説明

自己防腐エマルジョン

治療用のエマルジョンを安定化し防腐も行うための多官能性合成化合物の使用が記載される。多官能性合成化合物は、独特の分子配列を有し、ホスフェート基が、1つ、2つまたは3つの第4級アンモニウム官能基に置換プロペニル基を介して結合し、それぞれの第4級アンモニウム官能基が、少なくとも1つの長鎖炭化水素にさらに結合する。こうした多官能性化合物を含む医薬エマルジョンは、加熱またはホモジナイズ化なしで調製することができ、実際いかなる追加の安定剤または防腐剤も使用する必要がない場合がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願との相互参照)
本発明は米国特許法§119に基づき、米国仮特許出願第61/056,675号(2008年5月28日出願)に対する優先権を主張する。この仮特許出願はその全内容が参照により本明細書中に援用される。
【0002】
(技術分野)
本発明は、局所または体内での使用、特に、眼、眼球内部、耳および/または鼻での用途のためのエマルジョンに関する。本発明はまた、かかるエマルジョンを防腐し安定化もさせる方法に関する。このエマルジョンは、特に、眼用の薬物送達での使用を意図し、薬物濃度の増加または疎水性薬物の生物学的利用能の増進に有用であり得る。本発明のエマルジョンは、眼の組織に対して通常、安定で非刺激性であり、国際防腐標準に合致し、またはそれらを合わせもっている。
【背景技術】
【0003】
(背景)
眼用の薬物は、通常、水溶液で眼に送達されるが、治療上有用である多数の薬物は、溶液形態で提供するためには水性ビヒクル中への溶解性が不十分である。こうした脂溶性薬剤のための代替投与形態として、軟膏、懸濁液およびエマルジョンが挙げられる。エマルジョン、特に、水中油型のエマルジョンは、眼の表面または眼球内のいずれかに疎水性薬物を送達する手段を提供する。エマルジョンを使用することには、製剤の難しさ、防腐に関する難題ならびに快適性および刺激性の問題の点で限界が存在するが、眼に使用するためのエマルジョンおよびマイクロエマルジョンへの関心が増大してきている。
【0004】
広く云えば、エマルジョンは、通常は流体である、2つ以上の普通は非相溶性である物質をブレンドした混合物である。エマルジョンを形成する場合、1つの物質を他方に分散させる。例えば、水中油型エマルジョンを形成する場合、油(分散相)を水(連続相と呼称される)中に分散させる。
【0005】
エマルジョンは自発的には形成されない。エマルジョンが形成されるためには、何らかの形態のエネルギーの投入、例えば、撹拌、振動またはスプレーが必要である。こうした性質の強力な撹拌は、ホモジナイズ化と呼称される場合がある。エマルジョンはまた、通常、不安定でもある。時間が経過すると、エマルジョンは、より安定な分離状態、例えば、油と水に分離する傾向がある。本文脈では乳化剤と呼称される界面活性剤によって、エマルジョンの動力学的な安定性を増大させることができる。多数の物理的および化学的な方法を使用することによって、例えば、2〜3例を挙げると、加熱、ホモジナイズ化および増粘剤を添加することによってエマルジョンを調製および安定化する。しかし、こうした方法を使用すると、エマルジョンを調製する際に、複雑さ、時間および経費が付加される恐れがある。
【0006】
医薬用途を意図した、エマルジョンを含む組成物は、通常、微生物による汚染を防止または遅延させるための防腐剤を含む。通常、特定の防腐剤または殺菌剤の選定と対象とする応用領域とは緊密に関係する。例えば、眼の局所用途では、防腐は、相対的な安全性および有効性に基づいて、限られた数の化学種から選択される殺菌剤を使用することによって実現される場合が多い。眼用の殺菌剤は、通常、以下の化学種:ビグアニド、第4級アンモニウム化合物、ポリアミンおよびアミドの内の1つに該当する。
【0007】
かかる生成物の安全を保障するために、多様な試験法が使用される。例えば、医薬製剤で使用される薬物および賦形剤のための品質制御試験の概要である、米国薬局方(USP)には、生成物およびその投与経路に対する抗菌性有効試験(AEP)が含まれる。USP AEPでは、カテゴリー2は、粘膜に適用されるものを含めての、水性基材またはビヒクル、非滅菌の鼻用生成物およびエマルジョンを用いて作製された局所向けの生成物に適用される。ある面ではより厳格な代替試験法が、欧州薬局方(Ph.Eur.)および英国薬局方(BP)に詳細に記載されている。
【0008】
米国薬局方(USP Chapter 1151)によれば、「エマルジョンはすべて、水性相が微生物の成長に好ましいので、抗菌剤を必要とする」。1つには抗菌剤が水性相から分離するために、エマルジョンを防腐することが困難である場合が多い。
【0009】
医薬用途を意図したエマルジョンはまた、物理的な安定性の指標を実際に示さなければならない。つまり、貯蔵する際に、クリーム化または分離の兆候がほとんどまたは全く存在すべきではない。
