説明

自動車用マットへの特定事項の打刻装置およびその打刻方法

【目的】 特定事項の変更が容易になされて特定事項変更時の応答性を高め、マットメーカの経済的負担を大幅に削減してコストダウンを実現するとともに、所定の位置に正確に特定事項を打刻できる自動車用マットへの特定事項の打刻装置およびその打刻方法を提供する。
【構成】 自動車用マットの特定事項を文字・数字・記号に変換して頂面に左右逆に浮き彫りした複数の打刻型3a〜3jと、これら打刻型および込め物10a〜10dを着脱可能に組み込んで固定する打刻版4と、この打刻版4と熱可塑性材からなるバッキング層23の裏面とを互いに近接させて前記特定事項をバッキング層23の裏面に向けて押し付ける押圧手段5と、前記打刻版4を介して複数の打刻型3a〜3lを所定温度に加熱する加熱手段6とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の室内においてフロアパネルに沿わせて成形・敷設されたフロア基材の上に設置する自動車用マットへの特定事項の打刻装置およびその打刻方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の室内フロアパネルは、フロアパネルに沿わせて成形されたニードルパンチカーペットからなるフロア基材を敷設することで装飾され、かつ保護されるとともに騒音の車室内侵入低減を図っている。
【0003】
従来、前記フロア基材の汚染や摩耗による損傷を防止するとともに、副次的に騒音の車室内侵入をより一層低減するために、サービスマットあるいはオプションマットと称される自動車用マットが運転席、助手席および後部座席のフロア基材上に設置される。
【0004】
図8,図9は、従来の自動車用マット60の運転席用のものを示し、この従来技術の自動車用マット60は、特許文献1に記載されている。すなわち、自動車用マット60は、表層材60Aと裏層材60Bとを備え、表層材60Aは、パイル61を打ち込んでなる基布62からなる。また、裏層材60Bは、裏面にズレ防止用の多数の突起63aを形成した熱可塑性材のバッキング層63からなり、基布62の裏側にバッキング層63が形成されている。基布62は、比較的強度のある芯材であって、これに合成樹脂製のパイル61が所定の形状に隙間なく打ち込まれて、毛足の長い絨毯状になっている。そして、熱可塑性材からなるバッキング層63が、熱融着によりパイル61の根元と基布62とに浸み込むことで基布62の裏側にバッキング層63が形成される。
【0005】
【特許文献1】特公平2−53258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に記載されている自動車用マット60は、マットメーカで製作されて自動車メーカに納入される。マットメーカで製作された自動車用マット60におけるバッキング層63の裏面には、たとえば、当該自動車用マット60が敷設される自動車の車種や色彩、マットメーカ、ロット番号、納入日あるいはその他の事柄を特定する特定事項(図示省略)が、たとえば欧文字や数字あるいは記号などに変換して塑性変形により打刻されている。したがって、自動車メーカやディラ−による自動車用マット60の品質管理やサービスおよびマットメーカの管理などは、前記打刻されている特定事項に基づいて行われる。
【0007】
従来の自動車用マットへの特定事項の打刻装置の一例を図10に示す。図10において、従来の打刻装置80は、シート状の裏層材60Bを押出し成形する押出し成形手段64と、シート状の表層材60Aを繰り出す繰り出し手段65と、所定の間隔を隔てて対向配置される突起群成形ロール66および加圧ロール67などを備える。
【0008】
押出し成形手段64は、原料ペレットを所定の温度(180゜C〜250゜C)に加熱溶融して押し出す周知の押出機64aと、押し出された熱可塑性材をシート状に成形して吐出する周知のTダイ64bとを有する。繰り出し手段65は、巻回されているシート状の表層材60Aを繰り出す。繰り出されたシート状の表層材60Aは、方向転換ロール68により方向転換されて、パイル61(図9参照)が加圧ロール67の一部に添接される。
