説明

自己封止ユニット、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置、並びに自己封止ユニットの製造方法及び液体噴射ヘッドユニットの製造方法

【課題】 作動圧のばらつきを抑制した自己封止ユニット、これを用いた液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置、並びに自己封止ユニットの製造方法及び液体噴射ヘッドユニットの製造方法を提供する。
【解決手段】 液体が流通する液体流路が形成されると共に、液体流路は、フィルターが設置されたフィルター室と、液体流路を開放又は閉鎖する弁体が設けられた圧力室とを備える自己封止ユニット本体21と、液体供給路を封止し、かつ、圧力室に作用する負圧に基づいて圧力室側に変位し、この変位を弁体に伝達することにより前記弁体を移動させて開放させるフィルム20とを備え、フィルムのうち、圧力室上に張られた部分が、負圧が作用していない場合に撓んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自己封止ユニット、液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置、並びに自己封止ユニットの製造方法及び液体噴射ヘッドユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの代表例として、例えば圧電素子の変位により圧力発生室内のインクに作用する圧力を利用してノズル開口からインク滴を吐出するインク噴射ヘッドが知られている。従来技術に係るインク噴射ヘッドでは、インクが充填されたインクカートリッジ等の液体源から供給されたインクを圧電素子や発熱素子等の圧力発生手段を駆動させることによりノズルから吐出させている。例えば、インクカートリッジにインク供給針を挿入することでインク供給針の導入孔からインクカートリッジ内のインクを液体噴射ヘッドの共通の液体室であるリザーバーに導入している。
【0003】
この種のインク噴射ヘッドの中には、インクカートリッジ等の液体供給源からインク噴射ヘッドにインクを供給する流路の途中に設けた自己封止ユニットと組み合わせてインク噴射ヘッドユニットを構成したものもある(特許文献1参照)。かかるインク噴射ヘッドユニットの自己封止ユニットは、ノズル開口からインク滴が吐出されることによりリザーバーの内部が負圧になったとき弁体を開いてインクカートリッジからのインクをインク噴射ヘッドのリザーバーに供給する。このため、自己封止ユニットは、弁体が配設された流路の一部であり、且つ前記負圧が作用する圧力室を、インクの流路が形成された自己封止ユニット本体に形成している。ここで、圧力室はその開口部をフィルムで覆うことにより形成してある。かくして、圧力室内に作用する負圧によりフィルムが圧力室側に撓むことにより弁体を押圧し、この押圧力により弁体が移動して流路を開くようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−184202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示す自己封止ユニットでは、弁体が配された負圧が作用する圧力室に、フィルムがこの圧力室を封止するためのフィルムが張られている。このフィルムがテンション(張力)がかかった状態(緊張した状態)であると、負圧時にフィルムが圧力室側に引っ張られてフィルムに反力が発生する。この反力が各自己封止ユニットにおいて異なるために、負圧時にフィルムを変形させ弁体を変位させることができる作動圧がばらついてしまい、これによりインク吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが生じてしまうという問題がある。他方で、フィルムの物性等により、各自己封止ユニットにおける反力を定量的に考慮して設計することは難しいという問題がある。
【0006】
なお、このような問題は、インク噴射ヘッドユニットに限らず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドユニットにおいても同様に存在する。
【0007】
本発明は、上記従来技術に鑑み、作動圧のばらつきを抑制した自己封止ユニット、これを用いた液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッドユニット及び液体噴射装置、並びに自己封止ユニットの製造方法及び液体噴射ヘッドユニットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の自己封止ユニットは、液体が流通する液体流路が形成されると共に、前記液体流路は、フィルターが設置されたフィルター室と、前記液体流路を開放又は閉鎖する弁体が設けられた圧力室とを備える自己封止ユニット本体と、前記液体流路を封止し、かつ、前記圧力室に作用する負圧に基づいて前記圧力室側に変位し、この変位を前記弁体に伝達することにより前記弁体を移動させて開放させるフィルムとを備えた自己封止ユニットであって、前記フィルムのうち、前記圧力室上に張られた部分が、前記負圧が作用していない場合に撓んでいることを特徴とする自己封止ユニットであって、前記フィルムのうち、前記圧力室上に張られた部分が、前記負圧が作用していない場合に撓んでいることを特徴とする。
