説明

自走式高所作業車及び自走式高所作業車におけるバッテリの搭載位置決定方法

【課題】転倒等が生じ難く安全性が高いものであり,かつ,走行時における駆動力を走行面に対して確実に伝えることができる自走式高所作業車を提供する。
【解決手段】車輪33を備えた車台30,前記車台30上で昇降するデッキ10,前記車台30上で前記デッキ10を昇降させるシザースリンク機構20を備えた自走式高所作業車1において,シザースリンク機構20の最下段のX字状リンク21a,22aを構成する一方のアーム211,221の下端を車台30の一端30a側の所定位置に枢着する。そして,この車台30の前記一端30aとは反対側の端部(車台30の他端30b)側において,バッテリ34を前記車台30内に収容し,デッキ10の最下降時における自走式高所作業車1の重心GLを,対角線DLの交点xと角部c,dにより形成される三角形x,c,d内に入れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,高所作業に用いられる自走式高所作業車,及び自走式高所作業車におけるバッテリの搭載位置決定方法に関し,より詳しくは,車台上にシザースリンク機構からなる昇降手段を介して昇降するデッキを備えた高所作業車において,該自走式高所作業車に搭載された電源用バッテリの配置に特徴を有する自走式高所作業車,及び前記バッテリの搭載位置の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,例えば建築現場における天井施工,天井(天井裏を含む)及び壁面高所における照明取付工事あるいは塗装工事等のような高所作業は足場を組立てて行っていたが,最近では作業の省力化と安全性を図るために自走式高所作業車が多用されている。
【0003】
この自走式高所作業車は,一例として図5,図6に示すように車輪やクローラ等の走行手段133(図示の例では車輪)を備えた車台130上に,作業者等を乗せて昇降するデッキ110を備えると共に,このデッキ110を車台130上で昇降させるための昇降機構120を備えたもので,モータによって駆動される車輪等の走行手段を備えた自走式高所作業車は機動性が高く,操作し易いことから,屋内の電気工事や内装工事などで広く使用されている。
【0004】
このような自走式高所作業車100にあっては,電源としてのバッテリ134を車台130に搭載し,このバッテリ134からの電力供給により自走のための車輪の駆動,デッキ110の昇降のいずれ共に行うものであるために,比較的大型のバッテリ134が搭載されており,そのため,このようなバッテリ134の搭載スペースを確保すると共に,メンテナンス性の向上を可能としたバッテリの配置についての各種の提案もなされている。
【0005】
このような自走式高所作業車の一例として,車台上に,伸縮マストを介してデッキを昇降可能に取り付けた自走式高所作業車において,車台に設けられたバッテリのメンテナンス性を向上するために,車台の幅方向両側面を貫通するように開口するバッテリ収容部内に,車台の幅方向にバッテリを収容するように構成すると共に,車台の両側面のいずれ側からもバッテリを挿入および引出をすることができるように構成した自走式高所作業車が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また,バッテリに,自走式高所作業車を安定させるための錘としての機能を持たせることも提案されており,このような高所作業車の一例として,シザースリンク機構によってデッキを昇降可能とした自走式高所作業車において,車台の幅を,デッキの幅に対して大きく形成し,この車台の走行方向前後方向の略中間位置において車台の左右両側に一対のバッテリをそれぞれ収容することにより,作業台の上昇時,自走式高所作業車の幅方向における安定性を向上させることも提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
この発明の先行技術文献情報としては下記のものがある。
【特許文献1】特開2004−299851号公報
【特許文献2】特開2006−206260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上で紹介した特許文献1,2に記載の自走式高所作業車では,いずれもバッテリを車台の走行方向前後方向における略中心位置に搭載するものとなっている(特許文献1の図1,特許文献2の図1参照)。
【0009】
ここで,上記従来技術のうち,例えば特許文献1に記載された自走式高所作業車のように,伸縮マストによってデッキを昇降させる構成では,デッキの下降時および上昇時のいずれの場合においても,自走式高所作業車の平面視における重心は変化しない。
