説明

自動分析装置

【課題】光電子増倍管は、個体差があり、かつ経年変化する。非直線の検量線を適切に使うには、信号量を厳密にそろえることが望ましい。
【解決手段】光電子増倍管の感度を印加高電圧で調節するにあたり同一試料を複数の高電圧条件で測定し、高電圧の対数と、信号量の対数から得られる直線関係から、所定の回数の測定で最適な設定値を設定し、当該直線関係を特定する情報を記録する手段を備え、それを評価することによって、光電子増倍管の健全性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生体由来のサンプルを分析する自動分析装置に係り、特に光電子増倍管を用いた自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血液などに含まれるホルモンなどの極めて微量な化学成分を測定する方法として、ヘテロジニアス免疫分析法がある。この方法では、特許文献1に示されるような化学発光法や、特許文献2に示される電気化学発光酵素イムノアッセイといった発光反応を、光電子増倍管によって検出する。光電子増倍管について、複数の検出感度について、複数のキャリブレーションカーブをもつ方法が、分光蛍光光度計において特許文献3に開示されている。
【0003】
また、特許文献4には前記化学発光法における光電子増倍管を用いた検出計の信号処理法、特許文献5には光電子増倍管の感度調整方法が開示されている。
【0004】
血液や尿などの体液成分に含まれる、タンパク,脂質,糖,イオンおよびそれらを構成する各種成分などの、化学物質の濃度に対する定量的な測定が臨床で行われている。その中に、体液などの検体試料の定量分取,試薬との混合、および試薬との反応の結果、試薬に含まれる物質の変化を測定する工程を自動化した自動分析装置がある。自動分析装置では、分析に必要な試料と試薬との混合、一定温度での反応、といった種々のプロセスを所定の時間で次々とこなすように構成される。
【0005】
これらの自動分析装置のうち、血液などに含まれるホルモンなどの極めて微量な化学成分を測定する装置ではヘテロジニアス免疫分析法を採用し、得られた発光を光電子増倍管などの高感度な素子により計測している。
【0006】
高感度分析の対象となる生体含有率が微量な物質の場合、その濃度事態は恒常性に影響する程度が少ないため、測定濃度範囲は著しく広くなる。例えば血中甲状腺刺激ホルモンの検出濃度は0.001μIU/mlから100μIU/mlと100,000倍の濃度範囲について検量できることが要求される。
【0007】
同時に、それぞれの濃度領域において、得られるデータの目的が異なることから、極微量の範囲,正常な範囲,高濃度の範囲のそれぞれで、所定の分解能が要求される。
【0008】
このような測定対象に対して、同一の測定対象に異なる感度の試薬を提供することもあるが、測定頻度の極めて少ない分析にそれぞれ専用の試薬を提供することは、経済的負担が大きい。そのため、検出器や反応系は高感度(極微量の範囲)に対応可能なものを用意しておき、高濃度測定の際には数倍から数百倍の希釈を行うことで、実質的な検出感度の増大を図っていた。
【0009】
しかし、極微量の範囲にある物質であって、かつ、血清中の他の成分の存在下で濃度平衡に達しているものは、通常の生理食塩水による希釈では信号量が希釈倍率に従って変化しない場合がある。また、特に低濃度領域にある物質では、一般的にサンドイッチ法と呼ばれる免疫分析法が用いられるが、測定対象物に由来する信号に対して、試薬成分中の発光などのノイズが相対的に大きくなるため、出力の直線性が失われる。
【0010】
一方の高濃度の範囲では、試料中の成分に対する試薬成分の量比が相対的に小さくなるため、反応の進行が不十分になる。この場合も出力の直線性が失われてしまう。
【0011】
従い、広範囲の濃度を定量するにあたっては、便宜的に非直線の検量線を用いる場合がある。用いられる検量線は、スプライン曲線や、指数,対数を組み合わせた曲線、ないしは複数の直線を組み合わせた折れ線の検量線などがある。5点以上の点を用いて、原型となる検量線(マスターカーブ)を作成する。実際にこの検量線を用いて測定する場合には、代表的な二点を用いて、前記検量線を最低信号量に関して平行移動する、最低信号量と最大信号量の範囲を一致させるように伸縮させるといった変換を行う方法がある。検量線の入力(X軸)はシステムの検出および演算部が算出する信号量であり、出力(Y軸)は測定対象の濃度となる。
