説明

航空機における危険度判定装置

【課題】 将来的な航空機の飛行の危険度を適切に判定することができる航空機における危険度判定装置を提供する。
【解決手段】 危険度判定ECU1における予測高度取得部11では、航空機の現在高度および将来高度を取得する。危険状況指数算出部14では、現在高度および将来高度に基づいて危険状況指数を算出する。また、安全操縦コマンド取得部12では、機体を安全に操縦できる範囲に関する安全操縦コマンドを算出して取得する。パイロットコマンド取得部13は、操縦者による操縦桿の操作に関するパイロットコマンドを取得する。危険レベル判断指数算出部15は、危険状況指数算出部14で算出された危険状況指数、安全操縦コマンド取得部12で取得された安全操縦コマンド、およびパイロットコマンド取得部13で取得されたパイロットコマンドに基づいて、危険レベル判断指数を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機における危険度を判定する危険度判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型機などの航空機では、その機体の状態等によっては、機体操縦が不能となることがある。このように、機体操縦が不能となる前の段階で、このままでは機体操縦が不能となる旨を操縦者に警告音や警告画面を通じて警告したり、操縦桿を振動させて警告したりするようにする技術がある。
【0003】
この種の警告を行う技術として、従来、航空機の高度情報を用いた航空機高度警報装置がある(たとえば、特許文献1参照)。この航空機高度警報装置は、航空機の高度変化率を抽出し、航空機の高度変化率と高度とに基づいて航空機の飛行の危険度を判定し、出力するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−138900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1における航空機高度警報装置においては、現時点における高度変化率と高度に基づいて航空機の飛行の危険度を判定している。このため、将来的な航空機の飛行の危険度を適切に判定することができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、将来的な航空機の飛行の危険度を適切に判定することができる航空機における危険度判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明に係る航空機における危険度判定装置は、飛行する航空機の高度を取得する高度取得手段と、操縦者による航空機の操縦桿の操作状態を検出する操作状態検出手段と、高度取得手段によって取得された航空機の高度に関する高度情報と、操作状態検出手段によって検出された操縦桿の操作状態に関する操作状態情報とに基づいて、操縦者による航空機の危険度を判定する危険度判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る航空機における危険度判定装置においては、航空機の高度に関する高度情報と、操縦桿の操作状態に関する操作状態情報とに基づいて、操縦者による航空機の操縦状態の危険度を判定している。このため、航空機の高度のみならず、操縦者による操縦桿の操作状態を考慮して危険度を判定することとなるので、将来的な航空機の飛行の危険度を適切に判定することができる。
【0009】
ここで、航空機の速度が失速速度以上となる操作量として設定される安全操縦状態と、操作状態と、を比較し、安全操縦状態と操作状態との比較結果から得られる操作状態比較結果に基づいて、操作状態を判断する態様とすることができる。
【0010】
このように、航空機の速度が失速速度以上となる操作量として設定される安全操縦状態と操縦者による操縦桿の操作状態とを比較することにより、好適に航空機の危険度を判定することができる。したがって、将来的な航空機の飛行の危険度をより適切に判定することができる。
【0011】
また、操作状態比較結果が、安全操縦状態と操作状態との偏差から得られる操作状態偏差である態様とすることができる。
【0012】
このように、操作状態比較結果としては、安全操縦状態と操作状態との偏差から得られる操作状態偏差を好適に用いることができる。
【0013】
さらに、高度取得手段は、航空機の現在の高度を取得する現在高度取得手段と、所定時間経過後の航空機の高度を取得する将来高度取得手段と、を備え、高度情報が、現在高度取得手段で取得された現在高度と、将来高度取得手段で取得された将来高度との差である経時高度偏差からなる態様とすることができる。
