明視野像を示し、C−ペプタイドの発現は、実験例8と同様に2種類の抗体を用いて検出した。図14の結果より、浮遊状態で培養したROSA−PDX−1 ES sphereはゼラチンコートしたディッシュに接着し、付着細胞が観察された。しかし、この付着細胞は継代することができなかった。また、免疫染色の結果、細胞群B及び細胞群Aともに、抗C−ペプタイド抗体で染まる細胞が観察された。
【0225】
(実験例8)ゼラチンコートディッシュに接着したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現
ゼラチンコートディッシュに接着したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現を検討するために、RT―PCR解析を行った。
【0226】
(1)実験例7で得られた細胞群A、B、及びMIN6から、実験例3(1)、(2)と同様の方法を用いてtotal RNAを抽出した。
【0227】
(2)(1)で得られたtotal RNAを鋳型としてRT−PCR解析を行い、内胚葉分化マーカー遺伝子及びNotchシグナリングに関与する遺伝子の発現量を比較した。また、GAPDHはコントロールとして用いた。RT−PCRに用いるプライマー及びRT−PCRの条件は、実験例5の(2)と同様にして行った。
【0228】
(3)RT−PCRの結果を図15に示す。図15より、実験例5の浮遊状態の細胞の場合と同様に、PDX−1の発現が高ければInsulin IIの発現が高いことが明らかになった。また、Notch2の発現についても実験例5の結果と同様に、PDX−1の発現に呼応していることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】pdx−1及びEGFP遺伝子のノックインしたES細胞(ROSA−PDX−1 ES細胞)作製の模式図である。
【図2】インスリン産生細胞の分化誘導の実験ステップを示す図である。
【図3】ROSA−PDX−1 ES sphereの継代12回目の像を示す図である。左図はGFPの発現像を示し、右図は明視野像を示す。
【図4】FACSによるGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereの単離を示す図である。
【図5】単離したGFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現像を示す図である。
【図6】GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現の検討を示す図である。
【図7】GFP強発現ROSA−PDX−1 ES sphereにおける内在性のPDX−1の発現検討を示す図である。
【図8】長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereの4つの検討群を模式的に示した図である。
【図9】FACSを用いて解析したGFPを発現する細胞割合を示す図である。
【図10】プレーティング後5日目のROSA−PDX−1 ES sphereにおけるGFPの発現像を示す。左図は明視野像を示し、右図はGFPの発現像を示す。
【図11】長期培養したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現の検討を示す図である。
【図12】ROSA−PDX−1 ES sphereにおけるC−ペプタイド及びPDX−1の発現を示す図である。
【図13】ゼラチンコートディッシュに継代したROSA−PDX−1 ES sphereの模式図を示す。
【図14】ゼラチンコートディッシュに付着したROSA−PDX−1 ES sphereにおけるC−ペプタイドの発現を示す図である。
【図15】ゼラチンコートディッシュに付着したROSA−PDX−1 ES sphereにおける遺伝子発現の検討を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む、膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項2】
幹細胞を、付着細胞と膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む、膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項3】
前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりも膵臓ホルモンを産生する細胞の割合が多い、請求項2に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項4】
さらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項5】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞である、請求項1または2に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項6】
前記幹細胞は哺乳動物由来である、請求項1、2、または5のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項7】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットである、請求項6に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項8】
さらに、膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項9】
前記膵臓関連遺伝子を、レポーター遺伝子と組み合わせて発現させる、請求項8に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項10】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、外因性の膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子である、請求項8または9に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項11】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現は、遺伝子発現制御システムによって制御される、請求項8〜10のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項12】
さらに、膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現レベルを基準の一つとして細胞を分類する工程を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項13】
前記分類する工程は、前記膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現が高い細胞を濃縮する工程である、請求項12に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項14】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子である、請求項8〜13のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項15】
前記レポーター遺伝子は、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子、またはlacZ遺伝子である、請求項9〜13のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項16】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法によって得られた、膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項18】
幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項19】
幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる浮遊細胞を継代することによって得られる、膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項20】
前記膵臓ホルモン産生細胞は浮遊細胞である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項21】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞である、請求項18または19に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項22】
前記幹細胞は哺乳動物由来である、請求項18、19、または21のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項23】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットである、請求項22に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項24】
膵臓関連遺伝子を発現している、請求項17〜23のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項25】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子である、請求項24に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項26】
医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いられる、請求項17〜25のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項27】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞である、請求項17〜26に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項28】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を含む組成物。
