説明

自動車油圧ブレーキ装置の低圧蓄圧器の予充填方法および自動車ブレーキ装置

本発明は、切換弁(8)と、油圧ポンプ(9)と、出口弁(13)と、および油圧ポンプ(9)の吸込配管(6)内に配置されている低圧蓄圧器(14)とを含む自動車ブレーキ装置(17)の低圧蓄圧器(14)の予充填方法に関するものである。低圧蓄圧器(14)は、足踏みブレーキ・ペダル(1)の操作がセンサによりモニタリングされ、および操作が行われたとき、車輪ブレーキ(11)に作用しているブレーキ圧力を閉じ込めるために切換弁(8)が閉鎖され、およびブレーキ圧力を低圧蓄圧器(14)内に放出させるために出口弁(13)の少なくとも1つが開放されるとき、特に簡単に且つ騒音なしに予充填可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の上位概念に記載の自動車ブレーキ装置の低圧蓄圧器の予充填方法並びに請求項7の上位概念に記載の自動車ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走行動特性制御(ESP)またはトラクション・コントロールを実行するように設計されている最新の自動車ブレーキ装置は通常油圧ポンプを含み、油圧ポンプは制御装置により操作される。危険な走行状況においては油圧ポンプが自動的に操作され且つ車輪ブレーキに作用するブレーキ圧力を上昇させ、この場合、油圧ポンプはブレーキ液をブレーキ液容器または低圧蓄圧器から吸い込む。車輪におけるブレーキ圧力は、通常、入口弁および出口弁の操作により調節され、一方、油圧ポンプは所定の定格出力で運転し且つ切換弁と組み合わせて系を系圧力に設定する。
【0003】
図1は、例として、走行動特性制御を実行するように設計されている、従来技術から既知の油圧ブレーキ装置17を示す。ブレーキ装置17は、対称に形成されているX分配の2つのブレーキ回路19a、19bを含む。したがって、以下においては、図の左側に示されている部分19aのみが参照される。
【0004】
ブレーキ装置17は足踏みブレーキ・ペダル1とブレーキ力増幅装置2とを含み、ブレーキ力増幅装置2は、それと接続されたマスタ・ブレーキ・シリンダ4を有し、マスタ・ブレーキ・シリンダ4上にブレーキ液容器3が配置されている。足踏みブレーキ・ペダル1を操作したとき、マスタ・ブレーキ配管5a、5b内に対応圧力が発生され、この圧力は切換弁8aおよび2つの入口弁10a、10bを介して右前車輪(RF)および左後車輪(LR)の車輪ブレーキ11に作用する。足踏みブレーキ・ペダル1を操作したときに圧力が上昇する経路が矢印bにより示されている。この基本状態(電流が流れていない状態)においては、切換弁8aは開放されおよびそれに並列に配置されている高圧切換弁7aは閉鎖されている。切換弁8aは、足踏みペダル運転と、系それ自身による能動的圧力上昇を有する自動制御運転との間の切換を行うように作動する。
【0005】
走行動特性制御が作動したとき、油圧ポンプ9aないしはそのモータ16が制御装置18により操作され且つ車輪ブレーキ11に作用しているブレーキ圧力が自動的に上昇される。この制御状態においては、切換弁8aは操作され且つマスタ・ブレーキ・シリンダ4と油圧ポンプ9aとの間に配置されている高圧切換弁7aは開放されている。このとき油圧ポンプ9aは油圧液を経路aに沿って車輪ブレーキ11に供給する。したがって、油圧液は、ブレーキ液容器3から、マスタ・ブレーキ配管5a、高圧切換弁7a、吸込配管6a、油圧ポンプ9aおよびさらに入口弁10a、10bを経由して車輪ブレーキ11内に流入する。ブレーキ圧力を調節するためには、入口弁10a、10b(機能「圧力保持」)および出口弁13a、13b(機能「圧力低下」)がそれに対応して開放または閉鎖される。状態「圧力低下」においては油圧液は出口弁13a、13bを介して低圧蓄圧器14a内に流入し、低圧蓄圧器14aから油圧ポンプ9aは油圧液を吸い込み且つ油圧液を系圧力回路内ないしは車輪ブレーキ11にポンピングにより戻す。
【0006】