【0014】
このように、高度情報としては、航空機の将来高度を取得し、この将来高度と現在高度との差である経時高度偏差を用いることにより、現在の高度のみでなく、将来高度をも加味した危険度を求めることができる。したがって、将来的な航空機の飛行の危険度をより適切に判定することができる。
【0015】
また、経時高度偏差に所定のしきい値を複数設定し、複数の所定のしきい値のうち、経時高度偏差が超えたしきい値に応じて、危険度判定手段による危険度の判定度合いを調整する態様とすることができる。
【0016】
このように、複数のしきい値を設定しておくことにより、段階的に危険度を判定する際に、危険度の判定を容易に行うことができる。
【0017】
さらに、複数の所定のしきい値として、それぞれ200フィート、500フィート、および1000フィートが設定されている態様とすることができる。
【0018】
このように、所定のしきい値としては、200フィート、500フィート、および1000フィートとするのが好適となる。
【0019】
また、高度取得手段は、航空機の現在の高度を取得する現在高度取得手段と、所定時間経過後の航空機の高度を取得する将来高度取得手段と、を備え、高度情報が、現在高度取得手段で取得された現在高度と、将来高度取得手段で取得された将来高度との差である経時高度偏差からなり、経時高度偏差に所定のしきい値を複数設定し、複数の所定のしきい値のうち、経時高度偏差が超えたしきい値に応じた所定の判断指数を設定しておき、所定の判断指数と操作状態偏差とに基づいて、危険度を判定する態様とすることができる。
【0020】
本発明に係る危険度判定装置では、複数の所定のしきい値のうち、経時高度偏差が超えたしきい値に応じた所定の判断指数を設定しておき、所定の判断指数と操作状態偏差とに基づいて、危険度を判定している。このため、操縦者による操縦桿の操作状態を考慮して経時高度変化に応じて段階的に危険度を判定する際に、危険度の判定を容易に行うことができる。
【0021】
さらに、所定の判断指数と操作状態偏差とを乗じた数値に基づいて、危険度を判定する態様とすることができる。
【0022】
このように、所定の判断指数と操作状態偏差とを乗じた数値に基づいて、危険度を判定することにより、危険度を容易に度数化することができる。
【0023】
さらに、操作状態検出手段は、航空機のピッチ方向およびロール方向に対する操作状態を検出し、操作状態が、ピッチ方向の操作に関するピッチ操作状態およびロール方向の操作に関するロール操作状態である態様とすることができる。
【0024】
このように、操縦桿の操作状態としては、航空機のピッチ方向およびロール方向に対する操作状態を好適に利用することができる。
【0025】
また、航空機の速度が失速速度以上となる操作量として設定される安全操縦状態と、操作状態と、を比較し、安全操縦状態と操作状態との比較結果から得られる操作状態比較結果に対して積分処理を行って操作状態比較結果積分値を求め、操作状態比較結果積分値に基づいて、操作状態を判断する態様とすることができる。
【0026】
ここでは、安全操縦状態と操作状態との比較結果から得られる操作状態比較結果に対して積分処理を行って求めた操作状態比較結果積分値に基づいて操作状態を判断する。このため、操作状態比較結果の累積値を利用することができるので、将来的な航空機の飛行の危険度をより適切に判定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る航空機における危険度判定装置によれば、将来的な航空機の飛行の危険度を適切に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】航空機における危険度判定装置のブロック構成図である。
【図2】危険度判定装置の処理手順を説明するフローチャートである。
【図3】危険状況指数取得マップを示す図である。
【図4】操縦介入レベル取得マップを示す図である。
