説明

自動変速機の制御装置

【課題】燃費向上とハンチング発生防止との両立ができる自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】車速を検出する車速検出手段と、トルクコンバータ(TC)をロックアップする摩擦要素(LUC)を締結状態とするか解放状態とするかを車速のみにより判定する
判定基準を記憶する記憶手段と、車速が判定基準以上である場合に摩擦要素を締結状態と判定し、車速が判定基準未満である場合に摩擦要素を解放状態と判定する判定手段と、判定手段による摩擦要素を締結状態とするか解放状態とするかの判定に基づいて、摩擦要素を締結又は解放する制御を行う締結制御手段と、を備え、締結制御手段は、車速の変化に基づき摩擦要素を締結状態から解放状態へと変更した後、前記車速の変化により前記締結状態と判定された場合、所定の条件が成立するまで前記摩擦要素を締結状態とすることを禁止する禁止手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータのロックアップクラッチの締結状態を制御する自動変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される変速機に搭載されるトルクコンバータには摩擦要素としてのロックアップクラッチが備えられる。ロックアップクラッチを締結状態とすることで、トルクコンバータの入力/出力回転速度の偏差が抑制されて、エンジンの燃費が向上する。
【0003】
このようなトルクコンバータとして、流体継手をコンバータ状態からロックアップ状態へ切換える際の判定値と、ロックアップ状態からコンバータ状態へ切換える際の判定値とを、ヒステリシス領域をもたせて設定することで、ハンチングを防止しつつ抑制する流体継手のロックアップ制御装置(特許文献1参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−028678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような従来技術では、ロックアップクラッチを締結する判定値(例えば車速)と、ロックアップクラッチを解放する判定値との間にヒステリシスを設定することで、ロックアップクラッチの締結・解放によるハンチングを防止している。
【0006】
通常、エンジンの回転速度低下によるエンストの防止やオイルポンプの吐出圧の最低容量の確保のため、ロックアップクラッチの解放を判定する判定値(例えば車速)の下限値(第2の車速)は決まっている。そのため、ハンチングを防止するためにヒステリシスを設定した場合は、ロックアップクラッチを解放する第2の車速に対して、ロックアップクラッチを締結する第1の車速を高く設定する。
【0007】
このようにヒステリシスを設定すると、ロックアップクラッチが締結される領域が、ヒステリシス分だけ削減される。
【0008】
一方で、ヒステリシスを削除し、ロックアップクラッチを締結する判定値を解放する判定値と同一に設定すると、ロックアップクラッチの締結領域が拡大し、燃費が向上する。しかし、このように設定するとハンチングの発生を抑制することができない。
【0009】
このように、ロックアップクラッチの制御による燃費効率とハンチングはトレードオフの関係となっており、両立させることは難しかった。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、燃費向上とハンチング発生防止との両立ができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施態様によると、車速とエンジン負荷とに基づいて目標変速段を設定する自動変速機の制御装置であって、自動変速機にはトルクコンバータが備えられ、
車速を検出する車速検出手段と、トルクコンバータをロックアップする摩擦要素を、締結状態とするか解放状態とするかを車速のみにより判定する判定基準を記憶する記憶手段と、車速が判定基準以上である場合に摩擦要素を締結状態と判定し、車速が判定基準未満である場合に摩擦要素を解放状態と判定する判定手段と、判定手段による摩擦要素を締結状態とするか解放状態とするかの判定に基づいて、摩擦要素を締結又は解放する制御を行う締結制御手段と、を備え、締結制御手段は、車速の変化に基づき摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御した後、車速の変化により締結状態と判定された場合、所定の条件が成立するまで摩擦要素を締結状態とすることを禁止する禁止手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、車速が判定基準以上であるか未満であるかによりロックアップクラッチを締結状態とするか解放状態とするかを決定するため、判定基準のヒステリシスを設定せず締結領域が拡大することによって、燃費が向上する。そしてさらに、所定条件の成立まで締結状態とすることを禁止することによって、ハンチングの発生を防止する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態の自動変速機の構成の一例を示すスケルトン図及びシステム構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態のコントロールバルブユニットの油圧回路の説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の締結作動表の説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態のソレノイドバルブの作動状態の説明図である。
【図5】本発明の第1の実施形態の変速マップの説明図である。
【図6】本発明の第1の実施形態のATCUによるロックアップクラッチの制御のフローチャートである。
【図7】本発明の第1の実施形態のATCUによるロックアップクラッチの制御のタイムチャートである。
【図8】本発明の第2の実施形態のATCUによるロックアップクラッチの制御のフローチャートである。
【図9】本発明の第2の実施形態のATCUによるロックアップクラッチの制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態の自動変速機の制御装置について、図面を参照して説明する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態の自動変速機の構成の一例を示すスケルトン図及びシステム構成図である。
【0016】
本実施形態の自動変速機は、前進7速と後退1速の変速段を有する自動車用変速機であって、車両のエンジンEgに対し、ロックアップクラッチLUCを備えたトルクコンバータTCを介して接続されている。エンジンEgから出力された回転は、トルクコンバータTCのポンプインペラ及びオイルポンプOPに伝達され、このポンプインペラの回転により攪拌されたオイルがステータを介してタービンランナに伝達され、入力軸Inputが駆動される。
【0017】
また、図示しない車両には、エンジンEgの駆動状態を制御するエンジンコントローラ(ECU)10と、自動変速機の変速状態等を制御する自動変速機コントローラ(ATCU)20と、ATCU20の出力信号に基づいてクラッチ、ブレーキ等の油圧制御を実行するコントロールバルブユニットCVUが設けられている。なお、ECU10とATCU20とは、CAN通信線等を介して接続され、相互にセンサ情報や制御情報を通信により共有している。
【0018】
ECU10は、ドライバのアクセルペダル操作量(アクセルペダル開度)APOを検出するアクセル開度センサ1と、エンジンのスロットル開度TVOを検出するスロットル開度センサ1aと、エンジン回転速度を検出するエンジン回転速度センサ2と、が接続されている。ECU10は、エンジン回転速度やアクセルペダル開度APOに基づいて燃料噴射量やスロットル開度を制御し、エンジン回転速度及びエンジントルクを制御する。
【0019】
ATCU20は、後述する第1キャリヤPC1の回転速度を検出する第1タービン回転速度センサ3と、第1リングギヤR1の回転速度を検出する第2タービン回転速度センサ4と、出力軸Outputの回転速度を検出する出力軸回転速度センサ5と、ドライバのシフトレバー操作状態を検出するインヒビタスイッチ6と、が接続されている。なお、シフトレバーは、P、R、N、Dの他に、エンジンブレーキが作用するエンジンブレーキレンジ位置とエンジンブレーキが作用しない通常前進走行レンジ位置とを備える。
【0020】
ATCU20は、入力軸Inputの回転速度を演算する回転速度算出部を備え、正常時には車速Vspとスロットル開度TVO又はアクセルペダル開度APOに基づいて、後述する前進7速の変速マップから最適な目標変速段を設定し、コントロールバルブユニットCVUに目標変速段を達成する制御指令を出力する。
【0021】
また、ATCU20は、トルクコンバータTCのロックアップクラッチLUCを締結状態とするか解放状態とするかを制御し、その制御指令をコントロールバルブユニットCVUに出力する。
【0022】
[自動変速機の構成]
次に、自動変速機の構成について説明する。
【0023】
入力軸Input側から軸方向出力軸Output側に向けて、第1遊星ギヤセットGS1、第2遊星ギヤセットGS2の順に遊星歯車機構が配置されている。また、複数のクラッチC1、C2、C3及びブレーキB1、B2、B3、B4が配置されるとともに、複数のワンウェイクラッチF1、F2が配置されている。
【0024】
第1遊星ギヤセットGS1は、2つの遊星ギヤG1、G2を備えて構成されている。このうち、第1遊星ギヤG1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、両ギヤS1、R1に噛み合う第1ピニオンP1と、上記第1ピニオンP1を回転支持する第1キャリヤPC1とを備えたシングルピニオン型遊星ギヤとして構成されている。
【0025】