【0010】
しかし,例えば特許文献2として紹介したように,デッキをシザースリンク機構によって昇降する構成の自走式高所作業車にあっては,図5,6に示した自走式高所作業車100と同様,シザースリンク機構120の最下段を構成するX字状リンク121aの一方のアーム121’の下端を,車台130の一端130a側の所定の位置に枢着されていると共に,他方のアーム121’’の下端は,車台130の長さ方向に移動可能に車台上に取り付けているため,図5(B)に示すデッキ110の最下降位置から,図6(B)に示すデッキ110の最上昇位置にシザースリンク機構120を伸長させると,シザースリンク機構120は,車台130の一端130a側に偏って配置されることとなるために,自走式高所作業車100全体の重心も車台30の一端30a側に移動する。
【0011】
しかも,図6(B)に示すように,デッキ110の一端110a側にこの自走式高所作業車100の走行,操舵,デッキ110の昇降等を操作するための操作盤113が設けられている場合には,作業者はデッキ110上の一端110a寄りに搭乗してこの操作盤113を操作することとなるために,デッキ110の一端110a側にはさらにこの作業者の体重が荷重としてかかり,図6(B)中に矢印で示す方向に転倒し易いものとなる。
【0012】
更に,例えば図7に示すように,作業を行うべき壁面等の地表部に基礎が張り出す等して自走式高所作業車100を壁面に対して近付けることができない場合,デッキ110が壁面から離間した状態となるために作業を行い難く,例えばデッキ110を壁面側にスライドさせて迫り出させる等して壁面に対して近付けることができれば便利であるが,このような構成を採用し,作業者がデッキ110のスライドによって迫り出した部分に搭乗すれば,作業者の体重移動によって自走式高所作業車100は,更に図6(B)中に矢印で示す方向に転倒し易くなる。
【0013】
そのため,昇降機構としてザースリンク機構を備えた自走式高所作業車,特に作業者の体重移動による影響を受け易い比較的小型の自走式高所作業車において,デッキにこのようなスライド機構を採用することが困難なものとなっていた。
【0014】
このようなシザースリンク機構の伸長によって生じる重心の移動,デッキのスライドによる迫り出し等によって生じる重心の移動や作業者の搭乗位置の変化に伴う荷重の移動を補償するためには,例えば車台130の他端130b側に予めカウンタウエイト150等を取り付けておくことも考えられるが,このようなカウンタウエイト150の取り付けにより自走式高所作業車100の重量は大幅に増大することとなり,特に小型軽量であるために使い勝手の良い,比較的小型の自走式高所作業車に対してこのようなカウンタウエイトを取り付ければ,その長所が失われることとなる。
【0015】
なお,図5及び図6に示す自走式高所作業車100の構成では,走行手段として車台130の走行方向前後方向における両端130a,130b側にそれぞれ一対ずつ,計4輪の車輪133を設けた構成であり,この4輪のうちのいずれか1輪(場合によりこれと対を成す車輪との計2輪)を駆動輪としてモータによって駆動するものであるが,この種の自走式高所作業車100の車輪133には,スプリング等のサスペンション機構は一般に採用されておらず,車輪133は路面や床面等の走行面の起伏や凹凸に対する追従性が悪いものとなっている。
【0016】
そのため,走行面に起伏や凹凸等が存在する場合において,4輪のうちの3輪が接地した状態にあると,残りの1輪は路面より浮いてしまうことになり,この浮いた状態の車輪が駆動輪である場合,自走式高所作業車100は,走行面に対して駆動力を伝達することができなくなる。
【0017】
その一方で,前述のようなサスペンション機構を採用することは装置構成を複雑とし,部品点数の増加による組立工程数の増加等を招くことから,より簡単な構造で駆動輪の駆動力を確実に走行面に対して伝達し得る構成を得ることが望まれる。
【0018】
そこで本発明は,上記従来技術の欠点を解消するためになされたものであり,カウンタウエイト等を設けることなく,またはカウンタウエイトの重量を減らした場合であってもバランスが良く転倒等が生じ難いという安全性に優れたものであると共に,デッキの一端側を前方へ迫り出し可能とし,更に,走行時における駆動輪の駆動力を確実に走行面に対して伝えることができる自走式高所作業車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するための本発明の自走式高所作業車1及び自走式高所作業車におけるバッテリの搭載位置決定方法は,車輪やクローラ等の走行手段33を備えた車台30と,前記車台30上で昇降するデッキ10と,