説明

自動車ガラス用積層体、その製造方法、およびフロントガラス

【課題】所望の電波を透過させることができる上、パターンの「ぎらつき」の少ない自動車ガラス用積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】第1の基材、第1の接着層、透明導電膜、中央基材、第2の接着層、および第2の基材をこの順に含む自動車ガラス用積層体であって、前記透明導電膜は、パターン部と、該パターン部を取り囲むギャップ部とを有し、前記ギャップ部には、充填材が充填され、該充填材は、前記パターン部の屈折率と、第1の接着層の屈折率の範囲内の屈折率を有することを特徴とする自動車ガラス用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用フロントガラスなどのガラス製品に使用される透明積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車用フロントガラスなど、車両に使用されるガラスの一部には、いわゆる「合わせガラス」が使用されている。
【0003】
一般に、合わせガラスは、片面に透明導電膜を備える第1のガラス基板と、第2のガラス基板とを、接着材層(中間膜)を介して接合することにより構成される。フロントガラス用途の場合、この透明導電膜は、熱を反射する機能を有する。
【0004】
最近では、寸法および形状等の異なる幅広い用途に適用するため、合わせガラスは、第1および第2のガラス基板の間に、透明導電膜が設置された中央基材を配置し、これらの各部材の界面を、接着材層で接合することにより構成されることが多い。
【0005】
ただし、合わせガラスを、例えば自動車用フロントガラスに適用する場合、フロントガラスを介して、車外から必要な電波を車内に透過させる(あるいはその逆を行う)必要がある。このため、前述の透明導電膜をパターン化し、透明導電膜にパターン部および隙間部を形成しておき、この隙間部を介して、必要な電波を透過させることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008―68519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の特許文献1のようなパターン部付き合わせガラスを用いて、車両用のフロントガラスを構成した場合、次のような問題が生じ得る。
【0008】
例えば、車内側もしくは車外側から、フロントガラスを介して、外側もしくは内側の景色を視認しようとした際、または車内側もしくは車外側から、フロントガラス自身を視認した際、積層体に含まれる導電膜のパターンが際立ったり、ぎらついて見えてしまうという問題が生じ得る。このような導電膜パターンの「ぎらつき」は、車両を運転する運転者に不快感を与え、さらには安全運転性に影響を及ぼす可能性がある。また、このようなぎらつきは、フロントガラスおよび車両全体の美感、意匠性を損なうおそれがある。
【0009】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、所望の電波を透過させることができる上、パターンの「ぎらつき」の少ない自動車ガラス用積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願では、第1の基材、第1の接着層、透明導電膜、中央基材、第2の接着層、および第2の基材をこの順に含む自動車ガラス用積層体であって、
前記透明導電膜は、パターン部と、該パターン部を取り囲むギャップ部とを有し、
前記ギャップ部には、充填材が充填され、
該充填材は、前記パターン部の屈折率から、前記第1の接着層の屈折率までの範囲内の屈折率を有することを特徴とする自動車ガラス用積層体が提供される。
【0011】
なお、本願において、「屈折率」とは、波長550nmにおける屈折率を言う。
【0012】
ここで、前記充填材の屈折率は、1.4〜2.0の範囲にあっても良い。
【0013】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記充填材は、樹脂またはセラミックスを含んでも良い。
【0014】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記充填材は、一般式がSiOで表される酸窒化珪素を含んでも良い。
【0015】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記パターン部は、第1の無機材料層と第2の無機材料層の間に、金属層を配置した構造を有しても良い。
【0016】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記パターン部は、第1の無機材料層および金属層の繰り返し構造を有しても良い。
【0017】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記第1の無機材料層および/または第2の無機材料層は、酸化亜鉛(ZnO)を含んでも良い。
【0018】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記金属層は、銀(Ag)または銀合金を含んでも良い。
【0019】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記中央基材は、透明フィルムで構成されても良い。
【0020】
また、本発明による自動車ガラス用積層体において、前記第1の基材および/または第2の基材は、ガラスで構成されても良い。
【0021】
また、本発明による自動車ガラス用積層体は、さらに、前記第1の接着層と前記透明導電膜の間に、充填材層を有し、
該充填材層は、実質的に前記充填材と同じ材料で構成されても良い。
【0022】
また、本発明では、第1の基材、第1の接着層、透明導電膜、中央基材、第2の接着層、および第2の基材を含む自動車ガラス用積層体の製造方法であって、
(A)中央基材の片面に、透明導電膜を設置するステップと、
(B)前記透明導電膜をパターン化し、パターン部と、該パターン部を取り囲むギャップ部とを形成するステップと、
(C)前記ギャップ部に、充填材を設置するステップと、
(D)第1の基材、第1の接着層、前記透明導電膜、前記中央基材、第2の接着層、および第2の基材を、この順に積層して、自動車ガラス用積層体を構成するステップと、
を有し、
前記充填材は、前記パターン部の屈折率から、前記第1の接着層の屈折率までの範囲内の屈折率を有することを特徴とする方法が提供される。
【0023】
さらに、本発明では、前述のような自動車ガラス用積層体を含む、車両用のフロントガラスが提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、所望の電波を透過させることができ、パターンの「ぎらつき」の少ない自動車ガラス用積層体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来の合わせガラスを構成する際の分解模式図の一例を示した図である。
