説明

自己融着性シリコーンゴムシート及び自己融着性シリコーンゴムシートの製造方法

【課題】基材シートを採用しつつも層間剥離の抑制された自己融着性シリコーンゴムシートを提供することを課題としている。
【解決手段】自己融着性を有するシリコーンゴム組成物が用いられてシート状に形成された自己融着性シリコーンゴムシートであって、前記シリコーンゴム組成物が用いられている自己融着層が基材シートの両面に積層された積層構造を有し、前記基材シートと前記自己融着層とが直接接触されており、しかも、前記基材シートは、少なくとも前記自己融着層と接する表面がシリコーンレジンで形成されていることを特徴とする自己融着性シリコーンゴムシートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己融着性シリコーンゴムシート及び自己融着性シリコーンゴムシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコーンゴムは、耐久性、耐熱性、耐寒性、耐候性、耐オゾン性を有し、さらに電気特性などにも優れていることから、自動車関連部品、医療関連機器、食品関連機器の部品など広範囲に用いられている。
【0003】
このシリコーンゴムは、例えば、硬化後のゴムどうしを接触させて常温あるいは加熱状態とすることにより、接触面が融合して一体化した状態となる、いわゆる、自己融着性を示すシート材にも用いられており、特許文献1には、電気自動車駆動用の3相モータの固定子巻線の中性点を絶縁するための自己融着性ゴムシートにシリコーンゴムが用いられることが記載されている。
【0004】
ところでシリコーンゴムは、引張り強さ、引裂き強さ、耐摩耗性など力学的性質が天然ゴムやクロロプレンなどといった一般的なその他のゴムに比べて劣っており、特許文献1には、自己融着性シリコーンゴムシートを補強するために不織布などの基材シートを用いることも記載されている。
【0005】
しかしながら、シリコーンゴムは、合成樹脂繊維や無機繊維などとの接着性が十分ではなく、特許文献1に記載されているように基材シートを用いると層間剥離を生じるおそれがある。
特に、油分付着環境下などにおいては、この層間剥離がよりいっそう顕著なものとなる。
【0006】
【特許文献1】特開2003−309945号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、基材シートを採用しつつも層間剥離の抑制された自己融着性シリコーンゴムシートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく、自己融着性を有するシリコーンゴム組成物が用いられてシート状に形成された自己融着性シリコーンゴムシートであって、前記シリコーンゴム組成物が用いられている自己融着層が基材シートの両面に積層された積層構造を有し、前記基材シートと前記自己融着層とが直接接触されており、しかも、前記基材シートは、少なくとも前記自己融着層と接する表面がシリコーンレジンで形成されていることを特徴とする自己融着性シリコーンゴムシートを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決すべく、自己融着性を有するシリコーンゴム組成物が用いられてシート状に形成されており、前記シリコーンゴム組成物が用いられた自己融着層が基材シートの両面側に積層された積層構造を有し、前記基材シートと前記自己融着層とが直接接触されており、しかも、前記基材シートが、少なくとも前記自己融着層と接する表面がシリコーンレジンで形成されている自己融着性シリコーンゴムシートを製造すべく、前記自己融着性を有するシリコーンゴム組成物を未架橋のシート状態で前記基材シートの表面に接触させて加硫し、前記自己融着層を形成させることを特徴とする自己融着性シリコーンゴムシート製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材シートを採用しつつも層間剥離の抑制された自己融着性シリコーンゴムシートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明にかかる自己融着性シリコーンゴムシートの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
本実施形態の自己融着性シリコーンゴムシート1には、自己融着性を有するシリコーンゴム組成物が用いられて自己融着層20が基材シート10の両面に積層された積層構造を有している。