前記車台30と前記デッキ10間に配置されて前記デッキ10を昇降させる複数段のX字状リンク21a〜21d,22a〜22dによって構成されたシザースリンク機構20を備え,前記シザースリンク機構20の最下段におけるX字状リンク21a,22aを構成する一方のアーム211,221の下端を前記車台30の走行方向前後方向におけるいずれか一端30a寄りに枢着すると共に,他方のアーム212,222の下端を,車台30上に摺動可能に取り付け,更に,前記シザースリンク機構20の最上段におけるX字状リンク21d,22dを構成する一方のアーム211,221の上端を前記デッキ10の底部に摺動可能に取り付けると共に,他方のアーム212,222の上端を,前記車台30の一端30aと同一方向の一端10a寄りで前記デッキ10の底部に枢着した自走式高所作業車1において,
前記デッキ10が最下降した状態における前記自走式高所作業車1の平面視における重心GL,GLSが,平面矩形状の前記車台30の各角部a〜dの対角線DLの交点xと,前記車台30の他端30bにおける角部c,dの三点により形成される三角形(三角形x,c,d)内に入るようバッテリ34を前記車台30の他端30b側における前記車台30内に配置することを特徴とする(請求項1,請求項9)。
【0020】
上記構成の自走式高所作業車1において,前記走行手段33を,前記車台30の走行方向前後方向における両端30a,30b側のそれぞれに一対ずつ設けられた車輪33a,33b;33c,33dとし,前記車台30の他端30b側に設けた一対の車輪33c,33dの少なくとも一方(図示の例では車輪33d)を駆動輪とすることが好ましい(請求項2)。
【0021】
さらに,上記構成の自走式高所作業車1及び当該作業車におけるバッテリの搭載位置決定方法において,前記走行手段33を,前記車台30の走行方向前後方向における両端側のそれぞれに一対ずつ設けられた車輪と成すと共に,前記車台30の他端30b側に設けた一対の車輪33c,33dの少なくとも一方を駆動輪とし,前記デッキ10が最下降した状態における前記自走式高所作業車1の平面視における重心が,走行面と各車輪133との接地点a,b,c,dをそれぞれ結ぶ対角線DLの交点xと,前記車台の他端30bにおける走行面と各車輪との接地点c,dの三点により形成される三角形内に入るようバッテリ34を前記車台の他端側30bにおける前記車台30内に配置することができる(請求項3,10)。
【0022】
更に,前記デッキ10の最上昇時における前記高所作業車1の平面視における重心GH,GHS〔図2(A),図4(A)参照〕を,前記対角線DLの交点xに近接させる位置に前記バッテリ34を設けるものとすることが好ましい(請求項4,請求項11)。
【0023】
上記のバッテリ34の配置としては,前記車台30の他端30b側に設けられた前記車輪33c,33d間において,前記バッテリ34を前記車台30内に配置するものとすることができる(請求項5)。
【0024】
この場合,前記車台30の一端30a側でバッテリ34に隣接してモータ35を前記車台30内に配置すると共,該モータ35と前記駆動輪(図示の例では車輪33d)とをチェーンとスプロケット,プーリとプーリベルト等の動力伝達手段を介して連結するものとしても良い(請求項6)。
【0025】
更に,上記構成の自走式高所作業車1において,前記車台30の一端30a側に配置した一対の車輪33a,33bを操舵可能に構成すると共に,前記車台30の他端30b側に配置した一対の車輪33c,33dを非操舵に構成するものとしても良い(請求項7)。
【0026】
なお,前記デッキ10の前記一端10aを延長する方向に前記デッキ10の床面〔図示の例では第2床面12b:図3(B),図4(B)参照〕がスライドして迫り出し可能に構成するものとしても良い(請求項8)。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したようにバッテリ34を配置した本発明の自走式高所作業車1によれば,デッキ10の昇降機構としてシザースリンク機構20を採用した場合であって,且つ,デッキ10を上昇させた状態においても,自走式高所作業車1の重心が車台30の一端30a側に大きく偏ることを防止でき,その結果,カウンタウエイト等を使用することなしに,又はカウンタウエイトの重量を減らした場合であっても自走式高所作業車1の安定性が向上して安全であると共に,車重が減少された自走式高所作業車1を提供することができた。
【0028】
