説明

自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】 耐熱性を有し、デラミネーションの発生頻度、オリゴマー発生量が少なく、かつ耐加水分解性及び機械的特性に優れた性能を有する自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの面配向係数が0.254以下であり、かつポリエステルフィルムの固有粘度が0.65dl/g以上である自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムに関し、さらに詳しくは耐熱性を有し、デラミネーションの発生頻度、オリゴマー発生量が少なく、かつ耐加水分解性、機械的特性に優れた性能を有する自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から、従来のガソリンエンジンカーに替わる自動車の要望が高まっており、特にガソリンエンジンにモーターを組み合わせて低燃費、低騒音等を実現するハイブリットカーが脚光を浴びつつある。このハイブリッドカーに使用されるモーターには非常に高い出力が要求され、かつ使用環境が非常に厳しく、使用も長期に渡ることから、モーター内に使用される絶縁フィルムにおいても、高い耐熱性・耐加水分解性・低オリゴマー性が要求される。
【0003】
自動車駆動モーター以外のモーター用途、例えば冷凍機や空調機などのコンプレッサ用モーターでの絶縁用フィルムにおいても、近年、電気、電子機器の小型化、高性能化に伴い、従来に較べて、耐熱性、冷媒に対するオリゴマー抽出量、耐加水分解性等の特性向上を要求されるケースが増えてきている。例えば、通常のPETフィルムの耐熱性(耐熱区分E種)を改良した耐熱区分B種のPETフィルム(B種PETフィルム)や 、特許文献1、特許文献2等によるとPENフィルム等が使用されている。
【0004】
しかしながら、従来より絶縁用フィルムとして用いられてきたPETやPENフィルムを自動車駆動モーター用絶縁フィルムとして用いた場合、耐加水分解性や低オリゴマー性の点で未だ充分な性能が得られていなかった。特にPENフィルムは、打ち抜きや折り曲げ加工時に層間剥離(以下、デラミネーションと称することがある)と呼ばれる、分子のスタッキング(積み重ね構造)が芳香族環の平面間で剥離する現象が発生しやすく、歩留りの低下を引き起こす問題があった。PENフィルムを加工する際に生じるデラミネーションを改良する方法として、例えばフィルムの配向を抑制する方法が用いられているが、このようなPENフィルムは配向が充分ではないため機械的特性に乏しいものであった。その他に例えば特許文献3には、PENフィルム加工時の温度やポンチ曲率を工夫し、デラミネーション発生頻度を低下させる方法が開示されているが、加工装置の改良が必要であり、また気温と湿度が低下する冬季には充分な効果を示さなかった。
【0005】
このように、自動車駆動モーターの絶縁用フィルムとしてPENフィルムを用いるために、従来のPENフィルムよりも更に耐加水分解性や低オリゴマー性に優れ、かつ加工時に特殊な温湿度環境や加工装置を用いることなくデラミネーション性及び機械的特性に優れるPENフィルムが望まれているのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−76536号公報
【特許文献2】特開2002−273844号公報
【特許文献3】特開平6−335960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、耐熱性を有し、デラミネーションの発生頻度、オリゴマー発生量が少なく、かつ優れた耐加水分解性及び機械的特性を有する自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度を従来よりも高くすることによって、デラミネーション特性が著しく向上し、しかも従来ではデラミネーションが発生する領域であった程度にまでフィルムを配向させてもデラミネーションの発生を抑制できるため機械的特性をも向上させることができ、しかも固有粘度及びフィルム配向度が高いことによって、当該フィルムは加水分解性やオリゴマー発生の点でも優れるため、自動車駆動モーターの絶縁フィルムとして好適に用いることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの面配向係数が0.254以下であり、かつポリエステルフィルムの固有粘度が0.65dl/g以上である自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0010】
また本発明の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ5000MPa以上であること、フィルム厚みが125μm以上400μm以下であること、オリゴマー抽出量が0.5重量%以下であること、150℃で30分間処理した際のフィルムの縦方向および横方向の熱収縮率がそれぞれ1.0%以下であることの少なくともいずれか一つを具備するものも好ましい態様として包含する。
また本発明の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムは、具体的にハイブリッド自動車または電気自動車の駆動モーター用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルムは、デラミネーション特性及び機械的特性に優れ、かつ加水分解性やオリゴマー発生の点でも優れるため、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モーターの絶縁フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート>
