説明

自己形成光導波路の製造方法および光導波路

【課題】自己形成光導波路の製造方法において、応力の偏りが生じないように光硬化性樹脂を硬化させ、クラッドを形成する。
【解決手段】光ファイバ11からの光を、第1光硬化性樹脂13を硬化させて自己形成的に形成したコア17に入射させ、コア17からの漏光によってコア17周囲の第2光硬化性樹脂18を硬化させることにより、クラッド20を形成した。ここで、漏光の光強度を増大させるために、青色半導体レーザ14からの光を光ファイバ11に入射させる際の集光レンズ19として、NAが光ファイバ11の開口数よりも大きいものを使用した。第2光硬化性樹脂18は、コア17を中心として対称的に硬化していくため、コア17周辺に応力の偏りが生じない。その結果、光導波路の損失が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己形成光導波路の製造方法に関するものであり、特にクラッドに応力の偏りが生じない製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光硬化性樹脂を用いて光導波路を形成する自己形成光導波路の技術が開発されている。これは、筐体内を光硬化性樹脂で満たし、光ファイバを介して光を照射することで光硬化性樹脂を線状に硬化させて光導波路のコアを形成する技術である。この自己形成光導波路の技術におけるクラッドの形成方法については、たとえば特許文献1の方法が知られている。
【0003】
特許文献1に示されたクラッドの形成方法は以下のとおりである。まず、硬化波長が異なる低屈折率の第1光硬化性樹脂と高屈折率の第2光硬化性樹脂とを混合して筐体内に充填する。次に、第1光硬化性樹脂を硬化させ、第2光硬化性樹脂は硬化させない波長の光を光ファイバを介して混合樹脂に照射することで、第2光硬化性樹脂を取り込む形で第1光硬化性樹脂を軸状に硬化させてコアを形成する。そして、コア形成後も光の照射を続け、コアからの光のしみ出しによる漏光によって第1光硬化性樹脂を硬化させ、コア周囲にクラッドを形成する。その後、紫外光をコアの軸方向に垂直な方向から全体に照射して未硬化の樹脂をすべて硬化させる。
【0004】
他のクラッド形成方法としては、コアを形成後に未硬化の光硬化性樹脂を除去してクラッド形成用の光硬化性樹脂に入れ換え、紫外線をコアの軸方向に垂直な方向から照射して全体を硬化させる方法が知られている。
【特許文献1】特開2004−151160
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、光硬化性樹脂、特にアクリル系の光硬化性樹脂は、硬化中に体積の収縮を伴う。そのため、光硬化性樹脂を硬化させることでクラッドを形成すると、クラッドの収縮や体積収縮による筐体の変形などが応力集中を生じさせ、コア周辺に応力の偏りが生じていた。その結果として光損失の増大や耐久性の悪化を引き起こしていた。
【0006】
また、特許文献1の方法では、しみ出しによる漏光によって硬化させてクラッドを形成しているため、クラッド径を大きくすることができなかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、自己形成光導波路の製造方法において、コア周辺に応力の偏りが生じないようにクラッドを形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、筐体内を第1光硬化性樹脂で満たす第1工程と、光ファイバを介して光を照射することで、第1光硬化性樹脂を軸状に硬化させて光導波路のコアを形成する第2工程と、筐体内の未硬化の第1光硬化性樹脂を除去し、第2光硬化性樹脂で満たす第3工程と、光ファイバを介して光をコアに入射させ、コアからの漏光によって、コア周囲の第2光硬化性樹脂を硬化させてクラッドを形成する第4工程と、からなることを特徴とする自己形成光導波路の製造方法である。
【0009】
コアからの漏光は、コアによる散乱光や、コアとクラッドの境界面において全反射せずに透過する光である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、第2光硬化性樹脂は、第1光硬化性樹脂よりも反応性が高いことを特徴とする自己形成光導波路の製造方法である。
【0011】
第3の発明は、第1の発明または第2の発明において、第4工程は、集光レンズにより光を集光して光ファイバに光を入射させる工程を有し、その集光レンズの開口数は、光ファイバの開口数よりも大きいことを特徴とする自己形成光導波路の製造方法である。
【0012】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明において、第1光硬化性樹脂と、第2光硬化性樹脂は、同一波長の光により硬化されることを特徴とする自己形成光導波路の製造方法である。