【図5】(a)は、ピッチコマンドと航空機における揚力係数との関係を示すグラフ、(b)は、ロールコマンドと航空機における揚力係数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図示の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る航空機の危険度判定装置のブロック構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る操縦支援装置は、航空機の機体に設けられる危険度判定ECU(Electronic controlunit)1を備えている。危険度判定ECU1には、それぞれ航空機の機体に設けられる高度センサ2、推力センサ3、機体姿勢速度加速度センサ4、および位置センサ5が接続されている。また、危険度判定ECU1には、それぞれ航空機の操縦席における操縦桿に設けられるロールコマンドセンサ6、ピッチコマンドセンサ7、およびヨーコマンドセンサ8が接続されている。さらに、危険度判定ECU1には、アクチュエータ9が接続されている。
【0031】
高度センサ2は、たとえば航空機の周囲における気圧を測定し、測定した気圧に基づいて航空機の高度を検出するセンサである。高度センサ2は、検出した航空機の高度に関する高度情報を危険度判定ECU1に送信する。
【0032】
推力センサ3は、航空機におけるエンジンの出力と、航空機の周囲における気圧に基づいて、航空機の推力を検出するセンサである。推力センサ3は、検出した航空機の推力を危険度判定ECU1に送信する。
【0033】
機体姿勢速度加速度センサ4は、ジャイロセンサ等を備えており、機体の姿勢を検出する。また、機体姿勢速度加速度センサ4は、機体の速度や加速度を検出する。機体姿勢速度加速度センサ4は、検出した機体の姿勢、速度、加速度に関する機体姿勢速度加速度情報を危険度判定ECU1に送信する。
【0034】
位置センサ5は、いわゆるGPS(Global PositioningSystem)装置を備えている。位置センサ5におけるGPS装置では、GPS衛星からのGPS信号を受信し、そのGPS信号を復調する。位置センサ5は、復調したGPS信号を位置情報として危険度判定ECU1に送信する。
【0035】
ロールコマンドセンサ6は、操縦者が操縦桿を操作した際における操縦桿のロール方向への操縦方向を表すロールコマンドを検出している。ロールコマンドセンサ6は、検出したロールコマンドに関するロールコマンド情報を危険度判定ECU1に送信する。
【0036】
ピッチコマンドセンサ7は、操縦者が操縦桿を操作した際における操縦桿のピッチ方向への操縦方向を表すピッチコマンドを検出している。ピッチコマンドセンサ7は、検出したピッチコマンドに関するピッチコマンド情報を危険度判定ECU1に送信する。
【0037】
ヨーコマンドセンサ8は、操縦者が操縦桿を操作した際における操縦桿のヨー方向への操縦方向を表すヨーコマンドを検出している。ヨーコマンドセンサ8は、検出したヨーコマンドに関するヨーコマンド情報を危険度判定ECU1に送信する。
【0038】
アクチュエータ9は、機体の姿勢や速度等を調整するための各種アクチュエータを備えている。これらのアクチュエータ9は、危険度判定ECU1から送信される操縦コマンドに基づいて、機体の姿勢や速度等を調整する機能を有している。
【0039】
また、危険度判定ECU1は、予測高度取得部11、安全操縦コマンド取得部12、パイロットコマンド取得部13、危険状況指数算出部14、危険レベル判断指数算出部15、および操縦コマンド決定部16を備えている。
【0040】
予測高度取得部11は、高度センサ2から送信される高度情報に基づいて、機体の現在高度を取得する。また、予測高度取得部11では、機体の現在高度と、推力センサ3から送信される推力情報と、機体姿勢速度加速度センサ4から送信される機体姿勢速度加速度情報に基づいて、所定時間後たとえば10秒後の機体の高度を将来高度として算出して取得する。予測高度取得部11は、取得した現在高度に関する現在高度情報および将来高度に関する将来高度情報を危険状況指数算出部14に出力する。
【0041】
安全操縦コマンド取得部12は、推力センサ3から送信される推力情報、機体姿勢速度加速度センサ4から送信される機体姿勢速度加速度情報、および位置センサ5から送信される位置情報に基づいて、機体を安全に操縦できる範囲に関する安全操縦コマンドを算出して取得する。安全操縦コマンド取得部12は、取得した安全操縦コマンドに関する安全コマンド情報を危険レベル判断指数算出部15に出力する。
【0042】
パイロットコマンド取得部13は、ロールコマンドセンサ6から送信されるロールコマンド情報、ピッチコマンドセンサ7から送信されるピッチコマンド情報、およびヨーコマンドセンサ8から送信されるヨーコマンド情報に基づいて、操縦者による操縦桿の操作に関するパイロットコマンドを取得する。パイロットコマンド取得部13は、取得したパイロットコマンドに関するパイロットコマンド情報を危険レベル判断指数算出部15に出力する。
