説明

自動車内装・機構部品

【課題】高温下で長期間応力がかかったまま使用した場合や、繰返し応力がかかる場合でも、ホルムアルデヒド発生量が安定して少ない自動車内装・機構部品を提供する。
【解決手段】ポリアセタール樹脂(A)と、ヒドラジン誘導体(B)と、当該ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)とを含有する原料組成物から得られ、かつメルトフローレイトが2〜10g/10分である特定のポリアセタール樹脂組成物。自動車内装・機構部品は、ドア、サンルーフ、シートベルト、スイッチ、クリップ、シートおよびワイパーからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内装・機構部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的強度・剛性が高く、耐油性・耐有機溶剤性に優れ、広い温度範囲でバランスがとれた樹脂であり、且つその加工性が容易である。したがって、ポリアセタール樹脂は、代表的エンジニアリングプラスチックスとして、OA機器、デジタル家電、自動車部品およびその他工業部品などに多く用いられている。
【0003】
しかしながら、ポリアセタール樹脂が自動車の内装部品および機構部品(以下「自動車内装・機構部品」とも記す。)に使用される場合、自動車車室内でホルムアルデヒドが発生する。最近では、自動車メーカーおよび自動車部品供給メーカーの自主規制で、自動車車室内でのホルムアルデヒド発生の抑制を要求されることが多くなっている。
【0004】
このホルムアルデヒド発生の抑制という要求に応えるため、ポリアセタール樹脂に、グアナミンおよびヒドラジド化合物を添加する方法(たとえば特許文献1および5参照。)、カルボン酸ヒドラジド化合物を添加する方法(たとえば特許文献2、3および4参照。)、ヒドラジド化合物を添加する方法(たとえば特許文献6および7参照。)、芳香族ジヒドラジドおよび脂肪族ヒドラジド化合物を添加する方法(たとえば特許文献8参照。)が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−7676号公報
【特許文献2】特開平4−345648号公報
【特許文献3】特開平10−298401号公報
【特許文献4】特開2007−91973号公報
【特許文献5】特開2007−51205号公報
【特許文献6】特開2006−306944号公報
【特許文献7】特開2006−45489号公報
【特許文献8】特開2005−325225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらのホルムアルデヒドの発生を抑制する化合物(一般的に「ホルムキャッチャー」ともいう。)を添加すると、ポリアセタール樹脂の結晶化状況に影響を与えてしまう。そして、ポリアセタール樹脂組成物の成形において、金型への充填率が低い条件下での耐モールドデポジット性に改良の余地がある。モールドデポジット(以下「MD」とも記す。)とは、成形において金型に付着した汚染物質のことをいう。MDの付着が進行すると、得られる成形品の表面外観が悪くなったり、離型性が悪くなる。
【0007】
ポリアセタール樹脂組成物を用いた自動車内装・機構部品の製造において、成形サイズが大きくなったり、多数個取りの金型を用いる場合がある。特にこのような場合、ポリアセタール樹脂組成物の流動性が低くなると、金型へのポリアセタール樹脂組成物の充填率が低下し易く、金型内のMDの付着が進行し易くなる。その結果、金型を頻繁に洗浄しなければならず、自動車内装・機構部品の生産性が著しく低下するという問題がある。
【0008】
さらに、自動車内装・機構部品は、高温下で長期間応力がかかったまま使用されたり、繰返し応力がかかることが多い。このような条件下における自動車内装・機構部品からのホルムアルド発生量が安定して抑制できない等の問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述の問題を解決するため鋭意検討した結果、ポリアセタール樹脂と、ヒドラジン誘導体と、当該ヒドラジン誘導体の融点を低下させる化合物とを含有する原料組成物から得られ、当該含有成分のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度が特定の条件を満たし、メルトフローレイトが2〜10g/10分であるポリアセタール樹脂組成物を用いて得られる自動車内装・機構部品が、上記の問題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に関する。
【0011】
[1]
ポリアセタール樹脂(A)と、ヒドラジン誘導体(B)と、当該ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)とを含有する原料組成物から得られ、下記条件式(1)および(2)を満たし、メルトフローレイトが2〜10g/10分であるポリアセタール樹脂組成物を用いて得られる自動車内装・機構部品。
【0012】
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
(式(1)および(2)中、
T1は、示差走査熱量計を用いて、前記ヒドラジン誘導体(B)および前記化合物(C)の混合物に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、
T2は、示差走査熱量計を用いて、前記ヒドラジン誘導体(B)に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記ヒドラジン誘導体(B)が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、
T3は、示差走査熱量計を用いて、前記ポリアセタール樹脂(A)に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記ポリアセタール樹脂(A)が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。
(I)測定対象成分の最初の吸熱ピークよりも低い温度から、前記測定対象成分が融解する温度まで320℃/分の速度で昇温する。
(II)前記測定対象成分が融解した温度で2分間保持する。
(III)100℃まで10℃/分の速度で降温する。)
[2]
前記メルトフローレイトが2〜5g/10分である[1]に記載の自動車内装・機構部品。
【0013】
[3]
前記自動車内装・機構部品が、ドア、サンルーフ、シートベルト、スイッチ、クリップ、シートおよびワイパーからなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]または[2]に記載の自動車内装・機構部品。
【0014】
[4]
VDA275により算出されるホルムアルデヒド発生量が、2mg/kg以下である[1]〜[3]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0015】
[5]
VDA275により算出されるホルムアルデヒド発生量が、1mg/kg以下である[1]〜[4]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0016】
[6]
前記化合物(C)が、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるヒドラジン誘導体である[1]〜[5]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0017】
[7]
前記ヒドラジン誘導体(B)が、カルボン酸ヒドラジドであり、
前記化合物(C)が、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるカルボン酸ヒドラジドである[1]〜[6]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0018】
[8]
前記ヒドラジン誘導体(B)が、下記一般式(i)で表されるカルボン酸ジヒドラジドであり、
前記化合物(C)が、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるカルボン酸ヒドラジドである[1]〜[7]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0019】
【化1】

(式(i)中、R1は2価の置換または無置換の炭化水素基を示す。)
[9]
前記ヒドラジン誘導体(B)が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジドである[1]〜[8]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0020】
[10]
前記ヒドラジン誘導体(B)が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジド(b)であり、
前記化合物(C)が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジド(c)である(ただし、前記カルボン酸ジヒドラジド(b)と前記カルボン酸ジヒドラジド(c)とは互いに異なる。)[1]〜[9]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0021】
[11]
前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との合計含有量が0.03〜0.2質量部である[1]〜[10]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0022】
[12]
前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との質量比((B):(C))が、2:8〜8:2である[1]〜[11]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0023】
[13]
前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との質量比((B):(C))が、3:7〜7:3である[1]〜[12]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0024】
[14]
前記ポリアセタール樹脂(A)が、ポリアセタールコポリマーである[1]〜[13]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【0025】
[15]
前記ポリアセタール樹脂(A)が、メチラールを連鎖移動剤として用いて得られるポリアセタールコポリマーである[1]〜[14]のいずれかに記載の自動車内装・機構部品。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ポリアセタール樹脂組成物を用いた自動車内装・機構部品の製造において、成形サイズが大きくなったり、多数個取りの金型を用いる場合でも、金型内でのモールドデポジットの生成を抑制できる。また、本発明によれば、高温下で長期間応力がかかったまま使用した場合や、繰返し応力がかかる場合でも、ホルムアルデヒド発生量が安定して少ない自動車内装・機構部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】アジピン酸ジヒドラジドの示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図2】セバシン酸ジヒドラジドの示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図3】アジピン酸ジヒドラジドとセバシン酸ジヒドラジドの混合物の示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図4】セバシン酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドの混合物の示差走査熱量測定の結果を示すチャートである。