走行動特性制御装置の急速応答は、特に、制御の開始時に油圧ポンプ9aにより吸込み可能な十分な油圧液が低圧蓄圧器14a内に含まれているときに可能である。制御の前に低圧蓄圧器14aの十分な液面レベルを保証するために、低圧蓄圧器14aを一部充填すること(予充填)が既知である。このために、油圧ポンプ9aが操作され且つ弁7aおよび13aが開放され、これにより油圧液は低圧蓄圧器14a内にポンピングされる。この過程において、油圧ポンプ9aの運転および弁7aおよび13aの操作により比較的大きな騒音が発生し、この騒音が不快感を与え且つドライバをいらいらさせることがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、蓄圧器を予充填するために油圧ポンプが操作される必要がなく、これにより不快な騒音もまた発生しない、低圧蓄圧器の予充填方法ないしはそれに対応して設計されたブレーキ装置を提供することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明により、請求項1並びに請求項7に与えられている特徴によって解決される、本発明の他の形態が従属請求項から明らかである。
本発明の本質的な考え方は、ドライバがブレーキ・ペダルを操作したときに発生される圧力を、低圧蓄圧器を予充填するために利用することにある。このために、本発明により、足踏みブレーキ・ペダルの操作がセンサによりモニタリングされ、および操作が検出されたとき、はじめに、車輪ブレーキに作用しているブレーキ圧力を閉じ込めるために、車輪ブレーキの手前に配置されている弁(好ましくは切換弁)が閉鎖され、次に、切換弁によりなお閉じ込められたままである圧力を低圧蓄圧器内に放出させるために少なくとも1つの出口弁が開放される。この予充填方法は、油圧ポンプが操作される必要はなく、低圧蓄圧器がブレーキ操作のみにより充填されるという利点を有している。これにより、特に油圧ポンプの不快な始動騒音が発生することはない。
【0009】
ブレーキ・ペダルが操作中に下方に急落することがないように、切換弁の閉鎖後にはじめて出口弁が開放されることが好ましい。
本発明による予充填方法は、車両の停止中、走行開始(即ち本来の発進)前に実行されることが好ましく、およびさらに点火投入前に開始されることが好ましい。足踏みブレーキ・ペダルの操作を検出するためのセンサ装置は、この場合、センサ装置が点火投入前に既に作動可能なように設計されるべきである。
【0010】
エンジンの始動前ないしは少なくとも発進前に予めドライバにブレーキ操作を行わせるために、(オートマチックレバーを走行位置に移動させるために足踏みブレーキが操作されなければならない自動変速機を有する車両においてと同様に)ドライバがその間に足踏みブレーキ・ペダルを操作しているときにのみ一般に内燃機関の始動が可能であるように車両が調整されていることが好ましい。
【0011】
ブレーキ・ペダル操作を検出するために、例えば(通常既に存在している)供給圧力センサが評価されても、またはブレーキ・ペダルにストローク・センサまたは力センサが設けられている場合にペダル値伝送器が評価されてもよい。
【0012】
本発明の好ましい実施形態により、予充填方法は次のように行われる。第1のステップにおいて、ドライバによる足踏みブレーキ・ペダルの操作がセンサにより検出され且つ所定のブレーキ圧力に到達したのちに切換弁が閉鎖される。ドライバが再びブレーキ・ペダルを放し且つブレーキ圧力(供給圧力)が所定の値を再び下回ったのちに、ブレーキ圧力を低圧蓄圧器内に放出させるために出口弁の少なくとも1つが開放される。したがって、出口弁は、ブレーキ・ペダルを放したのちにはじめて開放されることが好ましく、その理由は、車両が坂道上に停止しているとき、車両が意図せずに転がり発進することが阻止されるべきであるからである。
【0013】
低圧蓄圧器を予充填したのちに、操作された弁は再びその初期位置に戻されることが好ましい。
その他のブレーキ装置からあまり多くのブレーキ液をとり過ぎないようにするために、低圧蓄圧器は所定の充填レベルまで充填されるにすぎないことが好ましい。このために、低圧蓄圧器は液面レベル・センサを含むことが好ましく、液面レベル・センサは対応液面レベル情報を制御装置に提供する。所定の液面レベルに到達したとき、低圧蓄圧器への配管が遮断され且つ残留圧力は切換弁を介してマスタ・ブレーキ・シリンダの方向に導かれることが好ましい。
【0014】
