説明

自家蛍光による角層細胞の鑑別方法

【課題】角層細胞の形状に代わり、角層細胞を鑑別するための指標を見出し、もって短時間に皮膚の特性を鑑別することを可能にならしめる技術を提供する。
【解決手段】皮膚より採取した角層細胞を鑑別する方法であって、顕微鏡下、乃至は、拡大ビデオでの観察下、油浸オイルで封入されたスライドグラス上の角層細胞に、紫外線光源より紫外線を照射し、紫外線によって励起される、角層細胞の蛍光強度を指標とすることを特徴とする。又、鑑別された角層細胞を構成するケラチンの立体構造の差異特性から、皮膚の鑑別を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の角層を構成する角層細胞の鑑別方法に関し、更に詳しくは、角層細胞を構成するケラチンの立体構造の差異を鑑別するのに有用な角層細胞の鑑別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料を使用するにあたり、重要な事項は適切な化粧料を選択することである。この様な適切な化粧料の選択を行う必要条件としては、皮膚の状態或いは特性を正しく鑑別することが挙げられる。この様な皮膚の状態或いは特性を正しく行うための技術としては、顔の頬などの部位より粘着テープなどを用いて、ストリッピングにより角層細胞を採取し、ゲンチアナバイオレット等の染色剤を用いて角層細胞を染色し(特許文献1、2参照)、角層細胞の境界を明確にし、角層細胞の面積、体積、厚さ、配列規則性、或いは有核細胞の存在の有無を測定して、その値を指標にする技術が既に確立されている(特許文献3、4参照)。即ち、面積或いは体積が小さいほど、角層細胞が充分成熟しない内に最外部に上がってきてしまっており、皮膚バリア機能は低く、肌の状態が悪いと鑑別され、面積が大きいほど皮膚バリア機能が高く、肌の状態が良いと鑑別される技術である。これに加えて、どの様な形で角層細胞が剥離されてきているか、言い換えれば、角層細胞がまとまっていくつか取れている重層剥離が頻繁に観察されるのか、殆どの角層細胞が1個1個離れて剥離しているのかによって、過敏な肌なのか否かが鑑別でき、これらをあわせて考察することにより、肌特性が的確に鑑別できるわけである。これまで、この様な鑑別の基礎とされてきたのは、何れも角層細胞の形状であり、かかる形状を正確に知るには、これまでは先に述べたように染色剤を用いて染色する工程を経なければならなかった。この工程には数日の時間を要し、適時的な観察を販売現場で行うことは極めて困難の伴うものであった。加えて、染色に於ける染色剤を含む廃液の処理は環境問題を考慮する上で、大きな課題の一つであった。言い換えれば、染色工程無しに角層細胞の形状を的確に把握できる手段の開発が望まれていた。
【0003】
これらの課題を克服すべく、非染色光学的な評価として、紫外線照射下で角層細胞を観察する方法(特許文献5参照)や蛍光抗体を用いた方法(特許文献6参照)が試みられている。しかし、紫外線照射による角層細胞の観察においても、その指標として用いられていたのは角層細胞の形状であり、その形状観察に於ける限りでは、画像の鮮明さが十分でなく、形状鑑別の精度は犠牲にせざるを得なかった。又、蛍光抗体を用いた方法では、蛍光抗体が非常に高価な上、処理工程が多く簡便でない等が課題であった。
【0004】
近年、皮膚や皮膚病変部位の自家蛍光への注目が高まり、病変組織の自家蛍光で病状を診断する方法(特許文献7,非特許文献1参照)や皮膚全層の自家蛍光の測定(非特許文献2,非特許文献3参照)等が報告されている。しかし、この様な自家発光の由来や、表すところの意味については未知のことが殆どであった。皮膚の角層細胞自身が紫外線によって青白い自家蛍光を発することは知られているが、これを指標として角層細胞の特性を鑑別することは為されていなかったし、又、かかる自家発光が角層細胞の特性の指標となるであろうことも推測だにされていなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−125854号公報
