説明

自発光パネル及びその製造方法

【課題】環境温度の変化に対しても機能劣化を生じない自発光パネル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】自発光パネル10は、一対の電極12,14間に少なくとも1層以上の発光機能層13を挟持してなる自発光素子15を基板11上に形成し、自発光素子15を外気から遮断する封止部材16を設け、封止部材16は自発光素子15を覆う封止空間Mを形成するように、接着剤層18を介して基板11上に貼り付けられている。ここで、温度t℃で封止部材16によって自発光素子15が封止される封止空間Mの内圧Pが、下記式を満たす。


max:使用環境で想定される最大外気圧、
min:使用環境で想定される最小外気圧、
Pd:保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧、
max:保存最高温度(℃)、
min:保存最低温度(℃)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自発光パネル及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自発光パネルは、固体の発光層を有する自発光素子を基板上に形成したものであり、基板間に液晶層を封止して背面のバックライトをこの液晶層で制御する液晶表示パネルとは基本的な構造が異なる。すなわち、自発光パネルは、一般に、固体の発光層とこれを封止するための封止空間を備えており、固体層からなる部分と、その周辺に封止空間として形成される気体を充填した密閉空間を備えることが構造上の特徴になっている。
【0003】
そして、この自発光パネルは、このような固体層と気体を充填した密閉空間を備え、液体層を有さないものであるが故に、液晶層(液体層)の凝固(氷結)又は気化(沸騰)によって使用又は保存温度範囲が制限される液晶表示パネルと比較して、使用又は保存温度範囲を低温域から高温域に広げることができるという利点を有している。すなわち自発光パネルは、一般に、極低温又は高温での動作又は保存が可能であり、液晶表示パネルと比較して耐環境性の高い表示パネルを得ることができる。
【0004】
このような自発光パネルの一つである有機ELパネルは、ガラス基板上にITO等の透明電極からなる陽極を形成し、その上に有機化合物からなる発光層を含む有機膜を形成し、その上にAl等の金属電極からなる陰極を形成した有機EL素子を基本構成としており、この有機EL素子を単位面発光要素として平面基板上に配列させたものである。
【0005】
この有機EL表示パネルは、有機膜及び電極が外気に曝されると特性が劣化することが知られている。これは、有機膜と電極との界面に水分が浸入することにより、電子の注入が妨げられ、未発光領域としてのダークスポットが発生したり、電極が腐食する現象によるもので、有機EL素子の安定性及び耐久性を高めるためには、有機EL素子を外気から遮断する封止技術が不可欠となっている。この封止技術に関しては、各種の提案がなされているが、生産性及び耐久性の面で有効な手段として、電極及び有機膜が形成されたガラス基板上に、この電極及び有機膜を覆う封止部材を接着する方法が採用されている。
【0006】
この従来技術に係る封止部材をガラス基板上に接着する工程について、図1(a),(b)を参照して説明する。電極及び有機膜の成膜工程を完了したガラス基板1に対して、封止部材4を接着するには、ガラス基板1上又は封止部材4の接着面上に有機EL層3の全周を囲うように接着剤層2を形成する。図1(a)は、封止部材4側に接着剤層2を形成した状態を示している。この接着剤層2は、エポキシ樹脂等の紫外線硬化性又は、熱硬化性樹脂が用いられ、ディスペンサによって封止部材4上に塗布される。
【0007】
そして、図1(b)に示すように、ガラス基板1をO+Nガス雰囲気の封止装置5内へ移動し、封止部材4とガラス基板1とを貼り合わせた後、封止装置5の内部圧力を上昇させ、封止部材4内に生じる圧力との差を解消した後、紫外線を照射してエポキシ樹脂を硬化させ、封止部材4の周囲とガラス基板1とを接着させている。
【0008】
ここで、前述したディスペンサを用いた接着剤層2の形成では、接着剤層2の塗布高さを正確に規制することができないので、塗布高さのむらを考慮して接着剤層2を100〜200μmと高めに設定する必要がある。このような高さの接着剤層に対して封止部材4を押し付けて接着した場合には、接着剤層2の高さが1/10程度まで押しつぶされることになり、接着剤層2が封止領域の全周を囲っているため、この接着剤層2を押しつぶす段階で封止部材の内部圧力が上昇して、封止空間内が1.2気圧以上の正圧状態になってしまう。この圧力差は、接着剤層2を形成する樹脂の塗布高さによって生じているため、塗布高さがばらつくことで発生する圧力にもばらつきが生じ、封止装置5内の圧力調整を行っていても封止工程終了後に封止不良を起こす原因になり、適切な状態であると言い難い。
