自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム
【課題】ソレノイド等の駆動に関し、その駆動し始めと終わりにおいて、押し出す力が平滑化されてその制御がし易くなるようにする自動演奏ピアノ鍵盤駆動用に使用されるカムを提供する。
【解決手段】プランジャ102ヘッドと当接し、ソレノイドの駆動動作により当接位置t1が前方に進むに従って回動し、その当接位置t1との距離が縮まる位置に回転中心10を有するカム1の構成であって、且つ上記プランジャ102ヘッドの当接位置t1が前方に進むに従って、上記プランジャ102ヘッド当接位置t1とは別の位置にある、鍵盤200との当接位置t2乃至鍵盤に介在物202を介して当接する位置t2が、上記回転中心10から遠ざかるR状の当接面12に構成されている。
【解決手段】プランジャ102ヘッドと当接し、ソレノイドの駆動動作により当接位置t1が前方に進むに従って回動し、その当接位置t1との距離が縮まる位置に回転中心10を有するカム1の構成であって、且つ上記プランジャ102ヘッドの当接位置t1が前方に進むに従って、上記プランジャ102ヘッド当接位置t1とは別の位置にある、鍵盤200との当接位置t2乃至鍵盤に介在物202を介して当接する位置t2が、上記回転中心10から遠ざかるR状の当接面12に構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、演奏情報に基づいて鍵盤の各鍵を駆動する自動演奏ピアノの鍵盤駆動機構に備えられた自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の自動演奏ピアノは、予め記憶された電気信号を再生することにより得られた電気信号によってソレノイド等のアクチュエータを駆動し、このアクチュエータの駆動力によって鍵を駆動し、この鍵に連動して、アクション機構を作動させることにより、自動演奏を行うように構成されている。
【0003】
図14は、後述する特許文献1により、ソレノイド100のプランジャ102が、リンク300を介して、鍵盤後端部を突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示している。また図15は、プランジャ102が、鍵盤200後端部を直接突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示している。
【特許文献1】特開昭57−176095号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図16に示すように、ソレノイド100の後方側に出っ張るプランジャ102の長さをストロークSとすると、図17に示すように、プランジャ102の押し出し始め(ストロークSの値が大きいうち)は、該プランジャ102の押し出す力P(N)は小さく(同図右側)、次第に大きくなって、その押しが最後に到達した時点で、最大になる(同図左側)。
【0005】
このように、ソレノイド100に電流の流し始めと終わりでは、プランジャ102を押し出す力P(N)が一定ではなく、その制御がしにくいといった欠点がある。特に短い間に、連打されるような場合は、その欠点が演奏状態に露呈することにもなる。
【0006】
本発明は、以上のような問題に鑑み創案されたもので、ソレノイド等のアクチュエータの駆動に関し、その駆動し始めと終わりにおいて、押し出す力が平滑化されてその制御がし易くなるようにする自動演奏ピアノ鍵盤駆動用に使用されるカムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムの構成は、
アクチュエータ可動部と当接し、アクチュエータの駆動動作により当接位置が前方に進むに従って回動し、その当接位置との距離が縮まる位置に回転中心を有するカムであり、
且つ上記アクチュエータ可動部の当接位置が前方に進むに従って、上記アクチュエータ可動部当接位置とは別の位置にある、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置が、上記回転中心から遠ざかるR状の当接面に構成されたことを基本的特徴としている。
【0008】
本発明の構成は、上記構成を次のようにして表現すれば、さらに明らかになる。すなわち、上記アクチュエータ可動部の当接位置とカムの回転中心との距離をlとし、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置とカムの回転中心との距離をLとして、アクチュエータ可動部がカムを押す力をpとした場合に、下式数2で得られる鍵盤(或いは介在物を介して鍵盤)を押す力Pが得られるというものである。
(数2)
P=pl/L
【0009】
上記構成によれば、後述する図2乃至図5に示すように、上記アクチュエータ(図ではソレノイド100)に通電されると、図3に示されるように、アクチュエータ可動部(図ではプランジャ102のヘッド)は左方向に動き、カム1は時計回りに回転する。この時、上記アクチュエータ可動部の当接位置(図3ではt1)とカム1の回転中心10との距離lは、次第に小さくなり、鍵盤200との当接位置(図3ではt2)乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置(図3ではt2)とカム1の回転中心10との距離Lは大きくなる。このため、l/Lは、アクチュエータの始動時大きく、終了時は小さい値となり、図5に示すように、結果的に鍵盤200を押し上げる力Pは、図17の場合に比べ、平滑化されることになる。
【0010】
通常カム1はアクチュエータと鍵盤200の可動範囲によって動作範囲が制限され、鍵盤200と接触する位置は、カム山の最高地点(Lmax;図示無し)に達しない範囲を使用する。しかし、鍵200aに対してカム1の取付け位置が下がってしまった場合、鍵盤200が浮き上がってしまった時などに、後述する図6に示すように、カム1が回り過ぎてしまい、最高地点付近や更に越えた位置まで達してしまう場合がある。こうなると鍵盤200やアクション機構の戻ろうとする力では、カム1を元の位置に戻す事ができなくなってしまい、鍵200aが押されたままになってしまう。
【0011】
そこで、本発明では、後述する図7に示すように、鍵盤200と当接する位置t2のカム1形状、乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置t2のカム形状がR状の当接面12であって、カム1の通常当接する範囲外(R状の当接面12外)にコブ状の突起部14を有し、回動動作が通常当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部14が前記鍵盤200又は介在物202、又はカム周辺の非可動部に接触し、カム1の回動を阻止するようにした。
【0012】
すなわち、カム1の通常接触範囲を越えた位置に、コブ状の突起部14を設け、回転し過ぎそうな時に、このコブ状の突起部14が鍵盤200と接触する事で、回転を制限する。
【0013】