【0012】
このような場合、変換を適切に行うには、検量線の入力となる信号量が一定の範囲に収まっていることが必要である。そのため、検出器を含むシステム全体の検出系を調整する目的で、測定装置の外部で重量や容量を用いてあらかじめ調製された擬似試料を用いて、検出システム全体の調整を行う。この検出系の調整にあたっては、あらかじめ擬似試料に対する目標信号量が与えられており、この目標信号量に向けて検出器に印加する高電圧値を調整することで、所望の信号量を調整する方法が用いられている。
【0013】
一般にこのような高感度分析に用いられる光電子増倍管は、一種の真空管である。詳細は非特許文献1に示されている。真空管の内部において光を受光する陰極と最終的な信号を取り出す陽極の間に1000V程度の高電圧を印加し、このポテンシャル差を利用して光電子増倍管の陰極面に照射された光を増倍、106程度の増幅効果を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2003−50204号公報
【特許文献2】特表平11−507726号公報
【特許文献3】特開昭59−125043号公報
【特許文献4】特開2007−85804号公報
【特許文献5】特開2001−100340号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】浜松ホトニクス 光電子増倍管の使い方 第二版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
光電子増倍管は、その特性上、個々の製品において感度が異なる。光電子増倍管の高電圧では、検出器個体間で800〜1000Vといった範囲で、調整値が変化することがある。また、経時的に劣化することが非特許文献2に示されている。強い光の被爆を受けた場合や、測定を繰り返した場合などに感度の低下(劣化もしくは疲労と呼ばれている)が発生する。
【0017】
光電子増倍管の感度調整方法については、特許文献3に示すように、光電子増倍管の印加高電圧の対数と、同一対象を測定した場合の信号量の対数との間に、一定の関係があることを利用している。特許文献2では基準となる発光体として、放射線の測定に用いられる蓄光材料を用いている。しかし、発光量をどのように規定するかについての記載はない。具体的に式に数値が与えられているが、異なる光源を用いた場合にはどのような式が適切であるか推定することは難しい。
【0018】
また、実際に検出器に光電子増倍管を用いたシステムを構成した場合、検出に至るまでの過程に複数の要素が含まれるため、光電子増倍管の故障を的確に示すことは難しい。
【0019】
6ヶ月ないしは1年程度のサイクルで総合的なシステムの点検をすることも考えられるが、この時点で光電子増倍管を交換するべきか否かについては、当該時点で光電子増倍管が調整不能である場合以外には予測できなかった。そのため、ある日装置を立ち上げたところ、所定の信号量が得られず突然使用不能となった場合には、ユーザ側から原因不明の不調といった形でサービスが要求され、その対策の一環として光電子増倍管の交換を実施するなどされていた。緊急の検査依頼の可能性がある臨床現場としては、予防保全的に適切に光電子増倍管の性能を把握し、評価することが必要であった。
【0020】
また、光電子増倍管の劣化は、受光量の総和に応じて進行することが推定される。分析システムで実施される工程では、測定以外に測定で被爆する以上の光量を被爆することも起こりうる。極端な場合には、光電子増倍管の検出部に光学的シャターを備える方法も考えられるが、コスト要因となるため実施の可能性は低い。
【0021】
本発明の目的は、光電子増倍管を用いた自動分析装置において、光電子増倍管の最適な調整機構を備えた自動分析装置を提供することにある。また、光電子増倍管の劣化を検知する機構を備えた自動分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
同一の検体を複数の異なる高電圧条件で測定して、各条件に対応する信号を計測する。印加した高電圧の対数値をX軸、得られた信号量の対数値をY軸にプロットした直線から傾きを算出して、光電子増倍管が健全な状態にあることを確認し、健全な状態にない場合には、交換を含む警告をシステムから表示する。
