説明

自動水栓装置

【課題】電波センサを用いた自動水栓装置であって、デザイン自由度を確保でき、吐水及び止水タイミングが良好である自動水栓装置を提供する。
【解決手段】使用者の動作状態を検知するための電波センサと、連通管10内と水管20との間に形成された電波通過用空間と、電波を外部に放射するための電波放射口27と、電波放射口27から放射される電波の指向性を調整するための指向性調整手段と、電波センサの検出信号に基づいて吐水口26からの吐水と止水を行う制御部であって、所定値以上の信号値を有する検出信号に基づいて検知範囲を決定する制御部とを備え、指向性調整手段は、洗浄水Wによって電波放射口27から放射される電波の少なくとも一部を減衰させることによって、止水中よりも吐水中の検知範囲の方を小さくするように、電波を洗浄水Wに干渉させるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動水栓装置に関し、特に電波センサを用いて吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光電センサを用いて吐水・止水を自動的に行う自動水栓装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような自動水栓装置では、連通管の先端部分に光電センサが内蔵されている。使用者が光電センサの検知範囲内に手を差し入れると、光電センサが手の存在を検知し、これにより、吐水口からの吐水が自動的に開始される。一方、使用者が検知範囲から手を引き抜くと、光電センサが手の存在を検知しなくなるので、吐水口からの吐水が自動的に停止される。
【0003】
また、このような自動水栓装置では、使用者は、使用時に吐水口に向けて様々な方向から手を進入させることが考えられる。一方、光電センサは指向性が強いため、これら様々な方向から差し入れられる手を光電センサで確実に検知するためには、光電センサの検知範囲を手が来る吐水口近傍に確実に配置する必要があった。このため、光電センサを用いた自動水栓装置では、吐水口に到達してから手が光電センサに検知されることになり、応答性を高めることができなかった。
【0004】
一方、光電センサの代わりに、検知範囲が広い電波センサ(マイクロ波センサ)を用いた自動水栓装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の自動水栓では、電波センサがシンク側に配置されており、電波センサから放射される電波ビームの方向が上方に向いて放射されるように設定されている。
【0005】
電波センサは光電センサよりも指向性が広く検知範囲が広い。したがって、電波センサを用いた自動水栓装置では、様々な方向から手が吐水口に向けて進入してきても、手が吐水口に到達する前に手を検知することができ、応答性を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−360923号公報
【特許文献2】特開2006−219891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の光電センサを用いた自動水栓装置では、吐水開始の応答性を簡単には高めることができないという問題に加えて、その特性上、吐水口近傍に光電センサを配置する必要があるので、デザイン自由度が損なわれるという問題があった。すなわち、吐水口近傍の管内に光電センサやこれに付随する配線や電気部品を配置する必要があり、デザイン自由度が制限される。
【0008】
また、上述の電波センサをシンク側に配置した自動水栓装置では、デザイン自由度を高めることができるが、応答性を改善することが実は容易ではなかった。すなわち、電波センサをシンク側に配置した場合、吐止水を確実に行おうとすると吐水口近傍の電波強度を高めることが絶対的に必要となるが、シンクと吐水口の間にはある程度の距離があるため、吐水口近傍で必要な電界強度を確保するとその周囲の電界強度も高まる(言い換えると、電波センサの検知範囲が必要以上に広くなる)。このため、上述の電波センサをシンク側に配置した自動水栓装置は、手洗い中に必然的に起こる石鹸の手もみ動作や水切り動作、また人が自動水栓装置付近を通ったことに反応して、これらの動作を水栓の使用と誤判定してしまうという実用上避け難い問題を生じるものであった。
【0009】
また、自動水栓装置において、吐水タイミングを良好にするためには、手が吐水口に到達する前に手が吐水口へ進入して来ることを事前に判断することができるように、手を検知するために設定される検知範囲を、止水中はある程度広めに設定することが望ましい。
しかしながら、広めに設定された検知範囲が吐水中も広いままであると、検知されるべきではない動作(例えば、手洗い終了後の水切り動作等)が誤って検知されてしまい、これにより誤吐水が生じるおそれがある。
【0010】
このような誤吐水を防止するため、止水中の検知範囲と吐水中の検知範囲は、異なることが望ましい。換言すると、止水中及び吐水中において、理想とする適切な検知範囲は異なる。
しかしながら、止水中及び吐水中に検知範囲を異ならせるように、単に付加的な手段を用いて検知範囲を変更すると、装置が大型化してしまい、最も重要なデザイン性を損ねてしまうという問題が生じる。
【0011】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電波センサを用いた自動水栓装置であって、デザイン自由度を損なうことがなく、また、吐水及び止水タイミングの応答性を高めても誤判断を生じることのない極めて実用性の高い自動水栓装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明は、支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、連通管内に配置され、水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、を備えた自動水栓装置において、水栓本体の基端部側に設けられ、送信した電波の反射波を受信することにより、使用者の動作状態を検知するための検出信号を出力する電波センサと、連通管内と水管との間に形成された、電波を通過させるための電波通過用空間と、電波通過用空間を通過してきた電波を外部に放射するために吐水口部に形成された電波放射口と、電波放射口から放射される電波の指向性を調整するための指向性調整手段と、電波センサの検出信号に基づいて吐水弁の開閉を切り替えて、吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段であって、所定値以上の信号値を有する検出信号に基づいて電波センサの検知範囲を決定する制御手段と、を備え、指向性調整手段は、吐水口から吐水される洗浄水によって電波放射口から放射される電波の少なくとも一部を減衰させることによって、止水中よりも吐水中の検知範囲の方を小さくするように、電波放射口から放射される電波を吐水口から吐水される洗浄水に干渉させるように構成されていることを特徴としている。
【0013】
上述のように、自動水栓の使用に際し、手を吐水口の下部に進入させているにもかかわらず、吐水開始まで待たなければならない従来の構成は商品上好ましくない。よって、手を吐水口に向けて進入させたのと同時、又は、その前後の極短い時間内で吐水が開始されることが好ましい。このため、吐水口への手の進入を事前に判断するため、止水中は検知範囲がある程度広めに設定されることが望ましい。
