説明

自動車用ステアリング装置

【課題】二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、コラム側ブラケット12bを車体側ブラケット11に対し支持する部分の構成部材の損傷を防止できる構造を実現する。
【解決手段】前記車体側ブラケット11と前記コラム側ブラケット12bとをそれぞれの幅方向中央部1箇所のみで、係止カプセル49により結合する構造を採用する。前記コラムブラケット12bの左右両側に突出した1対の張り出し部55、55の上端縁を、前記車体側ブラケット11の折り曲げ縁部57の下端縁に近接対向させる。ステアリングロック装置を作動させたままステアリングホイールを回転させようとした結果、前記コラム側ブラケット12bに大きなモーメントが加わっても、このコラムブラケット12bが過度に傾斜しない様にして、前記損傷を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、運転席に設けたステアリングホイールの操作に基づいて前輪に舵角を付与する為の自動車用ステアリング装置の改良に関する。具体的には、衝突事故の際に運転者の身体からこのステアリングホイールに加わった衝撃エネルギを吸収しつつこのステアリングホイールの前方への変位を可能とする衝撃吸収式ステアリング装置に関して、この変位を円滑に行えて、しかも必要とする剛性を確保できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用ステアリング装置は、図5に示す様に構成して、ステアリングホイール1の回転をステアリングギヤユニット2の入力軸3に伝達し、この入力軸3の回転に伴って左右1対のタイロッド4、4を押し引きして、前車輪に舵角を付与する様にしている。前記ステアリングホイール1は、ステアリングシャフト5の後端部に支持固定されており、このステアリングシャフト5は、円筒状のステアリングコラム6を軸方向に挿通した状態で、このステアリングコラム6に回転自在に支持されている。又、前記ステアリングシャフト5の前端部は、自在継手7を介して中間シャフト8の後端部に接続し、この中間シャフト8の前端部を、別の自在継手9を介して、前記入力軸3に接続している。尚、前記中間シャフト8は、トルクを伝達可能に、且つ、衝撃荷重により全長を収縮可能に構成している。そして、衝突事故の際(次述する一次衝突の際)に、前記ステアリングギヤユニット2の後方への変位に拘らず、前記ステアリングシャフト5を介して前記ステアリングホイール1が後方に向けて変位する(運転者の身体に向けて突き上げられる)事を防止できる様に構成している。
【0003】
上述の様な自動車用ステアリング装置は、衝突事故の際に、衝撃エネルギを吸収しつつ、ステアリングホイールを前方に変位させる構造にする事が、運転者の保護の為には必要である。即ち、衝突事故の際には、自動車が他の自動車等にぶつかる一次衝突に続いて、運転者の身体がステアリングホイール1に衝突する二次衝突が発生する。この二次衝突の際に、運転者の身体に加わる衝撃を緩和して、運転者の保護を図る為に、前記ステアリングホイール1を支持したステアリングコラム6を車体に対して、二次衝突に伴う前方への衝撃荷重により前方に離脱可能に支持すると共に、前記ステアリングコラム6と共に前方に変位する部分と車体との間に、塑性変形する事で前記衝撃荷重を吸収するエネルギ吸収部材を設ける事が、例えば特許文献1〜2に記載される等により従来から知られており、且つ、広く実施されている。
【0004】
図6〜7は、従前のステアリング装置の1例を示している。ステアリングコラム6aの前端部に、電動式パワーステアリング装置を構成する減速機等を収納するハウジング10を固定している。又、前記ステアリングコラム6aの内側にステアリングシャフト5aを、回転のみ自在に支持しており、このステアリングシャフト5aの後端部で前記ステアリングコラム6aの後端開口から突出した部分に、ステアリングホイール1(図5参照)を固定自在としている。そして、前記ステアリングコラム6a及びハウジング10を、車体に固定された部分である車体側ブラケット11(本発明の実施の形態の1例を示す、図1〜4参照)に対し、前方に向いた衝撃荷重に基づいて前方への離脱を可能に支持している。
【0005】
この為に、前記ステアリングコラム6aの中間部に支持したコラム側ブラケット12と、前記ハウジング10に支持したハウジング側ブラケット13とを、何れも前方に向いた衝撃荷重により前方に離脱する様に、車体に対し支持している。前記両ブラケット12、13は何れも、1乃至2箇所の取付板部14a、14bを備え、これら各取付板部14a、14bに、それぞれ後端縁側に開口する切り欠き15a、15bを形成している。そして、これら各切り欠き15a、15bを覆う状態で前記両ブラケット12、13の左右両端寄り部分に、それぞれ滑り板16a、16bを組み付けている。
【0006】
これら各滑り板16a、16bはそれぞれ、表面に、例えばポリアミド樹脂(ナイロン)、ポリ四フッ化エチレン樹脂(PTFE)等の滑り易い合成樹脂製の層を形成した、炭素鋼板、ステンレス鋼板等の金属薄板を曲げ形成する事により、上下両板部の後端縁同士を連結板部により連結した、大略コ字形としている。そして、それぞれの上下両板部の互いに整合する部分に、ボルト若しくはスタッドを挿通する為の通孔を形成している。前記各滑り板16a、16bを前記各取付板部14a、14bに装着した状態で、前記各通孔は、それぞれこれら各取付板部14a、14bに形成した、前記各切り欠き15a、15bに整合する。
【0007】
前記両ブラケット12、13は、前記各取付板部14a、14bの切り欠き15a、15b及び前記各滑り板16a、16bの通孔を挿通した、ボルト若しくはスタッドとナットとを螺合し更に締め付ける事により、前記車体側ブラケット11に支持する。二次衝突時には前記ボルト若しくはスタッドが、前記各滑り板16a、16bと共に前記各切り欠き15a、15bから抜け出して、前記ステアリングコラム6a及び前記ハウジング10が、前記両ブラケット12、13及びステアリングホイール1と共に前方に変位する事を許容する。
【0008】
又、図示の例の場合には、前記ボルト若しくはスタッドと前記コラム側ブラケット12との間にエネルギ吸収部材17、17を設けている。そして、このコラム側ブラケット12が前方に変位するのに伴ってこれら両エネルギ吸収部材17、17を塑性変形させ、前記ステアリングホイール1から、前記ステアリングシャフト5a及び前記ステアリングコラム6aを介して前記コラム側ブラケット12に伝わった衝撃エネルギを吸収する様にしている。
【0009】
二次衝突時には、図8に示す様に、前記両ボルト若しくはスタッドが前記両切り欠き15a、15aから抜け出して、前記コラム側ブラケット12が前方に変位する事を許容する。そして、前記ステアリングコラム6aが、このコラム側ブラケット12と共に前方に変位する。この際、前記ハウジング側ブラケット13に関しても、前記車体から離脱し、このハウジング側ブラケット13が前方に変位する事を許容する。そして、前記コラム側ブラケット12の前方への変位に伴って、前記両エネルギ吸収部材17、17が塑性変形し、運転者の身体から、ステアリングシャフト5a及び前記ステアリングコラム6aを介して前記コラム側ブラケット12に伝わった衝撃エネルギを吸収し、前記運転者の身体に加わる衝撃を緩和する。