【0023】
考えられる他の方法としては、システム外部で調製された擬似試料を発光させ、当該試料から得られる信号量を、複数の高電圧条件で得ることにより、高電圧の対数と信号量の対数の間に現れる直線の傾きを求める。この値に基づき、期待される光量を得るための誤差の少ない適切な高電圧値を求める。さらに、前記傾きと切片の少なくともいずれか一方を用いて、光電子増倍管が健全な状態にあることを確認し、健全な状態にない場合には、交換を含む警告をシステムから表示する。
【0024】
また、光電子増倍管が検出に関わらない時間については、光電子増倍管にかかる高電圧を減じることにより、光電子増倍管内部で生じる増幅プロセスを抑制し、光電子増倍管の劣化を抑制する。
【発明の効果】
【0025】
高電圧の調整にあたり、同一の試料を複数の条件で測定することにより、経済的にシステムを校正,モニタすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】化学発光法を用いた分析システムの概要説明図。
【図2】化学発光法を用いた分析システムの検出部分についての説明図。
【図3】化学発光方式における発光の時間経過から積分法を示す図。
【図4】光電子増倍管の感度の調整のフローズ。
【図5】光電子増倍管の感度の自動調整方法を示した図。
【図6】光電子増倍管の感度の判定のフローズ。
【図7】光電子増倍管の感度を経時的にプロットした図。
【図8】光電子増倍管の感度の変化について説明した図。
【図9】光電子増倍管の感度を校正用試料を用い測定しプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0028】
光電子増倍管を検出器とし、アクリジニウムエステルを用いた化学発光法を検出手段とした化学分析における本発明の実施例を説明する。
【0029】
図1に本システムにおける概略を示す。本システムは、ラック111に架設された検体容器112をサンプリング機構113にて吸引することで行う。ラック111は順次サンプリング機構113に位置づけられる。ここでは、各機構を連携的に制御する制御部分、および反応容器131およびサンプリングチップ114を移動するための一部の機構についても図示していない。反応容器131を温度制御機能を有する反応搬送機能132の所定の位置に設置し、ついで試薬分注機構124によって、試薬121および試薬122を分注する。ついで、反応容器搬送機能132により、前記反応容器を検体分注機構113により所定量分注し、さらに吸引吐出動作により混合する。そののち、例えば9分程度の時間反応を反応容器搬送機能132上で保持することにより、反応を生じせしめる。さらに試薬分注機構124にて、磁性粒子の懸濁液を試薬容器123から一定量分注し、さらに9分程度反応を進行させる。この反応容器を磁気分離装置141にて、磁性粒子と、上清に分離し、さらに検出部に移動する。検出部は、酸性過酸化水素溶液151および水酸化ナトリウム溶液152を反応容器に注入する機能を備え、光電子増倍管161の近傍で、化学発光反応を行わせる。光電子増倍管は、主制御装置191と接続した、D/A変換器172を介して高電圧発生装置171により高電圧が供給され、光の量に応じて出力される電流信号を対数変換すると同時に電圧に変換する、対数変換器181とA/D変換器182を介して、主制御装置191へと渡される。
【0030】
図2に化学発光プロセスにおける詳細を示す。主制御装置191は、あらかじめ定められたタイミングで各機能を連携させて動作させる。第一に、酸性過酸化水素溶液A(以下A)を吐出するポンプ153を動作させ、ノズルA155から反応容器157に収められた、アクリジニウムエステルを含有する溶液もしくは磁性粒子と混合する。混合後の液体158に対して、さらに、水酸化ナトリウム溶液B(以下B)を吐出するポンプ154を動作させてノズルB156から吐出混合し、発光せしめる。発光した光の一部は、光電子増倍管161により電流に変換され、A/D変換機182を介して、主制御装置191に送られる。
【0031】
