説明

臓器移植患者における移植片拒絶反応の非侵襲的診断方法

本開示は、移植を受けた対象における移植の状態または転帰を診断または予測するための方法、装置、組成物、およびキットを提供する。本方法は、ドナー移植片由来の1つまたは複数の核酸の有無を判定する段階であって、該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸が、予め決定されたマーカープロファイルに基づいて同定される段階、および該1つまたは複数の核酸に基づいて、移植の状態または転帰を診断または予測する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
臓器移植は、患者が臓器の不全または障害を有する場合に生命を救う重要な医学的手技であり、現在では、心臓、肺、腎臓、および肝臓を含む多くの臓器を移植することが可能である。場合によっては、移植された臓器がレシピエント患者によって拒絶されることもあり、これにより生命を脅かす状況が生じる。拒絶反応に関して患者をモニターすることは難しくかつ高額であり、侵襲的手技を必要とする場合が多い。さらに、現在の監視方法は十分な感度が不足している。
【0002】
本発明は、拒絶反応について臓器移植患者をモニターする、高感度で、迅速で、かつ安価な非侵襲的方法を提供することにより、これらの問題を解決する。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、移植を受けた対象における移植の状態または転帰を診断および/または予測するための方法、装置、組成物、およびキットを提供する。いくつかの態様において、本発明は、(i) ドナーから移植を受けた対象由来の試料を提供する段階;(ii) 該ドナー移植片由来の1つまたは複数の核酸の有無を判定する段階であって、該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸が、予め決定されたマーカープロファイルに基づいて同定される段階;および(iii) 該1つまたは複数の核酸の有無に基づいて、移植の状態または転帰を診断または予測する段階を含む、移植の状態または転帰を診断または予測する方法を提供する。
【0004】
いくつかの態様において、移植の状態または転帰は、拒絶反応、寛容、非拒絶性の同種移植片傷害、移植片機能、移植片生着、慢性移植片傷害、または薬理学的免疫抑制力価を含む。いくつかの態様において、非拒絶性の同種移植片傷害は、虚血性傷害、ウイルス感染、周術期虚血、再灌流傷害、高血圧、生理的ストレス、活性酸素種に起因する傷害、および薬理学的薬剤によって起こる傷害の群より選択される。
【0005】
いくつかの態様において、試料は、血液、血清、尿、および便からなる群より選択される。いくつかの態様において、マーカープロファイルは多型マーカープロファイルである。いくつかの態様において、多型マーカープロファイルは、1つもしくは複数の一塩基多型(SNP)、1つもしくは複数の制限断片長多型(RFLP)、1つもしくは複数の短いタンデム反復(STR)、1つもしくは複数のタンデム反復数(VNTR)、1つもしくは複数の高頻度可変領域、1つもしくは複数のミニサテライト、1つもしくは複数のジヌクレオチド反復、1つもしくは複数のトリヌクレオチド反復、1つもしくは複数のテトラヌクレオチド反復、1つもしくは複数の単純配列反復、または1つもしくは複数の挿入エレメントを含む。
【0006】
いくつかの態様において、マーカープロファイルは、移植ドナーの遺伝子型を同定することにより決定される。いくつかの態様において、本方法は、移植を受ける対象の遺伝子型を同定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、本方法は、移植ドナーと移植を受ける対象を識別できるマーカーのプロファイルを確立する段階をさらに含む。いくつかの態様において、遺伝子型同定は、配列決定、核酸アレイ、およびPCRからなる群より選択される方法によって行われる。
【0007】
本明細書に記載される態様のいずれにおいても、移植片は任意の固形臓器および皮膚移植片であってよい。いくつかの態様において、移植は、腎臓移植、心臓移植、肝臓移植、膵臓移植、肺移植、腸移植、および皮膚移植からなる群より選択される。
【0008】
いくつかの態様において、核酸は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、RNA、およびRNAヘアピンからなる群より選択される。いくつかの態様において、核酸は、二本鎖DNA、一本鎖DNA、およびcDNAからなる群より選択される。いくつかの態様において、核酸はmRNAである。いくつかの態様において、核酸は循環しているドナー細胞から得られる。いくつかの態様において、核酸は循環している無細胞DNAである。
【0009】
いくつかの態様において、1つまたは複数の核酸の有無は、配列決定、核酸アレイ、およびPCRからなる群より選択される方法によって判定される。いくつかの態様において、配列決定はショットガン配列決定である。いくつかの態様においてアレイはDNAアレイである。いくつかの態様において、DNAアレイは多型アレイである。いくつかの態様において、多型アレイはSNPアレイである。
【0010】
いくつかの態様において、本方法は、1つまたは複数の核酸を定量する段階をさらに含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の核酸の量は移植の状態または転帰を示す。いくつかの態様において、所定の閾値を上回る1つまたは複数の核酸の量は、移植の状態または転帰を示す。いくつかの態様において、閾値は、移植片拒絶反応またはその他の病態の証拠のない臨床的に安定した移植後患者の規範的値である。いくつかの態様において、移植の異なる転帰または状態について異なる所定の閾値が存在する。いくつかの態様において、1つまたは複数の核酸の量の時間的な差は、移植の状態または転帰を示す。
【0011】
いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は少なくとも56%の感度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は少なくとも78%の感度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約70%〜約100%の特異度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約80%〜約100%の特異度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約90%〜約100%の特異度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約100%の特異度を有する。
【0012】
いくつかの態様において、本発明は、(i) ドナーから移植を受けた対象由来の試料中で検出された1つまたは複数の核酸からのデータを受信する段階であり、該1つまたは複数の核酸が該ドナー移植片由来の核酸であり、かつ該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸が、予め決定されたマーカープロファイルに基づいて同定される段階;および(ii) 該1つまたは複数の核酸の有無に基づいて、移植の状態または転帰を診断または予測する段階をコンピュータに実施させるための、その上に記録された1組の指示を含むコンピュータ可読媒体を提供する。
【0013】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載される方法の1つまたは複数を実行するための試薬およびそのキットを提供する。
【0014】
参照による組み入れ
本明細書において引用される出版物および特許出願はすべて、個々の出版物または特許出願が詳細にかつ個別に参照により組み入れられることが示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理が利用される例示的な態様を記載している以下の詳細な説明、および添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【図1】CAVの診断後の患者生存率を示す。
【図2】性別不一致な移植を受ける患者におけるドナーDNAの検出を示す。
【図3】性別不一致な移植を受け、かつ3A拒絶反応エピソードを患った移植患者におけるドナーDNAの検出に関する経時的研究を示す。
【図4】性別不一致な移植を受け、かつ3A拒絶反応エピソードを患った移植患者におけるドナーDNAの検出に関する経時的研究を示す。
【図5】本発明の1つの態様における、全移植患者をモニターするための一般的戦略を示す。
【図6】ドナーDNAのレシピエントDNAへの置換の4つのレベルを比較する配列決定の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明の特に好ましい態様について詳細に言及する。好ましい態様の例は、以下の実施例の項において説明する。
【0017】
特記されない限り、本明細書で使用する専門用語および科学用語はすべて、本発明が属する分野の当業者によって共通に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において言及した特許および出版物はすべて、全体として参照により組み入れられる。
【0018】
移植を受けた対象における移植の状態または転帰を診断または予測するための方法、装置、組成物、およびキットが提供される。移植の状態または転帰は、拒絶反応、寛容、非拒絶性の移植片傷害、移植片機能、移植片生着、慢性移植片傷害、または薬理学的免疫抑制力価を含み得る。
【0019】
本発明は、臓器移植患者をモニターするため、および/または移植の状態もしくは転帰(例えば、移植片拒絶反応)を診断もしくは予測するための高感度でかつ非侵襲的な方法、装置、組成物、およびキットについて記載する。いくつかの態様では、ドナーおよび移植前のレシピエントの両方の遺伝子型を確立して、移植後の臓器レシピエント由来の血液または尿などの体液中のDNAまたはRNAなどのドナー特異的核酸の検出を可能にするために、本方法、装置、組成物、およびキットが用いられる。
【0020】
いくつかの態様において、本発明は、患者または対象が移植片寛容を示しているかどうかを判定する方法を提供する。「移植片寛容」という用語は、対象が、該対象中/上に導入された移植片臓器、組織、または細胞を拒絶しない場合を含む。言い換えれば、対象は、該対象に移植された臓器、組織、または細胞を許容または維持する。本明細書で使用する「患者」または「対象」という用語は、ヒトおよびその他の哺乳動物を含む。
【0021】
いくつかの態様において、本発明は移植片拒絶反応を診断または予測する方法を提供する。「移植片拒絶反応」という用語は、急性移植片拒絶反応および慢性移植片拒絶反応の両方を包含する。「急性移植片拒絶反応またはAR」とは、移植された組織が免疫学的に異物である場合の、組織移植レシピエントの免疫系による拒絶反応である。急性拒絶反応は、レシピエントの免疫細胞による移植組織の浸潤により特徴付けられ、該免疫細胞はそのエフェクター機能を果たし、移植組織を破壊する。急性拒絶反応の発症は急速であり、一般に、ヒトにおいては移植手術後数週間以内に起こる。一般に、急性拒絶反応は、ラパマイシン、シクロスポリンA、抗CD40Lモノクローナル抗体等のような免疫抑制剤を用いて阻害または抑制され得る。
【0022】
「慢性移植片拒絶反応またはCR」は、一般に、ヒトにおいては、急性拒絶反応の免疫抑制が成功した場合でさえも、生着後数ヶ月〜数年以内に起こる。線維症は、あらゆる種類の臓器移植の慢性拒絶反応における共通した因子である。慢性拒絶反応は、典型的には、特定の臓器に特有の様々な特定の障害によって説明され得る。例えば、肺移植では、そのような障害には気道の線維増殖性破壊(閉塞性細気管支炎)が含まれ;心臓移植、または弁置換などの心臓組織の移植では、そのような障害には線維性アテローム性動脈硬化が含まれ;腎臓移植では、そのような障害には閉塞性腎障害、腎硬化症、尿細管間質性腎症が含まれ;および肝臓移植では、そのような障害には消失胆管症候群が含まれる。慢性拒絶反応はまた、免疫抑制剤と関連する虚血発作、移植組織の脱神経、高脂血症、および高血圧症によって特徴付けられ得る。
【0023】
いくつかの態様において、本発明は、移植、例えば同種移植を受けた対象について免疫抑制投与計画を決定する方法をさらに含む。
【0024】
本発明の特定の態様は、移植を受けた対象における移植片生着を予測する方法を提供する。本発明は、移植患者または対象における移植片が生着するかまたは失われるかを診断または予測する方法を提供する。特定の態様において、本発明は、長期移植片生着の存在を診断または予測する方法を提供する。「長期」移植片生着とは、1回または複数回の急性拒絶反応の以前のエピソードの発生にかかわらず、現行のサンプリングの域を超えた少なくとも約5年間にわたる移植片生着を意味する。特定の態様において、移植片生着は、急性拒絶反応のエピソードが少なくとも1回起こった患者について判定される。したがって、これらの態様は、急性拒絶反応後の移植片生着を判定または予測する方法を提供する。移植片生着は、移植療法、例えば免疫抑制療法との関連における特定の態様において判定または予測され、免疫抑制療法は当技術分野において公知である。さらなる他の態様において、急性拒絶反応のクラスおよび/または重症度(およびそれらの存在だけではない)を判定する方法が提供される。
【0025】
いくつかの態様において、本発明は、非拒絶性の移植片傷害を診断または予測する方法を提供する。非拒絶性の移植片傷害の例には、虚血性傷害、ウイルス感染、周術期虚血、再灌流傷害、高血圧、生理的ストレス、活性酸素種に起因する傷害、および薬理学的薬剤によって起こる傷害が含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
移植分野において公知であるように、移植臓器、組織、または細胞は同種間または異種間であってよく、したがって移植片は同種移植片または異種移植片であってよい。本方法によって検出または同定される移植片寛容表現型の特徴は、それが免疫抑制療法なしで起こる表現型である、すなわちそれが、免疫抑制剤が宿主に投与されていないような、免疫抑制療法を受けていない宿主に存在するということである。移植片は、任意の固形臓器および皮膚移植片であってよい。本明細書に記載される方法によって解析され得る臓器移植の例には、腎臓移植、膵臓移植、肝臓移植、心臓移植、肺移植、腸移植、腎臓移植後膵臓移植、および膵臓腎臓同時移植が含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