【0009】
突起群成形ロール66は、裏層材60Bの裏面にズレ防止用の多数の突起63a(図8,図9参照)を成形するためのもので、その外周面に多数の突起成形用の凹部(図示省略)が形成されており、この突起群成形ロール66の表面所定位置に自動車の車種や色彩、マットメーカ、ロット番号、納入日あるいはその他の事柄を特定する特定事項が、たとえば欧文字や数字あるいは記号などに変換して左右逆に浮き彫り(図示省略)されている。
【0010】
繰り出し手段65から繰り出された表層材60Aと、押出し成形手段64のTダイ64bから押し出された熱可塑性材からなる裏層材60Bは重ね合わされ、裏層材60Bを突起群成形ロール66側に位置させ、裏層材60Bを加圧ロール67側に位置させて、これらを突起群成形ロール66と加圧ロール67との回転で挟圧する。これにより、裏層材60Bにおける表層材60Aに対向する部位の一部がパイル61の根元と基布62とに浸み込み、これが後工程で冷却固化することで基布62の裏側にバッキング層63が形成される。
【0011】
同時に、裏層材60Bにおける突起群成形ロール66側の一部が多数の突起成形用の凹部(図示省略)に流入することで、裏層材60Bの裏面に多数の突起63a(図8,図9参照)が形成されるとともに、バッキング層63の裏面の所定位置に、前記図示されていない左右逆に浮き彫りされている欧文字や数字あるいは記号などが逆戻りした状態で塑性変形して特定事項として打刻される。
【0012】
前記接合された裏層材60Bと表層材60Aにおいて、裏層材60Bに形成された多数の突起63aは、多数の突起成形用の凹部(図示省略)内に存在した状態で、突起群成形ロール66の回転に追従して移動し、その過程で突起群成形ロール66に付設されている水冷装置(図示省略)によって冷却され、裏層材60Bの固化が始まる。
【0013】
おおよそ固化した裏層材60Bは、表層材60Aとともに方向転換ロール69により方向転換されて突起群成形ロール66から離れ、冷却手段70で二次冷却されたのち、ロール71,72を経て巻き取り手段73に巻き取られる。裏層材60Bは、冷却手段70で冷却されることによって完全に固化する。巻き取り手段73に巻き取られた表層材60Aと裏層材60Bは、運転席、助手席あるいは後部座席などに対応する形状と大きさに裁断する工程と、それらの周縁部をオーバロックミシン加工する工程などからなる簡単な後工程を経ることによって、自動車用マット60の完成品(図8,図9参照)が得られる。
【0014】
マットメーカで製作された前記の自動車用マット60は自動車メーカに納入され、自動車メーカやディラ−での自動車用マット60の品質管理やサービスおよびマットメーカの管理は、前記打刻されている特定事項に基づいて行われる。
【0015】
ところで、前記自動車用マット60の特定事項において、それが一つでも変更されると、変更された特定事項に対応する欧文字、数字あるいは記号を変えなければならない。
【0016】
ところが、従来の打刻装置80では、特定事項が突起群成形ロール66の表面所定位置にたとえば欧文字や数字あるいは記号などに変換して左右逆に浮き彫り(図示省略)されているので、変更された特定事項に対応する欧文字、数字あるいは記号を変えるためには、突起群成形ロール66自体を新規に製作しなければならない。
【0017】
しかし、突起群成形ロール66の新規製作には、多大の労力と長い時間を必要とする。そのため、突起群成形ロール66の新規製作はきわめて困難であり、特定事項変更時の応答性に劣るばかりか、マットメーカの経済的負担が大きくなる。しかも、突起群成形ロール66と加圧ロール67との回転で裏層材60Bと表層材60Aとを挟圧しながら特定事項を打刻形成する方式では、ロール66,67と裏層材60Bと表層材60A間に生じるスリップや裏層材60Bおよび表層材60Aの延びなどによって打刻位置にズレが生じやすい難点もある。
【0018】
