説明

自走可能な農作業機

【課題】後進と低速前進とが正確に切り替えられる自走可能な農作業機を提供する。
【解決手段】後進R、低速前進F1、高速前進F2の3つの速度をこの順に切り替え可能な主変速レバーLと、主変速レバーLと同期して移動する移動部材DPと、移動部材DPを移動可能に備える開口部DOとを有し、開口部DOに移動部材DPの直線的な移動を規制する段差(規制手段)G1〜G3を備えるトラクタ(自走可能な農作業機)Tにおいて、開口部DOを後進R、低速前進F1、高速前進F2のそれぞれのゾーンに分け、後進Rゾーンにて段差G1を移動部材DPの移動方向Mの上側(一方の側)UPに設けるとともに、高速前進F2ゾーンにて段差G3を移動部材DPの移動方向Mの下側(他方の側)DWに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後進、低速前進、高速前進の3つの速度をこの順に切り替え可能な主変速レバーと、主変速レバーと同期して移動する移動部材と、移動部材を移動可能に備える開口部とを有し、開口部に移動部材の直線的な移動を規制する規制手段を備える自走可能な農作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、変速レバーによって自走式車両の変速を操作する際には、運転者の意図しない位置に変速レバーが動いてしまうという誤操作が広く課題となってきた。たとえば、自動車に備える自動変速機では、駐車P、後進R、中立N、前進Dの4段階をこの順に備え、運転者が変速レバーを動かすことによって自動変速機を所望の状態に設定する。自動変速機は、変速操作機構によって変速位置が操作される。変速操作機構は、略鉛直方向に備えるフロアシフトの変速レバーと、その変速レバーのノブに設けられた規制解除ボタン、変速レバーの下部に備えるディテントピン(移動部材)、ディテントピンを移動可能にそなえるディテント板などを備える。なお、ディテントピンは上方に向けてバネなどの弾性部材で付勢されている。また、ディテント板は変速レバーの動きを規制するためのものである。
【0003】
このディテント板は、その面部が変速レバーに沿うようにして近接して設けられる。すなわち、ディテント板は略鉛直方向に備えられる。そして、ディテント板の中央部分には開口部を備える。その開口部は、駐車P、後進R、中立N、前進Dの4つにゾーン分けられている。そして、開口部の上側には、下に凸形状の段差(規制手段)が形成されている。この段差は、上方に付勢されたディテントピンが、ゾーンを越えて直線的に移動できないように規制するものである。詳しくは、駐車Pゾーンと後進Rゾーンとの間には高い段差が設けられる。また、後進Rゾーンは低い段差上に形成されている。したがって、これらの段差はそれぞれ、駐車Pゾーンから後進Rゾーンへ、中立Nゾーンから後進Rゾーンへディテントピンが直線的に移動することを規制している。なお、中立Nゾーンと前進Dゾーンとの間はディテントピンが自由に直線的に移動することができるようになっている。
【0004】
このように構成された変速操作機構を用いて自動車の変速操作を行う方法を次に説明する。自動車を後進させるには、変速レバーを動かして後進Rに設定する。ここで、たとえば、変速レバーが駐車Pにある場合には、規制解除ボタンを強く押下する。規制解除ボタンを強く押下することで、ディテントピンが弾性部材の付勢に抗して下方に移動し、駐車Pと後進Rとの間の高い段差を乗り越えることが可能となる。そして、この状態を保持したままで変速レバーを動かして、隣接する後進Rへ移動させる。そして、後進R位置に到達したら規制解除ボタンを離すとともに変速レバーから手を離す。
【0005】
次に、後進Rから前進Dに切り替えるには、規制解除ボタンは押下せずに、変速レバーを中立Nまで移動させる。このとき、後進Rゾーンは低い段差上に形成され、隣接する中立Nゾーンは段差を備えていないので、後進Rから中立Nへは、ディテントピンの移動は規制されない。また、前進Dゾーンも段差を備えていないので、変速レバーを中立Nと前進Dとの間で移動させる際にも、ディテントピンの移動は規制されない。
【0006】