しかも,車台30に設けられた走行手段が,車台30の走行方向前後方向における両端30a,30b側にそれぞれ一対ずつ設けられた車輪33a〜33dである場合,車台30の他端30b側に設けられた車輪33c,33dの少なくとも一方(図示の実施形態では33d)を駆動輪とすることで,デッキ10の下降時における重心GL,GLSが,駆動輪を設けた車台30の他端30b側に偏ったものとなるために,駆動輪33dに対する荷重が増大して,走行面の起伏や凹凸等によっても駆動輪33dが走行面より浮き上がり難く,駆動輪33dがスリップ等することを好適に防止して走行面に対する駆動輪の駆動力を確実に伝達させることができた。
【0029】
更にデッキ10の最上昇時における前記高所作業車1の平面視における重心GH,GHSが,前記対角線DLの交点xに近接するようにバッテリ34を配置することで,デッキ10を上昇した状態で行う高所作業時における自走式高所作業車1の安定性をより一層高めることができた。
【0030】
車台30に前述したように4つの車輪33(33a〜33d)を設けた構成において,バッテリ34を車台20の他端30b側に設けた車輪33c,33d間に配置した構成にあっては,車台30の他端30b側の側面に開口やこの開口を開閉する開閉扉を設けることで,バッテリ34の引き出し等の作業が容易であり,メンテナンス性にも優れたものとすることができた。
【0031】
特に,駆動輪33dを駆動するモータ35を,前記バッテリ34に対し車台30の一端30a側に隣接して設けると共に,このモータ35と駆動輪33dとを,例えばチェーンとスプロケット,プーリとプーリベルト等の動力伝達手段によって連結することにより,モータ35等がバッテリ34の引き出しに際して障害となることを防止することができた。
【0032】
また,車台30の一端30a側に設けた一対の車輪33a,33bを操舵可能に構成すると共に,前記車台30の他端30b側に設けた一対の車輪33c,33d,すなわち駆動輪33dを含む車輪を非操舵としたことで,駆動輪を操舵する場合に必要となる複雑な構造を採用したり,車輪を操舵させるための空間を必要とせず,自走式高所作業車1を操舵可能とすることができ,車輪33c,33dの間の空間を広くすることができることから,比較的大きな容量のバッテリを搭載することができた。
【0033】
更に,前述したバッテリ34の配置により,前記車台30の一端30a側と同一側である前記デッキ10の一端10a側において床面(第2床面12b)を前方にスライドさせて迫り出させることが可能となり,図7を参照して説明したように基礎等が張り出して車台30を近付けることができない壁面等に対する高所作業であっても,デッキ10の迫り出し部分に作業者が搭乗して容易に作業を行うことができると共に,このような構成を採用した場合であっても自走式高所作業車の安定性を高めることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下,本発明の実施形態につき添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
図1〜4において,本発明の高所作業車1は,走行手段33(33a〜33d)を有する車台30上にシザースリンク機構からなる昇降機構20を介して昇降するデッキ10を備えている。
【0036】
このデッキ10には防護柵11が設けられる等して,このデッキ10上に搭乗した作業者や荷物等の落下が防止されている。このデッキ10は,図3(B)及び図4(B)に示すようにデッキ10の床面12がスライドしてデッキ10の一端10a側より迫り出す,張り出しデッキ乃至は延長デッキとして構成することもでき,この場合には,デッキ10の床面は,第1床面12a及び第2床面12bの二重に構成する。もっとも,デッキの床12は,図1,図2に示すようにスライドを行わない,固定式のものであっても良い。
【0037】
なお,図1(B),(C)中の符号13は,デッキ10の一端側10aにおいて防護柵11に取り付けられた操作盤13であり,デッキ10上に搭乗した作業者が,この操作盤13に設けられたスイッチ類を操作することにより,自走式高所作業車1の走行,操舵,デッキ10の昇降の操作を行うことができるように構成されている。
【0038】
昇降機構である前述のシザースリンク機構20は,同一長さのアーム211,212及び221,222をX字状に交叉させ,両アームの交点を枢着して構成された各X字状リンク(21a〜21d,22a〜22d)を一段とし,この各X字状リンク(21a〜21d,22a〜22d)を複数段枢着連結して構成されたX字状リンク機構21,22を,車台30の幅方向における両側(以下,「左右」という。)にそれぞれ設けることにより形成されたものであり〔図2(B),(C)参照〕,図示の実施形態にあっては,左右それぞれのX字状リンク機構21,22を構成する個々のX字状リンクをそれぞれ1段として,計4段(21a〜21d,22a〜22d)を枢着連結して,前述したシザースリンク機構20を構成している。
