説明

自溶炉の炉体水冷構造

【課題】 シャフト下部近傍のアップテイクの三角天井部を、高負荷操業においても耐火物の損耗を抑制し、長期にわたって十分な冷却性能を発揮することができる自溶炉の炉体水冷構造を提供する。
【解決手段】 自溶炉1のシャフト2近傍に位置するセットラ3の三角天井部Aを冷却するための自溶炉の炉体水冷構造は、内部に冷却水を流すためのパイプ部材17を鋳込んだ銅製の水冷ジャケット10をセットラ3の三角天井部Aに吊下げ支持して配置したことを特徴とし、水冷ジャケット10は1又は複数に分割されて三角天井部Aに配置されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自溶炉の炉体水冷構造に関し、さらに詳しくは、銅製錬等に用いられる自溶炉のシャフト近傍に位置するセットラの三角天井部を効率的に冷却するための自溶炉の炉体水冷構造に関する。
【背景技術】
【0002】
銅製錬においては精鉱を自溶炉で酸素富化空気あるいは高温熱風と同時に吹き込んで瞬間的に化学反応を起こさせ、比重差によって銅をマットとして回収し、そして、電解精錬によってさらに品位の高い電気銅の製造が行なわれている。高熱に晒される自溶炉は熱によって内部の耐火物が損耗するので炉体を保護するために適宜冷却を行うと共に、所定の期間ごとに耐火物の交換や修理が行われている。
【0003】
自溶炉の炉体を冷却するための構造としては、冷却水を流す鋼管を鋳込んだ鋳鉄体の炉内に面する側に凹凸を形成したステーブジャケットが知られている(特許文献1(特公昭63―19793号公報))が、銅製錬の自溶炉におけるシャフトとセットラとの連結部の冷却構造としては、シャフト下部に数本の水冷銅チューブで円周を形成し、それを数段積み重ねることで上方から下方側に行くにつれて次第に湾曲しながら拡開させてフレア状(ペチコート)に形成し、それをセットラ部と連結する方法が主流である。同様に、セットラとアップテイクとの連結部の冷却構造は、水冷銅チューブ数本により、蒲鉾形状を形成して冷却するのが主流である。
そして、このような炉壁を冷却する水冷ジャケットとしては主として銅が使用されている(特許文献2(特公平3−57169号公報))
【0004】
一方、特許文献1においては、炉内に突出させた冷却フィンにダストなどを成長させることにより形成したセルフコーティングによりマット及びスラグの浴液面より上方の耐熱煉瓦を冷却する方法が提案されている。また、炉内に面する側に凹凸を形成した炉体水冷ジャケットとしては、特許文献3(実開昭62−25798号公報)や特許文献4(実開昭61−159790号公報)がある。
【0005】
ここで、シャフト下部及びシャフトとセットラとの連結部の熱負荷増大対策として最近の実施例としては、特開平8−127825号公報(特許文献5)に示された冷却構造がある。この冷却構造は、セットラ天井部と連結するシャフトの下端部にシャフトと同心状に環状に配置された水冷ジャケットを設け、この水冷ジャケットの炉内側側壁全面とセットラ天井部の内壁がキャスタブル耐火物により該炉内側側壁をほぼ垂直となるようにして覆ってセットラ天井部と一体に接合して形成するというものである。
【0006】
ところで、近年の自溶炉における銅精錬は、これまで1炉あたり年間約30万トンの銅精錬を行ってきたものをその約1.5倍の年間約45万トンに増大させ、将来的には従来の約2倍の量を処理するべく次第に高負荷操業へ移行してきている。高負荷操業においては炉内への装入物及び送風ガス量の増加、またそれに伴う発生熱量、排ガス量の増加、排ガス組成の変化により、炉内環境は一段と過酷となり、特にシャフト下部やシャフト部とセットラ部の連結部に対する熱負荷が増大している。
しかし、上述したような従来のような冷却構造では、高負荷操業を行うに際して冷却能力の不足によりチューブの破損による水漏れトラブル等が発生するおそれがあった。同様に、セットラとアップテイクとの連結部においても高負荷操業に伴う熱負荷増大による冷却能力不足からチューブ破損等のトラブルが発生するおそれがあった。
【0007】
また、特許文献5に示されたシャフトとセットラとの連結部の構造は、従来のようなフレア形状ではなく、直角構造となっている。このようにシャフト下部を直角構造とした場合、従来のフレア形状の場合と比べて、シャフト下部におけるシャフト反応ガスの良好な流れを確保することができずシャフト反応自体を悪化させる可能性が懸念される。すなわち、反応ガスがシャフトからセットラへ移動する際に直角の角部にぶつかって乱流が発生し、セットラへの反応ガスの良好な流れが阻害されるおそれがある。
また、直角の角部に高温の反応ガスがぶつかるのでその部分に配置された耐熱煉瓦へ加わる熱の負荷が懸念されると共に角部を的確に冷却することは容易ではない。もちろん、アップテイクとセットラとの連結部についても同様の問題点が発生する。