図3に、データ処理のプロセスを示す。X軸に時刻(秒)321,Y軸に信号量301を示す。信号量は、光電流信号を計測したものであるから、単位の時限はA(アンペア)もしくは、電子の数(個)となる。出力信号331は、水酸化ナトリウム溶液による中和反応が中和点を通過したタイミング322から発光を開始し、ピークを越えたのち、なだらかに下降する。発光のプロセスは、反応に供せられる化学物質の性質や、濃度および混合の速度に依存する。このうち、水酸化ナトリウム溶液を注入したタイミング322から、0.4秒から1秒程度のあらかじめ定められた範囲を、注入前の発光レベル332を除いて積分し、発光量とする。発光量の次元は、電荷量もしくは光子の個数に相当する。以下発光量の単位をカウントとする。
【0032】
このように計数される発光量について、PMTの感度を調整する方法を次に示す。光電子増倍管の調整は、例えば、既知の濃度の発光性化合物、例えばアクリジニウムエスエルを所定量溶解した溶液、例えば10pg/Lを調整し、この発光量を例えば100,000カウントになるように調整するものと設定しておく。溶液を利用する方法の利点は、重量法によりトレーサビリティを確保することができることである。従って、化学分析としては、一定容積中の重量を用いることが多いけれども、10pg/kgといったように、実際には重量濃度として管理することが適当な場合もある。定量の前記溶液を例えば、試料分注装置113を用いて定量するか、もしくは試薬として試薬分注装置124を用いて定量するかといった方法で反応容器157に分注し、所定の方法で発光させ、信号を得る。図4に調整のフローを示す。ここで示す光電子増倍管の、調整範囲は、概ね800Vから1000Vを想定している。調整の開始410において、例えば15個の試料を順次準備して測定を開始する。まず、最初の5個について750Vの高電圧条件で測定する。これは、実用的な範囲の下限をわずかに下回る感度に相当するものとする。ついで、5個を1050Vで測定する。1050Vは、実用的な範囲の上限をわずかに上回る感度に相当するものとする。これらのデータから、図5に示すチャートを作成し、X軸511に高電圧、Y軸521に信号量をそれぞれ対数でプロットする。750Vの測定によって得られる点のX座標が531、Y座標が541となる。ここでは単純化のために、それぞれ平均された値を用いているけれども、それぞれの測定の対を散布図として表示しても良い。次に、1050Vにて測定した点をX座標533,Y座量543でプロットする。この二点に対して、回帰直線551を求める。単純には、
傾き561=(Log(1050Vでの発光量)−Log(750Vでの発光量))
/(Log(1050V)−Log(750V))
となる。
【0033】
この傾きを求めるにあたって、750Vから1050Vの両端とそれらの間に複数の点で測定し、最小二乗法を用いて直線を求めても良い。光電子増倍管は、電圧に対して、良好な直線性を示す。直線との一致が悪い場合には、測定方法に問題がある可能性が高い。同一の高電圧と発光量の関係を繰り返し求める場合においては、例えばそれらの標準偏差を求め、変動計数が1%以上となった場合は、測定を最初からやり直すといった方法を用いることもできる。
【0034】
このように求められた直線に対し、調整したい発光量542に対する、高電圧532を求めることができる。
【0035】
さらに、この高電圧設定値532に対して、N=5で繰り返し測定を行い、例えば、発光量の誤差が0.5%以下となることを確認し、かつ繰り返し再現性が良いこと、例えば、変動計数が1%未満となることを確認し、調整を終了させる。
【実施例2】
【0036】
経時的な光電子増倍管の性能変化を評価し、警告を通知する方法について示す。光電子増倍管,蛍光灯下での作業については、高電圧がかかっていない限りにおいては、問題がないとされている。しかしながら、高電圧がかかっていない状態であっても長時間、日常の室内照明など紫外線を含む光線を被爆すると、例えば橙色をした光電陰極や、光電陰極との接続に用いられている、金属光沢の配線部分が消失するような劣化を示す。すなわち、短時間の被爆においては明確な劣化は肉眼的,信号的には、誤差の範囲ではあるものの、光線の被爆によって、劣化することが推定される。従って、システムの製造工程であるとか、メンテナンスの過程、もしくは、測定における極めて強い光線を受けた場合などは、少しずつ性能が劣化すると考えられる。長期に測定を繰り返した場合、信号量が減じる場合があるけれども、これは、光電子増倍管の個体差と、被爆履歴の相互作用によるものであって、観点に推定することはできない。
【0037】