【0014】
このため、本発明では、吐水タイミングの応答性を改善するために電波センサを採用している。すなわち、電波センサでは、電波が空間的に広がる性質により、空間的に広がった検知範囲を形成可能であるため、応答性を高めるのに有利である。
【0015】
しかしながら、電波センサは応答性が良いため、吐水中に検知範囲が広いままであると、手洗い終了後の水切り動作や、吐水口から吐水された洗浄水がシンクに衝突して跳ね返る動きや、吐水口から離れた位置で粒状化した洗浄水の動き(洗浄水は、吐水口から離れるほど空気剪断力や表面張力の影響を受けて洗浄水が粒化し、見掛け上、表面積が大きくなる)が、手洗い動作であると誤検知され、止水タイミングが遅れたり、止水されずに吐水が継続したりするおそれがある。したがって、吐水中は、既に手が吐水口の近くにあるので、検知範囲を狭く設定することが望ましい。すなわち、止水中と吐水中では、理想とする適切な検知範囲は異なる。
【0016】
本発明者は、止水中と吐水中において理想的な検知範囲を得ることに関し、電波センサから放射される電波が吐水口から吐水される洗浄水と干渉したときに、減衰する性質を見出し、この性質を有利に利用して止水中及び吐水中において、それぞれ理想の検知範囲を形成できることを見出した。
このように、本発明では、上述の電波の性質を有利に利用するため、手を検知するためのセンサとして、光電センサや超音波センサ等ではなく、電波センサを採用している。
【0017】
電波センサを自動水栓装置に適用する上で、具体的には、本発明では、電波センサを水栓本体の基端部側に設け、電波センサから放射された電波が連通管内を通過して、吐水口側の端部に設けられた電波放射口から放射されるように構成されている。これは、電波というものが連通管の曲がりなどに大きく左右されずに放出できるという特性を利用したものであって、これにより本発明では、デザインが商品の売れ行きに大きく左右される水栓において、デザインへの制約を大きく与える連通管の先端部や途中部分に電波センサを設ける必要が無くなるので、デザイン自由度を大幅に向上させることができるという実用上優れた効果を奏することができる。また、電波センサから放出される電波が吐水口から放出されるため電波強度を吐水口近傍で最も強くできるため、シンク側に電波センサを設けた時のように必要以上に広い検知エリアになってしまうという問題を解決でき、誤吐水や誤止水などを起こすことがなく、またその対策としての複雑な制御等も不要にできるという実用上優れた特有の効果を合わせて奏することができるものである。
【0018】
更に本発明では、吐水弁の開閉を切り替える制御手段は、所定値以上の信号値を有する電波センサの出力信号(使用者の動作状態を検知するための検出信号)に基づいて電波センサの検知範囲を決定するように構成されている。そして、本発明では、特徴的には、指向性調整手段によって、吐水口から吐水される洗浄水(又は洗浄水流)と電波放射口から放射された電波の少なくとも一部とを、所定の態様で干渉させることにより、吐水中に電波を洗浄水により減衰させて、止水中よりも吐水中の検知範囲が小さくなるように構成されている。すなわち、本発明では、電波の放射角度、電波強度、流量、電波放射口と水管の寸法等に基づき、電波と水の干渉の程度や角度等を工夫するという簡単な構成によって、洗浄水の吐水の有無に応じて、検知範囲の形状を理想形状に適合するように変えることが可能である。
【0019】
本発明では、止水中は、検知範囲が吐水中によりも広く設定されるので、如何なる方向から吐水口に向けて手が挿入されても手の動きを検知することができ、素早く吐水を開始することが可能となる。
一方、吐水中は、本発明では検知範囲が狭く設定されるので、手洗いが完了して手を吐水口付近から引き抜くと、検知範囲から素早く手が出て行くことになるので、速やかに止水することができる。本発明では、吐水中に検知範囲を小さくすることによって、吐水口から離れた場所で行われる手洗い後の水切り動作や、シンクから跳ね返った洗浄水や、粒状化した洗浄水等に基づく誤検出も確実に防止することができる。
【0020】
このように、本発明では、電波が水によって減衰するという性質を見出し、この性質を検知範囲の変更に利用できることを見出した。本発明では、この性質を利用することにより、吐水中は止水中よりも検知範囲を狭く設定することを可能にしており、吐水中には、吐水口付近での吐水しないでよい動作(水切り動作等)を検知せず、吐水すべき動作(手洗い動作)を確実に検出することができる検知範囲が自動的に設定され、止水中と吐水中に応じてそれぞれ理想的な検知範囲を得ることができる。すなわち、本発明は、検知範囲を吐水の状況に適合した理想的な形状に設定するように構成されている。
【0021】
また、止水中と吐水中においてそれぞれ理想の検知範囲の形状を得るように、例えば、連通管の先端部分に可動部分を設けることも考えられる。しかしながら、この場合、連通管の先端部分の構造が複雑になり、水栓にとって最も大切なデザイン自由度を損ねてしまう。
これに対して、本発明では、電波が水によって減衰されるという特性に着目し、この性質を利用することによって、電波センサの検知範囲及び電波強度の設定や、制御手段の閾値設定等を付加的に行うことなく、洗浄水の有無のみによって吐水中と止水中の検知範囲を変更するように構成されている。このため、本発明では、特段の機能部品や制御の付加を必要とせず、小型でデザイン自由度が高く、且つ吐止水のタイミングが良好な自動水栓装置を提供することができる。
【0022】
また、本発明において好ましくは、指向性調整手段は、止水中よりも吐水中の検知範囲の方が吐水方向において短くなるように、電波放射口から放射される電波を吐水口から吐水される洗浄水に干渉させて減衰させるように構成されている。
【0023】
吐水開始時には、手を検知し易くするために、検知範囲が吐水方向に長い方が望ましい。一方、手洗いが完了して手が吐水されている洗浄水に触れなくなったとき、検知範囲が吐水方向に長いと、吐水流量によっては、シンクに衝突して跳ね返った洗浄水や、粒状態で水平方向に広がる洗浄水が電波センサによって検知される。これにより、手洗い中であると誤判定され、吐水が停止されないか、止水タイミングが遅れてしまうおそれがある。
【0024】
しかしながら、本発明では、止水中の検知範囲に対する吐水中の検知範囲における吐水方向の電波の減衰量を調整するための吐水方向減衰量調整手段としての指向性調整手段によって、電波を減衰させて吐水中の検知範囲を吐水前と比べて吐水方向に短くするように構成されている。これにより、本発明では、手の水切り動作等における誤判定だけでなく、シンクから跳ね返った水や粒状の水の乱れに基づく誤判定を、洗浄水による電波の減衰の程度を設定するという簡単な構成で確実に防止することができるので、小型でデザイン自由度が高く、且つ吐止水のタイミングが良好な自動水栓装置を提供することができる。
【0025】
また、本発明において好ましくは、指向性調整手段は、吐水中の検知範囲を止水中の検知範囲に対して、吐水方向と直交する方向よりも吐水方向において大きな割合で小さくするように構成されている。
【0026】
