説明

自然石型枠及び該型枠を使用した構築工法

【課題】コンクリートの固化後に前面側の型枠を撤去することなく構造物の表面部材として利用することにより、工程の簡略化とコストの低廉化をはかるとともに通常の擁壁以外の種々のコンクリート構造物に対応させることができる自然石型枠及び該型枠を使用した構築工法を提供する。
【解決手段】前面側に多数個の自然石を加工した表面部材2を並置し、該表面部材2の裏面側に平面加工部を施すとともにこの平面加工部の裏面側で表面部材2と対向する位置に背面部材を形成した自然石型枠1と、この自然石型枠1を使用して構造物を構築することにより、得られた構造物の前面側の表面部材2もしくは前面側と背面側の表面部材2として利用する自然石型枠を使用した構築工法を基本手段としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は所定形状に付型した型枠内に生コンクリートを打設して擁壁等の構造物を構築するに際して、前面側の型枠として自然石を利用した板状の型枠を使用し、コンクリートの固化後に該自然石型枠を撤去することなく構造物の表面部材として利用するようにした自然石型枠及び該型枠を使用した構築工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からコンクリート擁壁等の構造物を構築する際に、該擁壁の前面側と背面側に板材等でなる型枠を立設して、両型枠間にセパレータを介在させて所定間隔を維持し、必要に応じて水抜きパイプを配置してから生コンクリートを流入し、コンクリートの固化後に両型枠を解体撤去する手段が用いられている。更に山を切り崩したり盛土により道路や宅地等を造成する際に、造成による崖崩れを防止するため、崖の前方の所定個所に擁壁構築用型枠を組立設置し、該擁壁構築用型枠に生コンクリートを充填して硬化させてから擁壁構築用型枠を取り外すことでコンクリート擁壁を構築し、コンクリート擁壁と崖との間に土砂等を埋める手段も知られている。
【0003】
上記に関して、特許文献1には自然石形状の凸部を有して任意の位置に開口を有する擁壁を形成することを目的として、板材に散在する凹部に嵌合する凸部を設けた型枠と同形にして仕切り板を着脱自在に付設した重合部材を設け、型枠を複数連設して立設せしめた際、擁壁に形成する開口位置の型枠に該開口と合致する形状に形成した重合部材を重合し、該重合部材の所定の位置に仕切り板を付設すると共に該仕切り板により板材を分断し、複数の型枠と該型枠に対設された板材と仕切り板とで囲繞された空間にコンクリートを充填し、コンクリート硬化後に型枠,板材,仕切り板,重合部材を除去することで自然石形状の凸部を有し、任意の位置に開口を有する擁壁を形成する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、道路その他の構造物の一部としてのコンクリート擁壁を構築するに際して、コンクリート擁壁を構築するための所定の個所に前面型枠と背面型枠を設置すると共に、両型枠間を所定間隔で金属製線材により接続した擁壁構築用型枠の組立方法で、両型枠の下部位で、かつ近接する平面上に位置する金属製線材間に、複数個の空気抜き孔を備えた鋼板等の硬質プレートを配した擁壁構築用型枠が開示されている。
【特許文献1】特開平6−228976号公報
【特許文献2】特開平8−277537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のコンクリート擁壁等の構造物を構築するには、擁壁の前面側と背面側に板材等でなる型枠を立設して生コンクリートを流入した後、該コンクリートの固化後に両型枠を解体撤去しなければならないので、工程が煩雑であるとともに工期が長くかかり、コストが高騰するという課題がある。また、得られる構造物の形状にも限定条件が付されるので、通常の擁壁以外に造成による崖崩れを防止する壁等の種々のコンクリート構造物に対応させることができない。上記特許文献1,2によってもこの問題点を解決することができない。
【0006】
そこで本発明は上記に対処して、コンクリートの固化後に前面側の型枠を撤去することなく構造物の表面部材として利用することにより、工程が簡略化されて工期の短縮とコストの低廉化をはかるとともに構造物の形状にも限定条件が付されず、通常の擁壁以外の種々のコンクリート構造物に対応させることができる自然石型枠及び該型枠を使用した構築工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記目的を達成するために、前面側に多数個の自然石を加工した表面部材を並置し、該表面部材の裏面側に平面加工部を施すとともにこの平面加工部の裏面側で表面部材と対向する位置に背面部材を形成した自然石型枠と、この自然石型枠を使用して構造物を構築することにより、得られた構造物の前面側の表面部材もしくは前面側と背面側の表面部材として利用する自然石型枠を使用した構築工法を基本手段としている。