【図2】本発明による透明積層体の模式的な断面図の一例を示した図である。
【図3】複数の層で構成された透明導電膜130の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【図4】透明導電膜130のパターン132の一例を模式的に示した上面図である。
【図5】本発明による別の(第2の)透明積層体の模式的な断面図の一例を示した図である。
【図6】本発明による透明積層体100の製造方法のフローを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の構成および特徴について、より詳しく説明する。
【0027】
本発明の特徴的構成および利点をより良く理解するため、まず最初に、図1を参照して、従来の合わせガラスの構成について簡単に説明する。
【0028】
図1に、従来の合わせガラスを構成する際の分解模式図の一例を示す。
【0029】
図1に示すように、従来の合わせガラス1は、第1のガラス板10と、片面に透明導電膜30が設置された中央基材50と、第2のガラス板70とを、透明導電膜30が第2のガラス板70よりも第1のガラス板10と接近するようにして、積層することにより構成される。第1のガラス板10と透明導電膜30の間には、第1の接着層20が介在され、中央基材50と第2のガラス板70の間には、第2の接着層60が介在されており、第1および第2の接着層20、60により、合わせガラス1は、各部材の積層構造を維持することができる。
【0030】
ここで、透明導電膜30が中央基材50の片面全体を覆うようにして、中央基材50上に設置されると、外部電波3は、合わせガラス1を介して、例えば、第1の側5から第2の側7まで透過することができなくなる。従って、この問題を回避するため、透明導電膜30には、パターン32が形成されている。より具体的には、透明導電膜30は、パターン処理により、パターン部35と隙間部37とを有するように構成されている。
【0031】
透明導電膜30をこのような構成とすることにより、透明導電膜30の隙間部37を介して、所望の電波3を合わせガラス1の反対側に(例えば、第1の側5から第2の側7に)透過させることが可能となる。
【0032】
しかしながら、従来の合わせガラス1では、第1の側5または第2の側7から、反対側(すなわち、それぞれ、第2の側7または第1の側5)の方を視認した際に、透明導電膜のパターン32が際立ったり、ぎらついて見えてしまうという問題が生じ得る。従って、このような合わせガラス1を自動車のフロントガラス等に使用した場合、透明導電膜30パターン32の「ぎらつき」によって、車両を運転する運転者が不快感を覚え、さらには運転者の安全運転性に影響が生じる可能性がある。さらに、このようなぎらつきは、フロントガラスおよび車両全体の美感、意匠性を損なうという問題がある。特に、自動車用ガラスは、家の窓ガラスなどとは異なり、視界を確保することが安全性の点で重要である。
【0033】
なお、このような透明導電膜30のパターン32による「ぎらつき」の原因として、次のことが考えられる。
【0034】
合わせガラス1において、パターン化された透明導電膜30は、前述のように、パターン部35と隙間部37とを有する。ここで、透明導電膜30が、例えば、銀(Ag)および酸化亜鉛(ZnO)の積層体で構成されていると仮定すると、透明導電膜30の屈折率は、おおよそ2.0〜2.2の範囲である。従って、透明導電膜30のパターン部35の屈折率nは、n=2.0〜2.2となる。これに対して、透明導電膜30の隙間部37は、空隙になっているため、その屈折率nは、空気の屈折率と等しく、n=1である。このため、透明導電膜30内では、パターン部35とこれに隣接する隙間部37のごく僅かの領域(パターン部の線幅+空隙部の線幅で、例えば10μm〜100μmなど)の間に、最大で約1.2(n−n)程度の大きな屈折率の差(Δn)が存在することになる。また、このような大きな屈折率の差Δnは、パターン部35とこれに隣接する隙間部37の組の、全ての組み合わせにおいて、等しく生じることになる。従って、合わせガラス1の顕著な「ぎらつき」は、このような屈折率の差異によって生じているものと考えられる。
【0035】
次に、図2を参照して、本発明による自動車ガラス用積層体(以下、簡単のため、「透明積層体」と称する)の構成について説明する。
【0036】
図2には、本発明による透明積層体の模式的な断面図の一例を示す。
【0037】
本発明による透明積層体100は、第1の基材110、第1の接着層120、透明導電膜130、中央基材150、第2の接着層160、および第2の基材170を、この順に積層することにより構成される。これらの各部材は、いずれも「透明な」材料で構成される。なお、本発明において、「透明」とは、可視光領域の波長の光を透過することを意味し、その透過率は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。
【0038】
第1の基材110および第2の基材170は、透明積層体100の主要構造部材としての役割を有し、透明ガラスまたは透明プラスチック等で構成される。
【0039】
中央基材150は、熱反射膜として機能する透明導電膜130の支持体としての役割を有する。中央基材150は、例えば、透明ガラスまたは透明プラスチック等で構成される。
【0040】
第1の接着層120は、第1の基材110と、透明導電膜130が片面に設置された透明中央基材150とを接合する役割を果たす。同様に、第2の接着層160は、透明中央基材150と第2の基材170とを接合する役割を有する。
【0041】
透明導電膜130は、透明積層体100の第1の側105から第2の側107に(あるいはその逆に)、必要な電波103を透過させるため、パターン構造を有する。換言すれば、透明導電膜130は、パターン形成されているパターン部133と、該パターン部を取り囲むギャップ部135とを有する。
【0042】
ここで、本発明による透明積層体100では、透明導電膜130のギャップ部135には、充填材140が設置されている。また、この充填材140は、透明導電膜130のパターン部133を構成する材料の屈折率nに近い屈折率n(例えば、n=1.4〜2.0の範囲)を有するという特徴を有する。なお、パターン部が、下記に示すような多層膜である場合、屈折率nは無機材料層の厚みが金属層の厚みよりも充分大きいので、実質的に無機材料層の屈折率で近似できると考えて良い。
【0043】
このような充填材140を、ギャップ部135に設置することにより、従来の合わせガラス1のような構成に比べて、パターン部とギャップ部の間の屈折率の差Δn(=n−n)を有意に抑制することができる。例えば、従来の合わせガラス1の構成では、前述のように、透明導電膜30のパターン部35と隙間部37の屈折率の差Δnは、1.2程度である。これに対して、本発明の透明積層体100の場合、例えば、透明導電膜130のパターン部133の屈折率nを2.2と仮定し、充填材140の屈折率nを1.4と仮定しても、透明導電膜130のパターン部135とギャップ部135の間の屈折率の差Δnは、0.8程度に低減される。Δnは、1以下、特に0.8以下であることが好ましい。