本発明におけるポリエステルフィルムは、主たる成分がポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである。かかるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸、グリコール成分としてエチレングリコールとからなる。ここで「主たる」とは、ポリマー成分のうち、全繰り返し構造単位の80モル%以上であることを意味する。本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、全繰返し単位の80モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、エチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、エチレン−1,5−ナフタレンジカルボキシレートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。更に好ましくは全繰返し単位の90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上がエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであり、特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの実質的な単独重合体であることが好ましい。
【0013】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、共重合成分が20モル%以下のポリエチレンナフタレンジカルボキシレート共重合体であってもよい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが共重合体の場合、共重合成分として分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができる。このような化合物として例えば、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸;p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸等の如きオキシカルボン酸;或いはジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコール等の如き2価アルコール類等を用いることができる。これらの共重合成分は1種であっても、2種以上を併用してもよい。かかる共重合成分の中で、酸成分としてはイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p―オキシ安息香酸を、グリコール成分としてはジエチレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物を好ましい例として挙げることができる。
【0014】
また、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってもよく、或いは例えば極少量のグリセリン、ペンタエリスリトール等の如き三官能以上のエステル形成性化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
【0015】
本発明のポリエステルフィルムにおけるポリマーの構成成分は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの単独重合体または共重合体を主成分とするが、他のポリエステルやポリエステル以外の有機高分子との混合体であってもよい。混合体の場合、ポリマーの成分中のエチレンナフタレンジカルボキシレート単位が、全繰り返し構造単位の80モル%以上であることが好ましく、さらに好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上であることによって、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルム本来の特性を極端に失うことがなく、機械的特性、長期耐久性および寸法安定性を確保することができる。
【0016】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに混合できるポリエステル或いはポリエステル以外の有機高分子としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン4,4’−テトラメチレンジフェニルジカルボキシレート、ポリエチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリネオペンチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等のポリエステルを挙げることができ、これらの中でポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。これらのポリエステルまたはポリエステル以外の有機高分子は、1種であっても2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ジカルボン酸とグリコールとの反応で直接低重合度ポリエステルを得、或いはジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換反応で低重合度ポリエステルを得、この低重合度ポリエステルを重合触媒の存在下で更に重合させてポリエステルを得る方法で製造することができる。
【0018】
エステル交換反応に用いるエステル交換触媒としては、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物の一種または二種以上を挙げることができる。また重合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物を挙げることができる。
【0019】
エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的でトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリエチルホスホノアセテート、正リン酸等のリン化合物を添加することができ、リン元素としてのポリエチレンナフタレンジカルボキシレート中の含有量は20ppm以上100ppm以下で用いることがポリエステルの熱安定性の点から好ましい。