吐水中、吐水口近傍からわずかに離れた位置に手をずらして吐水を継続させたい場合(例えば、手もみ動作等)がある。検知範囲を吐水方向に対して全方向において一律同じように小さくすると、上述の手もみ動作中に止水されてしまうおそれがある。本発明では、止水中の検知範囲に対する吐水中の検知範囲における吐水方向とその径方向の電波の減衰比率を調整するための吐水方向及び径方向の減衰比率調整手段としての指向性調整手段が、吐水方向と直交する径方向よりも吐水方向において大きな割合で小さくするように、洗浄水による電波の減衰の程度を設定するという簡単な構成により、シンクから跳ね返った水や粒状の水の乱れに基づく誤判定を防止する機能は維持しつつ、更に手もみ動作を検知できないことによる止水を防止することができる。
【0027】
具体的には、本発明は、止水中の検知範囲中を吐水口から吐水される洗浄水が通過するように構成することができる。この構成により、洗浄水が止水中の検知範囲を通過することにより、吐水中の検知範囲を止水中の検知範囲に対して、吐水方向に対して直交する方向よりも吐水方向において大きな割合で短くするようにすることができる。
【0028】
また、本発明において好ましくは、指向性調整手段は、電波放射口から放射される電波が、吐水中に、吐水方向と直交する方向において使用者側よりも使用者側と反対側の方が大きく減衰されるように構成されている。
【0029】
特に、吐水口から吐水される洗浄水の吐水方向が、使用者側に向かって斜め下に向いている場合には、止水中の検知範囲に対する吐水中の検知範囲における洗浄水の上下方向の電波の減衰比率を調整するための上下方向の減衰比率調整手段としての指向性調整手段によって、洗浄水に対してシンク側の検知範囲を小さくすることができるので、吐水中に吐水口の横で行われる手もみ動作の検知性能を維持しつつ、シンクから跳ね返った水や粒状の水の乱れを、さらに確実に検知され難いようにすることができる。
【0030】
具体的には、本発明は、止水中の検知範囲のうち、使用者側とは反対側に偏った領域を吐水口から吐水される洗浄水が通過するように構成することができる。この構成により、洗浄水が、止水中の検知範囲のうち、使用者側とは反対側に偏った領域を通過するので、吐水中に、使用者側よりも使用者側と反対側において、電波を大きく減衰させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、電波センサを用いた自動水栓装置において、デザイン自由度を確保でき、吐水及び止水タイミングを良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態における自動水栓装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態における自動水栓装置の吐水口付近の断面図である。
【図3】導波管の肉厚とアンテナゲインの関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施形態における自動水栓装置の電波放射口を示す図である。
【図5】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の断面図である。
【図6】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の入口部分の断面図である。
【図7】本発明の実施形態における自動水栓装置の連通管の入口部分の正面図である。
【図8】本発明の実施形態における検出信号の時間変化を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態における自動水栓装置の止水中における説明図である。
【図10】本発明の実施形態における自動水栓装置の吐水中における説明図である。
【図11】本発明の実施形態における自動水栓装置の検知範囲の説明図である。
【図12】本発明の改変例における自動水栓装置の検知範囲の説明図である。
【図13】本発明の改変例における自動水栓装置の検知範囲の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、図1乃至図11を参照して、本発明の実施形態による自動水栓装置を説明する。
図1に示すように、本実施形態の自動水栓装置1は、シンク2の基台(支持体)3に基端部が固定され使用者側Cに向けて延びる連通管(スパウト)10及び吐水弁30を備えた水栓本体1Aと、連通管10内に挿入された水管20と、使用者の存在又は使用の有無を含む使用者の動作状態を検出するための電波センサ40と、吐水弁30の開閉動作を制御する制御部50とを備えている。
【0034】
連通管10は、中空の管部材であり、例えば鋼材等の金属材料で形成されている。連通管10は、少なくともその内面が電波を反射する材料で形成されている。連通管10は、基台3から鉛直方向に延びた後、先端開口がシンク2の底部を向くように湾曲した形状を有している。連通管10の出口部分は、斜め下方向を向いている。
【0035】
水管20は、吐水弁30に連結され、水栓本体1Aの端部である吐水口部に形成された吐水口26へ洗浄水を供給する。水管20は、全体として可撓性を有する管状部材であり、先端部に取り付けられた吐水キャップ21と、フレキシブル管22a,22bと、チューブ23から構成されている。吐水キャップ21の吐水口26から、洗浄水が斜め下方向の吐水方向Aに吐出され、これにより、洗浄水は受水部であるシンク2の底部に向けて供給される。
なお、本実施形態では洗浄水が吐水口26から斜め下方向に吐出されるように構成されているが、洗浄水が吐水口26からほぼ真下に向けて吐出されるように構成してもよい。
【0036】
フレキシブル管22a,22bは、可撓性を有する管状部材であり、少なくともこれらの外面は、連通管10内においては、電波を反射する材料(例えば、金属材料)で形成されている。
チューブ23は、可撓性を有し、電波を透過する材料(例えば樹脂)で形成されており、連通管10内でフレキシブル管22a,22bの間に接続されている。吐水中、チューブ23を透過した電波はチューブ23を通る洗浄水によって減衰される。すなわち、本実施形態では、水管20は、電波減衰部としてのチューブ23を有している。
【0037】
フレキシブル管22aは、その上流端が、吐水弁30に直接的又は間接的に接続され、下流端が、チューブ23の上流端に接続されている。そして、チューブ23の下流端にフレキシブル管22bの上流端が接続されている。さらに、フレキシブル管22bの下流端に吐水キャップ21が接続されている。
なお、本実施形態では、チューブ23がフレキシブル管22a,22bの間に介在しているが、チューブ23を介在させなくてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、フレキシブル管22a,22bを用いているが、可撓性及び電波透過性を有するチューブで、吐水キャップ21と吐水弁30とを連結してもよい。この場合、チューブの外面の全域に、又は、電波減衰部を形成するために一部の外面部分を除いて、電波を反射する金属材料等の反射部材(例えば、アルミニウム箔)を配置することが望ましい。
【0039】
吐水弁30は、電磁弁であり、制御部50からの制御信号により、開閉動作を行うように構成されている。また、吐水弁30は、定流量弁であり、開動作時には一定流量の洗浄水が吐水口26に向けて供給される。
【0040】