【0009】
そこで、下記特許文献1では、有機EL層3の全周を囲う接着剤層2を制度の高い薄層の接着剤層を形成することができるスクリーン印刷によって形成し、大気圧下で接着剤層2を介してガラス基板1と封止部材4とを接着させることを提案している。これによって、ガラス基板1上に封止部材4を接着する際に接着剤層の押し付け変位が少なくなり、大気圧下の作業によっても封止空間内に過度の正圧が生じることが無く、接着後の封止不良を回避することが可能になる。スクリーン印刷による接着剤層の印刷高さを20〜100μmとすることによって、封止空間内の圧力を1.2気圧未満に抑えることが可能になる。
【0010】
【特許文献1】特開2002−352952号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、封止作業を大気圧下で行い、封止部材の接着直後に封止空間内の圧力が大気圧に近い状態になっていたとしても、封止空間内の内圧は温度変化によって変動することになる。前述したように自発光パネルの使用又は保存温度の範囲は液晶表示パネルと比較して広いことが一つの利点になっているが、この利点を生かして、極低温又は高温の環境下に自発光パネルを置いた場合には、温度変化によって生じた封止空間内の圧力変動によって以下に示すような問題が生じる。
【0012】
すなわち、例えば自発光パネルが−40℃(一般に有機ELパネルの保存最低温度とされている)の環境温度に長時間曝されると、その封止空間内の温度も−40℃に低下する場合がある。この際に、常温(例えば25℃),大気圧(1.0気圧)下で封止された封止空間の内圧は、−40℃になると、ボイル・シャルルの法則に従って、P=1.0×(273−40)/(273+25)=0.782気圧となり、外気圧が1.0気圧の場合で封止空間は0.218気圧の負圧になってしまう。外気圧が1.050hPa(1.050/1.013=1.037気圧)と高い場合には、0.265気圧と更に大きな負圧になってしまう。
【0013】
有機ELパネルの封止空間が負圧になれば、封止部材等に外力が加わった場合に変形しやすく、封止部材の内面に貼られた乾燥部材等が有機EL層に当接してしまい、有機EL層の機能劣化が生じるといった問題が生じる。
【0014】
また、自発光パネルが高温の環境温度に長時間曝された場合には、その封止空間内の温度も高温になり、封止空間内の気体が膨張して内圧が正圧に変動する(例えば、25℃,2.0気圧で封止された封止空間の内圧は、100℃になると、P=2.0×(273+100)/(273+25)=2.503気圧となり、外気圧が1.0気圧の場合には1.566気圧の正圧になる)。そして、封止空間の正圧分が封止に用いられている接着剤の凝集破壊気圧を超えると封止が破れて自発光パネルの機能低下が生じてしまうという問題が生じる。
【0015】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、環境温度の変化に対しても機能劣化を生じない自発光パネル及びその製造方法を提供することで、耐環境性の高い自発光パネルを提供すること等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、本発明による自発光パネル及びその製造方法は、以下の各独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
【0017】
[請求項1]一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルであって、前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最低温度になった場合に、前記封止空間の内圧が前記自発光パネルの使用環境の外気圧よりも大きくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネル。
【0018】
[請求項2]一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルであって、前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最高温度になった場合に、前記封止空間の内圧と前記自発光パネルの使用環境の気圧差が、前記保存最高温度における前記封止部材を接着する接着剤の凝集破壊気圧よりも小さくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネル。
【0019】
[請求項3]一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルであって、温度t℃で前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間の内圧Pが、下記式(1)を満たすことを特徴とする自発光パネル。