そこで、調整にあたって、図6に示す方法により、過去データとの比較を行って、警告情報を生成する。調整の開始651にて、実施例に示す方法などを用いて調整値を得る652。さらに、過去データ660と比較を行い653、ここから警告情報を生成654し、調整結果の報告655を行う。調整を行うための操作画面に警告を表示してもよい。図7に示すように、X軸721に時間ないしは、測光回数,メンテナンス回数などの経時変化を示す数値を、Y軸701に傾きをメンテナンス回数に応じて示す731〜738ことにより、注意レベルの上限712と下限713の範囲か、警告レベルの上限711と下限714の範囲かを判定することにより、交換を促すことができる。例えば注意レベルの下限713を下回っていて、警告レベル714に到達した場合には、交換をあらかじめ計画しておくことが望ましい。このような自動化システムにおいては、使用頻度は装置によって異なるため、かかる情報を、サービスセンタに遠隔で収集することにより、あらかじめ交換の時期を計画することも可能である。
【実施例3】
【0038】
図8を用いて、臨床検査に用いられる校正用試料である標準試料や精度管理試料を用いた場合の光電子増倍管の評価方法を示す。先の実施例で示した、校正用の擬似試料は、一般的に装置の据付時点や部品の交換などの作業を実施した場合に用いるものであって、日常的な臨床検査の運用上は用いられない。そのデータの解釈や、不具合が発生した場合についても、専門の知識が必要となる。すなわち、サービスを業とするシステムの提供者が主に利用するか、当該システムを専門に利用するユーザが用いるものである。一方で、標準液および精度管理試料は、例えば、TSHといった、当該システムで実際に測定するための分析対象に対して用意されたものであって、臨床検査を目的とした使用者が日常的に用いる試料である。
【0039】
標準試料および精度管理試料は、一般的に、信号量と濃度の関係が設定されている。一般的には、標準液の場合は、臨床検査薬を提供する業者が、臨床検査薬と一体として提供するものである。特に、高感度でかつ試薬のロット間差が存在する高感度免疫分析法では、臨床検査薬を当該システムに対して提供する業者が提供する。従って、その製造段階で、例えば二つの点、低濃度側と高濃度側の標準液を提供するにあたっては、それぞれの標準試料がどの程度の信号をもたらすかは、あらかじめ知っていなければならない。
【0040】
また、精度管理試料は、あらかじめ許容される濃度が示されている試料であって、適切に標準試料によって校正された装置であれば、出力される信号量は予想することができる。これらの試料を用いた場合において、同一の試料を複数回、異なる高電圧条件の光電子増倍管で測定することにより、光電子増倍管が有する高電圧の対数に対する、信号量の対数の傾きを得ることにより、光電子増倍管の状態を知る。これらの試料は、一般的に、例えば2mLといった1測定に対して十分な量で提供される場合が多い。従って、校正に用いた試料の残余を用いて、光電子増倍管の状態を把握することは、経済的にも極めて効率的である。例えば、500から5,000,000程度の信号量を良好な直線性で測定できるシステムにおいては、実施例1で示したように100,000程度から1,000,000程度の信号量において、光電子増倍管の高電圧を定めることが望ましい。これに対して、光電子増倍管の状態をモニタする目的であれば、10,000から1,000,000程度の信号量があり、かつ試薬が安定で、同時再現性の良い項目を選択すれば良い。一般的には、高感度分析として、高感度免疫法でサンドイッチ法を用いて一般的に測定されるTSH(甲状腺刺激ホルモン)において、健常者の平均的濃度を示す0.5μIU/mlから4μIU/ml程度の範囲にある精度管理試料であれば、適切な信号量5,000から100,000程度の良好な信号量となることが想定される。
【0041】
測定にあたっては、先に示した図4と同様のフローにて、高電圧を750Vおよび1050Vといった電圧で測定すれば良い。ただし、発光量が小さくなって、小さい高電圧の場合に、信号がなくなってしまう場合があるため、発光量は、例えば1000カウント以下になった場合のデータは使用しない、といった注意が必要である。
【0042】
図8は、図5に対して、初期条件である551のケースに対して、同様の構成で、光電子増倍管の状態が維持されている状態における低発光量のサンプルによるケースを852として示している。
【0043】