電波センサ40は、水栓本体1A内に配置され、かつ、水栓本体1Aの基端部側に設けられている。本実施形態では、電波センサ40は、連通管10の基端部側に固定されている。電波センサ40は、マイクロ波ドップラーセンサである。使用周波数は、例えば約10GHz又は約24GHzである。図6に示すように、電波センサ40は、センサ本体部41と、センサ本体部41に取り付けられた電波導入出部42を備えている。センサ本体部41は、局部発信器,送信アンテナ,受信アンテナ,混合器(検波器)等を有する電子部品である。電波導入出部42は、センサ本体部41から外部へ電波を放射すると共に、外部からセンサ本体部41へ反射波を導入する中空の金属製部品である。
【0041】
センサ本体部41は、局部発振器で生成したマイクロ波(送信信号)を送信アンテナから電波導入出部42を介して外部へ放射し、対象物(例えば、人の手)で反射したマイクロ波(反射波)を電波導入出部42を介して受信アンテナで受信する。そして、電波センサ40内の混合器(検波器)が、この反射波と送信信号とを混合し、ドップラー信号を検出するように構成されている。
【0042】
対象物が静止している場合は、送信波と反射波の周波数が同一であるので、電波センサ40は対象物の有無を検出しにくい。しかしながら、対象物が動いている場合は、反射波の周波数が変化するため、混合器の出力に差分信号があらわれる。この差分信号により、電波センサ40は、対象物の有無及び移動方向(接近又は離反)を検出し、検出信号(図8参照)を制御部50へ出力する。検出信号は、対象物の移動速度に応じた周波数成分を有する信号であり、移動している対象物が存在することをあらわすものである。
【0043】
制御部50は、マイコン等で構成されており、電波センサ40から検出信号をフィルタ回路51を介して受け取る。制御部50は、図8に示すように、基準値(例えば0V)に対して、ある電圧閾値(絶対値)以上の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を開状態にする駆動信号を出力し、基準値に対して、ある電圧閾値(絶対値)未満の信号値を有する検出信号を受け取ると、吐水弁30を閉状態にする駆動信号を出力するようにプログラムされている。すなわち、制御部50は、電圧閾値に対する検出信号の信号値に基づいて後述する電波センサ40の検知範囲を決定している。これにより、対象物が検出されているときには、吐水弁30が開状態に保持され吐水状態となる。一方、対象物が検出されていないときは、吐水弁30が閉状態に保持され止水状態となる。
【0044】
フィルタ回路51は、所定の周波数範囲の検出信号のみを通過させるバンドパスフィルタを有する。このフィルタ回路51により、人の手の動きに対応する周波数範囲の検出信号のみが制御部50へ送られるので、誤検出を抑制することができる。
【0045】
以下に、本実施形態の自動水栓装置1の細部の構造について説明する。
まず、本実施形態の連通管10について説明する。本実施形態では、連通管10が電波の導波管として機能するように、内径及び長さ等が設定されている。すなわち、電波センサ40から放射された送信電波は、連通管10の内面と水管20の外面との間に形成された電波を通過させるための電波通過用空間内で、連通管10の内面及び水管20の外面で反射を繰り返して下流側へ伝播し、連通管10の先端で吐水口26近傍に設けられた電波放射口27からシンク2へ向けて放射される(図2の放射方向B1参照)。また、人の手で反射された電波(反射波)は、電波放射口27から連通管10内へ入り、連通管10内を伝播して、電波センサ40で受信される。
【0046】
この構造により、本実施形態では、水管20が挿入された剛体である連通管10内に、導波管を組み込む必要がなくなり組立性が良好となる。また、本実施形態では、導波管が不要であるので、小型化を図ることができると共に、製造コストを低減することが可能となる。さらに、本実施形態では、電波センサ40を連通管10の先端部分以外に配置することができるので、連通管10の先端部分を特に小型化することができる。なお、電波センサ40は、連通管10の外部に配置することが望ましいが、連通管10の内部に配置することも可能である。
【0047】
本実施形態では、止水中において、図9に示された検知範囲a1内の対象物を検知できるように、連通管10の電波放射口27から放射された電波ビームパターンが設定されている。詳しくは、この検知範囲a1は、放射方向B1に指向性を有しており、放射方向B1に沿って細長く延びるように設定されている。本実施形態では、この放射方向B1は吐水方向Aとほぼ一致している。
【0048】
本実施形態では、このような止水中における検知範囲a1を形成するように、自動水栓装置1には指向性調整手段が設けられている。本実施形態では、この指向性調整手段は、以下のように反射部材28と、連通管10内(すなわち、電波放射口27内)に水管20を配置した二重管構造を含んでいる。
【0049】
次に、図2及び図3に基づいて、反射部材28を説明する。本実施形態では、連通管10の電波放射口27に別体部品である環状の反射部材28が取り付けられている。この反射部材28は、電波を反射する材料で構成されており、本実施形態では、金属材料で形成されている。反射部材28は、反射面(反射部)28aを有している。反射面28aは、シンク2側を向く環状面である。本実施形態では、反射部材28の壁(径方向の厚さ)は、連通管10の壁(径方向の厚さ)よりも厚く設定されている。
【0050】
図3(A)は、断面矩形の導波管(図3(B)参照)から出力される電波センサのアンテナゲインを示している。図3(A)は、導波管の出口部分の壁の肉厚tを変化させた場合に、肉厚tが厚くなるにしたがって、アンテナゲインが増大していることを示している。これは、肉厚tが大きくなるにしたがって、電波ビームが鋭くなり、放射方向への指向性が増していることを示している。
【0051】
単なる管体から電波が放射される場合、その電波ビームパターンは、無指向性に近く、球状に広がるようになる。このため、本実施形態では、図3の結果に基づいて、電波放射口27に反射部材28を取り付けている。この反射部材28の壁の厚さは、連通管10の内径に応じて、検知範囲a1が形成されるように設定されている。
【0052】
反射面28aは、連通管10内を伝播してきた電波が、連通管10を出た後に連通管10の上流側(放射方向B1と逆方向)へ回り込むことを抑制すると共に、電波の指向方向を設定する。すなわち、反射面28aが、上流側へ進もうとする電波をシンク2の底部の方向へ反射させて当該方向へ指向方向を差し向け、電波ビームパターンに放射方向B1の指向性を持たせる役割を果たす。このように、反射部材28は、放射方向B1へ電波ビームパターンを鋭くして、適切な放射パターンを形成する機能を有する。
【0053】
本実施形態では、反射部材28により、電波を吐水方向Aに沿って集中させることにより、検知範囲a1内で樹脂製の歯ブラシやコップ等の電波を透過し易い対象物を検知することができる。一方、検知範囲a1は、吐水口26から離れた位置にある手を誤検知することによる誤った吐水をさせないように、吐水方向Aに沿うように細長く設定されている。
【0054】
なお、本実施形態では、連通管10の先端に、別体の反射部材28を取り付けているが、反射部材28を取り付ける代わりに、連通管10の先端部分の肉厚を厚く形成してもよい。さらには、電波の回り込みを抑制できる程度に連通管10の肉厚が厚ければ、別体の反射部材を取り付けたり、連通管10の先端部分のみを厚く形成しなくてもよい。
