説明

自立形のガラス繊維スプール及び自立形のガラス繊維スプールの製造方法

本発明は、情報を伝達するための、内部から繰り出し可能なガラス繊維(13)の巻線(20)の重合する層を備える自立形の回巻体(12)を有するガラス繊維スプールに関する。巻線(20)は、接着性の結合剤によって互いに固定されている。繰り出し時にループが回巻体(12)から引き出されることなく内部から確実に繰り出し可能な、十分に安定な自立形の回巻体(12)を実現するために、回巻体(12)は、クロスワインディングとして構成され、かつ結合剤としては、耐海水性であって化学的に不活性の、加熱によって液化可能な炭化水素ベースの含浸剤が使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1あるいは請求項7の上位概念部に記載のガラス繊維スプール及びガラス繊維スプールの製造方法に関する。
【0002】
この種の公知のガラス繊維スプール(US5493627)では、自立形の回巻体を安定化させるための結合剤として、メタンに溶かされたポリマー樹脂、例えばVinac B15等のポリビニルアセテート樹脂又はDupont社のElvamide 8063樹脂等のポリアミド樹脂が使用される。結合剤の濃度は、十分に安定の自立形の回巻体を保証する接着力が達成され、回巻体からガラス繊維がガラス繊維の屈曲の恐れなしに回巻体内部より繰り出し可能であるように選択されている。ガラス繊維は、機械的に巻成マンドレル上に多層に巻き取られ、メタノールに溶かされた結合剤が、巻成工程中、ブラシによってガラス繊維層4層毎に塗布される。回巻体が巻き終わると、巻成マンドレルは回巻体から除去され、結合剤は徐々に硬化する。10.5kmの長さの巻成されたガラス繊維を備えるガラス繊維スプールは、水中航行体と、水中航行体から放出可能な発射体との間での情報及びデータの伝達のために使用されており、例えば潜水艦から放出される水中発射体内に配置されている。放出中並びに発射体及び/又は水中航行体の航行中、ガラス繊維は回巻体から繰り出される。
【0003】
本発明の課題は、繰り出し時にループが回巻体から引き出されるか、又はガラス繊維が屈曲及び破壊されることなしに、僅かな引張り力で最内層から確実に繰り出し可能な、自立形の回巻体を備えるガラス繊維スプールを提供することである。水中での使用のため、繰り出される回巻体は、環境にとって有害な物質を放出しないことが望ましい。
【0004】
上記課題は、本発明により、請求項1に記載の特徴により解決される。
【0005】
本発明に係るガラス繊維スプールは、クロスワインディング技術で回巻体を構成することによって、ガラス繊維の容易かつ確実な繰り出しが保証されており、繰り出されるガラス繊維に隣接し、これに接着されている巻線が連行されることがなく、その結果、回巻体内部からのガラス繊維の繰り出しを阻害するルーズなループが形成されることがないという利点を有する。使用される含浸剤は、回巻体の結束を改善し、繰り出し時、隣接する巻線からのガラス繊維の均等でスムーズな解離を保証する。含浸剤は、その特性に基づいて、回巻体に、含浸剤の、加熱によって惹起される液化後に、含浸剤が含浸、例えば真空含浸法で含浸されることによって、回巻体への含浸剤の浸入のための簡単化された方法を可能にする。再固化後、含浸剤は、0℃〜40℃のガラス繊維の一般的な運転温度の領域で、均等な物理的特性、例えば靭性、接着力及び粘性を有する。含浸剤は、溶媒フリーであり、健康上の懸念はなく、海水に不溶性であり、かつ環境親和性である。
【0006】
本発明の有利な構成及び態様を含む本発明に係るガラス繊維スプールの有利な実施の形態は、請求項2−6から看取される。
【0007】
ガラス繊維スプールを製造する有利な方法は、請求項7に記載されている。クロスワインディングの巻き取りの際にガラス繊維自体をねじることによって、ガラス繊維が引き出されたときに撚りなしであることが保証されている。
【0008】
方法の有利な構成及び態様を含む本発明に係る方法の有利な実施の形態は、請求項8−15から看取される。
【0009】
本発明について、図面に示した実施の形態を参照しながら、以下に詳細に説明する。図面は、ガラス繊維スプールの概略縦断面図である。本発明に係る、情報を伝達するための、ガラス繊維が内部から繰り出し可能となったガラス繊維の多層の自立形の回巻体を有するガラス繊維スプールを製造する方法は、ガラス繊維を巻成マンドレル上に巻成して回巻体を形成し、前記巻成マンドレルを後に前記回巻体から除去する、ガラス繊維スプールを製造する方法において、前記回巻体をクロスワインディング形式で巻成し、内部に残された巻成マンドレルと共に前記回巻体に、化学的に不活性であって耐海水性の、加熱によって液化される炭化水素ベースの含浸剤を含浸し、該含浸剤の一部除去によって前記回巻体の所定の含浸度を調整し、前記巻成マンドレルを水平に配置した状態で回転させつつ、前記回巻体を前記含浸剤の相転移温度下に冷却し、前記巻成マンドレルを冷却された前記回巻体から取り除くことを特徴とする。好ましくは、巻成時の一巻き毎に前記ガラス繊維自体にねじりを加える。好ましくは、巻成時に前記ガラス繊維に引張り力を加え、該引張り力を、最も内側の巻線層の巻成から最も外側の巻線層の巻成まで、ますます減少させる。好ましくは、前記引張り力を一巻線層の巻成中一定に維持する。好ましくは、前記ガラス繊維スプールの最大の運転温度を上回る相転移温度を有する含浸剤を使用する。好ましくは、前記回巻体の含浸を真空で実施する。好ましくは、前記回巻体の含浸度を、含浸剤が除去される回巻体の重量測定に基づいて決定する。好ましくは、含浸剤として、ワセリン、有利にはZinke DAB10又はMerkur Typ641を使用する。好ましくは、含浸剤として、ワックス又はワックスゲル、有利にはSasol Typ Varagel 6527を使用する。好ましくは、含浸剤として、ワセリン及び高融点のワックス、有利にはClariant Ceridust 3719又はClariant Ceridust 9325Fの混合物を、有利には付加的な添加物を伴って、使用する。好ましくは、含浸剤として、ホワイトオイル及びワックスの混合物、有利にはCeridust 3719の25−30%のワックス成分を含むMerkur WOP150PBを使用する。好ましくは、含浸剤として、ひまし油、有利には85%〜95%の割合を有するひまし油と、カルシウムせっけんとの混合物を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ガラス繊維スプールの概略縦断面図である。
