自動車のルーフ構造
【課題】製造時に車体を高温状態に晒し、その後常温に戻したときに、ルーフパネルに変形が生じるのを防ぐことのできる自動車のルーフ構造を提供する。
【解決手段】車幅方向両側端部が略クランク状に折り曲げられたルーフパネルと、該ルーフパネルの下側に車幅方向に配置されルーフパネルを支持するとともに、ルーフパネルと共に閉断面を形成するボウルーフ12と、ルーフパネル及びボウルーフ12の車幅方向両側端部の外側に配置されルーフパネル及びボウルーフ12の車幅方向両側端を支持するサイドルーフレールとを備えた自動車のルーフ構造であって、ルーフパネルとボウルーフ12は、サイドルーフレールより線膨張係数が大きな材質で成形され、ボウルーフ12には、ボウルーフ12の長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心Gよりも上側の位置に、ボウルーフ12に加わる曲げに対する脆弱部(切欠き14)が形成されている。
【解決手段】車幅方向両側端部が略クランク状に折り曲げられたルーフパネルと、該ルーフパネルの下側に車幅方向に配置されルーフパネルを支持するとともに、ルーフパネルと共に閉断面を形成するボウルーフ12と、ルーフパネル及びボウルーフ12の車幅方向両側端部の外側に配置されルーフパネル及びボウルーフ12の車幅方向両側端を支持するサイドルーフレールとを備えた自動車のルーフ構造であって、ルーフパネルとボウルーフ12は、サイドルーフレールより線膨張係数が大きな材質で成形され、ボウルーフ12には、ボウルーフ12の長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心Gよりも上側の位置に、ボウルーフ12に加わる曲げに対する脆弱部(切欠き14)が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーフパネルと、ルーフパネルを下側から支持するボウルーフとを備えた自動車のルーフ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両軽量化を目的として、ルーフパネルと、ルーフパネルの下側に車幅方向に配置されルーフパネルを支持するボウルーフとを、アルミニウムで構成したルーフ構造が提供されている。
【0003】
しかし、ルーフ構造が、図11(a)に示すように、ルーフパネル1の車幅方向両端部が略クランク状に折り曲げられ、かつボウルーフ2の車幅方向両端に、なだらかな傾斜面からなるドリップ部2Aが形成されていると、高温状態に晒されたときに、アルミニウムであるループパネル1及びボウルーフ2と、鉄であるサイドルーフレール3の線膨張係数の差により、ルーフパネル1の上面が変形してしまう虞がある。
【0004】
すなわち、高温状態においては、アルミニウムで構成されたルーフパネル1は、図11(b)に示すように、矢印A方向に伸びて破線で示す形状に変形するが、このときサイドルーフレールは変形が小さいので、クランク状に折り曲げられた部分の角部1Aには時計方向にモーメントM3が生じている。その結果、ルーフパネル1には車室側から等分布荷重が負荷されたことになり、ルーフパネル1の車幅方向中央部は偏平的な変形をする。
【0005】
一方、高温状態においては、アルミニウムで構成されたボウルーフ2は、図11(c)に示すように矢印B方向に伸びて破線で示す形状に変形する。このとき、ボウルーフ2にも車室側から等分布荷重が負荷されたことになり、これにより、ボウルーフ2の車幅方向中央部には上向きの力Fが作用して、ボウルーフ2の車幅方向中央部は上方向に変位する。
【0006】
ルーフパネル1とボウルーフ2とは適切なクリアランスを維持しつつ接着剤(マスチック)によって接合されており、上記のように、ルーフパネル1の車幅方向中央部が偏平的な変形をし、ボウルーフ2の車幅方向中央部が上方向に変位すると、図11(a)に示すように、ルーフパネル1とボウルーフ2との車幅方向中央部におけるクリアランスが過小となってしまう。
【0007】
そして、このような状況で高温状態から解放された場合、ボウルーフ2は常温時の元の形状に戻ろうとし、つまり、図11(c)において矢印F方向とは反対の下方向に変位する。ボウルーフ2が下方へ変位すると、ボウルーフ2に接着剤で接合されたルーフパネル1は、ボウルーフ2の変位とともに下方へ引き込まれ、ルーフパネル1の上面に凹凸の変形が生じる。
【0008】
また、別の従来例として、ボウルーフがブレースを介してサイドルーフレールに結合され、ブレース近傍のボウルーフの底壁に、当該底壁を上に凸状に折り曲げたビードを設けたルーフ構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このルーフ構造においては、車体側方に荷重が入力された場合、ボウルーフが前記ビードで車両下方内側へ屈曲するため、ボウルーフのモーメントアーム長を短くすることができ、ボウルーフに加わるモーメントを低減することができる。