【0055】
次に、図4及び図5を参照して、二重管構造について説明する。図4は、連通管10の出口部分(下流端部分)を示しており、図5は、連通管10の任意の途中部分でのV−V線断面図(図1参照)である。
本実施形態では、水管20は、連通管10の内側面11に当接するように配置されている。図1から分かるように、連通管10の出口部分は、シンク2の底部に向かって斜め下方へ延びている。また、連通管10の出口部分が延びる方向に、自動水栓装置1を使用する際に使用者が立つ位置が設定されている。
【0056】
したがって、連通管10の出口部分において、水管20は、連通管10の内側面11の内(もしくは電波放射口27の内面の内)、使用者の存在する方向C(図2及び図4参照)とは真逆方向に位置する内側面11の部分に当接されている。また、図5に示すように、連通管10の他の部位においても、水管20は、連通管10の内側面11に当接している。
本実施形態では、電波放射口27付近において、水管20が連通管10の内部に配置された二重管構造により、電波ビームパターンが調整されている。
【0057】
次に、図6及び図7を参照して、連通管10の入口部分(上流端部分)の構造について説明する。図6は側面から見た断面図であり、図7は下方から見た図である。ただし、図7では、水管20及び電波センサ40の図示が省略されている。
【0058】
図6及び図7に示すように、連通管10の入口部分内には、固定部材12が、連通管10を塞ぐようにネジ13により固定されている。固定部材12は、外形寸法が連通管10の内径寸法とほぼ等しい部材であり、電波を反射する材料で形成されている。本実施形態では、固定部材12は、鋼材等の金属材料で形成されている。
【0059】
固定部材12は、円形の開口孔12a及び矩形の開口孔12bが形成されている。固定孔12aの内径寸法は、水管20の外形寸法にほぼ等しく、固定孔12bの内寸法は、電波センサ40の電波導入出部42の外寸法にほぼ等しい。水管20,電波センサ40は、それぞれ、これら開口孔12a,12bに挿入されて固定されている。水管20は、開口孔12aに固定された状態で、連通管10の内側面11に当接している。
【0060】
固定部材12は、吐水弁30が閉じたときに発生するウォータハンマー現象に起因する水管20の振動を低減するための振動低減手段として機能する。すなわち、吐水弁30が閉じたときに吐水弁30から水管20を通じて下流側に伝達される振動は、固定部材12を介して、水管20よりも質量が大きい連通管10及びシンク2の基台3へ伝達される。これにより、振動が水管20の下流へ伝達されることを遮断し、連通管10内での水管20の振動を抑制することができる。振動が抑制されるので、電波センサ40が、人の手の存在を誤って検知してしまうことを抑制することができる。
【0061】
また、水管20,電波センサ40及び連通管10が固定部材12によって固定的に結合されているので、水管20から伝達された振動の影響によって、水管20,電波センサ40及び連通管10を同調して振動させることができる。これにより、水管20,電波センサ40及び連通管10の相対的な振動又は変位が抑制されるので、電波センサ40が、人の手の存在を誤って検知してしまうことをさらに抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態では、電波センサ40の電波導入出部42の先端開口42aが固定部材12よりも下流側に位置するように、電波導入出部42が固定部材12に挿入され、固定部材12に固定されている。電波導入出部42の先端開口42aが、連通管10との間の電波の出入口である。よって、ウォータハンマー現象により固定部材12に振動が伝わっても、電波センサ40は、固定部材12の振動を検知し難くなり、誤検知を抑制することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、振動低減手段として固定部材12を配置しているが、振動を吸収及び抑制する任意のダンパ部材を、振動低減手段として吐水弁30と連通管10との間で水管20に取り付けても良い。
【0064】
また、水管20を連通管10の内側面11に当接させるための固定部材を連通管10内の適宜な箇所に配置してもよい。この場合、固定部材は、固定部材12とは異なり、電波透過性を有する材料(例えば、樹脂等)で形成することが望ましい。固定部材12は、その表面が電波を反射する材料で形成されているので、電波導入出部42から連通管10内に導入された電波のうち、上流側に向かう電波を下流側へ反射させることができる。これにより、電波放射口27から放射される電波の放射強度が高レベルに保持される。
【0065】
次に、本実施形態の自動水栓装置1の作用について説明する。
図9は、止水中の状況を示している。図9(A)には、電波センサ40の検知範囲a1が示されている。この検知範囲a1は、止水中において、連通管10の電波放射口27から放射される電波ビームにより対象物を検知できる範囲を示している。
【0066】
本実施形態では、止水中において、電波放射口27から放射される電波ビームの空間的な放射パターンが、指向性調整手段により、放射方向B1に指向性を有するように設定されている。なお、本実施形態では、止水中には、放射方向B1は、吐水口26から吐水される洗浄水の吐水方向Aとほぼ一致している。
【0067】
したがって、止水中における電波ビームは、吐水方向Aに沿って指向性を有し、検知範囲a1が吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となるように設定されている。すなわち、検知範囲a1内において、等電波強度面が吐水方向Aに沿って延びる楕円球体のような細長い形状となる。図9(B)に示すように、放射方向B1に直交する検知範囲a1の断面は、ほぼ円形となっている。なお、図9(B)は、図9(A)の矢印部分における検知範囲a1の断面図である。
【0068】
なお、本明細書では、等電波強度面は、電波ビームの等しい電波強度を有する空間点を繋いで形成される面である。また、本明細書では、細長い形状は、楕円球体のように、ある方向の長さが、この方向と直交する任意の方向の長さよりも長い形状を意味している。
【0069】
検知範囲a1は、このような等電波強度面の内、反射波により電波センサ40が有意に人の手の動きを検知できる最も外側の等電波強度面で画定される空間範囲である。使用者が手洗いのために、この検知範囲a1に手を差し入れると、電波センサ40が手の動きを検知し、検知信号を制御部50へ送信する。制御部50は、検知信号を受け取ると、吐水弁30へ駆動信号を送り、吐水弁30を開状態に切り替える。これにより、手が吐水口26近傍に到達するのに合わせて、洗浄水が吐水口26からタイミング良く吐水される。
【0070】
従来、光電センサを用いた自動水栓装置では、検知範囲が狭かったため、使用者の手の接近に合わせてタイミング良く吐水を開始できなかった。しかしながら、本実施形態によれば、吐水方向Aに対して径方向に膨らむように検知範囲a1が設定されているので、如何なる方向から手が差し入れられても、吐水口26から吐水方向Aに延ばした延長線上に存在する洗浄ポイントに手が到達する前に、使用者の手の接近をより早く検知することができ、タイミング良く吐水を開始することが可能となる。
