説明

自在組子及びこれを利用した格子組み方法

【課題】 格子組子において、立体的な面を形成する場合、框などに曲面を形成する部材を設け、その周面に切欠を刻設して組子素材を組んでいく必要があった。
【解決手段】 複数の組子素材を嵌合させる部材であって、細幅帯状部材の少なくとも片面を、複数の保持部と、隣り合う該保持部間に薄肉の基材を残して形成した組子素材の嵌合部とによって構成する。或いは、細幅帯状部材の少なくとも片面が、複数の保持部と、隣り合う該保持部間に薄肉の基材を残して形成した嵌合部とによって構成された自在組子を、間隔を開けて配し、各嵌合部に組子素材を架け渡して固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、行灯、シェード、欄間などを格子組みによって曲面に形成する場合に用いる自在組子、及び自在組子を利用する格子組み方法に関するものである。

【背景技術】
【0002】
我が国において古くから行われている伝統的な格子組子(組手)は、細い角材(組子素材)を縦横若しくはそのどちらか、或いは斜め方向に間を透かして組み合わせた構造であり、組子素材の長手方向の一側若しくは両側に切欠を設け、これらを相互に嵌め込むことによって幾何学的模様に形成する。組子を形成する組子素材としては、一般的には、木、竹、金属製のものがある。

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
組子は、障子、扉、欄間など、開口部を装飾するものとして広く用いられているが、従来より平面的な幾何学模様を形成するものとして捉えられており、各種建具の一部に装飾を施すための手段として利用されているに過ぎないのが実情である。
【0004】
平面的な幾何学模様の場合は、組子素材の所定の位置に切欠を設けておくことにより、該切欠同士を縦横斜めに任意に組み合わせることができる。ところが、立体的な面を形成するには、框などに曲面を形成する部材を設け、その周面に切欠を刻設して組子素材を組んでいく必要があった。このことは、障子、襖、欄間などの平面的な建具のみならず、行灯やシェードなどにおいても同様である。例えば、シェードの場合は、小径と大径の各リング部材に同じ数の切欠を刻設し、これらの切欠に組子素材を架け渡して円錐台形状の笠を形成する。
【0005】
このように、組子素材で立体面を形成させるためには、リング部材など円形や曲面の型材の周面に均等若しくは所定の間隔で切欠を刻設しなければならない。この工程は、そもそも曲面上に切欠を設ける位置を割り付けることが困難であるし、切欠の刻設も極めて手間のかかる作業となる。特に、組子素材の長手方向に壁面が存在する型材の場合、丸鋸などの切断装置を使用することができないため、手作業で切欠を刻設しなければならないことになる。

【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は上記問題に鑑み鋭意研究の結果、本発明を成し得たものであり、その特徴とするところは、複数の組子素材を嵌合させる部材であって、細幅帯状部材の少なくとも片面を、複数の保持部と、隣り合う該保持部間に薄肉の基材を残して形成した組子素材の嵌合部とによって構成したことにある。
【0007】
また、細幅帯状部材の少なくとも片面が、複数の保持部と、隣り合う該保持部間に薄肉の基材を残して形成した嵌合部とによって構成された自在組子を、間隔を開けて配し、各嵌合部に組子素材を架け渡して固定することにある。
【0008】
ここで、本明細書中でいう「細幅帯状部材」とは、少なくとも2つを間隔を開けて配することにより、複数の組子素材を架け渡して連結する部材をいう。このため、細幅帯状部材には複数の保持部を設け、隣り合う保持部間を組子素材の嵌合部として組子素材を嵌め込む。この嵌合部がいわゆる組子素材を係合させるための切欠である。
【0009】
保持部は、細幅帯状部材に、薄肉の基材を残すように嵌合部を切り欠いた構造とすることによって形成する。薄肉の基材を残すことにより、細幅帯状部材に柔軟性を付与して湾曲させる。細幅帯状部材の材質は、基本的には木材とする。この場合、基材の厚さは、木材の種類によって異なるが、通常0.5mm〜1.5mm程度とする。基材の少なくとも片面に切込を入れることにより、より湾曲させやすくすることができる。
【0010】
材質としては、木材の他、ゴム、プラスチック、金属などでもよい。これらの材質で自在組子に形成する手段としては、木材と同様に細幅帯状部材を切削により切り欠いて嵌合部を形成したり、射出成型やプレス成型によって行う。
【0011】
嵌合部は、基本的に細幅帯状部材の長手方向に直交するように設けるが、斜めに設けてもよい。嵌合部を斜めに設けた自在組子の場合、これを湾曲させると螺旋状になるが、自在組子の素材をゴムやウレタン、ポリ塩化ビニルなどの軟質プラスチックにすれば、保持部も湾曲させることができ、平面的に湾曲させることができる。
【0012】
保持部と嵌合部は、細幅帯状部材の両面に配してもよい。両面に設けることで表面と裏面の差を無くすことができ、欄間など両面が露出する場合に有効となる。両面に設ける場合は、保持部同士と嵌合部同士を対向位置に設ける他、千鳥状に設けてもよい。
【0013】
本発明に係る自在組子は、型材の周面に固定したり、框などの内周面に固定して組子素材を組み込んでいく。この他、自在組子に組子素材を組み込んでから、自在組子を型材の周面などに固定してもよい。自在組子に組み込んだ組子素材のほぼ中間部に、他の自在組子や補助自在組子を設けることにより、強度が高められ、間隔を開けて配する自在組子のスパンが長い場合に有効となる。補助自在組子は、自在組子の幅を小さくした構造であり、できるだけ目立たなくする上で効果的である。また、上述したように嵌合部を斜めに設けた自在組子や補助自在組子を螺旋状に取り付けて、模様を創出させるようにしてもよい。