ある値域が提供される場合、その範囲の上限値と下限値の間の、特に文脈によって明白に指示されていない限り下限値の単位の10分の1までの各介在値、およびその規定範囲内の任意の他の規定値または介在値が本発明内に包含されることが理解される。これらのより小さな範囲の上限値および下限値は、独立的にそのより小さな範囲内に含まれてよく、具体的に除外される任意の限界値が規定範囲内にある限り、やはり本発明内に包含される。規定範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それら含まれた限界値の一方または両方を除外する範囲もまた本発明に含まれる。
【0028】
ある範囲は、本明細書において「約」という用語が先行する数値で提示される。「約」という用語は、本明細書において、その用語が先行する数字に近似しているかまたはほぼ等しい数字ばかりでなく、それが先行する正確な数字を字義通り補助するために用いられる。数字が、具体的に記載されている数字に近似しているのか、またはほぼ等しいのかの判定において、近似しているかまたはほぼ等しい記載されていない数字は、それが提示されている文脈中で、具体的に記載されている数字の実質的な同等物を提供する数字であってよい。
【0029】
本発明の実施は、特記しない限り、当技術分野の技術の範囲内にある免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス、および組換えDNAの従来の技法を使用する。Sambrook, Fritsch and Maniatis, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd edition (1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel, et al. eds., (1987));the series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.):PCR 2: A PRACTICAL APPROACH (M.J. MacPherson, B.D. Hames and G.R. Taylor eds. (1995))、Harlow and Lane, eds. (1988) ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL、およびANIMAL CELL CULTURE (R.I. Freshney, ed. (1987))を参照されたい。
【0030】
序論
移植を受けた対象における移植の状態または転帰を診断または予測するための方法、装置、組成物、およびキットが提供される。
【0031】
上記したように、移植の状態または転帰に関して移植患者をモニターすることは難しくかつ高額であり、感度が悪くかつ侵襲的な手技を必要とする場合が多い。例えば、心臓移植患者において、急性拒絶反応の監視は、移植後の最初の1年間に1週間または1ヶ月間隔で定期的に行われる連続した心内膜生検を必要とし、これは大部分の患者で合計6〜8回の生検となる。免疫抑制、拒絶反応の監視、ならびに生命を脅かす感染症の早期の認識および治療の進歩のおかげで、心臓移植後の早期転帰は継続的に改善されている(Taylor, D.O., et al., J Heart Lung Transplant, 27, 943-956 (2008))。しかしながら、大部分が移植心冠動脈病変(CAV)に起因する後期死亡率では、同様の改善はなされていない。(図1) 米国におけるおよそ22,000名の生存している心臓移植レシピエントにおいては、今日でも、CAVがいまだに後期生着不全および死亡の主な原因である。冠動脈造影法(標準治療)による検出後の患者の死亡率は容認しがたいほど高く、2年死亡率は50%と報告されているため、血管造影法により明白な疾患、移植片機能不全の発症または症状発現の前に、CAVを早期検出することが重要である。CAVの現在の監視方法は十分な感度が不足しているか、または侵襲的手技を必要とし、最もよく適用される方法である冠動脈造影法には感度が足りない(Kobashigawa, J.A., et al., J Am Coll Cardiol, 45, 1532-1537 (2005))。疾患重症度の過小評価に起因する診断の遅れは、冠動脈造影法の特徴であり、これは大部分は血管内超音波法(IVUS)によって克服される。(Fitzgerald, P.J., et al., Circulation, 86, 154-158 (1992)) しかしながら、これらの侵襲的な左心動脈カテーテル法はいずれもコストがかかり、資源集約的であり、かつ死亡率の重大なリスクおよび患者の苦痛を伴う。血管造影法により明白な疾患、移植片機能不全の発症または症状発現の前に、CAVを早期検出することは、CAVの進行を遅らせ、時にはこれを改善する、新たに出現する治療法の適切な使用を導くために重要である。急性拒絶反応およびCAVを早期に、非侵襲的に、安全に、かつ費用効果的に検出するためのマーカーの開発、ならびに診療所で使用され得る実用的でかつ信頼性のある検査へのそれらの迅速な変換は、米国におけるおよそ22,000名の生存している心臓移植レシピエントおよび世界的に見て同等数のレシピエントの満たされていない主要な医学的必要性を示す。
【0032】
より新規な免疫抑制投与計画による介入後の、CAVの進行の遅れおよび/または改善を実証する最近の研究により、早期診断およびリスク層別化の差し迫った必要性がさらに強調される。これらのより新規な治療法の使用は、有害作用、薬物相互作用、およびコストによって妨げられるため、利点がリスクを上回る患者を同定することが重要である。死亡率および罹患率へのその影響は別として、CAV監視は、資源利用および患者の合併症の可能性の観点からコストがかかる。心臓移植後の最初の5年間に年1回の冠動脈造影法を実施する現在の標準治療を前提として、5年目まで生存する患者はそれぞれ、血管造影1回当たり平均的なフルコストが$25,000である血管造影を4回受けることになる。心臓移植後の5年生存率は72%であるため、1年間に心臓移植を受ける2,000名の患者のうちおよそ1,440名の患者が4回の手技を受け、合計で少なくとも5,760回の手技となる。冠動脈造影1回当たり$25,000の平均コストでは、これは、心臓移植後の患者をモニターするための医療費として、1年当たり合計$144,000,000に達することになる。CAVのリスクが低い患者を同定する非侵襲的な検査は、冠動脈造影法がこの群において安全に回避され、それにより患者らの長期管理のコストがかなり削減され得ることを意味する。
【0033】
他の種類の移植を受ける患者も、同様の困難および出費を経験する。
【0034】
a. 循環核酸
循環しているまたは無細胞のDNAは、1948年にヒト血漿中で最初に検出された(Mandel, P. Metais, P., C R Acad. Sci. Paris, 142, 241-243 (1948)) それ以来、疾患とのそのつながりがいくつかの領域で確証された。(Tong, Y.K. Lo, Y.M., Clin Chim Acta, 363, 187-196 (2006)) 研究から、血液中の循環核酸の多くが壊死細胞またはアポトーシス細胞から生じ(Giacona, M.B., et al., Pancreas, 17, 89-97 (1998))、アポトーシスによる核酸レベルの大きな上昇が癌などの疾患において認められることが明らかにされている。(Giacona, M.B., et al., Pancreas, 17, 89-97 (1998);Fournie, G.J., et al., Cancer Lett, 91, 221-227 (1995)) 循環DNAが、癌遺伝子における変異、マイクロサテライト変化、およびある種の癌に関してはウイルスゲノム配列を含む、疾患の顕著な徴候を有する癌については特に、血漿中のDNAまたはRNAが疾患の潜在的バイオマーカーとしてますます研究されるようになってきている。例えば、Diehlらは最近、全循環DNA中の低レベルの循環腫瘍DNAに関する定量的アッセイが、臨床的に用いられている標準バイオマーカーである癌胎児抗原と比較して、結腸直腸癌の再発を検出するためのより優れたマーカーとして役立つことを実証した。(Diehl, F., et al., Proc Natl Acad Sci, 102, 16368-16373 (2005); Diehl, F., et al., Nat Med, 14, 985-990 (2008)) Maheswaranらは、薬物治療に影響を及ぼす、肺癌患者における上皮増殖因子受容体の活性化変異を検出するための、血漿中の循環細胞の遺伝子型同定の使用を報告した。(Maheswaran, S., et al., N Engl J Med, 359, 366-377 (2008)) これらの結果を合わせて、血漿中に遊離しているかまたは循環細胞に由来する両方の循環DNAが、癌の検出および治療における有用な種として確証される。循環DNAはまた、胎児診断に関して健常患者においても有用であり、母体血液中で循環している胎児DNAは、性別、rhesus D状態、胎児異数性、および伴性障害のマーカーとして役立つ。Fanらは最近、羊水穿刺または絨毛採取などのより侵襲性が高くかつリスクの高い技法に取って代わることのできる方法論である、母体血液試料から得られた無細胞DNAのショットガン配列決定により胎児異数性を検出するための戦略を実証した。(Fan, H.C., Blumenfeld, Y.J., Chitkara, U., Hudgins, L., Quake, S.R., Proc Natl Acad Sci, 105, 16266-16271 (2008))
【0035】
循環核酸のこれらの適用すべてにおいて、患者の正常遺伝子型と異なる配列の存在が、疾患を検出するために用いられている。癌では、遺伝子の変異が疾患の進行の明らかな徴候であり;胎児診断では、母体DNAと比較して胎児に特異的な配列の検出により、胎児の健康状態の解析が可能になる。
【0036】
いくつかの態様において、本発明は、臓器ドナー、さもなくば患者にとっての「異物」に由来する配列が特異的に定量され得る、臓器移植患者の非侵襲的診断を提供する。任意の理論に限定されることを意図しないが、無細胞DNAまたはRNAはアポトーシス細胞から生じる場合が多いため、循環核酸中のドナー特異的配列の相対量は、心臓、肺、肝臓、および腎臓を含むがこれらに限定されない多くの種類の固形臓器移植について、移植患者における進行中の臓器不全の予測尺度を提供するはずである。
【0037】
b. 循環核酸および移植片拒絶反応
いくつかの態様において、本発明は、移植の状態または転帰の診断、予後診断、検出、および/または治療のために、血漿中に遊離しているかまたは循環細胞に由来するかいずれかの循環核酸を検出および/または定量するための方法、装置、組成物、およびキットを提供する。性別不一致な肝臓および腎臓移植患者におけるドナーDNAの検出の主張が存在する;女性患者の血液中の男性ドナー由来のY染色体配列を探索するために、従来のPCRが用いられた。(Lo, Y.M., et al., Lancet, 351, 1329-1330 (1998) しかしながら、後の研究において、Y染色体特異的配列は、より正確な定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)アッセイを用いて、患者18名中16名においてバックグラウンドを超えて検出されなかった。 (Lui, Y.Y., et al., Clin Chem, 49, 495-496 (2003)) 腎臓移植において、同様に性別不一致である移植患者の尿試料が解析され、移植直後および移植片拒絶反応エピソード中に、Y染色体DNAが患者において検出された。(Zhang, J., et al., Clin Chem, 45, 1741-1746 (1999);Zhong, X.Y., et al., Ann N Y Acad Sci, 945, 250-257 (2001))
【0038】
実施例1では、性別不一致である心臓移植レシピエントを調べ、デジタルPCR(Warren, L., Bryder, D., Weissman, I.L., Quake, S.R., Proc Natl Acad Sci, 103, 17807-17812 (2006);Fan, H.C. Quake, S.R., Anal Chem, 79, 7576-7579 (2007))を適用して、心内膜生検により3Aまたは3B等級の拒絶反応エピソードが判定されたのと同時に採取された血漿試料中のドナー由来Y染色体シグナルのレベルを検出した。対照の女性間移植患者4名からは、有意なY染色体シグナルは検出されなかったのに対して、4回の拒絶反応エピソードにわたる男性から女性への移植患者3名については、拒絶反応時点において、全ゲノムの1.5〜8%の割合のY染色体シグナルが認められた(図2)。これらの患者のうちの1名に関する経時的研究から、血漿中で検出されるY染色体のレベルは、拒絶反応の3ヶ月前の時点では血漿中で無視できたが、生検により拒絶反応が判定された時点では、全ゲノムの2%の割合まで>10倍増加したことが明らかにされた(図3および4を参照されたい)。まとめると、これらの結果から、心臓移植患者について、血漿中に存在するドナー由来DNAが臓器不全の発症の潜在的マーカーとして役立ち得ることが確証される。
【0039】