また、前記基材シート10と前記自己融着層20とは、直接接触する状態で積層されている。
【0013】
前記基材シート10には、例えば、下地シートの表面にシリコーンレジンが被覆されて形成されたものを用いることができ、前記下地シートとしては、例えば、ガラス繊維、ロックウールなどの無機繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維などの合成樹脂製繊維、綿、絹などの天然繊維、セルロースなどの半合成繊維、金属繊維、カーボンファイバーなどの各種繊維を、単独または複数種類混合して用いた不織布または織布、さらには、合成樹脂、半合成樹脂などが用いられた多孔性の樹脂フィルムまたはネットなどのシートを用いることができる。
【0014】
なかでも、合成樹脂などに比べて薄い厚みで高い強度を示し、本実施形態の自己融着性シリコーンゴムシートに対する優れた補強効果を発揮させ得る点において、下地シートとしては、ガラスクロスが好適である。
また、ガラスクロスは安価で、自己融着性シリコーンゴムシート1の低コスト化にも寄与し得るとともに、市場に種々の仕様の製品が流通していることから、自己融着性シリコーンゴムシート1の設計変更をも容易にさせ得る。
【0015】
前記下地シートに被覆されるシリコーンレジンは、例えば、三官能性シロキサン単位、四官能性シロキサン単位、あるいは、三官能性シロキサン単位と四官能性シロキサン単位の両方を分子中に含有し、三次元網状構造のオルガノポリシロキサン骨格が形成されており、末端にメチル基、Si−H基、脂肪族不飽和基などを有するものや、分子内にメチル基だけでなく、フェニル基が含まれるものなどを使用することができる。
さらに、シリコーンレジンは、アルキッド変性、エポキシ変性、アクリル変性、ポリエステル変性されたものであってもよい。
【0016】
この下地シートがシリコーンレジンで被覆された基材シート10は、例えば、いわゆるシリコーンワニスを用いて作製し得る。
このシリコーンワニスには、例えば、二官能性シロキサン単位と三官能性シロキサン単位とが用いられるか、あるいは、三官能性シロキサン単位のみが用いられるかして高分子量化されたシリコーンレジン中間体がキシレンやトルエンなどの溶媒に溶解されてワニス化されており、被着体に塗工された後にさらに架橋されて不溶化されるものなどを用いることができる。
【0017】
また、このシリコーンワニスとしては、シリコーンレジン中間体とアルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などを反応させて変性したシリコーンレジン中間体が溶媒に溶解されたものを使用することも可能である。
【0018】
なお、先述のように下地シートにガラスクロスを用いた場合には、ガラスクロスは、一部の合成樹脂などのようにキシレンやトルエンなどの有機溶媒に溶解性を示すことがなく、しかも、通常、合成樹脂などに比べて高温に加熱しても機能上の問題が生じにくいことから、合成樹脂繊維が用いられた不織布シートを下地シートに用いる場合に比べて、シリコーンワニスを用いたシリコーンレジンの表面被膜の形成を容易なものとさせ得るという効果も奏する。
【0019】
前記自己融着層20の形成に用いられるシリコーンゴム組成物としては、特に制限されるものではなく、例えば、特公昭40−10117に記載されているようなホウ素化合物の配合により架橋後の自己融着性が付与されたシリコーンゴム組成物を用いることができる。
【0020】
また、この自己融着性を有するシリコーンゴム組成物には、液状のシリコーンゴム組成物を用いる場合に比べて自己融着層20を所定の厚みに形成させやすいなど自己融着性シリコーンゴムシート1の生産性を向上させ得る点においてミラブル型シリコーンゴム組成物を用いることが好ましい。
【0021】
このミラブル型シリコーンゴム組成物としては、例えば、主として二官能性シロキサン単位が3000〜10000程度の重合度で重合されてなるシリコーンゴムを含んだ熱架橋型のシリコーンゴム組成物を用いることができる。
【0022】
また、一般にシリコーンゴム組成物に用いられる、合成シリカ、珪藻土、石英、炭酸カルシウムなどの充填剤や、有機過酸化物や白金化合物などの架橋剤なども本実施形態の自己融着性シリコーンゴムシート1の自己融着層20を形成するシリコーンゴム組成物にも用いることができる。
【0023】
また、一般にシリコーンゴム組成物に用いられる、顔料、耐熱性向上剤、酸化防止剤、加工助剤、有機溶媒なども本実施形態の自己融着性シリコーンゴムシート1の自己融着層20を形成するシリコーンゴム組成物にも用いることができる。