【0010】
上述の図6〜8に示した従前の構造の場合、前記コラム側ブラケット12を左右両側2箇所位置で前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に前方への離脱を可能に支持している。従って、二次衝突時には、左右1対の支持部の係合を同時に外れさせる事が、前記ステアリングホイール1を前方に、安定して(二次衝突発生の瞬間の状態のまま傾斜させずに)変位させる面から重要になる。一方、前記両支持部の係合を同時に外れさせる為のチューニングは、これら両支持部を外れさせる事に対する抵抗(摩擦抵抗、剪断抵抗等)や、前記ステアリングコラム6aと共に前方に変位する部分の慣性質量に関する左右のアンバランス等の影響がある為、手間の掛かる作業になる。
【0011】
この様な問題を解決して、二次衝突時にステアリングコラムの前方への離脱を安定させる為には、特許文献1に記載された構造を採用する事が効果がある。図9〜11は、この特許文献1に記載された従来構造を示している。この従来構造の場合には、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事のない車体側ブラケット11aの幅方向中央部に係止切り欠き18を、この車体側ブラケット11aの前端縁側が開口する状態で形成している。又、ステアリングコラム6b側にコラム側ブラケット12aを支持固定して、二次衝突時にこのコラム側ブラケット12aを、前記ステアリングコラム6bと共に前方に変位可能としている。
【0012】
更に、このコラム側ブラケット12aに固定した係止カプセル19の左右両端部を、前記係止切り欠き18に係止している。即ち、この係止カプセル19の左右両側面にそれぞれ形成した係止溝20、20を、前記係止切り欠き18の左右両側縁部に係合させている。前記車体側ブラケット11aと前記係止カプセル19とは、前記両係止溝20、20と前記係止切り欠き18の両側縁部とを係合させた状態で、これら両部材11a、19の互いに整合する部分に形成した係止孔21a、21bに係止ピン22、22(図11にのみ図示)を圧入する事で結合する。これら各係止ピン22、22は、アルミニウム系合金、合成樹脂等の、二次衝突時に加わる衝撃荷重で裂断する、比較的軟質の材料により造っている。
【0013】
二次衝突時に、前記ステアリングコラム6bから前記コラム側ブラケット12aを介して、前記係止カプセル19に、前方に向いた衝撃荷重が加わると、前記各係止ピン22、22が裂断する。そして、前記係止カプセル19が前記係止切り欠き18から前方に抜け出して、前記ステアリングコラム6b(及びステアリングシャフトを介してこのステアリングコラム6bに支持されたステアリングホイール)が前方に変位する事を許容する。
【0014】
上述の図9〜11に示した従来構造の場合、前記コラム側ブラケット12aに固定した係止カプセル19と前記車体側ブラケット11aとの係合部が、幅方向中央部の1箇所のみである。この為、二次衝突時にこの係合部を外し、前記ステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易になる。但し、前記両部材12a、11a同士の係合部を、幅方向中央部の1箇所のみにした事に伴って、前記ステアリングコラム6bから前記コラム側ブラケット12aにこのステアリングコラム6b周り(このステアリングコラム6bの中心軸を中心として回転する方向)に加わる、モーメントに対する剛性が低くなる。
【0015】
通常の使用状態では、この剛性が多少低い事は特に問題とはならない。但し、前記ステアリングコラム6bと、このステアリングコラム6bの内側に回転自在に支持したステアリングシャフト5b(次述する図12参照)との間に、例えば特許文献3〜4に記載される等により従来から広く知られた、盗難防止用のステアリングロック装置を設けた構造を設けた場合に、次の様な問題を生じる。この問題を説明する為に、先ず、ステアリングロック装置の基本的構造に就いて、図12により、簡単に説明する。
【0016】
ステアリングコラム6cに支持固定した図示しないイグニッションケースに、キーロックピン23を設け、このキーロックピン23を、イグニッションキーの操作に基づいて前記ステアリングコラム6cの径方向に変位させる様にしている。一方、このステアリングコラム6cの内径側に回転自在に支持されたステアリングシャフト5bの外周面にキーロックカラー24を、溶接等により固定している。このキーロックカラー24には、前記キーロックピン23の先端部を係合させる為のキーロック孔25を、円周方向複数箇所に設けている。このキーロックピン23は、前記イグニッションキーを運転状態に操作した場合には、前記ステアリングコラム6cの径方向外方に退避して、前記キーロックカラー24との係合が外れる。この状態では、前記ステアリングシャフト5bは、前記ステアリングコラム6c内で自由に回転できる。これに対して、前記イグニッションキーを、エンジンを停止させ、更にこのイグニッションキーを抜き取れる状態に操作した場合には、前記キーロックピン23が前記ステアリングコラム6cの径方向内方に弾性的に押される。そして、このキーロックピン23と前記キーロック孔25との位相が一致した状態で、図12に示す様に、これらキーロックピン23とキーロックカラー24とが係合する。この状態では、前記ステアリングシャフト5bは、前記ステアリングコラム6c内で回転する事がなくなる。
【0017】
この様に、前記ステアリングロック装置を作動させた状態で、前記ステアリングシャフト5bの後端部に支持固定したステアリングホイールに回転方向の力を加えると、この力(このステアリングシャフト5bを中心とするモーメント)が、このステアリングシャフト5bと、前記キーロックカラー24と、前記キーロックピン23と、前記イグニッションケースと、前記ステアリングコラム6cとを介して、前記コラム側ブラケット12aに加わる。このコラム側ブラケット12aが、前述の図6に示した様に、幅方向両端部の2箇所位置で車体に支持されていれば、前記モーメントに対する剛性を十分に確保できて、特に問題を生じる事はない。これに対して、前記コラム側ブラケット12aを、前述の図9〜11に示す様に、幅方向中央部の1箇所のみで支持すると、前記モーメントに対する剛性が低くなる。具体的には、図9〜11中の係止カプセル19と車体側ブラケット11aとの係合部に大きな力が加わる。そして、この力に伴って、これら係止カプセル19と車体側ブラケット11aとの相対変位量が多くなると、これら両部材19、11aのうちの一方又は双方に、亀裂、変形等の損傷を生じ、二次衝突時に於けるエネルギ吸収特性が変化してしまう可能性がある。
【0018】
尚、後述する本発明を実施する場合に関連する技術を記載した刊行物として、特許文献5〜7が存在する。このうちの特許文献5には、二次衝突時にステアリングホイールに衝突した運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為、ステアリングホイールと共にステアリングコラムが前方に変位するのに伴って塑性変形する、エネルギ吸収部材が記載されている。又、特許文献6〜7には、ステアリングホイールの位置調節可能な構造で、このステアリングホイールを調節後の位置に保持する保持力を大きくする為、複数枚の摩擦板を重ね合わせて摩擦面積を増大させる構造が記載されている。但し、これら特許文献5〜7にも、コラム側ブラケットを車体側ブラケットに対し、幅方向中央部の1箇所のみで支持する構造で、この支持部分の構成部材の損傷を防止する為の技術は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】実開昭51−121929号公報