これらの研究はそれぞれ、異なる固形臓器移植について体液中のドナーDNAを実証するが、それらはすべて男性由来の臓器を女性が受け取る特別な場合に限定され、女性から女性が受け取る、男性から男性が受け取る、または女性から男性が受け取る場合には機能しない。過去の男児妊娠または輸血が移植臓器以外の供給源に由来するY染色体特異的シグナルをもたらし得る、女性患者における微小キメラ化の蔓延から、この戦略によるさらなる問題が生じる。(Hubacek, J. A., Vymetalova, Y., Bohuslavova, R., Kocik, M., Malek, I., Transplant Proc, 39, 1593-1595 (2007);Vymetalova, Y., et al., Transplant Proc, 40, 3685-3687 (2008)) 腎臓および膵臓移植患者に特異的に、循環DNA中のドナー特異的なヒト白血球抗原(HLA)対立遺伝子の検出が、臓器拒絶反応のシグナルとして考慮された。(Gadi, V.K., Nelson, J.L., Boespflug, N.D., Guthrie, K.A., Kuhr, C.S., Clin Chem, 52, 379-382 (2006)) しかしながら、この戦略もまた、よく見られるHLA型では特に、すべてのドナーとレシピエントのHLA対立遺伝子を識別できないこと、および輸血によるような微小キメラ化の潜在的複雑化によって限定される。(Baxter-Lowe, L.A. Busch, M.P., Clin Chem, 52, 559-561 (2006))
【0040】
いくつかの態様において、本発明は、他の外来供給源由来のDNAによる微小キメラ化の潜在的問題を回避し、かつ性別を考慮することなくすべての臓器レシピエントに一般的である、移植患者における移植片拒絶反応の非侵襲的検出への普遍的アプローチを提供する。いくつかの態様では、ドナー臓器について遺伝子フィンガープリントが作製される。このアプローチにより、ドナーおよびレシピエントの性別に無関係な様式で作製され得る、臓器移植によってのみ生じる配列の信頼性のある同定が可能になる。
【0041】
いくつかの態様において、ドナーおよびレシピエントはいずれも、移植前に遺伝子型が同定される。移植ドナーおよび移植レシピエントの遺伝子型を同定するために用いられ得る方法の例には、全ゲノム配列決定、エキソーム配列決定、または多型アレイ(例えば、SNPアレイ)が含まれるが、これらに限定されない。2つの供給源の間の信頼性のありかつ識別可能な1組のマーカーが確立される。いくつかの態様において、1組のマーカーは1組の多型マーカーを含む。多型マーカーには、一塩基多型(SNP)、制限断片長多型(RFLP)、短いタンデム反復(STR)、タンデム反復数(VNTR)、高頻度可変領域、ミニサテライト、ジヌクレオチド反復、トリヌクレオチド反復、テトラヌクレオチド反復、単純配列反復、およびAluなどの挿入エレメントが含まれる。いくつかの態様において、1組のマーカーはSNPを含む。
【0042】
移植後、患者から血液などの体液を採取し、マーカーについて解析することができる。体液の例には、塗抹標本、痰、生検標本、分泌物、脳脊髄液、胆汁、血液、リンパ液、唾液、および尿が含まれるが、これらに限定されない。ドナー特異的マーカー(例えば、SNPなどの多型マーカー)の検出、同定、および/または定量は、循環核酸(例えば、無細胞DNA)のリアルタイムPCR、チップ(例えば、SNPチップ)、ハイスループットショットガン配列決定、および本明細書に記載される方法を含む当技術分野で公知の他の方法を用いて行うことができる。ドナー核酸の割合を経時的にモニターすることができ、この割合の増加を用いて、移植の状態または転帰(例えば、移植片拒絶反応)を判定することができる。
【0043】
いくつかの態様において、移植が異種移植である場合には、ドナー特異的マーカーの検出、同定、および/または定量は、1つまたは複数の核酸(例えば、DNA)をその種のゲノムにマッピングして、該1つまたは複数の核酸が移植ドナーに由来するかどうかを判定することによって行うことができる。移植が異種移植である場合、上記の多型マーカーを用いることもできる。
【0044】
本明細書に記載される態様のいずれにおいても、移植片は任意の固形臓器または皮膚移植片であってよい。本明細書に記載される方法によって解析され得る臓器移植の例には、腎臓移植、膵臓移植、肝臓移植、心臓移植、肺移植、腸移植、腎臓移植後膵臓移植、および膵臓腎臓同時移植が含まれるが、これらに限定されない。
【0045】
試料
いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、核酸に対して1つまたは複数の遺伝子解析または検出段階を実施する段階を含む。いくつかの態様において、標的核酸は、移植を受けた対象から採取された試料に由来する。そのような対象は、ヒト、または例えばウシ、ニワトリ、ブタ、ウマ、ウサギ、イヌ、ネコ、もしくはヤギなどの家畜動物であってよい。いくつかの態様において、本発明において用いられる細胞は患者から採取される。動物、例えばヒト由来の試料には、例えば、全血、汗、涙、唾液、耳液(ear flow)、痰、リンパ液、骨髄浮遊液、リンパ液、尿、唾液、精液、膣液、脳脊髄液、脳液、腹水、乳汁、呼吸器液、腸管液、もしくは尿生殖路液の分泌液、組織もしくは臓器(例えば、肺)の洗浄液、または乳房、肺、腸、皮膚、子宮頸部、前立腺、膵臓、心臓、肝臓、および胃などの臓器から採取された組織が含まれ得る。例えば、組織試料は、機能的に関連する細胞または隣接する細胞の領域を含み得る。このような試料は細胞の複雑な集団を含んでよく、これは集団としてアッセイすることもできるし、または亜集団に分離することもできる。このような細胞試料および無細胞試料は、遠心分離、水簸、密度勾配分離、アフェレーシス、親和性選択、パニング、FACS、Hypaqueを用いる遠心分離等によって分離することができる。特定の細胞型で同定されるマーカーに特異的な抗体を使用することによって、相対的に均一な細胞の集団を得ることができる。あるいは、不均一な細胞集団を使用することもできる。細胞はまた、フィルターを使用して分離することもできる。例えば、全血を、所望の細胞型またはクラスを選択する孔径を含むよう操作されたフィルターに適用することもできる。米国特許出願第09/790,673号に開示されているように、5〜10μmの孔径を有するフィルターを使用して、赤血球の溶解後の希釈された全血から細胞を濾過して取り除くことができる。その他の装置は血流から細胞を分離することができる、Demirci U, Toner M., Direct etch method for microfluidic channel and nanoheight post-fabrication by picoliter droplets, Applied Physics Letters 2006; 88 (5), 053117;およびIrimia D, Geba D, Toner M., Universal microfluidic gradient generator, Analytical Chemistry 2006; 78: 3472-3477を参照されたい。試料が得られたならば、これを直接使用することができ、凍結することができ、または適切な培養液中に短期間維持することができる。本発明の方法に従って使用するための1つまたは複数の細胞を単離する方法は、当技術分野で十分に確立された標準的な技法およびプロトコールに従って行われる。
【0046】
血液試料を採取するには、当技術分野で公知の任意の技法、例えばシリンジまたはその他の真空吸引装置を用いることができる。血液試料は任意に、濃縮する前に前処理または加工することができる、前処理段階の例には、安定剤、保存剤、固定剤(fixant)、溶解試薬、希釈剤、抗アポトーシス試薬、抗凝固試薬、抗血栓試薬、磁気特性調節試薬、緩衝試薬、浸透圧調節試薬、pH調節試薬、および/または架橋試薬などの試薬の添加が含まれる。
【0047】
血液試料が採取された時点で、濃縮する前に、抗凝固剤および/または安定剤のような保存剤を試料に添加することができる。これにより、解析/検出のための時間が延長される。したがって、血液試料などの試料は、試料を採取した時点から1週間、6日、5日、4日、3日、2日、1日、12時間、6時間、3時間、2時間、または1時間以内に、本明細書における方法および系のいずれかで解析することができる。
【0048】
いくつかの態様において、血液試料は、血液試料中の1つまたは複数の細胞または成分を選択的に溶解する薬剤と混合することができる。例えば、有核細胞が濃縮された試料を作製するために、血小板および/または除核赤血球を選択的に溶解する。続いて、当技術分野で公知の方法を用いて、関心対象の細胞を試料から分離することができる。
【0049】
対象由来の試料(例えば、血液試料)を採取する場合、その量は、対象の大きさおよびスクリーニングされる状態に応じて異なり得る。いくつかの態様では、50、40、30、20、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1 mLまでの試料を採取する。いくつかの態様では、1〜50、2〜40、3〜30、または4〜20 mLの試料を採取する。いくつかの態様では、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100 mLを超える試料を採取する。
【0050】
核酸
本明細書に記載される方法によって解析され得る試料由来の核酸には、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、RNA(例えば、mRNAまたはmiRNA)、およびRNAヘアピンが含まれる。核酸に対して行われ得る遺伝子解析の例には、例えば配列決定、SNP検出、STR検出、RNA発現解析、および遺伝子発現が含まれる。
【0051】
いくつかの態様では、さらなる遺伝子解析のために、1 pg、5 pg、10 pg、20 pg、30 pg、40 pg、50pg、100 pg、200 pg、500 pg、1 ng、5 ng、10 ng、20 ng、30 ng、40 ng、50 ng、100 ng、200 ng、500 ng、1 ug、5 ug、10 ug、20 ug、30 ug、40 ug、50 ug、100 ug、200 ug、500 ug、または1 mg未満の核酸が試料から得られる。場合によっては、さらなる遺伝子解析のために、約1〜5 pg、5〜10 pg、10〜100 pg、100 pg〜1 ng、1〜5 ng、5〜10 ng、10〜100 ng、100 ng〜1 ugの核酸が試料から得られる。
【0052】
いくつかの態様では、標的核酸分子を検出および/または定量するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様では、複数の標的核酸分子を検出および/または定量するために、本明細書に記載される方法が用いられる。本明細書に記載される方法は、少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個の異なる標的核酸を解析することができる。
【0053】
いくつかの態様では、別の核酸と1 ntだけ異なる標的核酸の間を識別するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様では、別の核酸と1 nt、または1、2、3、5、10、15、20、21、22、24、25、30 nt超だけ異なる標的核酸の間を識別するために、本明細書に記載される方法が用いられる。
【0054】
いくつかの態様では、ゲノムDNA領域を検出および/または定量するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、ゲノムDNA領域を識別および定量することができる。本明細書に記載される方法は、少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個の異なるゲノムDNA領域を識別および定量することができる。本明細書に記載される方法は、1 nt、または1、2、3、5、10、15、20、21、22、24、25、30 nt超だけ異なるゲノムDNA領域を識別および定量することができる。
【0055】
いくつかの態様では、DNA多型を含む領域などのゲノムDNA領域を検出および/または定量するために、本明細書に記載される方法が用いられる。多型とは、集団における2つまたはそれ以上の遺伝的に決定される別の配列または対立遺伝子の出現を指す。多型マーカーまたは部位とは、相違が起こる遺伝子座である。好ましいマーカーは、それぞれが、選択された集団の好ましくは1%よりも高い、およびより好ましくは10%または20%よりも高い頻度で出現する少なくとも2つの対立遺伝子を有する。多型は、1つもしくは複数の塩基変化、1つの挿入、反復、または欠失を含み得る。多型遺伝子座は、1塩基対程度に小さくてよい。多型マーカーには、一塩基多型(SNP)、制限断片長多型(RFLP)、短いタンデム反復(STR)、タンデム反復数(VNTR)、高頻度可変領域、ミニサテライト、ジヌクレオチド反復、トリヌクレオチド反復、テトラヌクレオチド反復、単純配列反復、およびAluなどの挿入エレメントが含まれる。2つの核酸間の多型は自然に起こり得るか、または化学物質、酵素、もしくはその他の薬剤への曝露もしくはそれらとの接触、もしくは核酸に損傷を引き起こす作用物質、例えば紫外線照射、突然変異原、もしくは発癌物質への曝露によって引き起こされ得る。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、DNA多型を含むDNA領域を識別および定量することができる。本明細書に記載される方法は、少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個のDNA多型を識別および定量することができる。
【0056】
いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個の異なる多型マーカーを識別および定量することができる。
【0057】
いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個の異なるSNPを識別および定量することができる。
【0058】
いくつかの態様では、遺伝子発現を検出および/または定量するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、複数の遺伝子の高度に識別可能でかつ定量的な解析を提供する。本明細書に記載される方法は、少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、10個、20個、50個、100個、200個、500個、1,000個、2,000個、5,000個、10,000個、20,000個、50,000個、100,000個の異なる標的核酸の発現を識別および定量することができる。
【0059】