また、中立Nから後進Rに切り替えるには、規制解除ボタンを軽く押下する。すると、ディテントピンが後進Rゾーンに形成された低い段差を乗り越え可能となる。この状態を保持したまま、変速レバーを後進R位置まで移動させる。そして、後進R位置に到達したら規制解除ボタンを離すとともに変速レバーから手を離す。
【0007】
近年、このような自動変速機を備える自動車には、手動変速運転も可能とする技術が普及してきた。このような自動車では、ディテント板に手動Mゾーンを設ける必要がある。手動Mゾーンは、通常、前進Dゾーンに隣接して(中立Nゾーンと反対側に)設けられる。このとき、ディテント板に備える開口部の手動Mゾーンには段差を設ける。詳しくは、開口部の上側に低い段差を設ける。これによって、前進Dゾーンから手動Mゾーンへディテントピンの直線的移動を規制し、規制解除ボタンを軽く押下しないと切り替えができないように構成されている。しかし、このように構成された自動変速機では、たとえば、駐車Pから前進Dに切り替える際、規制解除ボタンを強く押下し、変速レバーを移動させると、前進Dゾーンを越えて誤って手動Mゾーンまで動いてしまう可能性があった。
【0008】
そこで、ディテント板の開口部の手動Mゾーンには下部にも低い段差を設け、手動Mゾーンの下端を前進Dゾーンの下端よりも高くして、ディテントピンが前進Dゾーンを越えて意図しない手動Mゾーンへ移動するという上述の誤動作を防止する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−80908号公報
【0010】
ところで、トラクタなどの自走可能な農作業機の分野においては、変速操作に関して独自の課題がある。トラクタに備えるコラムシフトの主変速レバーでは、4段階の変速位置、すなわち、後進R、中立N、低速前進F1、高速前進F2がこの順に配置され、主変速レバーをステアリング周りに移動させることでそれぞれの変速位置に切り替わるように構成されている。主変速レバーの下端には、図7に示すように、移動部材303を備え、その移動部材303の一端は、ディテント板301の略中央に設けられた開口部302に挿入されている。開口部302は、主変速レバーの動きを規制して上記4段階の変速位置に正確にガイドして移動させるためのものであり、後進Rゾーンおよび、中立Nゾーンと低速前進F1ゾーンとの間には段差304が設けられている。なお、移動部材303は、図中で上方に不図示の圧縮バネによって付勢されており、標準状態で移動部材303の上端が開口302の上端302Uに当接している。
【0011】
このように構成されたディテント板301を備えるトラクタで、たとえば土砂の掘削作業を行うときは、低速前進F1と後進Rを交互に繰り返すことになる。後進Rを低速前進F1に移動させるには、まず、主変速レバーを下げる。すると、圧縮バネに抗して移動部材303が下方に押され、その下端が開口部302の下端302Bに当接する。次に、この状態を保持したまま(主変速レバーを下げたまま)で主変速レバーをステアリングまわりに移動させて低速前進F1位置に移動する。このとき、移動部材303の下端は、開口部302の下端302Bに当接した状態のままで、低速前進F1ゾーンまで移動する。そして、所望の位置(低速前進F1ゾーン)で主変速レバーから手を離すと圧縮バネによって主変速レバーが上昇するとともに、移動部材303の上端が開口302の上端302Uに当接する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、このような形状の開口302を備えるディテント板301では、運転者が後進Rから低速前進F1へ向けて主変速レバーを動かすとき、誤って低速前進F1の位置を越えて高速前進F2まで動いてしまい、土砂の掘削作業を効率的に行えないという問題があった。
そこで、この発明の目的は、後進と低速前進とが正確に切り替えられる自走可能な農作業機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため請求項1に記載の発明は、後進、低速前進、高速前進の3つの速度をこの順に切り替え可能な主変速レバーと、該主変速レバーと同期して移動する移動部材と、該移動部材を移動可能に備える開口部とを有し、