また、第2遊星ギヤG2も、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、両ギヤS2、R2に噛み合う第2ピニオンP2と、上記第2ピニオンP2を回転支持する第2キャリヤPC2とを有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
【0026】
また、第2遊星ギヤセットGS2は、2つの遊星ギヤG3、G4を備えて構成されている。このうち第3遊星ギヤG3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、両ギヤS3、R3に噛み合う第3ピニオンP3と、上記第3ピニオンP3を回転支持する第3キャリヤPC3とを有するシングルピニオン型遊星ギヤとして構成されている。
【0027】
また、第4遊星ギヤG4も第1〜3ギヤセット同様、第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、両ギヤS4、R4に噛み合う第4ピニオンP4と、上記第4ピニオンP4の回転を支持する第4キャリヤPC4とを有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
【0028】
入力軸Inputは、第2リングギヤR2に連結されており、エンジンEgからの回転駆動力は、トルクコンバータTC等を介して第2リングギヤR2に入力される。
【0029】
一方、出力軸Outputは、第3キャリヤPC3に連結され、出力回転駆動力は図示しないファイナルギヤ等を介して駆動輪に伝達される。
【0030】
ところで、第1リングギヤR1と第2キャリヤPC2と第4リングギヤR4とは、第1連結メンバM1により一体的に連結されている。また、第3リングギヤR3と第4キャリヤPC4とは、第2連結メンバM2により一体的に連結されており、この第2連結メンバM2は、クラッチC1を介して入力軸Input及び第2リングギヤR2に接続されている。
【0031】
また、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とは、第3連結メンバM3により一体的に連結されている。
【0032】
従って、第1遊星ギヤセットGS1は、第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2とを第1連結メンバM1及び第3連結メンバM3により連結することで、4つの回転要素から構成されている。また、第2遊星ギヤセットGS2は、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4とを第2連結メンバM2により連結することで、5つの回転要素から構成されている。
【0033】
第1遊星ギヤセットGS1は、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力されるトルク入力経路を有しており、第1遊星ギヤセットGS1に入力されたトルクは、第1連結メンバM1から第2遊星ギヤセットGS2に出力され。
【0034】
また、第2遊星ギヤセットGS2は、入力軸Inputから第2連結メンバM2に入力されるトルク入力経路と、第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に入力されるトルク入力経路を有しており、第2遊星ギヤセットGS2に入力されたトルクは、第3キャリヤPC3から出力軸Outputに出力される。
【0035】
ここで、各種クラッチC1〜C3のうちインプットクラッチC1は、入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。また、ダイレクトクラッチC2は、第4サンギヤS4と第4キャリヤPC4とを選択的に断接するクラッチである。
【0036】
また、H&LRクラッチC3は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とを選択的に断接するクラッチである。なお、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4との間には、一方向へのみ相対回転を許容し、逆方向へは一体となって回転する第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。
【0037】
なお、H&LRクラッチC3が解放され、第3サンギヤS3よりも第4サンギヤS4の回転速度が大きい時は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4は独立した回転速度を発生する。よって、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギヤが独立したギヤ比を達成する。
【0038】
また、各種ブレーキB1〜B4のうち、フロントブレーキB1は、第1キャリヤPC1の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、フロントブレーキB1と並列に第1ワンウェイクラッチF1が配置されている。
【0039】
また、ローブレーキB2は、第3サンギヤS3の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、2346ブレーキB3は、第3連結メンバM3(第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2)の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、リバースブレーキB4は、第4キャリヤPC4の回転を選択的に停止させるブレーキである。
【0040】
[タービン回転速度演算]
入力軸Inputは第2リングギヤR2に連結され、更に第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2は2つの回転要素が連結された第1遊星ギヤセットGS1を構成していることに着目し、ATCU20内に設けられた回転速度算出部において、2つのタービン回転速度センサ3、4を用いて入力軸Inputの回転速度を計算により検出している。
【0041】
ここで、第1タービン回転速度センサ3は第2キャリヤPC2の回転速度を検出し、第2タービン回転速度センサ4は第1キャリヤPC1に連結されたタービンセンサ用メンバとしてのセンサ用部材63の回転速度を検出している。
【0042】
そして、第1キャリヤPC1の回転速度をN(PC1)、第2キャリヤPC2の回転速度をN(PC2)、第2リングギヤR2の回転速度をN(R2)とし、第2リングギヤR2と第2キャリヤPC2(第1リングギヤR1)のギヤ比を1とし、第1リングギヤR1(第2キャリヤPC2)と第1キャリヤPC1のギヤ比をβとすると、下記の式により第2リングギヤR2の回転速度N(R2)を算出することができる。
【0043】
N(R2)=(1+1/β)・N(PC2)−(1/β)・N(PC1)
【0044】
これにより、第2リングギヤR2(入力軸Input)の回転速度=タービン回転速度を求めることができる。
【0045】
[コントロールバルブユニットの構成]
次に、図2を用いてコントロールバルブユニットCVUの油圧回路について説明する。
【0046】
この油圧回路には、エンジンEgにより駆動された油圧源としてのオイルポンプOPと、ドライバのシフトレバー操作と連動してライン圧PLを供給する油路を切り換えるマニュアルバルブMVと、ライン圧を所定の一定圧に減圧するパイロットバルブPVが設けられている。
【0047】
また、油圧回路には、ローブレーキB2の締結圧を調圧する第1調圧弁CV1と、インプットクラッチC1の締結圧を調圧する第2調圧弁CV2と、フロントブレーキB1の締結圧を調圧する第3調圧弁CV3と、H&RLクラッチC3の締結圧を調圧する第4調圧弁CV4と、2346ブレーキB3の締結圧を調圧する第5調圧弁CV5と、ダイレクトクラッチC2の締結圧を調圧する第6調圧弁CV6と、が設けられている。
【0048】
また、油圧回路には、ローブレーキB2とインプットクラッチC1との各供給油路150a、150bのうちをどちらか一方のみ連通する状態に切り換える第1切換弁SV1と、ダイレクトクラッチC2に対しDレンジ圧とRレンジ圧の供給油路をどちらか一方のみ連通する状態に切り換える第2切換弁SV2と、リバースブレーキB4に対して供給する油圧を第6調圧弁CV6からの供給油圧とRレンジ圧からの供給油圧との間で切り換える第3切換弁SV3と、第6調圧弁CV6から出力された油圧を油路123と油路122との間で切り換える第4切換弁SV4と、が設けられている。
【0049】
また、油圧回路には、自動変速機コントロールユニット20からの制御信号に基づいて、第1調圧弁CV1に対し調圧信号を出力する第1ソレノイドバルブSOL1と、第2調圧弁CV2に対し調圧信号を出力する第2ソレノイドバルブSOL2と、第3調圧弁CV3に対し調圧信号を出力する第3ソレノイドバルブSOL3と、第4調圧弁CV4に対し調圧信号を出力する第4ソレノイドバルブSOL4と、第5調圧弁CV5に対し調圧信号を出力する第5ソレノイドバルブSOL5と、第6調圧弁CV6に対し調圧信号を出力する第6ソレノイドバルブSOL6と、第1切換弁SV1及び第3切換弁SV3に対し切り換え信号を出力する第7ソレノイドバルブSOL7と、が設けられている。
【0050】
前記各ソレノイドバルブSOL2、SOL5、SOL6は三つのポートを有する三方比例電磁弁であり、第1のポートは後述するパイロット圧が導入され、第2のポートはドレーン油路に接続され、第3のポートはそれぞれ調圧弁または切換弁の受圧部に接続されている。また、上記各ソレノイドバルブSOL1、SOL3、SOL4は2つのポートを有する二方比例電磁弁、ソレノイドバルブSOL7は三つのポートを備える三方オンオフ電磁弁である。
【0051】