【0011】
図面に概略縦断面図で示したガラス繊維スプールは、例えば、潜水艦と、潜水艦から発射され目標に向かって航行する魚雷との間でのデータ交換のために役立つ。魚雷にも、潜水艦にも、このようなガラス繊維スプールが配置されている。両ガラス繊維スプールのガラス繊維端部は、光学的なカプラによって、互いに機械的かつ光学的に接続されている。このような光景は、例えばEP0337254A2に図示され、記載されている。
【0012】
断面図に示されているように、ガラス繊維スプールは、巻成されて、繰り出し可能な多層の回巻体12を形成するガラス繊維13を、情報の伝達のために有している。ガラス繊維13は、数キロメートルの長さを有する。ガラス繊維を巻き取る際に予め加撚(Vorverdrallung)しておくことによって、繰り出されたガラス繊維がねじれを有しないことが保証されている。回巻体12は、交差する巻線を備えるクロスワインディング(Kreuzwicklung)として構成されている。クロスワインディングは、例えば糸巻きにおいて公知である。このようなクロスワインディングを図示するために、概略縦断面図には、幾つかの連続する巻線20が図示されている。断面した位置によって本来は不可視の、巻線20の手前に位置する部分は、破線により図示されている。回巻体12の巻成体始端14は、最も内側の巻線層の始端に位置し、巻成体終端15は、最も外側の巻線層の終端に位置する。回巻体12は、巻成体支持体を有しておらず、個々の巻線20が接着作用を有する適当な結合剤によって互いに固定されていることによって、自己支持形あるいは自立形(selbsttragend)に構成されている。結合剤として、耐海水性、化学的に不活性、かつ加熱によって液化可能な、炭化水素をベースとする含浸剤が使用される。含浸剤の例は、ワセリン、例えばZinke DAB10又はMerkur Typ 641、ワックス又はワックスゲル、例えばSasol Typ Varagel 6527、ワセリン及び高融点のワックス、例えばClariant社のCeridust 3719又はCeridust 9325F(これらに別の添加剤が添加されていてもよい。)の混合物、ホワイトオイル及びワックスの混合物、例えば25%〜30%のCeridust 3719のワックス成分を含む、Merkur社のWOP150PB、又は85%〜95%のひまし油成分を含むひまし油及びカルシウムせっけん(カルシウム‐12‐ヒドロキシステアレート)の混合物である。相又は凝集状態が変化する、つまり物質が固相から液相に、かつ液相から固相に移行する、これらすべての物質の相転移温度は、回巻体12が曝されている通常の運転温度を上回る。この運転温度は一般に0℃〜40℃である。
【0013】
自己支持形の形状安定の回巻体12は、金属製のハウジング17によって包囲されている中空筒状の成形部材16内に装入されている。耐海水性のアルミニウムから製造されるハウジング17は、端面に開口18,19を有する。開口18は、巻成体終端15から続くガラス繊維13を通すために役立ち、同軸的に配置された開口19は、巻成体始端14に通じるガラス繊維13を通すために役立ち、繰り出されたガラス繊維13のための走出開口を形成する。この構造においては、ガラス繊維スプールは、例えば、魚雷の尾部に設けられたチャンバ内に装入される。チャンバは、水供給部を介して注水されている。回巻体13の中央から走出するガラス繊維13は、案内管内を、魚雷本体からの出口まで案内されている。案内管は、魚雷の駆動装置及び駆動軸の中央を通って延びており、端部において魚雷のプロペラを超えて突出している。巻成体終端15から離れる、開口19を通して導き出されたガラス繊維13は、魚雷本体に組み込まれた送受信ユニットに、データ交換のために接続されている。
【0014】
上記ガラス繊維スプールは、以下のように製造される。
【0015】
長距離のガラス繊維13は機械的に、巻成マンドレル上に、クロスワインディング形態で、多数の重合する巻線層を備えて巻き取られる。巻成時、ガラス繊維13はテンションをかけられ、ガラス繊維13に作用する引張り力は、内側の巻線層の巻成から最も外側の巻線層の巻成までますます小さくなる。引張り力は、巻線層毎に連続的又は不連続的に低下され得る。1つの巻線層内では引張り力は一定に維持される。このことは、ガラス繊維13の軽微な屈曲点をなす巻線20の交差点において、ガラス繊維13内に、光の損失がまったく生じないか、又は生じても無視可能な程度であり、これにより情報又はデータの変換における減衰が小さく維持され得るという利点を有する。巻成時に回巻体12の端部側の巻線20が場合によっては滑落することを防止するために、回巻体12は、巻線層毎に、内側から外側にかけて減少する巻き数を備えて構成されているので、完成した回巻体12は、回巻体軸線に沿った断面図で見て台形形状を有する。このことは、図面からも明らかである。もちろん、回巻体12は、完全な中空円筒として巻成されてもよい。