該開口部に前記移動部材の直線的な移動を規制する規制手段を備える自走可能な農作業機において、
前記開口部を後進、低速前進、高速前進のそれぞれのゾーンに分け、後進ゾーンにて前記規制手段を前記移動部材の移動方向の一方の側に設けるとともに、高速前進ゾーンにて前記規制手段を前記移動部材の移動方向の他方の側に設けることを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の自走可能な農作業機において、前記主変速レバーがステアリング近傍に備えられることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の自走可能な農作業機において、前記開口部は板状のディテント板に備えられ、該ディテント板がステアリングコラムの内部に備えるステアリングコラムブラケットに取り付けられた自走可能な農作業機であって、
前記ディテント板を取り付ける際の位置決め孔を前記ディテント板に備え、前記位置決め孔にボルトを貫通させて前記ディテント板を前記ステアリングコラムブラケットに取り付けることを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の自走可能な農作業機において、前記位置決め孔が水平方向に長径を有する長孔であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、後進、低速前進、高速前進の3つの速度をこの順に切り替え可能な主変速レバーと、主変速レバーと同期して移動する移動部材と、移動部材を移動可能に備える開口部とを有し、開口部に移動部材の直線的な移動を規制する規制手段を備える自走可能な農作業機において、開口部を後進、低速前進、高速前進のそれぞれのゾーンに分け、後進ゾーンにて規制手段を移動部材の移動方向の一方の側に設けるとともに、高速前進ゾーンにて規制手段を移動部材の移動方向の他方の側に設ける。したがって、後進から低速前進へと変速する場合、後進ゾーンに設けられた規制手段を回避した状態(すなわち、開口部において移動部材の移動方向の他方の側に移動部材が当接した状態)で移動部材を直線的に移動させたとき、低速前進ゾーンを通り越そうとすると、移動部材の移動方向の他方の側に設けられた規制手段によって、隣接する高速前進ゾーンへの直線的な移動を規制する。これによって、主変速レバーの誤操作を防ぐことができる。したがって、後進と低速前進とが正確に切り替えられる自走可能な農作業機を提供することができる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、主変速レバーがステアリング近傍に備えられるので、運転者はステアリング操作位置から姿勢を大きく変えることなく主変速レバーの操作をすることができ、操作性が向上する。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、開口部は板状のディテント板に備えられ、ディテント板がステアリングコラムの内部に備えるステアリングコラムブラケットに取り付けられた自走可能な農作業機であって、ディテント板を取り付ける際の位置決め孔をディテント板に備え、位置決め孔にボルトを貫通させてディテント板をステアリングコラムブラケットに取り付けるので、ディテント板に製造誤差がある場合にも、ディテント板をステアリングコラムブラケットに対して所望の位置に取り付けることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、位置決め孔が水平方向に長径を有する長孔であるので、ディテント板の水平方向の位置決めを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例に係るトラクタ(自走可能な農作業機)の斜視図である。
【図2】主変速レバーの動作を説明する要部概略平面図である。
【図3】本発明の要部拡大斜視図である。
【図4】ディテント板と移動部材との関係を説明するための要部拡大平面図である。
【図5】変速操作に係る動作を説明するための要部斜視図である。