【0008】
そこで、出願人は、シャフトとセットラとの連結部及びアップテイクとセットラとの連結部における自溶炉の炉体水冷構造において、高負荷操業においても十分な冷却性能を発揮することができ、しかもシャフト反応ガスの流れを阻害することがないような自溶炉の炉体水冷構造を提供することを目的として特許出願を行った(特願2006−97947)。
具体的には、従来通りフレア形状を維持しつつ良好なシャフト反応を継続することが可能であり、水冷ジャケットの熱収縮、熱膨張に対応して水冷ジャケットを可動可能に支持することによって水冷ジャケット及び炉壁の保護を図るというものである。
【0009】
【特許文献1】特公昭63−19793号公報
【特許文献2】特公平3−57169号公報
【特許文献3】実開昭62−25798号公報
【特許文献4】実開昭61−159790号公報
【特許文献5】特開平8−127825号公報
【特許文献6】特開平11−189829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願出願人が発明したシャフトとセットラとの連結部及びアップテイクとセットラとの連結部を冷却する自溶炉の炉体水冷構造は目的とする効果を奏することができた。
しかし、高負荷操業においてはシャフト下部近傍のセットラの三角天井部の熱負荷が予想以上に増大し、耐火物の損耗が著しく、約2ヶ月のライフとなっていた。この点、三角天井部の冷却不足に起因する補修の頻度を低減させることを目的として、耐火物内にステンレスパイプを格子状に埋設した自溶炉の三角天井構造が提案されている(特開平11−189829号公報(特許文献6))。
【0011】
しかし、自溶炉の高負荷操業にあってはSO2ガスによるステンレスパイプの腐食の進行が早く、三角天井部の耐火物の交換・修理の期間を操業効率を低下させることなく、しかも交換・修理作業の負担を軽減させるような期間まで延ばすことが期待できなかった。
また、もし冷却水が漏れるようなことがあると高温の炉による水蒸気爆発の危険がある。
【0012】
そこで、本発明は、シャフト下部近傍のアップテイクの三角天井部を、高負荷操業においても耐火物の損耗を抑制し、長期にわたって十分な冷却性能を発揮することができる自溶炉の炉体水冷構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の本発明は、自溶炉のシャフト近傍に位置するセットラの三角天井部を冷却するための自溶炉の炉体水冷構造において、内部に冷却水を流すためのパイプ部材を鋳込んだ銅製の水冷ジャケットをセットラの三角天井部に吊下げ支持して配置したことを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、セットラの三角天井部に、1又は複数に分割された水冷ジャケットを配置してなることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、1〜10の水冷ジャケットによってセットラの三角天井部を覆うように配置したことを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の本発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、水冷ジャケットの炉内に面する側には凹凸が形成されると共に、凹部には耐火物が充填され、耐火物が侵食又は除去された後にスラグによるセルフコーティングが行われるようにされたことを特徴とする。
【0017】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の本発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、パイプ部材は少なくとも8−12mmの肉厚を有する銅製の管状部材であることを特徴とする。
【0018】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の本発明は、請求項4又は5に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、耐火物がアルミナ・クロミア質からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る自溶炉の炉体水冷構造によれば、水冷ジャケットを吊り下げ支持することにより三角天井部に配置することとしたので三角天井部にかかる荷重的な負担を軽減しつつ、効率的に三角点上部を冷却することが可能となって効率が高まり、これまで2ヶ月程度であった三角天井部における内部の耐火物のライフを1年以上の長期にわたって維持することができるという効果がある。これにより、これまで頻繁に発生していた三角天井部耐火物トラブルによる、操業負荷の低下が皆無となり、高負荷操業においても安定的に維持することが出来るようになった。