ここに示すように、発光量に依存せず、光電子増倍管の高電圧551に対する信号量521に対する傾きは、ほぼ変化しない。そのため、装置の据付時や、メンテナンス時に光電子増倍管の調整を実施し、傾き<K1>561に対して、低発光量のサンプルでは、傾き<K2>862で切片のことなる平行移動した形態の直線852となる。一方で、調整用試料と同等の信号量を持つ光電子増倍管でも、感度が低下した場合は、傾き<K3>863で切片の低下をきたした直線853のようになる。切片の変化は光量の変化によるため、傾きが変わらず、切片だけが同一試料で変化した場合には、発光側から、光電子増倍管までの間に問題がある可能性がある。光電子増倍管の内部にも、劣化の要因は複数あるため、切片の変化については一様ではないと予想される。
【0044】
このように、傾きに着目し、経時的にプロットした経緯を図9に示す。
【0045】
システムの製造時に得られた値731,利用先に据付時に得た値732に対して、例えば校正用試料を用いて一ヶ月おきに実施した結果933,934,935をプロットする。さらに、メンテナンスを実施した場合に確認した値736に対し、次の校正で行った結果937により、交換すべき事態に到達していることが確認できるため、次の確認738にいたる前に交換を実施することを判断できる。有効にモニタを実現するためには、X軸として測定回数、すなわち光電子増倍管が受けた被爆総量、Y軸としてゲインを示し、被爆総量の伸びに対して、ゲインが一定以上低下した場合に警告を出すことも可能である。
【0046】
このように、濃度や発光量に依存せずに、日常的に利用している試料を用いてシステムの異常をモニタすることができ、システムを健全な状態で利用でき、かつトラブルに対して未然に防止できる。この方法は、標準光源としてLEDやランプを用いても、異なる高電圧を用いた測定結果からゲインを算出し、同様に評価することもできる。この場合、標準光源が測定間で一定の光量を確保できれば良く、長期の安定性に対して影響を受けにくくすることができる。
【符号の説明】
【0047】
111 ラック
112 検体容器
113 サンプリング機構
114 サンプリングチップ
121 試薬分注機構
122 試薬
123 試薬容器
131,157 反応容器
132 反応容器搬送機能
141 磁気分離装置
151 酸性過酸化水素溶液
152 水酸化ナトリウム溶液
153 酸性過酸化水素溶液A(以下A)を吐出するポンプ
154 水酸化ナトリウム溶液B(以下B)を吐出するポンプ
155 ノズルA
156 ノズルB
158 混合後の液体
161 光電子増倍管
171 高電圧発生装置
172 D/A変換器
181 対数変換器
182 A/D変換器
191 主制御装置
301 Y軸 信号量
321 X軸 時刻(秒)
322 中和点を通過したタイミング
331 出力信号
332 注入前の発光レベル
410,651 調整の開始
511 X軸高電圧
521 Y軸信号量
531 750Vの測定によって得られる点のX座標
532 調整したい発光量に対する高電圧
533 1050Vにて測定した点のX座標
541 750Vの測定によって得られる点のY座標
542 調整したい発光量
543 1050Vにて測定した点のY座量
561 システム製造時の調製用試料による傾き<K1>
652 調整値を得るプロセス
653 過去データとの比較を行うプロセス
654 警告情報の生成プロセス
655 調整結果の報告プロセス
660 過去データの記憶領域
701 時間ないしは、測光回数,メンテナンス回数などを示すX軸
711 警告レベルの上限
712 注意レベルの上限
713 注意レベルの下限
714 警告レベルの下限
721 傾きの値を示すY軸
731 システムの製造時に得られた値
732 利用先に据付時に得た値
736 メンテナンスを実施した場合に確認した値
738 次の確認時点で想定される結果
852 切片のことなる平行移動した形態の直線
853 感度が低下した場合の直線
862 低発光量のサンプルによる傾き<K2>
863 感度が低下した場合の傾き<K3>
933,934,935 校正用試料を用いて一ヶ月おきに実施した結果
937 次の校正で行った結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出器として光電子増倍管と、
前記光電子増倍管を駆動するための印加電圧を発生する高電圧発生装置と、