または、図7で別に示すように、カム1が鍵200aやアクチュエータ可動部(ソレノイドであればプランジャヘッド)と接触しない領域に、コブ状の突起部14aを設け、この突起部14aがカム軸受け土台や床面など回転しない部位に接触することで回転し過ぎないように制限する。このコブの突起部14aは、回転の外周面に限らず横面でも良い(その代わり、その突起部を止める部位は別なものと共用するか、別途設ける必要がある)。
【0014】
カム1による鍵駆動方法の場合、取付け高さは、非演奏時にカム1と鍵盤200が僅かに接触する程度に調整するが、厳密に調整するのは難しく、隙間が開く場合もある。隙間がある場合、駆動開始時にカム1と鍵盤200の隙間が無くなり接触した時に、接触音が発生する。また、手動演奏離鍵時も離鍵によって落下した鍵盤200がカム1と接触した時に音が発生する。
【0015】
こうした音を抑える為に、通常は鍵裏のカム1との接触面に、クッション材を貼付ける。しかしながら、全88鍵各々に貼付ける作業は手間が掛かる。そこで、本発明では、後述する図8に示すように、上記カム1のR状の当接面12を覆うクッション材16aが、カム1前後非可動部の一方に固定され備えられるように設置することにした。
【0016】
例えば、図8(b)に示すように、該クッション材16aは、平面から見た場合、櫛型であって、歯にあたる所がカム1と鍵200aの接触面を覆い、複数鍵を1つの部品で賄えるサイズのクッション材16aを使用し、予めアクチュエータ可動部の反対側に、クッション材16aの歯でないつながった箇所[図8(a)の左側]を数鍵分一括で取付けておくことで、取付時にクッション材16aを1鍵ずつ貼る手間が要らなくなる。
【0017】
また、後述する図9に示すように、適度に弛ませた布状のクッション材16bを、カム1を覆うようにカム1前後で複数鍵分一括で固定しても良い。この場合、同図(b)に示すように、1鍵分ずつ切れ目17を入れておくと、隣鍵の影響を受け辛くなる。これによって、1鍵ずつクッション材を貼らなくても、予め駆動部にクッション材16bが付いているので簡単に取付ける事が可能になる。
【0018】
またこのようなカム1のある構成では、さらに離鍵時の戻りを速くする必要がある。すなわち、カム1とアクチュエータ、特にアクチュエータは自身で元の位置に戻る事はできず、アクション機構と鍵盤1が離鍵位置に戻ろうとする力を使って元の位置に戻している。
【0019】
極短い休符を挟んで連続して発音する場合、休符後の発音は鍵盤200が離鍵位置に戻ろうとしている途中で、押鍵動作を開始する。人が演奏する場合は無意識に力を加減して上手く発音するが、一方的にソレノイドなどのアクチュエータを駆動する自動演奏では、休符後の発音がうまくできない(連打性能が悪い)場合があるし、アクチュエータやカム1が負荷になって、鍵が戻る速度を遅めて、連打性能を悪くする場合もある。また、アクチュエータが戻る方向へ移動している最中に駆動信号を与えるより、予め戻っていてアクチュエータが駆動方向へ加速している状態で、戻ろうとしている鍵に、当たった方が、発音し易い。
【0020】
こうするには、カム1とアクチュエータが、鍵より速く戻り、次の発音に備えておく必要がある。
【0021】
そこで、後述する図10に示すように、上記カム1の回転中心10とは離れ、回動時に離鍵位置では低く、押鍵位置では高くなる位置に錘20を付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすると、カム1とアクチュエータが、鍵より速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0022】
また、同様に、後述の図11、図12及び図13に示すように、上記カム1の回動に反発する方向に作用するバネ22a〜22cを取り付け、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすることでも、カム1とアクチュエータが、鍵より速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0023】
そのようなバネ22a〜22cの取り付けについては、上記図11に示すように、カム1の回転中心10(回転軸)に取付けたねじりバネ22aがカム1を戻したり、同じく図12に示すように、アクチュエータとして使用されるソレノイド100のプランジャ102(軸)ヘッド側に取付けたコイルバネ22bが土台やソレノイドフレームに当たり、ソレノイド100のプランジャ102を戻す構成としたり、或いは上記図13に示すように、土台など固定部に取付けた板バネ22cがカム1を戻す、その反対に(図示無し)、カム1に取付けた板バネ22cが土台など固定部に当たって、カム1を戻す構成とすることで可能である。
【0024】
このように、錘20やバネ22a〜22cの取り付けにより、カム1とアクチュエータを構成するソレノイドのプランジャなどの戻りが速くなり、その結果、連打性能が上がることになる。
【発明の効果】
【0025】
以上のような本発明の構成によれば、上記構成のカムを介することにより、アクチュエータの始動時と終了時との間で、結果的に鍵盤を押し上げる力が平滑化され、鍵盤を押し上げる力の制御がし易くなって、特に連打時の演奏に不自然感を与えないという優れた効果を奏し得る。
【0026】
またカムの所定部分にコブ状の突起部を有し、回動動作によりカムが鍵盤乃至介在物の通常の当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部が所定の箇所に接触し、カムの回動を阻止するようにすることができるため、カムが元の位置に戻す事ができなくなって、鍵が押されたままになってしまうことが防止されるようになる。
【0027】
カムと鍵盤の隙間を埋めるクッション材の取り付けが、上記のような構成で行われることで、その取り付けが簡単に行えるようになる。
【0028】
さらに、上記のような錘やバネの取り付けで、離鍵時の戻りを速くでき、次の発音に備えておくことが可能となって、特に連打性能が向上することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づき、説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の一実施例構成を備えた自動演奏ピアノの鍵盤200及び鍵200aを自動的に動かすソレノイド100周りの構成を示す説明図である。
【0031】
一般に、自動演奏ピアノは、予め記憶された電気信号を再生することにより得られた電気信号によって、アクチュエータとなるソレノイド100を駆動し、このソレノイド100の駆動力によって鍵200aを駆動し、この鍵200aに連動して、アクション機構(図示無し)を作動させることにより、自動演奏を行うように構成されている。
【0032】
上記図1は、ソレノイド100のプランジャ102が、本発明構成の実施例に係るカム1を介して、鍵200a後端部を突き上げ、それによって鍵200aが駆動される状態を示している。
【0033】