【0010】
乳化剤またはエマルジョン安定剤は、油の分散を安定化させるために使用される場合が多い。乳化剤は、界面、および一方または両方の相の環境を改変する場合があるので、乳化剤と組成物との間の相互作用は複雑であり得る。
【0011】
増粘剤はまた、エマルジョンを安定化させるために使用することもできる。多様なポリマーもまた、増粘剤として機能するか、または凝集を防止するための構造を有した界面フィルムを形成するように機能するかのいずれかでエマルジョンを安定化させるために使用される。
【0012】
いくつかの従来の参考文献は、抗菌または他の特性を有する薬剤を教示する。特許文献1および特許文献2(Mayhewら)には、ホスフェート第4級化合物が記載されている。特許文献3には、ホスホベタインが記載されている。PCT出願第2006/029255号(Scholz)には、カチオン性防腐剤組成物が記載されている。特許文献4(Siddiquiら)には、局所適用生成物用の防腐剤系が記載されている。こうした参考文献は、あらゆる目的のための参照により本明細書に全体が組み込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4209449号明細書
【特許文献2】米国特許第4503002号明細書
【特許文献3】米国特許第4215064号明細書
【特許文献4】米国特許第6120758号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚くべきことには、以下の特徴の組合せまたはすべてを示すエマルジョンが遂に発見された。そのエマルジョンは、エマルジョンを安定化させるために、加熱、ホモジナイズ化または増粘剤を必要としない、そのエマルジョンは、欧州薬局方の試験パラダイムに合格する、そのエマルジョンは、複雑なまたは特別の装置なしで製造することができる、および/またはそのエマルジョンは、防腐剤の添加を必要としない。さらには、本発明のエマルジョンは、通常、眼の組織に対して刺激性ではなく、眼に局所投与した場合に不快感もない。したがって、本発明は、通常、安定で、不快でなく、低刺激性であり、自己防腐性であり、またはそれらの任意の組合せであるエマルジョンに関する。本発明のエマルジョンは、とりわけ、治療薬の送達に有用である。多くの因子の中でも、本発明は、ある種の多官能性合成化合物が、医薬エマルジョンを防腐し安定化もするという二重機能を独特な方式で実行することができ、快適で非刺激性であるエマルジョンを提供することができ、および/またはとりわけ例えば局所使用のために、眼、耳または鼻の通路もしくは組織に治療薬を送達するのに適切であり得るという発見に基づくものである。
【0015】
好ましい実施形態では、本発明のエマルジョンは、十分な防腐有効性を有するので、米国防腐有効性試験(USPET)、欧州防腐有効性試験−A(EP−A)、欧州防腐有効性試験−B(EP−B)および類似の標準試験など1つまたは複数の防腐有効性標準試験に合格する。最も好ましくは、本発明のエマルジョンは、十分に防腐されているので、従来の防腐剤を含ませることなく、1つまたは複数のこうした試験に合格することができる。
【0016】
本発明は、部分的に、ある種の多官能性合成化合物が、エマルジョン組成物に対する防腐剤としても働き、エマルジョン安定剤としても働くという二重機能を実行することができるという発見に基づいている。多官能性合成化合物は、独特の分子配列を有し、ホスフェート基が、1つ、2つまたは3つの第4級アンモニウム官能基に置換プロぺニル基を介して結合し、それぞれの第4級アンモニウム官能基が、少なくとも1つの炭化水素鎖にさらに結合する。理論に拘泥するつもりはないが、こうした化合物によって本発明のエマルジョンに防腐および安定化を含めての所望の特性を付与することを可能にするのは、この独特の分子配列であると考えられる。さらには、本発明は、部分的に、こうした多官能性合成化合物を用いて安定化させ、防腐されるエマルジョン組成物が眼に対して快適でもあり、非刺激性でもあるという追加の発見に基づく。本発明のエマルジョンは、加熱、ホモジナイズ化または増粘剤の使用をすることなしに調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1A】図1Aは、製剤Bに対する初期エマルジョン粒径測定のヒストグラムである。
【図1B】図1Bは、60週での製剤B由来エマルジョンの粒径測定ヒストグラムである。
【図2A】図2Aは、製剤Cに対する初期エマルジョン粒径測定のヒストグラムである。
【図2B】図2Bは、62週での製剤C由来エマルジョンの粒径測定ヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、次式
【0019】
【化1】