【特許文献2】特開2005−219641号公報
【特許文献3】特開平10−86792号公報
【特許文献4】特開2009−196562号公報
【特許文献5】特開2000−6821号公報
【特許文献6】特開2007−69821号公報
【特許文献7】特開2008−100597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、コラム側ブラケットを車体側ブラケットに対し支持する部分の構成部材の損傷を防止できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の自動車用ステアリング装置は、前述の図9〜11に示した従来構造と同様に、ステアリングコラムと、ステアリングシャフトと、車体側ブラケットと、係止切り欠きと、コラム側ブラケットと、係止カプセルとを備える。
このうちのステアリングコラムは、例えば円筒状に造られている。
又、前記ステアリングシャフトは、前記ステアリングコラムの内側に回転自在に支持されており、このステアリングコラムの後端部から後方に突出した後端部にステアリングホイールを支持固定する。
又、前記車体側ブラケットは、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事がない。
又、前記係止切り欠きは、前記車体側ブラケットの幅方向中央部に形成されたもので、この車体側ブラケットの前端縁側が開口している。
又、前記コラム側ブラケットは、前記ステアリングコラム側に支持されており、二次衝突時にこのステアリングコラムと共に前方に変位する。
又、前記係止カプセルは、前記コラム側ブラケットに固定された状態で、両端部を前記係止切り欠きに係止すると共に、上端両側部をこの係止切り欠きの両側部分で前記車体側ブラケットの上側に位置させている。
更に、前記係止カプセルの一部を前記係止切り欠きの内側に位置させた状態で、この係止カプセルと前記車体側ブラケットとを、前記二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて裂断する結合部材で結合している。そして、前記コラム側ブラケットを前記車体側ブラケットに対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持している。
【0022】
特に、本発明の自動車用ステアリング装置に於いては、前記コラム側ブラケットの一部に、このコラム側ブラケットの両外側面よりも幅方向外方に突出する、左右1対の張り出し部を設けている。又、これら両張り出し部の上端縁を前記車体側ブラケットの下面に、隙間をあけて対向させている。そして、前記コラム側ブラケットに、軸方向周りのモーメントが加わってこのコラム側ブラケットが傾斜した状態で、このコラム側ブラケット及び前記係止カプセルに対し、これらコラム側ブラケット及び係止カプセルの損傷に結び付く程の力が加わる以前に、前記両張り出し部のうちの何れか一方の張り出し部の上端縁と前記車体側ブラケットの下面とが衝合し、前記コラム側ブラケットがそれ以上傾斜する事を阻止する様にしている。
この様な本発明は、請求項2に記載した発明の様に、エンジンを停止する方向へのイグニッションキーの操作に基づいて、前記ステアリングコラム内での前記ステアリングシャフトの回転を阻止するステアリングロック装置を備えた構造で実施する事が、特に有効である。
【0023】
又、上述の様な本発明を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記係止カプセルを、前記係止切り欠きの幅寸法以下の幅寸法を有する下半部と、この係止切り欠きの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する上半部とから構成する。
又、この上半部の幅方向両端部で前記下半部の幅方向両側面よりも幅方向両側に突出した部分を、鍔部とする。
又、この鍔部と、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きを幅方向両側から挟む部分との互いに整合する位置に、それぞれ小通孔を形成する。そして、前記係止カプセルの下面を前記コラム側ブラケットの上面に当接させると共に、前記鍔部の下面とこのコラム側ブラケットの上面との間で、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きの両側部分を挟持した状態で、前記鍔部に形成した小通孔と前記車体側ブラケットの一部に形成した小通孔とに、前記二次衝突に伴って裂断する材料製の結合部材を掛け渡す。
【0024】
上述の様な請求項3に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記各結合部材を、前記各小通孔内に溶融樹脂を注入するインジェクション成形により造られた、合成樹脂製の係止ピンとする。そして、これら各係止ピンを構成する合成樹脂の一部を、前記車体側ブラケットの上下両面と、前記コラム側ブラケットの上面及び前記鍔部の下面との間に進入させて、これら各面同士の間に存在する微小隙間に基づくがたつきを防止する。
【0025】
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した発明の様に、前記係止切り欠きの前後方向に関する長さを、前記係止カプセルの同方向の長さよりも大きくする。そして、前記二次衝突時に前記ステアリングコラムと共にこの係止カプセルが前方に変位した状態でも、この係止カプセルの少なくとも一部を前記車体側ブラケットの前端部の上側に位置させて、この係止カプセルが落下するのを防止する。
【発明の効果】
【0026】
上述の様に構成する本発明の自動車用ステアリング装置によれば、二次衝突時にステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、しかも、コラム側ブラケットを車体側ブラケットに対し支持する部分の構成部材の損傷を防止できる構造を実現できる。この理由は、以下の通りである。
先ず、本発明の場合には、前記コラム側ブラケットに固定した係止カプセルと、前記車体側ブラケットに形成した係止切り欠きとの係合部が、幅方向中央部の1個所のみである為、二次衝突時にこの係合部を外し、前記ステアリングホイールを前方に安定して変位させる為のチューニングが容易になる。
【0027】
前記係合部を幅方向中央部の1箇所のみにした事に伴って、前記コラム側ブラケットの、ステアリングコラム周りのモーメントに対する剛性が低くなるが、このモーメントにより、前記コラム側ブラケットと係止カプセルとの相対変位量が過大になる事はない。即ち、前記モーメントによりこのコラム側ブラケットが前記車体側ブラケットに対し揺動変位すると、この変位量が少ないうちに、このコラム側ブラケットに設けた左右1対の張り出し部のうちの何れか一方の張り出し部の上端縁が前記車体側ブラケットの下面に衝合し、前記コラム側ブラケットがそれ以上傾斜する事を阻止する。この為、このコラム側ブラケット及び前記係止カプセルに対し、これらコラム側ブラケット及び係止カプセルの損傷に結び付く程の力が加わる事がなくなる。
