説明

自動車用部品

【課題】偏心圧縮荷重が作用する場合において、性能を低下させることなく軽量化することができるようにする。
【解決手段】インナパネル3を構成する材料の密度、板厚、ヤング率、および、降伏応力を、それぞれρ、t、E、σyとし、インナパネル3のフランジ3aの幅をBとすると、インナパネル3を構成する材料は、ρ×t≦15.0(kg/m)の関係と、(B/t)√(σy/E)<1.5の関係と、E×t×σy≧380(kN/mm)の関係と、を満足している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパビームやドアビーム、フレ−ム部材等の自動車用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の骨格部材には、車両衝突時の衝撃力に対して、変形してエネルギーを吸収する部品と、車体の変形を防止するために、強度/剛性を確保するための部品とがあり、軸荷重、曲げ荷重、ねじり荷重など、種々の衝撃荷重に対して必要な性能を確保するように設計されている。
【0003】
特許文献1には、ベルトラインリインホースを、アウタリインホースとインナリインホースとを最中状に接合することにより単独の閉断面を有するものとし、ベルトラインリインホースとドアインナパネルとでドア本体の前後方向全長に渡って延びる第1,第2閉断面を形成することにより、車両衝突時の衝撃力に対するドア本体の剛性を高めた車両用ドアのベルトライン補強構造が開示されている。
【0004】
この構造では、前方から衝撃力を受けても、ドアが大きく変形しないように、長手方向に作用する衝撃荷重(軸方向荷重)に対する強度が必要であるが、これに加え、衝撃荷重により変形しても、キャビン内に侵入しないように、車体外側に折れ曲がることが求められる。そこで、折れ曲がり方向を制御するために、部材断面の中心よりもキャビン側に荷重の作用点を偏心させ、軸荷重とともに偏心した曲げ荷重を作用させる構造が取られている。こうすると、車体内側に曲げ圧縮応力が発生するため、内側のほうが外側よりも高い圧縮応力を負担し、車体外側に凸となる変形を起こす。
【0005】
また、特許文献2には、フロントピラーのピラーアウタ後縦壁のベルトラインリインホースに対向する部分に他の一般面よりドア本体側に突出する膨出部を形成することで、車両衝突時のベルトラインリインホースのピラー部材への突き刺さりを確実にした自動車のベルトライン部構造が開示されている。この構造によれば、ベルトラインリインホースに確実に前方からの衝突荷重が伝わる。
【0006】
このように、強度とともに変形の方向も制御した部品には、単純な軸圧壊部品(フロントサイドメンバなど)、曲げ圧壊部品(バンパー、インパクトビーム)とは異なり、圧縮力と曲げモーメントとが同時に作用する。そのため、この部品特有の設計上の工夫がなされている。
【0007】
特許文献3には、荷重吸収部に当接した押圧部が更に荷重吸収部を押圧した際に、パネル側稜線部がインナパネル本体の厚さ方向に沿った他方の側へ移動するように荷重吸収部を変形させて、車両の車幅方向に沿った荷重を吸収することで、車両の前後方向に沿った外力に対する剛性を確保・向上させた車両用ドアおよびパネル部材荷重吸収構造が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、インナパネルの板厚をアウタパネルの板厚よりも厚くするとともに、インナ側膨出部に、閉断面部の曲げ中立軸よりも車幅方向外側に位置する凸部を設けることで、車幅方向および車両前後方向の荷重の双方に対して変形を抑制させた車体側面構造が開示されている。
【0009】
これらの部品は、通常は鋼薄板をプレス成形し、スポット溶接により組み立てられる。例えば、ドアショルダリインホースでは、板厚が1〜2mmの鋼板を用いていることが多く、両ハット材に近い形状となっている。特に、大きな荷重を受け持つ必要がある場合には、板厚が2mm程度の鋼板が用いられている。
【0010】
しかし、昨今のCO2削減/自動車軽量化の必要性から、より軽量で高性能な自動車用部品が求められている。そこで、鋼板の断面形状の工夫だけでなく、新たな観点での軽量化策が採用されている。
【0011】
特許文献5には、衝撃を受けるビーム材に軽量・高強度なCFRP材を用いることで、重量を下げて、エネルギー吸収量を高めた自動車用衝撃吸収部材が開示されている。
【0012】
また、特許文献6には、曲げ荷重が作用する際に引張側となるフランジ面にFRP材を設けるとともに、曲げ荷重が作用する際に圧縮側となるフランジの幅bと厚みtとの比(b/t)を12以下とすることで、衝突などの曲げ荷重が大きくなった場合でも、エネルギー吸収量を高めた曲げ強度部材が開示されている。
【0013】
また、特許文献7には、閉断面の薄肉鋼管内に、この鋼管の内壁にほぼ沿った外側形状を有し、内部にリブを形成した軽合金製又は合成樹脂製の補強管を挿入した、軽量且つ強度が長期的に十分な車両の複合構造部材が開示されている。