【0039】
図2(C)において,このシザースリンク機構20の紙面中央側に配置されたアームをインナーアーム211,221,外側に配置されたアームをアウターアーム212,222として説明すると,各X字状リンク21a〜21d,22a〜22d間の連結は,下段のインナーアーム211,221の上端と,上段のアウターアーム212,222の下端間を,又,下段のアウターアーム212,222の上端と上段のインナーアーム211,221の下端とを交互に連結するように左右のX字状リンク機構21,22がそれぞれ形成されている〔図2(B)参照〕。
【0040】
そして,最下段のX字状リンク21a,22aの一方のアーム(図示の例ではインナーアーム211,221)の下端部を車台30の一端30a側に枢着し,最下段のX字状リンク21aの他方のアーム(図示の例ではアウターアーム212,222)下端部を,前記インナーアーム211,221の枢着位置に対して車台30の他端30b寄りの位置において車台30の長手方向に摺動自在に支持し,さらに,最上段のX字状リンク21d,22dのインナーアーム211,221の上端部をデッキ10の底面にデッキ10の長手方向へ摺動可能に支持すると共に,アウターアーム212,222の上端部を,デッキ10の一端10a側に枢着している。
【0041】
また,最上段及び最下段の左右のX字状リンク21d,21d及び22a,22aの交点は,両X字状リンクを構成する各アウターアーム212,222及びインナーアーム211,221と共に枢着軸23b,23aで連結されている。
【0042】
なお,中間段の左右のX字状リンク21b,21c及び22b,22cの交点は,左右それぞれ別々にインナーアームとアウターアームとが枢着軸で連結されている。
【0043】
更に,昇降機構20は上下複数段に枢着して連結された左右一対の各X字状リンク21a〜21d,22a〜22dを垂直方向に移動させる油圧シリンダ24を備える。
【0044】
油圧シリンダ24は,最下段のX字状リンク21a,22aと,中間段のX字状リンク21c,22cにそれぞれ設けられたブラケット25,26間に架設され,前記油圧シリンダ24によってシザースリンク機構20が作動し,デッキ10が水平状態を保って昇降する。
【0045】
前述のシザースリンク機構20及びデッキ10を搭載する前述の車台30は,図1(B),(C)に示すように,図示の実施形態にあっては,モータ35やバッテリ34等の必要な機器を収容するためのケーシングとして機能する箱型の本体31と,前記本体31上に搭載されたフレーム32とを備え,このフレーム32を介して前述のシザースリンク機構20の下端が,車台30上に取り付けられている。
【0046】
このフレーム32の下部に設けられた前述の本体31は,図1(A)に示す平面視において,紙面左右方向に長さ方向を有する長方形に形成に形成されており,この本体31の長さ方向における両端側において,幅方向に突出した車軸に対しそれぞれ走行手段である車輪33(33a〜33d)が取り付けられている。
【0047】
この車台30の本体31内には,前述したようにバッテリ34や,該バッテリ34からの電力供給によって回転するモータ35,モータ35の回転出力を駆動輪に伝達する動力伝達手段が収容されていると共に,車台30の他端30b側に設けられた一対の車輪33c,33d中の少なくとも一方(図示の例では33d),好ましくは双方に対して,前述のモータ35の回転駆動力が伝達されるよう構成されており,このようにしてモータ35からの動力伝達を受けた車輪33dが駆動輪となる。
【0048】
車台30の一端30a側に設けられた一対の車輪33a,33bは,本実施形態にあってはこれをフリーホイール(非駆動)とすると共に,この一対の車輪33a,33bを操舵輪と成し,前述した操作盤13による操作によってその舵角を制御可能とすることで,自走式高所作業車1を所望の方向に向けて走行させることができるよう構成している。
【0049】
このように構成された車台30に対するバッテリ34の配置は,図1(A),(B)に示すように車台30の他端30b側において車台30の前記本体31内に収容されており,図示の実施形態にあっては,図1(A)に示す平面視において,走行面と車輪との接地点a,b,c,dを結ぶ対角線DLの交点xと,車台30の他端30bに配置した一対の車輪の接地点c,dを直線で結んだ三角形を想定し,前述したデッキ10が最下降した時における重心GL〔デッキ10がスライドする第2床面12bを備える図3に示す構成にあっては,第2床面12bを迫り出させた状態における重心GLSを含む;図3(A)参照〕がこの想定された三角形x,c,d内に位置するように構成されている。