この為、請求項2に記載した発明の様に、ステアリングロック装置を備えた構造で、このステアリングロック装置を作動させた状態のままステアリングホイールを大きな力で回転させようとした場合でも、前記コラム側ブラケットや前記係止カプセルが損傷する事はない。
【0028】
又、請求項3に記載した発明の構造を採用すれば、前記係止カプセルの形状を単純にして、この係止カプセルの製造コストを抑えられる他、この係止カプセルを設置した部分の組み立て高さを低く抑えられる。そして、自動車用ステアリング装置の小型・軽量化を図ったり、衝撃荷重が作用する位置である、前記ステアリングコラムの中心軸と、二次衝突時に離脱する部分である、前記車体側ブラケットと前記係止カプセルとの係合部との距離を短くして、この係合部の離脱荷重を安定させる面から有利である。
特に、請求項4に記載した発明の構造を採用すれば、前記車体側ブラケットと前記コラム側ブラケットとの結合部のがたつきを防止して、このコラム側ブラケットに支持されたステアリングコラムのがたつきを防止できる。そして、このステアリングコラムに回転自在に支持されたステアリングシャフトの後端部に支持固定したステアリングホイールの操作感を良好にできる。
【0029】
更に、請求項5に記載した発明の構造によれば、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイールの上下方向位置が過度に変化する事を防止できる。即ち、前記二次衝突が進行した状態でも、この係止カプセルが前記係止切り欠きから前方に抜け出さない為、この状態でも、前記コラム側ブラケットが前記車体側ブラケットから落下する事はない。この結果、前記二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイールが上下方向に過度に変位する事がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態の1例を、後上方から見た状態で示す斜視図。
【図2】同じく、一部を省略して後方から見た状態で示す正投影図。
【図3】同じく、図2の上方から見た状態で示す平面図。
【図4】車体側ブラケットとコラム側ブラケットとの結合部の構造の2例を示す、図3のX−X断面図。
【図5】従来から知られている自動車用ステアリング装置の1例を示す、部分切断側面図。
【図6】従前の自動車用ステアリング装置の1例を、通常時の状態で示す平面図。
【図7】同じく、通常時の状態で示す側面図。
【図8】同じく二次衝突が進行した状態で示す側面図
【図9】従来構造の1例を示す、ステアリングコラムの中心軸に対し直交する方向に存在する仮想平面に関する断面図。
【図10】同じく、車体側ブラケットとコラム側ブラケットとを結合する以前の状態で示す斜視図。
【図11】同じく、ステアリングコラム及びコラム側ブラケットを省略する代わりに結合ピンを記載した状態で示す斜視図。
【図12】従来から知られているステアリングロック装置の1例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1〜4は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例は、ステアリングホイール1(図5参照)の上下位置を調節する為のチルト機構と、同じく前後位置を調節する為のテレスコピック機構との両方を備えた、チルト・テレスコピック式ステアリング装置に本発明を適用した場合に就いて示している。このうちのテレスコピック機構を構成する為に、ステアリングコラム6dを、前側のインナコラム26の後部を後側のアウタコラム27の前部に内嵌して全長を伸縮可能とした、テレスコープ状のものを使用している。そして、前記ステアリングコラム6dの内径側にステアリングシャフト5cを、回転自在に支持している。
【0032】
前記ステアリングシャフト5cは、前側に配置した円杆状のインナシャフトの後部に設けた雄スプライン部と、後側に配置した円管状のアウタシャフト28の前部に設けた雌スプライン部とをスプライン係合させる事により、トルクの伝達を可能に、且つ、伸縮を可能に構成している。前記アウタシャフト28は、後端部を前記アウタコラム27の後端開口よりも後方に突出させた状態でこのアウタコラム27の内径側に、単列深溝型の玉軸受29等、ラジアル荷重及びスラスト荷重を支承可能な軸受により、回転のみ可能に支持している。前記ステアリングホイール1は、前記アウタシャフト28の後端部に支持固定する。このステアリングホイール1の前後位置を調節する際には、このアウタシャフト28と共に前記アウタコラム27が前後方向に変位し、前記ステアリングシャフト5c及び前記ステアリングコラム6dが伸縮する。
【0033】
又、このステアリングコラム6d(を構成する前記インナコラム26)の前端部に、電動式パワーステアリング装置を構成する減速機等を収納する為のハウジング10aを、結合固定している。このハウジング10aの上面には、前記電動式パワーステアリング装置の補助動力源となる電動モータ30と、この電動モータ30への通電を制御する為の制御器31とを支持固定している。そして、前記チルト機構を構成する為に、前記ハウジング10aを車体に対し、横軸を中心とする揺動変位を可能に支持している。この為に本例の場合には、前記ハウジング10aの上部前端に支持筒32を、左右方向に設けている。そして、この支持筒32の中心孔33に挿通したボルト等の横軸により、前記ステアリングコラム6dの前端部を前記車体に対し、このステアリングコラム6dの後部を昇降させる方向の揺動変位を可能に支持する構成を採用する。
【0034】
又、前記ステアリングコラム6dの中間部乃至後部を構成する、前記アウタコラム27の前半部の内径を、弾性的に拡縮可能としている。この為に、このアウタコラム27の下面にスリット34を、軸方向に形成している。このスリット34の前端部は、このアウタコラム27の前端縁、又は、このアウタコラム27の前端寄り部分の上端部を除いた部分に形成した周方向透孔に開口させている。又、前記スリット34を幅方向両側から挟む部分に、それぞれが厚肉平板状の1対の被支持板部35、35を設けている。これら両被支持板部35、35が、前記ステアリングホイール1の位置調節時に、前記アウタコラム27と共に変位する、変位側ブラケットとして機能する。
【0035】
本例の場合、前記両被支持板部35、35をコラム側ブラケット12bに対し、上下位置及び前後位置の調節を可能に支持している。このコラム側ブラケット12bは、通常時には車体に対し支持されているが、衝突事故の際には、二次衝突の衝撃に基づいて、前方に離脱し、前記アウタコラム27の前方への変位を許容する様にしている。この為に、前記コラム側ブラケット12bを車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により、前方への離脱を可能に支持している。
【0036】