【0043】
危険状況指数算出部14は、図3に示す危険状況指数取得マップを記憶している。また、危険状況指数算出部14は、予測高度取得部11から出力された現在高度情報および将来高度情報を、図3に示す危険状況指数取得マップに参照して危険状況指数を取得する。危険状況指数算出部14は、取得した危険状況指数に関する危険状況指数情報を危険レベル判断指数算出部15に出力する。
【0044】
危険レベル判断指数算出部15は、安全操縦コマンド取得部12から出力される安全操縦コマンド情報、パイロットコマンド取得部13から出力されるパイロットコマンド情報、および危険状況指数算出部14から出力される危険状況指数情報に基づいて、機体の危険レベル判断指数を算出する。危険レベル判断指数算出部15は、算出した危険レベル判断指数に関する危険レベル判断指数情報を操縦コマンド決定部16に出力する。
【0045】
操縦コマンド決定部16は、ロールコマンドセンサ6から送信されるロールコマンド情報、ピッチコマンドセンサ7から送信されるピッチコマンド情報、およびヨーコマンドセンサ8から送信されるヨーコマンド情報に基づいて、基準操縦コマンドを算出する。
【0046】
また、操縦コマンド決定部16は、図4に示す操縦介入レベル取得マップを記憶している。ここでの操縦介入レベルとしては、「介入レベル0」から「介入レベル5」の6段階が設定されている。「介入レベル0」の場合には、基準操縦コマンドの補正を行わない。また、「介入レベル1」〜「介入レベル5」の場合には、操縦介入レベルに応じた補正を基準操縦コマンドに施す。
【0047】
操縦コマンド決定部16は、危険レベル判断指数算出部15から出力される危険レベル判断指数情報に基づく危険レベル判断指数を図4に示す操縦介入レベル取得マップに参照して、操縦介入レベルを決定する。操縦コマンド決定部16は、基準操縦コマンドを操縦介入レベルに応じて補正して操縦コマンドを決定する。操縦コマンド決定部16は、決定した操縦コマンドに関する操縦コマンド情報をアクチュエータ9に送信する。
【0048】
次に、本実施形態に係る危険度判定装置の処理手順について説明する。図2は、本実施形態に係る危険度判定装置の処理手順を説明するフローチャートである。
【0049】
図2に示すように、本実施形態に係る危険度判定装置では、まず、予測高度取得部11において、現在高度を取得する(S1)。現在高度は、高度センサ2から送信される高度情報に基づいて取得される。次に、t秒後の高度である将来高度を取得する(S2)。ここでは、t=10として、10秒後の将来高度を算出して取得する。将来高度は、現在高度に対して、推力センサ3から送信される推力情報に基づく機体の水力および機体姿勢速度加速度センサ4から送信される機体姿勢速度加速度情報に基づく機体の姿勢、速度、加速度を用いて演算を施すことによって算出する。
【0050】
続いて、安全操縦コマンド取得部12において、安全操縦コマンドを取得する(S3)。安全操縦コマンドについては、推力センサ3から送信される推力情報に基づく機体の推力、機体姿勢速度加速度センサ4から送信される機体姿勢速度加速度情報に基づく機体の姿勢、速度、加速度、および位置センサ5から送信される位置情報に基づく機体の位置を用いて演算を行うことによって算出して取得する。ここでの安全操縦コマンドは、ピッチ方向およびロール方向に対する機体が失速速度を下回らない(失速速度以上となる)操作量として算出する。
【0051】
それから、パイロットコマンド取得部13において、パイロットコマンドを取得する(S4)。パイロットコマンドについては、ロールコマンドセンサ6から送信されるロールコマンド情報に基づくロールコマンド、ピッチコマンドセンサ7から送信されるピッチコマンド情報に基づくピッチコマンド、およびヨーコマンドセンサ8から送信されるよーコマンド情報を用いて演算を行うことよって算出して取得する。
【0052】
その後、危険状況指数算出部14において、危険状況指数を算出する(S5)。危険状況指数算出部14では、予測高度取得部11から出力される現在高度情報に基づく機体の現在高度、および将来高度情報に基づく機体の将来高度を用いて、危険状況指数を求める。危険状況指数を求める際には、まず、機体の将来高度から現在高度を差し引いて得られる現在高度と将来高度との偏差である経時高度偏差を求める。経時高度偏差は、機体の現在速度と将来速度との偏差として求める。
【0053】