【0014】
また、特許文献8には、アルミ形材の前側フランジおよび後側フランジに外側から鋼板を貼り付け、鋼板の降伏応力σy1と、鋼板の比重ρ1と、アルミ形材の降伏応力σy2と、アルミ形材の比重ρ2とが、σy1/ρ1>σy2/ρ2の関係を満足することで、重量増加を最小限に留めつつ曲げ強度を向上させた自動車用バンパビームが開示されている。
【0015】
また、特許文献9には、金属製のバンパー本体に金属製の第1補強板を取り付け、バンパー本体のヤング率Estと、バンパー本体の密度ρstと、第1補強板のヤング率E2と、第1補強板の密度ρ2とが、(Est/ρst)<(E2/ρ2)の関係を満足することで、重量増加を最小限に抑え、且つ、曲げ強度を向上させたバンパー構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2002−219938号公報
【特許文献2】特開2006−88885号公報
【特許文献3】特開2008−94353号公報
【特許文献4】特開2007−216788号公報
【特許文献5】特開2005−225364号公報
【特許文献6】特開2003−129611号公報
【特許文献7】特開2003−312404号公報
【特許文献8】特開2009−184415号公報
【特許文献9】特開2009−255900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、両端部同士がそれぞれ接合されたアウタパネルとインナパネルとを有する自動車用部品において、断面の中心からインナパネル側に偏心した偏心圧縮荷重が作用する場合、自動車用部品の強度を決める要因として、曲げ圧縮側(インナパネル)の座屈、インナパネルの降伏、曲げ引張側(アウタパネル)の降伏が想定される。自動車用部品には、圧縮荷重に加え偏心荷重による曲げモーメントが作用するため、インナパネルには圧縮応力が、アウタパネルには引張応力が作用する。圧縮応力の絶対値は、引張応力の絶対値よりも大きいので、インナパネルとアウタパネルとを同一の材料/板厚で構成した場合、インナパネルに作用する圧縮応力の影響が大きくなり、自動車用部品の強度は、インナパネルの座屈、もしくは、インナパネルの降伏で決まる。
【0018】
そこで、偏心圧縮荷重が作用する場合において、性能を低下させることなく自動車用部品を軽量化することが望まれる。
【0019】
本発明の目的は、偏心圧縮荷重が作用する場合において、性能を低下させることなく軽量化することが可能な自動車用部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明における自動車用部品は、両端部同士がそれぞれ接合されたアウタパネルとインナパネルとを有し、断面の中心から前記インナパネル側に偏心した偏心圧縮荷重が作用する自動車用部品であって、前記アウタパネルは鉄鋼材料からなり、前記インナパネルは、外側に凸なフランジを中央に有しており、前記インナパネルを構成する材料の密度、板厚、ヤング率、および、降伏応力を、それぞれρ、t、E、σyとし、前記インナパネルの前記フランジの幅をBとすると、前記インナパネルを構成する材料は、ρ×t≦15.0(kg/m)の関係と、(B/t)√(σy/E)<1.5の関係と、E×t×σy≧380(kN/mm)の関係と、を満足していることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、断面の中心からインナパネル側に偏心した偏心圧縮荷重が作用する場合、曲げ引張側であるアウタパネルには引張応力が作用し、曲げ圧縮側であるインナパネルには圧縮応力が作用する。このとき、自動車用部品の強度は、インナパネルの座屈、もしくは、インナパネルの降伏で決まるのであるが、インナパネルを構成する材料が上記の3つの関係を全て満足しているので、自動車用部品の重量が増加しないとともに、同一の鋼板をアウタパネルおよびインナパネルに使用した場合に比して、性能が同等以上となる。即ち、インナパネルが座屈し難くなり、インナパネルの降伏による最大荷重の低下が抑制される。よって、偏心圧縮荷重が作用する場合において、性能を低下させることなく軽量化することができる。
【0022】
また、本発明における自動車用部品において、前記インナパネルを構成する材料が、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であってよい。上記の構成によれば、性能を低下させることなくインナパネルを軽量化することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の自動車用部品によると、インナパネルを構成する材料が上記の3つの関係を全て満足しているので、自動車用部品の重量が増加しないとともに、インナパネルが座屈し難くなり、インナパネルの降伏による最大荷重の低下が抑制される。よって、偏心圧縮荷重が作用する場合において、性能を低下させることなく軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】自動車用部品を示す概略断面図である。