【特許文献2】特開2003−202336号公報
【特許文献3】特開2001−013138号公報
【特許文献4】特開2004−105700号公報
【特許文献5】特開2003−315331号公報
【特許文献6】再表02/25272号公報
【特許文献7】特表2001−504739号公報
【非特許文献1】馬場雅行,放医研ニュースNo71,2002,がん治療最前線:肺がん診断と治療細胞診の役割(2)
【非特許文献2】DAVIES M A,Appl Spectrosc,55,(11)1489−1494,2001
【非特許文献3】武馬吉則ら,粧技誌,37,4,269−274,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこの様な状況下為されたものであり、角層細胞の形状に代わり、角層細胞を鑑別するための指標を見出し、もって短時間に皮膚の特性を鑑別することを可能にならしめる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この様な状況に鑑みて、本発明者は、角層細胞の形状に代わり、角層細胞を鑑別するための指標を見出し、もって短時間に皮膚の特性を鑑別することを可能にならしめる技術を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、角層細胞に紫外線を照射し、該紫外線によって励起されて角層細胞が蛍光を発し、この蛍光強度が角層細胞の特性を表していることを見出した。更に検討を加え、この蛍光強度を指標とすることにより、角層細胞の鑑別が行え、以て、皮膚特性が鑑別できることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)皮膚より採取した角層細胞の鑑別方法であって、顕微鏡下、乃至は、拡大ビデオでの観察下、角層細胞に紫外線を照射し、紫外線によって励起される、角層細胞の蛍光強度を指標とすることを特徴とする、角層細胞の鑑別方法。
(2)前記角層細胞の鑑別方法において、観察視野に於ける角層細胞の存在数を、それぞれの角層細胞の蛍光が互いに影響しあうことを除去した状態で鑑別を行うことを特徴とする、(1)に記載の角層細胞の鑑別方法。
(3)前記角層細胞の鑑別法において、観察すべき角層細胞の標本作製にあたり、角層細胞を油浸オイルを用いて封入することを特徴とする(1)又は(2)に記載の角層細胞の鑑別方法。
(4)前記角層細胞の鑑別方法において、紫外線の光源として、メタルハライド光源或いはLED(発光ダイオード)光源を用いることを特徴とする、(1)〜(3)何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法。
(5)前記油浸オイルが、ジメチルポリシロキサン、ポリブテン、ジアリルアルカン、脂環系炭化水素、脂肪族炭化水素から選択される1種乃至は2種以上であることを特徴とする、(1)〜(4)何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法。
(6)前記角層細胞の鑑別方法において、細胞1つ乃至は細胞近傍のみに励起光を照射することを特徴とする、(1)〜(5)何れか1項に記載の鑑別方法。
(7)角層細胞の蛍光強度が、拡大ビデオでの観察下、角層細胞に紫外線を照射し、得られる画像を取込、該画像に於ける角層細胞付近の輝度の代表値として表されるものであることを特徴とする、(1)〜(6)何れか1項に記載の鑑別方法。
(8)次に示す工程に従って行れることを特徴とする、(1)〜(7)何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法
(工程1) 粘着テープを用いて、皮膚より角層細胞を採取する。
(工程2) 工程1で得られた粘着テープ上の角層細胞を、テープの粘着剤を有機溶剤により軟化及び/又は熔解させ、テープからスライドグラス上に転移させる。