【特許文献1】特開2006−193037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に示されたルーフ構造の場合、製造時の塗装工程等においては、ルーフパネルの上面が変形してしまう虞がある。
【0010】
すなわち、塗装工程において車体は塗装炉を通過するが、このとき車体はかなりの高温状態に晒される。このような高温状態においては、ボウルーフが車幅方向外側へ伸びて、ブレスにはブレースの上部を車幅方向外側へ回転させようとするモーメントが発生する。また、ブレース自身が熱膨張して変形する。
【0011】
そして、ブレースに発生する上記モーメントと、ブレース自身の熱膨張による上記変形とによって、ボウルーフに力が作用して、結局、図11で説明した場合と同様、ルーフパネルとボウルーフとの車幅方向中央部におけるクリアランスが過小となり、ルーフパネルの上面に凹凸の変形が生じる。
【0012】
本発明の課題は、製造時に車体を高温状態に晒し、その後常温に戻したときに、ルーフパネルに変形が生じるのを防ぐことのできる自動車のルーフ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、車幅方向両側端部が略クランク状に折り曲げられたルーフパネルと、前記ルーフパネルの下側に車幅方向に配置され該ルーフパネルを支持するとともに、前記ルーフパネルと共に閉断面を形成するボウルーフと、前記ルーフパネル及び前記ボウルーフの車幅方向両側端部の外側に配置されルーフパネル及びボウルーフの車幅方向両側端を支持するサイドルーフレールとを備えた自動車のルーフ構造であって、前記ルーフパネルと前記ボウルーフは、前記サイドルーフレールより線膨張係数が大きな材質で成形され、前記ボウルーフには、当該ボウルーフの長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心よりも上側の位置に、当該ボウルーフに加わる曲げに対する第1脆弱部が形成されていることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、塗装工程での高温状態において、ボウルーフが熱膨張して車幅方向外側へ伸びたとき、第1脆弱部でボウルーフが弾性的に折れ曲がり、ボウルーフの車幅方向端部に発生するモーメントを小さく抑えることができる。その結果、ボウルーフの車幅方向中央部が大きく上方へ変位することが回避され、それにより、ルーフパネルとボウルーフとのクリアランスを所定量に維持することが可能となり、高温状態から解放された場合でも、ルーフパネルに変形が生じるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造時に車体を塗装工程等の高温状態に晒し、その後、常温に戻したときにも、ルーフパネルに変形が生じるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、車体10から、ルーフパネル11とボウルーフ12を取り外した状態を示す斜視図である。ルーフパネル11は平面視で略四角形を成し、ボウルーフ12はルーフパネル11の下側に4つ設けられている。ボウルーフ12は、車体左右のサイドルーフレール13,13間に設けられ、ルーフパネル11を下側から支持する。
【0018】
図2は、本発明のルーフ構造に適用されたボウルーフ12を車両前方側又は車両後方側から見た要部の正面図である。また、図3は図2のSA−SA線に沿った断面図、図4は図2のSB−SB線に沿った断面図、図5は図2のSC−SC線に沿った断面図である。さらに、図6はボウルーフ12の車幅方向端部12Aの底面図である。
【0019】
ボウルーフ12は、車両前後方向に沿った縦断面が略逆ハット型を成し、その略逆ハット型の部分のうち断面U字型の部分12Bの深さD(図4参照)は、車幅方向端部12A(図2参照)以外は略一様である。車幅方向端部12Aにおいては、断面U字型の部分12Bの深さDはボウルーフ12の先端部ほど浅くなっている。
【0020】
ボウルーフ12の車幅方向に沿った両側端、つまり断面U字型の部分12Bの上端部には、フランジ12C,12Cが設けられている。そして、これらフランジ12C,12Cはルーフパネル11(図1参照)の下面に取り付けられる。なお、ルーフパネル11及びボウルーフ12はアルミニウムで、サイドルーフレール13は鉄でそれぞれ構成されている。
【0021】