【0020】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、溶融重合後にチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中においてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートのガラス転移温度以上、融点温度以下の範囲で固相重合処理を施すことが、固有粘度を高める目的で特に好ましい。固相重合処理過程の固相重合温度は、225℃以上250℃以下が好ましく、さらに好ましくは230℃以上240℃以下である。225℃未満では固相重合処理によるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの重合が進みにくく、250℃より高い温度ではチップ間の融着を招く。固相重合処理の時間は20時間以上が好ましく、さらには30時間以上が好ましい。固相処理時間の上限時間は特にないが、50時間以上では重合がかなり進んでおり、それ以上長時間の処理を実施してもさらに高分子量化する効果は小さく、生産性が低下するので好ましくない。固相重合処理は公知の方式を使用することができ、バッチ式または連続式のどちらも使用することが可能である。
【0021】
<添加剤>
本発明の二軸配向ポリステルフィルムは、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていても良い。不活性粒子として、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えば、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等のごとき耐熱性の高いポリマーよりなる微粒子などを含有させることができる。不活性粒子を含有させる場合、不活性粒子の平均粒径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、フィルム全重量に対して0.01〜10重量%、さらに好ましくは0.05〜5重量%の範囲で含有されることが好ましい。また本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、必要に応じて少量の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤、熱安定剤を含んでいてもよい。
【0022】
<固有粘度>
二軸配向フィルムに製膜した後のフィルムの固有粘度は0.65dl/g以上であることが好ましく、0.67dl/g以上であることがさらに好ましい。固有粘度の上限値は特に存在しないが、0.90dl/gを超えると、溶融押出機のスクリューにかかるトルクが非常に高くなり、通常の溶融押出機では使用が困難となる。ここでフィルムの固有粘度とは、フィルムを構成するポリマーの固有粘度を表す。二軸配向フィルムに製膜した後のフィルムの固有粘度の上限は、製膜時のスクリュー負荷の点で、0.80dl/g以下であることがより好ましく、0.75dl/g以下であることが特に好ましい。
固有粘度が下限に満たない場合、面配向係数の高い領域においてデラミネーションが発生しやすく、またオリゴマー抽出量、耐加水分解性が自動車駆動モーター用絶縁フィルムとして十分でない。なお、固有粘度はo−クロロフェノールを溶媒として用いて、35℃で測定した値(単位:dl/g)である。
【0023】
本発明に用いるフィルム製膜前のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は0.70dl/g以上、さらに好ましくは0.73dl/g以上である。フィルム製膜前のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度が下限に満たない場合、溶融押出後、二軸配向して得られるフィルムの固有粘度が上記の範囲に達しないことがある。
【0024】
<面配向係数>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの縦方向(以下、長手方向、製膜方向またはMD方向と称することがある。)、横方向(以下、幅方向またはTD方向と称することがある。)および厚み方向の屈折率から求まる面配向係数(ns)が、0.254以下であり、好ましくは0.251以下である。ここで面配向係数とは、アッベ法にて測定されたフィルムの各方向成分の屈折率を用いて、下記式(1)に従って計算して得られた値で表される。
ns=(nMD+nTD)/2−nZ …(1)
(式中、nMDはフィルムのMD方向の屈折率、nTDはフィルムのTD方向の屈折率、nZはフィルム面に垂直な厚み方向の屈折率をそれぞれ示す。)
【0025】
フィルムの面配向係数は、フィルム内における分子鎖の配向状態を表す指標といえるものである。これが上限を越えると、機械的特性は上がるものの分子鎖の配向が強くなりすぎ、打ち抜きや折り曲げ加工の際に層間剥離(デラミネーション)が発生しやすくなり、歩留りの低下を招く。他方、面配向係数の下限値が0.20未満の場合、フィルムに占める非晶の割合が大きいため、耐加水分解性が低下することがある。また面配向係数の下限値は、ヤング率で表される機械的特性を高める観点から0.20以上、さらには0.245以上であることが好ましい。
【0026】
フィルムの面配向係数の上限を満たすための具体的達成手段として、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの共重合量を少なくする方向が好ましく、また面積倍率を一定倍率以下で行うと同時に熱固定温度を一定範囲で行うことが好ましい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート単独重合体を用いる場合は、面積延伸倍率9.5倍以下、熱固定温度を225℃以上250℃未満で行うことが好ましい。また面配向係数の下限を達成する手段は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート単独重合体を用いる場合、面積延伸倍率7.0倍以上、熱固定温度225℃以上250℃未満で行うことが好ましい。また縦延伸倍率と横延伸倍率の差は0.3以下であることが好ましい。