【請求項29】
前記組成物は、薬剤である、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物は、医療用組成物である、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項31】
前記医療用組成物は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様である、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
膵臓疾患の予防・治療に用いることができる、請求項28〜31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症の予防・治療に用いることができる、請求項28〜31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記組成物は、実験試薬または実験キットである、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項35】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を担持した、モデル動物。
【請求項36】
前記モデル動物は疾患モデル動物である、請求項35に記載のモデル動物。
【請求項37】
前記疾患モデル動物が有する疾患は、膵臓疾患である、請求項36に記載のモデル動物。
【請求項38】
前記疾患モデル動物が有する疾患は、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症である、請求項36に記載のモデル動物。
【請求項39】
前記モデル動物は、免疫不全モデル動物である、請求項35〜38のいずれか一項に記載のモデル動物。
【請求項40】
医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いられる、請求項35〜39に記載のモデル動物。
【請求項41】
膵臓ホルモン産生細胞について膵臓関連遺伝子の発現を検討する工程を含む、膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項42】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞である、請求項41に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項43】
膵臓関連遺伝子の発現を膵臓ホルモン産生能を予測する指標の一つとする、請求項41または42に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項44】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子である、請求項41または43に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項45】
前記膵臓ホルモンは、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)である、請求項41〜44のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項46】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を用いた、疾患の予防・治療方法。
【請求項47】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を生物に移植する工程を含む、疾患の予防・治療方法。
【請求項48】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様である、請求項46または47に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項49】
前記膵臓ホルモン産生細胞が由来とする幹細胞は、前記膵臓ホルモン産生細胞の移植を受ける生物の自己由来である、請求項46〜48のいずれか一項に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項50】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞である、請求項49に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項51】
前記幹細胞は哺乳動物由来である、請求項49または50に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項52】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットである、請求項51に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項53】
前記疾患は膵臓疾患である、請求項46〜52のいずれか一項に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項54】
前記疾患は糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症である、請求項46〜52のいずれか一項に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項55】
請求項17〜27に記載の膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の被験物質を作用させる工程と、
前記被験物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記被験物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む、被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項56】
前記被験物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物である、請求項55に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項57】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとする、請求項55に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項58】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物である、請求項57に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項59】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子である、請求項58に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項60】
前記被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響は、膵臓ホルモン産生細胞に対する毒性、膵臓ホルモン産生能の促進、または膵臓関連遺伝子発現の変化である、請求項55〜59に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項61】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の特定の影響を及ぼす物質の候補物質を作用させる工程と、
前記候補物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記候補物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む、膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項62】
前記候補物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物である、請求項61に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項63】
前記候補物質は、ライブラリーの態様である、請求項61または62に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項64】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとする、請求項61に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項65】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物である、請求項64に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項66】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子である、請求項65に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項67】
前記特定の影響を及ぼす物質は、膵臓ホルモン産生促進因子、膵臓ホルモン産生阻害因子、膵臓ホルモン分泌促進因子、膵臓ホルモン分泌阻害因子、膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、膵臓ホルモン産生細胞分化阻害因子、膵臓細胞分化関連因子、膵臓ホルモン産生細胞分化関連因子、膵臓疾患関連因子、糖尿病関連因子、ブドウ糖反応性関連因子、β細胞アポトーシス阻害剤、糖尿病治療に有効な薬剤、または自己免疫疾患抑制剤である、請求項61〜66に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項68】
膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞における、1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程と、
両細胞間における前記遺伝子それぞれの発現量を比較する工程と、
両細胞間で発現量の異なる遺伝子を特定する工程と
を含む、膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法。