ボウルーフ12には、ボウルーフ12の長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心Gよりも上側の位置に、ボウルーフ12に加わる曲げに対する第1の脆弱部として開口、つまり切欠き14が形成されている。切欠き14は、車幅方向に沿って、車体中心から、ボウルーフ12のサイドルーフレール13への接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されている。
【0022】
図7は、図2において、ボウルーフ12に形成された切欠き14付近を拡大して示した図である。切欠き14は、ボウルーフ12の両側壁(断面U字型の部分12Aの両側壁)12Dに設けられ、等脚台形の上下を逆にした形状を成している。また、ボウルーフ12は、切欠き14が形成された部分ではフランジ12C,12Cが削除されている。
【0023】
本実施例では、切欠き14の底辺14Aがボウルーフ12の図心Gの位置に一致している。図心Gは、切欠き14が形成されていない箇所の図心である。切欠き14が形成された場合、切欠き14付近ではボウルーフ12の図心G’の位置は下方へオフセットしている。ここで、図心Gに対する図心G’のオフセット量をeとする。
【0024】
一方、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aに、図5及び図6に示すように、第2脆弱部として開口穴15が設けられている。この開口穴15は、断面U字型の部分12Bの底壁12Eに形成されている。開口部15は縦長の矩形状を成し、長辺が車両前後方向に、短辺が車幅方向にそれぞれ沿うよう配置されている。また、開口部15全体は、ボウルーフ12の図心Gよりも上方に位置している。
【0025】
図8は、図2において、ボウルーフ12の車幅方向端部12A付近を拡大して示した図である。上述したように、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aには開口穴15が形成されている。開口穴15が形成されていない箇所のボウルーフ12の図心はGであるが、開口穴15が形成された箇所では、ボウルーフ12の図心G’の位置はオフセットしている。ここで、図心Gに対する図心G’のオフセット量をe’とする。
【0026】
次に、本実施例の作用について説明する。
【0027】
上記構成のルーフ構造が、製造時の塗装炉等において高温状態(約170℃)に晒されたときに、ルーフパネル11は、図11(b)で示したように、車幅方向中央部が偏平的な変形をする。一方、ボウルーフ12は、高温状態に晒されたときに、図11(c)で示した等分布荷重によって上に凸の放物線的な変形モードになっており、このボウルーフ12にはモーメントMが生じている。
【0028】
ボウルーフ12においては、図7に示すように、切欠き14が形成された箇所の図心G’は切欠き14が形成されていない箇所の図心Gからeだけオフセットしている。また、ボウルーフ12は上に凸の放物線的な変形モードとなるため、合力として図心Gには引張力Pが作用している。これらオフセットと引張力Pとにより、切欠き14付近にはモーメントM2(=P・e)が作用する。
【0029】
そして、ボウルーフ12には、切欠き14を挟んで両側に局部モーメントM’が生じている。この局部モーメントM’は、
M’=M1−M2
から求められる。
【0030】
一方、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aにおいては、図8に示すように、開口穴15が形成された箇所の図心G’は開口穴15が形成されていない箇所の図心Gからe’だけオフセットしている。また、ボウルーフ12は上に凸の放物線的な変形モードとなるため、合力として図心Gには引張力Pが作用している。これらオフセットと引張力Pとにより、開口穴15付近には、開口穴15を挟んで両側に局部モーメントM”(=P・e’)が作用する。
【0031】
また、ボウルーフ12が上に凸の放射線的に変形することにより、ボウルーフ12には車幅方向中央部を最大とする全体曲げモーメントMが作用する。
【0032】
以上の局部モーメントM’,M”及び全体モーメントMを重ね合わせると、図9に示すようなBMD(Bendinng Moment Diagram)となる。切欠き14及び開口穴15の部分では、局部モーメントM’,M”と全体モーメントMの和が負荷されることと、断面係数が一般部(切欠き14や開口穴15が形成されていない部分)より小さくなっているので、弾性変形が促進される。
【0033】
このため、特に切欠き14が形成された部分では、ボウルーフ12の上部が口開きを起こし、ボウルーフ12は車体内側へ屈曲し、ルーフパネル11との間でクリアランスを確保しながら変形する。その結果、高温状態から解放された場合、マスチック硬化によるルーフパネル11の下方への引き込みが回避され、ルーフパネル11の外観品質の低下を未然に防ぐことができる。
【0034】