前記チルト機構及び前記テレスコピック機構の調節部は、前記両被支持板部35、35を、前記コラム側ブラケット12bを構成する左右1対の支持板部37、37で挟持する事により構成している。これら両支持板部37、37には、前記支持筒32を車体に対し支持した横軸を中心とする部分円弧形の上下方向長孔38を、前記両被支持板部35、35には、前記アウタコラム27の軸方向に長い前後方向長孔39を、それぞれ形成している。そして、これら各長孔38、39に調節ロッド40を挿通している。この調節ロッド40の基端部(図2の右端部)に設けた頭部41は、一方(図2の右方)の支持板部37に形成した上下方向長孔に、この上下方向長孔に沿った変位のみを可能に(回転を阻止した状態で)係合させている。これに対して、前記調節ロッド40の先端部(図2の左端部)に螺着したナット42と他方(図2の左方)の支持板部37の外側面との間に、駆動側カム43と被駆動側カム44とから成るカム装置45を設けている。そして、このうちの駆動側カム43を、調節レバー46により回転駆動可能としている。
【0037】
前記ステアリングホイール1の位置調節を行う際には、前記調節レバー46を所定方向(下方)に回動させる事により前記駆動側カム43を回転駆動し、前記カム装置45の軸方向寸法を縮める。そして、前記被駆動側カム44と前記頭部41との、互いに対向する内側面同士の間隔を拡げ、前記両支持板部37、37が前記両被支持板部35、35を抑え付けている力を開放する。同時に、前記アウタコラム27の前部で前記インナコラム26の後部を内嵌した部分の内径を弾性的に拡げ、これらアウタコラム27の前部内周面とインナコラム26の後部外周面との当接部に作用している面圧を低下させる。この状態で、前記調節ロッド40が前記上下方向長孔38と前記前後方向長孔39との間で変位できる範囲で、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置を調節できる。
【0038】
このステアリングホイール1を所望位置に移動させた後、前記調節レバー46を前記所定方向とは逆方向(上方)に回動させる事により、前記カム装置45の軸方向寸法を拡げる。そして、前記被駆動側カム44と前記頭部41との、互いに対向する内側面同士の間隔を縮め、前記両支持板部37、37により前記両被支持板部35、35を強く抑え付ける。同時に、前記アウタコラム27の前部で前記インナコラム26の後部を内嵌した部分の内径を弾性的に縮め、これらアウタコラム27の前部内周面とインナコラム26の後部外周面との当接部に作用している面圧を高くする。この状態で、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置が調節後の位置に保持される。
【0039】
尚、本例の場合には、前記ステアリングホイール1を調節後の位置に保持する為の保持力を高くする為に、前記両支持板部37、37の内側面と前記両被支持板部35、35の外側面との間に、それぞれ摩擦板ユニット47、47を挟持している。これら両摩擦板ユニット47、47は、前記上下方向長孔38と整合する長孔を形成した1乃至複数枚の第一摩擦板と、前記前後方向長孔と整合する長孔を形成した1乃至複数枚の第二摩擦板とを交互に重ね合わせたもので、摩擦面積を増大させ、前記保持力を高くする役目を有する。この様な摩擦板ユニット47、47の具体的な構造及び作用に就いては、例えば特許文献5、6に記載される等により従来から知られており、本発明の要旨とも関係しないので、詳しい図示並びに説明は省略する。
【0040】
更に、前記コラム側ブラケット12bは、前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突の衝撃荷重により前方に離脱はするが、二次衝突が進行した状態でも脱落しない様に支持している。前記車体側ブラケット11は、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事がないもので、鋼板等の十分な強度及び剛性を有する金属板に、プレスによる打ち抜き加工及び曲げ加工を施す事により造っている。この様な車体側ブラケット11は、両側縁部及び後端縁部を下方に折り曲げる事により曲げ剛性を向上させ、幅方向中央部に前端縁側が開口した係止切り欠き36を、後部のこの係止切り欠き36を左右両側から挟む位置に1対の取付孔48、48を、それぞれ形成している。前記係止切り欠き36は、次述する係止カプセル49により覆われた、前記車体側ブラケット11の後端部近傍まで形成している。この様な前記車体側ブラケット11は、前記両取付孔48、48を挿通したボルト或いはスタッドにより、車体に対し支持固定される。
【0041】
上述の様な車体側ブラケット11に対して前記コラム側ブラケット12bを、係止カプセル49を介して、二次衝突時に前方への離脱を可能に結合している。この係止カプセル49としては、図1、2及び図4の(A)に示す様な構造のものが好ましく使用できるが、図4の(B)に示す様な係止カプセル49aを使用する事もできる。このうちの図4の(B)に示した係止カプセル49aに関しては、最後に説明し、以下の説明は、図1、2及び図4の(A)に示した係止カプセル49を使用した場合に就いて行う。
【0042】
この係止カプセル49は、軟鋼等の鉄系合金に鍛造加工等の塑性加工を施したり、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金等の軽合金をダイキャスト成形する事により、或いは、ポリアセタール等の高強度の高機能樹脂を射出成形する事により、一体に造っている。そして、左右方向に関する幅寸法、並びに、前後方向に関する長さ寸法を、下半部に比べ上半部で大きくして、前記係止カプセル49の左右両側面及び後側面の上半部に、両側方及び後方に突出する鍔部50を設けている。この様な係止カプセル49は、下半部を前記係止切り欠き36に係合(内嵌)した状態で、前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて前方への離脱を可能に支持している。この為に、前記鍔部50と、前記車体側ブラケット11の一部で前記係止切り欠き36の周縁部との、互いに整合する複数箇所(図示の例では10箇所ずつ)に、それぞれ小通孔51a、51bを形成している。そして、これら各小通孔51a、51b同士の間に、それぞれ係止ピン52、52を掛け渡している。
【0043】
これら各係止ピン52、52は、前記各小通孔51a、51bを整合させた状態でこれら各小通孔51a、51b内に合成樹脂を注入する(インジェクション成形する)事により、或いは、予め円柱状に成形した、合成樹脂製或いは軽合金製の素ピンを前記各小通孔51a、51a内に圧入する(軸方向に大きな力で押し込む)事により、前記各小通孔51a、51b同士の間に掛け渡す。何れの場合でも、前記各係止ピン52、52を構成する合成樹脂材料或いは軽合金材料の一部が、前記車体側ブラケット11の上下両面と、相手面である、前記鍔部50の下面及び前記コラム側ブラケット12bの上面との間に入り込む。そして、これら各面同士の間に存在する微小隙間に拘らず、前記車体側ブラケット11に対する前記コラム側ブラケット12bの取付部のがたつきを解消する。従って、前記各隙間を確実に塞ぎ、このがたつきを確実に解消する為には、前記各係止ピン52、52を、合成樹脂の射出成形(インジェクション成形)により形成する事が好ましい。尚、図4には、明りょう化の為に、前記がたつきの原因となる隙間の高さを、実際よりも大きく描いている。
【0044】