さらに、本発明に係る自溶炉の炉体水冷構造によれば、厚肉の銅パイプを水冷ジャケット内に鋳込んだので水漏れの心配がなく、漏れた水冷却水に起因する爆発のおそれがなく、安全性が高まるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る自溶炉の炉体水冷構造について好ましい一実施形態に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る炉体水冷構造を備えた自溶炉の好ましい一実施形態の側面断面図、図2はその平面図である。
【0021】
図1に示された自溶炉1は、概略として、その頂部に1〜3本の精鉱バーナ5が設置された略円筒形状のシャフト2と、セットラ3及びアップテイク4を備えて構成されている。
乾燥した微粉精鉱を精鉱バーナ5によって酸素富化空気あるいは高温熱風と同時に取り込み、瞬時に酸化反応を起こさせると精鉱は自溶状態でシャフト2内を落下してシャフト2直下においてスラグとマットに層状に分離される。
そして、炉体側壁に設けられた複数のマットタップホール6からマットの抜き出し、スラグタップホール7からスラグの抜き出しを行う。尚、スラグタップホール7から抜き出されたスラグには銅が含まれているのでさらに錬かん炉1aで錬かんしマットを得る。
マット及びスラグの抜出が行われるとそれに伴って湯深変動が発生するので炉内温度の変化が大きくなり、キャスタブルや耐火煉瓦等の炉壁耐火物に激しい熱的負荷が加えられる。
また、シャフト2直下から三角天井部A(図2参照)に至る部分は、精鉱の酸化反応により高温となった反応ガスが一番先に通過する場所でもあり、また、精鉱の投入が無くなると又温度低下した反応ガスが一番先に通過する位置であるため雰囲気温度においても大きな熱的負荷が加わる場所である。
なお、三角天井部A以外のシャフトペチコートに隣接する2面の三角天井部にも大きな熱負荷及び変動が加えられるため、同様の水冷ジャケットを取り付けることが好ましい。
【0022】
図3に最もよく示されているように、本発明に係る自溶炉の炉体水冷構造は、シャフト2の下部側近傍に位置するセットラ3の天井部分である2箇所の三角天井部Aに、複数組み合わせることによって三角天井部Aが形成されるような所定の形状に分割形成された水冷ジャケット10、10を吊り下げ支持することによって形成されている。
尚、2箇所の三角天井部Aに配置される各水冷ジャケット10は配置される位置に対応してそれぞれ対称に形成されている。
また、本実施形態においては6分割された水冷ジャケット10を組み合わせるようにして三角天井部Aに配置されているが、分割数はこれに限定されるものではない。三角天井部Aにおける受熱量、面積、冷却水の流量によって必要とされる水冷ジャケット10の数は異なることになるので必要に応じて適宜選択することができる。また、水冷ジャケット10の受熱量が少なく、受熱量に対して冷却水量が十分であり、冷却水の温度上昇が僅かであるような場合には複数ではなく単数(1枚)の水冷ジャケットを配置することもできる。実際的には、1〜10程度の水冷ジャケット10を配置するのが好ましい。さらに、水冷ジャケット10を複数組み合わせることによって三角天井部Aの全てを覆うことができるように形成してもよいし、そうでなくてもかまわない。尚、図示された実施形態においては6分割された水冷ジャケット10を組み合わせることによって三角天井部Aの形状に即した形となるように配置されている。また、三角天井部A以外の三角天井2面についても、同様の水冷ジャケット10を配置するとよい。
【0023】
水冷ジャケット10は、図4に示すように、概略として、銅製の平板状をなし、炉内に面する側には凸部11と凹部13と交互に配列されて形成されている。
凸部11は、自溶炉1の内部に配設されたキャスタブル等の炉壁耐火物と直接接触することによって炉体の冷却を行う。
一方、凹部13は、その内部に充填された耐火物を介して炉壁耐火物を間接的に冷却を行う。
【0024】
自溶炉1の操業に伴って炉壁体耐火物の侵食が進むと、水冷ジャケット10の凹部13に充填された耐火物が脱落し、凹部13にスラグが入り込んでセルフコーティングが行われるようになっている。
尚、凹部13に充填する耐火物は粉状耐火物に適量の水を加えて突き固めて充填したものが好ましいが、凹部13と同じ形状の・寸法に焼成した耐火ブロックを嵌め込むことによってもかまわない。
ここで、凹部13へ充填する耐火物としては、スラグより融点が高く、熱膨張係数が小さい物質が耐火物が好ましく、放熱特性・硬度・耐摩耗性・耐食性 高温強度性・耐熱衝撃性など多くの機能特性を備えたアルミナ系のキャスタブル、例えば、アルミナ・クロミア質が好ましい。また、主成分がMgOのもの(例えば:株式会社ヨータイ製:ヨータイスタンプ(R−MP))なども利用することができる。