【図5】曲げ疲労特性用試験片(ASTM D671 TYPEI試験片)の模式図である。
【図6】引張りクリープ特性用試験片(JIS2号形 改良型)の模式図である。
【図7】曲げ疲労特性用試験片でのホルムアルデヒド発生量測定時の切削寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、本発明は、下記の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0029】
≪自動車内装・機構部品≫
本実施形態に係る自動車内装・機構部品は、後述する特定のポリアセタール樹脂組成物を用いて得られる。
【0030】
前記自動車内装・機構部品は、ドア、サンルーフ、シートベルト、スイッチ、クリップ、シートおよびワイパーからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
また、前記自動車内装・機構部品は、VDA275により算出されるホルムアルデヒド発生量が2mg/kg以下であることが好ましく、1mg/kg以下であるより好ましい。
【0032】
なお、本実施形態において、ホルムアルデヒド発生量は、以下のVDA275により算出される値である。
【0033】
(VDA275)
まず、ポリエチレン容器に蒸留水50mLと試験片とを収容して密閉する。次いで、ポリエチレン容器を60℃で3時間加熱後、蒸留水中に発生したホルムアルデヒドをアンモニウムイオン存在下においてアセチルアセトンと反応させる。得られた反応物を対象としてUV分光計にて波長412nmの吸収ピークを測定し、前記試験片1kg当たりのホルムアルデヒドの発生量(mg/kg)を算出する。
【0034】
本実施形態の自動車内装・機構部品を製造する方法は特に制限されるものではない。よって、公知の成形方法、たとえば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発砲射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法のいずれかによって、後述する特定のポリアセタール樹脂組成物を用いて成形し、自動車内装・機構部品を得ることができる。
【0035】
本実施形態の自動車内装・機構部品は、ポリアセタール樹脂が持つ機械物性バランスを有する。しかも、自動車内装・機構部品の製造の際に、成形品形状が大きくなったり、多数個取りの金型になった場合でも、耐モールドデポジット性に優れる。また、本実施形態の自動車内装・機構部品は、高温下で長期間応力がかかったまま使用した場合や、繰返し応力がかかる場合でも、ホルムアルデヒド発生量が安定して少ない。
【0036】
以下、本実施形態の自動車内装・機構部品に用いるポリアセタール樹脂組成物について説明する。
【0037】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本実施形態に用いるポリアセタール樹脂組成物は、ポリアセタール樹脂(A)と、ヒドラジン誘導体(B)と、当該ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)(以下、単に「化合物(C)とも記す。」)を含有する原料組成物から得られ、当該含有成分のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度が特定の条件を満たし、メルトフローレイトが2〜10g/10分である。
【0038】
本実施形態において、「原料組成物」とは、ポリアセタール樹脂組成物を製造する際の原料である上記(A)〜(C)の3つの成分を含有する組成物を意味する。本実施形態に用いるポリアセタール樹脂組成物は、前記原料組成物に、たとえば、混合、溶融、混練等の処理を行うことにより得ることができる。これらの処理を行って得られるポリアセタール樹脂組成物は、引き続き、上記(A)〜(C)の3つの成分を含有することが好ましい。
【0039】
上記原料組成物から得られるポリアセタール樹脂組成物を用いることにより、高温下で長期間応力がかかったまま使用した場合や、繰返し応力がかかる場合でも、ホルムアルデヒド発生量が安定して少ない自動車内装・機構部品を得ることができる。
【0040】
また、本実施形態に用いるポリアセタール樹脂組成物は、下記条件式(1)および(2)を満たす。
【0041】
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
前記式(1)および(2)中、T1は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、前記ヒドラジン誘導体(B)および前記化合物(C)の混合物に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T2は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、前記ヒドラジン誘導体(B)に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記ヒドラジン誘導体(B)が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、T3は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、前記ポリアセタール樹脂(A)に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記ポリアセタール樹脂(A)が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。
【0042】
(I)測定対象成分の最初の吸熱ピークよりも低い温度から、前記測定対象成分が融解する温度まで320℃/分の速度で昇温する。
【0043】
(II)前記測定対象成分が融解した温度で2分間保持する。
【0044】
(III)100℃まで10℃/分の速度で降温する。
【0045】
上記条件式(1)および(2)を満たすポリアセタール樹脂組成物を用いて金型成形することにより、金型内でのモールドデポジットの生成を抑制できる。そして、表面外観が良好な自動車内装・機構部品を得ることができる傾向にある。さらにリサイクル成形が容易となる傾向にある。特に、成形サイズが大きくなったり、多数個取りの金型を用いるような、自動車内装・機構部品製造の場合でも、上記条件式(1)および(2)を満たすポリアセタール樹脂組成物を用いることにより、金型内でのモールドデポジットの生成を抑制できる。
【0046】
上記条件式(1)および(2)を満たすポリアセタール樹脂組成物は、たとえば、後述するような種類のポリアセタール樹脂(A)、ヒドラジン誘導体(B)および化合物(C)を用いて、各成分の含有量を適宜調整することにより得ることができる。
【0047】
また、本実施形態に用いるポリアセタール樹脂組成物は、メルトフローレイトが2〜10g/10分であり、2〜5g/10分であることが好ましい。
【0048】
メルトフローレイトが前記範囲内であるポリアセタール樹脂組成物は、流動性に優れ、金型内への充填率が良好となり、金型内でのモールドデポジットの生成を抑制できる。そして、表面外観が良好な自動車内装・機構部品を得ることができる傾向にある。さらにリサイクル成形が容易となる傾向にある。
【0049】
なお、本実施形態において、メルトフローレイトは、ASTM−D1238に準じて、190℃、2169gの条件下で測定した値である。
【0050】
[ポリアセタール樹脂(A)]
本実施形態に用いるポリアセタール樹脂(A)としては、従来知られているものであれば特に限定されず、たとえば、ポリアセタールホモポリマーおよびポリアセタールコポリマーが挙げられる。
【0051】
前記ポリアセタールホモポリマーとしては、たとえば、ホルムアルデヒド単量体またはその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られる、オキシメチレン単位だけからなるポリアセタールホモポリマーが挙げられる。また、ポリアセタールコポリマーとしては、たとえば、ホルムアルデヒド単量体またはその3量体(トリオキサン)若しくは4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソランおよび1,4−ブタンジオールホルマールからなる群より選ばれる1種または2種以上のコモノマーである、グリコール若しくはジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテルまたは環状ホルマールとを共重合させて得られるポリアセタールコポリマーが挙げられる。さらに、ポリアセタールコポリマーとして、ホルムアルデヒド単量体または上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマー;ホルムアルデヒド単量体または上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーも挙げられる。
【0052】
また、両末端若しくは片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、たとえば、ポリアルキレングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体または上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマー;同じく、両末端若しくは片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、たとえば水素添加ポリブタジエングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体または上記ホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテル、環状ホルマールとを共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーも、ポリアセタール樹脂(A)の例として挙げられる。上記ポリアセタール樹脂(A)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて併用してもよい。
【0053】
上述のとおり、ポリアセタール樹脂(A)として、ポリアセタールホモポリマー、ポリアセタールコポリマーのいずれも用いることが可能である。
【0054】
本実施形態に用いるポリアセタール樹脂(A)は、熱安定性と機械物性とのバランスの観点から、ポリアセタールコポリマーであることが好ましい。
【0055】
上記ポリアセタール樹脂(A)がトリオキサンと上記1,3−ジオキソラン等のコモノマーとのポリアセタールコポリマーである場合、一般的には、トリオキサン1molに対してコモノマーの共重合割合は0.001〜0.6molの範囲であれば、熱安定性が良好となるので好ましい。当該コモノマーの共重合割合は0.001〜0.2molであるとより好ましく、0.0013〜0.1molであると更に好ましい。
【0056】
前記ポリアセタールコポリマーを共重合により得る際に用いられる重合触媒としては特に制限されないが、ルイス酸、プロトン酸およびそのエステルまたは無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。
【0057】
前記ルイス酸としては、たとえば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素およびアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、より具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモンおよびその錯化合物または塩が挙げられる。ただし、ルイス酸はこれらに限定されない。