油圧ポンプが液を蓄圧器から吸い込んだ例えば走行動特性制御の係合後に、低圧蓄圧器の液面レベルが再び所定のレベルにもたらされることが好ましい。これは既知のように油圧ポンプにより制御されても、または上記のように足踏みブレーキ・ペダルの操作により行われてもよい。これにより、次の制御係合に対しても同じ始動条件が存在し、したがって制御装置の急速応答が実行可能であることが保証されている。
【0015】
それに対応して予充填方法を実行するように調整されている自動車ブレーキ装置は、制御可能な弁および油圧ポンプのほかに、それにより油圧ポンプおよび制御可能な弁が操作される制御装置をも含む。制御装置は、本発明により、上記予充填方法が実行可能なようにプログラミングされている。
【0016】
以下に本発明を添付図面の例により詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1はX分配の既知の自動車ブレーキ装置17を示す。個々の要素および機能方法の説明に関しては明細書の導入部が参照される。
従来技術から既知である同じ構造の自動車ブレーキ装置とは異なり、このブレーキ装置17は、低圧蓄圧器14aないしは14bを予充填するためにブレーキ・ペダル操作が利用される予充填手順を実行するように設計されている。これにより、例えば走行運転中に走行動特性制御が作動する安全上危険な走行状況の場合、油圧ポンプ9aないしは9bが急速に吸込み可能な十分なブレーキ液が、低圧蓄圧器に貯蔵されていることが達成される。この場合、予充填方法は制御装置18により制御され、制御装置18は弁7、8、10、13と、液面レベル・センサ20と、および供給圧力センサ21と結合されている。
【0018】
図2は低圧蓄圧器14a、14bの予充填における本質的な方法ステップを有する流れ図を示す。ステップ30において、はじめに、点火スイッチがオフであり且つ車両が停止状態にあるかどうかが決定される。否定(N)の場合、方法は終了される。肯定(Y)の場合、ステップ31において、供給圧力センサ21(または他のセンサ装置)により、ドライバが足踏みブレーキ・ペダル1を操作し且つブレーキ圧力が所定のしきい値を超えているかどうかが検査される。肯定(Y)の場合、切換弁が閉鎖され、これによりブレーキ圧力が車輪ブレーキ11に閉じ込められる(ステップ32)。
【0019】
車両の始動時にドライバにブレーキ操作を行わせるために、ドライバが常用ブレーキを操作しているときにのみ内燃機関が始動されるように車両が調整されていることが好ましい。ステップ33において、このとき内燃機関は始動可能である。
【0020】
ステップ34において、始動後にドライバがブレーキ・ペダルを再び放したかどうかが検査される。これは同様に供給圧力センサ21によりモニタリングされてもよい。ブレーキ圧力(供給圧力)が所定のしきい値を下回っているとき(肯定Yの場合)、ステップ35において、出口弁13a、13bないしは13c、13dの少なくとも1つが開放され且つ閉じ込められている圧力が低圧蓄圧器14a、14b内に放出される。否定(N)の場合、供給圧力が再びモニタリングされる。
【0021】
予充填の間に、低圧蓄圧器14a、14bの液面レベルが液面レベル・センサ20によりモニタリングされる。液面レベルが所定のレベルを超えたとき、残留ブレーキ圧力はマスタ・ブレーキ・シリンダ4の方向に戻される。このために、切換弁8が再び開放され且つ出口弁13が閉鎖される。
【0022】
低圧蓄圧器14a、14bを予充填したのちに、ステップ36において、弁8、13が再びその初期位置(電流が流れていないとき開放され、ないしは電流が流れていないとき閉鎖される)に戻される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、蓄圧器の予充填を実行するように調整されている、従来技術から既知の自動車ブレーキ装置を示す。
【図2】図2は、低圧蓄圧器の予充填方法の本質的な方法ステップを流れ図の形で示す。
【符号の説明】
【0024】
1 足踏みブレーキ・ペダル
2 ブレーキ力増幅装置
3 ブレーキ液容器
4 マスタ・ブレーキ・シリンダ
5a、5b マスタ・ブレーキ配管
6a、6b 吸込配管
7a、7b 高圧切換弁
8a、8b 切換弁
9a、9b 油圧ポンプ
10a−10d 入口弁
11 車輪ブレーキ
12 ブレーキ・ディスク
13a−13d 出口弁
14a、14b 低圧蓄圧器
15a、15b 逆止弁
16 ポンプ・モータ