また、第1ソレノイドバルブSOL1と第3ソレノイドバルブSOL3と第7ソレノイドバルブSOL7は、ノーマルクローズタイプ(非通電時に閉じた状態)の電磁弁である。一方、第2ソレノイドバルブSOL2と第4ソレノイドバルブSOL4と第5ソレノイドバルブSOL5と第6ソレノイドバルブSOL6は、ノーマルオープンタイプ(非通電時に開いた状態)の電磁弁である。
【0052】
[油路構成]
エンジンにより駆動されるオイルポンプOPの吐出圧は、ライン圧に調圧された後、油路101及び油路102に供給される。油路101には、ドライバのシフトレバー操作に連動して作動するマニュアルバルブMVと接続された油路101aと、フロントブレーキB1の締結圧の元圧を供給する油路101bと、H&LRクラッチC3の締結圧の元圧を供給する油路101cと、が接続されている。
【0053】
マニュアルバルブMVには、油路105と、後退走行時に選択されるRレンジ圧を供給する油路106が接続され、シフトレバー操作に応じて油路105と油路106を切り換える。
【0054】
油路105には、ローブレーキB2の締結圧の元圧を供給する油路105aと、インプットクラッチC1の締結圧の元圧を供給する油路105bと、2346ブレーキB3の締結圧の元圧を供給する油路105cと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路105dと、後述する第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路105eとが接続されている。
【0055】
油路106には、第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路106aと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路106bと、リバースブレーキB4の締結圧を供給する油路106cとが接続されている。
【0056】
油路102にはパイロットバルブPVを介してパイロット圧を供給する油路103が接続されている。油路103には、第1ソレノイドバルブSOL1にパイロット圧を供給する油路103aと、第2ソレノイドバルブSOL2にパイロット圧を供給する油路103bと、第3ソレノイドバルブSOL3にパイロット圧を供給する油路103cと、第4ソレノイドバルブSOL4にパイロット圧を供給する油路103dと、第5ソレノイドバルブSOL5にパイロット圧を供給する油路103eと、第6ソレノイドバルブSOL6にパイロット圧を供給する油路103fと、第7ソレノイドバルブSOL7にパイロット圧を供給する油路103gとが設けられている。
【0057】
このような油圧回路を構成し、各種ソレノイドバルブをそれぞれ制御することにより、各クラッチC1〜C3及びブレーキB1〜B4の係合と解放とを切り換えることができる。
【0058】
そして、図3の締結作動表に示すように、各クラッチC1〜C3及び各ブレーキB1〜B4の締結(○印)と解放(無印)とを適宜組み合わせることにより、前進7速、後退1速の各変速段を実現することができる。
【0059】
[変速作用]
次に、変速作用について説明する。
【0060】
<1速>
1速は、エンジンブレーキ作用時(エンジンブレーキレンジ位置選択中)とエンジンブレーキ非作用時(通常前進走行レンジ位置選択中)とで異なるクラッチ又はブレーキが作用する。エンジンブレーキ作用時は、図3の(○)に示すように、フロントブレーキB1とローブレーキB2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。なお、フロントブレーキB1に並列に設けられた第1ワンウェイクラッチF1と、H&LRクラッチC3と並列に設けられた第2ワンウェイクラッチF2もトルク伝達に関与する。エンジンブレーキ非作用時は、フロントブレーキB1とH&LRクラッチC3は解放され、ローブレーキB2のみが締結され、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2によりトルク伝達される。
【0061】
この1速では、フロントブレーキB1が締結(エンジンブレーキ非作動時は第1ワンウェイクラッチF1により締結)されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第1遊星ギヤセットGS1により減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ローブレーキB2及びH&LRクラッチC3が締結(エンジンブレーキ非作動時はローブレーキB2及び第2ワンウェイクラッチF2により締結)されているため、第4リングギヤR4に入力された回転は、第2遊星ギヤセットにより減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
【0062】
この1速では、フロントブレーキB1(もしくは第1ワンウェイクラッチF1)、ローブレーキB2、H&LRクラッチC3(もしくは第2ワンウェイクラッチF2)、第1連結メンバM1、第2連結メンバM2、第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
【0063】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1〜第3ソレノイドバルブSOL1〜SOL3及び第6及び第7ソレノイドバルブSOL6、SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。
【0064】
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオンとしているため、第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、第1調圧弁CV1とローブレーキB2を連通し、インプットクラッチC1をドレーンと接続する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通されるため第6調圧弁CV6にはDレンジ圧が作用する。第6調圧弁CV6は図2中下方に移動しているため、ダイレクトクラッチC2や第4切換弁SV4にDレンジ圧が供給されることはない。
【0065】
なお、第4切換弁SV4はDレンジ圧の作用により図2中右方に移動し、油路121と油路123とを連通した状態であるが締結作用には関係ない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されているため図2中左方に移動し、第1ポートd1と第3ポートd3が連通されているものの油路122には油圧が供給されていないため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
【0066】
<2速>
2速は、エンジンブレーキ作用時(エンジンブレーキレンジ位置選択中)とエンジンブレーキ非作用時(通常前進走行レンジ位置選択中)とで異なるクラッチ又はブレーキが締結する。エンジンブレーキ作用時は、図3の(○)に示すように、ローブレーキB2と2346ブレーキB3とH&LRクラッチC3との締結により得られる。なお、H&LRクラッチ C3と並列に設けられた第2ワンウェイクラッチF2もトルク伝達に関与する。エンジンブレーキ非作動時は、H&LRクラッチC3は解放され、ローブレーキB2と2346ブレーキB3が締結され、第2ワンウェイクラッチF2によりトルク伝達される。
【0067】
この2速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2のみにより減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ローブレーキB2及びH&LRクラッチC3が締結(エンジンブレーキ非作動時は第2ワンウェイクラッチF2により締結)されているため、第4リングギヤR4に入力された回転は、第2遊星ギヤセットにより減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
【0068】
この2速では、2346ブレーキB3、ローブレーキB2、H&LRクラッチC3(もしくは第2ワンウェイクラッチF2)、第1連結メンバM1、第2連結メンバM2、第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
【0069】
なお、1速から2速へのアップシフト時は、フロントブレーキB1を早めに解放し、2346ブレーキB3の締結を開始することで、2346ブレーキB3の締結容量が確保された時点で第1ワンウェイクラッチF1が解放される。よって、変速タイミングの精度の向上を図ることができる。
【0070】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1、第2、第5〜第7ソレノイドバルブSOL1、SOL2、SOL5、SOL6、SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。
【0071】
<3速>
3速は、図3に示すように、2346ブレーキB3とローブレーキB2とダイレクトクラッチC2との締結により得られる。
【0072】
この3速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2により減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2が締結されているため、第4遊星ギヤG4は一体となって回転する。また、ローブレーキB2が締結されているため、第4リングギヤR4と一体に回転する第4キャリヤPC4から第2連結メンバM2を介して第3リングギヤR3に入力された回転は、第3遊星ギヤG3により減速され、第3キャリヤPC3から出力される。このように第4遊星ギヤG4はトルク伝達に関与するが減速作用には関与しない。
【0073】