本発明では、前記フィルムのうち、前記圧力室上に張られた部分が、前記負圧が作用していない場合に撓んでいることで、負圧が作用した場合にフィルムに反力が発生しないので、フィルムの反力を考慮する必要がない。これにより、作動圧のばらつきを抑制できる。
【0009】
ここで、前記圧力室には、受圧板が設けられ、前記フィルムが該受圧板を介して前記変位を前記弁体に伝達するように構成されたことが好ましい。このように構成することで、よりフィルムが自由に動くことができ、フィルムの反力を抑制して作動圧のばらつきを抑制できる。
【0010】
本発明の液体噴射ヘッドユニットは、前記したいずれかの自己封止ユニット、及び、液体を噴射するノズル開口と、該ノズル開口に連通すると共に、前記自己封止ユニットの液体流路と連通する流路内の圧力発生室に圧力変化を生じさせて、前記ノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段とを備えた液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。
フィルムの反力を抑制して作動圧のばらつきを抑制した自己封止ユニットを有することで、本発明の液体噴射ヘッドユニットは、液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制されている。
【0011】
本発明の液体噴射装置は、前記した液体噴射ヘッドユニットを備えたことを特徴とする。液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制された液体噴射ヘッドユニットを有することで、本発明の液体噴射装置は、液体噴射特性が向上する。
【0012】
本発明の自己封止ユニットの製造方法は、液体源の液体を液体噴射ヘッドに供給するための液体流路がその表面に形成されると共に、前記液体流路は、前記液体流路を開放又は閉鎖する弁体が設けられた圧力室を備える自己封止ユニット本体に、前記液体流路を封止し、かつ、前記圧力室に作用する負圧に基づいて前記圧力室側に変位し、この変位を前記弁体に伝達することにより前記弁体を移動させて開放させるフィルムを、前記自己封止ユニット本体の前記液体流路を画成する壁面部上に固着させて自己封止ユニットを製造する自己封止ユニットの製造方法であって、前記自己封止ユニット本体の前記壁面上にフィルムを載置されたフィルムのうち、前記圧力室上の領域のフィルムを圧力をかけて撓ませるフィルム変形工程を備えたことを特徴とする。フィルム変形工程を備えることで、フィルムの反力を抑制して作動圧のばらつきを抑制した自己封止ユニットを製造することができる。
【0013】
本発明の好ましい実施形態としては、前記フィルム変形工程が、前記圧力室上の領域のフィルムを押圧部材により押圧して撓ませて変形させることか、前記フィルム変形工程が、前記圧力室上の領域のフィルムを、前記液体流路内に該液体流路の下流側から大気圧とは異なる圧力を作用させてフィルムを撓ませて変形させることが挙げられる。
【0014】
前記フィルム変形工程と、前記フィルムを自己封止ユニット本体の前記壁面上に固着させる固着工程とを同時に行うことが好ましい。このように構成することで、より簡易にフィルムの反力を抑制して作動圧のばらつきを抑制した自己封止ユニットを製造することができる。
【0015】
前記フィルム変形工程において、前記圧力室上の領域の前記フィルムを加熱することが好ましい。加熱することにより、よりフィルムを撓ませやすいからである。
【0016】
液体噴射ヘッドユニットの製造方法は、前記自己封止ユニットの製造方法を行う工程を備えたことを特徴とする。フィルムの反力を抑制して作動圧のばらつきを抑制した自己封止ユニットを製造することで、液体吐出速度や吐出された液滴の重量ばらつきが抑制されている液体噴射ヘッドユニットを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】インクジェット式記録装置の概略構成図である。
【図2】自己封止ユニット及びヘッドの正面図である。
【図3】自己封止ユニットの外観図である。
【図4】図2の平面図である。
【図5】図2中のV−V線矢視図である。
【図6】図5の圧力室部分を抽出して概念的に示す概略断面図である。