いくつかの態様では、類似した配列を有する遺伝子の遺伝子発現を検出および/または定量するために、本明細書に記載される方法が用いられる。本明細書に記載される方法は、1 nt、または1、2、3、4、5、10、12、15、20、21、22、24、25、30 nt超だけ異なる遺伝子の発現を識別および定量することができる。
【0060】
いくつかの態様では、移植ドナーと移植レシピエントが同一種によらない(例えば、異種移植の)場合において、ゲノムDNA領域を種のゲノムにマッピングすることによって該領域を検出および/または定量するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は、種に由来するDNA領域を識別および定量することができる。本明細書に記載される方法は、種に由来する少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個のDNA領域を識別および定量することができる。
【0061】
いくつかの態様では、移植の状態または転帰(例えば、移植片拒絶反応)を診断または予測するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様では、標的核酸を検出および/または定量して、患者または対象が移植片寛容を示しているかどうかを判定するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様では、標的核酸を検出および/または定量して、移植片拒絶反応を診断または予測するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様では、標的核酸を検出および/または定量して、移植、例えば同種移植を受けた対象について免疫抑制投与計画を決定するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様では、標的核酸を検出および/または定量して、移植を受けた対象における移植片生着を予測するために、本明細書に記載される方法が用いられる。本発明は、移植患者または対象における移植片が生着するかまたは失われるかを診断または予測する方法を提供する。特定の態様では、標的核酸を検出および/または定量して、長期移植片生着の存在を診断または予測するために、本明細書に記載される方法が用いられる。いくつかの態様では、標的核酸を検出および/または定量して、非拒絶性の移植片傷害を診断または予測するために、本明細書に記載される方法が用いられる。非拒絶性の移植片傷害の例には、虚血性傷害、ウイルス感染、周術期虚血、再灌流傷害、高血圧、生理的ストレス、活性酸素種に起因する傷害、および薬理学的薬剤によって起こる傷害が含まれるが、これらに限定されない。
【0062】
本明細書で使用する、移植の状態または転帰を「診断する」またはその「診断」という用語は、移植の状態または転帰を予測または診断すること、移植の状態または転帰の素因を判定すること、移植患者の治療をモニターすること、移植患者の治療反応を診断すること、ならびに移植の状態または転帰、移植の進行、および特定の治療に対する反応の予後診断を含む。
【0063】
ドナー臓器核酸の検出および解析
いくつかの態様では、ドナーおよび移植前のレシピエントの両方の遺伝子型を確立して、移植後の臓器レシピエント由来の血液または尿などの体液中のDNAまたはRNAなどのドナー特異的核酸の検出を可能にするために、本方法、装置、組成物、およびキットが用いられる。このアプローチにより、ドナーおよびレシピエントの性別に無関係な様式で作製され得る、臓器移植によってのみ生じる配列の信頼性のある同定が可能になる。
【0064】
いくつかの態様では、ドナー臓器について遺伝子フィンガープリントが作製される。ドナーおよびレシピエントはいずれも、移植前に遺伝子型が同定される。移植ドナーおよび移植レシピエントの遺伝子型同定により、ドナー核酸(例えば、循環している無細胞核酸または循環しているドナー細胞由来の核酸)を検出するための、識別可能なマーカーを用いるプロファイルが確立される。いくつかの態様において、異種移植の場合には、ドナー由来の核酸をドナー種のゲノムにマッピングすることができる。
【0065】
移植後、上記の試料を患者から採取し、マーカーについて解析することができる。ドナー核酸の割合を経時的にモニターすることができ、この割合の増加を用いて、移植の状態または転帰(例えば、移植片拒絶反応)を判定することができる。
【0066】
いくつかの態様において、遺伝子型同定は、循環している移植ドナー細胞由来の核酸または循環している無細胞核酸の検出および定量を含む。核酸の例には、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、RNA(例えば、mRNAまたはmiRNA)、およびRNAヘアピンが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、核酸はDNAである。いくつかの態様において、核酸はRNAである。例えば、ヒト血漿中には無細胞RNAも存在し(Tong, Y.K. Lo, Y.M., Clin Chim Acta, 363, 187-196 (2006))、臓器特異的転写物のcDNA配列決定は、移植された臓器内の細胞から生じるドナー特異的核酸を検出するための別の選択肢を提供する。いくつかの態様では、血液中の循環細胞から回収された核酸が用いられる。
【0067】
いくつかの態様において、遺伝子型同定は多型マーカーの検出および定量を含む。多型マーカーの例には、一塩基多型(SNP)、制限断片長多型(RFLP)、タンデム反復数(VNTR)、短いタンデム反復(STR)、高頻度可変領域、ミニサテライト、ジヌクレオチド反復、トリヌクレオチド反復、テトラヌクレオチド反復、単純配列反復、およびAluなどの挿入エレメントが含まれる。いくつかの態様において、遺伝子型同定はSTRの検出および定量を含む。いくつかの態様において、遺伝子型同定はVNTRの検出および定量を含む。
【0068】
いくつかの態様において、遺伝子型同定はSNPの検出および定量を含む。任意の理論に限定されることを意図しないが、完全に遺伝子型が同定された場合、任意のドナーとレシピエントはおよそ300万のSNP位置で異なる。使用可能なSNPはレシピエントについてホモ接合性でなくてはならず、理想的にはドナーについてもホモ接合性でなくてはならない。これらの位置の大部分が、ドナーまたはレシピエントのいずれかについてヘテロ接合性であるSNPを含むのに対して、10%(または数十万)超がドナーおよびレシピエントの両方についてホモ接合性であり、このSNP位置の直接読み取りがドナーDNAとレシピエントDNAを識別し得ることを意味する。例えば、移植ドナーおよび移植レシピエントの遺伝子型同定後、本明細書に記載されるものを含む当技術分野で公知の既存の遺伝子型同定プラットフォームを用いて、移植ドナーと移植レシピエントの間の合計およそ120万の差異を同定することができる。使用可能なSNPは、およそ500,000個のヘテロ接合性ドナーSNPおよびおよそ160,000個のホモ接合性ドナーSNPを含み得る。企業(Applied Biosystems, Inc.など)は現在、PCRに基づいたアッセイに関して原理的に任意の所望のSNP位置を標的化し得る、SNP遺伝子型同定用の標準的なおよび特注設計のTaqManプローブセットを提供している(Livak, K. L., Marmaro, J., Todd, J. A., Nature Genetics, 9, 341-342 (1995);De La Vefa, F. M., Lazaruk, K. D., Rhodes, M. D., Wenz, M. H., Mutation Research, 573, 111-135 (2005))。その中から選択するための潜在的SNPのこのような大きなプールを用いて、任意のドナー/レシピエント対のためのプローブセットとして役立てるために、既存または特注のプローブの使用可能なサブセットを選択することができる。いくつかの態様では、血漿またはその他の生体試料から回収された核酸に対して行われるデジタルPCRまたはリアルタイムPCRが、試料中に認められるドナー特異的種の割合を直接定量する。いくつかの態様では、血漿またはその他の生体試料から回収された核酸に対して行われる配列決定が、試料中に認められるドナー特異的種の割合を直接定量する。いくつかの態様では、血漿またはその他の生体試料から回収された核酸に対してアレイを用いて、試料中に認められるドナー特異的種の割合を直接定量することができる。
【0069】
患者試料中の任意の個々の核酸(例えば、SNP)の予測される読み取りが少数であることから、シグナルレベルを上昇させるために、解析前に試料物質のいくらかの前増幅が必要な場合があるが、いずれかの前増幅の使用、より多くの標的核酸位置(例えば、SNP位置)のサンプリング、またはその両方は、移植ドナー核酸割合の信頼性のある読み取りを提供する。前増幅は、多重置換増幅(MDA)(Gonzalez et al. Envircon Microbiol; 7(7); 1024-8 (2005))、またはネステッドPCRアプローチにおける外側プライマーによる増幅などの、当技術分野で公知の任意の適切な方法を用いて行うことができる。これにより、試料(例えば、移植患者由来の血液)中のドナー核酸の全量が、わずかに1μg、500 ng、200 ng、100 ng、50 ng、40 ng、30 ng、20 ng、10 ng、5 ng、1 ng、500 pg、200 pg、100 pg、50 pg、40 pg、30 pg、20 p、10 pg、5 pg、もしくは1 pgまで、または1 5μg、5 10μg、もしくは10 50μgの間である場合でさえ、ドナー核酸の検出および解析が可能になる。
【0070】
a. PCR
ドナーおよびレシピエント核酸の遺伝子型同定、ならびに/または移植後のドナー特異的核酸(例えば、SNPなどの多型マーカー)の検出、同定、および/もしくは定量は、PCRによって行うことができる。ドナー特異的核酸を検出、同定、および/または定量するために用いられ得るPCR技法の例には、定量的PCR、定量的蛍光PCR(QF-PCR)、多重蛍光PCR(MF-PCR)、リアルタイムPCR(RT-PCR)、単一細胞PCR、制限断片長多型PCR(PCR-RFLP)、PCR-RFLP/RT-PCR-RFLP、ホットスタートPCR、ネステッドPCR、インサイチューポロノニー(polonony) PCR、インサイチューローリングサークル増幅(RCA)、ブリッジPCR、ピコタイター(picotiter) PCR、およびエマルジョンPCRが含まれるが、これらに限定されない。他の適切な増幅法には、リガーゼ連鎖反応(LCR)、転写増幅、自己持続配列複製、標的ポリヌクレオチド配列の選択的増幅、コンセンサス配列プライムドポリメラーゼ連鎖反応(CP-PCR)、任意プライムドポリメラーゼ連鎖反応(AP-PCR)、縮重オリゴヌクレオチドプライムドPCR(DOP-PCR)、および核酸に基づく配列増幅(NABSA)が含まれる。特定の多型遺伝子座を増幅するために用いられ得るその他の増幅法には、米国特許第5,242,794号、第5,494,810号、第4,988,617号、および第6,582,938号に記載されているものが含まれる。いくつかの態様において、ドナー特異的核酸(例えば、SNPなどの多型マーカー)の検出、同定、および/または定量は、リアルタイムPCRによって行われる。
【0071】
いくつかの態様において、移植前の最初の遺伝子型同定段階において既に同定されている特異的多型の存在を定量するためのデジタルPCRまたはリアルタイムPCR。引用されている以前の研究のいくつかにおいて用いられた定量的PCR技法と比較して、デジタルPCRは、稀な核酸種を含む核酸種を定量するためのはるかにより正確でありかつ信頼性のある方法であり、ドナーとレシピエントの間の特定の性別の関係を必要としない(Warren, L., Bryder, D., Weissman, I.L., Quake, S.R., Proc Natl Acad Sci, 103, 17807-17812 (2006))。いくつかの態様では、デジタルPCRまたはリアルタイムPCRアッセイを用いて、いくつかのSNPに標的化されたプローブを使用して、移植患者中のドナーDNAの割合を定量することができる。
【0072】
b. 配列決定
ドナーおよびレシピエント核酸の遺伝子型同定、ならびに/または移植後のドナー特異的核酸(例えば、SNPなどの多型マーカー)の検出、同定、および/もしくは定量は、全ゲノム配列決定またはエキソーム配列決定などの配列決定によって行うことができる。配列決定は、当技術分野で周知の古典的なサンガー配列決定法により達成することができる。配列はまた、ハイスループットシステムを用いて達成することもでき、そのうちのいくつかによっては、配列決定されたヌクレオチドの、伸長鎖へのその取り込みの直後またはその取り込み時での検出、すなわち配列のリアルタイムまたは実質的にリアルタイムでの検出が可能になる。場合によっては、ハイスループット配列決定は、1時間当たり少なくとも1,000個、少なくとも5,000個、少なくとも10,000個、少なくとも20,000個、少なくとも30,000個、少なくとも40,000個、少なくとも50,000個、少なくとも100,000個、または少なくとも500,000個の配列読み取りを生じ;各読み取りは、読み取り当たり少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90、少なくとも100、少なくとも120、または少なくとも150塩基である。配列決定は、鋳型として、ゲノムDNA、RNA転写物由来のcDNA、またはRNAなどの本明細書に記載される核酸を用いて行うことができる。
【0073】
いくつかの態様において、ハイスループット配列決定は、合成による単一分子配列決定(SMSS)法などの、Helicos BioSciences Corporation(Cambridge, Massachusetts)により利用可能な技術の使用を含む。SMSSは、前増幅段階を必要とせずにヒトゲノム全体の配列決定を可能にするため、独特である。したがって、核酸の測定における歪みおよび非線形性が軽減される。この配列決定法により、配列中のSNPヌクレオチドの実質的にリアルタイムまたはリアルタイムでの検出も可能になる。最終的に、上記したように、SMSSは、MIP技術のようにハイブリダイゼーション前の前増幅段階を必要としないため、強力である。実際に、SMSSは増幅を全く必要としない。SMSSは、米国特許出願公開第2006002471 I号;第20060024678号;第20060012793号;第20060012784号;および第20050100932号に一部記載されている。