【0071】
また、単に連通管10の出口端部から電波が放射される場合には、電波ビームは検知範囲bのように、後ろ側に回り込むと共に、球状に広がるので、吐水口26付近における使用者の水切り動作を検知してしまう(図9(A)参照)。
【0072】
しかしながら、本実施形態では、止水中における検知範囲a1が、吐水方向Aに向けて楕円球体のような縦長に設定されているので、吐水口26からの距離が同じでも、洗浄ポイントの電波の放射強度を高くすることができる。よって、水切り動作が検知範囲a1の外側で行われることになるので、水切り動作中に、洗浄水が吐水されることを防止することができる。このように、本実施形態では、吐水させたい位置に存在する使用者の手を検知し易くすることができ、吐水してほしくない位置に存在する手を検知し難くすることができる。
【0073】
図10は、吐水口26から洗浄水Wが吐水されている状況を示している。図10(A)には、吐水中に、電波ビームにより対象物の動きを検知できる検知範囲a2が示されている。
吐水中には、電波透過性のチューブ23に洗浄水が流れるため、連通管10内において、電波の一部が洗浄水により減衰され、電波の放射強度を弱めることができる。電波は、音波とは異なり、伝播に媒介が不要であるが、水を通して伝播しない性質を有する。
【0074】
また、本実施形態では、吐水口26から吐水された洗浄水と検知範囲a1の電波との干渉を利用して、電波の一部を減衰させると共に、電波を洗浄水によって反射させることにより、検知範囲a2を設定している。電波の減衰は電波の放射強度を弱めて放射パターン(検知範囲)を小さくし、電波の反射は電波の放射パターンの位置を変位させ、洗浄水Wの流れよりも上側又は使用者側Cへずらす。これにより、検知範囲a2は、検知範囲a1と一部領域が重なるが、異なった角度方向に延びて、検知範囲a1に対して位置が異なっており、検知範囲a2の少なくとも一部が検知範囲a1に対して空間的にずれている。
【0075】
すなわち、本実施形態では、電波と洗浄水との干渉によって電波が減衰及び反射する性質を利用して、吐水中の検知範囲a2を止水中の検知範囲a1に対して、大きさ,向き,形状等が異なるように設定している。これにより、本実施形態では、止水及び吐水の状況に応じて(洗浄水の吐出の有無によって)、適切な検知範囲が自動的に設定されるように構成されている。
【0076】
本実施形態では、図10(A)に示すように、吐水中において、放射方向B2の放射強度が相対的に大きくなり、かつ、検知範囲a2の放射方向B2の検知可能距離が検知範囲a1の放射方向B1の検知可能距離よりも短くなるように検知範囲a2を設定している。このとき、本実施形態では、電波センサ40や制御部50での電圧閾値や電波強度等のパラメータを変更することなく、反射部材28による電波の指向方向、電波と洗浄水Wとの干渉の角度や程度、洗浄水Wの流量、吐水口26に対する電波放射口27の寸法等を予め設定しておくことで、検知範囲a2の大きさ,位置(放射方向B2),形状等を設定している。したがって、本実施形態では、付加的な機能部品を必要とせず、吐水の有無のみによって検知範囲a1及びa2を切り替えることができ、自動水栓装置1のデザイン自由度を損ねることなく、止水中及び吐水中に応じた所望の検知範囲を簡単な構成で実現することが可能である。
【0077】
図4に示すように、電波放射口27は、吐水口26に対して使用者側Cに相対的に偏って位置するように構成されている。すなわち、本実施形態では、吐水口26が、電波放射口27に対して使用者と反対側(すなわち、吐水口26から水栓本体1Aの基端部へ向かう方向)に偏って位置するので(図2,図4参照)、洗浄水Wは検知範囲a1のうち水栓本体1Aの基端部側へ偏った領域を通過する。よって、吐水中、電波放射口27から放射される電波ビームは、洗浄水Wによって使用者側Cへ向けて反射され、使用者側Cの放射方向B2に向き又は角度が変えられた検知範囲a2が形成される。
【0078】
詳しくは、電波放射口27内の領域の内、図4において吐水口26の直上に位置する領域から放射される電波が、洗浄水によって放射方向B2又は使用者側Cに反射されるので、吐水中の検知範囲a2は、放射方向B2に向けられる。したがって、検知範囲a2が設定されることにより、検知範囲が全体的にシンク2から遠ざかり、使用者により近い空間が検知範囲に含まれるようになり、手を洗浄水Wに差し入れている間は、検知範囲a2内に手が確実に存在するので、洗浄中には手を検知し続けることができる。
【0079】
また、本実施形態では、上述のように洗浄水Wは検知範囲a1のうち水栓本体1A側に偏った領域を通過する。よって、吐水中、検知範囲a1のうち、使用者側Cの上側領域よりも水栓本体1A側に偏った下側領域で、洗浄水Wにより電波を大きな割合で減衰させることができる。このように、本実施形態の指向性調整手段(二重管構造)は、検知範囲の上下方向における検知範囲の減衰比率を調整する上下方向の減衰比率調整手段として機能する。
【0080】
また、図4に示すように、電波放射口27は、吐水口26の側方又は水平横方向にも位置している。この構造により、電波放射口27内の領域の内、図4において吐水口26の側方又は横方向に位置する領域から放射される電波ビームが、洗浄水Wの流れによって横方向又は水平方向に反射されるので、電波ビームの放射パターンが横方向又は水平方向に広げられる。このように、本実施形態の指向性調整手段(二重管構造)は、検知範囲の水平方向形状の調整手段として機能する。一方、洗浄水Wにより少なくとも電波の一部が減衰されるので、全体として検知範囲は小さくなる。例えば、電波ビームの放射パターンは、厚さ方向(放射方向及び水平横方向と直交する方向)にはむしろ小さくされる。これにより、図10(B)に示すように、電波ビームの放射パターン(検知範囲a2)は、図9(B)と比べると、放射方向B2と直交する断面が横方向に伸ばされたような偏平な形状となる。なお、図10(B)は、図10(A)の矢印部分における検知範囲a2の断面図である。
【0081】
図11(A)は、吐水方向Aに対して垂直な方向における止水中の検知範囲a1の断面を示しており、図11(B)は、図11(A)と同じ位置での吐水中の検知範囲a2の断面を示している。止水中は、電波放射口27を吐水方向Aから見たとき、検知範囲a1の断面は、電波放射口27の中心からの半径が長さR1の円形であり、水平横方向の幅W1を有している。
【0082】
一方、吐水中は、電波放射口27から放射された電波は、図11(B)において矢印で模式的に示されているように、洗浄水Wによって反射する。これにより、検知範囲a2は、その断面が楕円形状に変形し、電波放射口27の中心から使用者側Cの境界までの距離が長さR2であり、水平横方向に幅W2を有する。好ましくは、R2>R1,W2>W1である。なお、検知範囲a2は、洗浄水Wに対して主たる部分は使用者側Cに位置し、使用者側Cとは反対の方向にはほとんど存在しない。
【0083】