【図7】製造工程を示す概略平面図である。
【図8】製造工程を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1には本発明の一実施形態例に係るインク噴射ヘッドを備えたインクジェット式記録装置の概略構成、図2にはインク噴射ヘッドの主要部の正面視、図3には自己封止ユニットの外観、図4には図2の平面視、図5には図2中のV−V線矢視を示してある。
【0019】
図1に基づいてインクジェット式記録装置を説明する。同図に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式記録装置1は液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、ヘッドという)4を有している。ヘッド4は、インクカートリッジ2が搭載されるキャリッジ3に固定されている。キャリッジ3は上部に開放する箱型をなし、記録紙Sと対面する面(下面)に記録ヘッド4のノズル面が露呈するよう取り付けられると共に、インクカートリッジ2が収容されるようになっている。そして、このインクカートリッジ2からのインクが図示しない自己封止ユニットを介してヘッド4に供給される。
【0020】
キャリッジ3はタイミングベルト5を介してステッピングモーター6に接続され、記録紙Sの紙幅方向(主走査方向)に往復移動するようになっている。これにより、キャリッジ3を移動させながら記録紙Sの上面にインク滴を吐出させて記録紙Sに画像や文字をドットマトリックスにより印刷するようになっている。
【0021】
図示のヘッド4には、インクカートリッジ2からインクをヘッド4に供給するための流路が形成された流路形成部材を兼用する自己封止ユニット(図1には図示せず)が備えられている。なお、図1の例では、キャリッジ3に液体源としてのインクカートリッジ2が収容される例を挙げて説明したが、インクカートリッジ2がキャリッジ3とは別の場所に収容され、供給管を介してインクがヘッド4の流路形成部材に圧送される構成のインクジェット式記録装置であっても本発明を適用することが可能である。
【0022】
次に、図2に基づいてヘッド4を説明する。ヘッド4の上部には、詳しくは後述する自己封止ユニット10が設けられ、また、ヘッド4の下部には、ノズルプレート8が設けられている。ヘッド4には、図示しないヘッド流路が形成されており、ヘッド流路は、インクを貯留するリザーバー室と、圧力発生手段により圧力が発生する圧力発生室とを備え、圧力発生室は、ヘッド4の下部にノズルプレート8に形成されたノズル開口に連通している。自己封止ユニット10からのインクがヘッド流路に供給されてヘッド流路に満たされて圧電素子等の圧力発生手段により圧力を発生させることにより圧力発生室内のインクがノズル開口からインク滴を吐出するようになっている。液体噴射ヘッドユニット9は、このヘッド4と自己封止ユニット10とからなる。そして、自己封止ユニット10にはインクカートリッジ2からインクが供給されるようになっている。例えば、供給管やインク供給針を介してインクカートリッジ2から自己封止ユニット10にインクが供給される。
【0023】
図2〜図6に基づいて自己封止ユニット10を具体的に説明する。これらの図に示すように、自己封止ユニット10は矩形状の盤面を有する直方体ブロック形状とされ、樹脂製(例えばポリプロピレン、ポリエチレンやポリエチレンテフタレート等)のフィルム20を樹脂製の本体21の両方の盤面に熱溶着して封止することで各盤面に盤面インク流路11が形成されている。即ち、本体21の各盤面には、盤面インク流路11が壁面部12により画成され形成されている。盤面インク流路11は、後述するように互いに対称であり、それぞれ主流路24を有する。主流路24は、入口部25から出口部26に向けて(インクの流れ方向に向けて)幅広状態とされ(幅広部)、出口部26には第一のフィルター27が備えられている。第一のフィルター27は、幅広状態の出口部26を包含する面積で盤面の広い部分に配され、大面積が確保されている。第一のフィルター27では、主に、後述する弁体35を流通したインクに含まれる異物がトラップされる。
【0024】
第一のフィルター27はインクの流れ方向に沿った面(盤面と平行な面)を有し、主流路24を流通したインクは盤面の外側から第一のフィルター27を通って本体21の内側の下部に送られ、2つの排出孔28からヘッド4(図2参照)に送られる。主流路24に送られたインクは、狭い流路から広い流路に広がって(出口部の幅方向に広がって)端部の排出孔28からヘッド4(図2参照)の一つのリザーバー室に送られる。つまり、それぞれの主流路24に対して一つのリザーバー室につながる2つの排出孔28が設けられ、一つの自己封止ユニット10には4つの排出孔28が設けられている(図4参照)。
【0025】