【0016】
ガラス繊維13の巻き取りの完了後、回巻体12は、回巻体12内に残された巻成マンドレルと共に巻取機械から取り出され、化学的に不活性で耐海水性の、炭化水素ベースの含浸剤、例えば前述した種々異なる例で例示したような含浸剤で含浸される。予め、含浸剤は、含浸剤の相又は凝集状態を変える温度よりも高い温度に加熱することによって液化されている。この温度は本実施の形態では70℃より高い。巻成マンドレルによって支持された回巻体12の含浸は、例えば真空含浸法によって、又は浸漬浴内でなされる。次に、回巻体12の所定の含浸度が生じるまで、含浸された回巻体12の水切りを行う。この含浸度は、回巻体12の、滴下によって減少する重量を測定し、所定の重量に達したときにこの滴下工程を中止することによって決定される。次に、回巻体12を、相転移温度を下回る温度、例えば室温に冷却する。これにより、含浸剤は、固化を開始し、固体状の、ゲル状の状態に戻る。回巻体12の冷却時、巻成マンドレルは水平に方向付けられ、かつ回転駆動される。その結果、最初は未だ液状の含浸剤は、均等に回巻体12内で分配される。回巻体12の冷却後、巻成マンドレルを除去する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を伝達するための、ガラス繊維(13)が内部から繰り出し可能となったガラス繊維(13)の多層の自立形の回巻体(12)を有するガラス繊維スプールを製造する方法であって、ガラス繊維(13)を巻成マンドレル上に巻成して回巻体(12)を形成し、前記巻成マンドレルを後に前記回巻体(12)から除去する、ガラス繊維スプールを製造する方法において、前記回巻体(12)をクロスワインディング形式で巻成し、内部に残された巻成マンドレルと共に前記回巻体(12)に、化学的に不活性であって耐海水性の、加熱によって液化される炭化水素ベースの含浸剤を含浸し、該含浸剤の一部除去によって前記回巻体(12)の所定の含浸度を調整し、前記巻成マンドレルを水平に配置した状態で回転させつつ、前記回巻体(12)を前記含浸剤の相転移温度下に冷却し、前記巻成マンドレルを冷却された前記回巻体(12)から取り除くことを特徴とする、ガラス繊維スプールを製造する方法。
【請求項2】
巻成時の一巻き毎に前記ガラス繊維(13)自体にねじりを加える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
巻成時に前記ガラス繊維(13)に引張り力を加え、該引張り力を、最も内側の巻線層の巻成から最も外側の巻線層の巻成まで、ますます減少させる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記引張り力を一巻線層の巻成中一定に維持する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ガラス繊維スプールの最大の運転温度を上回る相転移温度を有する含浸剤を使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記回巻体(12)の含浸を真空で実施する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記回巻体(12)の含浸度を、含浸剤が除去される回巻体(12)の重量測定に基づいて決定する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
含浸剤として、ワセリン、有利にはZinke DAB10又はMerkur Typ641を使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
含浸剤として、ワックス又はワックスゲル、有利にはSasol Typ Varagel 6527を使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
含浸剤として、ワセリン及び高融点のワックス、有利にはClariant Ceridust 3719又はClariant Ceridust 9325Fの混合物を、有利には付加的な添加物を伴って、使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
含浸剤として、ホワイトオイル及びワックスの混合物、有利にはCeridust 3719の25−30%のワックス成分を含むMerkur WOP150PBを使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
含浸剤として、ひまし油、有利には85%〜95%の割合を有するひまし油と、カルシウムせっけんとの混合物を使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−539529(P2010−539529A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524383(P2010−524383)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007267
【国際公開番号】WO2009/036897
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(303062772)アトラス エレクトロニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (13)
【氏名又は名称原語表記】ATLAS ELEKTRONIK GmbH
【住所又は居所原語表記】Sebaldsbruecker Heerstrasse 235, D−28309 Bremen, Germany
【Fターム(参考)】