本発明は、このような問題を解決するものであって、その目的とするところは、特定事項の変更が容易になされて特定事項変更時の応答性を高め、マットメーカの経済的負担を大幅に削減してコストダウンを実現するとともに、所定の位置に正確に特定事項を打刻できる自動車用マットへの特定事項の打刻装置およびその打刻方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するために、本発明に係る自動車用マットへの特定事項の打刻装置は、裏側に熱可塑性材からなるバッキング層を有する自動車用マットの前記バッキング層の裏面に、該自動車用マットの特定事項を打刻する自動車用マットへの特定事項の打刻装置であって、
自動車用マットの特定事項を文字・数字・記号に変換して頂面に左右逆に浮き彫りした複数の打刻型と、これら打刻型を着脱可能に組み込んで固定する打刻版と、この打刻版と前記バッキング層の裏面とを互いに近接させて前記左右逆に浮き彫りされた特定事項をバッキング層の裏面に向けて押し付ける押圧手段と、前記打刻版を介して前記複数の打刻型を所定温度に加熱する加熱手段と、を備えていることを特徴としている。
【0020】
これによれば、運転席、助手席あるいは後部座席などに対応する形状と大きさに裁断され、その周縁部がオーバロックミシン加工された自動車用マットの完成品におけるバッキング層を打刻版に対向配置したのち、押圧手段によって前記打刻版と前記自動車用マットとを互いに近接させることで、打刻版を介して加熱手段によって既に所定温度に加熱され、かつ該打刻版に着脱可能に組み込んで固定した複数の打刻型の頂面に左右逆に浮き彫りして文字・数字・記号に変換されている自動車用マットの特定事項を、逆戻りさせた状態で塑性変形させてバッキング層に打刻することができる。また、自動車用マットの特定事項変更時には、変更される特定事項に対応する文字・数字・記号が頂面に左右逆に浮き彫りされた打刻型のみを、変更前の打刻型と交換して打刻版に組み込んで固定する簡単な作業によって、応答性よく変更された特定事項をバッキング層に打刻できる。
【0021】
また、前記打刻型は、前記打刻版に形成した打刻型固定溝の第1係止部にスライドによる係脱が可能な第2係止部を前記頂面の反対側の基端部に形成した柱状体からなり、前記第1係止部と第2係止部との互いの係合と、前記打刻型固定溝に着脱可能に組み込まれる込め物とにより、前記複数の打刻型が割り付けされて打刻版に着脱可能に組み込んで固定されることを特徴としている。
【0022】
これによると、打刻型を打刻型固定溝にスライドさせる操作によって、打刻版に対して打刻型を簡単に着脱できるので、特定事項変更時における打刻型の交換が容易である。また、複数の打刻型が割り付けされて打刻版に着脱可能に組み込んで固定された状態は、打刻型固定溝に着脱可能に組み込まれる込め物によって保持されるので、打刻型固定溝の長手方向への各打刻型の移動は防止されるとともに、柱状体からなる打刻型の第2係止部がスライドによる係脱を可能に打刻型固定溝の第1係止部に係合することによって、各打刻型の縦軸まわりの回転が防止される。そのため、各打刻型と自動車用マットとの相対変位は防止できるので、打刻版と自動車用マットとの相対位置を適正に設定しさえすれば、自動車用マットにおけるバッキング層裏面の所定位置に正確に特定事項を打刻することができる。
【0023】
さらに、前記複数の打刻型は、鉛系合金またはアルミ系合金からなることを特徴としている。これによると、特定事項の変更を想定して予め用意しておく打刻型の成形(製作)が容易である。
【0024】
本発明に係る自動車用マットへの特定事項の打刻方法は、裏側に熱可塑性材からなるバッキング層を有する自動車用マットの前記バッキング層の裏面に、該自動車用マットの特定事項を打刻する自動車用マットへの特定事項の打刻方法であって、