【0050】
このようなバッテリ34の配置として,図示の実施形態にあっては,バッテリ34を,車台30の他端30b側に設けられた一対の車輪33c,33d間において前述の車台30の本体31内に収容するものとし,好ましくはバッテリの重心を前記三角形x,c,d内に位置するよう構成している。
【0051】
自走式高所作業車1の走行は,転倒の危険を回避するために一般にデッキ10が最下降した状態において可能となるように構成されるが,このようにデッキ10の最下降時における重心GL,GLSが前述した三角形x,c,d内に配置されることにより,自走式高所作業車1の走行時において車台30の他端30b側,即ち駆動輪33d側に対する車重の配分が大きなものとなる。
【0052】
その結果,駆動輪33dが路面や床面等の走行面に対して押しつけられることとなり,スリップ等を生じることなくモータ35からの駆動力が駆動輪33dを介して確実に走行面に対して伝達されると共に,例えば走行面に凹凸が存在することにより4輪中の3輪しか接地していない状態が生じた場合であっても,車台30の他端30b側に設けられた,駆動輪33dを含む2輪33c,33dは走行面に対して接触した状態が維持されるために,駆動輪33dが走行面より離間して空転等することが防止される。
【0053】
更に,このようにデッキ10の最下降時における重心GL,GLSが前述した三角形x,c,d内となるようにしたバッテリ34の配置により,デッキ10を最上昇時における重心GH〔図2(A)参照〕,更にこのデッキ10の床面をスライドさせて迫り出させた際の重心GHS〔図4(A)参照〕を,前述した対角線DLの交点xに近付けることができ,高所作業中における自走式高所作業車1の安定性が増し,転倒等の危険性を大幅に減少させることが可能である。
【0054】
一例として,図示の実施形態に示した自走式高所作業車1は,デッキ10の床面高を地上高で最大4m迄上昇可能としたもので,バッテリ34を含めた全重量が550kg程度と,比較的小型の部類に属する自走式高所作業車1である。
【0055】
この自走式高所作業車1の重量内訳は,デッキ10の重量が約50kg,シザースリンク機構20の重量が約200kg,車台30の重量が約300kg程度であり,このうち車台30に5時間率容量で100(Ah)程度のバッテリ34を2機搭載した場合,車台30の重量300kgのうちバッテリ34の重量だけで約70〜80kg程度,すなわち車台30の重量の約1/4程度を占めるものとなる。
【0056】
従って,車台30内におけるバッテリ34を最適な位置に配置することにより,カウンタウエイト等を設けることなく自走式高所作業車1の重心GL,GLS,GH,GHSの位置を高所作業時における安定性に優れ,かつ,デッキ10を下降した状態で行われる走行時において駆動輪の駆動力を確実に走行面に伝達し得る位置に調整することが可能であり,図示のバッテリ34の配置によれば,図2(A)に示すようにデッキ10が最上昇した状態(但し,床面が迫り出していない状態)においても平面視における重心GHは前述した三角形x,c,d内にあると共に,対角線DLの交点xに近接した位置にあり,更に,デッキ10を最上昇させた状態で更にデッキ10の床面を迫り出させた図4(B)に示す状態においても,図4(A)に示すように平面視における重心GHSは,対角線DLの交点xに近接した位置にあり,いずれの状態においても自走式高所作業車1は安定した状態にある。
【0057】
なお,上記のバッテリ34の配置において,駆動輪33dを駆動するモータ35は,車台30の幅方向に出力軸の軸芯方向を向けた状態で,前記バッテリ34に対して車台30の一端30a側に近接配置されており,このモータ35の出力軸と,車台30の他端30b側に設けた車輪33c,33dの一方33dとを,スプロケットとチェーン,プーリとプーリベルト,その他の動力伝達機構(本実施形態にあっては,詳細な図示は省略するがスプロケットとチェーン)により連結して,駆動輪33dを駆動可能に構成している。
【0058】
このモータ35の配置により,前記バッテリ34を収容した車台30の他端30b側における本体31の側面に開口を設け,また,必要に応じてこの開口を開閉する開閉扉を設けることにより,この開閉扉の開放によって現れた開口を介して本体31内に収容されたバッテリ34を引き出し可能に構成する場合等において,前述したモータ35や動力伝達手段がバッテリ34の引き出し等に際して干渉することがなく,バッテリ34の保守点検作業等を容易なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の自走式高所作業車(デッキ下降時)の図であり,(A)は平面図(但し,車台部分のみ),(B)は正面図,(C)は右側面図。