【0020】
【数1】

但し、
max:使用環境で想定される最大外気圧、
min:使用環境で想定される最小外気圧、
Pd:保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧、
max:保存最高温度(℃)、
min:保存最低温度(℃)
【0021】
[請求項5]一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルの製造方法であって、前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最低温度になった場合に、前記封止空間の内圧が前記自発光パネルの使用環境の外気圧よりも大きくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネルの製造方法。
【0022】
[請求項6]一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルの製造方法であって、前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最高温度になった場合に、前記封止空間の内圧と前記自発光パネルの使用環境の気圧差が、前記保存最高温度における前記封止部材を接着する接着剤の凝集破壊気圧よりも小さくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネルの製造方法。
【0023】
[請求項7]一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルの製造方法であって、下記式(2)を満たすPfとtの環境下で封止を行う封止工程を有することを特徴とする自発光パネルの製造方法。
【0024】
【数2】

但し、
max:使用環境で想定される最大外気圧、
min:使用環境で想定される最小外気圧、
Pd:保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧、
Pf:封止時の気圧、
max:保存最高温度(℃)、
min:保存最低温度(℃)、
r:接着剤の押圧による増圧係数(r=P/Pf)
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図2は、本発明の実施形態に係る自発光パネルの構造を示す説明図である。この自発光パネル10は、一対の電極12,14間に少なくとも1層以上の発光機能層13を挟持してなる自発光素子15を基板11上に形成し、自発光素子15を外気から遮断する封止部材16を設けたものである。封止部材16は自発光素子15を覆う封止空間Mを形成するように、接着剤層18を介して基板11上に貼り付けられている。この自発光パネル10として、有機ELパネルを例にして、その構成例を説明すると、基板11をガラス基板で形成し、このガラス基板上にITOからなる第1の電極12が形成され、その上に有機発光材料層(有機層)からなる発光機能層13が形成され、更にその上に金属電極からなる第2の電極14が形成されて有機EL素子(自発光素子15)を形成している。
【0026】
そして、封止部材16としてはガラス封止基板が用いられ、封止空間Mを形成するために凹状に内堀された内面に乾燥部材17が取り付けられている。乾燥部材17は、封止部材16の接着後に、その内に存在する初期水分及び経時的に放出又は浸入してきた水分を吸収除去するために設けられるものである。特に有機EL素子を形成する有機層は熱に弱く、封止前に加熱処理して水分を除去することができないことから、このような初期水分を完全に排除することができない。したがって、現状の有機EL材料を用いたパネルでは、このような乾燥部材17を封止部材内に配設することが一般に行われている。この封止空間M内には、自発光素子15に悪影響を及ぼさない気体(例えば、窒素(N)と酸素(O)の混合気体等)が封止時に充填される。
【0027】
そして、本発明の実施形態に係る自発光パネル10では、一つには、封止部材16によって自発光素子15が封止される封止空間M内の温度が自発光素子15の保存最低温度(tmin)になった場合に、封止空間Mの内圧が自発光パネル10の使用環境の外圧よりも大きくなるように、封止時の封止空間Mの内圧を設定している。
【0028】
ここで保存最低温度(tmin)とは、自発光素子15が正常に機能することができる最低の保存温度のことであり、この保存最低温度より低温で保存しない限り、常温に戻せば自発光素子15は正常に機能することになる。有機EL素子を例にすると、一般に保存最低温度は−40℃程度であるとされており、このような極低温で保存したとしてもこの保存最低温度以上であれば有機EL素子に不具合が生じることはない。
【0029】