本実施例によれば、切欠き14が、車幅方向に沿って、車体中心から、ボウルーフ12のサイドルーフレール13への接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されているので、高温状態においても、ルーフパネル11とボウルーフ12との間のクリアランスを確保することができる。一般的な車両は、車体中心から60%外側ではルーフパネル11は急傾斜となっており、もし、当該位置に切欠き14が形成されていないと、高温状態に晒されたときに、ボウルーフ12とルーフパネルとの間にクリアランスを確保するのが難しくなるからである。
【0035】
また、本実施例によれば、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aに開口穴15を形成したので、開口部15の両側に生じる局部モーメントM”は、ボウルーフ12を車体外側へ変形させようとする方向に作用する。その結果、ボウルーフ12とルーフパネルとの間のクリアランスを確実に維持することができる。
【実施例2】
【0036】
図10は実施例2を示している。本実施例では、ボウルーフ12の上面開放部(逆ハット型を成したボウルーフ12の上部開放部)が平板20で塞がれており、平板20に脆弱部として開口部21が形成されている。この開口部21は、車体中心から、ボウルーフ12のサイドルーフレール13への接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されている。
【0037】
このような開口部21を形成した場合も、実施例1と同様な作用効果を得ることができる。また、本実施例の場合は、単純形状の開口部21を形成するだけであるから、加工が極めて容易である。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記各実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【0039】
例えば、実施例1において、ボウルーフ12の両側壁(断面U字型の部分12Aの両側壁)12Dに、第1脆弱部を成す開口として、切欠き14の代わりに、貫通した穴を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ルーフパネルとボウルーフを取り外したときの車体の斜視図である。
【図2】実施例1によるボウルーフの要部を示す正面図である。
【図3】図2のSA−SA線に沿った断面図である。
【図4】図2のSB−SB線に沿った断面図である。
【図5】図2のSC−SC線に沿った断面図である。
【図6】ボウルーフの車幅方向端部の底面図である。
【図7】ボウルーフに形成された切欠き付近を拡大して示した図である。
【図8】ボウルーフの車幅方向端部付近を拡大して示した図である。
【図9】局部モーメントM’,M”及び全体モーメントMについてのBMDを示す図である。
【図10】実施例2によるボウルーフの要部を示す正面図である。
【図11】従来技術によるルーフ構造を示しており、(a)はルーフパネルとボウルーフの位置関係を示す図、(b)は高温状態においてルーフパネルが変形する様子を示す図、(c)は高温状態においてボウルーフが変形する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 車体
11 ルーフパネル
12 ボウルーフ
14 切欠き
15 開口穴
13 サイドルーフレール
20 平板
21 開口部
G 本来の図心
G’ オフセットした図心
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルーフパネルと、ルーフパネルを下側から支持するボウルーフとを備えた自動車のルーフ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両軽量化を目的として、ルーフパネルと、ルーフパネルの下側に車幅方向に配置されルーフパネルを支持するボウルーフとを、アルミニウムで構成したルーフ構造が提供されている。
【0003】
しかし、ルーフ構造が、図11(a)に示すように、ルーフパネル1の車幅方向両端部が略クランク状に折り曲げられ、かつボウルーフ2の車幅方向両端に、なだらかな傾斜面からなるドリップ部2Aが形成されていると、高温状態に晒されたときに、アルミニウムであるループパネル1及びボウルーフ2と、鉄であるサイドルーフレール3の線膨張係数の差により、ルーフパネル1の上面が変形してしまう虞がある。
【0004】
すなわち、高温状態においては、アルミニウムで構成されたルーフパネル1は、図11(b)に示すように、矢印A方向に伸びて破線で示す形状に変形するが、このときサイドルーフレールは変形が小さいので、クランク状に折り曲げられた部分の角部1Aには時計方向にモーメントM3が生じている。その結果、ルーフパネル1には車室側から等分布荷重が負荷されたことになり、ルーフパネル1の車幅方向中央部は偏平的な変形をする。