自己封止ユニット10の上部の端部にはインク導入孔31がそれぞれ設けられ、インク導入孔31にはインクカートリッジ2からインクがそれぞれ供給される。一方(図4中左側)のインク導入孔31に供給されたインクは、インク流路(液体流路)30を経由して図2に示した主流路24の入口部25に送られ、他方(図4中右側)のインク導入孔31に供給されたインクは、インク流路30を経由して図2の紙面の裏側に設けられた主流路24の入口部25に送られる。即ち、本実施形態の自己封止ユニット10においては、対称な二つのインク流路30が設けられている。
【0026】
インク導入孔31につながるインク流路30は、図4中矢印Aで示すように、一方(図4中左側)のインク導入孔31に供給されたインクが、図4、図5中上側に流通した後下側に向かい、フィルター室33に設けられた第二のフィルター32を流通して図2に示した圧力室34に送られるように形成されている。また、インク流路30は、図4中矢印Bで示すように、他方(図4中右側)のインク導入孔31に供給されたインクが、図4、図5中下側に流通した後、図2に示したフィルター室33に設けられた第二のフィルター32を流通して図4、図5中上側に向かい、図2の紙面の裏側に存在する圧力室34に送られるように形成されている。第二のフィルター32は盤面と平行な面を有し、第一のフィルター27と平行な状態で配されている。
【0027】
インク導入孔31(第二のフィルター32)と圧力室34(主流路24の入口部25)の間のインク流路30には弁体35がそれぞれ設けられ、ヘッド4(図2参照)のリザーバー室の圧力が低下した際に、即ち、インクが吐出されて主流路24側の圧力が相対的に低下した際に弁体35がインクの流通を許容するように作動する。
【0028】
すなわち、所定の圧力でインクがインク導入孔31から供給される状態にある場合に、ヘッド4(図2参照)のリザーバー室にインクが貯留されている際、弁体35は閉状態にされ、インクの吐出により後流側の圧力が低下すると、これに伴い発生する負圧力により弁体35が開状態にされてインクが供給される。
【0029】
ここで、弁体35について図6を用いて説明する。弁体35は、軸部40と、軸部40の一端側に軸部40と一体となって形成された円板部41とからなり、軸部40が、圧力室34に形成された貫通孔42に挿通されている。円板部41の貫通孔42側には、貫通孔42の周囲に亘って凸部43が貫通孔42側に向かって凸となるように設けられている。円板部41の背面(第二のフィルター32側)には、バネ44の一端が接続されており、バネ44の他端は、バネ座45に接続されている。バネ座45は、フィルター室33の底面部を構成しており、バネ座45には、インクの流通する流通孔46が形成されている。このようなバネ44は、バネ座45がフィルター室33に固定されていることから、弁体35をフィルム20側に付勢する。この場合には、凸部43と圧力室34の底面とにより、弁体35が閉状態となる。また、圧力室34には、受圧板47が設けられており、受圧板47は、軸部40と当接するように設けられている。受圧板47は、本実施形態では、フィルム20には固着されていない。即ち、本実施形態では、受圧板47は、フィルム20が圧力室34側に変位した場合にフィルム20が受圧板47に当接することにより、フィルム20と同時に圧力室34側に変位するものであり、受圧板47が変位することで弁体35に当接して弁体35を移動させる。
【0030】
本実施形態では、受圧板47はフィルム20に固着されていないことから、受圧板47を安定して変位させるために、圧力室34には、受圧板47の変位を規制する規制部材48aが、貫通孔42の周囲に壁面状に設けられている。そして、規制部材48aと嵌合する規制部材48bが受圧板47の規制部材48a側に、規制部材48aを囲うように、規制部材48aの周囲に亘って設けられている。即ち、受圧板47が作動した場合に、規制部材48bが規制部材48aに嵌合して、受圧板47は安定して作動することができ、これにより、弁体35を安定して作動させることができる。なお、この場合に、規制部材48a、48bにはそれぞれスリット状開口(図示せず)が設けられており、弁体35が開状態となった場合にはインクがこのスリット状開口を介して規制部材48a、48bを流通できるように構成されている。
【0031】
即ち、フィルム20は、圧力室34内に負圧が作用すると、即ち、インクの吐出により後流側の圧力が低下して圧力室34内の圧力が自己封止ユニットの外気圧よりも低い圧力になると、圧力室34側に変位し、この変位を弁体35に伝達する。このことにより弁体35に作用するバネ44の付勢力に抗し、受圧板47を介して弁体35を移動させることによりインク流路30(図5参照)と圧力室34との間を開状態とする。また、弁体35及び受圧板47は圧力室34の中心から偏心させて配設してある。
【0032】