[式中、
xは1〜3またはその混合であり、
x+yは3に等しく、
aは0〜2であり、
zはxに等しく、
Bは、O−またはOMであり、
Aはアニオンであり、
Mはカチオンであり、
Yは、OH、O−C〜C10アルキルおよびO−C〜C10アルケニルからなる群から選択され、
R1、R2およびR3は、同じか異なり、炭素原子最大16個を有し−NHC(=O)−が任意選択で介在しているアルキル、置換アルキル、アルキルアリールまたはアルケニル基であるが、但し、R1+R2+R3中の全炭素原子数は、10と24の間にある。]
の化合物を含むエマルジョンを対象とする。
【0020】
R1、R2、R3、A、MおよびY置換基の上記の定義では、ならびに本明細書全体では、以下の用語は、別段の指示のない限り、以下の意味を有することを理解されたい。
【0021】
「アルケニル」という用語には、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を含む炭素原子1〜30個を有する直鎖または分枝鎖炭化水素基が含まれ、該鎖は、1つまたは複数のヘテロ原子によって任意選択で介在されている。鎖の水素は、ハロ、−CF、−NO、−NH、−CN、−OCH、−C、−CO−アルキル、−O−CO−アルケニル、p−NHC(=O)−C−NHC(=O)−CH、−CH=NH、−NHC(=O)−Phおよび−SHなど他の基で置換されていてもよい。好ましい直鎖または分枝鎖アルケニル基として、アリル、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニルまたはヘキサデセニルが挙げられる。
【0022】
「アルキル」という用語には、飽和であり、炭素原子1〜30個を有する直鎖または分枝鎖脂肪族炭化水素基が含まれる。アルキル基は、酸素、窒素または硫黄など1つまたは複数のへテロ原子によって介在されてもよく、ハロ、−CF、−NO、−NH、−CN、−OCH、−C、−CO−アルキル、−O−CO−アルケニル、p−NHC(=O)−C−NHC(=O)−CH、−CH=NH、−NHC(=O)−Phおよび−SHなど他の基で置換されていてもよい。好ましい直鎖または分枝鎖アルキル基として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、sec−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシルまたはヘキサデシルが挙げられる。
【0023】
「ハロ」という用語は、ハロゲン族の元素を意味する。好ましいハロ部分として、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素が挙げられる。
【0024】
本発明はまた、式(I)の化合物を使用して、医薬エマルジョンを防腐し安定化もさせる方法を対象とする。
【0025】
式(I)の好ましい化合物は、
R1およびR2が、それぞれ独立に、C〜Cアルキルであり、
R3が、−NHC(=O)−が任意選択で介在しているC〜C16アルキルであり、
xが2であり、
aが1であり、
BがOであり、
Aがハロであり、
Yが、OH、O−C〜C10アルキルおよびO−C〜C10アルケニルからなる群から選択され、
Mが、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される化合物である。
【0026】
式(I)のより好ましい化合物は、以下の表の化合物1〜3として識別される。
【0027】
【表1】