【0074】
いくつかの態様において、ハイスループット配列決定は、配列決定反応によって生じ、CCDカメラにより機器内に記録される化学発光シグナルを伝達する光ファイバープレートを含むPico Titer Plate装置などの、454 Lifesciences, Inc.(Branford, Connecticut)により利用可能な技術の使用を含む。光ファイバーのこの使用により、4.5時間で最低2,000万塩基対の検出が可能になる。
【0075】
ビーズ増殖の後に光ファイバー検出を使用する方法は、Marguiles, M., et al. 「Genome sequencing in microfabricated high-density pricolitre reactors」, Nature, doi: 10.1038/nature03959;ならびに米国特許出願公開第200200 12930号;第20030058629号;第20030 1001 02号;第20030 148344号;第20040248 161号;第200500795 10号、第20050 124022号;および第20060078909号に記載されている。
【0076】
いくつかの態様において、ハイスループット配列決定は、Clonal Single Molecule Array(Solexa, Inc.)、または可逆的ターミネーター化学を利用する合成による配列決定(SBS)を用いて行われる。これらの技術は、米国特許第6,969,488号;第6,897,023号;第6,833,246号;第6,787,308号;および米国特許出願公開第200401061 30号;第20030064398号;第20030022207号;およびConstans, A., The Scientist 2003, 17(13):36に一部記載されている。
【0077】
この局面のいくつかの態様において、RNAまたはDNAのハイスループット配列決定は、生物学的過程(例えば、miRNA発現または対立遺伝子変動性(SNP検出)のモニタリングを可能にするAnyDotチップ(Genovoxx, Germany)を用いて行われ得る。特に、AnyDotチップは、ヌクレオチド蛍光シグナル検出の10×〜50×の増強を可能にする。AnyDotチップおよびその使用方法は、国際特許出願公開第WO 02088382号、第WO 03020968号、第WO 0303 1947号、第WO 2005044836号、第PCTEP 05105657号、第PCMEP 05105655号;ならびにドイツ特許出願第DE 101 49 786号、第DE 102 14 395号、第DE 103 56 837号、第DE 10 2004 009 704号、第DE 10 2004 025 696号、第DE 10 2004 025 746、第DE 10 2004 025 694号、第DE 10 2004 025 695号、第DE 10 2004 025 744号、第DE 10 2004 025 745号、および第DE 10 2005 012 301号に一部記載されている。
【0078】
その他のハイスループット配列決定システムには、Venter, J., et al. Science 16 February 2001;Adams, M. et al, Science 24 March 2000;およびM. J, Levene, et al. Science 299:682-686, January 2003;ならびに;米国特許出願公開第20030044781号および第2006/0078937号に開示されているものが含まれる。全般的なそのようなシステムは、核酸の分子上で測定される、すなわち配列決定されるべき鋳型核酸分子に対する核酸重合酵素の活性がリアルタイムで追跡される、重合反応による塩基の経時的付加により、複数の塩基を有する標的核酸分子を配列決定する段階を含む。次に、一連の塩基付加の各段階において、核酸重合酵素の触媒活性により、標的核酸の伸長相補鎖にどの塩基が取り込まれるかを同定することにより、配列が推定され得る。標的核酸分子複合体上のポリメラーゼは、標的核酸分子に沿って移動し、活性部位においてオリゴヌクレオチドプライマーを伸長するのに適した位置に提供される。複数の標識型のヌクレオチド類似体が活性部位に近接して提供され、識別可能な型のヌクレオチド類似体はそれぞれ、標的核酸配列中の異なるヌクレオチドに相補的である。伸長核酸鎖は、活性部位において核酸鎖にヌクレオチド類似体を付加するようにポリメラーゼを用いることによって伸長され、付加されるヌクレオチド類似体は、活性部位において標的核酸のヌクレオチドに相補的である。重合段階の結果としてオリゴヌクレオチドプライマーに付加されたヌクレオチド類似体が同定される。核酸鎖がさらに伸長され、標的核酸の配列が決定されるように、標識ヌクレオチド類似体を提供する段階、伸長核酸鎖を重合する段階、および付加されたヌクレオチド類似体を同定する段階が繰り返される。
【0079】
いくつかの態様では、ショットガン配列決定が行われる。ショットガン配列決定では、DNAが多数の小さなセグメントになるようにランダムに分解され、これがチェーン・ターミネーション法を用いて配列決定されて、読み取りが得られる。この断片化および配列決定を数ラウンド行うことにより、標的DNAの複数の重複読み取りが得られる。次に、コンピュータプログラムが異なる読み取りの重複末端を使用して、それらを連続した配列に構築する。
【0080】
いくつかの態様において、本発明は、配列決定を用いてSNPを検出および定量する方法を提供する。この場合、検出の感度を推定することができる。感度には2つの構成要素が存在する:(i) 解析される分子の数(配列決定の深さ)および(ii) 配列決定過程の誤り率。配列決定の深さについて、個体間の差異に関するよくある推定は、1,000塩基当たり約1塩基が異なるというものである。現在、Illumina Genomic Analyzerなどのシークエンサーは、36塩基対を超える読み取り長を有する。任意の理論または特定の態様に限定されることを意図しないが、このことは、解析された30分子中のおよそ1分子が潜在的SNPを有することを意味する。レシピエント血液中のドナーDNAの割合は現在のところ十分に決定されておらず、臓器の種類に依存するが、文献、および心臓移植患者を用いた本出願者ら自身の研究に基づいて、1%を基礎推定値として見なすことができる。ドナーDNAのこの割合において、解析された3,000分子中のおよそ1分子がドナーに由来し、かつドナー遺伝子型について情報価値がある。Genome Analyzerにおいて、解析チャネル当たり約1,000万個の分子を得ることができ、機器の実行当たり8つの解析チャネルが存在する。したがって、チャネル当たりに1つの試料が負荷される場合、起源がドナーに由来すると同定され得る約3,000個の分子を検出できるはずであり、上記のパラメータを用いてドナーDNAの割合を正確に決定するには十分すぎる。検出されるべき少なくとも100個のドナー分子を必要とすることにより、本方法の感度の下限を確立することを望む場合、これは、ドナーの割合が0.03%程度と低い場合に、ドナー分子を検出することができる感度を有するはずである。単純により多くの分子を配列決定することにより、すなわちより多くのチャネルを用いることにより、より高い感度が達成され得る。
【0081】
配列決定の誤り率もまた、本技法の感度に影響する。平均誤り率εに関して、読み違えの結果として偶然にドナー起源と同定される単一SNPの確率は、およそε/3である。それぞれ個々の読み取りに関して、これは、読み取りがドナーに起因するのかまたはレシピエントに起因するのかを判定する能力の感度の下限を確立する。塩基置換に関する典型的な配列決定誤り率はプラットフォーム間で異なるが、0.5〜1.5%の間である。これは、感度に0.16〜0.50%の潜在的限界を設ける。しかしながら、Helicos BioSciences(Harris, T.D., et al., Science, 320, 106-109 (2008))によって実証されているように、試料鋳型を複数回にわたり再度配列決定することにより、配列決定誤り率を系統的に下げることが可能である。再度配列決定を単回適用することにより、ドナーSNP検出の予測される誤り率は、ε2/9までまたは.003%未満まで低下する。
【0082】
図5は、本発明の1つの態様における、全患者(すなわち、男性臓器を受け取る女性患者だけではない)をモニターして、移植の状態または転帰を判定するための一般的戦略を示す。ドナーおよびレシピエントの遺伝子型同定は、ドナーDNAを検出するための一塩基多型(SNP)プロファイルを確立し得る。血漿中の無細胞DNAのショットガン配列決定と、観察される独特のSNPの解析により、%ドナーDNAの定量が可能になる。血漿中のごくわずかなDNAでは、任意の単一SNPを検出するのは困難である可能性があるが、数十万またはそれ以上のシグナルを考慮することで、高感度が可能となるはずである。
【0083】
c. アレイ
ドナーおよびレシピエント核酸の遺伝子型同定、ならびに/または移植後のドナー特異的核酸(例えば、SNPなどの多型マーカー)の検出、同定、および/もしくは定量は、アレイ(例えば、SNPアレイ)を用いて行うことができる。収集されたデータの強度を見ることを可能にするスキャナー、ならびに核酸を検出および定量するためのソフトウェアを用いて、結果を可視化することができる。そのような方法は、米国特許第6,505,125号に一部記載されている。核酸を検出および定量するために本発明によって意図される別の方法は、Illumina, Inc.(San Diego)により市販されている、ならびに米国特許第7,035,740号;第7033,754号;第7,025,935号、第6,998,274号;第6, 942,968号;第6,913,884号;第6,890,764号;第6,890,741号;第6,858,394号;第6,812,005号;第6,770,441号;第6,620,584号;第G,544,732号;第6,429,027号;第6,396,995号;第6,355,43 1号、ならびに米国特許出願公開第20060019258号;第0050266432号;第20050244870号;第20050216207号;第20050181394号;第20050164246号;第20040224353号;第20040185482号;第20030198573号;第20030175773号;第20030003490号;第20020187515号;および第20020177141号;ならびにB. E. Stranger, et al., Public Library of Science-Genetics, I (6), December 2005;Jingli Cai, el al., Stem Cells, published online November 17, 2005;C.M. Schwartz, et al., Stem Cells and Development, f 4, 517-534, 2005;Barnes, M., J. el al., Nucleic Acids Research, 33 (1 81, 5914-5923, October 2005;およびBibikova M, et al. Clinical Chemistry, Volume 50,No. 12, 2384-2386, December 2004に記載されているビーズの使用を含む。ビーズアレイ用のRNAを調製するためのさらなる説明は、Kacharmina JE, et al., Methods Enzymol303: 3-18, 1999;Pabon C, et al., Biotechniques 3 1(4): 8769,2001;Van Gelder RN, et a]., Proc Natl Acad Sci USA 87: 1663-7 (1990);およびMurray, SS. BMC Genetics B(SupplI):SX5 (2005)に記載されている。
【0084】
本明細書に記載される方法に従ってSNPを解析する場合、移植ドナーおよび/またはレシピエント核酸を標識し、DNAマイクロアレイ(例えば、100Kセットアレイまたはその他のアレイ)とハイブリダイズさせることができる。収集されたデータの強度を見ることを可能にするスキャナー、および解析された各位置に存在するSNPを「コールする」ソフトウェアを用いて、結果を可視化することができる。マッピングアレイからのデータを用いて遺伝子型を決定するためのコンピュータ実行法は、例えば、 Liu, et al., Bioinformatics 19:2397-2403,2003;およびDi et al., Bioinformatics 21 : 1958- 63,2005に開示されている。マッピングアレイデータを用いて連鎖解析するためのコンピュータ実行法は、例えば、Ruschendorf and Nusnberg, Bioinfonnatics 21 :2I23-5,2005;およびLeykin et a]., BMC Genet. 6:7, 2005;および米国特許第5,733,729号に開示されている。
【0085】
この局面のいくつかの態様において、SNPを検出するために用いられる遺伝子型同定マイクロアレイは、Hardenbol et al., Genome Res. 15(2) :269-275,2005、Hardenbol, P. et al. Nature Biotechnology 2 1 (6), 673-8,2003;Faham M, et al. Hum Mol Genet. Aug 1 ; 10(16): 1657-64,200 1:Maneesh Jain, Ph.D., et al. Genetic Engineering News V24: No. 18, 2004;およびFakhrai-Rad H, el al. Genome Res. Jul; 14(7): 1404-12, 2004;ならびに米国特許第5,858,412号に記載されている分子逆転プローブ(MIP)と併用することができる。一組の特注MlPを用いてそのような遺伝子座特異的遺伝子型同定を行うための汎用タグアレイおよび試薬キットは、AffymetrixおよびParAlleleから入手可能である。MIP技術は、1回のアッセイで10,000個:20,000個、50,000個;100,000個;200,000個;500,000個;1,000,000個;2,000,000個、または5,000,000個までのSNP(標的核酸)をスコア化し得る酵素学的反応の使用を含む。酵素学的反応は、複数のプローブ分子間の交差反応性に非感受性であり、またプローブとゲノムDNAのハイブリダイゼーションの前に前増幅の必要がない。態様のいずれにおいても、標的核酸またはSNPは単一細胞から得ることができる。