すなわち、一般に封止時の封止装置内の温度は常温(25℃程度)であるから、封止後に封止空間M内の温度が25℃程度から−40℃程度に低下して、この温度変化に伴う圧力変化によって封止空間M内の圧力が低下した場合であっても、この封止空間M内の内圧が自発光パネル10の使用環境の外気圧よりも大きくなるように、封止時の封止空間Mの内圧を設定しているので、保存最低温度以上で保存していれば封止空間Mが負圧になることはなく、封止空間Mが負圧になることで生じるパネルの凹み等の問題を回避することができる。
【0030】
また、本発明の実施形態に係る自発光パネル10の他の特徴としては、前述の封止空間M内の温度が自発光素子15の保存最高温度になった場合に、封止空間Mの内圧と自発光パネル10の使用環境の気圧差が、前記保存最高温度(tmax)における封止部材16を接着する接着剤の凝集破壊気圧よりも小さくなるように、封止時の封止空間Mの内圧を設定している。
【0031】
ここで保存最高温度(tmax)とは、自発光素子15が正常に機能することができる最高の保存温度のことであり、この保存最高温度より高温で保存しない限り、常温に戻せば自発光素子15は正常に機能することになる。有機EL素子を例にすると、一般に保存最高温度は100℃程度であるとされており、このような高温で保存したとしてもこの保存最高温度以下であれば有機EL素子に不具合が生じることはない。
【0032】
すなわち、一般に封止時の封止装置内の温度は常温(25℃程度)であるから、封止後に封止空間M内の温度が25℃程度から100℃に上昇して、この温度変化に伴う圧力変化によって封止空間内の圧力が上昇した場合であっても、この封止空間M内の内圧と自発光パネル10の使用環境の気圧差が、保存最高温度における封止部材16を接着する接着剤の凝集破壊気圧よりも小さくなるように、封止時の封止空間Mの内圧を設定しているので、保存最高温度以下で保存していれば接着剤層18が破断して封止が破れるといった不具合は生じない。
【0033】
この際の接着剤の凝集破壊気圧は、接着剤の仕様にも記載されているものであるが、実際は封止部材16の材質や形状などで大きく異なる値になる。そこで、この値は実験的に求め、統計的に充分なマージンを持って設定されるべきである。
【0034】
また、本発明の実施形態に係る自発光パネル10の他の特徴としては、温度t℃で封止部材16によって自発光素子15が封止される封止空間Mの内圧Pが、下記式(1)を満たすことを特徴としている。
【0035】
【数1】


但し、
max:使用環境で想定される最大外気圧、
min:使用環境で想定される最小外気圧、
Pd:保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧、
max:保存最高温度(℃)、
min:保存最低温度(℃)
【0036】
ここで、使用環境で想定される最大外気圧(Pmax)は、通常、1.050hPa(1.050/1.013=1.037気圧)程度に設定することができる。また、使用環境で想定される最小外気圧は、一般に0.950hPa(0.950/1.013=0.938気圧)程度に設定することができる。但し、高地などではこの最小外気圧はもっと小さな値になる場合がある。保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧は、前述したように、実験的に求め、統計的に充分なマージンを持って設定されるべき値である。
【0037】
この実施形態によると、温度t℃で封止部材16によって自発光素子15が封止される封止空間Mの内圧Pが式(1)を満たす場合には、封止後の封止空間Mの温度がtnim〜tmaxまで変化したとしても、封止空間Mの内圧は使用環境の外気圧に対して負圧になることはなく、また、封止空間Mの内圧と使用環境の外気圧との気圧差が接着剤の凝集破壊気圧を超えることがない。したがって、自発光パネル10の凹み等の問題や封止の破断等の問題が生じることがない。
【0038】
以下、本発明の実施形態に係る自発光パネル10の製造方法について説明する。
【0039】
この自発光パネル10の製造方法は、一対の電極12,15間に少なくとも1層以上の発光機能層13を挟持してなる自発光素子15を基板11上に形成し、自発光素子15を外気から遮断する封止部材16を設けるための各工程を有する。有機ELパネルを例にすると、図3に示すように、基板11上に有機EL素子(自発光素子15)を形成する素子形成工程S1Aと封止部材16の内面に乾燥部材17を取り付ける乾燥部材取付工程S1Bが平行して行われ、基板11と封止部材16とを接着剤層18を介して貼り合わせる封止工程S2がなされ、その後に必要に応じて検査工程S3等が行われる。
【0040】