危険状況指数算出部14では、算出した経時高度偏差を図3に示す危険状況指数取得マップに参照して、危険状況指数を取得する。具体的に、経時高度偏差が200フィートより低い場合には、危険な状況となる可能性が低いことから、危険状況指数を「1」として取得する。
【0054】
また、経時高度偏差が200フィート以上であるとともに500フィートよりも低い場合には、危険状況指数が「1」の場合よりも危険な状況となる可能性が大きくなるので、危険状況指数を「2」として取得する。さらに、経時高度偏差が500フィート以上であるとともに1000フィートより低くなる場合には、危険状況指数が「2」の場合よりも危険な状況となる可能性が大きくなるので、危険状況指数を「3」として取得する。このように、経時高度偏差と危険状況指数との関係は、経時高度偏差が大きいほど、危険度が増す関係となっている。
【0055】
こうして危険状況指数を取得したら、危険レベル判断指数算出部15において、危険レベル判断指数を算出する(S6)。この危険レベル判断指数を算出する際には、安全操縦コマンドとパイロットコマンドとを比較し、安全な状況指数となっているか否かを判断する。
【0056】
危険レベル判断指数を算出する際には、安全操縦コマンド取得部12から出力される安全操縦コマンド情報に基づく安全操縦コマンド、パイロットコマンド取得部13から出力されるパイロットコマンド情報に基づくパイロットコマンド、および危険状況指数算出部14から送信される危険状況指数を用いる。ここで、安全操縦コマンドには、ピッチ方向に対する安全操縦ピッチコマンドおよびロール方向に対する安全操縦ロールコマンドが含まれている。また、パイロットコマンドには、ピッチ方向に対するパイロットピッチコマンドおよびロール方向に対するパイロットロールコマンドが含まれている。
【0057】
また、安全操縦コマンドは、機体が安定して飛行できる範囲にあるか否かを判断するためのコマンドである。機体が安定して飛行できる範囲として、安全操縦ピッチコマンドは±15度の範囲に対応しており、安全操縦ロールコマンドは±60度の範囲に対応している。一方、パイロットコマンドは、パイロットが操縦可能な範囲にあるか否かを判断するためのコマンドである。パイロットが操縦可能な範囲として、パイロットピッチコマンドは±25度の範囲に対応しており、パイロットロールコマンドは±90度の範囲に対応している。
【0058】
さらに、危険レベル判断指数を算出するにあたり、安全操縦ピッチコマンド、安全操縦ロールコマンド、パイロットピッチコマンド、およびパイロットロールコマンドをそれぞれ度数化する。具体的に、安全操縦ピッチコマンドでは、安全操縦ピッチコマンドが「−15度」のときに安全操縦ピッチコマンド指数が「−1」、安全操縦ピッチコマンド「+15度」のときに安全操縦ピッチコマンド指数が「+1」とし、安全操縦ピッチコマンドの増加に応じて増加するように度数化する。同様に、安全操縦ロールコマンドでは、安全操縦ロールコマンドが「−60度」のときに安全操縦ロールコマンド指数が「−1」、安全操縦ロールコマンド「+60度」のときに安全操縦ロールコマンド指数が「+1」とし、安全操縦ロールコマンドの増加に応じて増加するように度数化する。
【0059】
また、パイロットピッチコマンドでは、パイロットピッチコマンドが「−25度」のときにパイロットピッチコマンド指数が「−1」、パイロットピッチコマンド「+25度」のときにパイロットピッチコマンド指数が「+1」とし、パイロットピッチコマンドの増加に応じて増加するように度数化する。さらに、パイロットロールコマンドでは、パイロットロールコマンドが「−90度」のときにパイロットロールコマンド指数が「−1」、パイロットロールコマンド「+90度」のときにパイロットロールコマンド指数が「+1」とし、パイロットロールコマンドの増加に応じて増加するように度数化する。
【0060】
危険レベル判断指数算出部15では、こうして度数化したパイロットピッチコマンドとパイロットロールコマンドに基づいて、基準操縦コマンドを算出する。基準操縦コマンドは、安全操縦コマンド指数SCIに対するパイロットコマンド指数との差の絶対値が用いられる。そして、下記(1)式により、危険状況指数DC、安全操縦コマンド指数SCIおよびパイロットコマンド指数PCIを用いて危険レベル判断指数DIを算出する。
【0061】
DI=DC*ABS(SCI−PCI) ・・・(1)
【0062】
ここで、基準操縦コマンドを求めるために用いられる安全操縦コマンド指数SCIは、安全操縦ロールコマンド指数の絶対値と安全操縦ロールコマンド指数の絶対値との和である。また、パイロットコマンド指数PCIは、パイロットピッチコマンド指数の絶対値とパイロットロールコマンド指数の絶対値の和である。