【0058】
また、前記プロトン酸、そのエステルまたは無水物の具体例としては、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸−3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、トリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートが挙げられるが、これらに限定されない。
【0059】
これらのカチオン活性触媒の中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;および酸素原子または硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましい。そのようなカチオン活性触媒として、たとえば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートが重合収率向上の観点から好適である。
【0060】
また、上記ポリアセタールコポリマーを得る際には、カチオン活性触媒に加えて、メチラール等の重合連鎖剤(連鎖移動剤)を適宜用いてもよい。
【0061】
本実施形態に用いるポリアセタール樹脂(A)は、メチラールを連鎖移動剤として用いて得られるポリアセタールコポリマーであることが好ましい。メチラールを連鎖移動剤として用いる場合、含有水分量が100ppm以下で含有メタノール量が1質量%以下のメチラール、より好ましくは、含有水分量が50ppm以下で含有メタノール量が0.7質量%以下のメチラールが好ましい。
【0062】
ポリアセタールコポリマーの重合方法としては特に制限されないが、従来公知の方法、たとえば、米国特許第3027352号明細書、米国特許第3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、独国特許発明第1495228号明細書、独国特許発明第1720358号明細書、独国特許発明第3018898号明細書、特開昭58−98322号公報、特開平7−70267号公報に記載の方法が挙げられる。特公昭55−42085号公報には、洗浄・除去を行う必要のない触媒失活剤として三価のリン化合物が提案されているが、さらに高い熱安定性のポリアセタールコポリマーを得るためには不安定末端の除去が必要となる。
【0063】
上記重合で得られたポリアセタールコポリマーには、熱的に不安定な末端部(−(OCH2m−OH基、ここでmは、繰り返し単位の回数を表す。)が存在するため、その実用性を向上させるために、下記に示す特定の不安定末端部の分解除去処理を施すと好ましい。
【0064】
特定の不安定末端部の分解除去処理(以下、単に「不安定末端部除去処理」とも記す。)とは、たとえば下記一般式(イ)で表わされる少なくとも1種の第4級アンモニウム化合物の存在下で、ポリアセタールコポリマーの融点以上260℃以下の温度で、ポリアセタールコポリマーを溶融させた状態で熱処理する方法である。
【0065】
[Rabcd+nn- (イ)
ここで、式(イ)中、Ra、Rb、RcおよびRdは、各々独立して、炭素数1〜30の置換または非置換アルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の置換または非置換アルキル基の少なくとも1個の水素原子が炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;炭素数6〜20のアリール基の少なくとも1個の水素原子が炭素数1〜30の置換または非置換アルキル基で置換されたアルキルアリール基を示し、置換または非置換アルキル基は直鎖状、分岐状、または環状である。上記置換アルキル基の置換基はハロゲン原子、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、またはアミド基である。また、上記非置換アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基はその水素原子がハロゲン原子で置換されていてもよい。nは1〜3の整数を示す。Xは水酸基、または炭素数1〜20のカルボン酸、ハロゲン化水素以外の水素酸、オキソ酸、無機チオ酸若しくは炭素数1〜20の有機チオ酸の酸残基を示す。
【0066】
上述の第4級アンモニウム化合物は、上記一般式(イ)で表わされるものであれば特に制限はないが、一般式(イ)におけるRa、Rb、RcおよびRdが、各々独立して、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、さらに、Ra、Rb、RcおよびRdの少なくとも1つが、ヒドロキシエチル基であるものが特に好ましい。上述の第4級アンモニウム化合物の具体例としては、テトラメチルアンモニウム、テトエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、1,6−ヘキサメチレンビス(トリメチルアンモニウム)、デカメチレン−ビス−(トリメチルアンモニウム)、トリメチル−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリプロピル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリプロピルベンジルアンモニウム、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム、トリメチル−2−オキシエチルアンモニウム、モノメチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、モノエチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、オクタデシルトリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の水酸化物(Xn-=OH-);塩酸、臭酸、フッ酸等の水素酸塩;硫酸(Xn-=HSO4-、SO42-)、硝酸、燐酸、炭酸(Xn-=HCO3-、CO32-)、ホウ酸(Xn-=B(OH)4-)、塩素酸、ヨウ素酸、珪酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸等のオキソ酸塩;チオ硫酸等のチオ酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸、シュウ酸等のカルボン酸塩が挙げられる。これらの中でも、水酸化物、硫酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩が好ましい。カルボン酸塩のなかでは、蟻酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩が特に好ましい。このような第4級アンモニウム化合物としては、たとえば、水酸化コリン蟻酸塩(トリメチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート、トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート等)が挙げられる。これら第4級アンモニウム化合物は、1種を単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記第4級アンモニウム化合物に加えて、公知の不安定末端部の分解促進剤であるアンモニアやトリエチルアミン等のアミン類等を併用してもよい。
【0067】
上記熱処理する方法に用いる第4級アンモニウム化合物の量は、ポリアセタールコポリマーと第4級アンモニウム化合物との合計質量に対する下記式(ロ)で表わされる第4級アンモニウム化合物由来の窒素の量に換算して、0.05〜50質量ppmであると好ましく、1〜30質量ppmであるとより好ましい。
【0068】
第4級アンモニウム化合物の量=P×14/Q (ロ)
ここで、式(ロ)中、Pは第4級アンモニウム化合物のポリアセタールコポリマーに対する濃度(質量ppm)を示し、14は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を示す。
【0069】
第4級アンモニウム化合物の添加量が、第4級アンモニウム化合物由来の窒素の量に換算して0.05質量ppm未満であると不安定末端部の分解除去速度が低下する傾向にあり、50質量ppmを超えると不安定末端部除去処理後のポリアセタールコポリマーの色調が悪化する傾向にある。
【0070】
ポリアセタールコポリマーの不安定末端部除去処理は、そのポリアセタールコポリマーの融点以上260℃以下の温度でポリアセタールコポリマーを溶融させた状態で熱処理することにより達成される。この熱処理に用いる装置としては特に制限はないが、押出機、ニーダー等を用いて熱処理することが好適である。また、分解により発生したホルムアルデヒドは減圧下で除去される。第4級アンモニウム化合物の添加方法には特に制約はなく、重合触媒を失活する工程にて水溶液として加える方法、重合で生成したポリアセタールコポリマーパウダーに吹きかける方法などが挙げられる。いずれの添加方法を用いても、ポリアセタールコポリマーを熱処理する工程で添加されていればよく、押出機の中に注入してもよい。あるいは、ポリアセタール樹脂組成物に押出機等を用いてフィラーやピグメントの配合を行う場合、樹脂ペレットに該化合物を添着し、その後の配合工程で不安定末端部除去処理を行ってもよい。
【0071】
不安定末端部除去処理を、重合により得られたポリアセタールコポリマー中の重合触媒を失活させた後に行ってもよく、重合触媒を失活させずに行ってもよい。重合触媒の失活処理としては特に制限されないが、アミン類等の塩基性の水溶液中で重合触媒を中和失活する方法を代表例として挙げることができる。また、重合触媒を失活させずに、ポリアセタールコポリマーの融点以下の温度で不活性ガス雰囲気下にて加熱し、重合触媒を揮発により低減した後、該不安定末端部除去処理を行うことも有効な方法である。
【0072】
不安定末端部除去処理を行うことで、窒素雰囲気下、200℃で50分間加熱したときのホルムアルデヒド発生量が、ポリアセタール樹脂の量に対して100ppm以下のポリアセタール樹脂を得ることができる。
【0073】
[ヒドラジン誘導体(B)]
本実施形態に用いるヒドラジン誘導体(B)は、窒素原子間の単結合を有するヒドラジン構造(N−N)を有するものであれば特に限定されず、たとえばヒドラジン;ヒドラジン水和物;コハク酸モノヒドラジド、グルタル酸モノヒドラジド、アジピン酸モノヒドラジド、ピメリン酸モノヒドラジド、スペリン酸モノヒドラジド、アゼライン酸モノヒドラジド、セバシン酸モノヒドラジド等のカルボン酸モノヒドラジド;蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド等の飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド;マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のモノオレフィン性不飽和ジカルボン酸のジヒドラジド;イソフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、2,6−ナフタレンジカルボジヒドラジド等の芳香族カルボン酸ジヒドラジド;ピロメリット酸のジヒドラジド;トリマー酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、ベンゼントリカルボン酸トリヒドラジド、ニトリロトリ酢酸トリヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド等のトリヒドラジド;ピロメリット酸テトラヒドラジド、ナフトエ酸テトラヒドラジド、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド、1,4,5,8−ナフトエ酸テトラヒドラジド等のテトラヒドラジド;カルボン酸低級アルキルエステル基を有する低重合体をヒドラジンまたはヒドラジン水化物(ヒドラジンヒドラート)と反応させてなるポリヒドラジド等のポリヒドラジド;炭酸ジヒドラジド;ビスセミカルバジド;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネートおよびそれから誘導されるポリイソシアネート化合物にN,N−ジメチルヒドラジン等のN,N−置換ヒドラジンおよび/または上記例示のヒドラジドを過剰に反応させて得られる多官能セミカルバジド;上記ポリイソシアネート化合物とポリエーテルポリオール類またはポリエチレングリコールモノアルキルエーテル類等の親水性基を含む活性水素化合物との反応物中のイソシアネート基に、上記のいずれかのジヒドラジドを過剰に反応させて得られる水系多官能セミカルバジド;上記多官能セミカルバジドと上記水系多官能セミカルバジドとの混合物;ビスアセチルジヒドラゾン等が挙げられる。