尚、前記各係止ピン52、52をインジェクション成形する場合には、溶融樹脂が前記各面同士の間の微小隙間に入り込んで冷却固化し、前記がたつきを解消する。これに対して、素ピンを圧入する場合には、この素ピンに加わる軸方向の力に基づいて、この素ピンの軸方向中間部で前記各隙間に対応する部分が径方向外方に拡がり、これら各隙間の存在に基づくがたつきを解消する。何れにしても、前記各小通孔51a、51b同士の間に前記各係止ピン52、52を掛け渡す事により、前記係止カプセル49を前記車体側ブラケット11に対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持する。
【0045】
上述の様な係止カプセル49は前記コラム側ブラケット12bに対し、複数本(図示の例では3本)のボルト53、53とナット54、54とにより、前記衝撃荷重に拘らず非分離な状態で、結合固定している。即ち、前記係止カプセル49及び前記コラム側ブラケット12bの互いに整合する位置に形成した通孔を下方から挿通した、前記各ボルト53、53の先端部(上端部)で前記係止カプセル49の上面から突出した部分に、前記各ナット54、54を螺合し更に締め付ける事で、前記係止カプセル49と前記コラム側ブラケット12bとを結合固定している。従って、二次衝突時に前記アウタコラム6dからこのコラム側ブラケット12bに伝わった前記衝撃荷重は、そのまま前記係止カプセル49に伝わり、前記各係止ピン52、52の裂断に伴ってこの係止カプセル49が前方に変位するのと同期して、前記アウタコラム6dも前方に変位する。
【0046】
この様に、二次衝突時にこのアウタコラム6dと共に前方に変位する、前記係止カプセル49を係止した、前記係止切り欠き36の前後方向に関する長さL36は、この係止カプセル49の同方向の長さL49よりも十分に大きい(L36≫L49)。本例の場合には、前記係止切り欠き36の長さL36を、前記係止カプセル49の長さL49の2倍以上(L36≧2L49)確保している。そして、二次衝突時に前記アウタコラム27と共に前記係止カプセル49が前方に変位し切った(ステアリングホイール1から加わった衝撃荷重では、それ以上前方に変位しなくなった)状態でも、この係止カプセル49を構成する前記鍔部50の少なくとも後端部で、前記ステアリング6d及び前記コラム側ブラケット12b等の重量を支承可能な部分が、前記係止切り欠き36から抜け切らない様にしている。即ち、二次衝突が進行した状態でも、前記係止カプセル49の上半部の幅方向両側部分に形成した前記鍔部50のうちの後端部が、前記車体側ブラケット11の前端部の上側に位置して、前記係止カプセル49が落下するのを防止できる様にしている。
【0047】
更に、前記コラム側ブラケット12bの一部に、このコラム側ブラケット12bの両外側面よりも幅方向外方に突出する、左右1対の張り出し部55、55を設けている。本例の場合には、前記コラム側ブラケット12bを構成する左右1対の支持板部37、37の前端縁の上部から幅方向外方に前記両張り出し部55、55を、ほぼ直角に曲げ形成している。そして、これら両張り出し部55、55の上端面(上端縁)を、前記車体側ブラケット11の下面に、それぞれ隙間56、56をあけて近接対向させている。本例の場合には、この車体側ブラケット11の曲げ剛性を向上させる為、この車体側ブラケット11の縁部を下方に折り曲げる事により形成した折り曲げ縁部57の下端縁(=前記車体側ブラケット11の下面の一部)に、前記両張り出し部55、55の上端縁を近接対向させている。
【0048】
そして、前記コラム側ブラケット12bに、軸方向周りのモーメントが加わってこのコラム側ブラケット12bが少し傾斜した状態で、前記両張り出し部55、55のうちの何れか一方の張り出し部55の上端縁と前記折り曲げ縁部57の下端縁とが衝合し、前記コラム側ブラケット12bがそれ以上傾斜する事を阻止する様にしている。この状態での、前記コラム側ブラケット12bの傾斜量(前記アウタコラム27の捩れ量)は、前記各隙間56、56の幅寸法W56に応じたものとなる。そこで、この幅寸法W56を、2次衝突時に、前記車体側ブラケット11に対する前記コラム側ブラケット12bの前方への変位を妨げない範囲で、できるだけ小さく(例えば1mm以下に)抑えている。従って、前述した様に、ステアリングロック装置を作動させた状態で前記ステアリングホイール1を回転させようとした結果、前記コラム側ブラケット12bに前記モーメントが加わっても、このコラム側ブラケット12bと前記車体側ブラケット11との相対変位量が僅少に抑えられる。従って、このコラム側ブラケット12b及び前記係止カプセル49に対し、これら両部材12b、49が損傷する程の力が加わる事はない。
【0049】
上述の様に構成する本例の自動車用ステアリング装置によれば、二次衝突時に前記ステアリングホイール1を前方に安定して変位させる為のチューニングが容易で、且つ、前記コラム側ブラケット12bを前記車体側ブラケット11に対し支持する部分の構成部材、即ち、このコラム側ブラケット12b自体及び前記係止カプセル49の損傷を防止でき、しかも、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイール1が過度に下方に変位する事を防止できる。
【0050】
先ず、二次衝突時にステアリングホイール1を前方に安定して変位させる為のチューニングの容易化は、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル49とを、この車体側ブラケット11の幅方向中央部のみで係合させる事により図れる。即ち、前記単一の係止カプセル49を、前記アウタコラム27の直上部分に配置している為、二次衝突時に前記ステアリングホイール1から前記アウタシャフト28及び前記アウタコラム27を通じて前記係止カプセル49に伝わった衝撃荷重が、この係止カプセル49と前記車体側ブラケット11とを結合している、前記各係止ピン52、52に、ほぼ均等に加わる。要するに、前記衝撃荷重は、ほぼ前記係止カプセル49の中央部に、前記アウタコラム27の軸方向に作用する。そして、この単一の係止カプセル49が、前記係止切り欠き36から前方に抜け出る方向の力が加わる為、この係止カプセル49と前記車体側ブラケット11とを結合している前記各係止ピン52、52が、実質的に同時に裂断する。この結果、前記コラム側ブラケット12b等を介して前記係止カプセル49と結合された前記アウタコラム27の前方への変位が、中心軸を過度に傾斜させたりする事無く、安定して行われる。尚、前記両張り出し部55、55の上端縁と前記車体側ブラケット11の下面との間には、それぞれ隙間56、56が存在する為、前記両張り出し部55、55が、前記二次衝突時に、前記ステアリングホイール1の前方への変位を妨げる事はない。
【0051】