【0005】
一方、高温状態においては、アルミニウムで構成されたボウルーフ2は、図11(c)に示すように矢印B方向に伸びて破線で示す形状に変形する。このとき、ボウルーフ2にも車室側から等分布荷重が負荷されたことになり、これにより、ボウルーフ2の車幅方向中央部には上向きの力Fが作用して、ボウルーフ2の車幅方向中央部は上方向に変位する。
【0006】
ルーフパネル1とボウルーフ2とは適切なクリアランスを維持しつつ接着剤(マスチック)によって接合されており、上記のように、ルーフパネル1の車幅方向中央部が偏平的な変形をし、ボウルーフ2の車幅方向中央部が上方向に変位すると、図11(a)に示すように、ルーフパネル1とボウルーフ2との車幅方向中央部におけるクリアランスが過小となってしまう。
【0007】
そして、このような状況で高温状態から解放された場合、ボウルーフ2は常温時の元の形状に戻ろうとし、つまり、図11(c)において矢印F方向とは反対の下方向に変位する。ボウルーフ2が下方へ変位すると、ボウルーフ2に接着剤で接合されたルーフパネル1は、ボウルーフ2の変位とともに下方へ引き込まれ、ルーフパネル1の上面に凹凸の変形が生じる。
【0008】
また、別の従来例として、ボウルーフがブレースを介してサイドルーフレールに結合され、ブレース近傍のボウルーフの底壁に、当該底壁を上に凸状に折り曲げたビードを設けたルーフ構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このルーフ構造においては、車体側方に荷重が入力された場合、ボウルーフが前記ビードで車両下方内側へ屈曲するため、ボウルーフのモーメントアーム長を短くすることができ、ボウルーフに加わるモーメントを低減することができる。
【特許文献1】特開2006−193037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に示されたルーフ構造の場合、製造時の塗装工程等においては、ルーフパネルの上面が変形してしまう虞がある。
【0010】
すなわち、塗装工程において車体は塗装炉を通過するが、このとき車体はかなりの高温状態に晒される。このような高温状態においては、ボウルーフが車幅方向外側へ伸びて、ブレスにはブレースの上部を車幅方向外側へ回転させようとするモーメントが発生する。また、ブレース自身が熱膨張して変形する。
【0011】
そして、ブレースに発生する上記モーメントと、ブレース自身の熱膨張による上記変形とによって、ボウルーフに力が作用して、結局、図11で説明した場合と同様、ルーフパネルとボウルーフとの車幅方向中央部におけるクリアランスが過小となり、ルーフパネルの上面に凹凸の変形が生じる。
【0012】
本発明の課題は、製造時に車体を高温状態に晒し、その後常温に戻したときに、ルーフパネルに変形が生じるのを防ぐことのできる自動車のルーフ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、車幅方向両側端部が略クランク状に折り曲げられたルーフパネルと、前記ルーフパネルの下側に車幅方向に配置され該ルーフパネルを支持するとともに、前記ルーフパネルと共に閉断面を形成するボウルーフと、前記ルーフパネル及び前記ボウルーフの車幅方向両側端部の外側に配置されルーフパネル及びボウルーフの車幅方向両側端を支持するサイドルーフレールとを備えた自動車のルーフ構造であって、前記ルーフパネルと前記ボウルーフは、前記サイドルーフレールより線膨張係数が大きな材質で成形され、前記ボウルーフには、当該ボウルーフの長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心よりも上側の位置に、当該ボウルーフに加わる曲げに対する第1脆弱部が形成されていることを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、塗装工程での高温状態において、ボウルーフが熱膨張して車幅方向外側へ伸びたとき、第1脆弱部でボウルーフが弾性的に折れ曲がり、ボウルーフの車幅方向端部に発生するモーメントを小さく抑えることができる。その結果、ボウルーフの車幅方向中央部が大きく上方へ変位することが回避され、それにより、ルーフパネルとボウルーフとのクリアランスを所定量に維持することが可能となり、高温状態から解放された場合でも、ルーフパネルに変形が生じるのを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造時に車体を塗装工程等の高温状態に晒し、その後、常温に戻したときにも、ルーフパネルに変形が生じるのを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、車体10から、ルーフパネル11とボウルーフ12を取り外した状態を示す斜視図である。ルーフパネル11は平面視で略四角形を成し、ボウルーフ12はルーフパネル11の下側に4つ設けられている。ボウルーフ12は、車体左右のサイドルーフレール13,13間に設けられ、ルーフパネル11を下側から支持する。