【図2】解析に用いた自動車用部品を示す概略断面図である。
【図3】座屈による最大荷重への影響を示すグラフである。
【図4】E×t×σyの変化と最大荷重の変化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
(自動車用部品の構成)
本実施形態による自動車用部品1は、バンパビームやドアビーム、フレ−ム部材等であって、図1に示すように、車両の外側に設けられたアウタパネル2と、車両の内側に設けられたインナパネル3とを有している。アウタパネル2とインナパネル3とは、両端部同士がそれぞれ接合されている。アウタパネル2は、鉄鋼材料で構成されており、外側に凸なフランジ2aを中央に有している。インナパネル3は、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金で構成されており、外側に凸なフランジ3aを中央に有している。
【0027】
ここで、自動車用部品1の断面の中心からインナパネル3側に距離Cで偏心した偏心圧縮荷重Dが作用した場合、アウタパネル2は曲げ引張側となり、インナパネル3は曲げ圧縮側となる。曲げ引張側であるアウタパネル2には引張応力が作用し、曲げ圧縮側であるインナパネル3には圧縮応力が作用する。
【0028】
自動車用部品1の断面形状が変化しない場合、アウタパネル2およびインナパネル3の重量は板厚tと密度ρとの積に比例する。ここで、インナパネル3を鉄鋼材料で構成した場合における鉄鋼材料の密度、板厚をそれぞれρ1、t1とし、インナパネル3を5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金で構成した場合における5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金の密度、板厚をそれぞれρ2、t2とすると、インナパネル3を構成する5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金は、インナパネル3を構成する鉄鋼材料に対して、以下の式1の関係を満足している。
【0029】
ρ1×t1≧ρ2×t2・・・・・・(式1)
【0030】
つまり、インナパネル3をアルミニウム合金で構成した場合の重量は、インナパネル3を鉄鋼材料で構成した場合の重量以下である。これにより、自動車用部品1の重量の増加が抑制される。
【0031】
また、インナパネル3を構成する5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金の板厚、ヤング率、および、降伏応力をそれぞれt、E、σyとし、アウタパネル2およびインナパネル3のフランジ幅をBとすると、インナパネル3を構成する5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金は、以下の式2の関係を満足している。
【0032】
(B/t)√(σy/E)<1.5・・・・・・(式2)
【0033】
ここで、(B/t)√(σy/E)の値は、鋼構造の分野で一般的に用いられている座屈パラメータである。なお、自動車用部品1の断面形状が変化しない場合、Bは一定である。偏心圧縮荷重Dを作用させた場合、曲げ圧縮側であるインナパネル3の降伏により最大荷重が決まる。座屈パラメータの値を1.5以下とすると、最大荷重が理論解析結果の90%以上となるので、インナパネル3が座屈し難い。
【0034】
また、インナパネル3を鉄鋼材料で構成した場合における鉄鋼材料の板厚、ヤング率、断面積、および、降伏応力を、それぞれt1、E1、A1、σy1とし、インナパネル3を5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金で構成した場合における5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金の板厚、ヤング率、断面積、および、降伏応力を、それぞれt2、E2、A2、σy2とすると、インナパネル3を構成する5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金は、インナパネル3を構成する鉄鋼材料に対して、以下の式3の関係を満足している。
【0035】
(E2・A2)×(t2・σy2)≧0.9×(E1・A1)×(t1・σy1)・・・・・・(式3)
【0036】
ここで、自動車用部品1の断面形状を変更しない場合、断面積Aの代表値は板厚tとなるので、上記の式3は、以下の式4のように置き換えることができる。
【0037】
E2×t2×σy2≧0.9×E1×t1×σy1・・・・・・(式4)
【0038】