図2及び図3は、そのうちのソレノイド100とカム1部分の一構成例を示している。これらの図に示すように、本発明に係る自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムの構成は、基本的には、プランジャ102のヘッドと当接し、ソレノイド100の駆動動作により当接位置t1が前方に進むに従って回動し、その当接位置t1との距離(後述するl)が縮まる位置に回転中心10を有するカム1の構成であって、且つ上記プランジャ102ヘッドの当接位置t1が前方に進むに従って、上記プランジャ102ヘッド当接位置t1とは別の位置にある、鍵盤200との当接位置t2乃至鍵盤に介在物202を介して当接する位置t2が、上記回転中心10から遠ざかるR状の当接面12に構成されている。
【0034】
以上の本実施例の構成は、次のようにして表現すれば、さらに明らかになる。すなわち、上記プランジャ102ヘッドの当接位置t1とカム1の回転中心10との距離をlとし、鍵盤200との当接位置t2乃至鍵盤に介在物202を介して当接する位置t2とカム1の回転中心10との距離をLとして、プランジャ102ヘッドがカム1を押す力をpとした場合に、下式数3で得られる鍵盤200(或いは介在物202を介して鍵盤)を押す力Pが得られることになる。
(数3)
P=pl/L
【0035】
上記構成によれば、図2乃至図5に示すように、上記ソレノイド100に通電すると、図3に示されるように、プランジャ102ヘッドは左方向に動き、カム1は時計回りに回転する。この時、上記プランジャ102ヘッドの当接位置(図3ではt1)とカム1の回転中心10との距離lは、次第に小さくなり、鍵盤200との当接位置(図3ではt2)乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置(図3ではt2)とカム1の回転中心10との距離Lは大きくなる。このため、l/Lは、ソレノイド100の始動時大きく、終了時は小さい値となり、図5に示すように、結果的に鍵盤200を押し上げる力Pは、前記図17の場合に比べ、平滑化されることになる。
【実施例2】
【0036】
通常カム1はソレノイド100と鍵盤200の可動範囲によって動作範囲が制限され、鍵盤200と接触する位置は、カム山の最高地点(Lmax;図示無し)に達しない範囲を使用する。しかし、鍵200aに対してカム1の取付け位置が下がってしまった場合、鍵盤200が浮き上がってしまった時などに、図6に示すように、カム1が回り過ぎてしまい、最高地点付近や更に越えた位置まで達してしまう場合がある。こうなると鍵盤200やアクション機構(図示無し)の戻ろうとする力では、カム1を元の位置に戻す事ができなくなってしまい、鍵200aが押されたままになってしまう。
【0037】
そこで、本実施例2では、図7に示すように、鍵盤200と当接する位置t2のカム1形状、乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置t2のカム形状がR状の当接面12であって、カム1の通常当接する範囲外(R状の当接面12外)にコブ状の突起部14を有し、回動動作が通常当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部14が前記鍵盤200又は介在物202、又はカム周辺の非可動部(図示無し)に接触し、カム1の回動を阻止するようにしている。
【0038】
すなわち、カム1の通常接触範囲を越えた位置に、コブ状の突起部14を設け、回転し過ぎそうな時に、このコブ状の突起部14が鍵盤200等と接触する事で、回転を制限する。
【0039】
または、図7で別(カム1の下側)に示すように、カム1が鍵200aやプランジャ102ヘッドと接触しない領域に、コブ状の突起部14aを設け、この突起部14aがカム軸受け土台400(或いは床面など回転しない部位)に接触することで回転し過ぎないように制限することもできる。このコブの突起部14aは、回転の外周面に限らず横面でも良い。しかし、その突起部14aを止める部位は別なものと共用するか、別途設ける必要がある。
【実施例3】
【0040】
カム1による鍵駆動方法の場合、取付け高さは、非演奏時にカム1と鍵盤200が僅かに接触する程度に調整するが、厳密に調整するのは難しく、隙間が開く場合もある。隙間がある場合、駆動開始時にカム1と鍵盤200の隙間が無くなり接触した時に、接触音が発生する。また、手動演奏離鍵時も離鍵によって落下した鍵盤200がカム1と接触した時に音が発生する。
【0041】
こうした音を抑える為に、通常は鍵裏のカム1との接触面に、クッション材を貼付ける。しかしながら、全88鍵各々に貼付ける作業は手間が掛かる。そこで、本発明では、図8に示すように、上記カム1のR状の当接面12を覆うクッション材16aが、カム1前後非可動部の一方に固定され備えられるように設置することにしている。
【0042】
例えば、図8(b)に示すように、該クッション材16aは、平面から見た場合、櫛型であって、歯にあたる所がカム1と鍵200aの接触面を覆い、複数鍵を1つの部品で賄えるサイズのクッション材16aを使用し、予めプランジャヘッドの反対側に、クッション材16aの歯でないつながった箇所[図8(a)の左側]を数鍵分一括で取付けておくことで、取付時にクッション材16aを1鍵ずつ貼る手間が要らなくなる。
【0043】
また、図9に示すように、適度に弛ませた布状のクッション材16bを、カム1を覆うようにカム1前後で複数鍵分一括で固定しても良い。この場合、同図(b)に示すように、1鍵分ずつ切れ目17を入れておくと、隣鍵の影響を受け辛くなる。これによって、1鍵ずつクッション材を貼らなくても、予め駆動部にクッション材16bが付いているので簡単に取付ける事が可能になる。
【実施例4】
【0044】
またこのようなカム1のある構成では、さらに離鍵時の戻りを速くする必要がある。すなわち、カム1とソレノイド100、特にソレノイド100は自身で元の位置に戻る事はできず、アクション機構と鍵盤1が離鍵位置に戻ろうとする力を使って元の位置に戻している。
【0045】
極短い休符を挟んで連続して発音する場合、休符後の発音は鍵盤200が離鍵位置に戻ろうとしている途中で、押鍵動作を開始する。人が演奏する場合は無意識に力を加減して上手く発音するが、一方的にソレノイド100を駆動する自動演奏では、休符後の発音がうまくできない(連打性能が悪い)場合があるし、ソレノイド100やカム1が負荷になって、鍵200aが戻る速度を遅めて、連打性能を悪くする場合もある。また、ソレノイド100が戻る方向へ移動している最中に駆動信号を与えるより、予め戻っていてソレノイド100が駆動方向へ加速している状態で、戻ろうとしている鍵200aに、当たった方が、発音し易い。
【0046】
こうするには、カム1とソレノイド100が、鍵200aより速く戻り、次の発音に備えておく必要がある。
【0047】