本実施形態では、圧力室34上のフィルム20は、撓んで、フィルム20と壁面部12との接合面よりも下流側に凸となっており、圧力室34の壁面部12上に溶着されている。即ち、圧力室34上のフィルム20は、本実施形態においては、負圧が作用していない場合に曲面状である。フィルム20が撓んだ弛緩状態でなく、フィルムにテンションがかかった緊張状態であると、負圧が作用するとフィルム20が下流側に引っ張られることでテンションに抗するのでフィルム20に反力が発生する。しかしながら、本実施形態においては、フィルム20は撓んだ状態であるので、負圧が作用して下流側に引っ張られたとしても反力が発生しない。
【0033】
このように、本実施形態においては、負圧が作用しない状態でフィルム20が撓んでいることから、負圧が作用してフィルム20が下流側に引っ張られたとしても反力が発生しない。この結果、本実施形態の自己封止ユニット10では、フィルム20の反力を設計時に考慮する必要がなく、作動圧のばらつきを抑制できる。
【0034】
さらに、本実施形態においては、負圧発生時において受圧板47とフィルム20とが固着されていない。従って、よりフィルム20が負圧に応じて自由に動くことができ、作動圧のばらつき要因を排除でき、安定した作動圧を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態例の自己封止ユニット10の主流路24にはインクの搬送方向(図2中上下方向)に延びる段差部としての棚部36が形成されている。棚部36は主流路24の端部(幅広部の両側端部)に形成され、深さが浅くされた状態になっている。主流路24の端部に棚部36を設けたことにより、主流路24に気泡が混入した際に、入口部25寄りの狭い流路に気泡が浮遊して深さが浅くされた棚部36に気泡が侵入することが阻止される。このため、主流路24に気泡が混入しても、インクは棚部36を流通してヘッド4(図2参照)に供給される。
【0036】
(製造方法)
フィルム20の圧力室34を封止する領域は、やや撓ませておかなくては、上述したように負圧発生時にフィルム20が反力を受けずに圧力室34側に変位することができない。そこでフィルム20を本体21に溶着する場合には、圧力室34上のフィルム20を撓ませた状態で本体21に溶着することが考えられる。
【0037】
しかしながら、圧力室34上のフィルムを撓ませた状態でフィルム全体を本体21の盤面に溶着すると、圧力室34以外の領域では圧力室34側にフィルム20が引き込まれてしわが寄る。このしわが寄った状態でフィルム20が盤面に溶着されて、フィルター室33上のフィルム20や出口部26上のフィルム20等、フィルター上を封止するフィルム20のしわの部分で気泡が溜まってしまうと、気泡がクリーニング時においても排出されにくいことがあるので、これを防止する必要がある。
【0038】
そこで、本実施形態においては、フィルム20を本体21に溶着する時に、フィルム20にしわが寄らないようにフィルム20を本体21に溶着している。以下、本実施形態の自己封止ユニットの製造方法について詳細に説明する。
【0039】
はじめに、樹脂からなる本体21を成型により形成後、図7に示すように本体21を治具100に収容する。治具100は、ブロック状であり、本体21を収容する収容部101を有する。そして、この状態で収容部101の開口よりも大きいフィルム用基材102を治具100上に載置する(載置工程)。フィルム用基材102には、本体21の盤面と略同一の形状で図示しないミシン目が形成され、このミシン目により囲まれた領域が本体21の盤面に一致するように、図示しない位置決めピンによりフィルム用基材102を治具上で位置決めする。
【0040】
その後、圧力室34上のフィルム用基材102を負圧が作用しない状態で撓んだ状態、つまり曲面状とし(フィルム変形工程)、この状態でフィルム用基材102を盤面に形成された本体21の盤面に溶着(固着)する(溶着工程)。即ち、図8に図示するように、押圧部材104により、フィルム用基材102を押圧して撓ませると共に、加熱部材105により、溶着する領域を覆ってフィルム用基材102を加熱して盤面の壁面部12に溶着させることにより、フィルム用基材102を圧力室34上で撓んだ状態にして溶着する。このようにして、簡易に負圧が作用しない状態で圧力室34上のフィルム20を撓ませることができる。
【0041】