【0044】
従って、本発明のような構造を採用することにより、パターン部133とギャップ部135の屈折率の差Δnが低減され、前述のような「ぎらつき」の問題が有意に抑制される。さらに、本発明による透明積層体を自動車のフロントガラス等に使用した場合、従来のような透明導電膜のパターンの際立ちにより、フロントガラスおよび車両全体の美感、意匠性が損なわれるという問題も軽減される。
【0045】
(本発明による透明積層体の構成部材)
次に、本発明による透明積層体100を構成する各構成部材について、より詳しく説明する。
【0046】
(第1および第2の基材)
前述のように、第1の基材110および第2の基材170は、透明ガラスまたは透明プラスチック等で構成される。透明ガラスには、風冷強化透明ガラス、および化学強化透明ガラス等の強化ガラスが含まれる。また透明プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、およびポリメチルメタクリレート(PMMA)等が含まれる。
【0047】
第1および第2の基材110、170の厚さは、特に限られない。第1および第2の基材110、170の厚さは、例えば、0.01mm〜10mmの範囲であっても良く、特に、0.08mm〜5mmの範囲であっても良い。基材110、170の材質がガラスである場合、基材の好ましい厚さは、1〜5mmの範囲である。また、基材の材質がプラスチックの場合、基材の好ましい厚さは、0.1mm〜3mmの範囲であり、より好ましい厚さは、0.05〜1mmである。また、自動車用のガラスとしては、第1および第2の基材の曲率半径は、1〜2.7mであることが好ましい。
【0048】
(第1および第2の接着層)
第1の接着層120は、第1の基材110と、透明導電膜130または透明導電膜130を有する中央基材150とを適正に接合することが可能である限り、いかなる透明部材で構成されても良い。
【0049】
同様に、第2の接着層160は、中央基材150と、第2の基材170とを適正に接合することが可能である限り、いかなる透明部材で構成されても良い。
【0050】
第1および第2の接着層120、150は、例えば、樹脂のような有機高分子重合体を含んでも良い。そのような樹脂には、ポリビニルアセタール樹脂(例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂)、ポリビニルアセテート(PVA)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂、ポリウレタン樹脂、等が含まれる。
【0051】
また、第1および第2の接着層120、150に含まれる樹脂には、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル/エチレン共重合体、塩化ビニル/エチレン/グリシジルアクリレート(またはメタクリレート)共重合体、塩化ビニル/グリシジルアクリレート(またはメタクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデン/アクリロニトリル共重合体、部分ケン化されたエチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/アクリレート(またはメタクリレート)共重合体、または塩化ビニル樹脂とアルキルベンジルフタレートからなるプラスチゾルが含まれる。
【0052】
特に、透明積層体100が、自動車のフロントガラスに使用される場合、第1および第2の基材110、170との密着性、透明性、または衝撃エネルギー吸収性等の観点から、通常、第1および第2の接着層120、150には、可塑剤を含むポリビニルアセタール樹脂が使用される。可塑剤としては、例えばトリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコールジ−2−エチルブチレート、ジ−(ブチルジグリコール)アジペート等が挙げられる。
【0053】
第1および第2の接着層120、150の厚さは、特に限られないが、例えば、0.1mm〜1.5mmの範囲である。
【0054】
また、一般に、第1および第2の接着層120、150の屈折率は、1.4程度である。
【0055】
(中央基材)
中央基材150は、透明ガラスまたは透明プラスチック等で構成される。中央基材150は、第1および第2の基材110、170と同様の材料で構成されても良い。
【0056】
透明ガラスには、風冷強化透明ガラス、および化学強化透明ガラス等の強化ガラスが含まれる。また透明プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、およびポリメチルメタクリレート(PMMA)等が含まれる。中央基材150は、これらのプラスチックで構成された、フィルムの形態であっても良い。
【0057】
中央基材150の厚さは、特に限られない。中央基材150の厚さは、例えば、0.01mm〜10mmの範囲であっても良く、特に、0.02mm〜5mmの範囲であっても良い。中央基材150の材質がガラスである場合、基材の好ましい厚さは、1〜5mmの範囲である。また、中央基材150の材質がプラスチックの場合、基材の好ましい厚さは、0.01mm〜3mmの範囲であり、より好ましい厚さは、0.05mm〜1mmである。また、中央基材が透明プラスチックである場合、中央基材の弾性率は、90℃〜150℃の温度範囲で、20MPa〜5000MPa、特に30MPa〜4000MPaであることが好ましい。また、中央基材の熱収縮率は、90℃〜150℃の温度範囲において、0.4%〜4%、特に0.5%〜3.5%であることが好ましい。
【0058】
(透明導電膜)
透明導電膜130は、単層であっても複数の層で構成されても良い。
【0059】
透明導電膜130が単層で構成される場合、透明導電膜130は、銀(Ag)のような金属を含む層で構成されても良い。これにより、透明導電膜130全体のシート抵抗値を低下させることができる。この場合、層に含まれる銀の含有量は、90質量%以上であることが好ましく、94質量%以上であることがより好ましい。銀の含有量が90質量%以上の場合、透明導電膜130全体のシート抵抗値を有意に低下させることができる。
【0060】
図3には、複数の層で構成された透明導電膜130の一例を示す。図3に示すように、この図の例の場合、透明導電膜130は、2つの無機材料層130A(これらの層を略式に「A」とも称する)の間に、1つの金属層130B(この層を略式に「B」とも称する)が挟まれた3層構造130T(すなわちABA構造)を有する。
【0061】
透明導電膜130を多層構造とすることにより、より良好な光学特性(高透過率・低反射率)と日射反射特性が得られるという効果がある。
【0062】