すなわち、3速は、エンジンの出力回転を減速する2346ブレーキB3の締結点と、第2遊星ギヤG2からの減速回転を減速するローブレーキB2の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力ギヤOutputから出力する。
【0074】
この3速では、2346ブレーキB3、ローブレーキB2、ダイレクトクラッチC2、第1連結メンバM1、第2連結メンバM2、第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
【0075】
なお、2速から3速へのアップシフト時は、H&LRクラッチC3を早めに解放し、ダイレクトクラッチC2の締結を開始することで、ダイレクトクラッチC2の締結容量が確保された時点で第2ワンウェイクラッチF2が解放される。よって、変速タイミングの精度の向上を図ることができる。
【0076】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1、第2、第4、5及び第7ソレノイドバルブSOL1、SOL2、SOL4、SOL5、SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。
【0077】
<4速>
4速は、図3に示すように、2346ブレーキB3とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。
【0078】
この4速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2のみにより減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は一体で回転する。よって、第4リングギヤR4に入力された回転は、そのまま第3キャリヤPC3から出力される。
【0079】
この4速では、2346ブレーキB3、ダイレクトクラッチC2、H&LRクラッチC3、第1連結メンバM1、第2連結メンバM2、第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
【0080】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、第2及び第5ソレノイドバルブSOL2、SOL5をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。
【0081】
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中右方に移動し、ローブレーキB2をドレーン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
【0082】
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通される。油路122はドレーン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、第2ポートd2と第3ポートd3が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
【0083】
<5速>
5速は、図3に示すように、インプットクラッチC1とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。
【0084】
この5速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2連結メンバM2に入力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されているため、第3遊星ギヤG3は一体で回転する。よって、入力軸Inputの回転は、そのまま第3キャリヤPC3から出力される。
【0085】
この5速では、インプットクラッチC1、ダイレクトクラッチC2、H&LRクラッチC3、第2連結メンバM2にトルクが作用する。つまり、第3遊星ギヤG3のみがトルク伝達に関与する。
【0086】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、全てのソレノイドバルブSOL1〜SOL7をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。
【0087】
<6速>
6速は、図3に示すように、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3と2346ブレーキB3の締結により得られる。
【0088】
この6速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2リングギヤに入力されると共に、第2連結メンバM2に入力される。また、2346ブレーキB3が締結されているため、第2遊星ギヤG2により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM4の回転によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
【0089】
この6速では、インプットクラッチC1、H&LRクラッチC3、2346ブレーキB3、第1連結メンバM1、第2連結メンバM2、第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
【0090】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、第5及び第6ソレノイドバルブSOL5、SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1、SOL2、SOL3、SOL4、SOL7をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。
【0091】
<7速>
7速は、図3に示すように、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3とフロントブレーキB1(第1ワンウェイクラッチF1)の締結により得られる。
【0092】
この7速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2リングギヤに入力されると共に、第2連結メンバM2に入力される。また、フロントブレーキB1が締結されているため、第1遊星ギヤセットGS1により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM4の回転によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
【0093】
この7速では、インプットクラッチC1、H&LRクラッチC3、フロントブレーキB1、第1連結メンバM1、第2連結メンバM2、第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
【0094】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、第3及び第6ソレノイドバルブSOL3、SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1、SOL2、SOL4、SOL5、SOL7をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。
【0095】
<後退>
後退は、図3に示すように、H&LRクラッチC3とフロントブレーキB1とリバースブレーキB4の締結により得られる。
【0096】
この後退では、フロントブレーキB1が締結されているため、第1遊星ギヤセットGS1により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結され、リバースブレーキB4が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM2の固定によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
【0097】
すなわち、後退は、エンジンの出力回転を第1遊星ギヤセットGS1により減速するフロントブレーキB1、第2連結メンバM2の回転を固定するリバースブレーキB4、第2遊星ギヤセットGS2を構成するH&LRクラッチC3の締結点を結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を逆向きに減速して出力ギヤOutputから出力する。
【0098】
この後退でのトルクフローは、H&LRクラッチC3、フロントブレーキB1、リバースブレーキB4、第1連結メンバM1、第2連結メンバM2、第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
【0099】
このとき、図4のソレノイドバルブ作動表に示すように、第2、第3及び第6ソレノイドバルブSOL2、SOL3、SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブ SOL1、SOL4、SOL5、SOL7をオフとすることで、所望のクラッチ又はブレーキに締結圧が供給される。なお、第7ソレノイドSOL7についてはRレンジ切り換え初期はオンとし、締結完了後にオフとする。
【0100】
リバースブレーキB4には、第3切換弁SV3を介してRレンジ圧が供給される。Rレンジには、専用の調圧弁を持っていないため、締結初期には、ダイレクトクラッチC2に使用していた第6調圧弁CV6を用いてリバースブレーキB4の締結圧を調圧する。まず、マニュアルバルブMVによりRレンジ圧に切り換えられると、第2切換弁SV2は図2中右方に移動し、第6調圧弁CV6にRレンジ圧が供給される。また、第4切換弁SV4は図2中左方に移動し、油路121と油路122とを連通する。これにより、第6調圧弁CV6により調圧された油圧が油路122に導入される。
【0101】