そこで、図10に示すように、上記カム1の回転中心10とは離れ、回動時に離鍵位置では低く、押鍵位置では高くなる位置に錘20を付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすると、カム1とソレノイド100が、鍵200aより速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0048】
また、同様に、図11、図12及び図13に示すように、上記カム1の回動に反発する方向に作用するバネ22a〜22cを取り付け、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすることでも、カム1とソレノイド100が、鍵200aより速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0049】
そのようなバネ22a〜22cの取り付けについては、上記図11に示すように、カム1の回転中心10(回転軸)に取付けたねじりバネ22aがカム1を戻したり、同じく図12に示すように、ソレノイド100のプランジャ102(軸)ヘッド側に取付けたコイルバネ22bが土台やソレノイドフレームに当たり、ソレノイド100のプランジャ102を戻す構成としたり、或いは上記図13に示すように、土台など固定部に取付けた板バネ22cがカム1を戻す、その反対に(図示無し)、カム1に取付けた板バネ22cが土台など固定部に当たって、カム1を戻す構成とすることで可能である。
【0050】
このように、錘20やバネ22a〜22cの取り付けにより、カム1とソレノイド100のプランジャ102などの戻りが速くなり、その結果、連打性能が上がることになる。
【0051】
尚、本発明の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムの構成は、自動演奏ピアノに限られず、自動演奏に使用される鍵盤楽器であれば、どれにも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例構成を備えた自動演奏ピアノの鍵盤200及び鍵200aを自動的に動かすソレノイド100周りの構成を示す説明図である。
【図2】そのうちのソレノイド100とカム1部分の一構成例を示す説明図である。
【図3】上記ソレノイド100のプランジャ102ヘッドが駆動した場合のカム1との接触及びカム1全体の移動の状態を示す説明図である。
【図4】カム1に、介在物202を介して鍵盤が押し上げられる場合の構成を示す説明図である。
【図5】本実施例におけるプランジャ102ストロークSと鍵盤200を押し上げる力Pとの関係を示すグラフ図である。
【図6】カム1による押鍵時、解放時、及びカム1が回転し過ぎて鍵が浮いてしまった状態の夫々の場合における鍵下面の状態を該カム1と共に示す説明図である。
【図7】周り過ぎ防止の突起部をカム1に設けた状態を示す説明図である。
【図8】カム1のR状の当接面12を覆うクッション材16aが、カム1前後非可動部の一方に固定され備えられるように設置した状態を示す説明図である。
【図9】クッション材16bを、カム1を覆うようにカム1前後で複数鍵分一括で固定した状態を示す説明図である。
【図10】回転中心10から離れた位置に錘20を付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くする構成としたカム1の状態を示す説明図である。
【図11】カム1の回転中心10にねじりバネ22aを取付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くする構成としたカム1の状態を示す説明図である。
【図12】ソレノイド100のプランジャ102ヘッド側にコイルバネ22bを取付けて、土台やソレノイドフレームに当たることで、ソレノイド100のプランジャ102を戻す構成とした状態を示す説明図である。
【図13】土台など固定部に板バネ22cを取付けて、カム1の戻りを速くする構成としたカム1の状態を示す説明図である。
【図14】ソレノイド100のプランジャ102が、リンク300を介して、鍵盤後端部を突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示す説明図である。
【図15】プランジャ102が、鍵盤200後端部を直接突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示す説明図である。
【図16】ソレノイド100の後方側に出っ張るプランジャ102の長さをストロークSとすることの説明図である。
【図17】従来例構成におけるプランジャ102ストロークSと鍵盤200を押し上げる力Pとの関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0054】
1 カム
10 回転中心
12 当接面
14、14a 突起部
16a、16b クッション材
20 錘
22a〜22c バネ
100 ソレノイド
102 プランジャ
200 鍵盤
200a 鍵
202 介在物
300 リンク
400 カム軸受け土台
【技術分野】
【0001】
本発明は、演奏情報に基づいて鍵盤の各鍵を駆動する自動演奏ピアノの鍵盤駆動機構に備えられた自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種の自動演奏ピアノは、予め記憶された電気信号を再生することにより得られた電気信号によってソレノイド等のアクチュエータを駆動し、このアクチュエータの駆動力によって鍵を駆動し、この鍵に連動して、アクション機構を作動させることにより、自動演奏を行うように構成されている。
【0003】
図14は、後述する特許文献1により、ソレノイド100のプランジャ102が、リンク300を介して、鍵盤後端部を突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示している。また図15は、プランジャ102が、鍵盤200後端部を直接突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示している。
【特許文献1】特開昭57−176095号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図16に示すように、ソレノイド100の後方側に出っ張るプランジャ102の長さをストロークSとすると、図17に示すように、プランジャ102の押し出し始め(ストロークSの値が大きいうち)は、該プランジャ102の押し出す力P(N)は小さく(同図右側)、次第に大きくなって、その押しが最後に到達した時点で、最大になる(同図左側)。
【0005】
このように、ソレノイド100に電流の流し始めと終わりでは、プランジャ102を押し出す力P(N)が一定ではなく、その制御がしにくいといった欠点がある。特に短い間に、連打されるような場合は、その欠点が演奏状態に露呈することにもなる。
【0006】
本発明は、以上のような問題に鑑み創案されたもので、ソレノイド等のアクチュエータの駆動に関し、その駆動し始めと終わりにおいて、押し出す力が平滑化されてその制御がし易くなるようにする自動演奏ピアノ鍵盤駆動用に使用されるカムを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムの構成は、