自動車用マットの特定事項を文字・数字・記号に変換して頂面に左右逆に浮き彫りした複数の打刻型を打刻版に着脱可能に組み込んで固定し、この打刻版を自動車用マットのバッキング層の裏面に対向配置したのち、押圧手段によって前記打刻版と前記自動車用マットとを互いに近接させて前記左右逆に浮き彫りされた特定事項をバッキング層の裏面に向けて押し付けるとともに、加熱手段によって前記打刻版を介して前記複数の打刻型を予め所定温度に加熱しておくことで、前記バッキング層を塑性変形させて前記左右逆に浮き彫りされている文字・数字・記号を逆戻りさせた状態で特定事項として打刻することを特徴としている。
【0025】
これによれば、複数の打刻型の頂面に左右逆に浮き彫りして文字・数字・記号に変換されている自動車用マットの特定事項を、逆戻りさせた状態で塑性変形させてバッキング層に打刻することができる。また、自動車用マットの特定事項変更時には、変更される特定事項に対応する文字・数字・記号が頂面に左右逆に浮き彫りされた打刻型のみを、変更前の打刻型と交換して打刻版に組み込んで固定する簡単な作業によって、応答性よく変更された特定事項をバッキング層に打刻できる。
【0026】
また、本発明に係る自動車用マットへの特定事項の打刻方法では、前記バッキング層に前記特定事項が打刻されるのと同時に、該バッキング層の表側に形成されている表層材における前記特定事項の打刻部位と重なる部位の表面に、自動車メーカまたは車種を特定する樹脂製のマークを熱融着することが望ましい。これによると、熱融着されている樹脂製のマークに基づいて特定事項の打刻位置を速やかに確認できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の自動車用マットへの特定事項の打刻装置およびその打刻方法によれば、自動車用マットの特定事項変更時には、変更される特定事項に対応する文字・数字・記号が頂面に左右逆に浮き彫りされた打刻型を、変更前の打刻型と交換して打刻版に組み込んで固定する簡単な作業によって、応答性よく変更された特定事項をバッキング層に打刻できるので、特定事項の変更が容易になされて特定事項変更時の応答性を高め、マットメーカの経済的負担を大幅に削減してコストダウンを実現することができるとともに、各打刻型の移動および縦軸まわりの回転が防止されることで、各打刻型と自動車用マットとの相対変位を防止できるので、打刻版と自動車用マットとの相対位置を適正に設定しさえすれば、自動車用マットにおけるバッキング層裏面の所定位置に正確に特定事項を打刻することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る自動車用マットへの特定事項の打刻装置の一実施形態を示す正面図、図2は、運転席用の自動車用マットの一実施形態を示す裏面図、図3は、図2のIII−III線に沿う拡大断面図である。
【0029】
これらの図において、打刻装置1は、自動車用マット2に後述する特定事項を打刻するためのもので、後述する複数個の打刻型と、これら打刻型を着脱可能に組み込んで固定する打刻版4と、押圧手段5と、加熱手段6とを備えている。
【0030】
自動車用マット2は、表層材2Aと裏層材2Bとを備え、表層材2Aは、パイル21を打ち込んでなる基布22からなる。また、裏層材2Bは、裏面にズレ防止用の多数の突起2aを形成した熱可塑性材のバッキング層23からなり、基布22の裏側にバッキング層23が形成されている。基布22は、比較的強度のある芯材であって、これに合成樹脂製のパイル21が所定の形状に隙間なく打ち込まれて、毛足の長い絨毯状になっている。そして、熱可塑性材からなるバッキング層23が、熱融着によりパイル21の根元と基布22とに浸み込むことで基布22の裏側にバッキング層23が形成される。
【0031】