この状態で第7ソレノイドバルブSOL7をオンとすると、第3切換弁SV3は図2中左方に移動し、油路122と油路130を連通する。よって、第7ソレノイドバルブSOL7がオンの間は第6調圧弁CV6により調圧された油圧によってリバースブレーキB4の締結圧を制御する。締結が完了すると、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとする。すると、第3切換弁SV3が図2中右方に移動し、油路106cと油路130が連通されるため、Rレンジ圧がそのまま導入され、締結状態を維持する。
【0102】
このように、第3切換弁SV3及び第4切換弁SV4を設けたことで、1つの調圧弁で2つのクラッチ又はブレーキの締結圧を制御することを可能としている。
【0103】
この通常7速シフトマップは、例えば図5に示すような特性となっており、出力軸回転速度センサ5に基づいて算出される車速Vspと、アクセル開度センサ1で得られるアクセル開度APOをパラメータとして変速領域が区画され、アップシフト線又はダウンシフト線を横切るとアップシフト又はダウンシフトが実行される。
【0104】
次に、このように構成された本実施形態の自動変速機における、トルクコンバータTCのロックアップの制御について説明する。
【0105】
ATCU20は、車両の運転状態を取得し、この運転状態に基づいて、トルクコンバータTCのロックアップクラッチLUCを締結状態と非締結状態とのいずれかを判断する。そして、この判断結果に基づいて、トルクコンバータTCのロックアップクラッチLUCの締結状態を制御する。
【0106】
具体的には、ATCU20は、運転状態としての車速Vspを取得する。この車速Vspと、図5のシフトマップ中に一点鎖線で示すロックアップ領域判定車速(SlipL/U領域判定車速)とを比較する。
【0107】
車速Vspがロックアップ領域判定車速以上である場合はロックアップ領域であると判定して、ATCU20はロックアップクラッチLUCを締結状態に制御する。一方、車速Vspがロックアップ領域判定車速未満である場合はトルコン(T/C)領域であると判定して、ATCU20はロックアップクラッチLUCを解放状態に制御する。
【0108】
このように、ATCU20が、トルクコンバータTCをロックアップするロックアップクラッチLUCを締結状態とするか解放状態とするかを決定する判定基準(SlipL/U領域判定車速)を予め記憶することにより、記憶手段が構成される。
【0109】
なお、本実施形態では、ロックアップクラッチLUCの締結状態は、トルクコンバータTCの入力回転速度と出力回転速度との差を所定範囲内(例えば数10rpm)に制御するスリップロックアップ(以下、「SlipL/U」とも記載する)も含むものとする。
【0110】
このような制御によって、車両の運転状態に基づいてトルクコンバータTCのロックアップクラッチLCUの締結状態が制御される。
【0111】
このように、本実施形態では、ロックアップクラッチLUCを締結状態とする判定基準(車速)と、ロックアップクラッチLUCを解放状態とする判定基準(車速)を同一としたので、ロックアップクラッチLUCの締結領域が拡大し、燃費が向上する。
【0112】
しかしながら、このように設定すると、車両の運転状態がこの判定基準付近で拮抗している場合に、ロックアップクラッチLUCの締結・非締結のON/OFFが頻繁に繰り替えされるハンチングが発生する慮がある。
【0113】
そこで、本実施形態では、以下に説明するように制御することによって、ハンチングの発生を抑制するように構成した。
【0114】
図6は、本実施形態のATCU20が実行するロックアップクラッチLUCの制御のフローチャートである。
【0115】
このフローチャートは、ATCU20において所定の周期(例えば10ms毎)で実行される。
【0116】
本フローチャートの処理開始後、ATCU20は、現在の車両の運転状態に関係するデータを取得する(S101)。具体的には、第1タービン回転速度センサ3、第2タービン回転速度センサ4、出力軸回転速度センサ5、インヒビタスイッチ6等からの信号を取得する。また、ECU10から、アクセルペダル開度APO、エンジン回転速度N等を取得する。
【0117】
ATCU20は、これら各センサからの信号値に基づいて、以降の制御に関わるデータ(車速Vsp、アクセルペダル開度APO等)を取得する。すなわち、ATCU20が、前述の各センサから取得した値に基づいて車速Vspを検出することにより、車速検出手段が構成される。
【0118】
次に、ATCU20は、予め記憶されている変速マップ(図5)を参照して、取得した車速Vspが締結領域にあるか否か、すなわち、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であるか否かを判定する(S102)。
【0119】
このように、ATCU20が、車速Vspと判定基準であるSlipL/U領域判定車速が設定された変速マップとに基づいて摩擦要素であるロックアップクラッチLUCを締結状態とするか解放状態とするかを判定することにより、判定手段が構成される。
【0120】
判定の結果、車速VspがSlipL/U領域判定車速未満であると判定した場合は、ステップS103に移行する。車速VspがSlipL/U領域領域判定車速以上であると判定した場合は、ステップS109に移行する。
【0121】
ステップS103では、ATCTU20は、前回の領域判定の結果がSlipL/U領域であるか否かを判定する。なお前回の判定領域とは、本フローチャートによる制御の一つ前に実行された制御(ステップS104、S105、S110、S117)において判定された結果である。
【0122】
前回の判定結果がSlipL/U領域でない場合(T/C領域)はステップS104に移行する。前回の判定結果がSlipL/U領域であった場合はステップS105に移行する。
【0123】
ステップS104では、現在の車速VspがSlipL/U領域判定車速未満であり、かつ、前回の判定結果もT/C領域であるので、ATCU20は、引き続きトルコン領域であると判定する。
【0124】
その後、ステップS107に移行し、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始済みであるか否かを判定する。このSlipL/U領域判定ディレイタイマは、後述するようにロックアップクラッチLUCの解放後、ハンチングを抑制するための時間を計測するために用いられる。
【0125】
SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始済みである場合は、ATCU20は、SlipL/U領域判定ディレイタイマに1を加算することでカウントアップして更新する(S108)。その後、本フローチャートによる処理を一旦終了する。SlipL/U領域判定ディレイタイマが開始していない場合は、そのまま本フローチャートによる処理を一旦終了する。
【0126】
ステップS103において、前回の判定結果がSlipL/U領域であると判定した場合は、ステップS105において、ATCU20は、現在の車速VspがSlipL/U領域判定車速未満であるので、T/C領域であると判定する。
【0127】
次に、ステップS106において、ATCU20は、SlipL/U領域からT/C領域へと変化したことに伴う初期化処理を実行する。
【0128】
ここで、ステップS105においてSlipL/U領域からT/C領域に変更した後、またすぐにSlipL/U領域に変更すると、ハンチングが発生する。
【0129】
そこで本実施形態では、ハンチングの発生を防止するために、所定の条件が成立しない場合は、たとえ車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であるとしてもSlipL/U領域へと変更しない。この所定の条件の成立を判断するための初期値を、本ステップS106において設定する。
【0130】
ATCU20は、SlipL/U領域判定ディレイタイマを開始させる。また、ステップS101で取得したアクセルペダル開度APO、アクセルペダル開度APOが全閉であるか否か、車速Vspをそれぞれ記憶する。
【0131】
次に、ステップS107に移行し、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始済みであるか否かを判定する。なお、ステップS106の処理の後にステップS107に移行した場合は、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始済みであるので、ステップS108に移行してSlipL/U領域判定ディレイタイマをカウントアップする。その後、本フローチャートによる処理を一旦終了する。
【0132】
ステップS102において、車速VspがSlipL/U領域領域判定車速以上であると判定した場合は、ステップS109に移行する。
【0133】
ステップS109では、ATCTU20は、前回の領域判定の結果がT/C領域であるか否かを判定する。なお、前回の判定領域とは、本フローチャートによる制御の一つ前に実行された制御における判定結果である。
【0134】
前回の判定結果がT/C領域でないと判定していた場合、すなわち、前回の判定結果がSlipL/U領域であると判定していた場合はステップS110に移行する。
【0135】
ステップS110では、現在の車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であり、かつ、前回の判定結果もSlipL/U領域であるので、ATCU20は、引き続きSlipL/U領域であると判定する。
【0136】
その後、ステップS107に移行し、ATCU20は、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始済みであれば、SlipL/U領域判定ディレイタイマをカウントアップし(S108)。その後、本フローチャートによる処理を一旦終了する。SlipL/U領域判定ディレイタイマが開始していない場合は、そのまま本フローチャートによる処理を一旦終了する。