ここで、本発明の実施形態に係る自発光パネル10の製造方法では、封止工程S2における封止空間Mの内圧設定に際して、前述したように、一つには、封止部材16によって自発光素子15が封止される封止空間M内の温度が自発光素子15の保存最低温度(tmin)になった場合に、封止空間Mの内圧が自発光パネル10の使用環境の外気圧よりも大きくなるように、内圧設定がなされる。また一つには、封止部材16によって自発光素子15が封止される封止空間M内の温度が自発光素子15の保存最高温度(tmax)になった場合に、封止空間Mの内圧と自発光パネル10の使用環境の気圧差が、保存最高温度(tmax)における封止部材16を接着する接着剤の凝集破壊気圧(Pd)よりも小さくなるように、内圧設定がなされる。
【0041】
このような内圧設定によると、前述したように、封止後に封止空間M内の温度が封止時の常温から保存最低温度に低下して、この温度変化に伴う圧力変化によって封止空間M内の圧力が低下した場合であっても、保存最低温度以上で保存している限り封止空間Mが負圧になることはなく、封止空間Mが負圧になることで生じるパネルの凹み等の問題を回避することができる。また、封止後に封止空間M内の温度が封止時の常温から保存最高温度に上昇して、この温度変化に伴う圧力変化によって封止空間内の圧力が上昇した場合であっても、保存最高温度以下で保存している限り接着剤層18が破断して封止が破れるといった不具合は生じない。
【0042】
そして、実際上の封止工程は、図1(b)に示したような封止装置5によって行われ、封止装置5内の温度と圧力によって封止工程の圧力Ptと温度tの環境設定がなされる。封止装置5内には自発光素子15に悪影響を及ぼさない所望の気体(好ましくは、少なくとも一種類以上の支燃性ガス、例えば、窒素(N)と支燃性ガスとして酸素(O)との混合気体)が充填される。ここで、本発明の一つの実施形態に係る自発光パネル10の製造方法では、下記式(2)を満たす圧力Pfと温度tの設定がなされた環境下で封止工程が行われる。
【0043】
【数2】

但し、
max:使用環境で想定される最大外気圧、
min:使用環境で想定される最小外気圧、
Pd:保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧、
Pf:封止時の気圧、
max:保存最高温度(℃)、
min:保存最低温度(℃)、
r:接着剤の押圧による増圧係数(r=P/Pf)
【0044】
ここで、rは、基板11と封止部材16の貼り合わせ時に、接着剤層18を押圧することによって生じる封止空間M内の内圧増加を示す係数(増圧係数)であって、r=P/Pf(P:封止直後の内圧、Pf:封止時の環境下圧力)で設定される値である。貼り合わせ前の接着剤層18の高さにばらつきがあって、押圧幅を大きくする必要がある場合にはrが大きくなる。一般的には、このrは1.1〜1.2の範囲で設定される。
【0045】
このような圧力Pfと温度tの環境下で封止工程を行うことで、封止後の封止空間Mの温度がtnim〜tmaxまで変化したとしても、封止空間Mの内圧は使用環境の外気圧に対して負圧になることはなく、また、封止空間Mの内圧と使用環境の外気圧との気圧差が接着剤の凝集破壊気圧を超えることがない。したがって、自発光パネル10の凹み等の問題や封止の破断等の問題が生じることがない。
【0046】
そして、更に具体的には、前記Pfの範囲のうち中央値を設定値とした封止工程を行うことを特徴とする。これによると、保存温度の変化が高温側・低温側に同等に振れる環境で保存をする場合に、広範囲の温度変化に対して対応することが可能になる。
【0047】
また、本発明の一つの実施形態では、前記の封止工程は、発光機能層13の全周を囲う接着剤層18をスクリーン印刷によって形成する工程と、Pf/r気圧下で接着剤層18を介して基板11と封止部材16の貼り合わせを行う工程を含む。これによると、スクリーン印刷によって接着剤層18の高さを均一にすることができるので、前述のrの値を小さくすることが可能になり、設定したPfに近い封止空間内の内圧を設定することができ、正確な内圧設定が可能になる。
【0048】
具体的な数値を当てはめて、前述した実施形態における封止工程での環境圧力Pfの設定例を示すと以下のとおりになる。
【0049】
[設定例1]Pmax:1.037気圧、Pmin:0.938気圧、Pd:1.0気圧、tmax:100℃、tmin:−40℃、t:25℃、r:1.10として、1.205<Pf<1.407(気圧)、及び1.326<P<1.548(気圧)となる。より具体的には、Pfの中央値をとって、封止装置5内の設定圧力を1.306気圧に設定する。
【0050】
[設定例2]高地で封止工程が実施される場合には、Pmin:0.8気圧となる場合がある。この場合には、他の条件を設定例1と同様にすると、封止層値5内の設定圧力は1.205<Pf<1.308(気圧)となり、その際の封止空間内圧は、1.326<P<1.438となる。
【0051】
以下に、前述した実施形態の構成部材に関する具体例を示して、本発明の実施例とする。
【0052】