化合物1は、式(I)の最も好ましい化合物である。化合物1はまた、本出願では、ココ−ジイモニウムクロライドリン酸ナトリウム(SCDCP)として指定される。
【0028】
式(I)の化合物は、公知の手順(例えば、あらゆる目的のための参照により本明細書に全体が組み込まれている米国特許第5286719号、第5648348号および第5650402号を参照されたい)に従って合成することができ、および/またはUniqema(Cowick Hall、Snaith Goole、East Yorkshire(UK)DN14 9AA)など市販の供給源から購入することができる。
【0029】
本発明のエマルジョンは、エマルジョンを安定化もさせ、防腐もするのに十分な量で1つまたは複数の式(I)の化合物を含む。一般には、式(I)の化合物の量は、少なくとも0.005%であるが、5.0%未満であり、好ましくは、0.05〜0.5%、より好ましくは、0.1〜0.2%となることになる。
【0030】
本発明の実施形態には、自己安定化自己防腐型医薬エマルジョンが含まれる。自己安定化という用語は、エマルジョンがそれ単独では安定なエマルジョンを提供する働きをしないと思われる材料から作製されているが、式(I)の化合物が添加されたために、安定なエマルジョンを形成することが可能であることを意味する。一部の実施形態では、エマルジョンは、追加の安定剤を含まない。他の実施形態では、エマルジョンは、従来の安定剤を実質的に含まない、つまり、エマルジョンは少量の安定剤を含むことがあるが、その量は一般に、式(I)の化合物を含まないエマルジョンで必要と思われる量未満、例えば、約2w/v%未満である。さらなる他の実施形態では、従来の安定剤は、エマルジョンの特性を改良または最適化するために含まれる。
【0031】
自己防腐という用語は、式(I)の化合物のために、従来の防腐剤を含ませることが、エマルジョンを効果的に防腐するためには通常不必要であることを意味する。一部の実施形態では、エマルジョンは、従来の防腐剤を含まない。他の実施形態では、エマルジョンは、従来の防腐剤を実質的に含まない、つまり、エマルジョンは少量の従来型抗菌剤を含むことがあるが、その量は一般に、式(I)の化合物を含まないエマルジョンで必要と思われる量未満、例えば、約0.01w/v%未満である。さらなる他の実施形態では、従来の防腐剤は、エマルジョンの防腐性を改良または最適化するために含まれる。
【0032】
本文脈では、従来の防腐剤として、限定されないが、塩化ベンザルコニウム、臭化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、セトリミド、ポリクアテルニウム−1、クロルヘキシジン、クロロブタノール、塩化セチルピリジニウム、パラベン、チメロサール、二酸化塩素、安定化オキシクロロ化合物、PVP−ヨウ素コンプレックス、ポリヘキサメチレンビグアニド、アレキシジン、N−アルキル−2−ピロリドン、ヘキセチジン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、N,N−ジクロロタルインおよび水銀防腐剤が挙げられる。
【0033】
本発明の眼、耳および鼻用エマルジョンは、眼、耳または鼻の組織と適合するように製剤されることになる。例えば、当業者には理解されようが、眼に直接適用することを意図した眼用組成物は、通常、眼と適合するpHおよび等張性、つまり、重量オスモル濃度になるように製剤されることになる。本発明の眼用エマルジョンに対する好ましいpHは、約4.5〜約9、より好ましくは、約5〜約8の範囲である。本発明の眼用エマルジョンに対する重量オスモル濃度の好ましい範囲は、約200〜約350ミリオスモル/キログラム(mOsm/kg)である。
【0034】
ポリマーは、本発明のエマルジョンを安定化させるのに必要とされない場合があるが、例えば、人工涙またはドライアイ製剤では添加することができる。本発明のエマルジョンと一緒に使用するのに適したポリマーとして、限定されないが、カルボキシメチルセルロース(CMC)、グアー、ヒドロキシプロピルグアー(HPグアー)、デキストラン、キサンタンおよびHPMCが挙げられる。