【0013】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明において、第4工程は、クラッド径がコア径の2倍以上となるように第2光硬化性樹脂を硬化させてクラッドを形成することを特徴とする自己形成光導波路の製造方法である。
【0014】
第6の発明は、第5の発明において、第4工程は、クラッド径がコア径の10倍以上となるように第2光硬化性樹脂を硬化させてクラッドを形成することを特徴とする自己形成光導波路の製造方法である。
【0015】
第7の発明は、軸状のコアと、コアを覆うクラッドとで構成された光導波路において、コアおよびクラッドは、光硬化性樹脂の硬化物からなり、クラッド径は、コア径の2倍以上であり、クラッドには応力の偏りがないことを特徴とする光導波路である。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によると、第2光硬化性樹脂はコアを中心にして対照的に硬化する。そのため、コア周囲の応力の偏りが解消され、応力集中が発生するのを防止することができる。その結果、光損失を低減することができ、光導波路の耐久性も向上する。
【0017】
また第2の発明のように、第2光硬化性樹脂の反応性を高くすることで、光強度が相対的に弱い漏光によっても十分に第2光硬化性樹脂の硬化を進行させることができる。
【0018】
また第3の発明によると、コアからの漏光の光強度を増大させることができるので、より容易に第2光硬化性樹脂を硬化させることができる。
【0019】
また、第4の発明のように、コアとクラッドを同一波長の光で形成することができ、製造工程の簡素化を図ることができる。
【0020】
また、第5の発明のように、コア径の2倍以上、より望ましくは第6の発明のように10倍以上、の範囲を硬化させてクラッドを形成すれば、応力の偏りがない範囲がより広くなり、光損失をより低減することができる。
【0021】
また、第7の発明の光導波路は、クラッドに応力の偏りがないため光損失が少なく、耐久性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施例について図を参照に説明するが、本発明はそれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1の自己形成光導波路の製造工程について示した図である。以下、図1を参照に自己形成光導波路の製造工程について詳しく説明する。
【0024】
まず、メタクリル酸メチル樹脂(PMMA)からなり、光ポートと中空部10aを有した直方体状の筐体10を用意する。そして、筐体10の光ポートに光ファイバ11を用いた光ケーブルのコネクタ12を差し込み、光ファイバ11の端部が筐体10の中空部10a側となるようにして固定する(図1A)。光ファイバ11は200μm径で、NA(開口数)は0.37である。また、筐体10には、光ポート側から中空部10a側に貫通する貫通孔10bが設けられている。これにより、光ファイバ11からの光は、筐体10を透過せずに直接中空部10a側へと照射される。貫通孔10bの径はコネクタ12先端のフェルール径とほぼ一致している。
【0025】
次に、中空部10aにコア形成用の第1光硬化性樹脂13を充填する(図1B)。第1光硬化性樹脂13の主成分は芳香族アクリレートであり、吸収端が紫色の波長近傍である光重合開始剤が混合されている。第1光硬化性樹脂13は硬化により屈折率が上昇する樹脂である。なお、第1光硬化性樹脂13は粘性を有しているため、貫通孔10bから第1光硬化性樹脂13が漏れることはない。
【0026】
次に、青色半導体レーザ14からの光のビーム径をビームエキスパンダ15によって拡張した後、NAが0.1の集光レンズ16により集光し、光ファイバ11に入射させる。青色半導体レーザ14の発光波長は408nmである。そして、光ファイバ11を介して筐体10内の第1光硬化性樹脂13に照射する。第1光硬化性樹脂13は硬化により屈折率が上昇するため、この光照射によって第1光硬化性樹脂13は軸状に硬化していき、光導波路のコア17が形成される(図1C)。光の照射強度は5mWで、10秒間の照射で長さ約1cm、直径約0.2mmのコア17が形成される。
【0027】
次に、筐体10内の未硬化の第1光硬化性樹脂13を除去し、中空部10aにクラッド形成用の第2光硬化性樹脂18を充填した(図1D)。第2光硬化性樹脂18の主成分は脂肪族アクリレートであり、吸収端が青色の波長近傍である光重合開始剤が混合されている。また、第2光硬化性樹脂18には、硬化後の屈折率が第1光硬化性樹脂の硬化後の屈折率よりも低いものを用いる。このように、コア形成用の第1光硬化性樹脂13からクラッド形成用の第2光硬化性樹脂18に入れ換える方法をとるのは、コアとクラッドの屈折率差を大きくするためであり、これはマルチモード光導波路を作製するのに必要とされることである。