[有機EL素子]基板11上に、第一電極12,有機層(発光機能層13),第二電極14を積層した有機EL素子(自発光素子15)の具体的構造及び材料例を示すと以下のとおりである。
【0053】
(a)基板;
基板11としては、透明性を有する平板状、フィルム状のものが好ましく、材質としてはガラス又はプラスチックを用いることができる。
【0054】
(b)電極;
基板11側から光を取り出す方式(ボトム・エミッション方式)を前提とする場合には、第一電極12を透明電極からなる陽極、第二電極14を金属電極からなる陰極にする。適用される陽極材料としては、ITO,ZnO等を用いて、蒸着,スパッタリング等の成膜方法で形成することができる。陰極としては、仕事関数の小さい金属、金属酸化物、金属フッ化物、合金等、具体的には、Al,In,Mg等の単層構造、LiO/Al等の積層構造を用いて、蒸着,スパッタリング等の成膜方法で形成することができる。
【0055】
(c)有機層;
有機層(発光機能層13)は、第一電極12を陽極、第二電極14を陰極とした場合には、正孔輸送層/発光層/電子輸送層の積層構成が一般的であるが、発光層,正孔輸送層,電子輸送層はそれぞれ1層だけでなく複数層積層して設けてもよく、正孔輸送層,電子輸送層についてはどちらかの層を省略しても、両方の層を省略して発光層のみにしても構わない。また、有機層としては、正孔注入層,電子注入層,正孔障壁層,電子障壁層等の有機機能層を用途に応じて挿入することができる。
【0056】
有機層の材料は、有機EL素子の用途に合わせて適宜選択可能である。以下に例を示すがこれらに限定されるものではない。
【0057】
正孔輸送層としては、正孔移動度が高い機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。具体例としては、銅フタロシアニン等のポルフィリン化合物、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]−ビフェニル(NPB)等の芳香族第三アミン、4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベンゼン等のスチルベン化合物や、トリアゾール誘導体、スチリルアミン化合物等の有機材料が用いられる。また、ポリカーボネート等の高分子中に低分子の正孔輸送用の有機材料を分散させた、高分子分散系の材料も使用できる。
【0058】
発光層は、公知の発光材料が使用可能であり、具体例としては、4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)−ビフェニル(DPVBi)等の芳香族ジメチリディン化合物、1,4−ビス(2−メチルスチリル)ベンゼン等のスチリルベンゼン化合物、3−(4−ビフェニル)−4−フェニル−5−t−ブチルフェニル−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、アントラキノン誘導体、フルオレノン誘導体等の蛍光性有機材料、(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム錯体(Alq)等の蛍光性有機金属化合物、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)系、ポリフルオレン系、ポリビニルカルバゾール(PVK)系等の高分子材料、白金錯体やイリジウム錯体等の三重項励起子からのりん光を発光に利用できる有機材料(特表2001−520450)を使用できる。上述したような発光材料のみから構成したものでもよいし、正孔輸送材料、電子輸送材料、添加剤(ドナー、アクセプター等)または発光性ドーパント等が含有されてもよい。また、これらが高分子材料又は無機材料中に分散されてもよい。
【0059】
電子輸送層は、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、その材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。具体例としては、ニトロ置換フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体等の有機材料、8−キノリノール誘導体の金属錯体、メタルフタロシアニン等が使用できる。
【0060】
上記の正孔輸送層、発光層、電子輸送層は、スピンコーティング法、ディッピング法等の塗布法、インクジェット法、スクリーン印刷法等の印刷法等のウェットプロセス、又は、蒸着法、レーザ転写法等のドライプロセスで形成することができる。
【0061】
[封止部材]封止部材16の材質は特に拘らないが、好ましくは、ガラス又金属で形成される。
【0062】