【請求項69】
前記膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞は、請求項17〜27に記載の膵臓ホルモン産生細胞である、請求項68に記載の膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法。
【請求項70】
ES細胞を、インスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む、インスリン産生細胞取得方法。
【請求項71】
ES細胞を、付着細胞とインスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む、インスリン産生細胞取得方法。
【請求項72】
前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりもインスリンを産生する細胞の割合が多い、請求項71に記載のインスリン産生細胞取得方法。
【請求項73】
さらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含む、請求項70〜72のいずれか一項に記載のインスリン産生細胞取得方法。
【請求項74】
さらに、pdx−1を発現させる工程を含む、請求項70〜73のいずれか一項に記載のインスリン産生細胞取得方法。
【請求項1】
幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む、膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項2】
幹細胞を、付着細胞と膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む、膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項3】
前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりも膵臓ホルモンを産生する細胞の割合が多い、請求項2に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項4】
さらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項5】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞である、請求項1または2に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項6】
前記幹細胞は哺乳動物由来である、請求項1、2、または5のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項7】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットである、請求項6に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項8】
さらに、膵臓関連遺伝子を発現させる工程を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項9】
前記膵臓関連遺伝子を、レポーター遺伝子と組み合わせて発現させる、請求項8に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項10】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子は、外因性の膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子である、請求項8または9に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項11】
前記膵臓関連遺伝子及び/またはレポーター遺伝子の発現は、遺伝子発現制御システムによって制御される、請求項8〜10のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項12】
さらに、膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現レベルを基準の一つとして細胞を分類する工程を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項13】
前記分類する工程は、前記膵臓関連遺伝子またはレポーター遺伝子の発現が高い細胞を濃縮する工程である、請求項12に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項14】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子である、請求項8〜13のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項15】
前記レポーター遺伝子は、GFP遺伝子、EGFP遺伝子、CFP遺伝子、BFP遺伝子、YFP遺伝子、Venus遺伝子、dsRed遺伝子、またはlacZ遺伝子である、請求項9〜13のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項16】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞取得方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法によって得られた、膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項18】
幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項19】
幹細胞を、膵臓ホルモンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導することによって得られる浮遊細胞を継代することによって得られる、膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項20】
前記膵臓ホルモン産生細胞は浮遊細胞である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項21】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞である、請求項18または19に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項22】
前記幹細胞は哺乳動物由来である、請求項18、19、または21のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項23】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットである、請求項22に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項24】
膵臓関連遺伝子を発現している、請求項17〜23のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項25】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、及びHNF6遺伝子からなる群より選ばれる1または2以上の遺伝子である、請求項24に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項26】
医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いられる、請求項17〜25のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項27】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、インスリン産生細胞、グルカゴン産生細胞、ソマトスタチン産生細胞、または膵ポリペプチド(PP)産生細胞である、請求項17〜26に記載の膵臓ホルモン産生細胞。
【請求項28】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を含む組成物。
【請求項29】
前記組成物は、薬剤である、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記組成物は、医療用組成物である、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項31】
前記医療用組成物は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様である、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
膵臓疾患の予防・治療に用いることができる、請求項28〜31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症の予防・治療に用いることができる、請求項28〜31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記組成物は、実験試薬または実験キットである、請求項28または29に記載の組成物。
【請求項35】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を担持した、モデル動物。
【請求項36】
前記モデル動物は疾患モデル動物である、請求項35に記載のモデル動物。
【請求項37】
前記疾患モデル動物が有する疾患は、膵臓疾患である、請求項36に記載のモデル動物。
【請求項38】
前記疾患モデル動物が有する疾患は、糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症である、請求項36に記載のモデル動物。
【請求項39】
前記モデル動物は、免疫不全モデル動物である、請求項35〜38のいずれか一項に記載のモデル動物。
【請求項40】
医薬品候補物質の前臨床試験、医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の効能試験、あるいは医薬品、医薬部外品、食品、または化粧品の候補物質の効能試験で用いられる、請求項35〜39に記載のモデル動物。
【請求項41】