アクチュエータ可動部と当接し、アクチュエータの駆動動作により当接位置が前方に進むに従って回動し、その当接位置との距離が縮まる位置に回転中心を有するカムであり、
且つ上記アクチュエータ可動部の当接位置が前方に進むに従って、上記アクチュエータ可動部当接位置とは別の位置にある、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置が、上記回転中心から遠ざかるR状の当接面に構成されたことを基本的特徴としている。
【0008】
本発明の構成は、上記構成を次のようにして表現すれば、さらに明らかになる。すなわち、上記アクチュエータ可動部の当接位置とカムの回転中心との距離をlとし、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置とカムの回転中心との距離をLとして、アクチュエータ可動部がカムを押す力をpとした場合に、下式数2で得られる鍵盤(或いは介在物を介して鍵盤)を押す力Pが得られるというものである。
(数2)
P=pl/L
【0009】
上記構成によれば、後述する図2乃至図5に示すように、上記アクチュエータ(図ではソレノイド100)に通電されると、図3に示されるように、アクチュエータ可動部(図ではプランジャ102のヘッド)は左方向に動き、カム1は時計回りに回転する。この時、上記アクチュエータ可動部の当接位置(図3ではt1)とカム1の回転中心10との距離lは、次第に小さくなり、鍵盤200との当接位置(図3ではt2)乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置(図3ではt2)とカム1の回転中心10との距離Lは大きくなる。このため、l/Lは、アクチュエータの始動時大きく、終了時は小さい値となり、図5に示すように、結果的に鍵盤200を押し上げる力Pは、図17の場合に比べ、平滑化されることになる。
【0010】
通常カム1はアクチュエータと鍵盤200の可動範囲によって動作範囲が制限され、鍵盤200と接触する位置は、カム山の最高地点(Lmax;図示無し)に達しない範囲を使用する。しかし、鍵200aに対してカム1の取付け位置が下がってしまった場合、鍵盤200が浮き上がってしまった時などに、後述する図6に示すように、カム1が回り過ぎてしまい、最高地点付近や更に越えた位置まで達してしまう場合がある。こうなると鍵盤200やアクション機構の戻ろうとする力では、カム1を元の位置に戻す事ができなくなってしまい、鍵200aが押されたままになってしまう。
【0011】
そこで、本発明では、後述する図7に示すように、鍵盤200と当接する位置t2のカム1形状、乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置t2のカム形状がR状の当接面12であって、カム1の通常当接する範囲外(R状の当接面12外)にコブ状の突起部14を有し、回動動作が通常当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部14が前記鍵盤200又は介在物202、又はカム周辺の非可動部に接触し、カム1の回動を阻止するようにした。
【0012】
すなわち、カム1の通常接触範囲を越えた位置に、コブ状の突起部14を設け、回転し過ぎそうな時に、このコブ状の突起部14が鍵盤200と接触する事で、回転を制限する。
【0013】
または、図7で別に示すように、カム1が鍵200aやアクチュエータ可動部(ソレノイドであればプランジャヘッド)と接触しない領域に、コブ状の突起部14aを設け、この突起部14aがカム軸受け土台や床面など回転しない部位に接触することで回転し過ぎないように制限する。このコブの突起部14aは、回転の外周面に限らず横面でも良い(その代わり、その突起部を止める部位は別なものと共用するか、別途設ける必要がある)。
【0014】
カム1による鍵駆動方法の場合、取付け高さは、非演奏時にカム1と鍵盤200が僅かに接触する程度に調整するが、厳密に調整するのは難しく、隙間が開く場合もある。隙間がある場合、駆動開始時にカム1と鍵盤200の隙間が無くなり接触した時に、接触音が発生する。また、手動演奏離鍵時も離鍵によって落下した鍵盤200がカム1と接触した時に音が発生する。
【0015】
こうした音を抑える為に、通常は鍵裏のカム1との接触面に、クッション材を貼付ける。しかしながら、全88鍵各々に貼付ける作業は手間が掛かる。そこで、本発明では、後述する図8に示すように、上記カム1のR状の当接面12を覆うクッション材16aが、カム1前後非可動部の一方に固定され備えられるように設置することにした。
【0016】
例えば、図8(b)に示すように、該クッション材16aは、平面から見た場合、櫛型であって、歯にあたる所がカム1と鍵200aの接触面を覆い、複数鍵を1つの部品で賄えるサイズのクッション材16aを使用し、予めアクチュエータ可動部の反対側に、クッション材16aの歯でないつながった箇所[図8(a)の左側]を数鍵分一括で取付けておくことで、取付時にクッション材16aを1鍵ずつ貼る手間が要らなくなる。
【0017】
また、後述する図9に示すように、適度に弛ませた布状のクッション材16bを、カム1を覆うようにカム1前後で複数鍵分一括で固定しても良い。この場合、同図(b)に示すように、1鍵分ずつ切れ目17を入れておくと、隣鍵の影響を受け辛くなる。これによって、1鍵ずつクッション材を貼らなくても、予め駆動部にクッション材16bが付いているので簡単に取付ける事が可能になる。
【0018】
またこのようなカム1のある構成では、さらに離鍵時の戻りを速くする必要がある。すなわち、カム1とアクチュエータ、特にアクチュエータは自身で元の位置に戻る事はできず、アクション機構と鍵盤1が離鍵位置に戻ろうとする力を使って元の位置に戻している。
【0019】
極短い休符を挟んで連続して発音する場合、休符後の発音は鍵盤200が離鍵位置に戻ろうとしている途中で、押鍵動作を開始する。人が演奏する場合は無意識に力を加減して上手く発音するが、一方的にソレノイドなどのアクチュエータを駆動する自動演奏では、休符後の発音がうまくできない(連打性能が悪い)場合があるし、アクチュエータやカム1が負荷になって、鍵が戻る速度を遅めて、連打性能を悪くする場合もある。また、アクチュエータが戻る方向へ移動している最中に駆動信号を与えるより、予め戻っていてアクチュエータが駆動方向へ加速している状態で、戻ろうとしている鍵に、当たった方が、発音し易い。
【0020】
こうするには、カム1とアクチュエータが、鍵より速く戻り、次の発音に備えておく必要がある。
【0021】
そこで、後述する図10に示すように、上記カム1の回転中心10とは離れ、回動時に離鍵位置では低く、押鍵位置では高くなる位置に錘20を付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすると、カム1とアクチュエータが、鍵より速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0022】