【0137】
ステップS109において、前回の判定結果がT/C領域であると判定していた場合は、ステップS111に移行する。
【0138】
ステップS111では、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始しているか否かを判定する。
【0139】
SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始している場合はステップS112に移行する。SlipL/U領域判定ディレイタイマが未だ開始していない場合はステップS110に移行する。
【0140】
このステップS111では、前回の判定結果がT/C領域であったが、ステップS102において車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定した場合である。ここで、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始している場合は、ステップS106の初期化処理が実行されて一旦本フローチャートの処理を終了した後、再び本フローチャートの処理が開始された状態である。
【0141】
この場合、前々回の判定結果がSlipL/U状態であり、前回の判定結果がS105においてT/C状態と判定されている。従って、この後、車速Vspに基づいて、直ちにSlipL/U状態に設定するとハンチングとなってしまう。
【0142】
そこで本実施形態は、ステップS112からステップS115に規定する所定の条件の少なくとも一つが成立している場合にのみ、SlipL/U状態へと設定する。所定の条件が成立しない場合は、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定してもSlipL/U状態へ移行せず、T/C状態のままとする。
【0143】
本実施形態の所定の条件は、SlipL/U領域判定ディレイタイマの満了(S112)、アクセルペダル開度APOの全閉/非全閉状態の変化(S113)、アクセルペダル開度APOの所定量以上の変化(S114)、車速Vspの所定量以上の変化(S115)である。これらの所定の条件のうち少なくとも一つが成立している場合は、ハンチングが発生しないと判定して、SlipL/U領域へと変更する。
【0144】
ステップS112では、ATCU20は、SlipL/U領域判定ディレイタイマが所定値以上であるか否かを判定する。SlipL/U領域判定ディレイタイマが所定値以上である場合、すなわちSlipL/U領域判定ディレイタイマが満了した場合は、ステップS110に移行してSlipL/U状態に設定する。SlipL/U領域判定ディレイタイマが所定値未満である場合はステップS113に移行する。
【0145】
このSlipL/U領域判定ディレイタイマは、SlipL/U状態からT/C状態となった後再びSlipL/U状態になるまでのタイミングが、運転者にハンチングと感じさせない程度の時間を満了時間として設定する。
【0146】
一般的な有段ATでは、運転者にシフトビジーと感じさせないために、変速後、再び変速するまでタイミングを所定時間間隔以上(例えば2秒)に制御している。本実施形態のSlipL/U領域判定ディレイタイマによって判定する所定時間を、この所定時間間隔と同等に設定することによって、トルクコンバータTCの締結・非締結の切り替わりを、運転者にハンチングと感じさせないように制御することができる。
【0147】
ステップS113では、ATCU20は、アクセルペダルの状態が変化したか否かを判定する。より具体的には、アクセルペダルの状態が非全閉状態から全閉状態へと変化したか、または、全開状態から非全開状態へと変化したかを判定する。アクセルペダルの状態が変化したと判定した場合は、ステップS110に移行してSlipL/U状態に設定する。アクセルペダルの状態が変化していない場合はステップS114に移行する。
【0148】
運転者はアクセルペダルの開度を調節して車両の速度、加速度を制御している。運転者が意図してアクセルペダルを操作した場合は、その結果発生する車両の挙動の変化を予測できるため、意図しない操作と比較してハンチングの許容度が大きくなる。
【0149】
本ステップでは、運転者がアクセルペダルの足離しを行ったり足離し状態から踏み込みを行ったことにより、意図してアクセルペダルの操作を行ったと判定した場合は、仮に制御がハンチングとなったとしても運転者の許容度は大きいため、直ちにSlipL/U領域に設定する。
【0150】
また、アクセルペダルを全閉とした場合は運転者がエンジンブレーキを意図している場合であり、アクセルペダルを全閉から踏み込んだ場合は加速や速度維持を意図している場合であるので、積極的にロックアップクラッチを締結状態とすることにより、燃費を向上させることができる。
【0151】
ステップS114では、ATCU20は、アクセルペダル開度APOの変化量が所定量以上であるか否かを判定する。なお、アクセルペダル開度APOの変化量は、前回のフローチャートによる制御のステップS106で記憶したアクセルペダル開度APOと、今回の制御のステップS101で取得したアクセルペダル開度APOとの差の絶対値から算出する。
【0152】
アクセルペダル開度APOの変化量が所定量以上であると判定した場合は、ステップS110に移行してSlipL/U状態に設定する。アクセルペダル開度APOの変化量が所定量未満である場合はステップS115に移行する。
【0153】
前述のステップS114と同様に、運転者が意図してアクセルペダルを操作している場合は、ハンチングの許容度は大きい。そこで、アクセルペダルの操作量が大きい場合、すなわち、アクセルペダル開度APOの変化量が所定量(例えば、1/8開度)以上である場合は、仮に制御がハンチングとなったとしても運転者の許容度は大きいため、SlipL/U領域に設定する。
【0154】
また、アクセルペダル開度APOの変化量が大きい場合は、運転者が積極的に加速又は減速を意図している場合であるので、積極的にロックアップクラッチを締結状態とすることにより、燃費を向上させることができる。
【0155】
ステップS115では、ATCU20は、車速Vspの変化量が所定量以上であるか否かを判定する。なお、車速Vspの変化量は、前回のフローチャートによる制御のステップS106で記憶した車速Vspと、今回の制御のステップS101で取得した車速Vspとの差の絶対値から算出する。
【0156】
車速Vspの変化量が所定量以上であると判定した場合は、ステップS110に移行してSlipL/U状態に設定する。車速Vspの変化量が所定量未満である場合はステップS116に移行する。
【0157】
車速Vspの変化は、運転者の加速意図又は減速意図の結果もたらされる。従って、運転者が積極的に加速又は減速を意図している場合はハンチングの許容度は大きい。そこで、車速Vspの変化量が大きく、所定量以上である場合は、仮に制御がハンチングとなったとしても運転者の許容度は大きいため、SlipL/U領域に設定する。
【0158】
なお、従来技術である特許文献1に記載されているように、ハンチングを防止するためにロックアップクラッチLCUの締結非締結の判定値にヒステリシスを設定する。また、有段変速機における変速段の変更にもヒステリシスを設定する。このヒステリシスは、通常3km/h程度である。本実施形態の車速Vspの変化量が大きいと判断するための所定値を、このヒステリシスと同等に設定することによって、トルクコンバータTCの締結・非締結の切り替わりを、運転者にハンチングと感じさせないように制御することができる。
【0159】
これらステップS112からS115の制御に定義される所定の条件のいずれも成立していないと判定した場合は、ステップS116に移行して、ATCU20は、前回の領域判定の結果を維持することを決定する。この結果、ATCU20は、ステップS117において、T/C領域であると判定する。
【0160】
その後、ステップS107に移行し、ATCU20は、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既に開始済みであれば、SlipL/U領域判定ディレイタイマをカウントアップし(S108)。その後、本フローチャートによる処理を一旦終了する。SlipL/U領域判定ディレイタイマが開始していない場合は、そのまま本フローチャートによる処理を一旦終了する。
【0161】
以上のように、本フローチャートの制御によって、トルクコンバータTCのロックアップクラッチLUCの締結・非締結の切り替えにヒステリシス設けないことによって燃費を向上させ、かつ、ハンチングによる運転者に与える違和感を低減することができる。
【0162】
なお、この図6のフローチャートにおいて、ATCU20が、ステップS104、S110及びS117において、ロックアップクラッチLUCを締結状態とするか解放状態とするかを決定することにより、締結制御手段が構成される。
【0163】
また、この図6のフローチャートにおいて、ATCU20が、ステップS112からS115における所定の条件が成立していない場合に、ステップS116及びS117においてロックアップクラッチLUCを締結状態とすることを禁止することによって、禁止手段が構成される。
【0164】
図7は、本実施形態のATCU20によるロックアップクラッチLUCの制御のタイムチャートである。
【0165】
このタイムチャートは、上から、ロックアップクラッチLUCの状態、アクセルペダル開度APOの変化、アクセルペダル開度APOの変化量と所定値との比較結果、車速Vspの変化量と所定値との比較結果、アクセルペダル状態、SlipL/U状態判定ディレイタイマの状態、アクセルペダル開度APOの変化、車速Vspの変化、をそれぞれ示す。
【0166】
まず、ロックアップクラッチLUCの状態(指令値)はT/C状態である。
【0167】