[接着剤]接着剤層18に用いられる接着剤は、熱硬化型、化学硬化型(ニ液混合)、光(紫外線)硬化型等の接着剤を使用し、材料としてアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン等を用いることができる。特に、紫外線硬化型のエポキシ樹脂の使用が好ましい。このような接着剤に、1〜100μmの粒径のスペーサ(ガラスやプラスチックのスペーサが好ましい)を適量混合(0.1〜0.5重量%ほど)し、ディスペンサ等を使用して塗布する。
【0063】
[乾燥部材]乾燥部材17を形成する乾燥剤としては、例えば、吸湿剤と樹脂成分を含有する成形体を剥離シート上に積層するか或いは単独でシート状にしたもの等を使用することができる。
【0064】
吸湿剤としては、少なくとも水分を吸着できる機能を有するものであれば良いが、特に化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば金属酸化物、金属の無機酸塩・有機酸塩等が挙げられるが、特にアルカリ土類金属酸化物及び硫酸塩の少なくとも1種を用いることが好ましい。アルカリ土類金属酸化物としては、例えば酸化カルシウム(CaO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)等が挙げられる。硫酸塩としては、例えば硫酸リチウム(LiSO)、硫酸ナトリウム(NaSO)、硫酸カルシウム(CaSO)、硫酸マグネシウム(MgSO)、硫酸コバルト(CoSO)、硫酸ガリウム(Ga(SO)、硫酸チタン(Ti(SO)、硫酸ニッケル(NiSO)等を挙げることができる。その他にも、吸湿剤として吸湿性を有する有機材料を使用することもできる。
【0065】
一方、樹脂成分としては、吸湿剤の水分除去作用を妨げないものであれば特に限定されるものではなく、好ましくは気体透過性の高い材料(すなわち、バリアー性の低い材料、特に気体透過性樹脂)を用いることができる。このような材料としては、例えばポリオレフィン系、ポリアクリル系、ポリアクリロニトリル系、ポリアミド系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリカーボネート系等の高分子材料が挙げられる。この中でも、本発明ではポリオレフィン系のものが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のほか、これらの共重合体等を挙げることができる。
吸湿剤及び樹脂成分の含有量はこれらの種類等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は吸湿剤及び樹脂成分の合計量を100重量%として吸湿剤30〜85重量%程度及び樹脂成分70〜15重量%程度にすれば良い。好ましくは吸湿剤40〜80重量%程度及び樹脂成分60〜20重量%、最も好ましくは吸湿剤50〜70重量%程度及び樹脂成分50〜30重量%とすれば良い。
【0066】
吸湿性成形体は、これらの各成分を均一に混合し、所望の形状に成形することによって得られる。この場合、吸湿剤、ガス吸着剤等は予め十分乾燥させてから配合することが好ましい。また、樹脂成分との混合に際しては、必要に応じて加熱して溶融状態としても良い。
【0067】
[有機ELパネルの各種方式について]有機EL素子(自発光素子15)は、単一の有機EL素子を形成するものであってもよいし、所望のパターン構造を有して複数の画素を構成するものであってもよい。
【0068】
そして、後者の場合には、その表示方式は、単色発光でも2色以上の複数色発光でもよく、特に複数色発光の有機ELパネルを実現するためには、RGBに対応した3種類の発光機能層を形成する方式を含む2色以上の発光機能層を形成する方式(塗り分け方式)、白色や青色等の単色の発光機能層にカラーフィルタや蛍光材料による色変換層を組み合わせた方式(CF方式、CCM方式)、単色の発光機能層の発光エリアに電磁波を照射する等して複数発光を実現する方式(フォトブリーチング方式)、異なる発光色の低分子有機材料を予め異なるフィルム上に成膜してレーザによる熱転写で一つの基板上に転写するレーザ転写方式等によって行うことができる。また、有機EL素子の駆動方式は、パッシブ駆動方式又はアクティブ駆動方式のいずれでもよい。
【0069】
前述した本発明の実施形態或いは実施例に係る自発光パネル及びその製造方法によると、環境温度の変化に対しても機能劣化を生じない自発光パネル及びその製造方法を提供することができ、また、耐環境性の高い自発光パネルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】従来技術の説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る自発光パネルを示す説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る自発光パネルの製造方法を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0071】