【図6】変速操作時の開口部と移動部材との位置関係を説明するための要部平面図であり、(1)は中立Nから後進Rへ変速する際、(2)は後進Rから低速前進F1へ変速する際、(3)は低速前進F1から高速前進F2へ変速する際の図である。
【図7】従来のトラクタに備えるディテント板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、この発明を実施するための最良の形態について詳述する。図1にこの発明の自走可能な農作業機としてのトラクタTの斜視図を示す。トラクタTには、ボンネットBの後端に隣接してステアリングコラムCCを設ける。ステアリングコラムCCの上面には、速度や燃料などの状況を表示するメーターパネルMPを設ける。そのメーターパネルMPの後方に、ステアリングSTを延出して設ける。また、ステアリングコラムCCの上部側面右側からはエンジン回転数制御レバー、左側からは主変速レバーLなどを延出して設ける。そして、ステアリングコラムCCの後方には一定の距離をおいて運転席DSを設ける。運転席DSの右側には作業機操作レバーSLを、また、左側にはPTO変速レバーP、副変速レバーSBなどを備える。
【0023】
主変速レバーLは、図2に示すように、車体後方より前方に向かって、後進R、低速前進F1、高速前進F2の3つの速度をこの順に備え、後進Rと低速前進F1との間には中立Nを備える。
【0024】
図3に示すように、主変速レバーLの下端はステアリングコラムCC内において、円柱状の支軸SUに固設されている。支軸SUは、その両端にピンを突出して設ける。そして、ピンは、一対の支持部材S1,S1に設けられた貫通孔に回動自在に保持されている。その一方のピンには、不図示のねじりバネの円状の中央部が掛け回されるとともに、そのピンにねじりバネの一端を取り付ける。また、ねじりバネの他端は支持部材S1に取り付けられる。このようにして、支軸SUはピンを回動中心として付勢された構成となっている。なお、付勢方向は後述するように、移動部材DPがディテント板DBの開口部DOの上側UPに接する方向である。
【0025】
支持部材S1,S1の下端は、円筒状の円筒部材LBの側面に溶接などによって固設されている。この円筒部材LBは、後述するような構成によってアームAR1に対して回動自在に設けられている。支軸SUには主変速レバーLに隣接して移動部材DPを固設してなる。移動部材DPはその一端がJ字状の断面を有し、その他端が略矩形状の断面を有する。移動部材DPの他端はディテント板DBの開口部DOに移動可能に備える。この移動部材DPは、主変速レバーLの動きと連動して開口部DO内を移動する。
【0026】
なお、移動部材DPの一端がJ字状の断面となっているのは、不図示の2つのセンサに当接しやすくするためである。このセンサ(検知スイッチ)は、主変速レバーが後進R位置と中立N位置にあることを検知するためのものであり、ボタンスイッチと板状のレバーとの組み合わせによって構成されている。移動部材DPの一端をJ字状に形成することによって、移動部材DPが2つのセンサのレバーに確実に当接し、後進Rと中立Nの位置検出を行うことができる。
【0027】
また、ステアリングコラムCC内にはステアリングコラムブラケットCBが配設されている。ステアリングコラムブラケットCBにはディテント板DBが2つのボルトBT(一つは不図示)によって固設されている。ステアリングコラムブラケットCBの天板の略中心には開口COが形成され、その開口COにステアリングシャフトSAが挿入されてなる。なお、ステアリングコラムブラケットCBは、車体フレームなどに適宜固定される。
【0028】
ディテント板DBは、図4に示すように、開口部DOを備える。開口部DOは、後進R、中立N、低速前進F1、高速前進F2のそれぞれのゾーンに分けられ、移動部材DPの直線的な移動を規制する段差(規制手段)G1〜G3を備える。詳しくは、後進Rゾーンには、移動部材DPの移動方向Mの上側(一方の側)UPに下に凸の形状の段差G1を設ける。また、中立Nゾーンと低速前進F1ゾーンとの間に、移動部材DPの移動方向Mの上側(一方の側)UPに下に凸形状の段差G2を設ける。さらに、高速前進F2ゾーンには、移動部材DPの移動方向Mの下側(他方の側)DWに上に凸形状の段差G3を設ける。