【0086】
標的核酸を検出するために本発明によって意図される別の方法は、米国特許第7,040,959号;第7,035,740号;第7033,754号;第7,025,935号、第6,998,274号;第6,942,968号;第6,913,884号;第6,890,764号;第6,890,741号;第6,858,394号;第6,846,460号;第6,812,005号;第6,770,441号;第6,663,832号;第5,520,584号;第6,544,732号;第6,429,027号;第6,396,995号;第6,355,431号、ならびに米国特許出願公開第20060019258号;第20050266432号;第20050244870号;第20050216207号;第20050181394号;第20050164246号;第20040224353号;第20040185482号;第20030198573号;第200301 75773号;第20030003490号;第200201 8751 5号;および第20020177141号;ならびにShen, R., et al. Mutation Research 573 70-82 (2005)に記載されているビーズアレイ(例えば、Illumina, Inc.により市販されているものなど)の使用を含む。
【0087】
d. その他の技法
本明細書における態様のいくつかでは、核酸を定量する。核酸を定量する方法は当技術分野で公知であり、これには、ガスクロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー(分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、およびアフィニティークロマトグラフィーを含む)、電気泳動(キャピラリー電気泳動、キャピラリーゾーン電気泳動、キャピラリー等電点電気泳動、キャピラリー電気クロマトグラフィー、ミセル動電キャピラリークロマトグラフィー、等速電気泳動、一次的等速電気泳動、およびキャピラリーゲル電気泳動を含む)、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、マイクロアレイ、ビーズアレイ、および分子逆転プローブ(MIP)の使用を伴うようなハイスループット遺伝子型同定が含まれるが、これらに限定されない。
【0088】
標的核酸を検出および/または定量するために本発明によって意図される別の方法は、「Methods for detection and quantification of analytes in complex mixtures」という表題の米国特許第7,473,767号、「Methods for detection and quantification of analytes in complex mixtures」という表題の米国特許公報第2007/0166708号、「Compositions comprising oriented, immobilized macromolecules and methods for their preparation」という表題の米国特許出願第11/645,270号、「Nanoreporters and methods of manufacturing and use thereof」という表題のPCT出願第US06/049274号に記載されているナノレポーターの使用を含む。
【0089】
標的核酸の定量を用いて、DNAなどのドナー核酸の割合を決定することができる。
【0090】
e. 標識
標的核酸の検出および/または定量は、当技術分野で公知の蛍光色素を用いて行うことができる。蛍光色素は、典型的には、フルオレセインおよびその誘導体;ローダミンおよびその誘導体;シアニンおよびその誘導体;クマリンおよびその誘導体;Cascade Blue(商標)およびその誘導体;ルシファーイエローおよびその誘導体;BODIPYおよびその誘導体;等などのファミリーに分類され得る。例示的なフルオロフォアには、インドカルボシアニン(C3)、インドジカルボシアニン(C5)、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、テキサスレッド、パシフィックブルー、オレゴングリーン488、Alexa Fluor(登録商標)-355、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor-555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、JOE、リサミン、ローダミングリーン、BODIPY、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、カルボキシ-フルオレセイン(FAM)、フィコエリトリン、ローダミン、ジクロロローダミン(dRhodamine(商標))、カルボキシテトラメチルローダミン(TAMRA(商標))、カルボキシ-X-ローダミン(ROX(商標))、LIZ(商標)、VIC(商標)、NED(商標)、PET(商標)、SYBR、PicoGreen、RiboGreen等が含まれる。フルオロフォアおよびその使用の説明は、いくつかある場所の中でも特に、R. Haugland, Handbook of Fluorescent Probes and Research Products, 9.sup.th ed. (2002), Molecular Probes, Eugene, Oreg.;M. Schena, Microarray Analysis (2003), John Wiley & Sons, Hoboken, N.J.;Synthetic Medicinal Chemistry 2003/2004 Catalog, Berry and Associates, Ann Arbor, Mich.;G. Hermanson, Bioconjugate Techniques, Academic Press (1996);およびGlen Research 2002 Catalog, Sterling, Vaにおいて見出され得る。近赤外色素は、明白に、フルオロフォアおよび蛍光レポーター群という用語の意図される意味の範囲内である。
【0091】
本発明の別の局面では、検出感度を高めるために分岐DNA(bDNA)アプローチが用いられる。いくつかの態様において、bDNAアプローチはアレイ検出アッセイに適用される。アレイ検出アッセイは、本明細書に記載されるアレイアッセイを含む、当技術分野で公知の任意のアレイアッセイであってよい。bDNAアプローチは、数十または数百のアルカリホスファターゼ分子が付着している分岐DNAを介してシグナルを増幅する。したがって、元の核酸標的存在量の忠実度が維持されながら、シグナルが顕著に増幅される。
【0092】
方法
1つの局面において、本発明は、移植を受けた対象における移植の状態または転帰を診断または予測する方法を提供する。移植の状態または転帰は、拒絶反応、寛容、非拒絶性の移植片傷害、移植片機能、移植片生着、慢性移植片傷害、または薬理学的免疫抑制力価を含み得る。非拒絶性の同種移植片傷害の例には、虚血性傷害、ウイルス感染、周術期虚血、再灌流傷害、高血圧、生理的ストレス、活性酸素種に起因する傷害、および薬理学的薬剤によって起こる傷害が含まれるが、これらに限定されない。移植の状態または転帰は、血管合併症または移植された臓器の新生物病変を含み得る。
【0093】
いくつかの態様において、本発明は、(i) ドナーから移植を受けた対象由来の試料を提供する段階;(ii) 該ドナー移植片由来の1つまたは複数の核酸の有無を判定する段階であって、該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸が、予め決定されたマーカープロファイルに基づいて同定される段階;および(iii) 該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸の有無に基づいて、移植の状態または転帰を診断または予測する段階を含む、移植の状態または転帰を診断または予測する方法を提供する。
【0094】
いくつかの態様では、ドナーおよび移植前のレシピエントの両方の遺伝子型を確立するために、本発明の方法が用いられる。いくつかの態様では、ドナーおよび移植前のレシピエントの両方の遺伝子型同定により、移植後の臓器レシピエント由来の本明細書に記載される体液(例えば、血液または尿)中のDNAまたはRNAなどのドナー特異的核酸の検出が可能になる。いくつかの態様では、移植ドナーの遺伝子型同定に基づいて、ドナーのマーカープロファイルが決定される。いくつかの態様では、移植レシピエントの遺伝子型同定に基づいて、マーカープロファイルが移植レシピエントについて決定される。いくつかの態様において、マーカープロファイルは、移植ドナーと移植を受ける対象を識別できるマーカーを選択することによって確立される。このアプローチにより、ドナーおよびレシピエントの性別に無関係な様式で作製され得る、臓器移植によってのみ生じる核酸の信頼性のある同定が可能になる。
【0095】
移植ドナーおよび/または移植レシピエントの遺伝子型同定は、配列決定、核酸アレイ、またはPCRなどの本明細書に記載されるものを含む、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって行われ得る。いくつかの態様において、移植ドナーおよび/または移植レシピエントの遺伝子型同定は、ショットガン配列決定によって行われる。いくつかの態様において、移植ドナーおよび/または移植レシピエントの遺伝子型同定は、DNAアレイを用いて行われる。いくつかの態様において、移植ドナーおよび/または移植レシピエントの遺伝子型同定は、SNPアレイなどの多型アレイを用いて行われる。
【0096】
いくつかの態様において、マーカープロファイルは多型マーカープロファイルである。多型マーカープロファイルは、1つもしくは複数の一塩基多型(SNP)、1つもしくは複数の制限断片長多型(RFLP)、1つもしくは複数の短いタンデム反復(STR)、1つもしくは複数のタンデム反復数(VNTR)、1つもしくは複数の高頻度可変領域、1つもしくは複数のミニサテライト、1つもしくは複数のジヌクレオチド反復、1つもしくは複数のトリヌクレオチド反復、1つもしくは複数のテトラヌクレオチド反復、1つもしくは複数の単純配列反復、または1つもしくは複数の挿入エレメントを含み得る。いくつかの態様において、マーカープロファイルは、少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個の異なる多型マーカーを含む。
【0097】
いくつかの態様において、多型マーカープロファイルは1つまたは複数のSNPを含む。いくつかの態様において、マーカープロファイルは、少なくとも1個;2個;3個;4個;5個;10個;20個;50個;100個;200個;500個;1,000個;2,000個;5,000個;10,000個;20,000個;50,000個;100,000個;200,000個;300,000個;400,000個;500,000個;600,000個;700,000個;800,000個;900,000個;1,000,000個;2,000,000個、または3,000,000個の異なるSNPを含む。
【0098】
移植後、患者から上記の試料を採取し、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の有無について解析することができる。いくつかの態様において、試料は血液、血漿、血清、または尿である。ドナー核酸の割合および/または量を経時的にモニターすることができ、この割合の増加を用いて、移植の状態または転帰(例えば、移植片拒絶反応)を判定することができる。
【0099】
移植レシピエントにおける移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の有無は、配列決定、核酸アレイ、またはPCRなどの本明細書に記載されるものを含む、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって判定され得る。いくつかの態様において、移植レシピエントにおける移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の有無は、ショットガン配列決定によって判定される。いくつかの態様において、移植レシピエントにおける移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の有無は、DNAアレイを用いて判定される。いくつかの態様において、移植レシピエントにおける移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の有無は、SNPアレイなどの多型アレイを用いて判定される。
【0100】
いくつかの態様において、移植が異種移植である場合には、ドナー特異的マーカーの検出、同定、および/または定量は、1つまたは複数の核酸(例えば、DNA)をその種のゲノムにマッピングして、該1つまたは複数の核酸が移植ドナーに由来するかどうかを判定することによって行うことができる。移植が異種移植である場合、上記の多型マーカーを用いることもできる。
【0101】
いくつかの態様では、移植の状態または転帰を判定するために、移植レシピエントにおける移植ドナー由来の循環DNAまたはRNAの有無が用いられる。DNAは、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、またはcDNAであってよい。RNAは、一本鎖RNAまたはRNAヘアピンであってよい。いくつかの態様では、移植の状態または転帰を判定するために、移植レシピエントにおける移植ドナー由来の循環DNA/RNAハイブリッドの有無が用いられる。いくつかの態様では、移植の状態または転帰を判定するために、移植レシピエントにおける移植ドナー由来の循環mRNAの有無が用いられる。いくつかの態様では、移植の状態または転帰を判定するために、移植レシピエントにおける移植ドナー由来の循環DNAの有無が用いられる。いくつかの態様では、移植の状態または転帰を判定するために、cDNAが用いられる。DNAまたはRNAは、循環しているドナー細胞から得られ得る。あるいは、DNAまたはRNAは、循環している無細胞DNAまたは循環している無細胞RNAであってよい。