(工程3) 転移させた角層細胞に油浸オイルを滴下し、カバーグラスをのせて封入する。
(工程4)工程3の角層細胞標本を、拡大観察手段の元にセットし、紫外線を照射し、得られた画像を取り込む。
(工程5) 取り込んだ画像の輝度を解析し、その代表値を算出し、角層細胞固有の蛍光強度と推定する。
(工程6) 条件の異なる角層細胞の蛍光強度を比較し、角層細胞を鑑別する。
(9)鑑別されるべき角層細胞の特性が、該角層細胞を構成するケラチンの立体構造の差異であることを特徴とする、(1)〜(8)何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の角層細胞の鑑別方法により、紫外線によって励起された角層細胞の蛍光強度を指標として、短時間に角層細胞の鑑別が可能となる。又、副次的効果として、従来は容易には鑑別し得なかったケラチンの立体構造の差異が鑑別でき、鑑別された角層細胞を構成するケラチンの立体構造の差異特性からも、皮膚特性の鑑別が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、皮膚より採取した角層細胞を鑑別する方法であって、顕微鏡下、乃至は、拡大ビデオでの観察下、油浸オイルで封入されたスライドグラス上の角層細胞に、紫外線光源より紫外線を照射し、紫外線によって励起される、角層細胞の蛍光強度を指標とすることを特徴とする。以下に、更に詳細に説明を加える。
【0010】
前記角層細胞の標本作成、観察及び鑑別は、以下のステップで行う。
(1)粘着テープを使用し、テープストリップにより皮膚より角層細胞を採取する。
(2)(1)の角層細胞の付着した粘着テープを、そのままスライドグラスに貼り付け、有機溶剤(キシレン等)中で一夜浸漬し、テープの粘着剤を軟化及び/又は溶解させ、スライドグラス上に角層細胞標本を転移させる。
(3)の標本の角層細胞数を減少させ、スライドグラス上に角層細胞数1個の標本を作成し、油浸オイルを滴下し、カバーグラスをのせて封入する。
(4)(3)の標本を、拡大観察手段の元にセットし、メタルハライド光源或いはLED光源の絞りを調節しながら紫外線を照射し、角層細胞の自家蛍光を観察し、その画像を取り込む。
(5)(4)の取り込んだ画像の輝度を解析し、その代表値を算出し、角層細胞固有の蛍光強度と推定する。
(6)条件の異なる角層細胞の蛍光強度を比較し、角層細胞を鑑別する。
【0011】
角層細胞数が複数存在すると、後記に示す自家発光の蛍光強度の強弱からケラチン構造を推定する場合に於いて、角層細胞−角層細胞間の散乱光が角層細胞自身の自家蛍光の観察を妨害し、感度の高い観察が困難である。そこで、観察視野に於ける角層細胞の存在数を、それぞれの角層細胞の蛍光が互いに影響しあうことを除去した状態で鑑別が行なえるように設定し、前記標本の作成時に、角層細胞数を減少させ、角層細胞数1個だけの視野を確保した。
【0012】
前記油浸オイルは、屈折率を調整する機能を有し、本発明の鑑別法に於いては、屈折率が1.450〜1.500のものが好ましく、1.460〜1.490のものがより好ましい。該油浸オイルは、角層細胞が吸湿して散乱光が変化する現象を抑制したり、角層細胞−空気間の散乱を低減したりすることで、角層細胞の形状の観察に於いても、後記に示す自家発光による蛍光強度の観察に於いても、感度の高い角層細胞の観察を可能とする。例えば、ジメチルポリシロキサン、ポリブテン、ジアリルアルカン、脂環系炭化水素、脂肪族炭化水素から選択される1種乃至は2種以上よりなる油浸オイルが例示でき、バックグラウンドの蛍光の全く無い蛍光顕微鏡用グレードを使用することがより好ましい。このような蛍光顕微鏡用グレードの油浸オイルとして(株)モリテックスより販売されているイマージョンオイルタイプFF(屈折率1.479)が例示できる。
【0013】
前記スライドグラスは、角層細胞を上に載せて顕微鏡での観察時に使用する。角層細胞の自家蛍光を観察する際は、鑑別を妨害する光の発生が少ない高品質低自家蛍光の蛍光顕微鏡用スライドグラスを使用すると、感度の高い角層細胞の観察が可能となり、好ましい。