【0018】
図2は、本発明のルーフ構造に適用されたボウルーフ12を車両前方側又は車両後方側から見た要部の正面図である。また、図3は図2のSA−SA線に沿った断面図、図4は図2のSB−SB線に沿った断面図、図5は図2のSC−SC線に沿った断面図である。さらに、図6はボウルーフ12の車幅方向端部12Aの底面図である。
【0019】
ボウルーフ12は、車両前後方向に沿った縦断面が略逆ハット型を成し、その略逆ハット型の部分のうち断面U字型の部分12Bの深さD(図4参照)は、車幅方向端部12A(図2参照)以外は略一様である。車幅方向端部12Aにおいては、断面U字型の部分12Bの深さDはボウルーフ12の先端部ほど浅くなっている。
【0020】
ボウルーフ12の車幅方向に沿った両側端、つまり断面U字型の部分12Bの上端部には、フランジ12C,12Cが設けられている。そして、これらフランジ12C,12Cはルーフパネル11(図1参照)の下面に取り付けられる。なお、ルーフパネル11及びボウルーフ12はアルミニウムで、サイドルーフレール13は鉄でそれぞれ構成されている。
【0021】
ボウルーフ12には、ボウルーフ12の長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心Gよりも上側の位置に、ボウルーフ12に加わる曲げに対する第1の脆弱部として開口、つまり切欠き14が形成されている。切欠き14は、車幅方向に沿って、車体中心から、ボウルーフ12のサイドルーフレール13への接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されている。
【0022】
図7は、図2において、ボウルーフ12に形成された切欠き14付近を拡大して示した図である。切欠き14は、ボウルーフ12の両側壁(断面U字型の部分12Aの両側壁)12Dに設けられ、等脚台形の上下を逆にした形状を成している。また、ボウルーフ12は、切欠き14が形成された部分ではフランジ12C,12Cが削除されている。
【0023】
本実施例では、切欠き14の底辺14Aがボウルーフ12の図心Gの位置に一致している。図心Gは、切欠き14が形成されていない箇所の図心である。切欠き14が形成された場合、切欠き14付近ではボウルーフ12の図心G’の位置は下方へオフセットしている。ここで、図心Gに対する図心G’のオフセット量をeとする。
【0024】
一方、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aに、図5及び図6に示すように、第2脆弱部として開口穴15が設けられている。この開口穴15は、断面U字型の部分12Bの底壁12Eに形成されている。開口部15は縦長の矩形状を成し、長辺が車両前後方向に、短辺が車幅方向にそれぞれ沿うよう配置されている。また、開口部15全体は、ボウルーフ12の図心Gよりも上方に位置している。
【0025】
図8は、図2において、ボウルーフ12の車幅方向端部12A付近を拡大して示した図である。上述したように、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aには開口穴15が形成されている。開口穴15が形成されていない箇所のボウルーフ12の図心はGであるが、開口穴15が形成された箇所では、ボウルーフ12の図心G’の位置はオフセットしている。ここで、図心Gに対する図心G’のオフセット量をe’とする。
【0026】
次に、本実施例の作用について説明する。
【0027】
上記構成のルーフ構造が、製造時の塗装炉等において高温状態(約170℃)に晒されたときに、ルーフパネル11は、図11(b)で示したように、車幅方向中央部が偏平的な変形をする。一方、ボウルーフ12は、高温状態に晒されたときに、図11(c)で示した等分布荷重によって上に凸の放物線的な変形モードになっており、このボウルーフ12にはモーメントMが生じている。
【0028】
ボウルーフ12においては、図7に示すように、切欠き14が形成された箇所の図心G’は切欠き14が形成されていない箇所の図心Gからeだけオフセットしている。また、ボウルーフ12は上に凸の放物線的な変形モードとなるため、合力として図心Gには引張力Pが作用している。これらオフセットと引張力Pとにより、切欠き14付近にはモーメントM2(=P・e)が作用する。
【0029】