ただし、透明導電膜130の構造は、この3層構造(ABA構造)130Tに限られるものではなく、最上部と最下部に、無機材料層130Aが設置されている限り、いかなる数の層で構成されても良い。例えば、透明導電膜130の構造は、5層構造(ABABA構造)、7層構造(ABABABA構造)等であっても良い。透明導電膜130の層数は、特に限られないが、例えば、5〜21層の範囲であっても良い。層数が多くなると、透明導電膜130の内部応力が増加する傾向にある。例えば、透明導電膜130の層数は、7層〜11層の範囲であっても良い。
【0063】
透明導電膜130が、図3のように、複数の層で構成される場合、金属層130Bは、銀を含む層であることが好ましい。この銀を含む層は、前述のように、銀を90質量%以上含むことが好ましく、94質量%以上で含むことがより好ましい。また、この金属層130Bは、純銀(すなわち、銀の含有量が99.9質量%以上)で構成されても良い。
【0064】
金属層130Bが銀を含む場合、金属層130Bは、さらに、銀の拡散を抑制する効果を有する元素を含んでも良い。これにより、耐湿性を改善することができる。銀の拡散を抑制する効果を有する元素としては、例えば、金、ビスマス、およびパラジウム等が挙げられる。特に、金属層130Bは、金、ビスマス、およびパラジウムのうちの少なくとも一つを含む銀合金で構成されることが好ましい。
【0065】
金属層130Bの厚さは、5〜25nmの範囲であることが好ましく、5nm〜20nmの範囲であることがより好ましく、5nm〜17nmの範囲であることがさらに好ましい。金属層130Bの厚さは、例えば、10nm〜17nmの範囲である。透明導電膜130が、AB...BAの繰り返し構造を有する場合も、同様である。なお、この場合、各金属層130Bは、それぞれ同等厚さ有しても良く、あるいは、それぞれ異なる厚さを有しても良い。透明導電膜130が、AB...BAの繰り返し構造を有する場合、金属層130Bの総厚さは、25nm〜100nmの範囲であることが好ましく、25〜80nmの範囲であることがより好ましく、25nm〜70nmの範囲であることがさらに好ましい。金属層130Bの総厚さは、例えば、30nm〜60nmの範囲であっても良い。
【0066】
金属層130Bの屈折率は0.01〜0.8の範囲であることが好ましく、0.02〜
0.5の範囲であることがより好ましく、0.02〜0.3の範囲であることがさらに好ましい。
【0067】
一方、無機材料層130Aは、主として無機化合物を含む。
【0068】
無機化合物には、金属酸化物、金属窒化物、および金属硫化物等が含まれる。無機材料層130Aに含まれる無機化合物の量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0069】
金属酸化物としては、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、インジウム(In)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、ガリウム(Ga)、マグネシウム(Mg)、およびこれらの2種類以上の組み合わせが含まれる。
【0070】
金属窒化物としては、窒化珪素、窒化アルミニウム、および両者の複合窒化物等がある。
【0071】
金属硫化物としては、硫化亜鉛、硫化鉛、硫化カドミウム、およびこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0072】
無機材料層130Aに含まれる無機材料としては、これらの化合物のうち、特に、金属酸化物が好ましい。金属酸化物を使用することにより、可視光線の透過率を容易に向上させることができる。
【0073】
無機材料層130Aの屈折率は、1.5〜2.7の範囲であることが好ましく、1.7〜2.5の範囲であることがより好ましく、2.0〜2.5の範囲であることがさらに好ましい。無機材料層130Aの屈折率は、例えば、1.9〜2.4の範囲である。
【0074】
例えば、無機材料層130Aは、酸化亜鉛(屈折率2.0)を主体として構成されても良い。酸化亜鉛は、さらに、導電性を高めるため、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化アルミニウム、および/または酸化マグネシウムを含んでも良い。
【0075】
また、酸化亜鉛には、屈折率をさらに高めるため、屈折率が2.3以上の別の金属酸化物を添加しても良い。別の金属酸化物の添加量は、該別の金属酸化物中の金属原子の含有割合に換算した場合、別の金属酸化物に含まれる金属原子と亜鉛原子の合計に対して、1原子%〜50原子%の範囲であることが好ましい。別の金属酸化物の添加量をこの範囲にすることで、無機材料層130Aおよび130Cの透過バンド、反射バンドを広く保つことができる。また、透明導電膜130全体としての耐湿性が向上する。例えば、別の金属酸化物の添加量は、前述の換算値で、5原子%〜20原子%の範囲である。別の金属酸化物は、例えば、酸化チタン(屈折率2.5)および酸化ニオブ(屈折率2.4)であっても良い。
【0076】
透明導電膜130が3層(ABA)構造である場合、両方の無機材料層130Aの厚さは、20nm〜60nmの範囲であっても良く、例えば、30nm〜50nmの範囲である。両方の無機材料層130Aは、実質的に同一の厚さであっても、異なる厚さであっても良い。
【0077】
透明導電膜130が5(ABABA)以上の層を有する場合、第1の基材110から最も近い無機材料層130Aの厚さ、および第2の基材170から最も近い無機材料層130Aの厚さは、20nm〜60nmの範囲であっても良く、例えば、30nm〜50nmの範囲である。その他の無機材料層130Aの厚さは、40nm〜120nmの範囲であり、例えば40nm〜100nmの範囲であっても良い。
【0078】
なお、図3には示されていないが、透明導電膜130は、さらに、密着層を有しても良い。密着層は、最上部、すなわち中央基材150から最も遠い位置に設置される。なお、密着層が設置された場合、密着層を「C」で表記すると、多層化構造の透明導電膜130は、中央基材150の近い側から、AB...BA構造ではなく、AB...BAC構造となる。
【0079】
密着層は、透明導電膜130の機械的な耐久性を向上させる目的で、設置される。
【0080】
密着層の材質としては、スズ(Sn)、インジウム(In)、チタン(Ti)、珪素(Si)、およびガリウム(Ga)などの金属の酸化物または窒化物を含むものが挙げられる。密着層は、例えば、スズ(Sn)の酸化物を含む層であっても良い。あるいは、密着層は、例えば、インジウム−スズ酸化物(ITO)、またはガリウム−インジウム−スズ酸化物(GIT)を含む層であっても良い。
【0081】
なお、透明導電膜130には、さらに、上記層以外の層、例えばAg層の酸化を防止するようなバリア層を設けても良い。
【0082】
透明導電膜130は、中央基材150上にパターンとして形成される。すなわち、透明導電膜130は、導電性の部分を有するパターン部133と、導電性の部分を有しないギャップ部135とを有する。