図4の3個の打刻型3f,3d,3hは、多数の打刻型の中から適宜抜き取って示したもので、これら3個の打刻型3f,3d,3hを含むそれ以外の多数の打刻型(図示省略)は、図1,図2の自動車用マット2が敷設される自動車の車種や色彩、マットメーカ、ロット番号、納入日あるいはその他の事柄を特定する特定事項を、たとえば欧文字(A〜Z)や数字(0〜9)あるいは記号(−,:,/)などに変換して塑性変形により自動車用マット2のバッキング層23に打刻する機能を備えており、それぞれは、鉛系合金またはアルミ系合金によって成形された方形柱状体からなり、その頂面には、前記特定事項が前記欧文字(A〜Z)・数字(0〜9)・記号(−,:,/)などに変換して左右逆に浮き彫りされている。なお、図4では、欧文字Jを左右逆に浮き彫りした打刻型3fと、数字1を左右逆に浮き彫りした打刻型3dおよび記号/を左右逆に浮き彫りした打刻型3hを示している。また、前記頂面の反対側の基端部には、幅方向(矢印X方向)両側に張り出す一対の張り出し片24a,24bからなる第2係止部24が形成されている。
【0032】
図5に示す打刻版4は、図4の前記打刻型3f,3d,3hおよび図示されていない多数の打刻型の中から選択した複数の打刻型を着脱可能に組み込んで固定するためのもので、表面側に長手方向(矢印Y方向)全長にわたって互いに平行して形成した一対の打刻型固定溝40を備える。各打刻型固定溝40は、幅狭部40aと、幅狭部40aの奥部に連設された幅広部40bとを有し、幅狭部40aは、前記打刻型3f,3d,3hおよび図示されていない多数の打刻型をスライドにより着脱できる幅員wを有し、幅広部40bは、前記打刻型3f,3d,3hおよび図示されていない多数の打刻型に形成されている一対の張り出し片24a,24bからなる第2係止部24(図4参照)をスライドにより係脱して、係合時には第2係止部24と互いに係合する第1係止部41として機能する。また、背面側に着脱用の蟻42が形成されている。なお、クランプなどの着脱具を用いる場合には、前記蟻42は不要である。
【0033】
図1に示す打刻装置1において、押圧手段5はシリンダ装置(エアーシリンダ装置)からなり、所定位置でフレーム7の上位に配置されている。また、加熱手段6は、電気式(たとえば高周波加熱方式)の第1加熱手段6aと第2加熱手段6bとからなり、第1加熱手段6aは、シリンダ装置5の昇降ロッド5aの下端に熱絶縁体5bを介して取付けられた熱盤6Aに適宜付設または内蔵されて、熱盤6Aを所定の温度(100゜C〜120゜C)に加熱するように構成され、該熱盤6Aの下面には、打刻版4の蟻42が着脱可能に嵌合固定される蟻溝6cを形成してある。また、第2加熱手段6bは、マット載置盤8の前端部上面に熱絶縁体8bを介して取付けられた熱盤6Bに適宜付設または内蔵されて、熱盤6Bを所定の温度(100゜C〜120゜C)に加熱する。熱盤6Bの上面には、上面を開口した金属製のマーク保持型9が取付けられており、マット載置盤8は、図示していない進退装置によってフレーム7の上面にそって矢印X方向に進退する。
【0034】
つぎに前記構成の作動について説明する。
まず、打刻前段の段取りがなされる。すなわち、図6(a)に示す込め物10a,10b,10c,10dを用意する。これら込め物10a〜10dは、鉛系合金またはアルミ系合金によって、前記打刻型3f,3d,3h(図4参照)と断面形状が同じでそれらよりも長寸の長さlを有して成形され、頂面の反対側の基端部には、前記打刻型3f,3d,3hと同様に幅方向(矢印X方向)両側に張り出す一対の張り出し片24a,24bからなる第2係止部24が形成されている。
【0035】
図6(a)の込め物10a,10b,10c,10dにおいて、込め物10a,10bを、図6(b)のように打刻版4における一対の打刻型固定溝40の一端部側からスライドにより嵌合し、ビスなどの締結手段(図示省略)を各打刻型固定溝40の裏側から込め物10a,10bにねじ込んで、各込め物10a,10bを各打刻型固定溝40の一端部側で着脱可能に固定する。
【0036】