【0074】
本実施形態に用いるヒドラジン誘導体(B)は、後述の化合物(C)とは異なるヒドラジン誘導体であることが好ましい。中でも、カルボン酸ヒドラジドであることが好ましく、飽和脂肪族カルボン酸ヒドラジドであることがより好ましい。飽和脂肪族カルボン酸ヒドラジドの具体例としては、コハク酸モノヒドラジド、グルタル酸モノヒドラジド、アジピン酸モノヒドラジド、ピメリン酸モノヒドラジド、スペリン酸モノヒドラジド、アゼライン酸モノヒドラジド、セバシン酸モノヒドラジド等のカルボン酸モノヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド等のカルボン酸ジヒドラジドである。
【0075】
本実施形態に用いるヒドラジン誘導体(B)は、下記一般式(i)で表されるカルボン酸ジヒドラジドであることがさらに好ましい。
【0076】
【化2】

前記式(i)中、R1は、2価の置換または無置換の炭化水素基示し、好ましくは炭素数2〜20のアルキレン基を示す。
【0077】
前記ヒドラジン誘導体(B)は、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジドであることが特に好ましい。
【0078】
上述したヒドラジン誘導体(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0079】
本発明者らは、種々のヒドラジン誘導体(B)を検討した結果、ヒドラジン誘導体(B)がホルムアルデヒドと効率よく反応するためには、その分子内に複数のヒドラジド基を有する化合物が有効であるものの、分子内のヒドラジド基が増大するにつれて、ヒドラジド誘導体(B)自体の融点は、上昇していく傾向にあり、ポリアセタール樹脂(A)の融点よりも高くなると考えている。そして、ポリアセタール樹脂(A)の融点とヒドラジン誘導体(B)の融点との差が広がると、モールドデポジットを生成し易くなると推定している。そこで、本発明者らは、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)を含有させることにより、モールドデポジットの生成を抑制することができると考えている。以下、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)について詳細に説明する。
【0080】
[化合物(C)]
本実施形態に用いる化合物(C)は、ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物であれば特に限定されないが、上述したヒドラジン誘導体(B)とは異なるヒドラジン誘導体であることが好ましい。
【0081】
たとえば、前記ヒドラジン誘導体(B)がモノヒドラジドの場合、前記化合物(C)は、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるモノヒドラジドおよび/またはジヒドラジドであることが好ましく、前記ヒドラジン誘導体(B)がジヒドラジドの場合、前記化合物(C)は、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるジヒドラジドおよび/またはモノヒドラジドであることがより好ましい。このように、前記化合物(C)もヒドラジン誘導体であって、前記ヒドラジド誘導体(B)と化合物(C)との組合せが、互いに異種の構造を有するヒドラジド誘導体の組合せであると、前記ヒドラジド誘導体(B)の融点を低下させるのに効果的である。
【0082】
より具体的には、前記ヒドラジン誘導体(B)が、カルボン酸ヒドラジドである場合、前記化合物(C)は、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるカルボン酸ヒドラジドであることが好ましい。
【0083】
前記ヒドラジド誘導体(B)と前記化合物(C)とのより好ましい組合せは、ジヒドラジド化合物同士の組合せであり、更に好ましいのは、飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジド化合物同士の組合せ、すなわち、前記ヒドラジン誘導体(B)が飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドの場合、前記化合物(C)として、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なる飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドであると更に好ましい。また、前記ヒドラジン誘導体(B)が飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドの場合、前記化合物(C)は、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なる飽和脂肪族カルボン酸ジヒドラジドおよび/または飽和脂肪族カルボン酸であってもよい。このような前記化合物(C)は、前記ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させるのに効果的である。
【0084】
また、前記ヒドラジン誘導体(B)が、上記一般式(i)で表されるカルボン酸ジヒドラジドである場合、前記化合物(C)は、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるカルボン酸ヒドラジドであることが好ましい。さらに、前記ヒドラジン誘導体(B)が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジド(b)である場合、前記化合物(C)は、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジド(c)である(ただし、前記カルボン酸ジヒドラジド(b)と前記カルボン酸ジヒドラジド(c)とは互いに異なる。)ことが好ましい。
【0085】
たとえば、前記ヒドラジン誘導体(B)がアジピン酸ジヒドラジドの場合、前記化合物(C)は、セバシン酸ジヒドラジドおよび/またはドデカン二酸ジヒドラジドであり、前記ヒドラジン誘導体(B)がセバシン酸ジヒドラジドの場合、前記化合物(C)は、アジピン酸ジヒドラジドおよび/またはドデカン二酸ジヒドラジドであると好ましい。
【0086】
このような前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との組合せとしては、前記ヒドラジン誘導体(B)としてアジピン酸ジヒドラジド、前記化合物(C)としてセバシン酸ジヒドラジドの組合せ、前記ヒドラジン誘導体(B)としてセバシン酸ジヒドラジド、前記化合物(C)としてドデカン二酸ジヒドラジドの組合せが好ましい。
【0087】
上述した化合物(C)は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0088】
このような化合物(C)を前記ヒドラジン誘導体(B)とともに含有させたポリアセタール樹脂組成物を用いて金型成形することにより、金型内でのモールドデポジットの生成を抑制できる。そして、表面外観が良好な自動車内装・機構部品を得ることができる傾向にある。さらにリサイクル成形が容易となる傾向にある。
【0089】
本発明者らが、前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)とを種々検討した中の具体例を以下に示す。
【0090】
本発明者らは、種々の2種のカルボン酸ヒドラジドの質量比1:1の混合物に対して、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、上述の(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(以下「最大吸熱ピーク温度」とも記す。)が、混合前の各々のカルボン酸ヒドラジドの最大吸熱ピーク温度とは異なる挙動となることを見出した。
【0091】
たとえば、テレフタル酸ジヒドラジドを、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて速度2.5℃/分で昇温すると、324℃に吸熱ピークの頂点が認められる。同様にしてイソフタル酸ジヒドラジドを昇温すると、226℃に吸熱ピークの頂点が認められる。また、アジピン酸ジヒドラジドでは181℃に、セバシン酸ジヒドラジドでは188℃に、ドデカン二酸ジヒドラジドでは188℃に、それぞれ吸熱ピークの頂点が認められる。
【0092】
さらに、1種のカルボン酸ヒドラジド、あるいは2種のカルボン酸ヒドラジドを質量比1:1で乳鉢に入れ混合および粉砕して得られる混合物に対して、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、上述の(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークを確認することにより、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度を測定する。
【0093】
たとえば、アジピン酸ジヒドラジド単体について測定したところ、2つの吸熱ピークが認められ、それらのピークの頂点は176℃と171℃である。また、各々の吸熱ピークの面積から算出した吸熱容量(以下「ΔH」とも記す。)は、順に5.4J/g、229.2J/gである。これらのΔHの合計量に対する、171℃の吸熱ピークのΔHの割合、すなわち、これらの吸熱ピークの総ピーク面積に対する171℃の吸熱ピークのピーク面積の割合は、98%である(図1参照)。また、セバシン酸ジヒドラジド単体を同様に測定したところ、185℃、180℃および172℃に吸熱ピークが認められ、各々のΔHは、順に5.4J/g、32.4J/gおよび16.4J/gである。さらに、これらのΔHの合計量に対するそれぞれの吸熱ピークのΔHの割合は、185℃で10%、180℃で60%、172℃で30%である(図2参照)。同様にしてドデカン二酸ジヒドラジド単体を測定したところ、183℃、177℃および171℃に吸熱ピークが認められ、各々のΔHは、順に2.4J/g、18.1J/gおよび32.4J/gである。さらに、これらのΔHの合計量に対するそれぞれの吸熱ピークのΔHの割合は、183℃で5%、177℃で34%、171℃で61%である。ΔHが最も大きな吸熱ピークの頂点が示す温度を、ここで「最大吸熱ピーク温度」と呼ぶと、アジピン酸ジヒドラジドの最大吸熱ピーク温度は171℃、セバシン酸ジヒドラジドの最大吸熱ピーク温度は180℃、ドデカン二酸ジヒドラジドの最大吸熱ピーク温度は171℃である。
【0094】