【0102】
本明細書に記載される態様のいずれにおいても、移植片は任意の固形臓器および皮膚移植片であってよい。移植の状態または転帰が本明細書に記載される方法によって判定され得る移植の例には、腎臓移植、心臓移植、肝臓移植、膵臓移植、肺移植、腸移植、および皮膚移植が含まれるが、これらに限定されない。
【0103】
いくつかの態様において、本発明は、患者または対象が移植片寛容を示しているかどうかを判定する方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、移植片拒絶反応を診断または予測する方法を提供する。「移植片拒絶反応」という用語は、急性移植片拒絶反応および慢性移植片拒絶反応の両方を包含する。いくつかの態様において、本発明は、移植、例えば同種移植を受けた対象について免疫抑制投与計画を決定する方法をさらに含む。いくつかの態様において、本発明は、移植を受けた対象について免疫抑制投与計画の有効性を判定する方法をさらに含む。本発明の特定の態様は、移植を受けた対象における移植片生着を予測する方法を提供する。本発明は、移植患者または対象における移植片が生着するかまたは失われるかを診断または予測する方法を提供する。特定の態様において、本発明は、長期移植片生着の存在を診断または予測する方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、非拒絶性の移植片傷害を診断または予測する方法を提供する。非拒絶性の移植片傷害の例には、虚血性傷害、ウイルス感染、周術期虚血、再灌流傷害、高血圧、生理的ストレス、活性酸素種に起因する傷害、および薬理学的薬剤によって起こる傷害が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様において、本発明は、血管合併症または移植された臓器の新生物病変を診断または予測する方法を提供する。
【0104】
いくつかの態様では、移植の状態または転帰を判定するために、移植レシピエント由来の試料中の移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量が用いられる。したがって、いくつかの態様において、本発明の方法は、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸を定量する段階をさらに含む。いくつかの態様において、ドナー試料由来の1つまたは複数の核酸の量は、試料中の全核酸に占める割合として決定される。いくつかの態様において、ドナー試料由来の1つまたは複数の核酸の量は、試料中の全核酸に占める比率として決定される。いくつかの態様において、ドナー試料由来の1つまたは複数の核酸の量は、試料中の1つまたは複数の参照核酸と比較した比率または割合として決定される。例えば、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量は、試料中の全核酸の10%であると決定され得る。あるいは、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量は、試料中の全核酸と比較して1:10の比率であると決定され得る。さらに、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量は、β-グロビンのような参照遺伝子の10%である、または該参照遺伝子と1:10の比率であると決定され得る。いくつかの態様において、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量は、濃度として決定され得る。例えば、ドナー試料由来の1つまたは複数の核酸の量は、1 ug/mLであると決定され得る。
【0105】
いくつかの態様において、所定の閾値を上回る移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量は、移植の状態または転帰を示す。例えば、移植片拒絶反応またはその他の病態の証拠のない臨床的に安定した移植後患者の規範的値が決定され得る。臨床的に安定した移植後患者の規範的値を上回る、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の増加は、移植片拒絶反応または移植片傷害などの移植の状態または転移の変化を示し得る。一方、臨床的に安定した移植後患者の規範的値を下回るかまたはその値である、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量は、移植片寛容または移植片生着を示し得る。
【0106】
いくつかの態様において、異なる所定の閾値は、移植の異なる転帰または状態を示す。例えば、上記のように、臨床的に安定した移植後患者の規範的値を上回る、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の増加は、移植片拒絶反応または移植片傷害などの移植の状態または転移の変化を示し得る。しかしながら、臨床的に安定した移植後患者の規範的値を上回るが所定の閾値レベルを下回る、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の増加は、移植片拒絶反応よりもむしろウイルス感染などのそれほど重篤でない状態を示し得る。より高い閾値を上回る移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の増加は、移植片拒絶反応を示し得る。
【0107】
いくつかの態様において、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の時間的な差は、移植の状態または転帰を示す。例えば、移植患者を経時的にモニターして、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量を決定することができる。移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の、一時的であってその後正常値に戻る増加は、移植片拒絶反応よりもむしろそれほど重篤でない状態を示す可能性がある。一方、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の持続的な増加は、移植片拒絶反応などの重篤な状態を示す可能性がある。
【0108】
いくつかの態様では、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の時間的な差を用いて、免疫抑制剤治療の有効性をモニターすること、または免疫抑制剤治療を選択することができる。例えば、免疫抑制剤治療の前後に、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量が決定され得る。治療後の移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量の減少は、その治療が移植片拒絶反応を予防することに成功したことを示し得る。加えて、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量を用いて、免疫抑制剤治療、例えば異なる強度の免疫抑制剤治療の中からいずれかを選択することができる。例えば、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量が多量であることは、非常に強力な免疫抑制剤が必要であることを示し得、一方、移植ドナー由来の1つまたは複数の核酸の量が少量であることは、弱い免疫抑制剤を用いてもよいことを示し得る。
【0109】
本発明は、高感度でありかつ特異的である方法を提供する。いくつかの態様において、移植の状態または転帰を診断または予測するための本明細書に記載される方法は、少なくとも56%、60%、70%、80%、90%、95%、または100%の感度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は少なくとも56%の感度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は少なくとも78%の感度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約70%〜約100%の特異度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約80%〜約100%の特異度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約90%〜約100%の特異度を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載される方法は約100%の特異度を有する。
【0110】
例えば移植の状態または転帰を診断または予測する、本明細書に記載される方法において有用であり得るドナー核酸を認識するマーカーをスクリーニングおよび同定する方法もまた、本明細書において提供される。いくつかの態様において、ドナー核酸は、無細胞DNA、または循環しているドナー細胞から単離されたDNAである。
【0111】
ドナー核酸は、実施例に記載される方法を含む本明細書に記載される方法によって同定され得る。これらの同定後、ドナー核酸を調べ、それらを慢性移植片傷害、拒絶反応、および寛容などの移植の状態および転帰との相関関係について検討することができる。いくつかの態様では、ドナー核酸の長期的な変化が研究される。臨床的に有意であれば、これらのレベルを追跡して、薬理学的免疫抑制を力価測定することができる、またはこれらのレベルを枯渇のための標的として研究することができる。
【0112】
キット
上記の方法の1つまたは複数を実行するための試薬およびそのキットもまた提供される。本試薬およびそのキットは大きく異なり得る。関心対象の試薬には、上記の(i) 移植ドナーおよび移植レシピエントの遺伝子型同定;(ii) マーカープロファイルの同定;ならびに(ii) 移植レシピエントから採取された試料中の移植ドナーに由来する1つまたは複数の核酸の検出および/または定量の作成に用いるために特別に設計された試薬が含まれる。
【0113】
そのような試薬の1種は、1つまたは複数の核酸を遺伝子型同定するため、および/または検出するため、および/または定量するための1つもしくは複数のプローブまたはプローブのアレイである。幅広い種類の異なるプローブ構造、基材組成、および付着技術を伴う、様々な異なるアレイ形式が当技術分野で公知である。
【0114】
本発明のキットは、上記のアレイを含み得る。このようなキットは、1つまたは複数の治療薬をさらに含み得る。キットは、試験プロファイルと比較するための参照プロファイルを含み得る、データ解析用のソフトウェアパッケージをさらに含み得る。
【0115】
キットは、緩衝液およびH2Oなどの試薬を含み得る。キットは、核酸抽出、ならびに/またはPCRおよび配列決定などの本明細書に記載される方法を用いる核酸検出を行うために必要な試薬を含み得る。
【0116】
このようなキットは、組成物の活性および/もしくは利点を示すかまたは確証する、ならびに/または投薬、投与、副作用、薬物相互作用、もしくは医療提供者にとって有用なその他の情報を記載する、科学文献参考文献、添付文書材料、臨床試験結果、および/またはこれらの要約等などの情報もまた含み得る。このようなキットは、データベースにアクセスするための使用説明書もまた含み得る。このような情報は、様々な研究、例えば、インビボモデルを含む実験動物を用いる研究、およびヒト臨床試験に基づく研究の結果に基づいてよい。本明細書に記載されるキットは、医師、看護師、薬剤師、処方職員等を含む医療提供者に提供、市販、および/または推奨され得る。キットはまた、いくつかの態様において、消費者に直接市販され得る。
【0117】
コンピュータプログラム
上記の方法はいずれも、コンピュータ記録媒体に記録されているコンピュータ実行可能論理を含むコンピュータプログラム製品によって行われ得る。例えば、コンピュータプログラムは、以下の機能の一部またはすべてを実行することができる:(i) 試料からの核酸の単離を制御すること、(ii) 試料から核酸を前増幅すること、(iii) 試料中の特定の多型領域を増幅、配列決定、またはアレイ化すること、(iv) 試料中のマーカープロファイルを同定および定量すること、(v) 試料から検出されたマーカープロファイルに関するデータを所定の閾値と比較すること、(vi) 移植の状態または転帰を判定すること、(vi) 正常または異常な移植の状態または転帰を示すこと。特に、コンピュータ実行可能論理は、多型(例えば、SNP)の検出および定量に関するデータを解析することができる。
【0118】
コンピュータ実行可能論理は、パーソナルコンピュータ、ネットワークサーバー、ワークステーション、または現在もしくは後に開発されるその他のコンピュータなどの様々な種類の汎用コンピュータのいずれかであってよい任意のコンピュータで動作し得る。いくつかの態様では、コンピュータ実行可能論理(プログラムコードを含むコンピュータソフトウェアプログラム)がその中に保存されているコンピュータ使用可能媒体を含むコンピュータプログラム製品が記載される。コンピュータ実行可能論理はプロセッサによって実行され得、プロセッサに本明細書に記載される機能を実施させる。他の態様において、いくつかの機能は、例えばハードウェア状態機械を用いて主にハードウェアで実行される。本明細書に記載される機能を実施させるためのハードウェア状態機械の実行は、関連する技術分野の当業者には明らかであろう。
【0119】
プログラムは、移植ドナーおよび移植患者の遺伝子型同定、ならびに/または移植後の移植患者の循環中の移植ドナー由来の1つもしくは複数の核酸の有無を反映するデータにアクセスすることにより、移植レシピエントにおける移植の様態または転帰を評価する方法を提供し得る。
【0120】