【0035】
浸透圧調節物質を添加することができる。適切な浸透圧調節物質として、限定されないが、ソルビトール、マンニトール、デキストラン、プロピレングリコールおよびグリセリンが挙げられる。
【0036】
コーン油は、エマルジョンの脂質または油相として用いることができる。他の油、例えば、中鎖トリグリセリド(MCT)油、ゴマ油、綿実油、鉱油またはオリーブ油も使用することができる。
【0037】
緩衝剤としてホウ酸を使用することができる。他の適切な緩衝剤、例えば、ホスフェート、アセテート、トロメタミンまたはシトレートも適切な濃度で使用することができる。
【0038】
乳化剤/界面活性剤として、ポリオキシル−40水素化ヒマシ油(HCO−40)を使用することができる。他の代替の乳化剤を使用することができるが、乳化剤の親水性−親油性バランスをマッチさせることによって、式(I)の化合物との相互作用を防止し、防腐性を維持することが必要である場合がある。代替の乳化剤として、ポロキサミン、例えば、ポロキサミン1304(「Tetronic1304」)、ポロキサマー(Pluronic)およびグリセリドが挙げられる。
【0039】
別段の指示がなければ、百分率という用語で表された成分はすべて、w/v%で表される。
【0040】
本発明のエマルジョンは、任意選択で、治療有効量の治療または診断剤を含む。本明細書では、「治療薬」という用語は、治療目的のために生理効果を引き起こす化学的または生物学的組成物を意味する。したがって、「治療薬」は、限定されないが、薬物用物質、抗菌剤、防腐剤、抗生物質、殺菌剤および抗菌ペプチド;任意の核酸、ヌクレオチド、ヌクレオシド、タンパク質などを含めての遺伝子材料を含めての疾患または病態を治療または予防する、あるいは他の方法で健康を増進する任意の薬剤を包含する。「治療薬」という用語は、単数および複数を包含し、したがって、1つの治療薬または1つを超える治療薬を意味する。
【0041】
本発明のエマルジョン内に含ませることができる治療薬(また薬物化合物または有効成分とも呼ばれる)として、限定されないが、局所的または内服して、例えば、眼球内に適用できる眼、耳または鼻用の薬剤が挙げられる。かかる薬剤として、限定されないが、抗緑内障薬、降圧薬、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド系抗炎症薬、抗菌剤、抗感染薬、抗真菌薬、抗ウイルス薬、抗白内障薬、抗酸化剤、抗アレルギー薬、代謝拮抗薬、免疫抑制剤および増殖因子剤が挙げられる。本発明のある種の実施形態では、治療薬は、レセプタチロシンキナーゼ阻害剤(RTKi)、プロスタグランジンおよび免疫抑制剤からなる群から選択される。
【0042】
本発明の医薬エマルジョンは、上記したものなどの従来型抗菌剤を添加することなく、1つまたは複数の式(I)の化合物を使用して効果的に防腐することができるが、本発明のエマルジョンもまた、さらに1つまたは複数の従来型防腐剤を含むことができる。本発明のエマルジョンに、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第4407791号(Stark)に記載のポリマー性第4級アンモニウム化合物を添加してもよい。好ましいポリマー性第4級アンモニウム化合物はポリクオタニウム−1である。ポリマー性第4級アンモニウム化合物は、通常、約0.00001〜0.01%の量で利用される。薬剤ポリクオタニウム−1の場合、約0.001%の量が通常好ましい。
【0043】