【0083】
図4には、中央基材150上に設置された透明導電膜130のパターン132の一例を示す。なお、この図に示されたパターン配置は、単なる一例であって、その他のパターン配置も可能であることは、明らかである。なお、このパターンは、電波を透過させるために形成されるものである。よって、この効果が発揮できる限りにおいては、そのパターン配置は任意である。
【0084】
図4の例では、透明導電膜130は、5行5列のマトリクス状に形成された導電層のパターン132を有する。すなわち、透明導電膜130は、正方形状のパターン部133と、これらのパターン部133同士の間に設置されたギャップ部135とを有する。図の例では、一つのパターン部133の寸法は、x方向(横方向)、Y方向(縦方向)のいずれにおいても、Lである。また、ギャップ部135の幅は、x方向(横方向)、Y方向(縦方向)のいずれにおいても、gである。
【0085】
パターン部133の寸法Lは、例えば、1cm〜100cmの範囲であっても良い。また、ギャップ部135の幅gは、例えば、1μm〜300μmの範囲であっても良い。
【0086】
透明導電膜133の屈折率は、例えば2.0〜2.2の範囲である。
【0087】
(充填材)
前述のように、本発明では、ギャップ部135に、充填材140が設置される。また、この充填材140は、パターン部133の屈折率nに近い屈折率nを有する。
【0088】
例えば、充填材140は、パターン部133と実質的に同等の屈折率を有しても良い。
【0089】
また、充填材140の屈折率は、パターン部133を構成する材料の屈折率と、第1の接着層120の屈折率の間にあっても良い。この場合、パターン部133とギャップ部135の間の屈折率の差に加えて、第1の接着層120とギャップ部135の間の屈折率の差を小さくすることができる。従って、透明導電膜130のパターンのぎらつきを、より一層抑制することができる。
【0090】
例えば、充填材140は、接着層120と実質的に同等の屈折率を有しても良い。例えば、充填材140は、1.4〜2.0、特に1.4〜1.7の範囲の屈折率を有する。
【0091】
このような充填材140は、例えば、樹脂のような有機材料またはセラミックス等を含んでも良い。
【0092】
充填材140が樹脂を含む場合、そのような樹脂には、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ポリアルコール・ポリグリコール型エポキシ樹脂、ポリオレフィン型エポキシ樹脂、脂環式やハロゲン化ビスフェノールなどのエポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、いずれも1.55〜1.60の範囲の屈折率を有する。
【0093】
また、充填材140の材料として、エポキシ樹脂以外にも、天然ゴム(屈折率1.52)、ポリイソプレン(屈折率1.521)、ポリ1,2−ブタジエン(屈折率1.50)、ポリイソブテン(屈折率1.505〜1.51)、ポリブテン(屈折率1.5125)、ポリ−2−へプチル−1,3−ブタジエン(屈折率1.50)、ポリ−2−t−ブチル−1,3−ブタジエン(屈折率1.506)、ポリ−1,3−ブタジエン(屈折率1.515)などの(ジ)エン類、ポリオキシエチレン(屈折率1.4563)、ポリオキシプロピレン(屈折率1.4495)、ポリビニルエチルエーテル(屈折率1.454)、ポリビニルヘキシルエーテル(屈折率1.4591)、ポリビニルブチルエーテル(屈折率1.4563)などのポリエーテル類、ポリビニルアセテート(屈折率1.4665)、ポリビニルプロピオネート(屈折率1.4665)などのポリエステル類、ポリウレタン(屈折率1.5〜1.6)、エチルセルロース(屈折率1.479)、ポリ塩化ビニル(屈折率1.54〜1.55)、ポリアクリロニトリル(屈折率1.52)、ポリメタクリロニトリル(屈折率1.52)、ポリスルホン(屈折率1.633)、ポリスルフィド(屈折率1.6)、およびフェノキシ樹脂(屈折率1.5〜1.6)などが使用できる。
【0094】
また、充填材140の材料として、上記樹脂の他にも、ポリエチルアクリレート(屈折率1.4685)、ポリブチルアクリレート(屈折率1.46)、ポリ−2−エチルヘキシルアクリレート(屈折率1.463)、ポリ−t−ブチルアクリレート(屈折率1.4638)、ポリ−3−エトキシプロピルアクリレート(屈折率1.465)、ポリオキシカルボニルテトラメタクリレート(屈折率1.465)、ポリメチルアクリレート(屈折率1.472〜1.480)、ポリイソプロピルメタクリレート(屈折率1.4728)、ポリドデシルメタクリレート(屈折率1.474)、ポリテトラデシルメタクリレート(屈折率1.4746)、ポリ−n−プロピルメタクリレート(屈折率1.484)、ポリ−3,3,5−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート(屈折率1.484)、ポリエチルメタクリレート(屈折率1.485)、ポリ−2−ニトロ−2−メチルプロピルメタクリレート(屈折率1.4868)、ポリテトラカルバニルメタクリレート(屈折率1.4889)、ポリ−1,1−ジエチルプロピルメタクリレート(屈折率1.4889)、ポリメチルメタクリレート(屈折率1.4893)などのポリ(メタ)アクリル酸エステルが使用できる。さらに、これらのアクリルポリマーは、必要に応じて、2種以上共重合したり、2種以上を混合したりして使用しても良い。
【0095】
また、ポリビニルアセタール樹脂(例えば、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂)、ポリビニルアセテート(PVA)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂、ポリウレタン樹脂、等の樹脂を使用しても良い。
【0096】
充填材140がセラミックスを含む場合、そのようなセラミックスには、例えば、一般式がSiOで表されるオキシ酸窒化珪素(または酸化珪素または窒化珪素)がある。ここで、0≦x≦2であり、0≦y≦1である。充填材140は、例えば、SiO(x=2、y=0)および/またはSiON(x=1、y=1)を含んでも良い。充填材140がSiOを含む場合、xおよびyの値を調整することにより、充填材140の屈折率を、1.4〜2.0の範囲で制御することが容易になる。
【0097】
(本発明による別の透明積層体)
次に、本発明による別の透明積層体の構成について説明する。
【0098】
図5には、本発明による別の(第2の)透明積層体200の概略的な断面図の一例を示す。
【0099】
第2の透明積層体200においても、基本的な構成は、図2に示した透明積層体100と同様である。すなわち、第2の透明積層体200は、第1の基材210、第1の接着層220、透明導電膜230、中央基材250、第2の接着層260、および第2の基材270を、この順に積層することにより構成される。ただし、第2の透明積層体200においては、透明導電膜230と第1の接着層220の間に、さらに充填材層245が設置される。