膵臓ホルモン産生細胞について膵臓関連遺伝子の発現を検討する工程を含む、膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項42】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞である、請求項41に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項43】
膵臓関連遺伝子の発現を膵臓ホルモン産生能を予測する指標の一つとする、請求項41または42に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項44】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子である、請求項41または43に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項45】
前記膵臓ホルモンは、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、または膵ポリペプチド(PP)である、請求項41〜44のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生能予測方法。
【請求項46】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を用いた、疾患の予防・治療方法。
【請求項47】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞を生物に移植する工程を含む、疾患の予防・治療方法。
【請求項48】
前記膵臓ホルモン産生細胞は、免疫隔離膜によって覆われたバイオ人工臓器の態様である、請求項46または47に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項49】
前記膵臓ホルモン産生細胞が由来とする幹細胞は、前記膵臓ホルモン産生細胞の移植を受ける生物の自己由来である、請求項46〜48のいずれか一項に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項50】
前記幹細胞は、ES細胞または組織幹細胞である、請求項49に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項51】
前記幹細胞は哺乳動物由来である、請求項49または50に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項52】
前記哺乳動物は、ヒト、サル、イヌ、ブタ、マウス、またはラットである、請求項51に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項53】
前記疾患は膵臓疾患である、請求項46〜52のいずれか一項に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項54】
前記疾患は糖尿病、糖尿病の合併症、網膜症、または腎症である、請求項46〜52のいずれか一項に記載の疾患の予防・治療方法。
【請求項55】
請求項17〜27に記載の膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の被験物質を作用させる工程と、
前記被験物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記被験物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む、被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項56】
前記被験物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物である、請求項55に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項57】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとする、請求項55に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項58】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物である、請求項57に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項59】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子である、請求項58に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項60】
前記被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響は、膵臓ホルモン産生細胞に対する毒性、膵臓ホルモン産生能の促進、または膵臓関連遺伝子発現の変化である、請求項55〜59に記載の被験物質が膵臓ホルモン産生細胞に及ぼす影響の検討方法。
【請求項61】
請求項17〜27のいずれか一項に記載の膵臓ホルモン産生細胞に、1または2以上の特定の影響を及ぼす物質の候補物質を作用させる工程と、
前記候補物質を作用させた場合の前記膵臓ホルモン産生細胞と、前記候補物質を作用させない場合の前記膵臓ホルモン産生細胞を、比較検討する工程と
を含む、膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項62】
前記候補物質は、核酸、タンパク質またはペプチド、あるいはこれら以外の化合物である、請求項61に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項63】
前記候補物質は、ライブラリーの態様である、請求項61または62に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項64】
前記比較検討する工程は、細胞の形態、細胞の生存率、細胞の増殖率、膵臓ホルモン発現が変化した細胞数または細胞割合、細胞が産生する膵臓ホルモン量、特定の遺伝子の発現量、特定の核酸の局在、特定のタンパク質の局在、特定のタンパク質の活性、あるいは特定のタンパク質の量の増加または減少を指標の一つとする、請求項61に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項65】
前記特定の遺伝子、特定の核酸、及び特定のタンパク質はそれぞれ、膵臓関連遺伝子、膵臓関連遺伝子産物をコードする核酸、及び膵臓関連遺伝子産物である、請求項64に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項66】
前記膵臓関連遺伝子は、pdx−1遺伝子、ngn3遺伝子、p48遺伝子、Pax6遺伝子、Pc2遺伝子、またはHNF6遺伝子である、請求項65に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項67】
前記特定の影響を及ぼす物質は、膵臓ホルモン産生促進因子、膵臓ホルモン産生阻害因子、膵臓ホルモン分泌促進因子、膵臓ホルモン分泌阻害因子、膵臓ホルモン産生細胞分化促進因子、膵臓ホルモン産生細胞分化阻害因子、膵臓細胞分化関連因子、膵臓ホルモン産生細胞分化関連因子、膵臓疾患関連因子、糖尿病関連因子、ブドウ糖反応性関連因子、β細胞アポトーシス阻害剤、糖尿病治療に有効な薬剤、または自己免疫疾患抑制剤である、請求項61〜66に記載の膵臓ホルモン産生細胞に特定の影響を及ぼす物質のスクリーニング方法。
【請求項68】
膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞における、1また2以上の遺伝子の発現量を検討する工程と、
両細胞間における前記遺伝子それぞれの発現量を比較する工程と、
両細胞間で発現量の異なる遺伝子を特定する工程と
を含む、膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法。
【請求項69】
前記膵臓ホルモン産生能を有する付着細胞及び浮遊細胞は、請求項17〜27に記載の膵臓ホルモン産生細胞である、請求項68に記載の膵臓ホルモン産生細胞に関与する遺伝子のスクリーニング方法。
【請求項70】
ES細胞を、インスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程を含む、インスリン産生細胞取得方法。
【請求項71】
ES細胞を、付着細胞とインスリンを産生する浮遊細胞を含む細胞集団に分化誘導する工程と、
前記浮遊細胞を単離する工程と
を含む、インスリン産生細胞取得方法。
【請求項72】
前記浮遊細胞は、前記付着細胞よりもインスリンを産生する細胞の割合が多い、請求項71に記載のインスリン産生細胞取得方法。
【請求項73】
さらに、前記浮遊細胞を継代する工程を含む、請求項70〜72のいずれか一項に記載のインスリン産生細胞取得方法。
【請求項74】
さらに、pdx−1を発現させる工程を含む、請求項70〜73のいずれか一項に記載のインスリン産生細胞取得方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−75022(P2006−75022A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259906(P2004−259906)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月8日 財団法人先端医療振興財団主催の「神戸医療産業都市構想 再生医療研究成果発表会〜神戸バイオメディカルクラスターの形成に向けて〜」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年4月 アメリカ糖尿病協会発行の「糖尿病 53巻」に発表
【出願人】(300061835)財団法人先端医療振興財団 (28)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月8日 財団法人先端医療振興財団主催の「神戸医療産業都市構想 再生医療研究成果発表会〜神戸バイオメディカルクラスターの形成に向けて〜」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年4月 アメリカ糖尿病協会発行の「糖尿病 53巻」に発表
【出願人】(300061835)財団法人先端医療振興財団 (28)
【Fターム(参考)】
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