【0014】
前記拡大観察手段としては、蛍光顕微鏡が好ましい。蛍光顕微鏡においては、下部より標本に紫外線を照射し、透過光乃至は蛍光をレンズに集め、自家蛍光の画像を取得することできる。かかる画像は、前記拡大ビデオ等を介してデジタル画像として取り込むことことが好ましく、画像輝度の解析によって角層細胞の鑑別が可能となる。
【0015】
前記メタルハライド光源及びLED光源は、角層細胞を励起するための紫外線光源として使用される。その他の光源としては、水銀灯、重水素ランプ、キセノンランプ、或いはエキシマレーザー等が例示できる。これらの光源からの紫外線が角層細胞に照射され、角層細胞が発光(自家蛍光)する。該メタルハライド光源に使用されるメタルハライドランプは、(昼光色に近い波長特性を持ち)、減光時にも色調が変わず(退色が小さい)、チラツキが少なく、ランプの寿命が長いという特性を有し、的確な角層細胞の観察のために、該メタルハライド光源の使用が好ましい。又、前記LED(発光ダイオード)光源は、消費電力が従来よりも極めて少なく装置が簡易であり、その上、原理的に発生する光が単一波長という特性のため、紫外線を得るのに高価な光学フィルターを必要としないという特長がある。他の光源が複数の波長の光を含む為、目的とする紫外線のみを通過する高価な光学フィルターを必要とするのに対し、コスト及び観察装置の小型簡素化等の点で、該LED光源の使用はより好ましい。
【0016】
前記光源の絞りを調節するとは、視野の絞りを変化させて、観察する角層細胞像のコントラストや明るさを調整することである。自家蛍光の角層細胞の観察においては、蛍光を発する角層細胞は新たな可視光源となり周囲を照明し、定量的観察の阻害する。観察する角層細胞を1つにすることで観察は容易になるが、スライドガラスや油浸オイルも若干の蛍光性を持ち、細胞以外の視野に紫外線が照射されると蛍光発光し、新たな光源となり定量的観察に影響を与える。視野絞りとは写真機の絞りの構造と類似した機構であり、絞りを調整することで、角層細胞1つ乃至は角層細胞近傍のみに励起光を照射し、高感度な角層細胞の観察を可能にすると考えられる。
【0017】
前記取り込んだ画像は、パソコンの汎用的画像解析のソフトウェアを用いてその輝度の解析を行い、代表値等を算出し、角層細胞固有の蛍光強度を推定する。このようなソフトウェアとしては、例えば、アドビシステムズ(株)のAdobePhotoshop(登録商標)、三谷商事株式会社のWinROOF等が例示できる。又、条件の異なる角層細胞の蛍光強度と比較し、角層細胞を鑑別することができる。
【0018】
前記角層細胞を構成するケラチンの立体構造(折り畳み)特性とは、蛋白質を構成しているランダムコイル、αヘリックス及びβシートを言う。基底層で分裂した細胞は、有棘層、顆粒層、角層と皮膚表面へと代謝され、ターンオーバーが行われる。基底層の未熟な細胞の自家蛍光は弱く、ターンオーバーで成熟した角層細胞ほど自家蛍光は強くなる。又、αヘリックス構造に比べて、βシート構造ほど自家蛍光が強いことが分かっている。かように、自家蛍光とケラチンの立体構造との相関関係より、蛍光強度より推定される立体特性の差異から、皮膚特性の鑑別が可能となる。例えば、角層細胞の蛍光強度の弱い場合は皮膚特性が好ましく、強い場合は好ましくないと鑑別される。
【0019】
かくして、前記角層細胞の標本作成と観察ステップにより、角層細胞を観察が可能となり、角層細胞の自家蛍光を利用して角層細胞の観察が可能となる。又、従来の角層細胞と空気との間、或いは角層細胞と角層細胞との間の散乱光が大きく低減された結果、高感度で的確な角層細胞の観察が可能となり、角層細胞の面積、形状、蛍光強度、蛍光強度の分布、トラベキュラー、(完成度)等を測定し、その値を指標に皮膚特性や肌状態の善し悪しを的確に鑑別できるようになる。
【0020】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明が、これら実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0021】