インナパネル3の降伏による最大荷重を決める因子は、インナパネル3の降伏強度と、自動車用部品1の曲げ剛性である。自動車用部品1の断面形状が変化しない場合、インナパネル3の強度は、板厚t2と降伏応力σy2との積が代表値であり、インナパネル3の材料/板厚変更に伴う自動車用部品1の曲げ剛性への寄与は、ヤング率E2と断面積A2との積により表される。さらに、上述したように、断面形状を変更しない場合には、断面積Aの代表値は板厚tであるので、インナパネル3の材料/板厚変更に伴う自動車用部品1の曲げ剛性への寄与は、ヤング率Eと板厚tとの積により表わされる。式4を満足することで、最大荷重が90%以上となり、インナパネル3の降伏による最大荷重の低下が抑制される。なお、E2×t2×σy2の実質上の上限値はE1×t1×σy1の約3倍である。
【0039】
このように、断面の中心からインナパネル3側に偏心した偏心圧縮荷重が作用する場合、自動車用部品1の強度は、インナパネル3の座屈、もしくは、インナパネル3の降伏で決まるのであるが、インナパネル3を構成する材料が式1、式2、式4の3つの関係を全て満足しているので、自動車用部品1の重量が増加しないとともに、同一の鋼板をアウタパネル2およびインナパネル3に使用した場合に比して、性能が同等以上となる。即ち、インナパネル3が座屈し難くなり、インナパネル3の降伏による最大荷重の低下が抑制される。よって、偏心圧縮荷重が作用する場合において、性能を低下させることなく軽量化することができる。
【0040】
また、インナパネル3を構成する材料が、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であるので、性能を低下させることなくインナパネル3を軽量化することができる。
【0041】
なお、上記の要件を適用することができる自動車部品の断面サイズは、最大でも200mm×200mm、多くは100mm×100mm程度であり、自動車部品の長さは、最大でも2m程度、多くは1m前後かそれ以下である。
【0042】
(解析)
図2に示す自動車用部品11を用いて、断面の中心からインナパネル13側に8mm偏心した偏心圧縮荷重Dを作用させた条件で、材料力学による理論解析(圧縮力と偏心による曲げモーメントを重畳させた応力計算)と有限要素法(FEM)解析を実施した。ここで、自動車用部品11は、両端部同士がそれぞれ接合されたアウタパネル12とインナパネル13とを有し、奥行き方向の長さが900mmであり、断面幅が100mmであり、断面高さが29mmであり、アウタパネル12およびインナパネル13のフランジ幅Bがそれぞれ54mmである。また、自動車用部品11のアウタパネル12には、板厚が2.0mmの590MPa級冷延鋼板を用いた。なお、自動車用部品11の断面形状は一定で、幅方向には断面形状が変化しないものとした。その結果、理論解析の結果とFEM解析の結果とはほぼ一致し、この条件ではインナパネル13の降伏により最大荷重が決まることがわかった。
【0043】
そこで、座屈限界を見極めるため、形状を変化させず、材料は2種類の鉄鋼材料を想定して、板厚を減少させた断面で理論解析とFEM解析とを実施し、理論解析の結果(インナパネル13の降伏により決まる最大荷重)とFEM解析の結果とを比較することで、座屈による強度低下の割合を確認した。その結果を図3に示す。図3は、座屈による最大荷重への影響を示している。
【0044】
図3において、横軸の座屈パラメータは、鋼構造の分野で一般的に用いられている(B/t)√(σy/E)の値であり、ここではB=54mm、t=1.2〜2.0mm、σy=480,780MPa、E=205800MPa(鋼のヤング率)の結果を用いた。これによると、座屈パラメータの値が大きくなると理論解析で得られた最大荷重よりも、FEM解析で得られた最大荷重の方が小さくなる。すなわち、インナパネル13の座屈により、断面の持つ性能よりも最大荷重が低下している。結果のばらつきを考慮すると、上記の式2のように、座屈パラメータの値を1.5以下とすることで、最大荷重を理論解析結果の90%以上とすることができることがわかる。
【0045】
また、インナパネル13の降伏による最大荷重を決める因子は、インナパネル13の降伏強度と、自動車用部品11の曲げ剛性である。後者は、偏心による曲げモーメントにより発生する曲げ圧縮応力の大きさに多大な影響がある。自動車用部品11の形状に変更がなければ、インナパネル13の強度は、板厚tと降伏応力σyとの積が代表値である。また、自動車用部品11の曲げ剛性は、ヤング率Eと断面2次モーメントとの積で与えられるため、インナパネル13とアウタパネル12とを分離して表現すると、以下の式5のような関数となる。
【0046】
曲げ剛性∝f(Eo×Ao×(ho),Ei×Ai×(hi))・・・・・・(式5)
【0047】