また、同様に、後述の図11、図12及び図13に示すように、上記カム1の回動に反発する方向に作用するバネ22a〜22cを取り付け、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすることでも、カム1とアクチュエータが、鍵より速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0023】
そのようなバネ22a〜22cの取り付けについては、上記図11に示すように、カム1の回転中心10(回転軸)に取付けたねじりバネ22aがカム1を戻したり、同じく図12に示すように、アクチュエータとして使用されるソレノイド100のプランジャ102(軸)ヘッド側に取付けたコイルバネ22bが土台やソレノイドフレームに当たり、ソレノイド100のプランジャ102を戻す構成としたり、或いは上記図13に示すように、土台など固定部に取付けた板バネ22cがカム1を戻す、その反対に(図示無し)、カム1に取付けた板バネ22cが土台など固定部に当たって、カム1を戻す構成とすることで可能である。
【0024】
このように、錘20やバネ22a〜22cの取り付けにより、カム1とアクチュエータを構成するソレノイドのプランジャなどの戻りが速くなり、その結果、連打性能が上がることになる。
【発明の効果】
【0025】
以上のような本発明の構成によれば、上記構成のカムを介することにより、アクチュエータの始動時と終了時との間で、結果的に鍵盤を押し上げる力が平滑化され、鍵盤を押し上げる力の制御がし易くなって、特に連打時の演奏に不自然感を与えないという優れた効果を奏し得る。
【0026】
またカムの所定部分にコブ状の突起部を有し、回動動作によりカムが鍵盤乃至介在物の通常の当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部が所定の箇所に接触し、カムの回動を阻止するようにすることができるため、カムが元の位置に戻す事ができなくなって、鍵が押されたままになってしまうことが防止されるようになる。
【0027】
カムと鍵盤の隙間を埋めるクッション材の取り付けが、上記のような構成で行われることで、その取り付けが簡単に行えるようになる。
【0028】
さらに、上記のような錘やバネの取り付けで、離鍵時の戻りを速くでき、次の発音に備えておくことが可能となって、特に連打性能が向上することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に基づき、説明する。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の一実施例構成を備えた自動演奏ピアノの鍵盤200及び鍵200aを自動的に動かすソレノイド100周りの構成を示す説明図である。
【0031】
一般に、自動演奏ピアノは、予め記憶された電気信号を再生することにより得られた電気信号によって、アクチュエータとなるソレノイド100を駆動し、このソレノイド100の駆動力によって鍵200aを駆動し、この鍵200aに連動して、アクション機構(図示無し)を作動させることにより、自動演奏を行うように構成されている。
【0032】
上記図1は、ソレノイド100のプランジャ102が、本発明構成の実施例に係るカム1を介して、鍵200a後端部を突き上げ、それによって鍵200aが駆動される状態を示している。
【0033】
図2及び図3は、そのうちのソレノイド100とカム1部分の一構成例を示している。これらの図に示すように、本発明に係る自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムの構成は、基本的には、プランジャ102のヘッドと当接し、ソレノイド100の駆動動作により当接位置t1が前方に進むに従って回動し、その当接位置t1との距離(後述するl)が縮まる位置に回転中心10を有するカム1の構成であって、且つ上記プランジャ102ヘッドの当接位置t1が前方に進むに従って、上記プランジャ102ヘッド当接位置t1とは別の位置にある、鍵盤200との当接位置t2乃至鍵盤に介在物202を介して当接する位置t2が、上記回転中心10から遠ざかるR状の当接面12に構成されている。
【0034】
以上の本実施例の構成は、次のようにして表現すれば、さらに明らかになる。すなわち、上記プランジャ102ヘッドの当接位置t1とカム1の回転中心10との距離をlとし、鍵盤200との当接位置t2乃至鍵盤に介在物202を介して当接する位置t2とカム1の回転中心10との距離をLとして、プランジャ102ヘッドがカム1を押す力をpとした場合に、下式数3で得られる鍵盤200(或いは介在物202を介して鍵盤)を押す力Pが得られることになる。
(数3)
P=pl/L
【0035】
上記構成によれば、図2乃至図5に示すように、上記ソレノイド100に通電すると、図3に示されるように、プランジャ102ヘッドは左方向に動き、カム1は時計回りに回転する。この時、上記プランジャ102ヘッドの当接位置(図3ではt1)とカム1の回転中心10との距離lは、次第に小さくなり、鍵盤200との当接位置(図3ではt2)乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置(図3ではt2)とカム1の回転中心10との距離Lは大きくなる。このため、l/Lは、ソレノイド100の始動時大きく、終了時は小さい値となり、図5に示すように、結果的に鍵盤200を押し上げる力Pは、前記図17の場合に比べ、平滑化されることになる。
【実施例2】
【0036】
通常カム1はソレノイド100と鍵盤200の可動範囲によって動作範囲が制限され、鍵盤200と接触する位置は、カム山の最高地点(Lmax;図示無し)に達しない範囲を使用する。しかし、鍵200aに対してカム1の取付け位置が下がってしまった場合、鍵盤200が浮き上がってしまった時などに、図6に示すように、カム1が回り過ぎてしまい、最高地点付近や更に越えた位置まで達してしまう場合がある。こうなると鍵盤200やアクション機構(図示無し)の戻ろうとする力では、カム1を元の位置に戻す事ができなくなってしまい、鍵200aが押されたままになってしまう。
【0037】
そこで、本実施例2では、図7に示すように、鍵盤200と当接する位置t2のカム1形状、乃至鍵盤200に介在物202を介して当接する位置t2のカム形状がR状の当接面12であって、カム1の通常当接する範囲外(R状の当接面12外)にコブ状の突起部14を有し、回動動作が通常当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部14が前記鍵盤200又は介在物202、又はカム周辺の非可動部(図示無し)に接触し、カム1の回動を阻止するようにしている。
【0038】
すなわち、カム1の通常接触範囲を越えた位置に、コブ状の突起部14を設け、回転し過ぎそうな時に、このコブ状の突起部14が鍵盤200等と接触する事で、回転を制限する。
【0039】