角層細胞の鑑別は、以下のように行った。粘着テープを使用し、テープストリップにより皮膚より角層細胞を採取後に、角層細胞の付着した粘着テープを、そのままスライドグラスに貼り付けた。キシレン中で一夜浸漬し、テープの粘着剤を溶解させ、スライドグラス上に角層細胞標本を転移させた。標本の角層細胞数を減少させ、スライドグラス上に角層細胞数1個の標本を作成した後、油浸オイルを滴下し、カバーグラスをのせて封入した。その標本を、蛍光顕微鏡システム(カメラDP−50、顕微鏡BX−60、メタルハライド光源、何れもオリンパス社製)の元にセットし、暗室条件下で、メタルハライド光源の絞りを調節しながら紫外線を照射し、角層細胞の自家蛍光を観察し、その画像を取り込んだ。取り込んだ画像の輝度はWinROOF(三谷商事株式会社製)で解析し、その代表値を算出して角層細胞固有の蛍光強度を推定した。
【0022】
上記方法によって、得られた画像を図1に示す。図1はいずれも30代の日本女性3名の頬部より採取した角層細胞の自家蛍光の画像で、図1(a)は蛍光強度5(非常に強い)、(b)は蛍光強度4(やや強い)、(c)は蛍光強度3(中程度)と推定される。蛍光強度は個人差を示し、皮膚特性の善し悪しの差異が示唆される。かくのごとく、蛍光強度を指標に角層細胞の特性が区別されることが分かる。
【実施例2】
【0023】
実施例1において、被験者を25歳の日本人女性で、皮膚の採取部位を変えて検討した結果を図2に示す。図2(a)は頬部、(b)は上腕内側部、(c)は踵部の角層細胞で、蛍光強度は順に4(やや強い)、2(やや弱い)及び5(非常に強い)と推定され、身体における部位差を示す。蛍光強度の大きい踵部ほど皮膚特性が悪いことは示唆され、かくのごとく、蛍光強度を指標に角層細胞の特性が区別されることが分かる。
【実施例3】
【0024】
実施例2における25歳の日本人女性の頬部の同一部位より、テープストリップを5回実施し、実施例1の方法に基づいて検討した結果を図3に示す。(a)はテープストリップ1回め、(b)は2回め、(c)は5回めの角層細胞で、蛍光強度は順に4(やや強い)、3(中程度)及び2(やや弱い)と推定される。角層の上層と下層とでは皮膚深度差を示し、蛍光強度の増加より上層の角層細胞ほど皮膚特性が悪いことが示唆される。かくのごとく、蛍光強度を指標に角層細胞の特性が区別されることが分かる。
【実施例4】
【0025】
蛋白質は、ランダムコイル、αヘリックス及びβシートによって、立体構造を構成している。皮膚ケラチンのパウダーの立体的差異による、紫外線照射によって励起される自家蛍光の違いを調べた。即ち、スライドグラス上にαヘリックス構造のケラチンパウダーを塗工したものと、βシート構造のケラチンパウダーを塗工したものを用意し、紫外線照射に対する自家発光の蛍光スペクトルを調べた。この結果を図4に示す。これより、αヘリックス構造では自家発光が殆ど見られないの対して、βシート構造では自家発光が強く認められることが判る。このことより、角層細胞に於ける自家発光の強弱が、角層細胞を構成するケラチンにおいて、βシート構造のものが多いか、αヘリックス構造のものが多いかに由来することが判る。これより、従来の角層細胞の形状による鑑別では、充分に説明できない部分の存した肌性の、新しい因子として、ケラチンの立体構造の差異が存することが示唆された。
【比較例】
【0026】
<比較例1>
従来の方法である、粘着テープを用いて頬部より角層細胞を採取し、蛍光顕微鏡で観察した結果を図5に示す。粘着テープや角層細胞間からの蛍光や散乱光によって真の蛍光の観察が困難であり、蛍光強度を指標に角層細胞の特性が区別できないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