【0029】
ところで、開口部DOの図中右側部分には、ディテント板DBをステアリングコラムブラケットCBに位置決めするための調整領域SPを備える。また、ディテント板DBの図中右上と左下にはそれぞれ長孔(位置決め孔)LH1,LH2を設ける。この長孔LH1,LH2は水平方向に長径を有する。また、ステアリングコラムブラケットCBの側部には、ボルトBT1,BT2のネジ部を貫通させるための貫通孔SC1,SC2が形成される。また、側部には移動部材DPを挿入させるための開口SOも形成される。
【0030】
このように形成されたディテント板DBをステアリングコラムブラケットCBの側部に取り付けるときは、まず、ディテント板DBの長孔LH1,LH2とステアリングコラムブラケットCBの前記2つの貫通孔SC1,SC2とがそれぞれ合うようにして、ディテント板DBをステアリングコラムブラケットCBの側部に当てる。そして、ボルトBT1を長孔LH1と貫通孔SC1に、ボルトBT2を長孔LH2と貫通孔SC2にそれぞれ挿入し、ステアリングコラムブラケットCBの裏面側からナットをネジつけて軽く固定する。このとき、ディテント板DBの開口部DOの右側部分には調整領域SPとしてのスペースが設けてあるので、長孔LH1,LH2の調整代を用いて高速前進F2ゾーンの幅を調整することができる。
【0031】
具体的には、ステアリングコラムブラケットCBに設けられた開口SOの右端REを利用して高速前進F2ゾーンの後端を位置決めする。すなわち、ディテント板DBを図中で左側に平行移動させると高速前進F2ゾーンの幅が広くなる。反対に、ディテント板DBを図中で右側に平行移動させると、高速前進F2ゾーンの幅が狭くなる。このように、高速前進F2ゾーンの幅の調整範囲は長孔LH1,LH2の長径の長さに依存するので、高速前進F2ゾーンの幅の調整範囲を大きく取りたければ、ディテント板DB製造時に、長孔LH1,LH2の長径を長くとる必要がある。
【0032】
ところで、図5に示すように、主変速レバーLはその動作が、円筒状のアームAR2、レバーLVなどを介して不図示の主変速軸へと伝動するように構成されている。詳しくは、円筒部材LBの内側に接続パイプJPを挿入し、接続パイプJPの一端を円筒部材LBに固定する。一方、この接続パイプJPは、アームAR1内に回動自在に備えられる(このアームAR1は車体内に適宜固定されており、接続パイプJPが回動する際には不動である)。また、接続パイプJPの外径はアームAR2の内径よりも小さく形成されている。そして、接続パイプJPの中央部両側にはピンPNを突出して設ける。一方、接続パイプJPの下部はアームAR2に内設される。接続パイプJPの下部には貫通孔を設ける。また、アームAR2上端部には別の貫通孔を設ける。そして、接続パイプJPとアームAR2の貫通孔とを合わせ、そこにボルトBLをアームAR2の外側より挿入して接続パイプJPをアームAR2に固定する。したがって、主変速レバーLの回動動作は、円筒部材LBと接続パイプJPを介してアームAR2に伝達される。なお、主変速レバーLの操作をレバーLVに伝達するアームを、接続パイプJPを介して2分割(すなわち、アームAR1とアームAR2)するように構成することで、組み立てを容易にすることができる。
【0033】
アームAR2の下端には接続部材Zを固定的に取り付ける。接続部材Zは上下に、それぞれ水平方向に形成された上板部および下板部と、両者を垂直方向につなぐ縦板部とで構成される。なお、上板部と縦板部、縦板部と下板部とはそれぞれ直角をもって連続的に構成されている。また、上板部には不図示のボルト取り付け孔を設け、ボルトを上板部裏側より挿入してアームAR2の下端の内側に形成された雌ネジにネジつけてアームAR2を接続部材Zに固設する。
【0034】
一方、接続部材Zの下板部にはレバーLVの一端を回動自在に取り付ける。詳しくは、レバーLVの一端(図中で左端)には、内側を半球状にくり抜いた連結部材RTがボルトで取り付けられている。また、接続部材Zの下板部上面には、先端が球状のボルトを取り付け、下板部裏側よりナットで締め付ける。そして、連結部材RTを球状のボルトの先端部にはめ合わせる。これによって、連結部材RTは球状ボルトに対して回動自在となる。また、レバーLVの他端は不図示の取り付け部材などを介して主変速軸に適宜接続されている。