【0028】
次に、青色半導体レーザ14からの光のビーム径をビームエキスパンダ15によって広げた後、NAが0.55の集光レンズ19(本発明の集光レンズに相当)により集光し、光ファイバ11に入射させる。そして、光ファイバ11を介して光をコア17に入射させる。集光レンズ19のNAを光ファイバ11のNAよりも大きくしているため、NA不整合によって全反射せずにコア17の外部へと透過する光が増大する。また、図1Cでの製造工程ではコア17は十分に硬化しておらず、コア17内には密度のゆらぎがある。そのため、光が一部散乱されてコア17の外部へと放射される。NA不整合および散乱によるコア17からの漏光によって、コア17周囲の第2光硬化性樹脂18が硬化され、コア17を覆うようにクラッド20が形成される(図1E)。コア17への光の入射強度は15mWで、5分間の照射で直径3mm(コア径の約15倍)のクラッド20が形成される。また、コア17内部への光照射によってコア17の硬化が十分に進行する。以上のようにして形成されたコア17とクラッド20の屈折率差は約0.05である。
【0029】
ここで第2光硬化性樹脂18は、コア17を中心としてコア径の10倍以上の範囲にわたって対称的に硬化していくため、歪が生じず、コア17周辺に応力の偏りが生じない。
【0030】
このように、クラッド20はコア17からの漏光によって第2光硬化性樹脂18を硬化させて形成するため、第2光硬化性樹脂18は第1光硬化性樹脂よりも反応性が高いことが望ましい。反応性の違いは、混合する光重合開始剤の種類によって調整することが可能である。また、このように反応性を調整することで、コア17およびクラッド20を同一波長の光による硬化で形成する場合であっても、効率的にクラッドを形成することができる。
【0031】
なお、クラッド20は、クラッド径がコア径の2倍以上となるように形成することが望ましい。応力の偏りがない範囲がより広くなるからである。クラッド径をコア径の10倍以上とすればより望ましい。
【0032】
次に、紫外線照射ランプによって紫外線を30秒間照射し、ゲル状もしくは未硬化の第2光硬化性樹脂18を完全に硬化させる(図1F)。
【0033】
以上が実施例1の自己形成光導波路の製造工程である。
【0034】
上記製造工程により作製した光導波路の断面における応力の状態を調べるため、光弾性顕微鏡によって等色線測定と等傾線測定を行った。
【0035】
図2は光導波路コアの軸方向に垂直な断面での等色線測定の結果を示した画像である。図2(a)は従来例の製造方法、図2(b)は実施例1の製造方法によって作製した光導波路をサンプルとしている。図2における長方形の点線は、その長方形の内部が筐体10の内部であることを示している。ここで、従来例の製造方法とは、実施例1の製造方法において図1Eのコアからの漏光によるクラッド形成を行わず、紫外線照射ランプによって紫外線を光軸に垂直な方向から3分間照射し、第2光硬化性樹脂18を硬化させてクラッドを形成することにより光導波路を製造するものである。図2(a)のように、従来例の製造方法による光導波路の等色線測定では、明確な明暗の縞模様が観察できる。これらの縞は、主応力差の等しい点を結んでできるものである。つまり、従来例の製造方法による光導波路では、応力の偏りが生じている。一方、図2(b)のように、実施例1の製造方法による光導波路の等色線測定では、縞模様が観察できず、目立った応力の偏りが生じていないことがわかる。
【0036】
図3は光導波路コアの軸方向に垂直な断面での等傾線測定の結果を示す画像である。図2と同様に長方形の点線で囲われた部分が筐体10の内部である。図3(a)は従来例の製造方法、図3(b)は実施例1の製造方法によって作製した光導波路をサンプルとしている。図3(a)のように、従来例の製造方法による光導波路の等傾線測定では、コアの周辺に複数の黒線が走っているのが観察できる。この黒線は、主応力の方向を示すもので、コア周辺からさまざまな方向へ応力がかかっていることがわかる。一方、図3(b)のように、実施例1の製造方法による光導波路の等傾線測定では、黒線が観察されず、目立った応力が生じていないことがわかる。
【0037】
また、実施例1の製造方法によって作製した光導波路と、従来例の製造方法によって作製した光導波路について、光学特性を比較した。光学特性の評価は光導波路の挿入損失を測定することで行い、測定波長は780nm、入射NAは0.2とした。その結果、実施例1の製造方法によって作製した光導波路の挿入損失は0.5dBであったのに対して、従来例の製造方法によって作製した光導波路の挿入損失は10.8dBであった。従来例の製造方法によって作製した光導波路の方が損失が大きい理由は、光導波路の湾曲や、光ファイバと光導波路との間での軸ずれなどが、応力によって生じたためと考えられる。