【0100】
透明導電膜230は、前述の透明導電膜130と同様、パターン部233とギャップ部235とで構成される。このギャップ部235には、前述の充填材240が設置される。前述のように、充填材240は、パターン部233の屈折率に近い屈折率を有する。
【0101】
充填材層245は、パターン部233を覆うようにして設置される。充填材層245は、充填材240と実質的に等しい材料で構成されることが好ましい。従って、充填材層245は、パターン部233の屈折率に近い屈折率を有することが好ましく、その差は、0.2〜0.9であることが好ましい。特に、充填材層245は、第1の接着層220の屈折率とパターン部233の屈折率の間の屈折率を有することが好ましい。
【0102】
このように構成された第2の透明積層体200においても、パターン部233とギャップ部235の屈折率の差Δnは、小さくなっている。従って、第2の透明積層体200においても、前述の効果、すなわち、ぎらつきを抑制し、透明導電膜230のパターンを目立ち難くする効果を得ることができる。
【0103】
(本発明による透明積層体の製造方法)
次に、図6を参照して、本発明による透明積層体の製造方法の一例について説明する。ただし、以下に示す方法は、単なる一例であって、本発明による透明積層体は、別の方法で製造しても良い。なお以下の記載では、前述の透明積層体100を製造する方法を例に、本発明による透明積層体の製造方法を説明する。
【0104】
図6には、本発明による透明積層体100の製造方法のフローを示す。図6に示すように、本発明による透明積層体100の製造方法は、
(A)中央基材の片面に、透明導電膜を設置するステップ(S110)、
(B)前記透明導電膜をパターン化し、パターン部と、該パターン部を取り囲むギャップ部とを形成するステップ(S120)、
(C)透明導電膜のギャップ部に、充填材を設置するステップ(S130)、および
(D)第1の基材、第1の接着層、透明導電膜、中央基材、第2の接着層、および第2の基材を、この順に積層して、透明積層体を構成するステップ(S140)、
の各ステップを経て製造される。
【0105】
以下、各ステップについて説明する。
【0106】
(ステップS110)
まず、前述のような材料で構成された中央基材150の片面全体に、透明導電膜が設置される。透明導電膜の設置方法は、特に限られず、例えばスパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、または化学気相成膜法(CVD)等、従来の方法が適用できる。スパッタ法としては、パルススパッタ法、ACスパッタ法等が利用できる。
【0107】
(ステップS120)
次に、中央基材150の上に設置された透明導電膜がパターン処理される。パターン処理(形成)の方法は、特に限られない。例えば、透明導電膜は、従来の写真転写リソグラフィ法、レーザ加工法等により、パターン処理される。これにより、例えば図4に示したような配置で、中央基材150の上に、パターン部133と、該パターン部を取り囲むギャップ部135とが形成される。
【0108】
(ステップS130)
次に、透明導電膜130のギャップ部135に、充填材140が設置される。前述のように、充填材140は、パターン部133に近い屈折率、または第1の接着層とパターン部133の間の屈折率を有する。充填材140の設置方法は、特に限られず、例えば、透明導電膜130の表面に、ペースト等を塗布した後、スピンコート処理およびその後の乾燥処理を行うことにより、実施しても良い。あるいは、適当なマスクを用いて、従来の成膜技術により、ギャップ部135に、充填材を直接充填しても良い。あるいは、充填材は、オートクレーブ等で圧力をかけることによって、パターン部に充填しても良い。
【0109】
(ステップS140)
次に、第1の基材110、第1の接着層120、透明導電膜130、中央基材150、第2の接着層160、および第2の基材170を、この順に積層して接合することにより、透明積層体100が構成される。
【0110】
もし、第1の接着層と同一の材料を充填する場合は、実質的にステップS130とステップS140を統合することも可能である。すなわち、第1の基材110、充填材140兼第1の接着層120、透明導電膜130、中央基材150、第2の接着層160、および第2の基材170を、この順に積層して接合し、圧力等を加えてパターン部に充填しても良い。この方法では、視認性も低減でき、工程もより簡素になるという利点が得られる。
【0111】
本発明による透明積層体は、自動車などの車両用のガラス、具体的には、フロントガラス、リアガラス、シーリングガラスなどに使用できる。そして、上述したような構造を採用することにより、パターン部とギャップ部の屈折率の差Δnが低減され、前述のような「ぎらつき」の問題が有意に抑制される。
【実施例】
【0112】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0113】
(実施例1)
以下の方法により、前述の図2に示したような構成の透明積層体を製作した。
【0114】
(中央基材/透明導電膜組立体の製作)
まず、図2の中央基材150となるPETフィルム(厚さ100μm)を準備し、この表面をイオンビームにより、乾式洗浄処理した。乾式洗浄処理は、アルゴンガスに約30体積%の酸素を混合した混合ガスを、イオンビームソースによりイオン化させ、このイオン化ガスを、PETフィルムの表面に照射させることにより実施した。
【0115】
次に、パルススパッタ法を用いて、PETフィルムの乾式洗浄処理表面に、透明導電膜(積層膜)を設置した。透明導電膜は、酸化亜鉛(酸化チタンを含む)/銀(ドープ化金を含む)の繰り返しを有する積層膜(ABABABABA構造)とし、さらにこの積層膜の最上部に密着層を設置した(従って、層構成は、ABABABABAC)。
【0116】
まず、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスをイオン化させ、このイオン化ガスをパルススパッタ方式でターゲットに照射し、PETフィルム上に、厚さ35nmの無機材料層(第1層)を成膜した。
【0117】
圧力は、0.73Paとし、周波数50kHz、電力密度4.5W/cm、反転パルス幅2μsecとした。
【0118】
ターゲットには、酸化亜鉛と二酸化チタンを含むターゲット(酸化亜鉛:二酸化チタン=80:20(質量比))を用いた。
【0119】
この段階で、ラザフォード後方散乱法により、第1層の分析を行ったところ、この第1層において、亜鉛元素とチタン元素の合計(100原子%)中、亜鉛は、80原子%、チタンは、20原子%含まれていることがわかった。また、第1層において、全原子合計(100原子%)中、亜鉛は、34.3原子%、チタンは、8.0原子%、酸素は、57.7原子%含まれていることがわかった。これを酸化亜鉛(ZnO)と二酸化チタン(TiO)に換算すると、酸化物の合計は、96.7質量%であった。