【0035】
次に、このように構成されたトラクタTを用いて変速操作を行う方法を図5に加えて図6(1)〜(3)を用いて説明する。まず、トラクタTを後進させるには、主変速レバーLを動かして後進Rに設定する。ここで、たとえば、主変速レバーLが中立N状態にある場合には、まず、主変速レバーLをステアリングコラムラケットCB側に押し上げる(u1方向)。すると、支軸SUがねじりバネの付勢に抗してディテント板DB側に回動し、支軸SUに固設されている移動部材DPの一端が下方に移動する。すなわち、図6(1)に示すように、ディテント板DBでは、開口部DOの上側UPに当接していた移動部材DPが下方に移動して、開口部DOの下側DWに当接する。主変速レバーLを押し上げた状態を保持しながら、ステアリングSTに対して反時計回り(b方向)に移動させる。(なお、主変速レバーLのハンドル部と移動部材DPの先端とは、回動中心(円筒部材LB)に対して反対側に位置することから、主変速レバーLのハンドル部の回動方向と移動部材DPの移動方向は、円筒部材LBに対して対称になる)。これによって、移動部材DPは、後進Rゾーンに設けられた段差G1に当接することなく、中立Nゾーンから後進Rゾーンへ移動することができる。これと連動して円筒部材LB、接続パイプJP、アームAR2が一体的にd方向に回動する。アームAR2の回動は、接続部材Zに取り付けた連結部材RTを介してレバーLVへと直線的に伝達され、レバーLVはf方向へと移動する。これによって、主変速軸が後進R位置に移動される。主変速レバーLが後進Rゾーンに到達したら主変速レバーLから手を離す。すると、ねじりバネが支軸SUを図5中手前方向に回動させて、移動部材DPの先端が開口部DOの後進Rゾーンの上側UPに当接する。これと連動して、主変速レバーLが図5中d1方向に押し倒される。
【0036】
次に、後進Rから低速前進F1に切り替えるには、まず、主変速レバーLをステアリングコラムラケットCB側に押し上げる(u1方向)。このときの支軸SUと移動部材DPの動作は、中立N状態から後進R状態へ切り替えるときと同様であるので説明を省略する。ディテント板DBでは、図6(2)に示すように、開口部DOの上側UPに当接していた移動部材DPが下方に移動して、開口部DOの下側DWに当接する。主変速レバーLを押し上げた状態を保持しながら、ステアリングSTに対して時計回り(a方向)に移動させる。これによって、移動部材DPは、中立Nと低速前進F1との間に形成されている段差G2に当接することなく、後進Rゾーンから低速前進F1ゾーンへ移動することができる。これと連動して円筒部材LB、接続パイプJP、アームAR2が一体的にc方向に回動する。アームAR2の回動は、接続部材Zに取り付けた連結部材RTを介してレバーLVへと直線的に伝達され、レバーLVはe方向へと移動する。これによって、主変速軸が低速前進F1位置に移動される。主変速レバーLが低速前進F1ゾーンに到達したら主変速レバーLから手を離す。すると、ねじりバネが支軸SUを図5中手前方向に回動させて、移動部材DPの先端が開口部DOの低速前進F1ゾーンの上側UPに当接する。これと連動して、主変速レバーLが図5中d1方向に押し倒される。
【0037】
なお、運転者が誤って主変速レバーLを必要以上に時計回り(a方向)に動かしたとしても、移動部材DPが高速前進F2ゾーンに設けられた段差G3に当接し、後進Rゾーンから高速前進F2ゾーンには直接達することができない。したがって、たとえば、低速前進F1と後進Rとを連続して交互に繰り返すような作業をするときに、誤操作によって高速前進F2に入ってしまうことを懸念する必要がない。
【0038】