つぎに自動車用マット2(図1,図2参照)が敷設される自動車の車種や色彩、マットメーカ、ロット番号、納入日あるいはその他の事柄を特定する特定事項が欧文字・数字・記号などに変換して左右逆に浮き彫りされている前記打刻型3f,3d,3h(図4参照)および図示されていない打刻型を含む多数の打刻型の中から、10個の打刻型3a,3b,3c,3d,3e、3f、3g,3h,3i,3jを選択し、これらを割り付けして各打刻型固定溝40にスライドにより5個ずつ嵌合する。なお、図6(b)において、打刻型3aには欧文字A、打刻型3bには欧文字E、打刻型3cには記号−、打刻型3dには数字1、打刻型3eには数字2が左右逆に浮き彫りされ、打刻型3fには欧文字J、打刻型3gには欧文字U、打刻型3hには記号/、打刻型3iには数字3、打刻型3jには数字4が左右逆に浮き彫りされているものとする。
【0037】
図6(b)に示すように、各打刻型固定溝40にスライドにより前記10個の打刻型3a〜3jが嵌合されたならば、込め物10c,10dを打刻版4における各打刻型固定溝40の他端部側からスライドにより嵌合して、ビスなどの締結手段(図示省略)を各打刻型固定溝40の裏側から込め物10c,10dにねじ込んで、各込め物10c,10dを各打刻型固定溝40の他端部側で着脱可能に固定する。このように、各打刻型3a〜3jが割り付けされて打刻版4に着脱可能に組み込んで固定された状態では、前記欧文字(A,E,J,U)・数字(1,2,3,4)・記号(−,/)などに変換して左右逆に浮き彫りされている特定事項は打刻版4の上面より僅かに突出する。
【0038】
さらに、打刻版4は上下を反転させて図1の熱盤6Aの下面に着脱可能に固定する。つまり、図6(b)の欧文字(A,E,J,U)・数字(1,2,3,4)・記号(−,/)などに変換して左右逆に浮き彫りされている特定事項を下向きにして、図1に示すように、着脱用の蟻42を熱盤6Aの蟻溝6cに嵌合して、打刻版4を熱盤6Aに着脱可能に適宜固定し、加熱手段6を構成している第1,第2加熱手段6a,6bに通電して、熱盤6A,6Bを所定の温度に加熱する。
【0039】
前記打刻前段の段取りが終了すれば、図7(a)に示すように、自動車メーカまたは車種を特定する樹脂製のマーク11をマーク保持型9に嵌入して保持したのち、運転席に対応する形状と大きさに裁断され、その周縁部がオーバロックミシン加工された運転席用の自動車用マット2の完成品を、その表層材2Aを下向きにして先端部を樹脂製のマーク11上に被せるとともに、前記先端部近傍から後端部をマット載置盤8に載置して位置ズレしないように適宜保持する。
【0040】
つぎに、図示していない進退装置によりマット載置盤8を図1の実線で示す位置から一点鎖線で示す位置に前進させて、図7(b)にも示しているように、マーク保持型9を打刻版4の下側対向位置に停止させ、続いて、押圧手段5を構成しているシリンダ装置の作動により、図7(c)に示すように、打刻版4を下死点まで下降させて、打刻版4とマーク保持型9とで自動車用マット2を挟み付けることにより、詳しくは、図6(b)の打刻版4に着脱可能に組み込んで固定した複数の打刻型3a〜3jの頂面に左右逆に浮き彫りされている欧文字(A,E,J,U)・数字(1,2,3,4)・記号(−,/)などの特定事項と、図1,図7(c)のマーク保持型9とで自動車用マット2を挟み付けることで、該特定事項を、逆戻りさせた状態で塑性変形させてバッキング層23(裏層材2B)に打刻すると同時に、バッキング層23の表側に形成されている表層材2Aにおける前記特定事項の打刻部位と重なる部位の表面に、自動車メーカまたは車種を特定する樹脂製のマーク11を熱融着することができる。
【0041】
つぎに、図1の押圧手段5を構成しているシリンダ装置の復帰作動により、打刻版4を上死点まで上昇させたのち、図示していない進退装置によりマット載置盤8を一点鎖線で示す位置から二点鎖線で示す位置に前進させ、ここで前記特定事項の打刻および樹脂製のマーク11の融着がなされた処理済みの自動車用マット2をマット載置盤8から取り外して回収する。処理済みの自動車用マット2が回収されたマット載置盤8は、図示していない進退装置により二点鎖線で示す位置から実線で示す位置まで後退復帰させ、以後は、前記図7(a)〜図7(c)で説明した作動と処理済みの自動車用マット2の回収およびマット載置盤8の後退復帰作動を連続して繰り返すことで、前記特定事項の打刻および樹脂製のマーク11の融着がなされた処理済みの自動車用マット2を連続して得ることができる。