【0027】
<ヤング率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルムの縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ5000MPa以上であることが好ましく、より好ましくは5500MPa以上、特に好ましくは6000MPa以上である。ヤング率が下限に満たない場合、フィルムの腰がなく、モーターへの自動挿入において詰まりが発生しやすく、歩留りが低下することがある。ヤング率の上限は特に限定されないが、7000MPa以上ではフィルム製膜工程でフィルム切断が多発することがある他、配向度が高くなりすぎてデラミネーションが生じやすくなる。フィルムの縦方向および横方向のヤング率は、延伸時の倍率で調整することができる。
ヤング率の下限を達成する具体的手段は、面配向係数の下限を達成する手段と同じ方法で行うことができる。またヤング率の上限を達成する具体的手段は、面配向係数の上限を達成する手段と同じ方法で行うことができる。
【0028】
<厚み>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは、125μm以上400μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは150μm以上350μm以下である。フィルム厚みが下限に満たない場合、自動車駆動モーターのスロット・ウエッジ・相間絶縁用として絶縁能力が不充分であることがある。一方、フィルム厚みが上限を超える場合は、デラミネーションが発生しやすく、歩留りが低下することがある。
【0029】
<オリゴマー抽出量>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、オリゴマー抽出量が0.5重量%以下であることが好ましい。本発明におけるオリゴマー抽出量とは、38mm×38mm四方のフィルムを139℃のキシレン20cc中で2時間煮沸し、徐冷したのちフィルムを取出し、該キシレン中のオリゴマー量を測定波長240nmの吸光度より求めた値で表される。オリゴマー抽出量が0.5重量%を越える場合、駆動モーターがオイルで浸漬された状態で高温条件下で使用される際に、フィルムから抽出されたオリゴマーがオイル中に析出する問題が生じ易く、自動車の駆動モーターの絶縁用フィルムとして用いることができないことがある。オリゴマー抽出量は、0.5重量%以下の範囲内であればより少ない方が好ましく、下限は0.0重量%以上であることが好ましい。
【0030】
<熱収縮率>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、自動車駆動モーターの使用環境が高温度になることから、150℃、30分間熱処理された後の縦方向および横方向の熱収縮率がそれぞれ1.0%以下であることが好ましく、更に好ましくは0.8%以下である。熱収縮率が上限を超えると、モーター巻線から熱を受けた部分だけのフィルムが収縮し局所歪みが発生しやすく、その箇所でのフィルムの耐熱性・耐加水分解性が低下し、モーター寿命を低下させるため、自動車駆動モーター絶縁用に好ましくないことがある。
【0031】
<フィルム製膜方法>
本発明のポリエステルフィルムは二軸配向フィルムである必要がある。二軸配向されていることにより、機械的特性や耐熱寸法安定性が良好なものとなり、自動車駆動モーターの絶縁用として十分な性能を発現することが可能となる。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸延伸されるのであれば、公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えば十分に乾燥させたポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを融点〜(融点+70)℃の温度で溶融押出し、キャスティンクドラム上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸して、熱固定する方法で製造することができる。逐次二軸延伸により製膜する場合、未延伸フィルムを縦方向に130〜170℃で2.5〜4.0倍延伸し、次いでステンターにて横方向に130〜150℃で2.5〜4.0倍延伸することが好ましい。また、縦延伸倍率と横延伸倍率を掛け合わせた面積延伸倍率は7.0〜9.5倍であり、縦延伸倍率と横延伸倍率の差は0.3以下であることが好ましい。また熱固定は、225℃以上250℃未満の温度で、緊張下又は制限収縮下で熱固定するのが好ましく、熱固定時間は1〜1000秒が好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。また、熱固定後に弛緩処理を行ってもよい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0033】
(1)面配向係数(ns)
アッベ屈折計を用い、ナトリウムD線(589nm)を光源として得られた二軸配向フィルムの縦方向、横方向、厚み方向の屈折率をそれぞれ測定し、フィルムの面配向係数(ns)を次式(1)により求めた。
ns=(nMD+nTD)/2−nZ ・・・(1)
(式中、nMDはフィルムのMD方向の屈折率、nTDはフィルムのTD方向の屈折率、nZはフィルム面に垂直な厚み方向の屈折率をそれぞれ示す。)
【0034】
(2)固有粘度
o−クロロフェノールを溶媒として用い、35℃で測定した(単位:dl/g)。フィルムの固有粘度は二軸配向フィルムをサンプリングして行った。
【0035】
(3)ヤング率
オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いて、温度20℃、湿度50%に調節された室内において、二軸配向フィルムを試料幅10mm、長さ15cmに切り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分で引張り、得られる荷重―伸び曲線の立ち上り部の接線よりヤング率を計算する。なお、縦方向のヤング率とはフィルムの縦方向を測定方向としたものであり、横方向のヤング率とはフィルムの横方向を測定方向としたものである。各ヤング率は10回測定し、その平均値を用いた。