特に、本例の場合には、前記ステアリングホイール1の上下位置及び前後位置を調節する為のチルト・テレスコピック機構を設けると共に、このステアリングホイール1を調節後の位置に保持する保持力を高める為の摩擦板ユニット47、47を設置している。これらチルト・テレスコピック機構や摩擦板ユニット47、47を設ける事は、製作誤差の蓄積等により、二次衝突時の離脱荷重のばらつきを大きくする原因となり易いが、本例の場合には、前記単一の係止カプセル49と前記車体側ブラケット11との係合により、前記離脱荷重のばらつきを抑えられる。この結果、二次衝突時に前記ステアリングホイール1に衝突した運転者の身体に加わる衝撃を緩和する為のチューニングを適正に行って、この運転者の保護充実を図り易くなる。又、二次衝突時にも変位しない部分(例えば車体側ブラケット11)と、二次衝突に伴って前方に変位する部分(例えばアウタコラム27)との間には、この前方への変位に伴って塑性変形しつつ衝撃エネルギを吸収する、エネルギ吸収部材を設ける。このエネルギ吸収部材に関しても、前記アウタコラム27の幅方向中央部に設置して、このアウタコラム27の前方への変位に基づいて効果的に塑性変形する様にする。尚、この様なエネルギ吸収部材は、特許文献5に記載される等により従来から各種構造のものが知られており、本発明の要旨とも関係しない為、図示並びに詳しい説明は省略する。
【0052】
又、前記コラム側ブラケット12b及び前記係止カプセル49の損傷防止は、前述の様に、このコラム側ブラケット12b側に設けた両張り出し部55、55の上端縁を、前記車体側ブラケット11側の折り曲げ縁部57の下端縁に近接対向させる事により図れる。即ち、これら両端縁同士を近接対向させる事で、前記コラム側ブラケット12bの傾斜を抑えられる。この為、ステアリングロック装置を備えた構造で、運転者が、ステアリングロック装置を作動させたまま前記ステアリングホイール1を強い力で回そうとした場合でも、前記コラム側ブラケット12b及び前記係止カプセル49が大きく変形する事はなく、これら両部材12b、49の損傷を防止できる。そして、これら各部材12b、49の損傷に基づき、前記二次衝突時に於ける、前記アウタコラム27の前方への変位に支障を来たす(この変位が円滑に行われなくなる)事を防止できる。
【0053】
更に、二次衝突が進行した状態でも前記ステアリングホイール1が過度に下方に変位するのを防止する事は、前記係止切り欠き36の前後方向長さL36を前記係止カプセル49の前後方向の長さL49よりも十分に大きくしている事により図れる。即ち、これら各長さL36、49をこの様に規制している為、二次衝突が進行し、前記ステアリングホイール1と共に、前記係止カプセル49が前方に変位し切った状態でも、この係止カプセル49全体が前記係止切り欠き36から前方に抜け出る事はない。この為、二次衝突が進行した状態でも、前記アウタコラム27の支持力を確保して、このアウタコラム27、及び、前記アウタシャフト28を介してこのアウタコラム27に支持された、前記ステアリングホイール1が、過度に下降する事を防止できる。そして、事故の程度によっては、二次衝突後にも、前記ステアリングホイール1の操作を可能にして、事故車両を路肩に退避させる等の処置を行い易くできる。
【0054】
尚、本例の自動車用ステアリング装置の場合には、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル49とを、この車体側ブラケット11の幅方向中央部のみで係合させている為、二次衝突時にステアリングホイール1を前方に変位させる為の荷重の低減を図れるが、二次衝突時に於ける運転者保護を、より一層向上させる為には、この荷重をより一層低減する事が好ましい。そして、この荷重をより一層低減する為には、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル49とを結合している係止ピン52、52の数を、必要最小限に抑える事が好ましい。但し、これら各係止ピン52、52の数を少なくすると、前述の様に前記ステアリングロック装置を作動させた状態での乗降時に、運転者が前記ステアリングホイール1を不用意に動かす等により、前記コラム側ブラケット12bに加わるモーメントに基づいて、これら各係止ピン52、52に加わる応力が大きくなり(それぞれのピン52、52が支承しなければならないモーメントが大きくなり)、これら各ピン52、52がへたり易くなる。そして、へたった場合には、前記ステアリングホイール1の支持部にがたつきを生じ、このステアリングホイール1を操作する運転者に違和感を与える。これに対して本例の構造によれば、前記モーメント作用時に於ける、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル49との相対変位量を少なく抑えて、前記各ピン52、52のへたりを抑えられる。特に、本例の様な、チルト・テレスコピック式ステアリング装置の場合には、ステアリングコラム支持部の高さ寸法が嵩み、乗降時に上述の様なモーメントが加わり易いので、前記両張り出し部55、55により、前記相対変位量を抑える事の効果は大きい。
【0055】
次に、図4の(B)に示した構造に就いて説明する。上述した図4の(A)に示した構造は、前記係止カプセル49の形状が単純で、この係止カプセル49の製造コストを抑えられる他、この係止カプセル49を設置した部分の組み立て高さを低く抑えられる。この様な構造は、自動車用ステアリング装置の低コスト化及び小型・軽量化を図ったり、衝撃荷重が作用する位置である前記アウタコラム27の中心軸と、二次衝突時に離脱する部分である前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル49との係合部との距離を短くして(高さの差を小さく抑えて)、この係合部の離脱荷重を安定させる(この距離が長くなる事に伴う捩れを抑える)面から有利である。
【0056】
これに対して図4の(B)に示した構造は、係止ピン52、52の射出成形の容易化を図る面から有利である。即ち、図4の(A)に示した構造の場合には、前記係止ピン52、52を射出成形する際に、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル49と前記コラム側ブラケット12bとを、前記各ボルト53、53と前記各ナット54、54とにより結合した状態で行う。これに対して図4の(B)に示した構造の場合には、前記係止ピン52、52を射出成形する為の金型に、車体側ブラケット11及び係止カプセル49aのみをセットすれば済む為、金型の小型化を図り易い。即ち、この係止カプセル49aは、左右両側面にそれぞれ係止溝58、58を形成し、これら両係止溝58、58に、車体側ブラケット11の係止切り欠き36の両側縁部を係合させている。この為、前記車体側ブラケット11と前記係止カプセル49aとを前記各係止ピン52、52により結合してから、この係止カプセル49aをコラム側ブラケット12bに対し、各ボルト53、53と各ナット54、54とにより結合固定する事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
上述した実施の形態は、本発明を、ステアリングホイールの上下位置を調節する為のチルト機構と、同じく前後位置を調節する為のテレスコピック機構との両方を備えた自動車用ステアリング装置に適用した場合に就いて説明した。但し、本発明は、チルト機構のみ、又はテレスコピック機構のみを備えた自動車用ステアリング装置、更には、これら両機構を何れも備えていない、ステアリングホイールの位置固定式の自動車用ステアリング装置で実施する事もできる。
【0058】
更には、本発明の如く、車体側ブラケットと係止カプセルとの係合部の構造を工夫して、二次衝突の進行時にもこの係止カプセルが下方に脱落する事を防止する構造を、前述の図6〜8に示した従前の構造で、ハウジング側ブラケット13部分に関して実施する事もできる。この場合には、このハウジング側ブラケット13が、特許請求の範囲に記載したコラム側ブラケットに相当するので、このハウジング側ブラケット13に固定した係止カプセルを、このハウジング側ブラケット13の上方に固定した車体側ブラケットに係合させる。そして、二次衝突の進行時に、このハウジング側ブラケット13の支持力を確保し