【0038】
以上のように、実施例1の自己形成光導波路の製造方法では、コアからの漏光によって第2光硬化性樹脂を対称的に硬化させてクラッドを形成するため、硬化収縮による応力の偏りが抑制される。そのため、光導波路の損失を低減することができ、耐久性を向上させることができる。
【0039】
なお、実施例1では同一波長の光による硬化でコアとクラッドを形成しているが、コアの形成とクラッドの形成とで異なる波長の光を用いて硬化させてもよい。
【0040】
また、実施例1ではクラッド形成用の第2光硬化性樹脂は1種類の樹脂からなるものであったが、2種類以上の樹脂を混合させたものであってもよい。
【0041】
また、実施例1ではクラッド形成用の第2光硬化性樹脂を硬化させる際に用いる集光レンズに、NAが光ファイバのNAよりも大きいものを用いることで、コアからの漏光を増大させているが、必ずしもNAが光ファイバのNAよりも大きい集光レンズを用いる必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、光モジュールの製造などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1A】実施例1の自己形成銅波路の製造工程について示した図。
【図1B】実施例1の自己形成銅波路の製造工程について示した図。
【図1C】実施例1の自己形成銅波路の製造工程について示した図。
【図1D】実施例1の自己形成銅波路の製造工程について示した図。
【図1E】実施例1の自己形成銅波路の製造工程について示した図。
【図1F】実施例1の自己形成銅波路の製造工程について示した図。
【図2】光導波路の等色線測定の結果を示す画像。
【図3】光導波路の等色線測定の結果を示す画像。
【符号の説明】
【0044】
10:筐体
11:光ファイバ
13:第1光硬化性樹脂
14:青色半導体レーザ
15:ビームエキスパンダ
16、19:集光レンズ
17:コア
18:第2光硬化性樹脂
20:クラッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内を第1光硬化性樹脂で満たす第1工程と、
光ファイバを介して光を照射することで、前記第1光硬化性樹脂を軸状に硬化させて光導波路のコアを形成する第2工程と、
前記筐体内の未硬化の前記第1光硬化性樹脂を除去し、第2光硬化性樹脂で満たす第3工程と、
前記光ファイバを介して光を前記コアに入射させ、前記コアからの漏光によって、前記コア周囲の前記第2光硬化性樹脂を硬化させてクラッドを形成する第4工程と、
からなることを特徴とする自己形成光導波路の製造方法。
【請求項2】
前記第2光硬化性樹脂は、前記第1光硬化性樹脂よりも反応性が高いことを特徴とする請求項1に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【請求項3】
前記第4工程は、集光レンズにより光を集光して前記光ファイバに光を入射させる工程を有し、
その集光レンズの開口数は、前記光ファイバの開口数よりも大きいことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【請求項4】
前記第1光硬化性樹脂と、前記第2光硬化性樹脂は、同一波長の光により硬化されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【請求項5】
前記第4工程は、クラッド径がコア径の2倍以上となるように前記第2光硬化性樹脂を硬化させてクラッドを形成することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【請求項6】
前記第4工程は、クラッド径がコア径の10倍以上となるように前記第2光硬化性樹脂を硬化させてクラッドを形成することを特徴とする請求項5に記載の自己形成光導波路の製造方法。
【請求項7】
軸状のコアと、前記コアを覆うクラッドとで構成された光導波路において、
前記コアおよび前記クラッドは、光硬化性樹脂の硬化物からなり、
クラッド径は、コア径の2倍以上であり、
前記クラッドには応力の偏りがないことを特徴とする光導波路。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図1F】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−223258(P2009−223258A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70746(P2008−70746)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】