アジピン酸ジヒドラジドとセバシン酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度は154℃を示し、154℃でのΔHは、ΔHの合計量に対して91%である(図3参照)。アジピン酸ジヒドラジドとドデカン二酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物の最大吸熱ピーク温度は151℃を示し、151℃でのΔHは、ΔHの合計量に対して98%である。セバシン酸ジヒドラジドとドデカン二酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物の最大吸熱ピーク温度は144℃を示し、144℃でのΔHは、ΔHの合計量に対して80%である。すなわち、これらの混合物では、上記の質量比1:1の混合物について、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、上述の(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに、吸熱ピークの頂点が存在することがわかる。
【0095】
一方、セバシン酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物を、単に250℃まで2.5℃/分で昇温すると181℃に吸熱ピークが認められる。ところが、引き続き250℃で2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で250℃まで昇温したところ、吸熱ピークが認められず、最初の融解後、結晶化はしないことがわかる(図4参照)。同様にしてアジピン酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物、アジピン酸ジヒドラジドとテレフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物、並びに、テレフタル酸ジヒドラジドとイソフタル酸ジヒドラジドとの質量比1:1の混合物を、350℃まで昇温速度2.5℃/分で昇温し、350℃で2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で350℃まで昇温したが、いずれも吸熱ピークが認められない。このことは、上記の混合物を昇温速度2.5℃/分で加熱して融解し、2分間保持した後に、降温速度10℃/分で100℃まで降温し、その後、昇温速度2.5℃/分で昇温した時、吸熱ピークが消失することを示している。
【0096】
本発明者らは、更に検討を進めたところ、上述したとおり、ポリアセタール樹脂(A)と、ヒドラジン誘導体(B)と、当該ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)とを含有する原料組成物から得られ、上記条件式(1)および(2)を満たし、メルトフローレートが2〜10g/10分であるポリアセタール樹脂組成物を用いれば、金型でのモールドデポジットの生成を抑制できる。そして、得られる自動車内装・機構部品の表面外観を大幅に改善でき、さらにリサイクル成形が容易となると考えている。
【0097】
前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との合計含有量は、0.03〜0.2質量部であることが好ましく、0.04〜0.2質量部であることがより好ましく、0.05〜0.2質量部であることがさらに好ましい。前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)と合計含有量が、0.03質量部未満であると、リサイクル成形時のホルムアルデヒド放出量が増加する傾向にあり、0.2質量部よりも多いと、自動車内装・機構部品の製造において、金型でのモールドデポジットの生成がし易くなる傾向にある。
【0098】
また、前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との質量比((B):(C))は、2:8〜8:2であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましい。当該質量比が、前記範囲内にあることにより、前記ヒドラジン誘導体(B)および前記化合物(C)の混合物の最大吸熱ピーク温度が、前記ポリアセタール樹脂(A)の最大吸熱ピーク温度よりも低下する傾向にある。
【0099】
[添加剤]
本実施形態に用いるポリアセタール樹脂組成物には、用途に応じて適当な添加剤を配合することができる。このような添加剤の具体例としては、酸化防止剤、ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体または化合物、蟻酸捕捉剤、離型剤等が挙げられる。
【0100】
なお、ポリアセタール樹脂組成物における各添加剤の配合量は、ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.001〜0.8質量部、更に好ましくは0.01〜0.7質量部である。
【0101】
[酸化防止剤]
酸化防止剤としてはヒンダートフェノール系酸化防止剤が好ましい。当該酸化防止剤の具体例としては、たとえばn−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、1,4−ブタンジオール−ビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが挙げられる。これらの中で好ましい酸化防止剤は、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]およびペンタエリスリトールテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。これらの酸化防止剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0102】
[ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体または化合物]
ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体または化合物は、ホルムアルデヒドと反応可能な窒素原子を分子内に有する重合体または化合物(単量体)であり、その具体例としては、ナイロン4−6、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン6−12、ナイロン12等のポリアミド樹脂、およびこれらの重合体、たとえば、ナイロン6/6−6/6−10、ナイロン6/6−12が挙げられる。また、ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体または化合物として、アクリルアミドおよびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体と他のビニルモノマーとの共重合体が挙げられる。より具体的には、アクリルアミドおよびその誘導体と他のビニルモノマーとを金属アルコラートの存在下で重合して得られたポリ−β−アラニン共重合体が挙げられる。さらに、ホルムアルデヒド反応性窒素を有する重合体または化合物として、アミド化合物、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、尿素、尿素誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物も挙げられる。
【0103】
アミド化合物の具体例としては、イソフタル酸ジアミドなどの多価カルボン酸アミド、アントラニルアミドが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物の具体例としては、2,4−ジアミノ−sym−トリアジン、2,4,6−トリアミノ−sym−トリアジン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N−ジフェニルメラミン、N,N−ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4−ジアミノ−6−フェニル−sym−トリアジン)、アセトグアナミン(2,4−ジアミノ−6−メチル−sym−トリアジン)、2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジンが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの付加物の具体例としては、N−メチロールメラミン、N,N’−ジメチロールメラミン、N,N’,N”−トリメチロールメラミンが挙げられる。アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物の具体例としては、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。尿素誘導体としては、たとえば、N−置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、ウレイド化合物が挙げられる。N−置換尿素の具体例としては、アルキル基等の置換基が置換したメチル尿素、アルキレンビス尿素、アリール置換尿素が挙げられる。尿素縮合体の具体例としては、尿素とホルムアルデヒドとの縮合体が挙げられる。ヒダントイン化合物の具体例としては、ヒダントイン、5,5−ジメチルヒダントイン、5,5−ジフェニルヒダントインが挙げられる。ウレイド化合物の具体例としては、アラントインが挙げられる。イミド化合物の具体例としてはスクシンイミド、グルタルイミド、フタルイミドが挙げられる。
【0104】
これらのホルムアルデヒド反応性窒素原子を有する重合体または化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
[蟻酸捕捉剤]
蟻酸捕捉剤は蟻酸を効率的に中和し得るものであり、たとえば、上記のアミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、たとえば、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物が挙げられる。
【0106】
また、蟻酸捕捉剤として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩またはアルコキシドが挙げられる。たとえば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウムなどの金属の水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。上記カルボン酸塩のカルボン酸としては、10〜36個の炭素原子を有する飽和または不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、これらのカルボン酸は水素原子を水酸基で置換されていてもよい。飽和または不飽和脂肪族カルボン酸塩の具体的な例としては、ジミリスチン酸カルシウム、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸−パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸−ステアリン酸)カルシウム、(パルミチン酸−ステアリン酸)カルシウムが挙げられる。これらの中でも好ましくは、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、珪酸マグネシウムである。
【0107】
[離型剤]
離型剤としては、アルコール、脂肪酸およびそれらの脂肪酸エステルが好ましく用いられるが、特に好ましい離型剤としては、エチレングリコールジステアレートが挙げられる。
【0108】
[その他の添加剤]
本実施形態に用いるポリアセタール樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、更に適当な公知の添加剤を必要に応じて配合することができる。具体的には、無機充填剤、結晶核剤、導電材、熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマー、顔料が挙げられる。
【0109】
[無機充填剤]