凹部13断面の形状は、三角形、四角形、矩形、台形、U字形、皿型など種々の形状が可能であるが、上記した耐火物脱落の観点から、炉内側に開いた台形形状が好ましい。
また、凹部13の表面は、平坦面、細かい凹凸面などの態様が可能であり、さらに充填される耐火物と凹部13が堅く係合するように、図のようなピン状突起11aを設けることも可能であるが、充填される耐火物の脱落をタイミングよく行うためには鋳造や切削などで得られる平坦面とするのが好ましい。
また、ピン状突起11aによって耐火物18を保持するように形成することも可能であり、図6にはそのような構造のものが示されている。
【0025】
図5及び図6に単体の水冷ジャケット10の一実施形態を示す。図示された水冷ジャケット10は、外形が矩形状を有し、その内部に冷却水流路17が内設されている。いうまでもないが他の水冷ジャケット10も基本的には外形形状が異なるだけで構造はほぼ同様である。
この冷却水流路17に冷却水を流すことによって炉壁を効率的に冷却するようになっている。
そして、冷却水流路17の端部には、それぞれ冷却水を供給排出するための供給口15及び排出口16が設けられており、供給口15から供給された冷却水は水冷ジャケット10内を循環して排出口16から排出されるようになっている。
尚、三角点上部Aに配置した際に隣り合う水冷ジャケット10の排出口16と供給口15をそれぞれ連結して冷却水を循環させるようにすることもできる。
尚、冷却水は1〜12t/hの流量で供給される。
分割されたジャケットそれぞれに対して、必要な水量を供給することができるよう、各系統の給水部に水量調節機構を有している。
同じ面の三角ジャケットにおいても、部分的に熱負荷の高い部位が存在するためである。
なお、各系統に温度計を設置し、リアルタイムに温度を監視しており、温度変化に応じて水量を調節できる。
【0026】
冷却水流路17は、水冷ジャケット10を製造する際に、予め所定の形状(例えば、Ω字状)に形成しておいた銅製のパイプ材を型に配置しておき、その上から銅を流し込むことによって水冷ジャケット10の内部に埋設している。
すなわち、所望の形状の水冷ジャケット10の外形を備えた型を用意し、その型内に冷却水流路17となる銅製のパイプ材を所定位置に配置する。そして、型に溶体となった銅を流し込むことによって冷却水流路17を内蔵した水冷ジャケット10が形成されている。
尚、冷却水流路17となる銅製のパイプ材の表面をクロムメッキしておくと銅を鋳込んだときにパイプ材との間に隙間を生じさせることなくしかっかりと密着させることができる。
冷却水流路17となる銅製のパイプ材は、その肉厚を8−12mmとしている。その理由は、長時間の使用により冷却水流路17に亀裂等が発生して冷却水が漏れると炉内の高温によって水蒸気爆発を起こす危険があるのでそのようなおそれのない肉厚を確保するためである。
【0027】
上述した水冷ジャケット10は、セットラ3の三角天井部Aに配置されるが、図7に示すように、セットラ天井部に接するように吊下部材31によって吊下げ支持することによって配置されている。吊下部材31は、上部側ロッド31aと端部にフックを備えた下部側ロッド31bとを調整部材31cを介して連結することによって構成されており、この吊下部材31は上下方向に伸縮可能とされている。
そして、下部側ロッド31bの端部に設けられたフックを水冷ジャケット10の表面に取り付けられたリング19に掛止することにより6分割された水冷ジャケット10が三角天井部Aにそれぞれ配置される。
尚、20はセットラ3の側壁部を構成する耐火レンガである。
【0028】
水冷ジャケット10には炉体から加わる熱によって熱膨張及び熱収縮が発生する。そのため水冷ジャケット10を炉体に完全に固定した状態で配置してしまうと熱膨張によって水冷ジャケット10全体が押し広げられる方向に働く力によって水冷ジャケット10と接触するキャスタブル等の炉壁耐火物を破壊したり、水冷ジャケット10自身が破壊されてしまうおそれがある。
また、水冷ジャケット10の重さが直接三角天井部Aにかからないように各水冷ジャケット10はそれぞれ可動可能に吊下げ支持されている。
【0029】
一方、シャフト2とセットラ3との連結部B(図2参照)及びアップテイク4とセットラ3との連結部C(図2参照)にも同様の構成を有する水冷ジャケット10を用いて炉体水冷構造を形成することができる。
上述したように、シャフト2は略円筒形状とされているのでセットラ3との連結部Bは略円形状をなし、シャフト2の下部をぐるりと円形状に取り囲むようにして位置している。
一方、アップテイク4とセットラ3との連結部Cは、図2に示すように、セットラ3の幅方向に沿って直線状に位置している。そして、それらの箇所に水冷ジャケット10を配置する。