低速前進F1から高速前進F2へ切り替えるには、主変速レバーLを、(ステアリングコラムラケットCB側に押し上げずに)そのままステアリングSTに対して時計回り(a方向)に移動させる。ディテント板DBでは、図6(3)に示すように、移動部材DPが開口部UPに当接したまま、低速前進F1ゾーンから高速前進F2ゾーンへ移動する。なお、円筒部材LB、接続パイプJP、アームAR2、レバーLVの動作は前述の後進Rから低速前進F1に切り替える動作と同様であるので説明を省略する。そして、レバーLVがe方向に移動して、主変速軸が高速前進F2位置に移動される。なお、運転者が誤って高速前進F2ゾーンを越えて主変速レバーLを操作した場合には、ステアリングコラムブラケットCBに設けられた開口SOの右端REに当接し、主変速レバーLがそれ以上移動できないように規制している。すなわち、移動部材DPが開口部DOのF2ゾーンを越えてさらに右側に移動してしまうと、主変速レバーLの回動中心である円筒部材LBからの距離が設計値以上に大きくなってしまう。このため、移動部材DPがディテント板DBの開口部DOから抜け出てしまうという課題がある。このため、開口SOの右端REが適切な位置になるようにディテント板DBをステアリングコラムブラケットCBに取り付ける必要がある。この際、長孔LH1,LH2を用いてディテント板DBの位置を調整する。
【0039】
なお、この発明は上述の実施形態に限定されるものではない。たとえば、ディテント板DBに位置決めのための長孔LH1,LH2を形成したが、長孔に代えて正円の孔としてもよい。この際、正円の孔は、位置決めのための調整代を含めて、ボルトの外径よりも大きく形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
なお、この発明の農作業機は、エンジンを有する自走可能なあらゆる農業機械、たとえば、田植機、トラクタ、コンバインなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
AR1,AR2 アーム
B ボンネット
BL,BT,BT1,BT2 ボルト
CB ステアリングコラムブラケット
CC ステアリングコラム
CO 開口
DB ディテント板
DO 開口部
DP 移動部材
DS 運転席
DW 下側(他方の側)
F1 低速前進
F2 高速前進
G1,G2,G3 段差(規制手段)
JP 接続パイプ
L 主変速レバー
LB 円筒部材
LH1,LH2 長孔(位置決め孔)
LV レバー
M 移動方向
MP メーターパネル
N 中立
P PTO変速レバー
PN ピン
R 後進
RE 右端
RT 連結部材
SA ステアリングシャフト
SB 副変速レバー
SC1,SC2 貫通孔
SL 作業機操作レバー
SO 開口
SP 調整領域
ST ステアリグ
SU 支軸
T トラクタ(自走可能な農作業機)
UP 上側(一方の側)
Z 接続部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後進、低速前進、高速前進の3つの速度をこの順に切り替え可能な主変速レバーと、該主変速レバーと同期して移動する移動部材と、該移動部材を移動可能に備える開口部とを有し、
該開口部に前記移動部材の直線的な移動を規制する規制手段を備える自走可能な農作業機において、
前記開口部を後進、低速前進、高速前進のそれぞれのゾーンに分け、後進ゾーンにて前記規制手段を前記移動部材の移動方向の一方の側に設けるとともに、高速前進ゾーンにて前記規制手段を前記移動部材の移動方向の他方の側に設けることを特徴とする、自走可能な農作業機。
【請求項2】
前記主変速レバーがステアリング近傍に備えられることを特徴とする、請求項1に記載の自走可能な農作業機。
【請求項3】
前記開口部は板状のディテント板に備えられ、該ディテント板がステアリングコラムの内部に備えるステアリングコラムブラケットに取り付けられた自走可能な農作業機であって、
前記ディテント板を取り付ける際の位置決め孔を前記ディテント板に備え、前記位置決め孔にボルトを貫通させて前記ディテント板を前記ステアリングコラムブラケットに取り付けることを特徴とする、請求項2に記載の自走可能な農作業機。
【請求項4】
前記位置決め孔が水平方向に長径を有する長孔であることを特徴とする、請求項3に記載の自走可能な農作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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