無機充填剤としては、繊維状、粉粒子状、板状および中空状の無機充填剤が挙げられる。繊維状無機充填剤としては、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維、シリコーン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、ステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮などの金属繊維等の無機質繊維が挙げられる。また、繊維長の短いチタン酸カリウムウイスカー、酸化亜鉛ウイスカー等のウイスカー類も繊維状無機充填剤として例示される。
【0110】
粉粒子状無機充填剤としては、たとえば、カーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのような珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、アルミナのような金属酸化物、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのような金属硫酸塩、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、その他炭化珪素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。
【0111】
板状無機充填剤としては、たとえば、マイカ、ガラスフレーク、各種金属箔が挙げられる。中空状無機充填剤としては、ガラスバルーン、シリカバルーン、シラスバルーン、金属バルーンが挙げられる。これらの無機充填剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いられる。これらの無機充填剤は表面処理を施されていても施されていなくてもよいが、成形表面の平滑性、機械的特性の観点から表面処理を施されたものが好ましい場合がある。無機充填剤の表面処理に用いられる表面処理剤としては従来公知のものが使用可能である。表面処理剤としては、たとえば、シラン系、チタネート系、アルミニウム系、ジルコニウム系等の各種カップリング処理剤が挙げられる。より具体的には、表面処理剤として、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリスステアロイルチタネート、ジイソプロポキシアンモニウムエチルアセテート、n−ブチルジルコネートが挙げられる。
【0112】
なお、上記無機充填剤とともにまたは上記無機充填剤に代えて、芳香族ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機繊維状物質を添加してもよい。
【0113】
[導電剤]
導電剤としては、たとえば、導電性カーボンブラック、金属粉末または繊維が挙げられる。
【0114】
[熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマー]
熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリカーネート樹脂、未硬化のエポキシ樹脂が挙げられる。また、これらの樹脂の変性物も熱可塑性樹脂に含まれる。熱可塑性エラストマーとしては、たとえば、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーが挙げられる。
【0115】
[顔料]
顔料としては、無機系顔料および有機系顔料、メタリック系顔料、蛍光顔料が挙げられる。無機系顔料とは樹脂の着色用として一般的に使用されているものをいい、たとえば、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、りん酸塩、酢酸塩、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラックが挙げられる。有機系顔料としては、たとえば、縮合アゾ系、キノン系、フタロシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ペリレン系、ジオキサジン系の顔料が挙げられる。
【0116】
<ポリアセタール樹脂組成物の製造方法>
本実施形態に用いるポリアセタール樹脂組成物を製造する方法は特に制限されない。たとえば、上記ポリアセタール樹脂(A)と上記ヒドラジン誘導体(B)と上記化合物(C)とをヘンシェルミキサー、タンブラー、V字型ブレンダーなどで予め混合してそれらを含有する原料組成物を得て、該原料組成物を、1軸または多軸混錬押出機等を用いて溶融混錬する製造方法など、ポリアセタール樹脂組成物の製造方法として一般的に知られている方法により製造することができる。それらの中でも、原料組成物を溶融混錬する際の押出機として、減圧装置を備えた2軸混練押出機を用いる方法が好ましい。
【0117】
また、上記ポリアセタール樹脂(A)と上記ヒドラジン誘導体(B)と上記化合物(C)とを予め混合することなく、定量フィーダーなどで各成分を単独または数種類ずつまとめて押出機に連続供給することにより、押出機内にて原料組成物を得て、その原料組成物からポリアセタール樹脂組成物を製造することも可能である。また、予め上記ポリアセタール樹脂(A)、上記ヒドラジン誘導体(B)および上記化合物(C)からなる高濃度マスターバッチを作製しておき、押出溶融混練時または射出成形時に更に上記ポリアセタール樹脂(A)で希釈することによりポリアセタール樹脂組成物を得ることもできる。
【0118】
上記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、上記ヒドラジン誘導体(B)と上記化合物(C)との合計添加量は、0.03〜0.2質量部であることが好ましく、0.04〜0.2質量部であることがより好ましく、0.05〜0.2質量部であることがさらに好ましい。上記ヒドラジン誘導体(B)と上記化合物(C)と合計添加量が、0.03質量部未満であると、リサイクル成形時のホルムアルデヒド放出量が増加する傾向にあり、0.2質量部よりも多いと、自動車内装・機構部品の製造において、金型でのモールドデポジットの生成がし易くなる傾向にある。
【0119】
また、上記ヒドラジン誘導体(B)と上記化合物(C)との質量比((B):(C))は、2:8〜8:2であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましい。当該質量比が、前記範囲内にあることにより、上記ヒドラジン誘導体(B)および上記化合物(C)の混合物の最大吸熱ピーク温度が、上記ポリアセタール樹脂(A)の最大吸熱ピーク温度よりも低下する傾向にある。
【0120】
なお、得られるポリアセタール樹脂組成物中には、カルボン酸ジヒドラジドからの反応生成物が含まれてもよい。そのような反応生成物としては、たとえば、カルボン酸ジヒドラジドとホルムアルデヒドとの反応生成物が挙げられる。
【実施例】
【0121】
次に、実施例および比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
以下の実施列および比較例における各種物性の測定および評価は次のようにして行った。
【0123】
(1)メルトフローレート
ASTM−D1238に準じて、190℃、2169gの条件下でメルトフローレートを測定した。
【0124】
(2)DSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)
測定対象成分に対して、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC7」)を用いて、下記(I)〜(III)の操作を順に行った。当該操作後、前記測定対象成分が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)を、測定対象成分のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)とした。
(I)測定対象成分の最初の吸熱ピークよりも低い温度から、測定対象成分が融解する温度まで320℃/分の速度で昇温した。
(II)測定対象成分が融解した温度(200℃)で2分間保持した。
(III)100℃まで10℃/分の速度で降温した。
【0125】
(3)耐モールドデポジット(MD)性の評価
射出成形機(東芝機械株式会社製、商品名「IS−100GN」)を用いて、シリンダー温度を200℃、金型温度を80℃に設定し、射出圧力80MPa、射出時間30秒、冷却時間30秒の成形条件で、得られたポリアセタール樹脂組成物を試験片金型内に樹脂組成物を完全に充填させない条件にて成形して試験片を得た。この試験片の質量は、金型内に樹脂組成物を完全に充填させて得られる試験片の96質量%であった。但し、後述のポリアセタール樹脂(a−2)、(a−3)、(a−6)および(a−7)のように、原料のポリアセタール樹脂のメルトフローレートが異なる場合は、成形品重量が同等になるように、射出圧力を調整した。
【0126】
前記試験片の形状は、自動車内装・機構部品の製造において、成形品サイズが大きくなったり、多数個取りになることを想定して、大型平板(長さ130mm、幅110mm、厚さ3mm)とした。
【0127】
前記試験片を300ショット成形した後の金型内のモールドデポジット(MD)を目視で観察し、下記基準で評価した。
【0128】
(基準)
「A」:MDが認められなかった。
【0129】
「B」:うっすらとMDが認められた。
【0130】
「C」:明らかなMDが認められた。
【0131】
(4)高温耐久性の評価
(a)曲げ疲労特性の評価
射出成形機(東芝機械株式会社製、商品名「IS−100GN」)を用いて、シリンダー温度を200℃、金型温度を80℃、射出圧力70MPa、射出時間20秒、冷却時間20秒に設定して、後述のポリアセタール樹脂組成物を用いてASTM D671 TYPEI試験片を作成した。但し、ポリアセタール樹脂(a−2)、(a−3)、(a−6)および(a−7)のように、原料のポリアセタール樹脂のメルトフローレートが異なる場合は、成形品重量が同等になるように、射出圧力を調整した。当該試験片の形状および寸法を図5に示す。
【0132】
繰返し振動疲労試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、前述の試験片の曲げ疲労特性評価試験を、試験温度60℃、繰返し回数速度1800回/分、曲げ応力15MPaで、1×107回まで実施した。
【0133】
前述の試験片が破断した場合、もしくは試験片の最大たわみが破断前に±8mmを超えた場合はその時点での試験回数を記録した。
【0134】
一般的にポリアセタール樹脂製の自動車内装・機構部品に要求される曲げ疲労特性は、環境温度:最高60℃前後、最大の繰返し回数:1800回/分、最大の曲げ疲労応力:15MPa程度の条件で、最大の疲労回数が1×107回程度と推定される。
【0135】
(b)引張りクリープ特性の評価
射出成形機(東芝機械株式会社製、商品名「IS−100GN」)を用いて、シリンダー温度を200℃、金型温度を80℃、射出圧力80MPa、射出時間40秒、冷却時間20秒に設定して、後述のポリアセタール樹脂組成物を用いて成形しJIS2号ダンベル試験片を基に改良した形状を作成した。但し、ポリアセタール樹脂(a−2)、(a−3)、(a−6)、(a−7)のように、原料のポリアセタール樹脂のメルトフローレートが異なる場合は、成形品重量が同等になるように、射出圧力を調整した。当該試験片の形状および寸法を図6に示す。
【0136】
クリープ試験機(東洋精機株式会社製)を用いて、前述の試験片の引張りクリープ特性評価試験を実施した。試験温度は80℃とし、引張り応力15MPaで1000時間まで試験を行なった。途中で試験片が破断した場合は、その時点での時間を記録した。
【0137】
一般的にポリアセタール樹脂製の自動車内装・機構部品に要求される引張りクリープ特性は、使用環境温度:80℃前後、最大引張り応力:15MPa程度の条件で、耐久時間が最大1000時間程度と推定される。
【0138】