前記高電圧発生装置の出力を制御する制御回路と、
前記光電子増倍管の印加電圧と計測値を対数変換する対数変換部と、
前記対数変換した印加電圧と計測値とから所望の光電子増倍管の感度を得るための印加電圧値を決定する演算部と、を備えた自動分析装置において、
前記演算部は光電子増倍管の感度用評価試薬に対して、複数の印加電圧値のもとにおける計測値を記憶する記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された印加電圧と計測値の関係から光電子増倍管に印加する印加電圧を決定する決定手段と、
前記決定した印加電圧を前記制御回路へフィードバックする機構と、を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記決定手段によって決定された印加電圧値における光電子増倍管の計測値の標準偏差,測定誤差の少なくともいずれか一方が規定値内であることを確認する手段を備え、
前記手段において規定値外であると判定された場合には光電子増倍管の感度評価測定をやり直すことを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、
演算部に入力される前記複数の印加電圧値は、前記光電子増倍管の実用的な印加電圧値の最大値よりも大きい値と実用的な印加電圧の最小値よりも小さい値であることを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記複数の印加電圧値に対する計測値の変化率をゲインとして算出する算出部を備え、
前記算出部で算出されたゲインと予め定められた閾値を比較する比較手段と、
前記比較手段においてゲインが閾値の範囲外であると判定された場合にはシステムにおいて警告を出力する警告手段と、を備えたことを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項4記載の自動分析装置において、
前記算出手段において算出したゲインを時系列に記憶する記憶手段を備え、
前記予め定められた閾値範囲は前記記憶手段に記憶された時系列ゲインデータから決定されることを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項1記載の自動分析装置において、
前記光電子増倍管の劣化を監視する劣化監視手段と、
前記複数の印加電圧値に対する計測値の変化率をゲインとして算出する算出部と、を備え、
前記劣化監視手段は光電子増倍管の劣化要因、すなわち光電子増倍管が光に暴露された累積時間,光電子増倍管の累積計測回数,光電子増倍管の累積メンテナンス回数の少なくともいずれか一つを記憶し、
前記劣化要因に対するゲインの変化率を監視して、予め定められた許容範囲内にあるか否かを判定する判定手段を備え、
前記判定手段が、ゲインが許容範囲を外れたと判定した場合にはシステムにおいて警告を出力することを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項4記載の自動分析装置において、
前記決定手段が印加電圧値を決定する際の測定試薬として当該分析システムが日常的に使用する試薬を用いることを特徴とする分析システム。
【請求項8】
請求項7記載の自動分析装置において、
前記日常的に使用する試薬とは、精度管理試料または標準液であることを特徴とする分析システム。
【請求項9】
請求項6記載の自動分析装置において、
前記劣化監視手段はネットワークでサービスセンタに接続されており、
前記劣化監視手段内に記憶されている情報を遠隔でサービスセンタに収集することを特徴とする自動分析装置。
【請求項10】
請求項7記載の自動分析装置において、
前記試薬に対して前記算出手段が算出したゲインを時系列に記憶する記憶手段を備え、
前記警告手段は前記記憶手段に記憶されているゲインが予め定められた閾値の範囲を外れた場合に警告を発することを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−175415(P2010−175415A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18942(P2009−18942)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】