【0063】
航空機の機体に用いられる翼は、原則的にピッチ角θとして(−15°<θ<15°)、ロール角φとして(−60<φ<60)の範囲に収まるように設計されている。このため、高度ロスを生じる失速角は同じ数値をとる傾向にある。機体が失速する失速速度Vlは、下記(2)式によって求めることができる。
【0064】
Vl=(2*(W/S)/ρ*f(θ,φ))1/2 ・・・(2)
ここで、W:全備重量
S:翼面積
ρ:空気密度
【0065】
上記(2)式において、全備重量Wおよび翼面積Sは既知であり、高度、温度情報は計算によって求めることができる。このため、たとえば機体の大きさが異なる機種であっても、ピッチ角θおよびロール角φの範囲で対応することができる。
【0066】
航空機における揚力は、ピッチ角に対するピッチ角対応揚力LPと、ロール角に対するロール角対応揚力LRとの差によって表される。また、ピッチ角θに対するピッチ角対応揚力LPは、下記(3)式で表され、ロール角φに対するロール角対応揚力LRは、下記(4)式で表される。
【0067】
LP=1/2* ρ*V*CL*S ・・・(3)
ここで、ρ:空気密度
V:航空機の速度
CL:0.0728θ+0.144(−15°<θ<15°)に比例する値
S:翼面積
【0068】
LR=1/2* ρ*V*(1−ΔCL)*S ・・・(4)
ここで、ΔCL:0.0001φ−0.039φ+0.15φ+47(−60<φ
<60)に比例する値
φ:ロールコマンド角
【0069】
したがって、機体が失速速度を下回らないピッチ角およびロール角となるコマンドおよびロールコマンドを求めることができる。ピッチ角とロール角が両方含まれるコマンドである場合には、両者の総和をとることにより対応することができる。
【0070】
いま、図5(a)にピッチコマンドと航空機における揚力係数との関係を示し、(b)にロールコマンドと航空機における揚力係数との関係を示す。図5(a)に示すように、ピッチコマンドが一定の大きさ、たとえば20度程度となるまでは揚力係数がピッチコマンドにほぼ比例しながらピッチコマンドが大きくなるほど揚力係数も大きくなる。ピッチコマンドがこの一定の大きさよりも大きくなると、ピッチコマンドが大きくなるほど揚力係数は急激に低下する。ピッチコマンドと揚力係数との関係では、揚力係数が0となる範囲X1および揚力係数が急激に低下する範囲X2において、航空機が失速して高度が低下する可能性が高くなる。
【0071】
また、図5(b)に示すように、ロールコマンドに対する揚力係数の関係は、ロールコマンドが0となる点を中心として略対称形となっており、ロールコマンドが中心以下の場合には、ロールコマンドが小さくなるほど揚力係数が低下する。また、ロールコマンドが中心以上の場合には、ロールコマンドが大きくなるほど揚力係数が低下する。そして、揚力係数がある程度小さくなる範囲X3,X4において、航空機が失速して高度が低下する可能性が高くなる。
【0072】
かかる条件を考慮して、本実施形態では、安全操縦コマンドの絶対値に対するパイロットコマンドの絶対値の差の絶対値を危険状況指数として算出する。そして。この基準操縦コマンドに対して危険状況指数DCを乗じることによって、危険レベル判断指数が算出される。
【0073】
続いて、操縦コマンド決定部16では、危険レベル判断指数算出部15から出力された危険レベル判断指数に基づいて、操縦介入レベルを決定する(S7)。操縦介入レベルは、危険レベル判断指数算出部15から出力された危険レベル判断指数を図4に示す操縦介入レベル取得マップに参照して決定する。
【0074】
ここで、基準操縦コマンドに対して危険状況指数DCを乗じて危険度レベル判断指数が算出されているので、航空機の高度のみならず、操縦者による操縦桿の操作状態を考慮して危険度を判定することができる。この場合、危険状況指数が大きい方が、操縦介入レベルが高くなるように判断されやすくなり、危険状況指数が小さい方が、操縦介入レベルが低くなるように判断されやすくなる。たとえば、基準操縦コマンドが0.4である場合、危険状況指数が「1」である場合には、操縦介入レベルが「介入レベル0」となるが、危険状況指数が「3」である場合には、操縦介入レベルが「介入レベル2」となる。
【0075】
それから、操縦介入を行うか否かを判断する(S8)。操縦介入を行うか否かは、操縦介入レベルが「介入レベル0」であるか否かによって判断する。その結果、操縦介入レベルが「介入レベル0」であり、操縦介入を行わないと判断した場合には、基準操縦コマンドをそのまま操縦コマンドとしてアクチュエータ9に送信する(S9)。こうして、処理を終了する。