または、図7で別(カム1の下側)に示すように、カム1が鍵200aやプランジャ102ヘッドと接触しない領域に、コブ状の突起部14aを設け、この突起部14aがカム軸受け土台400(或いは床面など回転しない部位)に接触することで回転し過ぎないように制限することもできる。このコブの突起部14aは、回転の外周面に限らず横面でも良い。しかし、その突起部14aを止める部位は別なものと共用するか、別途設ける必要がある。
【実施例3】
【0040】
カム1による鍵駆動方法の場合、取付け高さは、非演奏時にカム1と鍵盤200が僅かに接触する程度に調整するが、厳密に調整するのは難しく、隙間が開く場合もある。隙間がある場合、駆動開始時にカム1と鍵盤200の隙間が無くなり接触した時に、接触音が発生する。また、手動演奏離鍵時も離鍵によって落下した鍵盤200がカム1と接触した時に音が発生する。
【0041】
こうした音を抑える為に、通常は鍵裏のカム1との接触面に、クッション材を貼付ける。しかしながら、全88鍵各々に貼付ける作業は手間が掛かる。そこで、本発明では、図8に示すように、上記カム1のR状の当接面12を覆うクッション材16aが、カム1前後非可動部の一方に固定され備えられるように設置することにしている。
【0042】
例えば、図8(b)に示すように、該クッション材16aは、平面から見た場合、櫛型であって、歯にあたる所がカム1と鍵200aの接触面を覆い、複数鍵を1つの部品で賄えるサイズのクッション材16aを使用し、予めプランジャヘッドの反対側に、クッション材16aの歯でないつながった箇所[図8(a)の左側]を数鍵分一括で取付けておくことで、取付時にクッション材16aを1鍵ずつ貼る手間が要らなくなる。
【0043】
また、図9に示すように、適度に弛ませた布状のクッション材16bを、カム1を覆うようにカム1前後で複数鍵分一括で固定しても良い。この場合、同図(b)に示すように、1鍵分ずつ切れ目17を入れておくと、隣鍵の影響を受け辛くなる。これによって、1鍵ずつクッション材を貼らなくても、予め駆動部にクッション材16bが付いているので簡単に取付ける事が可能になる。
【実施例4】
【0044】
またこのようなカム1のある構成では、さらに離鍵時の戻りを速くする必要がある。すなわち、カム1とソレノイド100、特にソレノイド100は自身で元の位置に戻る事はできず、アクション機構と鍵盤1が離鍵位置に戻ろうとする力を使って元の位置に戻している。
【0045】
極短い休符を挟んで連続して発音する場合、休符後の発音は鍵盤200が離鍵位置に戻ろうとしている途中で、押鍵動作を開始する。人が演奏する場合は無意識に力を加減して上手く発音するが、一方的にソレノイド100を駆動する自動演奏では、休符後の発音がうまくできない(連打性能が悪い)場合があるし、ソレノイド100やカム1が負荷になって、鍵200aが戻る速度を遅めて、連打性能を悪くする場合もある。また、ソレノイド100が戻る方向へ移動している最中に駆動信号を与えるより、予め戻っていてソレノイド100が駆動方向へ加速している状態で、戻ろうとしている鍵200aに、当たった方が、発音し易い。
【0046】
こうするには、カム1とソレノイド100が、鍵200aより速く戻り、次の発音に備えておく必要がある。
【0047】
そこで、図10に示すように、上記カム1の回転中心10とは離れ、回動時に離鍵位置では低く、押鍵位置では高くなる位置に錘20を付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすると、カム1とソレノイド100が、鍵200aより速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0048】
また、同様に、図11、図12及び図13に示すように、上記カム1の回動に反発する方向に作用するバネ22a〜22cを取り付け、離鍵時の上記カム1の戻りを速くすることでも、カム1とソレノイド100が、鍵200aより速く戻り、次の発音に備えておくことが可能となる。
【0049】
そのようなバネ22a〜22cの取り付けについては、上記図11に示すように、カム1の回転中心10(回転軸)に取付けたねじりバネ22aがカム1を戻したり、同じく図12に示すように、ソレノイド100のプランジャ102(軸)ヘッド側に取付けたコイルバネ22bが土台やソレノイドフレームに当たり、ソレノイド100のプランジャ102を戻す構成としたり、或いは上記図13に示すように、土台など固定部に取付けた板バネ22cがカム1を戻す、その反対に(図示無し)、カム1に取付けた板バネ22cが土台など固定部に当たって、カム1を戻す構成とすることで可能である。
【0050】
このように、錘20やバネ22a〜22cの取り付けにより、カム1とソレノイド100のプランジャ102などの戻りが速くなり、その結果、連打性能が上がることになる。
【0051】
尚、本発明の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カムの構成は、自動演奏ピアノに限られず、自動演奏に使用される鍵盤楽器であれば、どれにも使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例構成を備えた自動演奏ピアノの鍵盤200及び鍵200aを自動的に動かすソレノイド100周りの構成を示す説明図である。
【図2】そのうちのソレノイド100とカム1部分の一構成例を示す説明図である。
【図3】上記ソレノイド100のプランジャ102ヘッドが駆動した場合のカム1との接触及びカム1全体の移動の状態を示す説明図である。
【図4】カム1に、介在物202を介して鍵盤が押し上げられる場合の構成を示す説明図である。
【図5】本実施例におけるプランジャ102ストロークSと鍵盤200を押し上げる力Pとの関係を示すグラフ図である。
【図6】カム1による押鍵時、解放時、及びカム1が回転し過ぎて鍵が浮いてしまった状態の夫々の場合における鍵下面の状態を該カム1と共に示す説明図である。
【図7】周り過ぎ防止の突起部をカム1に設けた状態を示す説明図である。
【図8】カム1のR状の当接面12を覆うクッション材16aが、カム1前後非可動部の一方に固定され備えられるように設置した状態を示す説明図である。
【図9】クッション材16bを、カム1を覆うようにカム1前後で複数鍵分一括で固定した状態を示す説明図である。
【図10】回転中心10から離れた位置に錘20を付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くする構成としたカム1の状態を示す説明図である。
【図11】カム1の回転中心10にねじりバネ22aを取付けて、離鍵時の上記カム1の戻りを速くする構成としたカム1の状態を示す説明図である。
【図12】ソレノイド100のプランジャ102ヘッド側にコイルバネ22bを取付けて、土台やソレノイドフレームに当たることで、ソレノイド100のプランジャ102を戻す構成とした状態を示す説明図である。
【図13】土台など固定部に板バネ22cを取付けて、カム1の戻りを速くする構成としたカム1の状態を示す説明図である。