当業者には理解されようが、本発明のエマルジョンは、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、プロピレングリコール、マンニトール)、界面活性剤(例えば、ポリソルベート、ポリエトキシル化ヒマシ油(例えば、Cremophor)、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Span)、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tweens)、およびポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンコポリマー)、粘度調整剤(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、他のセルロース誘導体、ガムおよびガム誘導体)、緩衝剤(例えば、ボレート、シトレート、ホスフェート、カーボネート)、快適増進剤(例えば、グアーガム、キサンタンガムおよびポリビニルピロリドン)、安定剤(例えば、EDTA、ノニル−エチレンジアミン三酢酸(ethyenediaminetriacetic))および可溶化剤など多様な成分を含むことができる。
【0044】
以下の実施例は、本発明の多様な実施形態をさらに例示する。こうした実施例は、本発明の理解を助けるために提供されるが、本発明を限定するものとみなすべきではない。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
表1Aに示す式(I)の化合物を含むエマルジョンを調製するための代表的な滅菌製剤手順を以下に説明する。
1.式(I)の化合物およびHCO−40(ポリオキシル−40水素化ヒマシ油)を精製水中で水和させ(全バッチサイズの50%)、0.2μmろ過ユニットでろ過する。
2.ホウ酸とソルビトールの25%精製水溶液とを合わせ、均一になるまで撹拌し、0.2μmろ過ユニットでろ過する。
3.少なくとも全バッチ重量の2倍の容積を保持すると思われるビーカーにステップ1の内容物を移し、0.2μmシリンジフィルタを使用して油をビーカー内にろ過し、1時間激しく撹拌する。
4.ステップ2の内容物をステップ3の内容物に添加し、95%になるまで精製水を加え、1時間激しく撹拌する。
7.20%トリスストック液(S/S)を使用して適宜pHを調整する。
8.100%になるまで加え、約20時間激しく撹拌を続ける。
【0046】
薬物または治療薬を添加する場合、油と合わせ、ろ過する前に均一になるまで超音波処理する。本実施例で提供される濃度は、全バッチ重量を100%としている。この手順またはそれをわずかに改変した変形形態を使用することによって以下の実施例に記載のエマルジョンを調製した。
【0047】
(実施例2)
0.1または0.2(w/v%)いずれかの化合物1を含む、以下の表1Aに示す製剤の抗菌活性および安定性を評価した。表1Aはまた、シクロスポリンおよび化合物1からなるエマルジョン製剤(製剤C)を含む。表1Bは、全体の防腐有効性標準試験(PETの国際スクリーン法)の結果、およびエマルジョンの物理安定性の見た目の評価の結果からなる。データは、製剤はすべてPET国際標準に合格し、エマルジョンは安定であることを示す。最初および60週の粒径測定値を示す製剤Bのヒストグラムは、図1Aおよび図1Bで見ることができる。同様に、最初および62週の粒径測定値を示す、シクロスポリン0.05%入りの製剤Cのヒストグラムは、図2Aおよび図2Bで見ることができる。延長した貯蔵期間にわたりエマルジョンの粒径には有意の変化が起こらず、それによってエマルジョンの安定性が示されたことは、ヒストグラムから明白である。エマルジョンの当初の微生物濃度約10cfu/mLが時間経過とともに減少した程度を測定することによって微生物学的評価を実施した。略語「cfu」は、コロニー形成単位を意味する。PETの国際スクリーン法では、24時間でS.aureus、P.aeruginosaおよびE.coliを含めての細菌はすべて、0.1%の化合物1および0.2%の化合物1で対数減少値5を示した。同様に、7日でC.albicansについて対数減少値約5が観察された。試験された製剤すべてで防腐の全体的なEPA要件が達成された。微生物学的試験の結果を表1Cでより詳細に示しており、そこには5つの微生物についての評価結果が示されている。
【0048】
【表1A】