この場合に、本実施形態では、上述したようにフィルム20にしわが寄らないようにフィルム20を本体21に溶着するために、図7中に示した領域X1、X2のフィルム用基材102を図示しない固定部材により本体21の盤面に固定し(位置決め工程)、この状態で圧力室34上のフィルム用基材102を曲面状とし、この状態でフィルム用基材102を盤面に形成された本体21の壁面部12に溶着する。領域X1とは、治具100の収容部101の開口が設けられた面において、収容部101の開口よりも外側の領域であり、かつ、第一のフィルター27が設けられた出口部26に対向する領域をいう。この領域X1を固定することで、第一のフィルター27が設置された出口部26の、圧力室34とは逆側の壁面部12のフィルム用基材102の位置決めを行うことができる。また、領域X2とは、治具100の収容部101の開口が設けられた面において、収容部101の開口よりも外側の領域であり、第二のフィルター32が設けられた第二フィルター室33に対向する領域をいう。この領域X2を固定することで、第二のフィルター32が設置されたフィルター室33の、圧力室34とは逆側の壁面部12のフィルム用基材102の位置決めを行うことができる。なお、ここでいう固定とは、仮固定を意味する。
【0042】
このように、本実施形態においては、領域X1、X2を固定して各フィルターが設置された部屋の圧力室34と逆側の壁面部12のフィルム用基材102の位置決めをすることで、圧力室34上のフィルム用基材102を曲面状とするために押圧部材104により押圧してフィルム20を周りから引き込んだとしても、フィルター上のフィルム用基材102にしわが寄ることを抑制できる。言い換えれば、本実施形態においては、領域X1が固定されることで、出口部26の圧力室34とは逆側の壁面部12上のフィルム用基材102の位置決めを行うことができるので、第一のフィルター27上に設けられたフィルム20にしわが寄ることを防止している。また、領域X2が固定されることで、フィルター室33の圧力室34とは逆側の壁面部12上のフィルム用基材102の位置決めを行うことができるので、第二のフィルター32上に設けられたフィルム20にしわが寄ることを防止している。
【0043】
なお、この場合に治具100の収容部101の全周を固定するとすれば、圧力室34上のフィルム用基材102を押圧した場合にフィルム用基材102が圧力室34側に全く引き込まれず、圧力室34上のフィルム20を曲面状とすることができない。また、全周を固定して圧力室34上のフィルム用基材102を曲面状とすることができる程度に強く押圧するとすれば、フィルム用基材102が伸びてしまい、これによりフィルムの物性が変化してしまうことから、好ましくない。従って、本実施形態のように、フィルム用基材102の一部を固定することが好ましいのである。
【0044】
その後、押圧部材104、加熱部材105及び固定部材を除去し、フィルム用基材102からミシン目で囲まれている領域以外の領域を除去して、治具100から本体21にフィルム20が固着され、しわが形成されずに、負圧が作用しない状態で圧力室34上のフィルム20が撓んだ状態で設けられた自己封止ユニット10を取り出す。そして、この製造された自己封止ユニット10の液体流路を、ヘッド流路と連通するように記録ヘッド4に設置する。
【0045】
上述した実施形態では、フィルム変形工程において押圧部材104により圧力室34上のフィルム20を曲面状としたが、フィルム20を撓んだ状態とさせる方法は、上述した実施形態に限られない。例えば、フィルム変形工程において、自己封止ユニット10の排出孔28(図2参照)から負圧を印加することにより、フィルム用基材102を曲面状にすることも可能である。即ち、押圧部材104を用いずにフィルム20を曲面状とすることも可能である。このように負圧によりフィルム20を曲面状とする場合も、十分に圧力室34上のフィルム20を撓ませて、フィルム20の可動性を高めてフィルム20にかかる反力を減少させることができる。なお、排出孔28から圧力をかける場合には、上述した負圧によりフィルム20を曲面状とすることだけでなく、正圧をかけてフィルム20を外側に突出した曲面状としても良い。このようにしても、圧力室34上が十分に撓んだ状態のフィルム20とすることができる。
【0046】
また、フィルム変形工程においてフィルム用基材102を変形させる場合に、さらにフィルム用基材102を加熱してもよい。このように加熱することで、よりフィルム20を撓ませやすいが、この場合には、圧力室34上に張られたフィルム20の物性が変化する可能性もあるので、あまり高温でフィルム20を加熱することは好ましくない。
【0047】
本実施形態では、圧力室34上のフィルム20は、負圧が作用しない状態で曲面状となるようにしたが、圧力室34上のフィルム20に反力が生じない状態であれば、曲面状であることに限定されない。例えば、曲面状に限らず撓んだ、即ち弛緩した状態であればよいが、本実施形態のように曲面状となるように設けると、フィルムが偏らずに作動するので好ましい。
【0048】
上述した実施形態においては、フィルム20と受圧板47とが固着されていないものを示したが、これに限定されない。フィルム20と受圧板47とが固着されていてもよい。この場合、押圧部材104を熱伝導率のよい材料から構成することで、溶着時においてフィルム20を撓ませながら受圧板47とフィルム20とを固着することができる。この場合であっても、フィルム20が負圧が作用していない場合に撓んでいることが必要である。