【0008】
背面部材に鉄筋挿通用の切欠部を形成してあり、背面部材の上面には吊環挿通用孔部を開口する。更に背面部材の裏面側にセパレータ挿通用孔部を開口する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コンクリート擁壁等の構造物を構築する際に、コンクリートの固化後に前面側と背面側の両型枠をともに解体撤去せずにそのまま表面部材として利用することができるので、構築工程が簡略化されて工期が短縮化されるとともにコストを低廉化することができる。得られる構造物の形状にも限定条件が付されることがないので、通常の擁壁以外にも崖崩れを防止する壁等の種々のコンクリート構造物にも対応する自然石型枠及び該型枠を使用した構築工法を提供することができる。自然石型枠には本物の自然石を加工して使用しているため、景観も美麗であって仕上げの良好な構造物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明にかかる自然石型枠及び該型枠を使用した構築工法の最良の実施形態を説明する。本発明は前面側に多数個の自然石を加工した表面部材を並置し、該表面部材の裏面側に平面加工部を施すとともにこの平面加工部の裏面側で表面部材と対向する位置に背面部材を形成した自然石型枠と、この自然石型枠を使用して構造物を構築することにより、得られた構造物の前面側の表面部材もしくは前面側と背面側の表面部材として利用する自然石型枠を使用した構築工法を基本手段としている。
【0011】
図1は本発明で用いた自然石型枠1の正面図、図2は図1のB矢視図であり、自然石型枠1の前面側には、多数個の自然石を加工した表面部材2,2が並置されている。図2に示したように表面部材2,2の裏面側には平面加工部3が施されており、この平面加工部3のさらに裏面側には、表面部材2,2と対向する位置に背面部材4が形成されている。本実施例では背面部材4としてコンクリートが用いられており、この背面部材4の裏面側には鉄筋挿通用の切欠部5,5が形成されている。6,6は背面部材4の上面に開口された吊環挿通用孔部である。
【0012】
図3は背面部材4に形成された鉄筋挿通用の切欠部5,5の形状例を示す裏面図であり、該鉄筋挿通用の切欠部5,5は背面部材4の適宜位置に縦長の溝状に形成されている。この背面部材4の裏面側にはセパレータ挿通用孔部7,7が開口されている。
【0013】
図4は本発明にかかる自然石型枠1を用いた擁壁構築の実際例を示す要部側断面図であり、図示したように先ず底部に砕石10を敷き詰め、この砕石10の上面に基礎コンクリート11を打設する。そして擁壁の前面側に相当する部位に、本実施例にかかる自然石型枠1,1を配置して前記鉄筋挿通用の切欠部5,5を用いて鉄筋8を挿入固定するとともに、擁壁の背面側に相当する部位に板材等でなる型枠12を立設し、両型枠間に前記セパレータ挿通用孔部7,7を利用してセパレータ13,13を介在させて所定間隔を維持しながら、必要に応じて水抜きパイプ14を配置する。15は必要に応じて設置した裏込め材である。
【0014】
次に上部から両型枠1,12間に生コンクリートを流入し、コンクリートの固化後に板材等でなる型枠12のみ解体撤去し、自然石型枠1は撤去することなく得られた擁壁の前面側の表面部材としてそのまま利用する。
【0015】
図5は本発明による擁壁構築の他の実際例を示す要部側断面図であり、基本的構成は図4の例と略同一であるため、同一の符号を付して表示してある。図5の例は底部に敷き詰めた砕石10の上面に基礎コンクリート11を打設し、擁壁の前面側に相当する部位に自然石型枠1,1を配置して鉄筋挿通用の切欠部5,5を用いて鉄筋8を挿入固定するとともに、擁壁の背面側に相当する部位に板材等でなる型枠12を立設し、両型枠間にセパレータ挿通用孔部7,7を利用してセパレータ13,13を介在させてから型枠12の裏面側でフォームタイ等の固定具16,16を用いてセパレータ13,13の裏面側を固定することによって自然石型枠1と型枠12間の所定間隔を維持し、次に上部から両型枠1,12間に生コンクリートを流入し、コンクリートの固化後に板材等でなる型枠12を固定具16とともに解体撤去して自然石型枠1は撤去することなく前面側の表面部材として利用する。
【0016】