角層細胞の鑑別方法により、紫外線によって励起された角層細胞の蛍光強度を指標として、短時間に角層細胞と皮膚特性の鑑別が可能である。その結果、例えば、肌性や肌質の評価、肌のカウンセリング、化粧料の選択を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施例1の被験者の違いによる個人差を示す図である。
【図2】実施例2の採取部位の違いによる部位差を示す図である。
【図3】実施例3の連続採取回数の違いによる皮膚深度差を示す図である。
【図4】実施例4のケラチンの立体構造の差異を示す蛍光スペクトルの図である。
【図5】比較例1の従来の方法で観察した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚より採取した角層細胞の鑑別方法であって、顕微鏡下、乃至は、拡大ビデオでの観察下、角層細胞に紫外線を照射し、紫外線によって励起される、角層細胞の蛍光強度を指標とすることを特徴とする、角層細胞の鑑別方法。
【請求項2】
前記角層細胞の鑑別方法において、観察視野に於ける角層細胞の存在数を、それぞれの角層細胞の蛍光が互いに影響しあうことを除去した状態で鑑別を行うことを特徴とする、請求項1に記載の角層細胞の鑑別方法。
【請求項3】
前記角層細胞の鑑別法において、観察すべき角層細胞の標本作製にあたり、角層細胞を油浸オイルを用いて封入することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の角層細胞の鑑別方法。
【請求項4】
前記角層細胞の鑑別方法において、紫外線の光源として、メタルハライド光源或いはLED(発光ダイオード)光源を用いることを特徴とする、請求項1〜3何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法。
【請求項5】
前記油浸オイルが、ジメチルポリシロキサン、ポリブテン、ジアリルアルカン、脂環系炭化水素、脂肪族炭化水素から選択される1種乃至は2種以上であることを特徴とする、請求項1〜4何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法。
【請求項6】
前記角層細胞の鑑別方法において、細胞1つ乃至は細胞近傍のみに励起光を照射することを特徴とする、請求項1〜5何れか1項に記載の鑑別方法。
【請求項7】
角層細胞の蛍光強度が、拡大ビデオでの観察下、角層細胞に紫外線を照射し、得られる画像を取込、該画像に於ける角層細胞付近の輝度の代表値として表されるものであることを特徴とする、請求項1〜6何れか1項に記載の鑑別方法。
【請求項8】
次に示す工程に従って行われることを特徴とする、請求項1〜7何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法
(工程1) 粘着テープを用いて、皮膚より角層細胞を採取する。
(工程2) 工程1で得られた粘着テープ上の角層細胞を、テープの粘着剤を有機溶剤により軟化及び/又は熔解させ、テープからスライドグラス上に転移させる。
(工程3) 転移させた角層細胞に油浸オイルを滴下し、カバーグラスをのせて封入する。
(工程4) 工程3の角層細胞標本を、拡大観察手段の元にセットし、紫外線を照射し、得られた画像を取り込む。
(工程5) 取り込んだ画像の輝度を解析し、その代表値を算出し、角層細胞固有の蛍光強度と推定する。
(工程6) 条件の異なる角層細胞の蛍光強度を比較し、角層細胞を鑑別する。
【請求項9】
鑑別されるべき角層細胞の特性が、該角層細胞を構成するケラチンの立体構造の差異であることを特徴とする、請求項1〜8何れか1項に記載の角層細胞の鑑別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−17688(P2006−17688A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225024(P2004−225024)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】