ここで、車速Vspが上昇し、タイミングt1において、ATCU20が、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定した場合は(図6のステップS102において「YES」)、前回の領域判定がT/Cであり(ステップS109において「YES」)、SlipL/U領域判定ディレイタイマが未だ開始していない(ステップS111において「NO」)と判定されるので、ステップS110に移行して、SlipL/U状態と判定する。
【0168】
その後、車速Vspが下降し、タイミングt2において、ATCU20が、車速VspがSlipL/U領域判定車速未満であると判定した場合は(図6のステップS102において「NO」)、前回の領域判定がSlipL/Uである(ステップS103において「YES」)と判定されるので、ステップS105に移行して、T/C状態と判定する。
【0169】
続いてATCU20は、ステップS106における初期化制御を実行し、SlipL/U領域判定ディレイタイマをスタートさせる。また、このタイミングt2時点でのアクセルペダル状態、アクセルペダル開度APO、車速Vspを、それぞれ記憶する。
【0170】
その後、車速が再び上昇し、タイミングt3において、ATCU20が、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定した場合は(ステップS102において「YES」)、前回の領域判定がT/Cであり(ステップS109において「YES」)、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既にスタートしている(ステップS111において「YES」)ので、ATCU20は、図6のステップS112からS115に規定される所定の条件が成立しているか否かを判定する。
【0171】
ステップS112において、ATCU20は、SlipL/U領域判定ディレイタイマが満了しているか否かを判定する。タイミングt3の時点では満了していないので、この条件は否定される。
【0172】
ステップS113において、ATCU20は、アクセルペダルの状態が全閉状態へと変化したか否かを判定する。タイミングt3の時点ではアクセルペダルの状態は変化していないので、この条件は否定される。
【0173】
ステップS114において、ATCU20は、アクセルペダル開度APOの変化量が所定値以上であるか否かを判定する。タイミングt3の時点ではアクセルペダル開度APOの変化量は所定値未満なので、この条件は否定される。
【0174】
ステップS115において、ATCU20は、車速Vspの変化量が所定値以上であるか否かを判定する。タイミングt3の時点では車速Vspの変化量は所定値未満なので、この条件は否定される。
【0175】
この結果、タイミングt3の時点ではこれら所定の条件が成立していないので、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であっても、ATCU20は、T/C領域を維持する。
【0176】
以降、ATCU20は、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であり、(ステップS102において「YES」)、前回の領域判定がT/Cであり(ステップS109において「YES」)、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既にスタートしている(ステップS111において「YES」)場合は、図6のステップS112からS115に規定される所定の条件が成立しているか否かの判定を繰り返す。この間は、ステップS107及びS108の処理によって、SlipL/U領域判定ディレイタイマをカウントアップする。
【0177】
そして、タイミングt4において、ステップS112からS115に規定される所定の条件の少なくとも一つが成立した場合は(ここでは、SlipL/U領域判定ディレイタイマが満了し、ステップS112において肯定された)、ステップS110に移行して、SlipL/U領域に移行する。
【0178】
このように、ロックアップクラッチLUCがSlipL/U状態からT/C状態に移行した後、再びSlipL/U状態に移行する時に、運転者にハンチングを感じさせないように制御が行われる。
【0179】
以上のように、本発明の第1の実施形態では、トルクコンバータTCのロックアップクラッチLUCを締結状態(SlipL/U)と判断する基準値と、非締結状態(T/C)と判断する基準値とを同一として、ヒステリシスを設定しない。このようにすることによって、締結状態とする領域をより拡大することができるので、燃費を向上することができる。
【0180】
また、ロックアップクラッチLUCを締結状態から解放状態へと変化したときに、車両の状態(アクセルペダルの状態、アクセルペダル開度APO及び車速Vsp)を記憶しておき、その後、基準値が締結領域となった場合に、記憶した車両の状態と現在の車両の状態とを比較して、所定の条件が成立した場合にのみ、再度締結状態とする。このようにすることによって、締結状態と非締結状態とを繰り返すことによる制御のハンチングが運転者に与える違和感を低減することができる。
【0181】
<第2実施形態>
次に、第2の実施形態について説明する。
【0182】
第1の実施形態では、ロックアップクラッチLUCを締結状態から解放状態とした後、所定の条件が成立した場合にのみ、再度の締結を許可するよう構成した。これに対して第2の実施形態では、車両の加速度を検出し、この加速度に基づいて、締結状態を制御するように構成した。
【0183】
なお、第2実施形態の基本構成は第1の実施形態と同一であるため、その説明は省略する。
【0184】
図8は本発明の第2の実施形態のATCU20によるロックアップクラッチLUCの制御のフローチャートである。
【0185】
前述の第1の実施形態と同様に、このフローチャートは、ATCU20において所定の周期(例えば10ms毎)で実行される。
【0186】
本フローチャートの処理開始後、ATCU20は、現在の車両の運転状態に関係するデータ(車速Vsp、アクセルペダル開度APO、各回転速度センサの回転速度等)を取得する(S201)。
【0187】
ATCU20は、これら各センサからの信号値に基づいて、現時点での車両の加速度aを算出する(S202)。すなわち、ATCU20が、前述の各センサから取得した値に基づいて加速度aを検出することにより、加速度検出手段が構成される。
【0188】
ATCU20は、算出された加速度aが所定値以上であるか否かを判定する。所定値以上であると判定した場合はステップS220に、所定値未満であると判定した場合はステップS204に移行する。
【0189】
第1の実施形態で前述したように、運転者が意図してアクセルペダルを操作して速度や加速度を調節した場合は、その結果発生する車両の挙動の変化を予測できるため、意図しない操作と比較してハンチングの許容度が大きくなる。
【0190】
第2の実施形態では、このような運転者の操作の結果、加速度が十分に大きいと判定した場合には、所定の条件が成立しているか否かの判定を行うことなく、車速のみに基づいてロックアップクラッチLUCの締結判定を行う。
【0191】
具体的には、ステップS203において、車両の加速度aが所定値以上であると判定した場合はステップS220に移行して、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であるか否かを判定する。
【0192】
一般的な燃費重視での走行状態において、特に発進時の加速度は0.1G(G=0.9m/s)である。従って、加速度aの所定値をこの0.1Gとすることによって、加速度が十分に大きいか否かの判断を行うことができる。
【0193】
車速VspがSlipL/U領域判定車速未満であると判定した場合は、ステップS221に移行して、ATCU20は、T/C領域と判定する。車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定した場合は、ステップS222に移行して、ATCU20は、SlipL/U領域と判定する。
【0194】
その後、本フローチャートによる制御を一旦終了する。
【0195】
なお、ステップS203において、車両の加速度aが所定値未満であると判定した場合はステップS204に移行する。このステップS204からステップS219間での制御は、第1の実施形態と同一であるため、説明を省略する。
【0196】
図9は、第2の実施形態のATCU20によるロックアップクラッチLUCの制御のタイムチャートである。
【0197】
このタイムチャートは、上から、ロックアップクラッチLUCの状態、アクセルペダルの状態、SlipL/U状態判定ディレイタイマの状態、加速度aの状態、アクセルペダル開度APOの変化、車速Vspの変化、をそれぞれ示す。
【0198】
まず、ロックアップクラッチLUCの状態(指令値)はT/C状態である。
【0199】
ここで、車速Vspが上昇し、タイミングt1において、ATCU20が、加速度aが所定値未満である状態(図8のステップS203において「NO」)で、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定した場合は(ステップS204において「YES」)、前回の領域判定がT/Cであり(ステップS211において「YES」)、SlipL/U領域判定ディレイタイマが未だ開始していない(ステップS213において「NO」)と判定されるので、ステップS212に移行して、SlipL/U状態と判定する。
【0200】
その後、車速Vspが下降し、タイミングt2において、ATCU20が、加速度aが所定値未満である状態(ステップS203において「NO」)で、車速VspがSlipL/U領域判定車速未満であると判定した場合は(ステップS204において「NO」)、前回の領域判定がSlipL/Uである(ステップS205において「YES」)と判定されるので、ステップS207に移行して、T/C状態と判定する。
【0201】