て、ステアリングホイールが上方に跳ね上がる事を防止する。
【0059】
更に、コラム側ブラケットに加わったモーメントに拘らず、このコラム側ブラケットと車体側ブラケットとの結合部に大きな力が加わらない様にするには、車体側ブラケットの左右両側部分に、1対の垂下板部を設ける事でも対応できる。即ち、この車体側ブラケットの左右両端寄り部分の下方にこれら両垂下板部を、この車体側ブラケットの天板部(車体に固定する為の取付孔を形成した板部)に対し直角に(若しくは直角に近い角度で)、前記車体側ブラケットを構成する金属板の一部を下方に向け曲げ形成する等により設ける。そして、これら両垂下板部の内側縁を、前記コラム側ブラケットを構成する1対の支持板部の外側面に近接対向させれば、前記コラム側ブラケットに加わったモーメントに拘らず、このコラム側ブラケットと車体側ブラケットとの結合部に大きな力が加わらない様にできる。
【符号の説明】
【0060】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングギヤユニット
3 入力軸
4 タイロッド
5、5a、5b、5c ステアリングシャフト
6、6a、6a、6b、6c、6d ステアリングコラム
7 自在継手
8 中間シャフト
9 自在継手
10、10a ハウジング
11、11a 車体側ブラケット
12、12a、12b コラム側ブラケット
13 ハウジング側ブラケット
14a、14b 取付板部
15a、15b 切り欠き
16a、16b 滑り板
17 エネルギ吸収部材
18 係止切り欠き
19 係止カプセル
20 係止溝
21a、21b 係止孔
22 係止ピン
23 キーロックピン
24 キーロックカラー
25 キーロック孔
26 インナコラム
27 アウタコラム
28 アウタシャフト
29 玉軸受
30 電動モータ
31 制御器
32 揺動支持ブラケット
33 取付孔
34 スリット
35 被支持板部
36 係止切り欠き
37 支持板部
38 上下方向長孔
39 前後方向長孔
40 調節ロッド
41 頭部
42 ナット
43 駆動側カム
44 被駆動側カム
45 カム装置
46 調節レバー
47 摩擦板ユニット
48 取付孔
49、49a 係止カプセル
50 鍔部
51a、51b 小通孔
52 係止ピン
53 ボルト
54 ナット
55 張り出し部
56 隙間
57 折り曲げ縁部
58 係止溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングコラムと、このステアリングコラムの内側に回転自在に支持されて、このステアリングコラムの後端部から後方に突出した後端部にステアリングホイールを支持固定するステアリングシャフトと、車体側に支持固定されて、二次衝突時にも前方に変位する事のない車体側ブラケットと、この車体側ブラケットの幅方向中央部に形成された、この車体側ブラケットの前端縁側が開口した係止切り欠きと、前記ステアリングコラム側に支持されて、二次衝突時にこのステアリングコラムと共に前方に変位するコラム側ブラケットと、このコラム側ブラケットに固定された状態で、両端部を前記係止切り欠きに係止すると共に、上端両側部をこの係止切り欠きの両側部分で前記車体側ブラケットの上側に位置させた係止カプセルとを備え、この係止カプセルの一部を前記係止切り欠きの内側に位置させた状態で、この係止カプセルと前記車体側ブラケットとを、前記二次衝突時に加わる衝撃荷重に基づいて裂断する結合部材で結合する事により、前記コラム側ブラケットを前記車体側ブラケットに対し、二次衝突時に加わる衝撃荷重により前方への離脱を可能に支持した自動車用ステアリング装置に於いて、前記コラム側ブラケットの一部に、このコラム側ブラケットの両外側面よりも幅方向外方に突出する、左右1対の張り出し部を設け、これら両張り出し部の上端縁を前記車体側ブラケットの下面に、隙間をあけて対向させ、前記コラム側ブラケットに、軸方向周りのモーメントが加わってこのコラム側ブラケットが傾斜した状態で、このコラム側ブラケット及び前記係止カプセルに対し、これらコラム側ブラケット及び係止カプセルの損傷に結び付く程の力が加わる以前に、前記両張り出し部のうちの何れか一方の張り出し部の上端縁と前記車体側ブラケットの下面とが衝合し、前記コラム側ブラケットがそれ以上傾斜するのを阻止する事を特徴とする自動車用ステアリング装置。
【請求項2】
エンジンを停止する方向へのイグニッションキーの操作に基づいて、前記ステアリングコラム内での前記ステアリングシャフトの回転を阻止するステアリングロック装置を備えた、請求項1に記載した自動車用ステアリング装置。
【請求項3】
前記係止カプセルは、前記係止切り欠きの幅寸法以下の幅寸法を有する下半部と、この係止切り欠きの幅寸法よりも大きな幅寸法を有する上半部とから成り、この上半部の幅方向両端部で前記下半部の幅方向両側面よりも幅方向両側に突出した部分を鍔部としており、この鍔部と、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きを幅方向両側から挟む部分との互いに整合する位置にそれぞれ小通孔を形成しており、前記係止カプセルの下面を前記車体側ブラケットの上面に当接させると共に、前記鍔部の下面と前記コラム側ブラケットの上面との間で、前記車体側ブラケットの一部で前記係止切り欠きの両側部分を挟持した状態で、前記鍔部に形成した小通孔と前記車体側ブラケットの一部に形成した小通孔とに、前記二次衝突に伴って裂断する材料製の結合部材を掛け渡している、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した自動車用ステアリング装置。
【請求項4】
前記各結合部材が、前記各小通孔内に溶融樹脂を注入するインジェクション成形により造られた、合成樹脂製の係止ピンであり、これら各係止ピンを構成する合成樹脂の一部が、前記車体側ブラケットの上下両面と、前記コラム側ブラケットの上面及び前記鍔部の下面との間に進入して、これら各面同士の間に存在する隙間に基づくがたつきを防止している、請求項3に記載した自動車用ステアリング装置。
【請求項5】
前記係止切り欠きの前後方向に関する長さが前記係止カプセルの同方向の長さよりも大きく、前記二次衝突時に前記ステアリングコラムと共にこの係止カプセルが前方に変位した状態でも、この係止カプセルの少なくとも一部が前記車体側ブラケットの前端部の上側に位置して、この係止カプセルが脱落するのを防止できるだけの長さを有する、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した自動車用ステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−86590(P2012−86590A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232446(P2010−232446)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】