【0042】
一方、図6(b)において、込め物10a,10bまたは込め物10c,10dを打刻版4から取り外せば、複数の打刻型3a〜3jをスライドさせることでこれらを一対の打刻型固定溝40から簡単に取り外せるので、打刻される特定事項変更時における打刻型3a〜3jの交換が容易である。
【0043】
自動車用マット2の特定事項が変更されることで、たとえば、図6(b)の打刻型3aを他の打刻型と交換するには、込め物10bと打刻型3aを取り外して、交換用の打刻型(図示省略)をスライドにより一方の打刻型固定溝40に嵌合したのち、込め物10bを一方の打刻型固定溝40に嵌合して固定する簡単な作業によって、応答性よく変更された特定事項をバッキング層23に打刻でき、また、打刻型3iを他の打刻型と交換するには、込め物10cと打刻型3i,3jを取り外して、交換用の打刻型(図示省略)と打刻型3jをスライドにより他方の打刻型固定溝40に嵌合したのち、込め物10cを他方の打刻型固定溝40に嵌合して固定する簡単な作業によって、応答性よく変更された特定事項をバッキング層23に打刻できる。
【0044】
すなわち、本発明によれば、特定事項の変更が容易になされて特定事項変更時の応答性を高め、マットメーカの経済的負担を大幅に削減してコストダウンを実現することができる。しかも、バッキング層23に前記特定事項が打刻されるのと同時に、該バッキング層23の表側に形成されている表層材2Aにおける前記特定事項の打刻部位と重なる部位の表面に、自動車メーカまたは車種を特定する樹脂製のマーク11が熱融着されているので、熱融着されている樹脂製のマーク11に基づいて特定事項の打刻位置を速やかに確認できる。
【0045】
前記実施形態では、図5および図6(b)に示すように、表面側に長手方向 (矢印Y方向)全長にわたって互いに平行して形成した一対の打刻型固定溝40を備えた打刻版4を使用しているが、打刻型固定溝40の数は一対のみに限定されるものではなく、一つの打刻型固定溝40を備えた打刻版4または三つ以上の打刻型固定溝40を互いに平行して備えた打刻版4であってもよい。また、一つの打刻型固定溝40または複数の打刻型固定溝40を備えた打刻版4において、打刻型固定溝40を除く打刻版4の平坦な表面に、不変の特定事項を欧文字(A〜Z)・数字(0〜9)・記号(−,:,/)などに変換して左右逆に浮き彫りして僅かに突出させておくことで、打刻版4の一部を、不変の特定事項を打刻するための打刻型として機能させることができる。
【0046】
また、各打刻型の頂面に左右逆に浮き彫りされている欧文字や数字あるいは記号は、前記実施形態で説明した(A,E,J,U)、(1,2,3,4)、(−,/)のみに限定されるものではなく、任意の欧文字や数字あるいは記号が適用できることはいうまでもない。
【0047】
さらに、前記特定事項が打刻される自動車用マット2は、前記運転席用のものに限定されず、助手席用あるいは後部座席用の自動車用マット2にも打刻できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る自動車用マットへの特定事項の打刻装置の一実施形態を示す正面図である。
【図2】運転席用の自動車用マットの一実施形態を示す裏面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う拡大断面図である。
【図4】三つの打刻型の一実施形態を示す斜視図である。
【図5】打刻版の一実施形態を示す斜視図である。
【図6】図6(a)は、込め物の一実施形態の斜視図を示し、図6(b)は、各打刻型と各込め物を打刻版にセットした状態を示す斜視図である。
【図7】図7(a)〜図7(c)は打刻手順の説明図である。
【図8】運転席用の自動車用マットの従来例を示す裏面図である。
【図9】図8のX−X線に沿う拡大断面図である。