【0076】
一方、操縦介入レベルが「介入レベル1」〜「介入レベル5」のいずれかであり、操縦介入を行うと判断したら、操縦介入レベルに応じた基準操縦コマンドの補正を行い(S10)、操縦コマンドを算出する。たとえば「介入レベル1」である場合には、ピッチ方向、ロール方向、およびヨー方向への操縦量に対して、それぞれ5%ずつ操縦介入を行うように基準操縦コマンドを補正して操縦コマンドとする。その後、基準操縦コマンドをアクチュエータ9に送信し(S9)、処理を終了する。
【0077】
このように、本実施形態に係る危険度判定装置においては、航空機の高度情報から取得される危険状況指数と、操縦桿の操作状態に関するピッチコマンドおよびロールコマンドに基づいて取得される基準操縦コマンドによって、航空機の操縦状態の危険度を判定している。このため、航空機の高度のみならず、操縦者による操縦桿の操作状態を考慮して危険度を判定することとなるので、将来的な航空機の飛行の危険度を適切に判定することができる。
【0078】
また、基準操縦コマンドは安全操縦コマンドとの比較において求めている。このため、好適に航空機の危険度を判定することができる。したがって、将来的な航空機の飛行の危険度をより適切に判定することができる。さらに、危険状況指数を取得するにあたり、現在高度と将来高度との偏差である経時高度偏差を用いている。このため、現在の高度のみでなく、将来高度をも加味した危険度を求めることができる。したがって、将来的な航空機の飛行の危険度をより適切に判定することができる。
【0079】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。本実施形態は、上記の実施形態と比較して、ステップS6における危険レベル指数を算出する手順が主に異なり、その他の部分は上記の実施形態と同様である。以下、本実施形態について、上記の実施形態との相違点を中心として説明する。
【0080】
本実施形態に係る危険度判定装置では、危険レベル判断指数を取得するにあたり、上記第1の実施形態と同様に、危険レベル判断指数算出部15において、度数化されたパイロットピッチコマンドとパイロットロールコマンドに基づいて、基準操縦コマンドを算出する。ここで、危険レベル判断指数算出部15では、算出した基準操縦コマンドを一定時間記憶しておく。
【0081】
それから、算出した基準操縦コマンドと、一定時間の間に算出されて記憶された複数の基準操縦コマンドを積分することにより、積分基準操縦コマンドを算出する。積分基準操縦コマンドを算出したら、積分基準操縦コマンドに危険状況指数を乗じて危険レベル判断指数を算出する。以後は、上記の実施形態と同様の手順によって航空機の危険度を判定する。
【0082】
このように、本実施形態に係る危険度判定装置では、危険レベル判断指数を算出するにたり、基準操縦コマンドを積分した積分基準操縦コマンドを用いている。このため、基準操縦コマンドの累積値を利用することができるので、将来的な航空機の飛行の危険度をより適切に判定することができる。
【0083】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、基準操縦コマンドを取得するにあたり、パイロットピッチコマンドおよびパイロットロールコマンドを用いているが、その他の態様によって基準操縦コマンドを取得する態様とすることができる。
【0084】
また、上記実施形態では、10秒後の将来高度と現在高度の差である経時高度偏差に基づいて危険状況指数を取得しているが、たとえば20秒後、60秒後等の適宜の将来高度と現在高度との経時高度偏差、あるいは時間の異なる将来高度同士の経時高度偏差に基づいて、危険状況指数を取得する態様とすることもできる。さらには、現在高度あるいは将来高度のみから危険状況指数を取得する態様とすることもできる。この場合、現在高度あるいは将来高度が高い場合に、現在高度あるいは将来高度が低い場合よりも危険状況指数が低くなる。
【0085】
また、上記実施形態では、操縦介入レベルを6段階設定しているが、この段階数よりも多くまたは少なくする態様とすることもできる。したがって、単純に操縦介入をするかしないかを決定するだけの態様とすることもできる。さらには、操縦介入レベルを決定する際の基準も適宜変更した態様で設定することができる。
【符号の説明】
【0086】