(5)高温耐久試験前後のホルムアルデヒドガス発生量の評価
前述した曲げ疲労特性および引張りクリープ特性の試験前後の試験片から発生するホルムアルデヒド量を、下記VDA275により測定した。当該測定量を、成形品から発生するホルムアルデヒドとして推定した。引張りクリープ特性用試験片に関しては、切削せずに使用した。曲げ疲労特性用の試験片は一部を切削して使用した。当該切削寸法等を図7に示す。
【0139】
(VDA275)
まず、ポリエチレン容器に蒸留水50mLと、上記高温耐久性の評価の際に作成した試験片とを収容して密閉した。次いで、ポリエチレン容器を60℃で3時間加熱後、蒸留水中に発生したホルムアルデヒドをアンモニウムイオン存在下においてアセチルアセトンと反応させた。得られた反応物を対象としてUV分光計にて波長412nmの吸収ピークを測定し、前記試験片1kg当たりのホルムアルデヒドの発生量(mg/kg)を求めた。但し、疲労試験において、曲げ疲労特性では1×107回、引張りクリープ試験では1000時間までの間に、試験片の破損等で最後まで特性評価試験が終了しなかった場合は、ホルムアルデヒドの発生量の測定を行わなかった。
【0140】
[ポリアセタール樹脂組成物の原料成分]
実施例および比較例において、ポリアセタール樹脂組成物の原料成分には下記のものを用いた。
【0141】
〈ポリアセタール樹脂(a−1)〉
熱媒を通すことができるジャケット付きの2軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8)を80℃に調整した。次いで、トリオキサンを4kg/hr、コモノマーとして1,3−ジオキソランを42.8g/hr(トリオキサン1molに対して、0.039mol)、連鎖移動剤としてメチラール(水分量1.3%、メタノール量0.99%)をトリオキサン1molに対して1.50×10-3molの割合で前記重合機に連続的に添加した。さらに、重合触媒として三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1molに対して1.5×10-5molの割合で前記重合機に連続的に添加し重合を行った。
【0142】
重合機より排出されたポリアセタールコポリマーをトリエチルアミン0.1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った。重合触媒が失活したポリアセタールコポリマーを遠心分離機でろ過して分離回収した。その後、分離回収したポリアセタールコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物として水酸化コリン蟻酸塩(トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート含有水溶液1質量部を添加して、均一に混合し、さらに120℃で乾燥した。水酸化コリン蟻酸塩の添加量の調節は、添加する水酸化コリン蟻酸塩含有水溶液中の水酸化コリン蟻酸塩の濃度を調整することにより行った。具体的には上記式(ロ)で表わされる水酸化コリン蟻酸塩由来の窒素の量に換算して20質量ppmとなる量の水酸化コリン蟻酸塩を添加した。
【0143】
乾燥後のポリアセタールコポリマーをベント付き2軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中で溶融しているポリアセタールコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加し、押出機設定温度200℃、押出機における滞留時間7分間で不安定末端部の分解除去処理を行った。
【0144】
不安定末端部が分解されたポリアセタールコポリマーは、ベント真空度20Torrの条件下で脱揮され、押出機ダイス部よりストランドとして押し出され、ペレット化した。こうしてペレット化したポリアセタール樹脂(a−1)を得た。
【0145】
得られたポリアセタール樹脂(a−1)のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。
【0146】
また、得られたポリアセタール樹脂(a−1)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、165℃であった。
【0147】
〈ポリアセタール樹脂(a−2)〉
メルトフローレイトが5g/10分になるように連鎖移動剤のメチラールの量を変更した以外はポリアセタール樹脂(a−1)と同様にして、ポリアセタール樹脂(a−2)を得た。得られたポリアセタール樹脂(a−2)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、165℃であった。
【0148】
〈ポリアセタール樹脂(a−3)〉
メルトフローレイトが10g/10分になるように連鎖移動剤のメチラールの量を変更した以外はポリアセタール樹脂(a−1)と同様にして、ポリアセタール樹脂(a−3)を得た。得られたポリアセタール樹脂(a−3)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、165℃であった。
【0149】
〈ポリアセタール樹脂(a−4)〉
連鎖移動剤のメチラールとして上記に代えてメチラール(水分量45ppm、メタノール量0.58%)を用いた以外はポリアセタール樹脂(a−1)と同様にして、ポリアセタール樹脂(a−4)を得た。
【0150】
得られたポリアセタール樹脂(a−4)のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。
【0151】
また、得られたポリアセタール樹脂(a−4)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、165℃であった。
【0152】
〈ポリアセタール樹脂(a−5)〉
熱媒を通すことができるジャッケット付きの2軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8)を80℃に調整した。次いで、トリオキサンを4kg/hr、コモノマーとして1,3−ジオキソランを42.8g/h(トリオキサン1molに対して、0.039mol)の割合で前記重合機に連続的に添加した。さらに、重合触媒として三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1molに対して1.5×10-5molの割合で前記重合機に連続的に添加し重合を行った。得られた粗ポリアセタール1000質量部にトリフェニルホスフィン0.8質量部を添加し、均一に混合してポリアセタール樹脂(a−5)を得た。
【0153】
得られたポリアセタール樹脂(a−5)のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。
【0154】
また、得られたポリアセタール樹脂(a−5)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、165℃であった。
【0155】
〈ポリアセタール樹脂(a−6)〉
メルトフローレイトが1.5g/10分になるように連鎖移動剤のメチラールの量を変更した以外はポリアセタール樹脂(a−1)と同様にして、ポリアセタール樹脂(a−6)を得た。得られたポリアセタール樹脂(a−6)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、165℃であった。
【0156】
〈ポリアセタール樹脂(a−7)〉
メルトフローレイトが15g/10分になるように連鎖移動剤のメチラールの量を変更した以外はポリアセタール樹脂(a−1)と同様にして、ポリアセタール樹脂(a−7)を得た。得られたポリアセタール樹脂(a−7)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、165℃であった。
【0157】
〈ヒドラジン誘導体(B)および化合物(C)〉
カルボン酸ヒドラジド(bc−1)としてアジピン酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−2)としてセバシン酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−3)としてドデカン二酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−4)としてイソフタル酸ジヒドラジドを、カルボン酸ヒドラジド(bc−5)としてテレフタル酸ジヒドラジドをそれぞれ準備した。これらの中から適宜選択して、上記ヒドラジン誘導体(B)および上記化合物(C)として用いた。
【0158】
上記カルボン酸ヒドラジド(bc−1)〜(bc−5)のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めた。結果を表1に示す。
【0159】
【表1】

[ベント付2軸押出機]
実施例および比較例において、ベント付2軸押出機として東芝機械社製TEM26SSを用いた。
【0160】
[実施例1〜14]
表2に示した種類および割合で、ポリアセタール樹脂(A)、ヒドラジン誘導体(B)化合物(C)を添加してタンブラーで混合し原料組成物を得た。得られた原料組成物を、ベント付2軸押出機により200℃で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0161】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0162】
また、各実施例で用いたヒドラジン誘導体(B)および化合物(C)の混合物のDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めた。結果を表2に示す。
【0163】
また、実施例1および実施例4〜14で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。同様にして測定した実施例2および実施例3で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトは、順に5g/10分、10g/10分であった。
【0164】
[比較例1]
ポリアセタール樹脂(a−1)100質量部を、ベント付2軸押出機で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0165】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0166】
また、比較例1で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。
【0167】
[比較例2]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−2)を用いた以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0168】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0169】
また、比較例2で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で5g/10分であった。
【0170】
[比較例3]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−3)を用いた以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0171】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0172】
また、比較例3で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で10g/10分であった。
【0173】