ここで、hは断面高さ、Aは断面積、添え字oはアウタパネル12、添え字iはインナパネル13を表す。なお、図2において、アウタパネル12の断面高さhoは12.5mmである。したがって、断面形状を変更しなければ、インナパネル13の材料/板厚変更に伴う自動車用部品11の曲げ剛性への寄与は、ヤング率Eと断面積Aとの積により表される。さらに、上述したように、断面形状を変更しない場合には、断面積Aの代表値は板厚tであるので、インナパネル13の材料/板厚変更に伴う自動車用部品11の曲げ剛性への寄与は、ヤング率Eと板厚tとの積により表わされる。
【0048】
上記の2つの因子を用い、インナパネル13の材料を種々の材料に置換して、最大荷重を算出した。その結果を表1に示す。比較例1の590MPa級鋼板は、最大荷重を比較する際の基準断面である。
【0049】
【表1】

【0050】
図4はインナパネル13の材料を置換した時のE×t×σyの変化と最大荷重の変化率との関係を示しており、横軸が380kN/mm以上のとき、E×t×σyは比較例1(基準断面)の90%以上となる。インナパネル13の材料が上記の式4を満たせば、図4に示すように、鋼板のみで構成された従来の自動車用部品と比較して、最大荷重を90%以上にできることがわかる。
【0051】
比較例2,3,7では、座屈パラメータの値が1.5以上になり、座屈し易い。比較例4,6では、E×t×σyの値が380kN/mmよりも小さく、インナパネル13の降伏による最大荷重の低下が大きい。比較例5では、基準断面よりも重量が増加している。これに対して、実施例1〜4では、上記の式1、式2、式4を全て満たしているので、基準断面よりも重量が軽く、座屈し難くなっているとともに、インナパネル13の降伏による最大荷重の低下が抑制されている。
【0052】
ここで、上記の解析では、板厚tを2.0mmとして解析を行っているが、鋼材をインナパネル13に使用する場合には、2mm前後で使用するのが一般的である。この場合、上記の式1における鉄鋼材料の密度ρ1を7.8kg/m、板厚tを2.0mmとしてρ1×t1を計算すると、その値は表1の比較例1で示されているように、15.6kg/mとなる。この値を考慮すると、インナパネル13側に採用する材料の密度をρ、板厚をtとすると、ρ×t≦15.0(kg/m)を満足するようにすれば、インナパネル13の材料を鋼板から置き換えた場合に重量が増加しないこととなる。
【0053】
また同様に、上記の式4においても、鋼材をインナパネル13に使用する場合には、2mm前後で使用するのが一般的であることを考えると、式4の右辺の計算結果は、同じく表1の比較例1で示されているように、395N/mとなる。この値を考慮すると、インナパネル13側に採用する材料のヤング率をE、板厚をt、降伏応力をσyとすると、E×t×σy≧380(kN/mm)を満足するようにすれば、インナパネル13の材料を鋼板から置き換えた場合に、鋼板とほぼ同等(90%以上)の最大荷重を得ることができる。
【0054】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0055】
例えば、インナパネル3を構成する材料は、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金に限定されず、式1、式2、式4を全て満足する材料であればよい。
【符号の説明】
【0056】
1 自動車用部品
2 アウタパネル
2a フランジ
3 インナパネル
3a フランジ
11 自動車用部品
12 アウタパネル
13 インナパネル
B フランジ幅
D 偏心圧縮荷重

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部同士がそれぞれ接合されたアウタパネルとインナパネルとを有し、断面の中心から前記インナパネル側に偏心した偏心圧縮荷重が作用する自動車用部品であって、
前記アウタパネルは鉄鋼材料からなり、
前記インナパネルは、外側に凸なフランジを中央に有しており、
前記インナパネルを構成する材料の密度、板厚、ヤング率、および、降伏応力を、それぞれρ、t、E、σyとし、前記インナパネルの前記フランジの幅をBとすると、前記インナパネルを構成する材料は、
ρ×t≦15.0(kg/m)の関係と、
(B/t)√(σy/E)<1.5の関係と、
E×t×σy≧380(kN/mm)の関係と、
を満足していることを特徴とする自動車用部品。
【請求項2】
前記インナパネルを構成する材料が、5000系、6000系または7000系のアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1に記載の自動車用部品。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−207330(P2011−207330A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76665(P2010−76665)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】