【0049】
【表1B】

【0050】
【表1C】

(実施例3)
0.1または0.2(w/v%)いずれかの化合物1を含む、あるいは式(I)の化合物を添加しない、以下の表2Aに示す製剤の安定性および抗菌活性を評価した。以下の表2Bに示す結果は、エマルジョンに式(I)の化合物を添加することの安定化効果を実際に示す。
【0051】
【表2A】

【0052】
【表2B】

(実施例4)
表3Aに示す、より大きい量のコーン油(1%)を含む製剤の安定性測定値を以下の表3Bに示す。
【0053】
【表3A】

【0054】
【表3B】

(実施例5)
有効成分としてのシクロスポリンを0.05%含む製剤Cのさらなる安定性試験の結果を以下の表4に示す。エマルジョンを低密度ポリエチレン(LDPE)点滴容器にもガラスバイアルにも充填した。LDPE容器を使用することによって重量減、pHおよび重量オスモル濃度を測定した。ガラスバイアルを使用することによって製剤の色および物理的安定性を調べた。室温および40℃で貯蔵した製剤では、pHおよび重量オスモル濃度における有意な変化は認められなかった。しかし、60℃で貯蔵した試料では、pHおよび重量オスモル濃度が、いくらか変化した。室温(RT)でのエマルジョンを見た目で評価した場合、一度反転すると透明になるぐらいのわずかな分離か、あるいは2、4、6および62週(2w、4w、6wおよび62w)でも分離なしかのいずれかを示した。40℃および60℃で2、4および6週間貯蔵した試料では分離は全く認められなかった。室温および40℃で貯蔵したエマルジョンは、色の変化は全くなかったが、60℃で貯蔵した製剤は黄色に変わった。
【0055】
【表4】

(実施例6)
3つの製剤について、眼の局所刺激性および快適性の1日誇張評価を実施した。3匹のニュージーランド白うさぎを各試験群に割り当て、各動物の一方の眼を選択して使用した。全部で10回の用量について約30分毎に製剤を試験用の眼に投与した。第1番目および最後の投与の直後に快適性評価を実施した。最後の投与の1時間後に試験用の眼を生体顕微鏡で調べた。第1番目の投与後24時間で動物すべてを全体の健康状態について再検査した。
【0056】
試験した製剤は以下の通りであった。
1.化合物1が0.2%であるエマルジョン(組成が上記の表1Aに示した通りである製剤A)。
2.化合物1が0.1%であるエマルジョン(組成が上記の表1Aに示した通りである製剤B)。
3.化合物1が0.1%であり、シクロスポリン0.05%を含むエマルジョン(組成が上記の表1Aに示した通りである製剤C)。
可能である最大スコアは以下に示す通りである。
結膜充血(Conj.Cong.) 3.0
結膜膨潤(Conj.Swell.) 4.0
結膜排出(Conj.Disch.) 3.0
虹彩炎 4.0
炎症 3.0
光反射 2.0
角膜混濁 4.0
角膜領域 4.0
フルオレセイン強度(Fluor.Inten.) 4.0
フルオレセイン領域(Fluor.Area) 4.0
快適性(CMFT) 4.0
表5A,5Bおよび5Cに示された、特に、用いた誇張投与レジメを考慮するこうした調査の結果は、こうした製剤が、眼の局所投与の際に実質的に快適であり、眼に悪い刺激を与えないことを示す。
【0057】
【表5】

【0058】
【表5C】

(実施例7)
【0059】
【表6】

【0060】
【表7】

【0061】
【表8】

(実施例8)
【0062】
【表9】

(実施例9)
【0063】
【表10】

(実施例10)
【0064】
【表11】


より広い態様における本発明は、上で示され、説明された特定の詳細に限定されるものではない。かかる詳細からの逸脱は、本発明の原理から逸脱することなく、その利点を犠牲にすることなく、添付の特許請求の範囲の範囲内で実施することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
緩衝剤と、
油と、
乳化剤と、
pH調整剤と、
式Iの多官能性合成化合物と、
【化2】

[式中、
xは1〜3またはその混合であり、
x+yは3に等しく、
aは0〜2であり、
zはxに等しく、
BはO−またはOMであり、
Aはアニオンであり、
Mはカチオンであり、
Yは、OH、O−C〜C10アルキルおよびO−C〜C10アルケニルからなる群から選択され、
R1、R2およびR3は、同じか異なり、炭素原子最大16個を有し−NHC(=O)−が任意選択で介在しているアルキル、置換アルキル、アルキルアリールまたはアルケニル基であるが、但し、R1+R1+R3中の全炭素原子数は、10と24の間にある。]
任意選択で治療薬と
を含む、眼、鼻または耳からの投与に適したエマルジョン。
【請求項2】
R1およびR2が、それぞれ独立に、C〜Cアルキルであり、
R3が、−NHC(=O)−が任意選択で介在しているC〜C16アルキルであり、
xが2であり、
aが1であり、
BがOであり、
Aがハロであり、
Yが、OH、O−C〜C10アルキルおよびO−C〜C10アルケニルからなる群から選択され、
Mが、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項3】
R1がメチルであり、
R2がメチルであり、
R3が−(CH11CHであり、
AがClであり、
YがOHであり、
MがNaである、請求項2に記載のエマルジョン。
【請求項4】
式Iの化合物以外の殺菌剤を含まない、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項5】
式Iの化合物以外の殺菌剤を実質的に含まない、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項6】
式Iの多官能性化合物の量が、約0.001%〜約1%(w/v)である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項7】
エマルジョンを安定化させるための加熱、ホモジナイズ化または増粘剤を必要としない、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項8】
HPMC、HEC、CMC、グアーガムおよびキサンタンガムからなる群から選択される粘滑剤をさらに含む、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項9】
任意選択の治療薬が存在する場合、該治療薬が眼、耳および鼻の薬からなる群から選択される、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項10】
眼の組織に非刺激性である、請求項1に記載のエマルジョン。
【請求項11】
医薬に使用するエマルジョンを防腐し安定化もする方法であって、安定化および防腐量の式(I)の多官能性化合物を
【化3】