【0030】
シャフト2とセットラ3との連結部Bに配置される水冷ジャケット10は、図8〜12に示すように、概略として、銅製の湾曲した円弧状の板状体をなし、炉内に面する側に凸部11と凹部13とが交互に配列されて形成されている。
水冷ジャケット10の形状が、シャフト2下部のフレア形状を維持するために湾曲した形状となっているなどの外形形状の相違以外は基本的に上述の水冷ジャケット10とほぼ同様の構成となっている。そのため上述の水冷ジャケット10と同じ構成部分については同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0031】
シャフト2とセットラ3との連結部Bに配置される水冷ジャケット10は、図9に示すように、シャフト2とセットラ3との連結部Bには、円周方向に32等分、上下方向に2等分に分割された状態で合計64枚配置されている。
この構造によって連結部Bのフレア形状を確保しつつシャフト反応ガスの良好な流れ及び良好なシャフト反応が確保されると共に、高負荷操業における的確な冷却を維持することが可能となる。
【0032】
また、アップテイク4とセットラ3との連結部Cにも三角天井部A及び連結部Bに配置される水冷ジャケット10とほぼ同様な構成を備えた水冷ジャケット10が配置されている。
但し、アップテイク4とセットラ3との連結部Bに配置される水冷ジャケット10は、図13に示すように、連結部Bに配置される水冷ジャケット10とは異なり、フレア状に湾曲しつつもセットラ3の幅方向に沿って直線状に配置されるような形状とされている。
連結部Cに配位置される水冷ジャケット10は水平方向に12等分、上下方向に2等分に分割された状態で合計24枚配置される。
尚、連結部Bに配置される水冷ジャケット10と同様にその外形形状の相違以外は他の水冷ジャケット10とほぼ同様の構成となっている。
【0033】
シャフト2とセットラ3との連結部B及びアップテイク4とセットラ3との連結部Cに配置される水冷ジャケット10も可動可能に吊下げ支持されており、その構造の一例を図15に示す。図示されているように、上下2段に配置された水冷ジャケット10のうち下段側に配置された水冷ジャケット10は、シャフト2を支持するH鋼45に取り付けられた支持部材43に掛止された吊下部材31によって吊下げ支持されている。
同様に、上下2段に配置された水冷ジャケット10のうち上段側に配置された水冷ジャケット10は、シャフト2に取り付けられた支持部材41に掛止された吊下部材31によって吊下げ支持されている。
吊下部材31は、上部側ロッド31aと端部にフックを備えた下部側ロッド31bとを調整部材31cを介して連結することによって構成されており、この吊下部材31は上下方向に伸縮可能とされている。
【0034】
そして、下部側ロッド31bの端部に設けられたフックを水冷ジャケット10の表面に形成されたリング19に掛止することによりシャフト2とセットラ3との連結部Aを円周方向にぐるりと取り囲むようにして水冷ジャケット10が上下2段に配置されている。
これにより、水冷ジャケット10が炉内の熱により熱膨張した際には水冷ジャケット10は上方側へスライド移動してその位置を変えることができるようになっている。一方、熱収縮により水冷ジャケット10が縮んだ際には、再びもとの位置へスライド移動する。
このように、水冷ジャケット10は熱膨張及び熱収縮による形状変化が発生してもそれに伴ってその位置を適宜変化させ、自溶炉1の炉壁耐火物の破壊や水冷ジャケット10自身の破壊を有効に防止する。
尚、上下及び左右の水冷ジャケット10同士が隣接する水冷ジャケット10の側面は水冷ジャケット10同士の相対的なスライドを阻害しないような滑らかな平面としたり、テーパー状にしてもよい。
【0035】
さらに、水冷ジャケット10とセットラ3の壁面部との間にはテーパー状の補助部材20が配置されている。補助部材20は、下方側の幅が狭く上方へ行くに従って幅が広くなるように形成されており、水冷ジャケット10が勝手に上方側へ移動しないようになっている。
また、補助部材20は、熱膨張及び熱収縮による水冷ジャケット10の形状変化に伴う移動を補助するようにスライド可能とされている。これにより、水冷ジャケット10が熱収縮することによって隣接するセットラ3の壁面部との間に隙間が発生するのを防止する。
さらに、水冷ジャケット10は、補助部材20との隣接部を支点として角度が傾斜角度を変化させることが可能とされており、連結部Aを冷却するための適性位置へ水冷ジャケット10を配置させることができるようになっている。
一方、熱収縮により水冷ジャケット10が縮んだ際には、図16に示すように、水冷ジャケット10は下方側に移動して水冷ジャケット10の下側端縁部とセットラ3との間に隙間が発生するのを防止する。補助部材20は、例えば、耐熱煉瓦等の耐熱性を備えた部材により形成することが好ましい。