[比較例4]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−4)を用いた以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0174】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0175】
また、比較例4で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。
【0176】
[比較例5]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−5)を用いた以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0177】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0178】
また、比較例5で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。
【0179】
[比較例6〜13]
ポリアセタール樹脂(a−1)100質量部に対して、表3に示した種類および割合でカルボン酸ヒドラジドを添加してタンブラーで混合し原料組成物を得た。得られた原料組成物を、ベント付2軸押出機により200℃で溶融混錬することによりポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0180】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0181】
また、比較例6〜13で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で3g/10分であった。
【0182】
また、比較例6〜13で用いたカルボン酸ヒドラジドのDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めた。結果を表3に示す。
【0183】
比較例6、13で用いたカルボン酸ヒドラジド単独の最大吸熱ピーク温度(℃)は比較例6では171℃、比較例13では180℃であった。比較例7〜10では、それぞれ、用いた2種のカルボン酸ヒドラジドの混合物を最大吸熱ピーク温度(℃)は存在しなかった。比較例11および12で用いた2種のカルボン酸ヒドラジドの混合物の最大吸熱ピーク温度(℃)は、順に172℃、168℃であった。
【0184】
[比較例14]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−6)を用いた以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0185】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0186】
また、比較例14で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で1.5g/10分であった。
【0187】
また、比較例14で用いたカルボン酸ヒドラジドのDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、154℃であった。
【0188】
[比較例15]
ポリアセタール樹脂(a−1)に代えてポリアセタール樹脂(a−7)を用いた以外は比較例1と同様にして、ポリアセタール樹脂組成物のペレットを製造した。
【0189】
得られたペレットを用いて、上述のようにして、大型平板での耐モールドデポジット(MD)性評価、曲げ疲労特性評価および当該試験前後のホルムアルデヒド発生量測定、ならびに引張りクリープ特性評価および当該試験前後でのホルムアルデヒド発生量測定を行った。結果を表4に示す。
【0190】
また、比較例15で得られたポリアセタール樹脂組成物のメルトフローレイトを、上述のとおりASTM−D1238に準じて測定したところ、190℃、2169gの条件下で15g/10分であった。
【0191】
また、比較例15で用いたカルボン酸ヒドラジドのDSC曲線における最大吸熱ピーク温度(℃)を、上述のとおり求めたところ、154℃であった。
【0192】
【表2】

【0193】
【表3】

【0194】
【表4】

表に示す結果より、本発明によれば、ポリアセタール樹脂組成物の成形において、成形サイズが大きくなったり、多数個取りの金型を用いる場合でも、金型内でのモールドデポジットの生成を抑制できることがわかった。また、高温下で長期間応力がかかったまま使用した場合や、繰返し応力がかかる場合でも、ホルムアルデヒド発生量が安定して少ない自動車内装・機構部品を提供することができることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0195】
本発明に係る自動車内装・機構部品は、ポリアセタール樹脂が持つ機械物性バランスを有し、また、自動車内装・機構部品の製造において、成形サイズが大きくなったり、多数個取りの金型を用いる場合でも、金型内でのモールドデポジットの生成を抑制できる。さらに、本発明に係る自動車内装・機構部品は、高温下で長期間応力がかかったまま使用した場合や、繰返し応力がかかる場合でも、ホルムアルデヒドの発生量が安定して少ない。
【符号の説明】
【0196】
A;全長 :108mm
B;両端の幅 :15mm
C;平行部分の長さ :33mm
D;平行部分の幅 :6mm
E;標線間距離 :25mm
F;つかみ具間距離 :65mm
G;厚さ :3mm

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂(A)と、ヒドラジン誘導体(B)と、当該ヒドラジン誘導体(B)の融点を低下させる化合物(C)とを含有する原料組成物から得られ、下記条件式(1)および(2)を満たし、メルトフローレイトが2〜10g/10分であるポリアセタール樹脂組成物を用いて得られる自動車内装・機構部品。
T1<T2 (1)
T1<T3 (2)
(式(1)および(2)中、
T1は、示差走査熱量計を用いて、前記ヒドラジン誘導体(B)および前記化合物(C)の混合物に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記混合物が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、
T2は、示差走査熱量計を用いて、前記ヒドラジン誘導体(B)に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記ヒドラジン誘導体(B)が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)であり、
T3は、示差走査熱量計を用いて、前記ポリアセタール樹脂(A)に対して、下記(I)〜(III)の操作を順に行った後に、前記ポリアセタール樹脂(A)が融解するまで2.5℃/分の速度で昇温したときに得られる吸熱ピークのうち、吸熱容量が最も大きな吸熱ピークの頂点を示す温度(℃)である。
(I)測定対象成分の最初の吸熱ピークよりも低い温度から、前記測定対象成分が融解する温度まで320℃/分の速度で昇温する。
(II)前記測定対象成分が融解した温度で2分間保持する。
(III)100℃まで10℃/分の速度で降温する。)
【請求項2】
前記メルトフローレイトが2〜5g/10分である請求項1に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項3】
前記自動車内装・機構部品が、ドア、サンルーフ、シートベルト、スイッチ、クリップ、シートおよびワイパーからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項4】
VDA275により算出されるホルムアルデヒド発生量が、2mg/kg以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項5】
VDA275により算出されるホルムアルデヒド発生量が、1mg/kg以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項6】
前記化合物(C)が、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるヒドラジン誘導体である請求項1〜5のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項7】
前記ヒドラジン誘導体(B)が、カルボン酸ヒドラジドであり、
前記化合物(C)が、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるカルボン酸ヒドラジドである請求項1〜6のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項8】
前記ヒドラジン誘導体(B)が、下記一般式(i)で表されるカルボン酸ジヒドラジドであり、
前記化合物(C)が、前記ヒドラジン誘導体(B)とは異なるカルボン酸ヒドラジドである請求項1〜7のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【化1】

(式(i)中、R1は2価の置換または無置換の炭化水素基を示す。)
【請求項9】
前記ヒドラジン誘導体(B)が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジドである請求項1〜8のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項10】
前記ヒドラジン誘導体(B)が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジド(b)であり、
前記化合物(C)が、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドおよびドデカン二酸ジヒドラジドからなる群より選ばれる1種以上のカルボン酸ジヒドラジド(c)である(ただし、前記カルボン酸ジヒドラジド(b)と前記カルボン酸ジヒドラジド(c)とは互いに異なる。)請求項1〜9のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項11】
前記ポリアセタール樹脂(A)100質量部に対して、前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との合計含有量が0.03〜0.2質量部である請求項1〜10のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項12】
前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との質量比((B):(C))が、2:8〜8:2である請求項1〜11のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項13】
前記ヒドラジン誘導体(B)と前記化合物(C)との質量比((B):(C))が、3:7〜7:3である請求項1〜12のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項14】
前記ポリアセタール樹脂(A)が、ポリアセタールコポリマーである請求項1〜13のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。
【請求項15】
前記ポリアセタール樹脂(A)が、メチラールを連鎖移動剤として用いて得られるポリアセタールコポリマーである請求項1〜14のいずれか一項に記載の自動車内装・機構部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−219594(P2011−219594A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89329(P2010−89329)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】