【0049】
さらに、上述した実施形態においては、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0050】
1 インクジェット式記録装置、 2 インクカートリッジ、 4 記録ヘッド、 10 自己封止ユニット、 20 フィルム、 21 本体、 24 主流路、 25 入口部、 26 出口部、 27 第一のフィルター、 28 排出孔、 30 インク流路、 31 インク導入孔、 32 第二のフィルター、 34 圧力室、 35 弁体、 47 受圧板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流通する液体流路が形成されると共に、前記液体流路は、フィルターが設置されたフィルター室と、前記液体流路を開放又は閉鎖する弁体が設けられた圧力室とを備える自己封止ユニット本体と、
前記液体流路を封止し、かつ、前記圧力室に作用する負圧に基づいて前記圧力室側に変位し、この変位を前記弁体に伝達することにより前記弁体を移動させて開放させるフィルムとを備えた自己封止ユニットであって、
前記フィルムのうち、前記圧力室上に張られた部分が、前記負圧が作用していない場合に撓んでいることを特徴とする自己封止ユニット。
【請求項2】
前記圧力室には、受圧板が設けられ、
前記フィルムが該受圧板を介して前記変位を前記弁体に伝達するように構成されたことを特徴とする請求項1記載の自己封止ユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自己封止ユニット、
及び、液体を噴射するノズル開口と、該ノズル開口に連通すると共に、前記自己封止ユニットの液体流路と連通する流路内の圧力発生室に圧力変化を生じさせて、前記ノズル開口から液体を噴射させる圧力発生手段とを備えた液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項4】
請求項3に記載の液体噴射ヘッドユニットを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
液体が流通する液体流路が形成されると共に、前記液体流路は、フィルターが設置されたフィルター室と、前記液体流路を開放又は閉鎖する弁体が設けられた圧力室とを備える自己封止ユニット本体に、
前記液体流路を封止し、かつ、前記圧力室に作用する負圧に基づいて前記圧力室側に変位し、この変位を前記弁体に伝達することにより前記弁体を移動させて開放させるフィルムを、前記自己封止ユニット本体の前記液体流路を画成する壁面部上に固着させて自己封止ユニットを製造する自己封止ユニットの製造方法であって、
前記自己封止ユニット本体の前記壁面上にフィルムを載置されたフィルムのうち、前記圧力室上の領域のフィルムを圧力をかけて撓ませるフィルム変形工程を備えたことを特徴とする自己封止ユニットの製造方法。
【請求項6】
前記フィルム変形工程が、前記圧力室上の領域のフィルムを押圧部材により押圧して撓ませて変形させることを特徴とする請求項5記載の自己封止ユニットの製造方法。
【請求項7】
前記フィルム変形工程が、前記圧力室上の領域のフィルムを、前記液体流路内に該液体流路の下流側から大気圧とは異なる圧力を作用させてフィルムを撓ませて変形させることを特徴とする請求項6記載の自己封止ユニットの製造方法。
【請求項8】
前記フィルム変形工程と、前記フィルムを自己封止ユニット本体の前記壁面上に固着させる固着工程とを同時に行うことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の自己封止ユニットの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム変形工程において、前記圧力室上の領域の前記フィルムを加熱することを特徴とする請求項5〜8のいずれか一項に自己封止ユニットの製造方法。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか一項に記載の自己封止ユニットの製造方法を行う工程を備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドユニットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−206993(P2011−206993A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75851(P2010−75851)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】