1つの態様において、本発明のコンピュータ論理を実行するコンピュータは、スキャナーなどのデジタル入力装置もまた含み得る。デジタル入力装置は、核酸、例えば多型のレベル/量に関する情報を提供し得る。例えば、本発明のスキャナーは、本明細書における方法に従って多型(例えば、SNP)の像を提供し得る。例えば、スキャナーは、蛍光、放射能、もしくはその他の放出を検出することにより;透過、反射、もしくは散乱される放射線を検出することにより;電磁特性もしくはその他の特徴を検出することにより;またはその他の技法によって、像を提供し得る。検出されたデータは、典型的には、データファイルの形態でメモリ装置に保存される。1つの態様において、スキャナーは1つまたは複数の標識標的を同定し得る。例えば、第1DNA多型を、特定の周波数の励起源に応答して、特定の特徴的な周波数または狭帯域の周波数で蛍光を発する第1色素で標識することができる。第2DNA多型を、異なる特徴的な周波数で蛍光を発する第2色素で標識することができる。第2色素の励起源は、第1色素を励起させる源とは異なる励起周波数を有してよいが、その必要はなく、例えば励起源は同じかまたは異なるレーザー光であってよい。
【0121】
いくつかの態様において、本発明は、(i) ドナーから移植を受けた対象由来の試料中で検出された1つまたは複数の核酸からのデータを受信する段階であり、該1つまたは複数の核酸が該ドナー移植片由来の核酸であり、かつ該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸が、予め決定されたマーカープロファイルに基づいて同定される段階;および(ii) 該1つまたは複数の核酸の有無に基づいて、移植の状態または転帰を診断または予測する段階をコンピュータに実施させるための、その上に記録された1組の指示を含むコンピュータ可読媒体を提供する。
【実施例】
【0122】
実施例1:臓器移植レシピエントにおけるドナーDNAの検出
以前に記載されたデジタルPCR(Warren, L., Bryder, D., Weissman, I.L., Quake, S.R., Proc Natl Acad Sci, 103, 17807-17812 (2006);Fan, H.C. Quake, S.R., Anal Chem, 79, 7576-7579 (2007))を用いて、男性または女性の心臓のいずれかを受け取る女性患者について、心内膜生検により3Aまたは3B等級の拒絶反応エピソードが判定されたのと同時に採取された血漿試料中のY染色体および第1染色体マーカーの量を定量した。
【0123】
輸血/男児出産は、女性患者における検出可能なcYシグニチャーを有する公知の機構であるが、図2より、男性ドナーから心臓を受け取る患者ではcYの全体レベルが一律により高いことが示される。対照の女性間移植患者4名からは、有意なY染色体シグナルは検出されなかった。一方、4回の拒絶反応エピソードにわたる男性から女性への移植患者3名については、拒絶反応時点において、全ゲノムの1.5〜8%の割合の染色体Yシグナルが認められた。
【0124】
これらの患者のうちの何名かについて、血漿中のY染色体のレベルを移植後のいくつかの時点でモニターし、臓器拒絶反応の生検時点と比較した。患者6では、3A等級の拒絶反応が移植後21ヶ月の生検後に検出された。血漿中で検出される染色体Yのレベルは、拒絶反応の3ヶ月前の時点では血漿中で無視できたが、生検により拒絶反応が判定された時点では、全ゲノムの2%の割合まで>10倍増加した。この時点で、血漿DNA中のcYの最高レベルが観察される(図3)。図3の結果から、血漿中の無細胞DNAの全体レベルは臓器不全の診断とはならず、「ドナー特異的」DNAシグナルを追跡しないことが示唆される。
【0125】
別の患者についても同様の傾向が認められ、その患者では、生検により3A等級の拒絶反応が検出された移植後5ヶ月の時点でcYレベルが上昇していた(図4)。cY DNAの割合(または%「ドナー」DNA)は、拒絶反応の時点よりも前に増加し、その時点で最高となる。上記と同様に、全無細胞DNAの量は心臓拒絶反応の診断にならないと考えられる。
【0126】
まとめると、これらの結果から、心臓移植患者について、血漿中に存在するドナー由来DNAが臓器不全の発症の潜在的マーカーとして役立ち得ることが確証される。
【0127】
実施例2:移植ドナーおよび移植レシピエントの遺伝子型同定
図5は、全移植患者をモニターするための一般的戦略を示す。ドナーおよびレシピエントの遺伝子型同定は、ドナーDNAを検出するための一塩基多型(SNP)プロファイルを確立し得る。血漿中の無細胞DNAのショットガン配列決定と、観察される独特のSNPの解析により、試料中の%ドナーDNAの定量が可能になる。血漿中のごくわずかなDNAでは、任意の単一SNPを検出するのは困難である可能性があるが、数十万またはそれ以上のシグナルを考慮することで、高感度が可能となるはずである。
【0128】
2つのCEU(Mormon, Utah) HapMap系統を用いて、混合された遺伝子型のライブラリーを作製することができる。これら2つの個体間の合計およそ120万の差異は、既存の遺伝子型同定プラットフォーム(例えば、Illumina Golden Gate)を用いて既に確立されていた。使用可能なSNPはレシピエントについてホモ接合性でなくてはならず、理想的にはドナーについてもホモ接合性でなくてはならない。使用可能なSNPは:(i) およそ500,000個のヘテロ接合性ドナーSNP(カウントは、全ドナー割合の1/2になる)、(ii) およそ160,000個のホモ接合性ドナーSNPを含む。
【0129】
配列決定の結果:
Illumina配列決定の4レーンを用いて、ドナーDNAのレシピエントDNAへの置換の4つの異なるレベルを比較する(図6を参照)。配列決定の誤り率は、現在のところ、塩基置換に関して〜0.3〜0.5%である。SNPコールの選別改善のための品質スコアの使用、または再度配列決定の使用により、誤り率が低下し、感度が上昇するはずである。より多くのSNP位置の使用(完全な遺伝子型同定による)によっても、プロトコールを変更することなく、シグナルの収率が向上するはずである。
【0130】
本発明の好ましい態様を本明細書に示し説明してきたが、そのような態様が一例として提供されるに過ぎないことは当業者には明白であろう。本発明から逸脱することなく、多数の変形、変更、および置き換えが当業者に想起されるであろう。本発明を実施する際に、本明細書に記載される本発明の態様の様々な代替が使用され得ることを理解されたい。特許請求の範囲が本発明の範囲を規定すること、ならびにこれら特許請求の範囲の範囲内にある方法および構造ならびにそれらの等価物がそれによって包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドナーから移植を受けた対象由来の試料を提供する段階;
該ドナー移植片由来の1つまたは複数の核酸の有無を判定する段階であって、該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸が、予め決定されたマーカープロファイルに基づいて同定される段階;および
該1つまたは複数の核酸の有無に基づいて、移植の状態または転帰を診断または予測する段階
を含む、移植の状態または転帰を診断または予測する方法。
【請求項2】
移植の状態または転帰が、拒絶反応、寛容、非拒絶性の同種移植片傷害、移植片機能、移植片生着、慢性移植片傷害、または薬理学的免疫抑制力価を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
非拒絶性の同種移植片傷害が、虚血性傷害、ウイルス感染、周術期虚血、再灌流傷害、高血圧、生理的ストレス、活性酸素種に起因する傷害、および薬理学的薬剤によって起こる傷害の群より選択される、請求項2記載の方法。
【請求項4】
試料が、血液、血清、尿、および便からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
マーカープロファイルが多型マーカープロファイルである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
多型マーカープロファイルが、1つもしくは複数の一塩基多型(SNP)、1つもしくは複数の制限断片長多型(RFLP)、1つもしくは複数の短いタンデム反復(STR)、1つもしくは複数のタンデム反復数(VNTR)、1つもしくは複数の高頻度可変領域、1つもしくは複数のミニサテライト、1つもしくは複数のジヌクレオチド反復、1つもしくは複数のトリヌクレオチド反復、1つもしくは複数のテトラヌクレオチド反復、1つもしくは複数の単純配列反復、または1つもしくは複数の挿入エレメントを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
多型マーカープロファイルが1つまたは複数のSNPを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
移植が、腎臓移植、心臓移植、肝臓移植、膵臓移植、肺移植、腸移植、および皮膚移植からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
核酸が、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖DNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、RNA、およびRNAヘアピンからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
核酸が、二本鎖DNA、一本鎖DNA、およびcDNAからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項11】
核酸がmRNAである、請求項1記載の方法。
【請求項12】
核酸が、循環しているドナー細胞から得られる、請求項9〜11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
核酸が、循環している無細胞DNAである、請求項1記載の方法。
【請求項14】
1つまたは複数の核酸の有無が、配列決定、核酸アレイ、およびPCRからなる群より選択される方法によって判定される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
配列決定がショットガン配列決定である、請求項14記載の方法。
【請求項16】
アレイがDNAアレイである、請求項14記載の方法。
【請求項17】
DNAアレイが多型アレイである、請求項16記載の方法。
【請求項18】
多型アレイがSNPアレイである、請求項17記載の方法。
【請求項19】
1つまたは複数の核酸を定量する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
1つまたは複数の核酸の量が移植の状態または転帰を示す、請求項19記載の方法。
【請求項21】
所定の閾値を上回る1つまたは複数の核酸の量が、移植の状態または転帰を示す、請求項20記載の方法。
【請求項22】
閾値が、移植片拒絶反応またはその他の病態の所見のない臨床的に安定した移植後患者の規範的値である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
移植の異なる転帰または状態に対して異なる所定の閾値が存在する、請求項21記載の方法。
【請求項24】
1つまたは複数の核酸の量の時間的な差が、移植の状態または転帰を示す、請求項20記載の方法。
【請求項25】
マーカープロファイルが、移植ドナーの遺伝子型を同定することにより決定される、請求項1記載の方法。
【請求項26】
移植を受ける対象の遺伝子型を同定する段階をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
移植ドナーと移植を受ける対象を識別できるマーカーのプロファイルを確立する段階をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
遺伝子型同定が、配列決定、核酸アレイ、およびPCRからなる群より選択される方法によって行われる、請求項25〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
少なくとも56%の感度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項30】
少なくと78%の感度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項31】
約70%〜約100%の特異度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項32】
約80%〜約100%の特異度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項33】
約90%〜約100%の特異度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項34】
約100%の特異度を有する、請求項1記載の方法。
【請求項35】
(i) ドナーから移植を受けた対象由来の試料中で検出された1つまたは複数の核酸からのデータを受信する段階であり、該1つまたは複数の核酸が該ドナー移植片由来の核酸であり、かつ該ドナー由来の該1つまたは複数の核酸が、予め決定されたマーカープロファイルに基づいて同定される段階;および
(ii) 該1つまたは複数の核酸の有無に基づいて、移植の状態または転帰を診断または予測する段階
をコンピュータに実施させるための、その上に記録された1組の指示
を含むコンピュータ可読媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2013−509883(P2013−509883A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538027(P2012−538027)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/055604
【国際公開番号】WO2011/057061
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(500429147)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ リーランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ (13)
【Fターム(参考)】