【0024】
次いで、本実施形態の自己融着性シリコーンゴムシートを作製する方法について、前記基材シートとして表面にシリコーンレジンが被覆されたガラスクロスを用いて、ミラブル型シリコーンゴム組成物が用いられている自己融着層をこの基材シートの両面に直接積層して自己融着性シリコーンゴムシートを作製する場合を例に説明する。
【0025】
まず、例えば、長尺帯状のガラスクロスを用いて、該ガラスクロスを一端側から送り出し、前記シリコーンワニスを貯留した槽中を通過させるなどして、ガラスクロスにシリコーンワニスを含浸させた後に、加熱炉などに導入してシリコーンワニスに含有されている溶媒を除去するとともに、シリコーンレジン中間体の架橋を実施するなどして、長尺のガラスクロスに対して連続的にシリコーンレジンを被覆させて基材シートを作製することができる。
なお、要すれば、ガラスクロスをシリコーンワニスに浸漬させる前に、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤を用いてカップリング処理しておくことも可能である。
【0026】
次いで、自己融着層を形成させるための未架橋の状態のシート(以下「未架橋シート」ともいう)を作製する。
この未架橋シートの作製方法としては、例えば、ミラブル型シリコーンゴム組成物の原料となるシリコーンゴムや充填剤、架橋剤などをミキサーなどの一般的な混練手段により混練し、カレンダーロールなどのシーティング手段により所定の厚さとなるように成形する方法を採用することができる。
また、このような方法に代えて、例えば、Tダイなどを備えた押し出し機を用いてミラブル型シリコーンゴム組成物を未架橋の状態で押し出して未架橋シートを作製することもできる。
【0027】
上記のような長尺帯状の基材シートと未加硫のミラブル型シリコーンゴム組成物とを用いて自己融着性シリコーンゴムシートを作製するには、まず、例えば、表面にシリコーンレジンが被覆された基材シートを、カレンダーロールを通過させて、基材シートの片面側に未架橋のミラブル型シリコーンゴム組成物を所定厚さとなるように積層した後に、この未架橋のミラブル型シリコーンゴム組成物が積層された基材シートを加熱された2本のローラー間を通過させてミラブル型シリコーンゴム組成物を架橋させて片面側に自己融着層を形成させ、次いで、この片面側に自己融着層が形成された基材シートを、再びカレンダーロールを通過させて、自己融着層が形成されていない側に同様に自己融着層を形成させる方法を採用することができる。
このように前記基材シートの表面に接触させた状態で未架橋シートを架橋させることにより、基材シートと自己融着層との接着力がより強固なものとなり基材シートと自己融着層との層間剥離がよりいっそう防止された自己融着性シリコーンゴムシートを作製することができる。
【0028】
なお、本実施形態においては、自己融着性シリコーンゴムシートを上記材料にて上記のごとく製造する場合を例に説明したが本発明においては、自己融着性シリコーンゴムシートを上記材料にて上記のごとく製造する場合に限定するものではない。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて、本発明をより一層具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0030】
(実施例)
(基材シートの作製)
信越化学工業社製シリコーンワニス(商品名「KR2038」)100重量部に対し、硬化剤(商品名「D2038」)2重量部配合したものをトルエンで固形分濃度42重量%希釈した液にエフ・アール・ピー工業社製の平織りのガラスクロス(商品名:「SEC101−110BH」、目付:72g/m2、厚み:0.08mm)を含浸させ、100℃×10秒の予熱の後、180℃×1分の焼き付けを実施してガラスクロスの表面にシリコーンレジンが被覆された基材シートを作製した。
なお、シリコーンレジンの被覆厚さは、30〜50μm程度であった。
【0031】
(自己融着層形成用未架橋シートの作製)
(ミラブル型シリコーンゴム組成物の配合)
未架橋のミラブル型シリコーンゴム組成物として、信越化学工業社製シリコーンゴム(商品名「KE1614−HU」)100重量部と硬化剤(商品名「C−23」)1.1重量部とを混合したもの用いて、0.29±0.05mm厚さの未架橋シートを作製した。
【0032】
(自己融着性シリコーンゴムシートの作製)