【図2】本発明の自走式高所作業車(デッキ上昇時)の図であり,(A)は平面図(但し,車台部分のみ),(B)は正面図,(C)は右側面図。
【図3】本発明の別の自走式高所作業車(デッキ下降時)の図であり,(A)は平面図(但し,車台部分のみ),(B)は正面図,(C)は右側面図。
【図4】本発明の別の自走式高所作業車(デッキ上昇時)の図であり,(A)は平面図(但し,車台部分のみ),(B)は正面図,(C)は右側面図。
【図5】バッテリを車台中央に配置した本願の構成を備えない自走式高所作業車(デッキ下降時)の図であり,(A)は平面図(但し,車台部分のみ),(B)は正面図,(C)は右側面図。
【図6】バッテリを車台中央に配置した本願の構成を備えない自走式高所作業車(デッキ上昇時)の図であり,(A)は平面図(但し,車台部分のみ),(B)は正面図,(C)は右側面図。
【図7】建築物等の基礎等が張り出している作業現場における自走式高所作業車の配置状況を示す概略図。
【符号の説明】
【0060】
1 自走式高所作業車
10 デッキ
10a 一端(デッキ10の)
10b 他端(デッキ10の)
11 防護柵
12 床面
12a 第1床面
12b 第2床面
13 操作盤
20 昇降機構(シザースリンク機構)
21,22 X字状リンク機構(左右)
21a〜21d,22a〜22d X字状リンク
211,221 アームの一方(インナーアーム)
212,222 アームの他方(アウターアーム)
23a,23b 枢着軸
24 油圧シリンダ
25,26 ブラケット(油圧シリンダの取付用)
30 車台
30a 一端(車台30の)
30b 他端(車台30の)
31 本体
32 フレーム
33(33a〜33d) 走行手段(車輪)
34 バッテリ
35 モータ
DL 対角線
x 対角線DLの交点
a〜d 平面視における車台の角部
L 自走式高所作業車の重心(デッキ下降,床面の迫り出し無し)
LS 自走式高所作業車の重心(デッキ下降,床面迫り出し)
H 自走式高所作業車の重心(デッキ上昇,床面の迫り出し無し)
HS 自走式高所作業車の重心(デッキ上昇,床面迫り出し)
100 自走式高所作業車
110 デッキ
110a 一端(デッキ110の)
110b 他端(デッキ110の)
113 操作盤
120 昇降機構(シザースリンク機構)
121a X字状リンク(最下段)
121’ 一方のアーム(インナーアーム)
121’’ 他方のアーム(アウターアーム)
130 車台
130a 一端(車台130の)
130b 他端(車台130の)
133 走行手段(車輪)
134 バッテリ
150 カウンタウエイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行手段を備えた車台と,前記車台上で昇降するデッキと,前記車台と前記デッキ間に配置されて前記デッキを昇降させる複数段のX字状リンクによって構成されたシザースリンク機構を備え,前記シザースリンク機構の最下段におけるX字状リンクを構成する一方のアーム下端を前記車台の走行方向前後方向におけるいずれか一端寄りに枢着すると共に,他方のアームの下端を,車台上に摺動可能に取り付け,更に,前記シザースリンク機構の最上段におけるX字状リンクを構成する一方のアームの上端を前記デッキの底部に摺動可能に取り付けると共に,他方のアームの上端を,前記車台の一端と同一方向の一端寄りで前記デッキの底部に枢着した自走式高所作業車において,
前記デッキが最下降した状態における前記自走式高所作業車の平面視における重心が,平面矩形状の前記車台の各角部の対角線の交点と,前記車台の他端における角部の三点により形成される三角形内に入るようバッテリを前記車台の他端側における前記車台内に配置したことを特徴とする自走式高所作業車。
【請求項2】
前記走行手段を前記車台の走行方向前後方向における両端側のそれぞれに一対ずつ設けられた車輪と成すと共に,
前記車台の他端側に設けた一対の車輪の少なくとも一方を駆動輪としたことを特徴とする請求項1記載の自走式高所作業車。
【請求項3】
走行手段を備えた車台と,前記車台上で昇降するデッキと,前記車台と前記デッキ間に配置されて前記デッキを昇降させる複数段のX字状リンクによって構成されたシザースリンク機構を備え,前記シザースリンク機構の最下段におけるX字状リンクを構成する一方のアーム下端を前記車台の走行方向前後方向におけるいずれか一端寄りに枢着すると共に,他方のアームの下端を,車台上に摺動可能に取り付け,更に,前記シザースリンク機構の最上段におけるX字状リンクを構成する一方のアームの上端を前記デッキの底部に摺動可能に取り付けると共に,他方のアームの上端を,前記車台の一端と同一方向の一端寄りで前記デッキの底部に枢着した自走式高所作業車において,