そして、ボウルーフ12には、切欠き14を挟んで両側に局部モーメントM’が生じている。この局部モーメントM’は、
M’=M1−M2
から求められる。
【0030】
一方、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aにおいては、図8に示すように、開口穴15が形成された箇所の図心G’は開口穴15が形成されていない箇所の図心Gからe’だけオフセットしている。また、ボウルーフ12は上に凸の放物線的な変形モードとなるため、合力として図心Gには引張力Pが作用している。これらオフセットと引張力Pとにより、開口穴15付近には、開口穴15を挟んで両側に局部モーメントM”(=P・e’)が作用する。
【0031】
また、ボウルーフ12が上に凸の放射線的に変形することにより、ボウルーフ12には車幅方向中央部を最大とする全体曲げモーメントMが作用する。
【0032】
以上の局部モーメントM’,M”及び全体モーメントMを重ね合わせると、図9に示すようなBMD(Bendinng Moment Diagram)となる。切欠き14及び開口穴15の部分では、局部モーメントM’,M”と全体モーメントMの和が負荷されることと、断面係数が一般部(切欠き14や開口穴15が形成されていない部分)より小さくなっているので、弾性変形が促進される。
【0033】
このため、特に切欠き14が形成された部分では、ボウルーフ12の上部が口開きを起こし、ボウルーフ12は車体内側へ屈曲し、ルーフパネル11との間でクリアランスを確保しながら変形する。その結果、高温状態から解放された場合、マスチック硬化によるルーフパネル11の下方への引き込みが回避され、ルーフパネル11の外観品質の低下を未然に防ぐことができる。
【0034】
本実施例によれば、切欠き14が、車幅方向に沿って、車体中心から、ボウルーフ12のサイドルーフレール13への接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されているので、高温状態においても、ルーフパネル11とボウルーフ12との間のクリアランスを確保することができる。一般的な車両は、車体中心から60%外側ではルーフパネル11は急傾斜となっており、もし、当該位置に切欠き14が形成されていないと、高温状態に晒されたときに、ボウルーフ12とルーフパネルとの間にクリアランスを確保するのが難しくなるからである。
【0035】
また、本実施例によれば、ボウルーフ12の車幅方向端部12Aに開口穴15を形成したので、開口部15の両側に生じる局部モーメントM”は、ボウルーフ12を車体外側へ変形させようとする方向に作用する。その結果、ボウルーフ12とルーフパネルとの間のクリアランスを確実に維持することができる。
【実施例2】
【0036】
図10は実施例2を示している。本実施例では、ボウルーフ12の上面開放部(逆ハット型を成したボウルーフ12の上部開放部)が平板20で塞がれており、平板20に脆弱部として開口部21が形成されている。この開口部21は、車体中心から、ボウルーフ12のサイドルーフレール13への接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されている。
【0037】
このような開口部21を形成した場合も、実施例1と同様な作用効果を得ることができる。また、本実施例の場合は、単純形状の開口部21を形成するだけであるから、加工が極めて容易である。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面により詳述してきたが、上記各実施例は本発明の例示にしか過ぎないものであり、本発明は上記各実施例の構成にのみ限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、本発明に含まれることは勿論である。
【0039】
例えば、実施例1において、ボウルーフ12の両側壁(断面U字型の部分12Aの両側壁)12Dに、第1脆弱部を成す開口として、切欠き14の代わりに、貫通した穴を形成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】ルーフパネルとボウルーフを取り外したときの車体の斜視図である。
【図2】実施例1によるボウルーフの要部を示す正面図である。
【図3】図2のSA−SA線に沿った断面図である。
【図4】図2のSB−SB線に沿った断面図である。
【図5】図2のSC−SC線に沿った断面図である。
【図6】ボウルーフの車幅方向端部の底面図である。
【図7】ボウルーフに形成された切欠き付近を拡大して示した図である。
【図8】ボウルーフの車幅方向端部付近を拡大して示した図である。
【図9】局部モーメントM’,M”及び全体モーメントMについてのBMDを示す図である。
【図10】実施例2によるボウルーフの要部を示す正面図である。