この未架橋シートで、ガラスクロスがシリコーンレジンで被覆されてなる基材シートを両面側から挟んだ状態で熱プレス機に導入し、0.68MPaの圧力を加えつつ180℃×1分プレスして架橋を実施し、約0.7mm厚さの自己融着性シリコーンゴムシートを作製した。
【0033】
(比較例)
(自己融着性シリコーンゴムシートの作製)
シリコーンレジンが被覆されていないガラスクロスを基材シートとして用いたこと以外は、実施例と同様にして自己融着性シリコーンゴムシートを作製した。
【0034】
(層間剥離性評価:耐油試験)
層間剥離の抑制効果を評価すべく実施例、比較例の自己融着性シリコーンゴムシートに対して耐油性試験を実施した。
条件1:実施例、比較例の自己融着性シリコーンゴムシートを、120℃のATF油(トヨタ 「オートフールドWS」)中に0.11MPaの加圧環境にて500時間浸漬させた後に、自己融着性シリコーンゴムシートにフクレや剥がれなどといった層間剥離が見られないかどうかを目視にて観察した。
条件2:ATF油の温度を150℃とした以外は、条件1と同様に耐油試験を実施した。
【0035】
(結果)
実施例の自己融着性シリコーンゴムシートに条件1の耐油試験を実施した後の外観写真を図2に示す。また、条件2の耐油試験を実施した後の外観写真を図3に示す。
さらに、比較例の自己融着性シリコーンゴムシートに条件1の耐油試験を実施した後の外観写真を図4に示す。また、条件2の耐油試験を実施した後の外観写真を図5に示す。
条件1の耐油試験では、実施例、比較例ともに自己融着性シリコーンゴムシートにフクレや剥がれなどといった層間剥離が見られなかったものの、条件2では、比較例の自己融着性シリコーンゴムシートには層間剥離が発生し、自己融着層と基材シートとが完全に剥離している箇所が散見された。一方で実施例の自己融着性シリコーンゴムシートには層間剥離が見られず、比較例に比べて層間剥離が抑制されていることが判明した。
以上のことからも、本発明によれば、層間剥離の抑制された自己融着性シリコーンゴムシートが得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】一実施形態の自己融着性シリコーンゴムシートの断面概略図。
【図2】実施例の自己融着性シリコーンゴムシートの耐油試験(条件1)結果を示す外観写真。
【図3】実施例の自己融着性シリコーンゴムシートの耐油試験(条件2)結果を示す外観写真。
【図4】比較例の自己融着性シリコーンゴムシートの耐油試験(条件1)結果を示す外観写真。
【図5】比較例の自己融着性シリコーンゴムシートの耐油試験(条件2)結果を示す外観写真。
【符号の説明】
【0037】
1:自己融着性シリコーンゴムシート、10:基材シート、20:自己融着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己融着性を有するシリコーンゴム組成物が用いられてシート状に形成された自己融着性シリコーンゴムシートであって、
前記シリコーンゴム組成物が用いられている自己融着層が基材シートの両面に積層された積層構造を有し、前記基材シートと前記自己融着層とが直接接触されており、しかも、前記基材シートは、少なくとも前記自己融着層と接する表面がシリコーンレジンで形成されていることを特徴とする自己融着性シリコーンゴムシート。
【請求項2】
前記基材シートとして、表面にシリコーンレジンが被覆されたガラスクロスが用いられている請求項1記載の自己融着性シリコーンゴムシート。
【請求項3】
自己融着性を有するシリコーンゴム組成物が用いられてシート状に形成されており、前記シリコーンゴム組成物が用いられた自己融着層が基材シートの両面側に積層された積層構造を有し、前記基材シートと前記自己融着層とが直接接触されており、しかも、前記基材シートが、少なくとも前記自己融着層と接する表面がシリコーンレジンで形成されている自己融着性シリコーンゴムシートを製造すべく、前記自己融着性を有するシリコーンゴム組成物を未架橋のシート状態で前記基材シートの表面に接触させて架橋し、前記自己融着層を形成させることを特徴とする自己融着性シリコーンゴムシート製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−221602(P2008−221602A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63009(P2007−63009)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】