10 自発光パネル
11 基板
12,14 電極(第一電極,第二電極)
13 発光機能層
15 自発光素子(有機EL素子)
16 封止基板
17 乾燥部材
18 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルであって、
前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最低温度になった場合に、前記封止空間の内圧が前記自発光パネルの使用環境の外気圧よりも大きくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネル。
【請求項2】
一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルであって、
前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最高温度になった場合に、前記封止空間の内圧と前記自発光パネルの使用環境の気圧差が、前記保存最高温度における前記封止部材を接着する接着剤の凝集破壊気圧よりも小さくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネル。
【請求項3】
一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルであって、
温度t℃で前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間の内圧Pが、下記式(1)を満たすことを特徴とする自発光パネル。
【数1】

但し、
max:使用環境で想定される最大外気圧、
min:使用環境で想定される最小外気圧、
Pd:保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧、
max:保存最高温度(℃)、
min:保存最低温度(℃)
【請求項4】
前記封止空間内には、窒素(N)と酸素(O)とが充填されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された自発光パネル。
【請求項5】
一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルの製造方法であって、
前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最低温度になった場合に、前記封止空間の内圧が前記自発光パネルの使用環境の外気圧よりも大きくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネルの製造方法。
【請求項6】
一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルの製造方法であって、
前記封止部材によって前記自発光素子が封止される封止空間内の温度が前記自発光素子の保存最高温度になった場合に、前記封止空間の内圧と前記自発光パネルの使用環境の気圧差が、前記保存最高温度における前記封止部材を接着する接着剤の凝集破壊気圧よりも小さくなるように、封止時の前記封止空間の内圧を設定したことを特徴する自発光パネルの製造方法。
【請求項7】
一対の電極間に少なくとも1層以上の発光機能層を挟持してなる自発光素子を基板上に形成し、該自発光素子を外気から遮断する封止部材を設けた自発光パネルの製造方法であって、
下記式(2)を満たすPfとtの環境下で封止を行う封止工程を有することを特徴とする自発光パネルの製造方法。
【数2】

但し、
max:使用環境で想定される最大外気圧、
min:使用環境で想定される最小外気圧、
Pd:保存最高温度における接着剤の凝集破壊気圧、
Pf:封止時の気圧、
max:保存最高温度(℃)、
min:保存最低温度(℃)、
r:接着剤の押圧による増圧係数(r=P/Pf)
【請求項8】
前記Pfの範囲のうち中央値を設定値とした封止工程を行うことを特徴とする請求項7に記載された自発光パネルの製造方法。
【請求項9】
前記封止空間内には、少なくとも一種類以上の支燃性ガスが充填されていることを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載された自発光パネルの製造方法。
【請求項10】
前記封止工程は、前記発光機能層の全周を囲う接着剤層をスクリーン印刷によって形成する工程と、Pf/r気圧下で前記接着剤層を介して前記基板と前記封止部材の貼り合わせを行う工程を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載された自発光パネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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