【図11】従来技術によるルーフ構造を示しており、(a)はルーフパネルとボウルーフの位置関係を示す図、(b)は高温状態においてルーフパネルが変形する様子を示す図、(c)は高温状態においてボウルーフが変形する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
10 車体
11 ルーフパネル
12 ボウルーフ
14 切欠き
15 開口穴
13 サイドルーフレール
20 平板
21 開口部
G 本来の図心
G’ オフセットした図心
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向両側端部が略クランク状に折り曲げられたルーフパネルと、前記ルーフパネルの下側に車幅方向に配置され該ルーフパネルを支持するとともに、前記ルーフパネルと共に閉断面を形成するボウルーフと、前記ルーフパネル及び前記ボウルーフの車幅方向両側端部の外側に配置されルーフパネル及びボウルーフの車幅方向両側端を支持するサイドルーフレールとを備えた自動車のルーフ構造であって、
前記ルーフパネルと前記ボウルーフは、前記サイドルーフレールより線膨張係数が大きな材質で成形され、
前記ボウルーフには、当該ボウルーフの長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心よりも上側の位置に、当該ボウルーフに加わる曲げに対する第1脆弱部が形成されていることを特徴とする自動車のルーフ構造。
【請求項2】
前記第1脆弱部は、前記ボウルーフの側面に形成された開口であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項3】
前記脆弱部は、車体幅方向中心から、前記ボウルーフの前記サイドルーフレールへの接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項4】
前記ボウルーフには、前記第1脆弱部よりも車幅方向外側で且つ当該ボウルーフの図心よりも上側の位置に、第2脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項5】
前記ボウルーフの上面開放部が平板で塞がれている場合は、前記第1脆弱部は、前記平板に開口部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項1】
車幅方向両側端部が略クランク状に折り曲げられたルーフパネルと、前記ルーフパネルの下側に車幅方向に配置され該ルーフパネルを支持するとともに、前記ルーフパネルと共に閉断面を形成するボウルーフと、前記ルーフパネル及び前記ボウルーフの車幅方向両側端部の外側に配置されルーフパネル及びボウルーフの車幅方向両側端を支持するサイドルーフレールとを備えた自動車のルーフ構造であって、
前記ルーフパネルと前記ボウルーフは、前記サイドルーフレールより線膨張係数が大きな材質で成形され、
前記ボウルーフには、当該ボウルーフの長手方向に対して略垂直な方向の断面の図心よりも上側の位置に、当該ボウルーフに加わる曲げに対する第1脆弱部が形成されていることを特徴とする自動車のルーフ構造。
【請求項2】
前記第1脆弱部は、前記ボウルーフの側面に形成された開口であることを特徴とする請求項1に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項3】
前記脆弱部は、車体幅方向中心から、前記ボウルーフの前記サイドルーフレールへの接続点までの距離を100%としたとき、60%の位置付近に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項4】
前記ボウルーフには、前記第1脆弱部よりも車幅方向外側で且つ当該ボウルーフの図心よりも上側の位置に、第2脆弱部が形成されていることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の自動車のルーフ構造。
【請求項5】
前記ボウルーフの上面開放部が平板で塞がれている場合は、前記第1脆弱部は、前記平板に開口部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車のルーフ構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−143407(P2009−143407A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−323168(P2007−323168)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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