図6は施工時の態様を示す概要図であって、トラッククレーン17のブーム18先端から垂下したワイヤ19により、自然石型枠1の背面部材4の上面に開口された吊環挿通用孔部6,6を利用して自然石型枠1を吊り下げて、予めセットした型枠12とセパレータ13と連動して順次自然石型枠1を相互に密着させて据え付け、以下、上記に説明した手順によって自然石型枠1を前面側の表面部材としてそのまま利用した擁壁が完成する。
【0017】
図7は型枠12を撤去する以前の擁壁の平面図、図8は同正面図、図9は自然石型枠1の裏面図、図10は同側断面図である。図8に示したように、自然石型枠1は使用目的に応じて種々の大きさと形状の型枠として予め製作しておき、これらの自然石型枠1を選択して使用することによって現場の状況その他の条件を満足する擁壁を構築することができる。
【0018】
上記実施例は通常の擁壁を対象物として本発明にかかる自然石型枠1を使用した例で説明したが、前面と背面の両方が露出している構造物に本発明を適用する場合には、背面側にも上記型枠12に代えて本発明にかかる自然石型枠1を使用し、コンクリートの固化後に両型枠を解体撤去することなく、構造物の前面側と背面側の表面部材としてそのまま利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
以上説明したように、本発明によればコンクリートの固化後に前面側と背面側の両型枠をともに解体撤去せずにそのまま表面部材として利用することができるので、通常の擁壁のほかにも山を切り崩したり盛土により道路や宅地等を造成する際に形成される崖の前方の所定個所に本発明にかかる自然石型枠を組立設置し、生コンクリートを充填して硬化させて得られたコンクリート擁壁と崖との間に土砂等を埋める手段にも使用することができる。得られた構造物の構築工程は簡略化されて工期の短縮とともにコストの低廉化にも寄与することができる。得られる構造物の形状にも限定条件が付されず、種々のコンクリート構造物に適応可能な自然石型枠及び該型枠を使用した構築工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかる自然石型枠の正面図。
【図2】図1のB矢視図。
【図3】背面部材に形成された鉄筋挿通用の切欠部の形状例を示す裏面図。
【図4】本発明にかかる自然石型枠を用いた擁壁構築の実際例を示す要部側断面図。
【図5】本発明による擁壁構築の他の実際例を示す要部側断面図。
【図6】本発明の施工時の態様を示す概要図。
【図7】型枠を撤去する以前の擁壁の平面図。
【図8】図7の正面図。
【図9】図7の自然石型枠の裏面図。
【図10】図7の側断面図。
【符号の説明】
【0021】
1…自然石型枠
2…表面部材
3…平面加工部
4…背面部材
5…切欠部
6…吊環挿通用孔部
7…セパレータ挿通用孔部
8…鉄筋
10…砕石
11…基礎コンクリート
12…型枠
13…セパレータ
14…水抜きパイプ
15…裏込め材
16…固定具
17…トラッククレーン
18…ブーム
19…ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面側に多数個の自然石を加工した表面部材を並置し、該表面部材の裏面側に平面加工部を施すとともにこの平面加工部の裏面側で表面部材と対向する位置に背面部材を形成したことを特徴とする自然石型枠。
【請求項2】
背面部材に鉄筋挿通用の切欠部を形成した請求項1に記載の自然石型枠。
【請求項3】
背面部材の上面に吊環挿通用孔部を開口した請求項1又は2に記載の自然石型枠。
【請求項4】
背面部材の裏面側にセパレータ挿通用孔部を開口した請求項1,2又は3に記載の自然石型枠。
【請求項5】
構造物の前面側に相当する部位に、多数個の自然石を加工した表面部材と背面部材でなる自然石型枠を配置するとともに、構造物の背面側に相当する部位に板材等でなる型枠を立設し、両型枠間にセパレータを介在させて生コンクリートを流入し、コンクリートの固化後に板材等でなる型枠のみ解体撤去し、自然石型枠は撤去することなく構造物の前面側の表面部材として利用することを特徴とする自然石型枠を使用した構築工法。
【請求項6】
構造物の前面側と背面側に相当する部位に、多数個の自然石を加工した表面部材と背面部材でなる自然石型枠を配置し、両型枠間にセパレータを介在させて生コンクリートを流入し、コンクリートの固化後に両自然石型枠を撤去することなく構造物の前面側と背面側の表面部材として利用することを特徴とする自然石型枠を使用した構築工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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