【発明の効果】
【0014】
本発明に係る自在組子及び自在組子を用いる格子組み方法は、薄肉の基材の少なくとも片面に保持部と嵌合部を設けた構造としているため、任意の曲面に格子組みすることが可能となる。特に、細幅帯状部材に嵌合部を刻設する作業は、平面的に行えるため丸鋸などの切断装置を使用でき、極めて効率よく安価に製作することができる。しかも、平板状のものを湾曲させるため、割り付け作業を必要とせず極めて正確に割り付けることができるなど極めて有益な効果を有するものである。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
保持部と嵌合部を備えた基材を薄肉にして柔軟性を持たせ、任意の形状に湾曲させることにより、曲面の格子組みを形成する。

【実施例1】
【0016】
図1(a)(b)は、本発明に係る自在組子1の一実施例を示すもので、片面に複数の保持部2と、隣り合う保持部2間に薄肉の基材3を残して形成した嵌合部4とを設けた構造である。この自在組子1は、杉を柾目に沿って切断した細幅帯状部材の片面を、一定の間隔に丸鋸で切り欠いて形成したものである。本例では、幅12mm、厚さ5mmの細幅帯状部材から、嵌合部4の幅4mm、基材3の厚さ1mm(嵌合部4の深さ4mm)に、保持部2の幅3mm間隔で切削している。また、同図(b)の拡大図のように保持部2基部の基材3に切込31を入れて、より曲げやすくしている。

【実施例2】
【0017】
自在組子1は、例えば図2に示すようにほぼ半円状の型材5の周面に接着剤で貼り付けて用いる。これにより、型材5の周面に切欠を刻設した場合と同等の効果を得ることができ、切欠を刻設する位置を割り付ける手間がかからず、しかも嵌合部4の配列が極めて正確となる。

【実施例3】
【0018】
自在組子1は図3のように適宜間隔を開けて配し、それぞれの嵌合部4に組子素材6を架け渡して固定することによって組子飾りを形成する。本例では、杉の板材から切断して形成した組子素材6を自在組子1に組み付ける例を示しており、格子に杉の木目を再現させるようにしている。また、本例では組子素材6のほぼ中間部に補助自在組子11を2つ組み付けている。補助自在組子11は自在組子1を細幅にしたもので、できるだけ目立たないように組子素材6の間隔保持と強度を高めるために設けている。

【実施例4】
【0019】
上部のリング状型材5と下部の円盤状型材5にそれぞれ全周に渡って自在組子1を貼り付け、それぞれの嵌合部4に組子素材6を組み付けていくことによって図4(a)(b)に示す組子飾りの行灯7が構成される。本例の行灯7は、下部の円盤状型材5に電球72を設け、光透過性の不織布で形成した円筒状カバー73で電球72の周囲を覆った構造であり、台座71に設置している。また、本例では上部と下部の自在組子1の径を同じにしているが、異なる径にして円錐台や逆円錐台形状にしてもよい。

【実施例5】
【0020】
自在組子1は、必ずしも型材5の周面に貼り付ける必要はなく、曲線に曲げた状態で接着剤等で板や角材に側端部を貼着してもよい。例えば、欄間8の場合は、図5(a)(b)のように枠体81の内周面上下に自在組子1を円弧状に曲げて固定し、各嵌合部4に組子素材6を組み付けて形成する。この場合、作業台上で自在組子1に組子素材6を平面的に組み付ける作業を行ってから、枠体81に円弧状に曲げて取り付けてもよい。