本実施形態では、上述の二重管構造において、電波放射口27内で吐水口26が、連通管10の内面に当接又は近接するように、使用者側Cに対して反対側にずれて配置されている。このため、電波放射口27から放射された電波が、洗浄水Wの使用者側Cの側面部分へ向けて放射されることによって干渉が生じ、これに加えて、電波が洗浄水Wの水平横方向の側面部分へ向けて放射されることによっても干渉が生じる。したがって、本実施形態では、検知範囲a2は、使用者側Cに向けて反射される電波によって使用者側Cへ広がると共に、水平横方向へ反射される電波によって水平横方向へも広がる。本実施形態では、検知範囲a2が、検知範囲a1よりも広い使用者側Cの検知領域を有するように、電波が使用者側Cに向けて反射されるので、止水中よりも吐水中の方が使用者側Cの空間でより検知し易くなる。このように、本実施形態の指向性調整手段(二重管構造)は、検知範囲の水平方向形状の調整手段として機能することに加えて、検知範囲を使用者側Cへ広げる反射指向性調整手段としても機能する。
【0084】
なお、本実施形態では、電波放射口27内において、吐水口26の使用者側Cの空間の方が、水平横方向の空間よりも広いので、吐水口26の水平横方向から放射された電波よりも、吐水口26の使用者側Cから放射された電波の方が、より多くの量が洗浄水Wによって反射される。
【0085】
本実施形態では、吐水中は検知範囲a2が、横方向に広げられ、かつ、上方又は使用者側Cに移動するので、手洗い中に手もみ動作等のために手を吐水口26から水平方向に又は上方向にずらしても、吐水を継続させることができる。これにより、手を洗い終わって確実に手が吐水口26付近から離れるまでは、手を検知し続け、吐水状態に保つことが可能となる。
なお、本明細書では、幅方向又は(水平)横方向とは、連通管10に正対した使用者の左右方向を意味し、図1及び図2では紙面に垂直な方向であり、図4及び図5では紙面に対して左右方向である。
【0086】
また、本実施形態では、上述のように、吐水中には、洗浄水Wによる電波の減衰により電波ビームの検知範囲を狭くすると共に、洗浄水Wによる電波の反射により電波ビームを上方へ変位させており、よって、吐水方向Aにおいて、止水中と比べて吐水中の検知可能距離を短く設定している。すなわち、本実施形態の指向性調整手段は、減衰の程度を適宜に設定することによって(例えば、吐水口26と電波放射口27の大きさの比率の設定等)、検知範囲の吐水方向の長さを短くするための吐水方向減衰量調整手段として機能する。
【0087】
また、本実施形態では、図10(A)に示すように、吐水中、洗浄水Wが電波放射領域、すなわち止水中の検知範囲a1を通過するように構成されている。この構成により、止水中の検知範囲a1に対して吐水中の検知範囲a2を、吐水方向Aと直交する方向よりも吐水方向Aにおいて大きな割合で小さくすることができる。すなわち、本実施形態では、吐水方向Aに直交する方向よりも吐水方向Aにおいて、検知範囲a2を縮小し易くすることができる。すなわち、本実施形態の指向性調整手段は、吐水方向とこの方向に直交する径方向における検知範囲の減衰比率を調整する吐水方向及び径方向の減衰比率調整手段として機能する。
【0088】
本実施形態では、止水中は検知可能距離を長く設定することにより、使用者が遠い位置から吐水口26に向けて手を接近させていっても、早期に手を検知して吐水を開始することができる。一方、吐水中は検知可能距離を短く設定することで、吐水口26の近くにある手を確実に検知することができると共に、吐水口26から遠く離れた手や水流の誤検知、及びこれに伴う止水遅れを防止することができる。
【0089】
また、図10(A)に示すように、吐水口26から吐水された洗浄水Wは、流量に応じて、シンク2に近い下流側ほど自然に流れが乱れる。すなわち、洗浄水Wは、シンク2側で粒状になり、水粒が径方向に広がる。また、シンク2から洗浄水が跳ね返ってくる。したがって、電波センサ40が、洗浄水Wの流れの乱れや、跳ね返りの洗浄水を人の手の動きであると誤検知するおそれがある。
【0090】
しかしながら、本実施形態では、吐水中において電波ビームが下方又は水栓本体1Aの基端部側で減衰し、かつ、上方又は使用者側Cへ変位し、検知可能距離が短く設定されるので、洗浄水Wの流れの乱れや跳ね返りの洗浄水に起因する誤検知を回避して、止水遅れを防止することができる。
【0091】
また、図4に示すように、電波放射口27の一部に吐水口26が配置されており、電波放射口27は吐水口26よりも幅方向の長さが大きいので、電波の一部は、止水中とほぼ同様に放射方向B1(すなわち吐水方向A)に向けて放射される。これにより、使用者が容器に水を溜める場合には、吐水方向Aに放射された電波が、容器内の水表面で反射されるので、電波センサ40は、水表面の揺らぎによって対象物の検知を行うことができる。このため、容器への水溜め動作中において、吐水状態を継続させることができる。
【0092】
また、図4に示すように、吐水口26が断面円形であるので、電波は、わずかではあるが、図4において吐水口26の下側付近(真下を除く)からも放射方向B1に向けて放射される。これにより、電波ビームの放射パターンを縦方向(洗浄水Wの流れの下側を含む)にも確保できる。ただし、本実施形態では、吐水口26が、図4において電波放射口27の最下の内面部分に当接されているので、止水中に吐水口26の真下方向に向けて電波が伝播することは抑制されている。したがって、止水後に吐水口26から水滴が滴下したような場合であっても、この水滴の動きは検知されず、不必要に吐水が開始されることが防止されている。
【0093】
ここで、図12に基づいて他の実施形態を説明する。この実施形態では、洗浄水Wによる電波の減衰作用が顕著に現われる。この実施形態では、水管20が連通管10の中央を通過し、電波放射口27の中央に吐水口26が配置されている(図12(B)参照)。水管20の位置が電波放射口27の中央にずれても止水中の検知範囲にはほとんど影響がない。このため、図12(A)に示された止水中の検知範囲は、図9の検知範囲a1とほぼ同一である。
【0094】
一方、図12(C)は、吐水中の検知範囲a3を示している。水管20が電波放射口27の中央に位置しているので、洗浄水Wは検知範囲a1の中心軸上を通過し、電波放射口27から放射された電波は、洗浄水Wの周方向においてほぼ均等に洗浄水Wと干渉する。このため、検知範囲a3の放射方向B3は、吐水方向Aから変位することなく、吐水方向Aとほぼ同一になる。吐水中には、電波放射口27から放射された電波の伝播経路中を洗浄水Wが通過するので、この通過により電波は減衰する。また、電波放射口27から放射された電波が洗浄水W内に進入すると、この進入により電波は減衰する。このように、図12の実施形態では、洗浄水Wと電波との干渉によって電波を減衰させることにより、吐水方向A(放射方向B3)に沿った検知範囲a3の長さが短くなり、止水中の検知範囲a1に対して検知可能距離が短くなる。
なお、図12における洗浄水による電波の減衰効果は、図1の実施形態にも当てはまることは明らかである。
【0095】
本発明は、以下のように改変することができる。
上記実施形態では、連通管10を電波の導波管として使用しているが、これに限らず、専用の導波管を用いて、電波センサ40と連通管10の出口との間で電波を導波管により伝播させるように構成してもよい。また、専用の導波管を用いる場合には、この導波管を連通管10の内部又は外部に配置してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、連通管10及び水管20の断面が円形であったが、これに限らず、円形、矩形等の形状としてもよい。
【0097】