【図14】ソレノイド100のプランジャ102が、リンク300を介して、鍵盤後端部を突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示す説明図である。
【図15】プランジャ102が、鍵盤200後端部を直接突き上げ、それによって鍵が駆動される状態を示す説明図である。
【図16】ソレノイド100の後方側に出っ張るプランジャ102の長さをストロークSとすることの説明図である。
【図17】従来例構成におけるプランジャ102ストロークSと鍵盤200を押し上げる力Pとの関係を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0054】
1 カム
10 回転中心
12 当接面
14、14a 突起部
16a、16b クッション材
20 錘
22a〜22c バネ
100 ソレノイド
102 プランジャ
200 鍵盤
200a 鍵
202 介在物
300 リンク
400 カム軸受け土台
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータ可動部と当接し、アクチュエータの駆動動作により当接位置が前方に進むに従って回動し、その当接位置との距離が縮まる位置に回転中心を有するカムであり、
且つ上記アクチュエータ可動部の当接位置が前方に進むに従って、上記アクチュエータ可動部当接位置とは別の位置にある、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置が、上記回転中心から遠ざかるR状の当接面に構成されたことを特徴とする自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項2】
上記アクチュエータ可動部の当接位置とカムの回転中心との距離をlとし、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置とカムの回転中心との距離をLとして、アクチュエータ可動部がカムを押す力をpとした場合に、下式数1で得られる鍵盤を押す力Pが得られることを特徴とする請求項1記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
(数1)
P=pl/L
【請求項3】
鍵盤と当接する位置のカム形状、乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置のカム形状がR状の面であって、カムの通常当接する範囲外にコブ状の突起部を有し、回動動作が通常当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部が前記鍵盤又は介在物、又はカム周辺の非可動部に接触し、カムの回動を阻止することを特徴とする請求項1又は2記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項4】
上記カムのR状の当接面を覆うクッション材が、カム前後非可動部の一方又は両方に固定され備えられたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1つに記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項5】
上記カムの回転中心とは離れ、回動時に離鍵位置では低く、押鍵位置では高くなる位置に錘を付けて、離鍵時の上記カムの戻りを速くすることを特徴とする請求項1〜4いずれか1つに記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項6】
上記カムの回動に反発する方向に作用するバネを取り付け、離鍵時の上記カムの戻りを速くすることを特徴とする請求項1〜4いずれか1つに記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項1】
アクチュエータ可動部と当接し、アクチュエータの駆動動作により当接位置が前方に進むに従って回動し、その当接位置との距離が縮まる位置に回転中心を有するカムであり、
且つ上記アクチュエータ可動部の当接位置が前方に進むに従って、上記アクチュエータ可動部当接位置とは別の位置にある、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置が、上記回転中心から遠ざかるR状の当接面に構成されたことを特徴とする自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項2】
上記アクチュエータ可動部の当接位置とカムの回転中心との距離をlとし、鍵盤との当接位置乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置とカムの回転中心との距離をLとして、アクチュエータ可動部がカムを押す力をpとした場合に、下式数1で得られる鍵盤を押す力Pが得られることを特徴とする請求項1記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
(数1)
P=pl/L
【請求項3】
鍵盤と当接する位置のカム形状、乃至鍵盤に介在物を介して当接する位置のカム形状がR状の面であって、カムの通常当接する範囲外にコブ状の突起部を有し、回動動作が通常当接範囲を越えようとした時に、コブ状の突起部が前記鍵盤又は介在物、又はカム周辺の非可動部に接触し、カムの回動を阻止することを特徴とする請求項1又は2記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項4】
上記カムのR状の当接面を覆うクッション材が、カム前後非可動部の一方又は両方に固定され備えられたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1つに記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項5】
上記カムの回転中心とは離れ、回動時に離鍵位置では低く、押鍵位置では高くなる位置に錘を付けて、離鍵時の上記カムの戻りを速くすることを特徴とする請求項1〜4いずれか1つに記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【請求項6】
上記カムの回動に反発する方向に作用するバネを取り付け、離鍵時の上記カムの戻りを速くすることを特徴とする請求項1〜4いずれか1つに記載の自動演奏ピアノ鍵盤駆動用カム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−42638(P2012−42638A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182801(P2010−182801)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】
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