前記走行手段を前記車台の走行方向前後方向における両端側のそれぞれに一対ずつ設けられた車輪と成すと共に,
前記車台の他端側に設けた一対の車輪の少なくとも一方を駆動輪とし,
前記デッキが最下降した状態における前記自走式高所作業車の平面視における重心が,走行面と各車輪との接地点をそれぞれ結ぶ対角線の交点と,前記車台の他端における走行面と各車輪との接地点の三点により形成される三角形内に入るようバッテリを前記車台の他端側における前記車台内に配置したことを特徴とする自走式高所作業車。
【請求項4】
前記デッキの最上昇時における前記高所作業車の平面視における重心が,前記対角線の交点に近接した位置となるよう前記バッテリを配置したことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の自走式高所作業車。
【請求項5】
前記車台の他端側に設けられた前記車輪間において,前記バッテリを前記車台内に配置したことを特徴とする請求項2又は3記載の自走式高所作業車。
【請求項6】
前記車台の一端側で前記バッテリに隣接してモータを前記車台内に配置すると共に,該モータと前記駆動輪とを動力伝達手段を介して連結したことを特徴とする請求項5記載の自走式高所作業車。
【請求項7】
前記車台の一端側に配置した一対の車輪を操舵可能に構成すると共に,前記車台の他端側に配置した一対の車輪を非操舵に構成したことを特徴とする請求項2,3,5又は6記載の自走式高所作業車。
【請求項8】
前記デッキの前記一端を延長する方向に前記デッキがスライドして迫り出し可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載の自走式高所作業車。
【請求項9】
走行手段を備えた車台と,前記車台上で昇降するデッキと,前記車台と前記デッキ間に配置されて前記デッキを昇降させる複数段のX字状リンクによって構成されたシザースリンク機構を備え,前記シザースリンク機構の最下段におけるX字状リンクを構成する一方のアーム下端を前記車台の走行方向前後方向におけるいずれか一端寄りに枢着すると共に,他方のアームの下端を,車台上に摺動可能に取り付け,更に,前記シザースリンク機構の最上段におけるX字状リンクを構成する一方のアームの上端を前記デッキの底部に摺動可能に取り付けると共に,他方のアームの上端を,前記車台の一端と同一方向の一端寄りで前記デッキの底部に枢着した自走式高所作業車において,
前記デッキが最下降した状態における前記自走式高所作業車の平面視における重心が,平面矩形状の前記車台の各角部の対角線の交点と,前記車台の他端における角部の三点により形成される三角形内に入るようバッテリを前記車台の他端側における前記車台内に配置することを特徴とする自走式高所作業車におけるバッテリの搭載位置決定方法。
【請求項10】
走行手段を備えた車台と,前記車台上で昇降するデッキと,前記車台と前記デッキ間に配置されて前記デッキを昇降させる複数段のX字状リンクによって構成されたシザースリンク機構を備え,前記シザースリンク機構の最下段におけるX字状リンクを構成する一方のアーム下端を前記車台の走行方向前後方向におけるいずれか一端寄りに枢着すると共に,他方のアームの下端を,車台上に摺動可能に取り付け,更に,前記シザースリンク機構の最上段におけるX字状リンクを構成する一方のアームの上端を前記デッキの底部に摺動可能に取り付けると共に,他方のアームの上端を,前記車台の一端と同一方向の一端寄りで前記デッキの底部に枢着した自走式高所作業車において,
前記走行手段を前記車台の走行方向前後方向における両端側のそれぞれに一対ずつ設けられた車輪と成すと共に,
前記車台の他端側に設けた一対の車輪の少なくとも一方を駆動輪とし,
前記デッキが最下降した状態における前記自走式高所作業車の平面視における重心が,走行面と各車輪との接地点をそれぞれ結ぶ対角線の交点と,前記車台の他端における走行面と各車輪との接地点の三点により形成される三角形内に入るようバッテリを前記車台の他端側における前記車台内に配置することを特徴とする自走式高所作業車におけるバッテリの搭載位置決定方法。
【請求項11】
前記デッキの最上昇時における前記高所作業車の平面視における重心が,前記対角線の交点に近接するように,前記車台の他端側に前記バッテリを搭載することを特徴とする請求項9又は10記載の自走式高所作業車におけるバッテリの搭載位置決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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