【実施例6】
【0021】
本発明に係る自在組子1は、両面に保持部2と嵌合部4をそれぞれ設け、表裏に組子素材6を組み付けるようにしてもよい。これは、図6(a)(b)のように保持部2と嵌合部4をそれぞれ千鳥状に配する場合で、表裏面とも装飾性を付与することができ、衝立や床脇の丸窓などに有効となる。保持部2と嵌合部4を両面に設ける目的は、組子素材6を自在組子1の両面に組み込むことによって、自在組子1の基材3の裏面を露出させないようにすることである。このため、片面側の嵌合部4の隙間を極力狭くすることで同等の効果を得ることができる。この場合の嵌合部4は、組子素材6を嵌め込むものではなく、曲面に湾曲させるための切欠であり、保持部2は断面台形状に成型して装飾性を施す。

【実施例7】
【0022】
本発明に係る自在組子1においては、図7(a)に示すように嵌合部4を斜めに設けてもよい。通常、これを湾曲させると同図(b)のように螺旋状となるため、ゴムや軟質プラスチックで形成すれば、図8のように平面的なリングにすることができる。嵌合部4を斜めにした自在組子1と直線状の組子素材6の組み合わせでは、必然的に円錐台形状の組子飾りが形成され、例えばランプのシェードなどを形成する上で効果的となる。尚、本例の下部に示した自在組子1は、これを単体で端部同士を接着剤で連結して、大径リング状に形成したものである。

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る自在組子の一実施例を示すもので、(a)は平面図、(b)は側面図である。(実施例1)
【図2】図1に示した自在組子の使用状態の一例を示す側面図である。(実施例2)
【図3】図1に示した自在組子を利用して組子飾りを形成する状態の一例を示す斜視図である。(実施例3)
【図4】本発明に係る自在組子を利用して形成した行灯の一例を示すもので、(a)は平面図、(b)は正面図である。(実施例4)
【図5】本発明に係る自在組子を利用して形成した欄間の一例を示すもので、(a)は横断面図、(b)は正面図である。(実施例5)
【図6】(a)は本発明に係る自在組子の他の例を示す平面図、(b)は組子素材を取り付けた状態を示す平面図である。(実施例6)
【図7】(a)は本発明に係る自在組子のさらに他の例を示す平面図、(b)はこれを湾曲させて螺旋状にした状態を示す斜視図である。(実施例7)
【図8】嵌合部を斜めに形成した自在組子を利用して組子飾りを形成する状態の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0024】
1 自在組子
2 保持部
3 基材
31 切込
4 嵌合部
5 型材
6 組子素材
7 行灯
71 台座
72 電球
73 カバー
8 欄間
81 枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の組子素材を嵌合させる部材であって、細幅帯状部材の少なくとも片面を、複数の保持部と、隣り合う該保持部間に薄肉の基材を残して形成した組子素材の嵌合部とによって構成したことを特徴とする自在組子。
【請求項2】
基材に切込を入れたものである請求項1記載の自在組子。
【請求項3】
保持部及び嵌合部は、細幅帯状部材の両面に千鳥状に配したものである請求項1又2記載の自在組子。
【請求項4】
嵌合部は、少なくとも一部が細幅帯状部材の長手方向に直交しない斜めに設けたものである請求項1、2又3記載の自在組子。
【請求項5】
細幅帯状部材の少なくとも片面が、複数の保持部と、隣り合う該保持部間に薄肉の基材を残して形成した嵌合部とによって構成された自在組子を、間隔を開けて配し、各嵌合部に組子素材を架け渡して固定することを特徴とする格子組み方法。
【請求項6】
自在組子は、細幅帯状部材の両面に保持部及び嵌合部を千鳥状に配した請求項5記載の格子組み方法。
【請求項7】
自在組子は、細幅帯状部材の長手方向に直交しない斜めに嵌合部を設けた請求項5又は6記載の格子組み方法。
【請求項8】
自在組子は、型材の周面に固定する請求項5又は7記載の格子組み方法。
【請求項9】
両端部を自在組子に固定した各組子素材のほぼ中間部に補助自在組子を設ける請求項5、6、7又は8記載の格子組み方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−16755(P2006−16755A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192494(P2004−192494)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(504252433)
【Fターム(参考)】