尚、アップテイク4とセットラ3との連結部Cも同様の吊下げ構造とされ、同様の作用・効果を奏するようになっている。
以上のように、本発明に係る自溶炉の炉体水冷構造によれば自溶炉の三角天井部Aの冷却効果を高めることができる。
さらに、三角天井部Aの他、連結部A、Bにもそれぞれ上述の水冷ジャケット10、10を配置すれば自溶炉1の冷却効果はさらに高まり、高負荷操業においても安定した操業を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】自溶炉の断面図である。
【図2】図1に示す自溶炉の平面図である。
【図3】水冷ジャケットが配置された三角天井部の拡大平面図である。
【図4】本発明に係る自溶炉の炉体水冷構造における水冷ジャケットの一実施形態の斜視図である。
【図5】図4の水冷ジャケットの平面図である。
【図6】図4の水冷ジャケットの断面図である。
【図7】図4の水冷ジャケットの吊り下げ構造を示す側面図である。
【図8】シャフトとセットラとの連結部へ配置される水冷ジャケットの一実施形態の斜視図である。
【図9】シャフトとセットラとの連結部へ水冷ジャケットを配置した状体を示す平面図である。
【図10】シャフトとセットラとの連結部に配置された水冷ジャケットを上方側から見た拡大平面図である。
【図11】シャフトとセットラとの連結部に配置された水冷ジャケットを水平方向から見た拡大正面図である。
【図12】シャフトとセットラとの連結部に配置される水冷ジャケットを炉内に面する側から見た背面図である。
【図13】アップテイクとセットラとの連結部に配置された水冷ジャケットを上方側から見た拡大平面図である。
【図14】アップテイクとセットラとの連結部に配置される水冷ジャケットを炉内に面する側から見た背面図である。
【図15】熱膨張時における水冷ジャケットの吊り下げ構造を示す側面断面図である。
【図16】熱収縮時における水冷ジャケットの吊り下げ構造を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 自溶炉
2 シャフト
3 セットラ
4 アップテイク
5 精鉱バーナ
6 マットタップホール
7 スラグタップホール
10 水冷ジャケット
11 凸部
13 凹部
15 供給口
16 排出口
17 冷却水流路
18 耐火物
19 リング
20 補助部材
31 吊下部材
31a 上部側ロッド
31b 下部側ロッド
31c 調整部材
41 支持部材z
43 支持部材
45 H鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自溶炉のシャフト近傍に位置するセットラの三角天井部を冷却するための自溶炉の炉体水冷構造において、
内部に冷却水を流すためのパイプ部材を鋳込んだ銅製の水冷ジャケットを前記セットラの三角天井部に吊下げ支持して配置したことを特徴とする自溶炉の炉体水冷構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、
前記セットラの三角天井部に、1又は複数に分割された前記水冷ジャケットを配置してなることを特徴とする自溶炉の炉体水冷構造。
【請求項3】
請求項2に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、
1〜10の前記水冷ジャケットによって前記セットラの三角天井部を覆うように配置したことを特徴とする自溶炉の炉体水冷構造。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、
前記水冷ジャケットの炉内に面する側には凹凸が形成されると共に、当該凹部には耐火物が充填され、前記耐火物が侵食又は除去された後にスラグによるセルフコーティングが行われるようにされたことを特徴とする自溶炉の炉体水冷構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、
前記パイプ部材は少なくとも8−12mmの肉厚を有する銅製の管状部材であることを特徴とする自溶炉の炉体水冷構造。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の自溶炉の炉体水冷構造において、
前記耐火物がアルミナ・クロミア質からなることを特徴とする自溶炉の炉体水冷構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−202923(P2008−202923A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48679(P2007−48679)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】