1…危険度判定ECU、2…高度センサ、3…推力センサ、4…機体姿勢速度加速度センサ、5…位置センサ、6…ロールコマンドセンサ、7…ピッチコマンドセンサ、8…ヨーコマンドセンサ、9…アクチュエータ、11…予測高度取得部、12…安全操縦コマンド取得部、13…パイロットコマンド取得部、14…危険状況指数算出部、15…危険レベル判断指数算出部、16…操縦コマンド決定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行する航空機の高度を取得する高度取得手段と、
操縦者による前記航空機の操縦桿の操作状態を検出する操作状態検出手段と、
前記高度取得手段によって取得された前記航空機の高度に関する高度情報と、前記操作状態検出手段によって検出された前記操縦桿の操作状態に関する操作状態情報とに基づいて、前記操縦者による前記航空機の危険度を判定する危険度判定手段と、
を備えることを特徴とする航空機における危険度判定装置。
【請求項2】
前記航空機の速度が失速速度以上となる操作量として設定される安全操縦状態と、前記操作状態と、を比較し、前記安全操縦状態と前記操作状態との比較結果から得られる操作状態比較結果に基づいて、前記操作状態を判断する請求項1に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項3】
前記操作状態比較結果が、前記安全操縦状態と前記操作状態との偏差から得られる操作状態偏差である請求項2に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項4】
前記高度取得手段は、前記航空機の現在の高度を取得する現在高度取得手段と、
所定時間経過後の前記航空機の高度を取得する将来高度取得手段と、を備え、
前記高度情報が、前記現在高度取得手段で取得された現在高度と、前記将来高度取得手段で取得された将来高度との差である経時高度偏差からなる請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項5】
前記経時高度偏差に所定のしきい値を複数設定し、前記複数の所定のしきい値のうち、前記経時高度偏差が超えたしきい値に応じて、前記危険度判定手段による危険度の判定度合いを調整する請求項4に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項6】
前記複数の所定のしきい値として、それぞれ200フィート、500フィート、および1000フィートが設定されている請求項5に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項7】
前記高度取得手段は、前記航空機の現在の高度を取得する現在高度取得手段と、
所定時間経過後の前記航空機の高度を取得する将来高度取得手段と、を備え、
前記高度情報が、前記現在高度取得手段で取得された現在高度と、前記将来高度取得手段で取得された将来高度との差である経時高度偏差からなり、
前記経時高度偏差に所定のしきい値を複数設定し、
前記複数の所定のしきい値のうち、前記経時高度偏差が超えたしきい値に応じた所定の判断指数を設定しておき、
前記所定の判断指数と前記操作状態偏差とに基づいて、前記危険度を判定する請求項3に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項8】
前記所定の判断指数と前記操作状態偏差とを乗じた数値に基づいて、前記危険度を判定する請求項2、請求項3、または請求項7に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項9】
前記操作状態検出手段は、前記航空機のピッチ方向およびロール方向に対する操作状態を検出し、
前記操作状態が、前記ピッチ方向の操作に関するピッチ操作状態および前記ロール方向の操作に関するロール操作状態である請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の航空機における危険度判定装置。
【請求項10】
前記航空機の速度が失速速度以上となる操作量として設定される安全操縦状態と、前記操作状態と、を比較し、前記安全操縦状態と前記操作状態との比較結果から得られる操作状態比較結果に対して積分処理を行って操作状態比較結果積分値を求め、
前記操作状態比較結果積分値に基づいて、前記操作状態を判断する請求項1に記載の航空機における危険度判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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