【0120】
なお、この第1層の屈折率は、2.1である。
【0121】
次に、金を1.0質量%ドープした銀合金ターゲットを用いて、アルゴンガスイオンによるパルススパッタを行い、第1層上に、厚さ9nmの金属層(第2層)を形成した。圧力は、0.73Paとし、周波数は、50kHz、電力密度は、2.3W/cm、反転パルス幅は、10μsecとした。
【0122】
次に、前述の第1層の成膜のときと同じ条件により、酸化亜鉛と酸化チタンの混合ターゲットを用いて、厚さ70nmの酸化亜鉛/二酸化チタン混合層(第3層)を成膜した。
【0123】
次に、前述の第2層の成膜のときと同じ条件により、金を1.0質量%ドープした銀合金ターゲットを用いて、厚さ11nmの金属層(第4層)を成膜した。
【0124】
次に、前述の第1層の成膜のときと同じ条件により、酸化亜鉛と酸化チタンの混合ターゲットを用いて、厚さ70nmの酸化亜鉛/二酸化チタン混合層(第5層)を成膜した。
【0125】
次に、前述の第2層の成膜のときと同じ条件により、金を1.0質量%ドープした銀合金ターゲットを用いて、厚さ14nmの金属層(第6層)を成膜した。
【0126】
次に、前述の第1層の成膜のときと同じ条件により、酸化亜鉛と酸化チタンの混合ターゲットを用いて、厚さ70nmの酸化亜鉛/二酸化チタン混合層(第7層)を成膜した。
【0127】
次に、前述の第2層の成膜のときと同じ条件により、金を1.0質量%ドープした銀合金ターゲットを用いて、厚さ14nmの金属層(第8層)を成膜した。
【0128】
次に、前述の第1層の成膜のときと同じ条件により、酸化亜鉛と酸化チタンの混合ターゲットを用いて、厚さ70nmの酸化亜鉛/二酸化チタン混合層(第9層)を成膜した。
【0129】
最後に、第9層上に、厚さ5nmの密着層を設置した。
【0130】
まず、酸化ガリウム、酸化インジウム、および酸化スズの混合ターゲット(旭硝子セラミックス社製、GITターゲット)を準備した。
【0131】
次に、アルゴンガスに8体積%の酸素ガスを混合したガスをイオン化させ、このイオン化ガスをパルススパッタ方式でターゲットに照射することにより、厚さ5nmの密着層を成膜した。圧力は、0.53Paとし、周波数50kHz、電力密度1.5W/cm、反転パルス幅は、1μsecとした。
【0132】
以上の工程により、PET上に、10の層からなる透明導電膜が得られた。なお、この透明導電膜全体としての屈折率は、約2.0程度である。
【0133】
次に、YAGレーザーを用いて、透明導電膜のパターン処理を実施した。これにより、パターン部の一辺の寸法L(図4参照)が20mmで、ギャップ部の幅g(図4参照)が100μmの繰り返しパターンが得られた。
【0134】
次に、この透明導電膜のギャップ部に、充填材を充填した。充填材には、市販の樹脂充填材(リンテック(株)製:屈折率約1.5)を使用した。なお、充填材は、透明導電膜のパターン部の上部には、設置されないようにして、ギャップ部に充填した。
【0135】
以上の工程により、PET上に、ギャップ部が充填材で充填された透明導電膜を有する組立体が得られた。
【0136】
(透明積層体の製作)
次に、前述の組立体を2枚のガラス基板の間に設置し、接着材で固定することにより、透明積層体を製作した。
【0137】
2枚のガラス基板は、いずれも、縦50mm×横50mm×厚さ1.8mmの寸法である。また、ガラス基板と組立体の間には、厚さが約0.04mmの市販の接着材を設置した(屈折率約1.4)。
【0138】
以上の工程により、実質的に図2に示すような構造の透明積層体が製作された。
【0139】
(実施例2)
実施例1と同様の方法により、実施例2に係る透明積層体を作製した。ただし、この実施例2では、透明導電膜のギャップ部への充填剤として、樹脂の代わりに、屈折率が約1.8の窒化珪素(SiN)を使用した。
【0140】
窒化珪素充填材は、PET上に、導電膜パターンに合わせたマスクを設置した後、一般的なCVD法により、ギャップ部にのみ設置した。
【0141】
その他の製作条件は、実施例1の場合と同様である。
【0142】
これにより、実質的に図2に示すような構造の透明積層体を得た。
【0143】
(比較例1)
実施例1と同様の方法により、PET上に、パターン化された透明導電膜(積層膜)を形成した。ただし、この比較例1では、パターンのギャップ部に充填材を充填しなかった(すなわち、隙間部には、屈折率が1の空気が含まれている)。実施例1と同様、この組立体を接着材を介して、2枚のガラス基板(縦50mm×横50mm×厚さ1.8mm)の間に設置、固定して、透明積層体を得た。
【0144】
(比較例2)
実施例1と同様の方法により、比較例2に係る透明積層体を作製した。ただし、この比較例2では、透明導電膜のギャップ部への充填剤として、樹脂の代わりに、屈折率が約2.4の二酸化チタン(TiO)を使用した。
【0145】
二酸化チタン(TiO)充填材は、PET上に、導電膜パターンに合わせたマスクを設置した後、一般的なCVD法により、ギャップ部にのみ設置した。
【0146】
その他の製作条件は、実施例1の場合と同様である。
【0147】
(評価)
実施例1、2および比較例1、2のサンプルに対して、以下の評価を行った。
(目視評価)
前述の各透明積層体のサンプルを用いて、5人の観察者による目視評価を行った。
【0148】
最初に、パターンの視認性について評価した。これは、サンプルから30cmの距離だけ離れた状態で、観察者が各サンプルを観察し、パターンが認められるか否かを評価することにより実施した。評価は、パターンが認められないサンプルを○とし、認められるサンプルを×とし、どちらとも言えないものを△として、3段階で行った。
【0149】
評価結果を表1にまとめて示す。
【0150】
【表1】

この結果から、実施例1、2のサンプルでは、比較例1、2のサンプルに比べて、透明導電膜のパターンが認められにくい傾向にあることがわかった。
【0151】
次に、各サンプルのぎらつき性について評価した。これは、サンプルから30cmの距離だけ離れた状態で、観察者が各サンプルを観察し、ぎらつきの程度を評価することにより実施した。評価は、ぎらつきの少ないサンプルを○とし、ぎらつきの激しいサンプルを×とし、その中間の程度のものを△として、3段階で行った。
【0152】
評価結果を表2にまとめて示す。
【0153】
【表2】

この結果から、実施例1、2のサンプルでは、比較例1、2のサンプルに比べて、ぎらつきが軽減されていることがわかった。
(ヘイズ測定)
次に、実施例1および比較例1のサンプルを用いて、ヘイズ測定を行った。ここで、「ヘイズ(値)」とは、サンプルを通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から所定の角度(例えば2.5゜)以上逸れた透過光を意味し、この数値の大小により、サンプルのぎらつきを定量的に評価することができる(すなわち、ヘイズ値が大きいほど、ぎらつきは、大きくなる)。本願では、ヘイズ値は、JISK7136(2000)「プラスチック−透明材料のヘーズの求め方」に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、NDH5000W)を用いて、以下の式