17 ESP油圧装置
18 制御装置
19a、19b ブレーキ回路
20 液面レベル・センサ
21 供給圧力センサ
30−36 方法ステップ
RF 右前車輪
LR 左後車輪
RR 右後車輪
LF 左前車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスタ・ブレーキ・シリンダ(4)と車輪ブレーキ(11)との間に配置されている弁(8)と、車輪ブレーキ(11)の後方に配置されている出口弁(13)と、油圧ポンプ(9)の吸込配管(6)内に配置されている低圧蓄圧器(14)とを含む自動車ブレーキ装置(17)の低圧蓄圧器(14)の予充填方法において、
次のステップ、即ち
− 足踏みブレーキ・ペダル(1)の操作によりブレーキ圧力を上昇させるステップと、
− 車輪ブレーキ(11)に作用するブレーキ圧力を閉じ込めるために弁(8)を閉鎖するステップと、
− ブレーキ圧力を低圧蓄圧器(14)内に放出させるために出口弁(13)を開放するステップと、
を備えたことを特徴とする自動車ブレーキ装置の低圧蓄圧器の予充填方法。
【請求項2】
低圧蓄圧器(14)の予充填が走行開始前ないしは走行開始時に確保されているように予充填方法が早めに実行されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
足踏みブレーキ・ペダル(1)の操作および弁(8)の閉鎖が自動車の点火投入前に行われることを特徴とする請求項1または2の方法。
【請求項4】
ドライバがブレーキ・ペダル(1)を放し且つ供給圧力がしきい値を下回ったとき、出口弁(13)が開放されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの方法。
【請求項5】
低圧蓄圧器(14)が所定の液面レベルまで充填されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの方法。
【請求項6】
低圧蓄圧器(14)の液面レベルは、油圧ポンプ(9)が操作された制御作動後に、所定のレベルにもたらされることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかの方法。
【請求項7】
マスタ・ブレーキ・シリンダ(4)と車輪ブレーキ(11)との間に配置されている弁(8)と、車輪ブレーキ(11)の後方に配置されている出口弁(13)と、油圧ポンプ(9)と、油圧ポンプ(9)の吸込配管(6)内に配置されている低圧蓄圧器(14)と、油圧ポンプ(9)および弁(8、10、13)を操作するための制御装置(18)とを有する自動車ブレーキ装置において、
足踏みブレーキ・ペダル(1)の操作がセンサにより検出され且つその操作が行われた場合に、車輪ブレーキ(11)に作用するブレーキ圧力を閉じ込めるために弁(8)が閉鎖され、およびブレーキ圧力を低圧蓄圧器(14)内に放出させるために出口弁(13)を開放して低圧蓄圧器(14)の予充填が実行可能なように、制御装置(18)が調整されていることを特徴とする自動車ブレーキ装置。
【請求項8】
足踏みブレーキ・ペダル(1)の操作が自動車の点火投入前に検出されるように、制御装置(18)が調整されていることを特徴とする請求項7のブレーキ装置。
【請求項9】
ブレーキ供給圧力がしきい値を超えているとき、制御装置(18)が弁(8)を点火投入前に閉鎖することを特徴とする請求項7または8のブレーキ装置。
【請求項10】
低圧蓄圧器(14)が液面レベル・センサ(20)を有し、液面レベル・センサ(20)により低圧蓄圧器(14)の液面レベルが測定可能であることを特徴とする請求項7、8または9のブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−534551(P2007−534551A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−510046(P2007−510046)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/053374
【国際公開番号】WO2006/027286
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】