【図10】従来の打刻装置の一例を示す概略正面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 打刻装置
2 自動車用マット
2A 表層材
2B 裏層材
3a〜3n 打刻型
4 打刻版
5 押圧手段
6 加熱手段
6a 第1加熱手段
6b 第2加熱手段
10a〜10d 込め物
11 樹脂製のマーク
23 バッキング層
24 第2係止部
40 打刻型固定溝
41 第1係止部
(A),(E),(J),(U) 欧文字(文字)
(1),(2),(3),(4) 数字
(−) 記号
(/) 記号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏側に熱可塑性材からなるバッキング層を有する自動車用マットの前記バッキング層の裏面に、該自動車用マットの特定事項を打刻する自動車用マットへの特定事項の打刻装置であって、
自動車用マットの特定事項を文字・数字・記号に変換して頂面に左右逆に浮き彫りした複数の打刻型と、これら打刻型を着脱可能に組み込んで固定する打刻版と、この打刻版と前記バッキング層の裏面とを互いに近接させて前記左右逆に浮き彫りされた特定事項をバッキング層の裏面に向けて押し付ける押圧手段と、前記打刻版を介して前記複数の打刻型を所定温度に加熱する加熱手段と、を備えていることを特徴とする自動車用マットへの特定事項の打刻装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車用マットへの特定事項の打刻装置において、
前記打刻型は、前記打刻版に形成した打刻型固定溝の第1係止部にスライドによる係脱が可能な第2係止部を前記頂面の反対側の基端部に形成した柱状体からなり、前記第1係止部と第2係止部との互いの係合と、前記打刻型固定溝に着脱可能に組み込まれる込め物とにより、前記複数の打刻型が割り付けされて打刻版に着脱可能に組み込んで固定されることを特徴とする自動車用マットへの特定事項の打刻装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の自動車用マットへの特定事項の打刻装置において、
前記複数の打刻型は、鉛系合金またはアルミ系合金からなることを特徴とする自動車用マットへの特定事項の打刻装置。
【請求項4】
裏側に熱可塑性材からなるバッキング層を有する自動車用マットの前記バッキング層の裏面に、該自動車用マットの特定事項を打刻する自動車用マットへの特定事項の打刻方法であって、
自動車用マットの特定事項を文字・数字・記号に変換して頂面に左右逆に浮き彫りした複数の打刻型を打刻版に着脱可能に組み込んで固定し、この打刻版を自動車用マットのバッキング層の裏面に対向配置したのち、押圧手段によって前記打刻版と前記自動車用マットとを互いに近接させて前記左右逆に浮き彫りされた特定事項をバッキング層の裏面に向けて押し付けるとともに、加熱手段によって前記打刻版を介して前記複数の打刻型を予め所定温度に加熱しておくことで、前記バッキング層を塑性変形させて前記左右逆に浮き彫りされている文字・数字・記号を逆戻りさせた状態で特定事項として打刻することを特徴とする自動車用マットへの特定事項の打刻方法。
【請求項5】
請求項4に記載の自動車用マットへの特定事項の打刻方法において、
前記バッキング層に前記特定事項が打刻されるのと同時に、該バッキング層の表側に形成されている表層材における前記特定事項の打刻部位と重なる部位の表面に、自動車メーカまたは車種を特定する樹脂製のマークを熱融着することを特徴とする自動車用マットへの特定事項の打刻方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−45833(P2009−45833A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213983(P2007−213983)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(398009948)株式会社丸正 (3)
【Fターム(参考)】