H=(Td/Ti)×100 式(1)

から算出した。なお、Hは、ヘイズ値であり、Tdは、拡散透過率、Tiは、全光線透過率である。測定は、各サンプルの第1の基材の側を光源側にした場合と、第1の基材とは反対の、第2の基材の側を光源側にした場合の両方で1回ずつ実施し、得られた結果の平均をヘイズ値とした。
【0154】
測定の結果、実施例1および比較例1のサンプルのヘイズ値は、それぞれ、0.3%および0.8%であった。この結果から、実施例1のサンプルでは、比較例1のサンプルに比べて、ぎらつきが抑制されていることがわかった。
【0155】
(視感反射性の評価)
次に、実施例1、2および比較例2のサンプルを用いて、視感反射性の評価を実施した。
【0156】
視感反射率は、分光反射率測定器(島津製作所製UV−3100)を用いて分光反射率を測定し、JIS−R3106に準拠して算出した。一般に、視感反射の値が10%以下であれば、吸収層のぎらつきは、有意に抑制されていると言える。
【0157】
測定の結果、実施例1および2の視感反射の値は、それぞれ、6%および8%であった。一方、比較例2のサンプルでは、視感反射の値は、13%であった。この結果から、実施例1および2のサンプルでは、比較例2のサンプルに比べて、ぎらつきが有意に抑えられることがわかった。
(熱線反射性能)
実施例1、2、および比較例1、2ともに、自動車用途としては、熱線反射性能は、十分である。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明は、例えば、自動車用のフロントガラス等に適用することができる。例えば、図2および図5に示すような透明積層体は、自動車用のフロントガラスに好適である。
【符号の説明】
【0159】
1 従来の合わせガラス
3 外部電波
5 第1の側
7 第2の側
10 第1のガラス板
20 第1の接着層
30 透明導電膜
32 パターン
35 パターン部
37 隙間部
50 中央基材
60 第2の接着層
70 第2のガラス板
100 本発明による透明積層体(自動車ガラス用積層体)
110 第1の基材
120 第1の接着層
130 透明導電膜
132 パターン
133 パターン部
135 ギャップ部
140 充填材
150 中央基材
160 第2の接着層
170 第2の基材
200 本発明による第2の透明積層体
210 第1の基材
220 第1の接着層
230 透明導電膜
233 パターン部
235 ギャップ部
240 充填材
245 充填材層
250 中央基材
260 第2の接着層
270 第2の基材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材、第1の接着層、透明導電膜、中央基材、第2の接着層、および第2の基材をこの順に含む自動車ガラス用積層体であって、
前記透明導電膜は、パターン部と、該パターン部を取り囲むギャップ部とを有し、
前記ギャップ部には、充填材が充填され、
該充填材は、前記パターン部の屈折率から、前記第1の接着層の屈折率までの範囲内の屈折率を有することを特徴とする自動車ガラス用積層体。
【請求項2】
前記充填材の屈折率は、1.4〜2.0の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項3】
前記充填材は、樹脂またはセラミックスを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項4】
前記充填材は、一般式がSiOで表される酸窒化珪素を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項5】
前記パターン部は、第1の無機材料層と第2の無機材料層の間に、金属層を配置した構造を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項6】
前記パターン部は、第1の無機材料層、金属層、および第2の無機材料層で構成された基本構造の繰り返し配置を有することを特徴とする請求項5に記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項7】
前記第1の無機材料層および/または第2の無機材料層は、酸化亜鉛(ZnO)を含むことを特徴とする請求項5または6に記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項8】
前記金属層は、銀(Ag)または銀合金を含むことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一つに記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項9】
前記中央基材は、透明フィルムで構成されることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項10】
前記第1の基材および/または第2の基材は、ガラスで構成されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項11】
さらに、前記第1の接着層と前記透明導電膜の間に、充填材層を有し、
該充填材層は、実質的に前記充填材と同じ材料で構成されることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載の自動車ガラス用積層体。
【請求項12】
第1の基材、第1の接着層、透明導電膜、中央基材、第2の接着層、および第2の基材を含む自動車ガラス用積層体の製造方法であって、
(A)中央基材の片面に、透明導電膜を設置するステップと、
(B)前記透明導電膜をパターン化し、パターン部と、該パターン部を取り囲むギャップ部とを形成するステップと、
(C)前記ギャップ部に、充填材を設置するステップと、
(D)第1の基材、第1の接着層、前記透明導電膜、前記中央基材、第2の接着層、および第2の基材を、この順に積層して、自動車ガラス用積層体を構成するステップと、
を有し、
前記充填材は、前記パターン部の屈折率から、前記第1の接着層の屈折率までの範囲内の屈折率を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1乃至11に記載の自動車ガラス用積層体を含む、車両用のフロントガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126578(P2012−126578A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97386(P2009−97386)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】