【0036】
(4)フィルム厚み
打点式フィルム厚み計を用いて、フィルム幅方向の任意の50箇所、フィルム幅の中心付近の位置で、長手方向に沿って任意の50箇所について厚みを測定し、全100箇所の数平均値をフィルム厚みとした。
【0037】
(5)オリゴマー抽出量
二軸配向フィルム(38mm×38mm)を139℃のキシレン20cc中で2時間煮沸し、徐冷したのちフィルムを取出し、該キシレン中のオリゴマー量を測定波長240nmの吸光度より求める。なお、オリゴマーの濃度と吸光度との関係は予め検量線を作成して用いた。また、吸光度の測定はSHIMADZU製UV−VIS−NIR分光光度計UV−3101PCを用いた。
【0038】
(6)熱収縮率
二軸配向フィルムの縦方向および横方向がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを温度150℃に設定されたオーブン中に無荷重で入れ、30分間静置した後取出し、室温に戻してからその寸法変化を読み取る。熱処理前の長さ(L0 )と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、次式(2)に従って縦方向および横方向の熱収縮率をそれぞれ求めた。各方向の熱収縮率はそれぞれサンプル数n=5で評価を行い、その平均値を用いた。
熱収縮率(%)=ΔL/L0×100 ・・・(2)
【0039】
(7)デラミ性(耐デラミネーション性)
80×80mmの大きさにフィルムサンプルを切り出し、手で軽く2つに折りながら、平坦な一対の金属板で挟んだ後、プレス機により所定の圧力P1(kg/cmG)で20秒間プレスした。プレス後、2つ折りのフィルムサンプルを手で元の平面状態に戻し、あらわれた白化部分の長さ(mm)を測定して合計した。それぞれ新しいフィルムサンプルを使用し、プレス圧力P1=2,3,4,5(kg/cmG)について上記測定を繰り返した。
下記式(3)に従い、各プレス圧力における白化部分の長さ(mm)の合計の平均値が、折り目の全長(80mm)に占める割合(%)を折り目デラミ率(%)と定義し、下記基準にてデラミ性を評価した。
折り目デラミ率(%)=各プレス圧力における白化部分の長さの総合計(mm)/(80mm×4)×100 ・・・(3)
○: 折り目デラミ率 40%未満
△: 折り目デラミ率 40%以上 70%未満
×: 折り目デラミ率 70%以上
【0040】
(8)耐加水分解性
二軸配向フィルムの縦方向に100mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、121℃・2atm・100%RH(濡れ飽和)に設定した環境試験機内で100時間放置する。試料片はステンレス製クリップを用いて吊り下げた。100時間後に取り出した試料片の縦方向の破断強度を測定し、サンプル数n=5の平均値について、下記基準に従って耐加水分解性を評価した。
○: 破断強度 150MPa以上
△: 破断強度 100MPa以上 150MPa未満
×: 破断強度 100MPa未満
【0041】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子を0.25重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%を含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた。それぞれの滑剤はフィルム重量に対する配合量を示す。その後、トリエチルホスホノアセテート0.042重量部を添加し実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで、三酸化アンチモン0.024重量部を添加し、引き続き高温、高真空下で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートのチップを得た。このPENチップをタンブラーに充填し、1mmHgになるまで減圧しながら、150度で6時間乾燥させた。その後、タンブラー内の温度を240℃に上げ、その温度にて20時間保持し、固有粘度0.80dl/gの固相重合処理PENチップを採取した。この固相重合処理PENチップを175℃で5時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出した後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0042】
この未延伸フィルムを140℃にて縦方向(長手方向)に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルムを得た。その後135℃で横方向(幅方向)に3.0倍に逐次二軸延伸し、さらに245℃の熱固定温度で10秒間熱固定処理を行い、さらに245℃で幅方向に2%収縮させながら再熱処理を行って、250μmのフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得てロールに巻き取った。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。本フィルムは、自動車駆動モーター用として使用できる機械的特性及び面配向係数を有するとともに、耐デラミネーション特性、加水分解特性にも優れ、かつ抽出オリゴマーが少なかった。
【0043】
[実施例2]
逐次二軸延伸後に、235℃の熱固定温度で熱固定処理を行い、さらに235℃で幅方向に2%収縮させながら再熱処理した以外は実施例1と同様の操作を繰り返し、250μmのフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。
【0044】
[比較例1]
実施例1の未延伸フィルムを140℃にて縦方向(長手方向)に5.1倍延伸し、一軸延伸フィルムを得た。その後、145℃で横方向(幅方向)に4.6倍に逐次二軸延伸し、さらに245℃の熱固定温度で熱固定処理を行い、さらに245℃で幅方向に2%収縮させながら再熱処理をした以外は実施例1と同様の操作を繰り返し、250μmのフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。ヤング率の値が高く非常に腰のあるフィルムとなったが面配向係数が大きいため、固有粘度が高いにも係らず耐デラミネーション特性は十分ではなかった。また熱収縮率も大きいことから、自動車駆動モーター絶縁用フィルムとして十分ではなかった。