また、連通管10の出口部分において、電波放射口を吐水口に対して、明確に使用者側のみに配置してもよい。さらにこの場合、電波放射口の横幅を、吐水口の横幅と同じか、小さく設定してもよい。例えば、連通管10の断面を半円形に二分して、これら断面半円部分にそれぞれ電波放射口及び吐水口を配置してもよいし、連通管10の出口部分の内、使用者側に小径の電波放射口を設けてもよい。
【0098】
このように構成することにより、吐水中においては、電波ビームと洗浄水の流れとの干渉(反射)によって、電波ビームをほぼ完全に使用者側に向けることができる。これにより、検知範囲が、吐水口の下方に存在しなくなるので、吐水口から離れた位置における大流量時の洗浄水の流れの乱れを電波センサ40が誤って検出してしまうことを防止することができ、手洗いが終わった後に、確実に止水させることが可能となる。
【0099】
また、上記実施形態では、吐水口26が断面円形であったが、これに限らず、図13に示すように、吐水口の断面を縦長な形状にしてもよい。図13は、吐水方向に対して垂直な方向における止水中の検知範囲の断面を示している。
図13の例では、図11と異なり、吐水口26aの断面形状が楕円である。この楕円形状は、長軸方向に長さr1、短軸方向に長さr2(r1>r2)を有する。そして、楕円形状の長軸方向は、水栓本体1Aの基端部から使用者へ向かう方向に沿って配置されている。さらに、図11と同様に、吐水口26aは、その外側面のうち、水栓本体1Aの基端部側の側面が、電波放射口27又は連通管10の内面に当接又は近接して配置されている。
【0100】
吐水口26aが楕円形状であっても止水中の検知範囲にはほとんど影響がない。このため、図13(A)に示された止水中の検知範囲は、図11の検知範囲a1とほぼ同一である。
一方、図13(B)は、吐水中の検知範囲a4の断面を示している。吐水中は、電波放射口27から放射された電波は、図13(B)において矢印で模式的に示されているように、洗浄水Wによって反射する。これにより、図13の例では、検知範囲a4は、その断面が楕円形状に変形し、電波放射口27の中心から使用者側Cの境界までの距離が長さR4であり、水平横方向に幅W4を有する。好ましくは、R4>R1,W4>W1である。
【0101】
このとき、長軸方向の長さr1の方が、短軸方向の長さr2よりも長いので、吐水口26aから吐水される洗浄水Wの側面のうち、使用者側Cの側面部分よりも使用者側Cに対して直交する水平横方向の側面部分の方が、電波放射口27から放射される電波をより多く反射する。したがって、水平横方向に反射される電波の方が、使用者側Cへ反射される電波よりも多くなる。これにより、図13の例では、図11と比べて、長さR4が長さR2よりも短く(R4<R2)、幅W4が幅W2よりも大きい(W4>W2)。このように、図13の例では、吐水口の断面形状を変更することにより、吐水口26aと電波放射口27によって、検知範囲の水平横方向及び厚さ方向(放射方向及び水平横方向と直交する方向)の長さの相対比を変更し、吐水中の検知範囲の偏平度合いを調整することができる。また、吐水口26aの長さr1,r2を独立的に変更することにより、検知範囲の水平横方向及び厚さ方向の絶対長さをそれぞれ調整することもできる。このように、本実施形態の指向性調整手段(二重管構造)は、検知範囲の水平方向形状及び厚さ方向形状の調整手段として機能する。
【符号の説明】
【0102】
1 自動水栓装置
2 シンク
3 基台
10 連通管
11 内側面
12 固定部材
20 水管
26 吐水口
27 電波放射口
28 反射部材(指向性調整手段)
28a 反射面(反射部)
40 電波センサ
41 センサ本体部
42 電波導入出部
42a 先端開口
50 制御部
A 吐水方向
B1,B2 放射方向
a1,a2 検知範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に基端部が固定され使用者側に向けて延在する連通管と吐水弁を備えた水栓本体と、前記連通管内に配置され、前記水栓本体の端部である吐水口部に形成された吐水口に洗浄水を供給する水管と、を備えた自動水栓装置において、
前記水栓本体の前記基端部側に設けられ、送信した電波の反射波を受信することにより、使用者の動作状態を検知するための検出信号を出力する電波センサと、
前記連通管内と前記水管との間に形成された、電波を通過させるための電波通過用空間と、
前記電波通過用空間を通過してきた電波を外部に放射するために前記吐水口部に形成された電波放射口と、
前記電波放射口から放射される電波の指向性を調整するための指向性調整手段と、
前記電波センサの前記検出信号に基づいて前記吐水弁の開閉を切り替えて、前記吐水口からの洗浄水の吐水と止水を行う制御手段であって、所定値以上の信号値を有する前記検出信号に基づいて前記電波センサの検知範囲を決定する前記制御手段と、
を備え、
前記指向性調整手段は、前記吐水口から吐水される洗浄水によって前記電波放射口から放射される電波の少なくとも一部を減衰させることによって、止水中よりも吐水中の前記検知範囲の方を小さくするように、前記電波放射口から放射される電波を前記吐水口から吐水される洗浄水に干渉させるように構成されていることを特徴とする自動水栓装置。
【請求項2】
前記指向性調整手段は、止水中よりも吐水中の前記検知範囲の方が吐水方向において短くなるように、前記電波放射口から放射される電波を前記吐水口から吐水される洗浄水に干渉させて減衰させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動水栓装置。
【請求項3】
前記指向性調整手段は、吐水中の前記検知範囲を止水中の前記検知範囲に対して、吐水方向と直交する方向よりも吐水方向において大きな割合で小さくするように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の自動水栓装置。
【請求項4】
止水中の前記検知範囲中を前記吐水口から吐水される洗浄水が通過するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の自動水栓装置。
【請求項5】
前記指向性調整手段は、前記電波放射口から放射される電波が、吐水中に、吐水方向と直交する方向において使用者側よりも使用者側と反対側の方が大きく減衰されるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載の自動水栓装置。
【請求項6】
止水中の前記検知範囲のうち、使用者側とは反対側に偏った領域を前記吐水口から吐水される洗浄水が通過するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の自動水栓装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−77597(P2012−77597A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69390(P2011−69390)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【特許番号】特許第4877540号(P4877540)
【特許公報発行日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】