[式中、
xは1〜3またはその混合であり、
x+yは3に等しく、
aは0〜2であり、
zはxに等しく、
Bは、O−またはOMであり、
Aはアニオンであり、
Mはカチオンであり、
Yは、OH、O−C〜C10アルキルおよびO−C〜C10アルケニルからなる群から選択され、
R1、R2およびR3は、同じか異なり、炭素原子最大16個を有し−NHC(=O)−が任意選択で介在しているアルキル、置換アルキル、アルキルアリールまたはアルケニル基であるが、但し、R1+R1+R3中の全炭素原子数は、10と24の間にある。]
エマルジョンに添加するステップを含む方法。
【請求項12】
R1およびR2が、それぞれ独立に、C〜Cアルキルであり、
R3が、−NHC(=O)−が任意選択で介在しているC〜C16アルキルであり、
xが2であり、
aが1であり、
BがOであり、
Aがハロであり、
Yが、OH、O−C〜C10アルキルおよびO−C〜C10アルケニルからなる群から選択され、
Mが、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
R1がメチルであり、
R2がメチルであり、
R3が−(CH11CHであり、
AがClであり、
YがOHであり、
MがNaである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エマルジョンが、治療薬をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記エマルジョンが、HPMC、HEC、CMC、グアーガムおよびキサンタンガムからなる群から選択される粘滑剤をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
眼、耳または鼻からの投与に適したエマルジョンを調製する方法であって、緩衝剤と、油と、乳化剤と、pH調整剤と、任意選択で治療薬とを含む組成物に、前記組成物を防腐し安定化もするのに十分な量で、式(I)の多官能性合成化合物を
【化4】

[式中、
xは1〜3またはその混合であり、
x+yは3に等しく、
aは0〜2であり、
zはxに等しく、
BはO−またはOMであり、
Aはアニオンであり、
Mはカチオンであり、
Yは、OH、O−C〜C10アルキルおよびO−C〜C10アルケニルからなる群から選択され、
R1、R2およびR3は、同じか異なり、炭素原子最大16個を有し−NHC(=O)−が任意選択で介在しているアルキル、置換アルキル、アルキルアリールまたはアルケニル基であるが、但し、R1+R2+R3中の全炭素原子数は、10と24の間にある。]
添加する方法。
【請求項17】
R1およびR2がメチルであり、
R3が、(CH11CH、(CH−NHC(=O)−(CH10CHおよび−(CH−NHC(=O)−(CH12CHからなる群から選択され、
xが2であり、
aが1であり、
BがO−であり、
Aがクロロであり、
YがOHであり、
Mがアルカリ金属イオンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
R1がメチルであり、
R2がメチルであり、
R3が−(CH11CHであり、
YがOHであり、
MがNaである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記エマルジョンが、HPMC、HEC、CMC、グアーガムおよびキサンタンガムからなる群から選択される粘滑剤をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
任意選択の治療薬が存在する場合、該治療薬が眼、耳および鼻の薬からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate


【公表番号】特表2011−521957(P2011−521957A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511775(P2011−511775)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/045282
【国際公開番号】WO2009/154978
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】