続いてATCU20は、ステップS208における初期化制御を実行する。
【0202】
その後、車速が再び上昇し、タイミングt3において、ATCU20が、加速度aが所定値未満である状態(ステップS203において「NO」)で、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定した場合は(ステップS204において「YES」)、前回の領域判定がT/Cであり(ステップS211において「YES」)、SlipL/U領域判定ディレイタイマが既にスタートしている(ステップS213において「YES」)ので、ATCU20は、図8のステップS214からS217に規定される所定の条件が成立しているか否かを判定する。
【0203】
この図9の例では、タイミングt3の時点ではこれら所定の条件が成立していないので、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であるとしても、ATCU20は、T/C領域を維持する。
【0204】
その後、タイミングt4において、ATCU20は、加速度aが所定値以上であると判定すると(ステップS203において「YES」)で、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であるか否かのみに基づいて、ロックアップクラッチLUCの締結判定に用いる。
【0205】
ここでは、車速VspがSlipL/U領域判定車速以上であると判定し(ステップS220において「YES」)、ステップS222に移行して、SlipL/U領域に移行する。
【0206】
このように、ロックアップクラッチLUCがSlipL/U状態からT/C状態に移行した後、再びSlipL/U状態に移行するときに、加速度aの大きさを判定に用いることで、運転者にハンチングを感じさせることなく、燃費を向上するように制御が行われる。
【0207】
以上のように、本発明の第2の実施形態では、前述の第1の実施形態に加え、加速度をトルクコンバータTCのロックアップクラッチLUCを締結/解放の判定に用いるように構成した。このようにすることによって、前述の第1の実施形態の効果に加え、車両の加速度が十分に大きい場合は、所定条件が成立したかの判定を行うことなく、車速のみによって判定を行うので、締結領域を拡大することができ、燃費の向上とハンチングの低減を両立することができる。
【0208】
特に、加速度が十分に大きい場合は、所定の車速付近に運転状態が停滞することがないため、ハンチングが発生する可能性が小さい。そのため、このような運転状態の場合にはハンチング防止のための制御を実行させる必要がない。そこで、加速度が十分大きい場合には所定の条件の判定を行わせないことで、制御の遅れを防止し、ロックアップクラッチLUCの締結状態への移行を速めるので、燃費を向上させることができる。
【0209】
なお、以上説明した第1及び第2の実施形態では、7速の自動変速機を例に説明したが、これに限られるものではなく、他の有段変速機であってもよい。また、ベルトやチェーン等をプーリで挟持するベルト式無段変速機や、パワーローラを入出力ディスクで挟持するトロイダル式(フルトロイダル・ハーフトロイダル)の無段変速機構であってもよい。
【0210】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【0211】
なお、前述した以外の本発明の観点の代表的なものとして、次のものがあげられる。
【0212】
(1)車速とエンジン負荷とに基づいて目標変速段を設定する自動変速機の制御装置であって、
前記自動変速機にはトルクコンバータが備えられ、
車速を検出する車速検出手段と、
前記トルクコンバータをロックアップする摩擦要素を、締結状態とするか解放状態とするかを判定する判定基準を記憶する記憶手段と、
前記車速が前記判定基準以上である場合に前記摩擦要素を締結状態と判定し、前記車速が前記判定基準未満である場合に前記摩擦要素を解放状態と判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づいて、前記摩擦要素を締結又は解放する制御を行う締結制御手段と、
を備え、
前記締結制御手段は、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御した後は、前記判定結果にかかわらず、所定の条件が成立するまで前記摩擦要素を締結状態とすることを禁止する禁止手段を備えることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【0213】
(2)前記締結制御手段は、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御した後に所定時間が経過したとき、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御した後にアクセルペダルの開度が非全閉状態又は全開状態から全開状態又は非全開状態となったとき、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御してからアクセルペダル開度の変化量が所定開度以上変化したとき、又は、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御してから車速の変化量が所定車速以上変化したときに、前記所定の条件が成立したと判定することを特徴とする(1)に記載の自動変速機の制御装置。
【0214】
(3)前記車両の加速度を検出する加速度検出手段を備え、
前記締結制御手段は、前記検出された加速度が所定加速度以上である場合に、前記禁止手段による所定条件の成立の判定を行うことなく、前記判定結果に基づいて前記摩擦要素を締結状態とすることを許可することを特徴とする(1)又は(2)に記載の自動変速機の制御装置。
【0215】
これら(1)から(3)の態様によると、車速が判定基準以上であるか未満であるかによりロックアップクラッチを締結状態とするか解放状態とするかを決定するため、判定基準のヒステリシスを設定せず締結領域が拡大することによって、燃費が向上する。そしてさらに、所定条件の成立まで締結状態とすることを禁止することによって、ハンチングの発生を防止する。
【符号の説明】
【0216】
1 アクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)
1a スロットル開度センサ
2 エンジン回転数センサ
3、4 タービン回転数センサ
5 出力軸回転数センサ
10 エンジンコントローラ(ECU)
20 自動変速機のコントローラ(ATCU、記憶手段、判定手段、締結制御手段、禁止手段)
Eg エンジン
LUC ロックアップクラッチ(摩擦要素)
TC トルクコンバータ
OP オイルポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速とエンジン負荷とに基づいて目標変速段を設定する自動変速機の制御装置であって、
前記自動変速機にはトルクコンバータが備えられ、
車速を検出する車速検出手段と、
前記トルクコンバータをロックアップする摩擦要素を、締結状態とするか解放状態とするかを前記車速のみにより判定する判定基準を記憶する記憶手段と、
前記車速が前記判定基準以上である場合に前記摩擦要素を締結状態と判定し、前記車速が前記判定基準未満である場合に前記摩擦要素を解放状態と判定する判定手段と、
前記判定手段による前記摩擦要素を締結状態とするか解放状態とするかの判定に基づいて、前記摩擦要素を締結又は解放する制御を行う締結制御手段と、
を備え、
前記締結制御手段は、前記車速の変化に基づき前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御した後、前記車速の変化により前記締結状態と判定された場合、所定の条件が成立するまで前記摩擦要素を締結状態とすることを禁止する禁止手段を備えることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記締結制御手段は、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御した後に所定時間が経過したときに、前記所定の条件が成立したと判定することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記締結制御手段は、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御した後にアクセルペダルの開度が非全閉状態から全閉状態となったとき、又は、全閉状態から非全閉状態となったときに、前記所定の条件が成立したと判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記締結制御手段は、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御してからアクセルペダル開度の変化量が所定開度以上変化したときに、前記所定の条件が成立したと判定することを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記締結制御手段は、前記摩擦要素を締結状態から解放状態へと制御してから車速の変化量が所定車速以上変化したときに、前記所定の条件が成立したと判定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−7738(P2012−7738A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219949(P2011−219949)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【分割の表示】特願2009−202329(P2009−202329)の分割
【原出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】