【0045】
[比較例2]
実施例の未延伸フィルムを140℃にて縦方向(長手方向)に3.5倍延伸し、一軸延伸フィルムを得た。その後、145℃で横方向(幅方向)に3.4倍に逐次二軸延伸し、さらに245℃の熱固定温度で熱固定処理を行い、さらに245℃で幅方向に2%収縮させながら再熱処理をした以外は実施例1と同様の操作を繰り返し、250μmのフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの特性を表1に示す。面配向係数が大きいため、固有粘度が高いにも係らず耐デラミネーション特性は十分ではなかった。
【0046】
[比較例3]
固相重合処理時間を20時間から5時間に変更した以外は実施例1と同様の操作を繰り返して250μmのフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本フィルムは固有粘度が十分高くないため、自動車駆動モーター用として使用できる機械的特性を満たすような面配向係数を有するものの、耐デラミネーション特性、耐加水分解性に乏しかった。
【0047】
[比較例4]
固相重合処理の工程を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を繰り返して250μmのフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。本フィルムは固有粘度が十分高くないため、自動車駆動モーター用として使用できる機械的特性を満たすような面配向係数を有するものの、耐デラミネーション特性、耐加水分解性に乏しかった。
【0048】
[比較例5]
テレフタル酸ジメチル100重量部、エチレングリコール60重量部に、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03重量部を使用し、滑剤として平均粒径0.3μmの球状シリカ微粒子をポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の重量を基準として0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.042重量部を添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。ついで三酸化アンチモン0.024重量部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)を得た。このPETチップをタンブラーに充填し、1mmHgになるまで減圧しながら、140度で4時間乾燥させた。その後、タンブラー内の温度を235℃に上げ、その温度にて20時間保持し、固有粘度0.78dl/gの固相重合処理PETチップを採取した。この固相重合処理PETチップを150℃で3時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度280℃で溶融し、ダイスリットより押出した後、表面温度25℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0049】
この未延伸フィルムを95℃で連続製膜方向に3.1倍延伸する。その後、120℃で幅方向に3.0倍に逐次に二軸延伸し、さらに230℃の熱固定温度で10秒間熱固定処理を行い、250μmのフィルム厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得てロールに巻き取った。得られた二軸配向ポリエステルフィルムの評価結果を表1に示す。本フィルムはデラミ性には優れるものの、耐熱安定性、オリゴマー抽出量、耐加水分解性が自動車駆動モーター絶縁用フィルムとして十分ではなかった。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明における二軸配向ポリエステルフィルムは、デラミネーション特性及び機械的特性に優れ、かつ加水分解性やオリゴマー発生の点でも優れるため、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モーターの絶縁フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムであって、該フィルムの面配向係数が0.254以下であり、かつポリエステルフィルムの固有粘度が0.65dl/g以上であることを特徴とする自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
縦方向および横方向のヤング率がそれぞれ5000MPa以上である請求項1に記載の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルム厚みが125μm以上400μm以下である請求項1または2に記載の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
オリゴマー抽出量が0.5重量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
150℃で30分間処理した際のフィルムの縦方向および横方向の熱収縮率がそれぞれ1.0%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
自動車がハイブリッド自動車または電気自動車である請求項1〜5のいずれかに記載の自動車駆動モーター用二軸配向ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2008−45082(P2008−45082A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223995(P2006−223995)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】